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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-28
(45)【発行日】2026-02-05
(54)【発明の名称】蒸発器
(51)【国際特許分類】
   F28F 13/12 20060101AFI20260129BHJP
   F28F 13/18 20060101ALI20260129BHJP
【FI】
F28F13/12 C
F28F13/18 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022040071
(22)【出願日】2022-03-15
(65)【公開番号】P2023135058
(43)【公開日】2023-09-28
【審査請求日】2025-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【弁理士】
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】若杉 知寿
(72)【発明者】
【氏名】大川 英晃
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-162389(JP,A)
【文献】特開2006-162339(JP,A)
【文献】中国実用新案第202917186(CN,U)
【文献】特開2006-038304(JP,A)
【文献】実開昭57-190288(JP,U)
【文献】国際公開第2018/043097(WO,A1)
【文献】米国特許第05655599(US,A)
【文献】特開平08-042805(JP,A)
【文献】中国実用新案第202329345(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 13/12
F28F 13/18
F28D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発器であって、
管形状を有し、前記管の内側に蒸発対象である流体が流れる流路を形成する流路形成部と、
前記流路内に配置され、前記流路形成部と接続されることにより前記流路形成部との間で熱交換が可能な構造物であって、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する流れを発生させる構造物と、
を備え、
前記構造物は、
前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する旋回流を発生させる螺旋状のフィンであり、
前記流路形成部とは別体で形成され、
前記流体の流れ方向を前記流路形成部の内壁に向かわせる力を発生させる、蒸発器。
【請求項2】
請求項に記載の蒸発器であって、
前記構造物は、
前記流路の下流側に配置され、
同一方向の旋回流を発生させる、蒸発器。
【請求項3】
発器であって、
管形状を有し、前記管の内側に蒸発対象である流体が流れる流路を形成する流路形成部と、
前記流路内に配置され、前記流路形成部と接続されることにより前記流路形成部との間で熱交換が可能な構造物であって、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する流れを発生させる構造物と、
を備え、
前記構造物は、
前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する第1の方向の旋回流を発生させる第1フィンと、
前記第1の方向とは逆方向の旋回流を発生させる第2フィンであって、前記第1フィンよりも前記流路の下流側に配置された第2フィンと、
を有する、蒸発器。
【請求項4】
請求項に記載の蒸発器であって、
前記流路の横断面は、前記流体の流れ方向の全体に亘って同一の径を有する円形状であり、
前記第1フィンと前記第2フィンとのそれぞれの厚みは、
前記構造物の前記流れ方向における長さと、
前記流路の前記横断面における径と、
前記第1フィンと前記第2フィンとの熱伝導率と、
前記第1フィンの上流側に流入する、前記流体中の液体と蒸気との合計に対する蒸気の割合と、
に応じている、蒸発器。
【請求項5】
発器であって、
管形状を有し、前記管の内側に蒸発対象である流体が流れる流路を形成する流路形成部と、
前記流路内に配置され、前記流路形成部と接続されることにより前記流路形成部との間で熱交換が可能な構造物であって、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する流れを発生させる構造物と、
を備え、
前記流路における前記構造物よりも上流側の前記流路形成部の内壁は、親水化処理されている、蒸発器。
【請求項6】
請求項に記載の蒸発器であって、
前記流路の横断面は、前記流体の流れ方向の全体に亘って同一の径を有する円形状であり、
前記流路の前記横断面における径は、キャピラリー数と、前記構造物の上流側に流入する前記流体の流速および液膜の厚みとに応じている、蒸発器。
【請求項7】
蒸発器であって、
管形状を有し、前記管の内側に蒸発対象である流体が流れる流路を形成する流路形成部であって、前記管の内壁が親水化処理された流路形成部と、
前記流路内に配置され、前記流路形成部と接続されることにより前記流路形成部との間で熱交換が可能な構造物であって、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する流れを発生させる構造物と、
を備え、
前記構造物は、
前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する旋回流を発生させる螺旋状のフィンであり、
前記流路形成部とは別体で形成され、
前記流体の流れ方向を前記流路形成部の内壁に向かわせる力を発生させる、蒸発器。
【請求項8】
請求項に記載の蒸発器であって、
前記流路の横断面は、前記流体の流れ方向の全体に亘って同一の径を有する円形状であり、
前記流路の前記横断面における径は、キャピラリー数と、前記構造物の上流側に流入する前記流体の流速および液膜の厚みとに応じている、蒸発器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発器に関する。
【背景技術】
【0002】
高温水蒸気を電気分解することにより水素を製造するSOEC(Solid Oxide Electrolyser Cell:固体酸化物形電解セル)が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された水素製造装置では、外部熱源である原子炉から供給される900℃の熱との熱交換により予熱された水蒸気がSOECへと供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-90425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子炉のような高温熱源を利用すると、沸騰により液体の水から蒸気を生成できる。しかしながら、沸点よりも多少温度が高い中温熱源を利用すると、沸騰ではなく蒸発が主体となって、液体の水から蒸気が生成される。そのため、中温熱源を利用する蒸発器では、液体の水から蒸気を生成するための流路が長くなり、蒸発器が大型化してしまう。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、蒸発により蒸気を生成する蒸発器の大型化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。蒸発器であって、管形状を有し、前記管の内側に蒸発対象である流体が流れる流路を形成する流路形成部と、前記流路内に配置され、前記流路形成部と接続されることにより前記流路形成部との間で熱交換が可能な構造物であって、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する流れを発生させる構造物と、を備え、前記構造物は、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する旋回流を発生させる螺旋状のフィンであり、前記流路形成部とは別体で形成され、前記流体の流れ方向を前記流路形成部の内壁に向かわせる力を発生させる、蒸発器。蒸発器であって、管形状を有し、前記管の内側に蒸発対象である流体が流れる流路を形成する流路形成部と、前記流路内に配置され、前記流路形成部と接続されることにより前記流路形成部との間で熱交換が可能な構造物であって、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する流れを発生させる構造物と、を備え、前記構造物は、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する第1の方向の旋回流を発生させる第1フィンと、前記第1の方向とは逆方向の旋回流を発生させる第2フィンであって、前記第1フィンよりも前記流路の下流側に配置された第2フィンと、を有する、蒸発器。蒸発器であって、管形状を有し、前記管の内側に蒸発対象である流体が流れる流路を形成する流路形成部と、前記流路内に配置され、前記流路形成部と接続されることにより前記流路形成部との間で熱交換が可能な構造物であって、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する流れを発生させる構造物と、を備え、前記流路における前記構造物よりも上流側の前記流路形成部の内壁は、親水化処理されている、蒸発器。蒸発器であって、管形状を有し、前記管の内側に蒸発対象である流体が流れる流路を形成する流路形成部であって、前記管の内壁が親水化処理された流路形成部と、前記流路内に配置され、前記流路形成部と接続されることにより前記流路形成部との間で熱交換が可能な構造物であって、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する流れを発生させる構造物と、を備え、前記構造物は、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する旋回流を発生させる螺旋状のフィンであり、前記流路形成部とは別体で形成され、前記流体の流れ方向を前記流路形成部の内壁に向かわせる力を発生させる、蒸発器。そのほか、本発明は、以下の形態としても実現可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、蒸発器であって、管形状を有し、前記管の内側に蒸発対象である流体が流れる流路を形成する流路形成部と、前記流路内に配置され、前記流路形成部と接続されることにより前記流路形成部との間で熱交換が可能な構造物であって、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する流れを発生させる構造物と、を備える。
【0008】
この構成によれば、蒸発対象である流体が流れる流路内に、構造物が配置される。流体が構造物に衝突することより、流路内を流れる流体の流れ方向は、流路形成部の内壁に向かう力を受ける。これにより、流路内に構造物が配置されていない場合と比較して、流体は、流路形成部の内壁または構造物に衝突しやすくなる。流体を蒸発させるために流路形成部が加熱されると、流路形成部に接続されている構造物も昇温する。流路内を流れる流体は、加熱された流路形成部の内壁または構造物により衝突しやすくなるため、蒸発しやすくなる。この結果、流路内に構造物が配置されることにより、蒸発していない液滴の発生を抑制して噴霧流域の長さを短縮でき、蒸発器の大型化を抑制できる。
【0009】
(2)上記態様の蒸発器において、前記構造物は、前記流路を流れる前記流体に対して、前記流体の流れ方向に交差する旋回流を発生させてもよい。
この構成によれば、流路内を流れる流体に、規則的な旋回流が発生する。これにより、流体に対する圧力損失を抑制した上で、流体を流路形成部の内壁または構造物に衝突させることができる。この結果、流体を流すための動力(例えば、ポンプ動力)を抑制できる
【0010】
(3)上記態様の蒸発器において、前記構造物は、前記流路の下流側に配置され、同一方向の旋回流を発生させる螺旋状のフィンであってもよい。
この構成によれば、螺旋状のフィンにより、流路内を流れる流体には同一方向の旋回流が発生する。そのため、流路の横断面内の速度成分が増幅して、液体は、運動量により流路形成部の内壁に更に衝突しやすくなる。本構成では、流路形成部が加熱される場合に、流路形成部の内壁温度は、フィンの温度よりも高くなる。特に、流体の温度が低い場合に、低温のフィンへの液滴付着を抑制しつつ、より高温の流路形成部の内壁への液滴衝突を促進させることができる。これにより、低温のフィンでの捕集液滴の蓄積および液だれの発生を抑制し、高温の内壁への液滴捕集および蒸発を活発化させる。この結果、本構成の蒸発器は、流体の温度が低くても、安定した液滴蒸発性能を発揮できる。すなわち、低圧損で流路内の液滴分布を不均質化できるため、より短い噴霧流域で蒸発が完結し、蒸発器を小型化できる。
【0011】
(4)上記態様の蒸発器において、前記構造物は、第1の方向の旋回流を発生させる第1フィンと、前記第1の方向とは逆方向の旋回流を発生させる第2フィンであって、前記第1フィンよりも前記流路の下流側に配置された第2フィンと、を有してもよい。
この構成によれば、第1フィンと第2フィンとにより発生する旋回流の向きが逆方向である。そのため、第1フィン以降の下流側では、流路形成部の内壁に衝突する液滴の量が減少し、第2フィンに衝突する液滴の量が増加する。特に、内壁の温度が高い場合に、内壁に液滴が衝突すると、噴霧流中の液滴から発生する蒸気が妨げとなるライデンフロスト現象が発生する。そのため、内壁の温度が高い場合に、噴霧流中の液滴を、高温の内壁の代わりに、内壁よりも低温の第2フィンに衝突させる。これにより、ライデンフロスト現象を発生させずに液滴を蒸発させることができる。この結果、流路の出口からの液滴の吹き抜けを抑制しつつ、熱伝導率を向上させて噴霧域の長さを低減できる。
【0012】
(5)上記態様の蒸発器において、前記流路の横断面は、前記流体の流れ方向の全体に亘って同一の径を有する円形状であり、前記第1フィンと前記第2フィンとのそれぞれの厚みは、前記構造物の前記流れ方向における長さと、前記流路の前記横断面における径と、前記第1フィンと前記第2フィンとの熱伝導率と、前記第1フィンの上流側に流入する、前記流体中の液体と蒸気との合計に対する蒸気の割合と、に応じていてもよい。
この構成によれば、第1フィンと第2フィンとのそれぞれの厚みは、構造物の長さなどのパラメータに応じて決定される。液滴が第2フィンに衝突して蒸発すると、第2フィンの表面上の温度が低下する。第2フィンの厚みが小さいと、第2フィンと流体の飽和蒸気温度との温度差が得られずに、液滴が第2フィンの表面で蒸発しないおそれがある。それに対し、本構成では、第1フィンの上流側に流入する蒸気の割合に応じて、構造物の流れ方向における長さと、流路の横断面における径と、第1フィンおよび第2フィンの熱伝導率とを用いて、第1フィンおよび第2フィンの厚みが決定される。すなわち、第1フィンの上流側に流入する蒸気の割合に応じて、第1フィンおよび第2フィンの表面に衝突した液滴を蒸発させるために、第1フィンおよび第2フィンの必要な厚さを設定できる。
【0013】
(6)上記態様の蒸発器において、前記流路における前記構造物よりも上流側の前記流路形成部の内壁は、親水化処理されていてもよい。
この構成によれば、構造物よりも上流側の流路形成部の内壁が親水化処理されているため、内壁において固体と液体と気体とで形成される3相界面張力バランスが変化して、接触角が小さくなる。これにより、内壁において液膜の一部が破断して内壁が露出するドライパッチが発生しても、ドライパッチの周りの液膜または液スラグから張力により液体がドライパッチ部分に輸送されて、内壁全体に安定した液膜が形成される。この結果、構造物が配置される流路よりも下流側において、核沸騰の発生や環状流における蒸気せん断力
による液膜からの液滴形成などの直接的な液滴の発生を抑制できる。すなわち、ドライパッチの発生が抑制されるため、流路の長さを短縮でき、蒸発器の大型化を抑制できる。
【0014】
(7)上記態様の蒸発器において、前記流路の横断面は、前記流体の流れ方向の全体に亘って同一の径を有する円形状であり、前記流路の前記横断面における径は、キャピラリー数と、前記構造物の上流側に流入する前記流体の流速および液膜の厚みとに応じていてもよい。
この構成によれば、制御したい流体の液膜の厚みを、流路の横断面の径と、流体の粘性力と表面張力とで決定されるキャピラリー数と、流体の流速とを用いて決定できる。スラグ流および環状流で形成され液膜の厚みが薄いほど、ドライパッチの発生や蒸気流のせん断力を起因として発生する液滴を小さくできる。本構成では、蒸発器が生成する蒸気の利用に応じて制御したい液膜の厚みを設定し、圧力損失の増加を抑制した上で流路の横断面の径などのパラメータを設定できる。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、蒸発器、蒸気生成装置、水素製造システム、SOEC、蒸気生成方法、蒸発器の設計方法、およびこれらの装置を備えるシステム、これら装置を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態としての蒸発器の説明図である。
図2】フィンの概略斜視図である。
図3】フィンの効果の説明図である。
図4】比較例1の蒸発器の概略断面図である。
図5】比較例2の蒸発器の説明図である。
図6】比較例2の蒸発器の説明図である。
図7】第2実施形態の蒸発器の説明図である。
図8】第2実施形態のフィンの概略斜視図である。
図9】温度差と蒸気生成との関係についての説明図である。
図10】第2実施形態のフィンの効果の説明図である。
図11】フィンの厚みの算出方法の説明図である。
図12】フィンの厚みの算出方法の説明図である。
図13】入口の蒸気クオリティとフィンの厚みとの関係についての説明図である。
図14】第3実施形態の蒸発器の説明図である。
図15図14における領域の概略拡大図である。
図16】親水化処理された流路形成部の効果の説明図である。
図17】キャピラリー数と無次元液厚みとの関係の説明図である。
図18】代表直径に応じて変化する蒸気変動と平均熱流束との関係についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
1.蒸発器の構成:
図1は、本発明の一実施形態としての蒸発器100の説明図である。本実施形態の蒸発100は、蒸発対象である水が流れる流路11を形成する流路形成部10を加熱することにより、液体の水から蒸気を生成する。流路11内を流れる水に旋回流を発生させるフィン(構造物)20が配置されている。旋回流が発生した水は、加熱された流路形成部10の内壁12と、流路形成部10に接続されたフィン20とに衝突しやすくなり、蒸発しやすくなる。この結果、流路11内を流れる水を蒸発させやすくなり、蒸発器100の大型
化が抑制される。
【0018】
図1には、蒸発器100が備える一部の構成のブロック図と、流路11の概略断面図とが示されている。図1に示されるように、流路形成部10と、フィン20と、流路11に供給する液体の水を貯留しているタンク40と、タンク40から流路11へと水を供給するポンプ50と、流路形成部10を加熱するヒータ30と、ヒータ30およびポンプ50を制御する制御部60と、を備えている。
【0019】
流路形成部10は、横断面が円であり、中心軸が直線である管形状を有する。本実施形態では、流路形成部10が形成する円柱状の入口から出口を結ぶ方向を、流路11を流れる水の流れ方向として定義している。流路11の円形の横断面は、流れ方向の全体に亘って同一の径を有している。流路11のうちの下流側の一部には、図1に示されるように、フィン20が配置されている。
【0020】
図2は、フィン20の概略斜視図である。図2に示されるように、フィン20は、流路11内を流れる水に対して、同一方向の旋回流DR1(図1)を発生させる螺旋状のフィンである。換言すると、フィン20は、流路11を流れる水に対して、流れ方向に交差する流れとしての旋回流DR1を発生させる。フィン20は、図1に示されていない部分で流路形成部10の内壁12と接続している。そのため、ヒータ30により流路形成部10が加熱されると、流路形成部10からフィン20へと熱が伝わり、フィン20の温度が上昇する。すなわち、フィン20は、流路形成部10と接続されることにより、流路形成部10との間で熱交換が可能な構造物である。本実施形態では、流路11の中心軸OLと平行なZ軸と、Z軸に直交するX軸およびY軸とを有する直交座標系CSが定義されている。図1に示される直交座標系CSと、図2以降で示される直交座標系CSとは対応している。
【0021】
図1に示される流路11の一部では、液体の水と蒸気とが存在する2相域が示されている。流路11内では、上流側から沸騰域から噴霧域へと変化する。本実施形態では、下流側の噴霧域にフィン20が含まれるように、制御部60がポンプ50およびヒータ30を制御する。フィン20により、流路11の中心軸OLに沿う旋回流DR1が発生する。旋回流DR1は、Z軸正方向側から見て、XY平面上における反時計回りの流れである。
【0022】
制御部60は、蒸発器100で生成された蒸気を利用する蒸気利用装置(図1では不図示)からの要求に応じて、流路11内で生成する蒸気量を決定する。制御部60は、決定した蒸気量に応じて、ポンプ50の回転と、ヒータ30の加熱とを制御することにより、流路11内を流れる水を蒸気へと生成する。生成された水蒸気は、蒸気利用装置へと供給される。
【0023】
図3は、フィン20の効果の説明図である。図3には、流れ方向における長さが120mmのフィン20が配置され、内壁12の温度が200℃である場合に、流路11内における液滴捕集率の変化C1が実線で示され、圧力損失(Pressure Drop)の変化C2が破線で示されている。液滴捕集率は、フィン20の上流側から流入した液滴のうち、フィン20の下流側で捕集される液滴の割合である。液滴捕集率が小さいほど、より多くの液滴が蒸気として生成されていることを表している。フィン20は、中心軸OLに沿って40mm進むと中心軸OL回りに1回転している。1回転分のフィンを1セグメントとすると、長さ120mmのフィンは、3セグメントのフィンにより形成されている。
【0024】
図3の横軸は、流路11内におけるフィン20上流側(Z軸負方向側)の端部の位置をゼロとした場合の下流側への距離である。図3の液滴捕集率の変化C1で示されるように、距離が約40mmの液滴捕集率は10-2(1%)であり、距離が約60mmの液滴捕集率は10-3(0.1%)である。すなわち、距離が約60mmの位置では、99.9%が
蒸気への気化が完了している。図3の圧力損失の変化C2で示されるように、流体がフィン20を通過するまでの圧力損失は約0.54kPaである。なお、図3に示される数値は、流路11内の流体の流速Vzが20m/sの条件である。
【0025】
図4は、比較例1の蒸発器100xの概略断面図である。図4には、比較例1の蒸発器100xが備える構成のうち、流路形成部10の一部の概略断面が示されている。比較例1の蒸発器100xでは、本実施形態の蒸発器100と比較して、流路11x内にフィン20が配置されていない点のみが異なる。本実施形態の蒸発器100は、フィン20を備えることにより、フィン20を備えない蒸発器100xと比較して、流路11内を流れる水がフィン20および流路形成部10の内壁12に衝突しやすい。そのため、本実施形態の蒸発器100では、比較例1の蒸発器100と比較して、水から蒸気を生成するまでに必要な流路11の長さを短縮できる。
【0026】
図5および図6は、比較例2の蒸発器100yの説明図である。図5には、比較例2の蒸発器100yが備える構成のうち、流路形成部10の一部の概略断面が示されている。比較例2の蒸発器100yは、本実施形態の蒸発器100と比較して、フィン20の代わりにフィルタ20yを備えている点のみが異なる。フィルタ20yの空隙率εは0.9である。フィルタ20yは、XY平面において、一辺が100μmである正方形の格子を形成している。すなわち、フィルタ20yの目開きDpは100μmである。なお、比較例2の流路11yの長さと、上記実施形態の流路11の長さとは同じである。
【0027】
図6には、図3に示される条件と同条件の場合に、フィルタ20yの厚さに応じた圧力損失が示されている。図6に示されるように、フィルタ20yの流れ方向(Z軸方向)に沿う厚さが5mm,10mm,20mmへの増加に応じて、圧力損失が増加する。比較例2では、フィルタ20yの厚さが5mmの場合の圧力損失が13.1kPaである。一方で、本実施形態の蒸発器100では、流体がフィン20を通過するまでの圧力損失が約0.54kPaであり、比較例2よりも非常に小さい。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の蒸発器100は、流路11内に配置されたフィン20を備えている。フィン20は、流路形成部10と接続されることにより、流路形成部10との間で熱交換が可能な構造物である。フィン20は、流路11を流れる水に対して、流れ方向に交差する流れを発生させる。本実施形態では、流路11内を流れる水はフィン20に衝突することより、水の流れ方向は、流路形成部10の内壁12に向かう力を受ける。これにより、流路11内にフィン20が配置されていない場合と比較して、流体としての水は、流路形成部10の内壁12またはフィン20に衝突しやすくなる。水を蒸発させるために流路形成部10が加熱されると、流路形成部10に接続されているフィン20も昇温する。流路11内を流れる水は、加熱された流路形成部10の内壁12またはフィン20により衝突しやすくなるため、蒸発しやすくなる。この結果、流路11内にフィン20が配置されることにより、蒸発していない液滴の発生を抑制して噴霧流域の長さを短縮でき、蒸発器100の大型化を抑制できる。
【0029】
また、本実施形態のフィン20は、流路11のうちの下流側に配置されている。フィン20は、流路11内を流れる水に対して、同一方向の旋回流を発生させる螺旋状のフィンである。本実施形態では、流路11内を流れる水に、規則的な旋回流が発生する。これにより、水の流れに対する圧力損失を抑制した上で、水を流路形成部10の内壁12またはフィン20に衝突させることができる。この結果、水を流すための動力(例えば、ポンプ動力)を抑制できる。また、本実施形態では、流路11内を流れる水に同一方向の旋回流が発生するため、流路11の横断面内の速度成分が増幅して、液滴は、運動量により流路形成部10の内壁12に更に衝突しやすくなる。本実施形態では、流路形成部10が加熱される場合に、流路形成部10の内壁12の温度は、フィン20の温度よりも高くなる。
特に、水の温度が低い場合に、低温のフィン20への液滴付着を抑制しつつ、より高温の流路形成部10の内壁12への液滴衝突を促進させることができる。これにより、低温のフィン20での捕集液滴の蓄積および液だれの発生を抑制し、高温の内壁12への液滴捕集および蒸発を活発化させる。この結果、本実施形態の蒸発器100は、水の温度が低くても、安定した液滴蒸発性能を発揮できる。すなわち、低圧損で流路11内の液滴分布を不均質化できるため、より短い噴霧流域で蒸発が完結し、蒸発器100を小型化できる。
【0030】
<第2実施形態>
図7は、第2実施形態の蒸発器100aの説明図である。図7には、蒸発器100aが備える流路形成部10の一部の概略断面図が示されている。第2実施形態では、流路11a内に配置されるフィン20aの形状が第1実施形態のフィン20と異なる。そのため、第2実施形態では、フィン20aおよびフィン20aによる影響について説明し、第1実施形態と同じ構成等についての説明を省略する。
【0031】
図7に示されるように、第2実施形態のフィン20aは、第1フィン21と、第2フィン22とを備えている。第1フィン21は、第1実施形態のフィン20と同一方向の旋回流DR1を発生させるフィンである。一方で、第2フィン22は、第1フィンが発生させる旋回流DR1とは逆方向の旋回流DR2を発生させるフィンである。換言すると、Z軸正方向側から見て、第1フィン21は、XY平面上における反時計回りの流れを発生させ、第2フィン22は、XY平面上における時計回りの流れを発生させる。なお、旋回流DR1の向きが第1の方向に相当し、旋回流DR2の向きが第2の方向に相当する。
【0032】
図8は、第2実施形態のフィン20aの概略斜視図である。第2実施形態のフィン20aのZ軸に沿う長さは、第1実施形態のフィン20と同じ120mmである。フィン20aは、中心軸回りに半回転する第1フィン21と、第1フィン21に連結して中心軸回りに半回転する第2フィン22とを1つのセグメントとして、3セグメントから構成されている。そのため、1つのセグメントのZ軸に沿う長さは40mmである。フィン20aが流路11内に配置された場合に、各セグメントにおいて、第1フィン21は、第2フィン22よりも下流側に配置される。
【0033】
流路11a内を流れる水の温度と、流路形成部10の内壁12またはフィン20aとの温度との差に応じて、液体の水から蒸気への蒸発量が変化する。図9は、温度差ΔTsと蒸気生成との関係についての説明図である。図9には、内壁12の温度Tw(K:ケルビン)から水の飽和温度Ts(K)を差し引いた温度差ΔTsを横軸に取り、内壁12の表面を通過する熱流束qwを縦軸に取った場合の沸騰曲線C3が示されている。図9に示されるように、温度差ΔTsが核沸騰の範囲内の温度であれば、温度差ΔTsが上昇するほど、熱流束qwが増加するため、内壁12との熱交換により液滴から生成される蒸気量が増加する。一方で、温度差ΔTsが100Kを超えて蒸気膜沸騰に遷移すると、高温の内壁12の表面が液滴から蒸発した蒸気に覆われやすくなり、液滴の内壁12への衝突を阻害するライデンフロスト現象が発生し始める。そのため、蒸気膜沸騰に遷移すると、温度差ΔTsが増加しても、熱流束qwが増加せず、生成される蒸気量が減少する。図9に示されるライデンフロスト点Plのライデンフロスト温度よりも高くなると、温度差ΔTsの増加に応じて、生成される蒸気量も増加する。
【0034】
第2実施形態のフィン20aは、異なる向きの旋回流DR1,DR2を発生させる第1フィン21と第2フィン22とを有している。そのため、流路11a内を流れる水は、フィン20aにより、内壁12ではなくフィン20aに衝突しやすくなる。フィン20a温度は、直接加熱されている流路形成部10の内壁12の温度よりも低い。そのため、流路形成部10の内壁12の温度が高く、温度差ΔTsが大きい場合に、内壁12の代わりに低温のフィン20aに液滴を衝突させることにより、液滴が蒸発しやすくなる。
【0035】
図10は、第2実施形態のフィン20aの効果の説明図である。図10には、内壁12の温度が400℃である場合に、第2実施形態の液滴捕集率の変化C1a(実線)と、圧力損失の変化C2a(破線)とが、図3に対して追加で示されている。なお、図10では、第1実施形態の液滴捕集率の変化C1と、圧力損失の変化C2とが細線で示されている。
【0036】
図10の液滴捕集率の変化C1aで示されるように、距離が約30mmの液滴捕集率は10-3(0.1%)未満である。すなわち、距離が約30mmの位置では、99.9%が蒸気への気化が完了している。図10の圧力損失の変化C2aで示されるように、水がフィン20aを通過するまでの圧力損失は、約1.1kPaであり、図6に示される比較例2のフィルタ20yを配置した場合よりも十分に小さい。
【0037】
次に、フィン20aの厚みδ(mm)について評価した。流路形成部10の内壁12の代わりにフィン20aの表面上で液滴捕集・蒸発を活発化させるためには、フィン20aの断面には高い熱流束qwで熱伝導により必要な熱を輸送する必要がある。例えば、フィン20aの熱伝導率が低く、フィン20aが十分な厚みδを有していないと、異なる向きの旋回流DR1,DR2により液滴分布が密になる中心軸OL側のフィン20aの温度が低くなるおそれがある。この場合に、フィン20aの中心軸OL側で十分な温度差ΔTsが得られずに、フィン20aの表面で捕集された液滴が気化しない。気化しなかった液滴は、フィン20aの表面に堆積して、高温の内壁12へと移動・接触し、突沸などの蒸気不安定現象を招くおそれがある。そのため、フィン20aの厚みδとして、一定以上の厚みが必要である。
【0038】
図11および図12は、フィン20aの厚みδの算出方法の説明図である。図11には、フィン20aの厚みδを算出するために、簡略化したフィン20aのモデルの一部の断面形状が示されている。図11に示される簡略化されたモデルでは、流路11a内のフィン20aの径方向の長さであるフィン20aの高さH(=10mm)と、フィン20aの厚みδと、が定義されている。また、第2実施形態では、熱伝導率λが18(W/m/K)として定義されている。
【0039】
図12には、フィン20aと、フィン20aに衝突して気化する液滴ADとの熱量のイメージが示されている。第2実施形態では、流路形成部10からフィン20aへと伝わる熱量Qw、液滴の全潜熱量L、フィン20aの全長を120mmと定義して、入口の蒸気クオリティXinが0.6と0.8との場合について厚みδを評価した。入口の蒸気クオリティXinとは、フィン20aの上流側に流入する、液体の水と蒸気との合計に対する蒸気の割合である。すなわち、第2実施形態では、第1フィン21と第2フィン22とのそれぞれの厚みδは、フィン20aの流れ方向における長さ(120mm)と、流路11の径としての高さHと、熱伝導率λと、入口の蒸気クオリティXinとに応じている。
【0040】
図13は、入口の蒸気クオリティXinとフィン20aの厚みδとの関係についての説明図である。図13には、フィン20aの中心温度として120℃を確保する場合に、フィン20aの厚みδに応じて変化する、径方向(高さH方向)におけるフィン20aの各位置での温度が示されている。図13では、入口の蒸気クオリティXinが0.6の温度が黒丸を接続する4種類の太い直線で示されている。具体的には、厚みδが2mmの温度が二点鎖線の変化直線L62で示され、厚みδが3mmの温度が破線の変化直線L63で示され、厚みδが4mmの温度が実線の変化直線L64で示され、厚みδが5mmの温度が一点鎖線の変化直線L65で示されている。同じように、図13では、入口の蒸気クオリティXinが0.8の温度が黒い四角を接続する3種類の細い直線で示されている。具体的には、厚みδが3mmの温度が破線の変化直線L83で示され、厚みδが4mmの温
度が実線の変化直線L84で示され、厚みδが5mmの温度が一点鎖線の変化直線L85で示されている。なお、蒸気クオリティXinが0.8で厚みδが2mmの変化直線は、変化直線L64とほぼ同じであったため、図示が省略されている。
【0041】
フィン20aの表面上で、ライデンフロスト現象を発生させないために、図9の沸騰曲線C3から、フィン20aの温度が最も高い内壁12付近の温度を300℃未満に抑制することが好ましい。図13に示されるように、変化直線L62,63では、内壁12における温度が300℃を超えている。そのため、フィン20aの厚みδは、4mm以上であることが好ましい。
【0042】
以上説明したように、第2実施形態の蒸発器100aでは、第1フィン21と、第2フィン22とを有するフィン20aを備えている。第2フィン22は、第1フィン21よりも下流側に配置され、第1フィン21が発生させる旋回流DR1とは逆方向の旋回流DR2を発生させる。そのため、第2実施形態では、第1フィン21の下流側では、流路形成部10の内壁12に衝突する液滴の量が減少し、第2フィン22に衝突する液滴の量が増加する。特に、内壁12の温度が高い場合に、内壁12に液滴が衝突すると、噴霧流中の液滴から発生する蒸気が妨げとなるライデンフロスト現象が発生する。そのため、内壁12の温度が高い場合に、噴霧流中の液滴を、高温の内壁12の代わりに、内壁12よりも低温の第2フィン22に衝突させる。これにより、ライデンフロスト現象を発生させずに液滴を蒸発させることができる。この結果、流路11の出口からの液滴の吹き抜けを抑制しつつ、熱伝導率を向上させて噴霧域の長さを低減できる。
【0043】
また、第2実施形態では、第1フィン21と第2フィン22とのそれぞれの厚みδは、フィン20aの流れ方向における長さ(120mm)と、流路11の径としての高さHと、熱伝導率λと、入口の蒸気クオリティXinとに応じている。第2実施形態では、液滴ADが第1フィン21または第2フィン22に衝突して蒸発すると、第2フィン22の表面上の温度が低下する。フィン20aの厚みδが小さいと、フィン20aと水の飽和蒸気温度との温度差ΔTsが得られずに、液滴ADがフィン20aの表面で蒸発しないおそれがある。それに対し、第2実施形態では、フィン20aの上流側に流入する蒸気クオリティXinに応じて、フィン20aの流れ方向における長さと、フィン20aの高さHと、フィン20aの熱伝導率λとを用いて、フィン20aの厚みδが決定される。すなわち、フィン20aの上流側に流入する蒸気クオリティXinに応じて、フィン20aの表面に衝突した液滴ADを蒸発させるために、フィン20aの必要な厚さを設定できる。
【0044】
<第3実施形態>
図14は、第3実施形態の蒸発器100bの説明図である。図14には、第1実施形態の蒸発器100が備える流路形成部10のうち、流路11内のフィン20よりも上流側の流路11bの概略断面図が示されている。第3実施形態では、第1実施形態と比較して、フィン20が配置されていない上流側の流路形成部10bの内壁12bが親水化処理されている点が異なる。そのため、第3実施形態では、親水化処理された内壁12bについて説明し、第1実施形態と同じ構成等についての説明を省略する。
【0045】
図14に示されるように、流路11bに供給された液体の水は、内壁12bを介して加熱されると下流になるにつれて、気泡スラグSaを含む気泡流を発生させ、スラグ流から環状流を発生させる。その後、図示されていないフィン20により、液滴から蒸気が生成される。圧力損失の抑制および蒸発器100,100bの小型化を実現するために、フィン20に送られる液滴の量が少ない方が好ましい。
【0046】
図15は、図14における領域AR1の概略拡大図である。第3実施形態の流路形成部10bは、金属製の多孔質体の表面に親水化処理が行われた材料により形成されている。
具体的には、流路形成部10bは、厚み0.5mm、気孔率60%のSUS316Lの金属繊維の焼結体に、SIO2ベース材により親水化コートした材料で形成されている。
【0047】
ここで、流路11b内を流れる水に供給される熱量Qは、図15に示されるパラメータを用いて、下記式(1)のように表される。なお、式(1)における温度差ΔTsは、下記式(2)のように表される。
【数1】
【数2】
【0048】
相変化に伴い、内壁12bに形成されている液膜は、薄くなる。液膜が消滅して内壁12bの温度が高くなるドライパッチが発生すると、上記式(1)における液膜面積Afが小さくなり、内壁12bから水に供給される熱量Qが減少する。この場合に、薄い液膜内で沸騰核の発生や、環状流における蒸気せん断力による液膜からの液滴形成などの直接的に液滴を発生させる要因となる。この要因に対して、第3実施形態では、流路形成部10bにより、固体と液体と気体とで形成される3相界面張力バランスが変化して、接触角(動的接触角)が小さくなる。この結果、ドライパッチが発生しても周りの液膜または液スラグからの張力により、液体の水が輸送されて、内壁12bに安定して液膜が形成される。
【0049】
図16は、親水化処理された流路形成部10bの効果の説明図である。図16には、流路11bの単位長さで蒸発可能な質量速度(kg/m2/s)を変化させた場合の蒸気流量変動(%)が示されている。蒸気流量変動とは、フィン20,20aに流入する液滴を格子状のフィルタで蒸発させることにより、液滴の量を流量変動として検出した指標である。すなわち、蒸気流量変動の値が大きいほど、液滴を多く含んで、より多くの内壁12bでドライパッチが発生している。なお、流路11bの単位長さは、流れ方向における100mmである。質量速度が大きいほど、流路11b内で水が蒸発しやすい。
【0050】
図16には、第3実施形態の流路形成部10bを備える実施例1と、親水化処理されていない金属の内壁を備える比較例3との蒸気流量変動がプロットで示されている。実施例1と比較例3とにおける各4つのプロットは、内壁の温度が110℃,120℃,130℃,140℃に対応したプロットである。各プロットに対応する温度は、グラフ中に数字として示されている。実施例1のプロットが黒丸で示され、比較例3のプロットが黒色の四角で示されている。
【0051】
図16に示されるように、実施例1に対応する実線の楕円で囲まれた領域と、比較例3に対応する破線の楕円で囲まれた領域とを比較すると、実施例1の方が、質量速度が大きく、かつ、蒸気流量変動が小さい。すなわち、実施例1では、流路11bの下流側に配置されたフィン20,20aに流入する液滴の量が、比較例3よりも少ない。
【0052】
液膜厚みδwを、流路11bの管の代表直径deで除した無次元液膜厚み(δw/de)は、液体の粘性係数μL(Pa・s)と、表面張力σL(N/m)との比で決定される下記式(3)示されるキャピラリー数Caにより表される。式(3)に示されるように、物性値と液流速(質量速度)とが一定である場合、流路11bの径が小さいほど液膜厚みδwが小さくなる。
【0053】
【数3】
【0054】
図17は、キャピラリー数Caと無次元液厚みδw/deとの関係の説明図である。図17には、キャピラリー数Caに応じて変化する無次元液厚みδw/deが示されている。無次元液厚みδw/deは、最小二乗法により算出された定数α,βを用いて、下記式(4)のように表される。図17に示されるように、無次元液厚みδw/deは、キャピラリー数Caが増えるほど増加する。
【0055】
【数4】
【0056】
第3実施形態では、上記式(3),(4)に示される関係を用いて、流路11bの代表直径deが算出される。換言すると、代表直径deは、キャピラリー数Caと、フィン20,20aが配置されていない上流側の流路11bを流れる水の気泡速度ubと、液膜厚みδwとに応じて決定される。
【0057】
図18は、代表直径deに応じて変化する蒸気変動と平均熱流束との関係についての説明図である。図18では、横軸に蒸気変動(%)をとり、縦軸に平均熱流束(W/m2)をとった場合の、代表直径deを1,2,3mmに設定した実施例2と比較例4との各値がプロットされている。実施例2と比較例4とにおける各4つのプロットは、内壁の温度が110℃,120℃,130℃,140℃に対応したプロットである。実施例2では、第3実施形態のように流路形成部10bが親水化処理された多孔質体で形成されている。一方で、比較例4では、比較例3のように流路形成部が親水化処理されていない金属の内壁を備えている。
【0058】
図18では、実施例2における代表直径deが1mmのプロットが黒い三角で示され、代表直径deが2mmのプロットが黒丸で示され、代表直径deが3mmのプロットが黒い四角で示されている。一方で、比較例4における代表直径deが1mmのプロットが白抜きの三角で示され、代表直径deが2mmのプロットが白抜きの丸で示され、代表直径deが3mmのプロットが白抜きの四角で示されている。図18の実線(1mm)と、破
線(2mm)と、一点鎖線(3mm)とのそれぞれの楕円で囲まれた実施例2は、比較例4よりも蒸気変動が小さく、かつ、平均熱流束が大きい。すなわち、実施例2では、比較例4よりもフィン20が配置された下流側の流路11に流入する液滴の量を低減できる。
【0059】
以上説明したように、第3実施形態の蒸発器100bでは、フィン20,20aが配置されていない上流側の流路形成部10bの内壁12bが親水化処理されている。第3実施形態では、フィン20,20aよりも上流側の流路形成部10bの内壁12bが親水化処理されているため、内壁12bにおいて固体と液体と気体とで形成される3相界面張力バランスが変化して、接触角が小さくなる。これにより、内壁12bにおいて液膜の一部が破断して内壁12bが露出するドライパッチが発生しても、ドライパッチの周りの液膜または液スラグから張力により液体の水がドライパッチ部分に輸送されて、内壁12b全体に安定した液膜が形成される。この結果、フィン20,20aが配置される流路11bよりも下流側において、核沸騰の発生や環状流における蒸気せん断力による液膜からの液滴形成などの直接的な液滴の発生を抑制できる。すなわち、ドライパッチの発生が抑制されるため、流路11bの長さを短縮でき、蒸発器100bの大型化を抑制できる。
【0060】
さらに、第3実施形態では、流路形成部10bは、親水化処理に加えて、多孔質体で形成されている。流路形成部10bが多孔質体で形成されることにより、内壁12bの接触角が更に小さくなる。これにより、ドライパッチが内壁12bに発生することを更に抑制できる。
【0061】
また、第3実施形態では、流路11bの径である代表直径deは、キャピラリー数Caと、フィン20,20aが配置されていない上流側の流路11bを流れる水の気泡速度ubと、液膜厚みδwとに応じて決定される。この構成によれば、スラグ流および環状流で形成され液膜の厚みが薄いほど、ドライパッチの発生や蒸気流のせん断力に起因として発生する液滴を小さくできる。第3実施形態では、蒸発器100bが生成する蒸気の利用に応じて制御したい液膜の厚みを設定し、圧力損失の増加を抑制した上で流路の横断面の径などのパラメータを設定できる。
【0062】
<上記実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。また、上記実施形態において、ハードウェアによって実現されるとした構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されるとした構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【0063】
<変形例1>
上記第1実施形態から第3実施形態までの蒸発器100,100a,100bは、流路11の流れ方向に交差する流れを発生させる構造物を備える範囲で変形可能である。例えば、蒸発器100は、流体としての水が流れる流路11を形成する流路形成部10を備えていればよく、ヒータ30と、タンク40と、ポンプ50と、制御部60とを備えていなくてもよい。ヒータ30等は、他の装置が備えており、当該装置と、蒸発器100とが接続されていてもよい。
【0064】
上記第1実施形態および第2実施形態では、旋回流DR1を発生させるフィン20と、旋回流DR1,DR2を発生させるフィン20aとについて説明したが、流路11内に発生する流れは旋回流DR1,DR2でなくてもよい。例えば、流路11内に、中心軸に対して所定の角度傾いた金属板が構造物として、流路形成部10に接続されている状態で配置されてもよい。この場合に、流れ方向に沿って流れる流体が金属板に衝突することにより、流体には、旋回流DR1および旋回流DR2とは異なる、流れ方向に交差する流れが
発生する。当該交差する流れにより、流体がより内壁12に衝突することで、流体が蒸発しやすくなる。
【0065】
構造物としてのフィン20,20aは、流路11の下流側に配置されたが、上流側に配置されてもよいし、流路11の全体に亘って配置さてもよい。この場合に、フィン20,20aが配置された流路11とは別の流路を形成する他の流路形成部の下流側に、フィン20,20aが配置された流路形成部10が組み合わされてもよい。上記実施形態のフィン20,20aのセグメント数(流れ方向の長さ)や流路11に対する径方向の大きさについては種々変形可能である。
【0066】
上記第1実施形態から第3実施形態では、流路形成部10は、横断面が円形状であると共に中心軸OLが直線状の流路11を形成したが、流路11の形状については変形可能である。流路11の横断面の形状が矩形であってもよく、八角形などの多角形であってもよい。この場合に、管径は、流路11の断面の重心から各辺までの距離であってもよい。また、流路11の中心軸OLは、直線状ではなく、例えば湾曲していてもよい。この場合に、流れ方向とは、各横断面を接続した中心軸に沿う流れとして定義できる。
【0067】
上記第2実施形態では、フィン20aに衝突した液滴ADを蒸発させるために、フィン20aの厚みδが、フィン20aの流れ方向における長さと、流路11の径としての高さHと、熱伝導率λと、蒸気クオリティXinとを用いて設定されたが、その他の方法により設定されてもよい。フィン20aは、全体に亘って均一の厚みδを有していなくてもよいし、図13に示される0.2mmや0.3mmの厚みδを有していてもよい。厚みδについては、フィン20aの上流側に流入する蒸気クオリティXin等の設定により適宜設定されればよい。
【0068】
<変形例2>
上記第3実施形態では、フィン20,20aが配置されていない上流側の流路形成部10bの内壁12bが親水化処理されていたが、親水化処理される内壁12bは、上流に限られず、内壁12bの全体に亘って親水化処理されていてもよい。親水化処理される内壁12bの上流側の流路11b内に、フィン20,20aなどの構造物が配置されていなくてもよい。この場合であっても、親水化処理された内壁12bにより、スラグ流から環状流へと遷移する流路11b内において、ドライパッチの発生を抑制して、蒸気を生成するための流路11bを短縮できる。
【0069】
第3実施形態では、流路形成部10bは、親水化処理された多孔質体で形成されたが、多孔質体で形成されておらず、例えば、金属の内壁の表面が親水化処理されていてもよい。また、流路形成部10bに施された親水化処理として、例えば、アルミナの無機質膜コートやシリカ等の無機質膜コートなど、周知技術を適用できる。流路形成部10bを形成する多孔質体は、SUS316Lに親水化コートされた材質で形成されたが、周知の多孔質体の材料を適用できる。
【0070】
第3実施形態では、流路11bの径である代表直径deが、キャピラリー数Caと、気泡速度ubと、液膜厚みδwとに応じて設定されたが、その他の方法により設定されてもよい。蒸発器に要求される蒸気生成能力に応じて、代表直径deが設定されてもよいし、設定された代表直径deに対して、マニホールドやフィルタを用いて代表直径deを小さくしてもよい。
【0071】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると
共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0072】
10,10b…流路形成部
11,11b,11x…流路
12,12b…内壁
20,20a…フィン(構造物)
20y…フィルタ
21…第1フィン
22…第2フィン
30…ヒータ
40…タンク
50…ポンプ
60…制御部
100,100a,100b,100x,100y…蒸発器
AD…液滴
AR1…領域
Af…液膜面積
C1,C1a…液滴捕集率の変化
C2,C2a…圧力損失の変化
C3…沸騰曲線
CS…直交座標系
Ca…キャピラリー数
DR1,DR2…旋回流
σL…表面張力
μL…粘性係数
L…全潜熱量
L62~L64,L83~L85…変化直線
L63…変化直線
L64…変化直線
L65…変化直線
L83…変化直線
L84…変化直線
L85…変化直線
OL…流路の中心軸
Pl…ライデンフロスト点
Q,Qw…熱量
qw…熱流束
ΔTs…温度差
Ts…飽和温度
Tw…内壁の温度
Vz…流速
Xin…蒸気クオリティ
de…代表直径
b…気泡速度
δw…液膜厚み
δw/de…無次元液厚み
図1
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