(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-01-30
(45)【発行日】2026-02-09
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱粒子、熱交換材料、および潜熱蓄熱粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20260202BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20260202BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20260202BHJP
B22F 1/142 20220101ALI20260202BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20260202BHJP
C01F 7/42 20220101ALI20260202BHJP
C22C 9/01 20060101ALN20260202BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20260202BHJP
F28D 20/02 20060101ALN20260202BHJP
【FI】
C09K5/06 Z
B22F1/00 N
B22F1/14 600
B22F1/142
C01B33/06
C01F7/42
C22C9/01
C22C21/02
F28D20/02 D
(21)【出願番号】P 2021145529
(22)【出願日】2021-09-07
【審査請求日】2024-08-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】能村 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】味戸 大祐
(72)【発明者】
【氏名】アデ クルニアワン
【審査官】河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203128(JP,A)
【文献】特開平01-113486(JP,A)
【文献】国際公開第2015/162929(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/200021(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/003256(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109248686(CN,A)
【文献】Takahiro Kawaguchi, Hiroki Sakai, Nan Sheng, Ade Kurniawan, Takahiro Nomura,Microencapsulation of Zn-Al alloy as a new phase change material for middle-high-temperature thermal energy storage applications,Applied Energy,2020年,276,115487
【文献】Tatsuya Takahashi et al.,Catalyst-loaded micro-encapsulated phase change material for thermal control of exothermic reaction,Scientific Reports,2021年,11:7539
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
B01J 13/02-13/22
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア粒子と、該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部とを有し、
前記コア粒子の成分は、AlまたはAlを含む合金であり、
前記被覆部は、Al酸化物を有すると共に、pH8~12の水溶液中で難溶性化合物を形成する金属元素を含む、析出物層を有
し、
BET比表面積が10m
2
/g以上である、潜熱蓄熱粒子。
【請求項2】
前記金属元素は、La、Ni、Zn、FeおよびMgよりなる群から選択される1種以上の金属元素である、請求項1に記載の潜熱蓄熱粒子。
【請求項3】
前記Alを含む合金は、Alを10質量%以上含む合金である、請求項1または2に記載の潜熱蓄熱粒子。
【請求項4】
前記コア粒子の平均粒子径は、10μm以上、200μm以下である、請求項1~
3のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子。
【請求項5】
表面に触媒を備えた、請求項1~
4のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子で形成された熱交換材料。
【請求項7】
コア粒子と、該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部とを有し、
前記コア粒子の成分は、AlまたはAlを含む合金であり、
前記被覆部は、Al酸化物を有すると共に、pH8~12の水溶液中で難溶性化合物を形成する金属元素を含む、析出物層を有し、
表面に触媒を備えた、潜熱蓄熱粒子。
【請求項8】
前記金属元素は、La、Ni、Zn、FeおよびMgよりなる群から選択される1種以上の金属元素である、請求項7に記載の潜熱蓄熱粒子。
【請求項9】
前記Alを含む合金は、Alを10質量%以上含む合金である、請求項7または8に記載の潜熱蓄熱粒子。
【請求項10】
前記コア粒子の平均粒子径は、10μm以上、200μm以下である、請求項7~9のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子。
【請求項11】
成分が、AlまたはAlを含む合金であるコア原料粒子を準備すること、
化成被膜処理液を用いて、前記コア原料粒子の化成被膜処理を行い、化成被膜処理粒子を得ること、および
前記化成被膜処理粒子に対し、熱処理を行うことを含み、
前記化成被膜処理液は、pH8~12の水溶液中で難溶性化合物を形成する金属元素を含む塩を含み、かつ化成被膜処理において、化成被膜処理液のpHを、前記金属元素が難溶性化合物として析出するpH
析出以上の範囲にする、潜熱蓄熱粒子の製造方法。
【請求項12】
前記金属元素は、La、Ni、Zn、FeおよびMgよりなる群から選択される1種以上の金属元素である、請求項
11に記載の潜熱蓄熱粒子の製造方法。
【請求項13】
前記金属元素を含む塩は、硝酸塩である、請求項
11または
12に記載の潜熱蓄熱粒子の製造方法。
【請求項14】
前記pH
析出は下記式(1)で表される、請求項
11~
13のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子の製造方法。
【数1】
式(1)において、K
spは反応温度での溶解度積、[M
n+]は金属イオン濃度(M)、nは価数を示す。
【請求項15】
前記金属元素が難溶性化合物として析出するpH
析出以上の範囲は、前記金属元素がLa、Ni、Zn、およびFeよりなる群から選択される1以上の金属元素である場合は、pH8~12であり、前記金属元素がMgの場合は、pH10~12である、請求項
11~
14のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子の製造方法。
【請求項16】
前記金属元素の硝酸塩の濃度は1~5mMとする、請求項
11~
15のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱蓄熱粒子、熱交換材料、および潜熱蓄熱粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱を貯蔵する方法として、温度変化を利用する顕熱蓄熱と、物質の相変化を利用する潜熱蓄熱が知られている。このうち、顕熱蓄熱技術は、高温での蓄熱が可能である反面、物質の温度変化による顕熱のみを利用するため、蓄熱密度が低いという問題があった。それに対して、潜熱蓄熱技術は、相変化物質(PCM:Phase Change Material)の固液相変化潜熱を利用するため、顕熱蓄熱技術と比べて高密度に蓄熱可能である。また、相変化温度一定で反応熱由来の排熱を回収・輸送・供給が可能な点で、太陽熱利用や排熱利用の分野で注目されている。PCMは蓄熱時に溶融して液体状となるため、液体状PCM漏出防止のためにPCMのカプセル化が必要である。PCMのカプセル化法として様々な方法がこれまでに提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、一層、二層または三層の金属被膜を潜熱蓄熱材の表面に被覆した潜熱蓄熱カプセル、潜熱蓄熱材に電解めっき法によって金属被膜を被覆した潜熱蓄熱カプセルが提案されている。また特許文献2には、シェルで被覆されたコアを有する蓄熱マイクロカプセルにおいて、該コアが、塩水和物及び糖アルコールから選択された少なくとも1種の水溶性潜熱蓄熱材と、水溶性単官能単量体及び水溶性多官能単量体の水溶性単量体混合物より得られた重合体とを含み、該シェルが、疎水性樹脂から形成されていることを特徴とする蓄熱マイクロカプセルとその製造方法が提案されている。該技術は、融点が比較的低めであるPCMのマイクロカプセル化技術である。
【0004】
特許文献3は、蓄熱性を有する物質からなる内部蓄熱体と、前記内部蓄熱体を内包し、相対密度が75%以上のセラミックスからなる外殻と、を備えた蓄熱体が提案されている。上記内部蓄熱体として、Al、Mg、Sn、Zn、及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する金属からなるか、K、Li、Na、Ca、及びMgからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、炭酸化合物、水酸化物、塩化物、又はこれらの複合物からなるものとし、外殻(カプセル)の材質を、アルミナ、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種、又は前記群より選ばれる少なくとも一種を含む複合物からなるものとすることが提案されている。特許文献3の技術は、融点が高温域のPCMをカプセル化した技術である。
【0005】
特許文献1の潜熱蓄熱カプセルは、金属製被膜の耐熱性が低いため、高温状態では金属製被膜を維持することが難しく、高温状態での使用が難しいと考えられる。また、特許文献2に記載された蓄熱マイクロカプセルは、高温且つ腐食等の生じ易い過酷な環境下で使用することが難しいと思われる。さらに特許文献3に記載された蓄熱体は、セラミックスからなる外殻を有しており、耐熱性、耐腐食性に優れていると思われるが、成型、加工が困難であると思われる。
【0006】
上記課題に鑑みて、本発明者らは、特許文献4において、金属若しくは合金の潜熱蓄熱材料から成るコア粒子の表面が、該コア粒子の組成元素の酸化被膜で被覆された、潜熱蓄熱体マイクロカプセル、潜熱蓄熱体の製造方法、熱交換材料、および触媒機能性潜熱蓄熱体を提案している。また特許文献5で、コア部と被覆層とを備える潜熱蓄熱体であって、BET比表面積が10m2/g以上である、該潜熱蓄熱体、潜熱蓄熱体の製造方法、及び、熱交換材料を提案している。これらの技術によれば、コア粒子とこれを収容するシェルに相当する酸化被膜を別々に作製した上でシェルの内部にコア粒子を収容するという工程が不要となる。また、固相から液相に相変態した際のコア粒子の膨張が生じないため、溶解した潜熱蓄熱材料の成分は酸化被膜で覆われた空間内部に留まり、酸化被膜が損傷を受けることがない。また、上記酸化被膜は化学的に安定なものとすることができる。さらに特許文献5によれば、コア部の材料を捕捉しやすく、コア部の漏出の発生を減少させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-23172号公報
【文献】特開2012-140600号公報
【文献】特開2012-111825号公報
【文献】特開2019-173017号公報
【文献】特開2019-203128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4と特許文献5に示された潜熱蓄熱体の製造方法では、マイクロオーダーの潜熱蓄熱体が得られているものの、Al濃度の少ないコア原料粒子ではカプセル化が難しく、Alを主成分としない合金PCMを有する潜熱蓄熱体粒子の実現は困難であった。また潜熱蓄熱体粒子を様々な用途に用いるべく、比表面積の高い表面を有する潜熱蓄熱体粒子が求められている。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、Al濃度の少ないコア原料粒子であってもカプセル化され、かつ高比表面積の表面を有する潜熱蓄熱体粒子と、該潜熱蓄熱粒子で形成された熱交換材料と、上記潜熱蓄熱粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様1は、
コア粒子と、該コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部とを有し、
前記コア粒子の成分は、AlまたはAlを含む合金であり、
前記被覆部は、Al酸化物を有すると共に、pH8~12の水溶液中で難溶性化合物を形成する金属元素を含む、潜熱蓄熱粒子である。
【0010】
本発明の態様2は、
前記金属元素は、La、Ni、Zn、FeおよびMgよりなる群から選択される1種以上の金属元素である、態様1に記載の潜熱蓄熱粒子である。
【0011】
本発明の態様3は、
前記Alを含む合金は、Alを10質量%以上含む合金である、態様1または2に記載の潜熱蓄熱粒子である。
【0012】
本発明の態様4は、
BET比表面積が10m2/g以上である、態様1~3のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子である。
【0013】
本発明の態様5は、
前記コア粒子の平均粒子径は、10μm以上、200μm以下である、態様1~4のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子である。
【0014】
本発明の態様6は、
表面に触媒を備えた、態様1~5のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子である。
【0015】
本発明の態様7は、
態様1~5のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子で形成された熱交換材料である。
【0016】
本発明の態様8は、
成分が、AlまたはAlを含む合金であるコア原料粒子を準備すること、
化成被膜処理液を用いて、前記コア原料粒子の化成被膜処理を行い、化成被膜処理粒子を得ること、および
前記化成被膜処理粒子に対し、熱処理を行うことを含み、
前記化成被膜処理液は、pH8~12の水溶液中で難溶性化合物を形成する金属元素を含む塩を含み、かつ化成被膜処理において、化成被膜処理液のpHを、前記金属元素が難溶性化合物として析出するpH析出以上の範囲にする、潜熱蓄熱粒子の製造方法である。
【0017】
本発明の態様9は、
前記金属元素は、La、Ni、Zn、FeおよびMgよりなる群から選択される1種以上の金属元素である、態様8に記載の潜熱蓄熱粒子の製造方法である。
【0018】
本発明の態様10は、
前記金属元素を含む塩は、硝酸塩である、態様8または9に記載の潜熱蓄熱粒子の製造方法である。
【0019】
本発明の態様11は、
前記pH析出は下記式(1)で表される、態様8~10のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子の製造方法である。
【0020】
【0021】
式(1)において、Kspは反応温度での溶解度積、[Mn+]は金属イオン濃度(M)、nは価数を示す。
【0022】
本発明の態様12は、
前記金属元素が難溶性化合物として析出するpH析出以上の範囲は、前記金属元素がLa、Ni、Zn、およびFeよりなる群から選択される1以上の金属元素である場合は、pH8~12であり、前記金属元素がMgの場合は、pH10~12である、態様8~11のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子の製造方法である。
【0023】
本発明の態様13は、
前記金属元素の硝酸塩の濃度は1~5mMとする、態様8~12のいずれかに記載の潜熱蓄熱粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、Al濃度の少ないコア原料粒子であってもカプセル化され、かつ高比表面積の表面を有する、潜熱蓄熱粒子と、該潜熱蓄熱粒子で形成された熱交換材料と、上記潜熱蓄熱粒子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1(a)は従来の潜熱蓄熱粒子の模式断面図を示し、
図1(b)は本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子の模式断面図を示す。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る触媒担持潜熱蓄熱粒子を触媒層に応用した模式図である。
【
図3】
図3は、硝酸塩含有化成被膜処理液にコア原料粒子を投入後のpH変化を示した図である。
【
図4】
図4は、実施例における前駆体のSEM観察結果を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例における前駆体のXRD測定結果を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例における試料(潜熱蓄熱体粒子)のSEM観察結果を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例における試料(潜熱蓄熱体粒子)のXRD測定結果を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例における前駆体熱処理時の重量変化の観察結果を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例における前駆体と試料(潜熱蓄熱体粒子)の比表面積測定結果を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例における前駆体のSEM観察結果を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例における前駆体の比表面積測定結果を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例における前駆体のSEM観察結果を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例における前駆体のXRD測定結果を示す図である。
【
図14】
図14は、実施例における前駆体熱処理時の重量変化の観察結果を示す図である。
【
図15】
図15は、実施例における試料(潜熱蓄熱体粒子)のSEM観察結果を示す図である。
【
図16】
図16は、実施例における試料(潜熱蓄熱体粒子)のXRD測定結果を示す図である。
【
図17】
図17は、実施例における試料(潜熱蓄熱体粒子)の比熱測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者らは鋭意検討した結果、潜熱蓄熱体粒子の製造において、既定する金属元素の硝酸塩を加え、かつpHを制御した化成被膜処理液で化成被膜処理することによって、従来の方法ではカプセル化が困難であったAl量の抑えられたコア原料粒子であっても、シェルを形成してカプセル化することができ、かつ、比表面積の大きい潜熱蓄熱体粒子が得られることを見出した。以下、本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子、潜熱蓄熱粒子で形成された熱交換材料、および潜熱蓄熱粒子の製造方法について説明する。
【0027】
[潜熱蓄熱粒子]
〔コア粒子〕
コア粒子は、その成分が、AlまたはAlを含む合金である。Alを含む合金は、Alが主成分であってもよいし、Alが主成分でなくてもよい。前記「主成分」とは、コア粒子全体に占める割合が50質量%以上であることをいう。
【0028】
前記Alを含む合金は、Alを10質量%以上含む合金であることが好ましい。前記Alを含む合金のAl量は、例えば20質量%以上であってもよく、その上限は、100質量%未満、例えば90質量%以下であってもよく、更に75質量%以下、より更には50質量%以下であってもよい。
【0029】
Alを含む合金におけるAl以外の元素として、例えば、Ca、Si、Bi、Mg、Sb、In、Sn、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、Au、およびPbよりなる群から選択される1以上の元素が挙げられる。上記AlまたはAlを含む合金は、固液相変化潜熱を利用できる相変化物質(PCM)であり、融解熱が例えば200J/g以上であり、高い潜熱量を確保することができる。
【0030】
コア粒子のより好ましい成分の一つとして、AlとSiの合金が挙げられる。AlとSiの合金中のSi量は、10質量%以上、25質量%以下とすることができる。コア粒子のより好ましい他の成分として、Cu-Si-Al合金が挙げられる。Cu-Si-Al合金として、例えばCuが主成分である、Cu-9.6mass%Si-40mass%Alが挙げられる。コア粒子の好ましい他の成分として、Zn-Al合金が挙げられる。
【0031】
本実施形態の製造方法によれば、従来の方法と異なり、コア原料粒子に含まれるAl量が従来よりも少量であってもカプセル化が可能である。コア粒子のAl量下限の好ましい値は、Al合金の種類によって定まり、例えば、上記Cu-Si-Al合金の場合は、Al量が30質量%以上であることが好ましく、上記Zn-Al合金の場合は、Al量が10質量%以上であればよい。コア粒子に含まれる必要最低Al量は、例えば形成したいAl酸化物のシェルの厚みから、計算することができる。
【0032】
コア粒子の平均粒子径は10μm以上、200μm以下であることが好ましい。本実施形態によれば、サイズがマイクロオーダーであってコア粒子(PCM)が上記成分を有し、かつ高比表面積である潜熱蓄熱粒子を実現できる。上記平均粒子径は、例えば、更に100μm以下であってもよく、より更に50μm以下であってもよい。なお、本明細書で述べる「平均粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布計(例:HORIBA LA-920)で測定したときの値である。より具体的には、レーザー回折式粒度分布計により、粒子群の体積分布を測定し、累積50体積%径の値(D50)を、平均粒子径とみなす。
【0033】
〔被覆部〕
被覆部は、Al酸化物を有すると共に、pH8~12の水溶液中で難溶性化合物を形成する金属元素を含む。被覆部に含まれるAl酸化物は、α-Al2O3、θ-Al2O3が挙げられる。被覆部は、主成分が好ましくはα-Al2O3であることが好ましい。本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子の被覆部は、α-Al2O3と共に、高比表面積を有するθ-Al2O3を含むことが好ましい。
【0034】
前記pH8~12の水溶液中で難溶性化合物を形成する金属元素は、La、Ni、Zn、FeおよびMgよりなる群から選択される1種以上の金属元素であることが好ましい。前記金属元素が被覆部に含まれることは、エネルギー分散型X線分光法(EDS)で確認し定量することができる。
【0035】
本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子の被覆部は、厚みが500nm~4μmの範囲でありうる。被覆部は、例えば厚みが1~2μmの被覆層でありうる。
【0036】
本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子の被覆部は、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。コア粒子の表面に占める被覆部の被覆率は、50面積%以上であることが好ましい。前記被覆率は、より好ましくは70面積%以上、更に好ましくは80面積%以上、より更に好ましくは90面積%以上であり、最も好ましくは100面積%である。
【0037】
(潜熱蓄熱粒子の比表面積)
本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子の比表面積は、BET比表面積にて表すことができる。より具体的には、潜熱蓄熱粒子のBET比表面積は、10m2/g以上でありうる。潜熱蓄熱粒子のBET比表面積は、好ましくは10~100m2/g、より好ましくは、10m2/g、20m2/g、30m2/g、40m2/g、50m2/g、60m2/g、70m2/g、80m2/g、90m2/g及び100m2/gの中から選択される2つの数値で規定される範囲内であってもよい。下限値はより好ましくは30m2/g以上、更に好ましくは40m2/g以上、最も好ましくは50m2/g以上である。上限値は通常は90m2/g以下であり、典型的には80m2/g以下であり、より典型的には70m2/g以下であり、更により典型的には60m2/g以下である。
【0038】
(潜熱蓄熱粒子で形成された熱交換材料)
本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子で形成された熱交換材料が含まれる。熱交換材料として、本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子が熱交換材料の少なくとも一部を構成すればよく、例えば熱性母材中に分散して含有させる態様、多孔質材料中に分散して担持させる態様が挙げられる。熱交換材料の例としては、蓄熱レンガ、蓄熱用セラミックスボール、多孔質セラミックスフィルタ等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
(触媒担持潜熱蓄熱粒子)
本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子は、表面に触媒を備えた、触媒担持潜熱蓄熱粒子であってもよい。潜熱蓄熱粒子の表面に各種触媒粒子を担持させることにより、触媒としての機能と、蓄熱体としての機能とを併せ持つ材料を提供することができる。従来の潜熱蓄熱粒子の製造方法では、潜熱蓄熱粒子の表面を高比表面積化することが難しく、
図1(a)に示す模式断面図の通り、潜熱蓄熱粒子の酸化被膜3の表面に触媒2を十分に担持させることが難しかった。しかし本実施形態の製造方法によれば、
図1(b)に示す模式断面図の通り、潜熱蓄熱粒子の酸化被膜3の表面に比表面積の高い析出物層4が形成された、潜熱蓄熱粒子が得られ、該析出物層4の表面に触媒2を多く担持した触媒担持潜熱蓄熱粒子を実現できる。触媒担持潜熱蓄熱粒子は、
図2に模式的に例示する通り、触媒層に充填させて使用することができる。本実施形態の触媒担持潜熱蓄熱粒子を用いれば、該粒子の析出物層4表面の触媒2で生じた反応熱が、
図2中の拡大図における黒矢印の通り、コア粒子(PCM)1に吸収されうる。その結果、従来の触媒層で生じていた触媒層中央部の過剰な発熱(
図2の破線で示す温度曲線)を、
図2の実線で示す温度曲線の通り抑えることができ、触媒を劣化させることなく長期にわたり使用することができる。
【0040】
[潜熱蓄熱粒子の製造方法]
本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子の製造方法は、
(i)成分が、Al、またはAlを含む合金であるコア原料粒子を準備すること、
(ii)化成被膜処理液を用いて、前記コア原料粒子の化成被膜処理を行い、化成被膜処理粒子を得ること、および
(iii)前記化成被膜処理粒子に対し、熱処理を行うことを含み、
前記化成被膜処理液は、pH8~12の水溶液中で難溶性化合物を形成する金属元素を含む塩を含み、かつ化成被膜処理において、化成被膜処理液のpHを、前記金属元素が難溶性化合物として析出するpH析出以上の範囲にする。以下、各工程について詳述する。
【0041】
(i)原料粒子の準備
原料粒子として、成分が、Al、またはAlを含む合金であるコア原料粒子を準備する。コア原料粒子は、所望の潜熱蓄熱粒子のコア粒子に対応した、例えば平均粒子径が10μm以上、200μm以下の粒子を用意することが挙げられる。上記平均粒子径は、例えば、更に100μm以下であってもよく、より更に50μm以下であってもよい。コア原料粒子の成分については、前記潜熱蓄熱粒子のコア粒子で述べた通りである。
【0042】
(ii)化成被膜処理
本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子の製造方法では、
(I)pH8~12の水溶液中で難溶性化合物を形成する金属元素を含む塩を含み、かつ
(II)pHが、前記金属元素が難溶性化合物として析出するpH(pH析出)以上の範囲の化成被膜処理液で、前記コア原料粒子の化成被膜処理を行って、化成被膜処理粒子を得る。
【0043】
本実施形態では、化成被膜処理液に前記金属元素を含む塩が含まれる。化成被膜処理液中、前記金属元素を含む塩は、カチオン部である金属イオンと、酢酸イオン等のアニオン部とに解離しうる。前記金属元素を含む塩として、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、および酢酸塩よりなる群から選択される1以上が挙げられる。好ましくは硝酸塩である。
【0044】
以下では、化成被膜処理工程において、金属元素を含む塩として硝酸塩を用いた場合について、硝酸塩を含む化成被膜処理液のpHを制御することについて説明するが、本実施形態の製造方法は、硝酸塩以外の塩を使用した場合にも適用しうる。
【0045】
後述する実施例の結果から、化成被膜処理液への硝酸塩の添加とpHの制御により次のことが生じていると推測される。まず本発明者らは、硝酸塩として、硝酸La、硝酸Ni、硝酸Zn、硝酸Fe、硝酸Mg、または硝酸Caをそれぞれ溶解させた化成被膜処理液にコア原料粒子を投入し、コア原料粒子投入後のpHの変化を調べた。その結果を
図3に示す。純水を用いた場合には原料投入後に溶液のpH上昇は見られずpH4.7であったのに対し、硝酸塩を溶解させた化成被膜処理液を用いた場合は、
図3から明らかな通り、ほとんどの場合にpH約8.3にまで急激に上昇し(LaのみpH6.5まで上昇し)、その後、緩やかなpHの低下がみられた。
【0046】
上記の通り、硝酸塩水溶液にコア原料粒子を加えることでpHが急激に上昇したことから、下記反応式の通り、硝酸塩の添加によって生じた硝酸イオンが酸化剤として作用し、Alの溶出が促進されて、その結果pHが上昇したと考えられる。
Al+3(NO3)-→Al(NO3)3+3e-
(水溶液中であるため、Al(NO3)3→Al3++3(NO3)-)
2H2O+2e-→2OH-(pH上昇)+H2
【0047】
そして、上記pHの上昇により、硝酸塩を構成していた水溶液中の金属イオンが、難溶性の微細な水酸化物として析出し、この微細な水酸化物が核となってコア原料粒子の表面近傍に存在することで、コア原料粒子の表面での析出物の生成が促進され、析出物量が増加し、結果として、比表面積の大きな析出物層が形成されたと考えられる。よって、本実施形態における化成被膜処理液のpHは、硝酸塩を構成する金属元素が、上記の通り例えば水酸化物などの難溶性化合物として析出するpH以上の範囲とする。
【0048】
上記析出物の核となる金属元素の難溶性化合物として例えば水酸化物を形成させるためのpHは、下記式(1)を満たすpH析出以上の範囲とすることが好ましい。
【0049】
【0050】
式(1)において、Kspは反応温度での溶解度積、[Mn+]は金属イオン濃度(M)、nは価数を示す。
【0051】
上記析出物の核となる金属元素の水酸化物を形成させるための化成被膜処理液のpHは、次のようにして求められる。まず、金属水酸化物が析出を開始する条件は、下記式(2)で表される。更に下記式(2)を変形させると、下記式(3)の関係が得られ、水酸化物が析出を開始するpHであるpH析出は、上記式(1)の通り表される。
【0052】
Ksp=[Mn+][OH-]n (2)
式(2)において、Ksp:反応温度での溶解度積、[Mn+]:金属イオン濃度(M)、n:価数を示す。
【0053】
【0054】
式(3)において、Ksp:反応温度での溶解度積、[Mn+]:金属イオン濃度(M)、n:価数を示す。
【0055】
よって、金属元素の水酸化物を形成させるための化成被膜処理液のpHは、前記金属元素が難溶性化合物として析出するpH析出以上の範囲とする。
【0056】
本発明者らは、金属元素としてLa、Ni、Zn、Fe、Ca、MgのpH析出、すなわち各金属の水酸化物が析出を開始するpHを上記理論式から算出した。その結果を表1に示す。化成被膜処理液のpHは、下記表1の数値以上とすればよいといえる。
【0057】
【0058】
一方、化成被膜処理液のpHは、コア原料粒子に含まれるAlが溶解し過ぎないpHの範囲とするのがよい。つまりpHは、Alの溶解し過ぎないpHとして、温度にもよるがおおよそpH6~12の範囲であって、上述の通り、難溶性化合物である上記金属水酸化物の析出が生じる範囲とすることが好ましい。化成被膜処理液のpHは、化成被膜処理液の温度が例えば下記に述べる通り70℃~100℃の範囲にある場合、pHとして最も高い値は計算上、最低温度である70℃のときのpH12.8である。上述したAlの溶解し過ぎないpHの上限から、化成被膜処理液のpHの上限は12であることが好ましい。
金属元素が難溶性化合物として析出するpH析出以上の範囲は、該金属元素によって異なり、金属元素がLa、Ni、Zn、およびFeよりなる群から選択される1以上の金属元素である場合は、化成被膜処理液のpHを、pH8~12とすることが好ましく、前記金属元素がMgの場合は、化成被膜処理液のpHを、pH10~12とすることが好ましい。pHの調整には、pH調整剤として、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物等を用いることができる。
【0059】
使用する硝酸塩を構成する金属元素は、潜熱蓄熱粒子の被覆部に含まれる金属元素に対応させればよく、好ましくは、La、Ni、Zn、FeおよびMgよりなる群から選択される1以上の金属元素である。
【0060】
前記化成被膜処理液に含まれる金属元素の硝酸塩の濃度は1~5mM(ミリモーラー)であることが好ましい。また、前記化成被膜処理液の温度は70℃~100℃に維持することが好ましい。
【0061】
前記化成被膜処理により得られた前駆体の被膜部分の構成として、例えば、コア粒子の表面に非晶質であって緻密なベーマイト(AlOOH)が形成され、この緻密なベーマイト(AlOOH)の表面に針状のベーマイト(針状AlOOH)が形成され、更に針状のベーマイトの上に、金属硝酸塩由来の金属元素を含み、かつ比表面積の高い析出物層が形成された積層構造を有することが挙げられる。
【0062】
(iii)熱処理(か焼)
化成被膜処理粒子の熱処理を行う。これにより、化成被膜処理粒子の化成処理被膜を酸化し、被覆部として、Al酸化物を有する層を形成できる。熱処理の温度は、例えばコア原料粒子を構成する金属(合金を含む)の融点よりも高い温度で実行することが挙げられ、例えば700℃以上に加熱することが挙げられる。熱処理により形成されるアルミニウム酸化膜は、概ね800℃以下の比較的低温ではγ-Al2O3の結晶形をとり、化学的に安定とされるα-Al2O3膜は概ね880℃以上の比較的高温で得られる。例えば化学的に安定なα-Al2O3膜を得るには、熱処理の温度を880℃以上とすることが好ましい。コア粒子が例えばAl-Si合金の場合、熱処理は900℃以上、1230℃以下の温度で行うことがあげられる。
【0063】
熱処理の雰囲気は、大気雰囲気、または熱処理炉へ酸素ガスを供給して酸素雰囲気とするのがよい。ヒータにより炉内の温度を高め、試料の温度が所定の温度に達した時点から、例えば1時間~5時間の熱処理(酸化処理)を施して、熱処理後の潜熱蓄熱粒子を得ることができる。熱処理の方法は、上記化成被膜処理粒子を、例えば、坩堝内に充填し、この坩堝を挿入棒の先端に設けられた熱電対の上部に載置し、ヒータを備えた熱処理炉内にセットして行うことがあげられる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0065】
[実施例1]
実施例1では、Al-Si合金(Al-25mass%Si)からなるコア原料粒子を用い、種々の金属硝酸塩を添加した化成被膜処理液で化成被膜処理を行い、次いで、熱処理を施して試料を作成した。詳細は以下の通りである。
〔試料の調製〕
Si量が25質量%のAl-Si合金(Al-25mass%Si)から成るコア原料粒子を準備した。コア原料粒子の平均粒子径を、レーザー回折式粒度分布計(HORIBA LA-920)を用いて測定したところ、20~38μmであった。
【0066】
次に、化成被膜処理液を調製した。より具体的には、ビーカーに、純水と、硝酸La、硝酸Ni、硝酸Zn、硝酸Fe、硝酸Ca、または硝酸Mgとを、濃度がいずれも3mMとなるように、それぞれ添加し、かつ1Mのアンモニア水溶液を添加してpHが約8になるように調整した水溶液300mLを用意した。また、比較のために、ビーカーに、純水300mLを入れ、1Mのアンモニアを添加してpHが約8になるように調整した水溶液も用意した。
【0067】
ホットプレートスターラー上に上記化成被膜処理液の入ったビーカーを載せ、100℃に加熱した状態で、上記コア原料粒子(Al-25mass%Si)10gを化成被膜処理液に投入し、3時間、400rpmの条件で撹拌して化成被膜処理を行って前駆体を得た。なお処理中は、1Mのアンモニア水溶液を滴下して化成被膜処理液のpHを約8に維持した。
【0068】
上記化成被膜処理後は、化成被膜処理物(前駆体)を回収し、Al2O3皿に、前駆体を充填した。その後、マッフル炉(アズワン株式会社製、HPM-2N)を用い、大気雰囲気下、室温から1000℃まで10℃/分で昇温させ、1000℃になってから3時間保持して熱処理(か焼)を行い、試料(潜熱蓄熱体粒子)を得た。以下では、硝酸La、硝酸Ni、硝酸Zn、硝酸Fe、硝酸Ca、または硝酸Mgを含む化成被膜処理液を用いて作製した試料を、それぞれ「La試料」「Ni試料」「Zn試料」「Fe試料」「Ca試料」「Mg試料」ということがあり、また、これらの硝酸塩を含まない化成被膜処理液を用いて作製した試料を「NA試料」ということがある。
【0069】
〔試料の評価〕
以上の工程で得られた、前駆体(化成被膜処理物)と試料(潜熱蓄熱体粒子)の特性を次の通り分析した。
【0070】
(前駆体(化成被膜処理物)の表面性状)
潜熱蓄熱体の表面の状態をSEM(JEOL,JSM-7001FA)で観察した。その結果を
図4に示す。以下、図面に示す金属元素は、硝酸塩として添加した金属元素であり、「NA」は、pHを調整した純水のみで化成被膜処理して得られた試料を示す。
図4から明らかな通り、得られた潜熱蓄熱体粒子の表面性状は、大きく2つに分かれ、表面に針状または柱状の析出物が多く析出したグループAと、該析出物がほとんど確認されなかったグループBとに分類された。グループAの析出物の形状は、添加した金属硝酸塩の金属元素によって異なっていた。
【0071】
(前駆体(化成被膜処理物)のXRD測定)
前駆体(化成被膜処理物)のXRD測定を、以下の測定条件で行った。その結果を
図5に示す。
図5から、グループAの、表面に多量の析出物が確認された前駆体では、AlとSiに加えAlO(OH)とAl(OH)
3の顕著なピークが見られた。一方、析出物がほとんど確認されなかったグループBの前駆体では、主にAlとSiのピークのみ見られた。前記
図4のSEM観察と、このXRD測定とから、グループAにおいて、La試料,Fe試料は針状結晶のAlO(OH)が析出し、Ni試料は柱状結晶のAl(OH)
3が析出していたといえる。また、Zn試料はAlO(OH)の針状結晶とAl(OH)
3の柱状結晶が混在して析出していたといえる。これらの結果から、金属硝酸塩の種類によって生成するAl
2O
3前駆体の構造を制御することが可能である。
【0072】
(測定条件)
・X線回折装置:X線回折装置 XRD Rigaku MiniFlex600 X線源:Cu線
・検出器:高速1次元検出器D/teX Ultra2
・管電圧:40kV
・管電流:15mA
・スキャンスピード:18.0°/min
・ステップ:0.02°
【0073】
(試料(潜熱蓄熱体粒子)の表面性状)
試料(潜熱蓄熱体粒子)の表面の状態をSEM(JEOL,JSM-7001FA)で観察した。その結果を
図6に示す。
図6から、グループAの試料は熱処理(か焼)後もカプセル形状を維持していた。また、グループAの試料の表面析出物は、熱処理(か焼)後も形状を維持していた。一方、グループBの試料は、Mg試料とNA試料が、熱処理(か焼)後もカプセル形状を維持していたが、Ca試料はほぼすべての粒子の破損が見られた。
【0074】
(試料(潜熱蓄熱体粒子)のXRD測定)
試料(潜熱蓄熱体粒子)のXRD測定を、前駆体(化成被膜処理物)のXRD測定と同条件下で行った。その結果を
図7に示す。
図7から、グループAの、表面に多量の析出物が確認された試料では、AlとSiとα-Al
2O
3に加え、θ-Al
2O
3のピークが見られた。一方、析出物があまり確認されなかったグループBの試料では、主にAlとSiとα-Al
2O
3のピークがみられた。これらの対比から、表面に多量の析出物が確認されたグループAの試料では、高い比表面積を持つθ-Al
2O
3のピークが検出された。
【0075】
本発明者らは、EDSの定量分析において、約0.5~1mol%の金属元素が検出されたことを確認した。
【0076】
(前駆体を熱処理時の重量変化/試料の潜熱量の測定)
1000℃まで昇温し、1000℃で3時間保持する熱処理における、前駆体の重量変化を観察した。その結果を
図8に示す。また、熱処理して得られた試料の潜熱量を求めた。その結果を表2に示す。
図8から、約550℃までの昇温過程を示す[1]の段階では、化成被膜処理で生成した被膜と析出物(AlO(OH),Al(OH)
3)の脱水によると思われる重量減少がみられた。約550℃から到達温度1000℃での昇温過程を示す[2]の段階では、体積膨張により亀裂が入り、内部のコア原料が漏出するが、漏出したコア原料が熱処理中に酸化することによって漏出部分が自己修復され、酸化による重量増加が生じたと考えられる。1000℃で保持する[3]の段階では、酸化停止により重量が安定したと考えられる。
【0077】
【0078】
また、グループAはグループBと比較して重量増減の程度が大きかった。このことから、グループAでは、多量の析出物が生成されていること、および膜厚が増加していることによって、膜の生成が促進されていると考えられる。これらのことから、本発明では、既定する金属元素の硝酸塩を加え、かつpHを制御した水溶液で化成被膜処理することによって、純水を用いた化成被膜処理(ベーマイト処理)ではカプセル化が困難であったコア原料粒子であっても、シェルを形成できカプセル化できるといえる。
【0079】
(試料のBET測定)
各金属元素を用いて得た前駆体と試料の比表面積を、BET法により測定した。より具体的には、0.05<(p/p
0)<0.30の範囲の測定点を用いて多点BET法にて算出した。その結果を、表3とこれをグラフ化した
図9に示す。
【0080】
【0081】
表2および
図9から、グループAの前駆体(熱処理前)と試料(熱処理後)は、グループBの前駆体と試料よりも、約6.5~17.4倍の比表面積を有していた。試料の中では、La試料の比表面積が最も高く、NA試料の比表面積の約17.4倍であった。また、La試料とFe試料は、熱処理による比表面積の減少が大きく、試料(熱処理後)の比表面積は、前駆体(熱処理前)の比表面積の約43~49%となった。一方、Ni試料は、熱処理による比表面積の減少が小さく、試料(熱処理後)の比表面積は、前駆体(熱処理前)の比表面積の約81%であった。
[実施例2]
実施例2では、実施例1でほとんど析出物層の形成されなかった硝酸Mg使用例において、化成被膜処理液のpHを変えて試料を作成し、pHが析出物層の形成に及ぼす影響をみた。詳細は以下の通りである。
【0082】
〔試料の調製〕
硝酸Mgを濃度3mMとし、化成被膜処理液のpHを、NaOH水溶液を滴下して9.5または10に維持した以外は、実施例1と同様にして、化成被膜処理を行って前駆体を得、該前駆体を回収して一晩乾燥してから、熱処理して試料(熱処理後、潜熱蓄熱粒子)を得た。
【0083】
〔試料の評価〕
以上の工程で得られた、前駆体(化成被膜処理物)のSEM観察とBET測定を実施例1と同様にして行った。
【0084】
(前駆体のSEM観察)
図10に、前駆体のSEM観察結果を示す。
図10から明らかなとおり、pH9.5の調整では微小な析出物が見られ、実施例1で実施したpH8の場合よりも析出物の数は多かった。一方、pHを10に高めることで、析出物量は格段に増加し、多数の析出物で覆われた前駆体が得られた。すなわちMgは、実施例1では、析出物のほとんど析出しないグループBの金属元素であったが、化成被膜処理液のpHを高めることで、前駆体の析出物層を形成することができた。これらの結果から、pHを高めることで難溶性の金属水酸化物が形成され、この難溶性の金属水酸化物が結晶核となって、析出物層の生成が促進されることを確認できた。
【0085】
(前駆体のBET測定)
図11に、pHの異なる化成被膜処理液を用いて作製した、NA試料とMg試料の比表面積をBET法により測定した結果を示す。
図11から、Mg試料は化成被膜処理液のpHを8から10に上昇させることによって、比表面積が格段に増加した。また、Mg試料はNA試料と比較して、前駆体の比表面積が高く、前駆体を熱処理して得られた試料の比表面積の低下量が大きい傾向にあった。この結果と前記
図10の結果とから、前駆体の比表面積の増大には、化成被膜処理液に含まれる金属元素の水酸化物が析出するpHが大きく寄与することがわかった。また、前駆体の針状および柱状の析出物が熱処理でアルミナを含む層となることによって、比表面積はやや低下するものの、前駆体の比表面積が大きい例(Mg試料、pH10)では、熱処理後も高い比表面積を確保でき、例えば触媒の担持に有効な比表面積の高い表面を有する潜熱蓄熱粒子を得ることができた。
【0086】
実施例1、2から次のことがいえる。pHを8に調整した場合、表1においてpH析出が8以下であるLa,Ni,Zn,Feは、後述の実施例1に示す通り析出物層が得られたが、表1においてpH析出が8を超えているMgの析出物層は得られなかった。一方、pHを10とした場合、pHを8に調整したときには析出物層が得られなかったMgも含め、pH析出が10以下であるLa,Ni,Zn,FeおよびMgのいずれにおいても、析出物層が得られた。これらの結果から明らかなとおり、AlOOHやAl(OH)3の析出物層を得るには、添加金属Mの水酸化物が析出するよう、化成被膜処理液のpHを、金属元素の種類に応じて調整する必要がある。
【0087】
[実施例3]
実施例3では、Al量が実施例1よりも少ないコア原料粒子を用いて、潜熱蓄熱粒子を作製し、その表面性状等を評価した。
【0088】
〔試料の調製〕
コア原料粒子として、Siを9.6質量%とAlを40質量%含むCu合金(Cu-9.6Si-40Al)を用い、かつ硝酸塩として、硝酸Niが3mM、5mMの化成被膜処理液を用いた以外は、実施例1と同様にして、化成被膜処理を行って前駆体を得、該前駆体を回収して一晩乾燥してから、更に該前駆体を熱処理して試料(熱処理後、潜熱蓄熱粒子)を得た。
【0089】
〔試料の評価〕
以上の工程で得られた、前駆体(化成被膜処理物)と試料(潜熱蓄熱体粒子)のそれぞれのSEM観察とXRD測定、および熱処理時の重量変化を実施例1と同様にして測定した。また、試料(潜熱蓄熱体粒子)の比熱測定を下記の通り行った。
【0090】
(前駆体のSEM観察とXRD測定)
図12に前駆体のSEM観察結果を示す。
図12から、金属硝酸塩(硝酸Ni)を含む水溶液を使用することで柱状の析出物層が形成され、金属硝酸塩の濃度の高い水溶液を使用することで緻密な析出物層が形成されることがわかる。また、
図13に前駆体のXRD測定結果を示す。
図13から、金属硝酸塩(硝酸Ni)を用いて形成した試料は、顕著なAl(OH)
3のピークが検出された。この
図13と前記
図12から、硝酸Niを用いて形成した試料は、析出物層としてAl(OH)
3膜が形成され、硝酸Niの濃度が高い試料では、緻密なAl(OH)
3膜が形成されたといえる。また、コア原料粒子として、Al量が少なく40質量%である粒子を用いた場合でも、実施例1のAl量が約75質量%であるAl-25mass%Siのコア原料粒子を、硝酸Niを含む化成被膜処理液で処理したときと同様に、柱状のAl(OH)
3膜が形成されることを確認した。
【0091】
(前駆体を熱処理時の重量変化)
図14に、前駆体を熱処理したときの重量変化を示す。
図14から、NA試料は500℃までの重量減少とその後の重量増加が最も少なかった。それに対して、硝酸Ni(3mM)を用たNi試料は、酸化による重量増加が最も大きかった。これらのことから、硝酸Niを用いて形成した試料では、化成被膜処理で生成した被膜と析出物(AlO(OH),Al(OH)
3)の脱水によると思われる重量減少が、NA試料よりも圧倒的に大きく、コア原料粒子のAlが、NA試料よりも多く被膜、析出物層の形成に消費されたと考えられる。
【0092】
(試料(潜熱蓄熱体粒子)のSEM観察とXRD測定)
図15に、試料(熱処理後、潜熱蓄熱粒子)のSEM観察結果を示す。
図15から、NA試料の表面は、約0.3μmの楕円状の粒子で覆われた凹凸形状を有していた。一方、Ni試料はAl(OH)
3由来の柱状組織で覆われ、滑らかな表面も一部に見られた。また、
図16に試料(潜熱蓄熱体粒子)のXRD測定結果を示す。
図16から、Ni試料はCuAl
2,AlCuのピークが顕著に小さくなったことがわかる。また、Ni試料ではη-Cu3.17Siのピークが検出された。これらの結果から、化成被膜処理(ベーマイト処理)中に合金中のAlが溶出したことにより、試料(か焼後)のコア粒子の合金組成が変化したと想定される。
【0093】
(試料(潜熱蓄熱体粒子)の比熱測定)
熱重量/示差熱同時測定装置(NETZHSCH社製、品番:STA 449 F3 Jupiter)を用いて、それぞれの比熱を測定した。その結果を
図17に示す。
図17から、Ni(5mM)試料では、昇温,降温時共に、700~800℃で顕著な比熱の増加が見られた。これらの結果から、Ni試料では、700~800℃の間で相変化が起きていると考えられる。
昇温時:700-800℃のCpΔT=186.2(J/g)
降温時:700-800℃のCpΔT=177.7(J/g)
【0094】
以上の実施例から明らかな通り、本発明では、潜熱蓄熱粒子の製造方法における、コア原料粒子の化成被膜処理を実施する工程で、化成被膜処理液に金属硝酸塩を添加すると共に、化成被膜処理液のpHを制御することによって、コア原料粒子(PCM)に接した緻密なAl酸化被膜の表面に、触媒の担持に適した多孔質な層が形成された、マイクロオーダーの潜熱蓄熱粒子を実現できた。また、本実施形態に係る方法を適用することによって、コア原料粒子(PCM)中のAlの溶出とシェル化を促進でき、従来方法では困難であった低Al濃度の合金をPCM(コア原料粒子)とする、PCMマイクロカプセルを製造することができた。これにより、従来のAlを主成分とするPCMマイクロカプセルでは達成できなかった、380℃以下または700℃以上に融点を持つPCMマイクロカプセルの製造が可能となった。
【符号の説明】
【0095】
1 コア粒子(PCM)
2 触媒
3 酸化被膜
4 析出物層
5 触媒層
6 冷媒