(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-02-02
(45)【発行日】2026-02-10
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20260203BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20260203BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20260203BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20260203BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2022152513
(22)【出願日】2022-09-26
【審査請求日】2023-10-11
【審判番号】
【審判請求日】2025-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城戸崎 徹
【合議体】
【審判長】梶尾 誠哉
【審判官】須原 宏光
【審判官】井上 信一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-173992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電された全固体電池であって、
塗工層である正極層を含み、
前記正極層は、活物質と硫化物固体電解質とバインダとを含
み、
前記正極層において、前記硫化物固体電解質は、
CCCV充放電(充電上限電圧4.55V、放電下限電圧2.5V)サイクルが100サイクル後において、式(1)~(4):
0.67≦C
1/(C
1+C
2+C
3) (1)
0.1≦C
2/(C
1+C
2+C
3)≦0.24 (2)
0.07≦C
3/(C
1+C
2+C
3)≦0.15 (3)
0.2≦C
2/C
1≦0.34 (4)
の関係を満たし、
前記式(1)~(4)中、C
1、C
2およびC
3は、前記硫化物固体電解質に含まれる骨格構造ユニットの存在比を示し、
C
1は、PS
4
3-ユニットの存在比を示し、
C
2は、P
2S
xユニットの存在比を示し、
C
3は、PO
xユニットの存在比を示す、
全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-173992号公報は、硫化物固体電解質を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池の抵抗は、充放電サイクルの繰り返しに伴って徐々に増加する。所定のサイクル数における抵抗が、初期抵抗で除されることにより、抵抗増加率が求まる。本開示の目的は、抵抗増加率の低減にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1.本開示の一局面において、全固体電池は、電極層を含む。電極層は、活物質と硫化物固体電解質とを含む。電極層において、硫化物固体電解質は、下記式(1)の関係を満たす。
C1/(C1+C2+C3)>0.5 (1)
上記式(1)中、C1、C2およびC3は、硫化物固体電解質に含まれる骨格構造ユニットの存在比を示す。C1は、PS4
3-ユニットの存在比を示す。C2は、P2Sxユニットの存在比を示す。C3は、POxユニットの存在比を示す。
【0006】
バルク型全固体電池のイオン伝導パスとして、硫化物固体電解質が有望である。硫化物固体電解質が、高いイオン伝導性と、優れた成形性とを併せ持つためである。以下「固体電解質(solid electrolyte)」が「SE」と略記され得る。例えば、硫化物固体電解質は、「硫化物SE」と略記され得る。
【0007】
硫化物SEは、複数の骨格構造ユニットを含み得る。硫化物SEは、例えば、PS4
3-ユニットと、P2Sxユニットとを含む。各ユニットの存在比は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により特定され得る。充放電サイクル中、硫化物SEが高電位に曝されることにより、硫化物SEが酸化分解され得る。硫化物SEの酸化分解により、POxユニットが発生すると考えられる。POxユニットは、低イオン伝導相である。POxユニットは、抵抗増加を促進し得ると考えられる。
【0008】
PS4
3-ユニットは、高イオン伝導相である。本開示の新知見によると、PS4
3-ユニットの存在比が50%を超えている時、POxユニットが発生し難い傾向がある。PS4
3-ユニットが硫化物SEの基本骨格を形成することにより、硫化物SEの耐酸化性が向上していると考えられる。したがって、PS4
3-ユニットの存在比が50%を超える時、抵抗増加率の低減が期待される。しかし従来、全固体電池の電極層において、硫化物SEのPS4
3-ユニットの存在比は、50%以下である。
【0009】
硫化物SEは粉末状態で使用される。粒度調整のため、硫化物SEは、合成後に解砕される。すなわち、硫化物SEに機械的エネルギーが加えられる。本開示のさらなる新知見によると、機械的エネルギーが付与された硫化物SEは、電極層中において、PS4
3-ユニットの存在比が50%以下に減少し得る。したがって、例えば、解砕処理を経ていない硫化物SEが使用されることにより、電極層中の硫化物SEにおいて、PS4
3-ユニットの存在比が50%超になり得る。
【0010】
2.上記「1」に記載の全固体電池において、硫化物固体電解質は、例えば、下記式(2)の関係をさらに満たしていてもよい。
C2/(C1+C2+C3)<0.3 (2)
【0011】
3.上記「1」または「2」に記載の全固体電池において、硫化物固体電解質は、例えば、下記式(3)の関係をさらに満たしていてもよい。
C3/(C1+C2+C3)<0.2 (3)
【0012】
4.上記「1」~「3」のいずれか1項に記載の全固体電池において、硫化物固体電解質は、例えば、下記式(4)の関係をさらに満たしていてもよい。
C2/C1<0.4 (4)
【0013】
5.本開示の一局面において、全固体電池は正極層を含む。正極層は、活物質と硫化物固体電解質とを含む。正極層において、硫化物固体電解質は、下記式(1)~(4)の関係を満たす。
C1/(C1+C2+C3)>0.5 (1)
C2/(C1+C2+C3)<0.3 (2)
C3/(C1+C2+C3)<0.2 (3)
C2/C1<0.4 (4)
上記式(1)~(4)中、C1、C2およびC3は、硫化物固体電解質に含まれる骨格構造ユニットの存在比を示す。C1は、PS4
3-ユニットの存在比を示す。C2は、P2Sxユニットの存在比を示す。C3は、POxユニットの存在比を示す。
【0014】
正極層は、負極層に比して高電位を有する。正極層においては、硫化物SEが酸化劣化しやすい傾向がある。正極層において、PS4
3-ユニットの存在比が高いことにより、抵抗増加率の低減が期待される。
【0015】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、非制限的である。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【0016】
「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0017】
「m~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。
【0018】
測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。一般に測定回数が多い程、平均値の信頼性が向上することが期待される。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差等を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態における全固体電池の第1概念図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における全固体電池の第2概念図である。
【
図3】
図3は、No.1、8における骨格構造ユニットの存在比である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<全固体電池>
図1は、本実施形態における全固体電池の第1概念図である。
図1には、第1電池100の厚さ方向と平行な断面が概念的に示されている。第1電池100は、第1発電要素150を含む。第1電池100は、例えば、外装体(不図示)を含んでいてもよい。外装体が、第1発電要素150を収納していてもよい。外装体は、例えば、金属箔ラミネートフィルム製のパウチ等であってもよいし、金属製のケース等であってもよい。第1電池100は、1個の第1発電要素150を単独で含んでいてもよいし、複数個の第1発電要素150を含んでいてもよい。複数個の第1発電要素150は、例えば、直列回路を形成していてもよいし、並列回路を形成していてもよい。
【0021】
第1発電要素150は、第1電極層110とセパレータ層130と第2電極層120とを含む。第1発電要素150は、第1電極層110、セパレータ層130および第2電極層120を、それぞれ複数含んでいてもよい。一例として
図1の第1発電要素150は、第1電極層110、セパレータ層130および第2電極層120を、それぞれ2層ずつ含んでいる。セパレータ層130は、第1電極層110と第2電極層120との間に介在している。セパレータ層130は、第1電極層110を第2電極層120から分離している。セパレータ層130は、例えば硫化物SE等を含んでいてもよい。セパレータ層130は、例えば1~100μmの厚さを有していてもよい。
【0022】
第2電極層120は、第1電極層110と異なる極性を有する。例えば第1電極層110が正極層である時、第2電極層120は負極層である。第1発電要素150は、第1集電体111と第2集電体121とをさらに含んでいてもよい。第1集電体111は、第1電極層110と接触している。第2集電体121は、第2電極層120と接触している。例えば、第1電極層110が正極層である時、第1集電体111は正極集電体である。例えば、第2電極層120が負極層である時、第2集電体121は負極集電体である。第1集電体111および第2集電体121は、それぞれ独立に、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。第1集電体111および第2集電体121は、それぞれ独立に、例えば、Al箔、Al合金箔、Cu箔、Ni箔、ステンレス鋼箔等を含んでいてもよい。
【0023】
《電極層》
第1電極層110および第2電極層120は、「電極層」と総称される。すなわち電極層は正極層であってもよいし、負極層であってもよい。電極層は、例えば、1~1000μm、5~500μm、または10~100μmの厚さを有していてもよい。電極層は、活物質と、硫化物SEとを含む。電極層は、例えば、導電材、バインダ等をさらに含んでいてもよい。電極層は、例えば、質量分率で、1~10%のバインダと、0~10%の導電材と、1~30%の硫化物SEと、残部の活物質とを含んでいてもよい。残部は、活物質に加えて、例えば不可避不純物、添加剤等を含んでいてもよい。
【0024】
(硫化物固体電解質)
硫化物SEは、電極層中にイオン伝導パスを形成し得る。硫化物SEは、粒子群(粉末状態)である。硫化物SEは、電極層中に分散している。硫化物SEは、例えば0.05~5μmのD50を有していてもよい。「D50」は、体積基準の粒子径分布において、粒子径が小さい側からの頻度の累積が50%に到達する粒子径を示す。硫化物SEのD50は、例えば、0.1~1.5μm、0.1~1μm、0.1~0.7μm、0.1~0.5μm、0.1~0.3μm、または0.1~0.15μmであってもよい。硫化物SEは、例えば、4~40m2/gのBET比表面積を有していてもよい。「BET比表面積」は、気体吸着法(BET1点法)により測定され得る。硫化物SEのBET比表面積は、例えば、8~32m2/g、10~32m2/g、14~32m2/g、18~32m2/g、23~32m2/g、または29~32m2/gであってもよい。
【0025】
硫化物SEは、例えば、ガラスセラミックス型であってもよいし、アルジロダイト型であってもよい。硫化物SEは、Li、S、Pを含む。硫化物SEは、例えば、Cl、Br、I、O等をさらに含んでいてもよい。硫化物SEは、複数の骨格構造ユニットを含み得る。硫化物SEは、PS4
3-ユニットと、P2Sxユニットとを含む。硫化物SEは、POxユニットをさらに含んでいてもよい。各ユニットの存在比は、XPS装置により測定され得る。測定試料(電極層の一部)は、電池内から回収される。P2pスペクトルと、S2pスペクトルとが取得される。ピーク分離により、各ユニットの存在比が特定され得る。XPS装置の設定は、例えば下記のとおりである。装置は一例であり、下記装置と同等品が使用されてもよい。装置によって、好適な設定が異なる場合もある。
【0026】
XPS装置:製品名「VersaProbe III」、アルバック・ファイ社製
X線源:mоnо-AlKα(hν=1486.6eV)
光電子取り出し角:45°
X線ビーム径:100μm
分析位置:試料中央部、矩形範囲(500μ×300μm)
【0027】
C1は、PS4
3-ユニットの存在比を示す。C2は、P2Sxユニットの存在比を示す。C3は、POxユニットの存在比を示す。「C1+C2+C3=1」であってもよい。例えば、3種のユニットに分類されない成分の存在により、「C1+C2+C3」が1にならない場合もある。「C1+C2+C3」は、例えば、0.90~1.10、または0.95~1.08であってもよい。
【0028】
PS4
3-ユニットは、高イオン伝導相である。「C1/(C1+C2+C3)」が0.5より大きいことにより、POxユニット(低イオン伝導相)の発生が抑制され得る。PS4
3-ユニットの存在比が高い程、抵抗の低減も期待される。「C1/(C1+C2+C3)」は、例えば、0.6~1、0.7~1、0.8~1または0.9~1であってもよい。「C1/(C1+C2+C3)」は、例えば、0.67~0.72であってもよい。
【0029】
P2Sxユニットの「x」は、1以上の数である。「C2/(C1+C2+C3)」は、例えば、0.3未満であってもよい。「C2/(C1+C2+C3)」は、例えば、0~0.25、0.1~0.25、または0.19~0.24であってもよい。
【0030】
P2Sxユニットの存在比は、PS4
3-ユニットの存在比に比して小さい。「C2/C1」は、例えば、0.4未満であってもよい。「C2/C1」は、例えば、0.34以下、または0.30以下であってもよい。「C2/C1」は、例えば、0.01以上、0.1以上、0.2以上、または0.29以上であってもよい。
【0031】
POxユニットの「x」は、任意の数である。「C3/(C1+C2+C3)」は、例えば、0.2未満であってもよい。「C3/(C1+C2+C3)」は、例えば、0.15以下、0.12以下、0.1以下、0.09以下、または0.07以下であってもよい。POxユニットの存在比は、例えばゼロであってもよい。
【0032】
各ユニットの存在比は、物質量分率(モル分率)に対応し得る。硫化物SEは、物質量分率で、例えば、0~15%のPOxユニットと、0.1~24%のP2Sxユニットと、残部のPS4
3-ユニットとを含んでいてもよい。
【0033】
硫化物SEは、任意の方法により合成され得る。硫化物SEは、例えば、気相法、固相法または液相法等により合成され得る。硫化物SEは、例えば、Li2Sと、P2S5とから合成されてもよい。電極層において、PS4
3-ユニットの存在比が50%を超えるように、硫化物SEが合成され、かつ電極層が形成され得る。電極層におけるPS4
3-ユニットの存在比を高めるため、電極層の形成過程で、硫化物SEに加わる機械的エネルギーを低減することが考えられる。特に、硫化物SEの解砕処理では、硫化物SEに大きな機械的エネルギーが加わる可能性がある。例えば、解砕処理(機械的な粒度調整)が避けられることにより、PS4
3-ユニットの存在比が高くなることが期待される。
【0034】
(活物質)
活物質は、電極反応を生起する。活物質は、例えば粒子群であってもよい。活物質は、例えば、1~30μmのD50を有していてもよい。活物質は、中空粒子を含んでいてもよいし、中実粒子を含んでいてもよい。「中空粒子」は、粒子の断面画像(例えば電子顕微鏡画像等)において、中心部の空洞の断面積が、粒子全体の断面積の30%以上である粒子を示す。「中実粒子」は、粒子の断面画像において、中心部の空洞の断面積が、粒子全体の断面積の30%未満である粒子を示す。
【0035】
活物質は、正極活物質であってもよい。正極活物質は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、Li(NiCoMnAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。活物質は、負極活物質であってもよい。負極活物質は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、Si、SiOx(0<x<2)、Si基合金、Sn、SnOx(0<x<2)、Li、Li基合金、およびLi4Ti5O12からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0036】
(導電材)
導電材は、電極層中に電子伝導パスを形成し得る。導電材は、例えば、アセチレンブラック(AB)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンフレーク(GF)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0037】
(バインダ)
バインダは、固体材料同士を結合し得る。バインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、およびフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0038】
《バイポーラ構造》
図2は、本実施形態における全固体電池の第2概念図である。第2電池200は、第2発電要素250を含む。第2発電要素250は、バイポーラ構造を有する。「バイポーラ構造」とは、集電体の片面に正極層が配置され、かつ他方の面に負極層が配置される構造を示す。これに対して、1つの集電体に、1つの極性の電極層のみが配置される構造(
図1)が、「ユニポーラ構造」である。
【0039】
バイポーラ構造において、第3集電体231は、第1主面231aと第2主面231bとを含む。第2主面231bは、第1主面231aの反対面である。第1主面231aに第1電極層210が配置されている。第2主面231bに第2電極層220が配置されている。第2電極層220は、第1電極層210と異なる極性を有する。セパレータ層230は、第1電極層210と第2電極層220とを分離している。第3集電体231は、例えば、Al-Niクラッド材、片面NiめっきAl箔等を含んでいてもよい。第2発電要素250において、積層方向の一端に第1集電体211が配置され、かつ他端に第2集電体221が配置されてもよい。
【0040】
バイポーラ構造の採用により、抵抗の低減が期待される。その半面、バイポーラ構造においては、ユニポーラ構造に比して、電極層が高電位になりやすい。バイポーラ構造においては、硫化物SEの酸化劣化が進行しやすいと考えられる。バイポーラ構造に含まれる電極層において、PS4
3-ユニットの存在比が高いことにより、抵抗増加率の低減が期待される。
【実施例】
【0041】
<全固体電池の製造>
《No.1》
(硫化物SEの合成)
Li2S、P2S5が秤量されることにより、原料粉末が準備された。原料粉末におけるLi2S、P2S5の混合比は、「Li2S/P2S5=75/25(モル比)」であった。ガラス製の容器に、原料粉末と、テトラヒドロフラン(THF)とが投入された。原料とTHFとの混合比は、「原料粉末/THF=1/20(質量比)」であった。25℃において、原料粉末とTHFとが72時間攪拌された。攪拌後、沈殿物(粉末)が回収された。沈殿物は、硫化物SEの前駆体である。前駆体が、アルゴン雰囲気下、25℃で乾燥されることにより、乾燥物が形成された。乾燥物が、大気圧下(開放系)、100℃で1時間焼成されることにより、焼成物が形成された。焼成物が石英管に真空封入された。石英管がマッフル炉内で、140℃で12時間焼成されることにより、硫化物SEが得られた。以下、当該硫化物SEが「LPS」とも記される。
【0042】
(正極層の形成)
混練装置として、プライミクス社製の「フィルミックス(登録商標)」が準備された。フィルミックスの混合容器内に、80質量部の正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)と、9.51質量部の硫化物SE(LPS)と、2質量部の導電材(VGCF)とが投入された。その後、バインダ分散液(SBR分散液、濃度 5%)と、32.21質量部の分散媒(テトラリン)とが混合容器に投入された。固形分率は69%(質量分率)であった。混合物が混練されることにより、正極スラリーが形成された。混練中、フィルミックスの周速は、5~30m/sの範囲内で調整された。ブレード式のアプリケータにより、正極スラリーが正極集電体(Ni箔)の両面に塗工されることにより、正極層が形成された。正極層が100℃で30分間乾燥された。
【0043】
(負極層の形成)
フィルミックスに、高速せん断用PCホイールがセットされた。フィルミックスにおいて、18.6質量部の負極活物質(Si)と、8.69質量部の硫化物SE(LPS)と、2.4質量部の導電材(VGCF)と、バインダ分散液(SBR分散液、濃度 5%)と、分散媒(ジイソブチルケトン)とが混合されることにより、負極スラリーが形成された。負極スラリーの固形分率は、43%(質量分率)であった。混練中、フィルミックスの周速は、5~30m/sの範囲内で調整された。ブレード式のアプリケータにより、負極スラリーが基材(Al箔)の片面に塗工されることにより、負極層が形成された。正極層が100℃で30分間乾燥された。ロールプレス機により、負極層が緻密化された。
【0044】
(セパレータ層の形成)
ヘプタンにアクリレートブタジエンゴム(ABR)が溶解されることにより、バインダ溶液が形成された。バインダ溶液におけるABRの濃度は、5%(質量分率)であった。超音波ホモジナイザーにより、40質量部の硫化物SE(LPS)と、8質量部のバインダ溶液と、25.62質量部のヘプタンと、8質量部のジブチルエーテルと混合されることにより、セパレータスラリーが形成された。セパレータスラリーが基材(Al箔)の表面に塗工されることにより、セパレータ層が形成された。セパレータ層が100℃で30分間乾燥された。
【0045】
(組み立て)
20kNのプレス加工により、正極層にセパレータ層が圧着転写された。ロールプレス加工により、正極層およびセパレータ層がまとめて緻密化された。ロール線圧は、4tоn/cmであり、ロールギャップは100μmであった。負極層(緻密化済み)がセパレータ層に圧着転写されることにより、発電要素が形成された。発電要素にリードタブが取り付けられた。外装体として、Alラミネートフィルム製のパウチが準備された。発電要素が外装体に封入された。発電要素に20MPaの圧力が加わるように、外装体の外側に拘束部材が取り付けされた。以上より試験電池が製造された。
【0046】
《No.2~7》
硫化物SEのD50が下記表1の値となるように、硫化物SEが合成されることを除いては、No.1と同様に、試験電池が製造された。
【0047】
《No.8~14》
硫化物SEの合成後、解砕処理が実施されることにより、硫化物SEのD50が調整されることを除いては、No.1~7と同様に、試験電池が製造された。
【0048】
<評価>
CCCV充放電(充電上限電圧 4.55V、放電下限電圧 2.5V)が実施された。セルの設計容量は、0.3Ahであった。CC充電およびCC放電時の時間率は0.1Cであった。1Cの時間率では、設計容量が1時間で放電される。充放電サイクルが100サイクル実施された。100サイクル後の抵抗が、初期抵抗で除されることにより、抵抗増加率が求められた。本評価では、3サイクル後の抵抗が「初期抵抗」とみなされた。下記表1の抵抗増加率は百分率で表示されている。
【0049】
試験電池が解体されることにより、試験電池の内部から正極層が回収された。XPS装置により、正極層のLPSにおける各ユニットの存在比が測定された。
【0050】
【0051】
<結果>
No.1~7においては、硫化物SEの合成後、機械的な粒度調整が実施されていない。No.1~7においては、PS4
3-ユニットの存在比が大きい。No.1~7においては、「C1/(C1+C2+C3)」が0.5を超えている。No.1~7においては、No.8~14に比して、抵抗増加率が低減している。
【0052】
No.8~14においては、硫化物SEの合成後、機械的な粒度調整が実施されている。No.8~14においては、PS4
3-ユニットの存在比が低下している。No.8~14においては、「C1/(C1+C2+C3)」が0.5以下である。No.8~14においては、No.1~7に比して、POxユニットの存在比が増加している。No.8~14においては、No.1~7に比して、P2Sxユニットの存在比も増加している。
【0053】
図3は、No.1、8における骨格構造ユニットの存在比である。グラフの縦軸においては、「C
1/(C
1+C
2+C
3)」等が百分率で表示されている。使用前(正極層の形成前)の硫化物SE粉末では、No.1およびNo.8は、いずれもPS
4
3-ユニットの存在比が50%を超えている。使用前の硫化物SE粉末では、No.1とNo.8との差異が小さい。しかし、試験電池内から回収された正極層の硫化物SEにおいては、No.1とNo.8との間に大きな差異がある。すなわち、No.1におけるPS
4
3-ユニットの存在比は、50%を超えている。No.8におけるPS
4
3-ユニットの存在比は、50%以下である。No.1におけるPO
xユニットの発生量は、No.8におけるPO
xユニットの発生量に比して少ない。前述のとおり、No.1の硫化物SEは、機械的な粒度調整が施されておらず、No.8の硫化物SEは、機械的な粒度調整が施されている。
【符号の説明】
【0054】
100 第1電池、110,210 第1電極層、111,211 第1集電体、120,220 第2電極層、121,221 第2集電体、130,230 セパレータ層、150 第1発電要素、200 第2電池、231 第3集電体、231a 第1主面、231b 第2主面、250 第2発電要素。