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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-02-03
(45)【発行日】2026-02-13
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/025 20190101AFI20260204BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20260204BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20260204BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20260204BHJP
   H01M 8/124 20160101ALI20260204BHJP
   H01M 8/126 20160101ALI20260204BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20260204BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20260204BHJP
   C25B 13/07 20210101ALI20260204BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20260204BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20260204BHJP
   G01N 27/41 20060101ALI20260204BHJP
【FI】
B32B7/025
H01M8/12 101
H01M4/92
H01M4/86 T
H01M8/124
H01M8/126
C25B9/23
C25B13/04 301
C25B13/07
C25B11/052
C25B11/081
G01N27/41 325Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022072658
(22)【出願日】2022-04-26
(65)【公開番号】P2022170723
(43)【公開日】2022-11-10
【審査請求日】2025-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2021075706
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 憲剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
(72)【発明者】
【氏名】末松 昂一
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/203219(WO,A1)
【文献】特開2021-025103(JP,A)
【文献】特開2019-008914(JP,A)
【文献】国際公開第2008/038365(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H01M 4/00- 4/98
H01M 8/00- 8/2495
C25B 1/00-15/08
G01N 27/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、該固体電解質層の一面側に配されたカソードと、該固体電解質層の他面側に配されたアノードと、該固体電解質層と該カソードとの間に配された中間層とを備えた積層体であって、
前記中間層を構成する材料が、
蛍石構造を有し、
ランタンと、サマリウム、ガドリニウム、イットリウム、エルビウム、イッテルビウム及びジスプロシウムから選ばれる一種又は二種以上の希土類元素Lnと、酸化セリウムとを含み、
Ceに対するLnの原子比であるLn/Ceの値が0.001以上0.08以下であり、且つ
600℃の温度条件下、前記カソードと前記アノードとの間に1.0×10以上1.0×10V/m以下の電界を印加したときに、格子体積が、電界を印加していない場合に比べて0.3%以上2.0%以下の範囲で増加する、積層体。
【請求項2】
前記希土類元素Lnがサマリウム又はガドリニウムである、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記中間層を構成する材料の格子定数が、600℃の温度条件下、前記カソードと前記アノードとの間に電界を印加していない状態で、5.50Å以上5.60Å以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記固体電解質層が酸化物イオン伝導体である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
前記固体電解質層が、式(1):A9.3+x[T6.0-y]O26.0+z(式中、Aは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素である。Tは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。Mは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Y、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素である。xは、-1.4以上1.5以下の数である。yは、0.0以上3.0以下の数である。zは、-5.0以上5.2以下の数である。Tのモル数に対するAのモル数の比率は1.3以上3.7以下である。)で表される複合酸化物を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項6】
eに対するLaの原子比であるLa/Ceの値が0.3以上1.2以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項7】
eに対するLnの原子比であるLn/Ceの値が0.02以上0.06以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項8】
前記固体電解質層の酸素透過速度が、600℃の温度条件下で、3.1ml・cm-2・min-1以上6.0ml・cm-2・min-1以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項9】
前記カソード及び/又は前記アノードを構成する材料が、Pt、Pd、Au、Ir、Ru、Rh及びAgからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項10】
前記固体電解質層と前記アノードとの間に配された中間層を更に備える、請求項1又は2に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質を有する積層体に関する。本発明の積層体は、そのイオン伝導性を利用した様々な分野に利用される。
【背景技術】
【0002】
酸化物イオン伝導性の固体電解質が種々知られている。かかる固体電解質は、例えば酸素透過素子、燃料電池の電解質、及びガスセンサなどとして様々な分野で用いられている。特に、自然災害や感染症パンデミックのような緊急事態に備え、オンサイトで高濃度の酸素を供給できる酸素濃縮器の必要性が高まっている。そのためには固体電解質と電極接合体との間での酸化物イオン伝導性をより一層向上させ、デバイスを高性能化させることが必要となる。例えば特許文献1及び2には、アパタイト型酸化物を電解質として有する電解質・電極接合体が記載されている。電解質としては、単結晶又はc軸配向した、LaSi1.5X+12で表されるランタンとシリコンとの複合酸化物が用いられる。電極としては、白金、並びにLaSr1-XCoFe1-Yαや、BaSr1-XCoFe1-Yαや、SmSr1-XCoOαで表される酸化物セラミックスが用いられる。電極と電解質との間には中間層が設けられている。中間層は、サマリウム、イットリウム、ガドリニウム又はランタンが固溶した酸化セリウムが用いられる。
【0003】
特許文献3及び4には、積層体における固体電解質とアノード又はカソードとの間に中間層を配置する技術が記載されている。中間層としては、特許文献3では、ランタンと、希土類金属(ただしランタン及びセリウムを除く。)とを含む酸化セリウムからなることが記載されている。特許文献4では、サマリウム、イットリウム、ガドリニウム及びランタンからなる群より選択される一種又は二種以上の元素を含む酸化セリウム、あるいは、酸化ビスマス又はビスマス、ランタン、ガドリニウム若しくはイットリウムとの複合酸化物からなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-176675号公報
【文献】米国特許出願公開第2010/0285391号明細書
【文献】国際公開第2019/203219号パンフレット
【文献】国際公開第2019/235383号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1ないし4に記載のとおり、酸化物イオン伝導性の固体電解質を利用したデバイスは種々提案されているものの、デバイス全体としての酸化物イオン伝導性を一層高めたいという要求がある。特に、特許文献3及び4に記載のとおり、積層体における固体電解質と電極との間での酸化物イオンの授受を円滑に行うためには中間層の酸化物イオン伝導性を更に高めることが必要である。
【0006】
したがって本発明の課題は、固体電解質を備えたデバイスの酸化物イオン伝導性を一層向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決すべく本発明者は鋭意検討したところ、固体電解質と電極との間に、電界の印加に対して特定の挙動を示す中間層を配置した積層体は、デバイス全体としてのイオン伝導性が高まることを知見した。特に、積層体のカソード側に配置された中間層がイオン伝導性の向上に大きく寄与していることが判明した。
【0008】
本発明は前記の知見に基づきなされたものであり、固体電解質層と、該固体電解質層の一面側に配されたカソードと、該固体電解質層の他面側に配されたアノードと、該固体電解質層と該カソードとの間に配された中間層とを備えた積層体であって、
前記中間層を構成する材料は、600℃の温度条件下、前記カソードと前記アノードとの間に1.0×10V/m以上1.0×10V/m以下の電界を印加したときに、格子体積が、電界を印加していない場合に比べて0.3%以上2.0%以下の範囲で増加する、積層体を提供することにより前記の課題を解決したものである。なお、本明細書において、上記範囲のいずれかの電界強度条件で測定された格子体積の増加率が上記範囲内であれば、請求項1の権利範囲に属するものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固体電解質を備えたデバイスのイオン伝導性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の積層体の一実施形態を示す厚み方向に沿う断面の模式図である。
図2図2は、実施例2で得られた積層体のカソード側中間層における電流密度と格子定数との関係を示すグラフである。
図3図3は、実施例2及び比較例2で得られた積層体について測定された印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
図4図4は、実施例2で得られた積層体における電流密度と酸素透過速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には本発明の積層体の一実施形態が示されている。同図に示す積層体10は固体電解質層11を備えている。固体電解質層11はイオン伝導性を有する材料からなる。特に固体電解質層11は、所定の温度以上で酸化物イオン伝導性を有する材料からなることが好ましい。
固体電解質層11は、2つの電極、すなわちカソード12とアノード13との間に位置している。カソード12及びアノード13は、例えば、固体電解質層11を挟んで対向する位置に配置されていることが好ましい。
カソード12は、直流電源(図示せず)の負極に電気的に接続可能になっている。一方、アノード13は、直流電源(図示せず)の正極に電気的に接続可能になっている。したがってカソード12とアノード13との間には直流電圧が印加されるようになっている。
【0012】
カソード12と固体電解質層11との間には、カソード側中間層15が配置されている。図1においては、カソード12とカソード側中間層15とが異なるサイズで示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えばカソード12とカソード側中間層15とは同じサイズであってもよい。また、図1においては、カソード側中間層15のサイズと固体電解質層11のサイズとが同じに示されているが、両者の大小関係はこれに限られず、例えば固体電解質層11とカソード側中間層15とが異なるサイズであってもよい。
更に、本実施形態においては、アノード13と固体電解質層11との間に、アノード側中間層(図示せず)を設けてもよい。すなわち、固体電解質層11の両面側に、いずれも中間層と電極とが形成されていてもよい。
【0013】
図1に示すとおり、カソード側中間層15は、カソード12及び固体電解質層11と直接に接している。したがって、カソード側中間層15とカソード12との間には何らの層も介在していない。また、カソード側中間層15は固体電解質層11とも直接に接しており、両者間には何らの層も介在していない。アノード13と固体電解質層11との間に任意のアノード側中間層を設ける場合も同様であり、アノード側中間層は固体電解質層11及びアノード13と直接に接している。
【0014】
カソード側中間層15は、積層体10における固体電解質層11とカソード12との間のイオン伝導性、特に酸化物イオン伝導性を向上させる目的で用いられる。酸化物イオン伝導性に関して言えば、積層体10における電気抵抗を低減させるためには、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性を高めることが重要である。しかし、酸化物イオン伝導性の高い材料を用いて固体電解質層11を構成した場合であっても、該固体電解質層11とカソード12との間の酸化物イオン伝導性が低い場合には、積層体10全体としての酸化物イオン伝導性を高めることに限界がある。この点に関して本発明者が鋭意検討した結果、固体電解質層11とカソード12との間に、電界の印加に対して特定の挙動を示すカソード側中間層15を配置することで、積層体10全体としての酸化物イオン伝導性が高まることを知見した。具体的には、本発明においては、カソード側中間層15を構成する材料として、電界を印加することで格子体積が増加する材料を用いている。以下、固体電解質層11並びにカソード側中間層15について説明する。
【0015】
固体電解質層11は、酸化物イオンがキャリアとなる酸化物イオン伝導体であることが好ましい。固体電解質層11を構成する固体電解質としては単結晶又は多結晶の材料が用いられる。固体電解質層11を構成する材料として、ランタンの酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる点から好ましい。ランタンの酸化物としては、例えばランタン及びガリウムを含む複合酸化物や、該複合酸化物にストロンチウム、マグネシウム又はコバルトなどを添加した複合酸化物、ランタン及びモリブデンを含む複合酸化物などが挙げられる。特に、酸化物イオン伝導性が高いことから、ランタン及びケイ素の複合酸化物からなる酸化物イオン伝導性材料を用いることが好ましい。
【0016】
ランタン及びケイ素の複合酸化物としては、例えばランタン及びケイ素を含むアパタイト型複合酸化物が挙げられる。アパタイト型複合酸化物としては、三価元素であるランタンと、四価元素であるケイ素と、Oとを含有し、その組成がLaSi1.5x+12(Xは8以上10以下の数を表す。)で表されるものが、酸化物イオン伝導性が高い点から好ましい。このアパタイト型複合酸化物を固体電解質層11として用いる場合には、c軸を固体電解質層11の厚み方向と一致させることが好ましい。このアパタイト型複合酸化物の最も好ましい組成は、La9.3Si26である。この複合酸化物は、例えば特開2013-51101号公報に記載の方法に従い製造することができる。
【0017】
固体電解質層11を構成する材料の別の例として、式(1):A9.3+x[T6.0-y]O26.0+zで表される複合酸化物が挙げられる。この複合酸化物もアパタイト型構造を有するものである。式中のAは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。式中のTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。式中のMは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Y、Zr、Ta、Nb、B、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。c軸配向性を高める観点から、MはB、Ge及びZnからなる群から選ばれる一種又は二種以上の元素であることが好ましく、B及びZnのうちの少なくとも一種の元素であることが更に好ましく、Bであることが一層好ましい。
【0018】
式(1)中のxは、配向度及び酸化物イオン伝導性を高める観点から、-1.4以上1.5以下であることが好ましく、0.0以上0.7以下であることが更に好ましく、0.4以上0.6以下であることが一層好ましい。式中のyは、アパタイト型結晶格子におけるT元素位置を埋める観点から、0.0以上3.0以下であることが好ましく、0.4以上2.0以下であることが更に好ましく、0.4以上1.0以下であることが一層好ましい。式中のzは、アパタイト型結晶格子内での電気的中性を保つという観点から、-5.0以上5.2以下であることが好ましく、-2.0以上1.5以下であることが更に好ましく、-1.0以上1.0以下であることが一層好ましい。
【0019】
前記式中、Tのモル数に対するAのモル数の比率、言い換えれば前記式における(9.3+x)/(6.0-y)は、アパタイト型結晶格子における空間的な占有率を保つ観点から、1.3以上3.7以下であることが好ましく、1.4以上3.0以下であることが更に好ましく、1.5以上2.0以下であることが一層好ましい。なお、式(1):A9.3+x[T6.0-y]O26.0+zにおいて、TとMがともにGeのみを含む場合には、前記式(9.3+x)/(6.0-y)においては、y=0であるものとする。
【0020】
前記式で表される複合酸化物のうち、Aがランタンである複合酸化物、すなわちLa9.3+x[T6.0-y]O26.0+zで表される複合酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる観点から好ましい。La9.3+x[T6.0-y]O26.0+zで表される複合酸化物の具体例としては、La9.3+x(Si4.71.3)O26.0+z、La9.3+x(Si4.7Ge1.3)O26.0+z、La9.3+x(Si4.7Zn1.3)O26.0+z、La9.3+x(Si4.71.3)O26.0+z、La9.3+x(Si4.7Sn1.3)O26.0+x、La9.3+x(Ge4.71.3)O26.0+zなどを挙げることができる。前記式で表される複合酸化物は、例えば国際公開WO2016/111110に記載の方法に従い製造することができる。
【0021】
また、固体電解質層11を構成する材料の更に別の例として、イットリウム安定化ジルコニア(以下「YSZ」という。)、サマリウムドープセリア(以下「SDC」という。)、ガドリニウムドープセリア(以下「GDC」という。)、ランタンガレート及びイットリウムドープ酸化ビスマス(以下「YBO」という。)からなる群から選択される少なくとも1種であることも好ましい。
【0022】
YSZとしては、ジルコニウム(Zr)とイットリウム(Y)の合計モル数に対するイットリウムのモル数の割合(Y/(Zr+Y))が0.05以上0.15以下であるものを用いることが好ましい。SDCとしては、セリウム(Ce)とサマリウム(Sm)の合計モル数に対する、サマリウムのモル数の割合(Sm/(Ce+Sm))が0.10以上0.25以下であるものを用いることが好ましい。GDCとしては、セリウム(Ce)とガドリニウム(Gd)の合計モル数に対するガドリニウムのモル数の割合(Gd/(Ce+Gd))が0.10以上0.25以下であるものを用いることが好ましい。YBOとしては、ビスマス(Bi)とイットリウム(Y)の合計モル数に対するイットリウムのモル数の割合(Y/(Bi+Y))が0.10以上0.30以下含むものを用いることが好ましい。
【0023】
固体電解質層11の厚みは、積層体10の電気抵抗を効果的に低下させる観点から、10nm以上1000μm以下であることが好ましく、50nm以上700μm以下であることが更に好ましく、100nm以上500μm以下であることが一層好ましい。この固体電解質層11の厚みは、例えば触針式段差計や電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0024】
次にカソード側中間層15について説明する。カソード側中間層15は、上述のとおり、固体電解質層11とカソード12との間の酸化物イオン伝導性を向上させる目的で用いられる。本発明者の検討の結果、カソード側中間層15を構成する材料として、該材料に電界を印加することでその格子体積が増加するものを用いると、酸化物イオン伝導性が向上することが判明した。格子体積の増加は、格子定数の増加に起因している。つまり、カソード側中間層15を構成する材料は、これに電界を印加することで格子定数が増加し、そのことに起因して酸化物イオン伝導性が向上すると考えられる。
【0025】
格子体積は600℃の温度条件下で測定される。詳細には、積層体10を600℃の大気雰囲気下に置き、該積層体10のカソード12を直流電源のマイナスに接続し且つアノード13を直流電源のプラスに接続して、1.0×10V/m以上1.0×10V/m以下の電界を印加した状態で、好ましくは、1.1×10V/m以上3.0×10V/m以下、更に好ましくは、1.5×10V/m以上2.1×10V/m以下の電界を印加した状態で高温X線回折測定を行い、カソード側中間層15を構成する材料の格子定数を測定する。測定された格子定数の値に基づき格子体積Vを算出する。また、積層体10を600℃の大気雰囲気下に置き、該積層体10に電界を印加しない状態で高温X線回折測定を行い、カソード側中間層15を構成する材料の格子定数を測定する。測定された格子定数の値に基づき格子体積Vを算出する。そして、電界を印加した状態での格子体積Vが、電界を印加していない場合の格子体積Vに比べてどの程度増加したかを、体積増加率を尺度として評価する。体積増加率(%)は((V―V)/V)×100で定義される。この体積増加率が0.3%以上である材料から構成されるカソード側中間層15を備えた積層体10はその全体としての酸化物イオン伝導性が高いものとなる。この利点を一層顕著なものとする観点から、体積増加率は0.5%以上であることが好ましく、0.7%以上であることが更に好ましい。
なお、電界の値は、カソード12とアノード13との間に印加した直流電圧をVDC(V)とし、カソード側中間層15の厚みをT(m)としたとき、VDC/Tで定義される。
体積増加率の上限値に関しては、カソード側中間層15を構成する材料の結晶構造を維持して、積層体10全体としての酸化物イオン伝導性と積層界面を維持する観点から、2.0%以下であることが好ましく、1.9%以下であることが更に好ましく、1.8%以下であることが一層好ましい。
以上のことを勘案すると、カソード側中間層15を構成する材料の体積増加率は、0.3%以上2.0%以下であり、0.5%以上1.9%以下であることが好ましく、0.7%以上1.8%以下であることが更に好ましい。
【0026】
なお、前記の体積増加率の値は、前記の電界の範囲のうちのいずれかで満足していればよく、前記の電界の範囲のすべてにおいて前記の体積増加率を満たしていることを要しない。
【0027】
上述した体積増加率を達成させる観点から、カソード側中間層15を構成する材料として、蛍石構造の結晶構造を有するものを用いることが好ましい。
また、カソード側中間層15を構成する材料は、前記の結晶構造を有することに加えて、希土類元素を含むことも、上述した体積増加率を達成させる観点から好ましい。特にカソード側中間層15を構成する材料は、ランタンと、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く。以下「Ln」ともいう。)と、を含む酸化セリウム(以下「La-LnDC」ともいう。)から構成されていることが好ましい。
【0028】
La-LnDCにおいては、母材である酸化セリウム(CeO)に、ランタン及びセリウム以外の希土類元素が固溶(ドープ)した形で含まれている。ドープ元素である希土類元素は、通常、酸化セリウムの結晶格子中において、セリウムが位置するサイトを置換した形で該サイトに存在している。ランタンはこの酸化セリウムの固溶体の中に含まれる形で存在している。すなわちランタンは、酸化セリウムの結晶格子中において、セリウムが位置するサイトを置換した形で該サイトに存在し得るか、あるいは希土類元素がドープされた酸化セリウムの結晶粒界に存在し得る。
【0029】
La-LnDCにおいて、酸化セリウムにドープされる希土類元素としては、例えばサマリウム、ガドリニウム、イットリウム、エルビウム、イッテルビウム、ジスプロシウムなどが挙げられる。これらの希土類元素は一種を単独で用いてもよく、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。特にカソード側中間層15は、ランタンと、サマリウム又はガドリニウムと、を含む酸化セリウムを含んで構成されることが、積層体10全体の酸化物イオン伝導性を一層高め得る点から好ましい。
【0030】
La-LnDCにおいて、ランタンは、積層体10全体の酸化物イオン伝導性を向上させる目的で含有される。この目的のために、La-LnDCにおける、Ceに対するLaの原子比であるLa/Ceの値が0.3以上1.2以下であることが、電界を印加したときのカソード側中間層15の格子体積が変化しやすく、積層体10全体としての酸化物イオン伝導性が高まることから好ましい。この効果を一層高めるために、La-LnDCにおけるLa/Ceの値は0.35以上1.18以下であることがより好ましく、0.40以上1.15以下であることが更に好ましく、0.45以上1.13以下であることが更に一層好ましく、0.50以上1.10以下であることが特に好ましい。
【0031】
前記のLa/Ceの値は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)などによって測定される。また、希土類元素が酸化セリウム中に固溶していることは、X線回折法によって確認できる。
【0032】
また、カソード側中間層15を構成するLa-LnDCにおいて、ドープ元素であるLnの量が増加するほどLa-LnDCの格子定数が小さくなる傾向にある。La-LnDCの格子定数が小さくなることは、上述した体積増加率の向上の妨げになる場合がある。そこで本発明においては、希土類元素に対するセリウムの原子比であるLn/Ceの値を0.001以上0.10未満とすることが好ましく、0.01以上0.08以下とすることが更に好ましく、0.02以上0.06以下とすることが一層好ましい。上述したLa/Ceの値とLn/Ceの値の両方を制御することで、上述した体積増加率を一層容易に達成できる。その結果、積層体10全体としての酸化物イオン伝導性を更に一層向上させることが可能になる。Ln/Ceの値は、La/Ceの値と同様に、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)などによって測定される。
【0033】
カソード側中間層15の厚みは、一定以上の厚みがあれば、固体電解質層11とカソード12との間の酸化物イオン伝導性を効果的に向上させ得ることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、カソード側中間層15の厚みは、1nm以上400nm以下であることが好ましく、5nm以上350nm以下であることが更に好ましい。カソード側中間層15の厚みは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0034】
カソード側中間層15の格子体積の体積変化率は上述のとおりであるところ、格子定数に関しては、カソード側中間層15を構成する材料が蛍石型の立方晶である場合、600℃の温度条件下、カソード12とアノード13との間に電界を印加していない状態で、格子定数Lが5.50Å以上5.60Å以下であることが好ましく、5.501Å以上5.599Å以下であることが更に好ましく、5.502Å以上5.598Å以下であることが更に一層好ましい。
一方、600℃の温度条件下、カソード12とアノード13との間に1.0×10V/m以上2.0×10V/m以下の電界を印加した状態での格子定数Lの増加の程度は、積層体10の酸化物イオン伝導性を一層高める観点から、格子定数増加率((L―L)/L)×100で表して、0.1%以上1.0%以下であることが好ましく、0.11%以上0.8%以下であることが更に好ましく、0.12%以上0.5%以下であることが一層好ましい。
【0035】
次に、カソード12及びアノード13について説明する。カソード12及びアノード13は、例えば金属材料、又は酸化物イオン伝導性と電子伝導性とを有する混合伝導酸化物から構成することができる。カソード12及びアノード13が金属材料から構成されている場合、該金属材料としては、触媒活性が高い等の利点があることから、白金族の元素、金又は銀を含んで構成されることが好ましい。白金族の元素としては、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウム及びオスミウムが挙げられる。これらの元素は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、カソード12及びアノード13として、それぞれ独立に、白金族の元素と酸化物イオン伝導性を有する酸化物とを含んだサーメットを用いることもできる。
【0036】
一方、カソード12又はアノード13のいずれかが酸化物イオン伝導性と電子伝導性とを有する混合伝導酸化物から構成されている場合、該混合伝導酸化物としては、ABO3-δで表されるペロブスカイト構造を有するものが好適に用いられる。式中、Aはアルカリ土類金属元素を表す。Bは遷移金属元素を表し、例えばTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta及びWである。δは、A、B及びOの価数及び量に起因して生じる端数である。ABO3-δで表されるペロブスカイト構造を有する酸化物は種々知られており、そのような酸化物が種々の結晶系、例えば立方晶、正方晶、菱面体晶及び斜方晶などを有することが知られている。これらの結晶系のうち、立方晶ペロブスカイト構造を有するABO3-δ型の酸化物をカソード12及び/又はアノード13として用いることが好ましい。かかる酸化物からなるカソード12及び/又はアノード13と、上述の材料からなるカソード側中間層15とから積層体10を構成することで、該積層体10全体としての酸化物イオン伝導性を一層高めることができる。
【0037】
カソード12及びアノード13は、所定の厚みを有すれば、積層体10全体としての酸化物イオン伝導性を一層効果的に高め得ることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、カソード12及びアノード13の厚みはそれぞれ独立に100nm以上であることが好ましく、500nm以上であることが更に好ましく、1000nm以上30000nm以下であることが更に好ましい。カソード12及びアノード13の厚みは触針式段差計や電子顕微鏡によって測定することができる。
【0038】
なお、図1に示す実施形態の積層体10がアノード側中間層を有する場合、該アノード側中間層についての詳細は、上述したカソード側中間層15に関する説明が適宜適用される。積層体10にアノード側中間層を設けることは本発明において妨げられないが、アノード側中間層を設けることは本発明の目的を達成する上で必須ではない。
【0039】
以上の構成を有する積層体10は、カソード側中間層15における酸化物イオン伝導性が高いことに起因して、積層体10全体としての酸素透過速度が高い値を示す。具体的には、積層体10の酸素透過速度は、600℃の温度条件下で、3.1ml・cm-2・min-1以上6.0ml・cm-2・min-1以下であることが好ましく、3.2ml・cm-2・min-1以上5.5ml・cm-2・min-1以下であることが更に好ましく、3.3ml・cm-2・min-1以上5.2ml・cm-2・min-1以下であることが一層好ましい。酸素透過速度の測定方法は後述する実施例において説明する。
【0040】
図1に示す実施形態の積層体10は、例えば以下に述べる方法で好適に製造することができる。まず、公知の方法で固体電解質層11を製造する。製造には、例えば先に述べた特開2013-51101号公報や国際公開WO2016/111110に記載の方法を採用することができる。
【0041】
次いで固体電解質層11の一面側に、カソード側中間層15を形成する。カソード側中間層15の形成には例えばスパッタリングを用いることができる。スパッタリングに用いられるターゲットは例えば次の方法で製造することができる。すなわち、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)の酸化物の粉末及び酸化セリウムの粉末を、乳鉢や、ボールミル等の攪拌機を使用して混合し、酸素含有雰囲気下で焼成し原料粉を得る。この原料粉をターゲットの形状に成形し、ホットプレス焼結する。焼結条件は、温度1000℃以上1400℃以下、圧力20MPa以上35MPa以下、時間60分以上180分以下とすることができる。雰囲気は、窒素ガスや希ガス等の不活性ガス雰囲気とすることができる。このようにして得られたスパッタリングターゲットは、希土類元素(ただしランタン及びセリウムを除く)がドープされた酸化セリウム(以下「LnDC」ともいう。)から構成されている。なお、スパッタリングターゲットの製造方法は、この製造方法に限定されるものではなく、例えばターゲット形状の成形体を大気中又は酸素含有雰囲気下で焼成してもよい。また、固体電解質層11の他面側に、アノード側中間層を形成する場合であっても上記と同様に製造することができる。
【0042】
このようにして得られたターゲットを用い、例えば高周波スパッタリング法によって固体電解質層11の一面にスパッタリング層を形成する。基板の温度を予め300~500℃の範囲内に昇温し、該温度を保持しながらスパッタリングしてもよい。スパッタリング層はLnDCから構成されている。カソード側中間層15に加えてアノード側中間層も形成する場合には、固体電解質層11の各面にスパッタリング層を形成すればよい。
【0043】
スパッタリングの完了後に、スパッタリング層をアニーリングする。アニーリングは、固体電解質層11に含まれているランタンを、熱によってスパッタリング層に拡散させて、該スパッタリング層を構成するLnDCにランタンを含有させる目的で行われる。この目的のために、アニーリングの条件は、温度1300℃以上1600℃以下、時間10分以上120分以下、より好ましくは温度1400℃以上1600℃以下、時間10分以上90分以下、とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。その他の成膜方法として、例えばアトミックレイヤデポジション、イオンプレーティング、パルスレーザデポジション、めっき法、化学気相成膜法などを用いることができる。
【0044】
上述のアニーリングによってランタンを含有するLnDC(La-LnDC)から構成されるカソード側中間層が得られる。次いでカソード12及びアノード13をそれぞれ形成する。カソード12及び/又はアノード13が金属電極である場合には、該金属電極の形成に例えば白金族の金属の粒子を含むペーストを用いることができる。該ペーストをカソード側中間層15及び固体電解質層11の他面側の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成することで多孔質体からなる金属のカソード12及びアノード13が形成される。焼成条件は、温度600℃以上900℃以下、時間30分以上120分以下とすることができる。雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気とすることができる。
【0045】
一方、カソード12及び/又はアノード13が酸化物イオン伝導性を有する酸化物である場合、例えば上述したABO3-δで表される立方晶ペロブスカイト構造を有する酸化物である場合には、該酸化物の粉末を含むスラリーを、中間層の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を焼成する方法を採用することができる。前記のスラリーは、例えばα-テルピネオールにエチルセルロースを溶解させたバインダーに、前記酸化物の粉末を加え濃度を調整することで得られる。スラリーにおける酸化物の粉末の濃度は例えば10質量%以上40質量%以下とすることができる。このスラリーを塗布して形成される塗膜の焼成条件は、例えば大気等の酸素含有雰囲気や、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気を採用することができる。焼成温度は、700℃以上1200℃以下であることが好ましく、800℃以上1100℃以下であることが更に好ましく、900℃以上1000℃以下であることが一層好ましい。焼成時間は、1時間以上10時間以下であることが好ましく、3時間以上8時間以下であることが更に好ましく、5時間以上7時間以下であることが一層好ましい。
【0046】
以上の方法で目的とする積層体10が得られる。このようにして得られた積層体10は、その高い酸化物イオン伝導性を利用して例えば酸素透過素子、ガスセンサ又は固体電解質形電解セル(SOEC)などとして好適に用いられる。積層体10をどのような用途に用いる場合にも、酸素ガスの還元反応が起こる極であるカソード12側のカソード側中間層15として、La-LnDCを用いることが有利である。積層体10の使用時に、カソード12とアノード13との間に電界を印加することで、カソード側中間層15の格子体積が変化する。それに伴い、酸化物イオン伝導性が向上し、600℃以下の低温でも高性能のデバイスを作製することができる。例えば積層体10を酸素透過素子として使用する場合には、カソード12を直流電源の負極に接続するとともに、アノード13を直流電源の正極に接続して、カソード12とアノード13との間に所定の直流電圧を印加する。それによって、カソード12側において酸素が電子を受け取り酸化物イオンが生成する。生成した酸化物イオンは固体電解質層11中を移動してアノード13に達する。アノード13に達した酸化物イオンは電子を放出して酸素ガスとなる。このような反応によって、固体電解質層11は、カソード12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じてアノード13側に透過させることが可能になっている。
【0047】
印加する電界は、酸素ガスの透過量を高める観点から、1.0×10V/m以上1.0×10V/m以下であり、特に1.1×10V/m以上3.0×10V/m以下に設定することが好ましく、1.5×10V/m以上2.1×10V/m以下に設定することが更に好ましい。カソード12とアノード13との間に電界を印加するときには、固体電解質層11の酸化物イオン伝導性が十分に高くなっていることが好ましい。例えば酸化物イオン伝導性が、伝導率で表して1.0×10-3S/cm以上になっていることが好ましい。この目的のために固体電解質層11を所定温度に保持することが好ましい。この保持温度は、固体電解質層11の材質にもよるが、一般に300℃以上600℃以下の範囲に設定することが好ましい。この条件下で積層体10を使用することで、カソード12側の雰囲気中に含まれる酸素ガスを、固体電解質層11を通じてアノード13側に透過させることができる。
【0048】
積層体10を限界電流式酸素センサとして使用する場合には、カソード12側で生成した酸化物イオンが、固体電解質層11を経由してアノード13側に移動することに起因して電流が生じる。電流値はカソード12側の酸素ガス濃度に依存するので、電流値を測定することで、カソード12側の酸素ガス濃度を測定することができる。
【実施例
【0049】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0050】
〔実施例1〕
本実施例では、以下の(1)-(4)の工程に従い図1に示す積層体10を製造した。
(1)固体電解質層11の製造
Laの粉体とSiOの粉体とをモル比で1:1となるように配合し、エタノールを加えてボールミルで混合した。この混合物を乾燥させ、乳鉢で粉砕し、白金るつぼを使用して大気雰囲気下に1650℃で3時間にわたり焼成した。この焼成物にエタノールを加え、遊星ボールミルで粉砕して焼成粉を得た。この焼成粉を、20mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形した。更に600MPaで1分間冷間等方圧加圧(CIP)を行ってペレットを成形した。このペレット状成形体を、大気中、1600℃で3時間にわたり加熱してペレット状焼結体を得た。この焼結体をX線回折測定及び化学分析に付したところ、LaSiOの構造であることが確認された。
【0051】
得られたペレット800mgと、B粉末140mgとを、蓋付き匣鉢内に入れて、電気炉を用い、大気中にて1550℃(炉内雰囲気温度)で50時間にわたり加熱した。この加熱によって、匣鉢内にB蒸気を発生させるとともにB蒸気とペレットとを反応させ、目的とする固体電解質層11を得た。この固体電解質層11は、La9.3+x[Si6.0-y]O26.0+zにおいて、x=0.50、y=1.17、z=0.16であり、LaとBのモル比は8.43であった(以下、この化合物を「LSBO」と略称する。)。600℃におけるLSBOの酸化物イオン伝導率は3.5×10-2S/cmであった。固体電解質層11の厚みは350μmであった。
【0052】
(2)カソード側中間層15の製造
Sm0.2Ce1.8の粉体を、50mmφの成形器に入れて一方向から加圧して一軸成形し、引き続きホットプレス焼結を行った。焼結の条件は、窒素ガス雰囲気、圧力30MPa、温度1200℃、3時間とした。このようにしてスパッタリング用のターゲットを得た。このターゲットを用いて高周波スパッタリング法によって、LSBOからなる固体電解質層11の一面側にスパッタリングを行い、サマリウムがドープされた酸化セリウム(以下「SDC」ともいう。)のスパッタリング層を形成した。スパッタリングの条件は、RF出力が30W、アルゴンガスの圧力が0.8Paであった。スパッタリング後、大気中、1500℃にて1時間のアニーリングを行い、LSBO中に含まれるランタンをスパッタリング層に熱拡散させてSDCにランタンを含有させた。このようにしてランタンを含むSDC(以下「La-SDC」ともいう。)からなるカソード側中間層15を製造した。カソード側中間層15の厚みは300nmであった。エネルギー分散型X線分光法(EDS)による定量分析の結果、カソード側中間層15におけるLa/Ceの原子比(at%)は1.0であり、Sm/Ceの原子比(at%)は0.04であった。
【0053】
(3)カソード12及びアノード13の製造
カソード側中間層15及び固体電解質層11の他面側の表面に、DCスパッタリングで100nmの白金膜を成膜後、白金ペーストを塗布して塗膜を形成した。これらの塗膜を大気雰囲気下に900℃で1時間焼成して、白金からなるカソード12及びアノード13を得た。カソード12及びアノード13の厚みはいずれも20000nmであった。このようにして積層体10を製造した。
【0054】
〔実施例2〕
La/Ceの原子比及びSm/Ceの原子比が以下の表1に示す値となるようにカソード側中間層15を形成した。これ以外は実施例1と同様にして積層体10を得た。
【0055】
〔実施例3〕
厚みが以下の表1に示す値となるようにカソード側中間層15を形成した。これ以外は実施例1と同様にして積層体10を得た。
【0056】
〔実施例4〕
厚みが以下の表1に示す値となるようにカソード側中間層15を形成した。これ以外は実施例1と同様にして積層体10を得た。
【0057】
〔比較例1〕
実施例1において、(2)の工程でのアニーリングを、1300℃にて1時間行った。これ以外は実施例1と同様にして積層体10を得た。カソード側中間層15におけるLa/Ceの原子比及びSm/Ceの原子比は以下の表1に示すとおりである。
【0058】
〔比較例2〕
本比較例ではカソード側中間層15を形成しなかった。これ以外は実施例1と同様にして積層体を得た。
【0059】
〔評価1〕
実施例1ないし3並びに比較例1及び2で得られた積層体について、X線回折測定を行い、結晶構造を特定した。
また、高温X線回折測定を行うことにより600℃での格子定数を測定した。
X線回折測定装置としてRigaku製Smart Labを用いた。高温ユニットを用い、サンプル温度が600℃となるように設定した。高温ユニットの遮熱シールドとしてはグラファイトドームを用いた。カソード12とアノード13に白金ワイヤーを白金ペーストで固定し、ポテンショスタットに接続した。カソード12とアノード13との間に直流電圧0.5Vから4.7Vまでの直流電圧を印加した。
X線回折測定の条件は、線源Cu Kα1線(λ=1.5418Å)、管電圧40kV、管電流30mA、走査方法2θ/θ、測定範囲2θ=15°~80°、サンプリング幅=0.02°、走査速度20°/分、コリメータφ0.2mm、1測定/0.5Vとした。
以上と同様の測定を、電界を印加しない状態でも行った。そして、電界を印加しない状態及び1.5×10V/m~2.1×10V/mの電界を印加した状態におけるLa-SDCの格子定数をXRDパターンの4ピーク(111、200、220、311反射)から精密化した。更に、格子定数の値に基づき格子体積及び体積変化率を算出した。
格子定数は、解析ソフトウエアRigaku製PDXL2を用いて求めた。
これらの結果を表1に示す。
【0060】
〔評価2〕
実施例2及び比較例2で得られた積層体について、大気雰囲気下、0.5Vから6.5Vまで直流電圧を印加し電流密度を測定した。実施例2及び比較例2では600℃で測定した。実施例2について、電流密度と格子定数との関係をグラフにしたものを図2に示す。実施例2及び比較例について、印加電圧と電流密度との関係をグラフにしたものを図3に示す。
【0061】
〔評価3〕
実施例1ないし4並びに比較例1及び2で得られた積層体について、酸素透過速度を測定した。
測定は600℃(すべての実施例及び比較例)及び500℃(実施例1のみ)で行った。積層体のカソード側に空気を供給するとともに、アノード側に窒素ガスを供給した。供給量はいずれも200ml/minとした。更に、カソードとアノードとの間に0.5Vから8.5Vの直流電圧を印加した。
アノード13側に酸素濃度計を取り付け、電圧印加前後でのアノード側の雰囲気中の酸素ガス濃度の変化を測定し、酸素透過速度(ml・cm-2・min-1)を算出した。結果を表1に示す。更に、実施例2について、酸素透過速度の測定結果と、図3に示すグラフとを元に、酸素透過速度と電流密度との関係を図4に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた積層体は、比較例1及び2に比べて、高温(600℃)において高い酸素透過速度が得られることが分かる。また、実施例1においては、低温(500℃)でも高い酸素透過速度が得られている。つまり、実施例1ないし4において、積層体は全体としての酸化物イオン伝導性が高く、積層体における電気抵抗が低減されていることが分かる。つまり、本発明の積層体を用いると、600℃又はそれよりも低温であっても高い性能のデバイスを得ることができる。
【0064】
図2から、積層体10全体に伝導する酸化物イオン(つまり電流密度値)と、La-SDCの格子定数との間に相関があることが分かる。具体的には、電流密度値が高くなるほど、格子定数も大きくなる傾向を示した。
【0065】
更に図3から、600℃での酸素透過速度の測定結果において、比較例2よりも、実施例2の方が高いことが分かる。また、図4に示すとおり、ファラデー則における電流密度と酸素透過速度の理論値に近い値が、実施例2で得られていることが分かる。
以上の結果から、図3に示す電界強度に対する電流密度の挙動は、積層体の酸化物イオン伝導の挙動を反映していることが分かる。
【符号の説明】
【0066】
10 積層体
11 固体電解質層
12 カソード
13 アノード
15 カソード側中間層
図1
図2
図3
図4