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  • -抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-02-10
(45)【発行日】2026-02-19
(54)【発明の名称】抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20260212BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20260212BHJP
   A61K 8/27 20060101ALI20260212BHJP
   A61K 8/29 20060101ALI20260212BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20260212BHJP
   A61K 31/4015 20060101ALI20260212BHJP
   A61K 31/525 20060101ALI20260212BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20260212BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20260212BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20260212BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20260212BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20260212BHJP
【FI】
A61K8/49
A61K8/67
A61K8/27
A61K8/29
A61Q19/00
A61K31/4015
A61K31/525
A61K33/30
A61K33/06
A61P17/00
A61P17/18
A61P39/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021574722
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003381
(87)【国際公開番号】W WO2021153780
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2020015642
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 和之
(72)【発明者】
【氏名】ジレ, レノ
(72)【発明者】
【氏名】マッカーシー, ビアンカ
(72)【発明者】
【氏名】金丸 哲也
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0005369(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第105055251(CN,A)
【文献】特開2006-282593(JP,A)
【文献】国際公開第2018/004006(WO,A1)
【文献】特開2017-122075(JP,A)
【文献】国際公開第2017/142057(WO,A1)
【文献】特開2009-209093(JP,A)
【文献】特開2006-316065(JP,A)
【文献】特表2018-512064(JP,A)
【文献】特表2016-500052(JP,A)
【文献】特開2020-183356(JP,A)
【文献】特開2017-036277(JP,A)
【文献】特開平05-117127(JP,A)
【文献】特表2010-533689(JP,A)
【文献】特開2017-155062(JP,A)
【文献】特開2019-167330(JP,A)
【文献】特開2000-219607(JP,A)
【文献】堺化学工業株式会社, 光る新化粧品原料 無機蛍光粉末Lumate(登録商標)シリーズ,FRAGRANCE JOURNAL,2015年7月,p.62-63
【文献】加藤敏光,スピルリナ青色素の利用、特に、冷菓及び飲料関係,New Food Industry,1987年,Vol.29, No.3,pp.17-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A23L 5/00- 5/49
A61K 31/00-33/44
A61K 36/00-36/9068
A61K 38/00-38/58
A61K 45/00-45/08
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/KOSMET/BIOSIS/FSTA(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長変換物質を有効成分として含有する、波長変換物質による出射光誘導性の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤であって、
前記波長変換物質は、入射光に含まれる紫外線の波長を変換して前記紫外線の波長よりも長い波長の出射光を放出し、
前記波長変換物質はc-フィコシアニン、リボフラビン、酸化亜鉛蛍光体、又はチタン酸マグネシウム蛍光体である、抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤を対象の皮膚に塗布すること;および
前記抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤を塗布後の皮膚に紫外線を含む光を浴びせること;を含む、
対象の皮膚において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制するための美容方法。
【請求項3】
請求項1に記載の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤に紫外線を含む光を通過させること;および
前記通過光を対象の皮膚に浴びせること;を含む、
対象の皮膚において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制するための美容方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,波長変換物質を含有する抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤,かかる抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤を含有する組成物および製品,並びにそれらを用いた皮膚において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線による皮膚に対する弊害としては,例えば,皮膚癌,光老化,しみ,しわ,炎症といった悪影響があり,健康や美容の観点からも好ましくない。
【0003】
よって,紫外線から肌を防御するための方策が数多く取られている。例えば,日焼け止め剤の使用や,日光に当たらないような屋内での活動,UVカット加工された帽子や衣類,紫外線カットフィルムの使用などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6424656号公報
【文献】特許第6361416号公報
【文献】国際公開第2018/004006号
【文献】特開2018-131422号公報
【文献】特開平5-117127号公報
【文献】特許第4048420号公報
【文献】特許第4677250号公報
【文献】特許第3303942号公報
【文献】特開2017-88719号公報
【文献】国際公開第2018/117117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は,紫外線の波長の変調を利用した新規な抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは,紫外線を皮膚に対し有用に利用できるよう鋭意研究を行った。その結果,紫外線の波長を変換する波長変換物質を介して皮膚細胞に紫外線が照射されると,酸化ストレス関連タンパク質の発現が変化することを見出し,波長変換物質を含有する抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤に想到した。
【0007】
本願は,以下の発明を提供する。
(1)波長変換物質を有効成分として含有する抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤であって,
前記波長変換物質は,入射光に含まれる紫外線の波長を変換して前記紫外線の波長よりも長い波長の出射光を放出する,抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤。
(2)前記紫外線は,200nm~400nmにピーク波長を有する,(1)に記載の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤。
(3)前記出射光は,450nm~700nmにピーク波長を有する,(1)又は(2)に記載の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤。
(4)前記波長変換物質は,アロフィコシアニン,C-フィコシアニン,R-フィコシアニン,フィコエリスロシアニン,B-フィコエリスリン,b-フィコエリスリン,C-フィコエリスリン,およびR-フィコエリスリンから選択される1種又は複数種のフィコビリ蛋白;酸化亜鉛蛍光体,チタン酸マグネシウム蛍光体,およびリン酸カルシウム蛍光体から選択される1種又は複数種の無機蛍光体;ビタミンA,βカロテン,ビタミンK,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,葉酸,ナイアシン,リコピン,クチナシ,ベニバナ,ウコン,コチニール,シソ,赤キャベツ,フラボノイド,カロテノイド,キノイド,ポルフィリン類,アントシアニン類,およびポリフェノール類から選択される1種又は複数種の成分;並びに/あるいは,赤色401号,赤色227号,赤色504号,赤色218号,橙色205号P,黄色4号,黄色5号,緑色201号,ピラニンコンク,青色1号,塩酸2,4-ジアミノフェノキシエタノール,アリズリンパープルSS,紫色401号,黒色401号,へリンドンピンク,黄色401号,ベンチジンエローG,青色404号,赤色104号,およびメタアミノフェノールから選択される1種又は複数種の色素を含む,(1)~(3)のいずれか1項に記載の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤。
(5)前記波長変換物質は,アロフィコシアニン,C-フィコシアニン,R-フィコシアニン,フィコエリスロシアニン,B-フィコエリスリン,b-フィコエリスリン,C-フィコエリスリン,およびR-フィコエリスリンから選択される1種又は複数種のフィコビリ蛋白;酸化亜鉛蛍光体,チタン酸マグネシウム蛍光体,およびリン酸カルシウム蛍光体から選択される1種又は複数種の無機蛍光体;並びに/あるいは,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,およびビタミンB12から選択される1種又は複数種のビタミンBを含む,(4)に記載の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤。
(6)(1)~(5)のいずれか1項に記載の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤を含有する組成物。
(7)前記組成物は皮膚外用組成物であり,皮膚に紫外線を含む光を浴びせることにより皮膚において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制するためのものである,(6)に記載の組成物。
(8)(6)又は(7)に記載の組成物を対象の皮膚に塗布すること;および
前記組成物を塗布後の皮膚に紫外線を含む光を浴びせること;を含む,
対象の皮膚において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制するための美容方法。
(9)(1)~(5)のいずれか1項に記載の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤を含有する製品。
(10)前記製品は,紫外線を含む光を該製品に通過させた後の光を皮膚に浴びせることにより皮膚において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制するためのものである,(9)に記載の製品。
(11)(9)又は(10)に記載の製品に紫外線を含む光を通過させること;および
前記通過光を対象の皮膚に浴びせること;を含む,
対象の皮膚において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制するための美容方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は,紫外線を有効活用して皮膚細胞において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制することができる。これにより,皮膚に好ましい作用を与えるという知見に基づいている。また,本発明は,従来,主に色素,顔料,紫外線散乱剤,紫外線吸収剤,栄養成分,抗酸化剤,等として利用されていた上述の化合物に新たな用途を提供する。さらに,本発明は,これまで美容や健康上の理由よりなるべく紫外線を避けていた者であっても積極的に外出する気分になれるといった生活の質の向上にもつながることもある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は,実験1の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤は,波長変換物質を有効成分として含有する。波長変換物質とは,入射光に含まれる紫外線の波長を変換して前記紫外線の波長よりも長い波長の出射光を放出する物質を指す。
【0011】
紫外線は,UVA,UVB,UVC等を含んでもよい。ある実施形態では,紫外線は,200nm~400nmにピークの波長を有する光である。また,例えば太陽光といった入射光に紫外線が含まれていてもよい。あるいは,入射光が紫外線であってもよく,人工的に生成された紫外線を用いてもよい。紫外線は皮膚に対して様々な作用を及ぼしうる。一例として,紫外線は,サンバーンやサンタンといった日焼けを引き起こすことや,活性酸素種の生成や細胞にDNAのダメージを引き起こすことが知られている。
【0012】
波長変換物質により放出される出射光は,紫外線よりも波長が長く,好ましくは500nm~700nmにピーク波長を有する。出射光は,例えば,限定されないものの,450nm,460nm,470nm,480nm,490nm,500nm,510nm,520nm,530nm,540nm,550nm,560nm,570nm,580nm,590nm,600nm,610nm,620nm,630nm,640nm,650nm,660nm,670nm,680nm,690nm,700nm,あるいはこれらの数値の任意の範囲内に1又は複数のピークを有してもよいし,あるいは,赤色光,橙色光,緑色光,青色光等であってもよい。ある実施形態では,波長変換物質は,200nm~400nmの励起光で励起した際に発する光の主波長が450nm~700nm,一例として500nm~700nmを示す。
【0013】
波長変換物質の例として,以下の成分が挙げられる:アロフィコシアニン,C-フィコシアニン,R-フィコシアニン,フィコエリスロシアニン,B-フィコエリスリン,b-フィコエリスリン,C-フィコエリスリン,R-フィコエリスリンなどのフィコビリ蛋白;ビタミンA,βカロテン,ビタミンK,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,葉酸,ナイアシン,リコピン,クチナシ,ベニバナ,ウコン,コチニール,シソ,赤キャベツ,フラボノイド,カロテノイド,キノイド,ポルフィリン類,アントシアニン類,ポリフェノール類などの天然由来又は合成成分;赤色401号,赤色227号,赤色504号,赤色218号,橙色205号P,黄色4号,黄色5号,緑色201号,ピラニンコンク,青色1号,塩酸2,4-ジアミノフェノキシエタノール,アリズリンパープルSS,紫色401号,黒色401号,へリンドンピンク,黄色401号,ベンチジンエローG,青色404号,赤色104号,メタアミノフェノールなどの色素;無機化合物にドープし蛍光を持たせた蛍光体,例えば,特許第6424656号に記載の非晶質シリカ粒子と,セリウムと,リン及び/又はマグネシウムとを含む青色蛍光体および特許第6361416号に記載のアルカリ土類金属硫化物とガリウム化合物との混晶物にユーロピウムを賦活した化合物を含む赤色蛍光体,国際公開第2018/004006号に記載の酸化亜鉛蛍光体,特開2018-131422号に記載の酸化亜鉛蛍光体;特開平5-117127号に記載の無機蛍光体;等が挙げられる。ある実施形態では,無機蛍光体は,ZnO:Zn,Zn1+z,ZnO1-xのように表すことができる酸化亜鉛を国際公開第2018/004006号に記載の,例えば硫化亜鉛,硫酸亜鉛等の硫化塩及び/又は硫酸塩といった硫黄含有化合物でドープした蛍光体,MgTiO3,Mg2TiO4といったチタン酸マグネシウムをマンガンでドープしたチタン酸マグネシウム蛍光体,及びCa(H2PO4)2,CaHPO4,Ca3(PO4)2といったリン酸カルシウムをセリウムでドープしたリン酸カルシウム蛍光体から選択される1種又は複数種の蛍光体である。
【0014】
波長変換物質は,動物,植物,藻類等の天然物から抽出などの方法により得ても,化学的な合成といった人工的な方法により得てもよい。例えば,フィコビリ蛋白は,スピルリナ(Spirulina platensis)などの藍藻類,チノリモ(Porphyridium purpureum)などの紅藻類といった藻類を,例えば特許第4048420号,特許第4677250号,特許第3303942号等に記載の方法で抽出することにより調製してもよい。酸化亜鉛蛍光体は,例えば国際公開第2018/004006号,特開2018-131422号,特開平5-117127号に記載の方法により製造してもよい。チタン酸マグネシウム蛍光体は,特開2017-88719号に記載の方法により製造してもよい。リン酸カルシウム蛍光体は,国際公開第2018/117117号に記載の方法により製造してもよい。
【0015】
これらの波長変換物質は,本発明の波長変換効果を損なわない限り,上で例示した成分から構成されてもよく,含まれていてもよく,単体で使用しても複数種を混合してもよい。例えば,上記フィコビリ蛋白や無機物蛍光体に他の波長変換物質,例えば,ビタミンB(ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12等)を混合し相乗的な効果を目指してもよい。しかしながら,これらの成分は例示であり本発明の波長変換効果を奏するいかなる物質も使用可能である。
【0016】
また,本発明の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤,組成物又は製品における波長変換物質の含有量は本発明の波長変換効果を損なわない限り特に限定されず,波長変換物質の種類や抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤又は組成物の用途により適宜決定できる。例えば,0.01~99.99重量%,0.1%~999重量%等の範囲内で任意である。
【0017】
皮膚ストレスとは,皮膚,特に表皮及び真皮における細胞が受けている酸化ストレスをいう。通常,皮膚の細胞は活性酸素種(ROS)によりダメージを受け,炎症や皮膚バリア機能の低下を引き起こす。したがって,皮膚ストレスの高い状態とは,活性酸素種により皮膚細胞がダメージを蓄積している状態をいう。活性酸素種は,細胞の電子伝達系の異常反応や,紫外線照射により生じる。本発明の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤に紫外線が照射されると出射光が生じ,出射光は皮膚細胞において酸化ストレス関連タンパク質の発現を変化させることで,抗酸化作用及び/又は皮膚ストレス抑制作用が発揮される。酸化ストレス関連タンパク質として,AhR,AhRR,CYP1B1,及びHMOX1等が挙げられる。抗酸化作用及び/又は皮膚ストレス抑制作用は,紫外線により誘発された酸化ストレス及び/又は皮膚ストレスの抑制作用であってもよいし,紫外線以外の原因で誘発された酸化ストレス及び/又は皮膚ストレスの抑制作用であってもよい。本発明の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤は,任意の対象に使用することができるが,屋外などで紫外線にさらされる対象や,酸化ストレス及び/又は皮膚ストレスを受けている対象に適用されてもよい。
【0018】
芳香族炭化水素受容体(AhR)は,bHLH-PAS(Basic Helix-Loop-Helix-Per-Arnt-Sim)ファミリーに属する転写因子である。AhRは,ダイオキシンなどの芳香族炭化水素がリガンドとなり活性化され核内に移行し,転写因子として機能する一方で,UVによって活性化されることも知られている。活性化されることで,薬物代謝酵素であるCYP1や,グルタチオンS-トランスフェラーゼ-Yサブユニットなど,異物代謝に関わる酵素群の発現を増加させるとともに,ROS蓄積に関わる経路を活性化する。ROS蓄積により,酸化ストレスが生じ,炎症性サイトカインが産生するとともに,酸化的DNA損傷が生じる。
【0019】
芳香族炭化水素受容体リプレッサー(AHRR)は,AhRの作用を抑制するリプレッサーとして機能する。AHRRの発現が増大することでAhRの活性が抑制され,それにより,薬物代謝経路及びROS蓄積経路が抑制される。
【0020】
チトクロームP4501B1(CYP1B1)は,チトクロームP450スーパーファミリーに属する酵素であり,多環芳香族炭化水素などの薬物代謝に関わる酵素である。UV照射によりケラチノサイトで発現が増大する。また,AHRにより活性化され,酸化ストレス経路を誘導する。
【0021】
ヘムオキシゲナーゼ1(HMOX1)は,ヘム代謝の初動ステップに関与する酵素である。HMOX1は,ヘムをビリベルジンへと分解する。ヘムは,生命活動に必須な補欠分子族であるが,タンパク質から遊離したヘムは活性酸素を生じる有害な分子となる。したがって,HMOX1の活性化は,酸化ストレスの低下及び抗炎症に寄与する。HOMX1はUV照射などの酸化ストレスにより誘導される。
【0022】
本発明の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤および組成物の投与形態は任意であるが,皮膚に紫外線を含む光を浴びせることにより皮膚において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制させるために医薬品,医薬部外品,化粧品等の皮膚外用剤が好ましい場合がある。本発明の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤又は組成物を皮膚外用剤として使用する場合,剤型,塗布法,投与回数等は任意に決定できる。例えば,化粧水,スプレー,オイル,クリーム,乳液,ゲル,サンスクリーン剤,サンタン剤といった形態で,定期的又は不定期的に,例えば,朝,昼,夕方など1日1回~数回,外出,野外活動,マリンスポーツ,スキーなど日差しを浴びることが予想される前などにその都度,皮膚に塗布するものであってよい。
【0023】
また,本発明の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤および組成物は,必要に応じて,例えば,賦形剤,保存剤,増粘剤,結合剤,崩壊剤,分散剤,安定化剤,ゲル化剤,酸化防止剤,界面活性剤,保存剤,油分,粉末,水,アルコール類,増粘剤,キレート剤,シリコーン類,酸化防止剤,保湿剤,香料,各種薬効成分,防腐剤,pH調整剤,中和剤等の添加剤を任意に選択し併用することができる。さらに,本発明の効果を高めるために,他の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤等を併用してもよい。
【0024】
また,本発明は,本発明の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤を含む,皮膚において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制させるための,例えば,サンバイザー,帽子,衣類,手袋,スクリーンフィルム,窓用スプレーやクリーム,窓材,壁材といった製品も提供する。上記と同様,本発明の製品における添加剤等の使用や製品の形態等も任意である。
【0025】
また,本発明は,本発明の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤,組成物又は製品の製造方法も提供する。また,対象の皮膚において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制するための方法も提供し,ここで,該方法は,本発明の抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤又は組成物を対象の皮膚に塗布すること,および前記抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤又は組成物を塗布後の皮膚に紫外線を含む光を浴びせること;あるいは,本発明の製品に紫外線を含む光を通過させること,並びに,前記通過光を対象の皮膚に浴びせること;を含み,当該抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤,組成物および製品は,入射光に含まれる紫外線の波長を変換して前記紫外線の波長よりも長い波長の出射光を放出し,好ましくは200nm~400nmにピーク波長を有する紫外線を450nm~700nm,一例として500nm~700nmにピーク波長を有する光として通過させる。対象の皮膚において酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制するための方法は,美容を目的とするものであり医師や医療従事者が使用する治療方法ではない場合がある。また,本発明は,本発明の美容方法,抗酸化剤又は皮膚ストレス抑制剤,組成物又は製品を対象に提示することを含む,対象の美容行為を支援する美容カウンセリング方法も提供する。
【実施例
【0026】
次に実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお,本発明はこれにより限定されるものではない。
【0027】
実験1:各種波長変換物質の適用による遺伝子発現の変化
実験1-1:波長変換物質の調製
波長変換物質を以下のように調製した。
(1)C-フィコシアニン
C-フィコシアニン(C-phycocyanin:Lina Blue)は,スピルリナ(Spirulina platensis)抽出物から得られ,吸収スペクトルは350nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは640nmおよび700nmにピーク波長を有していた。
(2)リボフラビン(ビタミンB2)
リボフラビン(Riboflavin)は,ビタミンB2とも呼ばれ,吸収スペクトルは445nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは530nmにピーク波長を有していた。
(3)酸化亜鉛蛍光体
堺化学工業株式会社製のLumate Gを使用した。Lumate Gは,国際公開第2018/004006号に記載のようにZnOを硫黄含有化合物でドープ後焼成した酸化亜鉛蛍光体であり,吸収スペクトルは365nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは510nmにピーク波長を有していた。
(4)チタン酸マグネシウム蛍光体
堺化学工業株式会社製のLumate Rを使用した。Lumate Rは,MgTiO3をマンガンでドープしたチタン酸マグネシウム蛍光体であり,吸収スペクトルは365nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは660~680nmの帯域にピーク波長を有していた。
(1)~(2)の波長変換物質を水に溶解し,1%及び5%の濃度の溶液を調製した。
(3)~(4)の波長変換物質はアルコールに分散し5%及び10%の分散液を調製した。
【0028】
実験1-2:細胞試料の調製
細胞試料を以下のように調製した。
1. Normal Human Epidermal Keratinocytes PromoCell社製のヒト皮膚角化細胞を使用した。液体窒素で保存されていた細胞懸濁液(1mL)を湯浴(37℃)にかけ小さな氷ペレットが残る程度に解凍し,次いで9mLの温KGM培地で希釈した。
2. 希釈物を穏やかに混合してからT75フラスコに移し,37℃で一晩インキュベートした。
3. 翌日,培地を10mLの新鮮培地に交換した。
4. 培地を定期的に(2~3日で)交換し,細胞の増殖を継続した。その間,顕微鏡を用いて細胞を観察し,細胞が正しい形態で増殖していることを確認した。
5. 細胞が約80%のコンフルエントに達してから,細胞を継代した。
6. 細胞の継代は,10mLの温PBSで細胞を1回洗浄してから吸引することにより行った。
7. 5mLの温トリプシンをT75フラスコに加え,トリプシン溶液でフラスコの底面をカバーし1分間室温においてから吸引した。
8. 角化細胞では(最大)5分間,フラスコを37℃のオーブン内に静置した。顕微鏡を用いて細胞を観察し,細胞が小さく楕円形であることを確認した。
9. その後,T75フラスコの側面を軽く叩いて細胞を遊離させた。顕微鏡を用いて細胞を観察し,細胞が自由に動いていることを確認した。
10. 角化細胞では,5mLの温トリプシン中和溶液に再懸濁し,滅菌50mLファルコンチューブに移した。フラスコをさらに5mLの温FGMで洗い流してファルコンチューブに加えることにより確実に全ての細胞を移すようにした。
11. 細胞を10,000rpmで5分間遠心し(4℃),細胞ペレットを乱さないよう注意しながら上清を除去した。
12. 角化細胞は4×104cells/well(500μL)の濃度でKGMに再懸濁し,コラーゲン被膜ガラスボトム4ウェルチャンバースライドにに播種した。
13.培地を2~3日毎に交換し,60~70%のコンフルエント(実験の種類により異なる)に達するまで細胞を増殖させた。
14. 照射の24時間前に,サプリメント無添加の培地に変更した。
【0029】
実験1-3:紫外線の照射
1. 照射の少なくとも30分前にソーラーシミュレータの電源を入れてランプをウォームアップした。ソーラーシミュレータは,UG11フィルターを使用する設定にした。UG11フィルターは,UVBのみを通過させ他の波長光をカットするフィルターである。UG11フィルターを通過したUV光は300nm~385nmにピーク波長を有していた。
2. 温度制御プレートをオンにして33℃に設定した。
3. 実験1-2で調製した細胞を温PBSで1回洗浄した。
4. 各ウェルに0.5mLの温めたMartinez溶液(145mM NaCl, 5.5mM KCl, 1.2mM MgCl2.6H2O, 1.2mM NaH2PO4.2H2O, 7.5mM HEPES, 1mM CaCl2, 10mM D-グルコース)を加えた。
5. 図1に示すように,細胞ウェルをプレート上に載置し,更にその上に,実験1-1で調製した波長変換物質(1)~(4)を含む溶液を24ウェルプレートの各穴に0.4ml注入し,細胞入りのウェルを覆うように載置し,波長変換物質の溶液が細胞溶液と直接触れずに,UV光が波長変換物質の溶液を通過して細胞溶液に照射されるようにした。
6. 合計が100mJ/cm2の線量になるよう照射を行った。また,対照として,細胞ウェルの上に波長変換物質のプレートを載せず細胞に直接UV光を照射した試料と,細胞にUV光を照射せず暗所で培養した試料を作成した。
7. 照射後,Martinez溶液を温めたKGM(サプリメント無添加)と交換し,プレートを37℃のインキュベータに戻し,24時間インキュベートした。
【0030】
実験2:マイクロアレイ
実験2-1:RNA抽出
実験1-3で紫外線照射後24時間インキュベートされた細胞試料を500μlの温PBSで洗浄し,PBSを完全に吸引した。Qiagen RNeasy Mini Kit prep (Qiagen,74106)を製品説明書に従って用いてRNAを抽出した。
【0031】
実験2-2:マイクロアレイ
Human遺伝子発現用マイクロアレイ SurePrint G3 Human GE Microarray 8x60K Ver. 3.0(Agilent technology)を用いて,実験2-1で抽出されたRNAの解析を行った。抽出されたRNAについての標識反応,増幅反応,精製,cRNAの定量をAgilent Technology社が提供するプロトコルに従い行ってハイブリダイゼーションサンプルを調製した。マイクロアレイをAGILINT C MICROARRAY SCANNERで観察し,波長変換物質の有無により,発現が有意に低下又は増加した遺伝子を特定し下記に示した。
【表1】
【0032】
これらの結果により,波長変換物質に対してUVが照射されることで,酸化及び/又は皮膚ストレス関連タンパク質の遺伝子発現が変化することが示された。これにより,酸化及び/又は皮膚ストレスを抑制する効果が発揮される。
【0033】
以上,本発明の実施の形態について説明してきた。しかしながら,本発明はこれらに限定されるものではなく,化粧料,医薬品組成物等,発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
図1