(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-02-20
(45)【発行日】2026-03-03
(54)【発明の名称】錫系ペロブスカイト層の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10P 14/26 20260101AFI20260224BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20260224BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20260224BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20260224BHJP
H01G 9/20 20060101ALN20260224BHJP
H10K 30/50 20230101ALN20260224BHJP
【FI】
H10P14/26
B05D7/24 303B
B05D3/12 Z
B05D7/24 301B
B05D3/00 D
B05D3/00 B
H01G9/20 111C
H10K30/50
(21)【出願番号】P 2021170558
(22)【出願日】2021-10-18
【審査請求日】2024-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591209280
【氏名又は名称】株式会社フジコー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】野田 尚彦
(72)【発明者】
【氏名】林 雅博
(72)【発明者】
【氏名】野村 隆利
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 修二
(72)【発明者】
【氏名】野村 大志郎
(72)【発明者】
【氏名】廣谷 太佑
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅規
(72)【発明者】
【氏名】平見 朋之
(72)【発明者】
【氏名】久我 敬之
(72)【発明者】
【氏名】可兒 聡
(72)【発明者】
【氏名】笹原 新平
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-520086(JP,A)
【文献】国際公開第2019/182058(WO,A1)
【文献】特開2019-208011(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111808026(CN,A)
【文献】ANAYA, Miguel et al.,Optical analysis of CH3NH3SnxPb1-xI3 absorbers: a roadmap for perovskite-on-perovskite tandem solar cells,Journal of Materials Chemistry A,2016年06月29日,Vol. 4,pp. 11214-11221
【文献】PASCUAL, Jorge et al.,Origin of Sn(II) oxidation in tin halide perovskites,Materials Advances,2020年07月09日,Vol. 1,pp. 1066-1070
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10P 14/26
B05D 7/24
B05D 3/12
B05D 3/00
H01G 9/20
H10K 30/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫系ペロブスカイト層の製造方法であって、
ジメチルスルホキシド(DMSO)を含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を溶解させて第1溶液を調整する第1工程と、
前記第1工程の後に前記第1溶液を基材に塗布する第3工程と、
前記第1工程の後であり且つ前記第3工程の所定時間前に前記第1溶液にDMSOを混合する第2工程と、
を含
み、
前記第2工程において、前記第3工程の直前に前記第1溶液にDMSOを混合する、錫系ペロブスカイト層の製造方法。
【請求項2】
錫系ペロブスカイト層の製造方法であって、
ジメチルスルホキシド(DMSO)を含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を溶解させて第1溶液を調整する第1工程と、
前記第1工程の後に前記第1溶液を基材に塗布する第3工程と、
前記第1工程の後であり且つ前記第3工程の所定時間前に前記第1溶液にDMSOを混合する第2工程と、
を含
み、
前記所定時間は、2時間よりも短い、錫系ペロブスカイト層の製造方法。
【請求項3】
前記所定時間は、1時間よりも短い、請求
項2に記載の錫系ペロブスカイト層の製造方法。
【請求項4】
前記所定時間は、5分間よりも短い、請求項
2又は3に記載の錫系ペロブスカイト層の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程において、DMSOを含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を混合して撹拌することにより溶解させて前記第1溶液を調整する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の錫系ペロブスカイト層の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程において、DMSOを含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を混合して10時間以上撹拌することにより溶解させて前記第1溶液を調整する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の錫系ペロブスカイト層の製造方法。
【請求項7】
前記第1工程において、DMSOを含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を混合して24時間以上撹拌することにより溶解させて前記第1溶液を調整する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の錫系ペロブスカイト層の製造方法。
【請求項8】
前記第2工程において、前記第1溶液にDMSOを混合した後に前記第1溶液を撹拌する、請求項
5~
7のいずれか1項に記載の錫系ペロブスカイト層の製造方法。
【請求項9】
前記錫系ペロブスカイト層の一般式は、ASnX3で表され、
前記Aは、アルカリ金属イオン、ルビジウムイオン、メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、フォルムアミジウムイオン、グアニジウムイオン、及びアルキルアンモニウムイオンの少なくとも1つであり、
前記Xは、VII族元素のフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)の少なくとも1つである、請求項1~
8のいずれか1項に記載の錫系ペロブスカイト層の製造方法。
【請求項10】
ヨウ素イオン(I-)、フッ素イオン(F-)、メチルアンモニウムイオン(MA+)、ジメチルホルムアミド(DMF)として、
前記第1溶液は、溶質としてSnI2、SnF2、及びMAIを含み、溶媒としてDMFを含む溶液である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の錫系ペロブスカイト層の製造方法。
【請求項11】
ホルムアミジウムイオン(FA+)として、
前記第1溶液は、前記溶質としてさらにFAIを含む、請求項1
0に記載の錫系ペロブスカイト層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池等に用いられる錫系ペロブスカイト層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛(Pb)系ペロブスカイト層に代えて錫(Sn)系ペロブスカイト層を光吸収層に用いた太陽電池が、環境負荷の小さい太陽電池として提案されている(特許文献1参照)。しかし、錫系ペロブスカイトでは、材料中の2価の錫イオン(Sn2+)が酸化されて4価の錫イオン(Sn4+)になりやすく、これが層中の正孔密度を増加させ、太陽電池の光電変換効率を低下させる。そこで、特許文献1に記載の錫系ペロブスカイト層の製造方法では、重ハロゲン化錫を含む溶液に還元剤を添加して錫系ペロブスカイト前駆体溶液を得る工程を含み、還元剤は錫系ペロブスカイト前駆体溶液中のフッ化錫を錫に還元し、錫系ペロブスカイト前駆体溶液中の重ハロゲン化錫を錫に還元しない還元剤としている。上記製造方法によれば、Sn4+の混入とSn2+が酸化されることとを防止でき、極めて良好な太陽電池を得ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の錫系ペロブスカイト層の製造方法は、新たに還元剤を製造する必要があり、さらに還元剤の添加量を最適化する必要がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、錫系ペロブスカイト層の製造方法において、新たに還元剤を必要とせず、Sn2+がSn4+に酸化されることを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の手段は、錫系ペロブスカイト層の製造方法であって、
ジメチルスルホキシド(DMSO)を含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を溶解させて第1溶液を調整する第1工程と、
前記第1工程の後に前記第1溶液を基材に塗布する第3工程と、
前記第1工程の後であり且つ前記第3工程の所定時間前に前記第1溶液にDMSOを混合する第2工程と、
を含む。
【0007】
上記工程によれば、第1工程において、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を溶解させて第1溶液を調整する。第3工程において、前記第1工程の後に前記第1溶液を基材に塗布する。錫系ペロブスカイト層を製造する際にDMSOを混合することは、錫系ペロブスカイト層の結晶化を促進するために有効である。しかし、DMSOは2価の錫イオン(Sn2+)を酸化して4価の錫イオン(Sn4+)にし、錫系ペロブスカイト層の光電変換効率を低下させることに、本願発明者は着目した。
【0008】
そこで、第2工程において、前記第1工程の後であり且つ前記第3工程の所定時間前に前記第1溶液にDMSOを混合する。このため、第1工程においてDMSOを混合する場合と比較して、DMSOを混合する時期を遅らせることができ、DMSOによりSn2+が酸化されてSn4+になることを抑制することができる。したがって、新たに還元剤を必要とせず、Sn2+がSn4+に酸化されることを抑制することができる。しかも、錫系ペロブスカイト層を製造する際にDMSOを混合しているため、錫系ペロブスカイト層の結晶化を促進することができる。
【0009】
第2の手段では、前記所定時間は、2時間よりも短い。第3の手段では、前記所定時間は、1時間よりも短い。第4の手段では、前記所定時間は、5分間よりも短い。これらの工程によれば、DMSOを混合する時期をさらに遅らせることができ、DMSOによりSn2+が酸化されてSn4+になることをさらに抑制することができる。
【0010】
第5の手段では、前記第2工程において、前記第3工程の直前に前記第1溶液にDMSOを混合する。こうした工程によれば、DMSOを混合する時期を最も遅らせることができ、DMSOによりSn2+が酸化されてSn4+になることをさらに抑制することができる。
【0011】
具体的には、第6の手段のように、前記第1工程において、DMSOを含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を混合して撹拌することにより溶解させて前記第1溶液を調整する、といった工程を採用することができる。
【0012】
第7の手段では、前記第1工程において、DMSOを含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を混合して10時間以上撹拌することにより溶解させて前記第1溶液を調整する。こうした工程によれば、DMSOを含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を溶解させた第1溶液を、均質に近づけることができる。
【0013】
第8の手段では、前記第1工程において、DMSOを含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を混合して24時間以上撹拌することにより溶解させて前記第1溶液を調整する。こうした工程によれば、DMSOを含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を溶解させた第1溶液を、さらに均質に近づけることができる。
【0014】
第9の手段では、前記第2工程において、前記第1溶液にDMSOを混合した後に前記第1溶液を撹拌する。こうした工程によれば、第1溶液中でDMSOが偏ることを抑制することができる。
【0015】
具体的には、第10の手段のように、前記錫系ペロブスカイト層の一般式は、ASnX3で表され、前記Aは、アルカリ金属イオン、ルビジウムイオン、メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、フォルムアミジウムイオン、グアニジウムイオン、及びアルキルアンモニウムイオンの少なくとも1つであり、前記Xは、VII族元素のフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)の少なくとも1つである、といった工程を採用することができる。
【0016】
具体的には、第11の手段のように、ヨウ素イオン(I-)、フッ素イオン(F-)、メチルアンモニウムイオン(MA+)、ジメチルホルムアミド(DMF)として、前記第1溶液は、溶質としてSnI2、SnF2、及びMAIを含み、溶媒としてDMFを含む溶液である、といった工程を採用することができる。
【0017】
第12の手段では、ホルムアミジウムイオン(FA+)として、前記第1溶液は、前記溶質としてさらにFAIを含む。こうした工程によれば、錫系ペロブスカイト層の性質をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】錫系ペロブスカイト層の製造装置を示す模式図。
【
図2】溶媒としてDMSOのみを用いた比較例の撹拌時間と正孔密度との関係を示すグラフ。
【
図3】比較例の撹拌時間1時間と24時間の場合について出力電圧と電流密度との関係を示すグラフ。
【
図4】比較例の撹拌時間1時間と24時間の場合について波長に対する外部量子効率と短絡電流密度との関係を示すグラフ。
【
図5】溶媒としてDMF:DMSO=4:1を用いた比較例の撹拌時間と正孔密度との関係を示すグラフ。
【
図6】錫系ペロブスカイト層の製造装置の変更例を示す模式図。
【
図7】錫系ペロブスカイト層の製造装置の他の変更例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、錫系ペロブスカイト太陽電池で用いられる錫系ペロブスカイト層の製造装置に具現化した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1に示すように、製造装置100は、第1容器11、第1ポンプ13、第1電磁弁15、第2容器21、第2ポンプ23、第2電磁弁25、撹拌タンク30、第3ポンプ33、第3電磁弁35、バッファタンク40、第4ポンプ42、インクジェットプリンタ44等を備えている。
【0021】
第1容器11は、第1原料液L1(第1溶液)を貯留する。ジメチルホルムアミド(DMF)、錫イオン(Sn2+)、ヨウ素イオン(I-)、フッ素イオン(F-)、メチルアンモニウムイオン(MA+)として、第1原料液L1は、DMF、SnI2、SnF2、及びMAIからなり、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含んでいない。第1原料液L1は、第1容器11に貯留される前に、予め24時間(10時間以上、24時間以上)撹拌されている。
【0022】
SnI2、SnF2、及びMAIは、錫系ペロブスカイト化合物の原料に相当する。錫系ペロブスカイト化合物として、一般式ASnX3で表されるものを使用することきができる。第1原料液L1は、ペロブスカイト化合物の原料として、一般式AXと一般式SnX2とで表されるものを使用することができる。ここで、Aは、アルカリ金属イオン、ルビジウムイオン、メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、フォルムアミジウムイオン、グアニジウムイオン、及びアルキルアンモニウムイオンの少なくとも1つである。Xは、VII族元素のフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)の少なくとも1つである。
【0023】
第1原料液L1において、所望するペロブスカイト層の特性に応じて、AXとSnX2とのモル比が調整される。光吸収剤としてペロブスカイト化合物を形成する場合、AXとSnX2とのモル比は、1:10~10:1であることが好ましい。
【0024】
DMFは、DMSOを含まない溶媒に相当する。DMSOを含まない溶媒として、上記AX及びSnX2を溶解することができる限り特に制限はないが、極性溶媒が好ましい。具体的には、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、イソプロパノール、スルホラン、プロピレンカーボネート、エチルシアノアセテート、アセチルアセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタン、アニリン、ピペリジン、ピリジン、シクロオクタノン、テトラヒドロフルフリルアセテート、シクロヘキシルアセテート、シクロペンチルメチルエーテル、フェニルエチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ヒドラジン等を使用することができる。
【0025】
第1容器11には、流路12を介して第1ポンプ13が接続されている。第1ポンプ13には、流路14を介して撹拌タンク30が接続されている。流路14には、第1電磁弁15が設けられている。第1ポンプ13は、第1容器11から吸入した第1原料液L1を第1電磁弁15へ吐出する。第1電磁弁15は、第1ポンプ13により吐出された第1原料液L1を、撹拌タンク30に対して供給及び遮断する。第1ポンプ13及び第1電磁弁15は、制御部50により制御される。
【0026】
第2容器21は、第2原料液L2を貯留する。第2原料液L2は、DMSOからなる。第2容器21には、流路22を介して第2ポンプ23が接続されている。第2ポンプ23には、流路24を介して撹拌タンク30が接続されている。流路24には、第2電磁弁25が設けられている。第2ポンプ23は、第2容器21から吸入した第2原料液L2を第2電磁弁25へ吐出する。第2電磁弁25は、第2ポンプ23により吐出された第2原料液L2を、撹拌タンク30に対して供給及び遮断する。第2ポンプ23及び第2電磁弁25は、制御部50により制御される。
【0027】
撹拌タンク30は、第1電磁弁15を介して供給された第1原料液L1、及び第2電磁弁25を介して供給された第2原料液L2を貯留するとともに、貯留した原料液を撹拌する。すなわち、撹拌タンク30は、原料液を貯留するタンクとしての機能を備える。また、撹拌タンク30は、貯留した原料液を撹拌する撹拌機としての機能を備える。撹拌タンク30により原料液が撹拌されることにより、錫系ペロブスカイト化合物が溶媒に溶解した前駆体溶液L3(溶液)が調整される。撹拌タンク30は、制御部50により制御される。
【0028】
撹拌タンク30には、流路32を介して第3ポンプ33が接続されている。第3ポンプ33には、流路34を介してバッファタンク40が接続されている。流路34には、第3電磁弁35が設けられている。第3ポンプ33は、撹拌タンク30から吸入した前駆体溶液L3を第3電磁弁35へ吐出する。第3電磁弁35は、第3ポンプ33により吐出された前駆体溶液L3を、バッファタンク40に対して供給及び遮断する。第3ポンプ33及び第3電磁弁35は、制御部50により制御される。
【0029】
バッファタンク40は、第3電磁弁35を介して供給された前駆体溶液L3を貯留する。バッファタンク40の容量は、一定時間継続して前駆体溶液L4を吐出するインクジェットプリンタ44へ、安定して前駆体溶液L4を供給することができる容量に設定されている。
【0030】
バッファタンク40には、流路41を介して第4ポンプ42が接続されている。第4ポンプ42には、流路43を介してインクジェットプリンタ44が接続されている。第4ポンプ42は、バッファタンク40から吸入した前駆体溶液L4をインクジェットプリンタ44へ吐出する。第4ポンプ42は、制御部50により制御される。
【0031】
インクジェットプリンタ44(吐出部)は、バッファタンク40から供給された前駆体溶液L4を基材Sへ吐出する。すなわち、インクジェットプリンタ44は、基材Sに前駆体溶液L4を塗布する。インクジェットプリンタ44は、制御部50により制御される。基材Sは、例えば基板(ガラス基板或いはフレキシブル基板等)上に、基板側から透明導電膜、電子輸送層または正孔輸送層を積層して形成されている。なお、インクジェットプリンタ44を、スロットダイやスピンコータ、ロールコータ等に変更することもできる。
【0032】
そして、基材Sに塗布された前駆体溶液L4に貧溶媒としてのクロロベンゼンを滴下した後、ペロブスカイト層を形成するためには、塗布された前駆体溶液L4を加熱して乾燥させる(アニール工程、加熱工程)。加熱温度は、20~300℃であり、好ましくは50~170℃である。塗布された前駆体溶液L4が加熱されると、3次元構造結晶(ペロブスカイト構造)ができ始める。本実施形態では、3次元構造結晶は、MASnI3(CH3NH3SnI3)である。
【0033】
ペロブスカイト層の厚みは、低温(200℃以下)処理においても光電変換効率を向上させやすい観点から、10~5000[nm]が好ましく、100~1000[nm]がより好ましい。ペロブスカイト層の上には、さらに正孔輸送層または電子輸送層、電極が積層される。
【0034】
制御部50は、例えばCPU、ROM、RAM、入出力インターフェース等を備えるマイコンにより構成されている。制御部50は、第1ポンプ13、第1電磁弁15、第2ポンプ23、第2電磁弁25、撹拌タンク30、第3ポンプ33、第3電磁弁35、第4ポンプ42、及びインクジェットプリンタ44を制御する。
【0035】
次に、錫系ペロブスカイト層の製造方法について説明する。
【0036】
まず、図示略の撹拌装置により、第1原料液L1を24時間(10時間以上、24時間以上)撹拌させる(第1工程)。なお、撹拌装置は、制御部50により制御されてもよいし、その他の制御装置により制御されてもよいし、作業者が手動で操作してもよい。そして、撹拌された第1原料液L1を第1容器11へ供給する。
【0037】
続いて、制御部50は、第1ポンプ13により第1原料液L1を第1電磁弁15へ吐出させ、第1電磁弁15により第1原料液L1を撹拌タンク30へ供給させる。
【0038】
続いて、制御部50は、第2ポンプ23により第2原料液L2を第2電磁弁25へ吐出させ、第2電磁弁25により第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給させる。すなわち、予め撹拌されている第1原料液L1を第1電磁弁15により撹拌タンク30へ供給させた後に、第2電磁弁25により第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給させる(第2工程)。
【0039】
続いて、制御部50は、撹拌タンク30により貯留した第1原料液L1及び第2原料液L2を、例えば1分間(素早く)撹拌させる。これにより、前駆体溶液L3が調整される。
【0040】
続いて、制御部50は、第3ポンプ33により前駆体溶液L3を第3電磁弁35へ吐出させ、第3電磁弁35により前駆体溶液L3をバッファタンク40へ供給させる。すなわち、撹拌タンク30により貯留した第1原料液L1及び第2原料液L2を撹拌させた後に、第3電磁弁35により前駆体溶液L3をバッファタンク40へ供給させる。
【0041】
続いて、制御部50は、バッファタンク40に貯留された前駆体溶液L4を、第4ポンプ42によりインクジェットプリンタ44へ吐出させる。
【0042】
続いて、制御部50は、バッファタンク40から供給された前駆体溶液L4をインクジェットプリンタ44により基材Sへ吐出させる(第3工程)。ここで、制御部50は、第1原料液L1を予め撹拌した後であり、且つバッファタンク40から供給された前駆体溶液L4をインクジェットプリンタ44により基材Sへ吐出させる所定時間前に、第2電磁弁25により第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給させる。所定時間は、2時間よりも短く、望ましくは1時間よりも短く、さらに望ましくは5分間よりも短い。
【0043】
図2は、溶媒としてDMSOのみを用いた比較例の撹拌時間と正孔密度との関係を示すグラフである。
【0044】
錫系ペロブスカイト化合物を溶解させる溶媒としてDMSOのみを用いて製造した錫系ペロブスカイト層は、DMSO、SnI2、SnF2、及びMAIからなる原料液を撹拌する時間が長いほど、正孔密度が増加している。DMSOは2価の錫イオン(Sn2+)を酸化して4価の錫イオン(Sn4+)にするためである。錫系ペロブスカイト層の正孔密度が増加すると、錫系ペロブスカイト層の光電変換効率が低下する。
【0045】
図3は、比較例の撹拌時間1時間と24時間の場合について出力電圧[V]と電流密度[mA/cm2]との関係を示すグラフである。撹拌時間が24時間の場合は、撹拌時間が1時間の場合よりも、電流密度が低下している。
【0046】
図4は、比較例の撹拌時間1時間と24時間の場合について波長に対する外部量子効率(EQE)と短絡電流密度(Jsc)との関係を示すグラフである。撹拌時間が24時間の場合は、撹拌時間が1時間の場合よりも、外部量子効率(EQE)及び短絡電流密度(Jsc)が低下している。
【0047】
図5は、溶媒としてDMF:DMSO=4:1を用いた比較例の撹拌時間と正孔密度との関係を示すグラフである。
【0048】
錫系ペロブスカイト化合物を溶解させる溶媒としてDMF:DMSO=4:1を用いて製造した錫系ペロブスカイト層は、DMF、DMSO、SnI2、SnF2、及びMAIからなる原料液を撹拌する時間が長いほど、正孔密度が増加している。この場合も、DMSOは2価の錫イオン(Sn2+)を酸化して4価の錫イオン(Sn4+)にする。
【0049】
ただし、錫系ペロブスカイト層を製造する際にDMSOを混合することは、錫系ペロブスカイト層の結晶化を促進するために有効である。そこで、上記錫系ペロブスカイト層の製造方法では、Sn2+がSn4+に酸化されることを抑制するために、予め撹拌されている第1原料液L1を第1電磁弁15により撹拌タンク30へ供給させた後に、第2電磁弁25により第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給させている。さらに、第1原料液L1が予め撹拌された後であり、且つバッファタンク40から供給された前駆体溶液L4をインクジェットプリンタ44により基材Sへ吐出させる所定時間前に、第2電磁弁25により第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給させている。
【0050】
第1原料液L1と第2原料液L2とを同時に撹拌タンク30へ供給し、撹拌タンク30により24時間撹拌して製造した比較例の錫系ペロブスカイト層の光電変換効率は2.9%であった。これに対して、予め24時間撹拌した第1原料液L1を撹拌タンク30へ供給した後に、第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給し、撹拌タンク30により1分間(素早く)撹拌して製造した本実施形態の錫系ペロブスカイト層の光電変換効率は6.4%であった。したがって、第1原料液L1を撹拌さした後にDMSOを加えてから、インクジェットプリンタ44により前駆体溶液L4を吐出させるまでの時間を短くすることにより、Sn2+がSn4+に酸化されることを抑制することができる。
【0051】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0052】
・第2工程において、第1工程の後であり且つ第3工程の所定時間前に前駆体溶液L3にDMSOを混合する。詳しくは、制御部50は、予め撹拌されている第1原料液L1を第1電磁弁15により撹拌タンク30へ供給させた後であり、且つバッファタンク40から供給された前駆体溶液L4をインクジェットプリンタ44により基材Sへ吐出させる所定時間前に、第2電磁弁25により第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給させる。このため、第1工程においてDMSOを混合する場合と比較して、DMSOを混合する時期を遅らせることができ、DMSOによりSn2+が酸化されてSn4+になることを抑制することができる。したがって、新たに還元剤を必要とせず、Sn2+がSn4+に酸化されることを抑制することができる。しかも、錫系ペロブスカイト層を製造する際にDMSOを混合しているため、錫系ペロブスカイト層の結晶化を促進することができる。
【0053】
・所定時間は、2時間よりも短い。望ましくは、所定時間は、1時間よりも短い。さらに望ましくは、所定時間は、5分間よりも短い。これらの工程によれば、DMSOを混合する時期をさらに遅らせることができ、DMSOによりSn2+が酸化されてSn4+になることをさらに抑制することができる。
【0054】
・・第1工程において、DMSOを含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を混合して24時間(10時間以上、24時間以上)撹拌することにより溶解させて第1原料液L1を調整している。こうした工程によれば、DMSOを含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を溶解させた第1原料液L1を、均質に近づけることができる。
【0055】
・第2工程において、第1原料液L1にDMSOを混合した後に第1原料液L1を撹拌している。詳しくは、制御部50は、第2電磁弁25により第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給させ、撹拌タンク30により貯留した第1原料液L1及び第2原料液L2を撹拌させた後に、第3電磁弁35により前駆体溶液L3を供給させる。こうした工程によれば、前駆体溶液L3中でDMSOが偏ることを抑制することができる。
【0056】
・・第1電磁弁15は、錫系ペロブスカイト化合物がDMSOを含まない溶媒に混合された第1原料液L1を供給及び遮断する。そして、予め撹拌しておいた第1原料液L1を第1電磁弁15により供給することができる。
【0057】
・第2電磁弁25は、第2原料液L2としてのDMSOを供給及び遮断する。撹拌タンク30は、第1電磁弁15を介して供給された第1原料液L1、及び第2電磁弁25を介して供給された第2原料液L2を貯留するとともに、貯留した原料液を撹拌する。制御部50は、第1電磁弁15、第2電磁弁25、及び撹拌タンク30を制御する。このため、制御部50により、第1電磁弁15及び第2電磁弁25を制御して第1原料液L1及び第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給させ、撹拌タンク30を制御して貯留した原料液を撹拌させることができる。
【0058】
・制御部50により第1電磁弁15及び第2電磁弁25を制御することにより、第1原料液L1を撹拌タンク30へ供給する時期、及び第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給する時期を制御することができる。したがって、第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給する時期を、第1原料液L1を撹拌タンク30へ供給する時期よりも遅らせることができる。その後、撹拌タンク30を制御して貯留した第1原料液L1及び第2原料液L2を撹拌させることができる。したがって、新たに還元剤を必要とせず、Sn2+がSn4+に酸化されることを抑制することができる。しかも、錫系ペロブスカイト層を製造する際にDMSOを混合しているため、錫系ペロブスカイト層の結晶化を促進することができる。そして、撹拌タンク30から供給された前駆体溶液L3を、第3電磁弁35を介してバッファタンク40へ供給することができる。
【0059】
・バッファタンク40は、第3電磁弁35を介して供給された前駆体溶液L3を貯留する。このため、第3電磁弁35を介して供給された前駆体溶液L3をバッファタンク40に一時的に貯留しておくことができ、前駆体溶液L3をインクジェットプリンタ44へ安定して供給することができる。そして、バッファタンク40から供給された前駆体溶液L4を、制御部50はインクジェットプリンタ44により基材Sへ吐出させることができる。
【0060】
・制御部50は、第1ポンプ13により第1原料液L1を第1電磁弁15へ吐出させ、第1電磁弁15により第1原料液L1を撹拌タンク30へ供給させた後に、第2ポンプ23により第2原料液L2を第2電磁弁25へ吐出させ、第2電磁弁25により第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給させる。こうした構成によれば、第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給する時期を、第1原料液L1を撹拌タンク30へ供給する時期よりも遅らせることができる。
【0061】
・予め撹拌されている第1原料液L1を撹拌タンク30へ供給した後に、第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給することができる。このため、DMSOを含まない溶媒に錫系ペロブスカイト化合物を予め溶解させた後に、第2原料(DMSO)を加えることができる。したがって、Sn2+がSn4+に酸化されることをさらに抑制することができる。
【0062】
・撹拌タンク30により貯留した第1原料液L1及び第2原料液L2を撹拌させた後に、前駆体溶液L3を第3電磁弁35へ供給することができる。このため、後から加えたDMSOに錫系ペロブスカイト化合物を溶解させやすくなる。
【0063】
なお、上記実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0064】
・ホルムアミジウムイオン(FA+)として、第1原料液L1(前駆体溶液L3)は、溶質としてさらにFAIを含んでいてもよい。この場合に、第1原料液L1と第2原料液L2とを同時に撹拌タンク30へ供給し、撹拌タンク30により24時間撹拌して製造した比較例の錫系ペロブスカイト層の光電変換効率は4.6%であった。これに対して、予め24時間撹拌した第1原料液L1を撹拌タンク30へ供給した後に、第2原料液L2を撹拌タンク30へ供給し、撹拌タンク30により1分間(素早く)撹拌して製造した本実施形態の錫系ペロブスカイト層の光電変換効率は9.5%であった。したがって、第1原料液L1がFAIを含む場合も、第1原料液L1を撹拌した後にDMSOを加えてから、インクジェットプリンタ44により前駆体溶液L4を吐出させるまでの時間を短くすることにより、Sn2+がSn4+に酸化されることを抑制することができる。
【0065】
・第2工程において、第3工程の直前に前駆体溶液L3にDMSOを混合することもできる。こうした工程によれば、DMSOを混合する時期を最も遅らせることができ、DMSOによりSn2+が酸化されてSn4+になることをさらに抑制することができる。
【0066】
・
図6に示すように、錫系ペロブスカイト層の製造装置100において、バッファタンク40及び第4ポンプ42を省略することもできる。この場合は、撹拌タンク30の容量をバッファタンク40の容量と同等あるいはそれ以上に設定することが望ましい。
【0067】
・
図7に示すように、錫系ペロブスカイト層の製造装置100において、
図6の構成からさらに第1ポンプ13、第2ポンプ23、及び第3ポンプ33を省略することもできる。この場合は、第1容器11に貯留された第1原料液L1、第2容器21に貯留された第2原料液L2、及び撹拌タンク30に貯留された前駆体溶液L3を、それらの位置エネルギを利用して供給すればよい。
【0068】
なお、上記の各変更例を組み合わせて実施することもできる。
【符号の説明】
【0069】
11…第1容器、21…第2容器、30…撹拌タンク、40…バッファタンク、44…インクジェットプリンタ(吐出部)、50…制御部、100…製造装置。