(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-02-25
(45)【発行日】2026-03-05
(54)【発明の名称】被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20260226BHJP
C23C 16/30 20060101ALI20260226BHJP
C23C 16/36 20060101ALI20260226BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20260226BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C16/30
C23C16/36
C23C16/40
(21)【出願番号】P 2024103830
(22)【出願日】2024-06-27
【審査請求日】2025-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】範 滄宇
(72)【発明者】
【氏名】城地 司
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-082049(JP,A)
【文献】特許第5884138(JP,B2)
【文献】特開2014-124754(JP,A)
【文献】特開平11-140647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 5/16
B23P 15/28
C23C 16/30 - 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、
前記被覆層は、前記基材側から被覆層の表面側に向かって、下部層、中間層及び上部層をこの順に含み、
前記下部層が、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を含み、
前記中間層が、α型の酸化アルミニウムからなるα-Al
2O
3層を含み、
前記上部層が、Ti炭窒化物からなるTiCN層を含み、
前記被覆層全体の平均厚さが、8.5μm以上30.0μm以下であり、
前記上部層の平均厚さが、1.0μm以上6.0μm以下であり、
前記上部層のTiCN層において、下記式(i)及び式(ii)で表される条件を満たし、
30≦RSA≦70 (i)
(式(i)中、RSAは、前記基材の表面と平行な方向の前記上部層のTiCN層の断面において、該断面全体の面積の合計を100面積%とした場合、前記TiCN層の断面の法線と、TiCN層の粒子の(422)面の法線とがなす角度(単位:度)である方位差Aが0度以上15度未満である領域Aの断面積の合計の割合(単位:面積%)である。)
20≦RSB≦60 (ii)
(式(ii)中、RSBは、前記基材の表面と平行な方向の前記上部層のTiCN層の断面において、該断面全体の面積の合計を100面積%とした場合、前記TiCN層の断面の法線と、TiCN層の粒子の(220)面の法線とがなす角度(単位:度)である方位差Bが0度以上15度未満である領域Bの断面積の合計の割合(単位:面積%)である。)
前記上部層のTiCN層において、前記領域Bの平均径が、5.0μm未満である、被覆切削工具。
【請求項2】
前記上部層のTiCN層において、前記領域Bの平均径が、1.0μm以上である、請求項1に記載の被覆切削工具。
【請求項3】
前記上部層のTiCN層において、前記領域Aの平均径が、5.0μm以上30.0μm以下である、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
【請求項4】
前記上部層のTiCN層において、粒子の平均粒径が、0.3μm以上1.2μm以下である、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
【請求項5】
前記中間層において、下記式(iii)で表されるα-Al
2O
3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)が、5.0以上8.9以下である、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
【数1】
(式(iii)中、I(h,k,l)は、中間層に含まれるα-Al
2O
3層の(h,k,l)面を測定したX線回折によるピーク強度であり、I
0(h,k,l)は、JCPDSカード番号10-0173によるα型酸化アルミニウムの(h,k,l)面の標準回折強度であり、(h,k,l)は、(0,1,2)、(1,0,4)、(1,1,3)、(0,2,4)、(1,1,6)、(2,1,4)、(3,0,0)、(0,2,10)及び(0,0,12)の9の結晶面を指す。)
【請求項6】
前記中間層の平均厚さが、3.0μm以上15.0μm以下である、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
【請求項7】
前記下部層の平均厚さが、3.0μm以上15.0μm以下である、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
【請求項8】
前記基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス又は立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超硬合金からなる基材の表面に化学蒸着法により3~20μmの総膜厚で被覆層を蒸着形成してなる被覆切削工具が、鋼や鋳鉄等の切削加工に用いられていることは、よく知られている。上記の被覆層としては、例えば、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物及び炭窒酸化物並びに酸化アルミニウム(Al2O3)からなる群より選ばれる1種の単層又は2種以上の複層からなる被覆層が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、基体の表面に、TiCN層を少なくとも1層含む多層からなる被覆層を設けた表面被覆部材であって、前記TiCN層のうちの最も上層に位置する上層TiCN層が、TiCN粒状結晶からなるとともに、X線回折測定において(422)ピークが最強である表面被覆部材が記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、硬質合金表面に被覆層を設けた被覆硬質合金において、前記被覆層は、硬質合金側から順に内側層、中間層及び外側層を具え、この内側層は、周期律表IVa、Va、VIa族の炭化物、窒化物、ホウ化物、酸化物及びそれらの固溶体から選択された1種以上の層を含み、前記中間層は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム及びそれらの固溶体から選択された1種以上の層を含み、前記外側層は、柱状組織を有する炭窒化チタン層を含む、周期律表IVa、Va、VIa族の炭化物、窒化物、ホウ化物、酸化物及びそれらの固溶体ならびに酸化アルミニウムから選択された1種以上の層とを含み、前記被覆硬質合金の断面組織において中間層の表層部の最大粗さAmaxと外側層中における柱状組織を有する炭窒化チタン層の表層部の最大粗さBmaxとの関係が式1を満たすことを特徴とする被覆硬質合金が記載されている。
(Bmax/Amax)<1 …式1
(ただし、0.5μm<Amax<4.5μm 0.5μm≦Bmax≦4.5μm)
また、特許文献2において、被覆硬質合金の断面組織において中間層の表層部の粗さの最大値Amaxと外側層中の柱状組織を有する炭窒化チタン層の表層部の粗さBmaxとの関係が式2を満たすことが記載されている。
(Bmax/Amax)<0.8 …式2
また、特許文献2において、前記外側層における柱状組織の炭窒化チタン層の式3に示す配向性指数TCが、(220)面、(311)面、(331)面、(422)面のうちいずれかの面で最も大きく、その最大値が1.3以上3.5以下であることが記載されている。
【数1】
I(hkl)、I(h
xk
yl
z):測定された(hkl)、(h
xk
yl
z)面の回折強度
Io(hkl)、Io(h
xk
yl
z):ASTM標準による(hkl)、(h
xk
yl
z)面のTiCとTiNの粉末回折強度の平均値
(hkl)、(h
xk
yl
z):(111)、(200)、(220)、(311)、(331)、(420)、(422)、(511)の8面
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-188626号公報
【文献】国際公開第2000/079022号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の切削加工では、高速化、高送り化及び深切り込み化がより顕著となり、従来よりも工具の耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性を向上させることが求められている。特に、近年、鋼の高速切削等、被覆切削工具に負荷が作用するような切削加工が増えており、かかる過酷な切削条件下において、従来の工具では耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性が十分でなく、工具寿命を長くできない。特許文献1に記載の表面被覆部材は、被覆層において、最も上層に位置する上層TiCN層が(422)ピークが最強となるTiCN層であるため耐摩耗性に優れる一方で粒子が脱落しやすく、耐チッピング性及び耐欠損性に改善の余地がある。また、特許文献2に記載の被覆硬質合金は、外側層におけるTiCN層(炭窒化チタン層)の(220)面に配向した粒子の分散状態が考慮されていないため、耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性に改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性を有することによって、工具寿命を延長することができる被覆切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の観点から、被覆切削工具の工具寿命の延長について研究を重ねた結果、特定の構成にすると、耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性を向上させることができ、その結果、工具寿命を延長することが可能になるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
〔1〕
基材と、該基材の表面に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、
前記被覆層は、前記基材側から被覆層の表面側に向かって、下部層、中間層及び上部層をこの順に含み、
前記下部層が、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を含み、
前記中間層が、α型の酸化アルミニウムからなるα-Al
2O
3層を含み、
前記上部層が、Ti炭窒化物からなるTiCN層を含み、
前記被覆層全体の平均厚さが、8.5μm以上30.0μm以下であり、
前記上部層の平均厚さが、1.0μm以上6.0μm以下であり、
前記上部層のTiCN層において、下記式(i)及び式(ii)で表される条件を満たし、
30≦RSA≦70 (i)
(式(i)中、RSAは、前記基材の表面と平行な方向の前記上部層のTiCN層の断面において、該断面全体の面積の合計を100面積%とした場合、前記TiCN層の断面の法線と、TiCN層の粒子の(422)面の法線とがなす角度(単位:度)である方位差Aが0度以上15度未満である領域Aの断面積の合計の割合(単位:面積%)である。)
20≦RSB≦60 (ii)
(式(ii)中、RSBは、前記基材の表面と平行な方向の前記上部層のTiCN層の断面において、該断面全体の面積の合計を100面積%とした場合、前記TiCN層の断面の法線と、TiCN層の粒子の(220)面の法線とがなす角度(単位:度)である方位差Bが0度以上15度未満である領域Bの断面積の合計の割合(単位:面積%)である。)
前記上部層のTiCN層において、前記領域Bの平均径が、5.0μm未満である、被覆切削工具。
〔2〕
前記上部層のTiCN層において、前記領域Bの平均径が、1.0μm以上である、〔1〕に記載の被覆切削工具。
〔3〕
前記上部層のTiCN層において、前記領域Aの平均径が、5.0μm以上30.0μm以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の被覆切削工具。
〔4〕
前記上部層のTiCN層において、粒子の平均粒径が、0.3μm以上1.2μm以下である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の被覆切削工具。
〔5〕
前記中間層において、下記式(iii)で表されるα-Al
2O
3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)が、5.0以上8.9以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の被覆切削工具。
【数2】
(式(iii)中、I(h,k,l)は、中間層に含まれるα-Al
2O
3層の(h,k,l)面を測定したX線回折によるピーク強度であり、I
0(h,k,l)は、JCPDSカード番号10-0173によるα型酸化アルミニウムの(h,k,l)面の標準回折強度であり、(h,k,l)は、(0,1,2)、(1,0,4)、(1,1,3)、(0,2,4)、(1,1,6)、(2,1,4)、(3,0,0)、(0,2,10)及び(0,0,12)の9の結晶面を指す。)
〔6〕
前記中間層の平均厚さが、3.0μm以上15.0μm以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の被覆切削工具。
〔7〕
前記下部層の平均厚さが、3.0μm以上15.0μm以下である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の被覆切削工具。
〔8〕
前記基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス又は立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の被覆切削工具。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被覆切削工具は、優れた耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性を有することによって工具寿命を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の被覆切削工具の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0013】
本実施形態の被覆切削工具は、基材と、該基材の表面に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、被覆層は、基材側から被覆層の表面側に向かって、下部層、中間層及び上部層をこの順に含み、下部層が、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を含み、中間層が、α型の酸化アルミニウムからなるα-Al2O3層を含み、上部層が、Ti炭窒化物からなるTiCN層を含み、被覆層全体の平均厚さが、8.5μm以上30.0μm以下であり、上部層の平均厚さが、1.0μm以上6.0μm以下であり、上部層のTiCN層において、下記式(i)及び式(ii)で表される条件を満たし、
30≦RSA≦70 (i)
(式(i)中、RSAは、基材の表面と平行な方向の上部層のTiCN層の断面において、該断面全体の面積の合計を100面積%とした場合、TiCN層の断面の法線と、TiCN層の粒子の(422)面の法線とがなす角度(単位:度)である方位差Aが0度以上15度未満である領域Aの断面積の合計の割合(単位:面積%)である。)
20≦RSB≦60 (ii)
(式(ii)中、RSBは、基材の表面と平行な方向の上部層のTiCN層の断面において、該断面全体の面積の合計を100面積%とした場合、TiCN層の断面の法線と、TiCN層の粒子の(220)面の法線とがなす角度(単位:度)である方位差Bが0度以上15度未満である領域Bの断面積の合計の割合(単位:面積%)である。)
上部層のTiCN層において、領域Bの平均径が、5.0μm未満である。
【0014】
本実施形態の被覆切削工具は、上記の構成を備えることにより、耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性を向上させることができ、その結果、工具寿命を延長することができる。本実施形態の被覆切削工具の耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性が向上する要因は、以下のように考えられる。ただし、本発明は、以下の要因により何ら限定されない。すなわち、まず、本実施形態の被覆切削工具は、被覆層の下部層として、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を含有する。本実施形態の被覆切削工具は、基材とα型の酸化アルミニウムからなるα-Al2O3層を含有する中間層との間に、このような下部層を備えると、耐摩耗性及び密着性が向上する。また、本実施形態の被覆切削工具は、上部層がTi炭窒化物からなるTiCN層を含有することにより、硬さが高くなるため、耐摩耗性が向上する。また、本実施形態の被覆切削工具は、被覆層全体の平均厚さが8.5μm以上であることにより、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態の被覆切削工具は、被覆層全体の平均厚さが30.0μm以下であることにより、被覆層の密着性が向上するため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。また、本実施形態の被覆切削工具は、上部層の平均厚さが1.0μm以上であることにより、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態の被覆切削工具は、上部層の平均厚さが6.0μm以下であることにより、被覆層の密着性が向上するため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。また、本実施形態の被覆切削工具は、RSAが30面積%以上であることにより、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態の被覆切削工具は、RSAが70面積%以下であることにより、粒子の脱落が抑制されるため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。また、本実施形態の被覆切削工具は、RSBが20面積%以上であることにより、粒子の脱落が抑制されるため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。一方、本実施形態の被覆切削工具は、RSBが60面積%以下であることにより、耐摩耗性に優れる。また、本実施形態の被覆切削工具は、上部層のTiCN層において、領域Bの平均径が、5.0μm未満であることにより、領域Bが、TiCN層中に分散して形成されていることを示し、上述のRSBを20面積%以上とすることによる粒子の脱落抑制の効果を有効かつ確実に奏することができ、また、粗大な領域Bが減少するため、耐摩耗性が向上する。そして、これらの構成が組み合わされることにより、本実施形態の被覆切削工具は、耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性が向上し、その結果、工具寿命を延長することができるものと考えられる。
【0015】
図1は、本実施形態の被覆切削工具の一例を示す断面模式図である。被覆切削工具6は、基材1と、基材1の表面に形成された被覆層5とを備え、被覆層5には、下部層2、中間層3、及び上部層4が基材側からこの順序で上方向に積層されている。
【0016】
本実施形態の被覆切削工具は、基材とその基材の表面に形成された被覆層とを備える。被覆切削工具の種類として、具体的には、フライス加工用若しくは旋削加工用刃先交換型切削インサート、ドリル及びエンドミルを挙げることができる。
【0017】
本実施形態に用いる基材は、被覆切削工具の基材として用いられ得るものであれば、特に限定されない。そのような基材として、例えば、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体及び高速度鋼を挙げることができる。それらの中でも、基材が、超硬合金、サーメット、セラミックス及び立方晶窒化硼素焼結体のいずれかであると、耐摩耗性及び耐欠損性に更に優れるので好ましく、同様の観点から、基材が超硬合金であるとより好ましい。
【0018】
なお、基材は、その表面が改質されたものであってもよい。例えば、基材が超硬合金からなるものである場合、その表面に脱β層が形成されてもよい。また、基材がサーメットからなるものである場合、その表面に硬化層が形成されてもよい。これらのように基材の表面が改質されていても、本発明の作用効果は奏される。
【0019】
本実施形態に用いる被覆層は、全体の平均厚さが、8.5μm以上30.0μm以下である。本実施形態の被覆切削工具は、被覆層全体の平均厚さが8.5μm以上であることにより、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態の被覆切削工具は、被覆層全体の平均厚さが30.0μm以下であることにより、被覆層の密着性が向上するため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。同様の観点から、被覆層全体の平均厚さは、11.3μm以上28.1μm以下であることが好ましく、13.5μm以上25.1μm以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態の被覆切削工具における各層及び被覆層全体の平均厚さは、各層又は被覆層全体における3箇所以上の断面から、各層の厚さ又は被覆層全体の厚さを測定して、その相加平均値を計算することで求めることができる。
【0020】
[下部層]
本実施形態に用いる下部層は、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を含む。本実施形態の被覆切削工具は、基材とα型の酸化アルミニウムからなるα-Al2O3層を含有する中間層との間に、このような下部層を備えると、耐摩耗性及び密着性が向上する。
【0021】
下部層におけるTi化合物層としては、特に限定されないが、例えば、TiCからなるTiC層、TiNからなるTiN層、TiCNからなるTiCN層、TiCOからなるTiCO層、TiCNOからなるTiCNO層、TiONからなるTiON層、及びTiB2からなるTiB2層が挙げられる。
【0022】
下部層は、1層で構成されていてもよく、複層(例えば、2層又は3層)で構成されてもよいが、複層で構成されていることが好ましく、2層又は3層で構成されていることがより好ましく、3層で構成されていることが更に好ましい。下部層に含まれるTi化合物層を構成するTi化合物としては、耐摩耗性及び密着性がより一層向上する観点から、TiN層、TiC層、TiCN層、TiCNO層、及びTiCO層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含むことが好ましい。また、本実施形態の被覆切削工具は、下部層の少なくとも1層がTiCN層であると、耐摩耗性が一層向上する傾向にある。また、本実施形態の被覆切削工具は、下部層の少なくとも1層がTiN層であり、該TiN層を基材の表面に形成すると、密着性が一層向上する傾向にある。また、本実施形態の被覆切削工具は、下部層の少なくとも1層がTiCNO層であり、該TiCNO層がα-Al2O3層を含有する中間層と接するように形成すると、密着性が一層向上する傾向にある。下部層が3層で構成されている場合には、基材の表面に、TiC層又はTiN層を第1層として形成し、第1層の表面に、TiCN層を第2層として形成し、第2層の表面に、TiCNO層又はTiCO層を第3層として形成してもよい。それらの中では、下部層が基材の表面にTiN層を第1層として形成し、第1層の表面に、TiCN層を第2層として形成し、第2層の表面に、TiCNO層を第3層として形成してもよい。
【0023】
本実施形態に用いる下部層の平均厚さは、3.0μm以上15.0μm以下であることが好ましい。本実施形態の被覆切削工具は、下部層の平均厚さが3.0μm以上であることにより、耐摩耗性に優れる傾向にある。一方、本実施形態の被覆切削工具は、下部層の平均厚さが15.0μm以下であることにより、被覆層の密着性が向上するため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる傾向にある。同様の観点から、下部層の平均厚さは、3.2μm以上14.5μm以下であることが好ましく、4.0μm以上13.0μm以下であることがより好ましい。
【0024】
本実施形態に用いる下部層において、例えば、TiC層又はTiN層の平均厚さは、耐摩耗性及び耐欠損性を一層向上する観点から、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。同様の観点から、TiC層又はTiN層の平均厚さは、0.1μm以上0.5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上0.3μm以下であることが更に好ましい。
【0025】
本実施形態に用いる下部層において、例えば、TiCN層の平均厚さは、耐摩耗性及び耐欠損性を一層向上する観点から、3.0μm以上14.0μm以下であることが好ましい。同様の観点から、TiCN層の平均厚さは、3.5μm以上12.5μm以下であることがより好ましく、4.5μm以上9.5μm以下であることが更に好ましい。
【0026】
本実施形態に用いる下部層において、例えば、TiCNO層又はTiCO層の平均厚さは、耐摩耗性及び耐欠損性を一層向上する観点から、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。同様の観点から、TiCNO層又はTiCO層の平均厚さは、0.2μm以上1.0μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上1.0μm以下であることが更に好ましい。
【0027】
下部層におけるTi化合物層は、Tiと、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなる層であるが、下部層による作用効果を奏する限りにおいて、上記元素以外の成分を微量含んでもよい。
【0028】
[中間層]
本実施形態に用いる中間層は、α型の酸化アルミニウムからなるα-Al2O3層を含有する。
【0029】
本実施形態に用いる中間層の平均厚さは、3.0μm以上15.0μm以下であることが好ましい。本実施形態の被覆切削工具は、α-Al2O3層を含有する中間層の平均厚さが3.0μm以上であると、耐摩耗性に優れる傾向にある。また、後述するTC(0,0,12)の制御が容易となる。一方、本実施形態の被覆切削工具は、α-Al2O3層を含有する中間層の平均厚さが15.0μm以下であると、被覆層の密着性が向上するため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる傾向にある。同様の観点から、中間層の平均厚さは、4.0μm以上14.0μm以下であることがより好ましく、5.0μm以上10.0μm以下であることが更に好ましい。
【0030】
本実施形態の被覆切削工具は、中間層において、下記式(iii)で表されるα-Al
2O
3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)が、5.0以上8.9以下であることが好ましい。
【数3】
(式(iii)中、I(h,k,l)は、中間層に含まれるα-Al
2O
3層の(h,k,l)面を測定したX線回折によるピーク強度であり、I
0(h,k,l)は、JCPDSカード番号10-0173によるα型酸化アルミニウムの(h,k,l)面の標準回折強度であり、(h,k,l)は、(0,1,2)、(1,0,4)、(1,1,3)、(0,2,4)、(1,1,6)、(2,1,4)、(3,0,0)、(0,2,10)及び(0,0,12)の9の結晶面を指す。)
【0031】
本実施形態の被覆切削工具は、中間層において、上記式(iii)で表されるα-Al2O3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)が、5.0以上であることにより、耐摩耗性に優れる傾向にある。一方、本実施形態の被覆切削工具は、中間層において、上記式(iii)で表されるα-Al2O3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)が、8.9以下であると、容易に製造することができる。同様の観点から、上記式(iii)で表されるα-Al2O3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)は、5.3以上8.8以下であることがより好ましく、6.3以上8.4以下であることが更に好ましい。
なお、本実施形態において、α-Al2O3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)は、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0032】
中間層は、α型の酸化アルミニウムからなるα-Al2O3層を含有していればよく、本発明の作用効果を奏する限りにおいて、α型の酸化アルミニウム(α型Al2O3)以外の成分を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0033】
[上部層]
本実施形態に用いる上部層は、Ti炭窒化物からなるTiCN層を含む。本実施形態の被覆切削工具は、上部層がTi炭窒化物からなるTiCN層を含有することにより、硬さが高くなるため、耐摩耗性が向上する。
【0034】
また、本実施形態に用いる上部層のTiCN層において、下記式(i)及び式(ii)で表される条件を満たす。
30≦RSA≦70 (i)
(式(i)中、RSAは、前記基材の表面と平行な方向の前記上部層のTiCN層の断面において、該断面全体の面積の合計を100面積%とした場合、前記TiCN層の断面の法線と、TiCN層の粒子の(422)面の法線とがなす角度(単位:度)である方位差Aが0度以上15度未満である領域Aの断面積の合計の割合(単位:面積%)である。)
20≦RSB≦60 (ii)
(式(ii)中、RSBは、前記基材の表面と平行な方向の前記上部層のTiCN層の断面において、該断面全体の面積の合計を100面積%とした場合、前記TiCN層の断面の法線と、TiCN層の粒子の(220)面の法線とがなす角度(単位:度)である方位差Bが0度以上15度未満である領域Bの断面積の合計の割合(単位:面積%)である。)
なお、ここで、RSA及びRSBの分析位置は、上部層におけるTiCN層の平均厚さの、基材側から60%以上が残った位置の、基材の表面と平行な方向に露出させた断面とする。
【0035】
本実施形態の被覆切削工具は、RSAが30面積%以上であることにより、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態の被覆切削工具は、RSAが70面積%以下であることにより、粒子の脱落が抑制されるため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。同様の観点から、RSAは、33面積%以上68面積%以下であることがより好ましく、40面積%以上64面積%以下であることがさらに好ましい。また、本実施形態の被覆切削工具は、RSBが20面積%以上であることにより、粒子の脱落が抑制されるため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。一方、本実施形態の被覆切削工具は、RSBが60面積%以下であることにより、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、RSBは、22面積%以上58面積%以下であることがより好ましく、24面積%以上56面積%以下であることがさらに好ましい。
なお、本実施形態において、RSA及びRSBは、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0036】
本実施形態の被覆切削工具は、上部層のTiCN層において、領域Bの平均径が、5.0μm未満である。本実施形態の被覆切削工具は、上部層のTiCN層において、領域Bの平均径が、5.0μm未満であることにより、領域Bが、TiCN層中に分散して形成されていることを示し、上述のRSBを20面積%以上とすることによる粒子の脱落抑制の効果を有効かつ確実に奏することができ、また、粗大な領域Bが減少するため、耐摩耗性が向上する。また、本実施形態の被覆切削工具は、上部層のTiCN層において、領域Bの平均径が、1.0μm以上であることが好ましい。本実施形態の被覆切削工具は、上部層のTiCN層において、領域Bの平均径が、1.0μm以上であると、領域Bによる粒子の脱落抑制の効果を有効かつ確実に奏する傾向にある。同様の観点から、上部層のTiCN層において、領域Bの平均径は、1.1μm以上4.8μm以下であることがより好ましく、1.5μm以上4.6μm以下であることが更に好ましい。
【0037】
また、本実施形態の被覆切削工具は、上部層のTiCN層において、領域Aの平均径が、5.0μm以上30.0μm以下であることが好ましい。本実施形態の被覆切削工具は、上部層のTiCN層において、領域Aの平均径が5.0μm以上であると、上述のRSAを30面積%以上とすることによる耐摩耗性向上の効果が一層向上する傾向にある。一方、本実施形態の被覆切削工具は、上部層のTiCN層において、領域Aの平均径が30.0μm以下であると、製造が容易である。同様の観点から、上部層のTiCN層において、領域Aの平均径は、5.3μm以上27.5μm以下であることがより好ましく、6.0μm以上18.5μm以下であることが更に好ましい。
【0038】
なお、本実施形態において、領域Bの平均径は、該領域ごとの円相当径を求め、その面積平均値を「領域Bの平均径」として求める。また、領域Aの平均径も特定する領域を領域Bに代えて領域Aとすること以外は「領域Bの平均径」と同様の方法で求める。具体的には、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0039】
本実施形態の被覆切削工具は、上部層のTiCN層において、粒子の平均粒径が、0.3μm以上1.2μm以下であることが好ましい。本実施形態の被覆切削工具は、上部層のTiCN層において、粒子の平均粒径が0.3μm以上であると、耐欠損性が向上する傾向にある。一方、本実施形態の被覆切削工具は、上部層のTiCN層において、粒子の平均粒径が1.2μm以下であると、耐摩耗性が向上する傾向にある。同様の観点から、上部層のTiCN層において、粒子の平均粒径は、0.5μm以上1.1μm以下であることがより好ましい。
なお、本実施形態において、TiCN層の粒子の平均粒径は、該粒子ごとに円相当径を求め、その面積平均値を平均粒径として算出する。具体的には、後述する実施例に記載の方法により算出することができる。
【0040】
本実施形態に用いる上部層は、Ti炭窒化物からなるTiCN層以外に、Tiと、C、N及びOからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層を1層又は2層以上含んでいてもよい。
また、上部層におけるTiCN層以外のTi化合物層としては、特に限定されないが、例えば、TiCからなるTiC層、TiNからなるTiN層、TiCOからなるTiCO層、TiCNOからなるTiCNO層、TiONからなるTiON層が挙げられる。中でも、TiN層、TiCNO層が好ましい。
【0041】
上部層は、1層で構成されていてもよく、複層(例えば、2層又は3層)で構成されてもよい。上部層が複層で構成されている場合には、中間層と接する側の層として、後述する密着層を形成することが好ましく、また、TiCN層の基材とは反対側の表面に別の層を形成していてもよい。上部層が2層で構成されている場合には、TiCN層を第1層として形成し、第1層の表面にTiN層を第2層として形成してもよい。また、上部層が3層で構成されている場合には、中間層と接する側に密着層として、TiCNO層又はTiCO層を形成し、密着層の表面にTiCN層を第2層として形成し、第2層の表面にTiN層を第3層として形成してもよい。
【0042】
本実施形態に用いる上部層の平均厚さは、1.0μm以上6.0μm以下である。本実施形態の被覆切削工具は、上部層の平均厚さが1.0μm以上であることにより、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態の被覆切削工具は、上部層の平均厚さが6.0μm以下であることにより、被覆層の密着性が向上するため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。同様の観点から、上部層の平均厚さは、1.3μm以上5.8μm以下であることが好ましく、1.4μm以上5.7μm以下であることがより好ましい。
【0043】
上部層におけるTiCN層の平均厚さは、1.0μm以上5.5μm以下であることが好ましい。本実施形態の被覆切削工具は、上部層におけるTiCN層の平均厚さが1.0μm以上であることにより、耐摩耗性が向上する傾向にある。また、本実施形態の被覆切削工具は、上部層におけるTiCN層の平均厚さが5.5μm以下であることにより、被覆層の密着性が向上するため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる傾向にある。同様の観点から、上部層におけるTiCN層の平均厚さは、1.2μm以上5.5μm以下であることがより好ましく、2.0μm以上5.5μm以下であることが更に好ましい。
【0044】
本実施形態に用いる上部層が中間層と接している場合、上部層において、中間層と接する側の密着層(以下、単に「密着層」とも記す)として、TiCOからなる層、TiONからなる層、及びTiCNOからなる層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含むことが好ましい。本実施形態に用いる上部層は、このような密着層を備えると中間層との密着性が向上する傾向にある。同様の観点から、密着層としては、TiCO層又はTiCNO層がより好ましい。
【0045】
本実施形態に用いる上部層において、密着層の平均厚さは、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。本実施形態の被覆切削工具は、密着層の平均厚さが0.1μm以上であると、上部層と中間層との密着性に優れ、耐チッピング性が向上する傾向にある。一方、本実施形態の被覆切削工具は、密着層の平均厚さが1.0μm以下であると、耐摩耗性が向上する傾向にある。同様の観点から、密着層の平均厚さは、0.1μm以上0.5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上0.3μm以下であることが更に好ましい。
【0046】
本実施形態に用いる上部層が複層(例えば、2層又は3層)で構成されている場合には、上部層を構成する層のうち最も基材から遠い最外層(以下、単に「最外層」とも記す)としてTiN層を形成してもよい。本実施形態の被覆切削工具は、上部層がこのような最外層を備えると、使用したコーナーを識別することが容易となる傾向にある。
本実施形態に用いる上部層において、このような最外層の平均厚さの範囲としては、例えば0.05μm以上1.0μm以下であり、好ましくは0.1μm以上0.5μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上0.3μm以下である。
【0047】
上部層におけるTi化合物層は、Tiと、C、N及びOからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とのTi化合物からなるTi化合物層であるが、上部層による作用効果を奏する限りにおいて、上記元素以外の成分を微量含んでもよい。
【0048】
[被覆層の形成方法]
本実施形態の被覆切削工具における被覆層を構成する各層の形成方法として、例えば、以下の方法を挙げることができる。ただし、各層の形成方法はこれに限定されない。
【0049】
まず、基材の表面に、1層以上のTi化合物層からなる下部層を形成する。次いで、それらの層のうち、基材から最も離れた層の表面を酸化する。その後、基材から最も離れた層の表面にα-Al2O3層の核を形成し、その核が形成された状態で、α-Al2O3層を形成する。さらに、α-Al2O3層の表面にTiCN層を含むTi化合物層からなる上部層を形成する。
【0050】
下部層におけるTi化合物層の形成方法として、特に限定されないが、例えば、以下の方法を挙げることができる。
例えば、Tiの窒化物層(以下、「TiN層」ともいう。)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl4:5.0~10.0mol%、N2:20~60mol%、H2:残部とし、温度を850~950℃、圧力を350~450hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0051】
Tiの炭化物層(以下、「TiC層」ともいう。)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl4:1.5~3.5mol%、CH4:3.5~5.5mol%、H2:残部とし、温度を950~1050℃、圧力を70~80hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0052】
Tiの炭窒化物層(以下、「TiCN層」ともいう。)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl4:5.0~7.0mol%、CH3CN:0.5~1.5mol%、H2:残部とし、温度を800~900℃、圧力を70~90hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0053】
下部層におけるTiの炭窒酸化物層(以下、「TiCNO層」ともいう。)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl4:3.0~4.0mol%、CO:0.5~1.0mol%、N2:30~40mol%、H2:残部とし、温度を950~1050℃、圧力を50~150hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0054】
Tiの炭酸化物層(以下、「TiCO層」ともいう。)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl4:1.0~2.0mol%、CO:2.0~3.0mol%、H2:残部とし、温度を950~1050℃、圧力を50~150hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0055】
また、α-Al2O3層(以下、単に「Al2O3層」ともいう。)からなる中間層は、例えば、以下の方法により形成される。
【0056】
まず、下部層のうち基材から最も離れた層の表面の酸化は、原料組成をCO2:0.1~0.5mol%、H2S:0.05~0.15mol%、H2:残部とし、温度を900~950℃、圧力を60~80hPaとする条件により行われる(酸化工程)。このときの酸化処理時間は、1~5分であることが好ましい。
【0057】
その後、α-Al2O3層の核は、原料組成をAlCl3:1.0~4.0mol%、CO:0.05~2.0mol%、CO2:1.0~3.0mol%、HCl:2.0~3.0mol%、H2:残部とし、温度を900~950℃、圧力を60~80hPaとする化学蒸着法で形成される(核形成工程)。核形成工程の好ましい時間は、3~30分である。
【0058】
そして、α-Al2O3層は、原料組成をAlCl3:3.5~5.5mol%、CO2:3.0~4.0mol%、HCl:3.5~4.5mol%、H2S:0.4~1.0mol%、H2:残部とし、温度を980~1030℃、圧力を70~90hPaとする化学蒸着法で形成される(成膜工程)。
【0059】
中間層において、式(iii)で表されるα-Al2O3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)を上記特定の範囲とするためには、例えば、成膜工程におけるガス組成中のH2Sの割合を制御したり、中間層の平均厚さを制御したりすればよい。より具体的には、例えば、成膜工程におけるガス組成中のH2Sの割合を大きくしたり、中間層の平均厚さを大きくしたりすることにより、式(iii)で表されるα-Al2O3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)を大きくできる傾向にある。
また、後述する上部層を形成する第1工程を実施し、かつ式(iii)で表されるα-Al2O3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)を大きくすることにより、領域Aの平均径を大きくできる傾向にある。
【0060】
さらに、上部層の形成方法として、特に限定されないが、例えば、以下の方法を挙げることができる。まず、中間層(α-Al2O3層)と接触する側に密着層を形成する場合は、上部層を形成する第1工程として、α-Al2O3層の表面にTi化合物層(密着層)を形成する。次に、上部層を形成する第2工程として、TiCN層を密着層の表面に形成する。さらに、TiCN層の表面にTi化合物層を形成してもよい。また、上部層を形成する第1工程として、α-Al2O3層の表面にTiCN層を形成し、次いで、上部層を形成する第2工程として、さらにTiCN層を形成してもよい。
【0061】
上部層を形成する第1工程として、α-Al2O3層の表面に、例えば、TiCNO層を形成する場合は、原料組成をTiCl4:7.5~10.0mol%、C2H4:1.2~3.5mol%、CH3CN:0.7~1.2mol%、CO:1.8~2.4mol%、N2:15.0~25.0mol%、H2:残部とし、温度を760~850℃、圧力を70~110hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0062】
上部層を形成する第1工程として、α-Al2O3層の表面に、例えば、TiCN層を形成する場合は、原料組成をTiCl4:7.5~10.0mol%、C2H4:1.2~3.5mol%、CH3CN:0.7~1.2mol%、N2:15.0~25.0mol%、H2:残部とし、温度を760~850℃、圧力を70~110hPaとする化学蒸着法で形成することができる。ここで、TiCN層を形成する時間は、15~25分であることが好ましい。
【0063】
上部層を形成する第2工程として、TiCN層を形成する場合は、原料組成をTiCl4:5.0~7.0mol%、CH3CN:1.5~2.5mol%、N2:15.0~25.0mol%、H2:残部とし、温度を800~900℃、圧力を70~120hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0064】
さらに、TiCN層の表面にTiN層を形成する場合は、原料組成をTiCl4:5.0~10.0mol%、N2:20.0~60.0mol%、H2:残部とし、温度を950~1050℃、圧力を300~400hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0065】
上部層のTiCN層において、RSAを上記特定の範囲とするためには、例えば、上述した上部層を形成する第1工程を実施し、かつ式(iii)で表されるα-Al2O3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)を制御したりすればよい。より具体的には、例えば、上述した上部層を形成する第1工程を実施し、かつ式(iii)で表されるα-Al2O3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)を大きくしたりすることにより、RSAを大きくできる傾向にある。
【0066】
上部層のTiCN層において、RSBを上記特定の範囲とするためには、例えば、上部層を形成する第1工程において、中間層の表面に最初に形成する層がTiCN層の場合、ガス組成中のC2H4の割合を制御したりすればよい。より具体的には、上部層を形成する第1工程において、中間層の表面に最初に形成する層がTiCN層の場合、ガス組成中のC2H4の割合を大きくしたりすることにより、RSBを大きくできる傾向にある。
また、上部層のTiCN層において、RSBを上記特定の範囲とするためには、例えば、上部層を形成する第1工程において、中間層の表面に最初に形成する層がTiCNO層の場合、TiCNO層の平均厚さを制御したり、ガス組成中のC2H4及び/又はCOの割合を制御したりすればよい。より具体的には、上部層を形成する第1工程において、中間層の表面に最初に形成する層がTiCNO層の場合、TiCNO層の平均厚さを大きくしたり、ガス組成中のC2H4及び/又はCOの割合を大きくしたりすることにより、RSBを大きくできる傾向にある。
【0067】
上部層のTiCN層において、領域Bの平均径を上記特定の範囲とするためには、例えば、上部層を形成する第1工程において、温度を制御したりすればよい。より具体的には、上部層を形成する第1工程において、温度を低くすることにより、領域Bの平均径を小さくできる傾向にある。
【0068】
上部層のTiCN層において、粒子の平均粒径を上記特定の範囲とするためには、例えば、上部層を形成する第2工程において、温度を制御したりすればよい。より具体的には、上部層を形成する第2工程において、温度を高くすることにより、粒子の平均粒径を大きくできる傾向にある。また、上部層のTiCN層において、粒子の平均粒径を大きくすると、領域A及び領域Bの平均径を大きくできる傾向にある。
【0069】
本実施形態の被覆切削工具の被覆層における各層の厚さは、被覆切削工具の断面組織を、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、又はFE-SEM等を用いて観察することにより測定することができる。なお、本実施形態の被覆切削工具における各層の平均厚さは、刃先稜線部から被覆切削工具の逃げ面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、各層の厚さを3箇所以上測定し、その相加平均値として求めることができる。また、各層の組成は、本実施形態の被覆切削工具の断面組織から、エネルギー分散型X線分光器(EDS)や波長分散型X線分光器(WDS)等を用いて測定することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
基材として、インサート形状:CNMG120408(ISO規格)を有し、87.0%WC-8.6%Co-2.0%TiN-2.0%NbC-0.4%Cr3C2(以上質量%)の組成を有する超硬合金製の切削インサートを用意した。この基材の刃先稜線部にSiCブラシにより丸ホーニングを施した後、基材の表面を洗浄した。
【0072】
[発明品1~26及び比較品1~15]
基材の表面を洗浄した後、被覆層を化学蒸着法により形成した。まず、基材の表面に下部層を形成した。具体的には、基材を外熱式化学蒸着装置に装入し、表1に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、表6に組成を示すA層を、表6に示す平均厚さになるよう、基材の表面に形成した。次いで、表1に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、表6に組成を示すB層を、表6に示す平均厚さになるよう、A層の表面に形成した。次に、表1に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、表6に組成を示すC層を、表6に示す平均厚さになるよう、B層の表面に形成した。これにより、3層から構成された下部層を形成した。その後、表2に示す組成、温度及び圧力の条件の下、表2に示す時間にて、下部層の表面に酸化処理を施した。次いで、表2に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、表2に示す時間にて、酸化処理を施した下部層の表面にα型酸化アルミニウム(α-Al2O3)の核を形成した。さらに、表3に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、下部層及びα型酸化アルミニウム(α-Al2O3)の核の表面に、表6に組成を示す中間層(α-Al2O3層)を、表6に示す平均厚さになるよう形成した。次いで、中間層(α-Al2O3層)の表面に上部層を形成した。具体的には、まず、上部層を形成する第1工程として、発明品1~20及び25~26並びに比較品1~11及び13~16については、表4に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、表7に組成を示すX層(密着層)を、表7に示す平均厚さになるよう、α-Al2O3層の表面に形成した。なお、発明品21~24については、表4に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、上部層を形成する第1工程を20分間実施し、表7に組成を示すY層(TiCN層)の一部(平均厚さ:約0.2μm)を中間層(α-Al2O3層)の表面に形成した。なお、比較品12については、上部層を形成する第1工程を実施しなかった。次に、上部層を形成する第2工程として、表5に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、表7に組成を示すY層を、表7に示す平均厚さになるよう、X層の表面又は中間層(α-Al2O3層)の表面に形成した。なお、発明品21~24については、表7に組成を示すY層(TiCN層)を、上部層を形成する第1工程と第2工程との合計で表7に示す平均厚さになるように中間層(α-Al2O3層)の表面に形成した。さらに、発明品5~10、14~16、20、23及び24、並びに比較品1~3、5~9、12、14及び15については、表1に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、表7に組成を示すZ層(最外層)を、表7に示す平均厚さになるよう、Y層の表面に形成した。こうして、発明品1~26及び比較品1~15の被覆切削工具を得た。
【0073】
試料の各層の厚さを下記のようにして求めた。すなわち、FE-SEMを用いて、被覆切削工具の刃先稜線部から逃げ面の中心部に向かって50μmの位置の近傍における断面での3箇所の厚さを測定し、その相加平均値を平均厚さとして求めた。得られた試料の各層の組成は、被覆切削工具の刃先稜線部から逃げ面の中心部に向かって50μmまでの位置の近傍の断面において、EDSを用いて測定した。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
[RSA及びRSB]
RSA及びRSBを以下のとおり算出した。
得られた試料において、上部層におけるTiCN層の平均厚さの、基材側から80%が残った位置の、基材の表面と平行な方向に上部層のTiCN層の断面を露出させた。得られた断面を鏡面研磨し、その鏡面研磨面を電解放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した。FE-SEMに付属した電子後方散乱解析像装置(EBSD)を用いて、露出させた断面の法線と、TiCN層の粒子の(422)面の法線とがなす方位差Aを測定した。方位差Aが0度以上15度未満である領域の断面積の、分析を行った上部層のTiCN層の断面積の合計(方位差Aが0度以上45度以下の範囲内にある上部層のTiCN層の断面積の合計:RSATotal)100面積%に対する割合をRSA(単位:面積%)とした。具体的には、まず、方位差Aが0度以上15度未満の範囲内にある領域の断面積と、0度以上45度以下の範囲内にある領域の断面積を求めた。なお、0度以上45度以下の領域の断面積の合計は100面積%となる。これら方位差Aに基づいた断面積の内、方位差Aが0度以上15度未満の範囲内にある領域の断面積の合計を、RSATotalに対する比率として表したものをRSAとした。同様に、FE-SEMに付属したEBSDを用いて、露出させた断面の法線と、TiCN層の粒子の(220)面の法線とがなす方位差Bを測定した。方位差Bが0度以上15度未満である領域の断面積の、分析を行った上部層のTiCN層の断面積の合計(方位差Bが0度以上45度以下の範囲内にある上部層のTiCN層の断面積の合計:RSBTotal)100面積%に対する割合をRSB(単位:面積%)とした。具体的には、まず、方位差Bが0度以上15度未満の範囲内にある領域の断面積と、0度以上45度以下の範囲内にある領域の断面積を求めた。なお、0度以上45度以下の領域断面の面積の合計は100面積%となる。これら方位差Bに基づいた断面積の内、方位差Bが0度以上15度未満の範囲内にある領域の断面積の合計を、RSBTotalに対する比率として表したものをRSBとした。以上の測定結果を下記表8に示す。なお、EBSDによる測定は、以下のようにして行った。試料をFE-SEMにセットした。試料に70度の入射角度で、15kVの加速電圧及び1.0nA照射電流で電子線を照射した。測定範囲120μm×120μmにて、0.05μmのステップサイズ(測定点間の距離)というEBSDの設定で、各粒子の方位差及び断面積の測定を行った。測定範囲内における上部層のTiCN層の断面積は、その面積に対応するピクセルの総和とした。すなわち、方位差A及びBに基づいた各領域の断面積の合計は、各方位差の範囲に該当する領域の断面が占めるピクセルを集計し、面積に換算して求めた。同様のEBSDによる測定を、上述の測定範囲において合計3視野で行い、得られた各面積の平均値を求めた。得られた平均値から、RSA及びRSBを算出した。
【0082】
[各領域の平均径]
領域Aの平均径は、該領域ごとの円相当径を求め、その面積平均値を「領域Aの平均径」として求めた。具体的には以下の方法で求めた。測定範囲120μm×120μmにて、0.05μmのステップサイズ(測定点間の距離)というEBSDの設定で、合計3視野でEBSDによる測定を行った。方位差Aが0度以上15度未満である測定点と、それ以外の測定点との間の境界によって囲まれた、方位差Aが0度以上15度未満である領域を1つの領域Aと定義し、各領域Aの占める断面積を求めた。得られた断面積と同じ面積を有する円の直径を各領域Aの径とした。測定範囲に含まれる領域Aの径の面積平均径を領域Aの平均径とした。
また、「領域Bの平均径」の測定方法については、特定した境界が「方位差Bが0度以上15度未満である測定点とそれ以外の測定点との間の境界」であり、特定した領域が「方位差Bが0度以上15度未満である領域」であること以外は、領域Aの平均径と同じ方法とした。結果を下記表8に示す。
【0083】
[TiCN層の粒子の平均粒径]
TiCN層の粒子の平均粒径は、該粒子ごとに円相当径を求め、その面積平均値を平均粒径として算出した。具体的には以下のとおり算出した。測定範囲120μm×120μmにて、0.05μmのステップサイズ(測定点間の距離)というEBSDの設定で、合計3視野でEBSDによる測定を行った。このとき、方位差が5°以上の測定点間の境界を粒界とした。粒界で囲まれた領域を1つの粒子と定義し、各粒子の占める断面積を求めた。得られた断面積と同じ面積を有する円の直径を各粒子の粒径とした。測定範囲に含まれる全ての粒子の粒径の面積平均径をTiCN層の粒子の平均粒径とした。結果を下記表8に示す。
【0084】
【0085】
[α-Al
2O
3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)]
得られた試料について、Cu-Kα線を用いた2θ/θ集中法光学系のX線回折測定を、出力:45kV、200mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:2/3°、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット:8mm、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:10mm、検出器:D/tex ultra、スキャンモード:連続、サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:12°/分、2θ測定範囲:25°~140°とする条件で行った。装置は、株式会社リガク製のX線回折装置(型式「SmartLab」)を用いた。X線回折図形から中間層におけるα-Al
2O
3層の各結晶面のピーク強度を求めた。得られた各結晶面のピーク強度から、下記式(iii)で表されるα-Al
2O
3層の(0,0,12)面の組織係数TC(0,0,12)を求めた。結果を表9に示す。
【数4】
(式(iii)中、I(h,k,l)は、α-Al
2O
3層の(h,k,l)面を測定したX線回折によるピーク強度であり、I
0(h,k,l)は、JCPDSカード番号10-0173によるα-Al
2O
3の(h,k,l)面の標準回折強度であり、(h,k,l)は、(0,1,2)、(1,0,4)、(1,1,3)、(0,2,4)、(1,1,6)、(2,1,4)、(3,0,0)、(0,2,10)及び(0,0,12)の9の結晶面を指す。)
【0086】
【0087】
得られた発明品1~26及び比較品1~15を用いて、下記の条件にて切削試験1及び切削試験2を行った。切削試験1は耐摩耗性及び耐チッピング性を評価する試験であり、切削試験2は耐欠損性を評価する試験である。各切削試験の結果を表10に示す。
【0088】
[切削試験1]
被削材:SCM415、
被削材形状:外周面に、等間隔に2本の溝が入っている丸棒、
切削速度:240m/分、
切り込み深さ:1.5mm、
送り:0.20mm/rev、
クーラント:水溶性クーラント、
評価項目:試料が欠損、又は最大逃げ面摩耗幅が0.3mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの加工時間を測定した。また、10分加工後の損傷形態をSEMで確認した。
【0089】
[切削試験2]
被削材:S45C、
被削材形状:外周面に、等間隔に4本の溝が入っている丸棒、
切削速度:180m/分、
切り込み深さ:1.5mm、
送り:0.25mm/rev、
クーラント:水溶性クーラント、
評価項目:試料が欠損に至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの衝撃回数を測定した。
【0090】
切削試験1の工具寿命に至るまでの加工時間について、37分以上を「A」、25分以上37分未満を「B」、25分未満を「C」として評価した。切削試験2の工具寿命に至るまでの累積の衝撃回数について、15000回以上を「A」、10000回以上15000回未満を「B」、10000回未満を「C」として評価した。この評価では、「A」が最も優れており、次に「B」が優れており、「C」が最も劣っていることを意味し、A又はBを多く有するほど切削性能に優れることを意味する。得られた評価の結果を表10に示す。なお、比較品15は、10分加工を終える前に欠損したため、「-」と記載した。
【0091】
【0092】
表10に示す結果より、発明品の切削試験1及び切削試験2の評価は、どちらも「A」又は「B」の評価であった。一方、比較品の評価は、チッピング試験及び摩耗試験の両方又はいずれかが、「C」であった。よって、発明品の耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性は、比較品と比べて、総じて、より優れていることが分かる。
【0093】
以上の結果より、発明品は、耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる結果、工具寿命が長いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の被覆切削工具は、優れた耐摩耗性、耐チッピング性及び耐欠損性を有することにより、従来よりも工具寿命を延長できるので、そのような観点から、産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0095】
1…基材、2…下部層、3…中間層、4…上部層、5…被覆層、6…被覆切削工具。