(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-02-25
(45)【発行日】2026-03-05
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 1/18 20150101AFI20260226BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20260226BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20260226BHJP
C23C 14/10 20060101ALI20260226BHJP
【FI】
G02B1/18
G02B1/115
G02C7/00
C23C14/10
(21)【出願番号】P 2022059625
(22)【出願日】2022-03-31
【審査請求日】2024-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】野村 琢美
(72)【発明者】
【氏名】岩田 信義
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-056327(JP,A)
【文献】特開2018-012877(JP,A)
【文献】特開2020-142494(JP,A)
【文献】特開2018-159860(JP,A)
【文献】特開2006-184849(JP,A)
【文献】特開平03-126865(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0025730(KR,A)
【文献】国際公開第2022/097752(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/097751(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10- 1/18
G02C 1/00-13/00
C23C14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に配置された金属原子含有層を有する眼鏡レンズの製造方法であって、
二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2)、及び酸化チタン(IV)(TiO
2)からなる群から選択される少なくとも1種のグラニュール
からなる担体が少なくとも1種の金属を含む金属粒子を担持した蒸着源に電子ビームを照射する電子ビーム蒸着によって前記基材上に前記金属原子含有層を形成することを含む、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項2】
前記グラニュールの平均粒子径D50は0.1~5.0mmである、請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項3】
前記グラニュールは二酸化ケイ素(SiO
2)のみからなる、請求項1又は2に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項4】
前記金属粒子は銀を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項5】
前記金属粒子は、白金、金、パラジウム、水銀、カドミウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、チタン、モリブデン、及びタングステンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項6】
前記金属粒子を含む液体を前記担体に含浸させた後に乾燥処理を行うことによって、前記担体に前記金属粒子を担持させることをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項7】
前記眼鏡レンズは、前記基材上に配置された反射防止膜をさらに有し、
前記金属原子含有層は、前記反射防止膜上に配置される、請求項1~6のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項8】
前記眼鏡レンズは、前記基材上に配置された反射防止膜をさらに有し、
前記反射防止膜は、複数の単層が積層した積層体であり、
前記金属原子含有層は、隣り合う少なくとも1対の前記単層同士の間に配置されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項9】
前記金属原子含有層の膜厚は、5nm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子を担持する担体をCo、Ni、Fe等を含むステンレス鋼(SUS)の焼結フィルタとした蒸着源や、SiO2と金属イオン担持ゼオライトを混ぜ合わせた材料からなる蒸着源(例えば、特許文献1参照)を用いて、金属を眼鏡レンズに蒸着することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属粒子を担持する担体をSUSの焼結フィルタとした蒸着源を用いた場合、(i)電子ビーム(EB)照射によって焼結フィルタが消耗してしまう、(ii)焼結フィルタ成分(例えば、SUS)が不純物として蒸着してしまう、(iii)焼結フィルタ1個あたりの金属担持量が少ないため、1個の焼結フィルタを用いて金属蒸着して得られた眼鏡レンズの抗菌性が低い、などの課題がある。
上記(iii)の課題について、焼結フィルタを厚くして金属担持量を増加させることも考えられるが、焼結フィルタを厚くして金属担持量を増加させても焼結フィルタ成分の加熱温度の限界等により金属蒸着を十分に行うことができない場合がある。
【0005】
また、SiO2と金属イオン担持ゼオライトを混ぜ合わせた材料からなる蒸着源を用いた場合、成膜された「(SiO2及び金属からなる膜」の屈折率が「SiO2膜」の屈折率よりも高くなるので、反射防止(AR)膜を新規に設計する必要があり、既存製品と同様に成膜した場合、反射特性が変化してしまう。
【0006】
斯かる状況下、本開示の一態様は、反射特性及び透過特性に対して悪影響がなく、抗菌性能が高い眼鏡レンズを製造可能な眼鏡レンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施形態は、以下の[1]~[9]に関する。
[1]基材と、前記基材上に配置された金属原子含有層を有する眼鏡レンズの製造方法であって、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO2)、及び酸化チタン(IV)(TiO2)からなる群から選択される少なくとも1種のグラニュールを含む担体が少なくとも1種の金属を含む金属粒子を担持した蒸着源に電子ビームを照射する電子ビーム蒸着によって前記基材上に前記金属原子含有層を形成することを含む、眼鏡レンズの製造方法。
[2]前記グラニュールの平均粒子径D50は0.1~5.0mmである、上記[1]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
[3]前記グラニュールは二酸化ケイ素(SiO2)のみからなる、上記[1]又は[2]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
[4]前記金属粒子は銀を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
[5]前記金属粒子は、白金、金、パラジウム、水銀、カドミウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、チタン、モリブデン、及びタングステンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
[6]前記金属粒子を含む液体を前記担体に含浸させた後に乾燥処理を行うことによって、前記担体に前記金属粒子を担持させることをさらに含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
[7]前記眼鏡レンズは、前記基材上に配置された反射防止膜をさらに有し、前記金属原子含有層は、前記反射防止膜上に配置される、上記[1]~[6]のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
[8]前記眼鏡レンズは、前記基材上に配置された反射防止膜をさらに有し、前記反射防止膜は、複数の単層が積層した積層体であり、前記金属原子含有層は、隣り合う少なくとも1対の前記単層同士の間に配置されている、上記[1]~[6]のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
[9]前記金属原子含有層の膜厚は、5nm以下である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、反射特性及び透過特性に対して悪影響がなく、抗菌性能が高い眼鏡レンズを製造可能な眼鏡レンズの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電子銃を備えた真空蒸着装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態及び実施例について説明する。同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。以下に説明する実施の形態及び実施例において、個数、量等に言及する場合、特に記載がある場合を除き、本開示の範囲は必ずしもその個数、量等に限定されない。以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本開示の実施の形態及び実施例にとって必ずしも必須のものではない。
【0011】
[眼鏡レンズの製造方法]
本開示の実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法は、基材と、前記基材上に配置された金属原子含有層を有する眼鏡レンズの製造方法であって、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO2)、及び酸化チタン(IV)(TiO2)からなる群から選択される少なくとも1種のグラニュールを含む担体が少なくとも1種の金属を含む金属粒子を担持した蒸着源に電子ビームを照射する電子ビーム蒸着によって前記基材上に前記金属原子含有層を形成することを含むものである。
本開示の実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法は、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO2)、及び酸化チタン(IV)(TiO2)からなる群から選択される少なくとも1種のグラニュールを含む担体が少なくとも1種の金属を含む金属粒子を担持した蒸着源を用いているため、反射特性及び透過特性に対して悪影響がなく、抗菌性能が高い眼鏡レンズを製造可能である。
【0012】
<基材>
基材としては、例えば、プラスチックレンズ基材、無機ガラス製レンズ基材等のガラスレンズ基材、などが挙げられる。これらの中でも、軽量で割れ難く、取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。
プラスチックレンズ基材としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)、などが挙げられる。
また、基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。
基材の屈折率としては、特に制限はなく、例えば、1.60~1.75程度である。基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内であってもよく、上記の範囲から上下に離れていてもよい。なお、本開示及び本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。
また、基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0013】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズのいずれであってもよい。眼鏡レンズの種類は、基材の両面の面形状により決定される。また、基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常の基材及び眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本開示は、これに限定されるものではない。
【0014】
<金属原子含有層>
本開示の実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法では、上記基材上に配置された金属原子含有層を有する眼鏡レンズが製造される。
金属原子含有層に含まれる金属の種類及び/又は組み合わせによって、上記金属原子含有層が発揮し得る機能を制御することができる。例えば、菌の繁殖を抑制できる機能(即ち抗菌性)を眼鏡レンズに付与することに寄与する抗菌層として機能し得る金属原子含有層を形成する場合、上記金属原子含有層に含まれる金属としては、例えば、銀が挙げられる。
また、一形態では、上記金属原子含有層に含まれる金属としては、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。
また、一形態では、上記金属原子含有層は、第1の金属として銀を含み、第2の金属として銀以外の金属の1種以上を含んでいてもよい。
第2の金属は、白金、金、パラジウム、水銀、カドミウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、チタン、モリブデン、及びタングステンからなる群から選ばれる金属の1種以上であり、白金、パラジウム、及び金からなる群から選ばれる金属の1種以上であることが好ましく、白金であることがより好ましい。
上記金属原子含有層は、第2の金属として上記の群から選ばれる金属を、一形態では1種のみ含んでいてもよく、他の一形態では2種以上含んでいてもよい。
【0015】
上記金属原子含有層における上記金属の存在形態としては、金属の単体の形態、合金の形態、金属酸化物等の無機化合物の形態、有機化合物の形態、又は金属イオンの形態、などが挙げられる。
上記金属原子含有層において、例えば銀は、複数の存在形態で存在し得る。この点は、他の金属についても同様である。
本発明者は、銀は、その少なくとも一部が酸化によりイオン化して抗菌性を発揮することができ、このことが、銀を含む上記金属原子含有層が抗菌層として機能し得ることに寄与すると推察する。
また、本発明者は、銀とともに上記の群から選ばれる第2の金属の1種以上を含む金属原子含有層において、第2の金属として銀の酸化の進行を制御する効果を持つ上記金属を選択することが、抗菌性の持続性を高めることに寄与すると推察する。
ただし、本開示は、本明細書に記載の推察に限定されない。
【0016】
上記金属原子含有層は、一形態では、金属含有無機層であってもよい。本開示及び本明細書において、「無機層」とは、無機物質を含む層であり、好ましくは無機物質を主成分として含む層である。ここで主成分とは、層において最も多く含まれる成分であって、通常は、層の質量に対して50質量%程度~100質量%、さらには90質量%程度~100質量%含まれる成分である。後述の主成分についても同様である。
金属含有無機層は、上記金属を、金属の単体、合金、無機化合物等の無機物質の形態で含んでいてもよい。無機物質は、熱に対する安定性が高く、熱分解し難い傾向がある点で、製造工程において加熱を伴う処理が行われることが多い眼鏡レンズに設けられる層を構成する成分として好ましい。
【0017】
<電子ビーム蒸着>
上記製造方法では、上記金属原子含有層を、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO2)、及び酸化チタン(IV)(TiO2)からなる群から選択される少なくとも1種のグラニュールを含む担体が少なくとも1種の金属を含む金属粒子を担持した蒸着源に電子ビームを照射する電子ビーム蒸着によって形成する。斯かる成膜方法を採用することによって、薄膜の金属原子含有層を容易に形成可能となる。また、薄膜の層を膜厚の均一性よく成膜できることは、その層が発揮する機能の向上又は機能の持続性の観点から好ましい。この点からも、上記成膜方法を採用して上記金属原子含有層を形成する。
前記金属粒子における金属の存在形態としては、金属の単体の形態、合金の形態、金属酸化物等の無機化合物の形態、有機化合物の形態、又は金属イオンの形態、などが挙げられる。
前記金属粒子に含まれる金属としては、例えば、銀が挙げられる。
また、一形態では、上記金属粒子に含まれる金属としては、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。
また、一形態では、上記金属粒子は、第1の金属として銀を含み、第2の金属として銀以外の金属の1種以上を含んでいてもよい。
第2の金属は、白金、金、パラジウム、水銀、カドミウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、チタン、モリブデン、及びタングステンからなる群から選ばれる金属の1種以上であり、白金、パラジウム、及び金からなる群から選ばれる金属の1種以上であることが好ましく、白金であることがより好ましい。
上記金属粒子は、第2の金属として上記の群から選ばれる金属を、一形態では1種のみ含んでいてもよく、他の一形態では2種以上含んでいてもよい。
【0018】
電子ビーム蒸着法は、真空中、電子銃から電子ビームを蒸着源へ照射し、蒸着源に含まれる蒸着材料を加熱して気化させ、被成膜物上に堆積させることによって蒸着膜を形成する成膜方法である。
これに対し、蒸着法としては、蒸着装置内に配置した加熱手段(ヒーター等)によって装置の内部雰囲気を加熱することで蒸着材料を加熱して気化させる方法(以下、「加熱蒸着法」と呼ぶ。)もある。加熱蒸着法では、蒸着装置内に配置された被成膜物も加熱される。ここで、眼鏡レンズの基材としては、プラスチックレンズ基材が好ましいが、プラスチックレンズ基材は高温に晒されると変形し得る。そのため、加熱蒸着法を採用してプラスチックレンズ基材上に成膜を行う場合、加熱温度はプラスチックレンズ基材の変形抑制を考慮して加熱温度を設定しなければならない。こうして設定される加熱温度が必ずしも蒸着材料に適した加熱温度ではないこともあり得るため、膜厚の均一性に優れる薄膜の蒸着膜を形成することが容易ではない場合があり得る。また、設定される加熱温度で気化可能な蒸着材料を選択する必要が生じて、使用可能な蒸着材料の種類が制限され得る。
これに対し、電子ビーム蒸着法では、電子ビームを蒸着源に照射することによって蒸着材料を加熱するため、上記の加熱蒸着法のように被成膜物を高温に晒すことなく蒸着膜を形成することができる。
【0019】
以下、電子ビーム蒸着法による上記金属原子含有層の形成方法の実施形態について説明する。ただし、本開示は、下記形態に限定されるものではない。
【0020】
蒸着源としては、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO2)、及び酸化チタン(IV)(TiO2)からなる群から選択される少なくとも1種のグラニュール、好ましくは二酸化ケイ素(SiO2)のみからなるグラニュール、特に好ましくはアモルファスの二酸化ケイ素(SiO2)のみからなるグラニュールを含む担体が少なくとも1種の金属を含む金属粒子を担持した蒸着源が使用される。なおここで、アモルファスとは、結晶構造を有さない物質の状態のことを意味する。
【0021】
グラニュールの平均粒子径D50としては、特に制限はないが、グラニュールが蒸発したり溶解したりするのを抑制する観点から、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.5mm以上が特に好ましく、一方、金属粒子を効率よく担持する観点から、5.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましく、1.0mm以下が特に好ましい。
なお、グラニュールの平均粒子径D50は、例えば試料のレーザー回折測定により求めた体積基準の累積粒度分布50%の点の粒子径である。
【0022】
例えば、金属原子含有層に含まれる金属が、先に記載した第1の金属(銀)と第2の金属の1種以上との組み合わせである場合、斯かる蒸着源は、例えば、以下の方法によって調製することができる。
第1の金属である銀の粒子(銀粒子)を含む液体(以下、「第1の金属粒子含有液」とも呼ぶ。)を準備する。斯かる第1の金属粒子含有液は、例えば、銀粒子の水分散液であってもよい。第1の金属粒子含有液における銀粒子の濃度(含有量)としては、例えば、1000~10000ppmの範囲であってもよい。本開示及び本明細書において、ppmは、質量基準である。
上記第1の金属粒子含有液とは別に、第2の金属の粒子の1種以上を含む液体(以下、「第2の金属粒子含有液」とも呼ぶ。)を準備する。斯かる第2の金属粒子含有液は、例えば、第2の金属の粒子の水分散液であってもよい。また、第2の金属粒子含有液として、第2の金属の粒子の1種以上を含む第2の金属粒子含有液を1種のみ使用してもよく、又は、第2の金属の粒子の1種以上を含む第2の金属粒子含有液を2種以上使用してもよい。いずれの場合においても、第2の金属粒子含有液における第2の金属の粒子の濃度(含有量)としては、例えば、1000~10000ppmの範囲であってもよい。ここで、第2の金属粒子含有液が第2の金属の粒子を2種以上含む場合、上記の濃度(含有量)は、それら2種以上の金属の粒子の合計についての濃度(含有量)をいうものとする。
上記の各金属粒子含有液としては、例えば、金属粒子の水分散液として市販されている市販品をそのまま使用してもよく、又は、市販品を希釈して使用してもよい。
こうして上記金属粒子含有液を準備した後、上記金属粒子含有液を上記グラニュールを含む担体に含浸させる。上記の複数種の金属粒子含有液は、上記担体に別々に含浸させてもよく、同時に含浸させてもよく、又は、複数種の金属粒子含有液を混合した混合液を上記担体に含浸させてもよい。担体に含浸させる第1の金属粒子含有液の液量としては、例えば、0.1~5.0mLの範囲であってもよい。担体に含浸させる第2の金属粒子含有液の液量としては、例えば、0.1~5.0mLの範囲であってもよい。また、第1の金属粒子含有液の液量に対して、第2の金属粒子含有液の液量は、0.1~5倍の範囲であってもよい。ここで、第2の金属粒子含有液として2種以上の第2の金属粒子含有液を使用する場合、上記の液量は、それら2種以上の第2の金属粒子含有液の合計についての液量をいうものとする。
金属粒子含有液を担体に含浸させる方法としては、例えば、金属粒子含有液を担体に注入又は噴霧する方法、担体を金属粒子含有液に浸漬させる方法、などが挙げられる。
【0023】
上記金属粒子含有液をグラニュールからなる担体に含浸させた後に乾燥処理を行うことによって、金属粒子含有液中の溶媒成分(水分)が蒸発して、金属粒子がグラニュールからなる担体に保持される。
【0024】
上記の各金属粒子の粒径は、電子ビーム照射によって気化させ易いという観点から、0.1~10nmが好ましく、1~7nmがより好ましく、2~5nmが特に好ましい。
【0025】
電子ビーム蒸着は、電子銃を備えた真空蒸着装置において行うことができる。斯かる真空蒸着装置の一例の模式図を
図1に示す。
図1に示す真空蒸着装置1の内部(一般に「真空チャンバー」と呼ばれる。)には、被成膜物11と電子銃3とが、蒸着源2を挟んで対向配置されている。被成膜物11の蒸着源側の表面は、その上に金属原子含有層14が成膜される部分の表面である。斯かる表面は、基材表面上に金属原子含有層を直接設ける場合には、基材表面であり、基材上に設けられた層に上記金属原子含有層を積層する場合には、その層の表面である。電子ビームEBは、電子銃3に備えられたフィラメントに加熱電流を流すことによって発生させることができる。上記加熱電流は、使用する電子銃の構成、蒸着材料の種類等に応じて設定する。また、電子ビーム照射時間等の照射条件は、所望の膜厚等に応じて設定する。電子銃3から発生した電子ビームEBが蒸着源2に照射されることにより、蒸着源2に含まれる蒸着材料が加熱されて気化し、被成膜物11の表面に堆積して金属原子含有層14が成膜される。蒸着源2として、先に記載したように第1の金属の粒子及び第2の金属の粒子を担体に担持させた蒸着源を使用する場合、蒸着材料である第1の金属の粒子及び第2の金属の粒子を電子ビーム照射によって加熱して気化させることにより、それら金属を含む蒸着膜として、金属原子含有層14を被成膜物11上に成膜することができる。真空チャンバー内は、例えば、大気雰囲気であり、内部の圧力は一般に真空蒸着が行われる圧力とすればよく、例えば、2×10
-2Pa以下であってもよい。電子ビーム蒸着処理を行う回数は1回以上であり、同種又は異なる種類の蒸着源2を使用して2回以上行ってもよい。例えば、同種又は異なる種類の蒸着源2を使用して2回以上の電子ビーム蒸着処理を行うことによって、より膜厚が厚い金属原子含有層14を成膜することができる。
【0026】
上記では、2種以上の金属を含む金属原子含有層を形成する場合を例として説明したが、上記金属原子含有層は、一形態では、含まれる金属が1種のみであってもよい。そのような金属原子含有層の形成についても上記の説明を参照できる。
【0027】
先に記載したように、既存製品の光学設計を変更することなく、または大きく変更することなく、機能性層を有する眼鏡レンズを製造することを可能にする観点からは、機能性層の存在が眼鏡レンズの反射特性及び/又は透過特性に及ぼす影響は少ないことが好ましい。この点から、上記金属原子含有層の膜厚が薄いことは好ましく、上記金属原子含有層の膜厚としては、5nm以下が好ましく、4nm以下がより好ましく、3nm以下(例えば1nm以上3nm以下)が特に好ましい。本開示及び本明細書において、金属原子含有層の膜厚は、物理膜厚である。この点は、本開示及び本明細書における各種厚さについても同様である。上記金属原子含有層の膜厚について、2回以上の成膜処理によって同種又は異なる種類の金属原子含有層の2層以上を積層させた眼鏡レンズについては、それら2層以上の合計の厚さをいうものとする。先に説明したように電子ビーム蒸着法によって上記金属原子含有層を形成することにより、膜厚が上記範囲の薄膜であって膜厚の均一性に優れる蒸着膜を形成することができる。上記金属原子含有層等の眼鏡レンズに含まれる各種の層の膜厚及び基材の厚さは、例えば、走査電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)等による断面観察によって求めることができる。
【0028】
以上説明した金属原子含有層は、一形態では眼鏡レンズの基材表面上に直接設けてもよく、他の一形態ではレンズ基材表面上に1層以上の他の層を介して間接的に設けてもよい。以下に、上記製造方法によって製造される眼鏡レンズが含み得る各種の層について説明する。
【0029】
<眼鏡レンズ>
上記眼鏡レンズは、一形態では、基材上に配置された反射防止膜をさらに有し、金属原子含有層は、反射防止膜上に配置される。反射防止膜が多層膜である場合、金属原子含有層は、基材から最も離れた位置の反射防止層の上に配置される。
また、上記眼鏡レンズは、他の一形態では、基材上に配置された反射防止膜をさらに有し、反射防止膜は、複数の単層が積層した積層体であり、金属原子含有層は、隣り合う少なくとも1対の単層同士の間に配置されている。反射防止膜が多層膜である場合、金属原子含有層は、基材から最も離れた位置の反射防止層の下に配置される。
【0030】
<<眼鏡レンズが含み得る層>>
(無機層)
上記眼鏡レンズは、基材上に無機層を有していてもよい。本開示及び本明細書において、「無機層」とは、先に記載したように、無機物質を含む層であり、好ましくは無機物質を主成分として含む層である。主成分については、先に記載した通りである。上記無機層は、基材表面上に直接積層された層であってもよく、または基材表面上に1層以上の他の層を介して間接的に積層された層であってもよい。上記の他の層としては、一般にハードコート層と呼ばれる硬化性組成物の硬化層、密着性向上のために設けられるプライマー層等の公知の層が挙げられる。これらの層の種類及び膜厚としては、特に制限はなく、眼鏡レンズに望まれる機能及び光学特性に応じて決定することができる。
上記ハードコート層の厚さとしては、0.1~10μmが好ましく、0.5~7μmがより好ましく、1~5μmが特に好ましい。
【0031】
上記無機層は、一形態では、2層以上の無機層の多層膜であってもよい。上記無機層が多層膜の場合、この多層膜の最上層の無機層(即ち、基材から最も離れた位置の無機層)の上又は下に上記金属原子含有層を設けることができる。斯かる多層膜としては、高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ1層以上含む多層膜が挙げられる。斯かる多層膜は、特定の波長の光、若しくは、特定の波長域の光の反射を防止する性質を有する反射防止膜、又は、特定の波長の光もしくは特定の波長域の光を反射する性質を有する反射膜である。本開示及び本明細書において、「高屈折率」及び「低屈折率」に関する「高」、「低」とは、相対的な表記である。即ち、高屈折率層とは、同じ多層膜に含まれる低屈折率層より屈折率が高い層をいう。換言すれば、低屈折率層とは、同じ多層膜に含まれる高屈折率層より屈折率が低い層をいう。高屈折率層を構成する高屈折率材料の屈折率は、例えば、1.60以上(例えば1.60~2.40の範囲)であり、低屈折率層を構成する低屈折率材料の屈折率は、例えば1.59以下(例えば1.37~1.59の範囲)である。ただし、上記の通り、高屈折率及び低屈折率に関する「高」、「低」の表記は相対的なものであるため、高屈折率材料及び低屈折率材料の屈折率は、上記範囲に限定されるものではない。
【0032】
具体的には、高屈折率層を形成するための高屈折率材料としては、酸化ジルコニウム(例えばZrO2)、酸化タンタル(例えばTa2O5)、酸化チタン(例えばTiO2)、酸化アルミニウム(例えばAl2O3)、酸化イットリウム(例えばY2O3)、酸化ハフニウム(例えばHfO2)、及び酸化ニオブ(例えばNb2O5)からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物が挙げられる。
一方、低屈折率層を形成するための低屈折率材料としては、酸化ケイ素(例えばSiO2)、フッ化マグネシウム(例えばMgF2)、及びフッ化バリウム(例えばBaF2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物又はフッ化物が挙げられる。上記の例示では、便宜上、酸化物及びフッ化物を化学量論組成で表示したが、化学量論組成から酸素又はフッ素が欠損もしくは過多の状態にあるものも、高屈折率材料又は低屈折率材料として使用可能である。
【0033】
好ましくは、高屈折率層は高屈折率材料を主成分とする膜であり、低屈折率層は低屈折率材料を主成分とする膜である。上記高屈折率材料又は低屈折率材料を主成分とする成膜材料(例えば蒸着材料)を用いて成膜を行うことにより、そのような膜(例えば蒸着膜)を形成してもよい。膜及び成膜材料には、不可避的に混入する不純物が含まれる場合があり、また、主成分の果たす機能を損なわない範囲で他の成分、例えば他の無機物質や成膜を補助する役割を果たす公知の添加成分が含まれていてもよい。成膜は、公知の成膜方法により行うことができ、成膜の容易性の観点からは、蒸着により行うことが好ましく、真空蒸着により行うことがより好ましい。反射防止膜は、例えば、高屈折率層と低屈折率層が交互に合計3~10層積層された多層膜である。高屈折率層の膜厚及び低屈折率層の膜厚は、層構成に応じて決定することができる。詳しくは、多層膜に含まれる層の組み合わせ、及び各層の膜厚は、高屈折率層及び低屈折率層を形成するための成膜材料の屈折率と、多層膜を設けることにより眼鏡レンズにもたらしたい所望の反射特性及び透過特性に基づき、公知の手法による光学設計シミュレーションにより決定することができる。また、多層膜には、導電性酸化物を主成分とする層(導電性酸化物層)、好ましくは導電性酸化物を主成分とする蒸着材料を用いる蒸着により形成された導電性酸化物の蒸着膜の1層以上が任意の位置に含まれていてもよい。
なお、多層膜の厚さとしては、100~1000nmが好ましく、200~800nmがより好ましく、300~700nmが特に好ましい。
【0034】
一形態では、上記製造方法によって製造される眼鏡レンズは、上記無機層の表面上に上記金属原子含有層を有していてもよい。例えば、上記金属原子含有層は、上記無機層の表面上に直接積層された層であってもよく、又は、上記無機層の表面上に1層以上の他の層を介して間接的に積層された層であってもよい。他の層については、先の記載を参照できる。
【0035】
(撥水層)
上記製造方法によって製造される眼鏡レンズは、撥水層を有していてもよい。本開示及び本明細書において、「撥水層」とは、眼鏡レンズ表面が撥水性を発揮することに寄与するか、又は、この層を有さない場合と比べてより良好な撥水性を発揮することに寄与する層をいうものとする。一形態では、上記製造方法によって製造される眼鏡レンズは、上記金属原子含有層の表面上に撥水層を有していてもよい。例えば、上記撥水層は、上記金属原子含有層の表面上に直接積層された層であってもよく、又は、上記金属原子含有層の表面上に1層以上の他の層を介して間接的に積層された層であってもよい。他の層については、先の記載を参照できる。
【0036】
上記撥水層は、撥水剤として機能し得る成膜材料を使用して成膜処理を行うことによって上記金属原子含有層上に積層させることができる。成膜方法としては、乾式成膜法及び湿式成膜法からなる群から選択される成膜法が挙げられる。乾式成膜法としては、物理気相成長及び化学気相成長法が挙げられ、湿式成膜法としては塗布法等が挙げられる。物理気相成長法としては、蒸着法、スパッタリング法等が挙げられる。これらの中でも、蒸着法が好ましい。
【0037】
上記撥水層は、一形態ではフッ素系有機層であってもよい。ここで「系」とは、「含む」の意味で用いられる。また、本開示及び本明細書において、「有機層」とは、有機物質を含む層であり、好ましくは有機物質を主成分として含む層である。主成分については、先に記載した通りである。
【0038】
フッ素系有機層は、成膜材料としてフッ素系有機物質を使用して成膜処理を行うことによって上記金属原子含有層上に積層させることができる。フッ素系有機層の形成のために好ましい成膜法としては、乾式成膜法が挙げられ、蒸着法がより好ましい。フッ素系有機物質は、先に記載した金属原子含有層の形成に使用され得る蒸着材料と比べて沸点が低い傾向があるため、加熱蒸着法の使用も好ましい。フッ素系有機物質を含む液体(例えば、分散液)を担体に含浸させた後に乾燥処理を施すことによって、フッ素系有機物質が担体に担持された蒸着源を作製することができる。蒸着源の作製方法については、金属原子含有層の形成に関する先の記載も適宜参照できる。
【0039】
フッ素系有機物質の一例としては、メタキシレンヘキサフルオライド(C6H4(CF3)2)等が挙げられる。
【0040】
また、フッ素系有機物質としては、例えば、下記の一般式(1)で表されるフッ素系有機シラン化合物が挙げられる。
【0041】
【0042】
上記一般式(1)中、Rfは炭素数1~16の直鎖状又は分岐状パーフルオロアルキル基であり、好ましくはCF3-、C2F5-、C3F7-である。R1は加水分解可能な基であり、例えばハロゲン原子、-OR3、-OCOR3、-OC(R3)=C(R4)2、-ON=C(R3)2、-ON=CR5が好ましい。さらに好ましくは、塩素原子、-OCH3、-OC2H5である。ここで、R3は、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、R4は水素原子又は脂肪族炭化水素基(例えば低級脂肪族炭化水素基)であり、R5は炭素数3~6の二価の脂肪族炭化水素基である。R2は水素原子又は一価の有機基である。上記一価の有機基は、不活性な基であることが好ましい。上記一価の有機基は、炭素数1~4の一価の炭化水素基であることがより好ましい。Xはヨウ素原子又は水素原子であり、Yは水素原子又はアルキル基(例えば低級アルキル基)である。Zはフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。a、b、c、dは、それぞれ独立して、0~200の範囲の整数であり、好ましくは1~50の範囲の整数である。eは0又は1である。m、nは、それぞれ独立して、0~2の範囲の整数であり、好ましくは0である。pは1以上の整数であり、好ましくは1~10の範囲の整数である。
【0043】
また、一般式(1)で表されるフッ素系有機シラン化合物の分子量(重量平均分子量Mw)としては、特に制限はなく、例えば、5×102~1×105の範囲又は5×102~1×104の範囲である。
【0044】
また、上記一般式(1)で示されるフッ素系有機シラン化合物は、一形態では、下記の一般式(2)で表されるフッ素系有機シラン化合物である。
【0045】
【0046】
上記一般式(2)中のR1、Y、mは上記一般式(1)と同義である。qは1~50の範囲の整数であり、rは1~10の範囲の整数である。
【0047】
上記撥水層の膜厚は、例えば、30nm以下、25nm以下、20nm以下、又は15nm以下である。また、上記撥水層の膜厚は、例えば、5nm以上又は10nm以上である。また、撥水層の表面において、水に対する接触角は、例えば、100°以上120°以下である。
【0048】
上記製造方法では、上記金属原子含有層を、眼鏡レンズの物体側及び眼球側のいずれか一方の任意の位置に1層以上形成してもよい。例えば、上記製造方法では、上記無機層と上記撥水層との間に上記金属原子含有層を有する眼鏡レンズを製造してもよい。この場合、上記無機層、上記金属原子含有層及び上記撥水層を少なくとも含む積層体は、基材の少なくとも一方の表面上に形成してもよく、両方の表面上に形成してもよい。例えば、眼鏡レンズの物体側に上記積層体が位置してもよく、眼鏡レンズの眼球側に上記積層体が位置してもよく、眼鏡レンズの物体側及び眼球側に上記積層体が位置してもよい。眼鏡レンズの両側に上記積層体が位置する場合、物体側の積層体と眼球側の積層体は、同じ積層体であってもよく、異なる積層体であってもよい。
【0049】
上記眼鏡レンズは、上記金属原子含有層が抗菌層として機能することができ、これにより抗菌性を発揮することができる。また、撥水層を有する場合、上記眼鏡レンズは撥水性を発揮することもでき、これにより、例えば、レンズの水ヤケ等を防ぐことができる。上記無機層は、例えば反射防止膜として機能することにより、特定の波長の光又は特定の波長域の光に対する反射防止性能を眼鏡レンズにもたらすことができる。
【0050】
本開示は、上記各成分の例、含有量、各種物性については、発明の詳細な説明に例示又は好ましい範囲として記載された事項を任意に組み合わせてもよい。
また、実施例に記載した組成に対し、発明の詳細な説明に記載した組成に調整を行えば、クレームした組成範囲全域にわたって実施例と同様に発明を実施することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本開示を実施例により更に説明する。ただし本開示は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0052】
以下において、SiO2層とは、二酸化ケイ素を蒸着材料として成膜された蒸着膜であり、ZrO2層とは、酸化ジルコニウム(IV)を蒸着材料として形成された蒸着膜である。各蒸着材料は、不可避的に混入する不純物を除けば、記載されている酸化物のみからなる蒸着材料である。
【0053】
[実施例1]
<ハードコート層付きレンズ基材の作製>
眼鏡レンズ用モノマー(三井化学社製MR8)により製造したプラスチックレンズ基材の物体側表面(凸面)の全面に、無機酸化物粒子とケイ素化合物とを含むハードコート液をスピンコーティングによって塗布し、炉内温度100℃の加熱炉において60分間加熱硬化させることにより、膜厚3μmの単層のハードコート層を形成した。
【0054】
<多層反射防止膜の作製>
次に、上記ハードコート層を形成したレンズ基材を真空蒸着装置に入れ、上記ハードコート層表面の全面に、真空蒸着法により、「SiO2層/ZrO2層/SiO2層/ZrO2層/SiO2層/ZrO2層/SiO2層」の合計7層(総厚:約400~600nm)が積層された多層反射防止膜を形成した。「/」の表記は、「/」の左に記載の部分と右に記載の部分が直接積層されていることを示す。この点は、以下の記載においても同様である。
こうして、「レンズ基材/ハードコート層/多層反射防止膜(無機層、無機物質の含有率:90質量%以上)」の層構成を有する眼鏡レンズを作製した。
【0055】
<金属原子含有層の作製>
(蒸着源の調製)
第1の金属粒子含有液として、粒径2~5nmの銀粒子を5000ppmの濃度で含む水分散液を準備した。
第2の金属粒子含有液として、粒径2~5nmの白金粒子を5000ppmの濃度で含む水分散液を準備した。
担体として、二酸化ケイ素グラニュール(SiO2グラニュール、D50:1.0mm)を使用し、このSiO2グラニュールに、第1の金属粒子含有液1.0mLを注入した後に内部温度65~75℃の大気オーブンにて1時間乾燥処理を施した。これを2回繰り返した後(第1の金属粒子含有液の担体への合計注入量:2.0mL)、第2の金属粒子含有液1.0mLを注入し内部温度65~75℃の大気オーブンにて1時間乾燥処理を施した。これを2回繰り返し(第2の金属粒子含有液の担体への合計注入量:2.0mL)、銀粒子及び白金粒子(蒸着材料)がSiO2グラニュールに担持された蒸着源を調製した。
【0056】
(電子ビーム蒸着法による金属原子含有層の成膜)
図1に示すように、真空蒸着装置の真空チャンバー内に、上記多層反射防止膜が形成された眼鏡レンズ及び上記蒸着源を配置した。真空チャンバー内の圧力は2×10
-2Pa以下とし、電子ビーム照射条件を、電子ビーム出力(加熱電流)を38mA、電子ビーム照射時間を300秒として、電子銃から蒸着源に向かって電子ビームを照射した。こうして電子ビームを照射することによって銀粒子及び白金粒子を加熱して気化させることができ、上記多層反射防止膜の表面上に銀粒子及び白金粒子が堆積した蒸着膜を形成することができる。こうして、上記多層反射防止膜の表面上に金属原子含有層(金属含有無機層、含有金属:銀及び白金、無機物質の含有率:90質量%以上、厚さ3nm)を成膜した。
【0057】
<撥水層の作製>
(蒸着源の調製)
フッ素系有機物質としてメタキシレンヘキサフルオライドを含有する液体を準備した。
担体として、直径18mmの円盤状の焼結フィルタ(材質:SUS)を使用し、この焼結フィルタを、上記液体0.25mLを注入した後に内部温度50℃の大気オーブンにて1時間乾燥処理を施した。
こうして、メタキシレンヘキサフルオライド(蒸着材料)が焼結フィルタに担持された蒸着源を調製した。
【0058】
(加熱蒸着法による撥水層の成膜)
図1に示すように、真空蒸着装置の真空チャンバー内に、上記金属原子含有層が形成された眼鏡レンズ及び上記蒸着源を配置した。
図1中の電子銃をハロゲンヒーターに代え、ハロゲンヒーターによって真空チャンバー内の内部雰囲気温度を650℃に制御し、真空チャンバー内の圧力は2×10
-2Pa以下として、加熱蒸着法によって撥水層を成膜した。こうしてチャンバー内を加熱することによってメタキシレンヘキサフルオライドを加熱して気化させることができ、上記金属原子含有層の表面上にメタキシレンヘキサフルオライドが堆積した蒸着膜を形成することができる。こうして、上記金属原子含有層の表面上に膜厚10~20nmの撥水層(撥水剤:メタキシレンヘキサフルオライド)を成膜した。なお、撥水層の接触角は110°であった。
【0059】
以上の工程によって、「レンズ基材/ハードコート層(厚さ3μm)/多層反射防止膜(無機層)(厚さ400~600nm)/金属原子含有層(厚さ3nm)/撥水層(フッ素系有機層、有機物質の含有率:90質量%以上、厚さ10~20nm)」の層構成を有する実施例1の眼鏡レンズを作製した。
【0060】
[比較例1]
金属原子含有層の作製を実施しなかった点以外、実施例1と同様にして、「レンズ基材/ハードコート層(厚さ3μm)/多層反射防止膜(無機層)(厚さ400~600nm)/撥水層(厚さ10~20nm)」の層構成を有する比較例1の眼鏡レンズを作製した。
【0061】
[比較例2]
<ハードコート層付きレンズ基材の作製>
眼鏡レンズ用モノマー(三井化学社製MR8)により製造したプラスチックレンズ基材の物体側表面(凸面)の全面に、無機酸化物粒子とケイ素化合物とを含むハードコート液をスピンコーティングによって塗布し、炉内温度100℃の加熱炉において60分間加熱硬化させることにより、膜厚3μmの単層のハードコート層を形成した。
【0062】
<多層反射防止膜の作製>
次に、上記ハードコート層を形成したレンズ基材を真空蒸着装置に入れ、上記ハードコート層表面の全面に、真空蒸着法により、「(SiO2+Ag)層/ZrO2層/(SiO2+Ag)層/ZrO2層/(SiO2+Ag)層/ZrO2層/(SiO2+Ag)層」の合計7層(総厚:約400~600nm)が積層された多層反射防止膜を形成した。なお、(SiO2+Ag)層は、二酸化ケイ素(SiO2)と、金属イオン担持ゼオライト(商品名:AG-H3、稀産金属株式会社製)とを用いて形成した。
こうして、「レンズ基材/ハードコート層/多層反射防止膜(無機層、無機物質の含有率:90質量%以上)」の層構成を有する眼鏡レンズを作製した。
【0063】
<撥水層の作製>
(蒸着源の調製)
フッ素系有機物質としてメタキシレンヘキサフルオライドを含有する液体を準備した。
担体として、直径18mmの円盤状の焼結フィルタ(材質:SUS)を使用し、この焼結フィルタを、上記液体0.25mLを注入した後に内部温度50℃の大気オーブンにて1時間乾燥処理を施した。
こうして、メタキシレンヘキサフルオライド(蒸着材料)が焼結フィルタに担持された蒸着源を調製した。
【0064】
(加熱蒸着法による撥水層の成膜)
図1に示すように、真空蒸着装置の真空チャンバー内に、上記多層反射防止膜が形成された眼鏡レンズ及び上記蒸着源を配置した。
図1中の電子銃をハロゲンヒーターに代え、ハロゲンヒーターによって真空チャンバー内の内部雰囲気温度を650℃に制御し、真空チャンバー内の圧力は2×10
-2Pa以下として、加熱蒸着法によって撥水層を成膜した。こうしてチャンバー内を加熱することによってメタキシレンヘキサフルオライドを加熱して気化させることができ、上記多層反射防止膜の表面上にメタキシレンヘキサフルオライドが堆積した蒸着膜を形成することができる。こうして、上記多層反射防止膜の表面上に膜厚10~20nmの撥水層(撥水剤:メタキシレンヘキサフルオライド)を成膜した。
【0065】
以上の工程によって、「レンズ基材/ハードコート層(厚さ3μm)/多層反射防止膜(無機層)(厚さ400~600nm)/撥水層(フッ素系有機層、有機物質の含有率:90質量%以上、厚さ10~20nm)」の層構成を有する比較例2の眼鏡レンズを作製した。
【0066】
[比較例3]
金属原子含有層の作製における蒸着源の調製を以下の方法によって実施した点以外、実施例1と同様にして、「レンズ基材/ハードコート層(厚さ3μm)/多層反射防止膜(無機層)(厚さ400~600nm)/金属原子含有層(厚さ3nm)/撥水層(厚さ10~20nm)」の層構成を有する比較例3の眼鏡レンズを作製した。
【0067】
(蒸着源の調製)
第1の金属粒子含有液として、粒径2~5nmの銀粒子を5000ppmの濃度で含む水分散液を準備した。
第2の金属粒子含有液として、粒径2~5nmの白金粒子を5000ppmの濃度で含む水分散液を準備した。
担体として、直径18mmの円盤状の焼結フィルタ(材質:SUS)を使用し、この焼結フィルタを、第1の金属粒子含有液0.5mLを注入した後に内部温度65~75℃の大気オーブンにて1時間乾燥処理を施した。これを2回繰り返した後(第1の金属粒子含有液の担体への合計注入量:1.0mL)、第2の金属粒子含有液0.5mLを注入し内部温度65~75℃の大気オーブンにて1時間乾燥処理を施した。これを2回繰り返し(第2の金属粒子含有液の担体への合計注入量:1.0mL)、銀粒子及び白金粒子(蒸着材料)が焼結フィルタに担持された蒸着源を調製した。
【0068】
[反射特性及び透過特性の評価]
実施例1及び比較例1~3の各眼鏡レンズの物体側から、物体側表面(凸面側)の光学中心における直入射反射分光特性を測定した。
また、実施例1及び比較例1~3の各眼鏡レンズの眼球側から、眼球側表面(凹面側)の光学中心における直入射反射分光特性を測定した。
測定結果から得られた波長380~780nmにおける実施例1の透過スペクトル、凸面側の反射スペクトル、凹面側の反射スペクトルのスペクトル形状は、比較例1の各スペクトルのスペクトル形状とほぼ一致していた。
測定結果から、視感反射率をJIS T 7334:2011にしたがい求め、視感透過率をJIS T 7333 :2005にしたがい求めた。結果を表1に示す。
【0069】
【0070】
表1に示されている結果から、実施例1の眼鏡レンズにおいて、金属原子含有層は眼鏡レンズの反射特性及び透過特性にほとんど影響を及ぼしていないことが確認できる。
【0071】
実施例1の各眼鏡レンズをSEMにより断面観察したところ、金属粒子の存在が確認された。
【0072】
[抗菌性試験]
実施例1及び比較例1~3の各眼鏡レンズについて、JIS Z 2801:2012にしたがって抗菌性試験を行った。
具体的には、各眼鏡レンズから、抗菌性の初期評価、耐水性評価及び耐光性評価のために、試料片を3つ切り出す。試料片のサイズは50mm×50mmとする。
初期評価は、以下の方法によって実施する。
各眼鏡レンズから切り出した試験片を、上記の各種の層を積層した側の表面を上方に向けて滅菌済みシャーレに入れる。その後、1.0×105個~4.0×105個の試験菌(黄色ブドウ球菌又は大腸菌)を含む菌液0.4mLを試料の上記表面の中央部に滴下し、40mm×40mmのサイズに切断したポリエチレンフィルムで被覆する。このシャーレを相対湿度90%以上の環境に24時間置いた後の1cm2あたりの生菌数を測定する。
耐水性評価は、以下の方法によって実施する。
各眼鏡レンズから切り出した試験片に対して、SIAA(抗菌製品技術協議会)の持続性試験法(2018年度版)の耐水性試験の章に記載の区分1の耐水性試験を実施した後、上記と同様の処理を行い、生菌数を測定する。
耐光性評価は、以下の方法によって実施する。
各眼鏡レンズから切り出した試験片に対して、SIAA(抗菌製品技術協議会)の持続性試験法(2018年度版)の耐水性試験の章に記載の区分1の耐光性試験を実施した後、上記と同様の処理を行い、生菌数を測定する。
【0073】
比較例1の上記の各種評価で測定された生菌数を表2に示す。
【0074】
【0075】
実施例1について、上記の各種評価で測定された生菌数から以下の式によって抗菌活性値を求めた。
比較例3について、上記の各種評価で測定された生菌数から以下の式によって抗菌活性値を求めた。
【0076】
抗菌活性値=Ut-At
Ut:比較例1の試料片での生菌数の対数値
At:実施例1又は比較例3の試料片での生菌数の対数値
【0077】
実施例1の評価結果を表3に示し、比較例3の評価結果を表4に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
以上、実施例及び比較例の結果から、実施例に係る眼鏡レンズの製造方法は、反射特性及び透過特性に対して悪影響がなく、抗菌性能が高い眼鏡レンズを製造可能であることが分かる。
【0081】
最後に、本開示の実施の形態を総括する。
本開示の実施の形態である眼鏡レンズの製造方法は、基材と、前記基材上に配置された金属原子含有層を有する眼鏡レンズの製造方法であって、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO2)、及び酸化チタン(IV)(TiO2)からなる群から選択される少なくとも1種のグラニュールを含む担体が少なくとも1種の金属を含む金属粒子を担持した蒸着源に電子ビームを照射することを含む電子ビーム蒸着によって前記基材上に前記金属原子含有層を形成することを含む、眼鏡レンズの製造方法である。
上述した実施の態様によれば、反射特性及び透過特性に対して悪影響がなく、抗菌性能が高い眼鏡レンズを製造可能な眼鏡レンズの製造方法を提供することができる。
【0082】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
本開示は、上記各成分の例、含有量、各種物性については、発明の詳細な説明に例示又は好ましい範囲として記載された事項を任意に組み合わせてもよい。
また、実施例に記載した組成に対し、発明の詳細な説明に記載した組成となるように調整を行えば、クレームした組成範囲全域にわたって実施例と同様に開示の実施の形態を実施することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 真空蒸着装置
2 蒸着源
3 電子銃
11 被成膜物
14 金属原子含有層
EB 電子ビーム