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  • -非晶質体及び当該非晶質体を含む組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-03-13
(45)【発行日】2026-03-24
(54)【発明の名称】非晶質体及び当該非晶質体を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 409/12 20060101AFI20260316BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20260316BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20260316BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20260316BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20260316BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20260316BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20260316BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20260316BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20260316BHJP
【FI】
C07D409/12
A61K31/496
A61K9/10
A61K47/06
A61K47/12
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/38
A61P25/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023500872
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2022006064
(87)【国際公開番号】W WO2022176877
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2025-01-29
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/005721
(32)【優先日】2021-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 直興
(72)【発明者】
【氏名】吉村 元靖
(72)【発明者】
【氏名】木本 万里子
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-526435(JP,A)
【文献】特表2015-515959(JP,A)
【文献】特開2013-139441(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0160005(US,A1)
【文献】特表2015-514677(JP,A)
【文献】特表2003-506329(JP,A)
【文献】特表2005-521636(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021707(WO,A1)
【文献】特表2019-529564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 409/00
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン及び少なくとも1種の有機酸を含む非晶質体であって、前記有機酸が、1~8個の炭素原子を有するカルボン酸である、非晶質体。
【請求項2】
有機酸が乳酸である、請求項1に記載の非晶質体。
【請求項3】
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン、少なくとも1種の有機酸、及び少なくとも1種の腸溶性ポリマーを含む、非晶質固体分散体であって、前記有機酸が、1~8個の炭素原子を有するカルボン酸である、非晶質固体分散体。
【請求項4】
有機酸が乳酸である、請求項3に記載の非晶質固体分散体。
【請求項5】
腸溶性ポリマーが非イオン性の水溶性ポリマーである、請求項3又は4に記載の非晶質固体分散体。
【請求項6】
腸溶性ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びそのカルボン酸とのエステル、並びにポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3~5のいずれかに記載の非晶質固体分散体。
【請求項7】
スプレードライ粉末である、請求項1又は2に記載の非晶質体又は請求項3~のいずれかに記載の非晶質固体分散体。
【請求項8】
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンと、有機酸、又は腸溶性ポリマー及び有機酸の両方とを含む混合物を噴霧乾燥する工程を含み、
前記有機酸が、1~8個の炭素原子を有するカルボン酸である、請求項1、2、及びのいずれかに記載の非晶質体又は請求項3~のいずれかに記載の非晶質固体分散体の製造方法。
【請求項9】
請求項1、2、及びのいずれかに記載の非晶質体及び請求項3~のいずれかに記載の非晶質固体分散体からなる群より選択される少なくとも1種と、
親水性ポリマーと
を含有する医薬組成物。
【請求項10】
親水性ポリマーが、セルロース系水溶性高分子、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレングリコール、及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
経口固形医薬組成物である、請求項又は10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
ヒト経口投与時の定常状態時の7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンの血中濃度が、15ng/mL~400ng/mLの範囲で1週間維持される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
週1回、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンを、5mg~60mgの用量で投与するための、請求項12のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項14】
中枢神経疾患を予防または治療するための請求項13のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンを含む非晶質体、及び当該非晶質体を含む組成物等に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン(以下、化合物(I)又はブレクスピプラゾールともいう)は、ドパミンD受容体パーシャルアゴニスト作用、セロトニン5-HT2A受容体アンタゴニスト作用及びアドレナリンα受容体アンタゴニスト作用を有する。また化合物(I)は、それらの作用に加えてセロトニン取り込み阻害作用(あるいはセロトニン再取り込み阻害作用)を併有し、中枢神経疾患(特に統合失調症)に対して広い治療スペクラムを有することが知られている(特許文献1)。また、ブレクスピプラゾールは水に溶けにくい薬物(難溶性薬物)として知られている。難溶性薬物は消化管内における溶解度も低いため、消化管粘膜からの吸収が劣ることが問題となることがある。したがって、難溶性薬物の溶解性を改善し、かつ経口吸収性を改善する製剤設計は、難溶性薬物の薬効発現のために、現在においてもなお、重要な技術的課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-316052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、溶出性に優れ、さらに好ましくは安定性に優れた、化合物(I)を含む非晶質固体分散体、化合物(I)及び有機酸を含む非晶質体(アモルファス)、当該非晶質体を含む非晶質固体分散体、当該非晶質体又は非晶質固体分散体を含有する医薬組成物、並びにこれらの調製方法等の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、化合物(I)に特定のポリマーを加えることにより、優れた溶出性を示す化合物(I)の非晶質固体分散体が得られることを見いだした。
【0006】
さらに、本発明者らは、化合物(I)及び有機酸を含む非晶質体が得られること、並びに、当該化合物(I)及び有機酸を含む非晶質固体分散体は、含まれる化合物(I)の溶出性及び好ましくは安定性に優れること、も見いだした。
【0007】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン及び少なくとも1種の有機酸を含む非晶質体。
項2.
有機酸がカルボン酸である、項1に記載の非晶質体。
項2a.
有機酸がモノカルボン酸、ジカルボン酸、又はトリカルボン酸である、項1に記載の非晶質体。
項2b.
有機酸が、1個~8個の炭素原子を有するカルボン酸である、項1、2、又は2aに記載の非晶質体。
項2c.
有機酸が、酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、及びフタル酸からなる群より選択される少なくとも1種のカルボン酸である、項1、2、2a、又は2bに記載の非晶質体。
項2d.
有機酸が、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、及びフタル酸からなる群より選択される少なくとも1種のカルボン酸である、項1、2、2a、2b、又は2cに記載の非晶質体。
項3.
有機酸が乳酸である、項1、2、2a、2b、2c、又は2dに記載の非晶質体。
項3a.
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンと有機酸との比率が、質量比で100:0.1~60の範囲である、項1、2、2a、2b、2c、2d、又は3に記載の非晶質体。
項4.
項1、2、2a、2b、2c、2d、3、又は3aに記載の非晶質体、及び少なくとも1種の腸溶性ポリマーを含む、非晶質固体分散体。
項5.
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン及び少なくとも1種の腸溶性ポリマーを含む、非晶質固体分散体。
項6.
腸溶性ポリマーが非イオン性の水溶性ポリマーである、項4又は5に記載の非晶質固体分散体。
項7.
腸溶性ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びその誘導体、並びにポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種である、項4~6のいずれかに記載の非晶質固体分散体。
項7a.
腸溶性ポリマーが、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルである、項4~7のいずれかに記載の非晶質固体分散体。
項7b.
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンと腸溶性ポリマーとの比率が、質量比で100:10~500の範囲である、項4、5、6、7、又は7aに記載の非晶質固体分散体。
項8.
スプレードライ粉末である、項1、2、2a、2b、2c、2d、3、又は3aに記載の非晶質体、あるいは項4、5、6、7、7a、又は7bに記載の非晶質固体分散体。
項8a.
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンを40℃、密閉条件で4週間保存した後のHPLCのクロマトグラムにおいて、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン及びその分解生成物のピークエリアの合計面積を100%としたときの、8-(1-ベンゾチオフェン-4-イル)-8-アザ-5-アゾニアスピロ[4.5]デカンのピークエリアの面積の割合が0.1%以下であることを特徴とする、項4、5、6、7、7a、7b、又は8に記載の非晶質固体分散体。
項9.
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンと、腸溶性ポリマー及び有機酸の少なくとも一方とを含む混合物を噴霧乾燥する工程を含む、請求項1~3のいずれかに記載の非晶質体、あるいは項4、5、6、7、7a、7b、8、又は8aに記載の非晶質固体分散体の製造方法。
項10.
請求項1、2、及び3に記載の非晶質体、並びに項4、5、6、7、7a、7b、8、及び9に記載の非晶質固体分散体からなる群より選択される少なくとも1種と、
親水性ポリマーと
を含有する医薬組成物。
項10a.
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンを5mg~60mgの範囲で含有する、項10に記載の医薬組成物。
項10b.
非晶質体及び/又は非晶質固体分散体を、コア錠剤(素錠)の重量に対して、10~40質量%の範囲で含有する、項10又は10aに記載の医薬組成物。
項11.
親水性ポリマーが、セルロース系水溶性高分子、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレングリコール、及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種である、項10、10a、又は10bに記載の医薬組成物。
項11a.
親水性ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項10、10a、10b、又は11に記載の医薬組成物。
項11b.
親水性ポリマーを、コア錠剤(素錠)の重量に対して、30~90質量%の範囲で含有する、項10、10a、又は10bあるいは項11又は11aに記載の医薬組成物。
項12.
経口固形医薬組成物である、項10、10a、又は10bあるいは項11、11a、又は11bに記載の医薬組成物。
項13.
ヒト経口投与時の定常状態時の7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンの血中濃度が、15ng/mL~400ng/mLの範囲で1週間維持される、項12に記載の医薬組成物。
項14.
週1回、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンを、5mg~60mgの用量で投与するための、項10、10a、10b、11、11a、11b、12、又は13に記載の医薬組成物。
項15.
中枢神経疾患を予防または治療するための項10、10a、10b、11、11a、11b、12、13、又は14に記載の医薬組成物。
項15a.
統合失調症、治療抵抗性、難治性または慢性統合失調症、失調感情障害、精神病性障害、気分障害、双極性障害、うつ病、内因性うつ病、大うつ病、メランコリー及び治療抵抗性うつ病、気分変調性障害、気分循環性障害、不安障害、身体表現性障害、虚偽性障害、解離性障害、性障害、摂食障害、睡眠障害、適応障害、物質関連障害、無快感症、せん妄、認知障害、神経変性疾患に伴う認知障害、神経変性疾患に起因した認知障害、統合失調症の認知障害、治療抵抗性、難治性または慢性統合失調症に起因する認知障害、嘔吐、乗物酔い、肥満、偏頭痛、疼痛、精神遅滞、自閉性障害、トウレット障害、チック障害、注意欠陥多動性障害、行為障害、ダウン症候群、認知症に伴う衝動性症状、並びに境界性人格障害からなる群より選ばれる少なくとも1種の中枢神経疾患を予防または治療するための、項10、10a、10b、11、11a、11b、12、13、14、又は15に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、医薬組成物、特に持続放出性の経口医薬組成物での使用に適した、溶出性に優れ、さらに好ましくは安定性に優れた化合物(I)の非晶質体及び非晶質固体分散体を提供することができる。
【0009】
尚、化合物(I)又はその塩に応答性の疾患は、例えば、以下である:統合失調症、治療抵抗性、難治性又は慢性統合失調症、失調感情障害、精神病性障害、気分障害、双極性障害(例えば、双極性I型障害及び双極性II型障害)、うつ病、内因性うつ病、大うつ病、メランコリー及び治療抵抗性うつ病、気分変調性障害、気分循環性障害、不安障害(例えば、パニック発作、パニック障害、広場恐怖、社会恐怖、強迫性障害、外傷後ストレス障害、全般性不安障害、急性ストレス障害等)、身体表現性障害(例えば、ヒステリー、身体化障害、転換性障害、疼痛性障害、心気症等)、虚偽性障害、解離性障害、性障害(例えば、性機能不全、性的欲求障害、性的興奮障害、勃起障害等)、摂食障害(例えば、神経性無食欲症、神経性大食症等)、睡眠障害、適応障害、物質関連障害(例えば、アルコール乱用、中毒及び薬物耽溺、覚醒剤中毒、麻薬中毒等)、無快感症(例えば、快感消失症、anhedonia、医原性無快感症、心理的、精神的な原因での無快感症、鬱病に伴う無快感症、統合失調症に伴う無快感症等)、せん妄、認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、その他の神経変性疾患に伴う認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病及び関連障害の神経変性疾患に起因した認知障害、統合失調症の認知障害、治療抵抗性、難治性又は慢性統合失調症等に起因する認知障害、嘔吐、乗物酔い、肥満、偏頭痛、疼痛、精神遅滞、自閉性障害(自閉症)、トウレット障害、チック障害、注意欠陥多動性障害、行為障害、ダウン症候群、認知症に伴う衝動性症状(例えば、アルツハイマー型認知症に伴う焦燥)、境界性人格障害等、中枢神経系の種々の障害。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各種腸溶性ポリマーを用いて調製した化合物(I)を含む非晶質固体分散体の、溶出率を検討した結果を示す。
図2】化合物(I)、腸溶性ポリマー、及び各種有機酸を用いて得られた各非晶質固体分散体からの、化合物(I)の溶出率を測定した結果を示す。
図3】化合物(I)の非晶質固体分散体、あるいは、化合物(I)及び乳酸の非晶質固体分散体についての、X線回折法解析結果を示す。
図4a】化合物(I)、腸溶性ポリマー、及び乳酸を用いて得られた各非晶質固体分散体の、TGA分析結果を示す。
図4b】化合物(I)、腸溶性ポリマー、及び乳酸を用いて得られた各非晶質固体分散体の、DSC分析結果を示す。
図5】非晶質固体分散体及びその原材料について、NMR測定を行った結果を示す。
図6】化合物(I)、腸溶性ポリマー、及び乳酸を用いて得られた各非晶質固体分散体を含有するハイドロゲルマトリクス錠(腸溶コーティングあり)からの、化合物(I)の溶出率を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、化合物(I)を含む非晶質固体分散体、化合物(I)及び有機酸を含む非晶質体(アモルファス)、当該非晶質体を含む非晶質固体分散体、当該非晶質体又は非晶質固体分散体を含有する医薬組成物、並びにこれらの調製方法等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0012】
前記の通り、本開示に包含される非晶質体は、化合物(I)及び有機酸を含む。本明細書においては、当該非晶質体を「本開示の非晶質体」ということがある。
【0013】
有機酸としては、カルボン酸が好ましく、モノカルボン酸、ジカルボン酸、又はトリカルボン酸がより好ましい。また、ヒドロキシ酸(ヒドロキシカルボン酸とも呼ばれる)も好ましい。例えば、1~8個(1、2、3、4、5、6、7、又は8個)の炭素原子を有するカルボン酸が好ましい。また、当該カルボン酸は、1個以上(例えば1、2、又は3個)の-OH基で置換されていてもよい。また、当該カルボン酸は、構造に1個の芳香族環(特にベンゼン環)又は複素環を有していてもよい。また、当該カルボン酸は、直鎖又は分枝鎖状であってもよく、また、飽和又は不飽和であってもよい。
【0014】
より具体的には、例えば、酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、及びフタル酸等が挙げられる。乳酸が特に好ましい。
【0015】
有機酸は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の有機酸を組み合わせて用いる場合、クエン酸、酒石酸、及びフマル酸の組合せが特に好ましい。
【0016】
本開示に包含される非晶質固体分散体は、本開示の非晶質体及び腸溶性ポリマーを含む。本明細書においては、当該非晶質固体分散体を「本開示の非晶質固体分散体」ということがある。
【0017】
腸溶性ポリマーは、低pHでは溶解せず、中性付近(例えばpH5~6)又はそれより高いpHで溶解するポリマーであればよい。例えば、pH5、5.5、6.0、若しくは6.5以上で溶解する(好ましくは、前記未満のpHでは溶解しない)ポリマーが好ましい。具体的には、例えば、非イオン性の水溶性ポリマー、好ましくはヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)若しくはその誘導体、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0018】
なお、本明細書において、ヒプロメロース誘導体としては、ヒプロメロースとカルボン酸(好ましくはモノカルボン酸又はジカルボン酸)とのエステルが好ましい。当該カルボン酸としては、例えば、酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、及びフタル酸等が挙げられる。これらのカルボン酸は、1種単独で又は2種以上を組み合わせてエステルを形成してよい。ヒプロメロースとカルボン酸とのエステルとしては、例えば、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、ヒプロメロースフタル酸エステル等が好ましく挙げられる。
【0019】
本開示の非晶質固体分散体は、例えば、化合物(I)、有機酸、及び腸溶性ポリマーを含む混合物を噴霧乾燥処理(スプレードライ処理)して調製することができる。このようにして得られる非晶質固体分散体には、化合物(I)及び有機酸を含む非晶質体(すなわち、本開示の非晶質体)が含まれている。
【0020】
噴霧乾燥処理に供される混合物としては、有機溶媒に、化合物(I)、有機酸、及び腸溶性ポリマーを溶解させた組成物が好ましく例示される。有機溶媒としては、例えばジクロロメタン/エタノール混合液が好ましい。当該混合液としては、ジクロロメタン:エタノールが質量比で80~50:20~50程度の混合液が好ましく、80~60:20~40程度の混合液がより好ましい。なお、有機溶媒としてジクロロメタン/エタノール混合液を用いる場合には、例えば、エタノールに有機酸を溶解させた後にジクロロメタンを添加して混合し、これにさらに腸溶性ポリマーを溶解させ、最後に化合物(I)を加えて溶解させて、噴霧乾燥処理に供する混合物を調製することが好ましい。噴霧乾燥処理(スプレードライ処理)は、公知の方法により行うことができる。
【0021】
本開示の非晶質体又は非晶質固体分散体に含まれる化合物(I)と有機酸との比率は、質量比で、例えば100:0.1~60程度が挙げられる。当該範囲(0.1~60)の上限又は下限は、例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、又は59であってもよい。例えば当該範囲は、0.5~55又は1~50程度であってもよい。
【0022】
非晶質体又は非晶質固体分散体の安定性を高めるためには、有機酸を、有機酸の塩が析出しない範囲で可能な限り多く配合することが望ましい。例えば、有機酸として乳酸を用いる場合、化合物(I)と有機酸との比率は、質量比で、100:30~60程度が中でも好ましく、例えば100:40~60程度がより好ましい。
【0023】
また、本開示の非晶質固体分散体に含まれる化合物(I)と腸溶性ポリマーとの比率は、質量比で、例えば100:10~500程度が挙げられる。当該範囲(10~500)の上限又は下限は、例えば20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、又は490であってもよい。例えば当該範囲は20~400又は50~300程度であってもよい。
【0024】
本開示の非晶質固体分散体は、好ましく安定性に優れる。本明細書において、「安定性に優れる」とは、例えば好ましくは、本開示の非晶質固体分散体を40℃、密閉条件で4週間保存した後の、化合物(I)の分解生成物(degradation products)の一つである8-(1-ベンゾチオフェン-4-イル)-8-アザ-5-アゾニアスピロ[4.5]デカン(本明細書では化合物(D)とも呼ぶ)のHPLC測定で得られるクロマトグラムのピーク面積が、化合物(I)及びその分解生成物のピーク面積の総量の0.1%以下であることをいう。ここで、上記保存条件は、International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(ICH)の基準に基づいて定められた、「安定性試験ガイドライン」(平成13年5月1日医薬審発第565号医薬局審査管理課長通知)の改訂版(医薬審発第0603001号、平成15年6月3日)に基づくものである。なお、湿度に関しては、同ガイドラインの「2.2.7.2.不透過性の容器に包装された製剤」に基づき、本願では検討していない。
【0025】
なお、本願明細書において「分解生成物」とは、光、熱、pH及び水の作用、あるいは医薬品添加物や直接容器/施栓系との反応により、製剤の製造中あるいは保存中に原薬が化学変化を起こして生成した不純物をいう。
【0026】
本開示に包含される医薬組成物は、本開示の非晶質体、あるいは本開示の非晶質固体分散体を含有する。これに加えてさらに親水性ポリマーを含有することが好ましい。本明細書においては、当該医薬組成物を「本開示の医薬組成物」ということがある。
【0027】
本開示の医薬組成物は、好ましくは経口医薬組成物であり、また好ましくは固形医薬組成物である。より好ましくは、経口固形医薬組成物である。
【0028】
本開示の医薬組成物の剤形は特に限定はされないが、例えば錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、ゲル剤、カプセル剤、粉末吸入剤等が挙げられる。
【0029】
親水性ポリマーとしては、例えば、セルロース系水溶性高分子、ポリアルキレンオキサイド(例えばポリエチレンオキサイド)、ポリアルキレングリコール(例えばポリエチレングリコール)、ポリビニルアルコール等を用いることができる。
【0030】
セルロース系ポリマーとしては、製剤学分野で公知のセルロース系水溶性高分子を好ましく用いることができる。また例えば、セルロースのOH基の一部が、水素原子がメチル基及び/又はヒドロキシプロピル基に置換した構造を有するものが好ましい。例えば、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)若しくはその誘導体が好ましく挙げられる。また例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等が好ましく挙げられる。
【0031】
親水性ポリマーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
親水性ポリマーとしては、また、例えば2%水溶液としての粘度が2.5~35,000mm/sのセルロース系水溶性高分子を用いることができる。特に2%水溶液としての粘度が2.5~17.5mm/sのセルロース系水溶性高分子が好ましい。
【0033】
なお、当該親水性ポリマーとして、上記腸溶性ポリマーと同じポリマーを使用しても異なるポリマーを使用してもよい。また、本開示の非晶質固体分散体を含む医薬組成物は、上記腸溶性ポリマーを含有していることから、当該腸溶性ポリマーが親水性ポリマーである場合には、当該医薬組成物は親水性ポリマーを含有する医薬組成物に包含される。
【0034】
特に本開示の医薬組成物が、固形医薬組成物である場合、本開示の非晶質体若しくは本開示の非晶質固体分散体と親水性ポリマーとの混合物を含有することが好ましい。
【0035】
本開示の医薬組成物が経口固形医薬組成物である場合、特に好ましい一形態として、ハイドロゲル徐放性組成物を挙げることができる。当該組成物は、本開示の非晶質体又は非晶質固体分散体を有効成分として含有し、さらに上記親水性ポリマーを含有する。ハイドロゲル徐放性組成物の形態としては、ハイドロゲルマトリクス錠を好ましく挙げることができる。ハイドロゲルマトリクス錠は、(腸溶コーティングを施した錠剤の場合は胃排泄後のpH上昇によってコーティング皮膜が溶解した後に)消化管の水分を吸収して形成されるハイドロゲルが薬物放出を制御する公知の技術である。
【0036】
ハイドロゲルマトリクス錠における徐放性基剤(ハイドロゲル形成基剤)としては、上述の親水性ポリマーを使用することができ、より具体的には例えば、セルロース系水溶性高分子、ポリアルキレンオキサイド(例えばポリエチレンオキサイド)、ポリアルキレングリコール(例えばポリエチレングリコール)、ポリビニルアルコール等を用いることができる。本開示においては、上記の通り、セルロース系ポリマーを用いることが好ましい。徐放性基剤としてセルロース系ポリマー(例えばヒプロメロース)を用いる場合、当該セルロース系ポリマーは、目的とする溶出速度に応じて、2%水溶液としての粘度が80~35,000mm/sのものを用いるのが好ましい。
【0037】
徐放性基剤は、例えば、コア錠剤の重量に対して、30~90質量%又は50~80質量%程度含有されることができる。
【0038】
ハイドロゲルマトリクス錠は、さらに他の添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば崩壊剤、滑沢剤、及び流動化剤等が挙げられる。崩壊剤としては、例えばデンプングリコール酸ナトリウムが好ましく挙げられる。崩壊剤は、例えば、コア錠剤の質量に対して、10~50質量%又は20~40質量%程度含有されることができる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウムが好ましく挙げられる。滑沢剤は、例えば、コア錠剤の質量に対して、0.1~5質量%又は0.2~3質量%程度含有されることができる。流動化剤としては、例えば二酸化ケイ素(特に軽質無水ケイ酸)が好ましく挙げられる。流動化剤は、例えば、コア錠剤の質量に対して、0.1~5質量%又は0.1~3質量%程度含有されることができる。
【0039】
ハイドロゲルマトリクス錠は、腸溶コーティングを備えたものがより好ましい。腸溶コーティングには、公知の腸溶コーティング組成物を用いることができる。例えば、オイドラギット等の腸溶基剤、クエン酸トリエチル等の可塑剤、タルク等の滑沢剤を含む腸溶コーティング組成物を好ましく用いることができる。腸溶コーティングは、例えば、コア錠剤100質量部に対して、1~40質量部又は10~30質量部程度含有されることができる。
【0040】
特に制限はされないが、本開示の経口医薬組成物は、ヒト(特に成人)へ経口投与した時の定常状態時の化合物(I)の血中濃度が、例えば15ng/mL~400ng/mL又は50ng/mL~300ng/mLの範囲で1週間維持されることが好ましい。
【0041】
化合物(I)を含む普通錠(非放出制御製剤)0.5mg錠、1mg錠、2mg錠については、日米欧を含む多数の国で統合失調症の治療薬として既に上市されている。普通錠は、臨床試験において安全性及び統合失調症等の中枢神経疾患に対する有効性が認められており、また薬物動態の詳細な解析も行われている。普通錠に関するこうした情報を考慮すれば、ヒト投与時に定常状態で15ng/mL~400ng/mL又は50ng/mL~300ng/mL程度の化合物(I)の血中濃度を維持できる経口医薬組成物であれば、既に上市されている普通錠と同様に、統合失調症等の中枢神経疾患を予防又は治療するために用いることが可能であると理解できる。
【0042】
したがって、本開示の経口医薬組成物は、好ましくは、1日1回よりも低頻度で、例えば週1回、経口投与され得る。本開示の経口医薬組成物は、好ましくは、1回あたり1錠投与してもよいし、1回あたり2錠以上、例えば1回あたり2錠、3錠、4錠、又は5錠、投与してもよい。また、当業者であれば、上記の普通錠に関する薬物動態の情報及び本開示の経口医薬組成物に対する単回投与プロトコール及び連続投与プロトコールに基づいた評価等から、上記の血中濃度を達成するための本開示の経口医薬組成物の投与量を適切に決定することができる。例えば、1回あたりの化合物(I)の投与量は、5mg~60mg相当程度、あるいは10mg~60mg、20mg~60mg、又は45mg~60mg相当程度が挙げられる。
【0043】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0044】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0045】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。なお、以下特に断らない限り、化合物(I)(ブレクスピプラゾール)は、公知の方法に従って合成した後にハンマーミルで粉砕したものを用いた。
【0046】
化合物(I)(ブレクスピプラゾール)の非晶質固体分散体の調製
80%ジクロロメタン/20%エタノール(w/w)混合液205.5gに、化合物(I)6g及び各種腸溶性ポリマー12gを溶解させた(固形物濃度8w/w%)。得られた溶解液を、アトマイザーにて以下の条件にて噴霧乾燥(スプレードライ)して、非晶質固体分散体(具体的にはスプレードライ粉末)を得た。
・flow rate (mL/min) : 8
・Atomizing air (M Pa) : 0.15
・Inlet temperature (℃) : 75
・Drying Air (m3/min) : 0.45
・Overnight vacuum drying at 50℃
【0047】
なお、腸溶性ポリマーとしては、以下のものを用いた。
HPMC AS-LF(ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル:信越化学工業株式会社、AQOAT)(pH5.5以上で溶解する)
HPMC AS-MF(ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル:信越化学工業株式会社、AQOAT)(pH6.0以上で溶解する)
HPMC AS-HF(ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル:信越化学工業株式会社、AQOAT)(pH6.8以上で溶解する)
TC-5R(ヒプロメロース:信越化学工業株式会社)(20℃における2%水溶液粘度(日本薬局方)が約6mPa・s)
HP-50(ヒプロメロースフタル酸エステル:信越化学工業株式会社)(pH5.0以上で溶解する。また、20℃における、メタノール/ジクロロメタン混合液(1:1)の10%溶液粘度(日本薬局方)が約55mPa・s。)
HP-55(ヒプロメロースフタル酸エステル:信越化学工業株式会社)(pH5.5以上で溶解する。また、20℃における、メタノール/ジクロロメタン混合液(1:1)の10%溶液粘度(日本薬局方)が約40mPa・s。)
K-25(ポリビニルピロリドン:BASF、Kollidon 25)
【0048】
得られた各非晶質固体分散体からの化合物(I)の放出速度を、化合物(I)の溶出率を24時間にわたって1時間間隔で測定することにより評価した。当該溶出試験は、第十七改正日本薬局方溶出試験で規定されたパドル法に従って行った。試験液として、日本薬局方収載の溶出試験第二液(pH約7、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム)900mLを用い、37℃、パドル回転速度50rpmで行った。経時的にサンプリングを行い、サンプリング溶液中の化合物(I)をUV検出器(吸光度測定波長:323nm及び380nm)にて定量した。第一波長(323nm)は主薬の吸光度が最大限検出できる波長、第二波長(380nm)は主薬由来の吸光度が検出されない波長として設定した。各非晶質固体分散体に含まれる化合物(I)全量(質量)を100%としたときの化合物(I)の溶出質量割合(%)を溶出率とした。なお、非晶質固体分散体化させていない化合物(I)そのもの(ハンマーミル粉砕品;HMと表示)についても、当該溶出試験により量出率を検討した。結果を図1に示す。
【0049】
当該結果から、いずれの腸溶性ポリマーを用いて調製した化合物(I)を含む非晶質固体分散体も、優れた溶出性を奏することが分かった。
【0050】
なお、以下の検討においては、特に断らない限り、非晶質固体分散体調製のための腸溶性ポリマーとして、HPMC AS-HFを用いた。
【0051】
非晶質固体分散体における、化合物(I)の安定性の検討
腸溶性ポリマーとしてHPMC AS-HFを用いて調製した非晶質固体分散体について、含まれる化合物(I)の安定性を調べるため、保存後に生じる化合物(I)の分解生成物量を測定した。
【0052】
具体的には、当該非晶質固体分散体を40℃、密閉条件で4週間保存した後、化合物(I)(ブレクスピプラゾール)の分解生成物の一つである化合物(D)(8-(1-ベンゾチオフェン-4-イル)-8-アザ-5-アゾニアスピロ[4.5]デカン)がどの程度生じているかを、HPLCにより検討した。
【0053】
【化1】
【0054】
より具体的には、化合物(I)換算で、非晶質固体分散体50mgを秤取し、50%MeCN/50%MeOH溶液を添加して完全溶解させ、100mLとした。当該溶液 10mLを取り分け、1%酢酸溶液を添加して25mLとした。これを0.45μmのフィルターを用いて濾過後、50μLをHPLCにinjectionした。
HPLCの測定条件は、以下の通りとした。
HPLC:LC-2010C(Shimadzu)
測定波長(nm):274
分析カラム:Capcell Pak C18,MGII 3μm,4.6mm I.D.×150mm(Shiseido)
流速(mL/min):1.7
移動相:0.01mol/L 硫酸ナトリウム溶液/アセトニトリル/メタノール/酢酸=140/45/15/2
注入量(μL):50
測定時間(min):30
【0055】
得られたHPLCのクロマトグラムにおいて、化合物(I)のピークエリア及び化合物(I)の分解生成物のピークエリアの合計面積を100%としたときの、化合物(D)のピークエリアの面積の割合を算出した。
【0056】
以上の検討の結果、化合物(D)は、0.14%生じていることがわかった。
【0057】
次に、各種有機酸を当該溶解液に更に溶解させ、上記と同様の条件で噴霧乾燥(スプレードライ)させて非晶質固体分散体を調製し、得られた非晶質固体分散体の安定性を調べるため、40℃、密閉条件で4週間保存した後、化合物(D)がどの程度生じているかを、上記と同様の条件でHPLCにより測定した。
【0058】
なお、溶解液は、80%ジクロロメタン/20%エタノール(w/w)混合液213.9g又は210.5gに、化合物(I)6g、腸溶性ポリマー(HPMC AS-HF)12g、各種有機酸0.6g、0.3g、又は0.06gを溶解させた。また、溶解順序としては、エタノールに有機酸を完全に溶解させた後にジクロロメタンを添加して混合し、これにさらに腸溶性ポリマー(HPMC AS-HF)を溶解させ、最後に化合物(I)を加えて溶解させた。
【0059】
但し、有機酸として乳酸を溶解させた溶解液を調製する場合には、溶解液の組成を80%ジクロロメタン/20%エタノール(w/w)混合液430gに、化合物(I)20g、腸溶性ポリマー(HPMC AS-HF)40g、乳酸10g(化合物(I)の50%)又は0.2g(同1%)を溶解させた。(溶解順序は上記と同様とした。)
【0060】
また、有機酸としてクエン酸、酒石酸、及びフマル酸を溶解させた溶解液を調製する場合には、溶解液の組成を60%ジクロロメタン/40%エタノール(w/w)混合液に変更し、当該混合液912gに、化合物(I)16g、腸溶性ポリマー(HPMC AS-HF)32g、各種有機酸(クエン酸1.6g、酒石酸0.8g、フマル酸1.6g)を溶解させた(溶解順序は上記と同様とした)。また、この場合のみ、噴霧乾燥条件を次のように変更した。
・flow rate (mL/min) : 10
・Atomizing air (M Pa) : 0.15
・Inlet temperature (℃) : 80
・Outlet temperature(℃) : 49~50
・Drying Air (m3/min) : 0.40
・Overnight vacuum drying at 50℃
【0061】
40℃、密閉条件で4週間保存した後の、各種有機酸を用いて得られた非晶質固体分散体における、化合物(D)の量を以下の表に示す。表中、各有機酸の配合量(%)は、噴霧乾燥に供する溶解液に含有される化合物(I)質量を100%としたときの、当該溶解液に含有される有機酸の質量の割合を示す。
【0062】
なお、原料の乳酸は純度85~92%の液体のものであり、不純物として約10%の水分が含まれている。噴霧乾燥処理により水分は無くなり、調製後に残る乳酸分は約8.8g/10gになる。以下の検討でも同様である。
【0063】
【表1】
【0064】
各種有機酸を用いて得られた各非晶質固体分散体は、長期保存による化合物(I)の分解が抑制されることが分かった。また、本試験で得られた全ての非晶質固体分散体は、長期保存後も非晶質の状態が安定に保持された。換言すれば、各種有機酸を用いて得られた各非晶質固体分散体に含まれる化合物(I)の経時安定性が向上することが分かった。これは、ICHの基準に基づいて定められた、「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドライン」(平成9年6月23日薬審第539号薬務局審査課長通知)の改訂版(医薬審発第0624001号、平成15年6月24日)に照らして、満足できる安定性であると考えられた。
【0065】
また、各種有機酸を用いて得られた各非晶質固体分散体からの、化合物(I)の放出速度を、化合物(I)の溶出率を24時間にわたって1時間間隔で測定することにより評価した。当該溶出試験は、上記と同様にして行った。結果を図2に示す。図2において、Comp.は化合物(I)を表す。また、HFはHPMC AS-HFを表す。また、Cit、Tar、Fum、Lac、Suc、及びAdiは、それぞれ、クエン酸、酒石酸、フマル酸、乳酸、コハク酸、及びアジピン酸を表す。また、HMは非晶質固体分散体化させていない化合物(I)そのもの(ハンマーミル粉砕品)を表す。
【0066】
当該結果からわかるように、各種有機酸を用いて得られた各非晶質固体分散体は、有機酸を用いずに得られた非晶質固体分散体(Comp./HF)に比べて、溶出率が向上した。特に、乳酸、あるいは有機酸を組み合わせて(クエン酸、酒石酸、及びフマル酸)用いた場合に、顕著に溶出率が向上した。
【0067】
非晶質固体分散体のX線回折法(XRD)による解析
70%ジクロロメタン/30%エタノール(w/w)混合液162gに、化合物(I)12gを溶解させて得た溶解液(i)、あるいは、化合物(I)12g及び乳酸6gを溶解させて得た溶解液(ii)、について、上記と同様にして噴霧乾燥(スプレードライ)して、非晶質固体分散体(i)及び非晶質固体分散体(ii)を得た。
【0068】
そして、非晶質固体分散体(i)及び(ii)について、調製直後、及び調製後密封状態で3日間40℃で保管した後に、X線回折法により解析した。
【0069】
X線回折法の条件を以下に示す。
機種:X’Pert Pro MPD (スペクトリス社)
電圧 (kV): 45
電流 (mA): 40
Configration: Spinner reflect-trans
Scan axis: 2 theta
Start angle: 3.000
End angle: 40.000
Step size: 0.0167113
Time per step: 3.175
Scan speed (°/s): 0.668451
Wobble axis:omega
Number of steps: 5
Step size: 1.000
【0070】
当該解析結果を図3に示す。図3右側に非晶質固体分散体(i)の結果を、左側に非晶質固体分散体(ii)の結果を示す。非晶質固体分散体(i)では、3日間40℃で保管した後に多くのピークが現れたことから、一部の非晶質体が結晶に転移したと考えられた一方、非晶質固体分散体(ii)では、3日間40℃で保管した後であってもパターンが変化せず、非晶質の状態が安定に保持されたと考えられた。
【0071】
非晶質固体分散体の熱分析(TGA及びDSC)
非晶質固体分散体(ii)について、熱重量測定(TGA)及び示差走査熱量測定(DSC)を行った。
【0072】
測定機器としては、次のものを使用した。なお、試料(非晶質固体分散体(ii))量は、いずれも約5mgとした。
TGA: TGA Q5000 (TA Instruments社)
DSC: DSC Q2000 (TA Instruments社)
【0073】
TGA分析については、250℃まで10℃/minで昇温した。DSC分析については、最初に100℃まで10℃/minで昇温して、微量で残存していると考えられるジクロロメタン及びエタノールを揮発させたあと、25℃まで10℃/minで冷却し、再度10℃/minで150℃まで上昇させた。
【0074】
結果を図4a(TGA分析)及び図4b(DSC分析)に示す。図4aにおいて、発熱を示すピークは測定されなかった(点線丸枠で囲った部分参照)。図4bにおいて、重量変化を示すピークは測定されなかった(点線丸枠で囲った部分参照)。これらのことからも、非晶質固体分散体(ii)は、結晶に転移していない(非晶質のままである)ことが示唆され、従って非晶質固体分散体(ii)が安定であることが裏付けられた。
【0075】
非晶質固体分散体のNMR測定
非晶質固体分散体(ii)について、NMRによる解析を行った。なお、非晶質固体分散体化させていない化合物(I)そのもの、HPMC AS-HF、及び乳酸についても、同様にNMR解析を行った。さらには、HPMC AS-HF及び乳酸を溶解した溶解液から調製した非晶質固体分散体(「非晶質固体分散体(iii)」とも呼ぶ)、についても、同様にNMR解析を行った。なお、当該HPMC AS-HF及び乳酸を溶解した溶解液は、70%塩化メチレン/30%エタノール(w/w)混合液430gに、HPMC AS-HF40g及び乳酸10gを溶解させた液である。
以下にNMRの測定条件を示す。
測定機器:ECA-500 (JEOL RESONANCE社)
観測核:1H
試料量:約5 mg
溶媒:DMSO-d6
ケミカルシフトの基準値:2.49 ppm(DMSO)
積算回数:8回
【0076】
結果を図5に示す。図5において、化合物(I)と非晶質固体分散体(ii)とでは、ピークの位置がずれている(図中の点線を参照)。このことから、非晶質固体分散体(ii)においては、化合物(I)と乳酸とが分子的にインタラクションしていることが分かった。そして、非晶質固体分散体(ii)に含まれる非晶質体(アモルファス)は、化合物(I)及び乳酸からなる非晶質体であることが分かった。
【0077】
錠剤の調製及び検討
非晶質固体分散体(ii)を含有するハイドロゲル徐放性製剤(ハイドロゲルマトリクス錠)を、通常の既知の製造プロセスに従って製造した。具体的には、1錠あたり、非晶質固体分散体(ii)41.4mg(化合物(I)を12mg含む)、ヒプロメロース80mg、デンプングリコール酸ナトリウム60mg、及びステアリン酸マグネシウム0.6mgとなるよう、これらの原料を混合し、打錠して、ハイドロゲルマトリクス錠(素錠)を調製した。なお、ハイドロゲルマトリクス錠は、(コーティングを施した錠剤の場合は胃排泄後のpH上昇によってコーティング皮膜が溶解して)消化管の水分を吸収して形成されるハイドロゲルが薬物放出を制御する公知の技術である。
【0078】
さらに、当該ハイドロゲルマトリクス錠(素錠)に、腸溶コーティングを施し、腸溶コーティング剤を調製した。具体的には、1錠あたり、メタクリル酸コポリマーLD(Eudragit L30D-55、エボニック社)9.1mg、タルク4.55mg、クエン酸トリエチル0.91mgを、汎用のコーティング機を用いて常法通りに腸溶コーティングを行った。その後、OPADRY 03A420002(5.4mg)を用いてカラーコーティングを行い、腸溶コーティング錠を得た。
【0079】
得られた腸溶コーティング錠からの、化合物(I)の放出速度を、化合物(I)の溶出率を24時間にわたって1時間間隔で測定することにより評価した。当該溶出試験は、上記と同様にして行った。結果を図6に示す。当該腸溶コーティング剤は、優れた過飽和溶出プロファイルを示した。
【0080】
ヒト経口投与時の化合物(I)の血中濃度の評価
本開示の経口医薬組成物をヒトに経口投与した際の化合物(I)の血中濃度を、以下の単回投与プロトコールに基づいて評価した。本評価において使用する製剤(試験製剤)は、有効成分として12mgの化合物(I)の非晶質固体分散体を含む、本開示に従って調製されるハイドロゲルマトリクス錠である。単回投与プロトコールでは、化合物(I)の普通錠(非晶質固体分散体化させていない化合物(I)を含む錠剤)を単回投与し、休薬後、試験製剤12mg(12mg錠を1錠)を単回投与した。化合物(I)のPKパラメータを解析した。普通錠と比較してtmax(最高血漿中濃度到達時間)の中央値が延長された。こうした結果から、本開示の経口医薬組成物を用いることにより、週1回製剤として望ましい化合物(I)の血中濃度(例えば定常状態時で15ng/mL~400ng/mL)が維持されると考えられる。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6