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7835165情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-03-16
(45)【発行日】2026-03-25
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04S 7/00 20060101AFI20260317BHJP
【FI】
H04S7/00 340
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022578201
(86)(22)【出願日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 JP2022000011
(87)【国際公開番号】W WO2022163308
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2024-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2021013881
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121131
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 孝
(74)【代理人】
【氏名又は名称】稲本 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100168686
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 勇介
(72)【発明者】
【氏名】中川 亨
(72)【発明者】
【氏名】藤原 真志
(72)【発明者】
【氏名】中井 彬人
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0201405(US,A1)
【文献】特開2013-219731(JP,A)
【文献】特開2007-110206(JP,A)
【文献】特開2019-153943(JP,A)
【文献】特開2017-028526(JP,A)
【文献】特開2020-136752(JP,A)
【文献】特開2020-156029(JP,A)
【文献】特開2020-201479(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0257548(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04S 1/00- 7/00
G10K 15/00-15/12
H04R 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定環境におけるユーザに個人化された音の伝達特性である第1の個人化伝達特性の補正に用いられる第2の個人化伝達特性を、前記ユーザの操作に応じて調整する調整部と、
個人化伝達特性の調整時に参照されるリファレンス情報として、前記ユーザが装着する出力機器のデバイス特性に基づいて取得された情報を、前記第2の個人化伝達特性とともに前記ユーザに提示する提示部と
備え、
前記第2の個人化伝達特性は、前記出力機器から出力された再生音に基づいて測定される
情報処理装置。
【請求項2】
前記調整部は、前記第2の個人化伝達特性と、前記測定環境に設置されたスピーカから出力された再生音に基づいて測定された前記第1の個人化伝達特性とを、前記ユーザの操作に応じてそれぞれ調整する
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記提示部は、前記リファレンス情報として、前記測定環境における音の残響特性に基づいて取得された情報を、前記第1の個人化伝達特性とともに前記ユーザに提示する
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記提示部は、前記リファレンス情報として、前記測定環境とは異なる規定の空間における音の残響特性を表す情報を、前記第1の個人化伝達特性とともに提示する
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記リファレンス情報は、少なくとも前記第2の個人化伝達特性のデータが記録されたファイルのヘッダ部に記録される
請求項1から4のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記ユーザの操作に応じた調整値を、前記ヘッダ部に記録する記録部をさらに備える
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記提示部は、前記測定環境の場所を表す情報、前記第1の個人化伝達特性と前記第2の個人化伝達特性を再生環境において使用する前記ユーザを表す情報、および、前記出力機器を表す情報を含む属性情報を前記ユーザに提示する
請求項5または6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記属性情報は、前記ヘッダ部に記録される
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
定環境におけるユーザに個人化された音の伝達特性である第1の個人化伝達特性の補正に用いられ前記ユーザが装着する出力機器から出力された再生音に基づいて測定された第2の個人化伝達特性を、前記ユーザの操作に応じて調整することと、
個人化伝達特性の調整時に参照されるリファレンス情報として、前記出力機器のデバイス特性に基づいて取得された情報を、前記第2の個人化伝達特性とともに前記ユーザに提示することと
を含む情報処理方法。
【請求項10】
コンピュータに、
測定環境におけるユーザに個人化された音の伝達特性である第1の個人化伝達特性の補正に用いられ前記ユーザが装着する出力機器から出力された再生音に基づいて測定された第2の個人化伝達特性を、前記ユーザの操作に応じて調整することと、
個人化伝達特性の調整時に参照されるリファレンス情報として、前記出力機器のデバイス特性に基づいて取得された情報を、前記第2の個人化伝達特性とともに前記ユーザに提示することと
を含む処理を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関し、特に、個人化された伝達関数をユーザが調整することができるようにした情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
個人化された頭部伝達関数(HRTF(Head Related Transfer Function))は、例えば、スピーカから耳までのHRTFに対して、ヘッドホンから耳までのHRTFの逆特性を畳み込むことによって取得される。
【0003】
個人化されたHRTFを用いた演算を行うことにより、音像を所定の位置に精度よく定位させ、ヘッドホンから聞こえる音を立体的に再生することが可能となる。ヘッドホンから聞こえる音は、HRTFの測定環境における音源からの音を再現したものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-260574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
個人化されたHRTFは、ユーザに固有のものであり、通常は固定値として演算に用いられる。したがって、ユーザは、個人化されたHRTF自体を調整して音場や音質を調整することができない。
【0006】
本技術はこのような状況に鑑みてなされたものであり、個人化された伝達関数をユーザが調整することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術の一側面の情報処理装置は、測定環境における音の伝達特性であり、ユーザに個人化された前記伝達特性である個人化伝達特性を、前記ユーザの操作に応じて調整する調整部を備える。
【0008】
本技術の一側面においては、測定環境における音の伝達特性であり、ユーザに個人化された前記伝達特性である個人化伝達特性が、前記ユーザの操作に応じて調整される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本技術の一実施の形態に係る音響制作システムの構成例を示す図である。
図2】測定環境における測定の流れを示す図である。
図3】測定環境における調整の流れを示す図である。
図4】測定環境における調整の例を示す図である。
図5】再生環境における再生の流れを示す図である。
図6】情報処理装置の機能構成例を示すブロック図である。
図7】ファイル生成部の構成例を示すブロック図である。
図8】音場調整用のリファレンス情報の例を示す図である。
図9】調整値記録部の構成例を示すブロック図である。
図10】個人化HRTFファイルに記録される情報の例を示す図である。
図11】測定環境において情報処理装置が行う個人化HRTFファイル生成処理について説明するフローチャートである。
図12】測定環境において情報処理装置が行う個人化HRTF調整処理について説明するフローチャートである。
図13】ファイル情報表示処理について説明するフローチャートである。
図14】属性情報の表示例を示す図である。
図15】音質調整処理について説明するフローチャートである。
図16】音質調整画面の表示例を示す図である。
図17】音質調整画面の各情報の内容を示す図である。
図18】音場調整処理について説明するフローチャートである。
図19】音場調整画面の表示例を示す図である。
図20】音場調整画面の各情報の内容を示す図である。
図21】再生機器の機能構成例を示すブロック図である。
図22】再生環境において再生機器が行う再生処理について説明するフローチャートである。
図23】コンピュータのハードウェアの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本技術を実施するための形態について説明する。説明は以下の順序で行う。
1.音響制作システムの構成
2.音響制作システムにおける作業の全体の流れ
3.情報処理装置の構成と動作
4.再生機器の構成と動作
5.変形例
【0011】
<<1.音響制作システムの構成>>
図1は、本技術の一実施の形態に係る音響制作システムの構成例を示す図である。
【0012】
図1の音響制作システムは、測定環境側の機器と再生環境側の機器により構成される。図1の音響制作システムは、例えば、映画の音声の制作に用いられるシステムである。
【0013】
映画の音声には、出演者の台詞やナレーションなどの人物の音声だけでなく、効果音、環境音、BGMなどの各種の音が含まれる。以下、適宜、それぞれの音の種類を区別する必要がない場合、まとめて音声として説明するが、実際には、映画の音には音声以外の種類の音も含まれる。
【0014】
図1の左側に示すように、測定環境は、ダビングステージなどと呼ばれ、音響制作に用いられる映画館である。映画館には、スクリーンとともに複数のスピーカが設けられる。また、映画館には、測定環境の音の伝達特性を表すHRTF(Head-Related Transfer Function)の測定結果を取得し、HRTFファイルなどの情報を生成する情報処理装置1が設けられる。情報処理装置1は例えばPCにより構成される。
【0015】
図1の音響制作システムの測定環境においては、映画の音声の制作者に個人化されたHRTFである個人化HRTFが測定される。また、測定環境の音質と同じ音質を再現するとともに、測定環境の音場と同じ音場を再現することができるように、個人化HRTFの調整が行われる。個人化HRTFの調整は、例えば、再生環境において編集を行う制作者自身により、個人化HRTFを用いた再生音を聴きながら行われる。
【0016】
個人化HRTFの調整値を個人化HRTFデータとともに記録することによって、個人化HRTFファイルが情報処理装置1により生成される。
【0017】
図1の矢印の先に示すように、個人化HRTFの測定結果を表す個人化HRTFデータと調整値などが記録された個人化HRTFファイルは、再生環境に設けられた再生機器31に提供される。再生機器31に対する個人化HRTFファイルの提供が、インターネットなどのネットワークを介して行われるようにしてもよいし、フラッシュメモリなどの記録媒体を用いて行われるようにしてもよい。
【0018】
再生環境は、スタジオ、制作者の自宅などの、映画館とは異なる場所にある環境である。再生環境が測定環境と同じ場所に用意されるようにしてもよい。
【0019】
再生環境には、映画の音声の編集に用いられる機器である再生機器31が設けられる。再生機器31も例えばPCにより構成される。制作者は、自宅などの再生環境においてヘッドホン32を使用して、映画の音声の編集を行う。ヘッドホン32は、再生環境に用意された出力機器である。
【0020】
再生機器31においては、個人化HRTFを用いて音声信号の再生が行われる。個人化HRTFを用いた再生が行われることにより、個人化HRTFの測定に用いられた映画館のスピーカから出力された音声が再現される。
【0021】
音声信号の再生時、再生機器31においては、音声信号の再生に用いられる個人化HRTFに対して、調整値に基づく調整が行われる。音声信号の再生が調整後の個人化HRTFを用いて行われることにより、ヘッドホン32から聞こえる音声の音質は、測定環境における音質と同じ音質になる。また、ヘッドホン32から聞こえる音の音場は、測定環境における音場と同じ音場になる。
【0022】
このように、図1の音響制作システムにおいては、個人化HRTF自体を調整することが可能とされる。通常、個人化HRTFを用いて再生された音声は、個人化されていないHRTF(多くの人に共通に用いられるHRTF)を用いて再生された音声と比べて測定環境における音声をより忠実に再現したものとなるが、測定環境の音響特性や再生時に用いるヘッドホンのデバイス特性などによっては、個人化HRTFを用いて再生された音声と測定環境における音声との差が感じられることがある。
【0023】
個人化HRTF自体を調整することにより、音質と音場が調整された測定環境の音声が再現される。制作者は、自分の感じ方を基準にして調整した音声を聴きながら、編集を行うことができる。
【0024】
これにより、制作者は、ヘッドホン32を使用して、映画館と同じ音響環境下で編集を行うことが可能となる。すなわち、映画館と同じ音響環境が再生環境に仮想的に再現される。
【0025】
通常、映画の音声の制作環境では、映画館のスピーカから出力される再生音をリファレンスとして制作が行われる。本技術の音響制作システムによれば、映画館に出向く必要がないことから、制作者は、自宅などでも編集を行うことが可能となる。
【0026】
<<2.音響制作システムにおける作業の全体の流れ>>
測定環境と再生環境のそれぞれにおいて行われる作業の流れについて説明する。測定環境においては、測定と調整の作業がそれぞれ行われる。
【0027】
<測定環境における測定の流れ>
図2は、測定環境における測定の流れを示す図である。
【0028】
測定環境における測定には、主に、HRTFの測定とリファレンス情報の記録が含まれる。
【0029】
・HRTF測定
図2の左側に示すように、HRTFの測定は、例えば、聴取者が映画館の所定の座席に座り、耳穴にマイク(マイクロフォン)21を取り付けた状態で行われる。
【0030】
ここでは、映画の音声の制作者自身が聴取者となる。制作者自身が聴取者となることにより、その制作者に個人化されたHRTFが測定される。耳の形などによってHRTFが異なるため、個人化HRTFを用いることにより、音像が精度よく定位される。
【0031】
この状態で、映画館のスピーカ23から再生音が出力され、スピーカ23から耳(例えば耳穴位置、鼓膜位置)までの個人化HRTFが測定される。
【0032】
スピーカ23から耳までの個人化HRTFの測定が行われた後、聴取者は、マイク21を取り付けた耳に被せるようにして、ヘッドホン22を装着する。ヘッドホン22は、測定環境に用意された出力機器である。
【0033】
この状態で、ヘッドホン22から再生音が出力され、ヘッドホン22から耳までの個人化HRTFが測定される。ヘッドホン22からの再生音として、例えばスピーカ23から出力された再生音と同じ音が用いられる。
【0034】
このようにして測定されたスピーカ23から耳までの個人化HRTFと、ヘッドホン22から耳までの個人化HRTFが情報処理装置1により取得される。情報処理装置1は、スピーカ23から耳までの個人化HRTFと逆補正データを含む個人化HRTFデータを生成する。
【0035】
逆補正データは、ヘッドホン22から耳までの個人化HRTFの逆特性を表すデータである。逆補正データは、再生環境における再生時に個人化HRTFの補正に用いられる。この補正は、スピーカ23から耳までの個人化HRTFに逆補正データを重畳するようにして、すなわち、ヘッドホン22から耳までの個人化HRTFを打ち消すようにして行われる。
【0036】
個人化HRTFの補正が行われることにより、制作者に個人化され、かつ、ヘッドホン22の個体差を考慮した、スピーカ23から耳までの精度の高いHRTFを得ることが可能となる。
【0037】
・リファレンス情報の記録
図2の右側に示すように、個人化HRTFの調整時に制作者により参照される情報であるリファレンス情報が取得される。リファレンス情報は、例えば、測定環境の特性やヘッドホン22のデバイス特性などに基づいて取得される。リファレンス情報の詳細については後述する。
【0038】
HRTF測定によって生成された個人化HRTFデータとともにリファレンス情報を記録することによって、矢印#1の先に示すように個人化HRTFファイルが生成される。
【0039】
<測定環境における調整の流れ>
図3は、測定環境における調整の流れを示す図である。
【0040】
測定環境に用意された情報処理装置1においては、図3の左側に示すように、スピーカ23から耳までの個人化HRTFと、ヘッドホン22から耳までの個人化HRTFの逆補正データが、個人化HRTFファイルから個人化HRTFデータとして読み出される。
【0041】
情報処理装置1には、図3の右側に示すようにヘッドホン22が接続される。ヘッドホン22からは、個人化HRTFファイルから読み出された個人化HRTFデータを用いて再生された音声が出力される。
【0042】
制作者は、ディスプレイ1Aの表示を見て情報処理装置1を操作し、例えば、図4に示すように、ヘッドホン22から出力された再生音の音場と音質が、それぞれ、スピーカ23から出力された再生音の音場と音質を再現したものとなるように調整を行う。ディスプレイ1Aに表示される調整画面には、例えば、個人化HRTFデータとリファレンス情報に基づく情報が表示される。
【0043】
例えば、制作者は、音場の調整に用いられるリファレンス情報を参照して、ヘッドホン22から出力される再生音に含まれる残響成分を調整する。情報処理装置1においては、スピーカ23から耳までの個人化HRTFの調整に用いる調整値が制作者の操作に応じて生成される。
【0044】
また、制作者は、音質の調整に用いられるリファレンス情報を参照して、ヘッドホン22の特性を加味した音質を調整する。情報処理装置1においては、ヘッドホン22から耳までの個人化HRTFの逆補正データの調整に用いる調整値が制作者の操作に応じて生成される。
【0045】
このようにして生成された個人化HRTFデータの調整値が、図3の矢印#2の先に示すように、個人化HRTFデータおよびリファレンス情報とともに個人化HRTFファイルに記録される。
【0046】
<再生環境における再生の流れ>
図5は、再生環境における再生の流れを示す図である。
【0047】
再生環境に用意された再生機器31にはヘッドホン32が接続される。ヘッドホン32は、例えば、測定環境において用いられたヘッドホン22と同じメーカーが製造する、同じ型番のヘッドホン(同じ仕様のヘッドホン)である。制作者が自宅に持ち帰ったヘッドホン22がヘッドホン32として使用されるようにしてもよい。
【0048】
再生機器31においては、個人化HRTFファイルに記録された個人化HRTFデータが調整値に基づいて調整される。調整された個人化HRTFデータを用いて、オブジェクトオーディオやチャネルオーディオなどの、編集対象となる映画の音声信号の再生が行われる。映画の音声を構成するオーディオデータには、オブジェクトオーディオやチャネルオーディオのデータが含まれる。
【0049】
制作者は、映画の音声の制作環境としての映画館を再現するようにして出力された再生音を聞きながら、映画の音声の編集作業を行うことができる。
【0050】
このように、個人化HRTFデータを調整することにより、映画の音声や音楽の制作において求められる音場と音質を再現することが可能となる。
【0051】
例えば、スピーカ23から耳までの個人化HRTFの調整が行われることにより、制作者は、音がボケていないように音場が調整された状態で音声の編集を行うことができる。また、ヘッドホン22から耳までの個人化HRTFの逆補正データの調整が行われることにより、制作者は、測定環境に設置されたサブウーファから出力される低域の音の音質の再現度を向上させることができる。
【0052】
<<3.情報処理装置の構成と動作>>
<情報処理装置の構成>
図6は、情報処理装置1の機能構成例を示すブロック図である。
【0053】
情報処理装置1においては、情報処理装置1を構成するPCのCPUにより所定のプログラムが実行されることによって情報処理部101が実現される。
【0054】
情報処理部101は、ファイル生成部111と調整値記録部112から構成される。情報処理部101の構成のうちの少なくとも一部の構成が、測定環境に用意されたアンプなどの他の機器により実現されるようにしてもよい。
【0055】
ファイル生成部111は、個人化HRTFの測定を行い、個人化HRTFファイルを生成する。ファイル生成部111により生成された個人化HRTFファイルは、調整値記録部112に供給される。
【0056】
調整値記録部112は、個人化HRTFデータを制作者の操作に応じて調整し、調整値を個人化HRTFファイルに記録する。
【0057】
・ファイル生成部の構成
図7は、ファイル生成部111の構成例を示すブロック図である。
【0058】
ファイル生成部111は、再生処理部121、出力制御部122、HRTF取得部123、HRTFデータ生成部124、リファレンス情報取得部125、およびHRTFファイル生成部126から構成される。
【0059】
再生処理部121は、ヘッドホン22とスピーカ23から出力させる音の再生を制御する。規定信号のデータなどのオーディオデータを再生して得られた音声信号は出力制御部122に供給される。
【0060】
出力制御部122は、再生処理部121から供給された音声信号に応じた再生音を、ヘッドホン22とスピーカ23から出力させる。
【0061】
HRTF取得部123は、マイク21による集音結果に基づいて、ヘッドホン22から耳までの個人化HRTFと、スピーカ23から耳までの個人化HRTFを取得する。HRTF取得部123により取得された個人化HRTFを表す情報はHRTFデータ生成部124に供給される。
【0062】
HRTFデータ生成部124は、逆補正データと、スピーカ23から耳までの個人化HRTFとを含む個人化HRTFデータを生成する。HRTFデータ生成部124により生成された個人化HRTFデータはHRTFファイル生成部126に供給される。
【0063】
リファレンス情報取得部125は、測定環境の特性とヘッドホン22のデバイス特性に基づいてリファレンス情報を取得する。
【0064】
具体的には、リファレンス情報取得部125は、ヘッドホン22の特性に基づいて、音質調整用のリファレンス情報を取得する。音質調整用のリファレンス情報は、個人性ばらつき、リニアリティ、THD(Total Harmonic Distortion)などのデバイス特性に基づいて取得される。
【0065】
例えば、各電圧の信号を用いた場合の音圧分布レベル(SPL(Sound Pressure Level))とTHDに基づいて音質調整用のリファレンス情報が取得される。
【0066】
また、リファレンス情報取得部125は、測定環境の残響特性に基づいて、音場調整用のリファレンス情報を取得する。例えば、スピーカ23から耳までの個人化HRTFに基づいて、音場調整用のリファレンス情報が取得される。
【0067】
図8は、音場調整用のリファレンス情報の例を示す図である。
【0068】
図8のAは、「Room A」、「Room B」、および「Room C」の3つの空間における残響成分の減衰特性を表す。図8のBは、「Room A」の空間における残響成分を、「Room B」と「Room C」のそれぞれの空間における残響成分に変換するための情報を表す。「Room A」は広い部屋を表し、例えば測定環境である映画館に相当する。「Room B」は中程度の広さの部屋を表し、「Room C」は狭い部屋を表す。
【0069】
このように、リファレンス情報取得部125は、測定環境における残響成分の情報とともに、測定環境における残響成分を規定の空間における残響成分に変換するための情報を、リファレンス情報として取得する。
【0070】
以上のような測定環境の特性やヘッドホン22のデバイス特性を表す情報は、例えば、個人化HRTFの測定前に図7のリファレンス情報取得部125に入力される。リファレンス情報取得部125により取得されたリファレンス情報は、HRTFファイル生成部126に供給される。
【0071】
HRTFファイル生成部126は、HRTFデータ生成部124から供給された個人化HRTFデータに対して、リファレンス情報取得部125から供給されたリファレンス情報を含むヘッダ部を付加することによって個人化HRTFファイルを生成する。ヘッダ部には、リファレンス情報とともに、測定場所、ユーザ名、ヘッドホン22の機種名を表す情報が属性情報として含まれる。
【0072】
・調整値記録部の構成
図9は、調整値記録部112の構成例を示すブロック図である。
【0073】
調整値記録部112は、個人化HRTFファイル取得部141、再生処理部142、出力制御部143、調整部144、および記録部145から構成される。
【0074】
個人化HRTFファイル取得部141は、ファイル生成部111から供給された個人化HRTFファイルを取得する。個人化HRTFファイル取得部141により取得された個人化HRTFファイルは、再生処理部142、調整部144、および記録部145に供給される。
【0075】
再生処理部142は、個人化HRTFの調整において用いる音声信号を取得する。例えば、個人化HRTFの測定において使用された規定信号と同じ音声信号が取得される。
【0076】
再生処理部142は、個人化HRTFファイル取得部141から供給された個人化HRTFファイルから個人化HRTFデータを読み出し、個人化HRTFの畳み込みを含むバイノーラル処理を音声信号に対して行うことによって再生信号を生成する。
【0077】
また、再生処理部142は、適宜、調整部144から供給された調整値に基づいて個人化HRTFを調整し、調整後の個人化HRTFを用いたバイノーラル処理を行う。再生処理部142により生成された再生信号は、出力制御部143に供給される。
【0078】
出力制御部143は、再生処理部142から供給された信号に応じた再生音をヘッドホン22から出力させる。
【0079】
調整部144は、ファイル情報表示部171、音質調整部172、および音場調整部173により構成される。
【0080】
ファイル情報表示部171は、個人化HRTFファイル取得部141から供給された個人化HRTFファイルのヘッダ部に含まれる属性情報の内容などを調整画面に表示させる。個人化HRTFデータの調整時、ディスプレイ1Aには、個人化HRTFデータの調整に用いられるGUI(Graphical User Interface)となる調整画面が表示される。
【0081】
音質調整部172は、音質の調整時、逆補正データを表す情報などを調整画面に表示させる。逆補正データは、個人化HRTFファイル取得部141から供給された個人化HRTFファイルの個人化HRTFデータに含まれる。また、音質調整部172は、個人化HRTFファイルのヘッダ部に含まれるリファレンス情報の内容を調整画面に表示させる。
【0082】
音質調整部172は、制作者の操作に応じて、逆補正データの調整値を音質調整値として取得する。
【0083】
音場調整部173は、音場の調整時、スピーカ23から耳までの個人化HRTFに基づく残響成分を表す情報などを調整画面に表示させる。スピーカ23から耳までの個人化HRTFは、個人化HRTFファイル取得部141から供給された個人化HRTFファイルの個人化HRTFデータに含まれる。また、音場調整部173は、個人化HRTFファイルのヘッダ部に含まれるリファレンス情報の内容を調整画面に表示させる。
【0084】
音場調整部173は、制作者の操作に応じて、スピーカ23から耳までの個人化HRTFの調整値を音場調整値として取得する。
【0085】
このように、調整部144は、属性情報の内容、リファレンス情報の内容、個人化HRTFデータなどを調整画面に表示させ、制作者(ユーザ)に提示する提示部として機能する。調整部144により取得された音質調整値と音場調整値は、再生処理部142と記録部145に供給される。
【0086】
記録部145は、個人化HRTFファイル取得部141から供給された個人化HRTFファイルのヘッダ部に、調整部144から供給された調整値を記録する。
【0087】
図10は、個人化HRTFファイルに記録される情報の例を示す図である。
【0088】
個人化HRTFファイルには、個人化HRTFデータが記録されるとともに、ヘッダ情報がヘッダ部に記録される。吹き出しに示すように、ヘッダ情報には、属性情報、リファレンス情報、および調整値が含まれる。
【0089】
属性情報には、測定場所を表す情報、ユーザ名を表す情報、測定に使用されたヘッドホンの機種名を表す情報が含まれる。
【0090】
測定場所を表す情報は、測定環境の場所を表す情報である。上述した例の場合、測定環境として使用された映画館の情報が、測定場所を表す情報として記録される。例えば、個人化HRTFの調整を行う制作者は、測定場所を表す情報に基づいて測定環境を特定することが可能となる。
【0091】
ユーザ名を表す情報は、個人化HRTFを使用して編集を行う制作者を表す情報である。
【0092】
測定に使用したヘッドホンの機種名を表す情報には、ヘッドホン22のメーカーを表す情報、型名などの識別情報が含まれる。
【0093】
リファレンス情報には、音質調整用のリファレンス情報と音場調整用のリファレンス情報が含まれる。
【0094】
音質調整用のリファレンス情報には、例えば、Split Freq、Limit Gainが含まれる。
【0095】
Split Freqは、一定の補正値を適用する境界となる周波数を表す。Split Freq以上の帯域に対しては一定の補正値を用いた補正が行われる。Limit Gainは補正値となるゲインの最大値を表す。
【0096】
音場調整用のリファレンス情報には、例えば、Gain、Start Point、Lengthが含まれる。
【0097】
Gainは残響成分の補正値として用いられるゲインを表す。Start Pointは減衰の開始位置を表す。Lengthは一定の減衰率の適用範囲を表す。
【0098】
以上のような各情報が、音質調整値と音場調整値からなる調整値とともにヘッダ情報として記録され、個人化HRTFファイルが構成される。調整値の情報がヘッダ部に記録された個人化HRTFファイルが再生機器31に提供される。
【0099】
<情報処理装置の動作>
ここで、以上のような構成を有する情報処理装置1の処理について説明する。
【0100】
・個人化HRTFファイル生成処理
図11のフローチャートを参照して、測定環境において情報処理装置1が行う個人化HRTFファイル生成処理について説明する。
【0101】
ここでは、図11の全てのステップの処理が情報処理装置1により行われる処理であるとして説明するが、適宜、測定環境に用意された他の機器により行われる。上述したように、個人化HRTFの測定は、聴取者としての制作者が映画館の所定の座席に座り、耳穴にマイク21を取り付けた状態で行われる。
【0102】
ステップS1において、出力制御部122は、映画館のスピーカ23から再生音を出力させる。
【0103】
ステップS2において、HRTF取得部123は、マイク21による集音結果に基づいて、スピーカ23から耳までの個人化HRTFを測定する。スピーカ23から耳までの個人化HRTFの測定が行われた後、制作者は、マイク21を取り付けた耳に被せるようにして、ヘッドホン22を装着する。
【0104】
ステップS3において、出力制御部122は、制作者が装着したヘッドホン22から再生音を出力させる。
【0105】
ステップS4において、HRTF取得部123は、マイク21による集音結果に基づいて、ヘッドホン22から耳までの個人化HRTFを測定する。
【0106】
ステップS5において、HRTFデータ生成部124は、ヘッドホン22から耳までの個人化HRTFと、スピーカ23から耳までの個人化HRTFの逆補正データとを含む個人化HRTFデータを生成する。
【0107】
ステップS6において、リファレンス情報取得部125は、ヘッドホン22や測定環境の特性に基づいてリファレンス情報を取得する。
【0108】
ステップS7において、HRTFファイル生成部126は、リファレンス情報を含むヘッダ情報と個人化HRTFデータを記録した個人化HRTFファイルを生成する。
【0109】
以上においては、マイク21を用いて個人化HRTFの測定が行われるものとしたが、制作者の耳を撮影して得られた耳画像に基づいて、スピーカ23から耳までの個人化HRTFが取得されるようにしてもよい。この場合、機械学習などによってあらかじめ生成された個人化HRTF推論用の推論モデルが用いられる。個人化HRTF推論用の推論モデルは、耳画像を入力とし、個人化HRTFを出力とする推論モデルである。
【0110】
・個人化HRTF調整処理
次に、図12のフローチャートを参照して、測定環境において情報処理装置1が行う個人化HRTF調整処理について説明する。
【0111】
ステップS21において、ファイル情報表示部171は、ファイル情報表示処理を行う。ファイル情報表示処理により、個人化HRTFファイルが読み込まれ、属性情報の内容などが表示される。ファイル情報表示処理については、図13のフローチャートを参照して後述する。
【0112】
ステップS22において、音質調整部172は、音質調整処理を行う。音質調整処理により、逆補正データが調整され、音質調整値が個人化HRTFファイルに記録される。音質調整処理については、図15のフローチャートを参照して後述する。
【0113】
ステップS23において、音場調整部173は、音場調整処理を行う。音場調整処理により、スピーカ23から耳までの個人化HRTFデータが調整され、音場調整値が個人化HRTFファイルに記録される。音場調整処理については、図18を参照して後述する。
【0114】
・ファイル情報表示処理
図13のフローチャートを参照して、図12のステップS21において行われるファイル情報表示処理について説明する。
【0115】
ステップS31において、調整部144は、個人化HRTFファイルを読み込む。個人化HRTFファイルが読み込まれることにより、スピーカから耳までの個人化HRTFデータと逆補正データが取得される。また、属性情報とリファレンス情報が取得される。
【0116】
ステップS32において、ファイル情報表示部171は、属性情報に基づいて測定場所を表す情報を表示させる。
【0117】
ステップS33において、ファイル情報表示部171は、属性情報に基づいてユーザ名を表す情報を表示させる。
【0118】
ステップS34において、ファイル情報表示部171は、属性情報に基づいて、測定に使用されたヘッドホン22の機種名を表す情報を表示させる。
【0119】
図14は、属性情報の表示例を示す図である。
【0120】
図14に示す画面は、個人化HRTFデータの調整に用いられる調整画面のメイン画面として表示される。画面上方の項目201は、調整対象の個人化HRTFファイルを表す。図14の例においては、「/No Name/profiles/Username」が調整対象の個人化HRTFファイルとして表示されている。
【0121】
項目201の下に、測定場所を表す画像である画像P1が表示される。画像P1の右側には、属性情報の表示領域である領域A1が形成される。領域A1には項目202乃至204の3種類の情報が表示される。
【0122】
項目202は測定場所の名前を表す。図14の例においては、「Room A」が測定場所の名前として表示されている。
【0123】
項目203はユーザ名を表す。図14の例においては、「Username」がユーザ名として表示されている。
【0124】
項目204は、測定に使用されたヘッドホンの機種名を表す。図14の例においては、「Headphones」がヘッドホンの機種名として表示されている。
【0125】
制作者は、項目201乃至204の表示を見て、調整対象の個人化HRTFファイルを確認したり、測定環境の情報を確認したりすることができる。
【0126】
このように、属性情報が表示された後、図12のステップS21に戻り、それ以降の処理が行われる。
【0127】
・音質調整処理
図15のフローチャートを参照して、図12のステップS22において行われる音質調整処理について説明する。
【0128】
音質調整処理は、例えば、図14のメイン画面において音質調整を行うことが指示された場合に開始される。上述したように、音質調整は、ヘッドホン22から耳までの個人化HRTFの逆特性を表す逆補正データを調整するようにして行われる。
【0129】
ステップS41において、音質調整部172は、逆補正データを表す情報を表示させる。
【0130】
ステップS42において、音質調整部172は、リファレンス情報に基づいて、ヘッドホン22のデバイス特性を考慮した最大補正量のリファレンス線を表示させる。
【0131】
図16は、音質調整画面の表示例を示す図である。
【0132】
図16に示すように、音質調整画面の上方には、音質調整用のリファレンス情報の内容が表示される。
【0133】
項目211は、一定の補正を適用する境界となる周波数を表す「Split Freq」である。図16の例においては、「11700」Hzが、境界となる周波数として表示されている。
【0134】
項目212は、補正値となるゲインの最大値を表す「Limit Gain」である。図16の例においては、「16.0」(dB)が11700Hz以下の周波数のゲインの最大値として表示され、「-2.0」(dB)が11700Hz以上の周波数のゲインの最大値として表示されている。
【0135】
画面の下方には、逆補正データを表す波形214とともに、リファレンス線213が表示される。波形214は、Lチャネル用の逆補正データとRチャネル用の逆補正データを表す。リファレンス線213は、ヘッドホン22のデバイス特性を考慮した最大補正量を表す。各情報の内容を図17に示す。
【0136】
制作者は、リファレンス線213を見て、ゲインをどの程度の値にする必要があるのかを確認することができる。制作者は、波形214上の表示を動かすなどして、「Split Freq」と「Limit Gain」により表される音質調整用のリファレンス情報を調整する。
【0137】
図15の説明に戻り、ステップS43において、音質調整部172は、制作者の操作に応じて、逆補正データを調整する。音質調整部172により、逆補正データの調整値である音質調整値が、制作者の操作に応じて設定される。音質調整値を用いた調整後の逆補正データを用いた再生が、適宜、再生処理部142により行われる。
【0138】
ステップS44において、記録部145は、音質調整値を個人化HRTFファイルのヘッダ部に記録する。
【0139】
音質調整値が記録された後、図12のステップS22に戻り、それ以降の処理が行われる。
【0140】
・音場調整処理
図18のフローチャートを参照して、図12のステップS23において行われる音場調整処理について説明する。
【0141】
音場調整処理は、例えば、図14のメイン画面において音場調整を行うことが指示された場合に開始される。
【0142】
ステップS61において、音場調整部173は、スピーカ23から耳までの個人化HRTFに基づく部屋Aにおける残響成分を表す情報を表示させる。部屋Aは例えば、測定環境である映画館である。
【0143】
ステップS62において、音場調整部173は、リファレンス情報に基づいて、部屋Aにおける残響成分を部屋Bにおける残響成分に変換するためのリファレンス線を表示させる。
【0144】
ステップS63において、音場調整部173は、リファレンス情報に基づいて、部屋Aにおける残響成分を部屋Cにおける残響成分に変換するためのリファレンス線を表示させる。
【0145】
図19は、音場調整画面の表示例を示す図である。
【0146】
図19に示すように、音場調整画面の上方には、音場調整用のリファレンス情報の内容が表示される。各情報の内容を図20に示す。
【0147】
項目221は、残響成分の補正値として用いられるゲインを表す「Gain」である。図19の例においては、「-29」dBがゲインとして表示されている。
【0148】
項目222は、減衰の開始位置を表す「Start Point」である。図19の例においては、「256」の値が減衰の開始位置として表示されている。
【0149】
項目223は、一定の減衰率の適用範囲を表す「Length」である。図19の例においては、「2」kが減衰率の適用範囲として表示されている。
【0150】
画面の下方には、残響成分を表す波形224とともに、リファレンス線225乃至227が表示される。リファレンス線225は、測定環境における残響成分の減衰特性を表す。リファレンス線225により、測定環境における残響成分の開始位置、終了位置、ゲインが表される。
【0151】
リファレンス線226は、測定環境における残響成分を「Room B」における残響成分に変換するためのリファレンス線であり、「Room B」の減衰特性を表す。リファレンス線227は、測定環境における残響成分を「Room C」における残響成分に変換するためのリファレンス線であり、「Room C」の減衰特性を表す。
【0152】
制作者は、リファレンス線226とリファレンス線227を見て、残響成分をどの程度補正する必要があるのかを確認することができる。制作者は、項目221乃至223の欄に数値を入力したり、項目221乃至223の隣に表示されたスライドバーを動かしたりして、「Gain」、「Start Point」、「Length」により表される音場調整用のリファレンス情報を調整する。
【0153】
図18の説明に戻り、ステップS64において、音場調整部173は、制作者の操作に応じて、スピーカ23から耳までの個人化HRTFを調整する。音場調整部173により、スピーカ23から耳までの個人化HRTFの調整値である音場調整値が、制作者の操作に応じて設定される。音場調整値を用いた調整後の個人化HRTFを用いた再生が、適宜、再生処理部142により行われる。
【0154】
ステップS65において、記録部145は、音場調整値を個人化HRTFファイルのヘッダ部に記録する。
【0155】
音場調整値が記録された後、図12のステップS23に戻り、それ以降の処理が行われる。以上の一連の処理によって生成された個人化HRTFファイルが再生機器31に提供される。
【0156】
<<4.再生機器の構成と動作>>
<再生機器の構成>
図21は、再生機器31の機能構成例を示すブロック図である。
【0157】
再生機器31においては、再生機器31を構成するPCのCPUにより所定のプログラムが実行されることによって再生処理部251が実現される。
【0158】
再生処理部251は、音声信号取得部261、個人化HRTFファイル取得部262、音声信号処理部263、および出力制御部264から構成される。再生処理部251の構成のうちの少なくとも一部の構成が、再生環境に用意された他の機器において実現されるようにしてもよい。
【0159】
音声信号取得部261は、例えば、編集対象となる映画の音声の音声信号を取得し、音声信号処理部263に出力する。
【0160】
個人化HRTFファイル取得部262は、情報処理装置1から提供された個人化HRTFファイルを取得し、音声信号処理部263に出力する。
【0161】
音声信号処理部263は、個人化HRTFファイル取得部262から供給された個人化HRTFファイルから個人化HRTFデータを読み出し、音声信号取得部261から供給された音声信号に対してバイノーラル処理を行うことによって再生信号を生成する。
【0162】
また、音声信号処理部263は、適宜、個人化HRTFファイルのヘッダ部に含まれる調整値に基づいて個人化HRTFデータを調整し、調整後の個人化HRTFを用いたバイノーラル処理を行う。音声信号処理部263により生成された再生信号は出力制御部264に供給される。
【0163】
出力制御部264は、音声信号処理部263から供給された再生信号に応じた再生音をヘッドホン32から出力させる。
【0164】
<再生機器の動作>
図22のフローチャートを参照して、再生環境において再生機器31が行う再生処理について説明する。
【0165】
ステップS81において、音声信号取得部261は、映画の音声の音声信号を取得する。
【0166】
ステップS82において、個人化HRTFファイル取得部262は、情報処理装置1から提供された個人化HRTFファイルを取得する。
【0167】
ステップS83において、音声信号処理部263は、スピーカ23から耳までの個人化HRTFを、音場調整値を用いて調整する。スピーカ23から耳までの個人化HRTFは、個人化HRTFファイルの個人化HRTFデータから取得され、音場調整値は、個人化HRTFファイルのヘッダ部から取得される。
【0168】
ステップS84において、音声信号処理部263は、ヘッドホン22から耳までの特性の逆補正データを、音質調整値を用いて調整する。逆補正データは、個人化HRTFファイルの個人化HRTFデータから取得され、音質調整値は、個人化HRTFファイルのヘッダ部から取得される。
【0169】
ステップS85において、音声信号処理部263は、調整後の逆補正データを用いて、調整後のスピーカ23から耳までの個人化HRTFを補正する。具体的には、調整後のヘッドホン22から耳までの個人化HRTFの逆特性を、調整後のスピーカ23から耳までの個人化HRTFに重畳するようにして補正が行われる。
【0170】
ステップS86において、音声信号処理部263は、補正後の個人化HRTFを用いて、映画の音声の音声信号に対してバイノーラル処理を行う。バイノーラル処理により再生信号が生成される。
【0171】
ステップS87において、出力制御部264は、再生信号に応じた再生音をヘッドホン32から出力させる。
【0172】
以上のように、映画の音声の制作者は、自身に個人化されたHRTFを調整することができる。個人化HRTF自体を調整することができるようにすることにより、映画の音声や音楽の制作において求められる音質と音場を再現することが可能となる。
【0173】
<<5.変形例>>
音声の出力機器としてオーバーヘッド型のヘッドホンが用いられるものとしたが、インナーイヤー型のヘッドホン(イヤホン)が用いられるようにしてもよい。また、ヘッドホンではなく、スピーカが音声の出力機器として用いられるようにしてもよい。
【0174】
測定環境において個人化HRTFの調整が行われるものとしたが、測定環境と異なる環境において個人化HRTFの調整が行われるようにしてもよい。この場合、制作者は、測定環境から持ち帰ったヘッドホン22を使用して個人化HRTFデータの調整を行う。
【0175】
図1の音響制作システムが映画の音声の制作に用いられるものとしたが、音楽の制作に用いられるシステム、テレビジョン番組の音声の制作に用いられるシステムなどの、各種の音の制作に用いられるシステムに図1の音響制作システムは適用可能である。
【0176】
コンテンツの音声の制作時ではなく、コンシューマ機器で音声を再生する場合に、上述したようにして個人化HRTFデータの調整が行われるようにしてもよい。
【0177】
音の伝達特性を表す頭部伝達関数として、周波数領域の情報であるHRTFの形式で記録された情報が用いられるものとしたが、時間領域の情報であるHRIR(Head Related Impulse Response)の形式で記録された情報が用いられるようにしてもよい。
【0178】
・コンピュータの構成例
上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行することもできるし、ソフトウェアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウェアにより実行する場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ、または汎用のパーソナルコンピュータなどに、プログラム記録媒体からインストールされる。
【0179】
図23は、上述した一連の処理をプログラムにより実行するコンピュータのハードウェアの構成例を示すブロック図である。情報処理装置1と再生機器31は、図23に示す構成と同じ構成を有するPCにより構成される。
【0180】
CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503は、バス504により相互に接続されている。
【0181】
バス504には、さらに、入出力インタフェース505が接続される。入出力インタフェース505には、キーボード、マウスなどよりなる入力部506、ディスプレイ、スピーカなどよりなる出力部507が接続される。また、入出力インタフェース505には、ハードディスクや不揮発性のメモリなどよりなる記憶部508、ネットワークインタフェースなどよりなる通信部509、リムーバブルメディア511を駆動するドライブ510が接続される。
【0182】
以上のように構成されるコンピュータでは、CPU501が、例えば、記憶部508に記憶されているプログラムを入出力インタフェース505及びバス504を介してRAM503にロードして実行することにより、上述した一連の処理が行われる。
【0183】
CPU501が実行するプログラムは、例えばリムーバブルメディア511に記録して、あるいは、ローカルエリアネットワーク、インターネット、デジタル放送といった、有線または無線の伝送媒体を介して提供され、記憶部508にインストールされる。
【0184】
コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであっても良いし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであっても良い。
【0185】
なお、本明細書において、システムとは、複数の構成要素(装置、モジュール(部品)等)の集合を意味し、すべての構成要素が同一筐体中にあるか否かは問わない。したがって、別個の筐体に収納され、ネットワークを介して接続されている複数の装置、及び、1つの筐体の中に複数のモジュールが収納されている1つの装置は、いずれも、システムである。
【0186】
本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。
【0187】
本技術の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0188】
例えば、本技術は、1つの機能をネットワークを介して複数の装置で分担、共同して処理するクラウドコンピューティングの構成をとることができる。
【0189】
また、上述のフローチャートで説明した各ステップは、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。
【0190】
さらに、1つのステップに複数の処理が含まれる場合には、その1つのステップに含まれる複数の処理は、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。
【0191】
<構成の組み合わせ例>
(1)
測定環境における音の伝達特性であり、ユーザに個人化された前記伝達特性である個人化伝達特性を、前記ユーザの操作に応じて調整する調整部を備える
情報処理装置。
(2)
前記個人化伝達特性の調整時に参照されるリファレンス情報の内容を、前記個人化伝達特性とともに前記ユーザに提示する提示部をさらに備える
前記(1)に記載の情報処理装置。
(3)
前記調整部は、前記ユーザが装着する出力機器から出力された再生音に基づいて測定された前記個人化伝達特性を調整する
前記(2)に記載の情報処理装置。
(4)
前記提示部は、前記出力機器のデバイス特性に基づいて取得された前記リファレンス情報の内容を提示する
前記(3)に記載の情報処理装置。
(5)
前記調整部は、前記測定環境に設置されたスピーカから出力された再生音に基づいて測定された前記個人化伝達特性を調整する
前記(2)乃至(4)のいずれかに記載の情報処理装置。
(6)
前記提示部は、前記測定環境における音の残響特性に基づいて取得された前記リファレンス情報の内容を提示する
前記(5)に記載の情報処理装置。
(7)
前記提示部は、前記測定環境とは異なる規定の空間における音の残響特性を表す前記リファレンス情報の内容を提示する
前記(6)に記載の情報処理装置。
(8)
前記リファレンス情報は、前記個人化伝達特性のデータが記録されたファイルのヘッダ部に記録される
前記(2)乃至(7)のいずれかに記載の情報処理装置。
(9)
前記ユーザの操作に応じた調整値を、前記ヘッダ部に記録する記録部をさらに備える
前記(8)に記載の情報処理装置。
(10)
前記提示部は、前記測定環境の場所を表す情報、前記個人化伝達特性を再生環境において使用する前記ユーザを表す情報、および、前記ユーザが装着する出力機器を表す情報を含む属性情報の内容を提示する
前記(8)または(9)に記載の情報処理装置。
(11)
前記属性情報は、前記ヘッダ部に記録される
前記(10)に記載の情報処理装置。
(12)
情報処理装置が、
測定環境における音の伝達特性であり、ユーザに個人化された前記伝達特性である個人化伝達特性を、前記ユーザの操作に応じて調整する
情報処理方法。
(13)
コンピュータに、
測定環境における音の伝達特性であり、ユーザに個人化された前記伝達特性である個人化伝達特性を、前記ユーザの操作に応じて調整する
処理を実行させるためのプログラム。
(14)
測定環境における音の伝達特性であり、ユーザに個人化された前記伝達特性である個人化伝達特性を、前記ユーザによる調整によって設定された調整値に基づいて調整し、調整後の前記個人化伝達特性を用いて音声信号を再生する再生部を備える
再生機器。
(15)
前記再生部は、前記測定環境に設置されたスピーカから出力された再生音に基づいて測定された第1の個人化伝達特性と、前記ユーザが装着する出力機器から出力された再生音に基づいて測定された第2の個人化伝達特性とをそれぞれ調整する
前記(14)に記載の再生機器。
(16)
前記再生部は、調整後の前記第2の個人化伝達特性の逆特性を、調整後の前記第1の個人化伝達特性に重畳することによって前記第1の個人化伝達特性を補正し、補正後の前記第1の個人化伝達特性を用いて音声信号を再生する
前記(15)に記載の再生機器。
(17)
再生機器が、
測定環境における音の伝達特性であり、ユーザに個人化された前記伝達特性である個人化伝達特性を、前記ユーザによる調整によって設定された調整値に基づいて調整し、
調整後の前記個人化伝達特性を用いて音声信号を再生する
再生方法。
(18)
コンピュータに、
測定環境における音の伝達特性であり、ユーザに個人化された前記伝達特性である個人化伝達特性を、前記ユーザによる調整によって設定された調整値に基づいて調整し、
調整後の前記個人化伝達特性を用いて音声信号を再生する
処理を実行させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0192】
1 情報処理装置, 1A ディスプレイ, 21 マイク, 22 ヘッドホン, 31 再生機器, 31A ディスプレイ, 32 ヘッドホン, 101 情報処理部, 111 ファイル生成部, 112 調整値記録部, 121 再生処理部, 122 出力制御部, 123 HRTF取得部, 124 HRTFデータ生成部, 125 リファレンス情報取得部, 126 HRTFファイル生成部, 141 個人化HRTFファイル取得部, 142 再生処理部, 143 出力制御部, 144 調整部, 145 記録部, 171 ファイル情報表示部, 172 音質調整部, 173 音場調整部, 251 再生処理部, 261 音声信号取得部, 262 個人化HRTFファイル取得部, 263 音声信号処理部, 264 出力制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23