(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-04-14
(45)【発行日】2026-04-22
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 9/14 20060101AFI20260415BHJP
B29B 7/58 20060101ALI20260415BHJP
【FI】
B29B9/14
B29B7/58
(21)【出願番号】P 2021148804
(22)【出願日】2021-09-13
【審査請求日】2024-08-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発のうち熱可塑性CFRPの開発及び構造設計・応用加工技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】日下 ▲高▼至
(72)【発明者】
【氏名】川上 宗仁
(72)【発明者】
【氏名】平山 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】白木 浩司
(72)【発明者】
【氏名】荒井 政大
(72)【発明者】
【氏名】山中 淳彦
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-168802(JP,A)
【文献】特開2019-055550(JP,A)
【文献】特表2020-501032(JP,A)
【文献】特表2002-515345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00-11/14
13/00-15/06
B29C 31/00-31/10
37/00-39/24
39/38-39/44
43/00-43/34
43/44-43/48
43/52-43/58
45/00-45/24
45/46-45/63
45/70-45/72
45/74-48/96
71/00-71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を連続的に供給する繊維供給部と、
前記連続的に供給される前記複数の繊維を繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって一定の長さで切断して前記収容部内下方に落下させる繊維切断部と、
前記繊維切断部の下段位置に設けられ、被切断繊維を物理的な攪拌又は気流によって前記収容部内にて分散させる繊維分散部と、
前記繊維分散部の下段位置に設けられ、前記分散された被切断繊維を嵩密度を大きくしながら前記溶融状態の熱可塑性樹脂に強制的に導入する繊維導入機構と、
前記繊維導入機構により導入された被切断繊維と前記溶融状態の熱可塑性樹脂とを混練して送出する混練送出部と、を備え
、
前記繊維導入機構は、軸周りに回転するスクリュー羽根を有するスクリュー型搬送機構であり、前記スクリュー羽根によって前記被切断繊維を捕捉して嵩密度を大きくすると共に、前記スクリュー羽根による推力により前記被切断繊維を強制的に導入することを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置。
【請求項2】
混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を連続的に供給する繊維供給部と、
前記連続的に供給される前記複数の繊維を繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって一定の長さで切断して前記収容部内下方に落下させる繊維切断部と、
前記繊維切断部の下段位置に設けられ、被切断繊維を物理的な攪拌によって前記収容部内にて分散させる繊維分散部と、
分散されて落下した
前記被切断繊維と前記溶融状態の熱可塑性樹脂とを混練して送出する混練送出部と、を備え
、
前記繊維分散部は、前記被切断繊維の落下領域内に配置されたプロペラを含み、該プロペラの回転によって前記被切断繊維を撹拌することを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置。
【請求項3】
混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を連続的に供給する繊維供給部と、
前記連続的に供給される前記複数の繊維を集束機構によって集束する繊維集束部と、
集束された
繊維の束を繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって
、前記繊維の束の途中まで一定の長さで切断して前記収容部内下方に落下させる繊維切断部と、
前記落下した被切断繊維と前記溶融状態の熱可塑性樹脂とを混練して送出する混練送出部と、を備え
たことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置。
【請求項4】
前記繊維切断部の前段に、前記連続的に供給される前記複数の繊維を集束機構によって集束する繊維集束部を備えたことを特徴とする請求項1
又は2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置。
【請求項5】
前記繊維集束部は、前記集束機構として、所定の大きさの開口部に前記複数の繊維を挿通して集束する繊維絞り機構及び軸線が交差する複数のローラの間に形成された隙間に前記複数の繊維を挿通して集束する交差ローラ機構の少なくとも一方を備えることを特徴とする請求項
3又は4に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置。
【請求項6】
前記繊維切断部の下段位置には、前記被切断繊維を物理的な攪拌又は気流によって前記収容部内にて分散させる繊維分散部を備えたことを特徴とする請求項
3に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置。
【請求項7】
前記繊維分散部の下段位置には、前記分散された被切断繊維を嵩密度を大きくしながら前記溶融状態の熱可塑性樹脂に強制的に導入する繊維導入機構を備えることを特徴とする請求項
2又は6に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置。
【請求項8】
前記繊維供給部による繊維供給速度及び繊維切断部による繊維切断タイミングの少なくとも一方を制御することによって前記切断される繊維の長さを調整可能としたことを特徴とする請求項1
乃至7のいずれか1項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置。
【請求項9】
前記切断される繊維の長さを3mm以上100mm未満としたことを特徴とする請求項
8に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置。
【請求項10】
混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を同時に且つ連続的に供給する繊維供給ステップと、
前記連続的に供給される前記複数の繊維を集束機構によって集束する繊維集束ステップと、
前記集束された前記複数の繊維を前記収容部内の上部空間領域にて繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって一定の長さで切断し、前記収容部内下方に落下させる繊維切断ステップと、
前記切断されて落下してきた被切断繊維を物理的な攪拌又は気流によって前記収容部内にて分散させる繊維分散ステップと、
前記分散された被切断繊維を嵩密度を大きくしながら前記溶融状態の熱可塑性樹脂に強制的に導入する繊維送給ステップと、
前記被切断繊維が送給された前記溶融状態の熱可塑性樹脂を混練して送出する混練送出ステップと、を備え
、
前記繊維送給ステップは、軸周りに回転するスクリュー羽根を有するスクリュー型搬送機構により行われ、前記スクリュー羽根によって前記被切断繊維を捕捉して嵩密度を大きくすると共に、前記スクリュー羽根による推力により前記被切断繊維を強制的に導入することを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項11】
混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を同時に且つ連続的に供給する繊維供給ステップと、
前記連続的に供給される前記複数の繊維を集束機構によって集束する繊維集束ステップと、
前記集束された前記複数の繊維を前記収容部内の上部空間領域にて繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって一定の長さで切断し、前記収容部内下方に落下させる繊維切断ステップと、
前記切断されて落下してきた被切断繊維を物理的な攪
拌によって前記収容部内にて分散させる繊維分散ステップと、
前記分散された被切断繊維を嵩密度を大きくしながら前記溶融状態の熱可塑性樹脂に強制的に導入する繊維送給ステップと、
前記被切断繊維が送給された前記溶融状態の熱可塑性樹脂を混練して送出する混練送出ステップと、を備え
、
前記繊維分散ステップにて、前記被切断繊維の落下領域内に配置されたプロペラの回転によって前記被切断繊維を撹拌することを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項12】
混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を同時に且つ連続的に供給する繊維供給ステップと、
前記連続的に供給される前記複数の繊維を集束機構によって集束する繊維集束ステップと、
前記集束された
繊維の束を前記収容部内の上部空間領域にて繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって
、前記繊維の束の途中まで一定の長さで切断し、前記収容部内下方に落下させる繊維切断ステップと、
前記切断されて落下してきた被切断繊維を物理的な攪拌又は気流によって前記収容部内にて分散させる繊維分散ステップと、
前記分散された被切断繊維を嵩密度を大きくしながら前記溶融状態の熱可塑性樹脂に強制的に導入する繊維送給ステップと、
前記被切断繊維が送給された前記溶融状態の熱可塑性樹脂を混練して送出する混練送出ステップと、を備え
たことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置及び製造方法、特に、溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を連続的に供給し、それを混練することにより繊維強化熱可塑性樹脂を製造する製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置及び製造方法としては、例えば下記特許文献1に記載されるものがある。この特許文献1に記載される第1素材は、繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂と呼ばれ、一般には製造工程が複雑で時間がかかる繊維強化熱可塑性樹脂を短時間で連続的に製造できるとして注目されている。この第1素材を製造する製造装置及び製造方法は、例えば2軸のスクリュー羽根を備えた混練(混錬)送出装置の内容物搬送方向上流側の端部に溶融状態の熱可塑性樹脂を供給する。
【0003】
この混練送出装置には、複数のボビンから引き出した複数の繊維、例えば炭素繊維も同じ側の端部に連続供給される。この混練送出装置に連続的に供給される繊維は、装置内のスクリュー羽根の推力で引き込まれながらスクリュー羽根によって切断され、その後、そのスクリュー羽根によって溶融状態の熱可塑性樹脂と混練される。比較的長い繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂は、例えば混練送出装置の内容物搬送方向下流側の端部から送出され、保温された状態、すなわち溶融状態に維持されてプレス装置の型内に装入され、高速プレス成形されて樹脂成形品が製造される。
【0004】
さらに、上記特許文献1では、繊維強化熱可塑性樹脂全体としての物理的特性を向上させるために、第1素材とは別に製造した繊維強化熱可塑性樹脂(第2素材)を繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂(第1素材)に混合することが開示されている。この第2素材は、熱可塑性樹脂が含浸された繊維が切断されたものである。また、下記特許文献2には、所定長さに切断された炭素繊維束を5~40質量%の配合量で熱可塑性樹脂に配合した熱可塑性樹脂組成物が開示されている。この先行技術文献では、炭素繊維束の切断にはロータリーカッターが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-147374号公報
【文献】特開2004-11030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載される繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂、すなわち上記第1素材の製造装置及び製造方法では、連続的に供給される(切断前の)繊維はスクリュー羽根によって切断されるだけであり、切断後の繊維長さを一様にすることも、長さの制御を行うことも困難である。したがって、その繊維強化熱可塑性樹脂の素材としての強度(耐久力)や剛性等を示す力学物性を特定したり、また安定化したりすることが困難である。
【0007】
また、連続繊維が供給された後、繊維がスクリュー羽根によって切断されるタイミングにもバラツキが生じ、熱可塑性樹脂と繊維の混練状態も一様化しないものとなる。熱可塑性樹脂と繊維の混練状態が一様でないと、樹脂内における繊維の分散性が変化し、やはり繊維強化熱可塑性樹脂としての力学物性を特定することが困難である。なお、分散は、散らばり、又は、散っていることを意味するので、「分散性」は散らばりの度合いとして用いる。
【0008】
すなわち、従来の繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置及び製造方法では、所望の力学物性の繊維強化熱可塑性樹脂を得ることが困難である。
【0009】
また、上記特許文献1で開示されている第2素材は、上記第1素材とは別に製造された繊維強化熱可塑性樹脂であり、先に製造されている第1素材である繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂に追加的に混合されている。この第2素材は、熱可塑性樹脂が含浸された繊維が切断されたものであることから、切断長さは調整可能であると考えられるが、第1素材とは別の製造工程が必要であり、製造工程全体の流れの一連性を妨げている。また、製造された繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂の力学物性の特定や安定性が得られないなどの課題も残されている。
【0010】
また、上記特許文献2に記載される熱可塑性樹脂組成物、すなわち繊維強化熱可塑性樹脂を繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂に適用すると、ロータリーカッターによる炭素繊維束の切断では、刃先の劣化によって繊維が毛羽立ったり、製造可能な繊維強化熱可塑性樹脂の製造量に対して切断される繊維の量が不足したりするおそれがある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、所望の力学物性の繊維強化熱可塑性樹脂を連続的に且つ確実に得ることが可能な繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の一態様の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置は、混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を連続的に供給する繊維供給部と、前記連続的に供給される前記複数の繊維を繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって一定の長さで切断して前記収容部内下方に落下させる繊維切断部と、前記繊維切断部の下段位置に設けられ、被切断繊維を物理的な攪拌又は気流によって前記収容部内にて分散させる繊維分散部と、前記繊維分散部の下段位置に設けられ、前記分散された被切断繊維を嵩密度を大きくしながら前記溶融状態の熱可塑性樹脂に強制的に導入する繊維導入機構と、前記繊維導入機構により導入された被切断繊維と前記溶融状態の熱可塑性樹脂とを混練して送出する混練送出部と、を備え、前記繊維導入機構は、軸周りに回転するスクリュー羽根を有するスクリュー型搬送機構であり、前記スクリュー羽根によって前記被切断繊維を捕捉して嵩密度を大きくすると共に、前記スクリュー羽根による推力により前記被切断繊維を強制的に導入することを特徴とする。
また、上記目的を達成するため、本発明の一態様の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置は、混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を連続的に供給する繊維供給部と、前記連続的に供給される前記複数の繊維を繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって一定の長さで切断して前記収容部内下方に落下させる繊維切断部と、前記繊維切断部の下段位置に設けられ、被切断繊維を物理的な攪拌によって前記収容部内にて分散させる繊維分散部と、分散されて落下した前記被切断繊維と前記溶融状態の熱可塑性樹脂とを混練して送出する混練送出部と、を備え、前記繊維分散部は、前記被切断繊維の落下領域内に配置されたプロペラを含み、該プロペラの回転によって前記被切断繊維を撹拌することを特徴とする。
また、上記目的を達成するため、本発明の一態様の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置は、混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を連続的に供給する繊維供給部と、前記連続的に供給される前記複数の繊維を集束機構によって集束する繊維集束部と、集束された繊維の束を繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって、前記繊維の束の途中まで一定の長さで切断して前記収容部内下方に落下させる繊維切断部と、前記落下した被切断繊維と前記溶融状態の熱可塑性樹脂とを混練して送出する混練送出部と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、上記繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置の他の構成は、前記繊維供給部による繊維供給速度及び繊維切断部による繊維切断タイミングの少なくとも一方を制御することによって前記切断される繊維の長さを調整可能としたことを特徴とする。
【0014】
上記繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置の更なる構成は、前記切断される繊維の長さを3mm以上100mm未満としたことを特徴とする。
【0015】
上記繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置の更なる構成は、前記繊維切断部の前段に、前記連続的に供給される前記複数の繊維を集束機構によって集束する繊維集束部を備えたことを特徴とする。
【0016】
上記繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置の更なる構成は、前記繊維集束部は、前記集束機構として、所定の大きさの開口部に前記複数の繊維を挿通して集束する繊維絞り機構及び軸線が交差する複数のローラの間に形成された隙間に前記複数の繊維を挿通して集束する交差ローラ機構の少なくとも一方を備えることを特徴とする。
【0017】
上記繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置の更なる構成は、前記繊維切断部の下段位置には、前記被切断繊維を物理的な攪拌又は気流によって前記収容部内にて分散させる繊維分散部を備えたことを特徴とする。
【0018】
上記繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置の更なる構成は、前記繊維分散部の下段位置には、前記分散された被切断繊維を嵩密度を大きくしながら前記溶融状態の熱可塑性樹脂に強制的に導入する繊維導入機構を備えることを特徴とする。
【0019】
また、上記目的を達成するため、本発明の一態様の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法は、混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を同時に且つ連続的に供給する繊維供給ステップと、前記連続的に供給される前記複数の繊維を集束機構によって集束する繊維集束ステップと、前記集束された前記複数の繊維を前記収容部内の上部空間領域にて繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって一定の長さで切断し、前記収容部内下方に落下させる繊維切断ステップと、前記切断されて落下してきた被切断繊維を物理的な攪拌又は気流によって前記収容部内にて分散させる繊維分散ステップと、前記分散された被切断繊維を嵩密度を大きくしながら前記溶融状態の熱可塑性樹脂に強制的に導入する繊維送給ステップと、前記被切断繊維が送給された前記溶融状態の熱可塑性樹脂を混練して送出する混練送出ステップと、を備え、前記繊維送給ステップは、軸周りに回転するスクリュー羽根を有するスクリュー型搬送機構により行われ、前記スクリュー羽根によって前記被切断繊維を捕捉して嵩密度を大きくすると共に、前記スクリュー羽根による推力により前記被切断繊維を強制的に導入することを特徴とする。
また、上記目的を達成するため、本発明の一態様の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法は、混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を同時に且つ連続的に供給する繊維供給ステップと、前記連続的に供給される前記複数の繊維を集束機構によって集束する繊維集束ステップと、前記集束された前記複数の繊維を前記収容部内の上部空間領域にて繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって一定の長さで切断し、前記収容部内下方に落下させる繊維切断ステップと、前記切断されて落下してきた被切断繊維を物理的な攪拌によって前記収容部内にて分散させる繊維分散ステップと、前記分散された被切断繊維を嵩密度を大きくしながら前記溶融状態の熱可塑性樹脂に強制的に導入する繊維送給ステップと、前記被切断繊維が送給された前記溶融状態の熱可塑性樹脂を混練して送出する混練送出ステップと、を備え、前記繊維分散ステップにて、前記被切断繊維の落下領域内に配置されたプロペラの回転によって前記被切断繊維を撹拌することを特徴とする。
また、上記目的を達成するため、本発明の一態様の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法は、混練送出装置内に収容された溶融状態の熱可塑性樹脂に所定長さの繊維を供給し、それを混練することにより前記繊維が混練された繊維強化熱可塑性樹脂を製造する繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法において、
所定容積の収容部の上部領域に複数の繊維を同時に且つ連続的に供給する繊維供給ステップと、前記連続的に供給される前記複数の繊維を集束機構によって集束する繊維集束ステップと、前記集束された繊維の束を前記収容部内の上部空間領域にて繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって、前記繊維の束の途中まで一定の長さで切断し、前記収容部内下方に落下させる繊維切断ステップと、前記切断されて落下してきた被切断繊維を物理的な攪拌又は気流によって前記収容部内にて分散させる繊維分散ステップと、前記分散された被切断繊維を嵩密度を大きくしながら前記溶融状態の熱可塑性樹脂に強制的に導入する繊維送給ステップと、前記被切断繊維が送給された前記溶融状態の熱可塑性樹脂を混練して送出する混練送出ステップと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、供給される繊維をレーザを用いて切断することから、比較的容易な制御により被切断繊維の長さ調整(一定の長さに調整することなど)を的確に行うことができる。したがって、熱可塑性樹脂に供給される繊維の長さを一様にすることができると共に、その被切断繊維の熱可塑性樹脂への送給位置が一定化されることなどから被切断繊維と熱可塑性樹脂の混練状態も一様にすることができる。これにより、所望の力学物性の繊維強化熱可塑性樹脂を連続的に且つ確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置及び製造方法の一実施の形態を示す製造装置の概略構成図である。
【
図2】
図1の製造装置の繊維絞り機構の一例を示す説明図である。
【
図3】
図1の製造装置の交差ローラ機構の一例を示す説明図である。
【
図4】
図1の製造装置の繊維切断部の概略構成図である。
【
図5】
図1の製造装置で製造された繊維強化熱可塑性樹脂に含有される繊維の繊維長と体積分率(累積値)の関係の説明図である。
【
図6】従来の製造装置で製造された繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂に含有される繊維の繊維長と体積分率(累積値)の関係の説明図である。
【
図7】
図1の製造装置で製造された繊維強化熱可塑性樹脂に含有される繊維の状態を示す説明図である。
【
図8】従来の製造装置で製造された繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂に含有される繊維の状態を示す説明図である。
【
図9】
図1の製造装置並びに従来の製造装置で製造された繊維強化熱可塑性樹脂の引張弾性率と引張強度の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置及び製造方法の一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この実施の形態の繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置の概略構成図である。この製造装置は、溶融状態の熱可塑性樹脂と一定の長さに切断された繊維を混練して送出するための混練送出装置(混練送出部)1を備えて構成される。なお、本明細書では、混練は「混錬」の意味を含む。
【0023】
この例では、混練送出装置1として、1軸のスクリューコンベヤ10が用いられる。この実施の形態のスクリューコンベヤ10は、内容物を加熱溶融可能なものである。スクリューコンベヤ10は、回転される螺旋形連続型スクリュー羽根11の推力で内容物を攪拌・混合しながら搬送し、端部から送出する。この実施の形態の混練送出装置1では、内容物は図の右方から左方に搬送される。この混練送出装置1では、スクリューコンベヤ10の図示右端部、すなわち内容物搬送方向上流側の端部にホッパ12が設けられ、このホッパ12によってペレットPの状態の熱可塑性樹脂Mがスクリューコンベヤ10の右端部に供給される。予め加熱溶融した熱可塑性樹脂Mをスクリューコンベヤ10に供給することも可能である。スクリューコンベヤ10の収容器の内部には、加熱溶融された溶融状態の熱可塑性樹脂M(以下、溶融熱可塑性樹脂ともいう)がほぼ充満されて図の左方に搬送され、スクリューコンベヤ10の図示左端部、すなわち内容物搬送方向下流側の端部から送出される。
【0024】
なお、この実施の形態では、後述するように、スクリューコンベヤ10のスクリュー羽根11の回転速度は比較的小さく設定されている。また、スクリュー羽根11は、繊維を切断する機能を有さず、繊維の折損を低減する形状に設定されている。また、混練送出装置1には、多軸のスクリュー羽根11を有するスクリューコンベヤ10の他、混練、(搬送、)送出といった同様の機能を有する種々の装置が適用可能である。
【0025】
熱可塑性樹脂Mには、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミドM5Tなどのポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミドなどが繊維強化熱可塑性樹脂のマトリクス樹脂として適用可能である。
【0026】
このスクリューコンベヤ10からなる混練送出装置1の溶融熱可塑性樹脂供給位置より下流側には、一定の長さに切断された繊維を溶融熱可塑性樹脂Mに供給する被切断繊維供給装置13が設けられている。この被切断繊維供給装置13は、高さ方向の中間部に、所定容積の収容部50が設けられている。この被切断繊維供給装置13は、収容部50の上部領域に複数の繊維Fを同時に且つ連続的に供給する繊維供給部2と、その連続的に供給される複数の繊維Fを収容部50の上部領域にて集束する繊維集束部3と、その集束された複数の繊維Fを収容部50の上部空間領域にてレーザによって一定の長さで切断する繊維切断部4と、その切断された複数の繊維Fを収容部50内にて分散させる繊維分散部5と、その分散された複数の切断後の繊維Fを収容部50の下方にて混練送出装置1内の溶融熱可塑性樹脂Mに送給する繊維送給部6を備えて構成される。したがって、混練送出装置1からは、一定の長さに切断された繊維Fが溶融熱可塑性樹脂Mに混練された繊維強化熱可塑性樹脂が送出される。なお、繊維供給部2における繊維Fの連続的な供給とは、切断前の繊維Fを繊維伸長方向に連続して供給することを意味し、切断済みの繊維を時間的に連続して供給することではない。
【0027】
繊維供給部2は、複数のボビン(リール、ロール)20に巻き取られている繊維Fをそれぞれ引き出し、それら複数の繊維Fをガイドローラ21などでガイドしながら1カ所に集中し、集中された複数の繊維Fを繊維集束部3へと供給する。したがって、この繊維供給部2からは、複数の繊維Fが同時に且つ連続して供給される。供給される繊維Fは、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、金属繊維、植物繊維などが適用可能であるが、代表的には炭素繊維である。ボビン20に巻き取られている繊維Fの形態は、ストランド、ロービング、撚糸のような連続繊維であってもよい。連続繊維の長さとしては30m~15000mが例示される。なお、この例では、1ボビンあたり12000本巻き取られている直径7μmの炭素繊維が計48個のボビンから同時に巻き出され、1カ所に集中して供給されている。繊維Fの供給速度は、一例として、10m/分である。
【0028】
繊維集束部3は、後述するレーザによる切断効率を向上することを目的として、繊維供給部2から供給されてくる複数の繊維Fを小さな面積の範囲に集中する。「集束」は、光学的には、多くの光線が一点に集まることを意味するが、この実施の形態では、前述のように多数の繊維Fが狭い範囲に集中されることから用語「集束」を用いた。この繊維集束部3は、連続的に供給される複数の繊維Fを繊維伸長方向と交差する方向に集束する集束機構30を有する。
【0029】
図2は、集束機構30の一例として適用される繊維絞り機構31の斜視図である。この繊維絞り機構31は、所定の大きさの開口部31aに複数の繊維Fを挿通することによりそれらの繊維Fを集束するものである。この例の繊維絞り機構31は、パンチの受け型であるダイのような形状で、中央部に断面円形の貫通穴が開口部31aとして形成されている。この貫通穴からなる開口部31aに、図の上方から下方に複数の繊維Fを挿通する。この開口部31aは、繊維差し込み側である上部が上方から下方に向けて先細りとなる円錐台面を有し、その下方に、内径が一定の円柱形状の貫通穴が連続形成されている。したがって、この開口部31aに複数の繊維Fを上方から下方に挿通すると、上部の円錐台面によってそれらの繊維Fが絞られて集束され、その状態で下部の円柱形状貫通穴から送り出される。
【0030】
図3は、集束機構30の他の例として適用される交差ローラ機構32の斜視図である。この交差ローラ機構32は、軸線が交差する複数のローラ32aの間に形成された隙間32bに複数の繊維Fを挿通して集束するものである。この例では、回転可能なローラ32aを用い、回転軸線が水平で比較的小さな所定間隔で配設される2本一対の平行なローラ32aを、回転軸線が互いに直交するように上下に二対配設して交差ローラ機構32が構成される。この交差ローラ機構32では、平面視で井桁状に配設された4本のローラ32aの間の隙間32bに図の上方から下方に複数の繊維Fが挿通され、この隙間32bによって複数の繊維Fが集束され、その状態で下方に送り出される。ローラ32aは、駆動力で回転駆動されるものでも、挿通される繊維Fと共に従動回転されるものでもよい。また、ローラ32aは、必ずしも回転しなくてもよい。
【0031】
繊維集束部3の集束機構30には、繊維絞り機構31及び交差ローラ機構32の何れか一方だけを用いてもよいし、双方を用いてもよい。一例として、
図1では、交差ローラ機構32のみを集束機構として採用しているが、この下方に繊維絞り機構31を配設することもできる。前述のように、この繊維集束部3によって繊維伸長方向と交差する方向に集束された(集束されている)繊維Fは、レーザで切断される。その際、繊維絞り機構31の開口部31aの内径を交差ローラ機構32による繊維Fの集束体の外径より大きく設定しておくことで、上方の交差ローラ機構32と下方の繊維絞り機構31の間で、後述のレーザを繊維伸長方向と交差(直交)する方向に走査して繊維Fを切断することも可能である。また、この繊維集束部3と繊維切断部4の間には、複数の繊維Fを集束状態に維持して搬送する搬送ローラなどの図示しない搬送機構を介装してもよい。
【0032】
この実施の形態の繊維切断部4は、レーザを出力するレーザ出力装置41と、出力されたレーザを走査するレーザ走査装置42を備えて構成される。これらの装置には、既存の装置が適用可能である。
図4には、この実施の形態の繊維切断部4の概略構成を示す。この繊維切断部4では、集束された(集束されている)複数の繊維Fに対し、レーザ走査装置42によってレーザを繊維伸長方向と交差(直交)する方向に走査して繊維Fを切断する。レーザによる切断は、金属製薄板などの切断が注目されているが、金属と異なり、炭素繊維などの繊維Fは短時間の照射で切断可能である。その結果、この繊維切断部4では、レーザを大きな走査速度で繊維伸長方向と交差(直交)する方向に走査して短時間で繊維Fを切断することができる。一例として、5m/秒の走査速度で集束された上記の複数の繊維Fを切断することができる。このレーザの走査速度は、後述するように、他の操業条件と同様に、調整(制御)可能である。
【0033】
この実施の形態では、切断される繊維Fの長さを非接触型長さ測定器43で測定し、所望の長さが達成されるようにレーザの走査タイミングと走査速度をフィードバック制御できるように構成した。推察されるように、切断される繊維Fの長さは、レーザの走査タイミングだけでなく、繊維供給部2からの繊維Fの供給速度によっても調整(制御)することができる。したがって、一例として、集束された複数の繊維Fを確実に切断するためにレーザの走査速度が規制されるような場合には、レーザの走査タイミングだけでなく、繊維Fの供給速度を協調制御する必要が生じる。この実施の形態では、後述するように、切断される繊維Fの長さを種々に変更するためにも、こうした協調制御が達成可能な構成とした。
【0034】
繊維分散部5は、切断された複数の繊維Fが分散されるための所定の容積を確保する収容部50を備えて構成される。そして、この収容部50内でプロペラ51を回転して切断された繊維F(以下、被切断繊維Fともいう)を分散させる。この実施の形態では、繊維切断部4で切断されて収容部50内下方に落下する繊維Fに対し、水平方向に対向させた2個一対のプロペラ51で被切断繊維Fの束がばらされるように構成した。このような他の装置としては、スクリューファンなどが挙げられる。また、プロペラ51やスクリューファン、ブロワなどによって生じる気流によって被切断繊維Fを舞い飛ばして分散することもできる。
【0035】
後述するように、この実施の形態では、溶融熱可塑性樹脂M内に混練される被切断繊維Fの分散性を可及的に一様にすることが目標とされている。
図4では、切断された繊維Fをイメージとして強調して示しているが、切断直後の被切断繊維Fは、比較的、集束した状態にある。このように比較的集束した状態の被切断繊維Fを溶融熱可塑性樹脂Mに送給するよりも、その前段階で被切断繊維Fを分散してから送給した方が、溶融熱可塑性樹脂M内での被切断繊維Fの分散性が向上する。
【0036】
繊維送給部6は、収容部50内で分散している被切断繊維Fを混練送出装置1の収容器内の溶融熱可塑性樹脂Mに送給するものである。この実施の形態では、分散している被切断繊維Fを嵩密度を大きくしながら溶融熱可塑性樹脂M内に強制的に導入する繊維導入機構61を用いた。切断された炭素繊維などの被切断繊維Fは軽量であり、しかも収容部50内で分散している状態であることから、自然落下した被切断繊維Fの嵩密度が小さい場合がある。後述するように、被切断繊維Fの嵩密度が小さいと、溶融熱可塑性樹脂Mの内部に混練するのが困難な場合がある。そこで、この実施の形態では、分散して落下する被切断繊維Fをスクリュー型搬送機構などの繊維導入機構61で捕捉し、スクリュー羽根61aによる推力で被切断繊維Fの嵩密度を大きくしながら強制的に溶融熱可塑性樹脂M内に導入する。被切断繊維Fの嵩密度を大きくすることで、溶融熱可塑性樹脂M内への混練性を向上することが可能となる。被切断繊維Fを混練送出装置1側に吸引するために、混練送出装置1側を負圧にするように構成してもよい。
【0037】
この繊維強化熱可塑性樹脂の製造装置は、制御室7内に配置された制御装置8によって制御される。前述の繊維供給部2、繊維切断部4、繊維分散部5、繊維送給部6を始め、混練送出装置1やホッパ12の駆動部には、個々に制御部(制御盤)が配置されている。制御室7内の制御装置8は、大型製造設備におけるプロセスコンピュータのように、個々の制御部を統括して制御する役割を担う。この制御装置8によって、前述した繊維切断部4と繊維供給部2の協調制御が司られる。また、この制御装置8に設けられた入出力装置9によって、例えば、被切断繊維Fの長さや溶融熱可塑性樹脂Mへの送給量、繊維強化熱可塑性樹脂の製造速度、すなわちスクリューコンベヤ10の搬送速度などを調整(制御)できる構成としている。
【0038】
被切断繊維Fが炭素繊維である場合、溶融熱可塑性樹脂Mに混練される被切断繊維Fの適切な長さは数cm(3mm以上100mm未満)である。被切断繊維Fの長さが短いと、溶融熱可塑性樹脂M内での分散性が向上し、樹脂成形体の剛性が向上する。一方、被切断繊維Fの長さが長いと、溶融熱可塑性樹脂Mへの混練性が向上し、樹脂成形体の強度が向上する。
【0039】
前述のように、この実施の形態の製造装置では、溶融熱可塑性樹脂M内での被切断繊維Fの分散性を向上して可及的に一様にすることを1つの目的とする。繊維Fの材質や太さが同一である場合、溶融熱可塑性樹脂M内での被切断繊維Fの分散性が一様であれば、樹脂成形体の力学物性は、被切断繊維Fの長さに依存する。この実施の形態の製造装置では、繊維供給部2の繊維供給速度や繊維切断部4の繊維切断タイミングを調整することにより、短時間に被切断繊維Fの長さを変更することができる。したがって、一例として、溶融熱可塑性樹脂Mに混練される被切断繊維Fの長さをロット(ショット)毎、例えば2~3ロット毎に変更して、種々の力学物性が達成可能な繊維強化熱可塑性樹脂を取得することも可能である。
【0040】
また、刃物などによって繊維Fを機械的に切断するのと異なり、レーザによる繊維Fの切断は、刃先の経時劣化などに伴う切断性能の変化がない。前述のように、非常に細い繊維Fでは、刃物の刃先が劣化すると、切断性能が著しく低下し、例えば繊維Fが毛羽立って絡み合い、塊(だま)になりやすい。このように被切断繊維Fが絡み合った塊になると、溶融熱可塑性樹脂M内での被切断繊維Fの分散性が低下してしまう。これに対し、切断性能が低下しないレーザによる繊維Fの切断では、被切断繊維Fの毛羽立ちが抑制され、溶融熱可塑性樹脂M内での分散性が安定する。
【0041】
また、この実施の形態の製造装置では、前述のように、混練送出装置1であるスクリューコンベヤ10のスクリュー羽根11の回転速度を比較的小さく設定している。従来の2軸型のスクリューコンベヤでは、連続供給される繊維Fをスクリュー羽根によって切断するために、スクリュー羽根の回転速度を比較的大きく設定していた。これに対し、この実施の形態のスクリューコンベヤ10では、スクリュー羽根11の役割が溶融熱可塑性樹脂Mと被切断繊維Fの混練(搬送を含む)に特化されるので、スクリュー羽根11の回転速度を小さくして被切断繊維Fがそれ以上切断されないようにしている。同様の理由から、従来、2軸型だったスクリューコンベヤを、逆に被切断繊維Fが切断されないように1軸のスクリューコンベヤ10とすることができ、これにより省スペース化が図られる。また、従来の混練送出装置としてのスクリューコンベヤでは、場合によっては、スクリュー羽根に繊維切断機能を特別に付与する必要があるが、この実施の形態のスクリュー羽根11には、そうした機能を付与する必要はない。
【0042】
図5は、
図1の製造装置で製造された繊維強化熱可塑性樹脂に含有される繊維の繊維長と体積分率の関係の説明図であり、
図6は、従来の製造装置で製造された繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂に含有される繊維の繊維長と体積分率の関係の説明図である。何れの図でも、繊維長の小さい方からの体積分率を累積値で表している。
図5の繊維強化熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂に混練される被切断繊維Fの長さが一定の範囲に且つ一様に分布し、このことにより前述のように溶融熱可塑性樹脂Mへの分散性と混練性が向上し、結果として、樹脂成形品の剛性と強度を両立すると考えられる。これに対して、
図6の繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂は、樹脂成形品の強度に殆ど寄与しない極短い繊維長のものが多いことに加え、長い被切断繊維Fが残存することによって応力が集中してしまう繊維の束を生成し、この繊維の束が樹脂成形品の破断の起点となると考えられる。
【0043】
図7は、
図1の製造装置で製造された繊維強化熱可塑性樹脂に含有される繊維の状態を示す説明図である。また、
図8は、従来の製造装置で製造された繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂に含有される繊維の状態を示す説明図である。図は、何れもX線CT写真である。ここでも、
図1の製造装置では、熱可塑性樹脂に混練される被切断繊維Fの長さが一定の範囲に且つ一様に分布している。これらの図から明らかなように、
図1の製造装置で製造された繊維強化熱可塑性樹脂内の繊維の長さのバラつきが小さく、長すぎる繊維もないため、繊維の束が見られない。これに対し、従来の製造装置で製造された繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂内には繊維の束(繊維束)が散見される。この繊維の束の部分で応力が集中し、樹脂成形品の破断の起点となりやすい。
【0044】
図9は、
図1の製造装置で製造された繊維強化熱可塑性樹脂(実施例)並びに従来の製造装置で製造された繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂(比較例)の引張弾性率と引張強度の関係を示す説明図である。前述のように、また同図に示すように、
図1の製造装置で製造された繊維強化熱可塑性樹脂は、従来の製造装置で製造された繊維連続投入式繊維強化熱可塑性樹脂に比べて、引張弾性率(剛性)も引張強度も向上している。
【0045】
このように、この実施の形態の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法及び製造装置では、連続的に供給される複数の繊維Fは、収容部50の上部空間領域にて、繊維伸長方向と交差する方向に走査されるレーザによって一定の長さで切断される。レーザは、高速で走査しても繊維Fを切断することができるので、レーザの走査速度を大きく設定することで、連続供給される複数の繊維Fを確実に且つ速やかに一定の長さに切断することができる。また、繊維Fを刃物によって機械的に切断するのと異なり、レーザによる繊維Fの切断性能が経時的に劣化することもない。すなわち、連続供給される複数の繊維Fを、確実に安定して且つ迅速に一定の長さに切断することができる。そして、切断された繊維Fを混練送出装置1内の溶融状態の熱可塑性樹脂Mに送給し、その後、混練してから送出することにより、熱可塑性樹脂Mと切断後の繊維Fの混練状態を一様なものとすることができる。したがって、一定の長さに切断された繊維Fが分散状態で溶融状態の熱可塑性樹脂Mに送給され、それが一定の混練状態で送出されることから、熱可塑性樹脂M内における繊維Fの分散性も向上する。その結果、所望の力学物性の繊維強化熱可塑性樹脂を連続的に且つ確実に得ることができる。
【0046】
また、供給される繊維Fの繊維供給速度及び繊維切断タイミングの少なくとも一方を制御することによって切断される繊維Fの長さを調整することができる。そして、このように長さの異なる繊維Fを溶融状態の熱可塑性樹脂Mに混練することにより、繊維強化熱可塑性樹脂の力学物性を変更することができる。したがって、種々の力学物性の繊維強化熱可塑性樹脂を確実に且つ容易に得ることができる。
【0047】
また、切断される繊維Fの長さを3mm以上100mm未満とすることにより、溶融熱可塑性樹脂M内での分散性と溶融熱可塑性樹脂Mへの混練性が向上し、結果として、樹脂成形体の剛性と強度を両立することができる。
【0048】
また、繊維切断部4に供給される前に、集束機構30によって連続的に供給される複数の繊維Fを集束することにより、繊維切断部4のレーザによる繊維Fの切断所用時間を短縮することができる。その結果、切断される繊維Fの長さをより一層一様なものとすることができる。
【0049】
また、繊維集束部3は、所定の大きさの開口部31aに複数の繊維Fを挿通して集束する繊維絞り機構31、及び、軸線が交差する複数のローラ32aの間に形成された隙間32bに複数の繊維を挿通して集束する交差ローラ機構32の少なくとも一方を備える。これらは、比較的容易な構成で、連続供給される複数の繊維Fを繊維伸長方向と交差する方向に確実に収束することができる。
【0050】
また、繊維切断部4で切断された被切断繊維Fは、収容部50内にて、プロペラ51による物理的な攪拌や、気流によって分散される。このように切断後の繊維Fを予め分散させておくことにより、一定の長さに切断された繊維Fが分散状態で溶融状態の熱可塑性樹脂Mに送給され、混練後の熱可塑性樹脂M内における繊維Fの分散性がより一層向上する。
【0051】
また、切断された繊維Fは軽量であり、しかも所定の容積の収容部50内にて分散されているので、例えば、自由落下によって溶融状態の熱可塑性樹脂M内に安定送給することが困難な場合もある。この分散状態にある軽量の被切断繊維Fを繊維導入機構61によって捕捉して熱可塑性樹脂Mに強制的に導入することにより、熱可塑性樹脂M内への繊維導入量を安定させることが可能となり、これにより繊維強化熱可塑性樹脂の力学物性を安定化することができる。また、繊維導入機構61によって被切断繊維Fの嵩密度を大きくすることにより、溶融熱可塑性樹脂M内への混練性を向上することができる。
【0052】
以上、実施の形態に係る繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法及びその装置について説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、集束された(集束されている)複数の繊維Fの全数をレーザによって切断しているが、例えば、レーザの繊維伸長方向と交差(直交)する方向への走査を繊維束の途中までとすることも可能である。また、レーザの出力を抑制して、繊維束のレーザ照射側の部分だけを切断することも可能である。そして、このような制御を行えば、切断される繊維Fに長いものと短いものを混在させることもできる。被切断繊維Fに長いものが混在されることで、被切断繊維Fの溶融熱可塑性樹脂Mへの導入性が向上する。これは、被切断繊維Fが繊維導入機構61で溶融熱可塑性樹脂M内に導入される際、長い被切断繊維Fの方がスクリュー羽根61aに巻き込まれやすく、これに引きずられるようにして短い被切断繊維Fも樹脂内に搬送されるからである。また、制御された長さの被切断繊維Fを混在させることにより、繊維強化熱可塑性樹脂の力学物性を向上させることも可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1 混練送出装置(混練送出部)
2 繊維供給部
3 繊維集束部
4 繊維切断部
5 繊維分散部
6 繊維送給部
30 集束機構
31 繊維絞り機構
31a 開口部
32 交差ローラ機構
32a ローラ
32b 隙間
42 レーザ走査装置
50 収容部
51 プロペラ
61 繊維導入機構
F 繊維
M 熱可塑性樹脂