(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-04-20
(45)【発行日】2026-04-28
(54)【発明の名称】液体水素システム
(51)【国際特許分類】
F02M 21/02 20060101AFI20260421BHJP
F17C 7/04 20060101ALI20260421BHJP
【FI】
F02M21/02 G
F17C7/04
(21)【出願番号】P 2022187644
(22)【出願日】2022-11-24
【審査請求日】2025-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 典彦
(72)【発明者】
【氏名】伊東 直昭
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0325854(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0069857(US,A1)
【文献】中国実用新案第207438138(CN,U)
【文献】特開2013-160330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 21/02
F17C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、液体水素を貯留する水素タンクと、
前記液体水素を前記水素タンクから取り出した後、水素ガスに変換して、水素エンジンに供給する供給回路と、
前記供給回路から分岐して前記水素タンクに接続される還流回路であって、前記水素タンクの内圧が規定の基準圧力以上となるように、前記水素ガスを前記水素タンクに還流させる還流回路と、
を備え、
前記還流回路は、
電気的に開閉可能な還流仕切弁と、
前記還流仕切弁より前記水素タンク側に設けられ、前記水素ガスを減圧して出力する還流用減圧弁と、
を含む、ことを特徴とする液体水素システム。
【請求項2】
請求項1に記載の液体水素システムであって、さらに、
前記水素タンクの内圧をタンク内圧として検出する圧力センサと、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記タンク内圧が前記基準圧力未満の場合に、前記還流仕切弁を開放する、
ことを特徴とする液体水素システム。
【請求項3】
請求項1に記載の液体水素システムであって、
前記供給回路は、前記還流回路の分岐点より上流側に流体接続され、前記水素ガスを一時貯留するチャンバを有する、ことを特徴とする液体水素システム。
【請求項4】
請求項1に記載の液体水素システムであって、さらに、
前記液体水素を前記水素タンクから取り出すために、前記液体水素を、加圧して吐出する昇圧ポンプを備える、ことを特徴とする液体水素システム。
【請求項5】
請求項
2に記載の液体水素システムであって、
前記コントローラは、前記水素エンジンに供給される前記水素ガスの検出流量と目標流量との差分値、および、検出圧力と目標圧力との差分値に基づいて、前記水素ガスの供給量を制御し、
前記水素ガスの目標流量は、前記水素タンクへの還流量を無視した値である、
ことを特徴とする液体水素システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、水素を、液体状態で貯留し、ガス状態に変換して水素エンジンに供給する液体水素システムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水素エンジンに供給する水素を液体状態のまま貯留する液体水素システムが知られている。例えば、特許文献1には、液体水素を水素タンクに貯留し、この液体水素を、ポンプで取り出した後、気化して水素エンジンに供給するシステムが開示されている。このように、水素を液体状態で貯留することで、ガス状態で貯留する場合に比べて、水素の貯留量を増加できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、こうした液体水素システムでは、水素エンジンによる水素の消費量が急増すると、当然ながら、短時間で多量の液体水素が、水素タンクから取り出される。そして、多量の液体水素が取り出されることで、水素タンクの内圧が過度に低下するおそれがあった。水素タンクの内圧が過度に低下すると、ポンプによる液体水素の吐出が困難になる。
【0005】
しかし、特許文献1等の従来技術では、こうした液体水素の取り出しに伴う内圧低下については、検討されていなかった。結果として、従来技術では、水素エンジンに水素を適切に供給できない場合があった。
【0006】
そこで、本明細書では、水素エンジンに水素を適切に供給できる液体水素システムを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する液体水素システムは、車両に搭載され、液体水素を貯留する水素タンクと、前記液体水素を前記水素タンクから取り出した後、水素ガスに変換して、水素エンジンに供給する供給回路と、前記供給回路から分岐して前記水素タンクに接続される還流回路であって、前記水素タンクの内圧が規定の基準圧力以上となるように、前記水素ガスを前記水素タンクに還流させる還流回路と、を備えることを特徴とする。
【0008】
水素ガスを還流させる還流回路を備えることで、水素タンクの内圧が、過度に低下することを防止できる。そして、これにより、ポンプによる液体水素の吐出不良を防止でき、結果として、水素エンジンに水素を適切に供給できる。
【0009】
この場合、さらに、前記水素タンクの内圧をタンク内圧として検出する圧力センサと、コントローラと、を備え、前記還流回路は、電気的に開閉可能な還流仕切弁を含み、前記コントローラは、前記タンク内圧が前記基準圧力未満の場合に、前記還流仕切弁を開放してもよい。
【0010】
かかる構成とすることで、水素タンクの内圧を、基準圧力以上により確実に保つことができる。
【0011】
また、前記還流回路は、さらに、前記還流仕切弁より前記水素タンク側に設けられ、前記水素ガスを減圧して出力する還流用減圧弁、を含んでもよい。
【0012】
かかる構成とすることで、水素タンクの内圧が、過度に高くなることを防止できる。
【0013】
また、前記供給回路は、前記還流回路の分岐点より上流側に流体接続され、前記水素ガスを一時貯留するチャンバを有してもよい。
【0014】
かかる構成とした場合、水素ガスの若干の過不足を、チャンバで貯留される水素ガスで調整できる。結果として、水素ガスの圧力変動を抑制でき、また、水素供給制御の応答遅れをチャンバで吸収できる。また、かかる構成とすることで、水素ガスの還流量を無視して、水素の供給量を算出しても問題が生じないため、水素の供給制御を簡易化できる。
【0015】
また、さらに、前記液体水素を前記水素タンクから取り出すために、前記液体水素を、加圧して吐出する昇圧ポンプを備えてもよい。
【0016】
昇圧ポンプを用いることで、水素タンクに求められる耐圧性能を低く抑えることができる。なお、昇圧ポンプを用いた場合、タンク内圧の低下に伴い、ポンプが吐出不能となる可能性が高まる。しかし、本願明細書で開示する液体水素システムは、還流回路を備えているため、昇圧ポンプを用いても、ポンプの吐出不能を防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本明細書で開示する液体水素システムによれば、水素エンジンに水素を適切に供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】コントローラによるモータ回転数の制御を示すブロック図である。
【
図4】還流仕切弁の開閉制御の流れを示すフローチャートである。
【
図5】還流仕切弁の開閉制御の流れの他の例を示すフローチャートである。
【
図6】液体水素システムの他の構成を示す図である。
【
図7】コントローラによるモータ回転数の制御の他の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して液体水素システム10の構成について説明する。
図1は、液体水素システム10の構成を示す模式図である。この液体水素システム10は、水素を液体状態で貯留するとともに、水素をガス状態に変換して水素エンジン100に供給する。液体水素システム10および水素エンジン100は、車両に搭載される。水素エンジン100の構成は、特に限定されない。以下では、水素エンジン100は、水素ガスをエンジンシリンダ内に直噴する直噴式水素エンジンとする。
【0020】
液体水素システム10は、液体水素を貯留する水素タンク12を有している。水素タンク12は、液体水素を断熱して貯留する。かかる水素タンク12としては、例えば、二重構造の容器を用いることができる。この場合、水素タンク12は、内タンク14と、内タンク14を覆う外タンク16と、を有しており、内タンク14と外タンク16との間には、真空断熱層が形成されている。
【0021】
水素タンク12は、内壁にかかる圧力を均一に保つため、球形、または、俵型である。また、水素タンク12の底面には、周辺より陥没したコレクタ部18が設けられている。後述する水素ポンプ26は、このコレクタ部18に配置されている。かかる構成とすることで、液体水素の残量が少なくなった場合でも、水素ポンプ26を液中に位置させることができ、液体水素を最後まで吐出することができる。
【0022】
水素タンク12において、液体水素は、低温に保たれる。また、水素タンク12において液体水素の圧力は、大気圧とほぼ同じか、大気圧より若干高い圧力であり、例えば、1Mpa以下である。ここで、内タンク14は、真空断熱されている。しかしながら、入熱を完全に防止することはできず、時間の経過に伴い、貯留されている液体水素が、自然気化する。自然気化で生じる水素ガス(すなわち、ボイルオフガス)は、水素タンク12の上部に滞留する。
【0023】
液体水素は、充填回路19を介して外部から水素タンク12に充填される。充填回路19は、液体水素が流れる充填流路20と、水素ガスを外部に導く放出流路22と、を有する。充填流路20および放出流路22は、いずれも、コネクタ24から水素タンク12の内部まで延びている。充填回路19は、コネクタ24を介して、外部の水素ステーションに設けられた充填ホース(図示せず)に連結される。外部の水素ステーションに貯留された液体水素は、充填流路20を通じて、水素タンク12に供給される。また、液体水素の充填の過程で生じたボイルオフガスは、放出流路22を通じて、外部に放出される。
【0024】
水素タンク12には、貯留されている液体水素を吐出して、水素エンジン100に送り出す水素ポンプ26が設けられている。本例において、この水素ポンプ26は、液体水素を加圧しながら吐出する昇圧ポンプである。例えば、水素ポンプ26は、液中に配置されたシリンダ内でプランジャを往復動することで、液体を吸入および吐出するピストンポンプでもよい。この場合、シリンダの吸入口および吐出口それぞれに逆止弁を設けておく。この水素ポンプ26は、ポンプモータ28により駆動される。このような昇圧機能を有した水素ポンプ26を設けることで、水素タンク12に必要な耐圧性能を下げることができる。
【0025】
すなわち、上述した通り、本例において、水素エンジン100は、水素ガスをエンジンシリンダに直接噴射する直噴式である。直噴される水素ガスは、大気圧に比べて非常に高圧(例えば、5Mpa~数十Mp等)であることが求められる。かかる高圧の水素ガスを得るためには、気化される前、すなわち液体の状態で、十分に高圧であることが求められる。そこで、高圧(例えば、数十Mp)の液体水素を水素タンク12に貯留することも考えられる。しかし、この場合、水素タンク12の耐圧性能を高くしなければならず、水素タンク12に関するコストの増加や重量の増加を招く。
【0026】
一方、本例では、水素タンク12内における液体水素の圧力を大気圧とほぼ同じ圧力か若干高い圧力とし、当該液体水素を気化させる場合には、必要な分だけを水素ポンプ26で十分に昇圧してから取り出している。かかる構成とすることで、水素タンク12の耐圧性能を低く抑えつつ、十分に高圧の水素ガスを得ることができる。そして、必要な耐圧性能が下がることで、水素タンク12に要するコストを低減できる。また、必要な耐圧性能が下がることで、水素タンク12の軽量化が可能になる。さらに、必要な耐圧性能が下がることで、水素タンク12の形状として、球形および俵形以外の形状を採用でき、水素タンク12の形状の自由度が向上する。
【0027】
水素ポンプ26から吐出された液体水素は、供給回路30を通って水素エンジン100に供給される。供給回路30は、液体流路32と、ガス流路33と、気化器34と、圧力チャンバ40と、供給用減圧弁50と、を有する。液体流路32は、水素ポンプ26から吐出された液体水素を気化器34に導く流路である。気化器34は、液体水素と冷媒とを熱交換させることで、液体水素を水素ガスに変換する熱交換器である。気化器34で生じた水素ガスは、ガス流路33に出力される。
【0028】
気化器34の内部には、冷媒流路36が設けられている。冷媒流路36は、気化器34と熱源110との間で冷媒を循環させる。冷媒は、特に限定されず、例えばヘリウム等の気体でもよいし、水等の液体でもよい。また、熱源110も特に限定されない。したがって、熱源110は、例えば、水素エンジン100でもよいし、電力で発熱するヒータでもよい。熱源110によって加熱された冷媒は、気化器34において、液体水素を加熱する。これにより、液体水素が気化され、水素ガスが発生する。水素は、気化することで、その体積が大幅に増加する。なお、冷媒は、冷媒ポンプ38により、圧送される。
【0029】
ガス流路33は、水素ガスを、気化器34からインジェクタ52に導く流路である。ガス流路33には、流入流路42と流出流路44とを介して圧力チャンバ40が接続されている。圧力チャンバ40は、水素ガスを一時的に貯留する容器である。圧力チャンバ40の容量は、水素ガスの供給制御の応答遅れをカバーできる程度の容量である。例えば、圧力チャンバ40の容量は、水素エンジン100の最大水素消費流量の数秒から60秒分の容量である。かかる圧力チャンバ40を設けることにより、水素エンジン100の消費量が急変しても、水素ガスの不足を防止できる。
【0030】
流入流路42には、圧力チャンバ40からガス流路33に向かう流れを禁止する逆止弁46が設けられている。また、流出流路44には、チャンバ用仕切弁48が設けられている。チャンバ用仕切弁48は、水素エンジン100を駆動している期間中は、原則、開放される。また、流入流路42は、流出流路44より上流側に位置している。そのため、ガス流路33の圧力が圧力チャンバ40の内圧より高い場合、逆止弁46か開放されて、水素ガスが圧力チャンバ40に流入する。一方、圧力チャンバ40の内圧が、ガス流路33の圧力より高い場合、圧力チャンバ40に貯留された水素ガスが、流出流路44を通じて、ガス流路33に供給される。その結果、供給用減圧弁50に供給される水素ガスの圧力は、圧力チャンバ40の内圧とほぼ同じになる。
【0031】
圧力センサ41は、圧力チャンバ40の内圧を検出する。以下では、圧力センサ41による検出値を、「水素ガス圧力Pgh」と呼ぶ。後に詳説する通り、コントローラ80は、水素ガス圧力Pghが、予め規定された目標水素ガス圧力Pgh*になるように、ポンプモータ28の回転数を制御する。
【0032】
流出流路44より下流側には、供給用減圧弁50が、設けられている。供給用減圧弁50は、水素ガスを、水素エンジン100に適した圧力まで減圧する。減圧後の水素ガスは、インジェクタ52を介して、水素エンジン100に供給される。この水素エンジン100への水素ガスの供給流量は、流量計54により、検出される。以下では、流量計54で検出される水素ガスの流量を、「水素ガス流量Qgh」と呼ぶ。
【0033】
還流回路60は、供給回路30から分岐して、水素ガスを水素タンク12に還流させる回路である。かかる還流回路60は、還流流路62と、還流仕切弁64と、還流用減圧弁66と、逆止弁68と、を有する。還流流路62は、流出流路44より下流側、かつ、供給用減圧弁50より上流側となる位置においてガス流路33から分岐する流路である。還流流路62は、ガス流路33から分岐した後、水素タンク12に向かい、水素タンク12の内部に連通する。
【0034】
還流仕切弁64は、還流流路62を開閉する弁であり、コントローラ80により開閉制御される。還流仕切弁64が開放されると、供給回路30に流れる水素ガスの一部が、水素タンク12に戻される。還流用減圧弁66は、還流仕切弁64より下流側(すなわち、分岐点から離れる側)に設けられる。還流用減圧弁66は、水素ガスを、水素タンク12に戻しても問題ない程度の圧力に減圧する。逆止弁68は、還流用減圧弁66より下流側に設けられている。逆止弁68は、還流用減圧弁66から水素タンク12に向かう方向の流れのみを許容し、水素ガスの逆流を防止する。かかる還流回路60を設ける理由については、後述する。
【0035】
水素タンク12には、さらに、ボイルオフ流路72が、接続されている。ボイルオフ流路72は、水素タンク12の内圧が、規定の安全値Psfを越えた場合に、開放される流路である。ボイルオフ流路72が開放されることで、水素タンク12の内部に溜まった水素ガスの一部が外部に放出される。これにより、水素タンク12の内圧が、過剰に高くなることが防止される。すなわち、上述した通り、内タンク14は真空断熱されているものの、入熱を完全に防止することはできない。その結果、貯留されている液体水素の一部が自然気化し、水素ガス(いわゆるボイルオフガス)が発生する。こうした水素ガスを放置すると、水素タンク12の内圧が、過剰に高くなる。そこで、水素タンク12の内圧が、規定の安全値Psfを越えた場合には、ボイルオフ流路72を開放し、水素ガスの一部をタンク外部に放出する。
【0036】
なお、
図1では、ボイルオフ流路72を一つのみ図示している。しかし、ボイルオフ流路72は、複数設けられてもよい。例えば、第一の安全値で開放される第一のボイルオフ流路と、第一の安全値よりも高い第二の安全値で開放される第二のボイルオフ流路と、を設けてもよい。また、ボイルオフ流路72は、開閉を繰り返すものでもよいし、一度、開放されれば、閉鎖不能なものでもよい。したがって、ボイルオフ流路72には、開閉可能なバルブが設けられてもよいし、圧力が安全値Psfを越えた場合に機械的に破壊されて開放状態を維持するラプチャーディスクが設けられてもよい。
【0037】
水素タンク12の内圧および温度は、圧力センサ78および温度センサ76で検出される。以下では、圧力センサ78で検出される水素タンク12の内圧を「タンク内圧Pt」と呼ぶ。
【0038】
コントローラ80は、液体水素システム10の動作を制御する。コントローラ80は、物理的には、プロセッサ82と、メモリ84と、を有するコンピュータである。この「コンピュータ」には、コンピュータシステムを一つの集積回路に組み込んだマイクロコントローラも含まれる。また、コントローラ80は、一つのコンピュータに限らず、機械的に分離された複数のコンピュータを組み合わせて構成されてもよい。コントローラ80は、各種センサで検出された値に基づいて、液体水素システム10に設けられた複数の弁やポンプの駆動を制御する。
【0039】
具体的には、コントローラ80は、エンジン制御部(図示せず)からの要求に応じて、水素ガスの水素エンジン100への供給流量を制御する。水素ガスの供給流量は、液体水素の吐出流量Qlhに比例し、吐出流量Qlhは、ポンプモータ28の回転数Nmに比例する。そこで、コントローラ80は、流量計54で検出された水素ガス流量Qghをフィードバック値として、モータ回転数Nmをフィードバック制御する。また、水素エンジン100を適切に駆動するためには、水素ガスの流量に加えて、圧力も適正値である必要がある。そこで、コントローラ80は、圧力センサ41で検出された水素ガス圧力Pghもフィードバックして、モータ回転数Nmを制御する。
【0040】
図2は、コントローラ80によるモータ回転数Nmの制御を示すブロック図である。コントローラ80は、
図2に示す制御ブロックとして機能する。
図2において、流量制御器86は、入力値に対して、所定の制御演算を施す演算器である。制御演算は、特に限定されないが、例えば、入力値に比例ゲインを乗算する比例演算、入力値の積分値に積分ゲインを乗算する積分演算、および、入力値の微分値に微分ゲインを乗算する微分演算の少なくとも一つを含んでもよい。圧力制御器88も、同様に、入力値に対して所定の制御演算を施す。
【0041】
図2に示す通り、本例では、目標水素ガス流量Qgh*から、流量計54で検出された水素ガス流量Qghを減算して、流量偏差が算出される。流量制御器86は、流量偏差を入力として、第一指令値C1を出力する。ここで、目標水素ガス流量Qgh*は、例えば、車両のアクセル開度に基づいて決定される。
【0042】
また、目標水素ガス圧力Pgh*から、圧力センサ41で検出された水素ガス圧力Pghを減算して、圧力偏差が算出される。圧力制御器88は、圧力偏差を入力として、第二指令値C2を出力する。ここで、目標水素ガス圧力Pgh*は、水素エンジン100の特性に応じて決定される値であり、原則として、不変の固定位置である。コントローラ80は、第一指令値C1および第二指令値C2の加算値を、モータ回転数指令Nm*として、ポンプモータ28の駆動を制御する。
【0043】
ここで、これまでの説明で明らかな通り、コントローラ80は、水素エンジン100からの要求に応じてポンプモータ28を駆動し、水素タンク12から液体水素を吐出する。水素エンジン100による水素の消費量が増えて、液体水素の吐出流量Qlhが大きくなると、水素タンク12の内圧が、低下することがある。
【0044】
すなわち、水素タンク12の内部では、常時、微量のボイルオフガス(すなわち水素ガス)が発生している。液体水素の吐出流量Qlhが、このボイルオフガスの発生量(以下「ボイルオフ量Qbf」と呼ぶ)より大きくなると、タンク内圧Ptは、徐々に低下する。
【0045】
タンク内圧Ptが、過度に低くなると、水素ポンプ26で液体水素を正常に吐出することができない。特に、水素ポンプ26が、液体水素を加圧する昇圧ポンプの場合、液体水素を吐出するためには、液体水素を高圧の吐出圧まで加圧する必要がある。しかし、タンク内圧Ptが低下、ひいては、液体水素の圧力が低下していると、液体水素を高圧の吐出圧まで加圧できず、液体水素を適切に吐出できない。そこで、本例では、タンク内圧Ptが規定の基準圧力以上を保つように、適宜、還流回路60を開放して、供給回路30に流れる水素ガスの一部を水素タンク12に還流させている。
【0046】
より具体的に説明すると、本例では、圧力センサ78で検出されるタンク内圧Ptが、規定の基準圧力Pst未満になれば、還流仕切弁64を開放し、水素ガスを、水素タンク12に導く。なお、還流仕切弁64を通過する水素ガスは、水素タンク12の内圧に比べて高圧である。そのため、本例では、還流仕切弁64の下流側に還流用減圧弁66を設け、水素ガスを水素タンク12への流入に適した圧力に減圧している。例えば、還流用減圧弁66は、水素ガスを、基準圧力Pstより高く、安全値Psfよりも低い圧力に減圧する。そして、供給回路30に流れる水素ガスの一部を水素タンク12に還流させることで、水素タンク12の内圧が、過度に低下することが防止でき、水素ポンプ26による液体水素の吐出を適切に継続できる。
【0047】
なお、当然ながら、基準圧力Pstは、ボイルオフ流路72を開放する安全値Psfよりも十分に低い。また、基準圧力Pstは、単一の値ではなく、ある程度のヒステリシス幅を有してもよい。
図3は、還流仕切弁64の動作を示すグラフである。
図3において横軸は、タンク内圧Ptを示しており、縦軸は、還流仕切弁64の状態を示している。また、
図4は、還流仕切弁64の開閉制御の流れを示すフローチャートである。
【0048】
図3、
図4の例では、基準圧力Pstとして、下側基準圧力Pst_lwと、下側基準圧力Pst_lwよりも高い上側基準圧力Pst_upと、が設定されている。コントローラ80は、タンク内圧Ptを常時監視している。そして、タンク内圧Ptが減少する過程で、下側基準圧力Pst_lwを跨いだ場合(S10でYes)、コントローラ80は、還流仕切弁64を開放する(S12)。
【0049】
還流仕切弁64を開放した後、コントローラ80は、タンク内圧Ptが、増加する過程で、上側基準圧力Pst_upを跨ぐか否かを監視する(S14)。タンク内圧Ptが、上側基準圧力Pst_upを超えない場合(S14でNo)、コントローラ80は、還流仕切弁64を開放状態のまま維持する。還流仕切弁64が開放されることで、水素ガスが、水素タンク12に流入し、タンク内圧Ptが徐々に上昇する。そして、タンク内圧Ptが上側基準圧力Pst_upを超えた場合(S14でYes)、コントローラ80は、還流仕切弁64を閉鎖する(S16)。その後は、ステップS10に戻り、同様の処理を繰り返す。
【0050】
なお、ここで説明した制御は一例である。還流流路62の開閉制御は、タンク内圧Ptを基準圧力Pst以上に保てるのであれば、適宜、変更されてもよい。例えば、上記の説明では、圧力センサ78で検出されたタンク内圧Ptをフィードバックして還流仕切弁64を開閉制御している。しかし、タンク内圧Pt以外のパラメータに基づいて、還流仕切弁64を開閉制御してもよい。例えば、液体水素の吐出流量Qlhに基づいて、還流仕切弁64を開閉制御してもよい。
【0051】
図5は、吐出流量Qlhに基づく還流仕切弁64の開閉制御の流れを示すフローチャートである。この場合、コントローラ80は、ポンプモータ28に出力するモータ回転数指令Nm*に基づいて、液体水素の吐出流量Qlhを算出する(S20)。通常、吐出流量Qlhは、モータ回転数指令Nm*の比例値である。
【0052】
続いて、コントローラ80は、吐出流量Qlhからボイルオフ量Qbfを減算し、水素増減量ΔQを算出する(S22)。なお、ボイルオフ量Qbfとしては、予め設定された固定値を用いてもよいし、温度センサ76で検出された温度に応じて変化する変動値を用いてもよい。
【0053】
続いて、コントローラ80は、水素増減量ΔQと、ゼロと、をMAX関数に入力し、水素減少量Qd=MAX(ΔQ,0)を算出する(S24)。なお、MAX関数は、入力された複数の変数のうち、最も大きい値を出力する関数である。ステップS24では、水素増減量ΔQが、0超過であれば、Qd=ΔQとなり、水素増減量ΔQが、0以下であれば、Qd=0となる。水素減少量Qdが0超過の場合、そのままでは、タンク内圧Ptが、徐々に低下する。そこで、コントローラ80は、(Qd×Kt)秒間、還流仕切弁64を開放する(S26)。ここで、係数Ktは、予め規定された固定値である。そして、(Qd×Kt)秒が経過すれば、コントローラ80は、還流仕切弁64を閉鎖し、ステップS20に戻る。なお、Qd=0の場合、当然ながら、還流仕切弁64は閉鎖されたままとなり、水素ガスは還流されない。
【0054】
このように、吐出流量Qlhに基づいて、還流仕切弁64の開放時間を変動することで、タンク内圧Ptが低下する前に、水素ガスを還流させることができ、水素ポンプ26の動作をより適切に保つことができる。
【0055】
さらに、別の形態として、逆止弁68の開放圧力を利用して、還流流路62を成り行きで開閉してもよい。例えば、
図6に示すように、還流流路62において、還流仕切弁64および還流用減圧弁66を無くして、逆止弁68だけを設けてもよい。この場合、逆止弁46の開放圧力Pvoを、目標水素ガス圧力Pgh*と基準圧力Pstとの差圧相当に設定しておく。すなわち、Pvo=Pgh*-Pstとする。
【0056】
ここで、逆止弁68の一次側の圧力は、圧力センサ41で検出される水素ガス圧力Pghとほぼ同じである。また、コントローラ80は、水素ガス圧力Pghが、目標水素ガス圧力Pgh*に一致するようにフィードバック制御している。そのため、逆止弁68の一次側の圧力は、目標水素ガス圧力Pgh*とほぼ同じとなる。水素タンク12の内圧が低下して、基準圧力Pst未満になれば、開放圧力Pvo以上の圧力が逆止弁68に作用し、逆止弁68が開放される。そして、これにより、水素タンク12に水素ガスが還流され、タンク内圧Ptが上昇する。タンク内圧Ptが上昇し、逆止弁68の一次側と二次側の差圧が、開放圧力Pvo未満になれば、逆止弁68は、自動的に閉鎖され、水素ガスの還流が停止する。このように、逆止弁68を利用して、還流流路62を成り行きで開閉することで、コントローラ80による制御を簡易化できる。
【0057】
ところで、水素ガスの一部を水素タンク12に還流させた場合、その分、余分に水素ガスが必要となる。例えば、還流量Qrの水素ガスを水素タンク12に還流させる場合、液体水素システム全体としては、水素エンジン100に供給する目標水素ガス流量Qgh*に、還流量Qrを加算した量の水素ガスが必要となる。したがって、本来であれば、
図2において、この加算値Qgh*+Qrを流量の目標値に設定するべきである。しかしながら、還流量Qrを考慮した場合、制御が複雑となり、演算量が増加する。
【0058】
ここで、還流量Qrは、水素エンジン100に供給される水素ガス流量Qghに比べて、大幅に小さい。また、本例では、供給回路30の途中に圧力チャンバ40を設け、水素ガスを一時的に貯留している。水素ガスの多少の過不足は、この圧力チャンバ40に一時貯留された水素ガスで吸収できる。そこで、圧力チャンバ40を有する本例では、還流量Qrを無視してモータ回転数指令Nm*を算出する。本例は、圧力チャンバ40を有しているため、還流量Qrを無視したとしても、水素ガスの不足を防止できる。また、モータ回転数指令Nm*の算出において、還流量Qrを無視することで、制御のための演算量を低減できる。
【0059】
ただし、当然ながら、還流量Qrをモータ回転数制御に組み込んでもよい。すなわち、
図2におけるパラメータQgh*を、Qgh*+Qrに置き換えてもよい。この場合、還流量Qrは、例えば、Qr=MAX(ΔQ,0)の式で算出される。
【0060】
また、別の形態として、
図7に示すように、モータ回転数指令Nm*を算出するために、タンク内圧Ptをフィードバックしてもよい。具体的には、コントローラ80は、基準圧力Pstからタンク内圧Ptを減算して、タンク圧力偏差ΔPtを算出する。また、コントローラ80は、このタンク圧力偏差ΔPtと、値0と、を関数MAX()に入力し、その出力値に、所定のゲインKnを乗算した値を、第三の指令値C3として算出する。そして、コントローラ80は、三つの指令値C1,C2,C3を加算した値を、モータ回転数指令Nm*として出力する。
【0061】
このように、水素ガスの還流量Qrを目標流量に加算、あるいは、タンク内圧Ptをフィードバックすることで、より適切な量の液体水素を吐出することができ、ガス流路33における水素ガスの圧力変動を抑制できる。
【0062】
また、これまで説明した構成は、いずれも一例である。液体水素システム10は、供給回路30に流れる水素ガスの一部を、水素タンク12に還流させる還流回路60を有するのであれば、その他の構成は、変更されてもよい。例えば、
図1では、還流回路60に逆止弁68を設けているが、還流仕切弁64を設けるのであれば、逆止弁68は無くてもよい。また、これまでの説明では、還流回路60に、圧力チャンバ40や供給用減圧弁50を設けているが、これらは、無くてもよい。また、本例では、水素ポンプ26は、液体水素を加圧して吐出する昇圧ポンプとしているが、水素ポンプ26は、液体水素を加圧できないものでもよい。さらに、水素エンジン100は、直噴式のエンジンに限らず、他の形態、例えば、ポート噴射式のエンジンでもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 液体水素システム、12 水素タンク、14 内タンク、16 外タンク、18 コレクタ部、19 充填回路、20 充填流路、22 放出流路、24 コネクタ、26 水素ポンプ(昇圧ポンプ)、28 ポンプモータ、30 供給回路、32 液体流路、33 ガス流路、34 気化器、36 冷媒流路、38 冷媒ポンプ、40 圧力チャンバ、41 圧力センサ、42 流入流路、44 流出流路、46 逆止弁、48 チャンバ用仕切弁、50 供給用減圧弁、52 インジェクタ、54 流量計、60 還流回路、62 還流流路、64 還流仕切弁、66 還流用減圧弁、68 逆止弁、72 ボイルオフ流路、76 温度センサ、78 圧力センサ、80 コントローラ、82 プロセッサ、84 メモリ、86 流量制御器、88 圧力制御器、100 水素エンジン、110 熱源。