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特表2022-503281硫黄コロイドの医薬組成物及びその方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-12
(54)【発明の名称】硫黄コロイドの医薬組成物及びその方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/02 20060101AFI20220104BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220104BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 51/02 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A61K47/02
A61K47/20
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/38
A61K47/18
A61K47/12
A61K47/22
A61K9/19
A61K9/06
A61K51/02 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2020514576
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(85)【翻訳文提出日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 IB2019058517
(87)【国際公開番号】W WO2020070731
(87)【国際公開日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】201811038067
(32)【優先日】2018-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519283303
【氏名又は名称】ジュビラント ジェネリックス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JUBILANT GENERICS LIMITED
【住所又は居所原語表記】D-12,Sector 59,201301 Noida,INDIA
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハーミック・ソヒ
(72)【発明者】
【氏名】ラフル・ハシジャ
(72)【発明者】
【氏名】バサント・マリク
(72)【発明者】
【氏名】カマル・エス・メータ
(72)【発明者】
【氏名】ディネシュ・クマール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA29
4C076BB03
4C076BB04
4C076BB13
4C076CC50
4C076DD19
4C076DD24
4C076DD43
4C076DD45
4C076DD49
4C076DD55
4C076DD57
4C076DD59
4C076EE09
4C076EE30
4C076EE31
4C076EE33
4C076EE36
4C076EE42
4C085HH03
4C085KA29
4C085KB09
4C085LL01
4C085LL05
(57)【要約】
本発明は、硫黄コロイドの安定な医薬組成物に関し、これは、有利には、ゲルを形成させることなく99mTc-過テクネチウム酸塩に高い放射性化学的純度を提供する。組成物は、硫黄コロイドの凍結乾燥前組成物及び凍結乾燥組成物を含む。本発明はまた、99mTc-過テクネチウム酸塩溶液で再構成すると、安定化した99mTc-硫黄コロイド放射性医薬組成物をもたらす非放射性のキットに関する。更に、前記組成物の調製方法及び診断を目的とする組成物の使用も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.還元剤;
b.コロイド支持剤;
c.キレート剤
を含み、2~25℃の温度で約1cP~約100cPの粘度を有する、硫黄コロイドの医薬組成物。
【請求項2】
抗菌剤又は放射線防護剤からなる群から選択される1種又は複数の賦形剤を更に含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
凍結乾燥において使用される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
更に凍結乾燥されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
最大30時間は粘度が10cP未満である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
最大30時間は粘度が5cP未満である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
最大30時間は粘度が3cP未満である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
5℃~25℃の温度で少なくとも2時間以内にゲルを形成しない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
5℃~25℃の温度で少なくとも8時間以内にゲルを形成しない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
5℃~25℃の温度で少なくとも24時間以内にゲルを形成しない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
20±5℃の温度で少なくとも2時間以内にゲルを形成しない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
還元剤が、亜ジチオン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ホルムアミジンスルフィン酸、チオ硫酸ナトリウム、硫化第一スズ、又はその組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
還元剤がチオ硫酸ナトリウム又は硫化第一スズである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
コロイド支持剤が、ゼラチン、アルギン酸、グアーガム、ベントナイト、カルボマー、カラギーナン、コロイド状二酸化ケイ素、セルロース誘導体、トラガカンス、ポロキサマー、カルボキシメチルセルロース、又はその組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
コロイド支持剤がゼラチン又はセルロース誘導体である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
キレート剤が、エデト酸二ナトリウム、(((1,2-シクロヘキシレン)オキシエチレン)ジニトリロ)四酢酸;(オキシビス(エチレンニトリロ))四酢酸;(1,2-シクロヘキシレンジニトリロ)四酢酸;N-(5-(3-((5-アミノペンチル)-ヒドロキシカルバモイル)プロピオンアミド)ペンチル)-3-((5-(N-ヒドロキシアセトアミド)-ペンチル)カルバモイル)プロピオンヒドロキサム酸;ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム塩;(ジエチレントリニトリロ)五酢酸;(ジエチレントリニトリロ)五酢酸ペンタエチルエステル;(エチレンジニトリロ)-四酢酸;((2-(3-オキソモルホリノ)エチル)イミノ)ニ酢酸、ジエチルエステル;及び((2-メルカプトエチル)イミノ)ニ酢酸;シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、アミノトリメチレンホスホン酸(ATPA)、クエン酸、又はその組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
キレート剤がエデト酸二ナトリウム又はDTPAである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
抗菌防腐剤が、ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、ベンジルアルコール、クレゾール、セトリミド(cetrimide)、チオメルサールフェノール、パラベン、ベンジルアルコールからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項19】
抗菌防腐剤が、ベンザルコニウムクロリド若しくはベンゼトニウムクロリド、パラベン、又はベンジルアルコールである、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
放射線防護剤が、アスコルビン酸、ゲンチジン酸、アントラニル酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、又はその組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項21】
放射線防護剤がアスコルビン酸又はゲンチジン酸である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
凍結乾燥され、6ヵ月間保存され、99mTc-過テクネチウム酸塩溶液で再構成された場合に、再構成後15℃~25℃の温度で少なくとも6時間、少なくとも95%の放射化学的純度を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項23】
凍結乾燥され、6ヵ月間保存され、99mTc-過テクネチウム酸塩溶液で再構成された場合に、再構成後15℃~25℃の温度で少なくとも6時間、少なくとも99%の放射化学的純度を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項24】
患者において細網内皮イメージング、胃食道逆流シンチグラフィ、又は腹腔静脈シャント開存を行う方法であって、患者への放射性医薬組成物の投与を含み、放射性医薬が、99mTc過テクネチウム酸塩溶液と組み合わせた請求項1から23のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む、方法。
【請求項25】
細網内皮イメージング、胃食道逆流シンチグラフィ、又は腹腔静脈シャント開存において使用するための、99mTc過テクネチウム酸塩溶液と組み合わせた請求項1から23のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む、放射性医薬組成物。
【請求項26】
細網内皮イメージング、胃食道逆流シンチグラフィ、又は腹腔静脈シャント開存において使用するための、99mTc過テクネチウム酸塩溶液と組み合わせた請求項1から23のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む放射性医薬組成物の使用。
【請求項27】
請求項1に記載の医薬組成物を調製する方法であって、
a.ゼラチンと注射用水を混合することによってバルク溶液を調製する工程と;
b.工程(a)のゼラチン溶液を、少なくとも100℃の温度で約60分間又はそれより長く加熱する工程と;
c.工程(b)の溶液に還元剤としてチオ硫酸ナトリウムを加える工程と;
d.工程(c)の溶液にキレート剤としてエデト酸二ナトリウムを加える工程と
を含み、
工程(d)により生じる組成物が2℃~25℃の温度で約1cP~約100cPの粘度を有する、方法。
【請求項28】
工程(b)における加熱する工程が約110分間~約150分間である、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄コロイドの安定な医薬組成物に関する。組成物は、硫黄コロイドの凍結乾燥前及び凍結乾燥組成物を含む。本発明はまた、99mTc-過テクネチウム酸塩(99mTc-pertechnetate)溶液で再構成すると、安定化した99mTc-硫黄コロイド放射性医薬組成物をもたらす非放射性のキットに関する。更に、前記組成物の調製方法及び診断を目的とする組成物の使用も開示される。
【背景技術】
【0002】
テクネチウム-99m(99mTc)系放射性医薬は、in vivoイメージングの診断用核医学で使用されている。硫黄コロイドキットは、細網内皮イメージング、胃食道逆流シンチグラフィ、腹腔静脈(LeVeen)シャント開存に使用されている。
【0003】
Ivanに譲渡された米国特許第3683066号は、凝集を妨げるためのキレート剤の使用を開示している。
【0004】
商業的に入手可能な硫黄コロイドの調製物は、ゼラチンを含み、ゼラチンは、コロイドの安定性及び保護にきわめて重要な役割を果たす。しかしながら、ゼラチンを使用することにより、凍結乾燥前の組成物の粘度が高くなり、研究室規模及び商業的規模において製造に悪影響を及ぼすことが認められている。本発明の発明者らは、凍結乾燥前組成物をより低温の条件に、より長期間曝すことによって、バルク溶液の粘度が高くなり、濃いゲルに更に固化することを発見している。半固形状の又はゲル状の組成物がろ過膜を通過して、凍結乾燥用のバイアルに凍結乾燥前組成物を充填することは、文字通り不可能となる。
【0005】
先行技術では、安定な硫黄コロイド組成物の製造中のゲル化又は粘度の問題を開示していない。驚くべきことには、適切な加熱の時間及び/又は温度は、硫黄コロイド組成物にとってきわめて重要であり、適切な加熱の時間及び/又は温度は、硫黄コロイド組成物が、適切な粘度を有し、ゲル化を回避するためには製造中にモニタリング及び制御を行う必要のあることが、発明者らによって見いだされている。
【0006】
本発明により調製された組成物は、安定であり、高い放射性化学的純度及び適切な生体内分布プロフィールを有することが見いだされている。本発明による方法は、再現性があり、単純で工業生産に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3683066号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、硫黄コロイドの安定な医薬組成物を提供することを主な目的とし、医薬組成物は、2℃~25℃で少なくとも2時間、好ましくは少なくとも8時間、好ましくは少なくとも12時間、好ましくは少なくとも24時間、最も好ましくは少なくとも30時間、約1cP~約100cPの範囲の粘度を有する。
【0009】
本発明は、99mTc-過テクネチウム酸塩溶液で再構成すると、安定化した、所望の技術特性を有する99mTc-硫黄コロイド放射性医薬組成物をもたらす、凍結乾燥非放射性キットを提供することを別の目的とする。
【0010】
本発明は、前記放射性医薬組成物の調製方法及び診断を目的とするその使用を提供することを別の目的とする。
【0011】
本発明は、還元剤;コロイド支持剤;キレート剤、及び必要に応じて抗菌剤又は放射線防護剤(radioprotectant)から選択される1種又は複数の賦形剤を含む、硫黄コロイドの医薬組成物を提供することを別の目的とし、医薬組成物は、2℃~25℃で少なくとも2時間、好ましくは少なくとも8時間、好ましくは少なくとも12時間、好ましくは少なくとも24時間、最も好ましくは少なくとも30時間、約1cP~約100cPの範囲の粘度を有する。
【0012】
本発明は、ゼラチンと注射用水を混合することによってバルク溶液を調製する工程と;コロイド支持剤を少なくとも100℃で約110~150分間加熱する工程と;還元剤を加える工程と;キレート剤を攪拌しながら加える工程と;を含む方法によって調製される、硫黄コロイドの医薬組成物を提供することを別の目的とし、組成物が2℃~25℃で少なくとも2時間、好ましくは少なくとも8時間、好ましくは少なくとも12時間、好ましくは少なくとも24時間、最も好ましくは少なくとも30時間、約1cP~約100cPの範囲の粘度を有する。
【0013】
本発明は、本発明の方法によって調製された組成物に、所望の技術特性、例えば安定性、貯蔵寿命、高い放射性化学的純度(RCP)及び生体内分布を提供することを別の目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
硫黄コロイドキットは、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム及びボビンゼラチンを含む凍結乾燥バイアルを含む。キットは、塩酸、ビスホスホネートナトリウム、及び水酸化ナトリウムの2種の溶液を更に含む。最終組成物は、99mTc過テクネチウム酸塩溶液を、凍結乾燥バイアル中に加え、次いで凍結乾燥バイアルに2種の溶液を加えることによって調製される。プロセスの間、溶液から元素硫黄が沈殿して、99mTc2S7を含有するコロイド状の粒子を形成した。
【0015】
ゼラチンは、コロイドの安定性及び保護に重要な役割を果たす。しかしながら、ゼラチンの使用は、より低温の条件で凍結乾燥前組成物の粘度を高くする傾向があり、それは研究室規模及び商業的規模において製造性に影響を及ぼす。本明細書で使用される用語「硫黄コロイド」は、放射性医薬組成物を包含する。
【0016】
本明細書で使用される用語「キット」は、凍結乾燥組成物バイアル、酸溶液、及び緩衝液を含む。
【0017】
本明細書で使用される用語「放射性同位体」又は「放射性核種」は、元素の放射性同位体である。それらは、ニュートロンとプロトンの不安定な組み合わせ、又はその核内での過剰なエネルギーを含有する原子としても定義される。
【0018】
本明細書で使用される用語「組成物」は、医薬組成物においてと同じく、還元剤及び他の不活性成分(薬学的に許容される賦形剤)を含む診断用製品を包含することを企図する。そのような医薬組成物は、「製剤」及び「剤形(dosage form)」と同義である。
【0019】
本明細書で使用される用語「医薬組成物」は、凍結乾燥前組成物又はバルク組成物、凍結乾燥組成物に関する。
【0020】
本明細書で使用される用語「凍結乾燥前組成物又はバルク組成物」は、凍結乾燥前の溶液の形態の、還元剤、コロイド支持剤、キレート剤及び1種又は複数の薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0021】
本明細書で使用される用語「凍結乾燥組成物」は、硫黄コロイド及び1種又は複数の薬学的に許容される賦形剤の凍結乾燥組成物を包含することを企図する。
【0022】
本明細書で使用される用語「放射性医薬組成物」は、放射性同位体99mTcで再構成された、凍結乾燥硫黄コロイド組成物、酸味剤、緩衝液を包含することを企図する。
【0023】
本明細書で使用される用語「ゲル又はゲル化」は、10~1000センチポアズの範囲の粘度を有する固形状又は半固形状の固さに関する。
【0024】
本明細書で使用される用語「賦形剤」は、例えば生体適合性のある還元剤、キレート剤、pH調整剤、フィラー、放射線防護剤、コロイド支持剤、抗菌防腐剤等のキット中の不活性成分を意味する。医薬組成物の調製に有用な賦形剤は、一般に安全であり、非毒性であり、ヒト用医薬の使用に許容される。賦形剤の参照には、1種及び1種より多くの両方の、そのような賦形剤を含む。同じ作用を及ぼす賦形剤を組み合わせて使用し、所望する組成物の特性を得ることもできる。
【0025】
本明細書で使用される用語「還元剤」は、硫黄を供与することができる化合物を意味する。本発明による適切な還元剤は、これらに限定されないが、亜ジチオン酸ナトリウム、硫化第一スズ、亜硫酸水素ナトリウム、ホルムアミジンスルフィン酸、及びチオ硫酸ナトリウム、又はその組み合わせを含む。好ましい還元剤は、チオ硫酸ナトリウム又は硫化第一スズを含む。放射性医薬組成物における還元剤の量は、組成物の総質量に対して約1%~15%、好ましくは約5%~約12%、最も好ましくは約7%~11%である。
【0026】
本明細書で使用される用語「コロイド支持剤」は、コロイドを安定化させることができる化合物を意味する。本発明による適切なコロイド支持剤は、これらに限定されないが、ゼラチン、アルギン酸、グアーガム、ベントナイト、カルボマー、カラギーナン、コロイド状二酸化ケイ素、セルロース誘導体、トラガカンス、ポロキサマー、カルボキシメチルセルロース、又はその組み合わせを含む。本発明による好ましいコロイド支持剤は、ゼラチン、セルロース誘導体を含む。放射性医薬組成物におけるコロイド支持剤の量は、組成物の総質量に対して約50%~約95%、好ましくは約60%~約95%、最も好ましくは約70%~約85%である。
【0027】
本明細書で使用される用語「キレート剤」は、移動配位子(transfer ligand)又は中間配位子(intermediate ligand)とも称される、凝集を妨げ、安定性を提供する化合物である。本発明による適切なキレート剤は、これらに限定されないが、エデト酸二ナトリウム、(((1,2-シクロヘキシレン)オキシエチレン)ジニトリロ)四酢酸;(オキシビス(エチレンニトリロ))四酢酸;(1,2-シクロヘキシレンジニトリロ)四酢酸;N-(5-(3-((5-アミノペンチル)-ヒドロキシカルバモイル)プロピオンアミド)ペンチル)-3-((5-(N-ヒドロキシアセトアミド)-ペンチル)カルバモイル)プロピオンヒドロキサム酸;ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム塩;(ジエチレントリニトリロ)五酢酸;(ジエチレントリニトリロ)五酢酸ペンタエチルエステル;(エチレンジニトリロ)-四酢酸;((2-(3-オキソモルホリノ)エチル)イミノ)ニ酢酸、ジエチルエステル;及び((2-メルカプトエチル)イミノ)ニ酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、アミノトリメチレンホスホン酸(ATPA)、クエン酸、又はその組み合わせを含む。好ましい還元剤は、エデト酸二ナトリウム又はジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を含む。放射性医薬組成物におけるキレート剤の量は、組成物の総質量に対して約5%~約20%、好ましくは約7%~約15%、最も好ましくは約8%~約13%である。
【0028】
本明細書で使用される用語「pH調整剤」は、ヒト投与に許容される限度内に放射性医薬組成物のpHを維持することができる化合物、又は化合物の混合物に関する。本発明による適切なpH調整剤は、これらに限定されないが、水酸化ナトリウム、塩酸、酢酸、フマル酸、又はその組み合わせを含む。
【0029】
本明細書で使用される用語「放射線防護剤」は、反応性の高いフリーラジカル種、例えば、水の放射線分解から生成されるフリーラジカルを含有する酸素をトラッピングすることによって、崩壊反応(例えば酸化還元反応)を妨げる化合物を意味する。本発明による放射線防護剤は、これらに限定されないが、パラアミノ安息香酸、ゲンチジン酸、クエン酸、酢酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、アントラニル酸、又は薬学的に許容されるそれらの塩、及びその組み合わせを含む。好ましい放射線防護剤は、ゲンチジン酸、アスコルビン酸、パラアミノ安息香酸、マレイン酸を含む。放射性医薬組成物における放射線防護剤の濃度は、約0.01%~約5%である。
【0030】
本明細書で使用される用語「抗菌防腐剤」は、例えば細菌、酵母、又はカビ等の有害になる可能性がある微生物の増殖を妨げることができる薬剤を意味する。本発明による適切な抗菌防腐剤は、これらに限定されないが、ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、ベンジルアルコール、クレゾール、セトリミド(cetrimide)、チオメルサールフェノール、パラベンを含む。好ましい抗菌防腐剤は、ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、パラベン、ベンジルアルコールを含む。
【0031】
本明細書で使用される「粘度」は、流れる液体の抵抗力に関する。粘度の単位は、Ns/m2であり、パスカル秒(Pa-s)として公知である。
【0032】
本明細書で使用される「絶対粘度」は、流体が流れることができるように、その内部分子摩擦力を越えるために必要とする力に関する。粘度の単位はNs/m2であり、パスカル秒(Pa-s)、ポアズ(P)、センチポアズ(cP)として公知である。
【0033】
本明細書で使用される「制御された室温」は、20°~25°(68°~77°F)の作業環境を包含する、サーモスタットで維持された温度に関する。
【0034】
本明細書で使用される用語「約」は、「約10パーセント」がおよそ8~12パーセントを示すように、示された数値のおよそ±20%を意味する。
【0035】
本発明の一態様において、本明細書では、硫黄コロイドの安定化した医薬組成物を提供する。
【0036】
本発明の別の態様において、本明細書では、還元剤、コロイド支持剤、キレート剤、及び1種又は複数の追加の賦形剤を含む、硫黄コロイドの安定化した医薬組成物を提供する。
【0037】
本発明の別の態様において、本明細書では、必要に応じて放射線防護剤又は抗菌防腐剤を含有する、硫黄コロイドの安定化した医薬組成物を提供する。
【0038】
別の態様において、本発明は、還元剤を含む安定な非放射性組成物を含み、水又は生理食塩水で再構成後、組成物のpHは、約4.0~約9.0、及び好ましくは約4.5~約7.5である。
【0039】
本発明の別の態様において、硫黄コロイドの医薬組成物は、還元剤;コロイド支持剤;キレート剤;及び必要に応じて抗菌剤又は放射線防護剤から選択される、1種又は複数の賦形剤を含み、医薬組成物は、2℃~25℃で少なくとも2時間、好ましくは少なくとも8時間、好ましくは少なくとも12時間、好ましくは少なくとも24時間、最も好ましくは少なくとも30時間、約1cP~約100cPの範囲の粘度を有する。
【0040】
本発明の別の態様において、約5℃~25℃で少なくとも2時間、好ましくは少なくとも8時間、好ましくは少なくとも12時間、好ましくは少なくとも24時間、最も好ましくは少なくとも30時間、約1cP~約50cP、好ましくは約1cP~約30cP、好ましくは約1cP~20cP、好ましくは約1cP~10cP、好ましくは約1cP~5cP、及び最も好ましくは3cP未満の範囲で粘度を有する、硫黄コロイドの医薬組成物を提供する。
【0041】
本発明の別の態様において、約5℃~25℃で少なくとも2時間、好ましくは少なくとも8時間、好ましくは少なくとも12時間、好ましくは少なくとも24時間、好ましくは少なくとも30時間、最も好ましくは36時間以上、約1cP~約50cP、好ましくは約1cP~約30cP、好ましくは約1cP~20cP、好ましくは約1cP~10cP、好ましくは約1cP~5cP、及び最も好ましくは3cP未満の範囲の粘度を有する、硫黄コロイドの医薬組成物を提供する。
【0042】
本発明の別の態様において、5℃~25℃で少なくとも2時間、好ましくは少なくとも8時間、好ましくは少なくとも12時間、好ましくは少なくとも24時間、及び最も好ましくは最大36時間の期間以内にゲルを形成しない、硫黄コロイドの医薬組成物を提供する。
【0043】
本発明の別の態様において、硫黄コロイドの医薬組成物は、ゼラチンと注射用水を混合することによってバルク溶液を調製する工程と;コロイド支持剤溶液を、少なくとも100℃で60分間又はそれより長く加熱する工程と;還元剤を加える工程と;キレート剤を加える工程とを含む方法によって調製され、5℃~25℃で約1cP~約100cPの範囲の粘度を有する。好ましくは、加熱する工程は、約60分~約180分の間;約80分~約170分の間;約90分~約160分の間;約100分~約150分の間;又は約110分~約150分の間、持続される。
【0044】
本発明の別の態様において、硫黄コロイドの医薬組成物は、20±5℃の温度で、好ましくは10℃~20℃で、少なくとも2時間の期間以内にゲルを形成しない。
【0045】
本発明の別の態様において、凍結乾燥組成物を調製する方法を提供する。凍結乾燥は、a)凍結(固化)、b)一次乾燥(氷昇華)、c)二次乾燥(脱湿)の3つの工程を含む方法である。凍結乾燥前組成物を含有するバイアルを無菌室内の温度制御トレイに載せ、低温に冷却して完全に固化させる。凍結後、無菌室の圧力を下げ、棚温度(shelf temperature)を上昇させて昇華を介して凍結溶媒を除去する。次いで、固形状生成物と化学結合した残りの未凍結溶媒を、脱着過程によって除去する。不活性ガス環境下及び/又は真空下でバイアルを無菌室内で閉栓し、乾燥過程を終える。最終生成物は、ケーキと称され、その高い多孔性により、初期の液状フィル(liquid fill)とおよそ同じ容量を占める。高品質な製品が一貫して確実に製造されるためには、凍結乾燥サイクルの反復性を制御し、提供することができることが重要である。
【0046】
本発明の一態様において、本明細書では、硫黄コロイドの安定化した放射性医薬組成物を提供する。
【0047】
本発明の別の態様において、本明細書では、還元剤、コロイド支持剤、キレート剤、及び1種又は複数の追加の賦形剤を含む、硫黄コロイドの安定化した放射性医薬組成物を提供する。
【0048】
本発明の別の態様において、必要に応じて放射線防護剤又は抗菌防腐剤を含有しうる、硫黄コロイドの安定化した放射性医薬組成物を提供する。
【0049】
本発明の別の態様において、本明細書では、99mTc-過テクネチウム酸塩溶液で再構成すると、安定化した99mTc-硫黄コロイド放射性医薬組成物をもたらす、凍結乾燥非放射性キットであって、還元剤、コロイド支持剤、キレート剤、及び薬学的に許容されるその賦形剤を含む、第1のバイアルと;99mTc-過テクネチウム酸塩を含む第2のバイアルと;緩衝液を含む第3のバイアルと;pH調整剤を含む第4のバイアルとを含む凍結乾燥非放射性キットを提供する。
【0050】
本発明の別の態様において、凍結乾燥組成物は、40℃±2℃、75%±5%の相対湿度で6ヵ月間保存され、99mTc-過テクネチウム酸塩溶液で再構成された場合に、前記再構成後15℃~25℃の温度で少なくとも6時間、少なくとも95%の放射化学的純度を有する。
【0051】
本発明の別の態様において、凍結乾燥組成物は、40℃±2℃、75%±5%の相対湿度で6ヵ月間保存され、99mTc-過テクネチウム酸塩溶液で再構成された場合に、前記再構成後15℃~25℃の温度で少なくとも12時間、少なくとも95%の放射化学的純度を有する。
【0052】
本発明の別の態様において、凍結乾燥組成物は、40℃±2℃、75%±5%の相対湿度で6ヵ月間保存され、99mTc-過テクネチウム酸塩溶液で再構成された場合に、前記再構成後15℃~25℃の温度で少なくとも24時間、少なくとも95%の放射化学的純度を有する。
【0053】
本発明の別の態様において、凍結乾燥組成物は、40℃±2℃、75%±5%の相対湿度で6ヵ月間保存され、99mTc-過テクネチウム酸塩溶液で再構成された場合に、前記再構成後15℃~25℃の温度で少なくとも6時間、少なくとも99%の放射化学的純度を有する。
【0054】
本発明の別の態様において、凍結乾燥組成物は、40℃±2℃、75%±5%の相対湿度で6ヵ月間保存され、99mTc-過テクネチウム酸塩溶液で再構成された場合に、前記再構成後15℃~25℃の温度で少なくとも12時間、少なくとも99%の放射化学的純度を有する。
【0055】
本発明の別の態様において、凍結乾燥組成物は、40℃±2℃、75%±5%の相対湿度で6ヵ月間保存され、99mTc-過テクネチウム酸塩溶液で再構成された場合に、前記再構成後15℃~25℃の温度で少なくとも24時間、少なくとも99%の放射化学的純度を有する。
【0056】
本発明の別の態様によると、キットは単一用量又は複数用量のキットである。
【0057】
本発明の別の態様において、本明細書では、適切なクリニカル・グレードの容器、又はヒトへの投与に適切なバイアル、若しくはプレフィルドシリンジを提供する。本発明の最終組成物は、10mLのI型ガラスバイアルに充填される。本発明の一実施形態において、組成物は、容器、例えば、0.5ml、1ml、2ml、3mL、5ml、10ml、20ml、25ml、30ml、60ml、又は100mlのバイアル、アンプル、又はプレフィルドシリンジに充填されうる。
【0058】
本発明の別の態様において、粒径が、直径約0.1μ~2.0μである、安定な放射性99mTc硫黄コロイド組成物を含む。
【0059】
本発明による「不活性ガス」は、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、又はその組み合わせからなる群から選択されうる。本発明の一実施形態において、不活性ガスは、輸送及び保存の間、並びにバイアルが開けられるまで、本発明の組成物を含有するバイアル内の、空気の存在に代わるように使用される。
【0060】
本発明の別の態様において、本発明の凍結乾燥前の液体状組成物は、5ppm未満、好ましくは2ppm未満、及び最も好ましくは1ppm未満の酸素含有量を含む。
【0061】
本発明の別の態様において、本発明の凍結乾燥組成物は、バイアルのヘッドスペース内に5パーセント未満、好ましくは2パーセント未満、1パーセント未満、0.5パーセント未満の酸素含有量を含む。
【0062】
組成物中の酸素含有量は、ヘリウム、窒素、二酸化炭素、アルゴン、真空状態、又はその組み合わせからなる群から選択される不活性ガスを使用して維持される。
【0063】
本発明の別の態様において、肝臓、脾臓、及び骨髄の中で機能する細網内皮細胞のイメージング分野、並びに関連する診断方法において、硫黄コロイドの安定化した放射性医薬組成物、及び1種又は複数の薬学的に許容される賦形剤の使用を提供する。
【実施例
【0064】
以下の実施例は、本発明のある特定の好ましい実施形態を更に例示することを企図し、本質的に、限定するものではない。バイアル単位の本発明による組成物は、以下を含む。
【0065】
【表1】
【0066】
実験:硫黄コロイドの医薬組成物を、ゼラチンと注射用水を混合することによって調製し、透明な溶液を得る。溶液を、約80℃~130℃で加熱する。ゼラチン溶液に還元剤及びキレート剤加えることによって、組成物を調製した。実施例1、2、及び3による最終組成物を25±5℃の温度で24時間保存した。
【0067】
実施例1、2、3による組成物を使用して、異なる温度条件のゲル化挙動の実験を行った。
【0068】
【表2】
【0069】
上記の結果から、少なくとも24時間、凍結乾燥前組成物のゲル化を妨げるには、少なくとも100℃で加熱することが不可欠であることが分かったと認められた。
【0070】
本発明による硫黄コロイド組成物をバルク製造するための操作温度は、10~18℃の範囲である。したがって、実施例1、2、3による組成物のゲル化挙動の実験を、操作温度において行った。
【0071】
【表3】
【0072】
上記の結果は、加熱する温度及び期間の両方とも、組成物のゲル化挙動に重要な役割を果たすことを示す。ゼラチン溶液を少なくとも100℃で100~150分間加熱する必要がある。これらの操作条件は、30時間硫黄コロイド組成物のゲル化を妨げた。このことは、凍結乾燥のための最終バルク溶液をろ過し、バイアル中に充填する場合に高い柔軟性を与えた。
【0073】
実施例1及び2による組成物を、ゼラチン溶液を100℃の最小温度で、100分以上加熱することによって調製し、凍結乾燥させ、注射用水で再構成された生成物のゲル化挙動を分析した。
【0074】
【表4】
【0075】
上記の実験から、本発明による組成物の適切な粘度は、製造するために重要であることが認められた。組成物は、操作条件下ではゲル化することも半固形状にもなるべきではない。組成物は、20±5℃で1~100cpの間、20±5℃で好ましくは50cp未満、20±5℃で好ましくは10cp未満、20±5℃で好ましくは5cp未満、20±5℃で好ましくは3cp未満、20±5℃で好ましくは2cP未満、20±5℃で好ましくは1cp未満の粘度を有する。
【0076】
【表5】
【0077】
本発明により調製された実施例1、2及び3による組成物を、放射化学的純度及び生体内分布に関して分析し、許容されることを見いだした。
【0078】
本発明により調製された、再構成されたテスト製剤の放射化学的純度を、USP法を使用して計測した。加速安定性条件(温度40℃±2℃、相対湿度75%±5%)でテスト製剤を最大6ヵ月間保存し、過テクネチウム酸ナトリウムで再構成し、15℃~25℃の温度で少なくとも6時間保存した場合に、少なくとも99パーセントのRCPを示した。室温より高い温度における6ヵ月間の保存は、室温におけるより長い保存期間に相当する。したがって、40℃±2℃の温度及び75%±5%の相対湿度で6ヵ月間の保存の実験を行ったが、これが20~25℃(室温)の2年間の保存に相当することは、公知である。
【0079】
【表6】
【0080】
本発明を、ある好ましい実施形態を参照して詳細に述べてきたが、本発明がこれらの詳細な実施形態に限定されないことを理解されたい。むしろ、本発明を実践するための、現在における最良の形態を述べる本開示の観点から、多くの修正形態及び変形形態が本発明の精神及び範囲から逸脱することなく当業者に提供されるであろう。
【国際調査報告】