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特表2022-503573電解質から不純物を除去する方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-12
(54)【発明の名称】電解質から不純物を除去する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/08 20060101AFI20220104BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20220104BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20220104BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20220104BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220104BHJP
   C25B 1/01 20210101ALI20220104BHJP
【FI】
C25B15/08 302
H01M8/02
H01M8/18
C25B9/23
C25B9/00 Z
C25B1/01 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021509836
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(85)【翻訳文提出日】2021-04-23
(86)【国際出願番号】 US2019057537
(87)【国際公開番号】W WO2020086645
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】62/749,459
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515024601
【氏名又は名称】ロッキード マーティン エナジー,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】LOCKHEED MARTIN ENERGY, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ノーマン,ザカリア・エム.
(72)【発明者】
【氏名】パパンドリュー,アレクサンダー・ビー.
(72)【発明者】
【氏名】リース,スティーヴン・ワイ.
(72)【発明者】
【氏名】クレット,レイチェル・クリスティーン
(72)【発明者】
【氏名】ミラード,マシュー
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AB25
4K021BA17
4K021BB03
4K021BC09
4K021CA09
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC15
5H126BB10
5H126HH01
5H126JJ05
5H126JJ08
(57)【要約】
本開示は、不要な不純物をμg/Lレベルで含有する電解質溶液を調製する方法及び装置を提供する。この方法は一般に、不純物を電気化学的に還元して、析出形、めっき形、又は揮発形にすることと、その還元体を電解質溶液から除去することとを含む。本開示は、そのような方法を実施する方法及び装置、並びにそのような方法から取得された又は取得可能な電気化学的溶液を記載している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低減された不純物レベルを有する電解質溶液を調製する方法であって、
a.レドックス活性電解質の還元体及び不純物の還元体を含有する電気化学的に処理された電解質溶液を生成するのに十分な条件下にて、少なくとも0.5Mの濃度のレドックス活性電解質を更に含む初期電解質溶液中に初期濃度で存在する不純物を電気化学的に還元することと、
b.前記電気化学的に処理された電解質溶液から前記不純物の還元体を分離して、前記不純物の初期濃度よりも低い最終濃度を有する不純物を含有する最終電解質溶液を得ることと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記最終電解質溶液中の前記不純物の最終濃度は、予め決められた閾値レベルであり、
(i)約10mg/L未満、5mg/L未満、2.5mg/L未満、1mg/L未満、500μg/L未満、250μg/L未満、100μg/L未満、50μg/L未満、約40μg/L未満、約30μg/L未満、約20μg/L未満、約10μg/L未満、約5μg/L未満、若しくは約1μg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、又は、
(ii)前記レドックス活性電解質溶液中の前記レドックス活性電解質1mol当たり約10mg([mg/mol])未満の不純物、5mg/mol未満、2.5mg/mol未満、1mg/mol未満、500μg/mol未満、250μg/mol未満、100μg/mol未満、50μg/mol未満、約40μg/mol未満、約30μg/mol未満、約20μg/mol未満、約10μg/mol未満、約5μg/mol未満、若しくは約1μg/mol未満の1つ以上の予め定められた不純物、
である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不純物は、アンチモン、ヒ素、ゲルマニウム、スズ、又はそれらの組み合わせの形態を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電気化学的な処理は、電気化学セル内で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記不純物の還元体は、前記電気化学セルの正極内でのめっきによって分離される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記不純物の還元体は、前記電気化学的に処理された電解質溶液から析出する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記析出した不純物の還元体は、濾過によって除去される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記不純物の還元体は、揮発性水素化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記揮発性水素化物は、アルシン(AsH3)、ゲルマン(GeH)、スタンナン(SnH)、スチビン(S)、又はそれらの組み合わせである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記電気化学的な処理は電気化学的還元であり、前記不純物の還元電位よりも負の酸化還元電位で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(a)前記電気化学的に処理された電解質溶液を、20℃~約105℃の範囲の温度で加熱すること、
(b)前記電気化学的に処理された電解質溶液若しくは工程(a)で加熱された電解質溶液を、不活性ガスを使用してパージすること、又は、
(c)工程(a)及び工程(b)の組み合わせ、
によって、前記電気化学的に処理された電解質溶液をコンディショニングすることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記加熱の工程(a)の温度は、約35℃~約95℃、又はより好ましくは約45℃~約85℃の範囲内である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記不活性ガスは、窒素又はアルゴンである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(a)及び前記工程(b)は、同時に実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(a)及び前記工程(b)は、順次に実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記最終電解質溶液中の前記レドックス活性電解質の還元体を酸化させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記酸化は、前記最終電解質溶液を酸素、好ましくは空気等の酸化剤でパージすることによって実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記酸化は、過酸化水素を使用して行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記酸化は、前記最終電解質溶液を加熱しながら実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記酸化は、約65℃以上の温度で、好ましくは約85℃以上の温度で、より好ましくは約105℃以上の温度で実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記酸化は、水素発生触媒を使用して実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記水素発生触媒は、活性炭、カーボンクロス、カーボンフェルト、カーボンペーパー、Tiメッシュ、Tiフェルト、発泡されたTiメッシュ、PtめっきされたTiメッシュ、又はそれらの組み合わせである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記レドックス活性電解質は、
(i)Al、Ca、Co、Cr、Sr、Cu、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、Pd、Pt、Ru、Sn、Ti、V、Zn、若しくはZrを含む金属配位子配位化合物、
(ii)有機活物質、好ましくは炭素、芳香族炭化水素、例えば、キノン、ヒドロキノン、ビオロゲン、ピリジニウム、ピリジン、アクリジニウム、若しくはカテコール、又は、
(iii)(i)若しくは(ii)の組み合わせ、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記レドックス活性電解質は、Co、Cr、Cu、Fe、Mn、Mo、Ru、Sn、Ti、V、又はZrの組を含む金属配位子配位化合物を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1~24の何れか一項に記載の方法により調製された電解質溶液。
【請求項26】
電解質溶液であって、
(i)好ましくは金属又はメタロイド、より好ましくはチタンを含む金属配位子配位化合物を含む、少なくとも0.5Mの濃度のレドックス活性電解質と、
(ii)前記電解質溶液1リットル当たり約500μg未満、又は前記レドックス活性電解質1mol当たり500μg未満の量で存在する不純物と、
を含む、電解質溶液。
【請求項27】
約50μg/L未満のAs、Ge、Hg、及びSbの1つ以上を含む、請求項25に記載の電解質溶液。
【請求項28】
約20μg/L未満、約15μg/L未満、約10μg/L未満、又は約5μg/L未満のアンチモン、ヒ素、ゲルマニウム、スズ、又はそれらの組み合わせの何れか1つの形態を含む、請求項25に記載の電解質溶液。
【請求項29】
約5μg/L未満のアンチモン、ヒ素、ゲルマニウム、スズ、又はそれらの組み合わせの1つ以上を含む、請求項25に記載の電解質溶液。
【請求項30】
請求項25に記載の電解質溶液を含む電気化学セル。
【請求項31】
請求項30に記載の電気化学セルを少なくとも1つ備えるレドックスフロー電池。
【請求項32】
カチオン交換膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備える電気化学セルであって、
前記第1の半電池チャンバは、レドックス活物質及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極、好ましくは炭素電極を備え、かつ、
前記第2の半電池チャンバは、第2の水性電解質と接触している第2の電極を備え、
前記第2の水性電解質は、少なくとも0.1Mの濃度の非プロトン性カチオンを含む1つ以上の塩を含み、前記第2の電極は、好ましくはNiフォーム等のニッケル、ステンレス鋼メッシュ、ステンレス鋼フェルト、Ni酸化物、Ni水酸化物、Niオキシ水酸化物、又はNi-Fe酸化物を含むOを発生する触媒を含む、電気化学セル。
【請求項33】
カチオン交換膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備える電気化学セルであって、
前記第1の半電池チャンバは、レドックス活物質及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極、好ましくは炭素電極、例えばカーボンクロス、カーボンフェルト、又はカーボンペーパーを備え、かつ、
前記第2の半電池チャンバは、少なくとも2のpHを有し、少なくとも0.1Mの濃度の非プロトン性カチオンを有する1つ以上の塩を含む第2の水性電解質と接触している第2の電極を備え、
前記第2の電極は、Oを発生する触媒、好ましくは白金、又はコバルト、イリジウム、鉄、マンガン、ニッケル、ルテニウム、スズ、若しくはそれらの組み合わせの酸化物の少なくとも1つ、最も好ましくはIrOを含む、電気化学セル。
【請求項34】
前記還元可能不純物は、電気化学的還元時に揮発性還元体、例えば、アルシン(AsH3)、ゲルマン(GeH)、スタンナン(SnH)、又はスチビン(SbH)を形成する、請求項32に記載の電気化学セル。
【請求項35】
前記第2の水性電解質は、Naイオン及び/又はKイオンを含み、少なくとも7のpHを有する、請求項32に記載の電気化学セル。
【請求項36】
請求項32に記載の電気化学セルの操作方法であって、前記第1の水性電解質中の前記還元可能不純物の濃度を前記第1の水性電解質中の予め決められたレベル、好ましくは10μg/L未満に低減するのに十分な条件下にて前記電気化学セルに十分な電流を流すことを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レドックス活物質を含む電解質を含有する電解質を調製する方法及び装置、並びにこれらから調製される精製された電解質に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2018年10月23日付で出願された米国仮特許出願第62/749,459号の利益を主張し、その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0003】
レドックスフロー電池システム及び一般的な電池システムにおけるヒ素、アンチモン、スズ、及び他のそのような金属を含む不純物を含有する或る特定の不純物に関する問題はよく知られている。例えば、米国特許第9,647,290号及び米国特許第9,985,311号並びに米国特許出願公開第2018/0102561号は、バナジウムフロー電池システムから析出するヒ素、アンチモン、及びゲルマニウムに関連する問題について論じており、これらの物質並びにCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Moを含む他の金属及びメタロイドのレベルを原材料の選択により維持することが必要であることを記載している。
【0004】
米国特許出願公開第2010/0143781号及び米国特許出願公開第2010/0261070号は両方とも、鉄-クロムベースのレドックスフロー電池用電解質中のHg、Ni、Co、及びCuの不純物に関する問題を記載し、亜鉛アマルガム又は他の無機還元剤を使用してこれらの物質に関する問題を対処又は回避することに努めている。これらの方法は、酸を含む鉄イオン及びクロムの溶液に限って適用可能であるように思われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バナジウム系又はその他のより多様な化学作用に関係する他の系の何れかでそのような解決策をもたらす利用可能な一般的方法はほとんどなく、あっても数例だけである。特に、本明細書に記載される金属配位子配位化合物に関係する化学作用においてはこれまで問題は取り上げられておらず、これらの化合物の系においてこれらの種類の不純物を還元する方法も一切記載されていない。
【0006】
本出願はこれらの問題及びその他の問題に対処することに関する。
【0007】
本開示は、不純物レベルを低減する方法及び装置、並びにこれらの方法及び装置から取得された又は取得可能な電解質溶液、並びにこれらの電解質を含む電池、電気化学セル及び/又は電気化学システム、燃料電池、電気化学的貯蔵システム、並びにレドックスフロー電池及びフロー電池システムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の或る特定の実施の形態は、低減された不純物レベルを有する電解質溶液を調製する方法であって、該方法は、
(1)レドックス活性電解質の還元体及び不純物の還元体を含有する電気化学的に処理された電解質溶液を生成するのに十分な条件下にて、レドックス活性電解質を更に含む初期電解質溶液中に初期濃度で存在する不純物を少なくとも電気化学的に還元することを含み、
(2)電気化学的に還元された溶液から不純物の還元体を分離して、初期電解質溶液における不純物の初期濃度よりも低い不純物の最終濃度を有する最終電解質溶液を得ることを更に任意に含む、方法を提供する。
【0009】
幾つかの実施の形態では、レドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質の濃度は、0.5M~5Mの範囲内、又はその部分範囲内である。
【0010】
或る特定の実施の形態では、最終電解質溶液中の不純物の濃度は、
(i)レドックス活性電解質溶液1リットル当たり約10mg([mg/L])未満の1つ以上の予め定められた不純物、5mg/L未満、2.5mg/L未満、1mg/L未満、レドックス活性電解質溶液1リットル当たり500μg「[μg/L])未満の1つ以上の予め定められた不純物、250μg/L未満、100μg/L未満、50μg/L未満、約40μg/L未満、約30μg/L未満、約20μg/L未満、約10μg/L未満、約5μg/L未満、若しくは約1μg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、又は、
(ii)レドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質1mol当たり約10mg([mg/mol])未満の1つ以上の予め定められた不純物、5mg/mol未満、2.5mg/mol未満、1mg/mol未満、レドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質1mol当たり500μg([μg/mol])未満の1つ以上の予め定められた不純物、250μg/mol未満、100μg/mol未満、50μg/mol未満、約40μg/mol未満、約30μg/mol未満、約20μg/mol未満、約10μg/mol未満、約5μg/mol未満、若しくは約1μg/mol未満の1つ以上の予め定められた不純物がレドックス活性電解質溶液中に含まれている。幾つかの実施の形態では、これは、Sb及びAsについては5μg/L未満又は5μg/mol未満であり、Ge及びSnについては10μg/L未満又は5μg/mol未満である。幾つかの実施の形態では、不純物は、アンチモン、ヒ素、ゲルマニウム、スズ、又はそれらの組み合わせの形態である。他の態様では、不純物は、また、Hg、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、又はMoを含み得る。
【0011】
還元不純物は、不純物の性質、電解質溶液の性質(例えば、付随するレドックス活物質のpH及び性質に基づいて)、及び使用される還元条件に応じて、めっき、析出、又は揮発によって電解質溶液から分離され得る。これらの方法の或る特定の態様では、電気化学的還元は、不純物の還元電位よりも負の酸化還元電位で実施される。
【0012】
還元可能不純物が還元時に揮発性の還元不純物をもたらす、例えば、還元不純物がアルシン(AsH)、ゲルマン(GeH)、スタンナン(SnH)、又はスチビン(SbH)の1つ以上を含む実施の形態では、追加の方法は、電気化学的に処理された電解質溶液を、
(a)電気化学的に処理された電解質溶液を、例えば20℃~約105℃の範囲の温度で加熱すること、又は、
(b)電気化学的に処理された電解質溶液若しくは工程(a)で加熱された電解質溶液を、窒素若しくはアルゴン等の不活性ガスを使用してパージ若しくはスパージすること、
の一方又は両方によってコンディショニングすることを更に含む。
【0013】
加熱の工程及びパージの工程は、個別に、同時に、又は順次に設けられ得る。これらの操作は、電気化学的還元の条件が存在する間に又は存在しない間に、好ましくは高められた温度での還元不純物の再酸化が最小限に抑えられる又は回避されるように実施され得る。
【0014】
これらの先行する工程の何れか又は全ては、電解質が既に電池、電気化学セル及び/又は電気化学システム、燃料電池、電気化学貯蔵システム、並びにレドックスフロー電池及びフロー電池システム内に配置されている間に実施され得るのに対して、好ましい実施の形態では、これらの方法は、電池、燃料電池、又はフロー電池の操作を簡素化するために、そのようなシステムに、例えば貯蔵タンク又は他の容器中に輸送するのに先立って実施される。
【0015】
これらの電解質溶液は、これまでに記載された方法に示されるように取り扱われて操作され得る、すなわち、この場合、レドックス活性電解質はその還元体で充電されるが、最も好ましくは還元不純物を全て除去してから、追加の工程を実施して、還元されたレドックス活性電解質が少なくとも部分的に放電され得る。
【0016】
したがって、追加の実施の形態は、最終電解質溶液中のレドックス活性電解質の還元体を酸化させることを更に含む方法を含む。そのような酸化は、(i)酸化性ガスを使用して、例えば、空気若しくは酸素を含むガス混合物を用いて、(ii)過酸化水素等の酸化性化学薬品を使用して、(iii)電気化学的に、又は(iv)それらの組み合わせで行われ得る。どの方法が選択されようとも、酸化剤の選択は、例えば他の不純物の導入によって、精製された電解質溶液の完全性が損なわれるべきではないことが理解されるべきである。
【0017】
これらの方法は一般に、バナジウム又は鉄-クロム系を含むほとんどの化学系だけでなく、本明細書の別の箇所で記載されるレドックス活性金属配位子配位化合物、本明細書の別の箇所で記載される有機レドックス活物質、又はそれらの組み合わせを含む系にも適用可能である。
【0018】
本開示は、また、これらの方法から取得された又は取得可能な精製された組成物を具体的に表す。すなわち、そして誤解を避けるために、本開示は、これらの方法によって実際に行われたか否かにかかわらず、それらの組成物を包含する。そのような電解質溶液は、独立した実施の形態として、本明細書に別の箇所で記載されるものより低い不純物レベルを有する少なくとも0.7Mの濃度の適切なレドックス活性電解質物質を含む。本明細書でそのように規定されるような不純物は、As、Ge、Hg、及びSbの1つ以上、及び/又はAg、Ba、Be、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Ge、Ir、Mg、Mn、Mo、Ni、Pb、Pd、Pt、Re、Ru、Sb、Sc、Sn、Sr、V、及びZnを含み得る。特定の実施の形態では、これらの溶液は、アンチモン、ヒ素、ゲルマニウム、及び/又はスズの1つ以上を5μg/L未満又は5μg/mol(レドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質)未満のレベルで含む。
【0019】
さらに、開示された電解質の1つ以上が含まれるフロー電池もまた本開示の範囲内である。
【0020】
本開示の追加の実施の形態は、これらの方法を実施し、これらの精製された電解質組成物を生成するのに有用なそれらの装置を含む。これらの装置は、カチオン交換膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備える電気化学セルを少なくとも1つ備える装置であって、
(i)第1の半電池チャンバは、レドックス活物質及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極、好ましくは炭素電極を備え、かつ、
(ii)第2の半電池チャンバは、第2の水性電解質と接触している第2の電極を備え、ここで、第2の水性電解質は、少なくとも0.1Mの濃度の非プロトン性カチオンを含む1つ以上の塩を含み、第2の電極は、好ましくはNiフォーム等のニッケル、ステンレス鋼メッシュ、ステンレス鋼フェルト、Ni酸化物、Ni水酸化物、Niオキシ水酸化物、又はNi-Fe酸化物を含むOを発生する触媒を含む、装置を含む。
【0021】
追加の実施の形態は、カチオン交換膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備える電気化学セルであって、
(i)第1の半電池チャンバは、レドックス活物質及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極、好ましくは炭素電極、例えばカーボンクロス、カーボンフェルト、又はカーボンペーパーを備え、かつ、
(ii)第2の半電池チャンバは、少なくとも2のpHを有し、少なくとも0.1Mの濃度の非プロトン性カチオンを有する1つ以上の塩を含む第2の水性電解質と接触している第2の電極を備え、
(iii)ここで、上記第2の電極は、Oを発生する触媒、好ましくは白金、又はコバルト、イリジウム、鉄、マンガン、ニッケル、ルテニウム、スズ、若しくはそれらの組み合わせの酸化物の少なくとも1つ、最も好ましくはIrOを含む、電気化学セルを含む。
【0022】
更に他の実施の形態では、電気化学セルは、膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備え、ここで、
(i)第1の半電池チャンバは、レドックス活物質及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極を備え、かつ、
(ii)第2の半電池チャンバは、Oを発生する触媒を含む第2の電極を備え、かつ第2の半電池チャンバは水性電解質を含有しない(含まない)。
【0023】
更に他の実施の形態は、開示された電気化学セルを操作することを含む開示された方法を実施する方法であって、第1の水性電解質中の還元可能不純物の濃度を予め決められたレベル、例えば本明細書の別の箇所で記載されるレベルに低減するのに十分な条件下にてセルに十分な電流を流すことによって本明細書に記載される電気化学的装置を操作することを含む、方法を含む。
【0024】
本願は、添付図面と併せて読むと更に理解される。図面には、例示する目的で、主題の例示的な実施形態が示されているが、本明細書に開示される主題は、開示される特定の方法、装置、及びシステムに限定されない。さらに、図面は必ずしも縮尺通りに描かれているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】ネゴライト(negolyte)の充電後の酸化還元電位(ORP:Oxidation Reduction Potential)に対する除去されたヒ素のパーセントのドットプロットである。ICP-OESによって測定されて、或る特定の溶液電位を超えると、コンディショニング後に溶液中のヒ素の99%超が除去された。図1の各点は、負電解質(negative electrolyte)を45℃の温度で、x軸に示される溶液電位(対Ag/AgCl)に充電した個別の実験を表す。充電された電解質を流動窒素でスパージしながら65℃で数時間コンディショニングし、引き続き、同じガス流条件下にて加熱還流することによって放電させた。ICP-OESを使用して、電解質中のヒ素含有量を分析した。
図2】65℃での約40時間の期間にわたる充電されたネゴライト中のヒ素濃度のドットプロットである。
図3】HERM装置の幾つかの潜在的な実施形態を示す図である。 図3(A)は、第2の電解質が酸性であり、膜アセンブリが国際出願PCT/US2018/054798号(引用することによりその内容全体が本明細書の一部をなすものとするか、又は少なくとも開示された装置の設計及び操作条件について本明細書の一部をなすものとする)に記載されるようなカチオン交換膜(CEM:Cation Exchange Membrane)とともに付随する非伝導性層(NCL:Non-Conductive Layer)を含む部類の装置構成を例示している。この実施形態は、処理されるレドックス電解質中にプロトン(H)を注入し(ここに示されるように、しかしながら、チタンを含む金属配位子配位化合物の使用に限定されるものではない)、プロトンの注入が本明細書の別の箇所に記載されるように電解質溶液のpHを低下させることに留意されたい。さらに、電極の酸性の第2の電解質は、本明細書の別の箇所に記載されるより一般的な金属酸化物電極の例のように、IrOとして示されていることに留意されたい。 図3(B)は、第2の電解質がアルカリ性であることで、より安価な電極触媒(ここではNiとして例示される)の使用が可能となる第2の部類の装置構成を例示している。アルカリ金属カチオン(ここではNa/K混合物として例示される)の存在及び注入により、処理されるレドックス電解質のpHを変えることなく電子の注入が可能となる。 図3(C)は、第3の部類の装置構成を例示している。この設計では、酸化イリジウム触媒を含む炭素負極が、炭素正極に対して使用される。負極は、第3の区画を形成する2つのカチオン交換膜によって正極から隔離されている。第3の区画では、強く緩衝されたアルカリ性溶液が、負極によって生成されたプロトン流をアルカリ金属イオン流に変換する。この構成は、プロトン流がネゴライトを分解するのを防ぐが、より複雑なセル設計を必要とする。
図4】電気化学的還元後の実施例5に記載される正極を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示は、電解質溶液(ポソライト(posolyte)若しくはネゴライト又はその両方)及び電解質溶液を調製する方法に関する。特に、本開示は、予め決められた閾値レベル未満であるレベルの不純物を含有する電解質溶液の調製に関する。
【0027】
本開示は、添付の図及び実施例と照らし合わせて以下の詳細な説明を参照することによってより容易に理解することができ、これらは全て本開示の一部を形成する。本開示は、本明細書に記載される及び/又は示される特定の製品、方法、条件、又はパラメータに限定されるものではなく、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を例としてのみ記載することを目的とし、特許請求の範囲に記載される何れかの主題を限定することを意図するものではないと理解されるべきである。同様に、別段の指示がない限り、考えられる作用機序又は作用様式又は改善の理由についてのあらゆる記載は例示的にのみ解釈され、本開示は、そのような何れかの提案された作用機序又は作用様式又は改善の理由の正誤によって制約されるべきではない。
本明細書全体を通して、詳細な説明及び実施形態は、レドックス活性電解質溶液を含む不純物が低減された電解質溶液を調製する方法、不純物が低減された電解質溶液自体、並びに電気化学的装置及び該方法を実施するのに有用なこれらの電気化学的装置を使用する方法について言及することが認識される。これらのカテゴリーの何れか1つを説明又は特徴付けるのに使用される実施形態又は詳細な説明は、これらのカテゴリーの全てを参照するものとして解釈されるべきである。すなわち、本開示が、システム若しくは装置又はシステム若しくは装置を調製若しくは使用する方法に関連する特徴又は実施形態を記載する及び/又は特許請求の範囲に記載する場合に、そのような詳細な説明及び/又は特許請求の範囲は、これらの特徴又は実施形態をこれらの文脈のそれぞれ(すなわち、システム、装置、方法、及び組成物)の実施形態に拡張することを意図すると理解される。
【0028】
明確にするために別個の実施形態の文脈で本明細書に記載される本発明の或る特定の特徴を、組み合わせで又は単一の実施形態で提供することができることも理解されるべきである。すなわち、明らかに矛盾していないか又は特別に除外されていない限り、個々の実施形態は、あらゆる他の実施形態(複数の場合もある)と組み合わせることができると考えられ、そのような組み合わせは、別の実施形態とみなされる。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で記載される様々な開示された特徴を、別個に又は任意の部分的組み合わせで提供することもできる。最後に、実施形態を一連の工程の一部又はより一般的な構造の一部として記載することができるが、上記各工程をそれ自体独立した実施形態とみなすこともでき、他の工程と組み合わせることもできる。
【0029】
リストが示される場合に、別段の指示がない限り、そのリストのそれぞれの個々の要素及びそのリストの全ての組み合わせは、別個の実施形態であることが理解されるべきである。例えば、「A、B、又はC」として示された実施形態のリストは、「A」、「B」、「C」、「A又はB」、「A又はC」、「B又はC」、及び「A、B、又はC」の実施形態を含むと解釈されるべきである。
【0030】
本開示は、とりわけ、レドックス活性電解質から不要な不純物を低減させる、幾つかの場合には、一部の不純物を低いmg/L若しくはmg/molのレベルに、又は更にはμg/L若しくはμg/molのレベルに低減することができる電気化学的方法及び装置に関する。本開示は、また、そのような低減された不純物レベルを有する電解質組成物、及びそのような電解質を含むレドックス電池に関する。
【0031】
[一般的方法の記載]
したがって、本開示の或る特定の実施形態は、低減された不純物レベルを有する電解質溶液を調製する方法であって、レドックス活性電解質の還元体及び不純物の還元体を含有する電気化学的に処理された電解質溶液を生成するのに十分な条件下にて、レドックス活性電解質も含む初期電解質溶液内に含まれる初期濃度で存在する不純物を少なくとも電気化学的に還元することを含む、方法を提供する。関連する実施形態では、該方法は、電気化学的に処理された溶液から不純物の還元体を分離して、不純物の初期濃度よりも低い不純物の最終濃度を有する最終電解質溶液を得ることを更に含み得る。
【0032】
これらの方法は、不純物を電気化学的に還元して、不純物の還元体を生成することを含む。幾つかの実施形態では、電気化学的還元は、当業者の技能を使用して電気化学セル内で行われる。不純物は、電解質中に可溶であり得る又はレドックス活性電解質中に固体として存在し得る。当業者は、当業者の技能及び本明細書の教示を使用して容易に電気化学的還元を実施することができるであろう。一般に、電気化学的還元は、電解質溶液に電流を流すことによって実施される。所望であれば、還元は、不純物の還元電位よりも負の酸化/還元電位で実施される。必要とされる酸化/還元電位は、電解質から除去される不純物に基づいて選択される。
【0033】
「電解質」、「レドックス活性電解質」、「不純物」、及び「不純物の還元体」という用語の意図された意味に関する議論は、本明細書の別の箇所に示される。さらに、上記方法は、不純物及びレドックス活性電解質を含む初期電解質溶液が、使用される特定のレドックス活性電解質の性質を表す特徴であるアルカリ性、中性、又は酸性にするpHを有するかどうかにかかわらず適用可能である。
【0034】
明らかに、不純物の性質及び初期濃度は、初期電解質溶液の配合に使用されるレドックス活性電解質及び他の物質の性質及び濃度に依存する。例えば、バナジウム含有電解質は、Sb、As、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、又はSn等の金属元素を含有することが知られている。これらの同じ種類の不純物が、その他の金属含有レドックス活性電解質中に存在する場合もある。他の実施形態では、不純物は、アンチモン、ヒ素、ゲルマニウム、水銀、スズ、又はそれらの組み合わせの1つ以上の形態を含む。
【0035】
これらの実施形態の幾つかにおいて、レドックス活性電解質、特に金属又はメタロイドを含有するレドックス活性電解質の濃度は、少なくとも0.5Mである。その他の具体的に表現される濃度は、最終レドックス活性電解質溶液の文脈で本明細書の別の箇所に記載されている。
【0036】
本明細書に記載の方法により、最終電解質溶液中の不純物の最終濃度を予め決められた閾値レベルに調整可能にすることができる。例えば、幾つかの実施形態では、最終電解質溶液中の不純物の最終濃度は、本明細書に記載される不純物レベルの何れかであり得るが、好ましい実施形態では、これらの不純物レベルは、以下の点で規定され、
(i)最終電解質溶液1リットル当たり約50μg未満の不純物、好ましくは10μg/L未満、より好ましくは5μg/L未満、更により好ましくは1μg/L未満であるか、又は、
(ii)最終電解質溶液中のレドックス活性電解質1mol当たり約50μg([μg/mol])未満の不純物、好ましくは10μg/mol未満、より好ましくは5μg/mol未満、更により好ましくは1μg/mol未満である。本明細書に記載される条件を使用して、これらのレベルは様々な不純物に対して達成された。特定の独立した実施形態では、例えば、上記方法は、10μg/L未満若しくは10μg/mol未満のレベルのゲルマニウム、及び/又は10μg/L未満若しくは10μg/mol未満のレベルのスズ、及び/又は5μg/L未満若しくは5μg/mol未満のレベルのヒ素、及び/又は5μg/L未満若しくは5μg/mol未満のレベルのアンチモン、及び/又は5μg/L以下若しくは5μg/mol以下のレベルの水銀をもたらし、最終電解質溶液はこれらを含有する。当然ながら、本明細書の別の箇所に記載されるように、上記方法は、より高いレベルのこれらの不純物の1つ以上をもたらすことができ、また最終電解質溶液はこれらを含有し得る。
【0037】
不純物を除去し、それらの初期レベルを最終的な予め決められたレベルに低減する際のそれらの効率によって、上記方法を特徴付けることもできる。その際、幾つかの実施形態では、最終的な不純物レベルは、それらの初期レベルに対して、不純物の50%の低減を表す。他の独立した実施形態では、上記方法は、最終不純物濃度が、初期溶液中の濃度より少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、又は99.9%低い最終レドックス活性電解質溶液をもたらす。
【0038】
幾つかの実施形態では、不純物の還元体が電気化学セルの正極上又は正極内でのめっきによって分離されると、不純物は除去される又はそれらの濃度は低減する。他の実施形態では、その処理により、電気化学的に処理された電解質溶液から析出する不純物の還元体が得られる。析出したら、不純物の還元体を、濾過、傾瀉、又は溶液から固体を除去する既知の方法によって除去することができる。幾つかの実施形態では、析出した不純物の還元体は、凝集沈降、濾過、又は膜分離によって除去される。更なる実施形態では、析出した不純物の還元体は、濾過によって除去される。濾過は、不純物の還元体を含有する電解質を、例えば、キレート樹脂のフィルタ又はキレート樹脂のビーズが充填されたカラムに通すことによって実施され得る。
【0039】
他の実施形態では、不純物の性質は、不純物の還元体が揮発性水素化物であるという性質である。特に、この部類の不純物には、つまり、揮発性水素化物がアルシン(AsH)、ゲルマン(GeH)、スタンナン(SnH)、又はスチビン(SbH)である、例えば、アンチモン、ヒ素、ゲルマニウム、又はスズが含まれる。
【0040】
明らかに電気化学的還元が有効であるには、電気化学的還元は、レドックス活性電解質の存在下で、不純物の還元電位よりも負の酸化還元電位で実施される。異なる不純物は異なる還元電位を有するので、当業者は、標的不純物に適切な還元電位を選択すべきである。この目的には、不純物が還元される限り、不純物が適用された条件下にて直接的に還元されるか又はレドックス活物質の還元体から間接的に還元されるか(又はその逆)は重要ではない。予め定められたレドックス活性電解質の存在が不純物の還元電位に影響を与え得ることがあるかもしれないが、第一近似では、レドックス活性電解質の存在とは無関係に、不純物の還元電位は決定され得るか又は知られ、この理由のため、正確な還元電位を決定することは当業者の能力の範囲内であろう。また、標準的な還元電位に対するpHの効果は既知であり、改めて当業者は、所望の変換をもたらすために印加する適切な電位を正確に予測することができるであろう。
【0041】
その処理により揮発性水素化物等の揮発性還元不純物の形成がもたらされる場合に、特に大きな容器内で生成される場合に、その揮発性物質を除去するのに更なる工程が役立つ場合がある。そのような「コンディショニング」工程は、電気化学的に処理された電解質溶液を、電気化学的に処理された電解質溶液又は最終電解質溶液の沸点までの周囲温度を超える温度で不活性雰囲気条件下にて加熱することを含み得る。ほとんどの商業的に関連するシステムの場合は、最終電解質水溶液の沸点は105℃~110℃程度である。その際、幾つかの実施形態では、そのような加熱は、20℃~25℃、25℃~30℃、30℃~35℃、35℃~40℃、40℃~45℃、45℃~50℃、50℃~55℃、55℃~60℃、60℃~65℃、65℃~70℃、70℃~75℃、75℃~80℃、80℃~85℃、85℃~90℃、90℃~95℃、95℃~100℃、100℃~105℃、又は105℃~110℃、例えば35℃~95℃、より好ましくは45℃~85℃の範囲内又はそれらの1つ以上を含む温度に適用され得る。水性系の場合に、電解質の温度を高めると、充電されたレドックス活性電解質又は還元不純物の酸化が促進され、結果として水素が発生し得ることが更に理解される。これを避けるために、そのような酸化が回避されるように温度を選択すべきである(例えば、電解質が充電されたままであるように及び/又は逃散する水素化物が可溶性の不揮発性状態に酸化されるのを妨げるように)。代替的に又は付加的に、操作者は、加熱の過程の間に、電解質溶液を適切な電位(すなわち、不純物及び/又はレドックス活性電解質の還元電位よりも負の電位)に維持することができる。
【0042】
加熱に加えて又は加熱の代わりとして、そのような「コンディショニング」工程は、電気化学的に処理された電解質溶液又は加熱された電解質溶液を、窒素又はアルゴン等の不活性ガスを使用してパージ又はスパージすることを含み得る。改めて、還元不純物をその揮発性形で維持することが重要である。パージは、また、不純物の還元体を除去するのに十分な速度での混合を使用して実施され得る。本発明者らは、任意に混合を伴うパージが、溶解された不純物の還元体の気相への効率的な移行及び電解質からの除去を容易にすることを見出した。
【0043】
適用される場合に、加熱及び/又はスパージは、1つ以上のサイクルを通じて、同時に又は順次に実施され得る。
【0044】
不純物の還元体の少なくとも一部が除去され、最終電解質溶液中の不純物のレベルが適切なレベルになると、レドックス活物質はおそらくその完全に還元/充電された状態となり得る。安全性の理由又は任意のその他の理由(例えば、最終電解質溶液を輸送する間の水素発生を伴う意図しない酸化を最小限に抑えるため)にかかわらず、最終電解質溶液の充電状態を低下させる(すなわち、レドックス活性電解質を少なくとも部分的に放電する)ことが望ましい場合がある。これは、任意の適切な酸化方法によって達成され得る。例えば、これは、化学的に、空気若しくは酸素等の酸化性ガスでパージすることによって若しくは過酸化水素等の化学的酸化剤を使用することによって、又は電気化学的に、水素発生触媒(例えば、活性炭、カーボンクロス、カーボンフェルト、カーボンペーパー、Tiメッシュ、Tiフェルト、発泡Tiされたメッシュ、PtめっきされたTiメッシュ、又はそれらの組み合わせ)を使用することによって、又はこれらの方法の幾つかの組み合わせによって行うことができる。このような酸化のための試薬又は方法は、好ましくは、有害な物質が導入されないように選択される。
【0045】
酸化は、周囲温度又は低下された温度又は高められた温度で実施され得る。或る特定の実施形態では、最終電解質溶液は、少なくとも65℃以上の1つ以上の温度で、好ましくは約85℃以上の温度で、より好ましくは約105℃以上の温度で、また最終電解質溶液の沸点までの温度で酸化される。或る特定の状況では、熱の印加及び/又はスパージが有用である場合もあり、実際、それを意図的に使用して、最終レドックス活性溶液中のレドックス活性電解質を更に濃縮することができる。
【0046】
[電気化学的装置(HERM装置)]
この点について、本開示は、これらの還元可能不純物及び不純物が低減された電解質を除去する方法に焦点を当ててきたが、本開示は、また、これらの方法を実施するのに有用な装置/システムを包含する。
【0047】
動作可能であるには、その化学作用は、還元可能不純物を還元するのに十分な電位で、電子を電解質溶液へと、すなわちレドックス活物質を含有する電解質溶液へと「注入」する装置/システムを必要とする。注入された電子に必ず付随するはずの補償カチオン(counterbalancing cation)の効果又は性質については、これまで論じられていない。しかしながら、使用される装置/システム(以下、「HERM装置」又はハイブリッド電気化学的除去モジュラー(Hybrid Electrochemical Removal Modular)装置と呼ばれる)の具体的な選択は、「清浄化」される電解質(つまり、不純物が取り除かれるレドックス活物質を含有する溶液)に依存する。システムの選択では、レドックス活物質の充電状態とともに、不純物の量(100mg/L又は100ppmと解釈されるとしても)が、清浄化される任意の実際の電解質溶液中のレドックス活物質(典型的には、0.5Mより大きい)に対して非常に少ないことを考慮する必要もある。例えば、100ppmの還元可能不純物を含有する50%の充電状態の1Mのレドックス活物質を含有する電解質溶液の仮想的な1リットルの溶液を考慮する。そのようなシステムに注入されるほぼ全ての電子は、レドックス活物質の還元に使用され、還元可能不純物の還元には、わずかな割合だけが使用されることとなる。レドックス活物質の充電状態を低下させるのに必要とされる電子は、還元可能な物質を還元するのに必要な電子よりも数桁大きい場合がある。そして、そのようなシステムでは、これらの電子は等量の補償カチオンを伴うこととなる。
【0048】
おそらく更に重要なことは、処理される電解質が酸性であるか又はアルカリ性であるかにかかわらず、これらのレベルで水素イオンを注入することにより、一般に、処理される電解質の水素イオン含有量よりもはるかに高い濃度が生ずる(pH=2でさえも、[H]=0.01M)。このような注入は、処理された電解質のpHの変化に大きな影響を及ぼすこととなる。これは、電解質溶液を還元工程の完了後に適切な塩基でpH調整することにより解決され得るが、その塩基の添加さえも、精製された電解質溶液にかなりの不純物を持ち込む可能性がある。より洗練された解決策は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(又は他の非プロトン性)のカチオンを電子ともに同時に注入するHERM装置を使用することである。
【0049】
システムのpH平衡化について以前に記載された装置には、国際公開第2015/048074号(’074号出願)に記載された装置が含まれる。その内容は、引用することにより全ての目的について本明細書の一部をなすものとする。’074号出願は、作用電解質の電子及びプロトンの両方の含有量を同時に平衡化する機器及び方法を教示している。そこに記載されるように、再平衡セル又は平衡セルと記載される装置は、電子及びプロトンの両方をレドックス活性電解質溶液へと注入する装置及び方法を記載している。原則的に作用フロー電池に取り付けられるという点で記載されているが、この記載はスタンドアロン装置としての再平衡セルについても記載している。’074号出願で論じられた本明細書に記載される幾つかの実施形態には、平衡セルが以下を備える実施形態が含まれる。
(1)第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバであって、第1の半電池チャンバがレドックスフロー電池の第1の水性電解質と接触している第1の電極を備え、第2の半電池チャンバが第2の水性電解質と接触している第2の電極を備え、上記第2の電極はOを発生する触媒を含む。ここで、これらの実施形態の幾つかでは、第2の水性電解質のpHは、少なくとも2、好ましくは約7より大きく、より好ましくは約9~約14の範囲内である。他の実施形態では、第2の電解質は添加されていない。
(2)レドックスフロー電池の第1の水性電解質と接触している第1の電極を備える第1の半電池チャンバと、第2の水性電解質と接触している第2の電極を備える第2の半電池チャンバとであって、ここで、上記第2の電極は、O及び/又はCOを発生する犠牲炭素電極材料を含む。2つの半電池チャンバは、イオン交換アイオノマ膜によって隔離されている。
(3)レドックスフロー電池の第1の水性電解質と接触している第1の電極を備える第1の半電池チャンバと、Oを発生する触媒を含む第2の電極を有するが、上記電極は第2の水性電解質と接触していない第2の半電池チャンバとを備える。2つの半電池チャンバは、イオン交換アイオノマ膜によって隔離されている。
【0050】
これらの実施形態では、第1の水性電解質は、レドックスフロー電池の負の作用電解質(「ネゴライト」)を含むと記載される。様々な実施形態では、酸性又は中性のpH値での平衡セルの第2の半電池に関連する電気化学は、式(1):
2HO→2O+4H+4e・・・・・(1)
によって記載され、より塩基性のpH値では、平衡セルの第2の半電池に関連する電気化学は、式(2):
4OH→2HO+O+4e・・・・・(2)
によって記載される。
【0051】
第1の半電池に関連する対応する電気化学的反応は、式(3)~式(5):
+e→Mn-1 ・・・・・・・・・・・・・(3)
及び
IMPn++ne→IMP・・・・・・・・・(4)
又は
IMPn++ne+nH→IMP.H・・・(5)
で記載され得る。
ここで、式中、M及びMn-1は、それぞれネゴライト中のレドックス活性種の酸化形及び還元体を表し、本出願では、処理される溶液中のレドックス活物質に対応し、ここで、「IMPn+」は、不純物の初期形態(例えば、As3+)を指し、IMP及びIMP・Hは、それぞれ不純物の還元された金属形又は水素化物形を指す。
この文脈では、そのような2つの反応スキームは、式(6)及び式(7):
As+3H+3e→AsH・・・・・・・・(6)
As+3HO+3e→AsH+3OH・・・(7)
で理解することができる。
【0052】
’074号出願は、作用電解質溶液の電子及びプロトンの含有量の同時平衡化に向けられているので、両方の状況で、pH補正セルの第2の半電池から第1の半電池へ膜を介してプロトンを輸送することで、ネゴライトに電荷平衡を与えると述べられている。この設計の結果の1つとして、’074号出願は、第2の半電池チャンバが、アルカリ性環境で作動されるOを発生する触媒を含む第2の電極を備える場合に、2つの半電池チャンバが、水の解離を促進する金属酸化物膜を挟み込む1つのカチオン交換アイオノマ膜及び1つのアニオン交換アイオノマ膜からなるバイポーラ膜によって隔離されていることを記載している。バイポーラ膜の使用によって、第2の半電池チャンバにアルカリ性電解質を展開しながら平衡セルを動作させることが記載されている。
【0053】
しかしながら、本件では、上記の理由により、(’074号出願に記載されているように)電子及びプロトンを同時に注入することはあまり望ましくなく、電子及び他の非プロトン性カチオンを同時に電解質溶液へと注入することがより望ましい。
したがって、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオン(又は更にアンモニウムカチオン)を、電気化学的処理後に第1の水性電解質のpH調整が必要となるのを妨げるのに十分な濃度で第2の電解質に導入することによって、’074号出願に記載される装置を、電子及び非プロトン性カチオンを同時に注入するように再構成することができる。
好ましい実施形態では、第2の電解質中のアルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオン(又は更にアンモニウムカチオン)は、はるかにより大きい(例えば、第2の電解質中のプロトンの濃度より10倍超、100倍超、500倍超、1000倍超、5000倍超、又は10000倍超大きい)濃度で存在する。或る特定の実施形態では、これらの非プロトン性カチオンは、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオン、例えば、Li、Na、K、[NH4-n(R=アルキル)、又はそれらの混合物であり得る。これらの非プロトン性カチオンは、第2の水性電解質中に少なくとも0.1Mからそれらの飽和濃度までの濃度範囲で、又は0.1M~0.2M、0.2M~0.3M、0.3M~0.4M、0.4M~0.5M、0.5M~0.6M、0.6M~0.7M、0.7M~0.8M、0.8M~0.9M、0.9M~1M、1M~1.25M、1.25M~1.5M、1.5M~2M若しくはそれ以上の範囲で、又はそれらの任意の組み合わせで存在し得る。これらのカチオンに対する例示的な対イオンには、水酸化物イオン、リン酸イオン、又は硫酸イオンが含まれる。
【0054】
本件では、’074号出願に記載されるシステムと同様のシステム(そのハードウェアの態様を含む)を、HERM装置として、’074出願に記載されているようにフロー電池に取り付けて、又は貯蔵タンク若しくは容器に取り付けて及び/又は作業システムから分離して使用することができる。HERM装置は作用フロー電池システムと組み合わせて使用されないので、HERM装置の電圧及び他の効率は、そのようなフロー電池システムの経済性に重要ではない。
【0055】
本発明の或る特定の実施形態では、電気化学セルは、膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備え、ここで、第1の半電池チャンバは、レドックス活性電解質(例えば、ネゴライト)及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極、好ましくは炭素電極、例えばカーボンクロス、カーボンフェルト又はカーボンペーパーを備え、かつ、第2の半電池チャンバは、好ましくは酸性であるが少なくとも2のpHを有する第2の水溶液と接触している第2の電極を備え、ここで、上記第2の電極は、Oを発生する触媒、好ましくは白金、又はコバルト、イリジウム、鉄、マンガン、ニッケル、ルテニウム、スズ若しくはそれらの組み合わせの酸化物の少なくとも1つ、最も好ましくはIrOを含む。
【0056】
その際、他の実施形態では、本開示は、膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備える電気化学セルであって、第1の半電池チャンバは、レドックス活物質及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極、好ましくは炭素電極を備え、かつ、第2の半電池チャンバは、第2の水溶液と接触している第2の電極を備え、ここで、上記第2の電極は、好ましくはNiフォーム等のニッケル、ステンレス鋼メッシュ、ステンレス鋼フェルト、Ni酸化物、Ni水酸化物、Niオキシ水酸化物、又はNi-Fe酸化物を含むOを発生する触媒を含む、電気化学セルを企図する。
【0057】
これらの実施形態の幾つかでは、膜はカチオン交換膜(「CEM」)である。これらの実施形態では、膜は、’074号出願に記載されるバイポーラ膜ではなく、組み込まれたアニオン交換膜を含まない。これらのカチオン交換膜に有用な材料には、任意にペルフルオロポリビニルエーテルを含むテトラフルオロエチレンのコポリマーを含むペルフルオロスルホン酸膜又はポリフルオロスルホン酸膜(NAFION(登録商標)膜、AQUIVION(登録商標)膜、又はFLEMION(登録商標)膜)、スルホン化炭化水素膜(スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリフェニルスルホン)が含まれる。他の例示的な過フッ素化膜材料には、テトラフルオロエチレン及び1つ以上のフッ素化酸官能性コモノマーのコポリマーが含まれる。その他の有用な過フッ素化電解質は、テトラフルオロエチレン(TFE)及びFSO-CFCFCFCF-O-CF=CFのコポリマーを含む。
【0058】
幾つかの実施形態では、第2の水性電解質はレドックス活物質を含まない。更に他の実施形態では、第2の水性電解質は、この目的のために本明細書の別の箇所で論じられるレベルで非プロトン性カチオンを含有する。好ましくは、第2の溶液の非プロトン性カチオンの種類及び割合は、(第1の半電池において)処理される電解質溶液のものとほぼ又は実際に一致する。「ほぼ一致する」という用語は、レドックス含有電解質中のカチオン含有量が処理後に調整を必要としない分布を指す。膜を通るそれぞれのカチオンの移動度は、第2の電解質溶液中のカチオンの相対的な割合が、処理される電解質中の対応する割合とわずかに異なることを必要とし得る。これらの違いを決定する能力は、必要であれば、過度の実験をすることなく当業者によって特定され得る。
【0059】
更に他の独立した実施形態では、第1の水性電解質及び第2の水性電解質のpHは、両方とも7未満であるか、両方とも約7であるか、又は両方とも7より大きい。そのような装置及び方法を使用して、例えばバナジウムフロー電池又は鉄-クロムフロー電池に存在するような高酸性レドックス活性電解質、及び例えば金属配位子配位化合物、例えばチタンベースのネゴライト物質(及び本明細書に記載されるより広い範囲のネゴライトも含む)に基づくアルカリ性又はpH中性のレドックス活性電解質を処理することができる。
【0060】
好ましくは、第1の水性電解質及び第2の水性電解質のpHは、5pH単位未満だけ異なる。他の独立した実施形態では、電解質は、4pH単位未満、3pH単位未満、2pH単位未満、又は1pH単位未満だけ異なる。より高い場合には、2018年10月8日に出願された国際出願PCT/US2018/054798号に記載されているようなpH緩衝層を使用する方略を使用することもできる。
【0061】
上記のように、第2の電極は一般に、Oを発生する触媒を含む。これらの実施形態の幾つかでは、第2の電極は、水からOを電気化学的に発生するのに適した金属酸化物触媒を含む。Oを発生する能力に加えて、これらの酸化触媒は、好ましくは、この用途で考慮されるpHの下で腐食耐性があるか、水を水素に還元するには不十分な触媒であるか、又はその両方である。第2の作用水性電解質の酸性酸化条件又は塩基性酸化条件下にて腐食する触媒は、第1のpH補正半電池にクロスオーバーして、pH補正セルの意図された効果を妨害し、又は一層悪いことにはフロー電池の動作を妨害する可能性がある。このようなクロスオーバー触媒が第1の半電池の還元条件下での水素発生について高能率の触媒である場合に、第1の半電池又は作用フロー電池の負電極における水素発生が安全面での懸念を引き起こすという筋書きが想定され得る。
したがって、本発明は、第2の電極で使用するために、コバルト、イリジウム、鉄、マンガン、ニッケル、ルテニウム、スズ、又はそれらの組み合わせの酸化物を優先的に使用することを企図している。O発生に対する良好な触媒活性及び高い腐食耐性のため、酸化イリジウムが特に好ましい。
【0062】
第2の半電池チャンバがアルカリ性電解質を含む場合には、O発生に対する良好な触媒活性及び塩基中での高い腐食耐性のため、ニッケル酸化物又はニッケル-鉄酸化物等の触媒が特に好ましい。この場合に適切な材料には、Niフォーム、ステンレス鋼メッシュ、ステンレス鋼フェルト、Ni酸化物、Ni水酸化物、Niオキシ水酸化物、又はNi-Fe酸化物が含まれる。
【0063】
幾つかの実施形態では、HERM装置の第2の電極は炭素を含む。このような電極は当該技術分野でよく知られており、黒鉛状炭素、ガラス状炭素、非晶質炭素、ホウ素又は窒素がドープされた炭素、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンオニオン、カーボンナノチューブ、カーボンクロス、カーボンフェルト、カーボンペーパー、及びグラフェンを含む。炭素材料は、幾分高い過電位にもかかわらずOを発生することができるが、炭素電極自体が酸化してCOになることは避けることができない。したがって、炭素電極は半犠牲的な性質を呈している。他の実施形態では、第2の電極は、また、Tiメッシュ、Tiフェルト、発泡されたTiメッシュ、ステンレス鋼メッシュ、及びステンレス鋼フェルトを含み得る。
【0064】
更に他の実施形態では、電気化学セルは、膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備え、ここで、(i)第1の半電池チャンバは、レドックス活物質及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極を備え、かつ、(ii)第2の半電池チャンバは、Oを発生する触媒を含む第2の電極を備え、かつ第2の半電池チャンバは水性電解質を含有しない(含まない)。
【0065】
この構成では、O発生反応に必要とされる水は、膜を越えて輸送される第1の半電池チャンバ内の水性電解質からの水によって与えられる。大量輸送を制限する状況を避けるために、膜を越える水の輸送は、金属酸化物触媒での水の消費よりも素早い必要がある。膜の第2の半電池チャンバ側に、金属酸化物のO発生触媒(例えば、IrO)がコーティングされ、その結果、第1の半電池チャンバから膜を越えて輸送される水は、直接的に分子酸素及びプロトンへと酸化される。この構成は電気化学的装置の設計を大幅に簡略化し得る。例えば、膜上の金属酸化物触媒をチタン端板と直接的に接続することで、第2の水性電解質の流動場として機能するチタンメッシュの必要性を省くことができる。唯一の追加の設計上の特徴は、金属酸化物触媒で発生する分子酸素のための通気孔である。さらに、O発生反応で消費される水を補うネゴライト用電解質タンクに定期的に水を加える必要がある。任意に、この補給水は、第2の半電池チャンバからの発生したOとHERM装置の電気化学セルの第2の半電池チャンバ及び第1のセルのネゴライト区間で発生したHとを化合させることによってin situで生成され得る。この水生成過程を貴金属触媒(例えば、Pt、Pd等)によって触媒することができる。
【0066】
追加の実施形態は、本明細書に記載されるこれらのHERM装置の何れかを操作する方法であって、各方法が、該装置の上記第1の電極及び第2の電極にわたって電位を印加して、処理される水性電解質の存在下で該装置に電流を供給することを含む、方法を提供する。このような操作のための特定の条件は、本明細書の別の箇所で記載されている。これらのレドックス活物質を含有する電解質溶液から不純物を除去するように操作する場合に、寄生的な水素発生はその主要な機能を妨げない。これにより、電極の構築にステンレス鋼等のより安価な材料を使用することができる。
【0067】
更なる実施形態は、電池、電気化学セル、燃料電池、及び/又はフロー電池を、例えばセルスタック、電解質を収容及び輸送する貯蔵タンク及び配管、制御ハードウェア及びソフトウェア(安全システムを含み得る)、並びに少なくとも1つの電力調節ユニットを含むより大きなシステム中にエネルギ貯蔵システムの一部として組み込むことを含む。そのようなシステムにおいて、貯蔵タンクは電気活物質を収容する。制御ソフトウェア、ハードウェア、及び任意の安全システムは、フロー電池又は他のエネルギ貯蔵システムの安全で自律的かつ効率的な動作を保証するあらゆるセンサ、緩和装置、並びに電子/ハードウェア制御装置及び安全装置を含む。
【0068】
そのような貯蔵システムは、エネルギ貯蔵システムの前端部に電力調節ユニットを含むことで、入力電力及び出力電力をエネルギ貯蔵システム又はその用途に最適な電圧及び電流に変換することもできる。送電網に接続されたエネルギ貯蔵システムの例では、充電サイクルにおいて、電力調節ユニットは入力AC電気を電気化学スタックに適した電圧及び電流のDC電気に変換することとなる。放電サイクルでは、該スタックはDC電力を生成し、電力調節ユニットは送電網用途に適した電圧及び周波数のAC電力に変換する。そのようなエネルギ貯蔵システムは、数時間の持続的な充電又は放電サイクルに非常に適している。
したがって、該システムは、エネルギ供給/需要プロファイルを平滑にして、(例えば再生可能エネルギ源からの)間欠的な発電資産を安定化する機構を提供するのに適している。その際、本発明の様々な実施形態は、そのような長い充電又は放電時間が有益である場合の電気エネルギ貯蔵用途を含むと理解されるべきである。例えば、そのような用途の非限定的な例には、本発明のシステムが送電網に接続される用途が含まれ、再生可能エネルギ系統統合、ピーク負荷シフト、グリッドファーミング、ベースロード発電/消費、エネルギ裁定取引、伝送及び配電資産据え置き、弱い送電網のサポート、及び/又は周波数調整が含まれる。さらに、上記装置又は上記システムを使用して、例えば、リモートキャンプ、前進作戦基地、オフグリッド遠距離通信、又はリモートセンサのための電源としての送電網又はマイクログリッドに接続されない用途のために安定した電力を供給することができる。
【0069】
[不純物が低減されたレドックス活性電解質溶液]
本開示は、開示された方法に利用可能な最終電解質溶液を更に具体的に表す。これらの実施形態は、これらの電解質溶液が本明細書に開示される方法で調製された(「取得された」)か否かにかかわらず、本明細書に開示されるレドックス活性電解質及び不純物並びに不純物レベルを有する電解質溶液を含む。本明細書で使用される場合に、「~から取得可能」という用語は、予め定められた電解質溶液が本発明の方法によって調製され得る(すなわち、本明細書に記載される電解質溶液の特性を含む)が、実際には代替的な方法によって調製されたことを表している。
【0070】
これらの最終的な「不純物が低減された」電解質溶液は、少なくとも1つのレドックス活性電解質、本明細書に記載されるレベルの1つ以上の不純物を含有し、任意に、物質の所望の性能に応じて、更なる添加剤(界面活性剤、粘度調整剤、緩衝液、及び非レドックス活性分子/活性種の電解質)を含有し得る。
【0071】
少なくとも1つのレドックス活物質の選択は融通が利き、例えば、バナジウム、鉄、クロムの塩、又は様々な金属配位子配位化合物を含む。これらの後者の種類の物質は本明細書の別の箇所で記載されている。特に、本開示は、本発明の方法及び得られるレドックス活性電解質溶液の有用性を強調しており、ここで、レドックス活物質は、特にネゴライトとして、チタンを含む金属配位子配位化合物を含む。
【0072】
バルク商品化学物質に関する発明者らの経験では、原材料中にかなりの不純物が見出されて、それが最終的なバルク配合電解質中の不純物に対応することが一般的である。腐食薬は不純物の一般的な発生源である。一般的な前駆体材料からの幾つかの典型的な不純物の範囲を以下の表1A及び表1Bに示す。これらの不純物は、使用される方法に応じて、最終的なフロー電池の電解質中に蓄積し、高濃度で見出される場合がある。商業的供給源から調製されたチタン-カテコレート誘導体についての同等のデータについては、表2も参照されたい。
【0073】
例えば、経済的なグレードのNaOHが数当量で有機レドックス活物質の合成に使用される場合に、得られる材料はNi等の不純物に富む可能性がある。このような材料から配合された電解質は、フロー電池で析出又は寄生的な水素発生の増加に向かう傾向があり得る。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
バナジウム供給源からの不純物は更により高くなり得る。
【0078】
【0079】
不純物が低減されたレドックス活性電解質溶液を含むこれらのレドックス活性電解質溶液において、少なくとも1つのレドックス活物質の濃度は少なくとも0.7Mである。様々な実施形態では、少なくとも1つのレドックス活物質の濃度は、0.7M~0.8M、0.8M~0.9M、0.9M~1M、1M~1.2M、1.2M~1.4M、1.4M~1.6M、1.6M~1.8M、1.8M~2M、2M~2.2M、2.2M~2.4M、2.4M~2.6M、2.6M~2.8M、2.8M~3M、3M~3.5M、又は3.5M~4Mの1つ以上の範囲によって規定される。最終レドックス活性溶液中の不純物のレベルは、これらの実際に有用な濃度(又はそれ以上)の状況でのみ該当するため、これらの状況で解釈されるべきである。
【0080】
不純物は一般に、Ag、As、Ba、Be、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Ge、Hg、Ir、Mg、Mn、Mo、Ni、Pb、Pd、Pt、Re、Ru、Sb、Sc、Se、Sn、Sr、Te、V、及びZnの1つ以上を含むと記載されるが、特定の実施形態では、不純物はAs、Ge、Hg、及びSbの1つ以上を含むと記載される。
【0081】
これらの状況の中で、幾つかの実施形態では、これらの不純物のレベルは、レドックス活性電解質溶液の総質量に対して質量基準で(溶液中のレドックス活性電解質の量とは無関係に)、典型的にはppm基準又はppb基準で規定され得る。或いは、不純物のレベルは、例えば、mg/L基準又はμ/L基準で、レドックス活性電解質溶液の単位容量当たりの重量基準として規定され得る。レドックス活性電解質溶液の密度が1g/Lである場合に、対応するppm対mg/L及びppb対μg/Lの対応する数値は同等である。
【0082】
したがって、独立した実施形態では、レドックス活性電解質溶液は、レドックス活性電解質溶液1リットル当たり約10mg([mg/L])未満の1つ以上の予め定められた不純物、5mg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、2.5mg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、1mg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、レドックス活性電解質溶液1リットル当たり500μg([μg/L])未満の1つ以上の予め定められた不純物、250μg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、100μg/L未満の予め定められた不純物、50μg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、約40μg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、約30μg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、約20μg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、約10μg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、約5μg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、若しくは約1μg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物を含有する。改めて、明確にするために、これらの記載は、不純物として記載される各物質に個別に互いに独立して適用されることが意図される。例えば、これらの記載された範囲により、As、Sb、及びGeを指定する1つの具体的に表される組成物は、例えば、5μg/L未満のAs、10μg/L未満のSb、及び50μg/L未満のGeを含有し得る。
【0083】
幾つかの実施形態では、電解質溶液は、約50μg/L未満のAs、Ge、Hg、及びSbの1つ以上を含有する。他の好ましい実施形態では、電解質溶液は、約5μg/L未満のAg、As、Ba、Be、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Ge、Hg、Ir、Mg、Mn、Mo、Ni、Pb、Pd、Pt、Re、Ru、Sb、Sc、Sn、Sr、V、及びZnの1つ以上を含有する。更に好ましい実施形態では、電解質溶液は、約5μg/L未満のSb、As、Ge、Sn、又はそれらの組み合わせの1つ以上を含有する。他の好ましい実施形態では、電解質溶液は、約5μg/L未満のAs、Hg、又はそれらの組み合わせを含有する。なおも更に好ましい実施形態では、電解質溶液は、約5μg/L未満のSb、As、又はそれらの組み合わせを含有する。更に他の好ましい実施形態では、電解質溶液は、約10μg/L未満のGe、Sn、又はそれらの組み合わせを含有する。
【0084】
しかしながら、偶発的な不純物の主な発生源は典型的には、レドックス活性金属として使用される金属(例えば、バナジウム)又はレドックス活性金属配位子配位化合物(例えば、チタンカテコレート)であるため、これらの不純物レベルは、また(おそらくより適切に)、それらの質量基準の点でレドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質の量に対して規定され得る。そのような場合に、関連する基準は、レドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質1mol当たりの不純物の重量部(すなわち、mg/mol基準又はμg/mol基準)になる。改めて、レドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質の濃度が1Mである場合に、mg/mol又はμg/molの値は、それぞれppm又はppbと数値的に同等である。しかしながら、実際には、追加の実施形態は、不純物レベルがレドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質のモル濃度当たりのmg/L又はμg/Lの点で記載される実施形態を含む(例えば、0.8Mのレドックス活性電解質溶液当たりの10μgの不純物/L(溶液)の定義は、[10μg/L]/[0.8mol/L]又は12.5μgの不純物/mol(レドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質)に対応することとなる)。
【0085】
その際、独立した実施形態では、1M基準を使用して、レドックス活性電解質溶液は、レドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質1mol当たり約10mg(以下、[mg/mol]と示される。)未満の1つ以上の予め定められた不純物、又はレドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質1mol当たり5mg/mol未満、2.5mg/mol未満、1mg/mol未満、500μg/mol未満、100μg/mol未満、50μg/mol未満、40μg/mol未満、30μg/mol未満、20μg/mol未満、約10μg/mol未満、5μg/mol未満、若しくは1μg/mol未満の1つ以上の予め定められた不純物を含有する。
【0086】
同様に、幾つかの実施形態では、電解質溶液は、約50μg/mol未満のAs、Ge、Hg、及びSbの1つ以上を含有する。他の好ましい実施形態では、電解質溶液は、約5μg/mol未満のAg、As、Ba、Be、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Ge、Hg、Ir、Mg、Mn、Mo、Ni、Pb、Pd、Pt、Re、Ru、Sb、Sc、Sn、Sr、V、及びZnの1つ以上を含有する。更に好ましい実施形態では、電解質溶液は、約5μg/mol未満のSb、As、Ge、Sn、又はそれらの組み合わせの1つ以上を含有する。他の好ましい実施形態では、電解質溶液は、約5μg/mol未満のAs、Hg、又はそれらの組み合わせを含有する。なおも更に好ましい実施形態では、電解質溶液は、約5μg/mol未満のSb、As、又はそれらの組み合わせを含有する。更に他の好ましい実施形態では、電解質溶液は、約10μg/mol未満のGe、Sn、又はそれらの組み合わせを含有する。
【0087】
[不純物が低減された電解質溶液の電気化学(レドックス)システムの使用]
本発明のレドックス活性電解質溶液は、また、フロー電池又は燃料電池の用途にも使用され得る。したがって、本開示は、本明細書に記載される不純物が減少された電解質溶液の1つを収容する少なくとも1つの半電池を含むフロー電池、及びこれらのフロー電池を備えるシステムを包含する。
【0088】
[用語]
本明細書全体を通して、用語には、関連技術における当業者に理解されるような通常の意味が与えられるべきである。しかしながら、誤解を避けるため、或る特定の用語の意味を具体的に定義又は明確化する。
【0089】
本開示において、文脈上明らかに他の意味を示す場合を除いて、単数形("a," "an," and "the")は複数の参照も含み、特定の数値に対する参照は少なくともその特定の値を含む。したがって、例えば「物質(a material)」に対する参照は、当業者に既知のそのような物質及びその均等物等の少なくとも1つに対する参照である。
【0090】
或る値が「約」という記述語の使用により近似値として表現される場合に、その特定の値が別の実施形態を形成することは理解されよう。一般に、「約」という用語の使用は、開示される主題が得ようとする所望の特性に応じて変動し得る近似値を示し、それが用いられる具体的な文脈においてその機能に基づいて解釈されるべきである。当業者は、これを通常のことと解釈することができるであろう。幾つかの場合には、特定の値に使用される有効桁数が、「約」という用語の範囲を決定する1つの非限定的な方法となり得る。他の場合には、一連の値で使用される段階的な変化を使用して、各値について「約」という用語に利用可能な対象範囲を決定することができる。存在する場合に、全ての範囲は包括的であり組み合わせ可能である。すなわち、範囲で示された値に対する参照はその範囲内の全ての値を含む。
【0091】
別段の特定がない限り、「水性」という用語は、溶剤の総重量に対して少なくとも約98重量%の水を含む溶剤系を指す。幾つかの用途では、可溶性、混和性、又は部分的に混和性の(界面活性剤又は他の手段で乳化される)共溶剤が存在してもよく、これにより、例えば、水の流動性の範囲が広がる(例えば、アルコール/グリコール)。特定される場合に、追加の独立した実施形態は、「水性」溶剤系が、全溶剤に対して、少なくとも約55重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約75重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約85重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、又は少なくとも約98重量%の水を含む実施形態を含む。幾つかの状況では、水性溶剤は本質的に水からなり、共溶剤又は他の化学種を実質的に含まない又は全く含まない場合もある。溶剤系は、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、又は少なくとも約98重量%の水であってもよく、幾つかの実施形態では、共溶剤又は他の化学種を含まない場合もある。
【0092】
別段の特定がない限り、「非水性」という用語は、約10重量%未満の水を含み、一般に少なくとも1つの有機溶剤を含む溶剤系を指す。追加の独立した実施形態は、「非水性」溶剤系が、全溶剤に対して、約50重量%未満、約40重量%未満、約30重量%未満、約20重量%未満、約10重量%未満、約5重量%未満、又は約2重量%未満の水を含む実施形態を含む。
【0093】
本明細書で使用される場合に、「水性電解質」、「電解質溶液」という用語、及びそれらの変形形態(一般に「電解質」と呼ばれる)は、少なくとも1つの物質を含む溶剤系であって、導電率が該物質を含まない溶剤系より高い溶剤系を意味することが意図される。
【0094】
「電気化学的に活性な電解質」又は「レドックス活性電解質」という用語、及びそれらの変形形態は、電気化学の当業者にそれらの通常の含意を伝える。これらの用語は典型的には、レドックス転移が可能な、すなわち、少なくとも1つの電子の捕獲又は放出によって、電位の印加時に酸化状態又は原子価状態を変えることができる電解質組成物(化合物又は溶液)を意味することが意図される。金属配位子配位化合物の文脈では、金属は複数の到達可能な原子価状態を有し、レドックス活性であると言うことができ、又は配位子は電子を受容/放出することが可能であり、レドックス活性であると言うことができ、又はレドックス活物質は、レドックス活性金属及び配位子の一方若しくは両方を含み得る。
【0095】
電解質は、様々なレドックス活物質を含有し得る。電解質の例としては、中でも、両電極の活物質としてバナジウムイオンを含むバナジウムベースの電解質、正電極活物質として鉄イオンを含み、負電極活物質としてクロムイオンを含む鉄-クロムベースの電解質、正電極活物質としてマンガンイオンを含み、負電極活物質としてチタンイオンを含むマンガン-チタンベースの電解質、両電極にマンガンイオン及びチタンイオンを含むマンガン-チタンベースの電解質が挙げられる。
【0096】
幾つかの実施形態では、電気化学的に活性な電解質は、金属配位子配位化合物を含む。他の実施形態では、電気化学的に活性な電解質は、レドックス活性金属イオン及び/又はレドックス不活性金属イオンを含む金属配位子配位化合物を含む。好ましくは、レドックス活性金属イオン又はレドックス不活性金属イオンは、Al、Ca、Co、Cr、Sr、Cu、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、Pd、Pt、Ru、Sn、Ti、V、Zn、若しくはZr、又はそれらの組み合わせである。他の実施形態では、電気化学的に活性な電解質は有機活物質を含む。好ましくは、有機活物質は、炭素、芳香族炭化水素、又はそれらの組み合わせである。芳香族化合物の例としては、限定されるものではないが、キノン、ヒドロキノン、ビオロゲン、ピリジニウム、ピリジン、アクリジニウム、又はカテコールが挙げられる。幾つかの好ましい実施形態では、電解質は、バナジウムベースの電解質を含む。
【0097】
本明細書で使用される場合に、「レドックス対」という用語は、熟練の電気化学者によって一般的に認識される技術用語であり、予め定められたレドックス反応の化学種の酸化形(電子受容体)及び還元体(電子供与体)を指す。Fe(CN) 3-/Fe(CN) 4-の対は、レドックス対の1つの非限定的な例であるにすぎない。同様に、「レドックス活性金属イオン」という用語は、その金属が使用条件下にて酸化状態に変化を受けることを意味することが意図される。本明細書で使用される場合に、「レドックス対」という用語は有機物質又は無機物質の対を指し得る。
【0098】
レドックス活物質に加えて、電解質は、溶剤、緩衝剤、支持電解質、粘度調整剤、湿潤剤等のような追加の成分を含有し得る。電解質は、また、本明細書で規定されるように、不純物として、重金属を含む金属元素を含有し得る。溶剤の例としては、HSO、KSO、NaSO、HPO、H、KHPO、NaPO、KPO、HNO、KNO、HCl、NaNO、NaOH、又はKOHの少なくとも1つを含む水溶液が挙げられる。代替的に、溶剤は有機酸溶剤であり得る。
【0099】
本明細書で使用される場合に、「不純物」という用語は、燃料電池又はフロー電池の文脈でのように電気化学セルの機能に関与することが意図されておらず、多くの場合に、電気化学セルの安全で効率的な使用に有害である典型的には金属又はメタロイドを含む不要な化学種を指すというその認識された意味を含意する。それは典型的には、偶発的に存在し、意図された物質とともに(従来の用語の意味での)不純物として導入される。例えば、本明細書の別の箇所で論じられるように、幾つかのシステムでは、偶発的なヒ素、アンチモン、及び他のそのような物質の存在はフロー電池の動作の間に析出物を形成する。フロー電池又は燃料電池の動作に少しでも役立つとは考えられていないが、それらの存在は性能に悪影響を与える場合がある。選択されたレドックス活性電解質に対して望ましくない又は考慮されていないという点で不純物を定義するという区別は重要である。それというのも、一部の用途でレドックス活物質として使用するために考慮され又は更には選択され得る金属又はメタロイドは、他の電解質中に存在する場合に不純物とみなされる場合があるからである。例えば、チタンを含む金属配位子配位化合物が選択されたレドックス活性電解質である電解質組成物においては、他のシステムで主要なレドックス活性電解質としてバナジウムが選択されるという事実にもかかわらず、同じ電解質溶液中のバナジウムの存在は不純物として見られる可能性が高い。
【0100】
本明細書で使用される場合に、「不純物の還元体」という用語は、初期電解質溶液中の不純物よりも低い酸化状態を有する不純物の形態を意味する。例えば、ほとんどの金属又はメタロイドが、本明細書で使用されるようにカチオン種としての又は形式正電荷を有する不純物として溶液中に存在する場合に、そのような不純物の金属形(すなわち、形式的なゼロ原子価状態を有する)又は水素化物形態、例えば、アルシン、スチビン、ゲルマン等は、形式的な負の原子価状態を有するため、対応する不純物の還元体とみなされる。不純物の還元体は、不純物のあらゆる還元体を含み得る。幾つかの実施形態では、不純物の還元体は揮発性である。更なる実施形態では、不純物の還元体は揮発性の水素化物である。一般的な不純物の還元体には、限定されるものではないが、アルシン(AsH)、ゲルマン(GeH)、スタンナン(SnH)、スチビン(SbH)、又はそれらの組み合わせが含まれる。幾つかの実施形態では、不純物の還元体はAsHである。他の実施形態では、不純物の還元体はGeHである。更なる実施形態では、不純物の還元体はSnHである。更に他の実施形態では、不純物の還元体はSbHである。更なる実施形態では、不純物の還元体は元素の水銀である。
【0101】
本明細書で使用される場合に、「無機物質」という用語は、電気化学及び無機化学の当業者に知られる「金属配位子配位化合物」又は単に「配位化合物」を含み得る。(金属配位子)配位化合物は、原子又は分子に結合された金属イオンを含み得る。結合された原子又は分子は「配位子」と呼ばれる。或る特定の非限定的な実施形態では、配位子は、C原子、H原子、N原子、及び/又はO原子を含む分子を含み得る。すなわち、配位子は有機分子を含み得る。幾つかの実施形態では、配位化合物は、水、水酸化物、又はハロゲン化物イオン(F、Cl、Br、I)ではない少なくとも1つの配位子を含むが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。追加の実施形態には、米国特許第9,768,463号に記載されている金属配位子配位化合物が含まれ、これは、少なくとも配位化合物の教示について参照により本明細書に組み込まれる。
【0102】
本明細書で使用される場合に、「負電極」及び「正電極」という用語は、充電サイクル及び放電サイクルの両方においてそれらが動作する実際の電位とは無関係に、負電極が正電極よりも負の電位で(またその逆で)動作するように又は動作するよう設計若しくは意図されているように互いに規定された電極である。負電極は、可逆水素電極に対して負の電位で実際に動作する又は動作するよう設計若しくは意図されている場合も又はそうでない場合もある。
【0103】
本開示では、平衡セルの第1の水性電解質と関連する負電極は、作用フロー電池の負電極と同一の材料又はそれと異なる材料を含み得るが、それらは共通の電解質を共有する。これに対して、平衡セルの第2の水性電解質に関連する正電極は、ほぼ必ず作用フロー電池の正電極とは異なる材料を含み、この場合に、フロー電池の正電解質は、ほぼ必ず平衡セルの第2の電解質と組成的に異なっており、物理的に隔離されている。
【0104】
「ネゴライト」及び「ポソライト」という用語は一般に、それぞれ負電極及び正電極と関連する電解質を指す。しかしながら、本明細書で使用される場合に、「ネゴライト」及び「ポソライト」という用語は、フロー電池の各電解質に限定される。本明細書で企図されるように、フロー電池の負の作用電解質(ネゴライト)は、配位化合物又は金属配位子配位化合物を含む。
特定の実施形態では、ネゴライトは、以下の式:
M(L(L(L
を有する金属配位子配位錯体を含む。
ここで、式中、Mは、Al、Ca、Ce、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Mo、Si、Sn、Ti、V、W、Zn、又はZrであり、L、L、及びLは、それぞれ独立して、アスコルベート、カテコレート、シトレート、グリコレート、又はポリオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、又はグリセロールに由来する配位子を含む)、グルコネート、グリシネート、α-ヒドロキシアルカノエート(例えば、α-ヒドロキシアセテート、又はグリコール酸由来)、β-ヒドロキシアルカノエート、γ-ヒドロキシアルカノエート、マレート、マレエート、フタレート、ピロガレート、サルコシネート、サリチレート、又はラクテートであり、x、y、及びzは、独立して0、1、2、又は3であり、1≦x+y+z≦3であり、かつ、mは、+1、0、-1、-2、-3、-4、又は-5である。
【0105】
関連の独立した実施形態は、(a)x=3、y=z=0、(b)x=2、y=1、z=0、(c)x=1、y=1、z=1、(d)x=2、y=1、z=0、(e)x=2、y=z=0、又は(f)x=1、y=z=0であることを提供する。個々の好ましい実施形態では、Mは、Al、Cr、Fe、又はTiであり、x+y+z=3である。より好ましい実施形態では、ネゴライトは、チタンの金属配位子配位化合物を含む。他の好ましい実施形態では、ネゴライトは、バナジウムの金属配位子配位化合物を含む。
【0106】
他の実施形態では、レドックス活物質は、以下の式:
Ti(L1)(L2)(L3)
を有する化合物に関して記載される。
ここで、式中、L1はカテコレートであり、L2及びL3は、それぞれ独立して、カテコレート、アスコルベート、シトレート、グリコレート、ポリオール、グルコネート、グリシネート、ヒドロキシアルカノエート、アセテート、ホルメート、ベンゾエート、マレート、マレエート、フタレート、サルコシネート、サリチレート、オキサレート、ウレア、ポリアミン、アミノフェノレート、アセチルアセトン、又はラクテートから選択され、各Mは、独立して、Na、Li、又はKであり、nは0又は1~6の整数であるが、但し、L1及びL2の両方がカテコレートである場合に、L3はオキサレート、ウレア、カテコレート、又はアセチルアセトンではない。
【0107】
幾つかの実施形態では、カテコレートは、1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、又はそれらの混合物を含む。好ましい実施形態は、以下の式:
Ti(カテコレート)(ヒドロキシカテコレート)、又はMTi(カテコレート)
を有する組成物を含む。
【0108】
他の実施形態では、レドックス活性組成物は、以下の式:
Ti(L1)(L2)(L3)
を有する1つ以上の組成物である又は該組成物を含む。
ここで、式中、L1はカテコレートであり、L2及びL3は、それぞれ独立して、カテコレート、アスコルベート、シトレート、グリコレート、ポリオール、グルコネート、グリシネート、ヒドロキシアルカノエート、アセテート、ホルメート、ベンゾエート、マレート、マレエート、フタレート、サルコシネート、サリチレート、オキサレート、ウレア、ポリアミン、アミノフェノレート、アセチルアセトン、又はラクテートから選択され、各Mは、独立して、Na、Li、又はKであり、nは0又は1~6の整数である。
L1、L2、又はL3は、また、以下の化学式I:
【化1】
による構造を有する化合物、又はその酸化形若しくは還元体を含み得る。
ここで、式中、Arは、任意に1つ以上のO、N、又はSの環ヘテロ原子を含む5員~20員の芳香族部であり、X及びXは、独立して、-OH、-NHR、-SH、又はそれらのアニオンであり、X及びXは、互いにオルト位で配置されており、Rは、それぞれ独立して、H、C1~6アルコキシ、C1~6アルキル、C1~6アルケニル、C1~6アルキニル、5員若しくは6員のアリール若しくはヘテロアリール、ホウ酸若しくはその塩、カルボン酸若しくはその塩、カルボキシレート、シアノ、ハロゲン、ヒドロキシル、ニトロ、スルホネート、スルホン酸若しくはそれらの塩、ホスホネート、ホスホン酸若しくはそれらの塩、又はポリグリコール(好ましくは、ポリエチレングリコール)であり、Rは、独立して、H又はC1~3アルキルであり、かつ、nは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10である。
【0109】
他の適切な活物質は、「有機活物質」を含み得る。有機活物質は、遷移金属イオンを含まない分子又は超分子を含み得る。さらに、有機活物質は、水溶液中に溶解される分子又は超分子を含むと解釈されると理解される。適切な有機活物質は、電気化学的エネルギ貯蔵システムの動作の間に酸化状態に変化を受けることができる。したがって、分子又は超分子は、システムの動作の間に電子を受容又は供与することができる。
【0110】
「カテコレート」、「グリコレート」、「ポリオール」、「ヒドロキシアルカノエート」、「ベンゾエート」、「フタレート」、「ウレア」、及び「ポリアミン」という用語は、これらの配位子が、H、C1~6アルコキシ、C1~6アルキル、C1~6アルケニル、C1~6アルキニル、5員若しくは6員のアリール若しくはヘテロアリール、ホウ酸若しくはその塩、C0~6アルキレン-カルボン酸若しくはその塩、シアノ、ハロゲン、ヒドロキシル、ニトロ、スルホネート、スルホン酸若しくはそれらの塩、ホスホネート、ホスホン酸若しくはそれらの塩、又はポリグリコール(好ましくは、ポリエチレングリコール)から独立して選択される少なくとも1つの基で任意に置換され得ることを表している。
【0111】
アルカノエートには、α形、β形、及びγ形が含まれる。ポリアミンには、限定されるものではないが、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、及びジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等のジアミン及びトリアミンが含まれる。カテコレートには、1,2-ジヒドロキシベンゼン部を含む全ての組成物が含まれる。そのような部には、ヒドロキシカテコレート(ピロガレートを含む)だけではなく、本明細書に列記される置換基も含まれる。置換基には、限定されるものではないが、アルキル、アルケニル、及びアルキニル(それぞれ、分岐状構造又は線状構造、及び1つ以上のカルボキシル基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、又は他の電子求引性基若しくは電子供与性基で任意に置換された構造を指す)が含まれる。置換基には、5員又は6員のアリール又はヘテロアリールも含まれ、フェニル、ピリジニル、フリル、ピロリル、イミダゾリル、トリアゾール、又はチオフェニルが含まれる。電子求引性置換基又は電子供与性置換基を芳香族環の周縁に付加することで、レドックス活性配位子のレドックス電位を調節することができる。
【0112】
「百万分率(ppm)」及び「十億分率(ppb)」という用語は、該用語が適用される電解質溶液の総質量に対して質量基準で規定される。本明細書の別の箇所に記載されるように、「mg/mol」及び「μg/mol」という用語は、同じレドックス活性電解質溶液中のレドックス活性電解質の量に対する不純物の濃度を指す。
【0113】
「スタック」又は「セルスタック」又は「電気化学セルスタック」という用語は、電気的に接続されている個別の電気化学セルの集合を指す。セルは直列又は並列に電気的に接続され得る。セルは流体接続されていても又は流体接続されていなくてもよい。
【0114】
[実施の態様]
態様1.低減された不純物レベルを有する電解質溶液を調製する方法であって、
a.レドックス活性電解質の還元体及び不純物の還元体を含有する電気化学的に処理された電解質溶液を生成するのに十分な条件下にて、少なくとも0.5Mの濃度のレドックス活性電解質を更に含む初期電解質溶液中に初期濃度で存在する不純物を電気化学的に還元することと、
b.前記電気化学的に処理された電解質溶液から前記不純物の還元体を分離して、前記不純物の初期濃度よりも低い最終濃度を有する不純物を含有する最終電解質溶液を得ることと、
を含む、方法。
【0115】
態様2.前記最終電解質溶液中の前記不純物の最終濃度は、予め決められた閾値レベルであり、
(i)約10mg/L未満、5mg/L未満、2.5mg/L未満、1mg/L未満、500μg/L未満、250μg/L未満、100μg/L未満、50μg/L未満、約40μg/L未満、約30μg/L未満、約20μg/L未満、約10μg/L未満、約5μg/L未満、若しくは約1μg/L未満の1つ以上の予め定められた不純物、又は、
(ii)前記レドックス活性電解質溶液中の前記レドックス活性電解質1mol当たり約10mg([mg/mol])未満の不純物、5mg/mol未満、2.5mg/mol未満、1mg/mol未満、500μg/mol未満、250μg/mol未満、100μg/mol未満、50μg/mol未満、約40μg/mol未満、約30μg/mol未満、約20μg/mol未満、約10μg/mol未満、約5μg/mol未満、若しくは約1μg/mol未満の1つ以上の予め定められた不純物、
である、態様1の方法。
【0116】
態様3.前記不純物は、アンチモン、ヒ素、ゲルマニウム、スズ、又はそれらの組み合わせの形態を含む、態様1又は2の方法。
【0117】
態様4.前記電気化学的処理は、電気化学セル内で実施される、態様1~3の何れか1つの方法。
【0118】
態様5.前記不純物の還元体は、前記電気化学セルの正極内でのめっきによって分離される、態様4の方法。
【0119】
態様6.前記不純物の還元体は、前記電気化学的に処理された電解質溶液から析出する、態様1~5の何れか1つの方法。
【0120】
態様7.前記析出した不純物の還元体は、濾過によって除去される、態様6の方法。
【0121】
態様8.前記不純物の還元体は、揮発性水素化物である、態様1~4の何れか1つの方法。
【0122】
態様9.前記揮発性水素化物は、アルシン(AsH)、ゲルマン(GeH)、スタンナン(SnH)、スチビン(SbH)、又はそれらの組み合わせである、態様8の方法。
【0123】
態様10.前記電気化学的処理は電気化学的還元であり、前記不純物の還元電位よりも負の酸化還元電位で実施される、態様1~9の何れか1つの方法。
【0124】
態様11.前記電気化学的に処理された電解質溶液を、
(a)前記電気化学的に処理された電解質溶液を、20℃~約105℃の範囲の温度で加熱すること、
(b)前記電気化学的に処理された電解質溶液若しくは工程(a)で加熱された電解質溶液を、不活性ガスを使用してパージすること、又は、
(c)工程(a)及び工程(b)の組み合わせ、
によってコンディショニングすることを更に含む、態様1~10の何れか1つの方法。
【0125】
態様12.前記加熱の工程(a)の温度は、約35℃~約95℃、又はより好ましくは約45℃~約85℃の範囲内である、態様11の方法。
【0126】
態様13.前記不活性ガスは、窒素又はアルゴンである、態様11又は12の方法。
【0127】
態様14.工程(a)及び工程(b)は、同時に実施される、態様11~13の何れか1つの方法。
【0128】
態様15.工程(a)及び工程(b)は、順次に実施される、態様11~13の何れか1つの方法。
【0129】
態様16.前記最終電解質溶液中の前記レドックス活性電解質の還元体を酸化させることを更に含む、態様1~15の何れか1つの方法。
【0130】
態様17.前記酸化は、前記最終電解質溶液を酸素、好ましくは空気等の酸化剤でパージすることによって実施される、態様16の方法。
【0131】
態様18.前記酸化は、過酸化水素を使用して行われる、態様1~15の何れか1つの方法。
【0132】
態様19.前記酸化は、前記最終電解質溶液を加熱しながら実施される、態様16~18の何れか1つの方法。
【0133】
態様20.前記酸化は、約65℃以上の温度で、好ましくは約85℃以上の温度で、より好ましくは約105℃以上の温度で実施される、態様16又は19の方法。
【0134】
態様21.前記酸化は、水素発生触媒を使用して実施される、態様16の方法。
【0135】
態様22.前記水素発生触媒は、活性炭、カーボンクロス、カーボンフェルト、カーボンペーパー、Tiメッシュ、Tiフェルト、発泡されたTiメッシュ、PtめっきされたTiメッシュ、又はそれらの組み合わせである、態様21の方法。
【0136】
態様23.前記レドックス活性電解質は、
(i)Al、Ca、Co、Cr、Sr、Cu、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、Pd、Pt、Ru、Sn、Ti、V、Zn、若しくはZrを含む金属配位子配位化合物、
(ii)有機活物質、好ましくは炭素、芳香族炭化水素、例えば、キノン、ヒドロキノン、ビオロゲン、ピリジニウム、ピリジン、アクリジニウム、若しくはカテコール、又は、
(iii)(i)若しくは(ii)の組み合わせ、
を含む、態様1~22の何れか1つの方法。
【0137】
態様24.前記レドックス活性電解質は、Co、Cr、Cu、Fe、Mn、Mo、Ru、Sn、Ti、V、又はZrの組を含む金属配位子配位化合物を含む、態様23の方法。
【0138】
態様25.態様1~24の何れか1つの方法により調製された電解質溶液。
【0139】
態様26.電解質溶液であって、
(i)好ましくは金属又はメタロイド、より好ましくはチタンを含む金属配位子配位化合物を含む、少なくとも0.5Mの濃度のレドックス活性電解質と、
(ii)前記電解質溶液1リットル当たり約500μg未満、又は前記レドックス活性電解質1mol当たり500μg未満の量で存在する不純物と、
を含む、電解質溶液。
【0140】
態様27.約50μg/L未満のAs、Ge、Hg、及びSbの1つ以上を含む、態様25又は26の電解質溶液。
【0141】
態様28.約20μg/L未満、約15μg/L未満、約10μg/L未満、又は約5μg/L未満のアンチモン、ヒ素、ゲルマニウム、スズ、又はそれらの組み合わせの何れか1つの形態を含む、態様25~27の何れか1つの電解質溶液。
【0142】
態様29.約5μg/L未満のアンチモン、ヒ素、ゲルマニウム、スズ、又はそれらの組み合わせの1つ以上を含む、態様25~28の何れか1つの電解質溶液。
【0143】
態様30.態様25~29の何れか1つの電解質溶液を含む電気化学セル。
【0144】
態様31.態様30の電気化学セルを少なくとも1つ備えるレドックスフロー電池。
【0145】
態様32.カチオン交換膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備える電気化学セルであって、
前記第1の半電池チャンバは、レドックス活物質及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極、好ましくは炭素電極を備え、かつ、
前記第2の半電池チャンバは、第2の水性電解質と接触している第2の電極を備え、ここで、前記第2の水性電解質は、少なくとも0.1Mの濃度の非プロトン性カチオンを含む1つ以上の塩を含み、前記第2の電極は、好ましくはNiフォーム等のニッケル、ステンレス鋼メッシュ、ステンレス鋼フェルト、Ni酸化物、Ni水酸化物、Niオキシ水酸化物、又はNi-Fe酸化物を含むOを発生する触媒を含む、電気化学セル。
【0146】
態様33.カチオン交換膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備える電気化学セルであって、
前記第1の半電池チャンバは、レドックス活物質及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極、好ましくは炭素電極、例えばカーボンクロス、カーボンフェルト、又はカーボンペーパーを備え、かつ、
前記第2の半電池チャンバは、少なくとも2のpHを有し、少なくとも0.1Mの濃度の非プロトン性カチオンを有する1つ以上の塩を含む第2の水性電解質と接触している第2の電極を備え、
前記第2の電極は、Oを発生する触媒、好ましくは白金、又はコバルト、イリジウム、鉄、マンガン、ニッケル、ルテニウム、スズ、若しくはそれらの組み合わせの酸化物の少なくとも1つ、最も好ましくはIrOを含む、電気化学セル。
【0147】
態様34.前記還元可能不純物は、電気化学的還元時に揮発性還元体、例えば、アルシン(AsH)、ゲルマン(GeH)、スタンナン(SnH)、又はスチビン(SbH)を形成する、態様32又は33の電気化学セル。
【0148】
態様35.前記第2の水性電解質は、Naイオン及び/又はKイオンを含み、少なくとも7のpHを有する、態様32~34の何れか1つの電気化学セル。
【0149】
態様36.態様32~35の何れか1つの電気化学セルの操作方法であって、前記第1の水性電解質中の前記還元可能不純物の濃度を前記第1の水性電解質中の予め決められたレベル、好ましくは10μg/L未満に低減するのに十分な条件下にて前記電気化学セルに十分な電流を流すことを含む、方法。
[実施例]
【0150】
以下の実施例は、本開示内に記載される概念の幾つかを例示するために示される。各実施例は、組成、調製方法、及び使用方法の具体的な個別の実施形態を示すとみなされるが、どの実施例も本明細書に記載されるより一般的な実施形態を限定するものとみなされるべきではない。
【0151】
[実施例1]
上記のように、或る特定の実施形態では、電気化学セルは、膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備え、ここで、第1の半電池チャンバは、レドックス活性電解質(例えば、ネゴライト)及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極、好ましくは炭素電極、例えばカーボンクロス、カーボンフェルト又はカーボンペーパーを備え、かつ、第2の半電池チャンバは、好ましくは酸性であるが少なくとも2のpHを有する第2の水溶液と接触している第2の電極を備え、ここで、上記第2の電極は、Oを発生する触媒、好ましくは白金、又はコバルト、イリジウム、鉄、マンガン、ニッケル、ルテニウム、スズ若しくはそれらの組み合わせの酸化物の少なくとも1つ、最も好ましくはIrOを含む。
【0152】
この文脈における例示的な実施形態を実証するために、炭素電極を伴うカチオン交換膜上にコーティングされた酸化イリジウム触媒を負極として使用し、非伝導性層によって上記膜から隔離されたカーボンクロスを正極として使用した実験を行った(図3(A)を参照)。非伝導性層は、グリッド又はフォーム等の電子的に絶縁されているが流体透過性の材料からなっていた。この非伝導性層の動作には、メラミンフォームが有用であることが分かっている。非伝導性層は、本明細書の別の箇所で記載されるようにネゴライトの分解を引き起こし得る負極からの酸の流れからネゴライトの還元を分離した。この構成において、電気化学セルを、チタン配位子配位化合物(例えば、チタン-カテコレート錯体)を含むレドックス活性電解質(ネゴライト)溶液が正極を流れるフローセルとして使用した。負極用の水は、ネゴライト溶液からの拡散によって供給された。実際には、この設計はこれまで、1平方センチメートル当たり約30mA又は40mAの電流密度でレドックス活性電解質溶液を充電することに限定されていた。チタン錯体の分解を引き起こす正極への酸の輸送によって電流密度が制限されると考えられた。これらの初期の制限にもかかわらず、このような構成は、0.7Mを超える濃度のチタン-カテコレート錯体を含み、例示的な不純物として10μg/L未満のレベルのヒ素を含む最終レドックス活性電解質溶液を提供する本明細書に記載される原理の概念実証をもたらすことが実証された。
【0153】
[実施例2]
上記のように、或る特定の実施形態では、電気化学セルは、膜によって隔離された第1の半電池チャンバ及び第2の半電池チャンバを備え、ここで、第1の半電池チャンバは、レドックス活物質及び還元可能不純物を含有する第1の水性電解質と接触している第1の電極、好ましくは炭素電極を備え、かつ、第2の半電池チャンバは、第2の水性アルカリ性(負極液)溶液と接触している第2の電極を備え、ここで、上記第2の電極は、好ましくはNiフォーム等のニッケル、ステンレス鋼メッシュ、ステンレス鋼フェルト、Ni酸化物、Ni水酸化物、Niオキシ水酸化物、又はNi-Fe酸化物を含むOを発生する触媒を含む。
【0154】
この文脈における例示的な実施形態では、負極溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸緩衝液、又はそれらの混合物の濃縮溶液であった(図3(B)を参照)。負極は、通常のアルカリ性酸化触媒、これらの場合はニッケル又はニッケル被覆鋼からなっていた。正極は炭素電極であった。カチオン交換膜、例えば、NAFION(登録商標)ペルフルオロスルホン酸樹脂又はスルホン化ポリエーテルエーテルケトン(s-PEEK)によって正極と負極とを隔離した。このセルは、また、チタン配位子配位化合物(例えば、チタン-カテコレート錯体)を含むレドックス活性電解質(ネゴライト)溶液及び負極溶液の両方がセル全体にポンプ輸送されるフローセルとして設計された。この場合も、実施例1に記載されるような許容可能な結果が達成された。
【0155】
[実施例3]
25cmのHERM装置を、Niフォーム負極(346g/m、1.6mmの厚さ、多孔率:≧95%、80ppi~110ppi、MTI Inc,社)、Nafion N117カチオン交換膜、及びカーボンクロス正極を使用して構築した。負極液として1MのKOHを使用した。この装置を使用して、ICP-OESで測定される3.1ppmのAs及び2.9ppmのSnを含有する1.2Mの濃度を有するTi-カテコレートネゴライトを精製した。ネゴライトの充電は180mA/cmで進行し、Ag/AgClに対して-1.36Vの溶液電位となった。窒素によりスパージし、45℃で16時間磁気的に撹拌した後に、電解質を還流させ、更に20時間窒素スパージすることによって、電解質をコンディショニングした。これらのコンディショニング工程の終わりに、ICP-OESにより1.0ppb未満のAs及び1.6ppmのSnが見られたことから、これらの不純物の濃度がそれぞれ>99%及び45%だけ減少したことを示している。
【0156】
[実施例4]
25cmのHERM装置を、Nafion N117膜のIrOコーティングされた表面に面するカーボンクロス負極を使用して構築した。上記膜とカーボンクロス正極との間にメラミンフォーム非伝導性層を配置した。この装置を使用して、3.1ppmのAsを含有する1.2Mの濃度を有するTi-カテコレートネゴライトを精製した。ネゴライトの充電は40mA/cmで進行し、Ag/AgClに対して-1.34Vの溶液電位となった。窒素によりスパージし、65℃で2.5時間磁気的に撹拌することによって、電解質をコンディショニングした。このコンディショニング工程の後に、電解質には6.7ppbのAsが含まれ、As濃度が99%超だけ低減されたことが分かった。
【0157】
[実施例5]
20mg/Lを超えるZnで汚染された1.2Mの濃度を有するTi-カテコレートネゴライトを精製した。この電解質をAg/AgClに対して-1.42Vに充電した結果、HERM装置の炭素正極上に広範囲のZnめっきが生じた(図4は、HERM正極上にめっきされたZnを示している)。
【0158】
当業者が理解するように、これらの教示に鑑みて、本発明の多くの変更及び変形が可能であり、そのようなもの全ては本明細書で企図されている。
【0159】
本書で引用又は記載されているそれぞれの特許、特許出願、及び刊行物の開示は、引用することにより、それぞれその全体が全ての目的について本明細書の一部をなすものとする。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】