(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-12
(54)【発明の名称】初期及び中間期のアルツハイマー病を治療するための低容量血漿交換の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/38 20060101AFI20220104BHJP
A61K 35/16 20150101ALI20220104BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220104BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220104BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A61K38/38
A61K35/16 Z
A61K39/395 V
A61P25/28
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021513446
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(85)【翻訳文提出日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 IB2019001145
(87)【国際公開番号】W WO2020084346
(87)【国際公開日】2020-04-30
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515116009
【氏名又は名称】グリフォルス・ワールドワイド・オペレーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GRIFOLS WORLDWIDE OPERATIONS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Grange Castle Business Park,Grange Castle,Clondalkin,Dublin 22,IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ビクトル・グリフォルス・ロウラ
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ・マヌエル・パエス・レガデラ
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ・ヌニェス・ドメネチ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA44
4C084DA37
4C084MA65
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA161
4C084ZC75
4C085AA33
4C085BB31
4C085CC22
4C085EE03
4C085GG02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB35
4C087CA21
4C087MA65
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA16
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、低容量血漿交換(LVPE)を用いて軽度及び中等度アルツハイマー病を治療するための、5%(w/v)~25%(w/v)の間の濃度のヒトアルブミンを含む組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低容量血漿交換(LVPE)により軽度及び中等度アルツハイマー病(AD)を治療するための、5%(w/v)~25%(w/v)の間の濃度のヒトアルブミンを含む組成物。
【請求項2】
前記LVPEレジメンが、600mL~900mLの間の血液容量を含むことを特徴とする、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記治療レジメンが、3回以上LVPEを、患者に投与する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
LVPEの前記治療レジメンの前に、従来の治療的血漿交換(TPE)の先立つ回が実行されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記TPEレジメンが、1週につきTPE 1回の頻度で実施できることを特徴とする、請求項4に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記TPEレジメンが、少なくとも6週の間、実施されることを特徴とする、請求項4又は5に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
次回のLVPEがそれぞれ、前回から10~45日後に実施されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
次回のLVPEがそれぞれ、前回から15~35日後に実施されることを特徴とする、請求項7に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
次回のLVPEがそれぞれ、前回から30日後に実施されることを特徴とする、請求項8に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
10g~40gの間のアルブミンが、各回のLVPEにおける置換に使用されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
20g~40gの間のアルブミンが、各回のLVPEにおける置換に使用されることを特徴とする、請求項10に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記治療が、免疫グロブリン静注(IGIV)の投与を更に含むことを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
10g~20gの間の免疫グロブリンが、ある回のLVPEにおける置換に使用されるが、アルブミンと同時には投与されないことを特徴とする、請求項12に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
中等度のアルツハイマー病(AD)を患う患者の治療用であることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明は、医療分野、特に、初期及び中間期のアルツハイマー病を治療するための低容量血漿交換の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、成人における認知症の最も一般的な原因である。リン酸化タウタンパク質沈着物の細胞内神経原線維変化(NFT)及びアミロイドβペプチド(Aβ)の細胞外凝集体から形成されるアミロイド斑は、AD症状の特徴である。NFT及びアミロイド沈着物はともに、AD脳における細胞死の原因となる疑いがあるが、症状の初期の生物学的誘因は、完全には解明されていない。アミロイドカスケード仮説は、ADにおいて観察される病因を説明するために広く研究されている。アミロイドカスケード仮説は、疾患修飾特性を有する薬剤を求めて、多くの薬物開発プログラムに対する標的として役立ってきた。仮説により、脳におけるアミロイド斑の産生及び沈着が、AD病因を駆動すると提唱されている。
【0003】
大量のAβは、フリーラジカルの産生と関連付けられるアポトーシス活性化及び酸化的ストレスの誘導を含む、様々な方法で細胞にとって神経毒性であり、これが、酸化的代謝の変更をもたらした。脳におけるAβペプチド蓄積を招く病的代謝は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)において開始され、アミロイド前駆体タンパク質(APP)は、構成的な非アミロイド原性経路又は病原性アミロイド原性経路のいずれかに従って幾つかの異なるプロテアーゼ(セクレターゼ)によってプロセシングされる。アミロイド原性経路では、APPは、β-セクレターゼによって切断されて、可溶性N-末端断片(sAPP-β)及び膜結合型C-末端断片(C99)を放出し、続いてこれが、γ-セクレターゼによって切断されて、可溶性アミロイド前駆体タンパク質細胞内ドメイン(AICD)を産生し、Aβ1~40及びAβ1~42が最も一般的である、不溶性Aβペプチドの不均一生成をもたらす。Aβ1~42は、Aβ1~40に対して可溶性が低く、且つ毒性が高いため、Aβの疎水性特性は、脳におけるアミロイド斑の、特にAβ1~42の形成を促進する。逆に、非アミロイド原性経路では、APPは、Aβ配列内のα-セクレターゼによって構成的に切断され、したがって、アミロイド原性Aβの形成が防止される。
【0004】
ADの治療に関しては、コリンエステラーゼ阻害剤及びN-メチル-d-アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニストを含む、対症療法が認可されているにすぎない。アミロイド沈着物の蓄積を防止するか、又は既存の斑を低減させる治療法は、ADの治療に関して現在研究されており、アミロイド原性経路の幾つかの分子標的が、検査中であり、又は検査されてきた。したがって、最上流のAPP産生を調節する因子の妨害が、APPの細胞内レベルに影響を及ぼし、したがって、Aβの全体的なレベルを低減させる可能性がある。
【0005】
同様に、β-セクレターゼ及びγ-セクレターゼ等の神経原性等の神経毒性Aβ生成に関与する主要プレーヤーの阻害又は調節は、ADに対する重要な治療上の標的であるようである。或いは、脳組織におけるアミロイド沈着物を標的とする下流戦略は、Aβ凝集を阻害し得るか、又はすでに形成された斑を破壊し得る。最終的に、受動免疫療法及び能動免疫療法(それぞれ、抗Aβモノクローナル抗体の直接的な使用、及びAβペプチド断片を用いたワクチン接種による免疫系の刺激)の両方を使用したAβのクリアランスが見られる。
【0006】
不運にも、脳Aβを低減させるための小分子薬物療法及び免疫療法による臨床試験は、有効性を示していない。持続的な失敗により、研究者は、血液脳関門を通るAβの輸送を変化させることによって、脳におけるAβ蓄積を低下させることを目的としたADに関する新たな治療戦略の開発に至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rosen WG、Mohs RC、Davis KL. A new rating scale for Alzheimer's disease. Am J Psychiatry. 1984年;141:1356~64頁
【非特許文献2】Galasko D、Bennett D、Sano M、Ernesto C、Thomas R、Grundman Mら An Inventory to Assess Activities of Daily Living for Clinical Trials in Alzheimer's Disease. Alzheimer Dis Assoc Disord. 1997年;11:33~9頁
【非特許文献3】Folstein MF、Folstein SE、McHugh PR. Mini-mental state, A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. J Psychiatr Res. 1975年;12:189~98頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、ADの首尾よい治療が依然として必要である。本発明者らは、スペインの19箇所及び米国の22箇所の41箇所の場所にあるセンターからの軽度ADから中等度ADを患う496名の患者を包含する臨床試験を実施し、ここで、患者は、任意選択で免疫グロブリン静注(IVIG)を組み合わせた、治療的血漿交換及び低容量血漿交換(LVPE)によって、種々の用量のアルブミンを受容し、驚くべきことに、軽度AD及び中等度ADを患う患者における認知のアルツハイマー病評価スケール(ADAS-Cogスケール)(Rosen WG、Mohs RC、Davis KL. A new rating scale for Alzheimer's disease. Am J Psychiatry. 1984年;141:1356~64頁)及びアルツハイマー病共同研究-日常生活動作(ADCS-ADL一覧表)(Galasko D、Bennett D、Sano M、Ernesto C、Thomas R、Grundman Mら An Inventory to Assess Activities of Daily Living for Clinical Trials in Alzheimer's Disease. Alzheimer Dis Assoc Disord. 1997年;11:33~9頁)を用いて測定した場合の認知スコアにおけるベースラインからの変化が改善されることが見出された。驚くべきことに、前記改善は、中等度ADを患う患者において高められる。LVPEの治療レジメンは、伝統的な治療的血漿交換よりも少ない容量、短い持続期間及び単回の静脈穿刺で済み、患者の不快感を減少して、治療の有害作用を低減させる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
理解を助長するために、本発明者は、例として提示される添付の図面を参照して、また例示的であるが、非限定的な実施例を参照して、以下でより詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による臨床試験介入の模式図である(TPE:治療的血漿交換、LVPE:低容量血漿交換、F:Flebogamma5%DIF[免疫グロブリン静注]、A:アルブミン5%~20%[アルブミン]、S:偽治療、B:ベースライン時来診、IV:中間来診、FV:最終来診)。
【
図2】臨床試験に含まれる4群の患者における、時間中のベースラインからのADAS-Cog変化を示すグラフである。
【
図3】臨床試験に含まれる4群の患者における、時間中のベースラインからのADCS-ADL変化を示すグラフである。
【
図4】対照群と比較した、全ての治療患者における、時間中のベースラインからのADAS-Cog変化を示すグラフである。
【
図5】対照群と比較した、全ての治療患者における、時間中のベースラインからのADCS-ADL変化を示すグラフである。
【
図6】対照群と比較した、軽度AD(MMSE22~26)を患う治療患者における、時間中のベースラインからのADAS-Cog変化を示すグラフである。
【
図7】対照群と比較した、軽度AD(MMSE22~26)を患う治療患者における、時間中のベースラインからのADCS-ADL変化を示すグラフである。
【
図8】対照群と比較した、中等度AD(MMSE18~21)を患う治療患者における、時間中のベースラインからのADAS-Cog変化を示すグラフである。
【
図9】対照群と比較した、中等度AD(MMSE18~21)を患う治療患者における、時間中のベースラインからのADCS-ADL変化を示すグラフである。
【
図10】対照群と比較した、3つの治療群の中等度AD(MMSE18~21)を患う患者における、時間中のベースラインからのADCS-ADL変化を示すグラフである。
【
図11】全ての治療患者を用いた場合の(A)、軽度AD(MMSE22~26)を患う患者における(B)、及び中等度AD(MMSE18~21)を患う患者における(C)、2つの治療期間それぞれの終わりでのCSF中のAβ
1~42のレベルを示すグラフである。
【
図12】中等度AD(MMSE18~21)を患う患者における、2つの治療期間それぞれの終わりでのCSF中のT-タウ(A)及びP-タウ(B)のレベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の態様において、本発明は、低容量血漿交換(LVPE)による軽度及び中等度アルツハイマー病(AD)の治療のための5%(w/v)~25%(w/v)の間の濃度のヒトアルブミンの使用について言及する。
【0012】
本明細書中で使用する場合、「低容量血漿交換」という用語は、600mL~900mLの間の血液容量を含む血漿交換治療を指す。
【0013】
本明細書中で使用する場合、「軽度AD」という用語は、ベースライン時来診でのミニメンタルステート検査(MMSE)スコア(Folstein MF、Folstein SE、McHugh PR. Mini-mental state, A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. J Psychiatr Res. 1975年;12:189~98頁)22~26を有する個体を指す。
【0014】
本明細書中で使用する場合、「中等度AD」という用語は、ベースライン時来診でのMMSEスコア18~21を有する個体を指す。
【0015】
一実施形態において、本発明の治療は、免疫グロブリン静注(IGIV)の投与を更に含む。好ましくは、10g~20gの間の免疫グロブリンが、ある回のLVPEにおける置換に使用されるが、アルブミンと同時には投与されない。
【0016】
特定の実施形態によれば、各回のLVPEは、単回の静脈穿刺を使用した自動血漿交換を伴う。当該技術分野で既知の任意の体外血漿交換デバイスは、本発明により使用され得る。例えばデバイスは、患者からの全血を受容するための入口ポートと、血漿を、血液の細胞成分から分離するための手段と、血液細胞成分がデバイスから出る 入口ポートを通して、血液の細胞成分を戻すための手段と、血漿がデバイスから出る出口ポートとを含み得る。好ましくは、血漿を、血液の細胞成分から分離するための手段は、遠心分離手段(即ち、遠心分離機)である。より好ましくは、血漿を、血液の細胞成分から分離するための手段は、濾過手段(即ち、二重濾過血漿交換で使用されるもののようなフィルター)である。
【0017】
特定の実施形態によれば、治療レジメンは、3回以上の回のLVPE、4回以上の回のLVPE、5回以上の回のLVPE、6回以上の回のLVPE、7回以上の回のLVPE、8回以上の回のLVPE、9回以上の回のLVPE、又は10回以上の回のLVPE、11回以上の回のLVPE、又は12回以上の回のLVPEを、患者に投与することを含む。
【0018】
別の特定の実施形態において、LVPEの治療レジメン前に、先の回の従来の治療的血漿交換(TPE)が実行され得る。好ましくは、前記TPEレジメンは、1週につきTPE 1回の頻度で、より好ましくは少なくとも6週の間に実施され得る。「TPE」という用語は、患者の血漿2500~3000mLが、同じ容量の置換液で置換された血漿交換を指す。
【0019】
特定の実施形態によれば、次の回のLVPEはそれぞれ、先の回の10日後~45日後に実施される。好ましくは、次の回のLVPEはそれぞれ、先の回の15日後~35日後に実施され、より好ましくは、先の回の30日後に実施される。
【0020】
特定の実施形態によれば、10g~40gの間のアルブミンが、各回のLVPEにおける置換に、好ましくは20g~40gの間のアルブミンが、各回のLVPEにおける置換に使用され得る。
【実施例1】
【0021】
臨床試験
網羅的研究設計
臨床試験は、スペインの19箇所及び米国の22箇所の41箇所の場所にあるセンターからの軽度ADから中等度ADを患う496名の患者の登録による多施設無作為化盲検プラセボ対照の並行群の治験であった。研究には4つの群の患者が含まれていた:種々の用量のアルブミン及びIVIGを受容する3つのPE治療群、並びに1つの対照(プラセボ)群。対照患者には、血漿交換を模倣するが、アルブミンもIVIGも投与せず、どちらの液でも置換されない非侵襲的な手順により模擬PEを施した(偽)。患者、介護者及び評価者は、受容する治療法に関して盲検であった。患者の匿名化には、シングルコードを使用した。
【0022】
研究は、第18回世界医師会総会のヘルシンキ宣言(the XVIII World Medical Assembly Declaration of Helsinki)(及び続く改訂版)によって採択された倫理規範及び製剤を含む治験に関する医薬品の臨床試験実施基準の欧州連合基準(the European Union standards of Good Clinical Practice)(GCP)に厳密に従う。施設内審査委員会(Institutional Review Board)(IRB)又はその場所の倫理委員会及び両国の保健機関は、プロトコル、インフォームドコンセント用紙、及び患者情報シートを承認している。
【0023】
介入の安全性を入念にモニタリングした。全ての重篤な有害反応及び/又は予期せぬ有害反応並びに研究設計を変更し得るか、又は患者のリスクを伴う任意の更なる情報を報告した。
【0024】
研究集団の選定
臨床試験の参加者は、インフォームドコンセント文書の署名時に55歳~85歳の間の男性又は女性であった。臨床試験の参加者は、the National Institute of Neurological and Communication Disorders and Stroke and the Alzheimer's Disease and Related Disorders Association(NINCDS-ADRDA)基準に従って、ADの診断を受けており、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコア18~26を有し、ここ3カ月で安定な用量のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AchEI)及び/又はメマンチンによる治療を受けていなければはならない。更に、患者は、スクリーニングの12カ月前に得られた脳コンピューター体軸断層撮影法(CAT)又は磁気共鳴画像法(MRI)研究によって明らかな脳血管疾患に罹っていなかった。スクリーニング期間中に必要とされるMRIを使用して、微小出血、梗塞、血腫、脳卒中、又は髄膜腫を含む脳腫瘍等の患者の安全性に影響を及ぼし得るいかなる所見も除外する。排除基準として、行動障害、困難な静脈アクセス、若しくは異常凝固パラメーター等の、血漿交換が禁忌であるか、又は実現不可能である任意の状態、或いは頻発する有害反応歴又は血液成分と関連付けられる血栓塞栓性の合併症、特にアルブミンに対する過敏性若しくはAlbutein(登録商標)若しくはFlebogamma(登録商標)DIFの成分のいずれかに対するアレルギー等の、置換産物を投与することができない任意の状態が挙げられる。患者の安全性に対する影響に起因した他の排除基準として、IgA欠乏、低ヘモグロビン(10g/dL未満)、高血漿クレアチニン(2mg/dLを超える)、管理不良高血圧(収縮期160mmHg以上、拡張期100mmHg以上、最終的な3カ月の間の定期的な治療にもかかわらず)、肝疾患(2.5×ULNを超えるGPT、又は2mg/dLを超えるビリルビン)、心疾患、予測生存1年未満の疾病、薬物又はアルコール依存症、及び妊娠又は授乳中が挙げられる。
【0025】
PE介入
スクリーニング来診後、患者を、[1:1:1:1]スキームに従って3つの治療群又は対照(偽)群の1つに無作為化した。
図1に概要するように、介入レジメンには、1週につき1回のセッションの従来の治療的血漿交換(TPE)による最初の6週段階の集中治療が含まれ、ここで、治療群のいずれかに割り当てられた患者は全て、同じ治療レジメンに従い、続いて、1カ月につき1回のセッションの低容量血漿交換(LVPE)による第2の12カ月段階の維持治療が行われた。これらの2つの治療期間の間に、中間来診があり、患者の状態を評価して、更なる研究関連データを収集した。相当するPEセッションでは、臨床検査全てに関して、十分なEDTA-血液を収集した。臨床検査全てに関して、両方の治療期間の前及び後に、CSF試料を収集した。血漿及びCSFの両方の分取量を、更なる分析用に-70℃で保管した。維持期間の終わりに、患者は、スクリーニング来診及び中間来診と同じ変数を評価する最終来診を行った。
【0026】
治療群の無作為化に応じて、TPE中には、患者の血漿2500~3000mlを、同じ容量のAlbutein(登録商標)5%(GRIFOLS, S.A.社)で置換した一方で、LVPE中には、患者の血漿650mL~880mLのみを、Albutein(登録商標)20%(GRIFOLS, S.A.社)100mL又は200mLで置換した。LVPEの3つの群が存在した:1つの群では、Albutein(登録商標)20% 20グラムのみを、LVPEにおける置換に使用した一方で、他の2つの群では、Albutein(登録商標)20%置換(20グラム又は40グラム)を、Flebogamma(登録商標)DIF 5%(10グラム又は20グラム、GRIFOLS, S.A.社)と交互に行った。
【0027】
TPEは、遠心分離又は濾過ベースのいずれかの技術を用いて、市販の連続フローセルセパレーターを使用して実施した。末梢神経アクセス(例えば、橈骨/肘静脈)又は中枢神経アクセス(例えば、鎖骨下/頸静脈)は、患者の個性に基づいて使用した。静脈アクセス移植及び維持は、各センターで使用される標準的な手順に従って実行され、中心静脈カテーテルの正確な配置は常に、胸部X線によって確認される。除去及び置換される血漿の容量は、患者の特性に依存した(即ち、性別、身長、体重及びヘマトクリット)。除去及び置換される血漿の容量は、およそ35~45mL/kgであり、2500~3000mLの容量に相当した。LVPEは、Auto-C(商標)デバイス(Fenwal社、レイクズーリック、IL、USA)又はAuto-C(商標)のより新しいバージョンであるAurora(商標)デバイス(Fresenius Kabi社、バートホンブルク、ドイツ)に基づくプロトタイプのアフェレーシスデバイスを用いて、末梢神経系統を通じて実行した。除去される血漿容量は、血漿輸血の容量(650~880mL)と同等であり、患者の体重に依存していた。注入されるアルブミンの容量は、上述するような治療群と一致する。除去される血漿の容量と、注入されるアルブミンの容量との間に負のバランスが存在する場合に、生理食塩水を使用した。
【0028】
対照群(偽TPE)に関して、カットカテーテル(cut catheter)の先端を、コロストミー接着剤パッチ(「第2の皮膚」として機能を果たす)に縫い合わせて、鎖骨下又は頸静脈領域に配置した。次に、カテーテル先端を縫い合わせたパッチを、ガーゼの包帯及び接着フィルムで覆った。カットカテーテルは、治療群で使用されるカテーテルと同様の特性を有した。従来のPEデバイスに、血漿を模倣する鉄静注で着色された生理食塩溶液を負荷して、デバイスと、対象との間でいかなる液体相互交換も伴わずに閉回路様式で稼働させた。対照群に関しては、偽LVPEであるAutopheresis-C又はAuroraベースのプロトタイプが、外見上は現実的な稼働状態を提供し、ここでは、その地域の血液バンクからの失効されたヒト血液を、閉回路様式で循環させた。
【0029】
結果判定
コプライマリー有効性変数は、i)ADAS-Cogスケールを用いて測定した場合の認知スコアにおけるベースラインからの変化、及びii)ADCS-ADL一覧表によって測定される機能性スコアにおけるベースラインからの変化であった。両方の事例において、6回の測定を実施した:-3週、-2週又は-1週に1回(ベースライン)、7週~8週(集中治療期間の終わり)に1回、及び6カ月、9カ月、12カ月及び14カ月(維持治療期間の終わり)に1回ずつ。14カ月は、主な有効性分析に関する終了点であった(
図1を参照)。各PEの前と後の間のAβ
1~40及びAβ
1~42の血漿レベルの変化、2つの治療期間それぞれの完了と開始との間のAβ
1~40及びAβ
1~42の脳脊髄液(CSF)レベルの変化、研究全体にわたるT-タウ及びP-タウのCSFレベルの変化、磁気共鳴画像法(MRI)によって示されるような、海馬体積、後帯状回体積、及び目的の他の領域の構造的変化の評価、18F-フルデオキシグルコースを用いた陽電子放射断層撮影によって検出されるような脳の機能的変化の評価としての副次的な有効性変数もまた測定された。
【0030】
認知/行動評価に関する特定の方法論
ADAS-Cogは、ADを患う患者に特徴的な認知機能及び行動機能の基礎的な変更の重篤性を評価するように具体的に設計された機器である。機能的能力は、ADCS-ADL検査を用いて評価され、ADCS-ADL検査は、上記で説明するように、各活動の詳細な説明を提示し、情報提供者に観察される行為又は行動を記載するよう求めている。
【0031】
安全性の考察
PEは、予測される、したがって、防止可能且つ制御可能な有害反応(例えば、低カルシウム血症、低血圧症)を誘導する場合がある安全な技法である。研究される患者の特殊な脆弱性を考慮して、リスクを最低限に抑えるために、バイタルサイン及び臨床検査パラメーターを、通常の臨床設定よりも頻繁にモニタリングした。更に、患者には、PE手順の前及び後に、通常よりも長い時間、センターにとどまるよう求め、介護者は、その盲検性を維持するための実際の手順を除いてそこにいた。稀に、動揺した患者又は不安な患者には、患者の不安を和らげるために、手順中に介護者が同伴した。しかしながら、盲検プロトコルは、患者及び介護者の両方に関して維持された。
【0032】
安全性評価の主な基準は、研究手順に関連され得る少なくとも1つの有害事象(AE)(有害反応)と関連付けられるTPE及びLVPE手順(アルブミン及びIVIGの注入を含む)の割合であった。更に、バイタルサイン(血圧、心拍数、呼吸数及び体温)及び臨床検査パラメーター(血球数、血小板数、プロトロンビン時間[Quick]、活性化部分トロンボプラスチン時間[aPTT]、フィブリノゲン、総タンパク質、及びカルシウム)を、各PEセッション前、中及び後に記録した。AEは、世界保健機関(WHO)(MeDRA現行版)の有害事象分類に従ってコード化し、 同義語(最下層語)及び罹患臓器/系、強度、因果関係及び重症度で記載した。
【0033】
結果
ADAS-Cogスコア及びADCS-ADL一覧表のベースラインからの変化を、反復測定混合モデル(MMRM)アプローチを使用して経時的に分析した。有効性は、総ADAS-Cogスコアの変化、及びベースラインから14カ月の経過観察までのADCS-ADL一覧表スコアの変化によって決定した。
図2に示すように、3つの用量群(IGIVを用いない場合の低アルブミン、IGIVを用いた場合の低アルブミン、及びIGIVを用いた場合の高アルブミン)におけるADAS-Cogの変化は、治療の14カ月後に対照群よりも低かった(それぞれ、-1.6、-2.4、及び-2.4)。同じ挙動が、ADCS-ADLに関して観察される(
図3を参照)、(それぞれ、-2.8、-4.7、及び-3.1)。治療群全ての間で、統計学的差異は観察されなかった。
図4及び
図5は、治療群をグループ化して、対照群と比較したグラフを示す。それぞれ、ADAS-Cog及びADCS-ADLの2.1及び3.5のベースラインからの変化が観察された。
【0034】
上記の結果に加えて、
図6及び
図7に示すように、軽度AD(MMSE22~26)を患う治療患者を、対照群と比較した。それぞれ、ADAS-Cog及びADCS-ADLの1.1及び0.7のベースラインからの変化が観察された。しかしながら、
図8及び
図9に示すように、中等度AD(MMSE18~21)を患う治療患者におけるADAS-Cog及びADCS-ADLのベースラインからの変化は、それぞれ、3.9及び8.6を有した。このことは、より良好な結果が、ADのより進行した病期において得ることができることが示唆されるため、非常に驚くべき結果である。
【0035】
修正は、各治療期間後のPE治療群においてより低い血漿Aβ1~42レベルに関して(P<0.05)、またCSF Aβ1~42レベル(ベースラインと比較して最終PE後にマージナルP=0.072)に関して観察された。
【0036】
更に、神経画像処理研究により、PE治療患者が、対照よりも、前頭野、側頭野及び頭頂野において低灌流をあまり有さず、またPE治療期間中にブロードマン野BA38-Rにおいて灌流の安定化(P<0.05)を有することが確認された。BA38は、言語において重要な役割を果たすと想定されている。
【0037】
他方で、
図11に示すように、2つの治療期間それぞれの終わりでのCSF中のAβ
1~42レベルの変化が実証された。
【0038】
図11Aにより、CSF中のAβ
1~42レベルが、未治療患者(プラセボ群)と比較した場合に、従来の治療的血漿交換(TPE)で治療した全て及び低容量血漿交換(LVPE)患者において減少することが示される(N=299)。
図11Bにより、CSF中のAβ
1~42レベルが、未治療患者と比較した場合に、TPEで治療した軽度AD(MMSE22~26)を患う患者において減少することが示される(N=145)。しかしながら、
図11Bにより、CSF中のAβ
1~42レベルが、未治療患者と比較した場合に、LVPEで治療した軽度AD(MMSE22~26)を患う患者において維持されることが示される(N=145)。最終的に、
図11Cにより、CSF中のAβ
1~42レベルが、未治療患者と比較した場合に、TPE及びLVPEで治療した中等度AD(MMSE18~21)を患う患者において減少することが示される(N=154)。
【0039】
更に、
図12に示すように、2つの治療期間それぞれの終わりでのCSF中のT-タウ及びP-タウレベルの変化が実証された。
【0040】
図12により、CSF中のT-タウ(
図12A)及びP-タウ(
図12B)レベルが、非治療患者(プラセボ群)と比較した場合に、TPE及びLVPEで治療した中等度AD(MMSE18~21)を患う患者において減少することが示される(N=154)。
【国際調査報告】