(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-12
(54)【発明の名称】チグリタザール及びその関連化合物の応用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/403 20060101AFI20220104BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220104BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220104BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220104BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220104BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220104BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A61K31/403 ZNA
A61P25/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61P13/12
A61P11/00
A61P1/16
A61P7/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021516461
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(85)【翻訳文提出日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2019106893
(87)【国際公開番号】W WO2020063463
(87)【国際公開日】2020-04-02
(31)【優先権主張番号】201811114946.5
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519108051
【氏名又は名称】シンセン チップスクリーン バイオサイエンセズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルー、シエンピン
(72)【発明者】
【氏名】ニン、チーチアン
(72)【発明者】
【氏名】パン、デースー
(72)【発明者】
【氏名】コン、イーティー
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA51
4C086ZA59
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZB11
4C086ZB21
4C086ZC80
(57)【要約】
【課題】 本発明は、チグリタザール及びその関連化合物の応用を提供している。
【解決手段】 本発明は、インビトロモデル及び動物モデルにより、チグリタザール及びその関連化合物がインビトロで線維芽細胞活性化及びマトリックス産生、単球活性化及び走化性を阻害し、肝線維症の動物モデルでは、炎症活動と組織線維症領域を減少させることを説明し、既知の類似化合物と比較して、チグリタザールのナトリウム塩はより有意で異なる活性特徴を示し、線維性疾患を治療するためのより良い応用の潜在能力を持つ。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チグリタザール又はその立体異性体、幾何異性体、互変異性体、溶媒和物、代謝生成物、結晶形、非晶質、薬学的に許容される塩の、線維性疾患を治療するための薬物の調製における応用。
【請求項2】
チグリタザール又はその立体異性体、幾何異性体、互変異性体、溶媒和物、代謝生成物、結晶形、非晶質、薬学的に許容される塩の、線維芽細胞阻害剤の調製における応用。
【請求項3】
チグリタザール又はその立体異性体、幾何異性体、互変異性体、溶媒和物、代謝生成物、結晶形、非晶質、薬学的に許容される塩の、TGFβによって活性化された線維芽細胞の細胞外マトリックス阻害剤の調製における応用。
【請求項4】
チグリタザール又はその立体異性体、幾何異性体、互変異性体、溶媒和物、代謝生成物、結晶形、非晶質、薬学的に許容される塩の、炎症因子阻害剤の治療における応用。
【請求項5】
チグリタザール又はその立体異性体、幾何異性体、互変異性体、溶媒和物、代謝生成物、結晶形、非晶質、薬学的に許容される塩の、単球走化性阻害剤の調製における応用。
【請求項6】
前記チグリタザールの薬学的に許容される塩は、チグリタザールのナトリウム塩又はチグリタザールのカリウム塩である、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の応用。
【請求項7】
前記線維性疾患は、慢性炎症による組織細胞損傷によって引き起こされる線維性疾患である、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の応用。
【請求項8】
前記慢性炎症による組織細胞損傷によって引き起こされる線維性疾患は、全身性硬化症、慢性腎炎、腎線維症、骨髄線維症、特発性肺線維症および非アルコール性脂肪肝を含む、ことを特徴とする請求項7に記載の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照)
本願は、2018年9月25日に中国特許庁へ提出された、出願番号201811114946.5、発明の名称が「チグリタザール及びその関連化合物の応用」である中国特許出願に基づき優先権を主張し、その全内容は、援用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、医薬品技術の分野に関し、具体的には、チグリタザール及びその関連化合物の応用に関する。
【背景技術】
【0003】
チグリタザールは、チグリタザールのナトリウム塩の活性生成物であり、チグリタザールのナトリウム塩は、中国で独立した知的財産権を持つ、2型糖尿病を治療するために提案された革新的な化合物であり、インスリン感受性を増加させ、血糖値を低下させ、その他のメタボリックシンドロームを改善するという薬理学的効果は、in vitro及びin vivoの様々な試験モデルで確認されており、両方の構造式は、以下の通りである。
【化1】
【0004】
現在報告されているチグリタザールの適応症は、2型糖尿病であるが、線維性疾患に関連する報告はない。
線維化(fibrosis)は、生体内のさまざまな組織や臓器で発生する可能性のある病態生理学的プロセスであり、その病理学的特徴は、臓器や組織内の線維性結合組織の増加及び実質細胞の減少である。線維化の継続的な進行は、臓器構造の破壊、機能低下、さらには臓器の機能不全につながる可能性があり、致命的な病理学的タイプに属する。生体の器官は、実質部分と間質部分で構成され、実質部分とは、器官の主要な構造と機能細胞を指し、間質部分は間質細胞と細胞外マトリックスで構成され、主に組織及び臓器の形態学的構造及び正常な機能を維持する。
【0005】
外因性又は内因性の要因によって引き起こされる組織細胞の損傷は、局所的な炎症及び修復プロセスを誘発してしまう。軽微な損傷の場合、修復プロセスには、制限されている機能的な細胞増殖及び間質部分の補充が含まれ、損傷が大きい場合、または損傷因子が持続して存在する場合、修復プロセスは続行され、間質細胞の活性化によって生成される細胞外マトリックスは、実質的な機能細胞の位置に侵入するため、組織構造を変化させ、正常な生理学的機能を低下させる。従って、本質的に、線維化は、組織および器官の相対的な完全性を保護するための組織損傷後の正常な修復反応である。一方、過度の線維化では、組織や臓器の正常な形状を変化させ、それらの機能を損なってしまう。
【0006】
人体のほとんどすべての主要な臓器は、肺(例えば、特発性間質性肺炎など)、心臓(肥大性心筋症など)、肝臓(非アルコール性脂肪肝、肝硬変など)、腎臓(慢性腎炎など)、骨髄(骨髄線維症など)、皮膚(全身性硬化症など)などの組織や臓器を含んで線維性病変が発生する可能性がある。
【0007】
線維性病変は、少なくとも組織実質細胞損傷、炎症反応、間質細胞活性化およびマトリックス形成を含む、多因子および多リンクの病理学的プロセスである。実質細胞損傷の外因性因子は、薬物損傷などの一般的なものであり、内因性因子には、自己免疫損傷および代謝毒性(脂肪毒性など)が含まれ;生体の通常の炎症反応は、通常、制御可能であり、免疫活性化因子(外因性感染、組織細胞損傷)が排除されると、負のフィードバック因子が炎症過程を終わらせるが、刺激因子(慢性感染、自己免疫抗原など)の持続又は免疫機能の欠陥では、慢性炎症を形成し;損傷した細胞及び免疫細胞はさまざまな因子(トランスフォーミング増殖因子TGFβ又は血小板由来増殖因子PDGFα/βなど)を生成して間質細胞の活性化及び増殖を刺激し、コラーゲンなどの細胞外マトリックスを生成し、上記の刺激が継続して存在すると、マトリックスの蓄積及び組織の炎症を引き起こす。従って、線維性疾患の介入過程には、複数のリンクの関与を必要する。現在の臨床治療では、線維化は依然として不可逆的な疾患進行プロセスであり、通常の治療には、コルチコステロイドやその他の抗炎症薬、化学療法薬、抗血小板由来成長因子受容体薬が含まれ、通常は患者の症状を部分的にのみ改善させ、治療の主な目標は、依然としても病気の進行を遅らせ、正常な生理機能を維持することであり、進行期の患者は救助方法として臓器移植しか受けられないため、臨床治療に対する臨床的需要は非常に大きくなる。
【発明の概要】
【0008】
以上の状況に鑑み、本発明は、チグリタザール及びその関連化合物の線維性疾患の分野における一連の応用を提供することを目的とする。
【0009】
本発明に記載のチグリタザール及びその関連化合物は、チグリタザール又は其立体異性体、幾何異性体、互変異性体、溶媒和物、代謝生成物、結晶形、非晶質、薬学的に許容される塩である。
【0010】
前記薬学的に許容される塩は、チグリタザールのナトリウム塩又はチグリタザールのカリウム塩であり、両方の構造式は、以下の通りである。
【化2】
【0011】
線維芽細胞の活性化及び増殖は、線維性疾患の過程における重要な病理学的過程である。線維芽細胞増殖の阻害は、線維性疾患を治療する応用の潜在能力を持つ。本発明は、初代ヒト肝星細胞及び初代ヒト皮膚線維芽細胞を試験対象とし、両方へのチグリタザールのナトリウム塩及び参照化合物のインビトロ阻害効果を検出する。結果は、参照化合物であるピオグリタゾンよりも、チグリタザールのナトリウム塩は、ヒトの皮膚及び肝臓に由来する線維芽細胞のin vitro増殖に対していずれも阻害活性を示すが、ピオグリタゾンは明らかな阻害活性を示さず、チグリタザールのナトリウム塩は、線維芽細胞のin vitro増殖を特異的に阻害し、他の既知のPPARアゴニスト、例えば、ピオグリタゾンと比較して活性特徴で明らかに異なる。それに基づいて、本発明は、線維芽細胞阻害剤の調製におけるチグリタザール及びその関連化合物の応用を提供する。
【0012】
トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)は、線維芽細胞を活性化し、細胞外マトリックス関連遺伝子の発現を誘導することができ、線維性疾患の病理学的プロセスにおいて重要な役割を果たす。TGF-β1は、α-平滑筋アクチン(α-SMA)及び結合組織成長因子(CTGF)などを含むTGF-β受容体との相互作用により線維芽細胞の活性化を刺激し、マトリックスの発現を誘導する。本発明では、TGF-β1及びチグリタザールのナトリウム塩又は参照化合物を含む培地で初代ヒト肝星細胞を培養し、次いで、α-平滑筋アクチン(α-SMA)及び結合組織成長因子(CTGF)の遺伝子発現を検出する。結果は、トランスフォーミング増殖因子TGFβの刺激下で、線維芽細胞におけるマトリックス関連遺伝子の発現が有意に向上し、チグリタザールのナトリウム塩がこのプロセスを有意に阻害することを示す。平滑筋アクチンαの発現は、PPARα/δデュアルアゴニストGFT505は一定の阻害効果があるが、チグリタザールのナトリウム塩ほど良くはなく、PPARγ/αデュアルアゴニストのピオグリタゾンは効果がなく;結合組織成長因子の発現は、チグリタザールのナトリウム塩のみが有意で用量依存的な阻害効果を示す。チグリタザールのナトリウム塩は、他のPPARアゴニスト、例えば、ピオグリタゾン及びGFT505よりも線維芽細胞の増殖及び線維化関連遺伝子発現に対してより優れた予期しない抑制効果があることを示す。それに基づいて、本発明は、TGFβ活性化線維芽細胞の細胞外マトリックス阻害剤の調製におけるチグリタザール及びその関連化合物の応用を提供する。
【0013】
細胞損傷後に誘発される局所炎症作用には単球が関与し、損傷によって放出されるケモカインは、単球を損傷部位に到達させてマクロファージに活性化し、次いで、各種の炎症因子(例えば、腫瘍壊死因子TNFα及び単球走化性タンパク質MCP-1など)を発生し、その後の炎症反応を開始し、継続的な炎症反応により線維芽細胞の活性化及び細胞外マトリックスの発生を誘発し、これは、線維性疾患の重要な病理学的プロセスである。このプロセスを阻害するのは、線維性疾患の治療的用途がある。本発明は、ヒト急性単球性白血病単球細胞株(THP-1)を試験対象とし、一定の濃度のホルボールエステル(Phorbol-12-myristate-13-acetate、PMA)によって活性化され、マクロファージに分化される。その細胞モデルにより、活性化THP-1関連炎症性因子の発現に対するチグリタザールのナトリウム塩及び他の化合物の影響を検出する。結果は、チグリタザールのナトリウム塩及び対照化合物GFT505は、いずれもホルボールエステルの刺激による単球の活性化及び関連遺伝子発現を有意に阻害できるが、対照化合物GFT505の効果は、チグリタザールのナトリウム塩よりも低くなることを示す。これに基づいて、本発明は、炎症因子阻害剤の調製におけるチグリタザール及びその関連化合物の応用を提供する。
【0014】
血液循環中の単球は、ケモカインの誘導下で走化性を起こし、損傷部位に到達してその後の炎症反応を開始して関与し、これは、組織線維症の重要な病理学的プロセスの1つである。本発明は、Transwell技術によりこのプロセスをシミュレートし、ケモカインによって誘導される単球株THP-1の走化性に対するチグリタザールのナトリウム塩又は対照化合物の影響を測定する。結果は、チグリタザールのナトリウム塩は、対照化合物よりも、単球ケモカインによって誘導される単球THP-1遊走活性(transwell)を有意に阻害し、ピオグリタゾンは、部分的な阻害活性を示し、他の2つの対照化合物は有意な阻害活性を示さないことが分かる。異なるPPARアゴニストは、異なる活性特徴を示し、チグリタザールのナトリウム塩は、より強い阻害活性を持つ。これに基づいて、本発明は、単球走化性阻害剤の調製におけるチグリタザール及びその関連化合物の応用を提供する。
【0015】
内因性又は外因性の損傷因子(例えば、化学的毒物)は、組織細胞死を引き起こし、炎症および組織修復を誘発する。これは、線維性疾患の典型的な病状である。四塩化炭素(CCl4)は、通常、肝線維症をシミュレートするための化学的損傷因子として使用され、広く使用されているげっ歯類肝線維症の研究モデルでもある。本発明は、該モデルを使用してチグリタザールのナトリウム塩の異なる用量での肝線維症プロセスへの阻害効果を測定する。結果は、マウスモデルにおいて、四塩化炭素(CCl4)は、肝実質細胞死、炎症性浸潤、組織線維症を誘発する可能性があり、臨床病理学的現象と同じであることを示す。チグリタザールのナトリウム塩は、高用量、中用量、低用量でいずれも肝臓組織の炎症活動性と線維化度を部分的に阻害することができ、線維性疾患の治療のための薬理学的活性を有する。それに基づいて、並びに前述の実験的効果に基づいて、本発明は、線維性疾患の治療のための薬物の調製におけるチグリタザール及びその関連化合物の応用を提供する。
【0016】
本発明の一連の実験結果に基づいて、チグリタザール及びその関連化合物が治療線維性疾患、特に慢性炎症および組織細胞損傷によって引き起こされる疾患の治療において明らかな効果を有すると結論付けることができる。それらの中で、慢性炎症による組織細胞損傷によって引き起こされる線維性疾患には、全身性硬化症、慢性腎炎、腎線維症、骨髄線維症、特発性肺線維症および非アルコール性脂肪肝が含まれるが、これらに限定されない。
【0017】
以上の技術案から、本発明はインビトロモデル及び動物モデルによりチグリタザール及びその関連化合物がインビトロで線維芽細胞活性化及びマトリックス産生、単球活性化及び走化性を阻害し、肝線維症の動物モデルでは、炎症活動と組織線維症領域を減少させることを述べ、既知の類似化合物と比較して、チグリタザールのナトリウム塩はさらに有意で異なる活性特徴を示し、線維性疾患を治療するためのより良い応用の潜在能力を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、ヒト肝星状細胞に対するチグリタザールのナトリウム塩のインビトロ増殖阻害曲線(EdU法)を示す。
【
図2】
図2は、ヒト肝星状細胞に対するチグリタザールのナトリウム塩のインビトロ増殖阻害曲線(MTT法)を示す。
【
図3】
図3は、ヒト皮膚線維芽細胞に対するチグリタザールのナトリウム塩のインビトロ増殖阻害曲線(MTT法)を示す。
【
図4】
図4は、TGFβによって刺激された線維芽細胞における目的遺伝子の発現に対する異なる濃度のチグリタザールのナトリウム塩、対照化合物GFT505及びピオグリタゾンの影響を示す。
【
図5】
図5は、ホルボールエステルによって刺激された単球における目的遺伝子の発現に対するチグリタザールのナトリウム塩及び対照化合物GFT505の影響を示し、ここで、各群の柱状は、左から右へ順次に溶媒対照(ジメチルスルホキシド)、チグリタザールのナトリウム塩(3μmol/L)及びGFT505(3μmol/L)である。
【
図6】
図6は、THP-1細胞の走化及び遊走に対するチグリタザールのナトリウム塩及び対照化合物の影響(クリスタルバイオレット染色の結果)を示し、ここで、Aは、溶媒対照(ジメチルスルホキシド)であり、Bは、溶媒対照+MCP-1(10ng/ml )であり、Cはチグリタザールのナトリウム塩(3μmol/L)+MCP-1(10ng/ml)であり、DはGFT505 (3μmol/L)+MCP-1(10ng/ml)であり、Eはピオグリタゾン(3μmol/L)+MCP-1(10ng/ml)であり、Fはロシグリタゾン(3μmol/L)+MCP-1(10ng/ml)である。
【
図7】
図7は、肝臓組織の病理切片のHE染色の顕微鏡画像を示す。
【
図8】
図8は、肝臓組織の病理切片のHE染色結果の炎症スコア結果を示す。
【
図9】
図9は、肝臓組織の病理切片のピクロシリウスレッド染色の顕微鏡画像を示す。
【
図10】
図10は、肝臓組織の病理切片のピクロシリウスレッド染色の線維化スコア結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、チグリタザール及びその関連化合物の応用を開示しており、当業者は、本明細書から学び、プロセスパラメータを適切に改良して達成することができる。特に、すべての類似する置換及び改良は、当業者にとっては自明であり、それらはすべて本発明に含まれると見なされることに留意すべきである。本発明に記載の応用は、好ましい実施形態により説明されているが、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の適用に改良または適切な変更および組み合わせを行って、本発明の技術を実現および適用できることは明らかである。
以下、本発明で提供されるチグリタザール及びその関連化合物の応用をさらに説明する。
【実施例1】
【0020】
チグリタザールのナトリウム塩によるヒトPPAR受容体の活性化
PPARレポーター遺伝子モデルは、発現プラスミド、RXR発現プラスミド、ルシフェラーゼ付きレポーター遺伝子プラスミド、及び外部標準としてGFP発現プラスミドの3つのサブタイプの発現プラスミドが含まれている。ヒト肝細胞株L-02を15000cell/ウェル、ウェルプレートのコーティング率が約50%であり、96ウェルプレートに播種した。37℃で24時間培養した。ロシュ(Roche)社製のFuGENE 6を使用して各ウェルの細胞に対応する発現プラスミドをトランスフェクションされた(pHD蛍光レポーター遺伝子プラスミド+PPARα発現プラスミド+GFP発現プラスミドは、PPARα活性の測定に使用され;pACOX蛍光レポーター遺伝子プラスミド+PPARγ発現プラスミド+RXR発現プラスミド+GFP発現プラスミドは、PPARγ活性の測定に使用され;pGL3-PPRE蛍光レポーター遺伝子プラスミド+PPARδ発現プラスミド+RXR発現プラスミド+GFP発現プラスミドは、PPARδ活性の測定に使用される)。
【0021】
トランスフェクション48時間後、異なる濃度の被験薬物を培養細胞にそれぞれ加え、別にDMSO溶媒対照を設定し、各処理群あたりtriplicateした。
投与24時間後、細胞培養液を捨て、96ウェルプレートを逆さまにして吸水紙に置き、細胞培養液を完全に除去し、各ウェルに細胞溶解液(Promega、E153A)80μLを加え、室温で5分間静置した後、よくピペッティングし、各ウェルから細胞溶解液60μLを抜き取り、測定用ホワイトボード(Corning、3693)に移した。
【0022】
蛍光検出器を使用し、まず、各ウェル中の緑色蛍光タンパク質(GFP)の蛍光強度(波長485~527nm)を内部標準標準として検出し、その後、各ウェルにルシフェラーゼ基質(Promega、E151A)30μLを加え、均一に軽く振とうした後に波長が562nmの光吸収値を測定し、被験薬物で測定された蛍光検出シグナルは、内部標準であるGFPシグナルで補正された後、溶媒対照で補正されたシグナルと比較して、相対的なレポーター遺伝子活性化強度を取得し、異なる濃度の活性により被験薬物の50%活性化濃度(AC50)を算出した(表1)。
【0023】
【表1】
結果は、チグリタザールのナトリウム塩はPPARの3つのサブタイプのいずれにも活性化能を持つことを示した。
【実施例2】
【0024】
線維芽細胞の増殖に対するチグリタザールのナトリウム塩の阻害
初代ヒト肝星細胞(human hepatic stellate cell、 HSC)はSciencell社から購入し、細胞を完全増殖培地(Stellate Cell Medium)の96ウェルプレートに24時間播種し、その後、血清及び成長因子を含まない培地で一晩飢餓状態にした。培地を血小板由来増殖因子(PDGF-BB)及び異なる濃度の被験化合物(チグリタザールのナトリウム塩又は参照化合物PPARγ/αデュアルアゴニストであるピオグリタゾン、Selleck社から購入)を含んでいる新鮮な培地に交換し、24時間培養した。化合物処理の最後の17時間で細胞にEdU(5-エチニル-2’-デオキシウリジン)を加えた。最後、培地を除去し、細胞をホルムアルデヒドで固定し、製造元(碧云天)の説明書に従って、蛍光クリックイットアッセイにより細胞のDNA中のEdUを定量化した。結果は、総細胞数に占めるEdU陽性細胞の百分率として示し、3つの生物学的複製の平均値を取った。化合物の細胞増殖への阻害は、対照群のEdU添加による測定値を比較することにより決定された(
図1)。
初代ヒト肝星細胞又は初代ヒト皮膚線維芽細胞(human dermal fibroblast、 HDF、いずれもSciencell社から購入)を完全増殖培地(Stellate Cell Medium又はFibroblast Cell Medium)の96ウェルプレートに24時間播種し、その後、血清及び成長因子を含む培地で一晩飢餓状態にした。培地を血小板由来増殖因子(PDGF-BB)及び異なる濃度の被験化合物を含む新鮮な培地に交換し、72時間培養し続け、通常のMTTアッセイキット(Promega社)を使用して検出した。結果は、MTT基質の相対吸光度(OD490)として示し、3つの生物学的複製の平均値を取った。化合物の細胞増殖への阻害は、対照群の吸光度測定値を比較することにより決定された(
図2、3)。
【0025】
図1~3から、参照化合物であるピオグリタゾンよりも、チグリタザールのナトリウム塩は、in vitroでヒト皮膚及び肝臓に由来する線維芽細胞の増殖のいずれにも阻害活性を示すが、ピオグリタゾンは明らかな阻害活性を示さない。チグリタザールのナトリウム塩は、in vitroで線維芽細胞の増殖を特異的に阻害し、他の既知のPPARアゴニスト、例えば、ピオグリタゾンと活性の特徴で大きく異なった。
【実施例3】
【0026】
トランスフォーミング増殖因子TGFβによって活性化された線維芽細胞遺伝子発現に対するチグリタザールのナトリウム塩及び対照化合物の影響
ヒト原代肝星状細胞を完全増殖培地(Stellate Cell Medium)の6ウェルプレートに24時間播種し、培地をTGF-β1及び被験化合物(チグリタザールのナトリウム塩)又は参照化合物PPARγ/αデュアルアゴニストピオグリタゾン、PPARα/δデュアルアゴニストGFT505(いずれもSelleck社から購入)を含む新鮮な培地(血清及び成長因子を含まない)に交換し、24時間培養した。サンプルの全RNAを抽出し、逆転写後に通常のPCR増幅キット(FastStart Universal SYBR@ Green Master(ROX)、 Roche)を使用して検出し、PCRプライマーの設計は、NCBI中の目的遺伝子の標準的なmRNA配列を参照して設計し(表2)、PCR反応及び検出は、ABI StepOnePlus Real-Time PCR Systemで実行された。
【0027】
【0028】
「Delta-Delta CT method」(Livakら、Methods 2001)により転写産物の相対量を計算し、正規化のためのハウスキーピング遺伝子としてACTBを使用し、未処理のヒト肝星状細胞の平均データを参照コントロールとし、遺伝子発現の相対的な変化倍率を算出した(
図4)。
【0029】
図4の結果は、トランスフォーミング増殖因子TGFβの刺激下で、線維芽細胞におけるマトリックス関連遺伝子の発現が有意に増加し、チグリタザールのナトリウム塩がこのプロセスを有意に阻害することを示した。平滑筋アクチンαの発現については、PPARα/δデュアルアゴニストであるGFT505は一定の阻害効果があり、PPARγ/αデュアルアゴニストであるピオグリタゾンは効果がない。結合組織成長因子の発現については、チグリタザールのナトリウム塩のみが有意で用量依存的な阻害効果を示した。チグリタザールのナトリウム塩は、他のPPARアゴニスト、例えば、ピオグリタゾン及びGFT505よりも、線維芽細胞の増殖および線維症関連遺伝子発現に対して、より優れた予期しない阻害効果があることを示した。
【実施例4】
【0030】
ホルボールエステル(PMA)によって活性化された単球株THP-1における関連炎症性因子発現に対するチグリタザールのナトリウム塩及び対照化合物の影響
ヒト急性単球性白血病単球細胞株(THP-1)は、一定の濃度のホルボールエステル(Phorbol-12-myristate-13-acetate、PMA)によって活性化され、マクロファージに分化された。その細胞モデルにより、活性化THP-1関連炎症性因子発現に対するチグリタザールのナトリウム塩及び他の化合物の影響を検出した。
【0031】
THP-1を完全増殖培地を含む6ウェルプレートに24時間播種し、さらに、培地をPMA及び被験化合物(チグリタザールのナトリウム塩)又は参照化合物GFT505(PPARα/δデュアルアゴニスト)を含む新鮮な培地に交換し、6時間培養した。サンプルの全RNAを抽出し、逆転写反応(Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit、Roche)によりcDNAテンプレートを合成した。通常のPCRキット(FastStart Universal SYBR@ Green Master(ROX)、 Roche)を使用し、ABI StepOnePlus Real-Time PCR Systemで半定量的に遺伝子の発現を検出し、目的遺伝子プライマーを表2に示した。
【0032】
目的遺伝子の相対的な発現変化は、内部標準遺伝子であるβ-アクチン(ACTB)を正規化の標準として使用し、未処理の細胞サンプルと比較し、相対的な発現変化倍数を計算した(
図5)。
【0033】
図5の結果は、チグリタザールのナトリウム塩及び対照化合物GFT505は、いずれもホルボールエステルによって刺激された単球の活性化及び関連遺伝子の発現を有意に阻害できるが、対照化合物GFT505はチグリタザールのナトリウム塩ほど良くないことを示した。
【実施例5】
【0034】
ケモカインによって誘発された単球株THP-1の走化作用に対するチグリタザールのナトリウム塩及び対照化合物の影響
インビトロモデルでは、単球株THP-1は、一定の濃度のケモカイン(例えば、単球走化性タンパク質1、MCP-1)の誘導下で、細胞遊走を起こすため、生体内のプロセスを模擬した。Transwellの技術では、製造元Corning社の説明書に従って、Transwellはポリカーボネートメンブレンフィルターであって、透過性ステントであると見なすことができる。ポリカーボネートメンブレンは培養チャンバーを上部チャンバーと下部チャンバーに分割し、下層の培養液の成分が上層の細胞の成長、分化、移動に影響を与える可能性がある。最終的に、下部チャンバーの細胞量を染色してカウントすることにより細胞の遊走能力を反映した。
【0035】
THP-1細胞株を対数増殖期まで培養し、細胞を再懸濁し、濃度を調整し、24ウェルプレートにプレーティングした。被験化合物(チグリタザールのナトリウム塩)又は対照化合物GFT505、ピオグリタゾン、PPARγ単一アゴニストロシグリタゾン(いずれもSelleck社から購入)を含む培地で24時間前処理した。製造元の説明書に従ってTranswellを使用し、下部チャンバー(即ち、24ウェルプレートの底部)にケモカインMCP-1を含む培地を加え、上部チャンバーに細胞懸濁液を加えて4h培養した後、ポリカーボネートメンブレンの「天井」面にある細胞を固定してクリスタルバイオレット溶液で染色し(
図6)、下部チャンバーの細胞数をカウントした(表3)。
【0036】
【0037】
表3と
図6を組み合わせると、チグリタザールのナトリウム塩は、対照化合物よりも、単球のケモカインによって誘発された単球THP-1遊走活性(transwell)を有意に阻害し、ピオグリタゾンは部分的な阻害活性を持つが、チグリタザールのナトリウム塩より遥かに弱く、別の2つの対照化合物は明らかな阻害活性がないことを示した。異なるPPARアゴニストは、異なる活性の特徴を示し、チグリタザールのナトリウム塩はより強い阻害活性を持つことを示した。
【実施例6】
【0038】
チグリタザールのナトリウム塩の四塩化炭素によって誘発されたマウスモデル中の肝線維症への阻害
BALB/cマウスに25%CCl4(4ml/kg体重)を週2回腹腔内注射し、3週間で肝障害と慢性肝線維症を引き起こす可能性があり、モデル動物にいずれも6週間連続投与し、非モデル対照群に溶媒対照としてオリーブ油を同時に投与した。モデル動物は、3週間からランダムに群分けされ、対照薬物群に4週目から溶媒(0.2%メチルセルロースナトリウム)を胃内投与し、チグリタザールのナトリウム塩の高、中、低用量群にそれぞれ40、20、10mg/kg体重のチグリタザールのナトリウム塩の原薬(表4)を胃内投与し、7週目に試験を終了し、実験動物を犠牲にした後、血漿および肝臓組織サンプルを収集し、血漿トランスアミナーゼの含有量、肝臓組織重量、及び肝臓重量/体重比を測定した。肝臓組織の固定後、病理切片を行い、それぞれヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)及びピクロシリウスレッド染色を行い、前者では、細胞の損傷及び炎症を評価し、後者では、組織線維症を評価した。
【0039】
【0040】
肝臓組織炎症スコアは、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)の病理切片を使用して顕微鏡観察及びスコアを行い(
図7)、病理学者で単盲検試験及びスコアを行い、スコアは、門脈域の炎症、小葉内の炎症、砕屑性壊死、および架橋壊死の4つの独立した指標を含む、炎症活動性Metavirスコアリングシステムを使用して取得された(
図8)。
【0041】
肝臓組織スライスは、ピクロシリウスレッドで染色された後に形態学的観察され(
図9)、測定は半自動デジタル画像分析システム及び測定ソフトウェア(OsteoMetrics、 Inc.)を使用して実行され、病理学者は、単盲検下でスライスを測量し、手動でスライス全体の総面積を描き、次いで、スライス全体の線維化面積を直線で測定し、ソフトウェアで自動的に測量された総面積を計算し、線維化面積%=線維化の総面積÷肝臓組織の総断面積*100であった(
図10)。
【0042】
図7-10の結果から、マウスモデルでは、四塩化炭素(CCl
4)が肝実質細胞死、炎症性浸潤、組織線維症を誘発する可能性があることが分かった。チグリタザールのナトリウム塩は、高、中、低用量のいずれでも肝臓組織の炎症活動性及び線維化度を部分的に阻害することができ、線維性疾患を治療するための薬効を持つことが分かった。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施形態にすぎないが、当業者にとっては、本発明の原理から逸脱することなく、若干の改良及び修飾をさらに加え、これらの改良及び修飾も本発明の保護範囲と見なされるべきであることを理解すべきである。
【国際調査報告】