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特表2022-503861電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置
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  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図1
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図2
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図3
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図4
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図5
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図6
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図7
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図8
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図9
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図10
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図11
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図12
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図13
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図14
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図15
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図16
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図17
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図18
  • 特表-電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置 図19
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-12
(54)【発明の名称】電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を、実時間でかつその場で測定するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20220104BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20220104BHJP
【FI】
H01M10/48 P
G01R31/367
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021517449
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(85)【翻訳文提出日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2019076102
(87)【国際公開番号】W WO2020064959
(87)【国際公開日】2020-04-02
(31)【優先権主張番号】1858919
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509265302
【氏名又は名称】アンスティテュ・ポリテクニック・ドゥ・グルノーブル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ソハイブ・エル・オトマニ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・セナメ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・グランジョン
(72)【発明者】
【氏名】ラシッド・ヤザミ
【テーマコード(参考)】
2G216
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AA05
2G216BA03
2G216CB11
2G216CB13
2G216CB51
5H030AA01
5H030AS03
5H030AS08
5H030AS14
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
本発明は、電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を実時間でかつその場で測定するための方法および装置に関する。本発明の目的は、電池のエントロピーの変動(ΔS)を、その場で、オンラインでかつ実時間で測定するための確実な方法を提供することである。このために、本方法は、主に、(フェーズI)電池の事前モデルを生成するステップ、(a)電池を充電するステップ、(b)および/または電池を放電するステップ、(c)実変数を測定するステップ、(d)電池の電気的パラメータを推定するために、充電(a)および/または放電(b)中の電池の電気的挙動をモデル化するステップ、(e)電池の電気的パラメータを推定するステップ、(f)ΔSを、その場で、オンラインでかつ実時間で推定するために、充電(a)および/または放電(b)中の電池の熱的挙動をモデル化するステップ、(g)ステップ(e)で推定された電気的パラメータの少なくとも1つを使用することによって、ΔSを推定するステップ、(フェーズII)フェーズIのステップ(d)およびステップ(f)、ステップ(e)ならびにステップ(g)を実施することによって、任意の用途での使用中のかつ任意の充電状態の電池のΔSを測定するステップ、(フェーズIII)フェーズIIでおよび/またはフェーズIで測定/計算されたデータを任意選択で記憶するステップ、にあることを特徴とする。本発明は、これらの熱力学データに基づいて電池の充電状態および劣化状態を決定するための方法にも関する。本発明の別の主題は、この方法を実施するための装置である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電池の熱力学データ、特にエントロピーの変動ΔSを、その場で、オンラインでかつ実時間で測定するための方法であって、主に、
(フェーズI)以下のステップを実施することによって、充電状態(SOC)が0と100%との間に含まれる前記電池の事前モデルを生成するステップ、
(a)充電電流信号Scで前記電池を少なくとも部分的に充電するステップ、
(b)および/または放電電流信号Sdで前記電池を少なくとも部分的に放電するステップ、
(c)以下のステップで有用な実変数を測定するステップ、
(d)前記電池の電気的パラメータを推定するために、充電電流信号Scでの充電(a)および/または放電電流信号Sdでの放電(b)中の前記電池の電気的挙動をモデル化するステップ、
(e)前記電池の電気的パラメータを周波数Feで周期的に推定するステップ、
(f)熱的モデルのパラメータの少なくとも1つ、すなわちΔSを、その場で、オンラインでかつ実時間で推定するために、充電電流Scでの充電(a)および/または放電電流信号Sdでの放電(b)中の前記電池の熱的挙動をモデル化するステップ、
(g)ステップ(e)で推定された前記電気的パラメータの少なくとも1つを使用することによって前記熱的モデルの前記パラメータの少なくとも1つ、特にΔSを周波数Fgで周期的に推定するステップ、
(フェーズII)前記フェーズIの前記電気的[ステップ(d)]および熱的[ステップ(f)]モデルを実施し、電気的パラメータを推定し[ステップ(e)]、前記熱的モデルの前記パラメータの少なくとも1つ、特にΔSを推定する[ステップ(g)]ことによって、用途での使用中のかつ任意の充電状態の前記電池の熱力学データ、特にΔSを測定するステップ、
(フェーズIII)フェーズIIでおよび/またはフェーズIで測定/計算された前記データを任意選択で記憶するステップ、
にあることを特徴とする、方法。
【請求項2】
モデリングステップ(d)が、前記電池が直列の抵抗器R0、開路電圧OCVおよび回路R1C1を備える電気回路または電気的モデルであるとみなすことにあり、
前記電池の前記電気的挙動が、このモデルでは、以下の式によって記述され、
【数1】
式中U1は前記回路RCの端子での電圧であり、Iは前記電池を通る電流であり、Vbatは前記電池の端子での電圧であり、
式(2)が次の通りに離散化され、
Vbat,k=Ikb0,k+Ik-1b1,k+a1,k(OCVk-1-Vbat,k-1)+OCVk (2')
そしてこのように書き換えられ、
【数2】
ここで、
【数3】
式中、
【数4】
Tsは信号Seのサンプリング周期であり、
【数5】
はパラメータベクトルであり、
モデリングステップ(f)が、前記電池を熱的モデルとみなすことから成り、前記電池が、一方で、サンプリングにかけることができる充電電流Scをまたはサンプリングにかけることができる放電電流Sdを受け、他方で、その環境との熱交換器であり、かつ前記電池の前記熱的挙動が以下の式によって記述され、
【数6】
式中、
mは前記電池の質量であり、
Cpは前記電池の熱容量であり、
Tbatは前記電池の温度であり、
tは時間変数であり、
Iは前記電池を通る前記電流であり、
Vbatは前記電池の前記端子での前記電圧であり、
OCVは前記電池の前記開路電圧であり、
ΔSは前記電池のエントロピーの変動であり、
Fはファラデー定数であり、
hは外部との熱交換係数であり、
Aは外部と接触する前記電池の面積であり、
Tambは外部環境の温度である
式(3)が次の通りに離散化され、
Tbat,k-Tbat,k-1=a0,k[Ik(Vbat,k-OCVk)]+a1,kIkTbat,k+a2,k(Tbat,k-Tamb,k) (4)
そしてこのように書き換えられ
【数7】
ここで、
【数8】
式中、
【数9】
Tsは測定サンプリング周期である
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
積mCpおよびhAが一定であること、ならびにそれらが、基本的に、
前記電気的モデルの式(2')の前記パラメータOCVが精密な所与の値を有するように前記電池の緩和を実施するステップ、
或る期間にわたってΔSによって生成される熱の平均が約0であるように期間が選ばれる周期入力電気信号Seを印加するステップであり、Seが好ましくは期間が10と30秒との間に含まれ、理想的には約20秒の方形信号であり、この方形信号がより好ましくはゼロ平均である、ステップ、
以下の式(3')になった式(3)のおかげで、
【数10】
かつパラメータVBat、I、Tbat、Tambに相当する実変数を測定することによって、好ましくは再帰的最小二乗アルゴリズムを使用して、積mCpおよびhAを推定するステップ、
積mCpおよびhAのこの推定をステップ(f)および(g)のために前記熱的モデルへ組み込むステップ
から成るステップ(a)の前のステップ(a0)で推定されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(c)で測定される前記実変数が前記電気的および熱的モデルの前記パラメータVBat、I、Tbat、Tambに相当することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(e)による前記推定が再帰的最小二乗アルゴリズムを使用して実施されること、およびステップ(g)による前記推定が再帰的最小二乗アルゴリズムを使用して実施されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記充電ステップ(a)の前記実施のために、周波数範囲が0と1Hzとの間に含まれる充電電流Sc、好ましくは擬似ランダム2進系列PRBSに相当する信号であり、前記電池の「Cレート」が0.01Cと3Cとの間に、好ましくは0.1Cと2.5Cとの間に、より好ましくは0.2Cと2.Cとの間に含まれるように選ばれる、信号が反復して印加されることを特徴とする、請求項2に記載の、任意選択で請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記放電ステップ(b)の前記実施のために、周波数範囲が0と1Hzとの間に含まれる、入力電流Seである放電電流Sd、好ましくは擬似ランダム2進系列PRBSに相当する信号であり、前記電池の「Cレート」が0.01Cと3Cとの間に、好ましくは0.1Cと2.5Cとの間に、より好ましくは0.2Cと2Cとの間に含まれるように選ばれる、信号が反復して印加されることを特徴とする、請求項2に記載の、任意選択で請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
以下の式を使用してOCVおよびΔSからエンタルピーの変動ΔHが推定される
ΔH=-F.OCV-TbatΔS (6)
ことを特徴とする、請求項2に記載の、任意選択で請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法によって測定されるΔSからおよび/またはΔHから電池の充電状態および/または劣化状態を決定するための方法。
【請求項10】
i.少なくとも1つのプログラマブル充電器/放電器と、
ii.以下のパラメータ:VBat、I、Tbat、Tambに相当する実変数の少なくとも1つの少なくとも1つのセンサと、
iii.少なくとも1つのデータレコーダと、
iv.少なくとも1つの充電電流信号発生器と、
v.1つまたは複数の前記要素(i)(ii)(iii)(iv)を制御して、好ましくは再帰的最小二乗アルゴリズムを実施することによって、特にステップ(a0)(e)および(g)の前記推定のためのデータを収集および処理することができる少なくとも1つの中央制御および計算ユニットと
を備えることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法の実施のための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、電池の分野である。
【0002】
より正確には、本発明は、電池の熱力学データ(エンタルピーおよびエントロピー)を実時間でかつその場で測定するための方法に関する。
【0003】
本発明は、この方法を実施するための装置にも関する。
【背景技術】
【0004】
電池という用語は、所望の容量および電圧を得るために共に接続される再充電蓄電池の集合体を示す。蓄電池は、電解質によって隔てられる2つの電極を備える単体電気化学デバイス(セル)を示す。本開示において、「電池」という用語は、電気化学セルの集合体も単位セルも示すことになる。
【0005】
とりわけ風力タービンまたは太陽エネルギーの蓄積、移動電話、航空機および自動車を挙げることができる多数の用途に再充電電池、特にリチウムイオン電池が既に存在する。ハイブリッドまたは電気自動車の市場占有率が今後数年で1%から30%に急上昇するはずであるこの最後の分野では、電池が前例のない急成長を遂げるであろう。
【0006】
全てのこれらの用途では、電池の診断が性能および安全性の点で大きな関与を表す。ニュースには、電池の過熱、更には火災または爆発に関する問題の例が多い。
【0007】
したがって、電池の状態、特に電池の充電状態および劣化状態をより良好に診断することを可能にするツールを開発することが最重要である。
【0008】
上述した開発観点では、電池の動作のおよび安全性の最適化は、それが最低限であるとしても実質的な影響を有し得る。この最適化は、電池の内部状態の診断の手段を改善することを伴う。
【0009】
電池の内部状態と、それと関連付けられる熱力学的大きさ、特にエンタルピーの変動およびエントロピーの変動との間に関連があることが知られている。実際、熱力学的プロファイルが電池の或る特性に関して依存性を示すことが認められてきた。これらのプロファイルは、熱老化、充放電を経た老化、過充電を介した老化に依存するが、電池の充電状態にも依存する。電池が過充電された場合にはプロファイルの変更も認められてきた。熱力学データの知識は、したがって電池の状態および過去に関する豊かな情報源である。
【0010】
その上、電池の性能および安定性を予測するために、電極での反応の、および中心が電池である物理的変形の熱力学を知ることが不可欠である。
【0011】
このように、エネルギー密度は、可逆的に交換される電荷の総量およびこれらの交換が起こる電位を反映する。更には、ライフサイクルは、充放電過程において電極での変形から生じる状態またはフェーズの安定性を指す。これらの過程は熱力学によって制御される。
【0012】
したがって、電池の内部状態と、それと関連付けられる熱力学的大きさ(エンタルピーの変動およびエントロピーの変動)との間に関連がある。
【0013】
電池の内部状態は、特に以下の特性によって与えられる:熱老化、充放電を経た老化、過充電を介した老化、電池の充電状態、過充電。熱力学データの知識は、したがって電池の状態および過去に関する豊かな情報源である。
【0014】
電極での反応の熱化学反応速度論を評価するために、多くの技術、特に電気分析法(サイクリックボルタメトリックス、電位差測定法など)、分光技術(X線回折、NMR、LEEDなど)が開発および応用されてきた。
【0015】
特許文書EP1924849、米国特許第8446127号、米国特許第9599584号、米国特許出願公開第20160146895号、WO2017204750に、とりわけ、測定される熱力学的プロファイルを通して、電池の充電状態および劣化状態を評価するための方法が記載されている。
【0016】
先行技術では、熱力学的プロファイルを測定するための方法は、実験室条件および約数日から数週間の著しい時間量を必要とする標準法である。ETM法「電気化学熱力学的測定」とも呼ばれるこの標準法は基本的に、
1 電池の温度を制御することを可能にする装置と、
2 電圧および電流の測定が極めて精密なポテンショメータ-ガルバノメータと、
3 熱力学的測定過程を制御するかつデータを収集するためのコンピュータと
を備える装置を実装することにある。
【0017】
この装置でΔS(エントロピーの変動)を測定するために、方法ETMは以下の式に基づく。
【0018】
【数1】
【0019】
式中、
●ΔSはエントロピーの変動である
●Fはファラデー定数である
●OCVは開路電圧である
●Tbatは電池の温度である
●xは充電状態である
【0020】
実際には、ΔSを測定するために、初めに所与の充電状態が使用され、電流が遮断され、そして電池の端子での電圧が緩和してOCVに至るように数時間を経過させる。次いで、電池の温度が変動させられるが、効果として電圧を変動させるはずである。TbatとOCVとの間には直線関係がある。ΔSを得るためには、その2つを関連させる係数を決定すること、およびそれにファラデー定数を乗算することが残るだけである。完全なプロファイルを得るために、測定は異なる充電状態で繰り返されなければならない。
【0021】
OCVは、緩和後の電圧を測定することによって直接得られ、そして式(4)を使用してΔH(エンタルピーの変動)が得られる。
ΔH=-F.OCV-TbatΔS (4)
【0022】
したがって、熱力学的プロファイルのこの標準測定ETMが、細かすぎ、長く、かつ電池の動作条件の或る制御を必要とする実験室技術であることが明らかである。この標準法ETMは、その場で、オンラインでかつ実時間で使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】EP1924849
【特許文献2】米国特許第8446127号
【特許文献3】米国特許第9599584号
【特許文献4】米国特許出願公開第20160146895号
【特許文献5】WO2017204750
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】V.-H. Duong、H. A. Bastawrous、K. Lim、K. W. See、P. ZhangおよびS. X. Dou、「Online state of charge and model parameters estimation of the LiFePO4 battery in electric vehicles using multiple adaptive forgetting factors recursive least-squares」、JOURNAL OF POWER SOURCES、第296巻、215~224頁、2015年11月20日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
これらの状況において、本発明は、以下に述べる目的の少なくとも1つを満たすことを目指す。
⇒本発明の主な目的の1つは、電池のエントロピーの変動を、その場で、オンラインでかつ実時間で測定するための方法を提供することである。
⇒本発明の主な目的の1つは、電池のエントロピーの変動を、その場で、オンラインでかつ実時間で測定する単純かつ確実な方法を提供することである。
⇒本発明の主な目的の1つは、電池のエントロピーの変動を、その場で、オンラインでかつ実時間で測定するための効果的な方法を提供することである。
⇒本発明の主な目的の1つは、電池のエントロピーの変動を、その場で、オンラインでかつ実時間で測定するための迅速な方法を提供することである。
⇒本発明の主な目的の1つは、電池のエントロピーの変動を、その場で、オンラインでかつ実時間で測定するための経済的な方法を提供することである。
⇒本発明の主な目的の1つは、電池のエントロピーの変動を、その場で、オンラインでかつ実時間で、すなわち電池の正常な使用により近い条件で測定するための経済的な方法を提供することである。
⇒本発明の主な目的の1つは、上の目的に述べた方法によって測定されるエントロピーの変動から、電池の充電状態および/または劣化状態を診断するための単純かつ効果的な方法を提供することである。
⇒本発明の主な目的の1つは、上の目的に述べた方法の実施のための単純かつ効果的な装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
これらの目的は、とりわけ、少なくとも1つの電池のエントロピーの変動ΔSをオンラインでかつその場で測定するための方法であって、主に、
(フェーズI)以下のステップを実施することによって、充電状態(SOC:「State Of Charge」)が0と100%との間に含まれる電池の事前モデルを生成するステップ、
(a)充電電流信号Scで電池を少なくとも部分的に充電するステップ、
(b)および/または放電電流信号Sdで電池を少なくとも部分的に放電するステップ、
(c)以下のステップで有用な実変数を測定するステップ、
(d)電池の電気的パラメータを推定するために、充電電流信号Scでの充電(a)および/または放電電流信号Sdでの放電(b)中の電池の電気的挙動をモデル化するステップ、
(e)電池の電気的パラメータを周波数Feで周期的に推定するステップ、
(f)熱的モデルのパラメータの少なくとも1つ、すなわちΔSを、その場で、オンラインでかつ実時間で推定するために、充電電流信号Scでの充電(a)および/または放電電流信号Sdでの放電(b)中の電池の熱的挙動をモデル化するステップ、
(g)ステップ(e)で推定された電気的パラメータの少なくとも1つを使用することによって熱的モデルのパラメータの少なくとも1つ、特にΔSを周波数Fgで周期的に推定するステップ、
(フェーズII)フェーズIの電気的[ステップ(d)]および熱的[ステップ(f)]モデルを実施し、電気的パラメータを推定し[ステップ(e)]、熱的モデルのパラメータの少なくとも1つ、特にΔSを推定する[ステップ(g)]ことによって、用途での使用中のかつ任意の充電状態の電池の熱力学データ、特にΔSを測定するステップ、
(フェーズIII)フェーズIIでおよび/またはフェーズIで測定/計算されたデータを任意選択で記憶するステップ、
にあることを特徴とする、方法に第一に関する本発明によって達される。
【0027】
この方法は、したがって、考慮される電池の多数のパラメータを推定することを可能にし、それは、特に起電力(開路電圧OCV)、エントロピーの変動ΔSおよび、したがってエンタルピーの変動ΔHを推定することを可能にする。これらのパラメータの他に、この方法は、電池の内部抵抗および熱容量を推定することも可能にする。
【0028】
この方法は、それが、例えば電気自動車での使用中の電池のパラメータをオンラインで、実時間でかつその場で測定することを可能にするという点で特に有利である。
【0029】
一旦、例えばエントロピーの変動が推定されると、電池の正しい管理のための基礎知識である、電池の劣化状態を推定することが可能である。
【0030】
このように、その態様の別の1つでは、本発明は、本発明に係る方法によって測定されるΔSからおよび/またはΔHから電池の充電状態(SOC)および/または劣化状態(SOH)を決定するための方法に関する。
【0031】
本発明は、本発明に係るエントロピーの変動を測定するための方法を実施するための装置にも関する。
【0032】
定義
本開示の全てにおいて、いずれの単数形も区別なく単数形または複数形を示す。
【0033】
例として以下に与えられる定義は、本開示を解釈するために使用できる。
●「その場での熱力学データの測定」:現場測定は、用途での電池、例えば電気自動車に使用される電池の使用中の測定を指す。これは、実験室状況で起こるであろう測定と反対である。
●「オンラインでの熱力学データの測定」:オンライン測定は、用途での電池の使用中に新たなデータが入手可能であるときに、モデル[電気的モデルステップ(d)または熱的モデルステップ(f)]のパラメータまたは状態を推定する測定である。
●「電池」:電解質によって隔てられる2つの電極を備える単体電気化学デバイス(セル)または所望の容量および電圧を得るために共に接続される蓄電池の集合体。
●「約」または「実質的に」は、使用される測定単位に関してプラスまたはマイナス10%を、更にはプラスまたはマイナス5%を意味する。
●「Z1とZ2と間に含まれる」は、境界Z1、Z2の一方および/または他方が間隔[Z1、Z2]に含まれるまたは含まれないことを意味する。
【0034】
この説明は添付の図に関して与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明に係る方法のステップ(d)で実施される電気的モデルの図である。
図2】それぞれ、周期的推定のためのステップ(e)および(g)での2つの再帰的最小二乗RLSアルゴリズムの使用のブロック図である。
図3】本発明に係る方法の実施形態に使用されるテストベンチの図である。
図4】上は、mCpおよびhAを推定する目的で、本発明に係る例における、電流に対する電池18650の温度の応答を示す曲線であり、下は、mCpおよびhAを推定する目的で、本発明に係る例における、電流に対する電池18650の電圧の応答を示す曲線である。
図5】時間の関数としてのパラメータmCpの推定の曲線である。
図6】時間の関数としてのパラメータhAの推定の曲線である。
図7】時間(s)の関数としてのA単位の信号PRBSによって構成される入力電流Seまたは充電電流Scを示す図である。
図8】R0およびOCVを推定する目的で、例における、電流に対する電池18650の電圧(V)の応答を示す図である。
図9】放電中の充電状態SOC(%)によるR0(オーム)の推定を示す図である。
図10】放電中の充電状態SOC(%)によるOCV(V)の推定を示す図である。
図11】放電中の充電状態SOC(%)によるΔS(J/K/mol)の曲線である。
図12】放電中の充電状態SOC(%)によるΔH(kJ/mol)の曲線である。
図13】比較例における熱力学データの標準測定のためのテストベンチを示す図である。
図14】放電中の本発明に係る方法(「オンライン法」)によっておよび比較例におけるETM(標準法)によって得られた充電状態SOC(%)によるOCV(V)のプロファイルの比較曲線を示す図である。
図15】放電中の本発明に係る方法(オンライン法)によっておよび比較例におけるETM(標準法)によって得られた充電状態SOC(%)によるプロファイルΔS(J/K/mol)の比較曲線を示す図である。
図16】放電中の本発明に係る方法(オンライン法)によっておよび比較例におけるETM(標準法)によって得られた充電状態SOC(%)によるプロファイルΔH(kJ/mol)の比較曲線を示す図である。
図17】同じ条件で数回測定された、本発明に係る方法によって得られた充電状態SOC(%)によるOCV(V)の曲線を示す図である。
図18】同じ条件で数回測定された、本発明に係る方法によって得られたOCV(V)の関数としての曲線ΔS(J/K/mol)を示す図である。
図19】同じ条件で数回測定された、本発明に係る方法によって得られたOCV(V)の関数としての曲線ΔH(kJ/mol)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
≫エントロピーの変動ΔSを測定するための方法
モデリングのフェーズI
本発明に係る方法のモデリングのフェーズIは、有利には以下のステップを含む。
ステップ(a0)任意選択であるが、しかしながら好ましい:パラメータmCpおよびhAの事前推定
ステップ(a)充電電流信号Scで電池を充電する
ステップ(b)および/または放電電流信号Sdで電池を放電する
ステップ(c)実変数の測定
ステップ(d)電気的モデリング
ステップ(e)電気的パラメータの推定
ステップ(f)熱的モデリング
ステップ(g)熱力学パラメータの推定
【0037】
モデリング(d)および(f)のために、充電のステップ(a)および/または放電のステップ(b)は、ステップ(c)から(g)と並列に、すなわち同時に動作する。
【0038】
ステップ(c)から(g)が実施される少なくとも部分放電のステップ(b)を含む実施形態において、本発明に従って、電池の完全充電のステップ(a)が事前に設けられる。
【0039】
この実施形態の代替例によれば、事前ステップ(a)は電池の部分充電である。
【0040】
ステップ(c)から(g)が実施される充電ステップ(a)を含む別の実施形態において、本発明に従って、電池を完全に放電するステップ(b)が事前に設けられる。
【0041】
この実施形態の代替例によれば、事前ステップ(b)は電池の部分放電である。
【0042】
それらのアルファベットの参照が増えるのと独立して、ステップ(c)から(g)は必ずしも連続しているわけではない。
【0043】
熱電気的モデル[ステップ(d)および(f)]
電池の熱力学データを推定するために本発明によって保持される手法は、電池を備えるシステムの簡潔な熱電気表現を選ぶことから成る。
【0044】
この熱電気表現は、多種多様な電池に適用できるという利点も有しており、電気的モデル[ステップ(d)]からおよび熱的モデル[ステップ(f)]から構成される。
●電気的モデルは、内部抵抗および起電力などの電池の電気的パラメータを推定することを可能にする。それは、有利には、電池を回路RCと直列の抵抗とみなす「テブナンモデル」と呼ばれるモデルに基づく。図1に示されるように、このモデルは、直列の抵抗器R0、開路電圧OCVおよび回路R1C1から成る。
このモデルでは、電池の電気的挙動は以下の式によっても記述される。
【0045】
【数2】
【0046】
式中U1は回路RCの端子での電圧であり、Iは電池を通る電流であり、Vbatは電池の端子での電圧である。
【0047】
式は次いで、V.-H. Duong、H. A. Bastawrous、K. Lim、K. W. See、P. ZhangおよびS. X. Dou、「Online state of charge and model parameters estimation of the LiFePO4 battery in electric vehicles using multiple adaptive forgetting factors recursive least-squares」、JOURNAL OF POWER SOURCES、第296巻、215~224頁、2015年11月20日におけるのと同じように離散化される。以下が得られる。
Vbat,k=Ikb0,k+Ik-1b1,k+a1,k(OCVk-1-Vbat,k-1)+OCVk (2')
これは書き換えることができる。
【0048】
【数3】
【0049】
ここで、
【0050】
【数4】
【0051】
式中、
【0052】
【数5】
【0053】
Tsはサンプリング周期である。
【0054】
【数6】
【0055】
はパラメータベクトルであり、このベクトルを識別することによって、R0およびOCVの値を推定することが可能である。
【0056】
本発明の実施の好適な配置に従って、OCVは熱的モデルに使用される。
●熱的モデルは、エントロピーの変動などの電池の熱力学パラメータを精密に、しかも連続的にかつ使用条件の特有の制御なしで、推定することを可能にする。
この熱的モデルは、特に、電池によって放たれるまたは吸収される熱が主に2つの現象に由来するという事実に基づく。
- ジュール効果およびエントロピーの変動。実際、電池が内部抵抗を有するので、それは、充電または放電中に電流が通ると熱を生成する。
- その上、エントロピーの変動および電池を通る電流の徴候に従って、熱を吸収するまたは発することができる。電池とその環境との間で熱交換も生じる。
モデリングステップ(f)は、電池を熱的モデルとみなすことから成り、電池は、一方で、サンプリングにかけることができる充電電流Scをまたはサンプリングにかけることができる放電電流Sdを受け、他方で、その環境との熱交換器であり、かつ電池の熱的挙動は以下の式によって記述される。
【0057】
【数7】
【0058】
式中、
●mは電池の質量である
●Cpは電池の熱容量である
●Tbatは電池の温度である
●tは時間変数である
●Iは電池を通る電流である
●Vbatは電池の端子での電圧である
●OCVは電池の開路電圧である
●ΔSは電池のエントロピーの変動である
●Fはファラデー定数である
●hは外部との熱交換係数である
●Aは外部と接触する電池の面積である
●Tambは外部環境の温度である
式(3)は次いで離散化される。
Tbat,k-Tbat,k-1=a0,k[Ik(Vbat,k-OCVk)]+a1,kIkTbat,k+a2,k(Tbat,k-Tamb,k) (4)
これは書き換えることができる。
【0059】
【数8】
【0060】
ここで、
【0061】
【数9】
【0062】
式中、
【0063】
【数10】
【0064】
Tsは測定サンプリング周期である。
【0065】
代替例では、Rは、熱的モデルにおけるOCVの代わりにまたはそれへの補足として使用できる。
【0066】
提案された2つのモデルは、測定される大きさの線形結合として書くことができる。したがって、この線形結合の係数および、したがってパラメータを推定するために最小二乗アルゴリズムなどのアルゴリズムを適用することが可能である。
【0067】
この方法は、したがって、考慮される電池の多数のパラメータを推定することを可能にし、それは、起電力、エントロピーの変動および、したがってエンタルピーの変動を推定することを可能にする。これらのパラメータの他に、この方法論は、とりわけ、内部抵抗、電池の熱容量、電池の充電状態および劣化状態を推定することも可能にする。
【0068】
ステップ(a0)任意選択であるが、しかしながら好ましい、パラメータmCpおよびhAの事前推定
本発明の好適な実施例では、積mCpおよびhAは、電池の充電状態および劣化状態に関する定数とみなされる。したがって、これらの2つのパラメータを一度限り推定すること、および所与の電池に対する、本発明に係る電気的モデルにこれらの値を使用することが有利である。
【0069】
この事前推定は基本的に、
- 電気的モデルの式(0)のパラメータOCVが精密な所与の値を有するように電池の10分と60分との間に含まれる期間(電池に従って可変)の緩和を実施するステップ、
- 或る期間にわたってΔSによって生成される熱の平均が約0であるように周期が選ばれる周期入力電気信号Seを印加するステップであり、Seが好ましくは周期が10と30秒との間に含まれ、理想的には約20秒の方形信号であり、この方形信号がより好ましくはゼロ平均である、ステップ、
- 以下の式(3')になった式(3)のおかげで、
【0070】
【数11】
【0071】
かつパラメータVBat、I、Tbat、Tambに相当する実変数を測定することによって、好ましくは再帰的最小二乗アルゴリズムを使用して、積mCpおよびhAを推定するステップ、
- 積mCpおよびhAのこの推定をステップ(f)および(g)のために熱的モデルへ組み込むステップ
から成る。
【0072】
電池の電圧の緩和の周期は約10分であることができる。
【0073】
このようにしてOCVの精密な値がある。
【0074】
これらの2つのパラメータを推定するために、次いで好ましくは再帰的最小二乗アルゴリズム(RLSアルゴリズム)が使用される。
【0075】
ステップ(a)充電電流信号Scで電池を充電する
充電ステップ(a)の実施のために、周波数範囲が0と1Hzとの間に含まれる充電電流Sc、好ましくは、電池の「Cレート」(C:電池の容量)が0.01Cと3Cとの間に、好ましくは0.1Cと2.5Cとの間に、より好ましくは0.2Cと2Cとの間に含まれるように選ばれる、擬似ランダム2進系列PRBSに相当する信号、が反復して印加される。
【0076】
これは、例えば、所与のリチウム電池に対して、充電電流Scに相当することができ、その強度は例えば0と1Aと間に含まれる。
【0077】
本発明の有利なモダリティによれば、充電電流Scは毎秒サンプリングされる。
【0078】
ステップ(b)放電電流信号Sdで電池を放電する
放電ステップ(b)の実施のために、周波数範囲が0と1Hzとの間に含まれる放電電流Sd、好ましくは、電池の「Cレート」(C:電池の容量)が0.01Cと3Cとの間に、好ましくは0.1Cと2.5Cとの間に、より好ましくは0.2Cと2Cとの間に含まれるように選ばれる、擬似ランダム2進系列PRBSに相当する信号が反復して印加される。
【0079】
これは、例えば、所与のリチウム電池に対して、放電電流Sdに相当することができ、その強度は例えば0と-1Aと間に含まれる。
【0080】
本発明の有利なモダリティによれば、放電電流Sdは毎秒サンプリングされる。
【0081】
ステップ(c)実測値の測定
ステップ(c)で測定される実変数は、有利には電気的および熱的モデルのパラメータVBat、I、Tbat、Tambに相当する。
【0082】
ステップ(d)電気的モデリング/ステップ(f)熱的モデリング
上記を参照されたい。
【0083】
ステップ(e)電気的パラメータの推定/ステップ(g)熱力学パラメータの推定
本発明の注目すべき特性によれば、ステップ(e)は再帰的最小二乗アルゴリズムを使用して実施され、そしてステップ(g)による推定は再帰的最小二乗アルゴリズムを使用して実施される。
【0084】
ステップ(e)の電気的パラメータの推定のために、電池はステップ(a)および(b)に従って充放電される。
【0085】
好ましくは考慮に入れられる電気的モデルのパラメータがR0およびOCVである。R0は、電池の老化の推定のために使用されるパラメータである。OCVは、ΔSを推定するために熱的モデルに対して使用される。
【0086】
モデルのパラメータを推定するために、次いでRLSアルゴリズムがデータに適用される。パラメータは0.2秒毎に更新される。
【0087】
ΔSの推定のために、RLSアルゴリズムは、好ましくは熱的モデルに関連されるデータに適用される。
【0088】
図2に示されるように、2つのアルゴリズムRLSが同時に作用する。第1は、上記したように電流および電圧からOCVを推定することになる。この推定は、ΔSを推定する目的で熱的モデルに基づいてかつ温度を使用して第2のRLSアルゴリズムによって使用されることになる。電気力学が熱力学より非常に高速であるので、電気的パラメータを更新するために使用される周波数が熱的パラメータに対するより高いことに留意されたい。
【0089】
以下のようにOCVおよびΔSからエンタルピーΔHの推定を得ることも可能である。
ΔH=-F.OCV-TbatΔS (6)
【0090】
電気的パラメータOCVのならびに熱力学パラメータ(ΔSおよびΔH)の推定は、このように再帰アルゴリズムにより実時間で実施される。
【0091】
その態様の別の1つでは、本発明は、ΔSからおよび/またはΔHから電池の充電状態および/または劣化状態を決定するための方法に関する。
- SOCの推定のために:SOCの所与の値に対して、固有値対(ΔSおよびΔH)が対応することが証明される。後者が推定されれば、SOCも推定でき、これが実時間推定が重要である理由である。単純な実施形態が、後者をΔSおよびΔHの線形結合とみなすことによるSOCの推定である。SOCはSO(%)=αΔS+βΔH+γと書くことができ、α、βおよびγパラメータが所与の電池に対して決定されることになる。後者を決定するために、所与の電池に対して0から100%まで熱力学的大きさΔSおよびΔHが測定される。次いでSO(%)=αΔS+βΔH+γであるようにΔS、ΔHおよびSOC間の関係が決定される。α、βおよびγは、好ましくは最小二乗法によって決定される。そのような方法の一例のために、米国特許出願公開第20160146895(A1)号を参照することができる。
- SOHの推定のために、「機械学習」ツールのおかげでその熱力学的プロファイルから電池のエネルギーに基づいて指標SOHを推定することが可能である。例えば、18650型のリチウムイオン電気化学セル(高さ65mmおよび直径18mm)がサイクリング(連続充放電)を介して老化を経験する。セルの老化は1.5Cレートでかつ55℃で実施される。電池のエネルギーおよび異なる熱力学的大きさに基づいてSOH指標の老化の異なる段階で測定が行われる。後者は標準法ETMによって測定される。「機械学習」ツールにより熱力学的大きさの1つ、ここではΔSとエネルギーに基づく指標SOHとの間の関連を以下において確立することが可能であった。それらを結び付けるために使用される機械学習アルゴリズムの一例が多重線形回帰である。指標SOHは、ここではSOCまたはOCVの或る値でのΔSの線形結合として推定される。
【0092】
実施形態によれば、実施ステップ(e)は、電池の充電状態に従ってR0およびOCVを、0と10Hzと間に含まれ、好ましくは約1Hzの周波数Feで推定することを可能にする。
【0093】
実施形態によれば、かつステップ(g)の実施において、電池の充電状態に従ってΔSを、0と1Hzとの間に含まれ、好ましくは約0.2Hzの周波数Fgで推定することを可能にする。
【0094】
測定のフェーズII
このその場での測定フェーズIIは、例えば電気自動車に電力を供給する所与の用途での電池の使用中に、理論のモデリングのフェーズI後に起こる。
【0095】
本方法は、一般にフェーズIとフェーズIIとの間で或る時間の間中断される。
【0096】
記憶のフェーズIII
フェーズII中に測定/計算されるデータを記憶するこの任意選択のフェーズIIIは、好ましくはこのフェーズIIと同時に起こる。
【0097】
代替例によれば、このデータは、分析および処理センターに任意の適切な手段によって(遠隔)伝送できる。
【0098】
その場で収集されたデータは、モデリングを改善するために使用できる。
【0099】
≫実施のための装置
i.充電器/放電器:これは、プログラム可能な方法で電池を充電することおよび放電することが可能な要素である。実施形態において、この充電器/放電器は、会社NXPの評価モデルFRDM-BC3770-EVMである。最大充電電流は2A、そして最大放電電流は1Aである。充電器にはマイクロコントローラが搭載され、電流プロファイルの制御を有することを可能にする。加えて、このマイクロコントローラは16ビットアナログデジタル変換器を提示し、高分解能測定を可能にする。
ii.実変数センサ:
Tbat:電池温度測定センサは、有利には高分解能で温度を測定することを可能にするサーミスタである。これは、例えば、評価モデルBC3770に接続される10kΩサーミスタであることができる。このサーミスタは16ビットアナログデジタル変換器を有し、かつ許容可能なノイズで0.01℃の温度の分解能を提供する。
評価モジュールは、Vbatの他に電池の電流を測定することも可能にする。これらはモジュールのネイティブ機能である。Tambに関して、それは、マイクロコントローラのアナログデジタル変換器に接続されるサーミスタを使用して測定される。
iii.データレコーダ
iv.充電電流信号発生器
v.中央制御および計算ユニット
【0100】
これらの3つの要素iii.、iv.およびv.は、raspberry pi 3型の、ARMプロセッサ搭載のシングルカードナノコンピュータに共に集約できる。
【0101】
実施例
以下の実施例は、リチウムイオン電池に関する、本発明に係る方法の好適な実施形態を示す。
【0102】
電池:円筒型18650リチウムイオン電池(直径18mm、高さ65mm)、公称容量が3070mAh。
【0103】
この例で使用される本発明に係る装置は上記したものである。
【0104】
図3は、この装置および電池を備えるテストベンチを示す。
【0105】
このテストベンチは、電池周りの空気の温度を制御し、かつ不必要な外乱を防止することができるために、環境室に設置される。
【0106】
サーミスタは、熱接触を支持する流体、すなわちこの実施例では会社VELLEMANによって市販されるシリコーングリースで電池と接触させられる。加えて、それは、合成ゴムを使用して外部環境から熱的に分離される。
【0107】
したがって、測定される温度が電池の表面温度であるとみなされる。
【0108】
ステップ(a0)パラメータmCpおよびhAの事前推定
我々の熱電気的モデルでは、2つのパラメータmCpおよびhAは、電池の充電状態および劣化状態に関する定数とみなされる。
【0109】
これらの2つのパラメータは一度限り決定され、そして所与の電池に対する電気的および熱的モデルに使用される。
【0110】
これらのパラメータを推定するために、ゼロ平均の、±1Aで20秒周期の方形信号が印加される。このように、エントロピーの変動によって生成される熱の影響が克服され、実際、周期にわたってΔSによって生成される熱の平均はゼロに等しい。
【0111】
【数12】
【0112】
方形信号は、約10分間の電池の電圧の緩和の期間後に印加される。OCVの精密な値が、したがって得られる。式(3')には2つの未知パラメータが残るだけである:mCpおよびhA。
【0113】
上記したテストベンチが次いでRLSアルゴリズムと同様に使用されて、これらの2つのパラメータを推定する。
【0114】
図4の上のグラフは電池の温度の応答である。下のものは電圧の応答である。これらの信号からおよびRLSアルゴリズムから、所望のパラメータを推定することが可能である。
【0115】
図5および図6は、これらの2つのパラメータの収束を示す。以下の値が得られる。●mCp=110JK-1 ●hA=0.09WK-1
【0116】
この推定は次いで熱的モデルへ組み込まれる。その他のパラメータが次いで推定できる。
【0117】
充電のステップ(a)および放電のステップ(b)
電池を充電するために、それの入力電流として擬似ランダム2進系列(PRBS)が印加される。例えば、図7に示されるものなど、PRBS信号が0Aと1Aとの間で生成され、そしてそれが反復される。電池は0.3Cの「Cレート」に達する。放電のために同じ過程が実施される場合、信号Sdは0Aと-1Aとの間である。
【0118】
電気的モデルの周期的推定のステップ(e)
我々の電池システムの入力に、前段落に記載されたように、電流が印加される。最初に完全に充電された電池を放電することから始める。電圧の応答は図8に見ることができる。
【0119】
式1によって管理される電気的モデルの興味深いパラメータがR0およびOCVである。R0は有用なパラメータであり、しばしば電池の老化の推定のために使用される。OCVは熱的モデルに対して有用であり、これが、ΔSをより良好に推定することを可能にすることになる。
【0120】
モデルのパラメータを推定するために、次いでRLSアルゴリズムがデータに適用される。パラメータは0.2秒毎に更新される。図9は、充電状態によるR0の推定を示す。充電状態はクーロン計数方法のおかげで定義される。これは、電池の使用中に電流を積分することによってそれを追跡することから成る。この積分は、電池へ注入されるまたはそれから取り出される電荷の量を間接的に提供して、したがって電池の充電状態を精密に定量化することを可能にする。
【0121】
同様に、図10は、OCVの推定を示す。
【0122】
ステップ(g)熱的モデルの周期的推定
図2に示されるように、電気的モデルの周期的推定のためのRLSアルゴリズムは、熱的モデルの周期的推定のためのRLSアルゴリズムと同時に作用する。第1は、上記したように電流および電圧からOCVを推定することになる。この推定は、ΔSを推定する目的で熱的モデルに基づいてかつ温度を使用して第2のRLSアルゴリズムによって使用されることになる。電気力学が熱力学より非常に高速であるので、電気的パラメータを更新するために使用される周波数が熱的パラメータに対するより高いことに留意されたい。図11においてこの推定は、このように電池の充電状態の関数としてのΔSに対して得られる。追加されるべき情報は、完全なプロファイルを得たのに要した時間である。電流が平均して0.5Aであるので、6時間必要とされた。
【0123】
エンタルピーΔHが以下のようにOCVおよびΔSから計算できるので、エンタルピーΔHの推定を得ることも可能である(図12を参照のこと)。ΔH=-F.OCV-TbatΔS
【0124】
再帰アルゴリズムによる実時間の熱力学データ(OCV、ΔSおよびΔH)の推定が、したがって実施された。ここで、これらの推定されたプロファイルを標準法ETM(電気化学熱力学的測定)によって測定されたプロファイルと比較することが必要である。
【0125】
方法ETMとの比較例
テストベンチ
標準法との比較をする目的で、テストベンチは、測定を行うために製造される。このベンチの図を図13に見ることができる。それは主に9つの要素から構成される。
1.本発明に係る実施例に使用されたものと同一の電池。
2.本発明に係る実施例に使用されたものと同一の電池充電器。
3.電池の温度を測定する10kΩサーミスタ。
4.電池を含む金属ケース。
5.ケースの温度を変えるためにそれと接触しているペルチェ素子。
6.熱を取り除く放熱器。
7.放熱器を冷却する送風機。
8.電池の温度を制御するペルチェドライバ。
9.充電器およびペルチェドライバを制御する(したがって電池の温度を制御する)raspberry pi 3。それは、電池の電流、温度および電圧のためのデータを記録するためにも使用される。
【0126】
熱力学データの測定
ΔSを測定するために、以下の式が基礎として使用される。
【0127】
【数13】
【0128】
●ΔSはエントロピーの変動である
●Fはファラデー定数である
●OCVは開路電圧である
●Tbatは電池の温度である
●xは充電状態である
【0129】
実際には、ΔSを測定するために、初めに所与の充電状態が使用され、電流が遮断され、そして電圧が緩和してOCVに至るように数時間を経過させる。次いで、電池の温度が変動させられるが、効果として電圧を変動させるはずである(この変動は非常に低く、測定は高分解能で行われなければならない)。位相の変化(アノードまたはカソード内の結晶構造の変化)がなければ、TbatとOCVとの間には直線関係がある。ΔSを得るためには、その2つを関連させる係数を決定すること、およびそれにファラデー定数を乗算することが残るだけである。完全なプロファイルを得るために、測定は異なる充電状態で繰り返されなければならない。
【0130】
OCVは、緩和後の電圧を測定することによって直接得られ、そして式:ΔH=-F.OCV-TbatΔSを使用してΔHが得られる
【0131】
比較
標準法およびオンライン法により得られたプロファイルがここで比較されるものとする。図14図15および図16が、これらの2つの方法を比較することを可能にする。本発明に従ってオンラインで測定されたOCVと比較例に従って緩和後に測定されたものとの間にバイアスがあることに留意されたい。このバイアスは、次いでΔHおよびΔSの推定へ引き継がれる。
【0132】
比較の別の重要な側面は、完全なプロファイルを得るための測定時間である。比較例の方法ETMでは、5日必要とされる。本発明に係る方法では:6時間。1桁よりも大きい差が出る。
【0133】
反復性
決定されるべき重要な特性は、本発明に係る方法の反復性である。したがって、同じ推定される電池に対して放電中の熱力学的プロファイルが数倍(7倍)ある。平均プロファイルおよびそれらの95%信頼区間が次いでプロットされた。これが、図17図18および図19に観察できるものである。
【0134】
標準法により測定されるプロファイルとの完全互換性を超えて、重要であることは、本発明に係るオンラインプロファイルの測定が反復可能であることを保証することである。実際、このプロファイルは次いで電池の劣化状態を推定するために使用でき、そしてこの点で重要であるのは時間に伴うその変動である。同様に、充電状態を推定するために、重要であるのはその反復性である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【国際調査報告】