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特表2022-503956心臓の異常を示す情報を生成するための装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-12
(54)【発明の名称】心臓の異常を示す情報を生成するための装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
A61B5/11 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021517794
(86)(22)【出願日】2019-08-08
(85)【翻訳文提出日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 FI2019050580
(87)【国際公開番号】W WO2020070374
(87)【国際公開日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】20185814
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517018628
【氏名又は名称】プレコルディール オサケユイチア
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】テロ コイビスト
(72)【発明者】
【氏名】モジタバ ジャファリ タディ
(72)【発明者】
【氏名】ミッコ パンカーラ
(72)【発明者】
【氏名】ユーソ ブロムステル
(72)【発明者】
【氏名】ユハニ アイラクシネン
(72)【発明者】
【氏名】アンッティ サラステ
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA05
4C038VB25
4C038VB32
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】駆出率が保持された心不全「HFpEF」などの心臓の異常を示す情報を生成するための装置を提供する。
【解決手段】駆出率が保持された心不全「HFpEF」を例とする心臓の異常を示す情報を生成するための装置は、心運動を示すシグナルを受けるためのシグナルインターフェイス(101)、及びシグナルインターフェイスと結合された処理システム(102)を備える。処理システムは、シグナルから、心臓の拡張期に属する時間部分を抽出するように構成されている。処理システムは、指標量と閾値との比較の結果に基づいて、心臓の異常の存在を表すための装置の出力シグナルを設定するように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置(100)であって、
- 心運動を示すシグナルを受けるためのシグナルインターフェイス(101)、及び
- 前記シグナルインターフェイスと結合された処理システム(102)、
を備え、前記処理システムが、
- 前記シグナルからの、心臓の拡張期に属する時間部分の抽出、
- 前記拡張期に属する前記時間部分のエネルギーを示す指標量の形成、及び
- 前記指標量と閾値との比較の結果に基づいた、心臓の異常の存在を表すための前記装置の出力シグナルの設定、
を行うように構成されていることを特徴とする、
装置(100)。
【請求項2】
前記装置が、前記心運動を示す前記シグナルを生成するためのセンサーシステム(103)を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記センサーシステムが、心臓の角回転を測定するためのジャイロスコープを備える、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記センサーシステムが、心臓の加速度を測定するための加速度計を備える、請求項2又は3に記載の装置。
【請求項5】
前記処理システムが、以下の式に従って前記指標量を演算するように構成されており、
【数1】
式中、iは、時間と共に増加する指数であり、Nは、前記拡張期に属する前記時間部分のサンプルの数であり、xは、デカルト座標系(199)のx方向に関する心臓回転又はx方向の加速度のi番目のサンプルであり、yは、前記デカルト座標系のy方向に関する心臓回転又はy方向の加速度のi番目のサンプルであり、zは、前記デカルト座標系のz方向に関する心臓回転又はz方向の加速度のi番目のサンプルである、請求項1から4の何れか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記処理システムが、前記シグナルからの前記時間部分の抽出を、前記抽出された時間部分が前記拡張期の終了部分を表すよう行うように構成されており、各終了部分は、前記対応する拡張期の最大で50%を包含する、請求項1から5の何れか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記処理システムが、前記指標量が前記閾値を超えた状況に応答して、駆出率が保持された心不全「HFpEF」の存在を表すための前記出力シグナルを設定するように構成されている、請求項1から6の何れか一項に記載の装置。
【請求項8】
心運動を示すシグナルを処理するようにプログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムが、
- 前記シグナルからの、心臓の拡張期に属する時間部分の抽出、
- 前記拡張期に属する前記時間部分のエネルギーを示す指標量の形成、及び
- 前記指標量と閾値との比較の結果に基づいた、心臓の異常の存在を表すための出力シグナルの設定、
を行うように前記プログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含むことを特徴とする、コンピュータプログラム。
【請求項9】
前記コンピュータプログラムが、以下の式に従って前記指標量を演算するように前記プログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含み、
【数2】
式中、iは、時間と共に増加する指数であり、Nは、前記拡張期に属する前記時間部分のサンプルの数であり、xは、デカルト座標系(199)のx方向に関する心臓回転又はx方向の加速度のi番目のサンプルであり、yは、前記デカルト座標系のy方向に関する心臓回転又はy方向の加速度のi番目のサンプルであり、zは、前記デカルト座標系のz方向に関する心臓回転又はz方向の加速度のi番目のサンプルである、請求項8に記載のコンピュータプログラム。
【請求項10】
前記コンピュータプログラムが、前記シグナルからの前記時間部分の抽出を、前記抽出された時間部分が前記拡張期の終了部分を表すよう行うように前記プログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含み、各終了部分は、前記対応する拡張期の最大で50%を包含する、請求項8又は9に記載のコンピュータプログラム。
【請求項11】
前記コンピュータプログラムが、前記指標量が前記閾値を超えた状況に応答して、駆出率が保持された心不全「HFpEF」の存在を表すための前記出力シグナルを設定するように前記プログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含む、請求項8から10の何れか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項12】
請求項8から11の何れか一項に記載のコンピュータプログラムでコードされた非一時的コンピュータ読み取り可能媒体を備えるコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば駆出率が保持された心不全「HFpEF」などの心臓の異常を示す情報を生成すること全般に関する。より詳細には、本開示は、心臓の異常を示す情報を生成するための装置に関する。さらに、本開示は、心臓の異常を示す情報を生成するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心血管系に発生し得る異常は、診断を受けず、適切に処置及び/又は治療されない場合、個人の身体の要求を、特に個人が身体的ストレスを受けている場合の個人の身体の要求を満たす血流を維持する心血管系の能力を次第に低下させ得る。例えば、冠血流予備能「CFR」は、虚血性心疾患によるだけでなく、心不全「HF」によっても低下する。心不全患者のおよそ半分は、駆出率が保持された心不全「HFpEF」を有する。HFpEF患者は、典型的には、心疾患及び心疾患以外の罹患率並びに死亡率に寄与し得る他の併存疾患に罹患している。これらの患者は、駆出率が低下した心不全「HFrEF」を有する患者とほぼ同じ死亡率である。HFpEFを有すると診断された患者は、より大きい求心性肥大、心房拡大、並びに拡張期及び血管スティフネスを有する。HFpEFの病態生理学的症状は、複雑で、拡張障害、心筋虚血、心筋細胞肥大、心臓炎症、及び内皮障害などの数多くの因子に応じて異なる。
【0003】
現在、心活動に関連する電磁的現象に基づくカルジオグラフィー、心エコー法、及び心運動に基づくカルジオグラフィーなどの方法が、様々な心臓の異常の識別及び評価に用いられている。心活動に関連する電磁的現象に基づくカルジオグラフィーの公知の例は、心電図記録法「ECG」であり、心運動に基づくカルジオグラフィーの例は、ジャイロカルジオグラフィー(gyrocardiography)「GCG」及びサイズモカルジオグラフィー(seismocardiography)「SCG」である。心エコー法は、典型的には、超音波に基づいて、心臓の断面画像を提供するものであり、心臓の構造及び機能に関する包括的な情報を得ることができるが、高価な装置及び専門のオペレーターが必要である。ECGは、心臓のある程度迅速な電気的評価を提供するが、心臓の構造に関しては、ほんの僅かな情報しか得られない。サイズモカルジオグラフィーは、非侵襲性で、加速度計に基づいた方法であり、この場合は、心臓の前胸部振動が測定され、一方ジャイロカルジオグラフィーは、非侵襲性で、ジャイロスコープに基づいた方法であり、この場合は、心臓の角回転が測定される。本文書では、「ジャイロスコープ」の用語は、角回転を測定するための様々な種類のセンサーを包含する。例えば、上述の駆出率が低下した心不全「HFrEF」は、超音波に基づいた心エコー法によって比較的簡単に検出することができる。しかし、上述の駆出率が保持された心不全「HFpEF」を合わせると、状況はより困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以下では、様々な本発明の実施形態のいくつかの態様の基本的な理解を提供する目的で、単純化した概要を提示する。この概要は、本発明の広範にわたる全体像ではない。それは、本発明の重要な又は不可欠な要素を識別することも、本発明の範囲の境界を示すことも意図していない。以下の概要は、単に、本発明の例示的な実施形態のより詳細な記述に対する導入として、本発明のいくつかの概念を単純化された形態で提示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると、例えば駆出率が保持された心不全「HFpEF」などの心臓の異常を示す情報を生成するための新規な装置が提供される。本発明に従う装置は、心運動を示すシグナルを受けるためのシグナルインターフェイス、及びシグナルインターフェイスと結合された処理システムを備える。処理システムは、
- シグナルからの、心臓の拡張期に属する時間部分の抽出、
- 拡張期に属する時間部分のエネルギーを示す指標量の形成、及び
- 指標量と閾値との比較の結果に基づいた、心臓の異常の存在を表すための装置の出力シグナルの設定、
を行うように構成されている。
【0006】
実験データを踏まえて、拡張期に関するエネルギーを示す上述の指標量を、心臓の異常の指標として用いることができる。例えば、上述のエネルギーの増加は、駆出率が保持された心不全「HFpEF」の可能性の増加を意味する。
【0007】
指標量と比較される上述の閾値は、患者及び健康なヒトの群から収集された実験データに基づいて決定することができる。閾値は、必ずしも一定ではなく、閾値は、対象である個人に応じて、時間に応じて、及び/又は他のいくつかの因子に応じて変化する場合がある。また、一連の閾値を構築することも可能であり、この場合、各閾値は、HFpEF又は他の何らかの心臓の異常の具体的な可能性を表す。
【0008】
装置は、心運動を示すシグナルを測定するためのセンサーシステムを備えていてよい。センサーシステムは、心臓の角回転を測定するためのジャイロスコープ、及び/又は心臓の加速度を測定するための加速度計を備えていてよい。また、シグナルインターフェイスは、適切なセンサーシステムを備えた外部デバイスからのシグナルを受けることができることも可能であり、すなわち、装置は、心血管運動を示すシグナルを測定するための手段を必ずしも備えていないことが強調される。装置は、例えば、ジャイロスコープ及び/又は加速度計を備えたスマートフォン又は別の携帯型デバイスであってよい。装置は、心拍に起因する機械的シグナルを測定するために、個人の胸部に配置されてよい。
【0009】
本発明によると、心運動を示す上述のシグナルに基づいて、心臓の異常を示す情報を生成するための新規なコンピュータプログラムも提供される。コンピュータプログラムは、
- シグナルからの、心臓の拡張期に属する時間部分の抽出、
- 拡張期に属する時間部分のエネルギーを示す指標量の形成、及び
- 指標量と閾値との比較の結果に基づいた、心臓の異常の存在を表すための出力シグナルの設定、
を行うようにプログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含む。
【0010】
本発明によると、新規なコンピュータプログラム製品も提供される。コンピュータプログラム製品は、コンパクトディスク「CD」を例とする、本発明に従うコンピュータプログラムでコードされた不揮発性コンピュータ読み取り可能媒体を備える。
【0011】
本発明の様々な例示的で非限定的な実施形態は、添付の従属請求項に記載される。
【0012】
構造及び操作方法の両方に関する本発明の様々な例示的で非限定的な実施形態は、追加のその目的及び利点と共に、以下の具体的な例示的実施形態の記述を添付の図面と合わせて読むことで最も良く理解される。
【0013】
動詞「備える」及び「含む」は、本文書において、列挙されないさらなる特徴の存在を除外も必要ともしない非限定として用いられる。添付の従属請求項に列挙される特徴は、特に明示的な断りのない限り、互いに自由に組み合わせ可能である。さらに、「1つの(a)」又は「1つの(an)」、すなわち、単数形の使用は、本文書全体を通して、複数を除外するものではないことは理解されたい。
【0014】
本発明の例示的で非限定的な実施形態、及びそれらの利点は、添付の図面を参照して、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、心臓の異常を示す情報を生成するための本発明の例示的で非限定的な実施形態に従う装置の模式図を示す。
図2a図2aは、対象である個人の安静時における正常なケースでの心臓回転を示す例示的なシグナルの波形を示す。
図2b図2bは、冠動脈を拡張するためにアデノシン三リン酸「ATP」を注入した後の同じ個人から測定された心臓回転を示す別の例示的なシグナルの波形を示す。
図3a図3aは、対象である個人の安静時における、駆出率が保持された心不全「HFpEF」のケースでの心臓回転を示す例示的なシグナルの波形を示す。
図3b図3bは、冠動脈を拡張するためにアデノシン三リン酸「ATP」を注入した後の同じ個人から測定された心臓回転を示す別の例示的なシグナルの波形を示す。
図4a図4aは、対象である個人の安静時における正常なケースでの「胸部を貫通する」方向の加速度を示す例示的なシグナルの波形を示す。
図4b図4bは、対象である個人の安静時における、駆出率が保持された心不全「HFpEF」のケースでの「胸部を貫通する」方向の加速度を示す別の例示的なシグナルの波形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の記述に提供される具体的な例は、添付の請求項の範囲及び/又は適用可能性を限定するものとして解釈されてはならない。記述中に提供される例のリスト及び群は、特に明示的な断りのない限り、網羅的ではない。
【0017】
図1は、例えば駆出率が保持された心不全「HFpEF」などの心臓の異常を示す情報を生成するための本発明の例示的で非限定的な実施形態に従う装置100の模式図を示す。装置は、心運動を示すシグナルを受けるためのシグナルインターフェイス101、及びシグナルインターフェイス101と結合された処理システム102を備える。処理システム102は、
- シグナルからの、心臓の拡張期に属する時間部分の抽出、
- 拡張期に属する時間部分のエネルギーを示す指標量の形成、及び
- 指標量と閾値との比較の結果に基づいた、心臓の異常の存在を表すための装置の出力シグナルの設定、
を行うように構成されている。
【0018】
上述のシグナルは、心運動に対して応答するセンサーシステム103を用いて生成される。図1に示される例示的な状況ではセンサーシステム103は、個人107の胸部上に配置される。センサーシステム103は、例えば、ジャイロスコープ、加速度計、及び/又は加速度計とジャイロスコープとを両方備えた慣性測定ユニット「IMU」を備えていてよい。センサーシステム103は、例えば、微小電気機械システム「MEMS」であってよい。センサーシステムを用いて測定されるシグナルの時間長さは、必須ではないが、例えば、数十秒間から数十時間であってよい。装置の出力シグナルは、例えば、ユーザーインターフェイス104のディスプレイスクリーン上に表示されるメッセージであってよい。拡張期に属する時間部分は、例えば、それぞれ収縮期及び拡張期に関する既知の波形複合物(waveform complexes)に基づいていてよい適切な公知の方法を用いて、シグナルから認識し、抽出することができる。
【0019】
図1に示される例示的なケースでは、センサーシステム103は、各々が例えば無線リンク又は有線リンクであってよい1又は複数のデータ転送リンクを介して、シグナルインターフェイス101と接続されている。センサーシステム103からシグナルインターフェイス101へのデータ転送は、直接、又は例えば通信ネットワークなどのデータ転送ネットワーク105を介しての何れかで行われてよい。図1に示される例示的なケースでは、センサーシステム103は、無線送信機と接続されている。処理デバイス102を備えた装置が、センサーシステムと一体化されていることも可能である。この例示的なケースでは、シグナルインターフェイスは、実際には、センサーシステムから処理デバイスへの単純な配線である。一体化センサーシステムを備えた装置は、例えば、測定期間の間、個人の胸部上に配置することができる、スマートフォン又は別の携帯型デバイスであってよい。
【0020】
本発明の例示的で非限定的な実施形態に従う装置は、心運動を示すシグナルを記録するように構成されている。記録されたシグナルは、固定された開始時間点及び固定された終了時間点を有する時間ウィンドウ内で、又は固定された時間長さを有し、時間経過と共に移動するスライド時間ウィンドウ内で測定することができる。装置は、シグナルを記録するための内部メモリ106を備えていてよく、及び/又は装置は、外部メモリと接続するためのデータポートを備えていてもよい。
【0021】
心拍周期の拡張期に関するエネルギーを示す指標量を形成するための様々な方法が存在する。本発明の例示的で非限定的な実施形態に従う装置では、処理システム102は、以下の式に従って指標量を演算するように構成されており、
【数1】
式中、iは、時間と共に増加する指数であり、Nは、心拍周期の拡張期の間のシグナルから取ったサンプルの数である。シグナルが3軸ジャイロスコープを用いて測定される例示的なケースでは、xは、デカルト座標系199のx方向に関する心臓回転のi番目のサンプルであり、yは、デカルト座標系199のy方向に関する心臓回転のi番目のサンプルであり、zは、デカルト座標系199のz方向に関する心臓回転のi番目のサンプルである。シグナルが3軸加速度計を用いて測定される例示的なケースでは、xは、デカルト座標系199のx方向の加速度のi番目のサンプルであり、yは、デカルト座標系199のy方向の加速度のi番目のサンプルであり、zは、デカルト座標系199のz方向の加速度のi番目のサンプルである。センサーシステムは、ジャイロスコープ及び加速度計の両方を備えることも可能である。この例示的なケースでは、処理システム102は、心臓回転のx、y、及びz成分、並びに加速度のx、y、及びz成分の両方に対して、上記で提示した式(1)を適用するように構成されていてよい。最終的な指標量は、例えば、心臓回転及び加速度に対する演算結果の加重合計であってよい。
【0022】
本発明の例示的で非限定的な実施形態に従う装置では、処理システム102は、指標量が閾値を超えた状況に応答して、駆出率が保持された心不全「HFpEF」の存在を表すための装置の出力シグナルを設定するように構成されている。
【0023】
本発明の例示的で非限定的な実施形態に従う装置では、処理システム102は、各々がHFpEFを例とする心臓の異常の具体的な可能性を表すものである一連の閾値を維持するように構成されている。処理システム102は、指標量と閾値との比較の結果に基づいた心臓の異常の可能性を表すための装置の出力シグナルを設定するように構成されている。
【0024】
本発明の例示的で非限定的な実施形態に従う装置では、処理システム102は、シグナルからの時間部分の抽出を、抽出された時間部分が拡張期の終了部分を表すよう行うように構成されている。各終了部分は、対応する拡張期の、例えば最大で50%又は30%を包含し得る。実験データによると、加速度計を用いて測定され、拡張期の終了部分を表すシグナルの時間部分のエネルギーを、HFpEFの指標として用いることができる。
【0025】
処理システム102は、例えば、1又は複数のプロセッサ回路で実装することができ、その各々は、適切なソフトウェアを備えたプログラマブルプロセッサ回路、例えば特定用途向け集積回路「ASIC」などの専用ハードウェアプロセッサ、又は例えばフィールドプログラマブルゲートアレイ「FPGA」などの構成可能ハードウェアプロセッサであってよい。メモリ106は、例えば、1又は複数のメモリ回路で実装することができ、その各々は、例えば、ランダムアクセスメモリ「RAM」デバイスであってよい。
【0026】
図2aは、対象である個人の安静時における正常なケースでの心臓回転を示す例示的なシグナルの波形を示す。シグナルが3軸ジャイロスコープを用いて測定される例示的なケースでは、心臓回転は、次のように定めることができ、
【数2】
式中、iは、時間と共に増加する指数であり、xは、図1に示されるデカルト座標系199のx方向に関する心臓回転のi番目のサンプルであり、yは、デカルト座標系199のy方向に関する心臓回転のi番目のサンプルであり、zは、デカルト座標系199のz方向に関する心臓回転のi番目のサンプルである。
【0027】
図2bは、冠動脈を拡張するためにアデノシン三リン酸「ATP」を注入した後の同じ個人から測定された心臓回転を示す例示的なシグナルの波形を示す。
【0028】
図3aは、対象である個人の安静時における、駆出率が保持された心不全「HFpEF」のケースでの心臓回転を示す例示的なシグナルの波形を示す。図3bは、冠動脈を拡張するためにアデノシン三リン酸「ATP」を注入した後の同じ個人から測定された心臓回転を示す例示的なシグナルの波形を示す。図2a、2b、3a、及び3bに示されるように、心拍周期の拡張期に関するエネルギーは、図2a及び2bに示される正常なケースよりも、図3a及び3bに示されるHFpEFのケースの方が大きい。
【0029】
図4aは、対象である個人の安静時における正常なケースでの「胸部を貫通する」方向の加速度を示す例示的なシグナルの波形を示す。「胸部を貫通する」方向は、図1に示されるデカルト座標系199のz方向である。図4bは、対象である個人の安静時における、駆出率が保持された心不全「HFpEF」のケースでの「胸部を貫通する」方向の加速度を示す例示的なシグナルの波形を示す。図4a及び4bに示されるように、心拍周期の拡張期に関するエネルギーは、正常なケースよりもHFpEFのケースの方が大きい。
【0030】
本発明の例示的で非限定的な実施形態に従うコンピュータプログラムは、心運動を示すシグナルに基づいて、HFpEFを例とする心臓の異常を示す情報を生成するためのソフトウェアモジュールを含む。ソフトウェアモジュールは、
- シグナルからの、心臓の拡張期に属する時間部分の抽出、
- 拡張期に属する時間部分のエネルギーを示す指標量の形成、及び
- 指標量と閾値との比較の結果に基づいた、心臓の異常の存在を表すための出力シグナルの設定、
を行うようにプログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含む。
【0031】
本発明の例示的で非限定的な実施形態に従うコンピュータプログラムでは、ソフトウェアモジュールは、上記で提示した式(1)に従って指標量を演算するようにプログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含む。
【0032】
本発明の例示的で非限定的な実施形態に従うコンピュータプログラムでは、ソフトウェアモジュールは、シグナルからの時間部分の抽出を、抽出された時間部分が拡張期の終了部分を表すよう行うようにプログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含み、各終了部分は、対応する拡張期の、例えば最大で50%又は30%を包含する。
【0033】
本発明の例示的で非限定的な実施形態に従うコンピュータプログラムでは、ソフトウェアモジュールは、指標量が閾値を超えた状況に応答して、HFpEFの存在を表すための出力シグナルを設定するようにプログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含む。
【0034】
ソフトウェアモジュールは、例えば、適切なプログラミング言語で、並びにプログラミング言語及び対象のプログラマブル処理システムに適するコンパイラで実装されたサブルーチン又は関数であってもよい。適切なプログラミング言語に対応するソースコードも、コンピュータ実行可能ソフトウェアモジュールを表すことに注目すべきであり、なぜなら、ソースコードは、上記で提示したアクションを行うようにプログラマブル処理システムを制御するために必要な情報を含有しており、コンパイルは、情報のフォーマットを変更するだけであるからである。さらに、プログラマブル処理システムが、適切なプログラミング言語で実装されたソースコードに実行前のコンパイルを行う必要がなくなるように、インタプリタを備えていることも可能である。
【0035】
本発明の例示的で非限定的な実施形態に従うコンピュータプログラム製品は、本発明の実施形態に従うコンピュータプログラムでコードされた、コンパクトディスク(「CD」)を例とするコンピュータ読み取り可能媒体を備える。
【0036】
本発明の例示的で非限定的な実施形態に従うシグナルは、本発明の実施形態に従うコンピュータプログラムを定義する情報を持つようにコードされる。
【0037】
上記で与える記述に提供される具体的な例は、添付の請求項の範囲及び/又は適用可能性を限定するものとして解釈されてはならない。上記で与える記述中に提供される例のリスト及び群は、特に明示的な断りのない限り、網羅的ではない。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
【手続補正書】
【提出日】2021-04-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置(100)であって、
- 心運動を示すシグナルを受けるためのシグナルインターフェイス(101)、及び
- 前記シグナルインターフェイスと結合された処理システム(102)、
を備え、前記処理システムが、
- 前記シグナルからの、心臓の拡張期に属する時間部分の抽出、
- 前記拡張期に属する前記時間部分のエネルギーを示す指標量の形成、及び
- 前記指標量と閾値との比較の結果に基づいた、心臓の異常の存在を表すための前記装置の出力シグナルの設定、
を行うように構成されていることを特徴とする、装置(100)。
【請求項2】
前記装置が、前記心運動を示す前記シグナルを生成するためのセンサーシステム(103)を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記センサーシステムが、心臓の角回転を測定するためのジャイロスコープを備える、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記センサーシステムが、心臓の加速度を測定するための加速度計を備える、請求項2又は3に記載の装置。
【請求項5】
前記処理システムが、以下の式に従って前記指標量を演算するように構成されており、
【数1】
式中、iは、時間と共に増加する指数であり、Nは、前記拡張期に属する前記時間部分のサンプルの数であり、xは、デカルト座標系(199)のx方向に関する心臓回転又はx方向の加速度のi番目のサンプルであり、yは、前記デカルト座標系のy方向に関する心臓回転又はy方向の加速度のi番目のサンプルであり、zは、前記デカルト座標系のz方向に関する心臓回転又はz方向の加速度のi番目のサンプルである、請求項1からの何れか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記処理システムが、前記シグナルからの前記時間部分の抽出を、前記抽出された時間部分が前記拡張期の終了部分を表すよう行うように構成されており、各終了部分は、前記対応する拡張期の最大で50%を包含する、請求項1からの何れか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記処理システムが、前記指標量が前記閾値を超えた状況に応答して、駆出率が保持された心不全「HFpEF」の存在を表すための前記出力シグナルを設定するように構成されている、請求項1からの何れか一項に記載の装置。
【請求項8】
心運動を示すシグナルを処理するようにプログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムが、
- 前記シグナルからの、心臓の拡張期に属する時間部分の抽出、
- 前記拡張期に属する前記時間部分のエネルギーを示す指標量の形成、及び
- 前記指標量と閾値との比較の結果に基づいた、心臓の異常の存在を表すための出力シグナルの設定、
を行うように前記プログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含むことを特徴とする、コンピュータプログラム。
【請求項9】
前記コンピュータプログラムが、以下の式に従って前記指標量を演算するように前記プログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含み、
【数2】
式中、iは、時間と共に増加する指数であり、Nは、前記拡張期に属する前記時間部分のサンプルの数であり、xは、デカルト座標系(199)のx方向に関する心臓回転又はx方向の加速度のi番目のサンプルであり、yは、前記デカルト座標系のy方向に関する心臓回転又はy方向の加速度のi番目のサンプルであり、zは、前記デカルト座標系のz方向に関する心臓回転又はz方向の加速度のi番目のサンプルである、請求項8に記載のコンピュータプログラム。
【請求項10】
前記コンピュータプログラムが、前記シグナルからの前記時間部分の抽出を、前記抽出された時間部分が前記拡張期の終了部分を表すよう行うように前記プログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含み、各終了部分は、前記対応する拡張期の最大で50%を包含する、請求項8又は9に記載のコンピュータプログラム。
【請求項11】
前記コンピュータプログラムが、前記指標量が前記閾値を超えた状況に応答して、駆出率が保持された心不全「HFpEF」の存在を表すための前記出力シグナルを設定するように前記プログラマブル処理システムを制御するためのコンピュータ実行可能命令を含む、請求項8または9に記載のコンピュータプログラム。
【請求項12】
請求項8または9に記載のコンピュータプログラムでコードされた非一時的コンピュータ読み取り可能媒体を備えるコンピュータプログラム製品。
【国際調査報告】