(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】赤外線透過バリアを有するガラス成形装置、及びこれを用いてガラスを冷却する方法
(51)【国際特許分類】
C03B 17/06 20060101AFI20220105BHJP
C03B 25/12 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C03B17/06
C03B25/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518070
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(85)【翻訳文提出日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 US2019053798
(87)【国際公開番号】W WO2020072355
(87)【国際公開日】2020-04-09
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】油田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】アグラワル,アンモル
(72)【発明者】
【氏名】モン,ジエンドン
(72)【発明者】
【氏名】ポン,ガオジュー
【テーマコード(参考)】
4G015
【Fターム(参考)】
4G015CA01
4G015CB01
4G015CC02
(57)【要約】
本出願では、ガラス成形装置の実施形態を開示する。一実施形態では、ガラス成形装置は、成形用本体であって、ドロー方向において上記成形用本体から延在するドロー平面を画定する、成形用本体を含んでよい。能動冷却型ヒートシンクは、上記ドロー方向において上記成形用本体の下方に位置決めしてよく、また上記ドロー平面から離間していてよい。赤外線透過バリアは、上記能動冷却型ヒートシンクと上記ドロー平面との間に位置決めしてよい。上記赤外線透過バリアは、上記能動冷却型ヒートシンクの付近に位置決めされた赤外線透過壁、又は上記能動冷却型ヒートシンクの周りに位置決めされた赤外線透過ジャケットを備えてよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス成形装置であって、
前記ガラス成形装置は:
成形用本体であって、ドロー方向において前記成形用本体から延在するドロー平面を画定する、成形用本体;
前記ドロー方向において前記成形用本体の下方に位置決めされ、また前記ドロー平面から離間している、能動冷却型ヒートシンク;及び
前記能動冷却型ヒートシンクと前記ドロー平面との間に位置決めされた、赤外線透過バリア
を備える、ガラス成形装置。
【請求項2】
前記ドロー方向において前記成形用本体の下方に位置決めされた、厚さ制御部材;及び
前記能動冷却型ヒートシンクから前記ドロー方向に位置決めされた、バッフル
を更に備え、
前記能動冷却型ヒートシンク及び前記赤外線透過バリアは、前記厚さ制御部材と前記バッフルとの間に位置決めされる、請求項1に記載のガラス成形装置。
【請求項3】
前記赤外線透過バリアは、前記能動冷却型ヒートシンクと前記ドロー平面との間に位置決めされた赤外線透過壁を含む、請求項1又は2に記載のガラス成形装置。
【請求項4】
前記赤外線透過バリアは、前記能動冷却型ヒートシンクの少なくとも一部分の周りに位置決めされた赤外線透過ジャケットを含む、請求項1又は2に記載のガラス成形装置。
【請求項5】
前記赤外線透過バリアは、約0.5μm~約6μmの波長において30%以上の赤外線透過率を有する材料を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス成形装置。
【請求項6】
ガラスリボンを成形する方法であって、
前記方法は:
前記ガラスリボンを成形用本体からドロー方向に引き出すステップ;
前記ガラスリボンを、前記ドロー方向において前記成形用本体の下方に位置決めされた能動冷却型ヒートシンクに前記ガラスリボンを通すことによって、冷却するステップであって、赤外線透過バリアが、前記能動冷却型ヒートシンクと前記ドロー平面との間に位置決めされているステップ;及び
前記ガラスリボンに隣接して循環する空気の渦を安定化するステップ
を含む、方法。
【請求項7】
前記空気の渦は、前記赤外線透過バリアを用いて前記空気の渦の冷却を低減することによって安定化される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記赤外線透過バリアは、前記能動冷却型ヒートシンクと前記ガラスリボンとの間に位置決めされた赤外線透過壁を含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記赤外線透過バリアは、前記能動冷却型ヒートシンクの少なくとも一部分の周りに位置決めされた赤外線透過ジャケットを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
前記赤外線透過バリアは、約0.5μm~約6μmの波長において30%以上の赤外線透過率を有する材料を含む、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、2018年10月5日出願の米国仮特許出願第62/741,742号に対する優先権の利益を主張するものであり、上記仮特許出願の内容は依拠され、参照によりその全体が、以下に完全に記載されているかのように本出願に援用される。
【技術分野】
【0002】
本明細書は一般に、ガラス製造作業で使用されるガラス成形装置に関し、特に、ガラス成形装置内の空気の温度低下を制限する赤外線透過バリアを備える、ガラス成形装置に関する。
【背景技術】
【0003】
カバーガラス、ガラス背面等のガラス物品は、LCD及びLEDディスプレイ、コンピュータモニタ、現金自動預け払い機(ATM)等の、消費者向け及び商用の両方の電子デバイスにおいて一般的に使用される。様々な製造技法を利用して、溶融ガラスをガラスのリボンに成形してよく、次にこのガラスのリボンを、上述のようなデバイスに組み込むための個々のガラス基板へと細分化する。これらの製造技法としては、限定ではなく例として、スロットドロープロセス及びフュージョン成形プロセス等のダウンドロープロセス、アップドロープロセス、並びにフロートプロセスが挙げられる。
【0004】
使用されるプロセスにかかわらず、ガラスリボンの幅及び/又は厚さの偏差は、製造スループットを低下させる、及び/又は製造コストを増大させる可能性がある。というのは、上記ガラスリボンの、幅及び/又は厚さの偏差を有する部分が、廃ガラスとして廃棄されるためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、ガラスリボンの幅及び/又は厚さの偏差を軽減する、ガラスリボンを成形するためのガラス成形装置及び方法に対して、需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様A1によると、ガラス成形装置は、成形用本体であって、ドロー方向において上記成形用本体から延在するドロー平面を画定する、成形用本体を備えてよい。能動冷却型ヒートシンクは、上記ドロー方向において上記成形用本体の下方に位置決めしてよく、また上記ドロー平面から離間していてよい。赤外線透過バリアは、上記能動冷却型ヒートシンクと上記ドロー平面との間に位置決めされる。
【0007】
第2の態様A2は、上記ドロー方向において上記成形用本体の下方に位置決めされた厚さ制御部材、及び上記能動冷却型ヒートシンクから上記ドロー方向に位置決めされたバッフルを更に備え、上記能動冷却型ヒートシンク及び上記赤外線透過バリアは、上記厚さ制御部材と上記バッフルとの間に位置決めされる、態様A1に記載のガラス成形装置を含む。
【0008】
第3の態様A3は、上記バッフルが上記ドロー平面に向かって延在する、態様A2に記載のガラス成形装置を含む。
【0009】
第4の態様A4は、上記厚さ制御部材が、スライドゲートと、上記スライドゲートから上記ドロー方向に位置決めされた冷却用扉とを備える、態様A2又はA3に記載のガラス成形装置を含む。
【0010】
第5の態様A5は、上記赤外線透過バリアが、上記能動冷却型ヒートシンクと上記ドロー平面との間に位置決めされた赤外線透過壁を含む、態様A1~A4のいずれか1つに記載のガラス成形装置を含む。
【0011】
第6の態様A6は、上記赤外線透過バリアが、上記能動冷却型ヒートシンクの少なくとも一部分の周りに位置決めされた赤外線透過ジャケットを含む、態様A1~A4のいずれか1つに記載のガラス成形装置を含む。
【0012】
第7の態様A7は、上記赤外線透過バリアが、約0.5μm~約6μmの波長において30%以上の赤外線透過率を有する材料を含む、態様A1~A6のいずれか1つに記載のガラス成形装置を含む。
【0013】
第8の態様A8は、上記赤外線透過バリアが上記能動冷却型ヒートシンクから離間している、態様A1~A7のいずれか1つに記載のガラス成形装置を含む。
【0014】
第9の態様A9では、ガラスリボンを成形する方法は、上記ガラスリボンを成形用本体からドロー方向に引き出すステップを含んでよい。次に上記ガラスリボンを、上記ドロー方向において上記成形用本体の下方に位置決めされた能動冷却型ヒートシンクに上記ガラスリボンを通すことによって、冷却してよい。赤外線透過バリアを、上記能動冷却型ヒートシンクと上記ドロー平面との間に位置決めしてよく、上記赤外線透過バリアは上記ガラスリボンに隣接して循環する空気の渦を安定化する。
【0015】
第10の態様A10は、上記空気の渦が、上記赤外線透過バリアを用いて上記空気の渦の冷却を低減することによって安定化される、態様A9に記載の方法を含む。
【0016】
第11の態様A11は、上記赤外線透過バリアが、上記能動冷却型ヒートシンクと上記ガラスリボンとの間に位置決めされた赤外線透過壁を含む、態様A9又は態様A10に記載の方法を含む。
【0017】
第12の態様A12は、上記赤外線透過バリアが、上記能動冷却型ヒートシンクの少なくとも一部分の周りに位置決めされた赤外線透過ジャケットを含む、態様A9又は態様A10に記載の方法を含む。
【0018】
第13の態様A13は、上記赤外線透過バリアが、約0.5μm~約6μmの波長において30%以上の赤外線透過率を有する材料を含む、態様A9~A12のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0019】
第14の態様A14は、上記赤外線透過バリアが上記能動冷却型ヒートシンクから離間している、態様A9~A13のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0020】
第15の態様A15は、上記能動冷却型ヒートシンクが上記赤外線透過バリアの温度未満の温度に維持される、態様A9~A14のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0021】
第16の態様A16は:厚さ制御部材が、ドロー方向において上記成形用本体の下方に位置決めされ;バッフルが、上記能動冷却型ヒートシンクから上記ドロー方向に位置決めされ、ここで上記能動冷却型ヒートシンク及び上記赤外線透過バリアは、上記厚さ制御部材と上記バッフルとの間に位置決めされ、上記バッフル及び上記厚さ制御部材は部分閉鎖領域の範囲を定め;上記空気の渦が上記部分閉鎖領域内で循環する、態様A9~A15のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0022】
第17の態様A17は、上記厚さ制御部材が、スライドゲートと、上記スライドゲートから上記ドロー方向に位置決めされた冷却用扉とを備える、態様A16に記載の方法を含む。
【0023】
第18の態様A18は、上記ガラスリボンが上記部分閉鎖領域内で粘性又は粘弾性状態である、態様A16又は態様A17に記載の方法を含む。
【0024】
第19の態様A19は、上記部分閉鎖領域内の固定位置において測定される空気の温度変動が、10秒にわたって0.4℃未満である、態様A16~A18のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0025】
第20の態様A20は、上記部分閉鎖領域内の固定位置において測定される空気の温度変動が、10秒にわたって0.2℃未満である、態様A16~A18のいずれか1つに記載の方法を含む。
【0026】
上述の「発明の概要」及び以下の「発明を実施するための形態」はいずれも単なる例であり、請求対象の主題の性質及び特徴を理解するための概観又は枠組みを提供することを目的としていることを理解されたい。添付の図面は、更なる理解を提供するために含まれており、本明細書に組み込まれて本明細書の一部を構成する。これらの図面は1つ以上の実施形態を図示しており、本説明と併せて、これらの様々な実施形態の原理及び動作を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本明細書に図示及び記載されている1つ以上の実施形態によるガラス成形装置の概略図
【
図2】本明細書に図示及び記載されている1つ以上の実施形態によるガラス成形装置の側面断面図
【
図3】本明細書に図示及び記載されている1つ以上の実施形態によるガラス成形装置の側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
これより、ガラス成形装置の様々な実施形態について詳細に言及する。これらの実施形態の例は添付の図面に図示されている。可能な限り、図面全体を通して、同一又は同様の部品を指すために同一の参照番号を使用する。図面中の構成要素は必ずしも縮尺が正確ではなく、例示的実施形態の原理を例示するために強調が施される。
【0029】
数値(範囲の端点を含む)は、本明細書では、用語「約(about)」、「およそ(approximately)」等が前に付けられた概数として表現され得る。このような場合、他の実施形態は、その特定の数値を含む。ある数値が概数として表現されているかどうかに関わらず、本開示には:概数として表現されたもの;及び概数として表現されていないものという2つの実施形態が含まれる。更に、各範囲の端点は、他方の端点との関係でも、また他方の端点と独立しても、重要であることが理解されるだろう。
【0030】
特段の記載がない限り、本明細書に記載のいずれの方法が、そのステップを特定の順序で実施することを必要とするものとして解釈されること、及びいずれの装置について特定の配向が必要とされることは、全く意図されていない。従って、方法クレームが、その複数のステップが従うべき順序を実際に記載していない場合、あるいはいずれの装置クレームが、個々の構成部品に対して順序又は配向を実際に記載していない場合、あるいは特許請求の範囲若しくは明細書において、これらのステップが特定の順序に限定されるべきであること、又は装置の構成部品の特定の順序若しくは配向が必要となることが、具体的に記載されていない場合、順序又は配向が推定されることは、いかなる点でも一切意図されていない。これは:複数のステップの配置、動作フロー、構成部品の順序、又は構成部品の配向に関する論理の問題;文法的構成又は句読点から導出される明白な意味;及び本明細書に記載の実施形態の個数又はタイプを含む、解釈のためのいずれの非明示的根拠にも当てはまる。
【0031】
本明細書中で使用される場合、方向に関する用語、例えば「上(up)」、「下(down)」、「右(right)」、「左(left)」、「前(front)」、「後(back)」、「上部(top)」、「下部(bottom)」は、図示されている状態の図面を参照して使用されているだけのものであり、絶対的な配向を含意することを意図したものではない。
【0032】
本明細書中で使用される場合、用語「…を備える(comprising)」及び「…を含む(including)」、並びにこれらの変化形は、特段の記載がない限り、同義かつ非制限的なものと解釈されるものとする。
【0033】
本明細書中で使用される場合、句「能動冷却型ヒートシンク(actively cooled thermal sink)」は、昇温下の環境内に位置決めされた装置であって、該環境から熱エネルギを吸収して除去する、装置を指す。能動冷却型ヒートシンクには、能動冷却型ヒートシンクが吸収する熱エネルギの速度を変調するために制御できる、熱交換媒体が組み込まれている。
【0034】
本明細書中で使用される場合、句「赤外線透過(infrared‐transparent)」は、この語句によって修飾された物品が、該物品に入射した赤外線照射の少なくとも一部分を通過させることを意味する。例えば「赤外線透過」バリアは、該バリアに入射した赤外線照射の少なくとも一部分が、該バリアによって吸収されて該バリアを放射熱伝達によって加熱するのではなく、該バリアを通過する、バリアである。
【0035】
本明細書中で使用される場合、「粘弾性状態(viscoelastic state)」は、ガラスの粘度が約1×108ポアズ~約1×1014ポアズである、ガラスの物理的状態を指す。
【0036】
本明細書中で使用される場合、「粘性状態(viscous state)」は、ガラスの粘度が粘弾性状態のガラスの粘度より低い、例えば約1×108ポアズより低い、ガラスの物理的状態を指す。
【0037】
本明細書中で使用される場合、単数形「ある(a、an)」及び「上記(the)」は、文脈によってそうでないことが明示されていない限り、複数の参照物を含む。従って例えば、「ある」構成部品に対する言及は、文脈によってそうでないことが明示されていない限り、2つ以上のこのような構成要素を有する態様を含む。
【0038】
ここで
図1を参照すると、ガラス成形装置100が概略図で示されている。本明細書中で更に詳細に説明されるように、溶融ガラスは、成形用本体90から流れ出して、ガラスリボン86として引き出される。ガラスリボン86が成形用本体90から引き出される際、ガラスリボン86は冷却され、ガラスリボン86の粘度が上昇する。このようなガラスの粘度の上昇により、ガラスリボンは、ガラスリボンに印加される牽引力に耐えることができ、これによってガラスリボンの厚さを管理できる。ガラス成形装置100の部品、並びに成形用本体90及びガラスリボン86を取り囲む空気は、溶融ガラス及びガラスリボン86の温度を調整する。特定のガラス組成物及び/又はガラスリボンの構成は、追加の熱管理、例えばガラスリボンの粘度を低減するための急速冷却を必要とする特性を有する場合がある。しかしながら、ガラスリボンの冷却は、ガラス成形装置100内のガラスリボン86の付近の領域における不安定性につながる場合がある。例えば、ガラスリボン86を取り囲むエンクロージャ130内の領域における、不均一な空気流、又は空気の不均一な温度は、ドロー方向横断方向におけるガラスリボンの厚さ及び/又はガラスリボンの幅の変動につながる可能性がある。
【0039】
例えば、熱管理に寄与するガラス成形装置の要素は、高スループットでのガラスの製造も支援できるが、これは、溶融ガラスの質量流量の上昇、及びこれに対応する熱負荷の増大に対応し、上記熱負荷は、ガラスリボンを成形用本体から引き出す際にガラスリボンを安定化するために、所与の時間内に放散させる必要がある。より高いガラスのスループット率を原因とする熱負荷の増大は、従来の比較的低いスループット率と比較して同等の温度を維持するために、ガラスからの熱交換速度を上昇させることを必要とする。しかしながら、ガラスリボンの急速冷却は、ガラス成形装置内の空気の流れを妨げ、これはガラスリボン内の欠陥につながる可能性がある。
【0040】
以下で更に詳細に説明するように、本開示は、ガラスリボンの複数の部分を取り囲むガラス成形装置内の空気の温度の低下を制限するための赤外線透過バリアを備える、ガラスリボンを成形するためのガラス成形装置を対象とする。本明細書に記載されているように、多量の熱エネルギをガラスリボンから能動冷却型ヒートシンクへと放散させることにより、溶融ガラスを冷却でき、これによって、牽引力に耐えるために好適な目標粘度を達成できる。本明細書に記載の実施形態では、赤外線透過バリアは、能動冷却型ヒートシンクが、ガラスリボンを取り囲む空気から、望ましくない多量の熱を引き出すのを防止する。ガラスリボンを取り囲む領域の空気の温度損失を制限することにより、空気の安定した渦の形成が促進され、これは、ガラスリボンの安定した冷却を促進し、ガラスリボンの厚さ及び/又は幅の変動といった欠陥の形成を軽減する。
【0041】
具体的には、本開示によるガラス成形装置の実施形態は、ガラスリボンを成形用本体から引き出す際に、ガラスリボンから熱を吸収するように位置決めされた、能動冷却型ヒートシンクを備える。ガラスリボンからの熱は能動冷却型ヒートシンクによって放散され、これによりガラスリボンが冷却される。ガラスリボンの冷却により、ガラスリボンに隣接する空気の温度も低減され得る。ガラスリボンに隣接する空気の温度の低減は望ましくない場合がある。というのは、空気の温度の低下により、ガラスリボンと能動冷却型ヒートシンクとの間を循環する安定した渦の形成が阻害され、これは最終的に、ガラスリボンの幅及び/又は長さの変動といったガラスリボンの欠陥をもたらすためである。このような欠陥を軽減するために、本開示によるガラス成形装置の実施形態は赤外線透過バリアも備え、これは、ガラスリボンと赤外線透過バリアとの間に位置する空気の温度を、能動冷却型ヒートシンクの温度より高く維持することにより、ガラスリボンの幅及び/又は厚さの望ましくない変動といったガラスリボンの欠陥を軽減する。
【0042】
赤外線透過バリアは、ガラス成形装置内の空気の渦の安定化を支援する。空気の安定した渦は、対流によって駆動される。ガラスリボンの付近の空気は、周囲の空気に比べて高温であり、密度が低いため、上向き方向に循環する傾向を有し、被冷却壁及び/又は能動冷却型ヒートシンク等の冷却部品の付近の空気は、周囲の空気に比べて低温であり、密度が高いため、下向き方向に循環する傾向を有し得る。ガラスを急速に冷却すること等によって、ガラスリボンに隣接する空気の温度を更に低下させると、渦の安定性が損なわれる場合がある。例えば、冷却された空気は、密度が高すぎて上向き方向に循環できない場合がある。このような場合、ガラス成形装置内の渦の安定性は妨げられ、ガラスリボンの付近の領域の空気流は均一に流れない。これらの領域の空気流の不安定性は、ガラスリボンに沿った温度変動につながる可能性があり、これは、ドロー方向横断方向におけるガラスリボンの厚さの変動及び/又は幅の変動といった、ガラスリボンの欠陥につながる可能性がある。このような欠陥は、ガラスリボンの不規則又は不均一な冷却によって引き起こされる。
【0043】
本明細書に記載のガラス成形装置の一実施形態は、ドロー方向に延在するドロー平面を画定する成形用本体を備える。ガラス成形装置は、ドロー平面から離間した厚さ制御部材を備える。厚さ制御部材は、ドロー方向において成形用本体の基部の下方に位置決めされる。ガラス成形装置は更に、成形用本体及び厚さ制御部材からドロー方向に位置決めされ、またガラスリボンから離間した、能動冷却型ヒートシンクを備える。ガラス成形装置は更に、能動冷却型ヒートシンクとドロー平面との間に位置決めされた赤外線透過バリアを備える。ガラス成形装置は、能動冷却型ヒートシンクからドロー方向に位置決めされたバッフルを含んでよい。
【0044】
溶融ガラスは、成形用本体に導入されて、ガラスリボンとして成形用本体から引き出され、上記ガラスリボンは成形用本体から離れるようにドロー方向に移動する。ガラスリボンは、熱を、能動冷却型ヒートシンクへと放散する。ガラスリボン及び能動冷却型ヒートシンクの付近の領域の空気は、赤外線透過バリアによって能動冷却型ヒートシンクから隔てられる。赤外線透過バリアにより、熱をガラスリボンから能動冷却型ヒートシンクへと放散できるが、空気から能動冷却型ヒートシンクへの熱伝達の速度が低減される。この領域における空気からの熱伝達の速度を低減することにより、空気は、ガラスリボン及び能動冷却型ヒートシンクに隣接した領域内で循環する安定した渦を形成でき、これにより、ガラスリボンを冷却しながら、ガラスリボンの周りに安定した熱的条件を提供できる。これにより、ガラスリボンの幅及び/又は厚さの変動といったガラスリボンの欠陥の発生が軽減される。
【0045】
本開示による実施形態は全体として、ガラスリボンを成形用本体から下向きに引き出すフュージョンドロープロセスに関して説明されるが、本明細書に記載のガラス成形装置の要素は、ガラスリボンを引き出す方向に関係なく、多様なガラス成形プロセス、例えばスロット成形、アップドロー、又はフロートプロセスに組み込むことができる。
【0046】
ここで
図1を参照すると、ガラスリボン86等のガラス物品を作製するための例示的なガラス成形装置100の一実施形態が、概略図で示されている。ガラス成形装置100は一般に、貯蔵用蓋付き容器18からバッチ材料16を受承するよう構成された溶融用容器15を備えてよい。バッチ材料16は、モータ22によって動力供給されるバッチ送達デバイス20によって、溶融用容器15に導入できる。モータ22を起動するために、任意のコントローラ24を設けてよく、溶融ガラス液位プローブ28を用いて、スタンドパイプ30内のガラス溶融物の液位を測定し、測定した情報をコントローラ24に通信できる。
【0047】
ガラス成形装置100はまた、第1の接続チューブ36を介して溶融用容器15に連結された清澄用容器38も含むことができる。混合用容器42は、第2の接続チューブ40によって清澄用容器38に連結される。送達用容器46は、送達導管44によって混合用容器42に連結される。更に図示されているように、溶融ガラスを送達用容器46から成形用本体90の成形用本体流入口50へと送達するように、下降管48が位置決めされる。成形用本体90は、エンクロージャ130内に位置決めされていてよい。エンクロージャ130は、ドロー方向88(即ち図面に図示された座標軸の-Z方向に対応する、垂直下向きの方向)に延在してよい。本明細書に図示及び記載されている実施形態では、成形用本体90はフュージョン成形用容器である。具体的には、成形用本体90は、トラフ62と、トラフ62の境界を定める、対向する堰64のペア(1つが
図1に示されている)とを有する。垂直面のペアが、堰64のペアから区切り線91のペア(1つが
図1に示されている)まで、垂直下向き方向に延在する。対向する集束表面92のペア(1つが
図1に示されている)は、区切り線91のペアから垂直下向き方向に延在して、成形用本体90の基部94において集束する。
【0048】
図1は、フュージョン成形用容器を成形用本体90として示しているが、限定するものではないがスロットドロー成形用本体等を含む他の成形用本体も、本明細書に記載の方法及び装置と適合する。
【0049】
動作時、送達用容器46からの溶融ガラスは、下降管48、成形用本体流入口50を通って、トラフ62内へと流れる。トラフ62内の溶融ガラスは、トラフ62の境界を定める堰64のペアを越えて、基部94で集束する集束表面92のペアを下方(-Z方向)に流れ落ち、ガラスリボン86を形成する。
【0050】
ここで
図2を参照すると、溶融ガラス80は、成形用本体90の集束表面92に沿って、複数の流れとして流れる。溶融ガラス80の複数の流れは一体となり、基部の94の下方で融合する。ガラスは、成形用本体90からドロー方向88に、ガラスリボン86として引き出される。成形用本体90は、基部94からドロー方向88に延在するドロー平面96を画定する。ガラスリボン86は、ドロー平面96上において成形用本体90から引き出される。
図2に示されている実施形態では、ドロー平面96は垂直平面に対して略平行(即ち図面に図示されている座標軸のX‐Z平面に対して平行)である。
【0051】
溶融ガラス80は、溶融ガラス80が粘性状態から粘弾性状態へ、そして最終的には弾性状態へと冷却されるに従って、粘度が上昇する。ガラスの粘度は例えば、基部の下方に位置決めされた牽引ローラ(図示せず)によってガラスに印加される牽引力に、ガラスが耐えられるかどうかを決定する。ガラスを成形用本体90から引き出す温度において粘度が比較的低いガラス組成物は、この比較的低い粘度を理由として、ガラスが耐えることができる、低減された牽引力を必要とする場合がある。本開示による実施形態は、ガラスリボンの幅及び/又は厚さの変動といったガラスリボンの欠陥の形成を軽減しながら、ガラスリボン86の冷却を安定化する(ことによって粘度を上昇させる)ための要素を備える。
【0052】
引き続き
図2を参照すると、ガラス成形装置100は更に、エンクロージャ130を通って延在する厚さ制御部材120を備える。厚さ制御部材120は一般に、ドロー平面96の幅方向においてドロー平面96に対して平行に(即ち図面に図示された座標軸の±X方向に)延在し、ドロー平面に対して直交方向に(即ち図面に図示された座標軸の±Y方向に)、ドロー平面96から離間している。厚さ制御部材120の少なくとも一部分は、ドロー方向88において、成形用本体90の基部94の下方に位置決めされる。
図2に示されている実施形態では、厚さ制御部材120は、成形用本体90の基部94の付近に位置決めされたスライドゲート122と、スライドゲート122からドロー方向88に位置決めされた冷却用扉124とを備える(即ち冷却用扉124は、ドロー方向88においてスライドゲート122の下方に位置決めされる)。
【0053】
ガラス成形装置100はまた、ドロー方向88において成形用本体90の下方かつ厚さ制御部材120の下方に位置決めされた、能動冷却型ヒートシンク140を備える。ガラス成形装置100はまた、ドロー方向88において能動冷却型ヒートシンク140の下方に位置決めされた、バッフル170も備える。ガラス成形装置100の定常状態動作中、バッフル170は、ドロー平面96に向かって伸長され、これによって厚さ制御部材120とバッフル170との間に、ドロー平面96に沿った部分閉鎖領域150を形成する。バッフル170は(ドロー平面96に向かって伸長されると)、バッフル170及び厚さ制御部材120によって2面の境界が定められた部分閉鎖領域150内に、空気の安定した渦を確立するのを容易にする。バッフル170はまた、バッフル170からドロー方向88に位置決めされたガラス成形装置100の部品が加熱されるのを防止する、放射シールドとしても機能する。様々な実施形態では、バッフル170は、ガラス成形装置100内にヒンジで取り付けられ、従ってバッフル170を、ドロー平面96から離れるように枢動させることができる。例えば、ガラス成形装置100の始動中にバッフル170をドロー平面96から離れるように枢動させることによって、ガラスリボン86を、ドロー平面96に沿ってガラス成形装置100に通すことができる。その後、ガラス成形装置100の定常状態動作が達成された後で、バッフル170をドロー平面96に向かって枢動させてよい。
【0054】
厚さ制御部材120、能動冷却型ヒートシンク140、及びバッフル170は、ガラスリボン86の幅に沿って延在し、これは
図2に示されている視野に対して垂直な配向である(即ちガラスリボンの幅は、図面に図示された座標軸の±X方向に延在する)。厚さ制御部材120、能動冷却型ヒートシンク140、及びバッフル170は、ドロー平面96から離間しており、従ってこれらの要素は溶融ガラス80又はガラスリボン86と接触しない。
【0055】
実施形態では、能動冷却型ヒートシンク140には、能動冷却要素、例えばガラスリボン86の幅に対して概ね平行に延在する流体導管142が組み込まれている。能動冷却型ヒートシンク140は、流体導管142を通って流れる冷却流体を備えてよい。冷却流体は、流体導管142の温度を制御し、ガラスリボン86からの熱を冷却流体へと放散させることができる。冷却流体を流体導管142から流出させることによって、熱をガラス成形装置100から除去できる。具体的には、ガラスリボン86からの熱は、流体導管142内の冷却流体を加熱し、冷却流体は、流体導管142を通って流れる際に、ガラス成形装置100から熱を運び去る。
【0056】
いくつかの実施形態では、流体導管142を通って流される冷却流体、及び冷却流体の流量は、冷却流体の熱的特性、及びガラス成形装置100から放散するべき熱の量に基づいて選択できる。一般に、冷却流体は、冷却流体の熱容量に基づいて選択してよい。一般に、液体の密度は高い熱容量をもたらす傾向を有するため、液体の冷却流体が好まれ得る。許容可能な冷却流体の例としては、限定ではなく例示として、空気、水、窒素、水蒸気、又は市販の冷媒が挙げられる。いくつかの実施形態では、冷却流体及び冷却流体の流量は、冷却流体が流体導管を通過する際に相変化を起こさないように選択してよい。いくつかの実施形態では、冷却流体は、流体導管142及び冷却系(図示せず)を通して循環させてよく、これにより閉ループ系内で流体の温度を維持する。他の実施形態では、流体は、流体導管142を通過した後に排出してよい。
【0057】
引き続き
図2を参照すると、ガラス成形装置100は更に、能動冷却型ヒートシンク140とドロー平面96との間に位置決めされた赤外線透過バリア160を備える。
図2に示されている実施形態では、赤外線透過バリア160は、ドロー平面96と能動冷却型ヒートシンク140との間に位置決めされた赤外線透過壁162である。赤外線透過バリア160は、バリアに入射した赤外線照射の少なくとも一部分を通過させる、又は部分的に通過させることができる。具体的には、赤外線透過バリア160は、例えば伝導又は対流熱伝達によるエネルギの流れを中断することなく、放射熱伝達からの熱エネルギを通過させることができる。
【0058】
赤外線透過バリア160は、バリアに入射する約0.5マイクロメートル(μm)~約6μmの赤外線照射の波長に関して、30%以上の赤外線透過率を有する材料から作製してよい。このような材料は、40%以上、50%以上、又は60%以上もの赤外線透過率を示してよい。このような材料の例としては、限定ではなく例として、透過性β‐SiC、高純度溶融シリカ、赤外線透過製ムライトセラミック、及びEurokera製KeraBlack(登録商標)等のガラスセラミックが挙げられる。
【0059】
赤外線透過壁162は能動冷却型ヒートシンク140から離間しており、従って能動冷却型ヒートシンク140と赤外線透過壁162との間の伝導及び対流熱伝達は制限される。能動冷却型ヒートシンク140と赤外線透過壁162との間の伝導及び対流熱伝達が制限されることにより、能動冷却型ヒートシンク140及び赤外線透過壁162を、ガラス成形装置100の動作中、異なる温度に維持できる。しかしながら、熱放射の形態の熱は、赤外線透過壁162を通って能動冷却型ヒートシンク140に伝達され続ける。
【0060】
本明細書に記載されているように、厚さ制御部材120及びバッフル170は、ドロー平面96の付近のガラス成形装置100の部分閉鎖領域150を画定する。ガラス成形装置100内でガラスを製造しているとき、ガラスリボン86は、成形用本体90から、厚さ制御部材120、能動冷却型ヒートシンク140、及びバッフル170を通るように引き出される。ガラスリボン86は、能動冷却型ヒートシンク140より高温である。従ってガラスリボン86からの熱は、放射熱伝達によって能動冷却型ヒートシンク140内へと放散され、流体導管142の冷却流体によって運び去られる。ガラスリボン86と能動冷却型ヒートシンク140との間の温度差が大きいため、ドロー方向88に沿った短い距離において、相当な熱をガラスリボン86から放散させることができる。多量の熱の放散は、ガラスリボン86の温度の急速な低下が目標となるガラス製造作業にとって有益となり得る。
【0061】
本明細書に記載の実施形態では、空気の渦152(即ち空気の循環流)は、厚さ制御部材120とバッフル170との間の部分閉鎖領域150内で形成される。ガラスリボン86の付近に位置決めされた空気は一般に、ガラスリボン86から離れて位置決めされた空気、例えば能動冷却型ヒートシンク140に隣接する空気よりも高温である。空気の温度の変動は、空気の密度の変動に対応し、高温の空気は低温の空気よりも密度が低く、従って浮力が大きくなる。高温であり密度が低い空気は(重力の方向と反対の)上向き方向に循環する傾向を有し、低温であり密度が高い空気は(重力の方向に従った)下向き方向に循環する傾向を有する。
図2に図示されている実施形態では、ドロー方向88は概ね重力の方向であるが、ドロー方向は、特定のガラス成形方法に基づいて、重力の方向から変化してよい。
【0062】
部分閉鎖領域150内を循環する空気の渦152は、対流によって駆動される。渦152を駆動する対流の不安定性によって、ガラスリボン86の温度の望ましくない変動が引き起こされる場合がある。具体的には、ガラスリボン86の温度の変動は、ガラスリボン86の粘度の変動に対応する。このような粘度の変動は、特にガラスが粘性又は粘弾性状態である場合、望ましくない。このような状態のガラスリボン86の粘度が変動すると、ガラスリボン86を成形用本体90から引き出す際に、ガラスリボン86の厚さ及び/又はガラスリボン86の幅を維持するのが困難になり得る。従って、部分閉鎖領域150内を循環する空気の渦152の不安定性は望ましくない。
【0063】
理論によって束縛されるものではないが、ガラスリボン86と、ガラスリボン86を取り囲むガラス成形装置100の表面、及びガラスリボン86を取り囲む空気との間の温度の差が大きいと、より高い不安定性が渦152に導入されると考えられる。能動冷却型ヒートシンク140とガラスリボン86との間に赤外線透過バリア160を位置決めすることによって、ガラスリボン86とガラス成形装置100の表面及びガラス成形装置100内の空気との間の温度差を低減でき、これにより、部分閉鎖領域150内の渦152の安定性を向上させ、ガラス製造プロセスの安定性を改善できる。
【0064】
特に、赤外線透過壁162により、渦152の空気を大幅に冷却することなく、相当な量の熱をガラスリボン86から能動冷却型ヒートシンク140へと放散させることができる。渦152中の空気を能動冷却型ヒートシンク140から離間させることにより、渦152中の空気の温度低下を軽減できる。従って、赤外線透過壁162の付近の渦152の空気を、能動冷却型ヒートシンク140の温度に比べて相対的に高温に維持できる。渦152中の空気の上昇した温度を維持することによって、部分閉鎖領域150内を循環する渦152の安定性が改善され、これにより、ガラス製造プロセスの安定性が改善されて、ガラスリボンの幅及び/又は厚さの変動といったガラスリボンの欠陥の形成が低減又は軽減される。
【0065】
本明細書に記載の実施形態では、渦152の安定性は、部分閉鎖領域150内の空気の温度を測定することによって決定してよい。安定した渦152は、10秒の時間にわたって0.4℃以下の、部分閉鎖領域150の固定位置において測定される空気のピーク間温度変動を示す。いくつかの実施形態では、部分閉鎖領域150の固定位置において測定される空気のピーク間温度変動は、10秒の時間にわたって0.2℃以下である。いくつかの実施形態では、部分閉鎖領域150の固定位置において測定される空気のピーク間温度変動は、10秒の時間にわたって0.1℃以下である。
【0066】
ここで
図3を参照すると、ガラス成形装置200の別の実施形態が概略図で示されている。この実施形態では、ガラス成形装置200は、
図1及び2を参照して上述したように、エンクロージャ130内に位置決めされた成形用本体90を含む。成形用本体90は、基部94で終端する集束表面92を備えてよい。溶融ガラス80は、成形用本体90の集束表面92に沿って、複数の流れとして流れる。溶融ガラス80の複数の流れは一体となり、基部の94の下方で融合する。ガラスは、
図1及び2を参照して上述したように、成形用本体90からドロー平面96に沿ってドロー方向88に、ガラスリボン86として引き出される。
【0067】
引き続き
図3を参照すると、ガラス成形装置200は更に、
図2を参照して本明細書中に記載されているように、エンクロージャ130を通って延在する厚さ制御部材220を備える。厚さ制御部材220は一般に、ドロー平面96の幅方向においてドロー平面96に対して平行に(即ち図面に図示された座標軸の±X方向に)延在し、ドロー平面に対して直交方向に(即ち図面に図示された座標軸の±Y方向に)、ドロー平面96から離間している。厚さ制御部材220の少なくとも一部分は、ドロー方向88において、成形用本体90の基部94の下方に位置決めされる。
図3に示されている実施形態では、厚さ制御部材220は、成形用本体90の基部94の付近に位置決めされたスライドゲート222と、スライドゲート222からドロー方向88に位置決めされた冷却用扉224とを備える(即ち冷却用扉224は、ドロー方向88においてスライドゲート222の下流に位置決めされる)。
【0068】
ガラス成形装置200はまた、ドロー方向88において成形用本体90の下方かつ厚さ制御部材220の下方に位置決めされた、能動冷却型ヒートシンク240を備える。ガラス成形装置200はまた、ドロー方向88において能動冷却型ヒートシンク240の下方に位置決めされた、バッフル270も備える。ガラス成形装置200の定常状態動作中、バッフル270は、ドロー平面96に向かって伸長され、これによって厚さ制御部材220及びバッフル270によって2面の境界が定められた、ドロー平面96に沿った部分閉鎖領域250を形成する。バッフル270は(ドロー平面96に向かって伸長されると)、バッフル270と厚さ制御部材220との間の部分閉鎖領域250内に、空気の安定した渦を確立するのを容易にする。バッフル270はまた、バッフル270からドロー方向88に位置決めされたガラス成形装置200の部品が加熱されるのを防止する、放射シールドとしても機能する。様々な実施形態では、バッフル270は、ガラス成形装置200内にヒンジで取り付けられ、従ってバッフル270を、ドロー平面96から離れるように枢動させることができる。例えば、ガラス成形装置200の始動中にバッフル270をドロー平面96から離れるように枢動させることによって、ガラスリボン86を、ドロー平面96に沿ってガラス成形装置200に通すことができる。その後、ガラス成形装置200の定常状態動作が達成された後で、バッフル270をドロー平面96に向かって枢動させてよい。
【0069】
厚さ制御部材220、能動冷却型ヒートシンク240、及びバッフル270は、ガラスリボン86の幅に沿って延在し、これは
図3に示されている視野に対して垂直な配向である(即ちガラスリボンの幅は、図面に図示された座標軸の±X方向に延在する)。厚さ制御部材220、能動冷却型ヒートシンク240、及びバッフル270は、ドロー平面96から離間しており、従ってこれらの要素は溶融ガラス80又はガラスリボン86と接触しない。
【0070】
実施形態では、能動冷却型ヒートシンク240には、
図2を参照して本明細書に記載されているように、能動冷却要素、例えばガラスリボン86の幅に対して概ね平行に延在する流体導管242が組み込まれている。能動冷却型ヒートシンク240は、流体導管242を通って流れる冷却流体を備えてよい。冷却流体は、流体導管242の温度を制御し、ガラスリボン86からの熱を冷却流体へと放散させることができる。冷却流体を流体導管242から流出させることによって、熱をガラス成形装置200から除去できる。具体的には、ガラスリボン86からの熱は、流体導管242内の冷却流体を加熱し、冷却流体は、流体導管242を通って流れる際に、ガラス成形装置200から熱を運び去る。
【0071】
ガラス成形装置200は更に、能動冷却型ヒートシンク240とドロー平面96との間に位置決めされた赤外線透過バリア260を備える。
図3に示されている実施形態では、赤外線透過バリア260は赤外線透過ジャケット264であり、これは、赤外線透過ジャケット264が能動冷却型ヒートシンク240とドロー平面96との間に位置決めされるように、能動冷却型ヒートシンク240の少なくとも一部分の周りに位置決めされる。赤外線透過ジャケット264は、
図2を参照して本明細書で説明されている赤外線透過壁と同一の材料から構築してよく、また同一の赤外線透過率を有してよい。例えば赤外線透過ジャケット264は、バリアに入射する約0.5マイクロメートル(μm)~約6μmの赤外線照射の波長に関して、30%以上の赤外線透過率を有する材料から作製してよい。このような材料は、40%以上、50%以上、又は60%以上もの赤外線透過率を示してよい。このような材料の例としては、限定ではなく例として、透過性β‐SiC、高純度溶融シリカ、赤外線透過製ムライトセラミック、及びEurokera製KeraBlack等のガラスセラミックが挙げられる。
【0072】
本明細書に記載の実施形態では、赤外線透過ジャケット264は能動冷却型ヒートシンク240から離間させることができ、従って能動冷却型ヒートシンク140と赤外線透過ジャケット264との間の伝導及び対流熱伝達は制限される。能動冷却型ヒートシンク240と赤外線透過ジャケット264との間の伝導及び対流熱伝達が制限されることにより、能動冷却型ヒートシンク240及び赤外線透過ジャケット264を、ガラス成形装置200の動作中、異なる温度に維持できる。しかしながら、熱放射の形態の熱は、赤外線透過ジャケット264を通って能動冷却型ヒートシンク240に伝達され続ける。
【0073】
本明細書に記載されているように、厚さ制御部材220及びバッフル270は、ドロー平面96の付近のガラス成形装置200の部分閉鎖領域250を画定する。ガラス成形装置200内でガラスを製造しているとき、ガラスリボン86は、成形用本体90から、厚さ制御部材220、能動冷却型ヒートシンク240、及びバッフル270を通るように引き出される。ガラスリボン86は、能動冷却型ヒートシンク240より高温である。従ってガラスリボン86からの熱は、放射熱伝達によって能動冷却型ヒートシンク240内へと放散され、流体導管242の冷却流体によって運び去られる。ガラスリボン86と能動冷却型ヒートシンク240との間の温度差が大きいため、ドロー方向88に沿った短い距離において、相当な熱をガラスリボン86から放散させることができる。多量の熱の放散は、ガラスリボン86の温度の急速な低下が目標となるガラス製造作業にとって有益となり得る。
【0074】
図2を参照して本明細書に記載されているように、空気の渦252(即ち空気の循環流)は、厚さ制御部材220とバッフル270との間の部分閉鎖領域250内で形成される。ガラスリボン86の付近に位置決めされた空気は一般に、ガラスリボン86から離れて位置決めされた空気よりも高温である。空気の温度の変動は、空気の密度の変動に対応し、高温の空気は低温の空気よりも密度が低く、従って浮力が大きくなる。高温であり密度が低い空気は(重力の方向と反対の)上向き方向に循環する傾向を有し、低温であり密度が高い空気は(重力の方向に従った)下向き方向に循環する傾向を有する。図示されている実施形態では、ドロー方向88は重力の方向と概ね整列されているが、ドロー方向は、特定のガラス成形方法に基づいて、重力の方向から変化してよい。
【0075】
部分閉鎖領域250内を循環する空気の渦252は、対流によって駆動される。渦252を駆動する対流の不安定性によって、ガラスリボン86の温度の望ましくない変動が引き起こされる場合がある。具体的には、ガラスリボン86の温度の変動は、ガラスリボン86の粘度の変動に対応する。このような粘度の変動は、特にガラスが粘性又は粘弾性状態である場合、望ましくない。このような状態のガラスリボン86の粘度が変動すると、ガラスリボン86を成形用本体90から引き出す際に、ガラスリボン86の厚さ及び/又はガラスリボン86の幅を維持するのが困難になり得る。従って、部分閉鎖領域250内を循環する空気の渦252の不安定性は望ましくない。
【0076】
理論によって束縛されるものではないが、ガラスリボン86と、ガラスリボン86を取り囲むガラス成形装置200の表面、及びガラスリボン86を取り囲む空気との間の温度の差が大きいと、より高い不安定性が渦252に導入されると考えられる。能動冷却型ヒートシンク240とガラスリボン86との間に赤外線透過ジャケット264を位置決めすることによって、ガラスリボン86とガラス成形装置200の表面及びガラス成形装置200内の空気との間の温度差を低減でき、これにより、部分閉鎖領域250内の渦252の安定性を向上させ、ガラス製造プロセスの安定性を改善できる。
【0077】
特に、赤外線透過ジャケット264により、渦252の空気を大幅に冷却することなく、相当な量の熱をガラスリボン86から能動冷却型ヒートシンク240へと放散させることができる。渦252中の空気を能動冷却型ヒートシンク240から離間させることにより、渦252中の空気の温度低下を軽減できる。従って、赤外線透過ジャケット264の付近の渦252の空気を、能動冷却型ヒートシンク240の温度に比べて上昇した温度に維持できる。渦252中の空気の上昇した温度を維持することによって、部分閉鎖領域250内を循環する渦252の安定性が改善され、これにより、ガラス製造プロセスの安定性が改善されて、ガラスリボンの幅及び/又は厚さの変動といったガラスリボンの欠陥の形成が低減又は軽減される。
【0078】
図2を参照して本明細書に記載されているように、渦252の安定性は、部分閉鎖領域250内の空気の温度を測定することによって決定してよい。安定した渦252は、10秒の時間にわたって0.4℃以下の、部分閉鎖領域250の固定位置において測定される空気のピーク間温度変動を示す。いくつかの実施形態では、部分閉鎖領域250の固定位置において測定される空気のピーク間温度変動は、10秒の時間にわたって0.2℃以下である。いくつかの実施形態では、部分閉鎖領域250の固定位置において測定される空気のピーク間温度変動は、10秒の時間にわたって0.1℃以下である。
【0079】
以上により、本開示によるガラス成形装置は:成形用本体能動冷却型ヒートシンク;及び能動冷却型ヒートシンクと、成形用本体によって画定されるドロー平面との間に位置決めされた赤外線透過バリアを含むことが理解されるはずである。ガラス成形装置は、能動冷却型ヒートシンクを通るように引き出されたガラスリボンを製造する。赤外線透過バリアは、熱放射の形態の熱を通過させることができ、これにより、ガラスリボンからの熱が能動冷却型ヒートシンクに放散される。更に、赤外線透過バリアは、ガラスリボンの付近に位置する空気を能動冷却型ヒートシンクから隔て、これにより、赤外線透過バリアの付近に位置する空気は、能動冷却型ヒートシンクよりも高温となる。空気を能動冷却型ヒートシンクよりも高温に維持することにより、ドロー平面上で引き出されたガラスリボンに隣接して循環する渦の安定性が向上し、ガラスリボンの幅及び/又は厚さの変動といったガラスリボンの欠陥の発生が軽減される。
【0080】
本開示の範囲及び精神から逸脱することなく、本開示に対して様々な修正及び変更を実施できることは、当業者には明らかであろう。従って本開示は、本明細書で開示されている実施形態の修正及び変更が、添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内にある限りにおいて、これらの修正及び変更を包含することを意図している。
【0081】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0082】
実施形態1
ガラス成形装置であって、
上記ガラス成形装置は:
成形用本体であって、ドロー方向において上記成形用本体から延在するドロー平面を画定する、成形用本体;
上記ドロー方向において上記成形用本体の下方に位置決めされ、また上記ドロー平面から離間している、能動冷却型ヒートシンク;及び
上記能動冷却型ヒートシンクと上記ドロー平面との間に位置決めされた、赤外線透過バリア
を備える、ガラス成形装置。
【0083】
実施形態2
上記ドロー方向において上記成形用本体の下方に位置決めされた、厚さ制御部材;及び
上記能動冷却型ヒートシンクから上記ドロー方向に位置決めされた、バッフル
を更に備え、
上記能動冷却型ヒートシンク及び上記赤外線透過バリアは、上記厚さ制御部材と上記バッフルとの間に位置決めされる、実施形態1に記載のガラス成形装置。
【0084】
実施形態3
上記バッフルは上記ドロー平面に向かって延在する、実施形態2に記載のガラス成形装置。
【0085】
実施形態4
上記厚さ制御部材は、スライドゲートと、上記スライドゲートから上記ドロー方向に位置決めされた冷却用扉とを備える、実施形態2に記載のガラス成形装置。
【0086】
実施形態5
上記赤外線透過バリアは、上記能動冷却型ヒートシンクと上記ドロー平面との間に位置決めされた赤外線透過壁を含む、実施形態1に記載のガラス成形装置。
【0087】
実施形態6
上記赤外線透過バリアは、上記能動冷却型ヒートシンクの少なくとも一部分の周りに位置決めされた赤外線透過ジャケットを含む、実施形態1に記載のガラス成形装置。
【0088】
実施形態7
上記赤外線透過バリアは、約0.5μm~約6μmの波長において30%以上の赤外線透過率を有する材料を含む、実施形態1に記載のガラス成形装置。
【0089】
実施形態8
上記赤外線透過バリアは上記能動冷却型ヒートシンクから離間している、実施形態1に記載のガラス成形装置。
【0090】
実施形態9
ガラスリボンを成形する方法であって、
上記方法は:
上記ガラスリボンを成形用本体からドロー方向に引き出すステップ;
上記ガラスリボンを、上記ドロー方向において上記成形用本体の下方に位置決めされた能動冷却型ヒートシンクに上記ガラスリボンを通すことによって、冷却するステップであって、赤外線透過バリアが、上記能動冷却型ヒートシンクと上記ドロー平面との間に位置決めされているステップ;及び
上記ガラスリボンに隣接して循環する空気の渦を安定化するステップ
を含む、方法。
【0091】
実施形態10
上記空気の渦は、上記赤外線透過バリアを用いて上記空気の渦の冷却を低減することによって安定化される、実施形態9に記載の方法。
【0092】
実施形態11
上記赤外線透過バリアは、上記能動冷却型ヒートシンクと上記ガラスリボンとの間に位置決めされた赤外線透過壁を含む、実施形態9に記載の方法。
【0093】
実施形態12
上記赤外線透過バリアは、上記能動冷却型ヒートシンクの少なくとも一部分の周りに位置決めされた赤外線透過ジャケットを含む、実施形態9に記載の方法。
【0094】
実施形態13
上記赤外線透過バリアは、約0.5μm~約6μmの波長において30%以上の赤外線透過率を有する材料を含む、実施形態9に記載の方法。
【0095】
実施形態14
上記赤外線透過バリアは上記能動冷却型ヒートシンクから離間している、実施形態9に記載の方法。
【0096】
実施形態15
上記能動冷却型ヒートシンクは上記赤外線透過バリアの温度未満の温度に維持される、実施形態9に記載の方法。
【0097】
実施形態16
厚さ制御部材は、ドロー方向において上記成形用本体の下方に位置決めされ;
バッフルは、上記能動冷却型ヒートシンクから上記ドロー方向に位置決めされ、上記能動冷却型ヒートシンク及び上記赤外線透過バリアは、上記厚さ制御部材と上記バッフルとの間に位置決めされ、上記バッフル及び上記厚さ制御部材は部分閉鎖領域の範囲を定め;
上記空気の渦は上記部分閉鎖領域内で循環する、実施形態9に記載の方法。
【0098】
実施形態17
上記厚さ制御部材は、スライドゲートと、上記スライドゲートから上記ドロー方向に位置決めされた冷却用扉とを備える、実施形態16に記載の方法。
【0099】
実施形態18
上記ガラスリボンは上記部分閉鎖領域内で粘性又は粘弾性状態である、実施形態16に記載の方法。
【0100】
実施形態19
上記部分閉鎖領域内の固定位置において測定される空気の温度変動は、10秒にわたって0.4℃未満である、実施形態16に記載の方法。
【0101】
実施形態20
上記部分閉鎖領域内の固定位置において測定される空気の温度変動は、10秒にわたって0.2℃未満である、実施形態16に記載の方法。
【符号の説明】
【0102】
15 溶融用容器
16 バッチ材料
18 貯蔵用蓋付き容器
20 バッチ送達デバイス
22 モータ
24 コントローラ
28 溶融ガラス液位プローブ
30 スタンドパイプ
36 第1の接続チューブ
38 清澄用容器
40 第2の接続チューブ
42 混合用容器
44 送達導管
46 送達用容器
48 下降管
50 成形用本体流入口
62 トラフ
64 堰
80 溶融ガラス
86 ガラスリボン
88 ドロー方向
90 成形用本体
91 区切り線
92 集束表面
94 基部
96 ドロー平面
100、200 ガラス成形装置
120、220 厚さ制御部材
122、222 スライドゲート
124、224 冷却用扉
130 エンクロージャ
140、240 能動冷却型ヒートシンク
142、242 流体導管
150、250 部分閉鎖領域
152、252 渦
160 赤外線透過バリア
162 赤外線透過壁
170、270 バッフル
264 赤外線透過ジャケット
【国際調査報告】