(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】レーザビームを用いてワークピースの加工プロセスを監視するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20220105BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20220105BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/21 A
B23K26/00 M
B23K26/03
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518118
(86)(22)【出願日】2019-09-16
(85)【翻訳文提出日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2019074618
(87)【国際公開番号】W WO2020069840
(87)【国際公開日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】102018124208.5
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516234100
【氏名又は名称】プレシテック ゲーエムベーハー ウント ツェーオー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザウアー マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ストレベル マティアス
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA00
4E168CA02
4E168CA07
4E168CA13
4E168CA15
4E168CB22
(57)【要約】
本発明は、ワークピースに対するレーザ加工プロセスを監視するためのデバイスに関し、このデバイスは、少なくとも所定の1組の比較パラメータおよび関連する比較加工位置に基づくモデルを用いて、レーザ加工プロセスの1組のプロセスパラメータ(PPSi)について、レーザビーム(1)の入射点(AP)に対する動的加工位置(TCPi)を決定するように構成された演算ユニット(16)と、動的加工位置(TCPi)におけるレーザ加工プロセスの少なくとも1つの監視パラメータを測定するように構成された観測ユニット(17)と、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースに対するレーザ加工プロセスを監視するためのデバイスであって、
少なくとも所定の1組の比較パラメータおよび関連する比較加工位置に基づくモデルを用いて、前記レーザ加工プロセスの1組のプロセスパラメータ(PPS
i)について、レーザビーム(1)の入射点(AP)に対する動的加工位置(TCP
i)を決定するように構成された演算ユニット(16)と、
前記動的加工位置(TCP
i)における前記レーザ加工プロセスの少なくとも1つの監視パラメータを測定するように構成された観測ユニット(17)と、を備える、デバイス。
【請求項2】
前記1組のプロセスパラメータ(PPS
i)が、前記加工位置(TCP
i)に影響を与える少なくとも1つのプロセスパラメータを含み、前記プロセスパラメータの値が、対応する比較パラメータの値と異なる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記1組のプロセスパラメータ(PPS
i)および前記1組の比較パラメータが、前記ワークピースに対する前記レーザビーム(1)の進行移動の速度ベクトル、進行速度の大きさ、進行移動の向き、前記レーザビーム(1)のパワー、および前記ワークピースの1つまたは複数の材料パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータを含む、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
少なくとも1つのパラメータが異なっている複数の組の比較パラメータが、事前に決定されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記監視パラメータが、蒸気毛細管の深さ(Td)、前記動的加工位置(TCP
i)における前記ワークピースまでの距離、前記動的加工位置(TCP
i)における温度、および/または前記動的加工位置(TCP
i)で反射された光の波長を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記観測ユニット(17)が、光コヒーレンス断層撮像装置を備え、光学測定光ビーム(3)を前記動的加工位置(TCP
i)に向けるように構成される、請求項1~5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
少なくとも1つの所定の前記比較加工位置が、前記ワークピースに対する前記レーザビームの進行速度がゼロに等しい少なくとも1つの静的加工位置(TCP
s)と、進行速度(v
1、v
2)がゼロより大きい少なくとも1つの動的加工位置(TCP
d1、TCP
d2)とを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記少なくとも1つの所定の比較加工位置が、大きさが等しい互いに逆向きの進行移動の速度ベクトル(v
1、v
-1)を有する2つの動的加工位置(TCP
d1、-TCP
d1)、および/または互いに垂直な進行移動の速度ベクトル(v
1、v
2)を有する2つの動的加工位置(TCP
d1、TCP
d2)を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記加工プロセスの前記1組のプロセスパラメータ(PPS
i)のうちの少なくとも1つの現在のプロセスパラメータを決定するように構成された少なくとも1つのセンサ手段(18)と、
前記加工プロセスの前記現在のプロセスパラメータを前記演算ユニット(16)に転送するために、前記センサ手段(18)を前記演算ユニット(16)に接続するインターフェースとを備える、請求項1~8のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項10】
ワークピース上にレーザビーム(1)を向けるように構成されたレーザ加工ヘッド(12)と、
請求項1~9のいずれか1項に記載のデバイスと、を備える、レーザ加工システム。
【請求項11】
前記加工プロセスの少なくとも1つの現在のプロセスパラメータを前記演算ユニット(16)に転送するために、前記レーザ加工システム(12)を前記演算ユニット(16)に接続するインターフェース、および/または
前記加工プロセスのための少なくとも1つの現在のプロセスパラメータを指定し、前記現在のプロセスパラメータに基づいて前記レーザ加工システムを制御するように構成されたコントローラ(14)、および前記現在のプロセスパラメータを前記演算ユニット(16)に転送するために前記コントローラ(14)を前記演算ユニット(16)に接続するインターフェース、および/または
前記加工プロセスの少なくとも1つのプロセスパラメータを入力および/または選択し、そのプロセスパラメータを前記演算ユニット(16)に転送するように構成されたヒューマン-マシンインターフェース(20)を備える、請求項10に記載のレーザ加工システム。
【請求項12】
ワークピースに対するレーザ加工プロセスを監視するための方法であって、
少なくとも所定の1組の比較パラメータおよび関連する比較加工位置に基づくモデルを用いて、前記レーザ加工プロセスの1組のプロセスパラメータ(PPS
i)について、レーザビーム(1)の入射点(AP)に対する動的加工位置(TCP
i)を決定することと、
前記動的加工位置(TCP
i)における前記レーザ加工プロセスの少なくとも1つの監視パラメータを測定することと、を含む、方法。
【請求項13】
前記関連する比較加工位置が、比較パラメータの所定の組ごとにセットアッププロセスにおいて決定される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ワークピースに対するレーザビームの進行速度がゼロに等しい少なくとも1つの静的加工位置(TCP
s)と、進行速度がゼロより大きい少なくとも1つの動的加工位置(TCP
d1)とを含む、複数の比較加工位置が、前記セットアッププロセスにおいて決定される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記動的加工位置(TCP
d1)を決定する間、対応する進行速度が一定である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記静的加工位置(TCP
s)が、大きさが等しい互いに逆向きの進行移動の速度ベクトル(v
1、v
-1)を有する2つの動的加工位置(TCP
d1、-TCP
d1)から決定される、請求項14または15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エネルギー加工ビーム(具体的には、レーザビーム)ならびに対応するデバイスおよびそのデバイスを含む加工システムによって、ワークピースの加工プロセスを監視するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような加工プロセスの既知の例としては、レーザビームがワークピース表面上を移動するレーザ溶接またはディープレーザ溶接プロセスがある。この加工プロセスを監視するために、例えば、光コヒーレンス断層撮像装置からの測定光ビームをワークピースの表面に向けることができる。ワークピース表面で反射された光をセンサによって検出することができるので、溶接結果の品質を継続的に監視することができる。
【0003】
具体的には、「キーホール」とも呼ばれる、液体溶融物に囲まれたワークピースの表面プロファイルまたは蒸気毛細管の深さをこの方法で表すことができる。その深さは、シームの深さまたは溶接の深さに関連しているため、加工プロセスの監視に使用することができる。この測定に使用することができる光学的方法としては、例えば、光コヒーレンストモグラフィー(OCT)があり、これにより、マイクロメートル範囲の測定ビーム軸に沿った高さの差を検出することが可能になる。この目的で、測定光が生成され、測定ビームと参照ビームとに分割される。所望の高さ情報を得るために、ワークピースの表面で反射された測定ビームの光と参照ビームとの重ね合わせが検出される。このような方法は、一例として、独国特許第102015012565(B3)号に記載されている。
【0004】
加工結果を正確に測定するためには、測定光ビームがワークピース表面に当たる測定位置を適切に選択して、例えば、その測定光ビームを、加工ビームのパワーの吸収によるワークピースの所望の変更(すなわち、現在の加工)が行われているワークピース表面上の点に位置合わせすることが不可欠である。レーザ溶接では、この加工位置がキーホールの位置である。
【0005】
加工ビームがワークピースに対して静止している場合、すなわち、加工ビームがワークピースに対して移動しない場合、加工位置は、ワークピース表面の加工ビームの入射点または加工ビームの最高パワー密度が得られる位置と同心である。この位置は、「ツールセンターポイント」、TCPと呼ばれることもある。しかしながら、加工ビームとワークピースとが相対移動している場合、プロセス監視のための最適な動作点は、この静的加工位置または静的TCPと一致しないこともある。プロセス監視のための最適な動作点は、動的加工位置または動的TCPと呼ばれることがあり、入射点の下流に配置されることがあり、すなわち、加工ビームの経路に沿ってオフセットが生じる。例えば、レーザ溶接プロセスでは、蒸気毛細管は、わずかに遅れて形成されるため、入射点の下流にシフトした位置になる。
【0006】
静的加工位置に対する動的加工位置(例えば蒸気毛細管の位置)は、レーザパワー、ワークピースの材料、ワークピースと加工ビームとの間の進行移動の速度ベクトルの向きおよび大きさに依存し得る。ただし、速度ベクトル、レーザ出力、またはその他のパラメータは、加工プロセス中に変わることもある。加工プロセスを正確に監視するためには、プロセス観測に最適な観測点を決定するために、現在の動的加工位置を決定することが不可欠である。これは、例えば、OCTによって蒸気毛細管の正確な深さを測定することができるようにするために、光学測定光ビームを上記最適な観測位置と位置合わせするための唯一の方法である。
【0007】
このオフセットを決定する1つの可能性としては、進行方向、進行速度、および加工ビームのパワーなどの所望のプロセスパラメータが設定されている当該の加工システムを用いて、加工プロセス中に動的加工位置を決定することがある。ただし、このプロセスで加工されたワークピースは、多くの場合、廃棄物として廃棄される必要がある。具体的には、以前から知られている動的加工位置を決定するための手法では、動的加工位置は、加工プロセス中に変化しない、または定期的にかつ既知の方法でのみ変化すると一般に想定されている。動的加工位置に影響を与えるプロセスパラメータの変更の場合には、測定プロセスを再実行する必要がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、現在の加工位置の正確な決定を可能にし、その結果として、簡単かつ迅速な方法で測定位置の正確な位置合わせを可能にする、加工プロセスを監視するための方法および装置を提供することである。具体的には、特定の以前の測定データが利用できないプロセスパラメータについて動的加工位置を決定することも可能にする必要がある。
【0009】
この目的は、独立請求項に記載の方法および装置によって達成される。本発明の好都合な実施形態および展開は、従属請求項に記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許第102015012565号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示の一態様によれば、ワークピースに対するレーザ加工プロセスを監視するためのデバイスは、測定位置におけるレーザ加工プロセスの少なくとも1つの監視パラメータを測定するように構成された演算ユニットおよび観測ユニットを備える。ここで、監視パラメータは、当該加工プロセスを監視するのに適したパラメータ、例えば、レーザ溶接プロセスにおける蒸気毛細管の深さを含み得る。演算ユニットは、レーザビームの入射点に対する、現在の加工位置、具体的には、現在の動的加工位置を決定するように構成される。レーザ溶接プロセスでは、現在の加工位置が蒸気毛細管の位置に相当し得る。動的加工位置とは、その入射点に対する位置が、またはその入射点に対するオフセットが、可変である(例えば、現在のプロセスパラメータに依存する)加工位置を意味し得る。現在の加工位置を決定するために、演算ユニットは、レーザ加工プロセスの1組のプロセスパラメータと、少なくとも所定の1組の比較パラメータおよび関連する比較加工位置に基づくモデルと、を使用する。
【0012】
ここで、演算ユニットおよび観測ユニットは、別々のユニットとして形成されてもよく、または1つのユニットに統合されてもよい。具体的には、演算ユニットは、観測ユニットに統合されていてもよい。例えば、観測ユニットは、演算ユニットも備える、光コヒーレンス断層撮像装置を備えた測定装置であり得る。
【0013】
1組のプロセスパラメータは、加工位置に影響を与える少なくとも1つのプロセスパラメータを含むことができ、その値は、1組の比較パラメータの対応する比較パラメータの値とは異なる。換言すると、その1組のプロセスパラメータについて事前に判定された測定結果は存在しない。1組のプロセスパラメータおよび/または1組の比較パラメータは、ワークピースに対するレーザビームの進行移動の速度ベクトル、進行速度の大きさ、進行移動の向き、レーザビームのパワー、およびワークピースの1つまたは複数の材料パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータを含み得る。少なくとも1つのパラメータが異なる複数の組の比較パラメータを事前に決定することができる。
【0014】
監視パラメータとしては、蒸気毛細管の深さ、動的加工位置におけるワークピースまたはトポグラフィーまでの距離、動的加工位置で反射される光の温度および/または波長を挙げることができる。
【0015】
観測ユニットは、光コヒーレンス断層撮像装置を備えることができ、光学測定光ビームを動的加工位置に向けるように構成されることができる。観測ユニットは、光学測定光ビームを所望の位置、すなわち現在の加工位置に位置合わせするように構成された偏向ユニット(例えば、スキャナユニットなど)をさらに備えてもよい。
【0016】
少なくとも1つの所定の比較加工位置は、ワークピースに対するレーザビームの進行速度がゼロに等しい少なくとも1つの静的加工位置と、進行速度がゼロより大きい少なくとも1つの動的加工位置とを含み得る。少なくとも1つの所定の比較加工位置は、大きさが等しい逆向きの進行移動の速度ベクトルを有する2つの動的加工位置、および/または互いに垂直な進行移動の速度ベクトルを有する2つの動的加工位置を含み得る。
【0017】
本デバイスは、加工プロセスの1組のプロセスパラメータのうちの少なくとも1つの現在のプロセスパラメータを決定するように構成された少なくとも1つのセンサをさらに備えてもよい。本デバイスは、加工プロセスの決定された現在のプロセスパラメータを演算ユニットに転送するために、センサを演算ユニットに接続するインターフェースを備えてもよい。
【0018】
さらなる態様によれば、レーザ加工システムは、前述の例の1つによるワークピースおよびデバイス上にレーザビームを向けるように構成されたレーザ加工ヘッドを備える。レーザ加工システムは、加工プロセスの少なくとも1つの現在のプロセスパラメータを加工ユニットに転送するために、レーザ加工システムを加工ユニットに接続するインターフェースを備えてもよい。レーザ加工システムは、加工プロセスのための少なくとも1つの現在のプロセスパラメータを指定し、その現在のプロセスパラメータに基づいてレーザ加工システムを制御するように構成されたコントローラを備えてもよい。レーザ加工システムはまた、現在のプロセスパラメータを演算ユニットに転送するために、制御装置を演算ユニットに接続するインターフェースを備えてもよい。レーザ加工システムはまた、加工プロセスの少なくとも1つのプロセスパラメータを入力および/または選択し、そのパラメータを演算ユニットに転送するように構成されたヒューマン-マシンインターフェースを備えてもよい。
【0019】
さらなる態様によれば、ワークピースに対するレーザ加工プロセスを監視するための方法は、少なくとも所定の1組の比較パラメータおよび関連する比較加工位置に基づくモデルを用いて、レーザ加工プロセスの1組のプロセスパラメータについて、レーザビームの入射点に対する動的加工位置を決定する工程と、動的加工位置におけるレーザ加工プロセスの少なくとも1つの監視パラメータを測定する工程と、を含む。
【0020】
比較パラメータの所定の組ごとに、関連する比較加工位置をセットアッププロセスにおいて決定することができる。セットアッププロセスでは、ワークピースに対するレーザビームの進行速度がゼロに等しい少なくとも1つの静的加工位置と、進行速度がゼロより大きい少なくとも1つの動的加工位置とを含む、複数の比較加工位置を決定することができる。動的加工位置を決定している間、対応する進行速度は一定とすることができる。静的加工位置は、大きさが等しい逆向きの進行移動の速度ベクトルを有する2つの動的加工位置から決定することができる。
【0021】
一実施形態では、加工プロセスの前にセットアッププロセスを行うことができ、そこで、加工ビームの入射点に対して少なくとも1つの比較加工位置が決定される。ただし、この少なくとも1つの比較加工位置はまた、事前に決定されていてもよいし、または、例えば、記憶されていてもよい。この比較加工位置は、例えば、加工ビームのレーザパワー、加工ビームとワークピースとの間の相対移動の方向および速度などのいくつかのプロセスパラメータを含む1組の比較パラメータと関連付けられ得る。したがって、それぞれの比較加工位置は、それらの組の比較パラメータの関数として決定することができる。その決定された比較加工位置およびそれに関連するプロセスパラメータに基づいて、後続の加工プロセスのプロセスパラメータの特定の組についても、具体的には測定値が利用できないプロセスパラメータの組についても、さらなる加工位置を計算することができる。次に、加工プロセス中に、測定光ビームの測定位置を、計算された加工位置と位置合わせすることができる。
【0022】
本発明は、特定の加工位置を、原則としてプロセスパラメータの関数として表すことができるという仮定に基づいている。例えば、加工ビームの現在の入射点に対するキーホールの動的オフセットのサイズは、ワークピースと加工ビームとの間の相対速度、加工ビームのパワー、および(該当する場合は)他のパラメータに依存する。この関数、すなわち、プロセスパラメータとそれから生じるそれぞれの加工位置との間の関係は、数学モデルで表すことができ、このモデルを使用して、加工位置を計算することができる。
【0023】
このようなモデルの助けにより、比較的少数の測定結果または比較データから多数の加工位置を生成することができる。プロセスパラメータが変更された場合、従来の場合のように動的加工位置を再度測定する必要はない。逆に、これらの加工位置を、パラメータが変更された加工プロセスについて計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示の実施形態による、レーザ溶接中のキーホールおよび測定光ビームを示す、ワークピース(上部)の概略断面図である。
【
図2A】本発明による方法の好適な実施形態によるセットアッププロセスを説明するための概略図である。
【
図2B】本発明による方法の好適な実施形態によるセットアッププロセスを説明するための概略図である。
【
図2C】本発明による方法の好適な実施形態によるセットアッププロセスを説明するための概略図である。
【
図3】本発明による方法の好適な実施形態による現在の加工位置の決定を説明するための概略図である。
【
図4】本発明の好適な実施形態によるデバイスの概略図である。
【
図5】本発明の好適な実施形態によるレーザ加工システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の好適な例示的実施形態を、図面を参照してより詳細に説明する。
【0026】
図1は、本開示の実施形態による、レーザ溶接中のキーホールおよび測定光ビームを示す、ワークピースの概略断面図を示す。
図1に示すように、ディープレーザ溶接プロセスでは、キーホールとも呼ばれる、液体溶融物2に囲まれた蒸気毛細管KHが、レーザビーム1のビーム軸に沿った溶接プロセス中に作成される。キーホールの深さTdは、シームまたは溶接の深さTeに関連しているため、加工プロセスを監視するための監視パラメータを表すことができる。固化した溶融物4は、進行方向で見て、液体溶融物2の後ろに位置している。
【0027】
溶接プロセス中の溶接深さまたはキーホールKHの深さを測定するために、光コヒーレンス断層撮像装置の測定光ビーム3を、レーザビーム1と平行にまたは同軸に、蒸気毛細管KHに向けることができる。入射光は、蒸気毛細管KHの底部または端部に当たり、そこで部分的に反射され、光コヒーレンス断層撮像装置に返り、これを使用して、キーホールKHの深さTdを高精度で測定することができる。
【0028】
図2Aは、加工ビームによるワークピースの加工プロセス中の幾何学的関係の概略図である。本例示的実施形態では、加工プロセスとは、ワークピース上でレーザビーム1を使用するレーザ溶接プロセスである。ビーム軸は図面の平面に対して垂直である一方、図面自体の平面はワークピース表面WBの平面と一致する。したがって、図示された空間方向XおよびYは、ワークピースの表面上で互いに垂直に交差して延びている一方、レーザビームのビーム軸は、ワークピースの表面に垂直に延びている。
【0029】
レーザビームは、ワークピース表面WBに溶融物に囲まれた蒸気毛細管KHを生成する。蒸気毛細管は「キーホール」とも呼ばれ、ワークピースの表面からワークピース内のある一定の深さTdまで延びる。生成されたキーホールの深さは、レーザ溶接プロセスの結果にとって決定的に重要である。このため、加工プロセス中のキーホールの深さは、加工プロセスを監視するための観測ユニット17によって監視パラメータとして確立されることができる。観測ユニット17は、例えば、光コヒーレンス断層撮像装置を備え、測定光ビーム3をワークピースの表面上の測定位置に向けるように構成されることができる。ワークピースの表面で反射された測定光ビームの光は、観測ユニット17によって検出することができる。それから、今度はその測定位置でワークピースの表面までの距離を測定することができる。
【0030】
本実施形態によれば、ワークピース表面上でキーホールKHが形成される位置は、レーザビームのパワーの吸収により、ワークピースの所望の変更が現在行われている位置である。この位置を、以下では加工位置TCPと呼ぶ。したがって、現在の加工位置は、キーホールの深さを測定するのに最適な測定位置である。
【0031】
図2Aは、レーザビーム1がワークピースの表面WBに対して移動しない、すなわち、レーザビームが、ワークピース表面上に静的に留まり、入射点APにおいてワークピース表面に当たる状況を示している。この入射点APは、空間方向XおよびY軸が交差する座標系の原点と見なすことができる。ワークピースの表面に対するレーザビームの静的位置により、入射点APは加工位置TCP、すなわち静的加工位置TCP
sと一致する。したがって、キーホールもまたこの点に形成される。
【0032】
図2Bは、レーザビームおよびワークピースの表面が、速度ベクトルv
1の進行速度で相対移動する状況を示している。この移動により、加工位置TCPは、レーザビームの現在の入射点APと一致しなくなり、入射点APの下流に位置することになる。この場合、加工位置は、動的加工位置TCP
iと呼ばれる。これにより、入射点APと加工位置TCP
iとの間にオフセットが作成される。この理由としては、レーザ溶接中に形成されるキーホールがわずかに遅延してワークピース表面に形成されることがあり、その間にレーザビームの入射点APがすでにワークピース表面上をさらに移動しているということがある。
【0033】
加工プロセスを正確に監視するためには、監視パラメータを測定する観測ユニットの測定位置が、現在の加工位置TCPに可能な限り精密に対応している必要がある。したがって、レーザビームの入射点APと加工位置TCPとの間のオフセット、または入射点APに対する現在の動的加工位置TCPiは、可能な限り精密に決定される必要がある。
【0034】
本発明による方法では、観側ユニットの測定位置は、事前に計算された現在の加工位置と位置合わせされ、また、ワークピース、レーザパワー、および場合によっては他のプロセスパラメータに対するレーザビームの進行移動の速度ベクトルの大きさおよび向きなどの加工プロセスのプロセスパラメータに依存する。これが意味するのは、現在の加工位置TCPは、現在のプロセスパラメータに基づいて予測することができるということ、また、それに応じて観測ユニットの測定位置を調整できるということである。
【0035】
加工プロセスのプロセスパラメータに基づいて現在の動的加工位置の計算を実行するために、加工プロセスの前にセットアッププロセス(具体的には、ワークピースのテスト加工を含む)を実行することができる。
【0036】
このセットアッププロセスでは、レーザビームの入射点APに対する少なくとも1つの比較加工位置が、使用される比較パラメータの関数として決定される。多数の組の比較パラメータPPSn(それぞれの組が加工位置に影響を与えるいくつかのプロセスパラメータを含む)について、関連する比較加工位置TCPnがその都度決定される。1組の比較パラメータは、具体的には、ワークピースに対するレーザビームの進行移動の大きさおよび向きを示す速度ベクトルと、レーザビームのパワーPとを含むことができる。1組の比較パラメータはまた、ワークピースの材料または材料パラメータなどのさらなるプロセスパラメータを含んでもよい。
【0037】
この方法の一実施形態では、最初に、静的加工位置TCP
sが、
図2Aに示されるように、レーザパワーP
0について、ワークピースとのレーザビームとの間の相対的な移動なしで測定される。次に、レーザパワーP
0およびゼロより大きい進行速度v
1について、少なくとも1つの動的加工位置TCP
d1が測定される(
図2B)。進行速度v
1は、速度ベクトルv
1によって方向および大きさに関して記述される。このベクトルは、加工位置TCP
d1を決定する間、一定に保たれることが好ましい。
【0038】
静的加工位置TCPsおよび動的加工位置TCPd1はそれぞれ、それらのプロセスパラメータの組PPSsおよびPPSd1の関数として表すことができる。セットアッププロセス中の測定値に基づいて、プロセスパラメータについての計算、ひいては動的加工位置TCPi(測定値が利用できない、すなわち比較パラメータの組に直接対応しない)の予測を可能にするモデル(または原理)を導出することができる。モデルと加工プロセスのプロセスパラメータとを使用して、対応する現在の加工位置TCPiを決定することができる。
【0039】
静的加工位置TCPsを決定するために、2つの動的加工位置TCPd1およびTCP-d1を使用することもでき、それらのパラメータの組PPSd1およびPPS-d1は、大きさが同じだが逆方向(すなわち、それらの方向が互いに180°回転している)の進行速度ベクトルを有する。換言すると、静的加工位置TCPsは、2つの向きが逆の速度ベクトルv1およびv2をもつ2つの動的加工位置TCPd1、-TCPd1から(例えば、動的加工位置TCPd1、-TCPd1に基づく空間平均値として)さらに正確に決定することができる。
【0040】
追加的にまたは代替的に、セットアッププロセスにおいて決定された比較加工位置TCPnは、2つの動的加工位置TCPd1、TCPd2を含むことができ、それらの進行速度ベクトルv1およびv2は、互いに垂直であり、両方の速度ベクトルは、レーザビームの軸に垂直な成分を有することができる。したがって、動的加工位置TCPd1に加えて、第2の動的加工位置TCPd2を、レーザパワーP0と、速度ベクトルv2である第2の進行速度v2とを有する、プロセスパラメータの第2の組PPSd2について測定することができる。速度ベクトルv1およびv2は、好ましくは、互いに垂直であり、加工ビームの軸に垂直である。
【0041】
将来の加工プロセスの現在の動的TCPiの予測または決定の精度を高めるために、この手順を、異なるレーザパワーPnおよび/または異なる速度ベクトルvnを有するさらなるPPSnに対して繰り返すことができる。
【0042】
図2Bは、ワークピースに対するレーザビームの進行移動の速度ベクトルv
1が水平方向X軸に沿って右に向いており、対応する動的加工位置TCP
d1が、レーザビームの現在の入射位置APに対して、X軸に沿って左にシフトされていることを示し、一方で、
図2Cは、速度ベクトルv
2がY軸に沿って下向きに(すなわち、
図2Bのベクトルv
1に垂直に)向いており、対応する動的加工位置TCP
d2が、現在の入射位置APに対してY軸に沿って上方にシフトされている別の状況を示している。
【0043】
このようにして、比較加工位置TCPnと比較パラメータのそれぞれの組PPSnとの間でこのように決定された関係(これには、少なくとも1つの静的加工位置TCPsおよび/または少なくとも1つの動的加工位置TCPdnが含まれる)を使用して、様々に異なる速度ベクトルまたはレーザパワーなどの任意のプロセスパラメータについて現在の動的TCPiの予測または計算を可能にするモデルを作成することができる。一実施形態では、このモデルは、加工プロセスの現在の組のプロセスパラメータPPSiの関数として現在の動的加工位置TCPiを、例えば、補間または機械学習のモデルを使用することによって、動的TCPをこのプロセスパラメータの組PPSについて事前に測定する必要なく、計算することができるものであり、このTCPiはニューラルネットワークで計算することができる。
【0044】
図3は、ワークピースに対するレーザビームの進行移動の速度ベクトルv
3について演算ユニットによって計算された現在の動的加工位置TCP
iを示し、その位置は、決定された加工位置TCP
nおよびそれに関連するプロセスパラメータの組PPS
n(例えば、比較加工位置TCP
d1、TCP
d2、および/またはTCP
sに基づく)に基づいて計算されている。加工プロセスでは、その計算された加工位置TCP
iを使用して、観測ユニット17の測定位置をそれに合わせることができる。
【0045】
例えば、レーザ溶接またはディープレーザ溶接プロセスを監視する方法の場合、観測ユニット17は、光コヒーレンストモグラフィー(OCT)によって蒸気毛細管またはキーホールKHの現在の深さを測定するための光コヒーレンス断層撮像装置を含むことができる。キーホールの深さを正確に決定できるようにするために、測定光ビーム3は、現在の加工位置TCPi、したがってキーホールKHに当たる必要がある。この目的のために、測定位置(すなわち測定光ビームの位置)を加工位置TCPiに応じて位置合わせできるようにするために、現在の加工位置TCPiを知る必要がある。例えば、レーザビームとワークピースとの間での進行移動の方向の変化によりレーザ加工プロセス中に動的TCPiの位置が変化した場合、モデルによって現在の進行速度ベクトルが使用され、新しい動的加工位置TCPiを予測することができる。これは、比較パラメータの組PPSnが関連付けられた、例えば、セットアッププロセスにおいて事前に決定された所定の比較加工位置TCPnに基づいて、現在の動的加工位置TCPiを、実行される加工プロセスの現在の組のプロセスパラメータPPSiについて計算することができることを意味する。例えば、レーザビームとワークピースとの間の現在の進行移動と現在のレーザパワーに基づいて、対応する動的加工位置TCPiを予測することができる。本デバイスは、観測ユニットの位置決めユニット(例えば、測定光ビームの偏向またはスキャナユニット)と組み合わされると、正確なキーホールの深さを測定するために、測定位置または測定光ビームの位置をリアルタイムで修正することができる。
【0046】
図4は、加工プロセスを監視するためのデバイス15の一実施形態を概略的に示している。本デバイスは、モデルに基づいてレーザ加工プロセスの1組のプロセスパラメータPPS
iについてレーザビーム1の入射点APに対する現在の加工位置TCP
iを計算し、それを測定位置として観測ユニット17に送信する演算ユニット16と、その測定位置における少なくとも1つの監視パラメータ(例えば、距離)を測定するための観測ユニット17と、を備える。演算ユニット16および観測ユニット17は、データの相互交換のために、無線または有線で結合することができる。演算ユニット16は、当該のマシンまたはそれぞれの加工システムに直接接続されるように構成してもよい。当然のことながら、演算ユニット16および観測ユニット17は、1つのユニットとして一緒に形成されてもよく、または演算ユニット16が、観測ユニット17に統合されて形成されてもよい。
【0047】
演算ユニット16は、プロセスパラメータの組PPSiに基づいて、現在の加工位置TCPiを計算するように構成され、この現在の加工位置TCPiが今度は、観測ユニット17に出力される。計算された加工位置TCPiは、観測ユニット17の測定位置(例えば、測定光ビーム)をある1つの計算された加工位置TCPiに位置合わせするのに役立つ。レーザ溶接システムの場合、その位置は、加工プロセス中にワークピース表面に形成された、生成されたキーホールの位置に対応し得る。
【0048】
演算ユニット16は、加工プロセスのプロセスパラメータのそれぞれの組PPSiと、所定の比較加工位置TCPnおよびそれに関連する比較パラメータの組PPSnに基づくモデルとによってこれらの現在の加工位置TCPiを計算する。モデルは、それぞれの加工位置TCPiと加工パラメータの組PPSiとの間の依存性または関係を表すことができる。このモデルは、演算ユニット16に記憶され、現在の加工位置TCPiの計算の根拠を形成することができる。
【0049】
図5は、レーザ加工ヘッド12およびデバイス15を含むレーザ加工システム10を示す。さらに、レーザ加工システム10は、PLCコントローラ14を備えることができ、このPLCコントローラ14は、現在の組のプロセスパラメータPPS
iをレーザ加工ヘッド12に出力し、加工プロセスをこのように(すなわち、具体的には、レーザビームとワークピースとの間の相対的な進行移動の大きさおよび向き、レーザビームのパワーなどを)制御するように構成される。これらの組のプロセスパラメータPPS
iはまた、PLCコントローラ14によって、対応するインターフェースを介して演算ユニット16に出力されることもできる。あるいは、演算ユニット16は、それらの組のプロセスパラメータPPS
iをレーザ加工ヘッド12から直接受け取ってもよい。こうして、予測された現在の加工位置TCP
iは、プロセス品質を向上させるために、プロセスに直接フィードバックされ得る。
【0050】
演算ユニット16は、加工プロセスのプロセスパラメータの組PPSiの入力および/または選択のために設けられるヒューマン-マシンインターフェース20に接続されることができる。例えば、このヒューマン-マシンインターフェース20は、グラフィカルユーザインターフェースを含むことができる。当然のことながら、他のタイプの入力インターフェースが設けられてもよい。
【0051】
演算ユニット16は、好ましくは、現在のプロセス設定を考慮に入れて、すなわち、現在の組のプロセスパラメータPPSiに基づいて、現在の加工位置TCPiを計算する。代替的または追加的に、演算ユニット16は、事前に定義されたサブプロセスについての所定の組のプロセスパラメータに基づいて現在の加工位置TCPiを計算するように構成されてもよい。これにより、使用可能な現在の組のプロセスパラメータがない場合に、現在の加工位置TCPiを計算することが可能になる。例えば、加工プロセスの別々のサブプロセスに対して、別々の組のプロセスパラメータを選択することができる。
【0052】
さらに、レーザ加工ヘッド12および/またはデバイス15は、例えば、レーザビームとワークピースとの間の現在の進行速度およびその向きを測定可能にし、かつ/または現在のレーザパワー、温度などの他のパラメータを測定可能にするセンサ18を備えてもよい。これらのセンサ18は、レーザ加工ヘッド12の軸に取り付けられたエンコーダであってもよい。測定された値は、加工プロセスのプロセスパラメータの組の現在のパラメータとして演算ユニット16に送信されることができる。したがって、現在の加工位置TCPiの予測は、センサ18によって渡されたプロセスパラメータの組PPSiに基づいて実行することもできる。
【0053】
このようにして、加工プロセスの1組のプロセスパラメータを使用して、観測ユニットの測定位置が位置合わせされることになる現在のまたは瞬間的な加工位置をリアルタイムで決定することができ、したがって加工プロセスを継続的に監視することができる。さらに、プロセスパラメータPPSnの組と加工位置TCPnとの間の関係を表すモデルは、構造的に同一のレーザ加工システムに(例えば、「デジタルツイン」に)、関係性を再度決定する必要なく、転送することが可能である。
【国際調査報告】