(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ポリサルコシンを含むRNA粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20220105BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220105BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K9/14
A61K38/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518185
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(85)【翻訳文提出日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2019076369
(87)【国際公開番号】W WO2020070040
(87)【国際公開日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2018/076633
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2019/069551
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】509256849
【氏名又は名称】ヨハネス グーテンベルグ-ウニヴェリジテート マインツ
【氏名又は名称原語表記】JOHANNES GUTENBERG-UNIVERSITAET MAINZ
【住所又は居所原語表記】Saarstrasse 21, 55122 Mainz, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】515145032
【氏名又は名称】バイオエヌテック エールエヌアー ファーマシューティカルズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】BIONTECH RNA PHARMACEUTICALS GMBH
【住所又は居所原語表記】An der Goldgrube 12 55131 Mainz Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】バーズ, マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ウェバー, ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ハース, ハインリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヘラー, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ノゲイラ, サラ
(72)【発明者】
【氏名】シュレーゲル, アンネ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA29
4C076BB11
4C076CC29
4C076CC30
4C076DD15
4C076DD49
4C076DD52
4C076DD59
4C076DD63F
4C076EE23
4C076EE41
4C076FF68
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084MA05
4C084MA24
4C084MA43
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZC02
4C084ZC03
(57)【要約】
本開示は、投与後、特に静脈内、筋肉内、皮下または腫瘍内投与などの非経口投与後にRNAを標的組織に送達するためのRNA粒子、およびそのようなRNA粒子を含む組成物に関する。一実施形態におけるRNA粒子は、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質などの目的のペプチドまたはタンパク質をコードするmRNAなどの一本鎖RNAを含む。RNAは標的組織の細胞によって取り込まれ、RNAはコードされたペプチドまたはタンパク質に翻訳されて、その生理学的活性を示し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のRNA粒子を含む組成物であって、各粒子が、
(i)RNA;
および
(ii)RNAと会合してRNA粒子を形成する1つ以上の成分
を含み、
ポリサルコシンが前記1つ以上の成分のうちの少なくとも1つにコンジュゲートしている、組成物。
【請求項2】
前記RNA粒子が非ウイルスRNA粒子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
RNAと会合して粒子を形成する前記1つ以上の成分が1つ以上のポリマーを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記1つ以上のポリマーがカチオン性ポリマーを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記カチオン性ポリマーがアミン含有ポリマーである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記1つ以上のポリマーが、ポリ-L-リジン、ポリアミドアミン、ポリエチレンイミン、キトサンおよびポリ(β-アミノエステル)からなる群より選択される1つ以上のポリマーを含む、請求項3~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
RNAと会合して粒子を形成する前記1つ以上の成分が、1つ以上の脂質または脂質様物質を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項8】
前記1つ以上の脂質または脂質様物質が、カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記カチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質が、酸性pHでのみ正に帯電し、生理学的pHではカチオン性のままではない、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記1つ以上の脂質または脂質様物質が、1つ以上のさらなる脂質または脂質様物質を含む、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリサルコシンが、前記1つ以上のさらなる脂質または脂質様物質のうちの少なくとも1つにコンジュゲートしている、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
複数のRNA-脂質粒子を含む組成物であって、各粒子が、
(a)RNA;
(b)カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質;
および
(c)ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲート
を含む組成物。
【請求項13】
各粒子が、
(d)非カチオン性脂質または脂質様物質
をさらに含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記粒子が、ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートまたはポリエチレングリコールと脂質様物質とのコンジュゲートを含まず、好ましくはポリエチレングリコールを含まない、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質が、前記粒子中に存在する前記脂質および脂質様物質の総量の約20モル%~約80モル%を構成する、請求項12~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記非カチオン性脂質または脂質様物質が、前記粒子中に存在する前記脂質および脂質様物質の総量の約0モル%~約80モル%を構成する、請求項13~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートが、前記粒子中に存在する前記脂質および脂質様物質の総量の約0.25モル%~約50モル%を構成する、請求項12~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記RNAがmRNAである、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質が、N,N-ジメチル-2,3-ジオレイルオキシ)プロピルアミン(DODMA)、N,N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、N,N-ジステアリル-N,N-ジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)、N-(1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTAP)、N-(1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-KC2-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)、またはそれらの混合物を含む、請求項8~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記非カチオン性脂質または脂質様物質がリン脂質を含む、請求項13~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記非カチオン性脂質または脂質様物質がコレステロールまたはコレステロール誘導体を含む、請求項13~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記非カチオン性脂質または脂質様物質が、リン脂質とコレステロールまたはコレステロール誘導体との混合物を含む、請求項13~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記リン脂質が、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、またはそれらの混合物からなる群より選択される、請求項20~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
前記非カチオン性脂質または脂質様物質が、DSPCとコレステロールの混合物を含む、請求項13~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
前記ポリサルコシンが2~200個のサルコシン単位を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートが、以下の一般式(I):
【化1】
を含む、請求項12~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートが、以下の一般式(II)
【化2】
(式中、R
1およびR
2の一方は疎水性基を含み、他方はH、親水性基、または標的化部分を含んでいてもよい官能基である)
を含む、請求項12~26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
前記ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートが、以下の一般式(III)
【化3】
(式中、RはH、親水性基、または標的化部分を含んでいてもよい官能基である)
を含む、請求項12~27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
前記ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートが、ポリサルコシン-ジアシルグリセロールコンジュゲート、ポリサルコシン-ジアルキルオキシプロピルコンジュゲート、ポリサルコシン-リン脂質コンジュゲート、ポリサルコシン-セラミドコンジュゲート、およびそれらの混合物からなる群より選択されるメンバーである、請求項1~28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
前記粒子がナノ粒子である、請求項1~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
前記粒子がナノ構造コアを含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記粒子が約30nm~約500nmのサイズを有する、請求項1~31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
前記ポリサルコシンコンジュゲートが前記粒子の凝集を阻害する、請求項1~32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
対象の細胞にRNAを送達するための方法であって、請求項1~33のいずれか一項に記載の組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項35】
治療用ペプチドまたはタンパク質を対象に送達するための方法であって、前記RNAが前記治療用ペプチドまたはタンパク質をコードする、請求項1~33のいずれか一項に記載の組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項36】
対象における疾患または障害を治療または予防するための方法であって、請求項1~33のいずれか一項に記載の組成物を対象に投与することを含み、前記対象の細胞への前記RNAの送達が前記疾患または障害を治療または予防するのに有益である、方法。
【請求項37】
対象における疾患または障害を治療または予防するための方法であって、前記RNAが治療用ペプチドまたはタンパク質をコードする、請求項1~33のいずれか一項に記載の組成物を対象に投与することを含み、前記対象への前記治療用ペプチドまたはタンパク質の送達が前記疾患または障害を治療または予防するのに有益である、方法。
【請求項38】
前記対象が哺乳動物である、請求項34~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記哺乳動物がヒトである、請求項38に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、投与後、特に静脈内、筋肉内、皮下または腫瘍内投与などの非経口投与後にRNAを標的組織に送達するためのRNA粒子、およびそのようなRNA粒子を含む組成物に関する。一実施形態におけるRNA粒子は、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質などの目的のペプチドまたはタンパク質をコードするmRNAなどの一本鎖RNAを含む。RNAは標的組織の細胞によって取り込まれ、RNAはコードされたペプチドまたはタンパク質に翻訳されて、その生理学的活性を示し得る。
【背景技術】
【0002】
外来遺伝子情報を標的細胞に送達するためのRNAの使用は、DNAの魅力的な代替手段を提供する。RNAを使用することの利点には、一過性の発現および非形質転換特性が含まれる。RNAは、発現されるために核に入る必要がなく、さらに宿主ゲノムに組み込まれることができないため、発癌のリスクを排除する。
【0003】
RNAは、主に、RNAと一緒になってナノ粒子を形成するカチオン性ポリマーまたは脂質に基づいて、様々な送達ビヒクルを使用して対象に送達され得る。ナノ粒子は、RNAを分解から保護し、標的部位へのRNAの送達を可能にし、細胞の取り込みと標的細胞によるプロセシングを促進することを目的とする。送達効率については、分子組成に加えて、粒子サイズ、電荷、またはポリエチレングリコール(PEG)もしくはリガンドなどの分子部分とのグラフト化のようなパラメータが役割を果たす。PEGによるグラフト化は、血清相互作用を低減し、血清安定性を高め、循環時間を増加させると考えられており、これは、特定の標的アプローチに役立ち得る。標的部位の受容体に結合するリガンドは、標的化の有効性を改善するのを助けることができる。さらに、PEG化は粒子操作に使用することができる。例えば、脂質ナノ粒子(LNP)がRNAの水相を脂質の有機相と混合することによって製造される場合、脂質混合物中のPEG結合脂質の特定の割合が必要であり、さもなければ粒子は混合工程中に凝集する。異なるモル質量のPEGを含むPEG-脂質のモル分率を変化させることによって粒子サイズを調整できることが示されている。同様に、粒子サイズは、PEG化脂質のPEG部分のモル質量の変化によって調整され得る。アクセス可能な典型的なサイズは、30~200nmの範囲である(Belliveau et al,2012,Molecular Therapy-Nucleic Acids 1,e37)。そのように形成された粒子はさらに、PEG画分のために、血清成分との相互作用が少なく、より長い循環半減期を有するという利点があり、これは多くの薬物送達アプローチにおいて望ましい。PEG脂質がない場合、個別のサイズの粒子を形成することができない;粒子は大きな凝集体を形成し、沈殿する。
【0004】
したがって、LNPがエタノール相と水相から形成される技術の場合、PEG-脂質の主な役割の1つは、核酸が、RNAに結合する脂質を含むエタノール溶液中で急速に混合されるときに形成される新生粒子の表面に立体障害を提供することによって、粒子の自己組織化を促進することである。PEGの立体障害は、粒子間の融合を防ぎ、100nm未満の直径を有するLNPの均一な集団の形成を促進する。
【0005】
PEGは、薬物送達において最も広く使用されているゴールドスタンダードの「ステルス」ポリマーである。PEG-脂質は、典型的には、その親水性の立体障害特性により、系に組み込まれて均質でコロイド的に安定なナノ粒子集団を調製する(PEGシェルは、凝集につながる静電引力またはファンデルワールス力を防止する)。PEG化は、RNA複合体を血清タンパク質によるオプソニン化から遮蔽し、血清半減期を延長し、および急速な腎クリアランスを減少させる、ポリマーの周囲に水殻を誘引することを可能にし、薬物動態挙動の改善をもたらす。脂質のアシル鎖(C18、C16、またはC14)の長さを変えると、粒子へのPEG-脂質の組み込みの安定性が変化し、薬物動態の変化をもたらす。インビボで30分未満の半減期でLNPから解離する短い(C14)アシル鎖を含むPEG-脂質の使用は、最適な肝細胞遺伝子サイレンシング効力をもたらす(Chen et al,2014,J Control Release 196:106-12;Ambegia et al.,2005,Biochimica et Biophysica Acta 1669:155-163)。さらに、粒子サイズの厳密な制御は、PEG-脂質パラメータを変更することによって得られる;粒子内のPEGのMWが高いかまたはPEG-脂質のモル分率が高いほど、粒子はより小さくなる。
【0006】
これらの利点にもかかわらず、ナノ粒子のPEG化は、薬物送達の意図された使用に悪影響を及ぼすいくつかの作用にもつながり得る。リポソームとLNPのPEG化は、細胞への取り込みとエンドソーム脱出を減少させることが公知であり、したがって最終的には全体的なトランスフェクション効率を低下させる。実際に、PEGシェルは、細胞への粒子の効率的な結合に対する立体障害を提供し、リポソームとエンドソーム膜の間の膜融合を防ぐことによってエンドソーム脱出を妨げる。そのため、PEG-脂質の種類と使用するPEG-脂質の量は、常に注意深く調整しなければならない。それは、一方ではトランスフェクションを妨げずに、他方ではインビボおよび安定化側面のために十分なステルス効果を提供するはずである。この現象は「PEGジレンマ」として公知である。
【0007】
トランスフェクション効率を低下させることに加えて、PEG化は、抗PEG抗体によって誘導される加速血液クリアランス(ABC)現象および/または補体活性化ならびに貯蔵疾患と関連している(Bendele A et al.,1998,Toxicolocical Sciences 42,152-157;Young MA et al.,2007,Translational Research 149(6),333-342;S.M.Moghimi,J.Szebeni,2003,Progress in Lipid Research 42:463-478)。Ishida et alおよびLaverman et alは、PEGグラフト化リポソームのラットへの静脈内注射が、数日の間隔を置いた後2回目の用量を投与したとき、この2回目の用量の薬物動態挙動を有意に変化させ得ることを報告した(Laverman P et al.,2001,J Pharmacol Exp Ther.298(2),607-12;Ishida et al.,2006,J Control Release 115(3),251-8)。「加速血液クリアランス」(ABC)の現象は、リポソームのPEG含有量に反比例するようである。血漿中の抗PEG抗体の存在は、最終的に薬物の有効性を低下させる、単核ファゴサイト系(MPS)による粒子のより高いクリアランスを誘導する。
【0008】
PEGはまた、補体活性化を誘導すると考えられており、これは、補体活性化関連疑似アレルギー(CARPA)としても公知の過敏反応を引き起こし得る。補体の活性化が一般にナノ粒子によるものであるのか、または特にPEGの存在に起因するのかは、文献からはまだ明らかではない。
【0009】
脂質ナノ粒子中のPEGの存在はまた、特異的免疫応答を誘導し得る。Semple et al.は、PEG-脂質誘導体および封入されたアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドまたはプラスミドDNAを含むリポソームが、マウスにおいてその後の用量の急速な血液クリアランスをもたらす強力な免疫応答を誘発することを報告した。この応答の大きさは、重大な罹患率、および場合によっては死亡を誘発するのに十分であった。血液からのリポソーム封入ODNの迅速な除去は、非PEG化リポソームまたは迅速に交換可能なPEG-脂質を含むリポソームの使用が応答を無効にしたため、膜中のPEG-脂質の存在に依存した。抗PEG抗体の生成と推定される補体活性化は、血液からの小胞の急速な除去についての可能性の高い説明であった。(Semple et al.,2005,J Pharmacol Exp Ther.312(3),1020-6)。
【0010】
PEGは免疫応答を誘導し得るので、複数回の注射が必要な特定の適用では、PEGを回避する必要がある。例は、例えばタンパク質補充療法のための、mRNAを使用する療法である。ここでは、RNAの潜在的な固有の免疫原性のためにリスクが特に高くなり得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Belliveau et al,2012,Molecular Therapy-Nucleic Acids 1,e37
【非特許文献2】Chen et al,2014,J Control Release 196:106-12
【非特許文献3】Ambegia et al.,2005,Biochimica et Biophysica Acta 1669:155-163
【非特許文献4】Bendele A et al.,1998,Toxicolocical Sciences 42,152-157
【非特許文献5】Young MA et al.,2007,Translational Research 149(6),333-342
【非特許文献6】S.M.Moghimi,J.Szebeni,2003,Progress in Lipid Research 42:463-478
【非特許文献7】Laverman P et al.,2001,J Pharmacol Exp Ther.298(2),607-12
【非特許文献8】Ishida et al.,2006,J Control Release 115(3),251-8
【非特許文献9】Semple et al.,2005,J Pharmacol Exp Ther.312(3),1020-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、PEGの使用に伴う不利な点を回避する、RNAを細胞に導入するための効率的な方法および組成物に対する当技術分野での必要性が依然として存在する。本開示は、これらおよび他の必要性に対処する。
【0013】
本発明人は、驚くべきことに、本明細書に記載のRNA粒子製剤が上記の要件を満たすことを見出した。特に、ポリサルコシン-脂質コンジュゲートがRNAナノ粒子の構築のための適切な成分であることが実証される。ポリサルコシンは、天然アミノ酸のサルコシン(N-メチルグリシン)の繰り返し単位で構成され、生分解性である。ポリサルコシン-脂質コンジュゲートは、様々な技術によるRNAナノ粒子の製造を可能にし、定義された表面特性と制御されたサイズ範囲をもたらす。製造は、医薬品製造の要件に準拠した堅固な工程で実施することができる。粒子は、電荷を調節するため、またはリガンドのような特定の分子部分を導入するために、様々な部分で末端基官能化することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一態様では、本発明は、複数のRNA粒子を含む組成物であって、各粒子が、
(i)RNA;
および
(ii)RNAと会合してRNA粒子を形成する1つ以上の成分
を含み、
ポリサルコシンが1つ以上の成分のうちの少なくとも1つにコンジュゲートしている、組成物に関する。
【0015】
一実施形態では、RNA粒子は非ウイルスRNA粒子である。一実施形態では、RNAと会合して粒子を形成する1つ以上の成分は、1つ以上のポリマーを含む。一実施形態では、1つ以上のポリマーはカチオン性ポリマーを含む。一実施形態では、カチオン性ポリマーはアミン含有ポリマーである。一実施形態では、1つ以上のポリマーは、ポリ-L-リジン、ポリアミドアミン、ポリエチレンイミン、キトサンおよびポリ(β-アミノエステル)からなる群より選択される1つ以上のポリマーを含む。
【0016】
一実施形態では、RNAと会合して粒子を形成する1つ以上の成分は、1つ以上の脂質または脂質様物質を含む。一実施形態では、1つ以上の脂質または脂質様物質は、カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質を含む。一実施形態では、カチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質は、酸性pHでのみ正に帯電し、生理学的pHではカチオン性のままではない。一実施形態では、1つ以上の脂質または脂質様物質は、1つ以上のさらなる脂質または脂質様物質を含む。一実施形態では、ポリサルコシンは、1つ以上のさらなる脂質または脂質様物質のうちの少なくとも1つにコンジュゲートしている。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、複数のRNA-脂質粒子を含む組成物であって、各粒子が、
(a)RNA;
(b)カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質;
および
(c)ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲート
を含む、組成物に関する。
【0018】
一実施形態では、各粒子は、
(d)非カチオン性脂質または脂質様物質
をさらに含む。
【0019】
一実施形態では、カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質は、粒子中に存在する脂質および脂質様物質の総量の約20モル%~約80モル%を構成する。
【0020】
一実施形態では、非カチオン性脂質または脂質様物質は、粒子中に存在する脂質および脂質様物質の総量の約0モル%~約80モル%を構成する。
【0021】
一実施形態では、ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートは、粒子中に存在する脂質および脂質様物質の総量の約0.25モル%~約50モル%を構成する。
【0022】
一実施形態では、非カチオン性脂質または脂質様物質は、リン脂質を含む。一実施形態では、非カチオン性脂質または脂質様物質は、コレステロールまたはコレステロール誘導体を含む。一実施形態では、非カチオン性脂質または脂質様物質は、リン脂質とコレステロールまたはコレステロール誘導体との混合物を含む。一実施形態では、リン脂質は、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、またはそれらの混合物からなる群より選択される。一実施形態では、非カチオン性脂質または脂質様物質は、DSPCとコレステロールの混合物を含む。
【0023】
一実施形態では、ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートは、以下の一般式(I):
【0024】
【0025】
を含む。
【0026】
一実施形態では、ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートは、以下の一般式(II):
【0027】
【0028】
(式中、R1およびR2の一方は疎水性基を含み、他方はH、親水性基、または標的化部分を含んでもよい官能基である)
を含む。
【0029】
一実施形態では、ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートは、以下の一般式(III):
【0030】
【0031】
(式中、Rは、H、親水性基、または標的化部分を含んでもよい官能基である)
を含む。
【0032】
本発明のすべての態様の一実施形態では、粒子は、ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートまたはポリエチレングリコールと脂質様物質とのコンジュゲートを含まず、好ましくはポリエチレングリコールを含まない。
【0033】
本発明のすべての態様の一実施形態では、RNAはmRNAである。
【0034】
本発明のすべての態様の一実施形態では、カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質は、N,N-ジメチル-2,3-ジオレイルオキシ)プロピルアミン(DODMA)、N,N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、N,N-ジステアリル-N,N-ジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)、N-(1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTAP)、N-(1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-KC2-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)、またはそれらの混合物を含む。
【0035】
本発明のすべての態様の一実施形態では、ポリサルコシンは、2~200個のサルコシン単位を含む。
【0036】
本発明のすべての態様の一実施形態では、ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートは、ポリサルコシン-ジアシルグリセロールコンジュゲート、ポリサルコシン-ジアルキルオキシプロピルコンジュゲート、ポリサルコシン-リン脂質コンジュゲート、ポリサルコシン-セラミドコンジュゲート、およびそれらの混合物からなる群より選択されるメンバーである。
【0037】
本発明のすべての態様の一実施形態では、粒子はナノ粒子である。
【0038】
本発明のすべての態様の一実施形態では、粒子はナノ構造コアを含む。
【0039】
本発明のすべての態様の一実施形態では、粒子は、約30nm~約500nmのサイズを有する。
【0040】
本発明のすべての態様の一実施形態では、ポリサルコシンコンジュゲートは粒子の凝集を阻害する。
【0041】
さらなる態様では、本発明は、対象の細胞にRNAを送達するための方法であって、本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含む方法に関する。
【0042】
さらなる態様では、本発明は、治療用ペプチドまたはタンパク質を対象に送達するための方法であって、RNAが治療用ペプチドまたはタンパク質をコードする、本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含む方法に関する。
【0043】
さらなる態様では、本発明は、対象における疾患または障害を治療または予防するための方法であって、本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含み、対象の細胞へのRNAの送達が疾患または障害を治療または予防するのに有益である方法に関する。
【0044】
さらなる態様では、本発明は、対象における疾患または障害を治療または予防するための方法であって、RNAが治療用ペプチドまたはタンパク質をコードする、本明細書に記載の組成物を対象に投与することを含み、対象への治療用ペプチドまたはタンパク質の送達が疾患または障害を治療または予防するのに有益である方法に関する。
【0045】
一実施形態では、対象は哺乳動物である。一実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】ポリサルコシル化LNPの粒子サイズとモル分率の関係。脂質ナノ粒子を、漸増モル分率のC14PSarc20を含む脂質混合物を使用して製造した。適切な条件下で、コロイド的に安定な粒子を得ることができる。PSarcの非常に低い分率(0.5および1%)では、測定可能なサイズの粒子は形成されなかったが、2.5モル%以上では、個別のサイズで多分散指数の低い粒子が得られた。粒子サイズは、PSarc分率の変化によって正確に微調整することができた。粒子サイズは、2.5モル%のPSarcでの約200~250nmから、20モル%のPSarcでの約50nmまで、単調に減少した。
【
図2】LNP形成に使用されるPSarc脂質のポリサルコシンの長さ(重合単位)と、様々な細胞株におけるルシフェラーゼをコードするmRNA LNPのインビトロタンパク質発現との関係。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したLNPを、肺腫瘍細胞(TC-1)、筋肉細胞(C2C12)、肝細胞(Hep-G2)およびマクロファージ(RAW 264.7)で試験した。トランスフェクションの24時間後、生物発光シグナルを測定した。細胞株とは関係なく、ポリサルコシンの重合単位数の増加は、PEG脂質で通常観察されるようなタンパク質発現レベルの低下にはつながらなかった。
【
図3】ポリサルコシンの長さを11~65単位の間で変化させた、一定な分率(5%)のPSarc脂質を含むLNPのインビボでの有効性。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したLNPをマウスに静脈内注射した(10μgのRNA、n=3)。インビボおよびエクスビボ生物発光を測定した。すべての場合に、最も強いシグナルは肝臓で見出された。図には、注射の6時間後に抽出した、肝臓からのエクスビボ測定からのデータが示されている。肝臓でのタンパク質発現レベルに対するポリサルコシンの長さの有意な影響は決定できなかった。これは、トランスフェクション効率を低下させることなく、広範囲のサイズのPSarcを使用して粒子を操作することを可能にする。
【
図4】粒子サイズとゼータ電位に対する様々なポリサルコシン末端基の影響。アミン基、カルボキシル化またはアセチル化末端基のいずれかを有する20の繰り返し単位からなるPSarcを直接比較して試験した。他のすべての製剤パラメータは一定に維持した。試験したすべての末端基を有するLNPの形成は成功し、PSarc分率と粒子特性(サイズとゼータ電位)の間の相関は類似していた。
【
図5】
図4に記載されているように、異なる末端基を有するポリサルコシン脂質を含むLNPのインビトロ特性評価。モル分率5%、長さ20単位のPSarc脂質を使用した。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したLNPを、肝細胞(Hep-G2)、マクロファージ(RAW 264.7)、筋肉細胞(C2C12)、および胎児腎細胞(HEK 293 T)で試験した。トランスフェクションの24時間後、生物発光シグナルを測定した。すべてのLNPおよび細胞株について、生物発光シグナルが得られた。細胞株の関数としてのシグナル強度の依存性は、すべての末端基で類似していた。
【
図6】
図4および5に記載されているように、異なる末端基で製剤化したLNPのインビボ有効性。モル分率5%、長さ20単位のPSarc脂質を使用した。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したLNPを静脈内注射した(10μgのRNA、n=3)。インビボおよびエクスビボ生物発光を測定した。すべての場合に、最も強いシグナルは肝臓で見出された。図には、注射の6時間後に抽出した、肝臓からのエクスビボ測定からのデータが示されている。すべての末端基で同様のシグナル強度が決定され、すべての末端基がインビボで同様に高いトランスフェクションを得るのに適していることを示した。
【
図7】リポソームのサイズに対するPEG化およびポリサルコシル化の影響。リポソームをDOTMAとDOPE(2:1モル/モル)のみで調製するか、または2%のモル分率でPEG-脂質もしくはpSarを含む脂質混合物を使用した。PEGとpSarcはどちらも測定サイズの有意な減少をもたらすが、多分散指数はより高かった(マルチモーダル)。
【
図8】
図7に記載されているように、PEGおよびPSarcを含むリポソームを使用したリポプレックス形成。3種類すべてのリポソーム(DOTMAとDOPE(2:1モル/モル)のみ、または2%のモル分率でPEG-脂質もしくはpSarcを含む)から、限定されたサイズで多分散指数が低いリポプレックスが形成された。PEG化およびポリサルコシル化リポソームからのリポプレックスは、多分散指数(PDI)値が大きいリポソーム前駆体と比較して、驚くほど低い多分散指数を示した。これは、高い多分散指数を有するpSarcリポソームも、50nmのかなり小さいサイズと約0.2のPDIを有する明確に定義されたRNAリポプレックスの形成に適し得ることを示す。
【
図9】DOTMAとDOPE(2:1モル/モル)のみ、または2%のモル分率でPEG-脂質もしくはpSarcを含む同じ脂質混合物からなるリポソームから構成されるリポプレックスのインビトロ特性評価。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したリポプレックスを肝細胞(Hep-G2)で試験した。トランスフェクションの24時間後、生物発光シグナルを測定した。PEG化はシグナルを有意に減少させたが、PSarcが存在する場合、この減少はそれほど顕著ではなかった。PSarcは、PEGよりもはるかに少ない程度でトランスフェクション効率を低下させるようである。
【
図10】DOTMAとDOPE(2:1モル/モル)のみ、または2%のモル分率でPEG-脂質もしくはpSarcを含む同じ脂質混合物からなるリポソームから構成されるリポプレックスのインビトロ特性評価。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したリポプレックスを筋肉細胞(C2C12)で試験した。トランスフェクションの24時間後、生物発光シグナルを測定した。PEG化はシグナルを有意に減少させたが、PSarcが存在する場合、この減少はそれほど顕著ではなかった。PSarcは、PEGよりもはるかに少ない程度でトランスフェクション効率を低下させるようである。
【
図11】製剤中の粒子サイズとポリサルコシン鎖長およびモル比の関係。
【
図12】ポリサルコシル化脂質ナノ粒子からの散乱曲線(SAXS)。
【
図13】Quant-It Ribogreenアッセイによって評価したRNAアクセス可能性。
【
図14】PSarcまたはPEG結合脂質のいずれかで製剤化したLNPに負荷した、EPO(エリスロポエチン)をコードするmRNAの様々な用量の静脈内投与。
【
図15】PSarc鎖長を増加させて製剤化したLNPの注射後の肝毒性の初期マーカとしての肝酵素の放出。
【
図16】理論上のヒト血漿濃度でのPEG化およびポリサルコシル化LNPのC3a複合体を介した補体の活性化。
【
図17】DODMA:コレステロール:DSPC:PSarc 23を40:45:10:5のそれぞれのモル%で製剤化したLNPの低温電子顕微鏡(TEM)画像。スケールバー=200nm。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本開示を以下で詳細に説明するが、この開示は本明細書に記載される特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは異なり得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本開示の範囲を限定することを意図するものではなく、本開示の範囲は付属の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0048】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、"A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)",H.G.W.Leuenberger,B.Nagel,and H.Kоlbl,Eds.,Helvetica Chimica Acta,CH-4010 Basel,Switzerland,(1995)に記載されているように定義される。
【0049】
本開示の実施は、特に指示されない限り、当分野の文献(例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,J.Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 1989参照)で説明されている化学、生化学、細胞生物学、免疫学、および組換えDNA技術の従来の方法を用いる。
【0050】
以下において、本開示の要素を説明する。これらの要素を具体的な実施形態と共に列挙するが、それらは、さらなる実施形態を創出するために任意の方法および任意の数で組み合わせてもよいことが理解されるべきである。様々に説明される例および実施形態は、本開示を明確に記述される実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明確に記述される実施形態を任意の数の開示される要素と組み合わせた実施形態を開示し、包含すると理解されるべきである。さらに、記述されるすべての要素の任意の並び替えおよび組合せは、文脈上特に指示されない限り、この説明によって開示されていると見なされるべきである。
【0051】
「約」という用語はおよそまたはほぼを意味し、本明細書に記載の数値または範囲の文脈において、一実施形態では、列挙または特許請求される数値または範囲の±20%、±10%、±5%、または±3%を意味する。
【0052】
本開示を説明する文脈において(特に特許請求の範囲の文脈において)使用される「1つの」および「その」という用語ならびに同様の言及は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈上明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、単に、その範囲内に属する各々別々の値を個々に言及することの簡略方法として機能することが意図されている。本明細書で特に指示されない限り、各個別の値は、本明細書で個別に列挙されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈上明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的言語(例えば「など」)の使用は、単に本開示をよりよく説明することを意図しており、特許請求の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、本開示の実施に必須の特許請求されていない要素を指示すると解釈されるべきではない。
【0053】
特に明記されない限り、「含む」という用語は、「含む」によって導入されたリストのメンバーに加えて、さらなるメンバーが任意に存在し得ることを示すために本文書の文脈で使用される。しかしながら、「含む」という用語は、さらなるメンバーが存在しない可能性を包含することが本開示の特定の実施形態として企図され、すなわちこの実施形態の目的のためには、「含む」は「からなる」の意味を有すると理解されるべきである。
【0054】
本明細書の本文全体を通していくつかの資料を引用する。本明細書で引用される各資料(すべての特許、特許出願、科学出版物、製造者の仕様書、指示書などを含む)は、上記または下記のいずれでも、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本開示がそのような開示に先行する権利を有さなかったことの承認と解釈されるべきではない。
【0055】
定義
以下において、本開示のすべての態様に適用される定義を提供する。以下の用語は、特に指示されない限り、以下の意味を有する。未定義の用語は、それらの技術分野で広く認められている意味を有する。
【0056】
本明細書で使用される「低減する」または「阻害する」などの用語は、例えば約5%以上、約10%以上、約20%以上、約50%以上、または約75%以上のレベルの全体的な減少を生じさせる能力を意味する。「阻害する」という用語または同様の語句には、完全なまたは本質的に完全な阻害、すなわちゼロまたは本質的にゼロへの低減が含まれる。
【0057】
一実施形態における「増加」または「増強」などの用語は、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約80%、または少なくとも約100%の増加または増強に関する。
【0058】
本明細書で使用される「生理学的pH」は、約7.4のpHを指す。
【0059】
本開示で使用される場合、「%w/v」は重量体積パーセントを指し、これは、ミリリットル(mL)での溶液の総体積のパーセントとして表されるグラム(g)での溶質の量を測定する濃度の単位である。
【0060】
本開示で使用される場合、「モル%」は、すべての成分の総モル数に対する1つの成分のモル数の比に100を乗じたものとして定義される。
【0061】
「イオン強度」という用語は、特定の溶液中の異なる種類のイオン種の数とそれらのそれぞれの電荷との間の数学的関係を指す。したがって、イオン強度Iは、式:
【0062】
【0063】
(式中、cは特定のイオン種のモル濃度、zはその電荷の絶対値である)
によって数学的に表される。合計Σは、溶液中のすべての異なる種類のイオン(i)に適用される。
【0064】
本開示によれば、一実施形態における「イオン強度」という用語は、一価イオンの存在に関する。二価イオン、特に二価カチオンの存在に関して、キレート剤の存在により、それらの濃度または有効濃度(遊離イオンの存在)は、一実施形態では、RNAの分解を防ぐのに十分に低い。一実施形態では、二価イオンの濃度または有効濃度は、RNAヌクレオチド間のホスホジエステル結合の加水分解のための触媒レベルよりも低い。一実施形態では、遊離二価イオンの濃度は20μM以下である。一実施形態では、遊離二価イオンは存在しないか、または本質的に存在しない。
【0065】
「オスモル濃度」は、溶媒のキログラムあたりの溶質のオスモル数として表される溶質の濃度を指す。
【0066】
「凍結する」という用語は、液体から固体状態への相転移に関する。これは通常、系の温度を臨界温度未満に低下させると発生し、系のエンタルピーの特徴的な変化を伴う。
【0067】
「凍結乾燥する」または「凍結乾燥」という用語は、物質を凍結し、次に周囲の圧力を下げて、物質中の凍結媒体を固相から気相に直接昇華させることによる物質の凍結乾燥を指す。
【0068】
「噴霧乾燥」という用語は、(加熱された)気体を容器(噴霧乾燥機)内で霧化(噴霧)された流体と混合することによって物質を噴霧乾燥することを指し、そこで形成された液滴からの溶媒が蒸発し、乾燥粉末をもたらす。
【0069】
「凍結保護剤」という用語は、凍結段階中に活性成分を保護するために製剤に添加される物質に関する。
【0070】
「凍結乾燥保護剤」という用語は、乾燥段階中に活性成分を保護するために製剤に添加される物質に関する。
【0071】
「再構成する」という用語は、乾燥した製品に水などの溶媒を添加して、それを元の液体状態などの液体状態に戻すことに関する。
【0072】
本開示の文脈における「組換え」という用語は、「遺伝子操作を介して作製された」ことを意味する。一実施形態では、本開示の文脈における「組換え物体」は、天然には存在しない。
【0073】
本明細書で使用される「天然に存在する」という用語は、物体が自然界で見出され得るという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在し、自然界の供給源から単離することができ、実験室で人間によって意図的に修飾されていないペプチドまたは核酸は、天然に存在する。「自然界で見出される」という用語は、「自然界に存在する」ことを意味し、公知の物体ならびに自然からまだ発見および/または単離されていないが、天然源から将来発見および/または単離される可能性がある物体を含む。
【0074】
本開示の文脈において、「粒子」という用語は、分子または分子複合体によって形成される構造化された実体に関する。一実施形態では、「粒子」という用語は、媒体に分散されたマイクロまたはナノサイズの緻密な構造体などのマイクロまたはナノサイズの構造体に関する。
【0075】
本開示の文脈において、「RNA粒子」という用語は、RNAを含む粒子に関する。ポリマーおよび脂質などの正に帯電した分子と負に帯電したRNAとの間の静電相互作用は、粒子形成に関与する。これは、複合体化とRNA粒子の自発的形成をもたらす。一実施形態では、RNA粒子はナノ粒子である。
【0076】
本開示で使用される場合、「ナノ粒子」は、静脈内投与に適した平均直径を有する粒子を指す。
【0077】
「平均直径」という用語は、いわゆるキュムラントアルゴリズムを使用したデータ分析を伴う動的レーザー光散乱(DLS)によって測定される粒子の平均流体力学的直径を指し、結果として、長さの次元を有するいわゆるZaverage、および無次元である多分散指数(PI)を提供する(Koppel,D.,J.Chem.Phys.57,1972,pp 4814-4820,ISO 13321)。ここで、粒子の「平均直径」、「直径」、または「サイズ」は、このZaverageの値と同義で使用される。
【0078】
「多分散指数」は、好ましくは、「平均直径」の定義で言及されているように、いわゆるキュムラント分析による動的光散乱測定に基づいて計算される。特定の前提条件の下で、これは、ナノ粒子の集合体のサイズ分布の尺度として解釈することができる。
【0079】
一般に、本明細書に記載のRNA-脂質粒子は、RNA含有相を脂質含有相と混合することによって得ることができる。これは、エタノール相またはDODMAのようなカチオン性脂質などの脂質を含む他の水混和性溶媒、およびさらなる脂質を、RNAを含む水相と混合することであり得る。別の選択肢は、脂質を含む、例えばリポソームまたは他の種類の脂質分散液の形態の脂質を含む水相を、RNAを含む別の水相と混合することである。
【0080】
RNA含有粒子
様々なタイプのRNA含有粒子が微粒子形態のRNAの送達に適することが以前に記述されている(例えばKaczmarek,J.C.et al.,2017,Genome Medicine 9,60)。非ウイルスRNA送達ビヒクルの場合、RNAのナノ粒子カプセル化は、RNAを分解から物理的に保護し、特定の化学的性質に依存して、細胞の取り込みとエンドソーム脱出を助けることができる。
【0081】
本開示は、RNAおよびRNAと会合してRNA粒子を形成する1つ以上の成分を含む粒子、ならびにそのような粒子を含む組成物を記載する。RNA粒子は、非共有結合相互作用によって様々な形態で粒子に複合体化されるRNAを含み得る。本明細書に記載の粒子は、ウイルス粒子、特に感染性ウイルス粒子ではない、すなわちそれらは細胞にウイルス感染することができない。RNA含有粒子は、例えば、タンパク質性粒子の形態、ポリマー含有粒子の形態、または脂質含有粒子の形態であり得る。適切なタンパク質、ポリマーまたは脂質は、「粒子形成成分」または「粒子形成剤」という用語に含まれる。「粒子形成成分」または「粒子形成剤」という用語は、RNAと会合してRNA粒子を形成する任意の成分に関する。そのような成分には、RNA粒子の一部となり得る任意の成分が含まれる。
【0082】
タンパク質、ポリマー、脂質、および他の親水性、疎水性または両親媒性化合物は、RNA粒子製剤の典型的な構成要素である。
【0083】
それらの高度な化学的柔軟性を考慮して、ポリマーはナノ粒子ベースの送達に一般的に使用される材料である。典型的には、カチオン性ポリマーは、負に帯電したRNAをナノ粒子に静電的に凝縮するために使用される。これらの正に帯電した基は、多くの場合、5.5~7.5のpH範囲でプロトン化の状態を変化させるアミンからなり、エンドソーム破裂を引き起こすイオンの不均衡につながると考えられている。ポリ-L-リジン、ポリアミドアミン、プロタミンおよびポリエチレンイミンなどのポリマー、ならびにキトサンなどの天然に存在するポリマーはすべて、RNA送達に適用されている。さらに、一部の研究者は、特に核酸送達のためのポリマーを合成した。ポリ(β-アミノエステル)は、特に、合成の容易さと生分解性のために核酸送達において広く使用されている。
【0084】
本明細書で使用される「ポリマー」は、その通常の意味、すなわち共有結合によって接続された1つ以上の繰り返し単位(モノマー)を含む分子構造体という意味を与えられる。繰り返し単位は、すべて同一であり得るか、または場合によっては、ポリマー内に複数の種類の繰り返し単位が存在し得る。場合によっては、ポリマーは生物学的に誘導される、すなわちタンパク質などの生体高分子である。場合によっては、さらなる部分、例えば本明細書に記載されるような標的化部分もポリマー中に存在することができる。
【0085】
ポリマー内に複数の種類の繰り返し単位が存在する場合、そのポリマーは「コポリマー」であると言われる。ポリマーを使用する任意の実施形態において、使用されるポリマーは、場合によってはコポリマーであり得ることが理解されるべきである。コポリマーを形成する繰り返し単位は、任意の方法で配置され得る。例えば、繰り返し単位は、ランダムな順序で、交互の順序で、または「ブロック」コポリマー、すなわちそれぞれが第1の繰り返し単位(例えば第1のブロック)を含む1つ以上の領域、およびそれぞれが第2の繰り返し単位(例えば第2のブロック)を含む1つ以上の領域、などを含むコポリマーとして配置され得る。ブロックコポリマーは、2つ(ジブロックコポリマー)、3つ(トリブロックコポリマー)、またはそれ以上の数の別個のブロックを有することができる。
【0086】
特定の実施形態では、ポリマーは生体適合性である。生体適合性ポリマーは、典型的には、中程度の濃度では有意な細胞死を引き起こさないポリマーである。特定の実施形態では、生体適合性ポリマーは生分解性であり、すなわちポリマーは、体内などの生理学的環境内で、化学的および/または生物学的に分解することができる。
【0087】
特定の実施形態では、粒子形成ポリマーは、プロタミン、またはポリエチレンイミンなどのポリアルキレンイミンであり得る。
【0088】
「プロタミン」という用語は、アルギニンに富み、様々な動物(魚など)の精子細胞において体細胞ヒストンの代わりに特にDNAと会合して見出される、比較的低分子量の様々な強塩基性タンパク質のいずれかを指す。特に、「プロタミン」という用語は、強塩基性で、水に可溶性であり、熱によって凝固せず、加水分解時に主にアルギニンを生成する、魚の精子に見出されるタンパク質を指す。精製形態では、それらは、インスリンの長時間作用型製剤において、ヘパリンの抗凝固作用を中和するために使用される。
【0089】
本開示によれば、本明細書で使用される「プロタミン」という用語は、天然または生物学的供給源から得られるまたはそれに由来する任意のプロタミンアミノ酸配列、およびその断片、および前記アミノ酸配列またはその断片の多量体形態、ならびに人工的で、特定の目的のために特別に設計され、天然または生物学的供給源から単離することができない(合成された)ポリペプチドを含むことが意図されている。
【0090】
一実施形態では、ポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミンおよび/またはポリプロピレンイミン、好ましくはポリエチレンイミンを含む。好ましいポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミン(PEI)である。PEIの平均分子量は、好ましくは0.75×102~107Da、好ましくは1000~105Da、より好ましくは10000~40000Da、より好ましくは15000~30000Da、さらにより好ましくは20000~25000Daである。
【0091】
本開示によれば、直鎖状ポリエチレンイミン(PEI)などの直鎖状ポリアルキレンイミンが好ましい。
【0092】
脂質含有粒子
一実施形態では、本明細書に記載のRNA粒子は、粒子形成剤として少なくとも1つの脂質または脂質様物質を含む。本明細書での使用が企図される脂質担体には、例えばRNAと複合体を形成するか、またはRNAが封入もしくはカプセル化された小胞を形成することによって、RNAが会合することができる任意の物質が含まれる。
【0093】
「脂質」および「脂質様物質」という用語は、本明細書では、1つ以上の疎水性部分または基、および任意で1つ以上の親水性部分または基を含む分子として広く定義される。疎水性部分と親水性部分を含む分子は、しばしば両親媒性物質とも称される。脂質は通常、水に難溶性である。水性環境では、両親媒性の性質は、分子が組織化された構造体と様々な相に自己集合することを可能にする。それらの相の1つは、水性環境で小胞、多層/単層リポソーム、または膜に存在するような、脂質二重層で構成される。疎水性は、長鎖飽和および不飽和脂肪族炭化水素基、ならびに1つ以上の芳香族、脂環式、または複素環式基で置換されたそのような基を含むがこれらに限定されない、無極性基を含むことによって付与され得る。親水性基は、極性および/または荷電基を含み得、炭水化物、ホスフェート、カルボン酸、スルフェート、アミノ、スルフヒドリル、ニトロ、ヒドロキシル、および他の同様の基を含み得る。
【0094】
本明細書で使用される場合、「両親媒性」という用語は、極性部分と非極性部分の両方を有する分子を指す。多くの場合、両親媒性化合物は、長い疎水性尾部に結合した極性頭部を有する。いくつかの実施形態では、極性部分は水に可溶性であり、非極性部分は水に不溶性である。さらに、極性部分は、形式正電荷または形式負電荷のいずれかを有し得る。あるいは、極性部分は、形式正電荷と形式負電荷の両方を有し得、双性イオンまたは内部塩であり得る。本開示の目的のために、両親媒性化合物は、1つ以上の天然または非天然脂質および脂質様化合物であり得るが、これらに限定されない。
【0095】
「脂質様物質」、「脂質様化合物」または「脂質様分子」という用語は、構造的および/または機能的に脂質に関連するが、厳密な意味で脂質とは見なされない可能性がある物質に関する。例えば、この用語には、水性環境で小胞、多層/単層リポソーム、または膜に存在するような両親媒性層を形成することができる化合物が含まれ、界面活性剤、または親水性部分と疎水性部分の両方を有する合成化合物が含まれる。一般的に言えば、この用語は、脂質の構造と類似していても類似していなくてもよい、異なる構造組織を有する親水性部分と疎水性部分を含む分子を指す。本明細書で使用される場合、「脂質」という用語は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈上明らかに矛盾しない限り、脂質および脂質様物質の両方を包含すると解釈されるべきである。
【0096】
両親媒性層に含まれ得る両親媒性化合物の具体的な例には、リン脂質、アミノ脂質、およびスフィンゴ脂質が含まれるが、これらに限定されない。
【0097】
特定の実施形態では、両親媒性化合物は脂質である。「脂質」という用語は、水に不溶性であるが、多くの有機溶媒には可溶性であることを特徴とする有機化合物の群を指す。一般に、脂質は、脂肪酸、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ポリケチド(ケトアシルサブユニットの縮合に由来する)、ステロール脂質、およびプレノール脂質(イソプレンサブユニットの縮合に由来する)の8つのカテゴリーに分類し得る。「脂質」という用語は時に脂肪の同義語として使用されるが、脂肪はトリグリセリドと呼ばれる脂質のサブグループである。脂質はまた、脂肪酸およびそれらの誘導体(トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、およびリン脂質を含む)などの分子、ならびにコレステロールなどのステロール含有代謝物を包含する。
【0098】
脂肪酸、または脂肪酸残基は、カルボン酸基で終わる炭化水素鎖でできている分子の多様な群である;この配置は分子に、極性の親水性末端と水に不溶性の非極性の疎水性末端を付与する。典型的には4~24炭素の長さである炭素鎖は、飽和または不飽和であり得、酸素、ハロゲン、窒素、および硫黄を含む官能基に結合し得る。脂肪酸が二重結合を含む場合、シスまたはトランス幾何異性の可能性があり、これは分子の立体配置に有意な影響を及ぼす。シス二重結合は、脂肪酸鎖内のより多くの二重結合と複合する影響である、脂肪酸鎖の屈曲を生じさせる。脂肪酸カテゴリーの他の主要な脂質クラスは、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドである。
【0099】
グリセロ脂質は、一置換、二置換、および三置換グリセロールで構成され、最もよく知られているのは、トリグリセリドと呼ばれるグリセロールの脂肪酸トリエステルである。「トリアシルグリセロール」という語は、時に「トリグリセリド」と同義に使用される。これらの化合物では、グリセロールの3つのヒドロキシル基はそれぞれ、典型的には異なる脂肪酸によって、エステル化されている。グリセロ脂質のさらなるサブクラスは、グリコシド結合を介してグリセロールに結合した1つ以上の糖残基の存在を特徴とする、グリコシルグリセロールによって代表される。
【0100】
グリセロリン脂質は、エステル結合によって2つの脂肪酸由来の「尾部」に、およびリン酸エステル結合によって1つの「頭部」基に結合したグリセロールコアを含む両親媒性分子(疎水性領域と親水性領域の両方を含む)である。通常はリン脂質と称される(スフィンゴミエリンもリン脂質として分類されるが)、グリセロリン脂質の例は、ホスファチジルコリン(PC、GPChoまたはレシチンとしても公知)、ホスファチジルエタノールアミン(PEまたはGPEtn)、およびホスファチジルセリン(PSまたはGPSer)である。
【0101】
スフィンゴ脂質は、共通の構造的特徴であるスフィンゴイド塩基骨格を共有する化合物の複雑なファミリーである。哺乳動物における主要なスフィンゴイド塩基は、一般にスフィンゴシンと称される。セラミド(N-アシル-スフィンゴイド塩基)は、アミド結合脂肪酸を有するスフィンゴイド塩基誘導体の主要なサブクラスである。脂肪酸は、典型的には飽和または一不飽和で、16~26炭素原子の鎖長を有する。哺乳動物の主要なスフィンゴリン脂質はスフィンゴミエリン(セラミドホスホコリン)であるが、昆虫は主にセラミドホスホエタノールアミンを含み、真菌はフィトセラミドホスホイノシトールとマンノース含有頭部基を有する。スフィンゴ糖脂質は、グリコシド結合を介してスフィンゴイド塩基に結合した1つ以上の糖残基で構成される分子の多様なファミリーである。これらの例は、セレブロシドおよびガングリオシドなどの単純なおよび複雑なスフィンゴ糖脂質である。
【0102】
コレステロールおよびその誘導体、またはトコフェロールおよびその誘導体などのステロール脂質は、グリセロリン脂質やスフィンゴミエリンと共に、膜脂質の重要な成分である。
【0103】
糖脂質は、脂肪酸が糖骨格に直接結合し、膜二重層と適合性である構造を形成する化合物を表す。糖脂質では、単糖がグリセロ脂質およびグリセロリン脂質に存在するグリセロール骨格の代わりになる。最もよく知られている糖脂質は、グラム陰性菌のリポ多糖のリピドA成分のアシル化グルコサミン前駆体である。典型的なリピドA分子は、7本もの脂肪アシル鎖で誘導体化されている、グルコサミンの二糖類である。大腸菌(E.coli)での増殖に必要な最小限のリポ多糖は、2つの3-デオキシ-D-マンノ-オクツロソン酸(Kdo)残基でグリコシル化されたグルコサミンのヘキサアシル化二糖である、Kdo2-リピドAである。
【0104】
ポリケチドは、古典的な酵素、ならびに脂肪酸シンターゼと機構的特徴を共有する反復およびマルチモジュラー酵素によるアセチルおよびプロピオニルサブユニットの重合によって合成される。それらは、動物、植物、細菌、真菌、および海洋源からの多数の二次代謝物および天然産物を含み、大きな構造的多様性を有する。多くのポリケチドは、その骨格がしばしばグリコシル化、メチル化、ヒドロキシル化、酸化、または他の工程によってさらに修飾される環状分子である。
【0105】
本開示によれば、脂質および脂質様物質は、カチオン性、アニオン性または中性であり得る。中性脂質または脂質様物質は、選択されたpHで非荷電または中性の双性イオン形態で存在する。
【0106】
好ましくは、本明細書に記載のRNA粒子は、カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質を含む。カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質および脂質様物質は、RNAに静電的に結合するために使用され得る。カチオンにイオン化可能な脂質および脂質様物質は、好ましくは酸性pHでのみ正に帯電する物質である。このイオン化可能な挙動は、生理学的pHでカチオン性のままである粒子と比較して、エンドソーム脱出を助け、毒性を低減することを介して有効性を高めると考えられている。粒子はまた、非カチオン性脂質または脂質様物質を含み得る。集合的に、アニオン性および中性脂質または脂質様物質は、本明細書では非カチオン性脂質または脂質様物質と称される。イオン化可能/カチオン性脂質または脂質様物質に加えて、コレステロールおよび脂質などの他の疎水性部分を添加することによってRNA粒子の製剤を最適化することは、粒子の安定性を増強し、RNA送達の効率を有意に高めることができる。
【0107】
一実施形態では、カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質は、正に帯電しているかまたはプロトン化され得る少なくとも1つの窒素原子(N)を含む頭部基を含む。
【0108】
ポリサルコシンコンジュゲート
本明細書に記載の粒子に使用されるポリマー、脂質または脂質様物質などの本明細書に記載の粒子形成成分の1つ以上は、ポリサルコシン(ポリ(N-メチルグリシン))を含む。ポリサルコシンは、アセチル化(中性末端基)または他の官能化末端基を含み得る。RNA-脂質粒子の場合、一実施形態におけるポリサルコシンは、粒子に含まれる非カチオン性脂質または脂質様物質にコンジュゲートされ、好ましくは共有結合される。
【0109】
特定の実施形態では、ポリサルコシンの末端基は、正または負の電荷などの特定の特性を与える1つ以上の分子部分、または粒子を特定の細胞型、細胞の集合、または組織に向かわせる標的化剤で官能化され得る。
【0110】
様々な適切な標的化剤が当技術分野で公知である。標的化剤の非限定的な例には、ペプチド、タンパク質、酵素、核酸、脂肪酸、ホルモン、抗体、炭水化物、単糖、オリゴ糖または多糖、ペプチドグリカン、糖ペプチドなどが含まれる。例えば、標的細胞の表面上の抗原に結合する多くの異なる物質のいずれかを使用することができる。標的細胞の表面抗原に対する抗体は、一般に、標的に必要な特異性を示す。抗体に加えて、Fab、Fab'、F(ab')2もしくはscFv断片または単一ドメイン抗体(例えばラクダ科動物のVHH断片)などの適切な免疫反応性断片も使用することができる。標的化機構の形成に使用するのに適した多くの抗体断片は、当技術分野で既に利用可能である。同様に、標的細胞の表面上の任意の受容体のリガンドは、標的化剤として適切に使用することができる。これらには、所望の標的細胞の表面に見出される細胞表面受容体、タンパク質または糖タンパク質に特異的に結合する、天然または合成の任意の小分子または生体分子が含まれる。
【0111】
特定の実施形態では、ポリサルコシンは、2~200、2~190、2~180、2~170、2~160、2~150、2~140、2~130、2~120、2~110、2~100、2~90、2~80、2~70、5~200、5~190、5~180、5~170、5~160、5~150、5~140、5~130、5~120、5~110、5~100、5~90、5~80、5~70、10~200、10~190、10~180、10~170、10~160、10~150、10~140、10~130、10~120、10~110、10~100、10~90、10~80、または10~70個のサルコシン単位を含む。
【0112】
特定の実施形態では、ポリサルコシンは、以下の一般式(I):
【0113】
【0114】
(式中、xはサルコシン単位の数を指す)
を含む。結合の1つを介してポリサルコシンは、粒子形成成分または疎水性成分に連結され得る。その他の結合を介してポリサルコシンは、H、親水性基、イオン化可能基、または標的化部分などの官能性部分へのリンカーに連結され得る。
【0115】
カチオン性脂質
一実施形態では、本明細書に記載のRNA-脂質粒子は、少なくとも1つのカチオン性脂質を含む。本明細書で使用される場合、「カチオン性脂質」は、正味の正電荷を有する脂質を指す。カチオン性脂質は、静電相互作用によって負に帯電したRNAを脂質マトリックスに結合する。一般に、カチオン性脂質は、ステロール、アシル鎖、ジアシル鎖またはそれ以上のアシル鎖などの親油性部分を有し、脂質の頭部基は、典型的には正電荷を担持する。特定の実施形態では、カチオン性脂質は、特定のpH、特に酸性pHでのみ正味の正電荷を有するが、異なる、好ましくは生理学的pHなどのより高いpHでは、好ましくは正味の正電荷を有さず、好ましくは電荷を有さず、すなわち中性である。本開示の目的のために、そのような「カチオンにイオン化可能な」脂質は、状況と矛盾しない限り、「カチオン性脂質」という用語に含まれる。カチオン性脂質の例には、N,N-ジメチル-2,3-ジオレイルオキシプロピルアミン(DODMA)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、3-(N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルバモイル)コレステロール(DC-Chol)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB);1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2-ジステアリルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DSDMA)、2,3-ジ(テトラデコキシ)プロピル-(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアザニウム(DMRIE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DMEPC)、l,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE)、および2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-l-プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、3-ジメチルアミノ-2-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシブタン-4-オキシ)-1-(cis,cis-9,12-オクタデカジエンオキシ)プロパン(CLinDMA)、2-[5'-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシ)-3'-オキサペントキシ)-3-ジメチル-1-(cis,cis-9',12'-オクタデカジエンオキシ)プロパン(CpLinDMA)、N,N-ジメチル-3,4-ジオレイルオキシベンジルアミン(DMOBA)、1,2-N,N'-ジオレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DOcarbDAP)、2,3-ジリノレオイルオキシ-N,N-ジメチルプロピルアミン(DLinDAP)、1,2-N,N'-ジリノレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DLincarbDAP)、1,2-ジリノレオイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DLinCDAP)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-XTC2-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-KC2-DMA)、ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル-4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(DLin-MC3-DMA)、N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(DMRIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(cis-9-テトラデセニルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DMORIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(ドデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DLRIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DMRIE)、N-(2-アミノエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(βAE-DMRIE)、N-(4-カルボキシベンジル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロパン-1-アミニウム(DOBAQ)、2-({8-[(3β)-コレスト-5-エン-3-イルオキシ]オクチル}オキシ)-N,N-ジメチル-3-[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ]プロパン-1-アミン(オクチル-CLinDMA)、1,2-ジミリストイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DMDAP)、1,2-ジパルミトイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DPDAP)、N1-[2-((1S)-1-[(3-アミノプロピル)アミノ]-4-[ジ(3-アミノ-プロピル)アミノ]ブチルカルボキサミド)エチル]-3,4-ジ[オレイルオキシ]-ベンズアミド(MVL5)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOEPC)、2,3-ビス(ドデシルオキシ)-N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N-ジメチルプロパン-1-アモニウムブロミド(DLRIE)、N-(2-アミノエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミニウムブロミド(DMORIE)、ジ((Z)-ノン-2-エン-1-イル)8,8'-((((2(ジメチルアミノ)エチル)チオ)カルボニル)アザンジイル)ジオクタノエート(ATX)、N,N-ジメチル-2,3-ビス(ドデシルオキシ)プロパン-1-アミン(DLDMA)、N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミン(DMDMA)、ジ((Z)-ノン-2-エン-1-イル)-9-((4-(ジメチルアミノブタノイル)オキシ)ヘプタデカンジオエート(L319)、N-ドデシル-3-((2-ドデシルカルバモイル-エチル)-{2-[(2-ドデシルカルバモイル-エチル)-2-{(2-ドデシルカルバモイル-エチル)-[2-(2-ドデシルカルバモイル-エチルアミノ)エチル]-アミノ}-エチルアミノ)プロピオンアミド(リピドイド98N12-5)、1-[2-[ビス(2-ヒドロキシドデシル)アミノ]エチル-[2-[4-[2-[ビス(2ヒドロキシドデシル)アミノ]エチル]ピペラジン-1-イル]エチル]アミノ]ドデカン-2-オール(リピドイドC12-200)が含まれるが、これらに限定されない。DODMA、DOTMA、DOTAP、DODAC、およびDOSPAが好ましい。特定の実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質はDODMAである。
【0116】
いくつかの実施形態では、カチオン性脂質は、粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約80モル%、約20モル%~約60モル%、約25モル%~約55モル%、約30モル%~約50モル%、約35モル%~約45モル%、または約40モル%を構成し得る。
【0117】
さらなる脂質
カチオン性脂質に加えて、本明細書に記載のRNA粒子は、1つ以上のさらなる脂質を含み得る。RNA粒子の全体的な電荷に影響を与えても与えなくてもよいさらなる脂質を組み込み得る。特定の実施形態では、さらなる脂質は非カチオン性脂質である。非カチオン性脂質は、例えば1つ以上のアニオン性脂質および/または中性脂質を含み得る。本明細書で使用される場合、「中性脂質」は、選択されたpHで非荷電または中性の双性イオン形態で存在する多数の脂質種のいずれかを指す。好ましい実施形態では、さらなる脂質は、以下の中性脂質成分:(1)リン脂質、(2)コレステロールもしくはその誘導体、または(3)リン脂質とコレステロールの混合物もしくはその誘導体のうちの1つを含む。コレステロール誘導体の例には、コレスタノール、コレスタノン、コレステノン、コプロスタノール、コレステリル-2'-ヒドロキシエチルエーテル、コレステリル-4'-ヒドロキシブチルエーテル、トコフェロールおよびそれらの誘導体、ならびにそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0118】
使用できる具体的なリン脂質には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリンまたはスフィンゴミエリンが含まれるが、これらに限定されない。そのようなリン脂質には、特にジアシルホスファチジルコリン、例えばジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジペンタデカノイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジアラキドイルホスファチジルコリン(DAPC)、ジベヘノイルホスファチジルコリン(DBPC)、ジトリコサノイルホスファチジルコリン(DTPC)、ジリグノセロイルファチジルコリン(DLPC)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルコリン(POPC)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(18:0ジエーテルPC)、1-オレオイル-2-コレステリルヘミスクシノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(OChemsPC)、1-ヘキサデシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(C16 Lyso PC)およびホスファチジルエタノールアミン、特にジアシルホスファチジルエタノールアミン、例えばジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイル-ホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジラウロイル-ホスファチジルエタノールアミン(DLPE)、ジフィタノイル-ホスファチジルエタノールアミン(DPyPE)、および様々な疎水性鎖を有するさらなるホスファチジルエタノールアミン脂質が含まれる。
【0119】
特定の好ましい実施形態において、さらなる脂質は、DSPC、またはDSPCとコレステロールである。
【0120】
特定の実施形態では、RNA粒子は、カチオン性脂質およびさらなる脂質の両方を含む。例示的な実施形態では、カチオン性脂質はDODMAであり、さらなる脂質は、DSPC、またはDSPCとコレステロールである。
【0121】
理論に拘束されることを望むものではないが、少なくとも1つのさらなる脂質の量と比較した少なくとも1つのカチオン性脂質の量は、電荷、粒子サイズ、安定性、組織選択性、およびRNAの生物活性などの重要なRNA粒子特性に影響を及ぼし得る。したがって、いくつかの実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質と少なくとも1つのさらなる脂質のモル比は、約10:0~約1:9、約4:1~約1:2、または約3:1~約1:1である。
【0122】
いくつかの実施形態では、非カチオン性脂質、特に中性脂質(例えば1つ以上のリン脂質および/またはコレステロール)は、粒子中に存在する総脂質の約0モル%~約90モル%、約20モル%~約80モル%、約25モル%~約75モル%、約30モル%~約70モル%、約35モル%~約65モル%、または約40モル%~約60モル%を構成し得る。
【0123】
特定の好ましい実施形態では、非カチオン性脂質、特に中性脂質は、粒子中に存在する総脂質の約5モル%~約50モル%、約5モル%~約45モル%、約5モル%~約40モル%、約5モル%~約35モル%、約5モル%~約30モル%、約5モル%~約25モル%、または約5モル%~約20モル%のDSPCなどのリン脂質を含む。
【0124】
特定の好ましい実施形態では、非カチオン性脂質、特に中性脂質は、粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約80モル%、約10モル%~約70モル%、約15モル%~約65モル%、約20モル%~約60モル%、約25モル%~約55モル%、または約30モル%~約50モル%のコレステロールまたはその誘導体を含む。
【0125】
特定の好ましい実施形態では、非カチオン性脂質、特に中性脂質は、(i)粒子中に存在する総脂質の約5モル%~約50モル%、約5モル%~約45モル%、約5モル%~約40モル%、約5モル%~約35モル%、約5モル%~約30モル%、約5モル%~約25モル%、または約5モル%~約20モル%のDSPCなどのリン脂質と、(ii)粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約80モル%、約10モル%~約70モル%、約15モル%~約65モル%、約20モル%~約60モル%、約25モル%~約55モル%、または約30モル%~約50モル%のコレステロールなどのコレステロールまたはその誘導体との混合物を含む。非限定的な例として、リン脂質とコレステロールの混合物を含む脂質粒子は、粒子中に存在する総脂質の約5モル%~約50モル%、約5モル%~約45モル%、約5モル%~約40モル%、約5モル%~約35モル%、約5モル%~約30モル%、約5モル%~約25モル%、または約5モル%~約20モル%のDSPC、および粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約80モル%、約10モル%~約70モル%、約15モル%~約65モル%、約20モル%~約60モル%、約25モル%~約55モル%、または約30モル%~約50モル%のコレステロールを含み得る。
【0126】
ポリサルコシン-脂質コンジュゲート
カチオン性脂質およびさらなる脂質を含む上記のRNA粒子などの本明細書に記載のRNA粒子は、ポリサルコシン-脂質コンジュゲートなどのポリサルコシンコンジュゲートをさらに含む。ポリサルコシンは、脂質または脂質様物質などの任意の粒子形成成分とコンジュゲートし得る、特に共有結合し得るか、または連結し得る。ポリサルコシン-脂質コンジュゲートは、ポリサルコシンが、カチオン性脂質またはカチオンにイオン化可能な脂質またはさらなる脂質などの本明細書に記載の脂質にコンジュゲートしている分子である。あるいは、ポリサルコシンは、カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質またはさらなる脂質とは異なる脂質または脂質様物質にコンジュゲートしている。
【0127】
特定の実施形態では、ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートは、以下の一般式(II):
【0128】
【0129】
(式中、R1およびR2の一方は疎水性基を含み、他方はH、親水性基、イオン化可能基、または標的化部分を含んでいてもよい官能基である)
を含む。一実施形態では、疎水性基は、好ましくは10~50、10~40、または12~20個の炭素原子を含む、直鎖もしくは分岐アルキル基またはアリール基を含む。一実施形態では、疎水性基を含むR1またはR2は、1つ以上の直鎖または分岐アルキル基に連結されたヘテロ原子、特にNなどの部分を含む。
【0130】
特定の実施形態では、ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートは、以下の一般式(III):
【0131】
【0132】
(式中、Rは、H、親水性基、イオン化可能基、または標的化部分を含んでいてもよい官能基である)
を含む。
【0133】
本明細書の一般式、例えば一般式(II)および(III)の記号「x」は、サルコシン単位の数を指し、本明細書で定義される数であり得る。
【0134】
特定の実施形態では、ポリサルコシン-脂質コンジュゲートまたはポリサルコシンと脂質様物質とのコンジュゲートは、ポリサルコシン-ジアシルグリセロールコンジュゲート、ポリサルコシン-ジアルキルオキシプロピルコンジュゲート、ポリサルコシン-リン脂質コンジュゲート、ポリサルコシン-セラミドコンジュゲート、およびそれらの混合物からなる群より選択されるメンバーである。
【0135】
特定の例では、ポリサルコシン-脂質コンジュゲートは、粒子中に存在する総脂質の約0.2モル%~約50モル%、約0.25モル%~約30モル%、約0.5モル%~約25モル%、約0.75モル%~約25モル%、約1モル%~約25モル%、約1モル%~約20モル%、約1モル%~約15モル%、約1モル%~約10モル%、約1モル%~約5モル%、約1.5モル%~約25モル%、約1.5モル%~約20モル%、約1.5モル%~約15モル%、約1.5モル%~約10モル%、約1.5モル%~約5モル%、約2モル%~約25モル%、約2モル%~約20モル%、約2モル%~約15モル%、約2モル%~約10モル%、または約2モル%~約5モル%を構成し得る。
【0136】
典型的には、ポリサルコシン部分は、2~200、5~200、5~190、5~180、5~170、5~160、5~150、5~140、5~130、5~120、5~110、5~100、5~90、5~80、10~200、10~190、10~180、10~170、10~160、10~150、10~140、10~130、10~120、10~110、10~100、10~90、または10~80個のサルコシン単位を有する。
【0137】
RNA-脂質粒子
「RNA-脂質粒子」は、目的の標的部位(例えば細胞、組織、器官など)にRNAを送達するために使用できる脂質製剤を含む。RNA-脂質粒子は、典型的には、DODMAなどのカチオン性脂質、リン脂質(例えばDSPC)、コレステロールまたはその類似体などの1つ以上の非カチオン性脂質、およびポリサルコシン-脂質コンジュゲートから形成される。
【0138】
理論に拘束されることを意図しないが、カチオン性脂質およびさらなる脂質がRNAと結合して凝集体を形成し、核酸が脂質マトリックスに結合し、この自発的凝集がコロイド的に安定な粒子をもたらすと考えられている。
【0139】
いくつかの実施形態では、RNA-脂質粒子は複数の種類のRNA分子を含み、ここで、RNA分子の分子パラメータは、モル質量または分子構造、キャッピング、コーディング領域もしくは他の特徴などの基本的な構造要素に関して、互いに類似し得るかまたは異なり得る。
【0140】
いくつかの実施形態では、RNA-脂質粒子は、RNAに加えて、(i)粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約80モル%、約20モル%~約60モル%、約25モル%~約55モル%、約30モル%~約50モル%、約35モル%~約45モル%、または約40モル%を構成し得るカチオン性脂質、(ii)粒子中に存在する総脂質の約0モル%~約90モル%、約20モル%~約80モル%、約25モル%~約75モル%、約30モル%~約70モル%、約35モル%~約65モル%、または約40モル%~約60モル%を構成し得る非カチオン性脂質、特に中性脂質(例えば1つ以上のリン脂質および/またはコレステロール)、ならびに(iii)粒子中に存在する総脂質の約0.2モル%~約50モル%、約0.25モル%~約30モル%、約0.5モル%~約25モル%、約0.75モル%~約25モル%、約1モル%~約25モル%、約1モル%~約20モル%、約1モル%~約15モル%、約1モル%~約10モル%、約1モル%~約5モル%、約1.5モル%~約25モル%、約1.5モル%~約20モル%、約1.5モル%~約15モル%、約1.5モル%~約10モル%、約1.5モル%~約5モル%、約2モル%~約25モル%、約2モル%~約20モル%、約2モル%~約15モル%、約2モル%~約10モル%、または約2モル%~約5モル%を構成し得るポリサルコシン-脂質コンジュゲートを含む。
【0141】
特定の好ましい実施形態では、非カチオン性脂質、特に中性脂質は、粒子中に存在する総脂質の約5モル%~約50モル%、約5モル%~約45モル%、約5モル%~約40モル%、約5モル%~約35モル%、約5モル%~約30モル%、約5モル%~約25モル%、または約5モル%~約20モル%のリン脂質を含む。
【0142】
特定の好ましい実施形態では、非カチオン性脂質、特に中性脂質は、粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約80モル%、約10モル%~約70モル%、約15モル%~約65モル%、約20モル%~約60モル%、約25モル%~約55モル%、または約30モル%~約50モル%のコレステロールまたはその誘導体を含む。
【0143】
特定の好ましい実施形態では、非カチオン性脂質、特に中性脂質は、(i)粒子中に存在する総脂質の約5モル%~約50モル%、約5モル%~約45モル%、約5モル%~約40モル%、約5モル%~約35モル%、約5モル%~約30モル%、約5モル%~約25モル%、または約5モル%~約20モル%のDSPCなどのリン脂質と、(ii)粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約80モル%、約10モル%~約70モル%、約15モル%~約65モル%、約20モル%~約60モル%、約25モル%~約55モル%、または約30モル%~約50モル%のコレステロールなどのコレステロールまたはその誘導体との混合物を含む。非限定的な例として、リン脂質とコレステロールの混合物を含む脂質粒子は、粒子中に存在する総脂質の約5モル%~約50モル%、約5モル%~約45モル%、約5モル%~約40モル%、約5モル%~約35モル%、約5モル%~約30モル%、約5モル%~約25モル%、または約5モル%~約20モル%のDSPC、および粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約80モル%、約10モル%~約70モル%、約15モル%~約65モル%、約20モル%~約60モル%、約25モル%~約55モル%、または約30モル%~約50モル%のコレステロールを含み得る。
【0144】
典型的には、ポリサルコシン部分は、2~200、5~200、5~190、5~180、5~170、5~160、5~150、5~140、5~130、5~120、5~110、5~100、5~90、5~80、10~200、10~190、10~180、10~170、10~160、10~150、10~140、10~130、10~120、10~110、10~100、10~90、または10~80個のサルコシン単位を有する。
【0145】
いくつかの実施形態では、RNA-脂質粒子は、RNAに加えて、(i)粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約80モル%、約20モル%~約60モル%、約25モル%~約55モル%、約30モル%~約50モル%、約35モル%~約45モル%、または約40モル%を構成し得るDODMA、(ii)粒子中に存在する総脂質の約5モル%~約50モル%、約5モル%~約45モル%、約5モル%~約40モル%、約5モル%~約35モル%、約5モル%~約30モル%、約5モル%~約25モル%、または約5モル%~約20モル%を構成し得るDSPC、(iii)粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約80モル%、約10モル%~約70モル%、約15モル%~約65モル%、約20モル%~約60モル%、約25モル%~約55モル%、または約30モル%~約50モル%を構成し得るコレステロール、ならびに(iv)粒子中に存在する総脂質の約0.2モル%~約50モル%、約0.25モル%~約30モル%、約0.5モル%~約25モル%、約0.75モル%~約25モル%、約1モル%~約25モル%、約1モル%~約20モル%、約1モル%~約15モル%、約1モル%~約10モル%、約1モル%~約5モル%、約1.5モル%~約25モル%、約1.5モル%~約20モル%、約1.5モル%~約15モル%、約1.5モル%~約10モル%、約1.5モル%~約5モル%、約2モル%~約25モル%、約2モル%~約20モル%、約2モル%~約15モル%、約2モル%~約10モル%、または約2モル%~約5モル%を構成し得るポリサルコシン-脂質コンジュゲートを含む。
【0146】
特定の実施形態では、RNA粒子は、一般式(II)または(III)によるポリサルコシン-脂質コンジュゲート、DODMA、DSPCおよびコレステロールを含む。
【0147】
RNAの粒径
本明細書に記載のRNA粒子は、一実施形態では、約30nm~約1000nm、約30nm~約800nm、約30nm~約700nm、約30nm~約600nm、約30nm~約500nm、約30nm~約450nm、約30nm~約400nm、約30nm~約350nm、約30nm~約300nm、約30nm~約250nm、約30nm~約200nm、約30nm~約190nm、約30nm~約180nm、約30nm~約170nm、約30nm~約160nm、約30nm~約150nm、約50nm~約500nm、約50nm~約450nm、約50nm~約400nm、約50nm~約350nm、約50nm~約300nm、約50nm~約250nm、約50nm~約200nm、約50nm~約190nm、約50nm~約180nm、約50nm~約170nm、約50nm~約160nm、または約50nm~約150nmの範囲の平均直径を有する。
【0148】
特定の実施形態では、本明細書に記載のRNA粒子は、約40nm~約800nm、約50nm~約700nm、約60nm~約600nm、約70nm~約500nm、約80nm~約400nm、約150nm~約800nm、約150nm~約700nm、約150nm~約600nm、約200nm~約600nm、約200nm~約500nm、または約200nm~約400nmの範囲の平均直径を有する。
【0149】
例えば本明細書に記載の工程によって生成された、本明細書に記載のRNA粒子は、約0.5未満、約0.4未満、約0.3未満、約0.2未満、または約0.1以下の多分散指数を示す。例として、RNA粒子は、約0.1~約0.3の範囲の多分散指数を示し得る。
【0150】
RNA
本開示では、「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含む核酸分子に関する。好ましい実施形態では、RNAは、リボヌクレオチド残基のすべてまたは大部分を含む。本明細書で使用される場合、「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドを指す。RNAは、限定されることなく、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的に精製されたRNAなどの単離されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え生産されたRNA、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然に存在するRNAとは異なる修飾RNAを包含する。そのような改変は、内部RNAヌクレオチドまたはRNAの末端(一方もしくは両方)への非ヌクレオチド物質の付加を指し得る。本明細書ではまた、RNA中のヌクレオチドは、化学的に合成されたヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドなどの非標準ヌクレオチドであり得ることが企図される。本開示では、これらの改変されたRNAは、天然に存在するRNAの類似体と見なされる。特定の実施形態では、本発明によるRNAは、異なるRNA分子の集団、例えば任意で異なるペプチドおよび/またはタンパク質をコードする異なるRNA分子の混合物を含む。したがって、本発明によれば、「RNA」という用語は、RNA分子の混合物を含み得る。
【0151】
本開示の特定の実施形態では、RNAは、ペプチドまたはタンパク質をコードするRNA転写物に関連するメッセンジャーRNA(mRNA)である。当技術分野で確立されているように、mRNAは一般に、5'非翻訳領域(5'-UTR)、ペプチドコード領域、および3'非翻訳領域(3'-UTR)を含む。いくつかの実施形態では、RNAは、インビトロ転写または化学合成によって生成される。一実施形態では、mRNAは、DNA鋳型を使用するインビトロ転写によって生成され、ここで、DNAは、デオキシリボヌクレオチドを含む核酸を指す。
【0152】
一実施形態では、RNAはインビトロ転写されたRNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られ得る。転写を制御するためのプロモータは、任意のRNAポリメラーゼのための任意のプロモータであり得る。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって得られ得る。cDNAは、RNAの逆転写によって得られ得る。
【0153】
本開示の特定の実施形態では、RNAは、レプリコンRNAまたは単に「レプリコン」、特に自己複製RNAである。1つの特に好ましい実施形態では、レプリコンまたは自己複製RNAは、ssRNAウイルス、特にアルファウイルスなどのプラス鎖ssRNAウイルスに由来するか、またはそれに由来するエレメントを含む。アルファウイルスは、プラス鎖RNAウイルスの典型的な代表例である。アルファウイルスは、感染細胞の細胞質で複製する(アルファウイルスの生活環の総説については、Jose et al.,Future Microbiol.,2009,vol.4,pp.837-856参照)。多くのアルファウイルスの総ゲノム長は、典型的には11,000~12,000ヌクレオチドの範囲であり、ゲノムRNAは、典型的には5'キャップと3'ポリ(A)尾部を有する。アルファウイルスのゲノムは、非構造タンパク質(ウイルスRNAの転写、修飾および複製、ならびにタンパク質修飾に関与する)および構造タンパク質(ウイルス粒子を形成する)をコードする。典型的には、ゲノム内に2つのオープンリーディングフレーム(ORF)が存在する。4つの非構造タンパク質(nsP1~nsP4)は、典型的にはゲノムの5'末端の近傍から始まる最初のORFによって一緒にコードされ、一方アルファウイルスの構造タンパク質は、最初のORFの下流に見出される2番目のORFによって一緒にコードされ、ゲノムの3'末端の近傍に伸びている。典型的には、最初のORFは2番目のORFよりも大きく、その比率はおよそ2:1である。アルファウイルスに感染した細胞では、非構造タンパク質をコードする核酸配列だけがゲノムRNAから翻訳され、一方構造タンパク質をコードする遺伝情報は、真核生物のメッセンジャーRNA(mRNA;Gould et al.,2010,Antiviral Res.,vol.87,pp.111-124)に類似したRNA分子であるサブゲノム転写物から翻訳可能である。感染後、すなわちウイルス生活環の初期段階に、(+)鎖ゲノムRNAは、非構造ポリタンパク質(nsP1234)をコードするオープンリーディングフレームの翻訳のためにメッセンジャーRNAのように直接作用する。アルファウイルス由来のベクターは、標的細胞または標的生物への外来遺伝情報の送達のために提案されてきた。単純なアプローチでは、アルファウイルス構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームに置き換える。アルファウイルスに基づくトランス複製系は、2つの別々の核酸分子上のアルファウイルスヌクレオチド配列エレメントに依存する:一方の核酸分子はウイルスレプリカーゼをコードし、他方の核酸分子は前記レプリカーゼによってトランスで複製することができる(したがってトランス複製系と称される)。トランス複製には、所与の宿主細胞内にこれらの両方の核酸分子が存在する必要がある。トランスでレプリカーゼによって複製され得る核酸分子は、アルファウイルスのレプリカーゼによる認識およびRNA合成を可能にする特定のアルファウイルス配列エレメントを含まなければならない。
【0154】
本開示の特定の実施形態において、本明細書に記載のRNA粒子中のRNAは、約0.002mg/mL~約5mg/mL、約0.002mg/mL~約2mg/mL、約0.005mg/mL~約2mg/mL、約0.01mg/mL~約1mg/mL、約0.05mg/mL~約0.5mg/mL、または約0.1mg/mL~約0.5mg/mLの濃度である。特定の実施形態では、RNAは、約0.005mg/mL~約0.1mg/mL、約0.005mg/mL~約0.09mg/mL、約0.005mg/mL~約0.08mg/mL、約0.005mg/mL~約0.07mg/mL、約0.005mg/mL~約0.06mg/mL、または約0.005mg/mL~約0.05mg/mLの濃度である。
【0155】
一実施形態では、RNAは、修飾されたリボヌクレオチドを有し得る。修飾されたリボヌクレオチドの例には、限定されることなく、5-メチルシチジン、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチルプソイドウリジン(m1ψ)または5-メチルウリジン(m5U)が含まれる。
【0156】
いくつかの実施形態では、本開示によるRNAは5'キャップを含む。一実施形態では、本開示のRNAは、キャップされていない5'-三リン酸を有さない。一実施形態では、RNAは5'キャップ類似体によって修飾され得る。「5'キャップ」という用語は、mRNA分子の5'末端に見出される構造を指し、一般に、5'-5'三リン酸結合によってmRNAに連結されたグアノシンヌクレオチドからなる。一実施形態では、このグアノシンは7位でメチル化されている。RNAに5'キャップまたは5'キャップ類似体を提供することは、5'キャップがRNA鎖に共転写的に発現されるインビトロ転写によって達成され得るか、またはキャッピング酵素を使用して転写後にRNAに結合され得る。
【0157】
いくつかの実施形態では、本開示によるRNAは、5'-UTRおよび/または3'-UTRを含む。「非翻訳領域」または「UTR」という用語は、転写されるがアミノ酸配列に翻訳されないDNA分子内の領域、またはmRNA分子などのRNA分子内の対応する領域に関する。非翻訳領域(UTR)は、オープンリーディングフレームの5'側(上流)(5'-UTR)および/またはオープンリーディングフレームの3'側(下流)(3'-UTR)に存在し得る。5'-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の開始コドンの上流の、5'末端に位置する。5'-UTRは5'キャップ(存在する場合)の下流にあり、例えば5'キャップに直接隣接している。3'-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の終結コドンの下流の、3'末端に位置するが、「3'-UTR」という用語は、好ましくはポリ(A)尾部を含まない。したがって、3'-UTRはポリ(A)配列(存在する場合)の上流にあり、例えばポリ(A)配列に直接隣接している。
【0158】
いくつかの実施形態では、本開示によるRNAは3'-ポリ(A)配列を含む。「ポリ(A)配列」という用語は、典型的にはRNA分子の3'末端に位置するアデニル(A)残基の配列に関する。本開示によれば、一実施形態では、ポリ(A)配列は、少なくとも約20、少なくとも約40、少なくとも約80、または少なくとも約100、および最大約500、最大約400、最大約300、最大約200、または最大約150個までのAヌクレオチド、特に約120個のAヌクレオチドを含む。
【0159】
本開示の文脈において、「転写」という用語は、DNA配列中の遺伝暗号がRNAに転写される過程に関する。その後、RNAはペプチドまたはタンパク質に翻訳され得る。
【0160】
RNAに関して、「発現」または「翻訳」という用語は、mRNAの鎖が、ペプチドまたはタンパク質を作製するようにアミノ酸の配列の構築を指示する、細胞のリボソームにおける過程に関する。
【0161】
RNAは、コード化RNA、すなわちペプチドまたはタンパク質をコードするRNAであり得る。前記RNAは、コードされたペプチドまたはタンパク質を発現し得る。例えば、前記RNAは、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質をコードし、発現するRNAであり得る。あるいは、RNAは、アンチセンスRNA、マイクロRNA(miRNA)またはsiRNAなどの非コードRNAであり得る。
【0162】
本明細書で使用されるRNAは、薬学的に活性なRNAであり得る。「薬学的に活性なRNA」は、薬学的に活性なペプチドもしくはタンパク質をコードするか、またはそれ自体で薬学的に活性である、例えば、薬学的に活性なタンパク質について記載されているような1つ以上の薬学的活性、例えば免疫刺激活性を有するRNAである。例えば、RNAは、RNA干渉(RNAi)の1つ以上の鎖であり得る。そのような作用物質には、標的転写物、例えば対象の内因性疾患に関連する転写物である転写物を標的とする、短い干渉RNA(siRNA)、または短いヘアピンRNA(shRNA)、またはsiRNAもしくはマイクロRNA様RNAの前駆体が含まれる。
【0163】
本開示のいくつかの態様は、本明細書に開示されるRNAの特定の細胞または組織への標的化送達を含む。一実施形態では、本開示は、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓を標的とすることを含む。投与されるRNAが、免疫応答を誘導するための抗原またはエピトープをコードするRNAである場合、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓を標的とすることが特に好ましい。一実施形態では、標的細胞は脾臓細胞である。一実施形態では、標的細胞は、脾臓におけるプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞である。一実施形態では、標的細胞は脾臓の樹状細胞である。「リンパ系」は循環系の一部であり、リンパを運ぶリンパ管のネットワークを含む免疫系の重要な部分である。リンパ系は、リンパ器官、リンパ管の伝導ネットワーク、および循環リンパからなる。一次または中枢リンパ器官は、未成熟な前駆細胞からリンパ球を生成する。胸腺および骨髄は一次リンパ器官を構成する。リンパ節および脾臓を含む二次または末梢リンパ器官は、成熟したナイーブリンパ球を維持し、適応免疫応答を開始する。
【0164】
脂質ベースのRNA送達システムは、肝臓への固有の選択性を有する。肝臓蓄積は、肝血管系の不連続な性質または脂質代謝(リポソームおよび脂質もしくはコレステロールコンジュゲート)によって引き起こされる。一実施形態では、標的器官は肝臓であり、標的組織は肝臓組織である。そのような標的組織への送達は、特に、この器官または組織におけるRNAまたはコードされたペプチドもしくはタンパク質の存在が望ましい場合、および/またはコードされたペプチドもしくはタンパク質を大量に発現することが望ましい場合、および/またはコードされたペプチドもしくはタンパク質の全身的な存在、特に有意の量での存在が望ましいかもしくは必要とされる場合に好ましい。
【0165】
一実施形態では、本明細書に記載のRNA粒子の投与後、RNAの少なくとも一部が標的細胞または標的器官に送達される。一実施形態では、RNAの少なくとも一部は、標的細胞のサイトゾルに送達される。一実施形態では、RNAは、ペプチドまたはタンパク質をコードするRNAであり、RNAは、標的細胞によって翻訳されて、ペプチドまたはタンパク質を生成する。一実施形態では、標的細胞は肝臓の細胞である。一実施形態では、標的細胞は筋肉細胞である。一実施形態では、標的細胞は内皮細胞である。一実施形態では、標的細胞は、腫瘍細胞または腫瘍微小環境内の細胞である。一実施形態では、標的細胞は血球である。一実施形態では、標的細胞はリンパ節内の細胞である。一実施形態では、標的細胞は肺の細胞である。一実施形態では、標的細胞は血球である。一実施形態では、標的細胞は皮膚の細胞である。一実施形態では、標的細胞は脾臓細胞である。一実施形態では、標的細胞は、脾臓におけるプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞である。一実施形態では、標的細胞は脾臓の樹状細胞である。一実施形態では、標的細胞はT細胞である。一実施形態では、標的細胞はB細胞である。一実施形態では、標的細胞はNK細胞である。一実施形態では、標的細胞は単球である。したがって、本明細書に記載のRNA粒子は、そのような標的細胞にRNAを送達するために使用され得る。したがって、本開示はまた、本明細書に記載のRNA粒子を対象に投与することを含む、対象の標的細胞にRNAを送達するための方法に関する。一実施形態では、RNAは、標的細胞のサイトゾルに送達される。一実施形態では、RNAは、ペプチドまたはタンパク質をコードするRNAであり、RNAは、標的細胞によって翻訳されて、ペプチドまたはタンパク質を生成する。
【0166】
一実施形態では、RNAは、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質をコードする。
【0167】
本開示によれば、「RNAがコードする」という用語は、RNAが、標的組織の細胞内などの適切な環境に存在する場合、翻訳過程の間にそれがコードするペプチドまたはタンパク質を産生するようにアミノ酸の構築を指示できることを意味する。一実施形態では、RNAは、ペプチドまたはタンパク質の翻訳を可能にする細胞翻訳機構と相互作用することができる。細胞は、コードされたペプチドもしくはタンパク質を細胞内で(例えば細胞質内で)産生し得るか、コードされたペプチドもしくはタンパク質を分泌し得るか、またはそれを表面上で産生し得る。
【0168】
本開示によれば、「ペプチド」という用語は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、約2以上、約3以上、約4以上、約6以上、約8以上、約10以上、約13以上、約16以上、約20以上、および最大約50、約100または約150までの、ペプチド結合によって互いに連結された連続するアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大きなペプチド、特に少なくとも約151個のアミノ酸を有するペプチドを指すが、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では通常同義語として使用される。
【0169】
「薬学的に活性なペプチドもしくはタンパク質」または「治療用ペプチドもしくはタンパク質」は、治療有効量で対象に提供された場合、対象の状態または病状に対してプラスのまたは有利な効果を及ぼす。一実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、治癒的または緩和的特性を有し、疾患または障害の1つ以上の症状を改善する、緩和する、軽減する、逆転させる、発症を遅延させるまたは重症度を軽減するために投与され得る。薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、予防的特性を有することができ、疾患の発症を遅らせるため、またはそのような疾患もしくは病的状態の重症度を軽減するために使用され得る。「薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質」という用語は、タンパク質またはポリペプチド全体を含み、その薬学的に活性な断片も指すことができる。この用語はまた、ペプチドまたはタンパク質の薬学的に活性な類似体を含み得る。
【0170】
薬学的に活性なタンパク質の例には、サイトカインおよびサイトカイン融合物(アルブミン-サイトカイン融合物のような)などのその誘導体ならびに免疫学的に活性な化合物(例えばインターロイキン、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン、インテグリン、アドレシン、セレチン、ホーミング受容体、T細胞受容体、キメラ抗原受容体(CAR)、例えばウイルス/細菌感染の場合の免疫刺激または中和抗体の産生のための抗体または二重特異性抗体を含む免疫グロブリン、可溶性の主要組織適合遺伝子複合体抗原、細菌、寄生虫、またはウイルス抗原などの免疫学的に活性な抗原、アレルゲン、自己抗原、抗体)などの免疫系タンパク質、ホルモン(インスリン、甲状腺ホルモン、カテコールアミン、ゴナドトロフィン、刺激ホルモン(trophic hormone)、プロラクチン、オキシトシン、ドーパミン、ウシソマトトロピン、レプチンなど)、成長ホルモン(例えばヒト成長ホルモン)、成長因子(例えば上皮成長因子、神経成長因子、インスリン様増殖因子など)、成長因子受容体、酵素(組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、コレステロール生合成または分解性酵素、ステロイド産生酵素、キナーゼ、ホスホジエステラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、デヒドロゲナーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、アロマターゼ、シトクロム、アデニル酸またはグアニル酸(guanylaste)シクラーゼ、ノイラミニダーゼ、リソソーム酵素など)、受容体(ステロイドホルモン受容体、ペプチド受容体)、結合タンパク質(成長ホルモンまたは成長因子結合タンパク質など)、転写および翻訳因子、腫瘍成長抑制タンパク質(例えば血管新生を阻害するタンパク質)、構造タンパク質(コラーゲン、フィブロイン、フィブリノーゲン、エラスチン、チューブリン、アクチン、ミオシンなど)、血液タンパク質(トロンビン、血清アルブミン、第VII因子、第VIII因子、インスリン、第IX因子、第X因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、プロテインC、フォンビルブランド因子、アンチトロンビンIII、グルコセレブロシダーゼ、エリスロポエチン顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)または修飾第VIII因子、抗凝固因子などが含まれるが、これらに限定されない。
【0171】
「免疫学的に活性な化合物」という用語は、例えば免疫細胞の成熟を誘導および/もしくは抑制する、サイトカイン生合成を誘導および/もしくは抑制する、ならびに/またはB細胞による抗体産生を刺激することによって体液性免疫を変化させることにより、免疫応答を変化させる任意の化合物に関する。免疫学的に活性な化合物は、抗ウイルスおよび抗腫瘍活性を含むがこれらに限定されない強力な免疫刺激活性を有し、また免疫応答の他の局面を下方制御する、例えば免疫応答をTH2免疫応答からシフトさせることもでき、これは広範囲のTH2媒介性疾患を治療するのに有用である。免疫学的に活性な化合物は、ワクチンアジュバントとして有用であり得る。
【0172】
一実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、サイトカインを含む。「サイトカイン」という用語は、細胞シグナル伝達に重要である小さなタンパク質(約5~20kDa)のカテゴリーを指す。サイトカインの放出は、それらの周りの細胞の挙動に影響を及ぼす。サイトカインは、免疫調節剤としてオートクリンシグナル伝達、パラクリンシグナル伝達および内分泌シグナル伝達に関与する。サイトカインには、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、および腫瘍壊死因子が含まれるが、一般にホルモンまたは成長因子は含まれない(用語が一部重複しているにもかかわらず)。サイトカインは、マクロファージ、Bリンパ球、Tリンパ球およびマスト細胞のような免疫細胞、ならびに内皮細胞、線維芽細胞および様々な間質細胞を含む、幅広い細胞によって産生される。所与のサイトカインは、複数の種類の細胞によって産生され得る。サイトカインは受容体を介して作用し、免疫系において特に重要である;サイトカインは、体液性免疫応答と細胞性免疫応答のバランスを調整し、特定の細胞集団の成熟、成長、および応答性を調節する。一部のサイトカインは、他のサイトカインの作用を複雑な方法で増強または阻害する。
【0173】
一実施形態では、本発明による薬学的に活性なタンパク質は、リンパ系ホメオスタシスの調節に関与するサイトカイン、好ましくはT細胞の発生、プライミング、増殖、分化および/または生存に関与し、好ましくは誘導または増強するサイトカインである。一実施形態では、サイトカインはインターロイキンである。一実施形態では、本発明による薬学的に活性なタンパク質は、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、およびIL-21からなる群より選択されるインターロイキンである。
【0174】
一実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、補充タンパク質を含む。この実施形態では、本発明は、補充タンパク質をコードする本明細書に記載されるようなRNAを対象に投与することを含む、タンパク質補充を必要とする障害(例えばタンパク質欠損性障害)を有する対象の治療のための方法を提供する。「タンパク質補充」という用語は、そのようなタンパク質の欠損を有する対象へのタンパク質(その機能的変異体を含む)の導入を指す。この用語はまた、タンパク質を提供することを必要とするか、またはタンパク質を提供することから利益を得る、例えばタンパク質不足を患っている対象へのタンパク質の導入を指す。「タンパク質欠損を特徴とする障害」という用語は、タンパク質の欠如または不十分な量によって引き起こされる病変を呈する任意の障害を指す。この用語は、生物学的に不活性なタンパク質産物をもたらすタンパク質フォールディング障害、すなわちコンフォメーション障害を包含する。タンパク質の不足は、感染症、免疫抑制、臓器不全、腺の障害、放射線症、栄養不足、中毒、または他の環境的または外的傷害に関与し得る。
【0175】
一実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、1つ以上の抗原または1つ以上のエピトープを含む、すなわち、対象へのペプチドまたはタンパク質の投与は、治療的または部分的もしくは完全に保護的であり得る、対象における1つ以上の抗原または1つ以上のエピトープに対する免疫応答を誘発する。
【0176】
「抗原」という用語は、免疫応答を生じさせることができるエピトープを含む作用物質に関する。「抗原」という用語には、特にタンパク質およびペプチドが含まれる。一実施形態では、抗原は、樹状細胞またはマクロファージのような抗原提示細胞などの免疫系の細胞によって提示される。抗原またはT細胞エピトープなどのそのプロセシング産物は、一実施形態では、T細胞もしくはB細胞受容体によって、または抗体などの免疫グロブリン分子によって結合される。したがって、抗原またはそのプロセシング産物は、抗体またはTリンパ球(T細胞)と特異的に反応し得る。一実施形態では、抗原は、腫瘍抗原、ウイルス抗原、または細菌抗原などの疾患関連抗原であり、エピトープはそのような抗原に由来する。
【0177】
「疾患関連抗原」という用語は、疾患に関連する任意の抗原を指すためにその最も広い意味で使用される。疾患関連抗原は、宿主の免疫系を刺激して疾患に対する細胞性抗原特異的免疫応答および/または体液性抗体応答を生じさせるエピトープを含む分子である。したがって、疾患関連抗原またはそのエピトープは、治療目的に使用され得る。疾患関連抗原は、微生物、典型的には微生物抗原による感染に関連し得るか、または癌、典型的には腫瘍に関連し得る。
【0178】
「腫瘍抗原」という用語は、細胞質、細胞表面および細胞核に由来し得る癌細胞の成分を指す。特に、この用語は、細胞内でまたは腫瘍細胞上の表面抗原として産生される抗原を指す。
【0179】
「ウイルス抗原」という用語は、抗原特性を有する、すなわち個体において免疫応答を誘発することができる任意のウイルス成分を指す。ウイルス抗原は、ウイルスリボ核タンパク質またはエンベロープタンパク質であり得る。
【0180】
「細菌抗原」という用語は、抗原特性を有する、すなわち個体において免疫応答を誘発することができる任意の細菌成分を指す。細菌抗原は、細菌の細胞壁または細胞質膜に由来し得る。
【0181】
「エピトープ」という用語は、免疫系によって認識される抗原などの分子の一部または断片を指す。例えば、エピトープは、T細胞、B細胞または抗体によって認識され得る。抗原のエピトープは、抗原の連続部分または不連続部分を含み得、約5~約100、例えば約5~約50、より好ましくは約8~約30、最も好ましくは約10~約25アミノ酸の長さであり得、例えばエピトープは、好ましくは9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸の長さであり得る。一実施形態では、エピトープは、約10~約25アミノ酸長である。「エピトープ」という用語は、T細胞エピトープを含む。
【0182】
「T細胞エピトープ」という用語は、MHC分子に関連して提示された場合にT細胞によって認識されるタンパク質の一部または断片を指す。「主要組織適合遺伝子複合体」という用語および「MHC」という略語は、MHCクラスIおよびMHCクラスII分子を含み、すべての脊椎動物に存在する遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質または分子は、免疫反応におけるリンパ球と抗原提示細胞または疾患細胞との間のシグナル伝達に重要であり、MHCタンパク質または分子はペプチドエピトープに結合し、T細胞上のT細胞受容体による認識のためにそれらを提示する。MHCによってコードされるタンパク質は、細胞の表面に発現され、T細胞に対して自己抗原(細胞自体からのペプチド断片)と非自己抗原(例えば侵入微生物の断片)の両方を表示する。クラスI MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には約8~約10アミノ酸長であるが、より長いまたはより短いペプチドも有効であり得る。クラスII MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には約10~約25アミノ酸長であり、特に約13~約18アミノ酸長であるが、より長いおよびより短いペプチドも有効であり得る。
【0183】
「T細胞」および「Tリンパ球」という用語は、本明細書では互換的に使用され、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)および細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+T細胞)を含む。「抗原特異的T細胞」という用語または同様の用語は、特にMHC分子に関連して抗原提示細胞または癌細胞などの疾患細胞の表面に提示された場合、T細胞が標的とする抗原を認識し、好ましくはT細胞のエフェクタ機能を発揮するT細胞に関する。T細胞が抗原を発現する標的細胞を死滅させる場合、T細胞は抗原に特異的であると見なされる。T細胞の特異性は、様々な標準的技術のいずれかを使用して、例えばクロム放出アッセイまたは増殖アッセイにおいて評価し得る。あるいは、リンホカイン(インターフェロンγなど)の合成を測定することができる。本開示の特定の実施形態では、RNAは少なくとも1つのエピトープをコードする。
【0184】
特定の実施形態では、エピトープは腫瘍抗原に由来する。腫瘍抗原は、様々な癌で発現されることが一般的に公知の「標準」抗原であり得る。腫瘍抗原はまた、個体の腫瘍に特異的であり、それまで免疫系によって認識されていなかった「ネオ抗原」であり得る。ネオ抗原またはネオエピトープは、アミノ酸変化をもたらす癌細胞のゲノムにおける1つ以上の癌特異的変異から生じ得る。腫瘍抗原の例には、限定されることなく、p53、ART-4、BAGE、β-カテニン/m、Bcr-abL CAMEL、CAP-1、CASP-8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディン-6、クローディン-18.2およびクローディン-12などのクローディンファミリーの細胞表面タンパク質、c-MYC、CT、Cyp-B、DAM、ELF2M、ETV6-AML1、G250、GAGE、GnT-V、Gap 100、HAGE、HER-2/neu、HPV-E7、HPV-E6、HAST-2、hTERT(またはhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE-A、好ましくはMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、またはMAGE-A12、MAGE-B、MAGE-C、MART-1/メランA、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM-1、MUM-2、MUM-3、NA88-A、NF1、NY-ESO-1、NY-BR-1、pl90マイナーBCR-abL、Pml/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1またはRU2、SAGE、SART-1またはSART-3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、サバイビン、TEL/AML1、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、TPTE、WT、およびWT-1が含まれる。
【0185】
癌の変異は各個体によって異なる。したがって、新規エピトープ(ネオエピトープ)をコードする癌変異は、ワクチン組成物および免疫療法の開発における魅力的な標的である。腫瘍免疫療法の有効性は、宿主内で強力な免疫応答を誘導することができる癌特異的抗原およびエピトープの選択に依存する。RNAは、患者特異的腫瘍エピトープを患者に送達するために使用できる。脾臓に存在する樹状細胞(DC)は、腫瘍エピトープなどの免疫原性エピトープまたは抗原のRNA発現に特に関係のある抗原提示細胞である。複数のエピトープの使用は、腫瘍ワクチン組成物における治療効果を促進することが示されている。腫瘍ミュータノームの迅速な配列決定は、本明細書に記載のRNAによってコードされ得る個別化ワクチンのための複数のエピトープを、例えばエピトープが任意にリンカーによって分離されている単一のポリペプチドとして提供し得る。本開示の特定の実施形態では、RNAは、少なくとも1つのエピトープ、少なくとも2つのエピトープ、少なくとも3つのエピトープ、少なくとも4つのエピトープ、少なくとも5つのエピトープ、少なくとも6つのエピトープ、少なくとも7つのエピトープ、少なくとも8つのエピトープ、少なくとも9つのエピトープ、または少なくとも10のエピトープをコードする。例示的な実施形態には、少なくとも5つのエピトープをコードするRNA(「ペンタトープ」と称される)、少なくとも10のエピトープをコードするRNA(「デカトープ」と称される)、少なくとも20のエピトープをコードするRNA(「エイコサトープ」と称される)が含まれる。
【0186】
RNA粒子を含む組成物
「複数のRNA粒子」または「複数のRNA-脂質粒子」という用語は、特定の数の粒子の集団を指す。特定の実施形態では、この用語は、10、102、103、104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016、1017、1018、1019、1020、1021、1022、または1023以上の粒子の集団を指す。
【0187】
複数の粒子が前述の範囲の任意の一部またはその中の任意の範囲を含み得ることは、当業者には明らかであろう。
【0188】
実施形態では、本開示の組成物は液体または固体である。固体の非限定的な例には、凍結形態、凍結乾燥形態または噴霧乾燥形態が含まれる。好ましい実施形態では、組成物は液体である。
【0189】
本開示によれば、本明細書に記載の組成物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸二カリウム、リン酸一カリウム、酢酸カリウム、重炭酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化カルシウム、およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)とアミノ酸のナトリウム塩を含むがこれらに限定されない、有機塩または無機塩などの塩を含み得る。
【0190】
本明細書に記載の組成物はまた、製品品質の実質的な損失、特に、貯蔵、凍結、凍結乾燥および/または噴霧乾燥中のRNA活性の実質的な損失を回避するため、例えば凝集、粒子崩壊、RNA分解および/または他の種類の損傷を低減または防止するための安定剤を含み得る。
【0191】
一実施形態では、安定剤は、凍結保護剤または凍結乾燥保護剤である。
【0192】
一実施形態では、安定剤は炭水化物である。本明細書で使用される「炭水化物」という用語は、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖および多糖を指し、それらを包含する。
【0193】
一実施形態では、安定剤は、アミノ酸または界面活性剤(例えばポロキサマー)である。
【0194】
本開示によれば、本明細書に記載のRNA粒子組成物は、RNA粒子の安定性、特にRNAの安定性に適したpHを有する。一実施形態では、本明細書に記載のRNA粒子組成物は、約4.0~約8.0、または約5.0~約7.5のpHを有する。理論に拘束されることを望むものではないが、緩衝剤の使用は、組成物の製造、貯蔵および使用の間、組成物のpHを維持する。本開示の特定の実施形態では、緩衝剤は、重炭酸ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパンスルホン酸(TAPS)、2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)酢酸(ビシン)、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(トリス)、N-(2-ヒドロキシ-1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル)グリシン(トリシン)、3-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸(TAPSO)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸(HEPES)、2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸(TES)、1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸(PIPES)、ジメチルアルシン酸、2-モルホリン-4-イルエタンスルホン酸(MES)、3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であり得る。他の適切な緩衝系は、単独もしくは塩中の酢酸、単独もしくは塩中のクエン酸、単独もしくは塩中のホウ酸、および単独もしくは塩中のリン酸、またはアミノ酸およびアミノ酸誘導体であり得る。
【0195】
本開示の特定の実施形態は、本明細書に記載の組成物におけるキレート剤の使用を企図する。キレート剤とは、金属イオンと少なくとも2つの配位共有結合を形成し、それによって安定な水溶性の錯体を生成することができる化合物を指す。理論に拘束されることを望むものではないが、キレート剤は、さもなければ本開示において加速されたRNA分解を誘発し得る、遊離二価イオンの濃度を低下させる。適切なキレート剤の例には、限定されることなく、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTAの塩、デスフェリオキサミンB、デフェロキサミン、ジチオカルブナトリウム、ペニシラミン、ペンテト酸カルシウム、ペンテト酸のナトリウム塩、スクシマー、トリエンチン、ニトリロ三酢酸、トランス-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(DCTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ビス(アミノエチル)グリコールエーテル-N,N,N',N'-四酢酸、イミノ二酢酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、またはそれらの塩が含まれる。特定の実施形態では、キレート剤は、EDTAまたはEDTAの塩である。例示的な実施形態では、キレート剤は、EDTA二ナトリウム二水和物である。
【0196】
いくつかの実施形態では、EDTAは、約0.05mM~約5mM、約0.1mM~約2.5mM、または約0.25mM~約1mMの濃度である。
【0197】
医薬組成物
本明細書に記載のRNA粒子を含む組成物は、治療的または予防的治療のための医薬組成物または薬剤として、またはそれらを調製するために有用である。
【0198】
一態様では、本明細書に記載のRNA粒子は、医薬組成物中に存在する。別の態様では、本明細書に記載の組成物は医薬組成物である。
【0199】
本開示の粒子は、任意の適切な医薬組成物の形態で投与され得る。
【0200】
「医薬組成物」という用語は、好ましくは薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤と共に、治療上有効な作用物質を含む製剤に関する。前記医薬組成物は、前記医薬組成物を対象に投与することによって疾患または障害を治療する、予防する、またはその重症度を軽減するのに有用である。医薬組成物は、当技術分野では医薬製剤としても公知である。本開示の文脈において、医薬組成物は、本明細書に記載されるようなRNA粒子を含む。
【0201】
本開示の医薬組成物は、1つ以上のアジュバントを含み得るか、または1つ以上のアジュバントと共に投与され得る。「アジュバント」という用語は、免疫応答を延長、増強または加速する化合物に関する。アジュバントは、オイルエマルジョン(例えばフロイントアジュバント)、無機化合物(ミョウバンなど)、細菌産物(百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素など)、または免疫刺激複合体などの不均一な化合物の群を含む。アジュバントの例には、限定されることなく、LPS、GP96、CpGオリゴデオキシヌクレオチド、成長因子、およびモノカイン、リンホカイン、インターロイキン、ケモカインなどのサイトカインが含まれる。ケモカインは、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、INFa、INF-γ、GM-CSF、LT-aであり得る。さらなる公知のアジュバントは、水酸化アルミニウム、フロイントアジュバント、またはMontanide(登録商標)ISA51などの油である。本開示で使用するための他の適切なアジュバントには、Pam3Cysなどのリポペプチド、ならびにサポニン、トレハロース-6,6-ジベヘネート(TDB)、モノホスホリルリピドA(MPL)、モノミコロイルグリセロール(MMG)、またはグルコピラノシル脂質アジュバント(GLA)などの親油性成分が含まれる。
【0202】
本開示による医薬組成物は、一般に「薬学的に有効な量」および「薬学的に許容される製剤」で適用される。
【0203】
「薬学的に許容される」という用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない物質の非毒性を指す。
【0204】
「薬学的に有効な量」という用語は、単独でまたはさらなる用量と共に、所望の反応または所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患の治療の場合、所望の反応は、好ましくは疾患の経過の阻害に関する。これは、疾患の進行を遅くすること、特に疾患の進行を中断するまたは逆転させることを含む。疾患の治療における所望の反応はまた、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の予防であり得る。本明細書に記載の粒子または組成物の有効量は、治療される状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、サイズおよび体重を含む患者の個々のパラメータ、治療の期間、付随する治療の種類(存在する場合)、特定の投与経路ならびに同様の因子に依存する。したがって、本明細書に記載の粒子または組成物の投与量は、そのような様々なパラメータに依存し得る。患者の反応が初期用量では不十分である場合、より高い用量(または異なる、より局所的な投与経路によって達成される実質的により高い用量)を使用し得る。
【0205】
本開示の医薬組成物は、塩、緩衝剤、防腐剤、および任意で他の治療薬を含み得る。一実施形態では、本開示の医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤を含む。
【0206】
本開示の医薬組成物で使用するための適切な防腐剤には、限定されることなく、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールが含まれる。
【0207】
本明細書で使用される「賦形剤」という用語は、本開示の医薬組成物中に存在し得るが、活性成分ではない物質を指す。賦形剤の例には、限定されることなく、担体、結合剤、希釈剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、香味剤、または着色剤が含まれる。
【0208】
「希釈剤」という用語は、希釈するおよび/または希薄にする作用物質に関する。さらに、「希釈剤」という用語には、流体、液体もしくは固体の懸濁液および/または混合媒体のいずれか1つ以上が含まれる。適切な希釈剤の例には、エタノール、グリセロールおよび水が含まれる。
【0209】
「担体」という用語は、医薬組成物の投与を容易にする、増強するまたは可能にするために活性成分が組み合わされる、天然、合成、有機、無機であり得る成分を指す。本明細書で使用される担体は、対象への投与に適した1つ以上の適合性の固体もしくは液体充填剤、希釈剤または封入物質であり得る。適切な担体には、限定されることなく、滅菌水、リンガー液、乳酸リンガー液、滅菌塩化ナトリウム溶液、等張食塩水、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレンおよび、特に生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマーまたはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマーが含まれる。一実施形態では、本開示の医薬組成物は等張食塩水を含む。
【0210】
医薬用途のための薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤は、製薬分野で周知であり、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R Gennaro edit.1985)に記載されている。
【0211】
医薬担体、賦形剤または希釈剤は、意図される投与経路および標準的な薬務に関して選択することができる。
【0212】
医薬組成物の投与経路
一実施形態では、本明細書に記載の医薬組成物は、静脈内、動脈内、皮下、皮内、経皮的、筋肉内または腫瘍内に投与され得る。特定の実施形態では、医薬組成物は、局所投与または全身投与用に製剤化される。全身投与は、胃腸管を介した吸収を含む経腸投与、または非経口投与を含み得る。本明細書で使用される場合、「非経口投与」は、静脈注射などによる、胃腸管を介する以外の任意の方法での投与を指す。好ましい実施形態では、医薬組成物は全身投与用に製剤化される。別の好ましい実施形態では、全身投与は静脈内投与によるものである。
【0213】
医薬組成物の使用
本明細書に記載のRNA粒子は、様々な疾患、特に、対象にペプチドまたはタンパク質を提供することが治療効果または予防効果をもたらす疾患の治療的または予防的治療に使用され得る。例えば、ウイルスに由来する抗原またはエピトープを提供することは、前記ウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患の治療において有用であり得る。腫瘍抗原またはエピトープを提供することは、癌細胞が前記腫瘍抗原を発現する癌疾患の治療において有用であり得る。機能性タンパク質または酵素を提供することは、機能不全のタンパク質を特徴とする遺伝性障害の治療において、例えばリソソーム蓄積症(例えばムコ多糖症)または因子欠乏症において有用であり得る。サイトカインまたはサイトカイン融合物を提供することは、腫瘍微小環境を調節するのに有用であり得る。
【0214】
「疾患」(本明細書では「障害」とも称される)という用語は、個体の身体に影響を及ぼす異常な状態を指す。疾患はしばしば、特定の症状および徴候に関連する医学的状態として解釈される。疾患は、感染症などの外部に由来する因子によって引き起こされ得るか、または自己免疫疾患などの内部機能障害によって引き起こされ得る。ヒトでは、「疾患」はしばしば、罹患した個体に疼痛、機能障害、苦痛、社会的な問題、もしくは死を引き起こすか、または個体と接触するものに対して同様の問題を引き起こす状態を指すためにより広く使用される。このより広い意味では、疾患は時に、損傷、無力、障害、症候群、感染、単発症状、逸脱した挙動、および構造と機能の非定型の変化を含むが、他の状況および他の目的では、これらは区別可能なカテゴリーと見なされ得る。多くの疾患を患い、それと共に生活することは、人生観および人格を変える可能性があるため、疾患は通常、身体的だけでなく感情的にも個体に影響を及ぼす。
【0215】
本文脈において、「治療」、「治療する」または「治療的介入」という用語は、疾患または障害などの状態と闘うことを目的とした、対象の管理およびケアに関する。この用語は、症状もしくは合併症を緩和するため、疾患、障害もしくは状態の進行を遅らせるため、症状および合併症を緩和もしくは軽減するため、ならびに/または疾患、障害もしくは状態を治癒もしくは除去するため、ならびに状態を予防するための治療上有効な化合物の投与などの、対象が罹患している所与の状態に対するあらゆる範囲の治療を含むことを意図しており、予防は、疾患、状態または障害と闘う目的での個体の管理およびケアとして理解されるべきであり、症状または合併症の発症を防止するための活性化合物の投与を含む。
【0216】
「治療的治療」という用語は、個体の健康状態を改善する、および/または寿命を延長(増加)させる任意の治療に関する。前記治療は、個体における疾患を排除し、個体における疾患の発症を停止もしくは遅延させ、個体における疾患の発症を阻害もしくは遅延させ、個体における症状の頻度もしくは重症度を低下させ、および/または現在疾患を有しているかもしくは以前に有していたことがある個体における再発を減少させ得る。
【0217】
「予防的治療」または「防止的治療」という用語は、個体において疾患が発生するのを防ぐことを目的とした任意の治療に関する。「予防的治療」または「防止的治療」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0218】
「個体」および「対象」という用語は、本明細書では互換的に使用される。これらの用語は、疾患もしくは障害(例えば癌、感染症)に罹患している可能性があるかもしくは罹患しやすいが、疾患もしくは障害を有するかもしくは有さない可能性がある、またはワクチン接種などの予防的介入を必要とし得る、またはタンパク質補充などによる介入の必要性を有し得る、ヒトもしくは別の哺乳動物(例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマもしくは霊長動物)、または鳥(ニワトリ)、魚もしくは他の任意の動物種を含む他の任意の非哺乳動物を指す。多くの実施形態では、個体はヒトである。特に明記されない限り、「個体」および「対象」という用語は特定の年齢を示すものではなく、したがって成人、高齢者、子供、および新生児を包含する。本開示の実施形態では、「個体」または「対象」は「患者」である。
【0219】
「患者」という用語は、治療のための個体または対象、特に罹患した個体または対象を意味する。
【0220】
本開示の一実施形態では、目的は、ワクチン接種によって感染症に対する保護を提供することである。
【0221】
本開示の一実施形態では、目的は、抗体、二重特異性抗体、サイトカイン、サイトカイン融合タンパク質、酵素などの分泌された治療用タンパク質を対象、特にそれを必要とする対象に提供することである。
【0222】
本開示の一実施形態では、目的は、エリスロポエチン、第VII因子、フォンビルブランド因子、β-ガラクトシダーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼの産生などのタンパク質補充療法を対象、特にそれを必要とする対象に提供することである。
【0223】
本開示の一実施形態では、目的は、血液中の免疫細胞を調節/再プログラムすることである。
【0224】
当業者は、免疫療法およびワクチン接種の原理の1つが、治療される疾患に関して免疫学的に関連する抗原またはエピトープで対象を免疫することによって疾患に対する免疫防御反応が生じるという事実に基づくことを理解するであろう。したがって、本明細書に記載の医薬組成物は、免疫応答を誘導または増強するために適用可能である。したがって、本明細書に記載の医薬組成物は、抗原またはエピトープが関与する疾患の予防的および/または治療的治療において有用である。
【0225】
「免疫」または「ワクチン接種」という用語は、例えば治療的または予防的理由により、免疫応答を誘導する目的で個体に抗原を投与する工程を表す。
【0226】
本明細書で参照される文書および試験の引用は、前述のいずれかが関連する先行技術であることの承認を意図するものではない。これらの文書の内容に関するすべての記述は、出願人が入手できる情報に基づいており、これらの文書の内容の正確さについての承認を構成するものではない。
【0227】
以下の説明は、当業者が様々な実施形態を作成および使用することを可能にするために提示される。特定の機器、技術、および用途の説明は、例としてのみ提供される。本明細書に記載される例に対する様々な修正は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義される一般原理は、様々な実施形態の精神および範囲から逸脱することなく他の例および用途に適用され得る。したがって、様々な実施形態は、本明細書で説明され、示される例に限定されることを意図するものではなく、特許請求の範囲と一致する範囲を与えられるべきである。
【実施例】
【0228】
<実施例1>
材料および方法
材料
ルシフェラーゼまたは分泌型NanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼ(secNLuc)をコードするmRNAは、RNA生化学ユニット(BioNTech RNA Pharmaceuticals,Mainz,Germany)によって提供された(mRNA濃度は、水中または10mM Hepes中で2~5mg/mLである;0.1mM EDTA;pH7.0)。
【0229】
イオン化可能なカチオン性脂質DODMA(1,2-ジオレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン)およびヘルパー脂質DOPE(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)は、Merckから購入した。ヘルパー脂質DSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)は、Avanti Polar Lipidsから入手した。コレステロールは、Sigma Aldrichから入手した。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、Sigma Adlrichから入手した。
【0230】
調製の前に、脂質を無水エタノール(Carl Roth)に5~100mMの濃度で溶解し、エタノール性脂質溶液を-20℃で保存する。
【0231】
調製の前に、エタノール性脂質溶液、100mM pH5.4の滅菌クエン酸緩衝液およびRNAを室温で平衡化した。
【0232】
脂質ナノ粒子の調製のためのプロトコル1
脂質ナノ粒子を、マイクロ流体混合装置であるNanoAssemblr(商標)Benchtop Instrument(Precision NanoSystems,Vancouver,BC)を使用して、脂質を含むエタノール相を、RNAを含む水相と混合することによって調製した。総脂質9mMの脂質混合物を含む1容量のエタノールと、クエン酸緩衝液100mM pH5.4中0.15mg/mLの3容量のRNAを、12mL/分の合計流量でマイクロ流体カートリッジを通して混合した。得られた混合物を2容量のクエン酸緩衝液100mM、pH5.4と直接混合した。特に明記されない限り、粒子をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して10K MWCO透析カセット(Slide-A-Lyser、ThermoFisher Scientific)で2.5時間透析した。次に、Amicon(登録商標)超遠心フィルタ(30kDa NMWL、Merck Millipore)を使用した限外ろ過によって、粒子を約0.2~0.5mg/mLの理論的RNA濃度に再濃縮した。物理化学的特性評価(サイズ、多分散性、ゼータ電位、RNAアクセス可能性および総RNA濃度)を調製の日に実施した。完全な特性評価の後、製剤を2日以内の間4℃で保存した。インビトロ試験またはインビボ注射の前に、脂質ナノ粒子をPBSに溶解して所望のRNA濃度にした。
【0233】
脂質ナノ粒子の調製のためのプロトコル2
脂質ナノ粒子を、脂質を含む水相を、RNAを含む水相と混合することによって調製した。pSarc-リポソームは、カチオン性脂質、pSarcを含むまたは含まないヘルパー脂質を異なるモル分率で含む総脂質75mM、600μlを、30分間撹拌しながら総量14.4mlの水にエタノール注入することによって調製した。次に、リポソームを水中のRNAにN/P 4で添加し、続いて急速にボルテックスして、最終RNA濃度0.05mg/mlのpSarc-LPXを形成した。物理化学的特性評価(サイズ、多分散性、RNAアクセス可能性、および総RNA濃度)を調製の日に実施した。完全な特性評価の後、製剤を2日以内の間4℃で保存した。インビトロ試験の前に、脂質ナノ粒子を水に溶解して所望のRNA濃度にした。
【0234】
粒子サイズ測定
脂質ナノ粒子の粒子サイズおよび多分散度(PDI)を動的光散乱法によって測定した。製剤をPBSで希釈して0.005mg/mLの最終RNA濃度にした。希釈試料120μLを96ウェルプレートで3回測定した。サイズは、WYATT technology GmbH(Dernbach,Germany)のDynaProプレートリーダII装置で測定した。
【0235】
ゼータ電位(電気泳動移動度)の測定
RNA-脂質ナノ粒子を、1ml中のPBS 0.1xで0.01mg/mLのRNA濃度に希釈した。プラスチックキュベット中で各製剤について1.05mlの3つの試料を調製した。粒子の電気泳動移動度を、ζ-Wallis装置(Corduan technologies,France)を用いたレーザードップラー電気泳動によって測定した。各試料について、10回の分析の1シーケンスによる中分解能測定を使用した。低い信号対雑音比、または極端な移動度μ(>3または<-3μm*cm/V*S)を有する測定は、最終的な分析から除外した。
【0236】
RNAアクセス可能性および総RNA濃度のRiboGreenアッセイ
RNA-脂質ナノ粒子は、常に約0.2~0.5mg/mL RNAの最終濃度に濃縮した。Quant-iT RiboGreen RNAアッセイ(Thermo Fischer Scientific)を使用して、RNAアクセス可能性および製剤中の総RNA濃度を定量化した。簡単に説明すると、カプセル化効率を、2%Triton X-100の存在下と非存在下で試料間の蛍光を比較することによって、RNA結合色素RiboGreenを使用して決定した。界面活性剤が存在しない場合、蛍光はアクセス可能な遊離RNAからのみ測定され得るが、界面活性剤が存在する場合、蛍光は総RNA量から測定される。界面活性剤Triton X-100の存在下での試料の蛍光を、検量線に基づいて総RNA濃度を計算するためにも使用した。
【0237】
脂質ナノ粒子試料またはPBS(陰性対照)を1xTE緩衝液(Thermo Fisher Scientist)で希釈して、mRNA濃度を2~5μg/mLにした。
【0238】
各希釈試料のアリコートを、1xTE緩衝液で1:1に(アクセス可能なmRNAの測定)、または2%Triton-X100を含む1xTE緩衝液で1:1に(粒子内でアクセス可能なものと遊離mRNAの両方の、総mRNAの測定)さらに希釈した。試料を2つ組で調製した。十分な脂質解離を確実にするために、試料を37℃で10分間インキュベートした。次に、Quant-iT RiboGreen RNA試薬(TE緩衝液中の保存溶液から1:100希釈)を各試料に1.1添加し、色素の蛍光を485nmの励起波長と535nmの発光波長で測定した(Tecan Infinite M200 Pro Multimode Plate Reader)。
【0239】
RNAアクセス可能性を次のように決定した:
【0240】
【0241】
総RNA濃度を、2%Triton X-100を含む1xTE緩衝液でのRNA検量線を使用して決定した。
【0242】
アガロースゲル電気泳動
遊離RNAを評価するためにアガロースゲル電気泳動を実施した。1xTAE緩衝液(Tris-酢酸-EDTA)(ThermoFisher)100mLに溶解した1gのアガロース、5%次亜塩素酸ナトリウム1mL、およびGelRed Nucleic Acid Gel Stain(Biotium)10μLを使用してゲルを注いだ。ゲルを室温で少なくとも25分間硬化させた。次に、ゲルをゲル電気泳動タンクに入れ、1×TAEランニング緩衝液(ThermoFisher)を使用した。負荷する前に、試料を、それぞれ総RNAと遊離RNAについて、2%のTriton X-100と共にまたはなしで、40℃でインキュベートした。ゲルを80Vで40分間流した。ゲルの画像をChemidoc XRSイメージングシステム(Bio-Rad)で撮影した。
【0243】
インビトロトランスフェクションアッセイおよび細胞生存率アッセイ
細胞を、C2C12細胞についてはウェルあたり5000細胞、HepG2およびTC1細胞についてはウェルあたり20000細胞の濃度で、白色96ウェルプレート(平底)に播種した。細胞を、7.5%CO2のC2C12を除いて、37℃および5%CO2で維持した。18~24時間後、上清を廃棄し、10%の非不活化FCSを添加したそれぞれの培地90μLと交換した。製剤をPBS中1~10μg/mLの最終濃度に希釈した。次に、脂質ナノ粒子溶液10μlを細胞に添加して、100μlの最終培地量を得た。ウェル内の最終的なRNA量は33~100ngの範囲である。プレートを、室温にて500gで5分間遠心分離した。細胞との24時間のインキュベーション後、Bright-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイ(カタログ番号E260、Promega GmbH,Mannheim,Germany)をマニュアルの指示に従って実施した。Tecan Infinite M200 Pro Multimode Plate Readerを使用して生物発光シグナル(RLU)を測定し、トランスフェクトされていない細胞のバックグラウンドを差し引くことによってルシフェラーゼ発現を計算した(PBSをブランクとして使用)。
【0244】
細胞生存率の測定についても、同じ手順に従った。製剤を細胞と共に24時間インキュベートした後、CellTiter-Glo(商標)アッセイ(カタログ番号G9242、Promega GmbH,Mannheim,Germany)をマニュアルの指示に従って実施した。100%の生存率にはPBSおよび毒性にはDMSOを用いた対照を含めた。生存率を次のように計算した:
【0245】
【0246】
マウスでのインビボトランスフェクション
マウスをイソフルランで麻酔し、0.05mg/mLのルシフェラーゼをコードするmRNAの試験製剤200μlを、30Gのサイズのカニューレを予め取り付けたインスリン注射器で眼窩後洞に静脈内注射した。マウスが意識を取り戻すまで、痛み、苦痛および窮迫の徴候についてマウスを観察した。
【0247】
測定時(投与後6時間および24時間)に、マウスに100mg/kg体重のD-ルシフェリン溶液を腹腔内注射した。続いて、マウスをイソフルランで麻酔し、IVIS(登録商標)Spectrum(Perkin Elmer)イメージングチャンバ内のヒートマット(37℃)に載せ、個別の麻酔マスクを介してイソフルラン/酸素を一定供給した。ルシフェリン注射の5分後、カメラによる1分間にわたる生物発光の検出を実施した。次に、頸部伸長によってマウスを犠死させ、肝臓、肺、脾臓、心臓、腎臓、脳、リンパ節などの臓器を収集し、IVIS(登録商標)Spectrumイメージング装置を使用してエクスビボで再度測定した。得られた画像を、「LivingImage」ソフトウェア(Perkin Elmer)を使用して分析した。光子の全フラックス[p/s]を定量化するために、関心領域(ROI)を臓器の周囲に描いた。採血し、全血を1000×gで3分間遠心分離して血清を得た。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、およびLDHレベルの肝酵素レベルを、Thermo scientificの臨床化学アナライザ-Indikoによって決定した。
【0248】
EPO実験のために、Balb/cマウス(n=5)に30~3μgのmRNA用量範囲を静脈内投与した。3、6、24および48時間後に全血を採取し、13000xrpmで3分間遠心分離して血漿を得た。マウスエリスロポエチンDuoSet ELISA(R&D systems)を使用してEPO分泌を決定した。
【0249】
小角X線散乱
小角X線散乱(SAXS)実験をGerman Synchrotron-EMBL(DESY)Hamburg[P12]で実施した。試料から検出器までの距離は、q=0.6Å-1からq=3Å-1までの測定を可能にするために1.6~6mの間で調整可能であった。濃縮LNP懸濁液を、注射器を使用してその場で石英キャピラリチューブに充填した。
【0250】
補体活性化
インビトロC3aレベルを、Human C3a EIAキット(Quidel)を使用して決定した。簡単に説明すると、LNPと対照(陽性(Cremophore El)および陰性(1xPBSとEDTA(18mM))を、正常ヒト血清補体(NHS、Quidel)と20:80(標本:NHS)の比率で37℃にて1時間インキュベートした。LNPを、1mg/kgのmRNA用量の理論的血漿濃度に基づいて、5x、1xおよび0.02xで試験した。C3a EIAキットを製造者のプロトコルに従って実施した。
【0251】
Cryo-TEM
試料は、200メッシュの銅グリッド(QuantiFoil(登録商標)R2/1)上の穴あきカーボンフィルムで支持されたガラス化氷に保存した。ガラス化は、Leica EM GPを使用して-180℃の液体エタン中で実施した。グリッドは、画像化のために電子顕微鏡に移すまで、液体窒素下で保存した。クライオTEMイメージングは、液体N2クライオ条件下でZeiss Libra(登録商標)120を使用して、穴あきカーボン被覆銅グリッド上で実施した。顕微鏡を120kVの加速電圧で使用し、Gatan UltraScan(登録商標)ccdカメラで画像を取得した。標本の全体的な分布を評価するために、各グリッドの画像を複数のスケールで取得した。
【0252】
<実施例2>
pSarcを含むRNA-脂質ナノ粒子の生成
mRNA-脂質ナノ粒子を、アミノ酸ベースのポリペプトイド脂質:ポリサルコシン結合脂質を使用して調製した。
【0253】
LNPは、脂質DODMA、コレステロール、DSPCおよびC14pSarc20を40:50-X:10:Xのモル比で含むエタノール相と、クエン酸緩衝液100mM pH5.4中0.15mg/mLの3容量のRNAとを混合することによって調製した。
【0254】
【0255】
図1は、ポリサルコシル化LNPの粒子サイズとモル分率の関係を示す。脂質ナノ粒子を、漸増モル分率のC14PSarc20を含む脂質混合物を使用して製造した。適切な条件下で、コロイド的に安定な粒子を得ることができる。PSarcの非常に低い分率(0.5および1%)では、測定可能なサイズの粒子は形成されなかったが、2.5モル%以上では、個別のサイズで多分散指数の低い粒子が得られた。粒子サイズは、PSarc分率の変化によって正確に微調整することができた。粒子サイズは、2.5モル%のPSarcでの約200~250nmから、20モル%のPSarcでの約50nmまで、単調に減少した。
【0256】
<実施例3>
サルコシン重合単位の長さが異なるpSarc-脂質を含む粒子
LNPは、脂質DODMA、コレステロール、DSPC、および異なるポリマー長(X=11、20、34または65)を有するC14pSarcXを40:45:10:5のモル比で含む1容量のエタノール相と、クエン酸緩衝液100mM pH5.4中0.15mg/mLの3容量のRNAとを混合することによって調製した。
【0257】
【0258】
図2は、LNP形成に使用されるPSarc脂質のポリサルコシンの長さ(重合単位)と、様々な細胞株におけるルシフェラーゼをコードするmRNA LNPのインビトロタンパク質発現との関係を示す。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したLNPを、肺腫瘍細胞(TC-1)、筋肉細胞(C2C12)、肝細胞(Hep-G2)およびマクロファージ(RAW 264.7)で試験した。トランスフェクションの24時間後、生物発光シグナルを測定した。細胞株とは関係なく、ポリサルコシンの重合単位数の増加は、PEG脂質で通常観察されるようなタンパク質発現レベルの低下にはつながらなかった。
【0259】
図3は、ポリサルコシンの長さを11~65単位の間で変化させた、一定な分率(5%)のPSarc脂質を含むLNPのインビボでの有効性を示す。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したLNPをマウスに静脈内注射した(10μgのRNA、n=3)。インビボおよびエクスビボ生物発光を測定した。すべての場合に、最も強いシグナルは肝臓で見出された。図には、注射の6時間後に抽出した、肝臓からのエクスビボ測定からのデータが示されている。肝臓でのタンパク質発現レベルに対するポリサルコシンの長さの有意な影響は決定できなかった。これは、トランスフェクション効率を低下させることなく、広範囲のサイズのPSarcを使用して粒子を操作することを可能にする。
【0260】
<実施例4>
ポリサルコシン-脂質末端基の影響
LNPは、脂質DODMA、コレステロール、DSPC、および異なる末端基(NH2、COOH、およびC2H3O)を有するC14pSarc20を40:50-x:10:xのモル比で含む1容量のエタノール相と、クエン酸緩衝液100mM pH5.4中0.15mg/mLの3容量のRNAとを混合することによって調製した。
【0261】
【0262】
図4は、粒子サイズとゼータ電位に対する様々なポリサルコシン末端基の影響を示す。アミン基、カルボキシル化またはアセチル化末端基のいずれかを有する20の繰り返し単位からなるPSarcを直接比較して試験した。他のすべての製剤パラメータは一定に維持した。試験したすべての末端基を有するLNPの形成は成功し、PSarc分率と粒子特性(サイズとゼータ電位)の間の相関は類似していた。
【0263】
図5は、
図4に記載されているように、異なる末端基を有するポリサルコシン脂質を含むLNPのインビトロ特性評価を示す。モル分率5%、長さ20単位のPSarc脂質を使用した。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したLNPを、肝細胞(Hep-G2)、マクロファージ(RAW 264.7)、筋肉細胞(C2C12)、および胎児腎細胞(HEK 293 T)で試験した。トランスフェクションの24時間後、生物発光シグナルを測定した。すべてのLNPおよび細胞株について、生物発光シグナルが得られた。細胞株の関数としてのシグナル強度の依存性は、すべての末端基で類似していた。
【0264】
図6は、
図4および5に記載されているように、異なる末端基で製剤化したLNPのインビボ有効性を示す。モル分率5%、長さ20単位のPSarc脂質を使用した。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したLNPを静脈内注射した(10μgのRNA、n=3)。インビボおよびエクスビボ生物発光を測定した。すべての場合に、最も強いシグナルは肝臓で見出された。図には、注射の6時間後に抽出した、肝臓からのエクスビボ測定からのデータが示されている。すべての末端基で同様のシグナル強度が決定され、すべての末端基がインビボで同様に高いトランスフェクションを得るのに適していることを示した。
【0265】
<実施例5>
様々なカチオン性脂質を用いたPSarc RNA-脂質ナノ粒子の調製
以下の実験の結果は、様々なタイプのカチオン性部分を有するRNA-脂質ナノ粒子を形成するためのポリサルコシンの多様性を示す。
【0266】
【0267】
<実施例6>
pSarc-リポソームおよびRNA-リポプレックス
以下の実験の結果は、ポリサルコシン結合脂質を含むことがリポソームおよびステルスRNA-リポプレックスの形成に適していることを示す。適切な条件下で、トランスフェクション効率の高い小さな粒子が製剤化される。
【0268】
pSarc-リポソームを、カチオン性のヘルパー脂質とpSarcまたはPEGを含む総脂質75mMの脂質のエタノール溶液600μlを、30分間撹拌しながら総量14.4mlの水に注入することによって調製した。次に、リポソームを水中のRNAにN/P 4で添加し、続いて急速にボルテックスしてpSarc-LPXを形成した。
【0269】
図7は、リポソームのサイズに対するPEG化およびポリサルコシル化の影響を示す。リポソームをDOTMAとDOPE(2:1モル/モル)のみで調製するか、または2%のモル分率でPEG-脂質もしくはpSarを含む脂質混合物を使用した。PEGとpSarcはどちらも測定サイズの有意な減少をもたらすが、多分散指数はより高かった(マルチモーダル)。
【0270】
図8は、
図7に記載されているように、PEGおよびPSarcを含むリポソームを使用したリポプレックス形成を示す。3種類すべてのリポソーム(DOTMAとDOPE(2:1モル/モル)のみ、または2%のモル分率でPEG-脂質もしくはpSarcを含む)から、限定されたサイズで多分散指数が低いリポプレックスが形成された。PEG化およびポリサルコシル化リポソームからのリポプレックスは、多分散指数(PDI)値が大きいリポソーム前駆体と比較して、驚くほど低い多分散指数を示した。これは、高い多分散指数を有するpSarcリポソームも、50nmのかなり小さいサイズと約0.2のPDIを有する明確に定義されたRNAリポプレックスの形成に適し得ることを示す。
【0271】
図9は、DOTMAとDOPE(2:1モル/モル)のみ、または2%のモル分率でPEG-脂質もしくはpSarcを含む同じ脂質混合物からなるリポソームから構成されるリポプレックスのインビトロ特性評価を示す。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したリポプレックスを肝細胞(Hep-G2)で試験した。トランスフェクションの24時間後、生物発光シグナルを測定した。PEG化はシグナルを有意に減少させたが、PSarcが存在する場合、この減少はそれほど顕著ではなかった。PSarcは、PEGよりもはるかに少ない程度でトランスフェクション効率を低下させるようである。
【0272】
図10は、DOTMAとDOPE(2:1モル/モル)のみ、または2%のモル分率でPEG-脂質もしくはpSarcを含む同じ脂質混合物からなるリポソームから構成されるリポプレックスのインビトロ特性評価を示す。ルシフェラーゼをコードするmRNAで製剤化したリポプレックスを筋肉細胞(C2C12)で試験した。トランスフェクションの24時間後、生物発光シグナルを測定した。PEG化はシグナルを有意に減少させたが、PSarcが存在する場合、この減少はそれほど顕著ではなかった。PSarcは、PEGよりもはるかに少ない程度でトランスフェクション効率を低下させるようである。
【0273】
<実施例7>
pSarc粒子のさらなる試験
図11は、製剤中の粒子サイズとポリサルコシン鎖長およびモル比の関係を示す。短いポリサルコシン鎖長では、粒子形成はより高いモル比でのみ可能であるが、長いポリサルコシン鎖長では、1%のモル比で粒子形成が可能である。一般に、製剤中に存在するポリサルコシン鎖長またはモル比が増加すると共に、粒子サイズが減少した。
【0274】
図12は、ポリサルコシル化脂質ナノ粒子からの散乱曲線(SAXS)を示す。LNPを、様々な鎖長(11~34単位)および様々なモル比(2.5~10%)のポリサルコシンを使用して製剤化した。LNPの散乱曲線は、LNPが、pSar鎖長またはモル比が増加すると共に減少する低い内部組織化を特徴とすることを示す。2つのピークの存在は、個々の脂質二重層の形成因子が実質的に寄与していることを示す。
【0275】
図13は、Quant-It Ribogreenアッセイによって評価したRNAアクセス可能性を示す。PSarc-LNPは、ポリサルコシン鎖長およびモル比に関係なく、高いRNAアクセス可能性を示す。
【0276】
図14は、PSarcまたはPEG結合脂質のいずれかを使用して製剤化したLNPに負荷した、EPO(エリスロポエチン)をコードするmRNAの様々な用量の静脈内投与の結果である。血漿を3、6、24および48時間後に採取し、EPOタンパク質をELISAによって定量化した。結果は、ポリサルコシンが、有効性を損なうことなく、PEG結合脂質のような他のステルス部分を直接置換できることを示す。PSarcは持続的なタンパク質分泌を促進することさえでき、これはタンパク質補充療法にとって有利であろう。
【0277】
図15は、肝毒性の初期マーカとしての肝酵素の放出を示す。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびLDHなどの肝酵素を、PSarc鎖長を増加させて製剤化したLNPの注射後6時間および24時間目の血清で測定した。データは、PSarcの鎖長の増加が肝酵素の放出を引き起こさなかったことを示し(水平な線は健康なマウスで得られた値の範囲を示す)、このバイオベースのポリマーが安全に使用できることを示す。
【0278】
図16は、理論上のヒト血漿濃度でのPEG化およびポリサルコシル化LNPのC3a複合体を介した補体の活性化を示す。脂質製剤および対照(陽性および陰性)を、ヒト血清と20:80の比率(試料:血清)で37℃にて1時間インキュベートした。
【0279】
データは、高用量、すなわち提案されたヒト用量の5倍のPEG-LNPと比較した場合、PSarc-LNPでのC3a複合体のレベルの低下を示す。低用量では、PBS(製剤化緩衝液)と比較してC3a複合体の形成は引き起こされなかった。これらの結果は、PSarcがPEG結合脂質よりも免疫原性が低い可能性があることを示唆する。
【0280】
図17は、DODMA:コレステロール:DSPC:PSarc 23を40:45:10:5のそれぞれのモル%で使用して製剤化したLNPのクライオ-TEM画像を示す。ポリサルコシニル化LNPの形態は、mRNAが密接に並置された二重層間の界面に存在し得る小さな多層小胞からなる。スケールバー=200nm。
【0281】
要約すると、結果は、pSarcが、効率的なRNA送達のために、方法とは無関係に小さなRNAナノ粒子を製剤化するための多用途のプラットフォームであることをもう一度示す。
【国際調査報告】