(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】試料をチャンバに挿入するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20220105BHJP
F25B 9/00 20060101ALI20220105BHJP
G01N 1/42 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G01N1/00 101
F25B9/00 Z
G01N1/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518534
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(85)【翻訳文提出日】2021-05-19
(86)【国際出願番号】 EP2019076594
(87)【国際公開番号】W WO2020070128
(87)【国際公開日】2020-04-09
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519411560
【氏名又は名称】キウトラ、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング
【氏名又は名称原語表記】kiutra GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ペーター、スパレック
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー、レグナート
(72)【発明者】
【氏名】クラウス、ベルンハルト、アイベンシュタイナー
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AC12
2G052DA13
2G052DA22
2G052EB13
(57)【要約】
試料挿入システムは、チャネルと、封止要素と、真空デバイスとを備える。チャネルは、チャンバに接続可能なポートを有する。真空デバイスは、チャネル内の圧力を下げることができる。封止要素は、チャネル内に配置され、ある体積をチャネルから遮断する。封止要素は、試料を運ぶ運搬部材を含む。封止要素は、封止要素によって遮断された体積内の圧力よりチャネル内の圧力が低くなったことに応じて、運搬部材をポートに向かって動かすように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ(40)に接続可能なポート(14)を有するチャネル(12)と、
前記チャネル(12)内に配置され、ある体積(V)を前記チャネル(12)から遮断する封止要素(16)と、
前記チャネル(12)内の圧力を下げる真空デバイス(18)と、
を備え、
前記封止要素(16)が、試料(S)を運ぶ運搬部材(22)を含み、
前記封止要素(16)が、前記封止要素(16)によって遮断された前記体積(V)内の圧力より前記チャネル(12)内の前記圧力が低くなったことに応じて、前記運搬部材(22)を前記ポート(14)に向かって動かすように構成される、
試料挿入システム(10)。
【請求項2】
前記封止要素(16)が、前記封止要素(16)によって遮断された前記体積(V)内の前記圧力より前記チャネル(12)内の前記圧力が低くなったことに応じて、前記ポート(14)に向かって移動可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記封止要素(16)が、前記封止要素(16)によって遮断された前記体積(V)内の前記圧力より前記チャネル(12)内の前記圧力が低くなったことに応じて、前記ポート(14)に向かって延伸可能である、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記封止要素(16)が、前記体積(V)を気密に遮断するように構成される、請求項1から3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記封止要素(16)が、前記運搬部材(22)に接続されたスリーブ部材(24)をさらに含み、
前記運搬部材(22)および前記スリーブ部材(24)が、組み合わせた形で、前記封止要素(16)によって遮断された前記体積(V)を気密に封止する、
請求項1から4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記チャネル(12)が、前記ポート(14)を横切る軸に沿った細長い形状を有し、
前記スリーブ部材(24)が、前記軸に沿って延伸可能かつ後退可能であり、
前記運搬部材(22)が、前記軸に沿って移動可能である、
請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記封止要素(16)によって遮断された前記体積(V)と前記チャネル(12)との間の圧力差によって引き起こされた力と反対の方向に、前記封止要素(16)を後退させるように構成された後退デバイス(26)をさらに備え、
前記封止要素(16)が、前記後退デバイス(26)に結合される、
請求項1から6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
前記チャネル(12)を気密に囲み、前記チャネル(12)へのアクセスポート(52)を含むハウジング(32)をさらに備える、請求項1から7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
内部の温度および/または圧力が制御されるチャンバ(40)と、
前記チャンバ(40)に接続されるチャネル(12)と、
前記チャネル(12)内に配置され、ある体積(V)を前記チャネル(12)から遮断する封止要素(16)と、
前記チャネル(12)内の圧力を下げる真空デバイス(18)と、
を備え、
前記封止要素(16)が、試料(S)を運ぶ運搬部材(22)を含み、
前記封止要素(16)が、前記封止要素(16)によって遮断された前記体積(V)内の圧力より前記チャネル(12)内の前記圧力が低くなったことに応じて、前記運搬部材(22)を前記チャンバ(40)に向かって、および/または前記チャンバ(40)内へ動かすように構成される、
システム(30)。
【請求項10】
前記チャンバ(40)が、300K未満、または100K未満、または5K未満の温度を提供するクライオスタットである、請求項1から9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
試料(S)をチャンバ(40)に挿入する方法(70)であって、
チャネル(12)をチャンバ(40)に接続すること(72)と、
封止要素(16)を用いて、ある体積(V)を前記チャネル(12)から遮断すること(74)と、
試料(S)を前記封止要素(16)に結合すること(76)と、
前記チャネル(12)内の圧力を下げること(78)と、
を含み、
前記封止要素(16)が、前記封止要素(16)によって遮断された前記体積(V)内の圧力より前記チャネル(12)内の前記圧力が低くなったことに応じて、前記試料(S)を前記チャンバ(40)に向かって動かすように構成される、
方法(70)。
【請求項12】
前記封止要素(16)によって遮断された前記体積(V)と前記チャネル(12)との間の圧力差によって引き起こされた力(F)と反対側に、前記封止要素(16)を機械的に後退させること(R)をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記封止要素(16)を機械的に後退させるために及ぼされる力(F)を高めることによって、前記試料(S)を前記チャンバ(40)から離れるように、および/または前記チャンバ(40)の外へ動かすことをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記封止要素(16)が延伸可能であり、前記封止要素(16)によって遮断された前記体積(V)が、前記チャネル(12)内の前記圧力の低下に応じて拡張する、請求項11から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記チャネル(12)内の前記圧力を前記チャンバ(40)内の圧力に調整することをさらに含む、請求項11から14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、材料加工などのために、例えば実験室での使用のための閉鎖容器への物体の装填、およびそうした閉鎖容器からの物体の取り出しに関する。
【背景技術】
【0002】
本開示は、試料をチャンバに対して動かすためのシステムおよび方法に関する。
【0003】
閉鎖容器またはチャンバは、調査、処理、またはその他の方法で加工される物体に対して特定の環境を提供および維持するために用いられることがある。例えば、正確に決められ制御された環境において、いくつかの材料特性を調査することに役立つことがある。いくつかの例において、物体は、100K未満の比較的低い温度に曝されることがある。閉鎖容器またはチャンバは、環境チャンバ、または特定の条件下ではクライオスタットと呼ばれることがある。
【0004】
外乱を防止するために、チャンバの内部を外部から熱絶縁することが役立つことがある。このために、チャンバの内部と外部との間で気体および/または液体の物質の交換を抑えることが役立つことがある。特に、試料をチャンバに挿入するとき、または試料をチャンバから取り出すときのアクセス時間を短縮することが役立つことがある。さらに、チャンバの外部に由来する物体とチャンバの内部に由来する物体との接触を回避および低減することが役立つことがある。
【0005】
さらに、試料のチャンバへの挿入およびチャンバからの取り出しのためにシステムによって占められる空間を減じることが役立つことがある。寒剤の使用が必要ではない場合には、そうしたシステムに対する費用および時間がさらに節約されることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした背景に対して、本明細書において開示される主題は、試料をチャンバに挿入するためのシステムおよび方法を改善する。当技術分野において知られている問題は、請求項1の主題によって解決され得る。特定の実施形態または例は、従属請求項によって示される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書では、試料挿入システムが開示される。このシステムは、チャネルと、封止要素と、真空デバイスとを備える。チャネルは、チャンバに接続可能なポートを有する。真空デバイスは、チャネル内の圧力を下げることができる。封止要素は、チャネル内に配置され、ある体積をチャネルから遮断する。封止要素は、試料を運ぶ運搬部材を含む。封止要素は、封止要素によって遮断された体積内の圧力よりチャネル内の圧力が低くなったことに応じて、運搬部材をポートに向かって動かすように構成される。
【0008】
試料挿入システムによれば、チャネルの内部の圧力は、真空デバイスを動作させることによって下げられてもよい。封止要素によって遮断された体積の内部の圧力は、真空デバイスの動作による影響を受けない状態、または影響がより少ない状態を維持することができる。真空デバイスがチャネルの内部の圧力を下げるように動作すると、封止要素によって遮断された体積とチャネルの残部との間に、圧力差または圧力勾配が生成され、その結果、封止要素によって遮断された体積からチャネルの残部に向かって方向付けられた力をもたらすことができる。結果として、封止要素によって遮断された体積は、特にチャネルに沿ってポートに向かって、拡張することができる。それに応じて、封止要素の運搬部材に取り付けられた試料は、圧力に依存する形でポートに向かって動かされてもよい。
【0009】
本明細書に記載される試料挿入システムは、試料がチャネルのポートに向かって迅速に動かされること、例えばチャンバに挿入されることを可能にすることができる。外部からチャンバの内部に至る剛性の物理構造を有するシステムに比べて、本明細書に記載される試料挿入システムは、空間の要件を減じるのに寄与することができる。さらに、真空デバイスを用いてチャネル内の圧力が減じられてもよいため、冷却剤、寒剤、またはチャネルの温度を調節する任意の他の物質を用いることなく、試料がチャンバに挿入されてもよい。
【0010】
チャネルは、試料を内部で移送するための管路として提供されてもよい。チャネルは、気密に封止可能とすることができる。チャネルは、エアロックを含んでも、またはエアロックの一部であってもよい。チャネルは、円形断面もしくは多角形断面、またはそれらの組合せを備えた細長い形状を有することができる。チャネルは、ポートから直線的に延在することができる。チャネルの断面積は、一定であっても、またはポートへ向かって少なくとも部分的に増大もしくは減少していてもよい。いくつかの例において、チャネルは、曲げ部または湾曲部を有することができる。チャネルの内部体積を外部から熱絶縁するために、チャネルは、外部に対して、コーティング、被覆、または他の方法による処理が施されてもよい。チャネルの内部での封止要素の機械的な動きを容易にするために、チャネルは、内部に対して、コーティング、被覆、または他の方法による処理が施されてもよい。例えば、試料を封止要素に取り付けるため、または試料を封止要素から取り外すためなど、チャネルの内部体積へのアクセスを可能にするために、チャネルは、チャンバに接続されるポートとは別のアクセスポートを含むことができる。
【0011】
チャンバとは、温度および/または圧力に関し、制御された環境を提供する閉鎖容器を指すことがある。さらに、チャンバの内部の内容物の組成は、制御可能であってもよい。いくつかの例において、チャンバとは、10-4N/m2未満の真空圧において150K未満の温度を維持するためのクライオスタットを指す。
【0012】
チャネルは、ポートを介してチャンバに動作可能に接続できてもよい。ポートは、チャンバの開口部に対応する形状および/または大きさをもつ断面を有することができる。チャネルは、チャンバに固定される機構をさらに含むことができる。ポートは、チャネルが気密かつ耐圧にチャンバに接続されるのを可能にすることができる。このために、チャネルは、例えば合成のゴムまたはシリコーン材料で作られたOリングなど、追加の封止構造体を含むことができる。
【0013】
真空デバイスは、チャネルから流体を取り出す、または抜き取ることによって、チャネルの内部の圧力を減じるように動作可能とすることができる。本開示において、流体は、気体、液体、またはそれらの混合物を指すことがある。このために、真空デバイスは、チャンバに流体接続されているか、または流体接続可能とすることができる。真空デバイスは、真空ポンプ、または圧力を減じるための任意の他のデバイスを含むことができる。
【0014】
遮断するという表現は、特にチャネルの一部の体積をチャネルの残部から気密に分離することを指すことがある。遮断された体積の内部の圧力を真空デバイスの動作とは無関係に維持するために、封止要素は、気体を通さないものとすることができる。いくつかの例において、封止要素は、チャネルの内面に対して封止を行うために、例えばOリングなどの封止構造体を含む。
【0015】
運搬部材は、封止要素によって遮断された体積の内部の圧力を維持するために、気体を通さないものとすることができる。運搬部材は、剛性材料で作られても、または剛性部分を含んでもよい。運搬部材は、試料が取り付けられる部分を含むことができる。運搬部材は全体的に、平坦な形状、曲げられた部分、および/または湾曲部を有することができる。運搬部材は、チャネルの断面と一致する形状を備えた断面を有することができる。運搬部材は、例えば、鋼、鋼合金、チタン、アルミニウムなどの金属、炭素繊維強化ポリマー、PEEKなどの高性能プラスチックで作られてもよい。
【0016】
一例によれば、封止要素は、封止要素によって遮断された体積内の圧力よりチャネル内の圧力が低くなったことに応じて、ポートに向かって移動可能である。この例において、封止要素は、チャネルの一部を、真空デバイスに接続されたチャネルの残部から気密に分離することができる。さらに、チャネルおよび封止要素は、真空デバイスがチャネルの内部の圧力を下げると、チャネルの残部から分離された部分が拡張することができ、例えば封止要素をポートに向かって動かすように配置されてもよい。それに応じて、チャネルの残部から分離されたチャネルの部分は、封止要素によって遮断された体積に対応してもよい。
【0017】
一例によれば、封止要素は、封止要素によって遮断された体積内の圧力よりチャネル内の圧力が低くなったことに応じて、ポートに向かって延伸可能である。この例において、封止要素は、チャネルの一部を気密に囲み、それによって、この部分をチャネルの残部から遮断することができる。チャネルおよび封止要素は、チャネルの内部の圧力が低下すると、封止要素によって遮断された体積が拡張することができ、例えば、それに応じて封止要素を延伸させ、それによって運搬部材をポートに向かって動かすように配置されてもよい。それに応じて、チャネルの封止部材によって囲まれた部分は、封止要素によって遮断された体積に対応してもよい。
【0018】
一例によれば、封止要素は、体積を気密に遮断するように構成される。特に、運搬部材は、気体を通さない材料で作られても、またはそうした材料でコーティングされてもよい。封止要素による気密封止は、封止要素によって遮断された体積とチャネルとの間の圧力差が維持されるのを可能にすることができる。
【0019】
一例によれば、封止要素は、運搬部材に接続されたスリーブ部材をさらに含む。運搬部材およびスリーブ部材は、組み合わせた形で、封止要素によって遮断された体積を気密に封止することができる。運搬部材および/またはスリーブ部材は、チャネルの内部に応じて、形状および/または大きさが決められてもよい。例えば、チャネルは、円筒形の内部形状を有することができる。運搬部材は、チャネルの円筒軸に垂直に、またはチャネルのポートに平行に配置された、気体を通さない板状の構造体として提供されてもよい。スリーブ部材は、チャネルの円筒軸に沿って配置された延伸可能な構造体として提供されてもよい。運搬部材およびスリーブ部材は、互いに気密に接続されてもよい。封止要素は、チャネルの内部に対する気密封止をさらに支援するために、Oリングなどの追加の構造体をさらに含むことができる。
【0020】
一例によれば、チャネルは、ポートを横切る軸に沿った細長い形状を有する。スリーブ部材は、その軸に沿って延伸可能かつ後退可能とすることができ、運搬部材は、その軸に沿って移動可能とすることができる。スリーブ部材は、封止要素によって遮断された体積がチャネル内の圧力の低下に応じて延伸できるように、ゲートル、ベローズ、ブーツ、可撓管、入れ子管、またはそれらの組合せのうちの少なくとも1つとして提供されてもよい。スリーブ部材は、チャネルのポートの反対側にあるチャネルの端部に固定されてもよい。チャネルが円筒形を有する例では、スリーブ部材は、円筒軸に沿って延伸可能かつ後退可能とすることができる。運搬部材は、封止要素のチャネルのポートに面する端面に提供されてもよい。運搬部材は、スリーブ部材がチャネルの円筒軸に沿って延伸および後退するのに応じて動くように、スリーブ部材に物理的に結合されてもよい。
【0021】
一例によれば、試料挿入システムは、封止要素によって遮断された体積とチャネルとの間の圧力差によって引き起こされた力と反対の方向に、封止要素を後退させるように構成された後退デバイスをさらに備える。封止要素は、後退デバイスに結合されてもよい。それに応じて、後退デバイスは、封止要素を制御された形で移動または停止させるために使用されてもよい。特に、後退デバイスは、封止要素が制御できずにポートに向かって加速され、望ましくない高速に達するのを防止するように動作されてもよい。
【0022】
封止要素によって遮断された体積内の圧力が大気のレベル、例えば約105N/m2を維持している間に、チャネルの内部の圧力は、例えば、10-7~10-10N/m2のきわめて高い真空レベルまで減じられてもよい。結果として生じる、封止要素によって遮断された体積とチャネルとの間の圧力差が、封止要素を加速し、チャネルのポートへ向かうきわめて高い速度に達することがある。後退デバイスは、ポートヘ向かう方向と反対の方向に一定の力を及ぼし、封止要素が過度に急速に延伸しないようにすることができる。
【0023】
それに応じて、後退デバイスは、封止要素によって遮断された体積とチャネルとの間の圧力差によって引き起こされる力を少なくとも部分的に補正するように、封止要素に対して後退力を発生させ、加えるように動作可能とすることができる。後退デバイスは、チャネルのそのポートから遠い端部に近接する位置に配置されてもよい。例えば、後退デバイスはウインチを含み、一端が封止要素に、他端がウインチに接続されたケーブル、ロープ、コード、ひもなどを引くことができる。後退デバイスは、ウインチを駆動する電気モータ、または任意の他のアクチュエータをさらに含むことができる。
【0024】
一例によれば、試料挿入システムは、チャネルを気密に囲むハウジングをさらに備える。ハウジングは、チャネルへのアクセスポートを含むことができる。特に、ハウジングは、試料挿入システムを1つのユニットとしてチャンバに設置可能にすることができる。いくつかの例において、ハウジングは、試料挿入システムを持ち運び可能にすることができる。ハウジングは、これまでに記載された後退デバイス、ならびに試料挿入システムの任意のさらなる構造的および/または機能的な特徴をさらに囲むことができる。
【0025】
例えば、試料をチャネルの内部に置くために、または試料をチャネルから取り出すために、ハウジングのアクセスポートは、チャネルの内部へのアクセスを可能にすることができる。このために、チャネルは、これまでに言及されたように、アクセスポートを含むことができる。ハウジングのアクセスポートおよび/またはチャネルのアクセスポートは、外部からの気密封止を可能にすることができる。
【0026】
本開示の別の態様によれば、システムは、チャンバと、チャネルと、封止要素と、真空デバイスとを備える。チャンバは、温度および/または圧力が制御された環境を提供する。チャネルは、チャンバに接続される。真空デバイスは、チャネル内の圧力を下げることができる。封止要素は、チャネル内に配置され、ある体積をチャネルから遮断する。封止要素は、試料を運ぶ運搬部材を含む。封止要素は、封止要素によって遮断された体積内の圧力よりチャネル内の圧力が低くなったことに応じて、運搬部材をチャンバに向かって、および/またはチャンバ内へ動かすように構成される。
【0027】
それに応じて、これまでに記載されたように試料挿入システムまたはその任意の実施形態がチャンバに接続された、システムが開示される。封止要素は、運搬部材を、したがって、運搬部材に取り付けられている場合には試料を、チャネルのポートを越えてチャンバに挿入するように動かすことができる。特に指示されない限り、システムの特徴は、これまでに記載された試料挿入システムの特徴に対応することができる。
【0028】
一例によれば、チャンバは、300K未満、または100K未満、または5K未満、または1K未満の温度を提供するクライオスタットであってもよい。さらに、チャンバは、温度、圧力または組成が制御された環境を提供および維持する任意の他の環境チャンバであってもよい。一例によれば、チャンバは、炉、インキュベータ、クリーンルーム、デシケータ、オートクレーブなどの材料処理チャンバであってもよい。
【0029】
本開示のさらなる態様によれば、試料をチャンバに挿入する方法が提供される。この方法は、チャネルをチャンバに接続すること、封止要素を用いて、ある体積をチャネルから遮断すること、試料を封止要素に結合すること、およびチャネル内の圧力を下げることという方法ステップを含む。封止要素は、封止要素によって遮断された体積内の圧力よりチャネル内の圧力が低くなったことに応じて、試料をチャンバに向かって動かすように構成されてもよい。
【0030】
これまでに示された方法ステップは、例示的な順序になっており、異なる順序に並べ変えられてもよい。例えば、チャネルをチャンバに接続する方法ステップは、試料が封止要素に結合された後に実施されてもよい。ある体積のチャネルからの遮断は、チャネルがチャンバに接続された後に実施されてもよい。
【0031】
特に、本明細書に開示される方法は、これまでに記載された試料挿入システム、システム、またはその任意の実施形態の少なくとも一部を使用して、または動作させて適用されてもよい。方法の特徴は、これまでに記載された試料挿入システムまたはシステムの構造的および/または機能的な特徴に対応することができる。例えば、チャネルの内部の圧力は、これまでに記載された真空デバイスを用いて下げられてもよい。
【0032】
本開示によれば、封止要素によって遮断された体積の内部の圧力は、チャネルの内部の圧力の低下による影響を受けない状態、または影響がより少ない状態を維持することができる。結果として、封止要素によって遮断された体積とチャネルの残部との間に、圧力差が生成される。圧力差により、封止要素によって遮断された体積が、チャネルに向かって、特にそのポートに向かって拡張する。それに応じて、封止要素に試料が取り付けられている場合には、試料が、圧力に依存する形でチャネルのポートに向かって動かされてもよい。
【0033】
一例によれば、方法は、封止要素によって遮断された体積とチャネルとの間の圧力差によって引き起こされた力と反対側に、封止要素を機械的に後退させる方法ステップをさらに含む。例えば、封止要素の後退は、これまでに記載された後退デバイスを用いて実施されてもよい。
【0034】
一例によれば、方法は、封止要素を機械的に後退させるために及ぼされる力を高めることによって、試料をチャンバから離れるように、および/またはチャンバの外へ動かすことをさらに含む。この例によれば、これまでに記載された試料挿入システムまたはシステムは、試料をチャンバの内部から取り出すように動作されてもよい。
【0035】
方法の一例によれば、封止要素は延伸可能であり、封止要素によって遮断された体積は、チャネル内の圧力の低下に応じて拡張する。封止要素は、これまでに記載された封止要素またはその例の任意のものに対応することができる。
【0036】
一例によれば、方法は、チャネル内の圧力をチャンバ内の圧力に調整することをさらに含む。例えば、チャンバ内の圧力は、10-7~10-10N/m2のきわめて高い真空レベルに調整されてもよい。チャネルの内部の圧力は、チャネルとチャンバとの間の大きい圧力勾配を防止するために、少なくともほぼこのレベルまで下げられてもよい。
【0037】
以下では、図面を参照しながら、本開示の例が詳細に論じられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】一例に係る試料挿入システムの断面図の概略図である。
【
図2A】一例に係る試料挿入システムの断面図の概略図である。
【
図2B】一例に係る試料挿入システムの断面図の概略図である。
【
図3A】一例に係るシステムの断面図の概略図である。
【
図3B】一例に係るシステムの断面図の概略図である。
【
図4A】一例に係る試料挿入システムの斜視図の概略図である。
【
図4B】一例に係る試料挿入システムの斜視図の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、一例(示されていない)による試料挿入システム10の概略的な断面図を示している。試料挿入システム10は、チャンバに接続可能なポート14を有するチャネル12を備える。試料挿入システム10は、封止要素16および真空デバイス18をさらに備える。
【0040】
チャネル12は、円形または多角形の断面を備えた細長い形状を有することができる。チャネルは、円筒軸に沿った回転対称性を有することができる。
図1には、直線的な形状を有するチャネル12が図示されているが、チャネル12は、曲げ部、湾曲部、連結部、またはそれらの組合せをさらに含んでもよい。また、チャネル12の断面は、閉じた前面(
図1ではチャネル12の上側境界)からポート14に向かって一定であっても、変化していてもよい。例えば、チャネル12は、ポート14に向かって次第に細くなっていても、または大きくなっていてもよい。いくつかの例において、チャネル12は、形状および/または大きさに関して、異なる断面を持つ複数の部分を有していてもよい。
【0041】
チャネル12のポート14は、閉鎖容器に接続される開口とすることができる。これまでに論じられたように、閉鎖容器は、クライオスタットなどのチャンバとすること、またはそうしたチャンバを含むことができる。ポート14は、円形断面、多角形断面、またはそれらの組合せを有することができる。ポート14は、閉鎖容器に固定される構造的および/または機能的な特徴を含むことができる。例えば、ポート14は、閉鎖容器にねじ留めされる固定孔を有するフランジを含むことができる。これに加えて、または代替的に、ポート14は、例えば、差込み接続部、ねじ部、摩擦ロックなど、閉鎖容器に固定される異なる機構を含むことができる。ポート14は、閉鎖容器に気密に接続される封止手段をさらに備えることができる。
【0042】
封止要素16は、チャネル12の中に配置される。封止要素16は、チャネル12の中に移動可能に配設さてれもよい。例えば、封止要素16は、図面の矢印Mによって示されるように、チャネル12の円筒軸に沿って移動可能とすることができる。封止要素16は、ある体積Vをチャネル12から遮断するように構成される。封止要素16によってチャネル12から遮断された体積Vとは、チャネルと遮断された体積Vとの間の気体交換および/または圧力補正が抑制または排除されるように、チャネル12の残部から気密に分離されたチャネル12の体積Vを表すことがある。封止要素16は、チャネル12の体積Vを気密に分離し、それによって体積Vをチャネル12から遮断するように、気体を通さないものとすることができる。このために、封止要素16は、体積Vを少なくとも部分的に囲むことができる。代替的に、またはこれに加えて、封止要素16は、チャネル12の体積Vを分離するために、チャネル12の内側に対して封止することができる。
【0043】
封止要素16がチャネル12の内部で動くと、遮断された体積Vもチャネル12の残りの部分Cも変化することが理解される。一例として、封止要素16がポート14に向かって動くにつれて、遮断された体積Vは増大し、チャネル12の残りの部分Cは減少する。同様に、封止要素16がポート14から離れるにつれて、遮断された体積Vは減少し、チャネル12の残りの部分Cは増大する。
【0044】
封止要素16は、試料を運ぶ運搬部材(
図1には示されていない)を含むことができる。運搬部材は、封止要素16の剛性部分または構造的特徴とすることができ、それに対して試料の取り付けおよび/または固定が行われてもよい。運搬部材は、試料を動かないようにする固定機構を備えることができる。ここで使用される試料とは、調査される物体、および/またはそれが入っている容器を指すことがある。
【0045】
真空デバイス18は、チャネル12、特に、封止要素16によって遮断されていないチャネル12の残りの部分Cの圧力を下げることができる。真空デバイス18は、流体、特に気体分子をチャネル12から取り入れる真空ポンプを含むことができる。真空デバイス18は、チャネル12の内部の圧力を、10-1~10-7N/m2の高い真空レベル、または10-7~10-10N/m2のきわめて高い真空レベル、またはさらに高い真空レベルまで下げることが可能であってもよい。
【0046】
封止要素16は、封止要素16によって遮断された体積V内の圧力よりチャネル12内の圧力が低くなったことに応じて、ポート14に向かって移動可能とすることができる。例えば、封止要素16は、体積Vとチャネル12の残りの部分Cとの間の圧力差を維持するように、体積Vをチャネル12から気密に遮断するように構成されてもよい。いくつかの例において、真空デバイス18がチャネル12の残りの部分Cの内部の圧力を下げる間、体積Vの内部の圧力は約105N/m2の大気レベルを維持する。体積Vの内部の圧力よりチャネル12の残りの部分Cの内部の圧力が低くなると、封止要素はポート14に向かって移動および/または延伸することができる。遮断された体積Vとチャネル12の残りの部分Cとの間の圧力差が、ポートへ向かって封止要素16に及ぼされる力Fをもたらす。封止要素16は、前記圧力差および結果として生じる力Fに応じて遮断された体積Vを増大させるように構成され、例えば、チャネル12に対して成形および配置が行われる。封止要素16の運搬部材は、封止要素16がポート14へ向かって移動および/または延伸するのに応じてポート14に向かって動くようにするなどの配置が行われてもよい。
【0047】
図2Aおよび2Bは、試料挿入システム20の別の例の概略的な断面図を示している。特に指示されない限り、試料挿入システム20の構造的および機能的な特徴は、
図1を参照してこれまでに記載された試料挿入システム10の構造的および機能的な特徴に対応する、または同様である、または同一である。試料挿入システム10の特徴に対応する試料挿入システム20の特徴は、同じ符号を用いて示されている。
【0048】
試料挿入システム20の封止要素16は、試料を運ぶ運搬部材22を含む。運搬部材22は、封止要素16の剛性部分または構造的特徴とすることができ、それに対して試料の取り付けおよび/または固定が行われてもよい。例えば、運搬部材22は、形状および/または大きさに関してチャネル12の断面に対応する断面を有する、気体を通さない金属板である。運搬部材22は、鋼、合金、チタン、アルミニウムなどで製造されてもよい。さらに、運搬部材22は、試料を動かないようにする固定機構(示されていない)を備えることができる。例えば、運搬部材22は、試料と係合するために、ねじ部、差込み接続部、溝付き部もしくは相補的な突出部、またはラッチ、あるいはそれらの組合せを有することができる。
【0049】
試料挿入システム20の封止要素16は、スリーブ部材24をさらに含む。スリーブ部材24は、チャネル12のポート14と反対側の端部に設置される。スリーブ部材24は、チャネル12のポート14に向かって延びる可撓部を含むことができる。代替的に、またはこれに加えて、スリーブ部材24は、延伸可能かつ後退可能な部分を含むことができる。例えば、スリーブ部材24は、伸縮自在、折り畳み可能、または巻き上げられること、もしくは巻き出されることが可能な部分を含む。いくつかの例において、スリーブ部材24は、ゲートル、ベローズ、ブーツ、可撓管、入れ子管、またはそれらの組合せとすることができる。スリーブ部材24がベローズとして図示されている
図2Aおよび2Bはそれぞれ、後退された状態および延伸された状態のスリーブ部材24を示している。スリーブ部材24は、ポート14を越えて延伸するように、すなわち、ポート14を通過してチャネル12の外部まで達するように構成されてもよい。
【0050】
封止要素16は、運搬部材22およびスリーブ部材24によって体積Vを囲む。封止要素16、したがって、スリーブ部材24は、チャネル12の外部に開放されていても、または開放可能であってもよく、その結果、遮断された体積Vの内部の圧力は、例えば約105N/m2など、周囲圧力のままである。
【0051】
それに応じて、スリーブ部材24は、チャネル12の残りの部分C内の圧力が低下すると延伸するように構成される。チャネル12が円筒形を有すると仮定すると、スリーブ部材24は、チャネル12の円筒軸に沿って延伸および後退するように配置される。運搬部材22およびスリーブ部材24は、気密に互いに物理的に連結される。それに応じて、運搬部材22は、スリーブ部材24がチャネル12の残りの部分Cの圧力の低下に応じて延伸することによって、ポート14に向かって動かされる。結果として、スリーブ要素22の側面が延伸し、封止要素16によってチャネル12から遮断された体積Vを増大させる。
【0052】
試料挿入システム20は、後退デバイス26をさらに備える。後退デバイス26は、封止要素16に結合される。いくつかの例において、後退デバイス26は、後退デバイス26と運搬部材22の両方に固定された接続手段27を介して、運搬部材22に物理的に接続される。例えば、接続手段は、封止要素16と後退デバイス26とを接続するロープ、ワイヤ、コード、チェーン、ケーブルなどを含む。後退デバイス26は、接続手段27の張力を付与、調整、および/または維持するように構成されてもよい。例えば、後退デバイス26は、接続手段27を外に出し、引っ込めるように構成される。いくつかの例において、後退デバイス26は、電気モータ28によって駆動され、接続手段27の巻き上げおよび巻き出しを行うウインチである。
【0053】
後退デバイス26は、体積CとVとの間の圧力差によって引き起こされる力Fと反対の成分を有する後退力Rを及ぼすことができる。それに応じて、後退デバイス26は、運搬部材22の、ポート14に向かう、および/またはポート14より先の同じ軸方向における速度を制御可能にすることができる。さらに、後退デバイス26は、運搬部材22を後退デバイス26の方へ引き戻すために用いられてもよい。
【0054】
図3Aおよび3Bは、
図2Aおよび2Bを参照してこれまでに記載された試料挿入システム20を備えるシステム30の一例の概略的な断面図を示している。システム30は、試料挿入システム20が接続されるチャンバ40をさらに備える。特に、チャネル12のポート14は、チャンバ40の開口部に連通接続するように配置される。ポート14は、チャンバ40との気密かつ/または真空気密な結合を提供するように、これまでに記載されたような接続手段を含むことができる。
【0055】
図3Aおよび3Bに示されている試料挿入システム20は、チャネル12を気密に囲むハウジング32をさらに備える。いくつかの例において、試料挿入システム20は、ハウジング32によって囲まれた実体として提供されてもよい。
図3には明示的に示されていないが、例えば、試料Sの挿入および取り出しのために、ハウジング32は、チャネル12の内部へのアクセスを可能にするアクセスポートを含むことができる。この例において、ハウジング32のアクセスポートは、ハウジング32の内部を外部から気密かつ/または真空気密に封止する。
【0056】
チャンバ40の内部空間42は、壁44によって囲まれている。壁44は、チャンバ40の内部空間42を、気密に、真空気密に、熱を通さないように、放射を通さないように、かつ/または電気絶縁するように、外部から封止することができる。チャンバ40は、温度および/または圧力に関し、制御された環境を提供および維持するように動作されてもよい。さらに、チャンバ40の内部の流体の組成は、制御可能とすることができる。
【0057】
いくつかの例において、チャンバ40は、10-4N/m2未満の真空圧において150K未満の温度を維持するためのクライオスタットを指す。特定の例において、チャンバ40は、300K未満、または100K未満、または5K未満の温度を提供するクライオスタットとすることができる。さらなる例において、チャンバ40は、炉、インキュベータ、クリーンルームなどの材料処理チャンバとすることができる。チャンバ40は、試料Sが載せられるプラットフォーム46をさらに含むことができる。チャンバ40の内部空間42内の圧力は、10-4~10-10N/m2の真空レベルにすることができる。
【0058】
試料Sをチャンバ40に挿入するために、試料Sは、例えばハウジング32のアクセスポート(示されていない)を介して、運搬部材22に結合される。チャネル12内の圧力は、真空デバイス18を用いて、例えばチャンバ40の内部空間42の内部と同じレベルまで下げられる。結果として、封止要素16によって遮断された体積Vは、ポート14に向かい、さらにポート14を越え、チャンバ40の内部空間42にまで拡張する。
【0059】
図3Aは、封止要素16がチャネル12の内部でポート14に向かって延伸している、システム30の状態を示している。
図3Bは、試料Sがプラットフォーム46と接触するように封止要素16が延伸した、システム30の別の状態を示している。システム30の後者の状態において、試料Sは、運搬部材24から取り外されると同時にプラットフォーム46に固定されるように動かされるか、またはその他の方法で動作されてもよい。
【0060】
いくつかの例において、後退デバイス26は、チャネル12の内部の圧力が所望されるレベルに下げられるまで、封止要素16を後退された状態で停止させ、封止要素16を延伸させないために用いられてもよい。次いで、後退デバイス26は、後退力Rを低減することによって、封止要素16の延伸を可能にすることができる。封止要素16を過度に急速に延伸させないために、低減されたレベルの後退力Rが維持されてもよい。後退デバイス26の動作は、ちょうど試料Sがプラットフォーム46に達するときに封止要素16の延伸を停止させるなど、タイミングを合わされてもよい。
【0061】
それに応じて、封止要素16、より具体的には運搬部材22が、チャンバ40の内部空間42に入る。結果として、運搬部材22に取り付けられた試料Sがチャンバ40に挿入される。封止部材16は、運搬部材22または試料Sがプラットフォーム46に達するまで、チャンバ40の内部空間42の中へ向かい、さらにその内部で延伸することができる。試料Sは、封止要素16を機械的に操作する必要なくプラットフォーム46に固定される構造を備えることができる。
【0062】
図4Aおよび4Bは、試料挿入システム50の一例の概略的な斜視図を示している。試料挿入システム50の構造的および機能的な特徴は、
図1~3Bを参照してこれまでに記載された試料挿入システム10または20の構造的および機能的な特徴に対応してもよく、または同様もしくは同一である。試料挿入システム10または20の特徴に対応する試料挿入システム50の特徴は、同じ符号を用いて示されている。
図4Aは、ハウジング32から取り外されている試料挿入システム50のいくつかの部品を図示している。
図4Bは、組み立てられた状態、すなわち、封止要素16がチャンバ12に完全に挿入されている状態の試料挿入システム50を図示している。
【0063】
試料挿入デバイス50のハウジング32は、組立および設置のための構造的特徴を備えたブロック形状を有している。ハウジング32は、チャネル12へのアクセスを可能にするアクセスポート52を含む。アクセスポート52は、扉54によって閉鎖可能とすることができ、扉54は、アクセスポート52を気密に封止するように構成される。
【0064】
ハウジング32は、封止要素16を挿入するために、ハウジング32の上面58に形成された開口部である上部ポート56をさらに含み、封止要素16は、これまでに記載された運搬部材22およびスリーブ部材24を含む。封止要素16は、挿入されるときに上面58に対して拘束するためのフランジ60をさらに含むことができる。フランジ60およびハウジング32の上面58は、例えば、ねじまたはボルトによって、互いに固定されるように、対応する固定孔を有することができる。
【0065】
ハウジング32は、ハウジング32の側面64に形成された開口部であり、真空デバイスに接続される第1の下部ポート62をさらに含む。例えば、第1の下部ポート62は、
図1~3Bを参照してこれまでに記載された真空デバイス18に接続されるように構成されてもよい。側面64は、例えば、ねじまたはボルトによって、管、真空フランジ、封止部などと接続される固定孔をさらに有することができる。
【0066】
ハウジング32は、ハウジング32の別の側面68に形成された開口部である第2の下部ポート66をさらに含む。第2の下部ポート66は、例えば、チャネル12と第1の下部ポート62に接続される真空デバイスとの間の管路の断面を制御する弁を設置するために使用されてもよい。
【0067】
ハウジング32は、固定孔を備えたフランジ部を有するポート14をさらに含む。フランジ部は、チャンバ、例えば、
図3Aおよび3Bを参照してこれまでに記載されたチャンバ40のポートに接続可能とすることができる。フランジおよび固定孔は、例えば、ねじまたはボルトを用いた、チャンバの別のフランジ、封止手段などへの気密接続のために使用されてもよい。
【0068】
図5は、試料Sをチャンバ40に挿入する方法70の一例のフロー図を示している。特に、方法70の方法ステップの任意のものが、試料挿入デバイス10、20、および50の任意のもの、ならびに適用可能である場合には、これまでに記載されたチャンバ40に、適用可能であっても、またはそうしたものを用いて実施されてもよい。
【0069】
方法70によれば、72において、チャネルが、閉鎖容器、例えばチャンバに接続される。例えば、チャネルは、閉鎖容器のポートに接続されるポートを有することができる。閉鎖容器は、環境チャンバ、特にクライオスタット、またはその内部において所望される温度および/もしくは圧力を提供および維持するための任意の他のチャンバとすることができる。
【0070】
74では、封止要素を用いて、ある体積がチャネルから遮断される。封止要素は、これまでに記載された封止要素16に対応することができる。遮断とは、チャネルの一部の体積をチャネルの残りの部分から気密に分離することを表すことがある。封止要素は、遮断された体積とチャネルの残りの部分との間の気体交換を抑制することによって、前記体積を遮断することができる。代替的に、またはこれに加えて、封止要素は、前記体積を少なくとも部分的に囲むことによって、それを遮断することができる。
【0071】
76では、封止要素に試料が結合される。試料とは、これまでに記載されたように、調査、加工、処理などが行われる物体を指すことがある。試料は、そうした物体が入っている容器をさらに包含することがある。
【0072】
78では、チャネル内の圧力が下げられる。圧力は、これまでに記載された真空デバイスを用いて下げられてもよい。この方法において、封止要素は、封止要素によって遮断された体積内の圧力よりチャネル内の圧力が低くなったことに応じて、運搬部材に結合された試料をチャンバに向かって動かすことができる。方法70によれば、遮断された体積の内部の圧力は、チャネルの内部の圧力の低下による影響がより少ない状態を維持する。それに応じて、遮断された体積とチャネルの残りの部分との間に圧力差が生成され、それが封止要素に及ぼされる力を引き起こす。封止要素は、前記力に曝されるとチャネルのポートに向かって動くように、チャネル内に配置されてもよい。
【0073】
さらに、封止要素は、遮断された体積とチャネルの残りの部分との間の前記圧力差によって引き起こされた力と反対の方向に、機械的に後退されてもよい。封止要素は、これまでに記載された後退デバイスを用いて後退されてもよい。
【0074】
さらに、試料は、封止要素を機械的に後退させるために及ぼされる力を高めることによって、チャンバから離れるように、および/またはチャンバの外へ動かされてもよい。それに応じて、これまでに記載された試料挿入システムまたはシステムは、試料をチャンバの内部から取り出すために動作されてもよい。
【0075】
さらに、チャネル内の圧力は、10-1~10-13N/m2の真空レベルに調整されてもよい。特に、チャネルの内部の圧力は、チャネルとチャンバとの間の大きい圧力勾配を防止するために、少なくともほぼこのレベルまで下げられてもよい。
【0076】
本明細書に開示されたシステムおよび方法は、チャンバの内部と外部との間で気体および/または液体の物質の交換を抑えることに寄与する。特に、開示された主題は、試料をチャンバに挿入するとき、または試料をチャンバから取り出すときのアクセス時間を短縮することに寄与する。さらに、開示された主題は、チャンバの外部に由来する物体とチャンバの内部との接触を回避または低減することを可能にする。
【0077】
さらに、開示された主題は、試料のチャンバへの挿入およびチャンバからの取り出しのためにシステムに対する空間の要件を減じることができる。さらに、開示された主題は、寒剤の使用を必要とせず、したがって、費用および時間を節約する。
【符号の説明】
【0078】
10 試料挿入システム
12 チャネル
14 ポート
16 封止部材
18 真空デバイス
20 試料挿入システム
22 運搬部材
24 封止部材
26 後退デバイス
27 接続手段
28 電気モータ
30 システム
32 ハウジング
40 チャンバ
42 内部空間
44 壁
46 プラットフォーム
50 試料挿入システム
52 アクセスポート
54 扉
56 上部ポート
58 上面
60 フランジ
62 第1の下部ポート
64 側面
66 第2の下部ポート
68 側面
70 方法
72~78 方法ステップ
C 残りの部分
F 圧力差によって引き起こされた力
M 移動方向
R 後退力
S 試料
V 遮断された体積
【国際調査報告】