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特表2022-504254改良された再充電可能な電池およびその製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】改良された再充電可能な電池およびその製造
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20220105BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20220105BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220105BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20220105BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/05
H01M10/052
H01M4/58
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/587
H01M4/485
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M4/36 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021518594
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(85)【翻訳文提出日】2021-05-24
(86)【国際出願番号】 FI2019050714
(87)【国際公開番号】W WO2020070391
(87)【国際公開日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】20185836
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518111368
【氏名又は名称】ブロードビット バッテリーズ オーイー
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コヴァクス アンドラス
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン デイヴィッド
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
(57)【要約】
炭酸塩型溶媒:ニトリル型溶媒混合物に基づく電解質を含む電気化学セルが開示される。電解質はアルカリ塩及び/又は少なくとも1つのポリマー添加剤を含み得る。アルカリ塩陽イオンはリチウム陽イオンであり得、及び/又はアルカリ塩陰イオンはオキサラトホウ酸基を含み得る。電解質は1つ又は複数の電解質添加剤をさらに含み得、SEI改善添加剤でもよい。アノードは炭素を含んでもよく、アルカリ金属アノードでもよい。本発明の動作電圧およびエネルギー密度性能は、現在業界を主導する電池セルの性能と同レベルであり、開示された改善は、電池性能を犠牲にすることはない。本明細書に開示される電池電解質の有用性は、高度なリチウムイオン電池電極の安定したサイクル、拡張された動作温度範囲を可能にし、炭酸溶媒中の従来のLiPF電解質塩よりも電解質の反応性及び揮発性を低くすることによって電池の安全性を改善する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸塩型溶媒:ニトリル型溶媒の混合物に基づく電解質を含む、電気化学電池セル用の電解質であって、前記電解質が、アルカリ塩および少なくとも1種のポリマー添加剤を含む、電解質。
【請求項2】
前記ニトリル型溶媒が、スクシノニトリル(SCN)および/またはマロノニトリル(MLN)を含む、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記炭酸塩型溶媒が、炭酸ジメチル(DMC)である、請求項1~2のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項4】
炭酸ジメチル(DMC):スクシノニトリル(SCN)溶媒混合物に基づく電解質、炭酸ジメチル(DMC):マロノニトリル(MLN)溶媒混合物に基づく電解質、または炭酸ジメチル(DMC):(スクシノニトリル(SCN):マロノニトリル(MLN))溶媒混合物に基づく電解質を含み、前記電解質がアルカリ塩を含む、電気化学セル用の電解質。
【請求項5】
前記アルカリ塩の陽イオンがリチウム陽イオンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項6】
前記アルカリ塩の陰イオンがオキサラトホウ酸基を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解質セル。
【請求項7】
前記アルカリ塩がリチウムジフルオロ(オキサラト)ホウ酸(LiDFOB)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項8】
前記電解質が1種または複数種の電解質添加剤を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項9】
前記電解質添加剤が、SEI向上添加剤である、請求項8に記載の電解質。
【請求項10】
前記電解質添加剤が炭酸フルオロエチレン(FEC)である、請求項1~9のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項11】
前記ポリマー添加剤がポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)である、請求項1~3または5~10のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の電解質と、アノードおよびカソードとを含む電気化学セル。
【請求項13】
前記カソードが、LiMnFe1-xPO(LMFPまたはLFMP)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、および/またはリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)を含む、請求項12に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記アノードが、炭素、チタン酸リチウム(LTO)、スズ/コバルト合金、および/またはシリコン/炭素を含む、請求項12~13のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記炭素がグラファイトおよび/またはハードカーボンである、請求項14に記載の電気化学セル。
【請求項16】
前記アノードが金属性のアルカリ金属を含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項17】
前記金属性のアルカリ金属がリチウムである、請求項16に記載の電気化学セル。
【請求項18】
請求項1~11のいずれかに記載の電解質または請求項13~17のいずれか一項に記載の電気化学セルの装置内での使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再充電可能な電気化学電池セルに関する。特に、本発明は、コスト、安全性、および動作温度範囲の観点から、電気化学セルの電池化学の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能で低コストの電池は、電気自動車や電力網のエネルギー貯蔵など、多くの応用に有利である。現在業界を主導している電池技術は、リチウムイオン電池技術である。最先端の電池は、グラファイトに基づくアノード、金属酸化物カソード、および有機電解質を採用している。商業的に好ましいカソード処方は、ニッケル-コバルト-マンガン酸化物(NCM)処方に基づいている。このカソード処方の将来の見通しは、コバルトの限定的な年間供給によって妨げられており、これは、予想される将来の電池生産量の増加の障害として知られる。商業的に好ましい電解質処方は、LiPF電解質塩を含む炭酸塩溶媒の混合物に基づくものである。ただし、これらの溶剤の高い可燃性は安全上の危険をもたらし、通年電池火災事故を引き起こす。さらに、LiPF電解質塩は化学的安定性が低いため、電池の動作温度範囲が制限され、電池パックの複雑でコストのかかる熱管理が必要になる。電池の動作温度範囲を改善するには、化学的安定性の低いLiPF電解質塩を、少なくとも同様の電解質伝導率を与えるより安定した塩に置き換える必要がある。
【0003】
本発明は、最先端の電池セルに関する上記の問題を解決することを目的としている。開示された本発明の動作電圧およびエネルギー密度性能は、現在業界を主導する電池セルの性能と同じレベルであり、それにより、これらの開示された改善点は、電池性能を犠牲にすることはない。本明細書に開示される電池電解質の有用性は、3つの側面から導き出される。i)高度なリチウムイオン電池電極の安定したサイクルを可能にする。ii)リチウムイオン電池の動作温度範囲を拡大できる。iii)従来の炭酸塩溶媒中のLiPF電解質塩よりも電解質の反応性と揮発性を低くすることにより、電池の安全性を向上させる。結果として、開示された発明は、産業および商業にとって有益である。
【発明の概要】
【0004】
電気化学セル用の改良された電解質処方が開示されている。電解質は、炭酸塩型溶媒:ニトリル型溶媒の混合物に基づく電解質を含み得る。電解質はアルカリ塩を含み得る。電解質は、1つまたは複数のポリマー添加剤を含み得る。アルカリ塩陽イオンはリチウム陽イオンであり得る。アルカリ塩陰イオンは、オキサラトホウ酸基を含み得る。アルカリ塩は、リチウム-ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸(LiDFOB)であり得る。電解質は、1つまたは複数の電解質添加剤を含み得る。電解質添加剤は、SEI向上添加剤であり得る。ニトリル型の溶媒は、マロノニトリル(MLN)を含み得る。ニトリル型の溶媒は、スクシノニトリル(SCN)を含み得る。ニトリル型の溶媒は、スクシノニトリル(SCN)であり得る。ニトリル型の溶媒は、MLNとSCNの混合物を含み得る。炭酸塩型の溶媒は、炭酸ジメチル(DMC)であり得る。電解質添加剤は、炭酸フルオロエチレン(FEC)であり得る。ポリマー添加剤は、ポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)であり得る。
【0005】
電解質は、電気化学セルで使用することができる。電気化学セルは、さらにカソードおよびアノードを含み得る。カソードは、LiMnFe1-XPO(LMFPまたはLFMP)、リチウム鉄リン酸塩(LFP)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、および/またはリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)を含む。アノードは、炭素、チタン酸リチウム(LTO)、スズ/コバルト合金、および/またはシリコン/炭素を含み得る。炭素は、グラファイトおよび/またはハードカーボンであり得る。アノードは、金属性のアルカリ金属を含み得る。金属性のアルカリ金属は、金属リチウムであり得る。電気化学セルは、装置で使用することができる。
【0006】
表1は、本明細書に開示される電解質処方の利点をまとめたものである。これらの利点を同時に達成できることは電池製造にとって非常に有利であり、そのような電解質処方を発見することは非常に困難である。現在実現可能なリチウムイオン電池のエネルギー密度と比較して、改善されたセルレベルのエネルギー密度は、LMFPなどの高度なカソード材料の安定したサイクルを同時にサポートする開示された電解質処方の能力、および金属リチウムに基づくアノードなどの金属性のアルカリ金属に基づくアノードによって実現可能になる。
【0007】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】充放電サイクル数に対するLMFPカソードの放電容量の変化であって、電解質溶媒が、1:1の体積比のDMC:SCN、2重量%のFEC電解質添加剤、1モルLiDFOB塩を含み、図中には12重量%のポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)ポリマーが電解質に添加されているかどうかが示されている。縦軸は最初のサイクルの容量に正規化されている。
図2】充放電サイクル数に対するLMFPカソードの放電容量の変化であって、電解質溶媒が、1:1の体積比のDMC:SCN、12重量%のポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)ポリマー添加剤、1モルのLiDFOB塩を含み、図中には使用した電解質添加剤を示す。縦軸は最初のサイクルの容量に正規化されている。
図3】充放電サイクル数に対するグラファイトアノードの放電容量の変化であって、電解質溶媒が、1:1の体積比のDMC:SCN、12重量%のポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)ポリマー添加剤、2重量%FEC電解質添加剤、および1モルのLiDFOB塩を含む。縦軸は最初のサイクルの容量に正規化されている。
図4】金属LiアノードとLMFPカソードを含むセルの、充放電サイクル数に対する放電エネルギーの変化。電解質溶媒は、1:1の体積比のDMC:SCN、12重量%のポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)ポリマー添加剤、1モルのLiDFOB塩、および2重量%のFEC電解質添加剤を含む。縦軸は、最初のサイクルの放電エネルギーに正規化されている。
図5】金属LiアノードとLMFPカソードを含むセルの、充放電サイクル数に対する充電時間の変化。電解質溶媒は、1:1の体積比のDMC:SCN、12重量%のポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)ポリマー添加剤、1モルのLiDFOB塩、および2重量%のFEC電解質添加剤を含む。縦軸は、最初のサイクルの充電時間に正規化されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の詳細な実施形態は、添付の図面を参照して本明細書に開示される。
【0010】
本明細書では、本発明の範囲内である、電解質の処方を開示する。電解質は、電気化学セルで使用することができる。電気化学セルは、少なくとも、アノード、カソード、およびアノードとカソードの間に少なくとも部分的に電解質を含み得る。電気化学セルは、アノードとカソードとの間にセパレータをさらに含み得る。電気化学セルは、1つまたは複数の電荷担体(集電体)をさらに含み得る。アノードおよび/またはカソードは、電荷担体であり得る。電気化学セルは、ハウジングをさらに含み得る。
【0011】
電解質の電解質塩は、アルカリ金属塩を含み得る。アルカリ金属塩のアルカリ金属陽イオンは、リチウム陽イオンを含み得る。アルカリ金属塩の陰イオンは、オキサラトホウ酸基を含み得る。アルカリ金属塩の陰イオンは、1つまたは複数のハロゲン基をさらに含み得る。
【0012】
本発明による電解質塩の1つの好ましい例は、オキサラトホウ酸基を含み、アルカリ金属がLiであり、ハロゲンがFであるリチウムジフルオロ(オキサラト)ホウ酸(LiDFOB)である。LiDFOBは高温で安定性を保ち、LiPFよりも水に敏感でなく、4.2V以上の電圧での電池充電に適している。好ましくは、電解質中のアルカリ金属塩のモル濃度は、0.01から5モル、より好ましくは0.1から2モル、より好ましくは0.5から1.5モル、最も好ましくは0.67から1.2モル、より好ましくは0.9から1.1モル、最も好ましくは約1モルである。本発明によれば、他のアルカリ金属塩およびモル濃度が可能である。ここで、アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs、およびFrが挙げられるが、これらに限定されない。ここで、ハロゲンとしては、F、Cl、Br、I、およびAtが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書に開示される電解質は、ニトリル型炭酸塩型溶媒:ニトリル型溶媒の混合物をさらに含み得る。本発明における炭酸塩型溶媒の1つの好ましい例は、炭酸ジメチル(DMC)である。本発明によれば、他の炭酸塩型の溶媒が可能である。本発明におけるニトリル型の溶媒の1つの好ましい例は、スクシノニトリル(CN(CHCNまたはSCN)である。本発明によるニトリル型の溶媒の1つの好ましい例は、マロノニトリル(CN(CH)CNまたはMLN)である。本発明によるニトリル型の溶媒は、単一のニトリル溶媒、ニトリル溶媒の混合物、またはニトリルと他の溶媒の混合物を含み得る。本発明によれば、他のニトリル型の溶媒が可能である。炭酸塩型溶媒:ニトリル型溶媒の体積混合比は、好ましくは0.001:1から1:0.001の間、より好ましくは0.01:1から1:0.01の間、より好ましくは0.1:1の間、より好ましくは0.5:1から1:0.5、より好ましくは0.9:1から1:0.9の間であり、最も好ましくは約1:1である。ニトリル溶媒成分がアジポニトリル(CN(CHCN)の場合、LiDFOB塩に基づく電解質の伝導率は約3mS/Cmであることが知られている[1]。驚くべきことに、SCNは室温で固体であるが、DMC共溶媒との1:1の体積比の混合物は液体であることが発見された。本発明によれば、好ましい電解質溶媒は、DMCとSCNの混合物であり、最も好ましくは、1:1の体積比である。この混合物は、参考文献[1]の炭酸ジメチル:アジポニトリル溶媒混合物に基づく電解質よりも高い、LiDFOB塩のイオン伝導率を達成することが判明した。
【0014】
驚くべきことに、特定のポリマーが、開示された電解質への有益な添加剤(本明細書ではポリマー添加剤と呼ぶ)になり得ることが発見された。本発明におけるポリマー添加剤は、酸素に富むポリマー添加剤であり得る。本発明におけるポリマー添加剤は、開示された電解質に高溶解性であり得る。ここでの酸素に富むポリマーとは、ポリマー中の酸素原子のモル分率が好ましくは7%を超え、より好ましくは10%を超え、より好ましくは15%を超え、最も好ましくは20%を超えるポリマー、またはポリマー中の酸素の質量分率が好ましくは15%を超え、より好ましくは25%を超え、より好ましくは35%を超え、最も好ましくは40%を超えるポリマーを意味する。本発明における好ましいポリマー添加剤は、電解質に非常に溶けやすい。ここでの高溶解性ポリマー添加剤とは、そのる質量分率の好ましくは5%超、より好ましくは8%超、より好ましくは11%超、最も好ましくは12%超がが可溶なポリマー添加剤を意味する。
【0015】
本発明における好ましいポリマー添加剤は、ポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)である。ポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)は、酸素に富むポリマー添加剤である。本発明によれば、他の酸素に富むポリマー添加剤を含むがこれらに限定されない他のポリマー添加剤も可能である。ポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)ポリマー添加剤に関して、本発明は、ポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)内のメチルビニルエーテル(CO)と無水マレイン酸(CO)ポリマー成分との比率について任意の値を可能にする。好ましくは、メチルビニルエーテル(CO)および無水マレイン酸(CO)ポリマー成分間の質量比は、0.001:1から1:0.001の間であり、より好ましくは、0.01:1から1:0.01の間、より好ましくは0.1:1から1:0.1の間、最も好ましくは1:1である。
【0016】
上記のポリマー添加剤を1種または複数種添加した後、電解質の粘度は著しく高くなるが、そのイオン伝導度は劇的に低下しないことが判明した。たとえば、12重量%のポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)添加剤を添加すると、電解質の伝導率が約32%しか低下しないことが判明した。図1に示すように、同様の電池セル容量の変化は、ポリマー添加剤の有無にかかわらず達成できるが、得られた容量の結果は、ポリマー添加剤なしの方がわずかに優れている。驚くべきことに、金属アルカリアノードが使用される場合、上記のポリマー添加剤の1種または複数種が非常に有利であることが判明した。本発明によるアノードは、好ましくは金属リチウムに基づくアノードであるが、本発明によれば他の金属性のアルカリ金属が可能である。炭酸塩:ニトリル溶媒に基づく電解質ポリマー添加剤がない場合、アルカリ金属全般、特にリチウムは、充電中にデンドライトを成長させる傾向がある。このようなデンドライトは、クーロン効率を低下させ、内部短絡のリスクを引き起こす可能性がある。対照的に、上記のポリマー添加剤の1種または複数種が電解質に、好ましくは5重量%を超えて、より好ましくは10重量%を超える質量比で使用された場合、アルカリ金属全般、特にリチウムの電気化学的サイクルは、驚くべきことに、非樹枝状で、長期的に安定していることが判明した。図4~5は、金属リチウムアノードとLMFPカソードを含むセルの長期サイクルデータを示している。サイクルプログラムは、定電流放電サイクル、および4.2Vのしきい値までの定電流充電、続いて4.2Vでの定電圧充電を採用した。セルは、観察された期間中、安定した容量を示した。放電サイクルの間、アノード電極-電解質界面抵抗の増加は、放電エネルギーの減少として観察されたであろう。図4に示すように、放電されたエネルギーはサイクルプロセスの間に非常に安定したままだった。充電サイクル中、セル充電の一部が定電圧モードであったため、アノード電極-電解質界面抵抗の増加が充電時間の延長として観察されたであろう。図5に示すように、充電時間もサイクルプロセス中安定したままだった。全体として、これらのデータは、非常に安定したアノード電極-電解質界面を示しており、リチウムアノードまたは他のアルカリ金属に基づくアノードの長期安定で非樹枝状のサイクルを可能にする。
【0017】
本発明によれば、電解質は、本明細書で電解質添加剤と呼ぶ、さらなる1種または複数種の電解質添加剤を含み得る。本発明における電解質添加剤は、SEI(固体電解質界面)改善添加剤であり得る。本発明による電解質添加剤は、フッ化炭酸塩添加剤であり得る。本発明によるフッ化炭酸塩は、炭酸フルオロエチレン(4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、FECと呼ぶ)であり得る。本発明によれば、他の電解質添加剤または電解質添加剤の組み合わせが可能である。
【0018】
驚くべきことに、ポリマー添加剤とSEI改善電解質添加剤が相乗的に有益な効果を有する可能性があることが発見された。図2および3に示されるように、本発明における例示的なアノードおよびカソードのサイクル安定性は、ポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)およびFEC添加剤の両方が電解質中に存在する場合に特に高い。
【0019】
本明細書に開示された電解質中で安定に循環され得る適切なアノード電極およびカソード電極が開示されている。一般に、開示された電解質および/またはその誘導体と適合性があり得る(すなわち、電解質が開示された電解質に加えて成分を含む)任意のアノードおよび/またはカソードが、本発明に従って可能である。本発明におけるアノードの例には、炭素、チタン酸リチウム(LTO)、スズ/コバルト合金、および/またはシリコン/炭素の様々な形態および/または同素体が含まれるが、これらに限定されない。アノードは、金属ナトリウムまたはリチウムアノードなどの金属アルカリアノードであり得る。本発明によれば、他のアノード材料が可能である。本発明による炭素は、例えば、ハードカーボンおよび/またはグラファイトであり得る。カソードの例には、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFPまたはLFMP)、リン酸鉄リチウム(LFP)、コバルト酸リチウム(LCO)、リチウムマンガン酸化物(LMO)および/またはリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)が含まれるが、これらに限定されない。本発明によれば、他のカソード材料が可能である。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、FEC添加剤の濃度は、0.5vol%から20vol%の間、より好ましくは1vol%から16vol%の間、より好ましくは2vol%から13vol%の間、および最も好ましくは4vol%から11vol%の間の体積分率となり得る。本発明の一実施形態では、FEC添加剤の濃度は、約10vol%の体積分率となり得る。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、スクシノニトリル(SCN)および/またはマロノニトリル(MLN)(単独または組み合わせ)は、高濃度で使用することができ、したがって、添加剤ではなく、本発明の文脈において溶媒であると見なされ得る。本発明の一実施形態によれば、スクシノニトリル(SCN)および/またはマロノニトリル(MLN)(単独または組み合わせ)は、30vol%から60vol%の間の体積分率で使用され得る。溶媒として機能するには、SCNおよび/またはMLN(単独または組み合わせ)の濃度を高くする必要がある。しかしながら、所望の効果を達成し、有用な動作温度範囲(例えば、室温付近)で液体であるために、混合物中のSCNおよび/またはMLN(単独または組み合わせ)の濃度は高すぎてはならない。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、電解質は、電気化学セルの動作中に液体であり得る。本発明の一実施形態によれば、電解質は、電気化学セル動作中はゲルではない。
【実施例
【0023】
最近注目を集めているコバルトフリーの電池カソードは、LiMnFe1-XPO(LMFPと略され、LFMPとしても知られている)である。4.2Vの充電電圧限界でLMFPカソードのサイクル安定性をテストし、電解質添加剤の効果を調査した。図2は、さまざまな電解質の別処方で得られたLMFP電極のカソード安定性を示しており、特に、充放電サイクル数に対するLMFPカソードの放電容量の変化を示している。比率は、各電極の初期放電容量に正規化されている。すべての場合において、初期の重量分析放電容量は、LMFPの重量に対して約150mAh/gである。電解質溶媒は、DMC:SCNの体積比が1:1であり、さらに12重量%のポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)添加剤を含み、さらに1モルのLiDFOB塩を含む。使用した追加の電解質添加剤を図に示す。開示された電解質(DMC中のLiDFOB塩および12重量%のポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)添加剤を含むSCN溶媒(1:1の体積比))の一実施形態における電極安定性は、それ以上の添加剤なしであっても比較的安定で、さらに2重量%の炭酸フルオロエチレン(FEC)電解質添加剤を含む電解質中で非常に安定である。LMFPカソードは、FEC添加剤を使用した場合でも、類似しているがポリマーを含まない電解質で明確な退色を示すため、この結果は特に驚くべきものである[1]。理論に束縛されるものではないが、我々はこの改善を、好ましくはポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)である、使用されるポリマー添加剤、および好ましくはFECである、使用される電解質添加剤の補完的な有益効果に帰する。本発明によれば、他のアノード、カソード、電解質組成物、ポリマー添加剤および電解質添加剤が可能である。
【0024】
1つの好ましい処方において、電解質溶媒は、1:1の体積比のDMC:SCNを含み、さらに12重量%のポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)添加剤および2重量%のFEC添加剤を含み、さらに1モルのLiDFOB塩を含む。電解質成分の65重量%は室温で固体であるが、得られた電解質は少なくとも-35℃まで液体のままであることが判明した。他の好ましい処方では、電解質溶媒は、1:1の体積比のDMC:SCNを含み、さらに2重量%のFEC添加剤を含み、さらに1モルのLiDFOB塩を含む。得られた電解質は、少なくとも-35℃まで液体のままであることが判明した。表2は、ポリマー添加剤を使用した場合と使用しない場合の、これらの好ましい電解質処方の室温(20℃)イオン伝導度を示している。この伝導率データは、スクシノニトリルの使用がより大きなニトリル分子の使用よりも有利であり、電解質中に12重量%の好ましいポリマー添加剤が存在しても電解質の伝導率が十分に高いままであることを示している。本発明によれば、他のアノード、カソード、電解質組成物、ポリマー添加剤および電解質添加剤が可能である。
【0025】
【表2】
【0026】
本発明によれば、電気化学セルは、炭素を含むアノードを使用することができる。炭素は、電解質と適合性のある任意の形態であり得る。例には、グラファイト、ハードカーボン、グラフェン、無定形炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノバッド、カーボンナノホーン、Yカーボン、カーボンナノフォーム、および/またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本発明によれば、他の形態の炭素が可能である。我々は、上記の好ましい電解質処方におけるグラファイトアノードの安定性を調査した。図3は、グラファイト電極のアノード安定性を示している。特に、図3は、充放電サイクル数に対するグラファイトアノードの放電容量の変化を示している。比率は、電極の初期放電容量に正規化されている。電解質溶媒は、DMC:SCNの体積比が1:1であり、さらに12重量%のポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)添加剤と2重量%のFEC添加剤を含み、さらに1モルのLiDFOB塩を含む。同様のサイクル安定性は、ハードカーボンアノードでも得られる。本発明によれば、他の炭素アノードが可能である。この実証された安定したサイクル性能は、本明細書に開示された電解質処方が両方のリチウムイオン電池電極の安定したサイクルを可能にすることを確立する。本発明によれば、他のアノード、カソード、電解質組成物、ポリマー添加剤および電解質添加剤が可能である。
【0027】
前述の例は、1つまたは複数の特定の用途における本発明の原理の例示であるが、当業者には、実施の形態、使用法、および詳細の多数の変更を、発明能力を行使することなく、また発明の原理と概念から逸脱することなく行うことができるのは明らかである。したがって、以下に記載される特許請求の範囲による場合を除いて、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0028】
[1]Journal of Power Sources 397 (2018) 52-58 (https://doi.org/10.1016/j.jpowsour.2018.07.004)

図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2020-08-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i.炭酸塩型溶媒:ニトリル型溶媒の混合物に基づく電解質であって、少なくとも1種のポリマー添加剤を含む電解質、あるいは
ii.炭酸ジメチル(DMC):マロノニトリル(MLN)溶媒混合物に基づく電解質又は炭酸ジメチル(DMC):(スクシノニトリル(SCN):マロノニトリル(MLN))溶媒の混合物に基づく電解質
を含み、
アルカリ塩をさらに含み、且つ電気化学操作中に液体である、電気化学電池セル用の電解質。
【請求項2】
ニトリル型の溶媒がスクシノニトリル(SCN)および/またはマロノニトリル(MLN)を含む、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
炭酸塩型溶媒が炭酸ジメチル(DMC)である、請求項1または2に記載の電解質。
【請求項4】
アルカリ塩の陽イオンがリチウム陽イオンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項5】
アルカリ塩の陰イオンがオキサラトホウ酸基を含む、請求項1から4のいずれかに記載の電解質セル。
【請求項6】
アルカリ塩がリチウムジフルオロ(オキサラト)ホウ酸(LiDFOB)である、請求項1から5のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項7】
電解質が1種または複数種の電解質添加剤を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項8】
電解質添加剤がフッ化炭酸塩添加剤である、請求項7に記載の電解質。
【請求項9】
電解質添加剤が炭酸フルオロエチレン(FEC)である、請求項1から8のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項10】
ポリマー添加剤がポリ(メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体)である、請求項1から3または4から9のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の電解質と、アノードおよびカソードとを含む電気化学セル。
【請求項12】
前記カソードが、LiMnFe1-xPO(LMFPまたはLFMP)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、および/またはリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)含む、請求項11に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記アノードが、炭素、チタン酸リチウム(LTO)、スズ/コバルト合金、および/またはシリコン/炭素を含む、請求項11から12のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記炭素がグラファイトおよび/またはハードカーボンである、請求項13に記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記アノードが金属性のアルカリ金属を含む、請求項11から14のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項16】
金属性のアルカリ金属がリチウムである、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項17】
請求項1から10のいずれかの電解質または請求項12から16のいずれか一項の電気化学セルの装置内での使用。
【国際調査報告】