(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】レーザ機械加工システムにおいてレーザビームの焦点位置を設定するための装置、同装置を備えるレーザ機械加工システム、およびレーザ機械加工システムにおいてレーザビームの焦点位置を設定するための方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/046 20140101AFI20220105BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B23K26/046
H01S3/00 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518725
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(85)【翻訳文提出日】2021-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2019074965
(87)【国際公開番号】W WO2020069866
(87)【国際公開日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】102018124627.7
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516234100
【氏名又は名称】プレシテック ゲーエムベーハー ウント ツェーオー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラケス サンチェス ダビッド
【テーマコード(参考)】
4E168
5F172
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168BA00
4E168CB12
4E168CB15
4E168EA24
4E168JA02
4E168KA17
5F172ZZ01
(57)【要約】
本開示は、レーザ処理システム100においてレーザビーム10の焦点位置zを調整するための装置200に関する。装置200は、焦点位置zの時間依存値ztを計算するように構成されたコンピューティングユニットであって、焦点位置zの時間依存値ztを、第1のパラメータ、第2のパラメータ、および第3のパラメータに基づき計算するコンピューティングユニットと、レーザビーム10の焦点位置zを、焦点位置zの時間依存値ztに基づき、焦点位置zを調整するための機構によって設定するように構成された制御ユニットとを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ機械加工システム(100)において、レーザビーム(10)の所定の焦点位置Zを設定するための装置(200)であって、
前記焦点位置zを設定するための設定ユニット(150)と、
焦点位置zの時間依存値z
tを、第1のパラメータ、第2のパラメータ、および第3のパラメータに基づき計算するように構成されたコンピューティングユニットと、
前記レーザビーム(10)の前記所定の焦点位置Zを、前記焦点位置zの前記時間依存値z
tに基づき、前記設定ユニット(150)によって設定するように構成された制御ユニットと
を備え、
前記第1のパラメータが、レーザ出力依存性の焦点シフトAを示し、
前記第2のパラメータが、レーザビーム光学部品のうちの少なくとも1つの光学素子の、温度により誘発される屈折力の変化に起因した、1/eになる焦点位置の変化の時定数τを示し、
前記第3のパラメータが、時間tの点における現在のレーザ出力Pを示す
ことを特徴とする装置(200)。
【請求項2】
請求項1に記載の装置(200)であって、前記コンピューティングユニットが、前記焦点位置zの前記時間依存値z
tを、前記レーザビーム光学部品の倍率mを示すさらなるパラメータに基づき計算するようにさらに構成されていることを特徴とする装置(200)。
【請求項3】
請求項2に記載の装置(200)であって、前記コンピューティングユニットが、前記焦点位置zの前記時間依存値z
tを、式
z
t(ΔP,t)=A・m
2・ΔP・(1-e
-t/τ)
を使用して計算するように構成されており、
ここでΔP=P-P
0であり、P
0は基準レーザ出力を示し、時間t=0は、レーザ出力の変化ΔP≠0が生じる時間として定義される
ことを特徴とする装置(200)。
【請求項4】
請求項3に記載の装置(200)であって、前記コンピューティングユニットは、前記レーザ出力Pが既知のときに、フィルタ信号によって項ΔP・(1-e
-t/τ)を指数関数的に近似し、前記時間tに明示的には依存しないz
t(ΔP)を用いて、レーザ出力の関数として前記焦点位置zの前記時間依存値z
tを計算するように構成されていることを特徴とする装置(200)。
【請求項5】
請求項3または4に記載の装置(200)であって、前記現在のレーザ出力Pを検出するための手段(220)をさらに備え、前記手段(220)が、1つ以上の出力センサおよび/またはデータインターフェースであって、それを介して前記現在のレーザビーム出力に関するデータを受信することができる、1つ以上の出力センサおよび/またはデータインターフェースを備えることを特徴とする装置(200)。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の装置(200)であって、前記制御ユニットが、前記レーザビーム(10)の前記所定の焦点位置Zを、前記焦点位置の前記時間依存値z
tおよび定常値z
0に基づき設定するように構成されており、前記定常値z
0が、基準レーザ出力P
0に対する焦点位置zを示すことを特徴とする装置(200)。
【請求項7】
請求項6に記載の装置(200)であって、前記コンピューティングユニットにおいてまたは前記制御ユニットにおいて、前記焦点位置Zを設定するように構成された前記レーザビーム光学部品のうちの少なくとも1つの可動光学素子の位置L
1が、少なくとも1つの基準レーザ出力P
0に対する焦点位置の定常値z
0に対応した制御曲線として記憶されることを特徴とする装置(200)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の装置(200)であって、前記制御ユニットが、前記レーザビーム(10)の前記所定の焦点位置Zを、さらにオフセットz
Offに基づき設定するように構成されていることを特徴とする装置(200)。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の装置(200)であって、少なくとも前記レーザ出力に依存した焦点シフトA、および/または前記時定数τ、および/または少なくとも1つのオフセットz
Offに関するユーザ入力を受け取るように構成されたユーザインターフェースをさらに備えることを特徴とする装置(200)。
【請求項10】
請求項2から9のいずれか1項に記載の装置(200)であって、前記レーザビーム光学部品が、異なる設定可能な倍率m
iを有するズームシステムを備え、オフセットz
Off,
miが、前記倍率m
iごとに設定されることが可能であることを特徴とする装置(200)。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の装置(200)であって、前記焦点位置zを設定するための前記設定ユニット(150)が、前記焦点位置を設定するように構成された前記レーザビーム光学部品のうちの少なくとも1つの可動光学素子の位置L
1を設定するように構成されていることを特徴とする装置(200)。
【請求項12】
請求項11に記載の装置(200)であって、前記コンピューティングユニットが、前記所定の焦点位置Zに対応する前記設定手段(150)のための設定値を計算するように構成され、前記設定値が、前記所定の焦点位置Zに対応する前記可動光学素子の位置を含むことを特徴とする装置(200)。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の装置(200)であって、前記レーザビーム光学部品(115、120)が、コリメータ光学部品(115)、焦点合わせ光学部品(120)、ズーム光学部品、ビームシェイピング光学部品、および保護ガラスからなるグループから選択される少なくとも1つの光学素子を備え、前記少なくとも1つの光学素子が、温度依存性の屈折力を有し、および/または可動であり、前記焦点位置Zを設定するように構成されていることを特徴とする装置(200)。
【請求項14】
レーザビームによって加工物を機械加工するためのレーザ機械加工システム(100)であって、
前記レーザビーム(110)のビーム経路内のレーザビーム光学部品(115、120)であって、温度依存性の屈折力を有する少なくとも1つの光学素子を備えるレーザビーム光学部品(115、120)と、
請求項1から13のいずれか1項に記載の装置(200)と
を備えることを特徴とするレーザ機械加工システム(100)。
【請求項15】
レーザ機械加工システム(100)において、レーザビーム(10)の所定の焦点位置(Z)を設定するための方法であって、
第1のパラメータ、第2のパラメータ、および第3のパラメータを提供するステップであって、前記第1のパラメータが、レーザ出力依存性の焦点シフトAを示し、前記第2のパラメータが、レーザビーム光学部品のうちの少なくとも1つの光学素子の、温度により誘発される屈折力の変化に起因した、1/eになる焦点位置の変化の時定数τを示し、前記第3のパラメータが、時間tにおける現在のレーザ出力Pを示す、ステップと、
前記焦点位置(z)の時間依存値z
tを、前記第1のパラメータ、前記第2のパラメータ、および前記第3のパラメータに基づき計算するステップと、
前記レーザビーム(10)の前記所定の焦点位置(Z)を、前記時間依存値z
tに基づき設定するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ機械加工システム、または切断ヘッドもしくは溶接ヘッドなどのレーザ機械加工ヘッドにおいて、レーザビームの焦点位置を設定するための装置、このような装置を備えるレーザ機械加工システム、およびレーザ機械加工システムにおいてレーザビームの焦点位置を設定するための方法に関する。特に本開示は、機械加工レーザビームの焦点位置をリアルタイムで決定および修正することに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばレーザ機械加工ヘッドにおいて、レーザを使用して材料を機械加工するための、たとえばレーザ溶接またはレーザ切断するための装置では、レーザ光源またはレーザファイバの端部から出るレーザビームは、ビームを案内および焦点合わせする光学部品によって、機械加工すべき加工物に対して焦点合わせまたはコリメートされる。従来、レーザ機械加工ヘッドは、コリメータ光学部品および焦点合わせ光学部品とともに使用され、ここでレーザ光は光ファイバを介して供給される。
【0003】
レーザ材料機械加工の問題は、いわゆる「熱レンズ」であり、これは、レーザビームの案内と焦点合わせのための光学素子が、特にマルチキロワットの範囲のレーザ出力によって加熱されること、および光学ガラスの屈折率の温度依存性に起因する。特に、不均等な加熱により、光学部品に温度勾配が生じ、いわゆる「熱レンズ」効果が発生する。たとえば、マルチkWのレーザ出力を有するレーザ放射が通過するときに発生する温度勾配に起因して、保護ガラスが屈折力を有するようになる、すなわち熱レンズになる。それに比べて、均等に加熱された保護ガラスは屈折力を有するようにならない。レーザ材料機械加工では、熱レンズは、ビームの伝播方向に沿って焦点シフトを生じさせ、これは機械加工の品質に悪影響を及ぼすことがある。
【0004】
レーザ材料機械加工プロセス中に、主に2つのメカニズムが、光学素子の加熱につながる。1つはレーザ出力の増大であり、もう1つは光学素子の汚損である。さらに、光学素子が機械的な変形を受けて、屈折率の変化につながる可能性がある。たとえば、機械的な変形は、光学素子のソケットの熱膨張によって生じることがある。
【0005】
高品質なレーザ機械加工を確保するために、それぞれの焦点位置を検出し、焦点シフトを補償すること、すなわち迅速で正確な焦点位置制御を実現することが必要である。
【0006】
しかし、熱レンズは焦点シフトにつながるだけでなく、ビーム品質の低下にもつながり、たとえば収差を生じさせることがある。これは結果として、たとえば焦点直径の全体的なビーム火面を変化させることになる。したがって、基準値との単純な比較により焦点位置を決定することは不正確であり、リアルタイムでの焦点位置の制御に相当するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、複雑な機械的手段なしに、所望または所定の焦点位置のための1つ以上の設定値を容易に決定することが可能な、レーザ機械加工システムにおいてレーザビームの焦点位置を設定するための装置、このような装置を備えたレーザ機械加工システム、およびレーザ機械加工システムにおいてレーザビームの焦点位置を設定するための方法を提供することである。特に、本開示の目的は、レーザ機械加工プロセス中に、レーザビームの所望または所定の焦点位置のための1つ以上の設定値を、リアルタイムで決定および設定することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、独立請求項の主題によって達成される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項において特定される。
【0009】
本開示の実施形態によれば、レーザ機械加工システムにおいて、レーザビームの所定の焦点位置Zを設定するための装置が提供される。この装置は、焦点位置の時間依存値ztを計算するように構成されたコンピューティングユニットであって、焦点位置の時間依存値ztを第1のパラメータ、第2のパラメータ、および第3のパラメータに基づき計算するコンピューティングユニットを備える。第1のパラメータは、レーザ出力依存性の焦点シフトA、たとえばキロワット当たりのミリメートルなど、出力単位または出力ステップ当たりのレーザ出力依存性の焦点シフトの大きさを含む。たとえば、結像スケールが1で、レーザ出力ΔPの変化が1kWであれば、レーザ出力依存性の焦点シフトAは、定常状態での焦点シフトであり、すなわちt→∞である。前記第2のパラメータは、レーザビーム光学部品のうちの少なくとも1つの光学素子の熱レンズに起因した、すなわち温度により誘発される屈折力の変化に起因した、焦点位置の変化の時定数τを含む。たとえば、時定数τは、焦点位置が1/eに変化するまで、または1/eに減少するまでの期間を表す。したがって、時定数τは、温度により誘発される焦点シフトの時定数とも考えることができる。第3のパラメータは、現在のレーザ出力Pを含む。また、コンピューティングユニットは、所定の焦点位置Zを設定するために、焦点位置を設定するための設定ユニットのための設定値を計算するように構成されてもよい。この設定値は、焦点位置、たとえばレンズ位置を設定するように構成されたレーザビーム光学部品のうちの少なくとも1つの可動光学素子の位置を含んでもよい。また、この装置は、計算された設定値または焦点位置の時間依存値ztに基づきレーザビームの所定の焦点位置を設定するために、焦点位置を設定するための設定ユニットを使用するように構成された制御ユニットを備えてもよい。ここで、レーザビーム光学部品は、レーザ機械加工システムにおけるレーザビームのビーム経路にある光学素子全体とみなされてもよい。本開示の好ましい任意選択の実施形態および特別な態様は、従属請求項、図面、および本明細書から明らかになる。
【0010】
本発明によれば、3つのパラメータ、すなわちレーザ出力依存性の焦点シフトAと、時定数τと、現在のレーザ出力Pとを使用して、たとえば加工物に対する焦点の位置が計算される。これに基づき、たとえば所望の焦点位置に実際の焦点位置が対応するように、焦点位置を設定することができる。
【0011】
したがって、構造的に小さいモジュール式で、リアルタイムでの焦点設定を可能にすることができる。特に、温度により誘発される焦点シフトの動的発生を考慮した時間依存性の修正項が、焦点位置の設定に使用される。たとえば、焦点設定は、時間依存性の修正項が追加されたプリセット制御曲線に基づき、リアルタイムで実行されることが可能である。時間依存性の修正項は、複雑な機械的構造を必要とせず、これにより、製造面と動作面の両方において装置の複雑さを低減することが可能になる。さらに、本発明による解決策により、焦点シフトまたは焦点の変動に対して、柔軟な反応が可能になる。たとえば、光学材料の吸収率に起因する散乱、異なる熱的条件(たとえば、水冷、流量、および温度)、またはレーザビーム光学部品の汚損など、1つ以上の要因を考慮することができる。レーザ出力依存性の焦点シフトAおよび時定数τというパラメータを的確に選択することにより、これらすべての影響を、プロセス品質が確保される程度まで修正することができる。パラメータは、レーザ機械加工システムのユーザによって設定されてもよい。
【0012】
好ましくは、コンピューティングユニットと制御ユニットは、たとえばコンピューティングおよび制御ユニットなどの共通のソフトウェアおよび/またはハードウェアのモジュールに実装される。コンピューティングおよび制御ユニットは、「評価ユニット」とも呼ぶことができる。いくつかの実施形態によれば、コンピューティングおよび制御ユニットは、焦点位置を計算するために使用されるデータが記憶されている記憶媒体を備えてもよい。
【0013】
レーザ機械加工システムは、好ましくは、レンズまたはレンズシステムなど1つ以上の光学素子を含むことができるレーザビーム光学部品を備える。特に、レーザビーム光学部品は、温度依存性の屈折力を有する少なくとも1つの光学素子、および/または焦点位置を設定するように構成された可動光学素子を含んでもよい。熱レンズまたは温度により誘発される屈折力の変化は、レーザビーム光学部品のうちの少なくとも1つの光学素子において生じることがある。ここで、温度依存性の屈折力を有するレーザ光学部品の光学素子、すなわち熱レンズの影響を受ける光学素子は、焦点位置を設定するように構成された可動光学素子であってもよく、またはこの可動光学素子を備えてもよい。温度依存性の屈折力を有する少なくとも1つの光学素子および焦点位置を設定するための少なくとも1つの可動光学素子は、同じもしくは異なる素子であってもよく、または同じもしくは異なる素子を備えてもよい。レーザ光学部品は、たとえばコリメータ光学部品、焦点合わせ光学部品、ズーム光学部品、ビームシェイピング光学部品、および/または保護ガラスを備えてもよい。ここで、光学部品とは、規定の焦点長さを有するレンズもしくはレンズグループのことであってもよく、または調整可能な焦点長さを有するレンズグループ(たとえば、ズーム光学部品内の複数の可動レンズを有するレンズグループ)のことであってもよい。1つ以上の光学素子は、石英ガラス製であってもよい。しかし、本開示はこれに限定されず、1つ以上の光学素子は、CaF2またはサファイアなどの他の材料製であってもよい。
【0014】
コンピューティングユニットは、好ましくは、焦点位置の時間依存値を、レーザビーム光学部品の倍率mを示すさらなるパラメータに基づき計算するようにさらに構成される。ここで、倍率mは、レーザ機械加工システムの倍率と呼ぶこともできる。いくつかの実施形態では、レーザ出力依存性の焦点シフトAおよび時定数τは、プリセットされてもよいが、レーザ機械加工システムのユーザ向けに設定または変更されることが可能である。その一方で、焦点位置を設定するために使用されるパラメータ倍率mは、好ましくは既知であり、ユーザによって変更または設定することができない。
【0015】
いくつかの実施形態では、コンピューティングユニットは、焦点位置の時間依存値ztを、式:
zt(ΔP,t)=A・m2・ΔP・(1-e-t/τ)
を使用して計算するように構成されており、ここで、ΔP=P-P0であり、Pは、時間tにおける現在のレーザ出力を示し、P0は、基準レーザ出力を示す。時間t=0は、基準出力の変化が生じる時間、すなわちΔP≠0のときとして定義される。レーザ出力がΔPだけ変化すると、熱レンズまたは温度により誘発される屈折力の変化が、時定数τにしたがって変化することがある。この変化は、焦点位置の変化につながり、焦点位置の変化は、修正項zt(ΔP,t)を用いて表すことができる。修正項zt(ΔP,t)は、熱レンズの前記動力学を考慮して、実際の焦点位置をより正確に決定および設定できるようにする。特に、制御ユニットは、修正項zt(ΔP,t)によって表される熱レンズの動的効果が補償されるように、所定の焦点位置Zを設定することができる。その結果、機械加工品質を改善することができる。
【0016】
一実施形態では、レーザ出力依存性の焦点シフトAは、0.002~0.2mm/kWの範囲、または特に0.04mm/kWとすることができる。一実施形態では、時定数τは、0.1~1000秒の範囲、または特に30秒とすることができる。
【0017】
好ましくは、コンピューティングユニットは、焦点位置の定常値z0を使用するようにさらに構成されており、制御ユニットは、レーザビームの焦点位置を、時間依存値ztおよび定常値z0に基づき設定するように構成される。特定のレンズ位置L1における基準出力P0に対する焦点位置の定常値z0は、たとえば光線追跡ソフトウェアを使用して計算されてもよい。好ましくは、1つ以上の定常値が、所与の基準出力P0に対する制御曲線として記憶される。言い換えれば、焦点位置の定常値z0に対応する設定ユニットの設定値、すなわち定常焦点位置z0に対するたとえばレンズ位置L1(z0(P0))が、コンピューティングユニットまたは制御ユニットに記憶されてもよい。
【0018】
定常値z0は、時間に依存しないことが可能であり、特に基準レーザ出力P0に対する熱レンズのない状態の焦点位置を示すことができる。定常値z0は、基準レーザ出力P0に対する熱レンズの動的挙動を考慮しない焦点位置(z)を示すことができる。言い換えれば、定常値z0は、基準レーザ出力P0=0kWに対する熱レンズのない焦点位置(z)を示すことができる。焦点位置は、定常値z0と時間依存値ztとの合計を含んでもよく、またはその合計であってもよい。
【0019】
定常値z0はさらに、熱レンズを有する焦点位置を、基準レーザ出力P0に対する動的挙動を考慮せずに示すことができる。この場合、定常値z0は、たとえば熱レンズを生じさせる光学素子の、光学素子に入射する基準レーザ出力P0の関数としての屈折率nの変化に基づく。
【0020】
好ましくは、制御ユニットは、レーザビームの焦点位置を、焦点位置のオフセットzOffにさらに基づき設定するように構成される。オフセットzOffは、時間およびレーザ出力に依存しないことが可能である。オフセットzOffは倍率mに対して定義されてもよく、たとえばズームシステムにおいては、複数の倍率mがあってもよい。特に、オフセットzOffは、機械公差などの公差を補償することができる。オフセットzOffは、焦点位置をより正確に決定するための精巧な調整に使用されてもよい。焦点位置は、定常値z0と時間依存値ztとオフセットzOffの合計を含んでもよく、またはその合計であってもよい。
【0021】
好ましくは、装置は、少なくともレーザ出力に依存した焦点シフトA、および熱レンズの時定数τに関するユーザ入力を受け取るように構成されたユーザインターフェースを備える。任意選択で、ユーザインターフェースは、少なくとも1つのオフセットzOffに関するユーザ入力を受け取るように構成されてもよい。ユーザインターフェースによって、ユーザがこれらのパラメータを変更できるようにしてもよい。光学部品の構成要素の交換、老朽化、汚損により生じる影響を補償することができる。
【0022】
本開示のさらなる態様によれば、レーザ機械加工システムが提供される。レーザ機械加工システムは、レーザビームを提供するためのレーザ装置と、レーザビームのビーム経路内のレーザビーム光学部品であって、温度依存性の屈折力を有する少なくとも1つの光学素子を含むレーザビーム光学部品と、本開示の実施形態による、レーザビームの焦点位置を設定するための装置とを備える。レーザ機械加工システムは、レーザ切断ヘッドまたはレーザ溶接ヘッドであってもよい。
【0023】
本開示のさらに別の態様によれば、レーザ機械加工システムにおいて、レーザビームの所定の焦点位置を設定するための方法が提供される。この方法は、第1のパラメータ、第2のパラメータ、および第3のパラメータを提供するステップであって、第1のパラメータが、レーザ出力依存性の焦点シフトAであり、第2のパラメータが、レーザビーム光学部品のうちの少なくとも1つの光学素子の、熱レンズに起因した、すなわち温度により誘発される屈折力の変化に起因した、1/eになる焦点位置の変化の時定数τであり、第3のパラメータが、時間tにおける現在のレーザ出力Pを示す、ステップと、焦点位置の時間依存値ztを、第1のパラメータ、第2のパラメータ、および第3のパラメータに基づき計算するステップと、レーザビームの所定の焦点位置Zを、焦点位置の時間依存値ztに基づき設定するステップとを含む。
【0024】
この方法は、本明細書に記載の実施形態による、レーザ機械加工システムにおいてレーザビームの焦点位置を決定するための装置およびこのレーザ機械加工システムの特徴ならびに特性を含み、これらを実装してもよい。
【0025】
さらなる態様によれば、ソフトウェア(SW)プログラムが記載される。ソフトウェアプログラムは、プロセッサ上で走り、これにより本明細書に記載の方法を実行するように構成されてもよい。
【0026】
さらなる態様によれば、記憶媒体が記載される。この記憶媒体は、プロセッサ上で走り、これにより本明細書に記載の方法を実行するように構成されたソフトウェアプログラムを含んでもよい。
【0027】
本開示の実施形態が図に示してあり、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本開示の実施形態によるレーザ機械加工システムを示す図である。
【
図2】本開示の実施形態によるレーザ機械加工システムのレーザビームおよびコリメータ光学部品を示す図である。
【
図3】コリメータレンズおよびその屈折率勾配を示す図である。
【
図4】レーザ機械加工システムを座標系とともに示す図である。
【
図5】焦点位置の定常成分とレーザビーム出力の関数として、レンズ位置を示す図である。
【
図6】レーザビーム出力の様々な変化に対する焦点位置の動的挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、別段の記載のない限り、同様の参照符号は、同様の等価の要素に使用される。
【0030】
図1は、本開示の実施形態によるレーザ機械加工システム100を示す。
【0031】
レーザ機械加工システム100は、切断ヘッドまたは溶接ヘッドなどの機械加工ヘッド101を備えてもよく、またはその機械加工ヘッド101であってもよい。レーザ機械加工システム100は、レーザビーム10(「機械加工ビーム」または「機械加工レーザビーム」とも呼ぶ)を提供するためのレーザ装置110を備える。レーザ装置110は光ファイバを備えてもよく、または光ファイバであってもよく、この光ファイバを介して、機械加工ヘッド101内にレーザビーム10が供給される。
【0032】
レーザ機械加工システム100は、レーザビーム光学部品を備える。特に、レーザ機械加工システム100は、コリメータレンズ、または複数のレンズを有するズームシステムなど、レーザビーム10をコリメートするためのコリメータ光学部品115を備えてもよい。レーザビーム10は、レーザビーム光学部品の任意選択の光学装置140(図示せず)を介して、レーザ装置110から伝播してもよく、この任意選択の光学装置140は、コリメータ光学部品の前面にある保護ガラス、コリメータ光学部品115に対するレンズもしくはアパーチャ、またはこれらの組合せとすることができる。
【0033】
代替的にまたは追加的に、レーザビーム光学部品は、焦点レンズまたはレンズシステムなど、レーザビーム10を加工物1に焦点合わせするための焦点合わせ光学部品120を備える。コリメータ光学部品115および焦点合わせ光学部品120は、機械加工ヘッド101に一体化されていてもよい。たとえば、機械加工ヘッド101は、機械加工ヘッド101に一体化された、または機械加工ヘッド101に装着されたコリメータモジュールを備えてもよい。
【0034】
レーザ機械加工システム100、またはその一部分、たとえば機械加工ヘッド101は、実施形態によれば機械加工方向20に沿って可動であってもよい。機械加工方向20は、加工物1に対する、機械加工ヘッド101などのレーザ機械加工システム100の溶接方向および/または移動方向であってもよい。特に、機械加工方向20は、水平方向であってもよい。機械加工方向20は、「フィード方向」とも呼ぶことができる。
【0035】
レーザ機械加工システム100またはレーザ機械加工ヘッド101は、本開示の実施形態によりレーザビーム10の所定または所望の焦点位置Zを設定するための装置200を備える。焦点位置zは、加工物1に対してリアルタイムに設定されることが可能である。焦点位置zは、焦点合わせ光学部品120によって焦点合わせされるレーザビーム10の、たとえば加工物1に対する焦点の位置を指してもよい。
【0036】
装置200は、焦点位置zの時間依存値z
tを計算するように構成されたコンピューティングユニットと、時間依存値z
tに基づき、レーザビーム10の所定の焦点位置Zをレーザビーム光学部品の可動光学素子を使用して設定するように構成された制御ユニットとを備える。コンピューティングユニットおよび制御ユニットは、共通のソフトウェアおよび/またはハードウェアのモジュールに実装されてもよい。
図1の例には、一体化されたコンピューティングおよび制御ユニット210が示してある。代替的に、コンピューティングユニットおよび制御ユニットは、それぞれが別のソフトウェアおよび/またはハードウェアのモジュールに実装されてもよい。
【0037】
レーザビーム10の焦点位置zは、レーザ機械加工システム100の光学軸2に対して本質的に平行に画定または決定されてもよい。
図1において、焦点位置zは、例として加工物1の表面に示してある。
【0038】
実施形態によれば、レーザ機械加工システム100は、焦点位置zを設定するための設定ユニット150を備えてもよい。設定ユニット150は、制御ユニットに含まれてもよく、または制御ユニットに接続されてもよい。装置200によって決定された焦点位置zに基づき、設定ユニット150は焦点位置zを設定してもよい。たとえば、焦点位置zは、加工物1の表面またはその内部など、たとえば加工物1の領域内の指定された焦点位置Z、すなわち所望の焦点位置に、焦点位置zが対応するように設定されてもよい。焦点位置zを設定するための設定ユニット150は、たとえば、焦点位置を制御するためのレーザビーム光学部品のうちの少なくとも1つの可動光学素子、たとえばコリメータ光学部品115および/または焦点合わせ光学部品120を変位させるアクチュエータを含んでもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、装置200は、現在のレーザビーム出力(たとえば、CW動作における瞬時出力、または短パルス動作における平均出力)を検出するための手段220を備える。装置200またはレーザ機械加工システム100またはレーザ機械加工ヘッドは、たとえばレーザビーム10のレーザビーム出力を測定または決定するように構成された出力センサを含んでもよい。出力センサは、瞬時のまたは現在のレーザビーム出力を測定または決定してもよい。代替的に、装置200はデータインターフェースを備えてもよく、このデータインターフェースを介して、現在のレーザビーム出力に関するデータを、たとえばレーザ装置110から、またはレーザ機械加工システム100もしくはレーザ機械加工ヘッドの制御部から受信することができる。装置200は、焦点位置zを決定および/または設定するためにレーザ出力を使用してもよく、これについては以下で説明する。
【0040】
保護ガラスおよび/またはコリメータ光学部品115および/または焦点合わせ光学部品120など、レーザビーム光学部品の光学素子に関して、熱により屈折力が誘発される現象、すなわち熱レンズが生じることがある。熱レンズは、動的効果とすることができる。この動力学については、
図1および
図2を参照しながらさらに詳細に説明する。
【0041】
図1は、厚さdの金属シート(たとえば、ステンレス鋼)に、フィード速度vで、直径Dの円を切り抜く切断ヘッドを示している。シート厚さd=20mmに対して、たとえばレーザ出力15kWでフィード速度v=2m/分が用いられてもよい。円の直径がD=50mmの場合、切断ヘッドは、各円につき約10秒を必要とする。シートに1つの円だけを切り抜く場合、出力は切り抜きの直前まで0kWであり、切り抜き中には15kWであり、切り抜き後は0kWであってもよい。ここで、焦点位置は、シートの内側、すなわちシート表面の下方にも位置することがある。
【0042】
熱拡散率kは、温度勾配の結果として熱伝導により生じる、温度の空間分布における時間的変化を表すために使用される材料特性である。熱拡散率kは、高温側から低温側への材料の熱伝達の速度を測定する。熱拡散率kは、熱伝導性に関係しており、熱伝導性は、エネルギー伝達を表すために使用される。石英ガラスでは、熱拡散率はk=0.007cm
2/秒である。
図2は、レーザビーム光学部品のレンズ(たとえば、コリメータレンズ)、および約
【数1】
のビーム直径でレンズに衝突するレーザビームを示す。この例では、熱拡散時間はおおよそ
【数2】
である。
【0043】
図1および
図2に関して述べたおおよそ10秒と36秒の時間スケールを比較すると、レーザビーム光学部品に対する温度分布が静的ではない時間に、円が切り抜かれていることが明らかになる。これは、切断品質にとって過渡挙動が重要になりうることを意味する。このことは、より薄いシート、より小さい形状、およびより高いレーザ出力に関して、さらに重大である。
【0044】
したがって、焦点シフトを動的にリアルタイムで補償することが有利である。これを達成するために様々な方法があり、時間依存性の修正項を使用する本発明による補償の利点を強調するために、このうちの一部を以下で説明する。
【0045】
たとえば、熱レンズと相関している可能性のある物理特性の測定に基づく焦点位置制御を(焦点位置を測定することなく)使用することができる。このことは、構造上の労力を最小に抑えて機械加工品質を改善することにつながるが、焦点位置制御における高い精度、したがって高い機械加工品質を可能にするわけではない。
【0046】
焦点位置の決定を含む焦点位置制御も使用することができる。この目的のために、わずかなレーザビームが分離され、センサによって評価されることがある。熱レンズが発生するとき、焦点位置が変化し、センサはビーム直径の変化を検出することができる。焦点位置センサは、ビーム直径と、レーザビームの既知のビーム火面(基準測定)とを比較することにより、実際の焦点位置を決定する。しかし、熱レンズは、焦点シフトを引き起こすだけでなく、ビーム品質の劣化(結像誤差)も引き起こし、全体的なビーム火面の変化、たとえば焦点直径の変化につながる。したがって、基準値との比較により焦点位置を決定することは、不正確であるか、または言い換えれば、リアルタイムでの焦点位置の測定ではない。
【0047】
本発明によれば、焦点位置制御は、熱レンズ、または温度により誘発される屈折力の変化が動的であることを考慮する。言い換えれば、現在のまたは実際の焦点位置の計算は、熱レンズが時間依存性であることを加味する修正項を含む。この目的のために、たとえば加工物に対する焦点の実際の位置は、2つのパラメータ、すなわちレーザビーム光学部品におけるレーザ出力依存性の焦点シフトAと、レーザビーム光学部品における熱レンズに起因した焦点位置の変化の時定数τとを使用して計算される。これに基づき、たとえば加工物の所定または所望またはターゲットの焦点位置に、実際の焦点位置が対応するように、焦点位置を設定することができる。
【0048】
本発明による、現在のまたは実際の焦点位置の計算の好ましい実施形態を、以下で詳細に説明する。
【0049】
図1を参照すると、機械加工ヘッド101の焦点位置zは、1つ以上のレンズを含むことができるモータ付き調整部、たとえばコリメータ光学部品115を使用して設定される。コンピューティングおよび制御ユニット210(「評価ユニット」とも呼ぶ)は、出力データ(たとえば、CW動作における瞬時出力、または短パルス動作における平均出力)と、場合により他のプロセスパラメータ、たとえばモータ付き調整部を制御するためのターゲット焦点位置とを使用する。出力データは、レーザもしくはレーザシステムに対するインターフェース、一体化されたセンサ、またはこれらの両方を介して受信される。コンピューティングおよび制御ユニット210と出力データ取得部の両方は、機械加工ヘッド101に一体化されてもよい。代替的に、それらは外部に設けられて、インターフェースを介して機械加工ヘッド101に接続されてもよい。
【0050】
コンピューティングおよび制御ユニット210は、記憶媒体を備えてもよく、この記憶媒体に、レーザビーム光学部品の(たとえば、
図1または
図4に示してある、コリメータ光学部品または焦点合わせ光学部品とすることができるレンズの)位置L
1と、レーザビームの焦点位置zとの関係が記憶される:
L
1=L
1(Z) (1)
焦点位置zは、レーザ出力Pおよび時間tに依存するので、式(1)を制御曲線として容易に保存することはできない。リアルタイムでの正確な焦点設定を可能にするために、焦点位置zは、以下のように表されてもよい:
z=z(P,t)=z
0(P
0)+z
t(ΔP,t)+z
Offset (2)
焦点位置zは、レーザ出力Pおよび時間tに依存する。この実施形態では、焦点位置zは、3つの成分に分割されてもよい:
1.第1の成分z
0(P
0)は定常であるか、または時間に依存しないが、基準レーザ出力P
0に依存することがある。考えられる1つの実装形態が、
図3~
図5に示してあり、以下で説明する。
2.第2の成分z
t(ΔP,t)は、レーザ出力および時間に依存する。ΔPは、ΔP=P-P
0として定義される。言い換えれば、ΔPは、現在の出力と定常項の基準レーザ出力P
0との差として定義される。さらなる詳細事項は、以下で説明する。
3.第3の成分z
Offsetは、オフセット値である。この成分は、たとえば光学機械公差の調整として機能する。この成分は、時間および出力に依存しない。
【0051】
定常成分z
0(P
0)
最も単純な事例において、定常成分z
0(P
0)は、P=0kWに対して熱レンズのない状態でのレーザビーム光学部品の位置L
1、すなわちL
1(P
0=0kW)を表す。L
1の例示的な記述が、
図4および
図5に示してある。レーザビーム光学部品の位置L
1は、異なる基準レーザ出力P
01およびP
02ごとに異なる。位置L
1は、たとえば光線追跡ソフトウェアを使用して計算可能である。ここで、熱レンズがモデル化される。すなわち温度勾配の結果として、光学構成要素の屈折率nも勾配になる。これらの勾配をモデル化するための異なる手法が存在する。第1近似では、たとえば光学軸に対して垂直な軸rに沿った放物線状の勾配が使用されてもよく、
図3に示してあるように:
n(r)=n
0+c
2・r
2 (3)
であり、ここで、
【数3】
であり、n
0は、r=0に対する、または光学軸上における、光学素子の屈折率であり、r
Strahlは、レーザビームの半径(すなわち、
【数4】
)であり、Lは、光学構成要素(すなわちレンズ)の厚さであり、K
Tは、レンズ材料の熱伝導率係数であり、Pはレーザ出力であり、aは光学構成要素の吸収率であり、dn/dTは、温度Tの関数としての屈折率nの変化である。
【0052】
式(3)および(4)は、式(2)におけるz0(P0)の計算の基礎として機能し、定常状態(t→∞)の屈折率勾配を表す。特に、項z0(P0)は、以下の問題に対する解である:基準レーザ出力P0で焦点位置z0または位置L1(z0)を得るためには、ファイバ端部と、焦点位置を設定するための光学素子、たとえばコリメータ光学部品との間に、どのくらいの距離が必要か。この問題に対する解が、制御曲線として記憶される。
【0053】
屈折率の記述は、温度プロファイルについての他のモデルを用いてさらに精緻化されてもよい。ここではいくつかの選択肢、たとえば勾配n(r)の正確な分析的記述、または有限要素法などの数値法が考えられる。
【0054】
図5を参照すると、位置L
1が厳密に基準レーザ出力P
01、P
02の関数として計算されるようなやり方で、定常成分z
0(P
0)が表されている。このことは、レーザビーム光学部品が単純なレンズではなく、2つ以上の可動レンズがあり、したがって特定の焦点位置および特定の焦点直径を得るために複数のレンズ位置が必要なレンズシステム(たとえば、ズームシステム)である場合に、特に有利である。さらに、
図5において曲線の数は限定されていない。たとえば、位置は、レーザ出力のより小刻みな増分について計算されてもよい。代替的にまたは追加的に、2つの曲線間の位置が補間されてもよい。
【0055】
レンズ位置L1(z0(P0))は、コンピューティングおよび制御ユニットに記憶されてもよい。いくつかの実施形態では、位置は、1つの基準レーザ出力に対してだけではく、複数の基準レーザ出力に対して記憶されてもよい:たとえば、L1(z01(P01))、L1(z02(P02))、L1(z03(P03))、L1(z04(P04))。
【0056】
動的成分z
t(ΔP,t)
第2の成分z
t(ΔP,t)は、焦点シフトの動的挙動を表し、特に
図6に示してある挙動を表す。
図6は、出力がΔP
1からΔP
5まで様々に変化するが、所定の焦点位置Zは変化しない状態での、焦点位置zの例示的な動的挙動を示す。この成分の目的は、所与の焦点位置Zが一定に保たれるように、熱レンズの動的挙動により引き起こされる焦点シフトを補償することである。
【0057】
図1および
図2の例において、2つの時間枠が比較される。すなわち円を切り抜くことができる早さと、レーザ放射が入射する高温のレンズ中心から低温のレンズ外側への熱の移動により温度勾配が上昇する早さである。第一近似として、この過渡挙動は以下のように表されてもよい:
z
t(ΔP,t)=A・m
2・ΔP・(1-e
-t/τ) (5)
mは、光学システム(すなわち、レーザビーム光学部品)の倍率であり、Aは、出力単位当たりの定常状態における2つの出力値間の焦点シフトの大きさを示す第1のパラメータであり、τは、熱レンズの発生の時間スケールを表す。ここで、時間t=0は、出力の変化が生じる時間、すなわちΔP≠0のときとして定義される。その後、すなわちt>0のとき、出力は、少なくとも所定の時間間隔にわたって好ましくは一定である。
【0058】
式(5)は、指数近似を表す。たとえば、焦点位置の指数関数的減少が生じる場合には(
図6のΔP
4またはΔP
5を参照)、時定数τは、焦点位置が1/eに減少するまでの期間を表す。結像スケールが1で、レーザ出力ΔPの変化が1kWであれば、Aは、定常状態での焦点シフトであり、すなわちt→∞である。
【0059】
式(5)は、出力の変化に対する焦点位置の変化を表す。定義によれば、時間t=0は、出力の変化が生じる時間、たとえば、ΔP≠0のときとして定義される。フィルタ信号(たとえば、ローパスフィルタ)を使用して、項P
t=ΔP・(1-e
-t/τ)を近似してもよい。つまり、レーザ出力が既知の場合には、出力ステップΔP
i(
図6を参照)を指数近似において決定するように構成されたフィルタが提供されてもよい。ここでの利点は、出力の変化だけが重要なことから、上記の式(5)において時間tをもはや明示的に考慮しなくてもよいことである。言い換えれば、フィルタは、出力ΔPiの変化(出力ステップまたは出力リープ)を別の値、たとえば時間の経過に伴って固有に変化するフィルタ信号P
tに変換する。したがって、最終的に、焦点位置の「時間依存」値を、出力P
tのみに基づき、すなわちz
t(P
t)として決定することができる。
【0060】
本発明による焦点設定の1つの利点は、レーザ機械加工システムのユーザ(たとえば、最終顧客)が、(たとえば製造業者により)プリセットされた利用可能な3つのパラメータ、すなわちzOffset、A、およびτを有することが可能なことである。これらのパラメータは、最初に理論的に記述されてもよいが、たとえば光学材料の吸収率に起因する、または異なる熱的条件(たとえば、水冷、または水流量、温度など)に起因する特定の散乱を示してもよい。インターフェースによって、ユーザがこれらのパラメータを変更できるようにしてもよい。光学部品の構成要素の交換、老朽化、汚損により生じる影響を補償することができる。
【0061】
また、式(5)により、複数の倍率mを実現可能なズームシステムを記述することもできるようになる。Aおよびτは、倍率mに依存しない。zOffsetは、倍率ごとに個々に定義されてもよいが、時間およびレーザ出力には依存しない。いくつかの実施形態では、倍率mと焦点位置との関係が、コンピューティングおよび制御ユニットに記憶されてもよい。これは、すべての複雑な記述を、コンピューティングおよび制御ユニットに含めることができ、ユーザが、プリセットされたパラメータを単純なパラメータのセットによって最適化できることを意味している。
【0062】
いくつかの実施形態では、過渡挙動の記述(すなわち、式(5))が、より正確に指定されてもよい:
【数5】
Nは自然数であり、適切な大きさになるよう選択されてもよい。この記述とともに、異なる時定数τおよび大きさA
iを使用して、より正確な結果を得ることができる。式(6)は、異なる時間スケールを有する異なる熱プロセスが、焦点シフトに関与する場合に、特に有利である。
【0063】
さらなる実施形態では、過渡挙動の記述が、多項式の項を用いてより正確に指定されてもよい:
【数6】
式(7)の第2項が、M次の多項式である。B
jは、出力jの係数である。各係数(A
i,B
j)は、独立していてもよい。Mは自然数である。
【0064】
本発明によれば、2つのパラメータ、すなわち出力単位当たりの、レーザビーム光学部品におけるレーザ出力依存性の焦点シフトの大きさAと、レーザビーム光学部品における熱レンズに起因した焦点位置の変化の時定数τとを使用して、たとえば加工物に対する焦点の実際の位置が計算される。これに基づき、たとえば実際の焦点位置が所望の焦点位置Zに対応するように、実際の焦点位置zを設定することができる。
【0065】
これにより、単純で堅牢な焦点設定がリアルタイムで可能になる。特に、焦点シフトの動的発生を記述する時間依存性の修正項が、焦点位置の設定に使用される。時間依存性の修正項は、複雑な機械的構造を必要とせず、製造面と動作面の両方において、装置の複雑さを低減することができる。さらに、本発明による解決策により、焦点シフトまたは焦点の変動に対して、柔軟に反応できるようになる。たとえば、光学材料の吸収率に起因する散乱、異なる熱的条件(たとえば、水冷、流量、および温度)、またはレーザビーム光学部品の損傷など、1つ以上の要因を考慮することができる。
【国際調査報告】