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特表2022-504357酸化ビスマスコロイドを含む、局所使用のためのフォトニックバリア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】酸化ビスマスコロイドを含む、局所使用のためのフォトニックバリア
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20220105BHJP
   A61K 8/04 20060101ALI20220105BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/04
A61Q17/04
A61K8/81
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518773
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(85)【翻訳文提出日】2021-05-28
(86)【国際出願番号】 FR2019052321
(87)【国際公開番号】W WO2020070437
(87)【国際公開日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】1859066
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521136541
【氏名又は名称】バイオヌークレアイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アン・アタラン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ノエル・トレル
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB171
4C083AB211
4C083AB212
4C083AB221
4C083AB231
4C083AB241
4C083AC121
4C083AC211
4C083AC241
4C083AC301
4C083AC341
4C083AC421
4C083AC441
4C083AC471
4C083AC511
4C083AC551
4C083AC581
4C083AC691
4C083AC791
4C083AC851
4C083AC901
4C083AC911
4C083AD021
4C083AD071
4C083AD091
4C083AD111
4C083AD161
4C083AD211
4C083AD241
4C083AD261
4C083AD321
4C083AD331
4C083AD351
4C083AD411
4C083AD571
4C083BB11
4C083CC19
4C083EE07
4C083EE17
(57)【要約】
本発明は、金属でドープされた結晶形態の酸化ビスマスコロイドBiを含む、紫外線から可視光線までのフォトニックバリアを生成する局所用組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶形態の酸化ビスマスコロイドBiを含む、紫外線から可視光線までの範囲のフォトニックバリアを生成する局所用組成物であって、
前記酸化ビスマスコロイドが、金属でドープされていることを特徴とする、局所用組成物。
【請求項2】
前記酸化ビスマスコロイドが、単斜晶系であることを特徴とする、請求項1に記載の局所用組成物。
【請求項3】
酸化ビスマスコロイドが、単斜晶系のα相(α-Bi)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の局所用組成物。
【請求項4】
酸化ビスマスコロイドが、単斜晶系α相(α-Bi)でのみ存在することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項5】
単斜晶系が、以下のメッシュパラメータ(mesh parameter):a=5.84Å;b=8.15Å;c=7.50Å;β=112.97°;P21/c空間群においてZ=4、に相当することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項6】
前記金属が鉄であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項7】
前記酸化ビスマスコロイドが、生体適合性ポリマーでグラフトされていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項8】
前記酸化ビスマスコロイドが、ポリビニルピロリドン(PVP)及びそのコポリマー(例えば、トリアコンタニル-PVP、PVP-エイコセン、又はPVP-ビニルアセテート等)、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロライド、スチレン系樹脂、ポリアミド、アクリレート、ポリエステル、ポリブテン、多糖類(例えば、プルラン、アラビノキシラン、セルロース、キチン、キトサン、キサンタンガム、デキストラン、ウェランガム、ジェランガム、アラビアガム、ヒアルロン酸、セルロース及びその誘導体、デンプン、ジウタン等)、タンパク質及びそれらの成分(例えば、セリシン及びアミノ酸)、脂肪酸、リン脂質、ホスホグリセリド、トリグリセリド、シランカップリング剤、及びそれらの混合物を含む群から選択される生体適合性ポリマーでグラフトされていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項9】
ドープされた酸化ビスマスコロイド、有利には生体適合性ポリマーでグラフトされたドープされた酸化ビスマスコロイドを、局所用組成物の質量に対して1~60質量%、有利には20~50質量%含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項10】
ドープされた酸化ビスマスコロイドBiが、60~100%の、ドープされたα結晶相の酸化ビスマスコロイド、有利には生体適合性ポリマーでグラフトされたドープされたα結晶相の酸化ビスマスコロイドを含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項11】
ドープされた酸化ビスマスコロイド、有利には生体適合性ポリマーでグラフトされたドープされた酸化ビスマスコロイドが、0.5nm~1000nm、有利には0.5nm~100nmの範囲のサイズを有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項12】
以下:
- 酸化チタン(TiO)、亜鉛(ZnO)、鉄(Fe)、ジルコニウム(ZrO)、シリコン(SiO)、マンガン(例えばMnO等)、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、及びそれらの混合物を含む群から選択される、少なくとも1つの親油性及び/又は親水性の無機日焼け止め剤;及び/又は、
- INCI指定品である、カンファーベンザルコニウムメトサルフェート、ホモサレート、ブチルメトキシジベンゾイルメタン、フェニルベンゾイミダゾール-スルホン酸、テレフタリリデンジカンファースルホン酸、ブチルメトキシジベンゾイルメタン、ベンジリデンカンファースルホン酸、オクトクリレン、ポリアクリルアミドメチルベンジリデンカンファー、エチルヘキシルメトキシシンナメート、PEG-25 PABA、イソマミルp-メトキシシンナメート、エチルヘキシルトリアゾン、ドロメトリゾールトリシロキサン、ジエチルヘキシルブタミドトリアゾン、4-メチルベンジリデンカンファー、3-ベンジリデンカンファー、エチルヘキシルサリチレート、エチルヘキシルジメチルPABA又はオクチルジメチルPABA、ベンゾフェノン-4/ベンゾフェノン-5、メチレンビス-ベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール、フェニルジベンゾイミダゾールテトラスルホン酸二ナトリウム、ビス-エチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、ポリシリコーン-15、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート、及びそれらの混合物を含む群から選択される、少なくとも1つの親油性及び/又は親水性有機日焼け止め剤
をさらに含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項13】
分散剤、保湿剤、安定剤、及びpH調節剤を含む群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項14】
日焼け止め組成物であることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項15】
局所用組成物の総質量に対して、以下:
- 1~60質量%の、ドープされた単斜晶系α相の酸化ビスマスコロイド(α-Bi)、有利には生体適合性ポリマーでグラフトされているドープされた単斜晶系α相の酸化ビスマスコロイド(α-Bi);
- 2~20%の、生体適合性ポリマー、好ましくはポリビニルピロリドン;
- 5~25質量%の、保湿剤、好ましくはグリセロール;
- 0.5~5質量%の、安定剤、好ましくはソルビタンモノラウレート;
- 0.1~1質量%の、pH調節剤、好ましくはクエン酸;及び
- 20~80質量%の、水及び/又は油
を含むことを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の局所用組成物。
【請求項16】
ドープされた酸化ビスマス(Bi)コロイド、有利には生体適合性ポリマーでグラフトされているドープされた酸化ビスマス(Bi)コロイドの、紫外線フィルター、有利には200~420nmの波長スペクトルの紫外線フィルターとしての、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UVから可視光線に及ぶフォトニックバリア、より具体的には、ドープされた酸化ビスマスコロイド、特に酸化ビスマスα-Biを、任意選択によりポリマーでグラフトされていてよい形態で含む、局所組成物、及びそれらの使用に関する。
【0002】
本発明の使用分野は、特に化粧品及び医療機器の分野、より具体的には電磁放射に対する保護の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
紫外線A(UV-A;400~315nm)が地球の表面に当たる紫外線の95%を占めることはよく知られている。これらは、フリーラジカルを生成し、したがって酸化ストレスの現象を引き起こすことによって皮膚の早期老化を引き起こす。
【0004】
紫外線B(UV-B;315~280nm)は、UV-Aよりもエネルギーが高い。ただし、これらは大気によって部分的にフィルタリングされ、地球上に受ける紫外線の5%を占める。それらは光線性紅斑の原因であり、フリーラジカルの生成によりもたらされる細胞の酸化ストレスによる皮膚の老化の加速をも助ける。
【0005】
紫外線C(UV-C;280~100nm)は、UV-Bよりもさらにエネルギーが高い。一方、これらはオゾン層によってほぼ完全にフィルタリングされ、日焼け止め剤(sun filter)の分野では特に注目される対象ではない。
【0006】
可視紫外線(UV-V;400~490nm)は、他の紫外線よりもエネルギーが低い。しかし、それらは皮膚に最も深く浸透し、網状真皮に到達し、重大な細胞損傷を引き起こす可能性がある紫外線である。
【0007】
本発明の目的のために、「可視紫外線又はUV-V」という用語は、紫外線に近い可視放射線、好ましくは400から490nm、有利には400から450nm、さらにより有利には400から420nmの放射線を意味する。
【0008】
すべての紫外線は発がんのメカニズムに関与している。
【0009】
一般に、日焼け止め組成物は、有機又は無機であり得る少なくとも1つの日焼け止め剤を含む。
【0010】
例として、そしてこれらに限定されないが、有機日焼け止め剤は、以下のファミリー:アミノベンゾエート、シンナメート、サリチレート、ベンゾフェノン、フェニルベンゾトリアゾール等に属する化合物であり得る。
【0011】
無機日焼け止め剤には、特に、二酸化チタン(TiO)及び酸化亜鉛(ZnO)が含まれる。
【0012】
このタイプの保護は、紫外線の有害な影響を制限することを可能にする。
【0013】
上述した様々な日焼け止め剤は、人間が曝される可能性のある紫外線の全範囲をカバーしているわけではない。実際、これは、フィルター(filter)が一般に限られた範囲の波長に対して活性だからである。例えば、二酸化チタン及び酸化亜鉛は全てのUV-Aをフィルターするわけではなく、有機のエチルヘキシルトリアゾンフィルターはUV-Bのみをフィルターする。
【0014】
可視UV-V又は紫外線に対するフィルターによるより特異的な保護、すなわち、紫外線に近い可視放射線、好ましくは400~490nm、有利には400~450nm、さらにより有利には400~420nmの紫外線に近い可視放射線の保護に関しては、これまでのところ、効果的かつ特異的な開発対象にされていない。
【0015】
この問題を解決するために、日焼け止め組成物は、一般に、紫外線、主にUV-A(400~315nm)及びUV-V(400~490nm)の下流効果を制圧する数種の日焼け止め剤及び抗酸化剤を組み合わせる。それは、有機及び/又は無機の日焼け止め剤の混合物であり得る。
【0016】
しかし、複数のフィルターと多くの添加剤を組み合わせると、様々な要素間の相互作用の問題を引き起こし、保護の効果に影響を与え得る。一方、有機フィルターは皮膚から簡単に吸収され得る。しかし、一部の有機フィルターは、人間の健康に悪影響を及ぼすこと、特に内分泌かく乱物質であることが疑われている。最後に、様々なフィルターは劣化されやすく、ここでも日焼け止め効果が制限され、体に害を及ぼしさえする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決することを提案する課題は、紫外線から皮膚を保護することが意図され、上述した欠点を有さない組成物を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
酸化ビスマスは、一般に、医用画像の分野で、X線乳白剤として、又はエネルギーの分野で、例えば燃料電池の電解質で使用されている。
【0019】
出願人は、全く予想外に、非アモルファス形態の酸化ビスマス、すなわち結晶形態の酸化ビスマスが、化粧品組成物、特に紫外線放射フィルターとして使用できることに気づいた。
【0020】
第1の態様によれば、本発明は、金属でドープされた結晶形態の酸化ビスマスコロイドBiを含む局所用組成物に関する。
【0021】
この組成物は、紫外線から可視光線まで、好ましくは200~490nm、有利には200~450nm、さらにより有利には200~420nmの範囲のフォトニック(photohnic、光量子の)バリアを作り出す。
【0022】
結晶形態でドープされた酸化ビスマスコロイドBiの存在のおかげで、この組成物は、市販のフィルターよりも大幅に幅広い電磁放射の一部を遮断することにより、フォトニック保護を提供する。したがって、本発明は、同じ範囲の波長、特にUV-C線及びUV-V線を遮断するために数種の有機及び/又は無機のフィルターの使用を必要とする従来技術の組成物に対して、否定できない利点を提供する。
【0023】
本発明によれば、コロイドは結晶形態の粒子を指す。それらは量子ドットとも呼ばれる。液体媒体、例えば水性媒体中で、コロイドは、コロイド懸濁液又はコロイド分散液を形成する。
【0024】
好ましい実施形態によれば、コロイドは、ナノ構造体又はナノ結晶を意味する。
【0025】
酸化ビスマスコロイドBiは、従来の手法に従って、例えば前駆体成長のいわゆる「ボトムアップ」アプローチによって合成することができる。ナノマテリアルの分野で一般的に用いられるこの合成ルートでは、核形成工程と、孤立した原子からの成長工程とが実施される。これにより、コロイドのサイズを制御することが可能になる。
【0026】
酸化ビスマスコロイドBiは、従来の前駆体、例えばシュウ酸ビスマス等、すなわちBi(C又はBi(C)OH、又は硝酸ビスマスBi(NOから合成できる。
【0027】
特定の実施形態によれば、Biコロイドの合成は、塩基性媒体中、例えば水酸化ナトリウムの存在下で実施することができる。
【0028】
別の特定の実施形態によれば、Biコロイドの合成は、硝酸及び/又はポリビニルピロリドン及び/又はグリセリン等の化合物の存在下で実施することもできる。
【0029】
有利には、本発明によるBiコロイドの合成は、水中で実施することができる。
【0030】
こうして得られたBi結晶を、次の方法で処理することができる。
- 沈殿;及び/又は
- 洗浄、特にろ過による洗浄、及び/又は
- 焼成。
【0031】
既に示したように、出願人は、酸化ビスマスコロイドが、特にそれが皮膚に適用される場合に、電磁放射線、有利には200nm~420nmの、好ましくは紫外線放射線を遮断するための薬剤として作用し得ることに気付いた。
【0032】
結晶は、それらの形態学的対称性及びそれらの物理的性質に従って、結晶系に分類することができる。
【0033】
酸化ビスマスBiは、様々な熱的、伝導的、及び光学的特性を備えた様々な結晶学的(多形)相、例えば、
- α相;及び
- 正方晶系のβ相;
- 中心立方構造のγ相;
- 面心立方構造のδ相
を有し得る。
【0034】
α相は、格子定数(lattice parameter)が、a=5.84Å;b=8.15Å;c=7.50Å;β=112.97°であり;P21/c空間群においてZ=4である、単斜晶系型のネットワークで結晶化する。この相では、遊離の酸素サイトの4分の1で秩序だった空孔が見られる。
【0035】
合成条件又は温度条件に応じて、これらの相のいずれかを促進することができる。
【0036】
予期せぬことに、ドープされた酸化ビスマスコロイド、有利にはドープされた単斜晶形態の酸化ビスマスコロイド、さらに有利にはドープされた単斜晶形態のα相の酸化ビスマスコロイドは、ほぼ全紫外線範囲にわたって、すなわち200及び420nmの波長で遮断効果を示す。
【0037】
特定の実施形態によれば、本発明による組成物は、単斜晶系の結晶形態でのみ存在する酸化ビスマスコロイドBiを含む。
【0038】
特定の実施形態によれば、本発明による組成物は、α相の単斜晶系の結晶形態でのみ存在する酸化ビスマスコロイドBiを含む。
【0039】
言い換えれば、本発明による組成物は、
- β、γ、及びδ相の;及び/又は
- 正方晶系、中心立方系、及び面心立方系の
酸化ビスマスコロイドBiを欠いている。
【0040】
本発明の本質的な特徴によれば、酸化ビスマスコロイドは、ドーピング剤、例えば金属等でドープされている。
【0041】
本発明の目的のために、「ドープ」及び「ドーピング」という用語は、結晶格子において、ビスマス原子を金属原子で置換することを意味する。
【0042】
本発明によれば、ドーピングは、酸化ビスマスコロイドBiの合成を、特に「ボトムアップ」によって、且つドーピング剤の前駆体又はドーピング剤の存在下で、実施することからなる。
【0043】
本発明の意味の範囲内においてドーピングは、最初に酸化物コロイドを合成し、次にそれらをドーピング剤の前駆体と混合することからなる、従来のドーピングとは異なる。
【0044】
本発明によれば、ドーピングにより結晶形態の形状は変化しない。換言すれば、α-Biコロイド(α相及び単斜晶格子)のX線粉末回折パターンは、本発明による金属でドープされたα-Biコロイド(α相及び単斜晶格子)のX線粉末回折パターンと正確に重なる
【0045】
これに対して、従来技術では、α-Biコロイドに元素、特に金属をドープすると、結晶形態が変化する。したがって、コロイドは、α相の形態だけで存在せず、α相、ガンマ相、及び/又はδ相の混合物の形態で存在する。
【0046】
特定の実施形態によれば、金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタニド、アクチニド、遷移金属、貧金属、メタロイド及びそれらの集合体を含む群から選択される。有利には、金属は、遷移金属である。
【0047】
例えば、酸化ビスマスコロイドのドーピングは、鉄、マンガン、マグネシウム、銅、クロム、ニッケル、又は亜鉛を用い、任意選択でカリウム又はカルシウムを除外して、実施することができる。
【0048】
有利なことに、金属は鉄である。
【0049】
一般に、このドーパントは、(生体適合性ポリマーでグラフトする前の)Biの質量に対して0.01~5質量%、より有利には0.01~0.15%を占める。
【0050】
酸化ビスマスコロイドに金属、好ましくは鉄をドープすると、コロイドの光触媒活性が阻害される。この活性の抑制は、結晶メッシュが分離し、それが電子の移動を防ぐことによるものである。
【0051】
電磁放射遮断機能に加えて、ドープされた酸化ビスマスコロイドは、本発明による化粧品組成物に、抗酸化性、抗菌性、殺菌性、抗ビオフィルム性、抗カビ性、及び抗ウイルス性を提供することもできる。
【0052】
放射線結晶学又はX線回折法とも呼ばれるX線結晶学は、原子スケールで結晶性材料の構造を研究することを可能にする。この手法は、X線回折の物理現象に基づいている。例えば、銅の線源を有する回折計を使用することができる。
【0053】
このため、回折パターンは、化合物の結晶形態の真のシグナル(signature)を形成する。このシグナルは、化合物の結晶形態に固有のものである。これは、角度2θ(2シータ)の位置ピークのリストの形式を取る。
【0054】
本発明の好ましい実施形態によれば、ドープされた酸化ビスマスコロイドは、有利には単斜晶系であり、さらにより有利には、αの単斜晶系、αBi相、すなわちα-Bi相である。
【0055】
特定の実施形態では、ドープされたBiコロイドは、生体適合性ポリマーでグラフトされている。
【0056】
本発明で使用される酸化ビスマスコロイドは、従来技術の粒子、例えば、特開2010-090001号及び特開2010-090002号に開示されているものに匹敵するものではない。これらの文献には、ドープされていない粒子及び/又はグラフトされていない粒子が開示されており、結晶相(α、β、γなど)も特定されていない。
【0057】
本発明の目的のために、「生体適合性」という用語は、皮膚、粘膜及び外皮と細胞適合性であり、インビトロで再構築されたヒト表皮(SkinEthic RHEモデル)に対して15%未満、好ましくは10%未満の細胞毒性を示す化合物を意味する。言い換えれば、この化合物は細胞生存率に関してほぼ中性のままである。
【0058】
この細胞適合性は、試薬がテトラゾリウム塩:MTT〔3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド〕である、細胞生存率試験によって評価することができる。
【0059】
MTT試験は、ミトコンドリア活性を検出するための比色法であり、成分の細胞毒性力を評価することができる。これは、試薬に含まれるテトラゾリウム環が、活性生細胞のミトコンドリアコハク酸デヒドロゲナーゼによってホルマザンに還元されることに基づいている。これにより、ミトコンドリア内に紫色の沈殿物が形成される。
【0060】
実際には、試験要素を表皮に42分間適用した後、42時間の処理後インキュベーションを行った後、生細胞内のミトコンドリアコハク酸デヒドロゲナーゼの活性を測定することによって細胞生存率を評価する。この酵素は、MTTを青いホルマザンの結晶に変換する。これらの結晶を溶解させた後、550nmで光学密度の分光光度法による読み取りを行う。吸光度の測定値は、生細胞の数に比例する。
【0061】
生体適合性ポリマーは、親水性又は親油性の特性を有し得る。有利には、生体適合性ポリマーは親水性ポリマーである。
【0062】
この生体適合性ポリマーは、有利には親水性であり得、ポリビニルピロリドン(PVP)及びそのコポリマー、例えばトリアコンタニル-PVP、PVP-エイコセン又はPVP-ビニルアセテート、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロリド、スチレン系、ポリアミド、アクリレート、ポリエステル、ポリブテン、多糖類、例えばプルラン、アラビノキシラン、セルロース、キチン、キトサン、キサンタンガム、デキストラン、ウェランガム、ジェランガム、アラビアガム、ヒアルロン酸、セルロース及びその誘導体、デンプン、ジュタン、タンパク質及びそれらの成分、例えばセリシン及びアミノ酸、脂肪酸、リン脂質、ホスホグリセリド、トリグリセリド、シランカップリング剤及びそれらの混合物を含む群から選択され得る。
【0063】
グラフト化は、コロイドと皮膚との間の生体接着性を向上させることにより、Biコロイドの皮膚への浸透を防ぐ。言い換えれば、コロイドの皮膚への付着を向上させることにより、コロイドが皮膚に浸透することが制限又は防止される。
【0064】
物理的又は機械的相互作用及び化学的相互作用を通じて、生体適合性ポリマーは皮膚上で生体接着剤として機能する。したがって、本発明による組成物は、皮膚に付着し、水又は海水での単純な洗浄によって除去されない。
【0065】
皮膚との化学結合の生成によって生じる生体適合性ポリマーの生体接着は、次に、以下の結果をもたらす:
- 生体適合性ポリマーと皮膚との間の密接な接触。この密接な接触は、皮膚上の生体接着性の生体適合性ポリマーの湿潤及び/又はその膨潤により支持される。
- 生体接着性の生体適合性ポリマーによる、皮膚のひび割れや細い線の充填。
【0066】
生体適合性ポリマーは、水性媒体中のBiコロイドの分散性を向上させることも可能にし、したがって、本発明による組成物が皮膚に適用されるときに均一な分布を得ることを可能にする。したがって、本発明によるコロイドを含む組成物は、有利には、コロイドが懸濁状態にある組成物である。
【0067】
生体適合性ポリマーでグラフトすることにより、Biコロイドの安定性を経時的に改善し、かつ/あるいは酸性pH、特に皮膚のpHを5.2~7に改善することもできる。グラフトしない場合、Biコロイド、特にα-Biは、時間の経過とともに不安定になり、かつ/あるいは7未満のpHでより急速に劣化する。
【0068】
コロイドのグラフト化又は官能化の概念は、当業者の一般的な知識の一部である。グラフト化又は官能化は、共有結合の形成、例えば、生体適合性ポリマーとコロイドの表面との間の共有結合の形成に相当する。これらはコア/シェルタイプのコロイドではない。
【0069】
生体適合性ポリマーは、コロイドに親油性又は親水性の特性をもたらし得る。
【0070】
一般に、組成物は、有利には、組成物の質量に対して1~60質量%、より有利には20~50%の、グラフトされ、ドープされたBiコロイドを含み得る。これは、ドープされ、かつ有利にはグラフトされたBiコロイドの質量パーセントである。
【0071】
有利には、組成物のドープされたBiコロイドは、α結晶形態のドープされた酸化ビスマスコロイド、好ましくはドープされた単斜晶系α結晶形態の酸化ビスマスコロイドを、60~100%、有利には80~100%、好ましくは100%含み得る。α結晶形態のこれらのドープされたコロイドは、生体適合性ポリマーで有利にグラフトされている。言い換えれば、この実施形態によれば、組成物のドープされたBiコロイドの60~100%、好ましくは80~100%、より好ましくは100%は、α結晶形態である。
【0072】
Biコロイドは、有利には、形状が球形である。
【0073】
ドープされ、グラフトされているかどうかにかかわらず、有利にはα結晶相、好ましくは単斜晶系α結晶相にあるBiコロイドは、有利には0.5~1000nm、より有利には0.5~100nm、さらにより有利には30nmのオーダーのサイズを有する。
【0074】
サイズは、固体状態の結晶のサイズを測定する技術であるXRD(X線回折)によって測定される。
【0075】
「サイズ」という用語は、コロイドの最大寸法、例えば球形のコロイドの場合の直径を示す。これは、グラフト化又は非グラフト化コロイドの平均サイズである。実際、本発明によるグラフト化コロイドのサイズも、上述した値の範囲内に含まれる。
【0076】
特定の実施形態によれば、組成物は、親油性及び/又は親水性の無機日焼け止め剤も含み得る。このフィルターは、特に、酸化チタン(TiO)、亜鉛(ZnO)、鉄(Fe)、ジルコニウム(ZrO)、シリコン(SiO)、マンガン(例えば、MnO)、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、及びそれらの混合物を含む群から選択することができる。
【0077】
有利には、無機日焼け止め剤はコロイド状又は粒子状である。
【0078】
別の特定の実施形態によれば、組成物は、親油性及び/又は親水性の有機日焼け止め剤も含み得る。このフィルターは、特に、INCI指定品である、カンファーベンザルコニウムメトサルフェート、ホモサレート、ブチルメトキシジベンゾイルメタン、フェニルベンズイミダゾール-スルホン酸、テレフタリリデンジカンファースルホン酸、ブチルメトキシジベンゾイルメタン、ベンジリデンカンファースルホン酸、オクトクリレン、ポリアミドメトキシベンジリデンカンファー、メトキシケイ皮酸エチルヘキシル、PEG-25 PABA、p-メトキシケイ皮酸イソマミル、エチルヘキシルトリアゾン、ドロメトリゾールトリシロキサン、ジエチルヘキシルブタミドトリアゾン、4-メチルベンジリデンカンファー、3-ベンジリデンカンファー、サリチル酸エチルヘキシル、エチルヘキシルジメチルPABA又はオクチルジメチルPABA、ベンゾフェノン-5/ベンゾフェノン-4、メチレンビス-ベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール、二ナトリウムフェニルジベンズイミダゾールテトラスルホネート、ビス-エチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、ポリシリコーン-15、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイルヘキシルベンゾエート、及びそれらの混合物を含む群から選択することができる。
【0079】
特定の実施形態によれば、局所用組成物は、治療的使用が意図されている。
【0080】
別の特定の実施形態によれば、局所用組成物は、治療的使用が意図されていない。
【0081】
有利には、本発明による組成物は、日焼け止め組成物である。
【0082】
本発明による組成物は、好ましくは金属でドープされ、有利にはグラフトされたコロイドの水性懸濁液の形態、好ましくは金属でドープされ、有利にはグラフトされたコロイドの懸濁液の形態、又は、好ましくは金属でドープされ、有利にはグラフト化されたコロイドを含む油中水型若しくは水中水型のエマルジョンの形態であり得る。
【0083】
生体適合性ポリマーは、親水性又は親油性の特性を有し得る。
【0084】
組成物が油型分散剤を含む場合、酸化ビスマスコロイド上にグラフトされた生体適合性ポリマーは、有利には親油性である。
【0085】
組成物が水型分散剤を含む場合、酸化ビスマスコロイドにグラフトされた生体適合性ポリマーは、有利には親水性である。
【0086】
本発明による組成物は、有利には、組成物の質量に対して2~20質量%、より有利には4~10%質量%の生体適合性ポリマーを含む。これらの百分率には、好ましくは金属でドープされたBiコロイド上に任意選択でグラフトされた、生体適合性ポリマーが含まれる。
【0087】
特定の実施形態によれば、本発明による組成物は、分散剤、保湿剤、安定剤、及びpH調節剤を含む群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含み得る。
【0088】
有利には、分散剤は水及び/又は油である。
【0089】
好ましくは、油は、植物由来の炭化水素油(ヒマワリ、トウモロコシ、大豆、ブドウ種子、ゴマ、ヘーゼルナッツ、ヒマシ油など)、鉱物由来又は合成由来の(線状又は分枝状の)炭化水素(パラフィン油等)、シリコーン油(ポリメチルシロキサン、シクロポリジメチルシロキサン等)、フッ素化油、及びそれらの混合物を含む群から選択される。
【0090】
別の実施形態によれば、油は、動物由来の炭化水素油であり得る。
【0091】
分散剤は、有利には水である。
【0092】
実際には、本発明による組成物は、有利には、組成物の質量に対して20~80質量%の水及び/又は油を含み、より有利には、40~60質量%の水及び/又は油を含む。
【0093】
有利には、保湿剤は、グリセロール、尿素、乳酸、及びそれらの混合物を含む群から選択される。
【0094】
本発明による組成物は、有利には、組成物の質量に対して5質量25質量%の間、有利には7質量~15質量%の保湿剤を含む。
【0095】
保湿剤は、皮膚に塗布した後で組成物が過度に急速に乾燥することを防ぐのに役立つ。肌に潤いを与えることにも役立つ。また、組成物の皮膚への広がりを最適化することを目的として、本発明による組成物の粘度を制御することにも貢献し得る。
【0096】
有利には、安定剤は、モノラウリン酸ソルビタン、グアーガム、キサンタンガム、及びそれらの混合物を含む群から選択される。
【0097】
本発明による組成物は、有利には、組成物の質量に対して0.5~5質量%の安定剤、より有利には1~3%の安定剤を含む。
【0098】
安定剤は、組成物の粘度を調節することを可能にする。
【0099】
有利には、pH調節剤は、クエン酸、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸、ホウ酸、フマル酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、尿酸、及びそれらの混合物を含む群から選択される。
【0100】
本発明による組成物は、有利には、組成物の質量に対して0.1~1質量%のpH調節剤、より有利には0.2~0.5%のpH調節剤を含む。
【0101】
pH調節剤は、組成物のpHを生理学的値に維持することを可能にする。組成物を皮膚に適用したとき、すなわち酸性媒体に適応したときのpHを調整することによって、組成物の安定性を向上させる。
【0102】
当業者は、pH調節剤の量を、組成物が有利には5.2~7のpHを有するように適合させる方法を知っているであろう。
【0103】
特定の実施形態によれば、本発明による組成物は、有利には防腐剤を含まないが、このことは、従来の日焼け止め組成物の大部分には当てはまらない。
【0104】
すでに述べたように、本化粧品組成物は局所組成物である。この組成物には多くの利点があり、中でも次の利点がある:
- わずかな種類の成分を、有利には水性媒体中に含む単純な製剤であること、
- 広範囲の紫外線(UV-C、UV-B、UV-A、及びUV-V)に対する保護における高められた効果(そのような組成物はソーラーペイントに例えられる)、
- 非常に高い日焼け止め係数、
- 角質層(皮膚の最も外側の細胞層)への浸透がほとんど又は全くなく、敏感でアトピー性の皮膚を保護すること、
- 肌への密着性が良く、日焼け止めを長持ちさせること。
【0105】
好ましい実施形態によれば、本発明による組成物は、組成物の質量に対して、以下を含む:
- 1~60質量%の、ドープされた酸化ビスマスコロイド、有利には単斜晶系α型(α-Bi)であり、有利には生体適合性ポリマーでグラフトされているドープされた酸化ビスマスコロイド;
- 2~20質量%の、構造化生体適合性ポリマー、好ましくはポリビニルピロリドン(PVP);
- 5~25質量%の、保湿剤、好ましくはグリセロール;
- 0.5~5質量%の、安定剤、好ましくはソルビタンモノラウレート;
- 0.1~1質量%の、pH調節剤、好ましくはクエン酸;及び
- 20~80質量%の、水及び/又は油。
【0106】
好ましい実施形態によれば、本発明による組成物は、組成物の質量に対して、以下を含む:
- 1~60質量%の、ドープされた酸化ビスマスコロイド、有利には単斜晶系α型(α-Bi)でのみ存在し、有利には生体適合性ポリマーでグラフト化されているドープされた酸化ビスマスコロイド;
- 2~20質量%の、構造化生体適合性ポリマー、好ましくはポリビニルピロリドン(PVP);
- 5~25質量%の、保湿剤、好ましくはグリセロール;
- 0.5~5質量%の、安定剤、好ましくはソルビタンモノラウレート;
- 0.1~1質量%の、pH調節剤、好ましくはクエン酸;及び
- 20~80質量%の、水及び/又は油。
【0107】
有利には、本発明による組成物は、二酸化炭素を欠き、有利には酸素を欠く媒体中で保存することができる。これらの貯蔵条件は、本発明による組成物の使用期間を延長することを可能にする。
【0108】
本発明は、有利にはUV-A、UV-B、UV-C及びUV-Vの、好ましくは200~420nmの波長スペクトルの紫外線フィルターとしての、ドープされた酸化ビスマスコロイド(α-Bi)、有利には生体適合性ポリマーでグラフトされているドープされた酸化ビスマスコロイド(α-Bi)の使用にも関する。この使用は、コロイドが局所化粧品組成物に含有されている場合に特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0109】
図1図1は、有機及び無機の日焼け止め剤、及び本発明の好ましい実施形態(ドープされたα-Bi)による日焼け止め剤の吸収スペクトルを表す。
図2図2は、ドープされた、TiO、ZnO、及びα-Biのコロイド溶液の、波長に基づく反射率を表す。
図3図3は、ドープされた、TiO、ZnO、及びα-Biのグラフト化粒子を含む組成物の、質量百分率に基づく日焼け防止係数(SPF)を表す。
図4図4は、本発明の好ましい実施形態(ドープされたα-Bi)及び対照による、無機日焼け止め剤の光触媒活性の分析を表す。
図5図5は、本発明によるα-Biコロイド(単斜晶系α結晶相)のピークと、市販のα-Biコロイドのピークとを比較する、X線粉末回折図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0110】
本発明及びそれから生じる利点は、本発明を説明するために限定的することなく提示する、上述した図及び以下の実施例から明確に明らかになるであろう。
【実施例
【0111】
1/[ドープされた酸化ビスマスコロイドの合成]
酸化ビスマス前駆体、例えば硝酸ビスマス五水和物等と、鉄前駆体、例えば塩化鉄等とを、水、硝酸、及び水酸化ナトリウムと混合した後、オートクレーブ内に密封する。
【0112】
次に、反応混合物を沈殿させ、次に濾過により洗浄してから、100~500℃の温度で焼成工程を行う。
【0113】
反応混合物が設定温度に達すると、ドープされた酸化ビスマスが結晶化するまで温度を維持する。
【0114】
直径7nmの球状酸化ビスマスナノ結晶が収集される。
【0115】
本発明による単斜晶系格子内でα相結晶形態でのみ存在するBiコロイド(α-Bi)のピーク、及び市販のα-Biコロイドのピークを比較する、X線粉末回折パターンを図5に示す。
【0116】
結果は、本発明によるコロイドと比較して、市販のα-Biコロイドは、追加の及び/又は異なるピークの存在を示している。市販のα-Biコロイドは、α相及びガンマ相の酸化ビスマスの混合物である。実際、約30°の2θのピークはα相ではなくガンマ相に対応しており、約27.5°の2θのメインピーク周辺のマイナーピークはガンマ相では予想されないが、α相では見られる。
【0117】
対照的に、本発明によるコロイドは純粋であり、α相以外の酸化ビスマスの結晶相に帰属される可能性がある追加のピークを示さない。言い換えれば、本発明によるコロイドは、単斜晶系アレイ(array)におけるα相の結晶形態にのみ対応する。
【0118】
2/[α-Bi、TiO及びZnOコロイド]
単斜晶系α-Biコロイド、TiO粒子、及びZnO粒子の吸収スペクトルを比較した。
【0119】
そのために、以下の化合物を水中で使用した。
(a)アナターゼ型のTiOコロイド(40nm、DLSで測定して250nm程度の凝集体)。このTiOは2質量%のPVPでグラフトされている。
(b)2質量%のPVPでグラフトされている、ZnOコロイド(15nm)、
(c)2質量%のPVPでグラフトされている、鉄でドープされたα-Biコロイド(α相及び単斜晶系アレイのコロイド;XRDで測定して30nm、DLSで測定して40nm)。
【0120】
質量%は、鉄をドープしたTiO、ZnO、又はα-Biの質量に対するPVPの質量百分率を示す。
【0121】
コロイドのグラフト化は、従来の方法で、例えば、コロイド及びグラフトされることとなるポリマー(PVP)を含有する水及びエタノールの溶液中で実施する。
【0122】
XRDでサイズを測定するために使用する回折計によって生成される波長は、1.54Åに等しいCu-Kα線に対応する。使用するその他のパラメータは、加速電圧:40kV;電流:40mA;Bragg-Brentano型ジオメトリ。
【0123】
DLSによるサイズ測定のための条件は、633nmに等しい波長;90°の検出器;25℃。分析試料は、1mmのタンク内でココシリコンオイル中に希釈する(0.5g/L)。
【0124】
2-a)[質量吸光係数]
これらの化合物の、波長に基づく平均質量吸光係数(ε)を、従来の分光光度計を使用した測定から得た。平均質量吸光係数は、10μm、100μm、及び0.1cmの厚さのタンクで、10質量%(100g/L)、0.75質量%(7.5g/L)、及び0.05質量%(0.5g/L)の溶液について実行した測定の平均に相当する。この質量吸光係数は、ランベルトベールの式:
ε=A/lC
(式中、Aは測定された吸光度、l(cm)は試料を通る光路、C(g/L)は試料の質量濃度である。)
から得られる。
【0125】
結果を図2に示す。
【0126】
TiO粒子は、UV-B領域(280~315nm)でより高い平均質量吸光係数を示す。しかし、ドープされたα-Biコロイド(α相及び単斜晶系アレイ)は、TiOよりも大幅に高いUV-A(315~400nm)吸収能力を示す。ZnOの平均質量吸光係数は、これらの波長に関係なく低いままである。
【0127】
2-b)[紫外線からの保護]
上述した(a)、(b)、(c)の溶液の、日焼け防止係数(SPF)、UV-A保護係数(FP-UVA)、及び臨界波長を、次の式:
【数1】
(式中、
λは、波長λの紅斑作用スペクトル(0から1の値)を示す。これは、波長λの紫外線が皮膚に紅斑を引き起こす可能性を示す量である。
λは、波長λでのスペクトル放射照度を示す。
λは、波長λでの試料の透過率を示す。
λは、積分変数を示す。)
から、厚さ10μmのタンクについて計算した。
【0128】
値Eλ及びSλは既知である。
【0129】
臨界波長は、比率Rが0.9以上の波長に対応する。言い換えれば、それはスペクトル曲線の積分:
【数2】
が290~400nmの積分の90%に等しい波長である。
【0130】
化合物TiO、ZnO、及びα-Biの臨界波長は、それぞれ368nm、362nm、及び382nmに等しい。
【0131】
α-Bi化合物だけが、単独で370nmを超える臨界波長を達成することができる。
【0132】
図3は、TiO、ZnO、及び鉄でドープされたα-Bi(α相及び単斜晶系アレイ)をグラフトした粒子の日焼け防止係数(SPF)を、10μmタンク内のそれらの質量百分率(0.1~30質量%)に基づいて示している。
【0133】
これらの曲線を用いて、所定の日焼け防止係数(SPF)を達成するために必要な日焼け止め剤の量を決定する。表1は、図3のデータからの、20、30、50、又は100のSPFを達成するために必要な質量パーセントを示す。
【0134】
【表1】
【0135】
表2及び3に、UVA保護係数(SP-UVA)、及び、SPFが50及び100の場合のSPF:SP-UVA比を示す。
【0136】
【表2】
【0137】
【表3】
【0138】
図3から、調査した3つの無機フィルターの有効性は、0.1~10質量%の濃度では、TiO>Bi>ZnOであり、濃度が10質量%を超える場合には、Bi>TiO>ZnOである。
【0139】
一方、鉄でドープされたα-Biコロイド(α相及び単斜晶系アレイ)は、従来の無機フィルターよりも広い吸収範囲を示す(図1)。したがって、それらは、有機及び/又は無機フィルターの混合物に頼る必要をなくすことを可能にする。
【0140】
3/[光触媒活性]
無機UVフィルターの光触媒活性は、様々なフィルター又は対照、及びUV放射の存在下で、メチレンブルーの分解をモニターすることによって評価される。
【0141】
試験した無機フィルターは酸化物である。より具体的には、それらは、ZnO、及び本発明による鉄でドープされたα-Biである。
【0142】
詳細には、水中の50g/Lの酸化物懸濁液10μLを、メチレンブルーの1E-5mol.L-1水溶液4990μLに添加する。対照は、4990μLのメチレンブルーの1E-5mol.L-1水溶液中の酸化物懸濁液の代わりに10μLの水を加えることによって同様に行う。研究対象の酸化物の表面での染料の吸着平衡を達成するために、溶液を暗所に30分間置く。
【0143】
次に、溶液の吸光度を540nm~710nmの領域で測定する。これは、メチレンブルーの吸収に相当する。これらの測定値は、時間t=0分の値を構成する。続いて、溶液をUV照明下で撹拌する。
【0144】
15、30、45、60、90、及び120分での吸光度測定を行う。
【0145】
540nm~710nmの曲線下面積により、測定値t=0分と比較したメチレンブルーの相対量を測定することが可能になる。
【0146】
結果を図4に示す。
【0147】
結果は、酸化亜鉛が、30分以内にメチレンブルーの90%の分解を伴う、有意な光触媒活性を持っていることを示している。
【0148】
対照は、光触媒作用によるものではない、UV下での色素の光分解による約10%の分解を示している。
【0149】
本発明に従うドープされたα-Biコロイド(α相及び単斜晶アレイ)の場合、分解はほぼゼロであり、これは酸化物の光触媒活性がないことを示している。メチレンブルーの2%しか分解されなかったため、染料の光分解も対照と比較して制限されているようにみえる。この現象は、本発明による鉄でドープされたα-Biコロイドによる、UV放射線の一部の吸収及びROSの減少によるものである。
【0150】
4/[本発明による化粧品組成物]
本発明による組成物を調製し、市販のソーラー組成物と比較した(表4)。
【0151】
【表4】
【0152】
一般に、表4は、無機UVフィルターを含む組成物が、UV-V(可視UV:400-450nm)を遮断するのに最も効果的であることを示している。
【0153】
本発明による組成物は、全UV範囲(UV-C、UV-B、UV-A、及びUV-V)にわたって最高の効果を有する。
【0154】
皮膚浸透試験は、有機フィルターを含む組成物が、有機フィルターと無機フィルターとの混合物を含む組成物又は無機フィルターのみを含む組成物よりも皮膚に深く浸透することを示した。
【0155】
本発明による組成物について最良の結果が得られる。それは他の組成物よりもはるかに少ない皮膚への浸透である。既に示したように、この効果は、ほとんど間違いなく、生体適合性ポリマーとのグラフトによる、コロイドの生体接着性の向上によるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】