(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】水蒸気分解プロセスのための重油のアップグレーディング
(51)【国際特許分類】
C10G 55/00 20060101AFI20220105BHJP
C10G 9/36 20060101ALI20220105BHJP
C10G 31/08 20060101ALI20220105BHJP
C10G 31/06 20060101ALI20220105BHJP
B01J 3/00 20060101ALI20220105BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C10G55/00
C10G9/36
C10G31/08
C10G31/06
B01J3/00 A
B01J35/10 301A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518882
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(85)【翻訳文提出日】2021-06-01
(86)【国際出願番号】 US2019055801
(87)【国際公開番号】W WO2020077187
(87)【国際公開日】2020-04-16
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506018363
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,キ‐ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】ファティ,マジン,エム.
(72)【発明者】
【氏名】アルカルゾウ,ムニーフ,エフ.
(72)【発明者】
【氏名】アロタイビ,バンダル,ケイ.
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA15
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BB04A
4G169BB09A
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4H129AA02
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4H129MB02B
4H129MB07A
4H129MB07B
4H129NA01
4H129NA20
4H129NA21
4H129NA35
(57)【要約】
分解生成物流出物からアルケンガスを生成する方法であって、分解生成物流出物を分留塔ユニットに導入するステップと、分留塔ユニット中で分解生成物流出物を分離して分解軽質流および分解残渣油流を生成するステップであって、分解軽質流はエチレン、プロピレン、ブチレン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるアルケンガスを含む、ステップと、分解残渣油流および重質供給物を重質ミキサー中で混合して、混合された超臨界プロセス供給物を生成するステップと、超臨界水プロセスにおいて混合された超臨界プロセス供給物をアップグレードして、超臨界水プロセス(SWP)処理軽質生成物およびSWP処理重質生成物を生成するステップであって、SWP処理重質生成物が分解残渣油流に対して増加した安定性を示すように、SWP処理重質生成物は分解残渣油流に対して減少した量のオレフィンおよびアスファルテンを含む、ステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解生成物流出物からアルケンガスを生成するための方法であって、
分解生成物流出物を分留塔ユニットに導入するステップであって、前記分留塔ユニットが、分解生成物流出物を分離するように構成される、ステップと、
前記分解生成物流出物を前記分留塔内で分離して分解軽質流および分解残渣油流を生成するステップであって、前記分解軽質流がアルケンガスを含み、前記アルケンガスがエチレン、プロピレン、ブチレン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、ステップと、
前記分解残渣油流と重質供給物を重質ミキサーへ導入するステップと、
前記分解残渣油流と前記重質供給物を重質ミキサー内で混合して、混合された超臨界プロセス供給物を生成するステップと、
前記混合された超臨界プロセス供給物と水供給物を超臨界水プロセスに導入するステップであって、前記超臨界水プロセスは、前記混合された超臨界プロセス供給物をアップグレードするように構成される、ステップと、
前記混合された超臨界プロセス供給物を前記超臨界水プロセスにおいてアップグレードして、超臨界水プロセス(SWP)処理軽質生成物およびSWP処理重質生成物を生成するステップであって、前記SWP処理重質生成物は、SWP処理重質生成物が分解残渣油流と比較して増加した安定性を示すように、分解残渣油流と比較して減少した量のオレフィンおよびアスファルテンを含む、ステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
原油供給物および水素供給物を水素添加プロセスに導入するステップであって、前記水素添加プロセスは、原油供給物中の炭化水素の水素化を容易にするように構成され、前記水素添加プロセスが水素化触媒を含み、前記水素化触媒が水素化処理反応を触媒するように動作可能である、ステップと、
前記原油供給物中の炭化水素が前記水素添加プロセスにおいて水素化処理反応を受けて水素添加流を生成することを可能にするステップであって、前記水素添加流が、パラフィン、ナフテン、芳香族化合物、軽質ガス、およびそれらの組み合わせを含む、ステップと、
前記水素添加流を分離器ユニットに導入するステップであって、前記分離器ユニットは、前記水素添加流を分離するように構成される、ステップと、
前記水素添加流を前記分離器ユニットにおいて分離して、軽質供給物および重質供給物を生成するステップであって、前記軽質供給物が650°F未満の沸点を有する炭化水素を含み、前記重質供給物が650°Fを超える沸点を有する炭化水素を含む、ステップと、
前記軽質供給物および前記SWP処理軽質生成物を軽質ミキサーへ導入するステップと、
前記軽質供給物および前記SWP処理軽質生成物を前記軽質ミキサー内で混合し、混合された水蒸気分解供給物を生成するステップと、
前記混合された水蒸気分解供給物を水蒸気分解プロセスに導入するステップであって、前記水蒸気分解プロセスは、水蒸気の存在下で前記混合された水蒸気分解供給物を熱分解するように構成される、ステップと、
前記水蒸気分解プロセスにおいて熱分解を起こさせて分解生成物流出物を生成するステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
原油供給物および水素供給物を水素添加プロセスに導入するステップであって、前記水素添加プロセスは、前記原油供給物中の炭化水素の水素化を容易にするように構成され、前記水素添加プロセスが水素化触媒を含み、前記水素化触媒が水素化処理反応を触媒するように動作可能である、ステップと、
前記原油供給物中の炭化水素が前記水素添加プロセスにおいて水素化処理反応を受けて水素添加流を生成することを可能にするステップであって、前記水素添加流が、パラフィン、ナフテン、芳香族化合物、軽質ガス、およびそれらの組み合わせを含む、ステップと、
前記水素添加流および前記SWP処理軽質生成物を供給物ミキサーへ導入するステップと、
前記軽質供給物と前記SWP処理軽質生成物とを前記供給物ミキサー内で混合し、混合された分離器供給物を生成するステップと、
前記混合された分離器供給物を分離器ユニットに導入するステップであって、前記分離器ユニットが前記混合された分離器供給物を分離するように構成される、ステップと、
前記混合された分離器供給物を前記分離器ユニット内で分離して、軽質供給物および前記重質供給物を生成するステップであって、前記軽質供給物は650°F未満の沸点を有する炭化水素を含み、前記重質供給物は650°Fを超える沸点を有する炭化水素を含む、ステップと、
前記軽質供給物を水蒸気分解プロセスに導入するステップであって、前記水蒸気分解プロセスは、水蒸気の存在下で前記軽質供給物を熱分解するように構成される、ステップと、
前記水蒸気分解プロセスにおいて熱分解を生じさせて分解生成物流出物を生成することを可能にするステップと、
をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記分留塔ユニット内で分解生成物流出物から軽質ガスを分離して回収水素流を生成するステップであって、前記回収水素流が水素を含む、ステップと、
前記回収水素流を重質ミキサーに導入し、混合された超臨界水供給物が水素を含むようにする、ステップと、
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記原油供給物のAPI比重が15~50であり、前記原油供給物の常圧留分が10体積%~60体積%であり、真空留分が1体積%~35体積%であり、アスファルテン留分が0.1重量%~15重量%であり、全硫黄含有量が2.5体積%~26体積%である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
水素化触媒が酸化物担体上に担持された遷移金属硫化物を含み、前記遷移金属硫化物が、硫化コバルト-モリブデン(CoMoS)、硫化ニッケル-モリブデン(NiMoS)、硫化ニッケル-タングステン(NiWS)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記水素化処理反応が、水素化反応、水素化解離反応、水素化分解反応、異性化反応、アルキル化反応、アップグレーディング反応、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記分解残渣油流が200℃を超える沸点を有する炭化水素を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
分解生成物流出物からアルケンガスを生成するための方法であって、
前記分解生成物流出物を分留塔ユニットに導入するステップであって、前記分留塔ユニットは、前記分解生成物流出物を分離するように構成される、ステップと、
前記分解生成物流出物を前記分留塔内で分離して、分解軽質流および分解残渣油流を生成するステップであって、前記分解軽質流がアルケンガスを含み、前記アルケンガスが、エチレン、プロピレン、ブチレン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、ステップと、
前記分解残渣油流および蒸留残渣油流を重質ミキサーに導入するステップと、
前記分解残渣油流と前記蒸留残渣油流とを前記重質ミキサー内で混合して、混合された残渣油流を生成するステップと、
前記混合された残渣油流および水供給物を超臨界水プロセスに導入するステップであって、前記超臨界水プロセスが前記混合された残渣油流をアップグレードするように構成される、ステップと、
前記混合された残渣油流を超臨界水プロセスにおいてアップグレードして、超臨界水プロセス(SWP)処理軽質生成物およびSWP処理重質生成物を生成するステップであって、前記SWP処理重質生成物は、前記SWP処理重質生成物が分解残渣油流に対して増加した安定性を示すように、前記分解残渣油流に対して減少した量のオレフィンおよびアスファルテンを含む、ステップと、
を含む、方法。
【請求項10】
原油供給物を蒸留ユニットに導入するステップであって、前記蒸留ユニットは前記原油供給物を分離するように構成される、ステップと、
前記原油供給物を前記蒸留ユニット中で分離して、蒸留物流と蒸留残渣油流とを生成するステップであって、前記蒸留物流が650°F未満の沸点を有する炭化水素を含む、ステップと、
前記蒸留物流を水素添加プロセスに導入するステップであって、前記水素添加プロセスは、前記蒸留物流中の炭化水素の水素化を容易にするように構成され、前記水素添加プロセスが水素化触媒を含み、前記水素化触媒が水素化処理反応を触媒するように動作可能である、ステップと、
前記蒸留物流中の炭化水素が水素添加プロセスにおいて水素化処理反応を受けて水素添加流を生成することを可能にするステップであって、前記水素添加流が、パラフィン、ナフテン、芳香族化合物、軽質ガス、およびそれらの組み合わせを含む、ステップと、
前記水素添加流および前記SWP処理軽質生成物を供給物ミキサーへ導入するステップと、
前記水素添加流と前記SWP処理軽質生成物とを供給物ミキサーで混合して、混合された分離器供給物を生成するステップと、
前記混合された分離器供給物を水蒸気分解プロセスへ導入するステップであって、前記水蒸気分解プロセスは、水蒸気の存在下で前記混合された分離器供給物を熱分解するように構成される、ステップと、
前記水蒸気分解プロセスにおいて熱分解を生じさせて分解生成物流出物を生成することを可能にするステップと、
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
原油供給物を蒸留ユニットに導入するステップであって、前記蒸留ユニットは原油供給物を分離するように構成される、ステップと、
前記原油供給物を前記蒸留ユニット中で分離して、蒸留物流と蒸留残渣油流とを生成するステップであって、前記蒸留物流が650°F未満の沸点を有する炭化水素を含む、ステップと、
前記蒸留物流および前記SWP処理軽質生成物の蒸留物を蒸留ミキサーへ導入するステップと、
前記蒸留ミキサー内で前記蒸留物流を前記SWP処理軽質生成物と混合して、混合された蒸留物流を生成する、ステップと、
前記混合された蒸留物流を水素添加プロセスに導入するステップであって、前記水素添加プロセスは、前記混合された蒸留物流中の炭化水素の水素化を容易にするように構成され、前記水素添加プロセスが水素化触媒を含み、前記水素化触媒が水素化処理反応を触媒するように動作可能である、ステップと、
前記混合された蒸留物流中の炭化水素が水素添加プロセスにおいて水素化処理反応を受けて水素添加流を生成することを可能にするステップであって、前記水素添加流は、パラフィン、ナフテン、芳香族化合物、軽質ガス、およびそれらの組み合わせを含む、ステップと、
前記水素添加流を水蒸気分解プロセスへ導入するステップであって、前記水蒸気分解プロセスは、水蒸気の存在下で前記水素添加流を熱分解するように構成される、ステップと、
前記水蒸気分解プロセスにおいて熱分解を生じさせて分解生成物流出物を生成することを可能にするステップと、
をさらに含む、請求項9または10に記載の方法
【請求項12】
前記原油供給物のAPI比重が15~50であり、前記原油供給物の常圧留分が10体積%~60体積%であり、真空留分が1体積%~35体積%であり、アスファルテン留分が0.1重量%~15重量%であり、全硫黄含有量が2.5体積%~26体積%である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記水素化触媒が酸化物担体上に担持された遷移金属硫化物を含み、前記遷移金属硫化物が、硫化コバルト-モリブデン(CoMoS)、硫化ニッケル-モリブデン(NiMoS)、硫化ニッケル-タングステン(NiWS)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記水素化処理反応が、水素化反応、水素化解離反応、水素化分解反応、異性化反応、アルキル化反応、アップグレーディング反応、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記分解残渣油流が200℃を超える沸点を有する炭化水素を含む、請求項9~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
分解生成物流出物からアルケンガスを生成するための方法であって、
前記分解生成物流出物を分留塔ユニットに導入するステップであって、前記分留塔ユニットは、前記分解生成物流出物を分離するように構成される、ステップと、
前記分解生成物流出物を前記分留塔で分離して、分解軽質流および分解残渣油流を生成するステップであって、前記分解軽質流はアルケンガスを含み、前記アルケンガスがエチレン、プロピレン、ブチレン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、ステップと、
前記分解残渣油流および水素添加流を重質ミキサーに導入するステップと、
前記分解残渣油流と前記水素添加流を前記重質ミキサー内で混合して、混合流を生成するステップと、
前記混合流および水供給物を超臨界水プロセスに導入するステップであって、前記超臨界水プロセスは、前記混合流をアップグレードするように構成される、ステップと、
前記混合流を前記超臨界水プロセスにおいてアップグレードして、超臨界水プロセス(SWP)処理軽質生成物およびSWP処理重質生成物を生成するステップであって、前記SWP処理重質生成物は、前記SWP処理重質生成物が前記分解残渣油流と比較して増加した安定性を示すように、前記分解残渣油流と比較して減少した量のオレフィンおよびアスファルテンを含む、ステップと、
を含む、方法。
【請求項17】
原油供給物を蒸留ユニットに導入するステップであって、前記蒸留ユニットは、前記原油供給物を分離するように構成される、ステップと、
前記蒸留ユニット内の前記原油供給物を分離して、蒸留物流と蒸留残渣油流とを生成するステップであって、前記蒸留物流は、650°F未満の沸点を有する炭化水素を含む、ステップと、
前記蒸留物流および前記SWP処理軽質生成物を蒸留物ミキサーへ導入するステップと、
前記蒸留物ミキサー内で前記蒸留物流を前記SWP処理軽質生成物と混合して、混合された蒸留物流を生成するステップと、
前記混合された蒸留物流を水蒸気分解プロセスに導入するステップであって、前記水蒸気分解プロセスは、水蒸気の存在下で前記混合された蒸留物流を熱分解するように構成される、ステップと、
前記水蒸気分解プロセスにおいて熱分解を生じさせて、分解生成物流出物を生成することを可能にするステップと、
前記蒸留残渣油流を水素添加プロセスに導入するステップであって、前記水素添加プロセスは、前記蒸留残渣油流中の炭化水素の水素化を促進するように構成され、前記水素添加プロセスは水素化触媒を含み、前記水素化触媒は水素化処理反応を触媒するように動作可能である、ステップと、
前記蒸留残渣油流中の炭化水素が前記水素添加プロセスにおいて水素化処理反応を受けて水素添加流を生成することを可能にするステップであって、前記水素添加流は、パラフィン、ナフテン、芳香族化合物、軽質ガス、およびそれらの組み合わせを含む、ステップと、
をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記原油供給物のAPI比重が15~50であり、前記原油供給物の常圧留分が10体積%~60体積%であり、真空留分が1体積%~35体積%であり、アスファルテン留分が0.1重量%~15重量%であり、全硫黄含有量が2.5体積%~26体積%である、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記水素化触媒が酸化物担体上に担持された遷移金属硫化物を含み、前記遷移金属硫化物が、硫化コバルト-モリブデン(CoMoS)、硫化ニッケル-モリブデン(NiMoS)、硫化ニッケル-タングステン(NiWS)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記水素化処理反応が、水素化反応、水素化解離反応、水素化分解反応、異性化反応、アルキル化反応、アップグレーディング反応、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記分解残渣油流が200℃を超える沸点を有する炭化水素を含む、請求項16~20のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
石油をアップグレードするための方法が開示される。具体的には、前処理プロセスを使用して石油をアップグレードするための方法およびシステムが開示される。
【背景技術】
【0002】
化学生産は原油の主要な消費先である。伝統的に、直留ナフサ(ナフサは摂氏200度(℃)未満の沸点を有する炭化水素の混合物)は、他の供給原料と比較してより多くの水素含有量を含有するので、エチレンおよびプロピレンを生成するための水蒸気分解に使用することができる。さらに、直留ナフサは典型的には、全生成物の3重量パーセント(wt%)~6wt%の割合で、10個以上の炭素原子を含有する限られた量の炭化水素(熱分解燃料油とも呼ばれる)を生成する。真空軽油などのより重質の供給原料は、流動接触分解(FCC)ユニットで処理して、プロピレンおよびエチレンを生成することができる。FCCユニットは高オクタン価ガソリンブレンド原料の生成をもたらすことができるが、供給原料のエチレンおよびプロピレンへの変換には限界がある。
【0003】
沸点が200℃を超える軽油などの他の供給原料は、水蒸気分解プロセスで使用することができるが、エチレンおよびプロピレンの収率が低くなり、さらに軽油留分中の重分子によるコークス化率が増加することがある。従って、軽油留分は水蒸気分解プロセスに適した供給物を作らない。
【0004】
水蒸気分解プロセスのための供給原料を、全範囲原油または残渣油留分を含むように拡大することは、その供給原料中にアスファルテンなどの大きな分子が存在するため問題がある。重分子、特に多芳香族化合物は、熱分解管内でコークスを形成し、移送ライン交換器(TLE)内に汚染を引き起こす傾向がある。熱分解管内のコークス層は熱伝達を抑制し、熱分解管の物理的故障を引き起こす可能性がある。酷いコークス化は水蒸気分解器の運転時間を短縮する可能性があり、これは水蒸気分解器の経済性を管理する際の最も重要なパラメータの1つである。その結果、より安価な供給原料、原油および重質残渣油流を使用する利点は、水蒸気分解プラントの短いランレングスで使い果たすことができる。全範囲原油または残渣油留分から開始する場合、熱分解燃料油の量は、全生成物流の20wt%~30wt%であり得ることに留意すべきである。
【0005】
軽油留分は、水素化処理プロセス、熱変換プロセス、抽出プロセス、および蒸留プロセスなどの1つ以上の前処理アプローチで前処理することができる。熱変換プロセスは、コークス化プロセスおよびビスブレーキングプロセスを含むことができる。抽出プロセスは、溶媒脱アスファルトプロセスを含むことができる。蒸留プロセスは、常圧蒸留または真空蒸留プロセスを含むことができる。前処理アプローチは、常圧残渣油留分および真空残渣油留分などの重質残渣油留分を減少させることができる。従って、水蒸気分解供給原料への供給物中の重質残渣油留分を減少させることは、水蒸気分解供給原料の効率を改善することができる。
【0006】
これらの前処理アプローチは、前処理プロセスを水蒸気分解プロセスに導入する前に、全範囲原油を処理することができる。前処理アプローチは、水蒸気分解プロセスにおいて軽質オレフィン収率を増加させ、コークス化を減少させることができる。前処理アプローチは水蒸気分解供給原料の水素含有量を増加させることができる。水素含有量は軽質オレフィン収率に関連し、水素含有量が多いほど軽質オレフィン収率が大きくなる。
【0007】
前処理アプローチは、硫黄および金属などのヘテロ原子の含有量を減少させることができる。硫黄化合物は、熱分解管の内面を不動態化することによって、水蒸気分解プロセスにおける一酸化炭素の形成を抑制することができる。1つのアプローチでは、20重量ppmのジメチルスルフィドを、硫黄を含まない供給原料に添加することができる。しかしながら、水蒸気分解プロセスへの供給原料中の400重量ppmを超える硫黄含有量は、熱分解管中のコークス化率を増加させる可能性がある。
【0008】
前処理アプローチは水蒸気分解プロセスの効率を増加させることができるが、前処理アプローチはまた、いくつかの欠点を有する。第1に、水素化処理プロセスは多大な設備投資を必要とし、アスファルテンのような望ましくない化合物を全て除去するわけではない。第2に、コークス化、抽出、および蒸留のような前処理アプローチの使用は、ある量の供給物が残渣油として排除されるので、水蒸気分解プロセスへの供給物のための液体収率が低くなる可能性がある。第3に、前処理アプローチはコークス化、アスファルテン沈着、触媒被毒、汚染、および活性種の焼結によって引き起こされる触媒の失活のために、広範なメンテナンスを必要とし得る。最後に、前処理プロセスの多くは流れの最も重い留分を排除し、これは軽質オレフィンの全体的な収率を低下させ、水蒸気分解器のパラメータ影響経済性に影響を及ぼす。
【発明の概要】
【0009】
石油をアップグレードするための方法が開示される。具体的には、前処理プロセスを使用して石油をアップグレードするための方法およびシステムが開示される。
【0010】
第1の態様では、分解生成物流出物からアルケンガスを製造するための方法が提供される。この方法は、分解生成物流出物を分留塔ユニットに導入するステップであって、分留塔ユニットが分解生成物流出物を分離するように構成される、ステップと、分留塔内で分解生成物流出物を分離して分解軽質流と分解残渣油流とを生成するステップであって、分解軽質流はアルケンガスを含み、アルケンガスがエチレン、プロピレン、ブチレン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、ステップと、分解残渣油流と重質供給物とを重質ミキサーに導入するステップと、分解残渣油流と重質供給物とを重質ミキサー内で混合し、混合された超臨界プロセス供給物を生成するステップと、混合された超臨界プロセス供給物および水供給物を超臨界水プロセスに導入するステップであって、超臨界水プロセスは混合された超臨界プロセス供給物をアップグレードするように構成される、ステップと、混合された超臨界プロセス供給物を超臨界水プロセスにおいてアップグレードして、超臨界水プロセス(SWP)処理軽質生成物およびSWP処理重質生成物を生成するステップであって、SWP処理重質生成物が分解残渣油流と比較して減少した量のオレフィンおよびアスファルテンを含むことによって、SWP処理重質生成物は分解残渣油流と比較して増加した安定性を示す、ステップと、を含む。
【0011】
特定の態様では、この方法が、水素添加プロセスに原油供給物および水素供給物を導入するステップであって、水素添加プロセスは原油供給物中の炭化水素の水素化を促進するように構成され、水素添加プロセスは水素化触媒を含み、水素化触媒は水素化処理反応を触媒するように動作可能である、ステップと、原油供給物中の炭化水素に水素添加プロセスにおいて水素化反応を受けさせて、水素添加流を生成するステップであって、水素添加流はパラフィン、ナフテン、芳香族化合物、軽質ガス、およびそれらの組み合わせを含む、ステップと、水素添加流を分離器ユニットに導入するステップであって、分離器ユニットは水素添加流を分離するように構成される、ステップと、水素添加流を分離器ユニット中で分離して、軽質供給物および重質供給物を生成するステップであって、軽質供給物は650°F未満の沸点を有する炭化水素を含み、重質供給物は650°Fを超える沸点を有する炭化水素を含む、ステップと、軽質供給物およびSWP処理軽質生成物を軽質ミキサーに導入するステップと、軽質供給物とSWP処理軽質生成物とを軽質ミキサー中で混合して、混合された水蒸気分解供給物を生成するステップと、混合された水蒸気分解供給物を水蒸気分解プロセスに導入するステップであって、水蒸気分解プロセスは水蒸気の存在下で混合された水蒸気分解供給物を熱分解するように構成される、ステップと、水蒸気分解プロセスにおいて熱分解を生じさせて、分解生成物流出物を生成することを可能にするステップと、をさらに含む。
【0012】
特定の態様では、この方法が、水素添加プロセスに原油供給物および水素供給物を導入するステップであって、水素添加プロセスは原油供給物中の炭化水素の水素化を促進するように構成され、水素添加プロセスは水素化触媒を含み、水素化触媒は水素化反応を触媒するように動作可能である、ステップと、原油供給物中の炭化水素に水素添加プロセスにおいて水素化反応を受けさせて、水素添加流を生成するステップであって、水素添加流はパラフィン、ナフテン、芳香族化合物、および軽質ガスを含む、ステップと、水素添加流およびSWP処理軽質生成物を供給物ミキサーに導入するステップと、軽質供給物とSWP処理軽質生成物とを供給物ミキサー中で混合して、混合された分離器供給物を生成するステップと、混合された分離器供給物を分離器ユニットに導入するステップであって、分離器ユニットは混合された分離器供給物を分離するように構成される、ステップと、混合された分離器供給物を分離器ユニット内で分離して軽質供給物および重質供給物を生成するステップであって、軽質供給物は650°F未満の沸点を有する炭化水素を含み、重質供給物は650°Fを超える沸点を有する炭化水素を含む、ステップと、軽質供給物を水蒸気分解プロセスに導入するステップであって、水蒸気分解プロセスは水蒸気の存在下で軽質供給物を熱分解するように構成される、ステップと、水蒸気分解プロセスにおいて熱分解を生じさせて、分解生成物流出物を生成することを可能にするステップと、をさらに含む。
【0013】
特定の態様では、この方法が、分留塔ユニット内の分解生成物流出物から軽質ガスを分離して、回収水素流を生成するステップであって、回収水素流が水素を含むステップと、回収水素流を重質ミキサーに導入するステップであって、混合された超臨界水供給物が水素を含むようにするステップと、をさらに含む。
【0014】
特定の態様では、原油供給物のAPI比重は15~50であり、原油供給物の常圧留分は10体積%~60体積%であり、真空留分は1体積%~35体積%であり、アスファルテン留分は0.1重量%~15重量%であり、全硫黄含有量は2.5体積%~26体積%である。特定の態様では、水素化触媒が酸化物担体上に担持された遷移金属硫化物を含み、遷移金属硫化物は硫化コバルト-モリブデン(CoMoS)、硫化ニッケル-モリブデン(NiMoS)、硫化ニッケル-タングステン(NiWS)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の態様では、水素化処理反応は、水素化反応、水素化解離反応、水素化分解反応、異性化反応、アルキル化反応、アップグレーディング反応、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の態様では、分解残渣油流が200℃を超える沸点を有する炭化水素を含む。
【0015】
第2の態様では、分解生成物流出物からアルケンガスを生成するための方法が提供され、この方法は、分解生成物流出物を分留塔ユニットに導入するステップであって、分留塔ユニットが分解生成物流出物を分離するように構成される、ステップと、分解生成物流出物を分留塔内で分離して分解軽質流と分解残渣油流とを生成するステップであって、分解軽質流はアルケンガスを含み、アルケンガスがエチレン、プロピレン、ブチレン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、ステップと、分解残渣油流と蒸留残渣油流とを重質ミキサーに導入するステップと、分解残渣油流と蒸留残渣油流とを重質ミキサーで混合して、混合された残渣油流を生成するステップと、混合された残渣油流と水供給物流とを超臨界水プロセスに導入するステップであって、超臨界水プロセスは混合された残渣油流をアップグレードするように構成される、ステップと、超臨界水プロセスにおいて混合された残渣油流をアップグレードして超臨界水プロセス(SWP)処理軽質生成物およびSWP処理重質生成物を生成するステップであって、SWP処理重質生成物が、分解残渣油流と比較して増加した安定性を示すように、SWP処理された重質生成物が分解残渣油流と比較して減少した量のオレフィンおよびアスファルテンを含む、ステップと、を含む。
【0016】
特定の態様では、この方法は、原油供給物を蒸留ユニットに導入するステップであって、蒸留ユニットは原油供給物を分離するように構成される、ステップと、原油供給物を蒸留ユニット内で分離して蒸留物流および蒸留残渣油流を生成するステップであって、蒸留物流が650°F未満の沸点を有する炭化水素を含む、ステップと、蒸留物流を水素添加プロセスに導入するステップであって、水素添加プロセスは蒸留物流中の炭化水素の水素化を促進するように構成され、水素添加プロセスが水素化触媒を含み、水素化触媒が水素化処理反応を触媒するように動作可能である、ステップと、水素添加プロセスにおいて蒸留物流中の炭化水素が水素化処理反応を受けて水素添加流を生成することを可能にするステップであって、水素添加流はパラフィン、ナフテン、芳香族化合物、軽質ガス、およびそれらの組み合わせを含む、ステップと、水素添加流およびSWP処理軽質生成物を供給物ミキサーに導入するステップと、水素添加流とSWP処理軽質生成物とを供給物ミキサー内で混合して、混合された分離器供給物を生成するステップと、混合された分離器供給物を水蒸気分解プロセスに導入するステップであって、水蒸気分解プロセスは水蒸気の存在下で混合された分離器供給物を熱分解するように構成される、ステップと、水蒸気分解プロセスにおいて熱分解を生じさせて、分解生成物流出物を生成することを可能にするステップと、をさらに含む。
【0017】
特定の態様では、この方法は、原油供給物を蒸留ユニットに導入するステップであって、蒸留ユニットは原油供給物を分離するように構成される、ステップと、原油供給物を蒸留ユニット内で分離して蒸留物流および蒸留残渣油流を生成するステップであって、蒸留物流が650°F未満の沸点を有する炭化水素を含む、ステップと、蒸留物流およびSWP処理軽質生成物を蒸留物ミキサーに導入するステップと、蒸留物流とSWP処理軽質生成物とを蒸留物ミキサー内で混合して混合された蒸留物流を生成するステップと、混合された蒸留物流を水素添加プロセスに導入するステップであって、水素添加プロセスは混合された蒸留物流中の炭化水素の水素化を促進するように構成され、水素添加プロセスは水素化触媒を含み、水素化触媒は水素化処理反応を触媒するように動作可能である、ステップと、混合された蒸留物流中の炭化水素が水素添加プロセスにおいて水素化処理反応を受けて水素添加流を生成することを可能にするステップであって、水素添加流がパラフィン、ナフテン、芳香族化合物、軽質ガス、およびそれらの組み合わせを含む、ステップと、水素添加流を水蒸気分解プロセスに導入するステップであって、水蒸気分解プロセスは水蒸気の存在下で水素添加流を熱分解するように構成される、ステップと、水蒸気分解プロセスにおいて熱分解を生じさせて、分解生成物流出物を生成することを可能にするステップと、をさらに含む。
【0018】
第3の態様では、分解生成物流出物からアルケンガスを製造するための方法が提供される。この方法は、分解生成物流出物を分留塔ユニットに導入するステップであって、分留塔ユニットは分解生成物流出物を分離するように構成される、ステップと、分解生成物流出物を分留塔内で分離して分解軽質流と分解残渣油流とを生成するステップであって、分解軽質流はアルケンガスを含み、アルケンガスはエチレン、プロピレン、ブチレン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、ステップと、分解残渣油流と水素添加流とを重質ミキサーに導入するステップと、分解残渣油流と水素添加流とを重質ミキサー内で混合して混合流を生成するステップと、混合流と水供給物とを超臨界水プロセスに導入するステップであって、超臨界水プロセスは混合流をアップグレードするように構成される、ステップと、超臨界水プロセスにおいて混合流をアップグレードして超臨界水プロセス(SWP)処理軽質生成物およびSWP処理重質生成物を生成するステップであって、SWP処理重質生成物が分解残渣油流と比較して増加した安定性を示すように、SWP処理重質生成物は分解残渣油流と比較して減少した量のオレフィンおよびアスファルテンを含む、ステップと、を含む。
【0019】
特定の態様では、この方法は、原油供給物を蒸留ユニットに導入するステップであって、蒸留ユニットは原油供給物を分離するように構成される、ステップと、蒸留ユニット内で原油供給物を分離して蒸留物流および蒸留残渣油流を生成するステップであって、蒸留物流は650°F未満の沸点を有する炭化水素を含む、ステップと、蒸留物流とSWP処理軽質生成物を蒸留物ミキサーに導入するステップと、蒸留物流とSWP処理軽質生成物とを蒸留物ミキサー内で混合して混合された蒸留物流を生成するステップと、混合された蒸留物流を水蒸気分解プロセスに導入するステップであって、水蒸気分解プロセスは水蒸気の存在下で混合された蒸留物流を熱分解するように構成される、ステップと、水蒸気分解プロセスにおいて熱分解を生じさせて分解生成物流出物を生成することを可能にする、ステップと、蒸留残渣油流を水素添加プロセスに導入するステップであって、水素添加プロセスは蒸留残渣油流中の二酸化炭素の水素化を促進するように構成され、水素添加プロセスは水素化触媒を含み、水素化触媒は水素化処理反応を触媒するように動作可能である、ステップと、水素添加プロセスにおいて蒸留残渣油流中の炭化水素に水素化処理反応を受けさせて水素添加流を生成するステップであって、水素添加流はパラフィン、ナフテン、芳香族化合物、軽質ガス、およびそれらの組み合わせを含む、ステップと、をさらに含む。
【0020】
本発明の範囲のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、以下の説明、特許請求の範囲、および添付の図面に関してより良く理解されるであろう。しかしながら、図面はいくつかの実施形態のみを示しており、従って、他の等しく有効な実施形態を認めることができるので、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではないことに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】アップグレーディングプロセスの一実施形態のプロセス図を提供する。
【0022】
【
図2】アップグレーディングプロセスの一実施形態のプロセス図を提供する。
【0023】
【
図3】アップグレーディングプロセスの一実施形態のプロセス図を提供する。
【0024】
【
図4】アップグレーディングプロセスの一実施形態のプロセス図を提供する。
【0025】
【
図5】アップグレーディングプロセスの一実施形態のプロセス図を提供する。
【0026】
【
図6】アップグレーディングプロセスの一実施形態のプロセス図を提供する。
【0027】
【
図7】アップグレーディングプロセスの一実施形態のプロセス図を提供する。
【0028】
【
図8】アップグレーディングプロセスの一実施形態のプロセス図を提供する。
【0029】
【
図9】超臨界水プロセスがない場合の比較システムのプロセス図を提供する。
【0030】
添付の図面において、類似の構成要素または特徴、あるいはその両方は類似の参照ラベルを有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
装置および方法の範囲はいくつかの実施形態で説明されるが、当業者は本明細書で説明される装置および方法に対する多くの例、変形、および変更が実施形態の範囲および精神内にあることを理解するであろうことを理解されたい。
【0032】
従って、説明された実施形態は、一般性を失うことなく、また、実施形態に制限を課すことなく説明される。当業者は、この範囲が本明細書に記載された特定の特徴の全ての可能な組み合わせおよび使用を含むことを理解する。
【0033】
記載されるプロセスおよびシステムは、原油供給物のアップグレーディングを対象とする。このプロセスは、水蒸気分解プロセスからの重質留分のアップグレーディングのための方法および装置を提供する。このプロセスは、軽質オレフィンを製造するための方法および装置を提供する。有利には、本明細書に記載されるアップグレーディングプロセスが、重質留分が水蒸気分解プロセスに導入される前に、アスファルテンなどの重質留分を分解することによって、水蒸気分解プロセスの全体効率を向上させることができる(このような重質留分は水蒸気分解プロセスに適していない)。有利には、アップグレーディングプロセスは、全範囲原油から軽質オレフィンを生成する全体効率を向上させる。有利には、本明細書に記載されるアップグレーディングプロセスは、水蒸気分解プロセスからの重質留分をアップグレードすることによって、水蒸気分解プロセスの全体効率を向上させる。超臨界水プロセスの組み込みは、水蒸気分解プロセスからの重質留分をアップグレードすることができ、超臨界処理流を水蒸気分解装置に再導入することを可能にする。有利には、超臨界水プロセスの組み込みは、超臨界水プロセスが固体コークス形成およびガス形成を抑制するので、従来の熱プロセスと比較して液体収率を増加させることができる。有利には、超臨界水プロセスの組み込みは、アスファルテンを分解および解重合して、水素化処理ユニットへの応力を低減して、水素化処理ユニットにおける過酷な失活を防止することができ、これは触媒のライフサイクルを増加して、触媒のメンテナンスを低減することができる。
【0034】
全体を通して使用されるように、「水素の外部供給(external supply of hydrogen)」は、反応器への供給物または反応器自体への水素の添加を指す。例えば、水素の外部供給がない反応器とは、反応器への供給物および反応器に水素、気体(H2)または液体の添加がなく、(H2の形態の)水素は反応器への供給物または供給物の一部ではないことを意味する。
【0035】
全体を通して使用されるように、「触媒の外部供給(external supply of catalyst」は、反応器への供給物への触媒の添加、または反応器中の固定床触媒などの反応器中の触媒の存在を指す。例えば、触媒の外部供給がない反応器とは、反応器への供給物に触媒の添加がなく、反応器は反応器中に触媒床を含まないことを意味する。
【0036】
全体を通して使用されるように、「常圧留分(atmospheric fraction)」または「常圧残渣油留分(atmospheric residue fraction)」は、650°FのT10%を有する油含有流の留分を指し、その結果、炭化水素の体積の90%が650°Fを超える沸点を有し、真空残渣油留分を含む。常圧留分は、常圧蒸留からの蒸留物を含むことができる。
【0037】
全体を通して使用されるように、「真空留分(vacuum fraction)」または「真空残渣油留分(vacuum residue fraction)」は、1050°FのT10%を有する油含有流の留分を指す。
【0038】
全体を通して使用されるように、「アスファルテン(asphaltene)」は、n-アルカン、特にn-ヘプタンに溶解しない油含有流の留分を指す。
【0039】
全体を通して使用されるように、「軽質炭化水素(light hydrocarbons)」は、9個未満の炭素原子を有する炭化水素(C9-炭化水素)を指す。
【0040】
全体を通して使用されるように、「重質炭化水素(heavy hydrocarbons)」は、9個以上の炭素原子(C9+)を有する炭化水素を指す。
【0041】
全体を通して使用されるように、「水素化(hydrogenation)」は、水素を炭化水素化合物に添加することを指す。
【0042】
全体を通して使用されるように、「コークス(coke)」は、石油中に存在するトルエン不溶性材料を指す。
【0043】
全体を通して使用されるように、「クラッキング(cracking)」は、炭素-炭素結合の破壊のために、炭化水素が炭素原子をほとんど含有しないより小さなものに破壊されることを指す。
【0044】
全体を通して使用されるように、「ヘテロ原子(heteroatoms)」は、単独でまたはヘテロ原子-炭化水素化合物として生じる硫黄、窒素、酸素、および金属類を指す。
【0045】
全体を通して使用されるように、「アップグレード(upgrade)」は、プロセス供給流に対してプロセス出口流において、API比重を増加させること、ヘテロ原子の量を減少させること、アスファルテンの量を減少させること、常圧留分の量を減少させること、軽質留分の量を増加させること、粘性を減少させること、およびそれらの組み合わせのうちの1つまたはすべてを意味する。当業者は、アップグレードが、ある流れが別の流れと比較してアップグレードされ得るが、ヘテロ原子などの望ましくない成分は依然として含み得るような相対的な意味を有し得ることを理解する。
【0046】
全体を通して使用されるように、「変換反応(conversion reactions)」は、分解、異性化、アルキル化、二量化、芳香族化、環化、脱硫、脱窒素、脱アスファルト化、および脱金属化を含む、炭化水素流をアップグレードすることができる反応を指す。
【0047】
全体を通して使用されるように、「安定である(stable)」または「安定性(stability)」は、炭化水素の品質、ならびに分解、酸化、および汚染に抵抗する炭化水素の能力を指す。炭化水素安定性は、炭化水素中に存在するアスファルテンおよびオレフィン、特にジオレフィンの量に関係する。アスファルテンおよびオレフィンの量が増加すると、アスファルテンおよびオレフィンが分解、酸化、および汚染の影響を受けやすくなるため、油の安定性が低下する。安定性は一般に、燃料油についてはASTM 7060により、ガソリン(ガム形成)についてはASTM D381により測定される。安定性には貯蔵安定性が含まれる。
【0048】
全体を通して使用されるように、「蒸留物(distillate)」は650°F未満の沸点を有する炭化水素を指す。蒸留物は、常圧蒸留プロセスからの蒸留可能な材料を含むことができる。蒸留物中の炭化水素の例には、ナフサ、ガソリン、灯油、ディーゼル、およびそれらの組み合わせが含まれ得る。
【0049】
図面を参照して提供される以下の実施形態は、アップグレーディングプロセスを説明する。
【0050】
図1を参照すると、アップグレーディングプロセスのプロセスフロー図が提供される。原油供給物5は、分離器ユニット100に導入される。原油供給物5は、約15~約50のAPI比重、約10体積%(vol%)~約60体積%の常圧留分、約1体積%~約35体積%の真空画分、約0.1重量%(wt%)~約15重量%のアスファルテン留分、および約0.02重量%~約4重量%の全硫黄含有量を有する炭化水素を含有する任意の全範囲原油であり得る。少なくとも1つの実施形態では、原油供給物5は、約24~約49のAPI比重、約20体積%~約57体積%の常圧留分、約2.5体積%~約26体積%の真空留分、約0.2重量%~約11重量%のアスファルテン留分、および約0.05重量%~約3.6重量%の全硫黄含有量を有し得る。少なくとも1つの実施形態では、原油供給物5は、23~27のAPI比重、約24体積%未満の常圧留分、および約2.8重量%の全硫黄含有量を有する。
【0051】
分離器ユニット100は、全範囲原油を、それらの流れの沸点または沸点範囲に基づいて2つ以上の流れに分留することができる任意のタイプのユニットであり得る。分離器ユニット100の例は、蒸留ユニット、フラッシングカラム、およびそれらの組み合わせを含むことができる。分離器ユニット100の操作条件は、分離された流れの所望の数および組成に基づいて選択することができる。分離された流れの所望の組成は、分離器ユニット100の下流の操作ユニットに基づくことができる。分離ユニット100は、原油供給物5を分離して、軽質供給物10および重質供給物15を生成することができる。
【0052】
軽質供給物10は、沸点が650°F未満の炭化水素を含むことができる。少なくとも1つの実施形態では、軽質供給物10はアスファルテンの非存在下である。分離器ユニット100の操作条件は、原油供給物5と比較して増加した量のパラフィンを有する軽質供給物10を生成することができ、軽質供給物10を水蒸気分解プロセスへの直接原料として適切にする。増加したパラフィンは、水蒸気分解プロセスにおいてオレフィンの増加をもたらす。有利には、軽質供給物10の沸点の低下が、より高い沸点を有する流体と比較して、水蒸気分解プロセスにおいてコークスを形成する傾向を低下させる。
【0053】
重質供給物15は、650°Fより高い沸点を有する炭化水素を含有することができる。
【0054】
軽質供給物10は、軽質ミキサー110に導入することができる。軽質ミキサー110は、2つ以上の炭化水素流を混合することができる任意のタイプの混合装置とすることができる。軽質ミキサー110は、インラインミキサー、スタティックミキサー、ミキシングバルブ、および撹拌タンクミキサーを含むことができる。軽質供給物10は、軽質ミキサー110内で超臨界水プロセス(SWP)処理軽質生成物50と混合されて、混合された水蒸気分解供給物20を生成することができる。
【0055】
混合された水蒸気分解供給物20は、水蒸気分解プロセス200に導入することができる。水蒸気分解プロセス200は、水蒸気の存在下で炭化水素流を熱分解することができる任意のプロセスであり得る。水蒸気は、オレフィン形成を増加させ、コークス形成を減少させるために、炭化水素を希釈するために使用することができる。水蒸気分解プロセス200は、分解炉、分解チューブ、熱交換器、圧縮機、冷凍システム、ガス分離ユニット、および他の水蒸気分解装置を含むことができる。水蒸気分解プロセス200はフリーラジカル反応を含むことができ、フリーラジカル反応は、多数の連鎖反応によって特徴付けることができる。
【0056】
水蒸気分解プロセス200は、分解生成物流出物25を生成することができる。分解生成物流出物25は、分留塔ユニット300に導入することができる。
【0057】
分留塔ユニット300は、分解生成物流出物25を2つ以上の流れに分留することができる任意のタイプのユニットとすることができる。分留塔ユニット300の例には、蒸留ユニット、フラッシングカラム、急冷ユニット、脱水ユニット、酸性ガス処理、冷凍ユニット、およびそれらの組み合わせが含まれ得る。分留塔ユニット300の操作条件は、分離された流れの所望の数および組成に基づいて選択することができる。少なくとも1つの実施形態では、分留塔ユニット300が急冷ユニット、脱水ユニット、および硫化水素および二酸化炭素を除去するための酸性ガス処理を含むことができ、続いて冷却ユニットがあり、そこでガス流は冷凍ユニットによって約-140℃および-160℃に冷却されてアルケンガスを凝縮することができ、軽質ガスからアルケンガスを分離する。分留塔ユニット300は、分解生成物流出物25を分離して、分解軽質流30および分解残渣油流35を生成することができる。
【0058】
分解軽質流30は、軽質ガス、アルケンガス、軽質炭化水素、およびこれらの組み合わせを含むことができる。軽質ガスは、水素、一酸化炭素、酸素、およびそれらの組み合わせを含むことができる。軽質ガスは、80モルパーセント(mol%)~95モル%を含むことができる。アルケンガスは、エチレン、プロピレン、ブチレン、およびそれらの組み合わせを含むことができる。分解軽質流30の組成は、原油供給物5の組成、アップグレーディングプロセスに含まれるユニット、およびアップグレーディングプロセスの各ユニットで起こる反応に依存し得る。原油供給物5中の水素含有量は、0.1重量%~1重量%であり得る。分解生成物流出物25中の一酸化炭素含有量は、100重量百万分率(wt ppm)~1,000重量ppmであり得る。
【0059】
分解軽質流30は、生成物流として使用され、貯蔵場に送られ、さらなる処理をされ、または下流プロセスでブレンドされ得る。さらなる処理は、分解軽質流30を分離して、精製エチレン流、精製プロピレン流、精製混合エチレンプロピレン流、混合ブタン、およびそれらの組み合わせを生成することを含み得る。
【0060】
分解残渣油流35は、200℃より高い沸点を有する炭化水素を含むことができる。少なくとも1つの実施形態では、分解残渣油流35は、オレフィン、芳香族化合物、アスファルテン、ヘテロ原子、およびそれらの組み合わせを含む。ヘテロ原子は、窒素化合物、バナジウム、鉄、塩化物、酸素化物、非炭化水素粒子、およびそれらの組み合わせを含むことができる。少なくとも1つの実施形態では、分解残渣油流35が10個以上の炭素を含有する炭化水素(C10+炭化水素)を含むことができる。少なくとも1つの実施形態では、分解残渣油流35が熱分解燃料油を含む。分解残渣油流35は重質ミキサー120に導入することができる。
【0061】
重質ミキサー120は、2つ以上の炭化水素流を混合することができる任意のタイプの混合ユニットとすることができる。重質ミキサー120の例は、インライン幾何学的ミキサー、スタティックミキサー、混合バルブ、および撹拌タンクミキサーを含むことができる。分解残渣油流35は、重質供給物15と混合されて、混合された超臨界プロセス供給物40を生成することができる。
【0062】
混合された超臨界プロセス供給物40は、水供給物45と共に超臨界水プロセス400に導入することができる。水供給物45は、1.0マイクロジーメンス/センチメートル(μS/cm)未満、あるいは0.5μS/cm未満、あるいは0.1μS/cm未満の導電率を有する脱塩水であってもよい。少なくとも1つの実施形態では、水供給物45が0.1μS/cm未満の導電率を有する脱塩水である。水供給物45は、1リットル当たり5マイクログラム(μg/L)未満、あるいは1μg/L未満のナトリウム含有量を有することができる。水供給物45は、5μg/L未満、あるいは1μg/L未満の塩化物含有量を有することができる。水供給物45は、3μg/L未満のシリカ含有量を有することができる。
【0063】
分解残渣油流35は、オレフィンおよびアスファルテンの存在のために不安定であり得ることにより、ジオレフィンを含むオレフィンの除去なしでは、燃料油流として不適切である。超臨界水プロセス400は、混合された超臨界水プロセス供給物40中のオレフィンおよびジオレフィンを芳香族化合物に変換することができ、アスファルテンを除去することができる。有利には、超臨界水プロセス400において分解残渣油流35を処理することは、原油供給物5の収率を増加させる。超臨界水プロセス400において分解残渣油流35を処理することは、分解残渣油流35中の炭化水素と比較して、SWP処理重質生成物55中の炭化水素の安定性を改善する。有利には、分解残渣油流35を処理することは、低価値の炭化水素をより高い価値の炭化水素に変換し、原油供給物の全体的な価値を高める。
【0064】
超臨界水プロセス400は、超臨界水の存在下で炭化水素の反応を促進する任意のタイプの炭化水素アップグレーディングユニットであり得る。超臨界水プロセスには、反応器、熱交換器、ポンプ、分離器、圧力制御システム、および他の装置を含むことができる。超臨界水プロセス400は1つ以上の反応器を含むことができ、反応器は、380℃~450℃の温度、22MPa~30MPaの圧力、1分~60分の滞留時間、および標準的な周囲温度および圧力で1:10~1:0.1vol/volの水対油の比で運転される。少なくとも1つの実施形態では、超臨界水プロセス400は水素の外部供給の不在下であり得る。超臨界水プロセス400は触媒の外部供給の不在下であり得る。
【0065】
超臨界水中での炭化水素反応は、硫黄化合物を含有する重油および原油をアップグレードして、より軽質の留分を有する生成物を生成することが当技術分野で知られている。超臨界水は、反応目的が変換反応、脱硫反応、脱窒素反応、および脱金属反応を含み得る石油反応媒体としての使用に適する独特の特性を有する。超臨界水は、水の臨界温度以上の温度および水の臨界圧力以上の圧力の水である。水の臨界温度は373.946℃である。水の臨界圧力は22.06メガパスカル(MPa)である。有利には、超臨界条件において、水は変換反応、脱硫反応および脱金属反応において、水素源および溶媒(希釈剤)の両方として作用し、触媒は必要とされない。水分子からの水素は、直接移動を介して、または水-ガスシフト反応などの間接移動を介して炭化水素に移動する。水-ガスシフト反応では、一酸化炭素と水とが反応して二酸化炭素と水素とを生成する。水素は、脱硫反応、脱金属反応、脱窒素反応、およびそれらの組み合わせにおいて炭化水素に移動させることができる。水素はまた、オレフィン含有量を減少させることができる。水素の内部供給の生成は、コークス形成を減少させることができる。
【0066】
特定の理論に束縛されるものではないが、超臨界水媒介石油プロセスの基本的な反応メカニズムはフリーラジカル反応メカニズムと同じであることが理解される。ラジカル反応には、開始、増殖、および停止工程が含まれる。炭化水素、とりわけC10+のような重質分子では、開始が最も難しい工程であり、超臨界水中での変換は開始に必要な高活性化エネルギーのために制限され得る。開始は、化学結合の破壊を必要とする。炭素-炭素結合の結合エネルギーは約350kJ/molであり、炭素-水素の結合エネルギーは約420kJ/molである。化学結合エネルギーのために、炭素-炭素結合および炭素-水素結合は、触媒またはラジカル開始剤なしで、380℃~450℃の超臨界水プロセスにおける温度で容易に破壊されない。対照的に、脂肪族炭素-硫黄結合は、約250kJ/molの結合エネルギーを有する。チオール、スルフィド、およびジスルフィドなどの脂肪族炭素-硫黄結合は、芳香族炭素-硫黄結合よりも低い結合エネルギーを有する。
【0067】
熱エネルギーは、化学結合の破壊を介してラジカルを生成する。超臨界水は、ラジカルを取り囲むことによって「ケージ効果」を作り出す。水分子に囲まれたラジカル同士は反応しにくいため、コークス形成に寄与する分子間反応が抑制される。ケージ効果は、ラジカル間反応を制限することによってコークス形成を抑制する。低誘電率を有する超臨界水は炭化水素を溶解し、ラジカルを取り囲んで、縮合(二量化または重合)をもたらす停止反応であるラジカル間反応を防止する。超臨界水ケージによって設定される障壁のために、炭化水素ラジカル移動は、ラジカルがそのような障壁なしで自由に移動する遅延コーカーなどの従来の熱分解プロセスと比較して、超臨界水中ではより困難である。
【0068】
硫黄含有分子から放出された硫黄化合物は、H2S、メルカプタン、および元素硫黄に変換することができる。特定の理論に束縛されるものではないが、硫化水素は水(H2O)に似た小さなサイズおよび化学組織であるため、超臨界水ケージに「とどまらない」と考えられている。硫化水素は、超臨界水ケージ内を自由に移動し、ラジカルを伝播させ、水素を分配することができる。硫化水素は、炭化水素ラジカルとの水素引き抜き反応により、その水素を失うことがある。得られる水素-硫黄(HS)ラジカルは炭化水素から水素を引き抜くことができ、その結果、より多くのラジカルが形成される。従って、ラジカル反応におけるH2Sは、ラジカルを移動させ、水素を引き抜き/供与するための移動剤として作用する。
【0069】
超臨界水プロセス400は、混合された超臨界プロセス供給物40をアップグレードして、SWP処理軽質生成物50およびSWP処理重質生成物55を生成することができる。不合格品の供給原料の量は、水蒸気分解の経済性のパラメータの1つである。
【0070】
SWP処理軽質生成物50は、650°F未満の沸点を有する炭化水素を含有することができる。有利には、SWP処理軽質生成物50は、水蒸気分解プロセス200における処理に適している。SWP処理軽質生成物50は、軽質ミキサー110に導入することができる。
【0071】
SWP処理重質生成物55は沸点が650°Fを超える炭化水素を含有することができる。SWP処理重質生成物55の量および組成は、供給原料および操作条件に依存する。SWP処理重質生成物55は、ジオレフィンを含むオレフィンおよびアスファルテンの量が減少するため、分解残渣油流35と比較して、増大した安定性を示すことができる。分解された残渣油流35はSWP処理重質生成物55と比較して、低減された量の硫黄および低減された量の多核芳香族含有量を含有することができる。SWP処理重質生成物55は燃料油タンクに導入することができ、またはさらなる処理に供することができる。少なくとも1つの実施形態では、SWP処理重質生成物55は、遅延コーカー中でさらなる処理をされる。
【0072】
図2を参照して、アップグレーディングプロセスの一実施形態を、
図1を参照して説明する。原油供給物5は、水素供給物65と共に水素添加プロセス500に導入される。水素供給物65は、水素添加プロセス500に導入することができる水素ガスの任意の外部供給源とすることができる。水素供給物65は、ナフサ改質ユニット、メタン改質ユニット、水素添加プロセス500からの再循環水素ガス流、水素化分解装置などの別の精製ユニットからの再循環水素ガス流、または任意の他の供給源から供給することができる。水素供給物65の純度は、原油供給物5の組成および水素添加プロセス500における触媒に依存し得る。
【0073】
水素添加プロセス500は、水素ガスの存在下で原油の水素化を容易にすることができる任意のタイプの処理ユニットとすることができる。少なくとも1つの実施形態では、水素添加プロセス500は水素化処理プロセスである。水素添加プロセス500は、ポンプ、ヒータ、反応器、熱交換器、水素供給システム、製品ガススイートニングユニット、および水素処理プロセスに含まれる他の装置ユニットを含むことができる。水素添加プロセス500は、水素化触媒を含むことができる。水素化触媒は、水素化処理反応を触媒するように設計することができる。水素化処理反応としては、水素化反応、水素化解離反応、水素化分解反応、異性化反応、アルキル化反応、アップグレーディング反応、およびこれらの組み合わせを挙げることができる。水素化解離反応は、ヘテロ原子を除去することができる。水素化反応は、芳香族化合物およびオレフィン化合物から飽和炭化水素を生成することができる。アップグレーディング反応としては、水素化脱硫反応、水素化脱金属反応、水素化脱窒素反応、水素化分解反応、水素化異性化反応、およびこれらの組み合わせを挙げることができる。少なくとも1つの実施形態では、水素化処理触媒は、アップグレーディング反応と組み合わせて水素化反応を触媒するように設計することができる。
【0074】
触媒は、酸化物担体上に担持された遷移金属硫化物を含むことができる。遷移金属硫化物は、コバルト、モリブデン、ニッケル、タングステン、およびそれらの組み合わせを含むことができる。遷移金属硫化物は、硫化コバルト-モリブデン(CoMoS)、硫化ニッケル-モリブデン(NiMoS)、硫化ニッケル-タングステン(NiWS)、およびそれらの組み合わせを含むことができる。酸化物担体材料は、アルミナ、シリカ、ゼオライト、およびそれらの組み合わせを含むことができる。酸化物担体材料は、ガンマアルミナ、非晶質シリカアルミナ、およびアルミナゼオライトを含むことができる。酸化物担体材料は、ホウ素およびリンなどのドーパントを含むことができる。酸化物担体材料は、表面積および細孔サイズ分布などのテクスチャ特性、酸性度などの表面特性、およびそれらの組み合わせに基づいて選択することができる。重質原油を処理するために、細孔サイズは、重質分子による細孔閉塞を低減または防止するために、10nm~100nmの範囲で大きくすることができる。酸化物担体材料は、表面積を増加させるために多孔質であってもよい。酸化物担体材料の表面積は100m2/g~1000m2/gの範囲、あるいは150m2/g~400m2/gの範囲であり得る。触媒の酸性度は、触媒活性を維持しながら、炭化水素分子の過剰なクラッキングを防止し、触媒上のコーキングを低減するように制御することができる。
【0075】
水素添加プロセス500は、1つ以上の反応器を含むことができる。反応器は、直列または並列に配置することができる。少なくとも1つの実施形態では、水素添加プロセス500は複数の反応器を含み、ここで、反応器は直列に配置され、水素化反応およびアップグレーディング反応は各反応器中の触媒の寿命を最大にするために、異なる反応器中に配置される。
【0076】
水素添加プロセス500内の装置の配置および操作条件は、液体生成物の収率を最大にするように選択することができる。少なくとも1つの実施形態では、水素添加プロセス500が水素添加流60中の液体収率を最大にするように配置および操作することができる。水素添加流60の水素含有量および水素対炭素比は、原油供給物5の水素含有量および水素対炭素比よりも大きくすることができる。少なくとも1つの実施形態では、水素添加プロセス500は、原油供給物5に対するヘテロ原子の量を減少させ、蒸留物の量を増加させるように配置および操作することができる。水素添加流60は、分離器ユニット100に導入することができる。水素添加流60は、パラフィン、ナフテン、芳香族化合物、軽質ガス、およびそれらの組み合わせを含むことができる。軽質ガスは、軽質炭化水素、硫化水素、およびそれらの組み合わせを含むことができる。少なくとも1つの実施形態では、水素添加流60が1重量%未満の量で存在するオレフィンを含むことができる。
【0077】
水素添加流60は、
図1を参照して説明したように、分離器ユニット100において分離されて、軽質供給物10および重質供給物15を生成することができる。
【0078】
水素添加プロセス500は、原油供給物5に対して水素添加流60中の重質留分を減少させることができるが、常圧留分はアスファルテンを含む水素添加流60中に残り得る。水素添加プロセス500を分離器ユニット100と組み合わせることにより、水素添加流60から常圧留分を除去して軽質供給物10を生成することができ、これを水蒸気分解プロセス200に導入することができる。有利には、重質供給物15を超臨界水プロセス400に導入することにより、重質供給物15中の常圧留分の量を減少させることができる。有利には、SWP処理軽質生成物50が常圧留分の不在下にあることができ、これはSWP処理軽質生成物50を水蒸気分解プロセス200に再循環させることを可能にし、これは水素添加プロセス500からの重質留分をアップグレードしなかったプロセスと比較して、水蒸気分解プロセス200からの全体的な収率を増加させる。有利には、超臨界水プロセス400は重質供給物15中のアスファルテンの量を減少させることができる。
【0079】
図3を参照して、アップグレーディングプロセスの代替実施形態を、
図2を参照して説明する。水素添加流60を供給物ミキサー130に導入する。供給物ミキサー130は、2つ以上の炭化水素流を混合することができる任意のタイプの混合ユニットとすることができる。供給物ミキサー130の例は、インラインミキサー、スタティックミキサー、混合バルブ、および撹拌タンクミキサーを含むことができる。水素添加流60は、供給物ミキサー130中でSWP処理軽質生成物50と混合されて、混合された分離器供給物70を生成する。混合された分離器供給物70は、分離器ユニット100に導入される。有利には、SWP処理軽質生成物50のルーティングは、SWP処理軽質生成物50の広い沸点範囲を使用することによって、貴重な軽質留分の損失を最小限に抑えるために、超臨界水プロセス400における分離器の設計を可能にすることができる。
【0080】
図4を参照して、アップグレーディングプロセスの代替実施形態を、
図3を参照して説明する。分留塔ユニット300は、分解生成物流出物25から軽質ガスを分離して、分解軽質流30および分解残渣油流35に加えて、回収水素流75を生成することができる。回収水素流75は、超臨界水プロセス400に導入することができる。少なくとも1つの実施形態では、回収水素流75を重質ミキサー40に導入することができる。超臨界水プロセス400に再循環水素を導入することにより、炭化水素ラジカルを飽和させる反応を増加させ、大分子の分解を誘発し、脱水素反応からの水素発生を抑制し、アスファルテン変換反応、脱硫反応および脱窒素反応を増加させることにより、超臨界水プロセス400における反応条件を改善することができる。
図4に示される実施形態を参照して説明されているが、当業者は、本明細書に記載されている実施形態のそれぞれにおいて、および図に描写されている実施形態のそれぞれを参照して、回収水素流75を分留塔ユニット300から生成することができることを理解するであろう。
【0081】
図5を参照して、アップグレーディングプロセスの代替実施形態を、
図2および
図3を参照して説明する。原油供給物5は、蒸留ユニット600に導入することができる。蒸留ユニット600は、所望の生成物流の沸点に基づいて炭化水素流を1つ以上の流れに分離することができる任意のタイプの蒸留塔であってよい。蒸留ユニット600は、原油供給物5を蒸留物流80と蒸留残渣油流85とに分離することができる。蒸留残渣油流85は、650°Fを超える沸点を有する原油供給物5中の炭化水素を含むことができる。蒸留物流80は、650°F未満の沸点を有する原油供給物5中の炭化水素を含むことができる。蒸留物流80は、水素添加プロセス500に導入することができる。水素添加プロセス500は、蒸留物流80中の炭化水素に水素を添加して、水素添加流60を生成することができる。水素添加流60の水素含有量および水素対炭素比は、蒸留物流80の水素含有量および水素対炭素比よりも大きくすることができる。有利には、超臨界水プロセス400において蒸留残渣油流85を分離し蒸留残渣油流85を処理することは、水素添加プロセス500において処理されることから高沸点化合物を除去することができ、これは水素添加プロセス500において使用される水素の量を低減することができ、同じプロセスにおける触媒寿命を延長することができる。全体として、水素添加プロセス500から高沸点化合物を転ずることは、水素消費の減少、装置設置面積の減少、および触媒寿命の増加のために、プロセス経済性を改善する。水素添加流60は、供給物ミキサー130に導入することができる。
【0082】
混合された分離器供給物70は、水蒸気分解プロセス200に導入することができる。蒸留残渣油流85を重質ミキサー120中の分解残渣油流35と混合して、混合された残渣油流90を生成することができる。混合された残渣油流90を超臨界水プロセス400に導入することができる。
【0083】
図6を参照して、アップグレーディングプロセスの代替実施形態を、
図1、
図2および
図5を参照して説明する。蒸留物流80は、蒸留物ミキサー140中でSWP処理軽質生成物50と混合されて、混合された蒸留物流95を生成する。蒸留物ミキサー140は、複数の炭化水素流を混合することができる任意のタイプの混合ユニットであり得る。蒸留物ミキサー140の例は、インラインミキサー、スタティックミキサー、混合バルブ、および撹拌タンクミキサーを含むことができる。SWP処理軽質生成物50は、水素添加プロセス500における処理によってパラフィンに飽和させることができる量のオレフィンを含むことができる。混合された蒸留物流95は、水素添加プロセス500に導入することができる。有利には、超臨界水プロセスにおける蒸留残渣油流85の処理は、蒸留残渣油流85における量と比較して、SWP処理軽質生成物50におけるアスファルテンの量、金属の量、および微小炭素の量を減少させることができ、持続された性能レベルでの水素添加プロセス500におけるより長いランレングスを可能にする。有利には、水素添加流60中のパラフィンの量が増加すると分解生成物流25中のオレフィン含有量が増加するので、水素添加プロセス500にSWP処理軽質生成物50を導入することにより、分解生成物流25のオレフィン含有量を増加させることができる。有利には、超臨界水プロセス400における蒸留残渣油流85の処理がアスファルテン含有量を減少させ、大きな炭化水素分子をより小さな分子に変換する。水素化は、より小さな分子でより促進され、そうして、
図5の実施形態と比較して、超臨界水による処理後、より多量の水素をより重い留分に添加することができる。
【0084】
図7を参照して、アップグレーディングプロセスの一実施形態を、
図1、
図2、
図5および
図6を参照して提供する。蒸留残渣油流85は、水素供給物65と共に水素添加プロセス500に導入される。水素添加プロセス500は、水素添加流60を生成することができる。水素添加流60を、
図2を参照して説明する。有利には、水素添加流60を超臨界水プロセス400で処理することは、水素添加流60中の水素の存在のために、SWP処理重質生成物55と比較して、SWP処理軽質生成物50中の飽和炭化水素をより多量にもたらすことができる。前述のように、超臨界水プロセス400における水素ガスの存在は、炭化水素ラジカルを飽和させる反応の数を増加させ、大分子の分解を誘発し、アスファルテン変換反応、脱硫反応、および脱窒素反応を増加させることができる。水素添加流60は、重質ミキサー120中で分解残渣油流35と混合され、混合流92を生成することができる。混合重質流92は、超臨界水プロセス400に導入することができる。蒸留物流80は、さらなる処理を受けることなく、混合された蒸留物流95の一部として水蒸気分解プロセス200に導入することができる。
【0085】
図8を参照して、
図1、
図2、
図5、
図6および
図7を参照して、アップグレーディングプロセスの一実施形態を説明する。水素添加プロセス500は、水素添加流を分離して水素添加重質生成物62および水素添加軽質生成物64を生成するための装置を含むことができる。水素添加軽質生成物64は、蒸留物ミキサー140中で蒸留物流80およびSWP処理軽質生成物50と混合され、水素添加軽質生成物を混合された蒸留物流95の一部として水蒸気分解プロセス200に送ることができる。
【0086】
水素添加重質生成物62は、重質ミキサー120中で分解残渣油流35と混合され、混合重質流94を生成する。
【0087】
有利には、本明細書に記載される実施形態は、水蒸気分解プロセス単独と比較して、原油供給物5としてより広範囲の供給原料に適応する。水蒸気分解装置の後に超臨界水プロセスが続くプロセスでは、超臨界水プロセスが水蒸気分解流出物を処理して、硫黄を除去し、金属を除去し、アスファルテンを減少させ、粘度を減少させることができる。しかしながら、高粘度油は、水蒸気分解装置で直接処理することができない。さらに、水蒸気分解プロセスに直接導入される供給原料は、その供給原料が多量のオレフィンを有しない限り、液体収率が低下する。本明細書に記載される実施形態のアップグレーディングプロセスでは、重質留分が最初に超臨界水プロセスで分離および処理され、そこで重質留分は、硫黄を除去し、金属を除去し、アスファルテンを減少させ、粘度を低下させ、重質留分と比較して軽質オレフィンの量を増加させるよう、アップグレードすることができる。従って、本明細書に記載されるアップグレーディングプロセスは、高粘度油を取り扱うことができ、水蒸気分解装置への供給原料中の軽質オレフィンの留分を増加させることができる。
【0088】
貯蔵タンクなどの追加の装置を使用して、各ユニットへの供給物を収容することができる。温度、圧力、および水の濃度を含む様々なパラメータを測定するために、プロセスライン上に計器を含めることができる。
【実施例】
【0089】
実施例は、
図9に具体化された比較プロセスを
図8に具体化されたアップグレーディングプロセスと比較する比較例である。
図9の比較プロセスでは、蒸留残渣油流85が水素添加プロセス500に導入される。水素添加プロセス500は、水素添加重質生成物62および水素添加軽質生成物64を生成する。水素添加軽質生成物64を、蒸留物流80と共に軽質蒸留物ミキサー150に導入して、混合水蒸気分解供給物96を生成することができる。混合蒸気分解供給物96は、水蒸気分解プロセス200に導入することができる。両方法において、原油供給物5として、API比重31および全硫黄含有量2.4重量%硫黄のアラビア中間原油を使用した。
【0090】
結果を表1に示す。
【0091】
【0092】
表1の結果から分かるように、本明細書に記載されるアップグレーディングプロセスは、より多くの軽質オレフィンを生成することができる。例えば、アップグレーディングプロセスは、比較プロセスと比較して19%多いエチレンおよび15%多いプロピレンを生成した。
【0093】
本発明を詳細に説明してきたが、本発明の原理および範囲から逸脱することなく、これに関して様々な変更、置換、および改変を行うことができることを理解されたい。従って、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲およびそれらの適切な法的均等物によって決定されるべきである。
【0094】
記載されている様々な要素は、特に指示がない限り、本明細書に記載される他の全ての要素と組み合わせて使用することができる。
【0095】
単数形「a」、「an」および「the」は文脈が明らかにそうではないと指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0096】
任意の、または、任意で、とは、記載される事象または状況が発生する可能性がある、または発生しない可能性があることを意味する。説明は、事象または状況が発生する場合と、それが発生しない場合とを含む。
【0097】
範囲は、本明細書では、およそ1つの特定の値からおよそ別の特定の値として表すことができ、特に指示がない限り、これらを包含する。そのような範囲が表現される場合、別の実施形態は1つの特定の値から他の特定の値までであり、前記範囲内の全ての組み合わせを伴うことが理解されるべきである。
【0098】
特許または刊行物が参照される本出願全体を通して、これらの参照文献の開示は、これらの参照文献が本明細書でなされる記載と矛盾する場合を除いて、本発明が関係する技術水準をより完全に記載するために、それらの全体が参照によって本出願に組み込まれることが意図される。
【0099】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、用語「備える(comprise)」、「有する(has)」、「含む(include)」およびその文法的変化形はそれぞれ、追加の要素またはステップを排除しない、オープンで非限定的な意味を有することが意図される。
【国際調査報告】