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特表2022-504426特に医療機器で使用するためのカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はシリコーンフォームを作製するためのキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】特に医療機器で使用するためのカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はシリコーンフォームを作製するためのキット
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/18 20060101AFI20220105BHJP
   A61L 27/48 20060101ALI20220105BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20220105BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20220105BHJP
   B29C 64/40 20170101ALI20220105BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220105BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220105BHJP
   A61F 2/12 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/48
A61L27/56
B29C64/106
B29C64/40
B33Y10/00
B33Y70/00
A61F2/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518948
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(85)【翻訳文提出日】2021-06-01
(86)【国際出願番号】 US2019053851
(87)【国際公開番号】W WO2020072374
(87)【国際公開日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】62/740,123
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519289224
【氏名又は名称】エルケム・シリコーンズ・ユーエスエイ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】ELKEM SILICONES USA CORP.
【住所又は居所原語表記】Two Tower Center Boulevard,Suite 1601,East Brunswick,NJ 08816 U.S.A.
(71)【出願人】
【識別番号】521138844
【氏名又は名称】エルケム・シリコーンズ・ジャーマニー・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ELKEM SILICONES GERMANY GMBH
【住所又は居所原語表記】Hans-Sachs-Strasse 4a,23566 Lubeck,GERMANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・キハラ
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・マーティン
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・ライアン
(72)【発明者】
【氏名】イェン・モン
(72)【発明者】
【氏名】リーアン・ブラウン
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
4F213
【Fターム(参考)】
4C081AB38
4C081BA12
4C081BB07
4C081BB08
4C081CA271
4C081CC04
4C081CE01
4C081CE08
4C081CE11
4C081DA12
4C081DB03
4C081DC03
4C081DC04
4C081EA02
4C097AA19
4C097AA20
4C097AA29
4C097AA30
4C097BB01
4C097DD01
4C097EE13
4C097FF06
4C097MM03
4F213AA33
4F213AA45
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4F213WL56
4F213WL62
4F213WW32
4F213WW38
4F213WW45
(57)【要約】
本発明は、特に医療機器で使用するための、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又は疑似肉シリコーンフォームを作製するためのキット、及び特に3Dプリンターを使用することによる、前記カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はシリコーンフォームを製造するためのプロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に医療機器で使用するための、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲルを作製するためのキットであって、
第1のパッケージとしてAパーツと、
第2のパッケージとしてBパーツと、
第3のパッケージとしてCパーツと
を含み、
Aパーツは以下の混合物を含み:
i)1分子あたり少なくとも2つのアルケニル基がケイ素に結合した、5~95重量部の少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1;前記アルケニル基は、それぞれ2~14個の炭素原子を含み、好ましくは、前記アルケニル基は、ビニル、アリル、ヘキセニル、デセニル及びテトラデセニルからなる群から選択され、最も好ましくは、前記アルケニル基は、ビニル基である;
ii)少なくとも1つのヒドロシリル化触媒C1;
Bパーツは以下の混合物を含み:
i)1分子あたり少なくとも2つのアルケニル基がケイ素に結合した、95~5重量部の少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA2;前記アルケニル基は、それぞれ2~14個の炭素原子を含み、好ましくは、前記アルケニル基は、ビニル、アリル、ヘキセニル、デセニル及びテトラデセニルからなる群から選択され、最も好ましくは、前記アルケニル基は、ビニル基である;
ii)1分子あたり少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つの水素原子がケイ素に結合した少なくとも1つの有機ケイ素化合物B1;
iii)存在する場合には、鎖延長剤としての少なくとも1つのジオルガノ水素シロキシ末端のポリオルガノシロキサンB2;
iii)存在する場合には、硬化速度を遅くする硬化速度制御剤G1;
Cパーツは以下を含み:
i)25℃で50mPa・s~100000mPa・s、好ましくは50mPa・s~70000mPa・sの動粘度を有する少なくとも1つの線状ポリジメチルシロキサンD1;
ii)存在する場合には、少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1又はA2;
iii)存在する場合には、顔料、抗菌剤、又はレオロジー調整剤などの少なくとも1つの添加剤H1;
ただし、
e)3つのパッケージAパーツ、Bパーツ、Cパーツの内容物を合わせた場合、成分A1とA2の量は100重量部であり;
f)成分B1及びB2は、成分A1及びA2に含まれるアルケニル基に対する成分B1及びB2に含まれるケイ素結合水素原子のモル比が0.25~0.90の範囲であるような量で存在し;
g)Aパーツ、Bパーツ、Cパーツの3つのパッケージの内容物を合わせた場合、成分D1の量は、合わせた成分A1及びA2の100部に対して、少なくとも約0.1重量%から約90重量部までであり;
h)Aパーツ、Bパーツ、Cパーツの3つのパッケージの内容物を合わせた場合、成分C1は、形成された組成物を硬化させるのに十分な量で存在する;
キット。
【請求項2】
前記線状ポリジメチルシロキサンD1が次式を有する、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを作製するための請求項1に記載のキット:
(CH33SiO(SiO(CH32nSi(CH3
式中、50~900、好ましくは50~700の整数である。
【請求項3】
第4のパッケージとして以下を含むDパーツを有する、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを作製するための請求項1に記載のキット:
-少なくとも1つの発泡剤E1。好ましくは、前記発泡剤E1は化学的発泡剤であり、最も好ましくは、前記発泡剤E1は、重炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アルカリ金属炭酸水素塩及びこれらの混合物からなる群から選択される;
-存在する場合には、請求項1に定義される、少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1又はA2。
【請求項4】
前記第3のパッケージであるCパーツは、少なくとも1つの発泡剤E1をさらに含み、好ましくは、前記発泡剤E1は、化学発泡剤であり、最も好ましくは、前記発泡剤E1は、重炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アルカリ金属炭酸水素塩及びこれらの混合物からなる群から選択される、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを作製するための請求項1に記載のキット。
【請求項5】
前記発泡剤E1は重炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アルカリ金属炭酸水素塩及びこれらの混合物からなる群から選択され、前記発泡剤E1は、≦50μm、さらにより好ましくは≦10μmのメジアン粒子径(D50)を有する粒子を有する、請求項3に記載のキット。
【請求項6】
前記有機ケイ素化合物B1は、以下を含むオルガノポリシロキサンである、請求項1に記載のキット:
-少なくとも3つの式(XL-1)のシロキシ単位:
(H)(L)eSiO(3-e)/2 (XL-1)
式中、記号Hは水素原子を表し、記号Lは1~8個の炭素原子を含むアルキル又はC6~C10のアリールを表し、記号eは0、1又は2である;
-任意に、式(XL-2)の他のシロキシ単位:
(L)gSiO(4-g)/2 (XL-2)
式中、記号Lは1~8個の炭素原子を含むアルキル又はC6~C10のアリールを表し、記号gは、0、1、2又は3である。
【請求項7】
前記オルガノポリシロキサンA1及びA2は、25℃で100mPa・s~120000mPa・s、好ましくは5000mPa・s~70000mPa・sの動粘度を有し、
前記鎖延長剤B2は、25℃で1mPa・s~500mPa・s、好ましくは5~200mPa・sの動粘度を有し、
前記有機ケイ素化合物B1は、25℃で5mPa・s~2000mPa・s、好ましくは5~500mPa・sの動粘度を有する、
請求項1に記載のキット。
【請求項8】
パッケージであるAパーツ、Bパーツ及び/又はCパーツは、少なくとも1つのチキソトロピー剤F1、好ましくは少なくとも1つのオルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーをさらに含む、請求項1に記載のキット。
【請求項9】
特に医療機器で使用するための、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを作製するためのプロセスであって、以下のステップ:
a)請求項1~8のいずれか1項に定義される、3つのパッケージであるAパーツ、Bパーツ、Cパーツ、及び存在する場合には、はDパーツの内容物又は部分を組み合わせて、シリコーンゲル又はシリコーンフォームの架橋可能なシリコーン組成物X前駆体を生成し、
b)前記架橋可能なシリコーン組成物Xを架橋させて、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを生成すること
を含み、
得られたシリコーンゲル又はシリコーンフォームの感覚的肉感特性は、ステップa)で、前記カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームの感覚的肉感特性の必要なレベルに対応するCパーツの内容物の必要量を計量及び添加することによってカスタマイズされる、
プロセス。
【請求項10】
請求項9に従って得られた、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォーム。
【請求項11】
シェル及びシェルによって囲まれた充填物を含み、前記充填物が請求項10に記載のカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームである、豊胸インプラント。
【請求項12】
請求項10に記載のカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを含む機器、特にインプラント。
【請求項13】
特に医療機器で使用するための、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られる、3D形状の物品を積層造形するプロセスであって、以下のステップ:
a)請求項1に定義される第1のパッケージであるAパーツの内容物を第1の供給ラインに供給し、
請求項1に定義される第2のパッケージであるBパーツの内容物を第2の供給ラインに供給し、
請求項1に定義される第3のパッケージであるCパーツの内容物を第3の供給ラインに供給し、
存在する場合には、第4のパッケージであるDパーツの内容物を第4の供給ラインに供給し、
b)前記第1の供給ライン、前記第2の供給ライン及び前記第3の供給ライン、そして存在する場合には、前記第4の供給ラインの内容物を混合タンクに導入し、シリコーンゲル又はシリコーンフォームの架橋可能なシリコーン組成物X前駆体を生成し、
c)押出3Dプリンター又は材料噴射3Dプリンターから選択される3Dプリンターを用いて、前記架橋可能なシリコーン組成物Xの一部を印刷して、シリコーンゲル又はシリコーンフォームの3Dゲル印刷に適した、ゲル又はミクロゲルである材料SM1のマトリックスに堆積物を形成し、前記堆積物は、x、y、及びz方向に配置することができる少なくとも1つのデリバリーユニットを有する機器によって達成され、
d)印刷された架橋可能なシリコーン組成物Xを、任意選択で加熱することによって部分的又は完全に架橋させて、支持材料SM1の前記マトリックス内に、疑似肉シリコーンゲル堆積物又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォーム堆積物を得、
e)任意に、所望の3D形状が得られるまで、ステップc)及びd)を数回繰り返し、
f)前記支持材料SM1を機械的に又は溶媒への溶解を介して除去し、
g)カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られる、3D形状の物品を回収すること
を含み、
ステップd)で得られたシリコーンゲル堆積物又はシリコーンフォーム堆積物の感覚的肉感特性は、ステップa)で、Cパーツの内容物の必要量を添加するために前記第3の供給ラインを計量することによってカスタマイズされる、
プロセス。
【請求項14】
特に医療機器で使用するための、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られる、3D形状の物品を積層造形するプロセスであって、以下のステップ:
a)請求項1に定義される第1のパッケージであるAパーツの内容物を第1の供給ラインに供給し、
請求項1に定義される第2のパッケージであるBパーツの内容物を第2の供給ラインに供給し、
請求項1に定義される第3のパッケージであるCパーツの内容物を第3の供給ラインに供給し、
存在する場合には、第4のパッケージであるDパーツの内容物を第4の供給ラインに供給し、
b)前記第1の供給ライン、前記第2の供給ライン及び前記第3の供給ライン、そして存在する場合には、前記第4の供給ラインの内容物を混合タンクに導入し、シリコーンゲル又はシリコーンフォームの架橋可能なシリコーン組成物X前駆体を生成し、
c)押出3Dプリンター又は材料噴射3Dプリンターから選択される3Dプリンターを用いて、前記架橋可能なシリコーン組成物Xの一部を印刷して、支持材料SM2上に、x、y、及びz方向に配置することができる少なくとも1つのデリバリーユニットを有する機器によって達成された堆積物を形成し、好ましくは、SM2は、シリコーンゲル又はシリコーンフォームの3D印刷に適した、ゲル又はミクロゲルであり、前記支持材料SM2は、x、y、及びz方向に配置することができる少なくとも1つのデリバリーユニットを有する機器により、特定の場所で同時に又は千鳥間隔でデリバリーされ、
d)印刷された架橋可能なシリコーン組成物Xを、任意選択で加熱することによって部分的又は完全に架橋させて、前記支持材料SM2上に、疑似肉シリコーンゲル堆積物又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォーム堆積物を得、
e)任意に、所望の3D形状が得られるまで、同じ支持材料SM2上に、又はステップc)によってデリバリーされた別の支持材料SM2上に、ステップc)及びd)を数回繰り返し、
f)前記支持材料SM2を機械的に又は溶媒への溶解を介して除去し、
g)カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られる、3D形状の物品を回収すること
を含み、
ステップd)で得られたシリコーンゲル堆積物又はシリコーンフォーム堆積物の感覚的肉感特性は、ステップa)で、Cパーツの内容物の必要量を添加するために前記第3の供給ラインを計量することによってカスタマイズされる、
プロセス。
【請求項15】
請求項13に従って製造された、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られた3D形状の物品。
【請求項16】
組織再生用途のための足場材である、請求項13に従って製造された、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られた3D形状の物品。
【請求項17】
請求項16に記載の3D形状の物品を含む医療用インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2018年10月2日に出願された米国仮出願第62/740,123号の優先権を主張する特許協力条約に基づく国際出願であり、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、特に医療機器で使用するための、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを作製するためのキット及びこれらを製造するためのプロセスに関する。さらに、本発明は、充填物として使用される前記特定のシリコーンゲル及びフォームを含む豊胸インプラントに関する。本発明はまた、3D形状の物品を積層造形するための新しいプロセス、及び医療用インプラントとして有用であり得るカスタマイズ可能な前記疑似肉シリコーンゲル又はシリコーンフォームで作られた新しい3D形状の物品に関する。
【背景技術】
【0003】
今日では、体のほぼすべての部分を埋めてバランスと調和を作り出すことができるため、再建及び美容整形手術が一般的になっている。再建及び美容整形には、インプラントが使用される。インプラントの使用は、人口の高齢化、平均余命と生活スタイルの向上、及びインプラント技術の向上により、大幅に増加すると予測されている。この特許出願における「インプラント」という用語は、失われた生物学的構造を置き換え、損傷した生物学的構造を支持し、又は既存の生物学的構造を強化するために製造された医療機器を意味する。
【0004】
インプラントは、特定の3次元形状を提供し、インプラントの性質に応じて一定期間その形状を維持できる必要がある。インプラントはまた、人体との相互作用による損傷を受けないように生体耐久性が必要であり、そして生体適合性が必要である。中期又は長期の埋め込み型医療機器の生体適合性とは、望ましくない局所的又は一般的な影響を引き起こすことなく、意図された機能を実行する能力を指す。
【0005】
いくつかの特定のインプラント用途では、インプラントがインプラントの位置で実際の人間の組織を模倣できるように、インプラントが適切な弾力性を有する材料でできていることも必要である。弾力性は、永久変形することなくエネルギーを吸収する材料の能力の指標である。
【0006】
さらに、このようなインプラントに必要な特性はそれだけではなく、人間の組織の感触を模倣した特定の感触を持つインプラントに対する強い需要もある。確かに、医療機器を必要とする患者は、インプラントされた材料の感覚的な感触を彼らの自然な肉の感触と一致させるように改善するために、これまで以上にカスタムな解決策を必要としている。カスタム感覚材料は、機器の埋め込みを必要とする患者の生活の質を改善し、そのような機器の感情的及び社会的受容を改善する。
【0007】
形成外科で使用されるほとんどのインプラントは、既存の生体適合性のある合成材料の1つとして長い間認識されてきた、シリコーンベースの材料で構成されている。すべてのタイプの美容及び再建インプラントの中で、豊胸手術の実施数が最も多かった。乳房切除術の影響を受けた女性の乳房の再建を可能にする再建乳房手術が実施され、一方、美容乳房手術は、例えばインプラントを追加することにより、女性の乳房の外観を修正するため、例えば、乳房のサイズを大きくし、非対称性を修正し、形状を変え、及び異形を矯正するために実施される。
【0008】
しかし、インプラントは現在、眉、鼻、頬、あご、唇などの他の顔面インプラント、及び気管ステント、移植可能な脂肪の増強又は置換などのさまざまな身体インプラント(例えば、大殿筋、乳房又は頬のインプラント、又はふくらはぎ、上腕二頭筋、上腕三頭筋、腹筋などのより硬い組織)に、ますます使用されている。
【0009】
さらに、医療用インプラントのカスタマイズは、正式には積層造形(additive manufacturing、AM)と呼ばれる3次元(3D)印刷の開発により、さらに利用しやすくなった。積層造形(AM)は、CAD(computer-aided design)を使用して層ごとに3次元物体を作成することで構成される。3D印刷は効果的なソリューションを提供し、パーソナライズされた医療とケアに大きな可能性を示している。確かに、組織及び臓器移植の需要の増加、ならびに組織及び臓器提供者の不足のために、天然のヒト組織及び臓器の生物学的代替物を開発するために多くの努力がなされてきた。3D印刷は、組織工学に使用される、制御された孔径と孔構造を備えたカスタマイズされた足場材の製造にも使用される。3D印刷された構造は、成長指向構造として機能し、十分な栄養素が供給される細胞は、これらの3D足場材に移動及び増殖して、インプラント後機能的な組織を形成することが可能だからである。
【0010】
医療分野がインプラントのカスタマイズに転向しているので、インプラントなどの医療機器で使用するために、感覚的感触特性を各患者に簡単にカスタマイズできる生体適合性材料が依然として必要とされている。前記生体適合性材料のカスタム感覚は、機器をインプラントする必要がある患者の生活の質を改善し、そのような機器の感情的及び社会的受容を改善するであろう。特に、豊胸手術で使用される充填物の改善は、そのような生体適合性材料から利益を得るだろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そのような生体適合性材料の感覚的感触特性のカスタマイズを可能にするために、そのような生体適合性材料を製造するための便利なプロセスも必要である。特に、前記生体適合性材料は、インプラントがインプラントの位置で実際の人間の組織を模倣できるように、適切な弾力性を有するべきである。
【0012】
そのような生体適合性材料を効率的に製造するための積層造形法を提供することも強く求められている。
【0013】
これに関連して、本発明の本質的な目的の1つは、低密度特性を有するという利点を有する、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを作製するための新しいキットを提供することである。
【0014】
本発明の別の本質的な目的は、このようなカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを作製するための新しいプロセスを提供することである。
【0015】
本発明の別の本質的な目的は、充填物として使用される前記特定のシリコーンゲル又はシリコーンフォームを含む豊胸インプラントを提供することである。
【0016】
本発明の別の本質的な目的は、前記カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又は前記カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られる3D形状の物品を積層造形するための新しいプロセスを提供することである。そのようなプロセスはまた、そのような生体適合性材料で作られた複雑な形状の物品を製造することを可能にするであろう。
【0017】
本発明の別の本質的な目的は、前記カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又は前記カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られる3D形状の物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これらすべての目的は、とりわけ、本発明によって達成され、これは、特に医療機器で使用するための、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲルを作製するためのキットであって、
第1のパッケージとしてAパーツと、
第2のパッケージとしてBパーツと、
第3のパッケージとしてCパーツと
を含み、
Aパーツは以下の混合物を含み:
i)1分子あたり少なくとも2つのアルケニル基がケイ素に結合した、5~95重量部の少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1;前記アルケニル基は、それぞれ2~14個の炭素原子を含み、好ましくは、前記アルケニル基は、ビニル、アリル、ヘキセニル、デセニル及びテトラデセニルからなる群から選択され、最も好ましくは、前記アルケニル基は、ビニル基である;
ii)少なくとも1つのヒドロシリル化触媒C1;
Bパーツは以下の混合物を含み:
i)1分子あたり少なくとも2つのアルケニル基がケイ素に結合した、95~5重量部の少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA2;前記アルケニル基は、それぞれ2~14個の炭素原子を含み、好ましくは、前記アルケニル基は、ビニル、アリル、ヘキセニル、デセニル及びテトラデセニルからなる群から選択され、最も好ましくは、前記アルケニル基は、ビニル基である;
ii)1分子あたり少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つの水素原子がケイ素に結合した少なくとも1つの有機ケイ素化合物B1;
iii)存在する場合には、鎖延長剤としての少なくとも1つのジオルガノ水素シロキシ末端のポリオルガノシロキサンB2;
iii)存在する場合には、硬化速度を遅くする硬化速度制御剤G1;
Cパーツは以下を含み:
i)25℃で50mPa・s~100000mPa・s、好ましくは50mPa・s~70000mPa・sの動粘度を有する少なくとも1つの線状ポリジメチルシロキサンD1;
ii)存在する場合には、少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1又はA2;
iii)存在する場合には、顔料、抗菌剤、又はレオロジー調整剤などの少なくとも1つの添加剤H1;
ただし、
a)3つのパッケージAパーツ、Bパーツ、Cパーツの内容物を合わせた場合、成分A1とA2の量は100重量部であり;
b)成分B1及びB2は、成分A1及びA2に含まれるアルケニル基に対する成分B1及びB2に含まれるケイ素結合水素原子のモル比が0.25~0.90の範囲であるような量で存在し;
c)Aパーツ、Bパーツ、Cパーツの3つのパッケージの内容物を合わせた場合、成分D1の量は、合わせた成分A1及びA2の100部に対して、少なくとも約0.1重量%から約90重量部までであり;
d)Aパーツ、Bパーツ、Cパーツの3つのパッケージの内容物を合わせた場合、成分C1は、形成された組成物を硬化させるのに十分な量で存在する。
【0019】
この目的を達成するために、出願人は、驚くべきかつ予想外のことに、成分が注意深く配置されたシリコーンゲルを調製するために組み合わせることが意図されたマルチパートキットを提供することによって、感覚的感触特性を簡単にカスタマイズできるシリコーンゲルを製造できるようにする、すぐに使用できるキットを製造業者に提供する必要性に対処できることを実証した。これは、前記マルチパートキットにおいて、特定の線状ポリジメチルシロキサンD1を含む特定のパートCを提供することによって可能になり、これは、3つのパーツすべてが組み合わされたときに、本発明による範囲内でその添加量及び/又はその粘度を単に変化させることによって使用することができる。簡単にカスタマイズできる感覚感特性を備えた生体適合性材料で機器を設計することは困難であることが知られているため、このキットは、特に3D印刷領域で医療用インプラントをカスタマイズするための新しい道を開く。したがって、機器のインプラントを必要とする患者の生活の質を改善し、そのような機器の感情的及び社会的受容を改善するのに役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で検討中のすべての粘度は、それ自体が知られている方法で、25℃で、十分に低い剪断速度勾配で測定される動粘度の大きさに対応する。そのため、ブルックフィールドタイプの機械で測定された粘度は、速度勾配に依存しない。
【0021】
本発明の第1の実施形態によれば、前記線状ポリジメチルシロキサンD1が次式を有する:
(CH33SiO(SiO(CH32)nSi(CH3
式中、nは50~900、好ましくは50~700の整数である。
【0022】
別の好ましい実施形態によれば、本発明のキットは、第4のパッケージとして以下をさらに含むDパーツを有する:
-少なくとも1つの発泡剤E1。好ましくは、前記発泡剤E1は化学的発泡剤であり、最も好ましくは、前記発泡剤E1は、重炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アルカリ金属炭酸水素塩及びこれらの混合物からなる群から選択される;
-存在する場合には、本発明に係るAパーツ及びBパーツにおける少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1又はA2。
【0023】
別の好ましい実施形態によれば、前記第3のパッケージであるCパーツは、少なくとも1つの発泡剤E1をさらに含む。前記発泡剤E1は、当業者によく知られている、化学分解又は蒸発によってガスを生成する任意の液体又は固体であり得る。
【0024】
好ましくは、前記発泡剤E1は、化学的発泡剤であり、最も好ましくは、前記発泡剤E1は、重炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アルカリ金属炭酸水素塩及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0025】
適用及び製造を容易にするために、発泡剤E1は、例えば30重量%~60重量%のレベルで、前記オルガノポリシロキサンA1に予め分散させることができ、存在する場合には、得られた組成物の貯蔵寿命を安定させるのに役立ち得る添加剤に最終的に組み込むことができる。
【0026】
別の好ましい実施形態では、前記発泡剤E1は重炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アルカリ金属炭酸水素塩及びこれらの混合物からなる群から選択され、前記発泡剤E1は、≦50μm、さらにより好ましくは≦10μmのメジアン粒子径(D50)を有する粒子を有する。
【0027】
本発明による適切なオルガノポリシロキサンA1及びA2の例は、以下の式のポリマーである。
【化1】
式中、
R及びR”は独立して、C1~C30の炭化水素基からなる群から互いに選択され、好ましくは、R及びRは、メチル、エチル、プロピル、トリフルオロプロピル、及びフェニルからなる群から選択されるアルキル基であり、最も好ましくは、Rはメチル基であり、
R’はC1~C20のアルケニル基であり、好ましくはR’はビニル、アリル、ヘキセニル、デセニル及びテトラデセニルからなる群から選択され、最も好ましくはR’はビニル基であり、
nは、5~1000、好ましくは100~600の値を持つ整数である。
【0028】
使用されるオルガノポリシロキサンA1又はA2の他の例として、次が挙げられる。
-ジメチルビニルシリル末端基を含むポリジメチルシロキサン;
-ジメチルビニルシリル末端基を含むポリ(メチルフェニルシロキサン-co-ジメチルシロキサン);
-ジメチルビニルシリル末端基を含むポリ(ビニルメチルシロキサン-co-ジメチルシロキサン);
【0029】
ヒドロシリル化触媒C1の例は、米国特許第3,715,334号に示されているカルステット触媒、又は当業者に知られている他の白金若しくはロジウム触媒などのヒドロシリル化触媒であり、マイクロカプセル化されたヒドロシリル化触媒、例えば、米国特許第5,009,957号に見られるような当技術分野で知られているものも含む。しかしながら、本発明に関連するヒドロシリル化触媒は、以下の元素のうちの少なくとも1つを含むことができる:Pt、Rh、Ru、Pd、Ni(例えば、ラネーニッケル)、及びこれらのその組み合わせ。触媒は、任意に、不活性又は活性支持体に結合される。使用できる好ましい触媒の例には、クロロ白金酸、クロロ白金酸のアルコール溶液、白金とオレフィンの錯体、白金と1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(Karstedt触媒として知られる)の錯体及び白金が支持されている粉末などの白金型触媒が含まれる。白金触媒は、文献に詳しく記載されている。特に、米国特許第3,159,601号、第3,159,602号、第3,220,972号、及び欧州特許EP-A-057,459、EP-188,978、EP-A-190,530に記載されている白金と有機生成物の錯体、並びに米国特許第3,419,593号、第3,715,334号、第3,377,432号、第3,814,730号、及び第3,775,452号に記載されている白金とビニル化オルガノポリシロキサンの錯体を挙げることができる。特に、白金系触媒が特に望ましい。白金触媒は、室温で十分に迅速な架橋を可能にするために、触媒的に十分な量で使用されることが好ましい。典型的には、Aパーツ、Bパーツ、Cパーツの内容物を合わせたときの全シリコーン組成物に対して、Pt金属の量に基づいて、1~200重量ppm、好ましくは1~100重量ppm、より好ましくは1~50重量ppmの触媒が使用される。
【0030】
好ましい実施形態では、前記有機ケイ素化合物B1は、以下を含むオルガノポリシロキサンである:
-少なくとも3つの式(XL-1)のシロキシ単位:
(H)(L)eSiO(3-e)/2 (XL-1)
式中、記号Hは水素原子を表し、記号Lは1~8個の炭素原子を含むアルキル又はC6~C10のアリールを表し、記号eは0、1又は2である;
-任意に、式(XL-2)の他のシロキシ単位:
(L)gSiO(4-g)/2 (XL-2)
式中、記号Lは1~8個の炭素原子を含むアルキル又はC6~C10のアリールを表し、記号gは、0、1、2又は3である。
【0031】
オルガノポリシロキサン化合物B1は、式(XL-1)のシロキシル単位のみから形成することができ、又は式(XL-2)の単位を含むこともできる。それは、線形、分岐、又は環状構造を有し得る。重合度は好ましくは2以上である。より一般的には、それは1000未満である。その動粘度は、通常、25℃で約1~2000mPa・sの範囲であり、一般に25℃で約5~2000mPa・sであり、又は好ましくは25℃で5~500mPa・sである。
【0032】
鎖延長剤B2としてジオルガノ水素シロキシ末端ポリオルガノシロキサンの例として、ジメチルヒドロゲノシロキシ末端基を有する、25℃で1mPa・s~500mPa・s、好ましくは5mPa・s~200mPa・s、最も好ましくは1~30mPa・sの動粘度を有するポリジメチルシロキサンを挙げることができる。
【0033】
特に有利な鎖延長剤B2は、式MHXHのポリ(ジメチルシロキシ)-α,ω-(ジメチル水素シロキシ)であり、ここで:
H=式のシロキシル単位:(H)(CH32SiO1/2
D=式のシロキシル単位:(CH32SiO2/2
xは、1~200、好ましくは1~150、さらにより好ましくは3~120の整数である。
【0034】
鎖延長剤B2は、架橋時にネットワークのメッシュサイズを大きくする効果があるとされるため、「鎖延長剤」(chain extender)と呼ばれる。SiH反応性機能が鎖末端にある場合、「テレケリック」ポリマーという用語が使用されることがある。
【0035】
触媒阻害剤としても知られている硬化速度制御剤G1の例は、必要に応じて配合シリコーンの硬化を遅くするように設計されている。硬化速度制御剤は当技術分野で周知であり、そのような材料の例は米国特許で見ることができる。米国特許第3,923,705号は、ビニル含有環状シロキサンの使用に言及している。米国特許第3,445,420号は、アセチレンアルコールの使用を記載している。米国特許第3,188,299号は、複素環式アミンの有効性を示している。米国特許第4,256,870号は、硬化を制御するために使用されるマレイン酸アルキルについて記載している。米国特許第3,989,667号に記載されているように、オレフィンシロキサンを使用することもできる。ビニル基を含むポリジオルガノシロキサンも使用されており、この技術は米国特許第3,498,945号、第4,256,870号、及び第4,347,346号に見ることができる。この組成物の好ましい阻害剤は、メチルビニルシクロシロキサン、3-メチル-1-ブチン-3-オール、及び1-エチニル-1-シクロヘキサノールであり、最も好ましくは、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニル-シクロテトラシロキサンであり、その量は、望ましい硬化速度に応じて、シリコーン化合物の0.002%~1.00%である。好ましい硬化速度制御剤G1は、次の中から選択される:
1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニル-シクロテトラシロキサン;
3-メチル-1-ブチン-3-オール;
1-エチニル-1-シクロヘキサノール。
【0036】
より長い作業時間又は「ポットライフ」を得るために、硬化速度制御剤G1の量は、所望の「ポットライフ」に到達するように調整される。本シリコーン組成物中の触媒阻害剤の濃度は、高温での硬化を防止又は過度に延長することなく、室温での組成物の硬化を遅らせるのに十分である。この濃度は、使用する特定の阻害剤、ヒドロシリル化触媒の性質と濃度、及びオルガノ水素ポリシロキサンの性質によって大きく異なる。白金族金属1モルあたり1モルの阻害剤という低い阻害剤濃度は、場合によっては、満足のいく貯蔵安定性と硬化速度をもたらす。他の例では、白金族金属1モルあたり最大500モル以上の抑制剤の阻害剤濃度が必要とされ得る。所与のシリコーン組成物中の特定の抑制剤の最適濃度は、日常的な実験によって容易に決定することができる。有利には、付加架橋シリコーン組成物中の硬化速度制御剤G1の量は、Aパーツ、Bパーツ、Cパーツの内容物を合わせた場合のシリコーン組成物の総重量に対して、0.01重量%~0.2重量%、好ましくは、0.03重量%~0.15重量%の範囲である。
【0037】
好ましい実施形態では、
前記オルガノポリシロキサンA1及びA2は、25℃で100mPa・s~120000mPa・s、好ましくは5000mPa・s~20000mPa・sの動粘度を有し、
前記鎖延長剤B2は、25℃で1mPa・s~500mPa・s、好ましくは5~200mPa・sの動粘度を有し、
前記有機ケイ素化合物B1は、25℃で5mPa・s~2000mPa・s、好ましくは5~500mPa・sの動粘度を有する。
【0038】
本発明の有利な実施形態では、パッケージであるAパーツ、Bパーツ及び/又はCパーツは、少なくとも1つのチキソトロピー剤F1をさらに含む。付加反応を介して架橋するシリコーン組成物に適した任意のチキソトロピー剤を使用することができる。実際、特に3D印刷の分野では、Aパーツ、Bパーツ及びCパーツの成分が組み合わされたときに形成される組成物が、硬化が完了する前に室温で物体又はドロップの崩壊又は変形を回避するための適切なレオロジー特性を有することが有利である。そのような添加剤が本発明によるキット内に存在する場合、得られる組成物はチキソトロピー挙動を有し得、その結果、それが滑らかに押し出され、そして押し出し後、ドロップ又は物体は依然としてその形状を保持し、架橋反応の発生を可能にするのに十分な時間を与える。
【0039】
好ましい実施形態では、前記チキソトロピー剤F1は、オルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーである。ポリジオルガノシロキサン-ポリエーテルコポリマー又はポリアルキレンオキシド修飾ポリメチルシロキサンとしても知られるオルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーは、アルキレンオキシド鎖配列を有するシロキシル単位を含むオルガノポリシロキサンである。好ましくは、適切なオルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーは、エチレンオキシド鎖配列及び/又はプロピレンオキシド鎖配列を有するシロキシル単位を含むオルガノポリシロキサンである。使用できるオルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーの例は、式(E-2)に対応する:
a 3SiO[RaSiO]t[RaSi(Rb-(OCH2CH2x(OCH2CH2CH2y-H)O]rSiRa 3 (E-2)
式中、
各Raは、1~8個の炭素原子を含むアルキル基から独立して選択され、好ましくはRaはメチル基であり、
各Rbは、2~6個の炭素原子又は直接結合を有する二価の炭化水素基であり、好ましくは、Rbはプロピル基であり、
xとyは独立して、1~40、好ましくは5~30、最も好ましくは10~30に含まれる整数であり、
tは1~200、好ましくは25~150に含まれ、
rは2~25、好ましくは3~15に含まれる。
【0040】
有利には、一実施形態では、チキソトロピー剤F1は以下である:
Me3SiO[Me2SiO]75[MeSi((CH23-(OCH2CH222(OCH2CH(CH3))22-OH)O]7SiMe3
【0041】
ポリジオルガノシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーを調製する方法は、当技術分野でよく知られている。例えば、ポリジオルガノシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーは、例えば、白金族触媒の存在下で、ケイ素結合水素原子を含むポリジオルガノシロキサンを、脂肪族不飽和を有するポリオキシアルキレン含有基と反応させることによるヒドロシリル化反応を使用して調製することができる。存在する場合の付加架橋シリコーン組成物中のオルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレンコポリマーの量は、Aパーツ、Bパーツ、Cパーツの内容物を合わせた場合のシリコーン組成物の総重量に対して、少なくとも0.3重量%、好ましくは少なくとも0.4重量%、最も好ましくは0.6重量%~4重量%の範囲、さらに最も好ましくは0.6重量%~3重量%である。
【0042】
適切な添加剤H1の例には、以下が含まれる。弾力性のある添加剤、フィラー;シリコーン樹脂、顔料;抗菌剤、放射線不透過性添加剤;UV安定剤;芳香剤;フレーバー;エッセンシャルオイル;難燃性添加剤;熱安定剤;レオロジー調整剤;増粘剤;接着促進剤;殺生物剤;防腐剤;酵素;ペプチド;界面活性剤;反応性希釈剤;医薬品活性剤;賦形剤又は化粧品成分。
【0043】
接着促進剤は、主にシリコーン組成物に使用される。有利には、以下からなる群から選択される1つ又は複数の接着促進剤を使用することが可能である:
1分子あたり、少なくとも1つのC2~C6アルケニル基を含むアルコキシル化オルガノシラン;
少なくともエポキシ基を含む有機ケイ酸塩化合物;
金属Mのキレート及び/又は次式の金属アルコキシド:
M(OJ)n
式中、
MはTi、Zr、Ge、Li、Mn、Fe、Al、Mg又はこれらの混合物からなるグループから選択される。好ましくは、Mは、Ti、Zr、Ge、Li、又はMnからなるグループから選択され、より好ましくは、Mはチタンであり、
n=Mの原子価、J=C1~C8の直鎖又は分岐アルキル。
【0044】
シリコン樹脂は、よく知られており、市販されている分岐オルガノポリシロキサンである。それらは、構造において、以下の式のユニットの中から選択された少なくとも2つの異なるユニットを持つ:R3SiO1/2(Mユニット)、R2SiO2/2(Dユニット)、RSiO3/2(Tユニット)及びSiO4/2(Qユニット)。これらのユニットの少なくとも1つはT又はQユニットである。前記式において、基Rは同一又は異なるものであり、C1~C6の直鎖又は分枝アルキル、ヒドロキシル、フェニル、トリフルオロ-3,3,3プロピルからなる群から選択される。アルキル基は、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、ターチオブチル及びn-ヘキシルである。
【0045】
分岐オリゴマー又はオルガノポリシロキサンポリマーの例として、MQ樹脂、MDQ樹脂、TD樹脂、及びMDT樹脂が挙げられる。これらは、M、D、及び/又はTユニットで保持され得るヒドロキシル官能基を持つことができる。特に適している樹脂の例としては、0.2~10重量%のヒドロキシル基を有するヒドロキシル化MDQ樹脂が挙げられる。
【0046】
抗菌剤は、クロルヘキシジンジグルコネート、元素銅、元素銀、銀塩、銅含有化合物、銀含有化合物、又はこれらの組み合わせを含むことができる。
【0047】
本発明の別の目的は、特に医療機器で使用するための、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを作製するためのプロセスに関し、以下のステップ:
a)本発明による、3つのパッケージであるAパーツ、Bパーツ、Cパーツ、及び存在する場合には、Dパーツの内容物又は部分を組み合わせて、シリコーンゲル又はシリコーンフォームの架橋可能なシリコーン組成物X前駆体を生成し、
b)前記架橋可能なシリコーン組成物Xを架橋させて、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを生成すること
を含み、
得られたシリコーンゲル又はシリコーンフォームの感覚的肉感特性は、ステップa)で、前記カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームの感覚的肉感特性の必要なレベルに対応するCパーツの内容物の必要量を計量及び添加することによってカスタマイズされる。
【0048】
上述したように、この新しいプロセスは、感覚的感触特性を簡単にカスタマイズできるシリコーンゲル又はシリコーンフォームを製造することを可能にするプロセスを製造業者に提供する要求に応える。
【0049】
計量は、例えば重量(天びんを使用)又は体積(測定容器、ピペット、又は使い捨て注射器)などの任意の手段で行うことができる。量が比較的多い場合、本発明によるプロセスのステップa)において、機械的攪拌機又は自動混合及び計量システムを使用することができる。適切な混合ツールは、穴あきの傾斜ブレードを備えたパドルスターラーである。歯付きディスク(ディゾルバー)を使用した高速攪拌機も適している。大量のずり流動化/チキソトロピー組成物を処理するために、自動投与装置は、静的ミキサー又は動的混合ヘッドのいずれかで実行できる。完全に自動化された処理混合装置は、本発明によるプロセスのステップa)において、Aパーツ、Bパーツ、Cパーツ、及び存在する場合はパートDの成分(例えばペール缶又はドラムの形に調整されたもの)が、計量ユニット(ギアポンプやヘリカルポンプなど)によって、ペール缶又はドラム缶から直接、希望の比率でポンプ(静的ミキサー又は動的ミキサーのいずれか)に供給されるように使用できる。これは、追加のギアポンプ、ヘリカルポンプ、又は容積測定ピストンシステムによってもサポートできる。架橋可能なシリコーン組成物Xのレオロジー特性と流量に応じて、適切なミキサーが選択される。実際、静的ミキサーには可動部分がなく、組成物は内部の固定混合要素を介して均質化されるが、動的ミキサーは可動部品による均質化をサポートする。
【0050】
本発明による方法のステップb)における前記架橋性シリコーン組成物Xの硬化は、熱を必要とせずに、したがって周囲温度20℃(+/-5℃)で、阻害剤及び/又は触媒のレベルを調整することにより容易に得られる。しかしながら、それはまた、80℃~200℃、好ましくは100℃~185℃の温度範囲での熱硬化によって大幅に加速することができる。
【0051】
本発明の別の目的は、上記本発明のプロセスに従って得られた、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームに関する。
【0052】
本発明の別の目的は、シェル及びシェルによって囲まれた充填物を含み、前記充填物が上記本発明によるカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームである、豊胸インプラントに関する。
【0053】
そして、シェルは、例えば、シリコーンエラストマー、好ましくは加硫シリコーンゴムであり得、これは、単層又は多層、スムーズ又はテクスチャー、バリアコーティング、又はポリウレタンフォームで覆われ得る。従来の豊胸インプラント用シェルは、多層又はラミネート加工されている。具体的には、そのようなシェルは、外側の「破裂抵抗性」層、及び外側の層の間に挟まれ、ゲルブリードに抵抗するのに効果的な内側の「バリア」層を含む。例えば、それは、5%のジフェニルポリマーモルパーセントを有するジメチルジフェニルシリコーンエラストマーの外層で作られた低拡散シリコーンエラストマーシェル、及び15モル%のジフェニルポリマーを有するジメチル-ジフェニルシリコーンエラストマーのバリア層を含むことができる。本発明に従って使用することができる可撓性シェルの別の適切な例は、(ジフェニルシロキサン単位が約15モル%など)ジフェニルペンダント基を有するポリジメチルシロキサン骨格を含むシリコーンエラストマーで作られた、コアのシリコーンゲルを包み込み、直接接触する実質的に均質な層を含む柔軟なシェルである。
【0054】
豊胸手術を受ける患者の自然な肉体の感触に一致するように豊胸インプラントの感覚を改善するためのこれまで以上にカスタムなソリューションの可能性は重要な利点であり、患者の生活の質を改善し、そのような機器の感情的及び社会的受容を改善する。
【0055】
本発明の別の目的は、特に医療機器で使用するための、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られる、3D形状の物品を積層造形するプロセスに関し、以下のステップ:
a)本発明による、上記で定義された第1のパッケージであるAパーツの内容物を第1の供給ラインに供給し、
本発明による、上記で定義された第2のパッケージであるBパーツの内容物を第2の供給ラインに供給し、
本発明による、上記で定義された第3のパッケージであるCパーツの内容物を第3の供給ラインに供給し、
存在する場合には、本発明による、上記で定義された第4のパッケージであるDパーツの内容物を第4の供給ラインに供給し、
b)前記第1の供給ライン、前記第2の供給ライン及び前記第3の供給ライン、そして存在する場合には、前記第4の供給ラインの内容物を混合タンクに導入し、シリコーンゲル又はシリコーンフォームの架橋可能なシリコーン組成物X前駆体を生成し、
c)押出3Dプリンター又は材料噴射3Dプリンターから選択される3Dプリンターを用いて、前記架橋可能なシリコーン組成物Xの一部を印刷して、シリコーンゲル又はシリコーンフォームの3Dゲル印刷に適した、ゲル又はミクロゲルである材料SM1のマトリックスに堆積物を形成し、前記堆積物は、x、y、及びz方向に配置することができる少なくとも1つのデリバリーユニットを有する機器によって達成され、
d)印刷された架橋可能なシリコーン組成物Xを、任意選択で加熱することによって部分的又は完全に架橋させて、支持材料SM1の前記マトリックス内に、疑似肉シリコーンゲル堆積物又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォーム堆積物を得、
e)任意に、所望の3D形状が得られるまで、ステップc)及びd)を数回繰り返し、
f)前記支持材料SM1を機械的に又は溶媒への溶解を介して除去し、
g)カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られる、3D形状の物品を回収すること
を含み、
ステップd)で得られたシリコーンゲル堆積物又はシリコーンフォーム堆積物の感覚的肉感特性は、ステップa)で、Cパーツの内容物の必要量を添加するために前記第3の供給ラインを計量することによってカスタマイズされる。
【0056】
ステップd)において、本発明による方法のステップb)における前記架橋性シリコーン組成物Xの硬化は、熱を必要とせずに、したがって周囲温度20℃(+/-5℃)で、阻害剤及び/又は触媒のレベルを調整することにより容易に得られる。しかしながら、それはまた、80℃~200℃、好ましくは100℃~185℃の温度範囲での熱硬化によって大幅に加速することができる。
【0057】
印刷は、好ましくは、3Dプリンターを用いて層ごとに実行される。有利には、3Dプリンターは押出3Dプリンターである。3D印刷は、一般に、コンピューター(例えば、コンピューター支援設計(CAD))で生成されたデータソースから実体物体を製造するために使用される多くの関連テクノロジーに関連する。「3Dプリンター」は「3D印刷に使用される機械」と定義され、「3D印刷」は「プリントヘッド、ノズル、又は他のプリンター技術を使用した材料の堆積によるオブジェクトの製造」と定義される。
【0058】
「印刷」は、プリントヘッド、ノズル、又は別のプリンター技術を使用して、材料、ここでは架橋可能なシリコーン組成物Xを堆積させることとして定義される。本開示において、「3D又は三次元の物品、物体又は部品」とは、上記で開示された積層造形又は3D印刷によって得られた物品、物体又は部品を意味する。
【0059】
一般に、すべての3D印刷プロセスには共通の開始点があり、これは、物体を表現することができるコンピューター生成のデータソース又はプログラムである。コンピューターで生成されたデータソース又はプログラムは、実際の物体又は仮想の物体に基づくことができる。例えば、実際の物体を3Dスキャナーを使用してスキャンし、スキャンデータを使用してコンピューターで生成されたデータソース又はプログラムを作成できる。あるいは、コンピューターで生成されたデータソース又はプログラムは、コンピューター支援設計ソフトウェアを使用して設計され得る。コンピューターで生成されたデータソース又はプログラムは、通常、標準のテッセレーション言語(standard tessellation language、STL)ファイル形式に変換される。ただし、他のファイル形式も代わりに又は追加として使用できる。ファイルは通常、3D印刷ソフトウェアを介して読み取られ、このソフトウェアは、ファイルを引き継いで、ファイルを数百、数千、さらには数百万の「スライス」に分割(又は「カット」)する。3D印刷ソフトウェアは通常、マシン命令を出力し、これはGコードの形式である場合があり、3Dプリンターによって読み取られて各スライスが作成される。機械命令は3Dプリンターに転送され、3Dプリンターは、機械命令の形式のこのスライス情報に基づいて、層ごとに物体を構築する。これらのスライスの厚さは異なる場合がある。
【0060】
押出3Dプリンターは、製造プロセス中に材料がノズル、シリンジ、又はオリフィスから押し出される3Dプリンターである。材料の押出しは、一般に、ノズル、シリンジ、又はオリフィスを通して材料を押し出して、物体の1つの断面を印刷することによって機能する。これは、後続の各層に対して繰り返すことができる。押し出された材料は、材料の硬化中にその下の層に結合する。
【0061】
1つの好ましい実施形態では、本発明によるシリコーンゲル又はシリコーンフォームで作られた物体を製造するための方法は、押出3Dプリンターを使用する。架橋可能なシリコーン組成物Xは、ノズルを通して押し出される。ノズルを加熱して、添加中の架橋シリコーン組成物の排出を助けることができる。
【0062】
ノズルを通して排出される架橋可能なシリコーン組成物Xは、カートリッジのようなシステムから供給され得る。静的ミキサーと1つのノズルのみを備えた同軸3カートリッジシステムを使用することも可能である。圧力は、排出される流体、関連するノズルの平均直径、及び印刷速度に合わせて調整される。ノズルの押し出し中に発生する高い剪断速度のために、架橋可能なシリコーン組成物Xの粘度は大幅に低下し、したがって、微細な層の印刷を可能にする。カートリッジ圧力は、1(大気圧)~28バール、好ましくは1~10バール、最も好ましくは2~8バールまで変化し得る。このような圧力に耐えるために、アルミニウムカートリッジを使用する適合機器を使用することができる。ノズル及び/又は構築プラットフォームは、x-y(水平面)内を移動して物体の断面を完成させ、1つの層が完了するとz軸(垂直)平面内を移動する。ノズルの高x-y-z移動精度は10μm程度である。各層がx-及びy-作業面に印刷された後、ノズルは、次の層をx-、y-作業場所に適用できる分だけ、z方向に移動する。このようにして、3D物品は下から上に向かって層ごとに構築される。
【0063】
ノズルの平均直径は、層の厚さに関係する。一実施形態では、層の直径は、50~2000μm、好ましくは100~800μm、最も好ましくは100~500μmに含まれる。有利には、良好な精度と製造速度との間の最良のバランスを得るために、印刷速度は1~50mm/秒、好ましくは5~30mm/秒に含まれる。
【0064】
前記材料SM1は、シリコーンゲル又はシリコーンフォームの3Dゲル印刷に適したゲル又はミクロゲルである。ゲル又はミクロゲルは、3D印刷中に液体材料を常にサポートする。3次元での3D印刷を可能にする。これにより、サポートを追加することなく、より複雑な物体をより速いペースで印刷できる。
【0065】
理論に拘束されないが、前記材料SM1は、低粘度の非架橋シリコーン組成物Xを印刷することを可能にする制限環境として作用する。実際、ゲル又はミクロゲルは、非架橋シリコーン組成物Xに一定の圧力を加えて、印刷中に架橋反応が起こるのに十分な時間を与え、材料のドロップを防ぐ。加えられる圧力は、降伏応力パラメータであるビンガム流体を使用して、レオロジー特性(せん断速度の関数としてのせん断応力)で測定できる。降伏応力の範囲は、好ましくは1~10kPaである。
【0066】
好ましい実施形態では、前記材料SM1は、水と、シリコーンゲル又はフォームと非相溶性であるポロキサマーを含む組成物から作製されたゾルゲルであり、すなわち、ポロキサマーと架橋シリコーンとの間に相互浸透がない。これは、製造されたシリコーン物品の良好な表面粗さ、すなわち100nm未満の粗さを得るのに有利である。さらに、ポロキサマーは、物品のシリコーン表面を汚染することなく除去される。
【0067】
最も好ましい実施形態として、支持材料SM1は、水と、ポリ(プロピレンオキシド)及びポリ(エチレンオキシド)ブロックから構成されるコポリマーなどの少なくとも1つのポロキサマーの少なくとも20重量%を含む組成物から作製されたゾルゲルである。このようなゾルゲルの利点は、自己修復性があることである。これは、ゲルが印刷された構造を支持している間、印刷ノズルが同じ領域でゲルを繰り返し通過することを有利に可能にする。
【0068】
ポロキサマーは、ポリ(プロピレンオキシド)(PO)とポリ(エチレンオキシド)(EO)ブロックから構成されるコポリマーであり、ポリ(プロピレンオキシド)ポリ(エチレンオキシド)ブロックコポリマーとも呼ばれる。好ましくは、本発明によるポロキサマーは、中央のPOブロックと、2つの末端EOブロックから構成されるトリブロックコポリマー(ポリ(エチレンオキシド)ポリ(プロピレンオキシド)ポリ(エチレンオキシド)ブロックコポリマーとも呼ばれる)であり、すなわち、本発明によるポロキサマーは、好ましくは、EO-PO-EOトリブロックコポリマー型のものである。
【0069】
ポロキサマーの有利な特徴は、それらがゾル-ゲル転移温度プロセスにおいて水とゲルを形成することである。ゾル-ゲル転移温度で、組成物のレオロジー特性は液体のような状態から固体のような状態に変化する。ポロキサマーの水溶液は低温で液体であり、熱可逆プロセスで高温でゲルを形成する。これらのシステムで遷移が発生する温度は、ポロキサマーとその濃度に依存する。したがって、ポロキサマーの水性組成物の濃度を調整することにより、ゾル-ゲル転移の温度はそれに応じて変化する。したがって、本発明によるプロセスの最終段階に達したとき、周囲温度を前記転移温度より低くするだけで、支持材料が液体状態になり、水で洗浄するだけでスムーズに除去できるようになる。
【0070】
好ましくは、本発明において、水性ポロキサマー組成物は、室温で、すなわち、20~30℃の間の温度で固体であり、より低い温度、すなわち、15℃未満の温度で液体である。好ましくは、本発明において、ポロキサマーは、ポリ(プロピレンオキシド)(PO)及びポリ(エチレンオキシド)(EO)ブロックから構成される。好ましくは、本発明のポロキサマーは、中央のPOブロック及び2つの末端EOブロックから構成されるトリブロックコポリマーであり、ポロキサマーの総重量に対して、25~90重量%のEO単位、好ましくは、ポロキサマーの総重量に対して、30~80重量%のEO単位、好ましくは、ポロキサマーの総重量に対して、50~75重量%のEO単位を含む。
【0071】
より好ましくは、本発明によるポロキサマーは、中央のPOブロック及び2つの末端EOブロックから構成されるトリブロックコポリマーであり、2つのEOブロックは、それぞれ20~300の繰り返し単位、好ましくは50~150の繰り返し単位を含み、POブロックは、10~100の繰り返し単位、好ましくは30~70の繰り返し単位を含む。
【0072】
有利には、本発明のポロキサマーは、70重量%+/-2重量%のEO単位を有する、中央のPOブロック及び2つの末端EOブロックから構成されるトリブロックコポリマーである。好ましい実施形態では、本発明によるポロキサマーは、中央のPOブロック及び2つの末端EOブロックから構成されるトリブロックコポリマーであり、2つのEOブロックはそれぞれ100+/-10の繰り返し単位を含み、POブロックは55+/-10の繰り返し単位を含む。このようなポロキサマーは、例えば、BASFによってPluronicF127(登録商標)の名前で販売されている。さらに、ポロキサマー、特にPluronicF127(登録商標)は生体適合性があるため、生物学的又は医学的用途の物品を調製するために使用できる。
【0073】
有利には、本発明によるポロキサマーの使用は、本発明のプロセスのステップf)において溶媒として水を使用することを可能にする。これは、特に得られた物体の生物学的及び医学的使用にとって非常に好適である。
【0074】
前述のプロセスの変形である本発明の別の目的は、特に医療機器で使用するための、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られる、3D形状の物品を積層造形するプロセスに関し、以下のステップ:
a)本発明による、上記で定義された第1のパッケージであるAパーツの内容物を第1の供給ラインに供給し、
本発明による、上記で定義された第2のパッケージであるBパーツの内容物を第2の供給ラインに供給し、
本発明による、上記で定義された第3のパッケージであるCパーツの内容物を第3の供給ラインに供給し、
存在する場合には、本発明による、上記で定義された第4のパッケージであるDパーツの内容物を第4の供給ラインに供給し、
b)前記第1の供給ライン、前記第2の供給ライン及び前記第3の供給ライン、そして存在する場合には、前記第4の供給ラインの内容物を混合タンクに導入し、シリコーンゲル又はシリコーンフォームの非架橋シリコーン組成物X前駆体を生成し、
c)押出3Dプリンター又は材料噴射3Dプリンターから選択される3Dプリンターを用いて、前記非架橋シリコーン組成物Xの一部を印刷して、支持材料SM2上に、x、y、及びz方向に配置することができる少なくとも1つのデリバリーユニットを有する機器によって達成された堆積物を形成し、前記支持材料SM2は、シリコーンゲル又はシリコーンフォームの3Dゲル印刷に適した、ゲル又はミクロゲルであり、前記支持材料SM2は、x、y、及びz方向に配置することができる少なくとも1つのデリバリーユニットを有する機器により、特定の場所で同時に又は千鳥間隔でデリバリーされ、
d)印刷された非架橋シリコーン組成物Xを、任意選択で加熱することによって部分的又は完全に架橋させて、前記支持材料SM2上に、疑似肉シリコーンゲル堆積物又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォーム堆積物を得、
e)任意に、所望の3D形状が得られるまで、同じ支持材料SM2上に、又はステップc)によってデリバリーされた別の支持材料SM2上に、ステップc)及びd)を数回繰り返し、
f)前記支持材料SM2を機械的に又は溶媒への溶解を介して除去し、
g)カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られる、3D形状の物品を回収すること
を含み、
ステップd)で得られたシリコーンゲル堆積物又はシリコーンフォーム堆積物の感覚的肉感特性は、ステップa)で、Cパーツの内容物の必要量を添加するために前記第3の供給ラインを計量することによってカスタマイズされる。
【0075】
3D印刷されたシリコーンゲル又はフォームに有用な任意の適切な支持材料を使用することができる。好ましい実施形態として、支持材料SM2は、上で詳説された支持材料SM1と同じ定義を有する。
【0076】
前述のプロセスの記載された異なる実施形態はすべて、本プロセスにも適用される。
【0077】
本発明の別の目的は、上記本発明による、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームを含む機器、特にインプラントに関する。
【0078】
本発明の別の目的は、上記本発明の積層造形プロセスに従って、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンゲル又はカスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られた3D形状の物品に関する。
【0079】
好ましい実施形態では、上記本発明の積層造形プロセスに従って、カスタマイズ可能な疑似肉シリコーンフォームで作られた3D形状の物品は、組織再生用途のための足場材である。
【0080】
本発明の別の目的は、本発明による上記の3D形状の物品を含む医療用インプラントに関する。
【0081】
任意に、得られた3D形状の物品は、異なる後処理レジームに供され得る。一実施形態では、この方法は、三次元シリコーン物品を加熱するステップをさらに含む。加熱は硬化を促進するために使用できる。
【0082】
以下、本発明は、以下の非限定的な例によって開示される。
【実施例
【0083】
1)試験方法
a)弾力性
機器:Shore Resiliometer、モデルSR-1。
試料の調製:ゲル試料は、アルミニウム製の計量皿で29グラムを120℃で30分間硬化させることによって調製した。LSR試験片は、177℃で5分間スラブとして硬化され、3つのスラブ高さに積み重ねた。
試験条件:室温(23℃、+/-2℃)。400mmドロップ高さ+/-1mm。
質量28g(+/-0.5g)のステンレス鋼プランジャータイプ303。
手順:ガイドロッドを持ち上げ、サンプル又はスラブのスタックを含むアルミニウム皿を下に置く。ガイドロッドをサンプルの上に置く。プランジャーは、上部位置でのロックから3回解放され、自由落下する。最初のバウンスを記録し、テストを3回繰り返す。
【0084】
b)浸透
機器:針入度計:直径0.25インチのKIC、ID#008-01。
試料の調製:Aパーツ55gと、BパーツとCパーツの組み合わせ55gとをスピードミキサーカップ(周波数3,000rpmで15秒間)で混合した。混合した後、材料をファルコン浸透ジャーに注ぎ、次に脱気した。浸透カップを120℃で30分間硬化させた。
試験条件:室温(23℃+/-2℃)。フラットエンド直径0.25インチのフットプローブ。
手順:プローブをゲルの表面にちょうど触れるまで下にガイドし、所定の位置にロックする。次に、プローブを解放し、10秒間自由に落下させる。プローブが何mm落下したかを記録する。テストは、異なるスポットで3回繰り返し、その平均を記録する。
【0085】
c)硬度
ショアAを、ASTM-2240規格に従って測定する。
【0086】
2)原材料:
・オルガノポリシロキサンA1-1:25℃で約100mPa・sの粘度を持つ、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン;
・オルガノポリシロキサンA1-2:25℃で約600mPa・sの粘度を持つ、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン;
・オルガノポリシロキサンA1-3:25℃で約1500mPa・sの粘度を持つ、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン;
・オルガノポリシロキサンA1-4:25℃で約4,000mPa・sの粘度を持つ、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン;
・オルガノポリシロキサンA1-5:25℃で約10,000mPa・sの粘度を持つ、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン;
・オルガノポリシロキサンA1-6:25℃で約20,000mPa・sの粘度を持つ、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン;
・オルガノポリシロキサンA1-7:25℃で約60,000mPa・sの粘度を持つ、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン;
・オルガノポリシロキサンA1-8:25℃で約100,000mPa・sの粘度を持つ、ジメチルビニルシリル末端単位を持つポリジメチルシロキサン;
・オルガノポリシロキサンA1-9:25℃で約600mPa・sの粘度を持つ、2つのメチルビニルシリルシロキシユニット(鎖内)を持つポリジメチルシロキサン;
・オルガノポリシロキサンB1-1:鎖内及び末端鎖にSiH基を持つ、25℃での粘度が200mPa・s~350mPa・sの範囲で、15~17のSiH反応性基と135~137の平均ジメチルシロキシ単位を有する、ポリ(メチルヒドロゲノ)(ジメチル)シロキサン(a/ω);
・25℃で約350mPa・sの粘度を持つポリジメチルシロキサンD1-1;
・25℃で約1,000mPa・sの粘度を持つポリジメチルシロキサンD1-2;
・25℃で約5,000mPa・sの粘度を持つポリジメチルシロキサンD1-3
・25℃で約30,000mPa・sの粘度を持つポリジメチルシロキサンD1-4;
・25℃で約60,000mPa・sの粘度を持つポリジメチルシロキサンD1-5;
・触媒C1-1:プラチナ金属が10重量%であり、350cSのジメチルビニルダイマーで希釈された、Karstedt触媒として知られる。Johnson Matthey Companyから販売。
・硬化速度制御剤G1-1:1-エチニル-1-シクロヘキサノール(ECH)
・[SiH/Si-ビニル]:成分A1-x及びA2-xに含まれるアルケニル基に対する成分B1-x及びB2-xに含まれるケイ素結合水素原子のモル比。
・SILBIONE(登録商標)LSR4301パートA及びB:Elkem Siliconeが販売する2液型白金触媒シリコーン。
・SILBIONE(登録商標)LSR4305パートA及びB:Elkem Siliconeが販売する2液型白金触媒シリコーン。
・SILBIONE(登録商標)LSR4310パートA及びB:Elkem Siliconeが販売する2液型白金触媒シリコーン。
・SILBIONE(登録商標)LSR4325パートA及びB:Elkem Siliconeが販売する2液型白金触媒シリコーン。
-SILBIONE(登録商標)LSR4350パートA及びB:Elkem Siliconeが販売する2液型白金触媒シリコーン。
【0087】
3)シリコーンゲルの調製
異なる3パーツ又は4パーツのキット製品(Aパーツ、Bパーツ、Cパーツ、及びDパーツ)が別々に準備され、その内容は表1~11に記載される。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
【表8】
【0096】
【表9】
【0097】
【表10】
【0098】
【表11】
【0099】
3)ゲルの調製
架橋が120℃で30分間起こるように、すべてのパーツを混合した。物性は次の表12に示す。
【0100】
【表12】
【0101】
表12からわかるように、本発明による3キットパーツ製品は、混合及び硬化されると、必要な弾力性(バウンスなし)を有するシリコーンゲルを与える。
【0102】
さらに、組成物4~8はまた、検証された肉感感覚及び硬化ゲルの肉様特性の知覚の変化を結論付けた当業者のパネルによって評価された。
【0103】
4)本発明によるシリコーンフォームの調製
表14に記載される4パーツキットのすべての成分を混合し、温度を150℃に30分間維持して、架橋を発生させた。物性は表15に示す。
【0104】
【表13】
【0105】
【表14】
【国際調査報告】