(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】電子捕獲解離のための電子ビームスロットリング
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20220105BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20220105BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20220105BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20220105BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220105BHJP
【FI】
H01J49/00 540
H01J49/40
H01J49/42 150
H01J49/02 200
G01N27/62 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021519156
(86)(22)【出願日】2019-10-08
(85)【翻訳文提出日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 IB2019058558
(87)【国際公開番号】W WO2020075068
(87)【国際公開日】2020-04-16
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】馬場 崇
(72)【発明者】
【氏名】リューミン, パヴェル
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041GA03
2G041GA06
2G041GA09
(57)【要約】
一側面では、質量分析計での使用のための電子-イオン反応モジュール(例えば、電子捕獲解離モジュール)が開示され、電子-イオン反応モジュールは、チャンバと、電子を発生させ、電子をチャンバの中に導入するための電子源と、電子源およびチャンバに対して位置付けられるゲート電極と、制御電圧をゲート電極に印加するためにゲート電極に動作可能に結合されるDC電圧源とを備える。電子-イオン相互作用モジュールはさらに、DC電圧源に動作可能に結合されるコントローラを含み得、コントローラは、ゲート電極に印加されるDC電圧を調節してチャンバの中への電子の流動を調節するために構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計での使用のための電子-イオン反応モジュールであって、前記電子-イオン反応モジュールは、
チャンバと、
電子を発生させ、前記電子を前記チャンバの中に導入するための電子源と、
前記電子源および前記チャンバに対して位置付けられるゲート電極と、
制御電圧を前記ゲート電極に印加するために前記ゲート電極に動作可能に結合されるDC電圧源と、
前記DC電圧源に動作可能に結合されるコントローラであって、前記コントローラは、前記チャンバの中への電子の流動を調節するように、前記ゲート電極に印加される前記DC電圧を調節するために構成される、コントローラと
を備える、電子-イオン反応モジュール。
【請求項2】
前記コントローラは、複数の離散電圧レベルの間で前記DC電圧を切り替えることによって、前記ゲート電極に印加される前記DC電圧を調節する、請求項1に記載の電子-イオン反応モジュール。
【請求項3】
前記離散電圧レベルのうちの1つは、前記ゲートの状態(ここでは、「オン状態」)に対応し、前記状態の間、前記ゲートは、前記チャンバの中への前記電子の導入を可能にし、前記離散電圧レベルのうちの別のものは、前記ゲートの別の状態(ここでは、「オフ状態」)に対応し、前記別の状態の間、前記ゲートは、前記チャンバの中への前記電子の導入を阻止する、請求項2に記載の電子-イオン反応モジュール。
【請求項4】
前記コントローラは、前記チャンバの中に導入される電子流を調節するように、前記「オン」電圧および「オフ」電圧の周期性を調節する、請求項3に記載の電子-イオン反応モジュール。
【請求項5】
前記コントローラは、約100kHz以下の切替周波数で、前記ゲート電極に印加される前記DC電圧を前記離散レベルの間で切り替える、請求項2に記載の電子-イオン反応モジュール。
【請求項6】
前記切替周波数は、約100Hz~約100kHzの範囲内である、請求項5に記載の電子-イオン反応モジュール。
【請求項7】
前記離散電圧レベルは、0ボルト~約100ボルトの範囲内である、請求項2に記載の電子-イオン反応モジュール。
【請求項8】
前記コントローラは、前記電子を捕獲する前記チャンバ内のイオンの少なくとも50%断片化を達成するように、前記ゲート電極に印加される前記DC電圧を調節する、請求項2に記載の電子-イオン反応モジュール。
【請求項9】
前記電子-イオン反応モジュールは、前記イオンを受け取るための第1の入口ポートと、前記電子を受け取るための第2の入口ポートとを備える、請求項1に記載の電子-イオン反応モジュール。
【請求項10】
質量分析計であって、前記質量分析計は、
イオンを発生させるためのイオン源と、
前記イオンを受け取るために前記イオン源の下流に配置される電子-イオン反応モジュールと
を備え、前記電子-イオン反応モジュールは、
チャンバと、
電子を発生させ、前記電子を前記チャンバの中に導入するための電子源と、
前記チャンバに進入する電子流を変調させるために前記電子源および前記チャンバに対して位置付けられるゲート電極と、
制御電圧を前記ゲート電極に印加するために前記ゲート電極に動作可能に結合されるDC電圧源と、
前記DC電圧源に動作可能に結合されるコントローラであって、前記コントローラは、前記チャンバの中に導入される電子流を変調させるように、前記ゲート電極に印加される前記DC電圧を調節するために構成される、コントローラと
を備える、質量分析計。
【請求項11】
前記コントローラは、複数の離散電圧レベルの間で前記DC電圧を切り替えることによって、前記ゲート電極に印加される前記DC電圧を調節する、請求項10に記載の質量分析計。
【請求項12】
前記離散電圧レベルのうちの1つは、前記ゲートの状態(ここでは、「オン状態」)に対応し、前記状態の間、前記ゲートは、前記チャンバの中への電子の導入を可能にし、前記離散電圧レベルのうちの別のものは、前記ゲートの別の状態(ここでは、「オフ状態」)に対応し、前記別の状態の間、前記ゲートは、前記チャンバの中への前記電子の導入を阻止する、請求項11に記載の質量分析計。
【請求項13】
前記コントローラは、前記チャンバの中に導入される電子流を調節するように、前記「オン」電圧および「オフ」電圧の周期性を調節する、請求項12に記載の質量分析計。
【請求項14】
前記コントローラは、約100kHz以下の切替周波数で、前記ゲート電極に印加される前記DC電圧を前記離散レベルの間で切り替える、請求項11に記載の質量分析計。
【請求項15】
前記切替周波数は、約100Hz~約100kHzの範囲内である、請求項14に記載の質量分析計。
【請求項16】
前記離散電圧レベルは、0ボルト~約100ボルトの範囲内である、請求項11に記載の質量分析計。
【請求項17】
前記コントローラは、前記電子を捕獲する前記チャンバ内のイオンの少なくとも50%断片化を達成するように、前記ゲート電極に印加される前記DC電圧を調節する、請求項10に記載の質量分析計。
【請求項18】
前記電子-イオン反応モジュールは、前記イオンを受け取るための第1の入口ポートと、前記電子を受け取るための第2の入口ポートとを備える、請求項10に記載の質量分析計。
【請求項19】
電子を電子-イオン反応モジュールの中に導入するための方法であって、前記方法は、
前記イオン-電子反応モジュールに進入する電子流を変調させるように、約100Hz~約100kHzの範囲内の周波数で複数の離散電圧レベルの間で前記ゲート電圧を切り替えることによって、電子源と前記電子源によって発生させられる電子を受け取るために構成される前記電子-イオン反応モジュールの入口との間に配置されるゲート電極に印加されるDC電圧を調節することを含む、方法。
【請求項20】
複数のイオンを前記電子-イオン反応モジュールの中に導入することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
電子-イオン反応モジュール内のイオンを処理する方法であって、
低断片化体制と高断片化体制との間で前記モジュール内の電子-イオン相互作用を切り替えるように、前記電子-イオン反応モジュールに印加される電子流を変調させることと、
前記低断片化体制および高断片化体制の各々に対してイオンの質量スペクトルを入手することと
を含む、方法。
【請求項22】
前記電子流を変調させることの前記セットは、「オン」状態と「オフ」状態との間で前記電子流を切り替えることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記切り替えることは、約100Hz~約100kHzの範囲内の切替レートで実施される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
質量分析計での使用のための電子-イオン反応モジュールであって、前記電子-イオン反応モジュールは、
入力ポートおよび出口ポートを有するチャンバと、
電子放出フィラメントであって、前記電子放出フィラメントは、前記電子放出フィラメントへのDC電圧の印加に応答して電子を発生させるように前記チャンバ内に配置される、電子放出フィラメントと、
DC電圧を前記フィラメントに印加するためのDC電圧源と、
前記DC電圧源に動作可能に結合されるコントローラであって、前記コントローラは、前記チャンバ内の電子流を調節するように、前記フィラメントに印加される前記DC電圧を調節するように構成される、コントローラと
を備える、電子-イオン反応モジュール。
【請求項25】
前記チャンバ内のイオンの半径方向の閉じ込めを提供するように前記チャンバ内に配置される多極ロッドセットをさらに備える、請求項24に記載の電子-イオン反応モジュール。
【請求項26】
前記コントローラは、複数の離散電圧レベルの間で前記DC電圧を切り替えることを介して、前記フィラメントに印加される前記DC電圧を調節する、請求項24に記載の電子-イオン反応モジュール。
【請求項26】
前記コントローラは、前記フィラメントに印加される前記電圧を「オン」レベルと「オフ」レベルとの間で調節する、請求項26に記載の電子-イオン反応モジュール。
【請求項27】
前記コントローラは、約1~約100の範囲内のデューティサイクルで、前記印加される電圧を前記離散レベルの間で切り替える、請求項26に記載の電子-イオン反応モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2018年10月9日に出願された米国仮出願第62/743,265号からの優先権の利益を主張し、その内容全体が参照することによって本明細書に援用される。
【0002】
(分野)
本教示は、質量分析計内の電子-イオン相互作用のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本教示は、概して、質量分析での使用のために好適な電子捕獲解離のためのシステムおよび方法を対象とする。
【0004】
MS/MS等のタンデム質量分析は、質量選択の複数の段階を伴い、ある段階の間でイオン断片化が生じる。イオン断片化の1つの方法は、電子捕獲解離(ECD)を含む。ECDでは、イオンは、1または複数の電子を捕獲し、続いて、断片生成イオンへの解離を受け得る。十分な数の電子が、高い断片化収率のために必要である。しかしながら、反応チャンバ内の電子の数が多すぎる場合、それは、断片化された生成イオンの望ましくない中和、および断片化された生成イオンの内部断片化につながり得、これは、信号対雑音(S/N)比を有意に減少させ得る。さらに、電子捕獲効率は、イオン電荷の二乗に比例する。その結果として、電子捕獲のための最適な条件は、異なる荷電状態を有するイオンに関して異なり得る。さらに、電子捕獲のための最適な条件は、反応デバイス内のイオンの総数に応じて変動し得る。したがって、研究中の化合物の性質に基づいて、電子線照射を調節するための方法およびシステムを有することが望ましい。
【0005】
電子線照射を調節することの1つの従来の方法は、電子放出フィラメントを通って流動する電流を変化させることによって、電子放出フィラメントの温度を変調させることである。しかし、そのようなアプローチは、遅く、非線形であり得、フィラメント放出表面の摩耗に起因して、器具ごとに異なる変動性を呈し得る。
【0006】
故に、質量分析計内で電子-イオン相互作用を達成するための改良された方法およびシステム、より具体的には、電子捕獲解離のための改良された方法およびシステムの必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一側面では、質量分析計での使用のための電子-イオン反応モジュール(例えば、電子捕獲解離モジュール)が開示され、電子-イオン反応モジュールは、チャンバと、電子を発生させ、電子をチャンバの中に導入するための電子源と、電子源およびチャンバに対して位置付けられるゲート電極と、制御電圧をゲート電極に印加するためにゲート電極に動作可能に結合されるDC電圧源とを備える。電子-イオン相互作用モジュールはさらに、DC電圧源に動作可能に結合されるコントローラを含み得、コントローラは、ゲート電極に印加されるDC電圧を調節してチャンバの中への電子の流動を調節するために構成される。
【0008】
いくつかの実施形態では、コントローラは、複数の離散電圧レベルの間でDC電圧を切り替えることによって、ゲート電極に印加されるDC電圧を調節し得る。一例として、該離散電圧レベルのうちの1つは、ゲートの状態(本明細書では、「オン状態」)に対応し得、その状態の間、ゲートは、該チャンバの中への電子の導入を可能にし、該離散電圧レベルのうちの別のものは、該ゲートの別の状態(本明細書では、「オフ状態」)に対応し得、別の状態の間、ゲートは、該チャンバの中への電子の導入を阻止する。コントローラは、チャンバの中に導入される電子流を調節するように、「オン」電圧および「オフ」電圧の周期性を調節し得る。いくつかの実施形態では、離散電圧レベルは、0ボルト~約100ボルトの範囲内である。いくつかのそのような実施形態では、ゲート電極への「オン」電圧および「オフ」電圧の印加は、消失値と最大約5μAまでの値との間で電子流を切り替え得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、コントローラは、例えば、約100Hz~約100kHzの範囲内の切替周波数で、ゲート電極に印加されるDC電圧を離散レベルの間で切り替え得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、コントローラは、電子に暴露されるチャンバ内のイオンの少なくとも約50%断片化を達成するように、ゲート電極に印加されるDC電圧を調節し得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、電子-イオン反応モジュールは、イオンを受け取るための第1の入口ポートと、電子を受け取るための第2の入口ポートとを含み得る。いくつかのそのような実施形態では、電子-イオン相互作用モジュールのゲート電極は、電子をチャンバの中に導入するための入口ポートに近接して位置付けられる。
【0012】
関連側面では、質量分析計が開示され、質量分析計は、イオンを発生させるためのイオン源と、該イオンを受け取るために該イオン源の下流に配置される電子-イオン反応モジュールとを備え、電子-イオン反応モジュールは、チャンバと、電子を発生させ、該電子をチャンバの中に導入するための電子源と、チャンバに進入する電子流を変調させるために電子源およびチャンバに対して位置付けられるゲート電極とを備える。電子-イオン反応モジュールはさらに、制御電圧をゲート電極に印加するために該ゲート電極に動作可能に結合されるDC電圧源と、該DC電圧源に動作可能に結合されるコントローラとを備え、コントローラは、チャンバの中に導入される電子流を変調させるようにゲート電極に印加されるDC電圧を調節するために構成される。
【0013】
上記の質量分析計のいくつかの実施形態では、コントローラは、複数の離散電圧レベルの間でDC電圧を切り替えることによって、ゲート電極に印加されるDC電圧を調節し得る。一例として、該離散電圧レベルのうちの1つは、ゲートの状態(本明細書では、「オン状態」)に対応し得、その状態の間、ゲートは、該チャンバの中への電子の導入を可能にし、該離散電圧レベルのうちの別のものは、ゲートの別の状態(本明細書では、「オフ状態」)に対応し得、別の状態の間、ゲートは、チャンバの中への電子の導入を阻止する。コントローラは、チャンバの中に導入される電子流を調節するように、「オン」電圧および「オフ」電圧の周期性を調節し得る。いくつかの実施形態では、離散電圧レベルは、0ボルト~約100ボルトの範囲内であり得る。
【0014】
上記の質量分析計のいくつかの実施形態では、コントローラは、例えば、約100Hz~約100kHzの範囲内の切替周波数で、ゲート電極に印加されるDC電圧を離散レベルの間で切り替える。
【0015】
いくつかの実施形態では、コントローラは、例えば電子捕獲解離を介してチャンバ内のイオンの少なくとも約50%の断片化を引き起こすように、ゲート電極に印加されるDC電圧を調節し得る。
【0016】
上記の質量分析計のいくつかの実施形態では、電子-イオン相互作用モジュールは、イオンを受け取るための第1の入口ポートと、電子を受け取るための第2の入口ポートと含み得る。いくつかのそのような実施形態では、電子源のゲート電極は、モジュールの第2の入口ポートに近接して位置付けられ得る。
【0017】
関連側面では、電子を電子-イオン相互作用モジュールの中に導入するための方法が開示され、方法は、該イオン-電子相互作用モジュールに進入する電子流を変調させるように、少なくとも約100Hz、例えば、約100Hz~約100kHzの範囲内の周波数で複数の離散電圧レベルの間で該ゲート電圧を切り替えることによって、電子源と、該電子源によって発生させられる電子を受け取るために構成される該電子-イオン反応モジュールの入口との間に配置されるゲート電極に印加されるDC電圧を調節することを含む。本方法はさらに、イオンが電子と相互作用し得るように、複数のイオンを該電子-イオン相互作用モジュールの中に導入することを含み得る。一例として、イオンは、電子のうちの1または複数を捕獲し、その結果として、断片化を受け得る。
【0018】
関連側面では、本教示による電子-イオン相互作用モジュールのゲート電極に印加される複数の「オン」電圧および「オフ」電圧の周期性を選択するための方法が開示され、方法は、例えば、電子捕獲解離等の電子-イオン相互作用がない場合、または非常に低い電子-イオン相互作用の場合に、低い(または無)断片化モードで1または複数の着目イオン種の質量スペクトルを取得することを含む。この後には、高断片化モードで(すなわち、イオンに電子-イオン相互作用(例えば、電子捕獲解離)を受けさせながら)それらのイオン種の別の質量スペクトルを取得することが続き得る。一例として、低断片化モードと高断片化モードとの間の切替は、モジュールのゲート電極への「オン」電圧および「オフ」電圧の任意の周期性の印加によって達成され得る。2つの質量スペクトルの比較は、電子-イオン相互作用に起因して断片化を受けたイオンの分画の推定値を提供し得る。次いで、公知の較正曲線が、モジュール内の電子-イオン相互作用(例えば、電子捕獲解離)を介してイオンの少なくとも約50%の断片化を引き起こすために要求され得る「オン」電圧および「オフ」電圧の周期性を推定するために使用され得る。
【0019】
関連側面では、本教示によるイオン-電子相互作用モジュールのゲート電極に印加される「オン」電圧および「オフ」電圧のデューティサイクルを選択するための方法は、着目サンプルの質量スペクトルを取得し、その中に含有されるイオン種を識別することを含み得る。続いて、電子捕獲解離に起因するそれらのイオン種の断片化に関連する較正曲線が、モジュールのゲート電極に印加される「オン」電圧および「オフ」電圧の所望の周期性(例えば、電子捕獲解離に起因してイオンの少なくとも約50%の断片化をもたらし得る周期性)を判定するために使用され得る。
【0020】
関連側面では、電子-イオン反応モジュール内のイオンを処理する方法が開示され、方法は、低断片化体制と高断片化体制との間で該モジュール内の電子-イオン相互作用を切り替えるように、該電子-イオン反応モジュールに印加される電子流を変調させることと、該低断片化体制および高断片化体制の各々に対してイオンの質量スペクトルを入手することとを含む。一例として、電子流を変調させるステップは、「オン」状態と「オフ」状態との間で電子流を切り替えることを含み得る。いくつかの実施形態では、切替周波数は、約100Hz~約100kHzの範囲内であり得る。
【0021】
関連側面では、質量分析計での使用のための電子-イオン反応モジュールが開示され、電子-イオン反応モジュールは、入力ポートおよび出口ポートを有するチャンバと、電子放出フィラメントであって、電子放出フィラメントは、電子放出フィラメントへのDC電圧の印加に応答して電子を発生させるために該チャンバ内に(例えば、入力ポートに近接して)配置される、電子放出フィラメントと、DC電圧を該フィラメントに印加するためのDC電圧源と、該DC電圧源に動作可能に結合されるコントローラであって、コントローラは、チャンバ内の電子電流を調節するように、フィラメントに印加されるDC電圧を調節するように構成される、コントローラとを備える。
【0022】
いくつかの実施形態では、コントローラは、複数の離散電圧レベルの間でDC電圧を切り替えることによって、フィラメントに印加されるDC電圧を調節する。一例として、いくつかのそのような実施形態では、コントローラは、印加される電圧を「オン」状態と「オフ」状態との間で周期的に調節する。いくつかの実施形態では、コントローラは、約1~約100の範囲内のデューティサイクルで、印加されるDC電圧を複数の離散レベルの間で切り替える。
【0023】
いくつかの実施形態では、電子-イオン反応モジュールはさらに、チャンバ内のイオンの半径方向の閉じ込めを提供するためにチャンバ内に位置付けられる多極ロッドセット(例えば、四重極ロッドセット)を含み得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、電子-イオン反応モジュールは、1または複数の多極ロッドセットが配置されるチャンバを含み得る。反応モジュールは、開口部を含み得、開口部は、多極ロッドセット(単数または複数)(例えば、四重極ロッドセット)の外側で該開口部に近接して位置付けられるフィラメントによって発生させられる電子を受け取り得る。フィラメントに印加されるDC電圧は、多極ロッドセット(単数または複数)の中への電子流動を調節するように、複数の離散レベルの間で切り替えられ得る。いくつかのそのような実施形態では、電極が、フィラメントと該開口部との間に位置付けられ得、電極に印加されるDC電圧は、多極ロッドセット(単数または複数)の中への電子の流動を変調させるように変調させられ得る。
【0025】
本教示の種々の側面のさらなる理解が、下記に簡潔に説明される関連付けられる図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって取得され得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】
図1Aは、複数の四重極ロッドセットを備える本教示のある実施形態による電子捕獲解離モジュールを概略的に描写する。
【0027】
【
図1B】
図1Bは、
図1Aに描写されるECDモジュールで採用される四重極ロッドセットのうちの1つの電極の概略斜視図である。
【0028】
【
図1C】
図1Cは、RF閉じ込め場上に磁場を重ね合わせるための複数の磁石を含む電子捕獲解離モジュールの実施形態の概略図である。
【0029】
【
図2】
図2は、
図1Aの電子-イオン相互作用モジュールの部分概略図であり、ロッドセットのロッドへのRFおよびDC電圧の印加を描写する。
【0030】
【
図3】
図3は、
図1Aに描写されるECDモジュールで採用される四重極ロッドセットの部分概略図であり、任意の所与の時間に一方の四重極ロッドセットのロッドに印加されるRF電圧の位相が、他方の四重極ロッドセットのそれぞれのロッドに印加されるRF電圧のものと反対であることを図示する。
【0031】
【
図4A】
図4Aは、本教示による、電子-イオン相互作用モジュールのゲート電極に印加される「オン」電圧および「オフ」電圧の周期性を選択するための、ある実施形態による方法における種々のステップを描写するフローチャートである。
【0032】
【
図4B】
図4Bは、本教示による、電子-イオン相互作用モジュールのゲート電極に印加される「オン」電圧および「オフ」電圧の周期性を選択するための、別の実施形態による方法における種々のステップを描写するフローチャートである。
【0033】
【
図5】
図5は、本教示によるECDモジュールが組み込まれる質量分析計を概略的に描写する。
【0034】
【
図6A】
図6Aは、電子放出フィラメントに印加されるDC電圧が、モジュール内の電子流を変調させるように複数の離散レベルの間で変調させられる、ある実施形態によるECDモジュールを概略的に描写する。
【0035】
【
図6B】
図6Bは、別の実施形態によるECDモジュールを概略的に描写する。
【0036】
【
図7A】
図7Aおよび
図7Bは、20%電子伝送および80%電子伝送を伴う、本教示によるECDモジュールを使用して取得されるニューロテンシンのECDスペクトルを示す。
【
図7B】
図7Aおよび
図7Bは、20%電子伝送および80%電子伝送を伴う、本教示@0010によるECDモジュールを使用して取得されるニューロテンシンのECDスペクトルを示す。
【0037】
【
図8A】
図8Aは、20%電子伝送を伴う、本教示によるECDモジュールを使用して取得されるユビキチンのECDスペクトルを示す。
【0038】
【
図8B】
図8Bは、80%電子伝送を伴う、本教示によるECDモジュールを使用して取得されるユビキチンのECDスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本教示は、概して、質量分析計での使用のための電子-イオン相互作用モジュール(本明細書では、電子-イオン反応モジュールとも称される)に関し、電子-イオン相互作用モジュールは、複数の四重極ロッドセット(例えば、2つの四重極ロットセット)を含み、複数の四重極ロッドセットは、それらを分離する1または複数の間隙を伴って相互に対して直列に位置付けられる。モジュールはさらに、電子を発生させるための要素(例えば、加熱されるフィラメント)を有する電子源と、電子の流動を変調させ得るゲート電極とを含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、コントローラの制御下のDC電圧源は、「オン」電圧および「オフ」電圧をゲート電極に印加し、電子源から電子-イオン相互作用モジュールまでの電子の流動を変調させ得る。以下の実施形態では、電子-イオン相互作用モジュールは、四重極ロッドセットを含むが、他の実施形態では、六角形または八角形等の他の多極ロッドセットを含み得る。さらに、以下の実施形態の多くでは、電子-イオン相互作用モジュールは、電子捕獲解離モジュールであり得る。しかしながら、本教示は、電子捕獲解離モジュールに限定されず、電子衝撃解離(EID)、有機物からのイオンの電子衝撃励起(EIEIO)、および電子脱離解離(EDD)等の他の電子-イオン相互作用モジュールに適用され得る。
【0040】
図1Aおよび
図1Bは、質量分析計での使用のために好適である本教示のある実施形態による電子捕獲解離(ECD)モジュール100を概略的に描写する。ECDモジュール100は、2つの四重極ロッドセット102および104を含み、四重極ロッドセット102および104は、共通長手軸(LA)を共有するように、相互に対して直列に位置付けられる。間隙106が、2つの四重極ロッドセットを分離する。各四重極ロッドセットは、四重極構成で配列される4つのロッドを含む。一例として、
図1Bは、四重極ロッドセット102が4つのロッド102a、102b、102c、および102dを含み、それらが四重極構成で長手軸(LA)の周囲に配列されることを概略的に描写する。他方の四重極ロッドセットは、ロッドの同様の配列を含む(
図1Aは、各四重極ロッドセットのロッドのうちの2つのみを示す)。
【0041】
四重極ロッドセットは、上流コンポーネント(例えば、RF/DCフィルタ103)からイオンを受け取るための入力ポート101aと、出口ポート101bとを提供し、イオンは、出口ポート101bを通って四重極ロッドセットから退出し、下流コンポーネント(例えば、質量分析器105)の中に導入される。実質的に四重極ロッドセットの間に位置する容積107は、下記により詳細に議論されるように、イオンが電子源によって供給される電子と相互作用し得る相互作用容積を提供する。本実施形態では、2つの電極111および113は、随意に、それらへの適切な電圧の印加が相互作用モジュール内にイオンを軸方向に閉じ込めることに役立ち得るように、ロッドセットの入力ポートおよび出力ポートに近接して位置付けられ得る。
【0042】
図2に示されるように、少なくとも1つの無線周波数(RF)源210が、コンデンサ115a、115b、115c、115dを介して四重極ロッドセットのロッドに容量的に結合され、そこにRF電圧を印加する。いくつかの実施形態では、四重極ロッドセットのロッドに印加されるRF電圧は、例えば、約200kHz~10MHzの範囲内の周波数と、約100V~約10kVの範囲内の振幅とを有し得る。
【0043】
さらに、本実施形態では、複数のDC電圧源117、119が、抵抗器117a/117b、119a/119bを介して、ロッドセットのロッドに電気的に結合される。DC電圧源は、DC電圧を四重極ロッドセットのロッドに印加し、例えば、ロッドセットの相互作用容積内にイオンを捕捉し、および/または相互作用モジュール内の電子のエネルギーを変調させ得る。いくつかの実施形態では、ロッドセットのロッドに印加されるDC電圧は、例えば、約0~約300ボルトの範囲内であり得る。さらに、DC電圧が、電子-イオン相互作用モジュール内にイオンを捕捉することに役立つように、電極111および113に印加され得る。
【0044】
RF源210およびDC電圧源と通信するコントローラ200は、四重極ロッドセットのロッド(ならびに電極111および113)へのRFおよび/またはDC電圧の印加を制御し得る。例えば、コントローラ200は、ロッドセットの任意のロッドに印加される電圧の位相が、隣接ロッドセットのそれぞれのロッドに印加されるRF電圧の位相と反対であるように、四重極ロッドセットのロッドへのRF電圧の印加を制御し得る。
【0045】
例えば、再び
図1A、および
図3を参照すると、所与の瞬間に、四重極ロッドセット102のロッド102aに印加される電圧が正の極性を有するとき、ロッド102aの軸方向延在に沿って設置され間隙106によってロッド102aから分離される四重極ロッドセット104のロッド104aに印加される電圧は、負の極性を有する。さらに、四重極ロッドセット102のロッド102cに印加される電圧が負の極性を有するとき、四重極ロッドセット104のそれぞれのロッド104cに印加される電圧は、正の極性を有する。反対極性の同様のパターンが、他の四重極ロッドセットのそれぞれのロッドに関して
図3で観察され得る。
【0046】
本実施形態では、各四重極ロッドは、2つの四重極ロッドセットの間の間隙106が2つの開口部108aと108bとの間に延在する通路108を形成するように、L字形構成を有する。2つの電極109aおよび109bが、それぞれ、開口部108aおよび108bに近接して位置付けられ、例えば、コントローラ200の制御下でDC電圧が印加され得、2つの電極109aおよび109bは、有利なこととして、イオンが開口部108aおよび108bを介して四重極ロッドセットから退出することを阻止し得る。
【0047】
ECDモジュール100は、電子源110をさらに含み、電子源110は、入力開口部108aを介して2つの四重極ロッドセットの間の相互作用容積の中に電子を導入するように、四重極ロッドセットに対して位置付けられる。電子は、通路108の一部を通って進行してイオン-電子相互作用容積に到達し、本実施形態では、イオン-電子相互作用容積は、通路108の中央のほぼ近傍に位置付けられ、そこで、イオンは、電子と相互作用し(例えば、1または複数の電子を捕獲し)、その結果として、断片化を受け得る。
図1Cに示されるように、いくつかの実施形態では、永久磁石または電磁石220が、相互作用容積の中に進行する電子がRF場によって歪曲させられないことを確実にするためにRF閉じ込め場上に磁場を重ね合わせるために採用され得る。
【0048】
電子源110は、電子を発生させるために加熱され得るフィラメント112を含む。フィラメントの前に位置付けられるゲート電極114は、下記により詳細に議論される様式で電子流を変調させ得る。特に、ゲート電極114への交互の「オン」電圧および「オフ」電圧の印加は、フィラメント112によって放出される電子の開口部108aを介した四重極ロッドセットの間の空間の中への通行を可能にすることおよび阻止することを交互にし得る。換言すると、「オン」状態では、ゲート電極は、開放状態であり、故に、電子は、電極開口部を通過して入力ポート108aに到達し得、「オフ」状態では、ゲート電極は、閉鎖状態であり、故に、入力開口部108aへの電子の通行を阻止する。
【0049】
図1Aに示されるように、コントローラ200は、ゲート電極114に電気的に結合されるDC電圧源118を制御し、ゲート電極に印加される電圧を変調させ得る。特に、コントローラ200は、ゲート電極の開放状態および閉鎖状態のデューティサイクルを調節し、着目荷電種のための最適な電子捕獲解離条件を達成し得る。一例として、いくつかの実施形態では、デューティサイクルは、約1%~約100%の範囲内であり得る。いくつかの実施形態では、デューティサイクルのそのような範囲は、電子流の変調における柔軟性を提供し得、例えば、電子流は、約100もの高い倍数によって特徴付けられる変動を呈し得る。例えば、いくつかの用途では、デューティサイクルは、約1nA(ナノアンペア)~約100nAの範囲内の電子流を取得するように調節され得、いくつかの他の用途では、デューティサイクルは、約100nA~約10μA(マイクロアンペア)の範囲内の電子流を取得するように調節され得る。
【0050】
例えば、上記のように、電子捕獲効率は、イオンの電荷の二乗に比例する。したがって、イオンの電荷が増加するにつれて、そのイオンによる電子の効率的な捕獲のために必要とされる電流は減少する。本実施形態では、コントローラ200は、電子とイオンとの間の最適な相互作用を確実にするように、ゲート電極に印加されるオン/オフ電圧のデューティサイクルを適宜調節し得る。
【0051】
より具体的には、
図4Aを参照すると、いくつかの実施形態では、ゲート電極に印加されるオン/オフ電圧のデューティサイクルを選択するための方法は、例えば、電子捕獲解離がない場合に、低(または無)断片化体制で1または複数の着目イオン種の質量スペクトルを取得することを含み得る(ステップ1)。続いて、1または複数のイオン種の別の質量スペクトルが、高断片化体制で(例えば、イオンに電子捕獲解離を受けさせながら)取得され得る(ステップ2)。一例として、低断片化体制と高断片化体制との間の切替は、電子源のゲート電極に印加される「オン」電圧および「オフ」電圧の任意のデューティサイクルにおいて達成され得る(ステップ2)。2つの質量スペクトルの比較は、断片化を受けたイオンの分画を提供し得る(ステップ3)。いくつかの実施形態では、較正技法が、断片化を受けたイオンの分画の推定値を取得するために採用され得る。より一般的には、較正技法が、プロセスの異なる側面で採用され得る。例えば、これは、荷電状態での電子捕獲の効率を含んでもよい。そのような場合には、最適な電子流束が、標的被分析物と同様の条件下で入手されるモデル被分析物に関して見出され得る。この最適な電子暴露率は、被分析物荷電状態への電子捕獲効率依存性を考慮して、異なる被分析物に外挿され得る。他の実施形態では、較正曲線が、ECDセルの中への異なるイオン装填のために採用され得、次いで、標的被分析物に関する最適な電子暴露が、モデル被分析物および被分析物電荷上の電子捕獲効率に関して、関連性がある較正値(すなわち、トラップ内の同様の数のイオン種に関して取得されるもの)を使用して外挿される。好適な較正プロセスの例が、Anal. Chem. 1998, 70(6), pp. 1198-1202に公開された、「Ion/Ion Proton-Transfer Kinetics: Implications for Analysis of Ions Derived from Electrospray in Protein Mixture」と題された論文(参照することによってその全体が本明細書に援用される)で見出され得る。
【0052】
図4Bのフローチャートを参照すると、別の実施形態では、ゲート電極に印加されるオン/オフ電圧のデューティサイクルを選択するための方法は、着目サンプルの質量スペクトルを取得し、その中に含有されるイオン種を識別することを含み得る(ステップ1)。続いて、それらのイオン種の電子捕獲解離に関する前もって取得された較正データが、ゲート電極に印加されるオン/オフ電圧のデューティサイクルを調節するために使用され得る。
【0053】
本教示による電子捕獲解離モジュールは、種々の質量分析計に組み込まれ得る。一例として、
図5は、イオンを発生させるためのイオン源1302を含む質量分析計1300を概略的に描写する。イオン源は、オリフィスプレート(図示せず)が配置されたカーテンチャンバ(図示せず)によって、分析計の下流区分から分離され得、オリフィスプレートは、オリフィスを提供し、イオン源によって発生させられるイオンは、オリフィスを通って下流区分に進入し得る。本実施形態では、RFイオンガイド(Q0)が、ガス動態および無線周波数場の組み合わせを使用してイオンを捕獲し集束させるために使用され得る。イオンガイドQ0は、レンズIQ1およびスタッビST1を介して、下流四重極質量分析器Q1にイオンを送達し、下流四重極質量分析器Q1は、RFイオンガイドが配置されるチャンバの圧力よりも低く維持され得る圧力まで排気され得る真空チャンバ内に位置し得る。非限定的実施例として、Q1を含有する真空チャンバは、約1×10
-4トル未満(例えば、約5×10
-5トル)の圧力で維持され得るが、他の圧力が、本目的または他の目的のために使用され得る。
【0054】
当業者によって理解されるように、四重極ロッドセットQ1は、着目イオンおよび/または着目イオンの範囲を選択するように動作され得る従来の伝送RF/DC四重極質量フィルタとして動作され得る。一例として、四重極ロッドセットQ1は、質量分解モードでの動作のために好適なRF/DC電圧を具備し得る。理解されるべきであるように、Q1の物理的および電気的性質を考慮に入れて、印加されるRFおよびDC電圧に関するパラメータは、Q1が選定されたm/z比の伝送窓を確立するように選択され得、それによって、これらのイオンは、ほとんど摂動を受けずにQ1を横断し得る。しかしながら、窓の外に該当するm/z比を有するイオンは、四重極内で安定した軌道を獲得せず、四重極ロッドセットQ1を横断することを妨げられ得る。この動作モードは、Q1のための1つの可能な動作モードにすぎないことを認識されたい。一例として、いくつかの実施形態では、四重極ロッドセットQ1は、イオントラップとして構成され得る。いくつかの側面では、イオンは、Hagerによって、“A new Linear ion trap mass spectrometer,” Rapid Commun. Mass Spectro. 2002; 16: 512-526に説明される様式で、Q1イオントラップから質量選択的軸方向に放出され得る。
【0055】
四重極ロッドセットQ1を通過するイオンは、スタッビST2を通過し、
図1Aに描写されるもの等の本教示による電子捕獲解離セル1304に進入し得る。本実施形態では、電子捕獲解離セル1304は、2つの四重極ロッドセットであって、それらを分離する間隙を伴って直列に配置される2つの四重極ロッドセットと、電子を発生させ、それらの電子をイオン-電子相互作用容積の中に導入するための電子源とを含み得る。上記に議論される電子-イオン相互作用モジュールの実施形態と同様に、RF源(本図に示されていない)と通信するコントローラ(同様に本図に示されていない)は、四重極ロッドセットのうちのいずれかのロッドに印加されるRF電圧が、隣接する四重極ロッドセットのそれぞれのロッドに印加されるRF電圧に対して反対の位相を有するように、四重極ロッドセットのロッドへのRF電圧の印加を制御する。さらに、コントローラは、イオン-電子相互作用容積の中に導入されるように電子流を変調させるために複数の「オン」電圧および「オフ」電圧をイオン源のゲート電極に印加し得るDC電圧源を制御し得る。例えば、電子捕獲を介した電子とのイオンの相互作用は、イオンの少なくとも一部の断片化をもたらし、質量分析器1308内で分析され得る生成イオンをもたらし得る。
【0056】
図6Aは、電子流が調節され得る電子-イオン反応モジュール600の別の実施形態を概略的に描写する。より具体的には、電子-イオン反応モジュール600は、チャンバ(図示せず)内に配置される四重極ロッドセット602を含み(incudes)、四重極ロッドセット602は、四重極構成で配列された4つのロッドを含む(ロッド602aおよび602bの2つのみが、
図6Aに描写される)。ロッドへのRF/DC電圧の印加が、ロッドの間の空間内でイオンの半径方向の捕捉を提供し得る。加えて、2つの電極604aおよび604bが、それぞれ、四重極ロッドセットの入口ポートおよび出口ポートに近接して位置付けられる。電極604a/604bのうちの少なくとも1つへのDC電圧の印加が、四重極ロッドセット内のイオンの軸方向の閉じ込めを可能にし得る。本実施形態では、フィラメント606が、四重極ロッドセットのロッドの間の空間内に、好ましくは、四重極ロッドセットの入口ポートに近接して位置付けられる。DC電圧が、フィラメントに印加され、その加熱を引き起こし、それによって、フィラメントに電子を放出させ得る。フィラメントによって放出される電子は、四重極ロッドセットの間の空間の中にその入力ポートを介して導入されるイオンと相互作用し得る。
【0057】
本実施形態では、フィラメント606に印加されるDC電圧は、フィラメントによって発生させられる電子流を修正するように調節され得る。一例として、本実施形態では、コントローラ608は、2つ以上の離散電圧レベルの間で切り替えることによって、フィラメント606に印加されるDC電圧を調節し得る。より具体的には、本実施形態では、コントローラ608は、「オン」状態と「オフ」状態との間でフィラメント606に印加されるDC電圧を切り替え、フィラメントから放出される電子を変調させ、それによって、四重極ロッドセット内の電子流を変調させ得る。変調のデューティサイクルは、例えば、約1~約100%の範囲内であり得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、フィラメント606は、四重極ロッドセットの外側で、その入口ポートに近接して位置付けられ得る、四重極ロッドセットの入口ポートおよび/または出口ポートに近接して位置付けられるフィラメントおよび/または電極に印加されるDC電圧は、四重極ロッドセットを通した電子流動を変調させるように変調させられ得る。一例として、
図6Bは、そのような実施形態による電子-イオン反応モジュール610を概略的に描写する。
図1Aおよび
図1Bに描写される実施形態と同様に、電子-イオン反応モジュール610は、2つの四重極ロッドセット612および614を含み、2つの四重極ロットセット612および614は、間隙が2つの四重極ロッドセットを分離するように相互に対して直列に位置付けられる。四重極ロッドセットは、イオンを受け取るための入力ポート616aと、イオンが通って四重極ロッドセットから退出する出口ポート616bとを含む。2つの電極618a、618bは、それぞれ、四重極ロッドセットの入力ポート616a、出力ポート616bに近接して位置付けられ、2つの電極618a、618bへの適切な電圧の印加が、四重極ロッドセットと関連付けられる相互作用容積内でイオンを軸方向に閉じ込めることに役立ち得る。
【0059】
図6Bを継続して参照すると、2つの四重極ロッドセットの間の間隙は、開口部620aと別の開口部620bとの間に延在する通路618を形成する。2つの電極622a、622bが、それぞれ、開口部620a、620bに近接して位置付けられる。フィラメント624は、開口部620aに近接して位置付けられ、フィラメントへのDCバイアス電圧の印加は、フィラメントに電子を放出させ得る。フィラメントに印加されるDCバイアス電圧は、四重極ロッドセットの中への電子の流動を変調させるように、複数の離散レベルの間で切り替えられ得る。具体的には、本実施形態では、フィラメントに印加されるDCバイアス電圧626は、四重極ロッドセットの中への電子の流動を変調させるように、「オン」状態と「オフ」状態との間で周期的に切り替えられ得る。代替として、または加えて、電極622aおよび/または622bに印加されるDC電圧は、四重極ロッドセットの中への電子の流動を変調させるように、複数の離散レベルの間で切り替えられ得る(例えば、「オン」状態と「オフ」状態との間で切り替えられる)。
【0060】
以下の実施例が、本教示の種々の側面のさらなる解明のために提供され、例証的目的のみのために提供される。
【実施例】
【0061】
上記に説明されるような本教示によるECDモジュールを、Sciexによって市販されているQqToF(タンデム四重極飛行時間質量分析器)質量分析計に組み込んだ。ニューロテンシンおよびユビキチンの混合物を、質量分析計の中に注入した。[M+3H]3+前駆体イオンを、ニューロテンシンのために選択し、[M+10H]10+前駆イオンを、ユビキチンのために選択した。ECDモジュールの電子流を、最大伝送におけるニューロテンシン[M+3H]3+前駆体のために最適化した。2つの質量スペクトルを、被分析物の各々に対して入手した。1つの入手では、ECDモジュールのゲート電極に印加されるオン/オフ電圧のデューティサイクルを、80%電子伝送のために選択し、別の入手では、デューティサイクルを、20%電子伝送のために選択した。
【0062】
図7Aおよび
図7Bは、ECDのゲート電極における電子伝送を除いて同一の実験条件下で取得されたニューロテンシンのECDスペクトルを示し、一方のスペクトルに関して、電子伝送は80%であり、他方のスペクトルに関して、電子伝送は20%であった。この場合、より高い電子伝送(すなわち、80%)が、より良好なイオン断片化を生じさせる。
【0063】
図8Aは、20%の電子伝送に関して取得されるユビキチンのECDスペクトルを示し、
図8Bは、80%の電子伝送に関して取得されるユビキチンのECDスペクトルを示す。統計は、両方の場合における良好なECDスペクトルのために不十分であるが、80%の電子伝送が採用されるときの電子への過剰暴露の場合に、20%の電子伝送において取得されるスペクトル内で観察される多重荷電断片が消滅する。
【0064】
当業者は、種々の変更が、本発明の範囲から逸脱することなく上記の実施形態に行われ得ることを理解するであろう。
【国際調査報告】