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特表2022-504504Mn-Fe-P-Si-B-V合金の磁気熱量効果及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】Mn-Fe-P-Si-B-V合金の磁気熱量効果及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C22C 22/00 20060101AFI20220105BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220105BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20220105BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20220105BHJP
   H01F 1/01 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C22C22/00
C22C38/00 303Z
C22C27/02 101Z
C22C30/00
H01F1/01 150
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021519553
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(85)【翻訳文提出日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 NL2019050684
(87)【国際公開番号】W WO2020080942
(87)【国際公開日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】2021825
(32)【優先日】2018-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(31)【優先権主張番号】2022331
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521143457
【氏名又は名称】マグネト ビー ブイ
【氏名又は名称原語表記】MAGNETO B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】ブルク エキーハード フーバータス
(72)【発明者】
【氏名】レイ ジェーウェイ
(72)【発明者】
【氏名】バンダイク ニエルズ ハーメン
【テーマコード(参考)】
5E040
【Fターム(参考)】
5E040AA20
5E040CA20
5E040NN01
(57)【要約】
本発明は、例えば、マンガン、鉄、バナジウム、リン、及びケイ素を含む合金を提供する。本発明はまた、磁場発生器、ヒートシンク、熱電素子、熱源、及び制御システムを備える装置であって、制御モードにおいて制御システムが、(i)磁場発生器が磁場を発生させ、熱電素子が磁場にさらされ、熱電素子からの熱がヒートシンクに移動する第1の構成、及び(ii)熱電素子が磁場にさらされず、熱源からの熱が熱電素子に移動する第2の構成から選択されるように構成される、装置も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素及び非金属元素を含む合金であって、前記金属元素が、マンガン、鉄、及びバナジウムを含み、前記非金属元素が、リン及びケイ素を含む、前記合金。
【請求項2】
金属元素の非金属元素に対する原子比が、1.8~2.1:1の範囲内である、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
金属元素の非金属元素に対する原子比が、1.93~1.97:1の範囲内である、請求項1又は2に記載の合金。
【請求項4】
バナジウム元素の他の金属元素に対する原子比が、0.01:1.94~0.04:1.86の範囲から選択される、請求項1~3のいずれかに記載の合金。
【請求項5】
C、N、Bのうち1又は2以上をさらに含み、C、N、及びBの、リン及びケイ素に対する原子比([C]+[N]+[B])/([P]+[Si])が0.1以下である、請求項1~4のいずれかに記載の合金。
【請求項6】
ケイ素元素の原子比が、非金属元素のモル分率において0.3~0.6の範囲であり、残りが(i)Pである、又は(ii)P、及びC、N、Bからの1又は2である、請求項1~5のいずれかに記載の合金。
【請求項7】
ケイ素元素の原子比が、非金属元素のモル分率において0.3~0.6の範囲であり、残りが、P、並びにC、N、及びBである、請求項1~6のいずれかに記載の合金。
【請求項8】
合金のための出発材料を予合金化するステップと、その後の、1300~1500Kの範囲から選択される温度で、数分から数週間の範囲から選択される期間にわたる熱処理とによって得られる、請求項1~7のいずれかに記載の合金。
【請求項9】
速い熱伝導を容易にするように成形される、請求項1~8のいずれかに記載の合金。
【請求項10】
(a)第1の操作モード中の冷却するステップ、及び(b)第2の操作モード中の加熱するステップの1又は2以上を実行するように構成される装置であって、請求項1~9のいずれかに記載の合金を含む熱電素子を備える、前記装置。
【請求項11】
磁場発生器、ヒートシンク、請求項1~9に記載の合金を含む熱電素子、及び制御システムを備え、制御モードにおいて前記制御システムが、(i)前記磁場発生器が磁場を発生させ、前記熱電素子が前記磁場にさらされ、前記熱電素子が前記ヒートシンクと熱的接触する第1の構成、及び(ii)前記熱電素子が前記磁場にさらされず、前記熱電素子が前記ヒートシンクと熱的接触しない第2の構成から選択されるように構成される;又は
磁場発生器、ヒートシンク、請求項1~9のいずれかに記載の合金を含む熱電素子、熱源、及び制御システムを備え、制御モードにおいて前記制御システムが、(i)前記磁場発生器が磁場を発生させ、前記熱電素子が前記磁場にさらされ、前記熱電素子からの熱が、前記ヒートシンクに移動する第1の構成、及び(ii)前記熱電素子が前記磁場にさらされず、前記熱源からの熱が前記熱電素子に移動する第2の構成から選択されるように構成される;
請求項10に記載の装置。
【請求項12】
流体システムをさらに備え、前記流体システムが、流体を含有するように構成され、前記流体システムが、熱電素子と前記流体との間に熱的接触をもたらすように構成され、詳細には、前記流体が液体であり、さらにより詳細には、前記液体が、沸点を上げるための添加剤及び/又は凝固点を下げるための添加剤の1又は2以上を含む、請求項10又は11に記載の装置。
【請求項13】
液体が、所望の温度範囲で沸騰も凍結もしない、不燃性で無毒の温室効果ニュートラル流体を含む、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
それぞれ加熱する、冷却する、若しくは加熱及び冷却するように、又は力学的エネルギーを生じるように構成される、請求項10~13のいずれかに記載の装置を含むシステム。
【請求項15】
冷蔵庫として構成され、システムの制御モードにおいて、準周囲レベルから、210K~周囲の範囲の温度から周囲を超える温度まで、熱をポンプで送り込むように構成される、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
ヒーターとして構成され、システムの制御モードにおいて、準周囲レベルから、最高で380Kまでの周囲を超える温度まで、熱をポンプで送り込むように構成される、請求項14又は15に記載のシステム。
【請求項17】
磁場源、請求項1~9のいずれかに記載の合金、及び熱スイッチを含み、力学的及び/又は電気エネルギーを生じるように構成される、請求項14~16のいずれかに記載のシステム。
【請求項18】
請求項1~9のいずれかに記載の合金を製造する方法であって、前記合金を製造するための出発材料の組み合わせを用意するステップ、及び前記出発材料の組み合わせを、前記合金が得られるまで加熱するステップを含む、前記方法。
【請求項19】
出発材料が、元素の出発材料を含み、加熱するステップが、1300~1500Kの範囲から選択される温度で加熱することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
出発材料が予合金化出発材料を含む、請求項18又は19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気熱量材料に関連する。本発明は、こうした材料を含むシステムにも関連する。本発明はこうした材料を製造する方法にも関連する。
【背景技術】
【0002】
磁気熱量材料は当分野で既知である。米国特許第2014290274号明細書に、例えば、小さなヒステリシス損失を示す、一次相転移La(Fe,Si)13系磁気熱量材料、並びにその調製及び使用が記載されている。材料は、NaZn13型構造を有し、15~200μmの範囲の粒径を有する顆粒からなり、15μm以上であり、化学式La1-x(Fe1-p-qCoMn13-ySiαで表される。材料を調製する方法は、精錬することによって、かつ焼き鈍すことによって、材料La1-x(Fe1-p-qCoMn13-ySiαを調製するステップ、次いで、材料を15~200μmの範囲の粒径を有する粉末に粉砕するステップを含む。小さなヒステリシス損失及び強い磁気熱量効果を示すLa(Fe,Si)13系磁気熱量材料は、成分を変えることなく、粒径を15~200μmの範囲内に調節することによって得ることができる。実際の磁気冷蔵用途における、この種の材料の利用は極めて重要である。粒径が、10μm以下である場合、磁気熱量材料の安定性は失われ、磁気エントロピー変化の大きさが劇的に減り、故に磁気冷蔵技術の実際の用途にはもはや適さない。したがって、粒径10μm未満の顆粒がスクリーニングによって除去される場合、材料の巨大磁気熱量効果を最大限に維持することができる。
【0003】
国際公開第2017211921号パンフレット「マンガン、鉄、ケイ素、リン及び炭素を含む磁気熱量材料(magnetocaloric materials comprising manganese, iron, silicon, phosphorus and carbon)」には、マンガン、鉄、リン、ケイ素、炭素を含み、並びに窒素及びホウ素の一方又は両方を含んでいてもよい磁気熱量材料、並びに上記磁気熱量材料を製造する方法が記載されている。
【0004】
国際公開第2017072334号パンフレット「マンガン、鉄、ケイ素、リン及び窒素を含む磁気熱量材料(magnetocaloric materials comprising manganese, iron, silicon, phosphorus and nitrogen)」には、マンガン、鉄、ケイ素、リン、窒素を含み、ホウ素を含んでいてもよい、磁気熱量材料が記載されている。
【0005】
国際公開第2015018705号パンフレット「Bを含む磁気熱量材料(magnetocaloric materials containing B)」には、一般式(i)(MnxFe1 - x)2 + uP1 - y - zSiyBz(式中、0.55 ≦ x ≦ 0.75、0.4 ≦ y ≦ 0.65、0.005 ≦ z ≦ 0.025、-0.1 ≦ u ≦ 0.05)の磁気熱量材料が記載されている。
【0006】
国際公開第2015018610号パンフレット「Bを含む磁気熱量材料(magnetocaloric materials containing B)」は、先行の文献に関連し、一般式(i)(MnxFe1 - x)2 + uP1 - y - zSiyBz(式中、0.25 ≦ x ≦ 0.55、0.25 ≦ y ≦ 0.65、0 < z ≦ 0.2、-0.1 ≦ u ≦ 0.05、及びy + z ≦ 0.7)の磁気熱量材料を記載している。
【0007】
国際公開第2015018678号パンフレット「Bを含む磁気熱量材料(magnetocaloric materials containing )B」は、先行の2つの文献に関連し、一般式(i)(MnxFe1 - x)2 + uP1 - y - zSiyBz(式中、0.55 ≦ x ≦ 0.75、0.25 ≦ y < 0.4、0.05 < z ≦ 0.2、-0.1 ≦ u ≦ 0.05)の磁気熱量材料を記載している。
【0008】
Miao et al., 2017, “structural origin of hysteresis for hexagonal (MnFe)2(P,Si) magneto-caloric compound”, Scripta Materialiaには、六方晶系(Mn,Fe)2(P,Si)磁気熱量化合物の強磁性転移のin situ透過電子顕微鏡観察が記載されている。
【0009】
Thang et al., 2015, “effects of milling conditions on nano-scale MnFe(P,Si) particles by surfactant-assisted high-energy ball milling”, Physics Procediaには、X線回折測定及び磁気測定によって決定される、界面活性剤を用いた高エネルギーボールミルによって得られる、ナノスケールのMnFe(P,Si)粒子への、ミル条件の影響が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2014290274号明細書
【特許文献2】国際公開第2017211921号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2017072334号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2015018705号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2015018610号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2015018678号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Miao et al., 2017, “structural origin of hysteresis for hexagonal (MnFe)2(P,Si) magneto-caloric compound”, Scripta Materialia
【非特許文献2】Thang et al., 2015, “effects of milling conditions on nano-scale MnFe(P,Si) particles by surfactant-assisted high-energy ball milling”, Physics Procedia
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
先行技術の(磁気熱量)材料は、相対的に大きいヒステリシスを有する場合があり、及び/又は本来あまり望ましい性質を有しないことがある。したがって、本発明の一態様は、好ましくは、前述された欠点の1又は2以上を、さらに少なくとも部分的に未然に防ぐ、代替的な(磁気熱量)材料を提供することである。本発明は、目的として、先行技術の難点の少なくとも1つを克服する、若しくは改善する、又は有用な代替物を提供しなければならないであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様において、本発明は、金属元素及び非金属元素を含む合金であって、金属元素が、マンガン、鉄、及びバナジウムを含み、非金属元素が、リン及びケイ素を含む、合金を提供する。
【0014】
この合金は、(巨大)磁気熱量効果(MCE)を示すと考えられる。この合金は、相対的に小さなヒステリシスを有すると考えられるが、本来有用な特性を有する(以下も参照されたい)。したがって、実施形態において、新規の磁気熱量材料が提供される。
【0015】
特定の実施形態において、本発明は、MnVFePSi系合金を提供する。
【0016】
実施形態において、合金は、MA合金として示すことができ、Mは1又は2以上の金属元素を示し、Aは1又は2以上の非金属元素を示す。
【0017】
実施形態において、合金は、Mとして示すことができ、xは、詳細には1.8~2.1の範囲から選択され、yは、0.85~1.05の範囲から、詳細には0.9~1.0の範囲から選択される。
【0018】
詳細には、Mは少なくともMn、Fe、及びVを含み、Aは少なくともP及びSiを含む。
【0019】
実施形態において、合金は、(MnFe (PSi として示すことができ、式中、x及びyは上記で示された通りであり、Mは任意の他の金属を表し、Aは任意の他の非金属を表す。詳細には、a + b + c + d = 1及びe + f + g = 1である。さらに詳細には、a > 0、b > 0、c > 0、d ≧ 0である。さらに、詳細にはe > 0、f > 0、及びg ≧ 0である。さらに、詳細にはa + b ≧ 0.8、さらにより詳細にはa + b ≧ 0.9、またさらにより詳細にはa + b ≧ 0.95、例えば、a + b ≧0.97である。またさらなる特定の実施形態において、c ≧0.05、詳細にはc ≧ 0.01である。さらに、詳細にはe + f ≧ 0.7、例えばe + f ≧ 0.8、例としてe + f ≧ 0.9、例えば、詳細にはe + f ≧0.95である。実施形態において、g ≧ 0.005、例えばg ≧ 0.01、例として詳細にはg ≧ 0.05である。さらに、詳細にはg ≦0.12、さらにより詳細にはg ≦ 0.1である。実施形態において、AはB(ホウ素)を含んでもよい。さらなる実施形態において、AはBである。特定の実施形態において、d = 0である。
【0020】
しかし、微量不純物は、実施形態において排除できないことを留意されたい。但し、一般に不純物の存在は、25000ppm以下、例えば、20000ppm以下、例として15000ppm以下であり得る。したがって、例えば、1.5wt%までの不純物が、合金において得られてもよい。
【0021】
特定の実施形態において、金属元素の非金属元素に対する原子比は、1.8~2.1:1(すなわち、1.8:1と2.1:1との間)の範囲内である。より詳細には、金属元素の非金属元素に対する原子比は、1.9~2.0:1の範囲内である。またさらにより詳細には、金属元素の非金属元素に対する原子比は、1.93~1.97:1の範囲内である。
【0022】
さらなる実施形態において、バナジウム元素の他の金属元素に対する原子比は、0.01:1.94~0.04:1.86の範囲から、例として0.01:1.95~0.03:1.88の範囲から選択され、例えば、実施形態において0.03:1.92である。他のさらなる実施形態において、合金は、C、N、Bのうち1又は2以上をさらに含むことができ、C、N、及びBの、リン及びケイ素に対する原子比([C]+[N]+[B])/([P]+[Si])は、0.1以下であり、詳細には<0.05である。実施形態において、ケイ素元素の原子比は、非金属元素のモル分率において0.3~0.6の範囲であり、残りは(i)Pである、又は(ii)P、並びにC、N、及びBからの1又は2である。他のさらなる実施形態において、ケイ素元素の原子比は、非金属元素のモル分率において0.3~0.6の範囲であり、残りは、P、並びにC、N、及びBである。
【0023】
さらなる実施形態において、バナジウム元素の他の金属元素に対する原子比は、0.01:1.95~0.03:1.92の範囲から選択される。
【0024】
上記で示したように、合金は、MA合金として示すことができ、Mは1又は2以上の金属元素を示し、Aは1又は2以上の非金属元素を示し、Mは、少なくともMn、Fe、及びVを含み、Aは、少なくともP及びSiを含む。詳細には、VのMに対する原子比(故にMはVも含む)は、0.005~0.1の範囲から、より詳細には0.008~0.05の範囲から、例として0.008~0.035の範囲から選択される。
【0025】
実施形態において、[P+Si]のAに対する原子比は、0.9~1の範囲から選択される(すなわち、A原子の少なくとも90%はP及びSiである)。実施形態において、MnのFeに対する原子比は、0.3~2の範囲から、例えば、0.4~1.8の範囲から選択することができる。
【0026】
詳細には、(i)MnのMに対する原子比(故にMはMnも含む)が、0.55~0.67の範囲から、例として0.58~0.63の範囲から選択される場合、FeのMに対する原子比(故にMはMnも含む)は、0.68~0.76の範囲から、例として詳細には0.70~0.74の範囲から選択され、VのMに対する原子比(故にMはVも含む)は、0.008~0.05の範囲から選択され、PのAに対する原子比(故にAはPも含む)は、0.38~0.46の範囲から、より詳細には0.40~0.44の範囲から選択され、SiのAに対する原子比(故にAはSiも含む)は、0.54~0.62の範囲から、詳細には0.56~0.60の範囲から選択され、Tc約25~50℃の範囲で良い結果が得られた。これは、例えば(産業用の)残留熱用途に有用であり得る。
【0027】
したがって、実施形態において、本発明は、MnVFePSiB系合金を提供する。
【0028】
他のさらなる一態様において、本発明はまた、合金を製造する方法も提供する。出発材料は、組み合わせることができ、少なくとも約1300Kの温度で、例えば、最高で1500Kまでの温度で焼き鈍すことができる。したがって、一実施形態において、本明細書に記載の合金は、合金のための出発材料を予合金化するステップと、その後の、1300~1500Kの範囲から選択される温度で、詳細には、数分から数週間の範囲から選択される期間、例えば、10分~5週間、例として1時間~2週間にわたる熱処理するステップとによって得ることができる。代替的な実施形態において、本明細書に記載の合金は、合金のための出発材料を予合金化するステップと、その後、高圧で、約900~約1500Kの範囲から選択される温度で、例えば、少なくとも約1200Kで、詳細には、数分から数週間の範囲で選択される期間、例えば、10分~5週間、例として1時間~2週間にわたって熱処理するステップとによって得ることができる。高圧は、例えば、少なくとも約50MPa、例えば、少なくとも約80MPa、例として少なくとも約100MPa、例として80~200MPaの範囲であってもよく、但し、他の高圧もまた可能であり得る。
【0029】
したがって、一態様において、本発明は、本明細書に記載の合金を製造する方法であって、方法が、合金を製造するための出発材料の組み合わせを用意するステップ、出発材料の組み合わせを、合金が得られるまで加熱するステップを含む、方法を提供する。実施形態において、出発材料は、元素の出発材料、例えば、元素のMn、V、Fe、P、及びSi、又は元素のBを含むことができる。代替的に、又は追加的に、出発材料は、予合金化出発材料を含むことができる。例えば、出発材料は、FeP(リン化鉄)を予合金として含むことができる。例えば、FePは、赤リンのペレットを溶融鉄中に落とすことによって調製することができる。鉄は、例えば、保護(例えば、窒素及び/又はアルゴン)雰囲気下で誘導炉において溶かすことができる。他の予合金も適用することができる。したがって、出発材料は、1又は2以上の、様々な予合金を含むことができる。用語「加熱するステップ」及び同様の用語の代わりに、用語「焼き鈍すステップ」及び同様の用語も適用することができる。上記で示したように、加熱するステップは、例えば、少なくとも900Kで、例えば、詳細には少なくとも1300Kで、例えば、最高で1500Kまでで行うことができる。用語「加熱するステップ」は、期間中の時間にわたって、より高温に、又はより低温に変える前に温度を一定に保つ加熱プログラムも示すことができる。合金を得られるように出発材料を加熱した後、こうして得られた材料を冷却することができる。意外なことに、Vはまた、冷却過程に有益な効果も有すると考えられる。より大きな体積の出発材料が加熱される場合、こうして得られた材料を徐々に冷却することは、V含有製品で可能であると考えられ、一方で、非V含有合金の磁性特性はより劣化すると考えられる。したがって、本発明の合金はまた、こうした合金のより大きなバッチの生産も可能にする。
【0030】
さらに、本明細書に記載の合金は、さらにより良好な低磁場及び高磁場性能を有することも明らかになった。例えば、0.5及び1テスラの磁場における挙動は、同じであると考えられる(ΔMは基本的に同じものである)が、その一方で、比較例は、磁気的挙動の実質的な違い(例えば、V含有合金及び非V含有合金について、0%対22%の変化)を示した。
【0031】
合金は、詳細には、速い熱伝導を容易にするように成形され得る。実施形態において、合金は、(成形)熱電素子として使用され得る。詳細には、熱電素子は、合金を含む物体であり、詳細には合金体である。実施形態において、熱電素子は塊状体(massive body)を含む。
【0032】
したがって、他のさらなる一態様において、本発明は、本明細書に記載の合金を含む熱電素子も提供する。熱電素子は、加熱するため、冷却するため、若しくはそれぞれ加熱及び冷却するための、又は力学的エネルギーを生じるための装置において使用することができる。合金、故に実施形態において熱電素子は、(巨大)磁気熱量効果(MCE)を示すことができる。この効果を用いて、(合金又は熱電素子、それぞれで)冷却し、又は加熱することができる。これを用いて、(合金又は熱電素子、それぞれで)力学的エネルギーを生じることもできる。用語「力学的エネルギー」は、詳細には、位置エネルギー及び運動エネルギーの合計を示す。本発明において、合金又は熱電素子は、実施形態において、力学的エネルギー、詳細には運動エネルギーを生じるのに用いることができる。
【0033】
他のさらなる一態様において、本発明は、磁場発生器、ヒートシンク、本明細書に記載の合金を含む熱電素子、及び制御システムを備える装置を提供する。実施形態において、制御モードにおいて制御システムは、(i)磁場発生器が(第1の)磁場を発生させ、熱電素子が磁場にさらされ、熱電素子がヒートシンクと熱的接触する第1の構成、及び(ii)熱電素子が磁場に、又は実質的により小さい磁場にさらされず、熱電素子がヒートシンクと熱的接触しない第2の構成から選択されるように構成される。詳細には、制御モードにおいて制御システムは、(i)磁場発生器が磁場を発生させ、熱電素子が磁場にさらされ、熱電素子がヒートシンクと熱的接触する第1の構成、及び(ii)熱電素子が磁場にさらされず、熱電素子がヒートシンクと熱的接触しない第2の構成から選択されるように構成される。一実施形態において、装置は、熱源をさらに備えるか、又は熱源に機能的に連結され、第2の構成の間、熱源からの熱は、熱電素子に移動する。
【0034】
他のさらなる一態様において、本発明は、磁場発生器、ヒートシンク、本明細書に記載の合金を含む熱電素子、熱源、及び制御システムを備える装置を提供する。実施形態において、制御モードにおいて制御システムは、(i)磁場発生器が(第1の)磁場を発生させ、熱電素子が磁場にさらされ、熱電素子からの熱がヒートシンクに移動する第1の構成、及び(ii)熱電素子が磁場に、又は実質的により小さい磁場にさらされず、熱源からの熱が熱電素子に移動する第2の構成から選択されるように構成される。詳細には、制御モードにおいて制御システムは、(i)磁場発生器が磁場を発生させ、熱電素子が磁場にさらされ、熱電素子からの熱がヒートシンクに移動する第1の構成、及び(ii)熱電素子が磁場にさらされず、熱源からの熱が熱電素子に移動する第2の構成から選択されるように構成される。
【0035】
このように、熱ポンプを提供することができる。
【0036】
実質的により小さい磁場は、詳細には、(第1の)磁場の、10分の1以下、例えば、20分の1以下、例として50分の1以下である。
【0037】
実施形態において、熱源は冷熱交換器を含むことができる。実施形態において、これは、冷蔵庫、又は(例えば、屋内の)空調システム、又は(例えば、屋外の)熱ポンプ加熱システム用の空気若しくは帯水層を含むことができる。
【0038】
実施形態において、熱伝導は、水のような流体によって実現することができ、実施形態において、所望の温度範囲内、例えば、210~380Kの温度範囲での、凍結を防ぐための、及び/又は沸騰を防ぐためのいくつかの手段を含む。
【0039】
実施形態において、装置は、流体システムをさらに備えてもよく、流体システムは、流体を含有するように構成され、流体システムは、熱電素子と流体(システムによって含有された)との間に熱的接触をもたらすように構成され、詳細には流体は液体であり、さらにより詳細には、液体は、沸点を上げるための添加剤及び/又は凝固点を下げるための添加剤の1又は2以上を含む。実施形態において、流体は水を含む。特定の実施形態において、流体は、基本的に水からなるものであってもよい。しかし、他の液体を(降温で、又は昇温で)使用することもできる。
【0040】
流体システムは、ポンプを備えることができる。このように、流体を、冷却されるべき(又は加熱されるべき)デバイスに沿ってポンプで送り込むことができる。用語「ポンプ」は、複数のポンプを表すこともできる。
【0041】
装置は、熱電素子を動かすように構成されるアクチュエータを備えることができる。代替的に、熱電素子は、アクチュエータの一部として構成され得る。上記で示したように、熱電素子を用いて力学的エネルギーを生じることもできる。
【0042】
熱伝導は、所望の温度範囲で沸騰も凍結もしない、いずれかの他の不燃性で無毒の温室効果ニュートラル流体によって実現することもできる。したがって、(装置の)実施形態において、液体は、所望の温度範囲で沸騰も凍結もしない、不燃性で無毒の温室効果ニュートラル流体を含むことができる。
【0043】
他のさらなる一態様において、本発明は、熱ポンプを備えるシステムも提供する。こうしたシステムは、装置のそれぞれの実施形態(前述の要素)を含むことができる。
【0044】
一態様において、本発明は、本明細書に記載の装置を含むシステムであって、冷蔵庫として構成され、システムの制御モードにおいて、準周囲レベル(sub ambient levels)から、周囲~210Kの範囲(in the range from ambient down to 210 K)の温度まで、及び/又は周囲を超える温度まで、例えば、210K~周囲を超える範囲(in the range of 210 K to above ambient)の温度まで、熱をポンプで送り込むように構成される、システムを提供する。低い温度範囲はまた、所望の冷蔵庫の温度に応じて、前述の範囲のごく一部であってもよい。
【0045】
実施形態において、システムは、第1の空間から第2の空間へ熱(熱エネルギー)をもたらすように構成することができ、第1の空間は、第2の空間よりも低い温度を有する。詳細には、第1の空間は、準周囲温度を有することができ、第2の空間は、210K~周囲温度を超える範囲から選択される温度を有することができる。
【0046】
一態様において、本発明は、本明細書に記載の装置を含むシステムであって、ヒーターとして構成され、システムの制御モードにおいて、準周囲レベルから、最高で380Kまでの周囲を超える温度まで、熱をポンプで送り込むように構成される、システムを提供する。高い温度範囲はまた、所望のヒーターの温度に応じて、前述の範囲のごく一部であってもよい。
【0047】
他のさらなる一態様において、本発明は、力学的及び/又は電気エネルギーの生成をもたらす、磁場源、本明細書に記載の合金、及び熱スイッチを含むシステムも提供する。したがって、本発明は、テスラモーター又は磁気熱量発生器も提供する。
【0048】
他のさらなる一態様において、本発明は、方法において力学的エネルギーを費やしながら、より冷たい貯蔵器からより温かい貯蔵器へ熱を移動するための装置(参照によって本明細書に援用された米国特許出願公開第2012/0031109号明細書に記載のものと同様のもの)であって、上記装置が、合金を含む熱電素子、第1の熱伝導体、第2の熱伝導体、強い磁場の領域及び弱い磁場の領域を生じる手段、並びに熱界面流体(TIF)を含み;上記熱電素子の上記部分が、上記弱い磁場に浸漬される場合、上記第1の熱伝導体が、上記TIFによって、上記熱電素子の部分と良好に熱的連通するように配置され;上記熱電素子の上記部分が上記強い磁場に浸漬される場合、上記第2の熱伝導体が、上記TIFによって、上記熱電素子の部分と良好に熱的連通するように配置される、装置も提供する。
【0049】
Swiss Blue Energy AG社では、20℃~80℃の低温熱を使用可能な電力に変換するのに好適な熱磁気モーターも説明される(例えば、http://www.swiss-blue-energy.ch/en/technology.html参照)。2つの水流の温度差(ΔT)で蓄えられた熱エネルギーのあるパーセントは、電力生産に使用される。例えば、最小温度差は20Kであるべきである。キュリー点は、磁気熱量材料の磁性特性の可逆相変化が生じる温度を定める。磁気熱量材料は、そのキュリー点より上では常磁性(すなわち、プラスチックと類似した、磁場での挙動)で振る舞い、そのキュリー点より下では強磁性(すなわち、鉄と類似した、磁場での挙動)で振る舞う。この挙動は、キュリー効果と称される。キュリー点より低い温度で、磁気熱量材料は、永久磁石の磁場によって引き付けられる(強磁性特性)。キュリー点を超える温度で、磁気熱量材料は、妨げられていない永久磁石の磁場を通過する(常磁性特性)。永久磁石の正確な設置と組み合わせた、磁気熱量材料の、キュリー点を超える温度、及びキュリー点より低い温度の速い変化によって(高速熱スイッチ)、ローターの連続回転が実現する。この力学的エネルギーは、その後電力に変換される。熱磁気モーター(TMM)は、2つの水ストリーム間の温度差(ΔT)で蓄えられた熱エネルギーのあるパーセントを使用可能な無公害の電力に変換する。これは、磁気熱量材料を、そのキュリー点周辺で、極めて速く、かつ連続的に加熱するステップ及び冷却するステップ、並びに永久磁石の適用によって実現される。
【0050】
したがって、一態様において、本発明は、(a)第1の操作モード中の冷却するステップ、及び(b)第2の操作モード中の加熱するステップの1又は2以上を実行するように構成される装置であって、本明細書に記載の合金を含む熱電素子を備える、装置を提供する。
【0051】
本発明の他のさらなる一態様において、本発明は、第3の操作モード中に力学的エネルギーを生じるように構成される装置を提供する。
【0052】
本発明の他のさらなる一態様において、本発明は、第4の操作モード中に電気エネルギーを生じるように構成される装置を提供する。
【0053】
本発明の他のさらなる一態様において、本発明は、(a)第1の操作モード中の冷却するステップ、及び(b)第2の操作モード中の加熱するステップ、(c)第3の操作モード中に力学的エネルギーを生じるステップ、及び(d)第4の操作モード中に電気エネルギーを生じるステップの1又は2以上を実行するように構成される装置を提供する。
【0054】
したがって、一態様において、本発明は、本明細書に記載の装置を含むシステムであって、加熱する、冷却する、若しくはそれぞれ加熱及び冷却するように、又は力学的エネルギーを生じるように構成される、システムも提供する。詳細には、一態様において、本発明は、本明細書に記載の装置を含むシステムであって、加熱する、冷却する、若しくはそれぞれ加熱及び冷却するように、又は力学的エネルギーを生じるように、又は電気エネルギーを生じるように構成される、システムも提供する。こうした選択肢の2又は3以上は、システムの実施形態において可能であり得る。システムは、制御システムをさらに備えてもよい。
【0055】
制御システムは、センサー信号、ユーザー・インターフェイス、及びタイマーに応じて、装置又はシステム(装置を含む)を制御することができる。センサー信号は、例えば、温度センサーの信号であってもよい。タイマーは、例えば時計であってもよい。
【0056】
以下に、教示をもより広く説明し得る、特定の実施形態を説明することができ、その実施形態は、とりわけ、上記に記載の実施形態及び添付の特許請求の範囲を支持するために説明される。
【0057】
用語「制御する」及び同様の用語は、詳細には、少なくとも、要素の挙動を決定すること、又は要素の実施を管理することを表す。したがって、本明細書において「制御する」及び同様の用語は、例えば、要素に挙動を指示すること(要素の挙動を決定すること、又は要素の実施を管理すること)等、例えば、測定すること、表示すること、作動させること、開けること、シフトすること、温度を変えること等を表すことができる。その上、用語「制御する」及び同様の用語は、追加的に、モニターすることを含む。したがって、用語「制御する」及び同様の用語は、要素に挙動を指示すること、及び要素に挙動を指示し、かつ要素をモニターすることを含むことができる。要素を制御することは、「コントローラー」とも示され得る制御システムを用いて行うことができる。したがって、制御システム及び要素は、少なくとも一時的に、又は永久に、機能的に連結され得る。要素は、制御システムを備えることができる。実施形態において、制御システム及び要素は、物理的に連結されていなくてもよい。制御は、配線及び/又は無線制御を介して行うことができる。用語「制御システム」はまた、詳細には、機能的に連結された、複数の様々な制御システムも表すことができ、例えば、その一制御システムは、主制御システムであってもよく、1又は2以上の他のものは、従属制御システムであってもよい。制御システムは、ユーザー・インターフェイスを含んでもよく、又はユーザー・インターフェイスと機能的に連結されてもよい。
【0058】
システム又は装置又はデバイスは、「モード」又は「操作モード」又は「操作のモード」又は「制御モード」における作動を実行することができる。同様に、方法において、作動又は段階又はステップは、「モード」又は「操作モード」又は「操作のモード」又は「制御モード」において実行され得る。用語「モード」は、「制御モード」としても示すことができる。これは、システム又は装置又はデバイスが、他の制御モード又は複数の他の制御モードを提供するようにも適応し得ることを排除しない。同様に、これは、モードを実行する前、及び/又はモードを実行した後、1又は2以上の他のモードを実行し得ることを排除しなくてもよい。しかし、実施形態において、少なくとも制御モードをもたらすように適応した制御システムが、利用可能であり得る。他のモードが利用可能であれば、こうしたモードの選択は、詳細にはユーザー・インターフェイスを介して実行することができるが、同様に、センサー信号又は(時間)スキームに応じたモードを実行する、他の選択肢も可能であり得る。操作モードは、実施形態において、単一の操作モード(すなわち、さらなる可変性なく「オン」)でただ操作することできる、システム又は装置又はデバイスも表すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
本発明の実施形態は、対応する参照記号が対応する構成部分を示す、添付の略図に関して、例としてのみ説明されることになる。
図1】1323、1373、及び1423Kで焼き鈍した後のMn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03, 0.04、及び0.05)合金について、温度の関数としての磁化を示す図であり、1323、1373、1423Kで焼き鈍した後のMn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金のTは、含有量を示すV(at%)と共に右下にある。 焼き鈍し温度は、図に示され、これは、やはり以下の図にも適用される。
図2】1323、1373、及び1423Kで焼き鈍した後のMn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03, 0.04, 0.05)合金の、各格子定数a及びc、c/a、並びに不純物の相分率と、V含有量との関係を示す図である。
図3A】1373Kで焼き鈍したMn1.180.02Fe0.750.5Si0.5合金の中性子回折図及び精密化結果を示す図であり、y軸で、強度(カウント)は、I(C)で示され、NDPは、中性子回折図を示し、FCは、計算されたfullprofを示し(NDP及びFCは基本的に重なる)、BPはブラッグ位置を示し、DはNDPとFCとの差を示す。
図3B】Mn1.2Fe0.750.5Si0.5合金について、焼き鈍し温度(T(ケルビン))の関数としての原子間距離(ID)を示す図であり、矢印で指し示された位置は、1373Kで焼き鈍されたMn1.180.02Fe0.750.5Si0.5を表す。
図4A】1323Kで焼き鈍した後のMn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03, 0.04)合金の、0~1T(中抜き記号)及び0~2T(塗りつぶし記号)の磁場変化での、|ΔS|の温度依存性を示す図である。
図4B】1373Kで焼き鈍した後のMn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03)合金の、0~1T(中抜き記号)及び0~2T(塗りつぶし記号)の磁場変化での、|ΔS|の温度依存性を示す図である。
図4C】1423Kで焼き鈍した後のMn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03, 0.05)合金の、0~1T(中抜き記号)及び0~2T(塗りつぶし記号)の磁場変化での、|ΔS|の温度依存性を示す図である。
図5A】1323Kで焼き鈍されたMn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02)合金の、ΔTad(断熱温度変化)の温度依存性を示す図である。
図5B】1373Kで焼き鈍されたMn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02)合金の、ΔTadの温度依存性を示す図である。塗りつぶし、半分塗りつぶし、中抜き記号はそれぞれ、印加磁場1.5及び1.0Tを表す。
図6A】シリーズAについてa及びc軸の格子定数を示す図である。
図6B】シリーズAについてc/a比及びTの格子定数を示す図である。
図6C】シリーズBについてa及びc軸の格子定数を示す図である。
図6D】シリーズBについてc/a比及びTの格子定数を示す図である。
図6E】シリーズA及びBの、第2の相の分率(F;体積%)を示す図である。
図6F】シリーズA及びBの単位格子体積を示す図である。
図7A】1Tの印加磁場の下、シリーズAの磁化の温度依存性を示す図である。
図7B】1Tの印加磁場の下、シリーズBの磁化の温度依存性を示す図である。
図8A】シリーズAについて、0~1.0T(中抜き記号)及び0~2.0T(色付き記号)の磁場変化の下、|ΔS|の温度依存性を示す図である。
図8B】シリーズAについて、0~1.0T(中抜き記号)及び0~1.5T(色付き記号)の磁場変化の下、ΔTadの温度依存性を示す図である。
図8C】シリーズBについて、0~1.0T(中抜き記号)及び0~2.0T(色付き記号)の磁場変化の下、|ΔS|の温度依存性を示す図である。
図8D】シリーズBについて、0~1.0T(中抜き記号)及び0~1.5T(色付き記号)の磁場変化の下、ΔTadの温度依存性を示す図である。
図8E】シリーズAについて、加熱するステップ(H)及び冷却するステップ(C)の間、0~1.0Tの磁場変化の下、ΔTadの部分温度依存性を示す図である。
図8F】シリーズBについて、加熱するステップ及び冷却するステップの間、0~1.0Tの磁場変化の下、ΔTadの部分温度依存性を示す図である。
図9A】シリーズA(a)について、T及びdT/dB(挿入図)の磁場依存性を示す図である。挿入図は、シリーズBについて、V含有量の、式単位当たりの磁気モーメント(μf.u.)依存性である。
図9B】シリーズB(b)について、T及びdT/dB(挿入図)の磁場依存性を示す図である。挿入図は、シリーズBについて、V含有量の、式単位当たりの磁気モーメント(μf.u.)依存性である。
図9C】温度5Kで測定された、シリーズAについて、V含有量の関数としての磁化を示す図である。挿入図は、シリーズBについて、V含有量の、式単位当たりの磁気モーメント(μf.u.)依存性である。
図10A】(Mn0.6-yFe0.4-w1.900.020.5Si0.5(y + w = 0.02)(1#~4#)合金について、1Tの磁場の下の潜熱を示す図である。
図10B】(Mn0.6-yFe0.4-w1.900.020.5Si0.5(y + w = 0.02)(1#~4#)合金について、温度の関数としての磁化を示す図である。
図10C】Mn1.17Fe0.710.020.5Si0.5(2#)について、外部磁場の関数としての磁化を示す図である。
図10D】Mn1.17Fe0.710.020.5Si0.5(2#)について、温度の関数としての磁化を示す図である。
図11A】(Mn0.6-yFe0.4-w1.900.020.5Si0.5(1#~4#)合金について、各格子定数a及びcの値を示す図である。
図11B】(Mn0.6-yFe0.4-w1.900.020.5Si0.5(1#~4#)合金について、不純物の分率を示す図である。
図11C】(Mn0.6-yFe0.4-w1.900.020.5Si0.5(1#~4#)合金について、c/a及びTを示す図である。
図11D】(Mn0.6-yFe0.4-w1.900.020.5Si0.5(1#~4#)合金について、結晶単位格子の体積を示す図である。
図11E】2#の試料について、温度のin situ格子定数依存性を示す図である。データを、転移温度Tの値に対して正規化する。測定は、温めて実施された。SNは、試料番号を示す。
図11F】2#について、温度の関数としての、格子定数の(c/a)比の発展を示す図である。データを、転移温度Tの値に対して正規化する。測定は、温めて実施された。SNは、試料番号を示す。
図12A】(Mn0.6-yFe0.4-w1.900.020.5Si0.5(1#~4#)合金について、|ΔS|の温度依存性を示す図である。
図12B】(Mn0.6-yFe0.4-w1.900.020.5Si0.5(1#~4#)合金について、磁場中DSC測定から計算される、1Tの磁場変化での、ΔTadの温度依存性を示す図である。
図12C】|ΔS|及びΔTadの磁場依存性を示す。
図12D】ΔTadの磁場依存性を示す。
図12E】ΔTサイクリックの温度依存性を示す図である。
図12F】様々な外部磁場(それぞれ0.68、1.00、1.25、0.65、及び1.0テスラである)の下、2#及びGdのΔTサイクリックの温度依存性を提供する。
図13】加熱するステップ(H)及び冷却するステップ(C)の間、0T及び1Tの磁場の下、(Mn0.6-yFe0.4-w1.900.020.5Si0.5(y = 0.00、w = 0.02)のDSC曲線を示す図である。
図14】様々な印加磁場の下、(Mn0.6-yFe0.4-w1.900.020.5Si0.5(y = 0.00、w = 0.02)のΔTadを示す図である。1.93Tで、ΔTadの外挿値は5.6Kである。
図15】Mn1.17Fe0.72-x0.5Si0.5合金について、温度の関数としての磁化を示す図である。
図16】1343及び1373Kで焼き鈍されたMn1.17Fe0.72-x0.5Si0.5合金について、温度の関数としての磁化を示す図である。
図17A】Mn1.17Fe0.72-x0.5Si0.5合金について、各格子定数(LP)a及びcの値を示す図である。IVは(IV:不純物体積(vol.%))を示す。
図17B】c/a及びdM/dT(V%はV含有量(at%)を示す)の値を示す図である。IVは(IV:不純物体積(vol.%))を示す。
図17C】不純物(I)の分率及び結晶単位格子の体積(V)の値を示す図である。IVは(IV:不純物体積(vol.%))を示す。
図18】Mn1.17Fe0.72-x0.5Si0.5合金について、磁場中DSC測定から計算される、1Tの磁場変化での|ΔS|の温度依存性を示す図である。本明細書において、Hは加熱するステップを示し、Cは冷却するステップを示す。
図19】Mn1.17Fe0.72-x0.5Si0.5合金について、磁場中DSC測定から計算される、1Tの磁場変化でのΔTadの温度依存性を示す図である。本明細書において、Hは加熱するステップを示し、Cは冷却するステップを示す。
図20】Mn1.17Fe0.72-x0.5Si0.5合金について、磁場中DSC測定から計算される、0~0.25、最高で0~1.5Tまでの磁場変化でのΔTadの磁場依存性を示す図である。
図21】(Mn,Fe)1.900.02(P,Si)合金について、温度の関数としての磁化を示す図である。
図22】(Mn,Fe)1.900.02(P,Si)合金について、磁場中DSC測定から計算される、1Tの磁場変化での、ΔTadの温度依存性を示す図である。
図23】加熱するステップ(H)及び冷却するステップ(C)の間、0及び1Tの磁場の下、Mn1.14Fe0.740.020.49Si0.51のDSC曲線を示す図である。
図24】様々な印加磁場の下、Mn1.14Fe0.740.020.49Si0.51のΔTadを示す図である。1.93TでのΔTadの外挿値は4.5Kである。
図25】第2のシリーズで調製された(Mn,Fe)1.900.02(P,Si)合金について、温度の関数としての磁化を示す図である。
図26】第2のシリーズで調製された(Mn,Fe)1.900.02(P,Si)合金について、磁場中DSC測定から計算される、1Tの磁場変化での、ΔTadの温度依存性を示す図である。
図27】不純物の分率を示す図である(I(%)は、第1のシリーズ(1)及び第2のシリーズ(2)で調製された(Mn,Fe)1.900.02(P,Si)合金について不純物(vol%)を示す)。SNは試料番号を示す。
図28】1343Kで焼き鈍された(Mn,Fe)1.900.02(P,Si)合金について、温度の関数としての磁化を示す図である。
図29A】1343Kで焼き鈍された(Mn,Fe)1.900.02(P,Si)合金について、磁場中DSC測定から計算される、1Tの磁場変化での、ΔTadの温度依存性を示す図であり、本明細書において、Hは加熱するステップを示し、Cは冷却するステップを示す図である。1.93TでのΔTadの外挿値は4.3Kである。
図29B】様々な印加磁場の下、Mn1.14Fe0.740.020.49Si0.51のΔTadを示す図である。1.93TでのΔTadの外挿値は4.3Kである。
図30】不純物の分率を示す図である(I(%)は、1343Kで焼き鈍された(Mn,Fe)1.900.02(P,Si)合金について、不純物(vol%)を示す)。SNは試料番号を示す。
図31】ループ処理によって測定される、1343Kで焼き鈍された(Mn,Fe)1.900.02(P,Si)合金について、印加磁場の関数としての磁化を示す図である。 略図は、必ずしもスケールどおりではない。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下に、詳細には、磁気熱量Mn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金について、焼き鈍し温度及びバナジウム置換を組み合わせた効果を記載する。
【0061】
近年、室温付近の磁気冷蔵技術は、従来の蒸気圧縮技術と比較して、その高い効率、環境への配慮、低騒音、及び長い耐用年数のために広く注目されてきた。冷媒として使用される、巨大磁気熱量効果(GMCE)材料は、この技術の効率を決定する重要な因子を形成する。
【0062】
磁気熱量効果(MCE、磁石及び熱量から)は、材料を変化する磁場にさらすことによって、磁性材料の断熱温度変化又は等温エントロピー変化が生じる、磁気熱力学現象である。用語巨大磁気熱量効果GMCEは、詳細には、磁気-構造又は磁気-弾性相転移付近での昇温又はエントロピー変化を示す材料を表す(E. Bruck, Journal of Physics D, 2005, 38, pp R381参照)。こうしたGMCE材料は、磁気熱量デバイスを操作するのに必要な磁場強度を強力に減らし、故に大きな磁場を発生させることに関連する投資費用を減らすので、商業的応用に特に適する。
【0063】
巨大MCEは、一次磁気転移(FOMT)を受ける一部の材料、例えば、GdGeSi合金、LaFe13-xSi合金、MnFeP1-xAs合金、MnFeP1-x-ySi合金、MnCoGeB合金、及びホイスラー合金において起こることができる。とりわけ、MnFeP1-x-ySi合金は、その安い、かつ無毒な元素、高い冷却能力及び調節可能な、室温付近のT故に、磁気冷媒として産業化され得る最も有望な材料の1つとして現在考慮される。しかし、MnFeP1-x-ySi合金の熱ヒステリシス(ΔThys)は、冷却サイクルの効率を下げるので、依然としてその用途を限定する。多くの研究が、GMCEを維持しながらΔThysを減らすように行われてきた。MnFeP1-x-ySiについて、又はMn1-yCoFe0.950.50Si0.50及びMnFe0.95-xNi0.50Si0.50における遷移金属置換について明示されるように、限定されたΔThysを得るために、組成は、FOMTを、二次磁気相転移(SOMT)を有する境界へシフトするように調整され得る。さらに、ΔThysはまた、焼き鈍し時間及び温度によって制御することもできる。例えば、Mn1.15Fe0.850.55Si0.45合金において、ΔThysは、焼き鈍し温度と共に減少する。焼き鈍し温度及び焼き鈍し時間の、Mn1.000Fe0.9500.595Si0.3300.075合金の磁気相転移に対する効果が調べられ、焼き鈍し温度が、ΔThysに強い影響を示すことが明らかになった。2つのステップの加熱処理法において、1373Kで焼き鈍されたMn1.2Fe0.750.5Si0.5合金は、5Kの相対的に低いΔThysの、強いFOMTを有することが報告された。
【0064】
MnFePSi合金の焼結は、焼き鈍し温度が融点(1553K)よりも低いので、固体相拡散法として考えることができる。それぞれの元素の拡散速度は、大いに、焼き鈍し温度によって決まる。したがって、MnFePSi合金に追加の元素を導入することは、異なる焼き鈍し温度を要する。本明細書で、Mn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金において、焼き鈍し温度を変えること(1323、1373、及び1423K)と、V置換(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03, 0.04, 0.05)とを組み合わせた効果が開示され、六方晶系結晶構造のアスペクト比の変化及び磁性特性が得られる。GMCEを最適化するために、MnのVによる置換は、焼き鈍し温度を調節することによって制御することができる。
【0065】
以下に、Mn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金の調製を記載する。
【0066】
多結晶Mn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03, 0.04, 0.05)合金は、粉末冶金法によって調製された。出発材料Mn(99.7%)、Fe(99.7%)、赤P(99%)、Si(99.7%)、及びV(99.5%)の粉末は、PULVERRISETTE 5遊星ミルにおいて、Ar雰囲気中で、一定の回転速度380rpmで、10時間機械的にボールミルし、次いでプレス加工して小さい錠剤にし、最後にAr200mbarの下、石英アンプルに密封した。次いで、これらの錠剤は、結晶化させるために、1323、1373、及び1423Kで2時間焼き鈍され、室温までゆっくりと冷却された。その後、それらを同じ焼き鈍し温度まで20時間加熱して、均一にし、水中にクエンチした。
【0067】
X線回折(XRD)図は、室温(RT)で、Cu-Kα放射線(1.54056Å)を用いたPANalytical X-pert Pro回折計で収集された。室温の中性子回折データは、デルフト工科大学の研究用原子炉において、中性子粉末回折装置PEARLで収集された(L. van Eijck, L.D. Cussen, G.J. Sykora, E.M. Schooneveld, N.J. Rhodes, A. van Well, and C. Pappas, J. App. Crystallogr. 49, 1 (2016)も参照されたい)。結晶構造及び原子占有状態は、Fullprofソフトウェア製品で実施されるリートベルト精密化法を用いて精密化された。示差走査熱量測定(DSC)は、TA-Q2000装置を用いて10K/分で実行した。磁化の温度及び磁場依存性は、超電導量子干渉デバイス(SQUID)磁力計(Quantum Design MPMS 5XL)によって、往復動式試料オプション(reciprocating sample option)(RSO)モードで測定された。断熱温度変化(ΔTad)は、ペルチェセルに基づく示差走査熱量計で、ハルバッハシリンダー磁場(≦1.5T)を用いて測定される。この設定において、温度をペルチェセルの熱抵抗の作用について補正しながら、等磁場熱量測定スキャンを50mK・分-1の速度で実施した。
【0068】
以下に、焼き鈍し温度及びV置換のMn1.2xFe0.750.5Si0.5合金への効果を記載する。
【0069】
1323、1373、及び1423Kで焼き鈍した後のMn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03, 0.04、及び0.05)合金について、温度の関数としての磁化を図1に示す。値は、未使用の影響が除去されたことを確認するために、等磁場測定(0.2Tのステップ毎に2から0.2Tまで減少させる)から抜き出す。強磁性から常磁性への転移温度Tは、曲線の、dM/dTの対応する最高温度によって決定される。図1の右下に示すように、1323、1373、及び1423Kで焼き鈍した後、Tは、V置換を増加させるにつれて低下する傾向がある。しかし、焼き鈍し温度が変わる場合、その低下は特異な特徴を示す。1323Kで焼き鈍された合金を除いて、1373及び1423Kで焼き鈍された場合、Tは線形で低下する。Tは、内部構造変化又は内部対称性変化に関連するので、これらの変化は、精密化された格子定数のc/a比の傾向と十分に一致する(図2D参照)。
【0070】
ΔThysは、加熱及び冷却過程の間のヒステリシスとして定められ、磁気冷却デバイスの効率の妨害となる。十分なMCEを維持しながら、ΔThysを最小化することが重要である。この研究において、ΔThysは、磁場1Tで、加熱するステップ及び冷却するステップの間の転移温度の差によって決定される。図1に示すように、転移温度は、加熱及び冷却過程において、|dM/dT|の極値対Tとして定められる。1323、1373、及び1423Kで焼き鈍した後の、Mn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03, 0.04, 0.05)合金について、T、ΔThys、及び潜熱(L)の値を表1に示す。顕著なFOMTを有する材料は、通常大きなL値を示すので、Lの値は、FOMTの強さの証しとして考えることができる。一般に、MnのV置換は、ΔThysとLとの両方を減らすことができる。xが0.00から0.05まで増加するとき、1423Kで焼き鈍す場合、ΔThysは12.8Kから1.4Kまで劇的に減少し、その一方で、1323Kで焼き鈍す場合、ΔThysは2.1Kから実験的分解能未満まで減少する。1323Kで焼き鈍されたMn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金について、限定されたΔThysは、実際の用途で有望であることに留意されたい。x = 0.02の合金について、ΔThys及びL値は、1323及び1373Kで焼き鈍されたx = 0.01の合金よりもある程度より大きく、より強い一次転移を示唆する。表2に示すように、3fサイトのFeの占有の増加により、FOMTを高める。
【0071】
【表1】
【0072】
室温XRDデータのリートベルト精密化によれば、Mn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金において、六方晶系FeP型格子構造(空間群P-62m)相は、主相に対応し、MnFeSi型格子構造(空間群Fm3m)は、不純物相であると分かる。それぞれの焼き鈍し温度での不純物の相分率(図2参照)は、x ≦ 0.04でおよそ同じレベルであり、同じ焼き鈍し温度で焼き鈍された合金でV置換の効果を、独立して比較することを可能にする。1323及び1373Kで焼き鈍したx ≦ 0.03の合金について、不純物相分率は、約8.0±1.0体積パーセント(vol.%)である。しかし、焼き鈍し温度を1423Kまで上昇させる場合、不純物は、約11.5±0.5vol.%まで増加する。これらの結果は、大きな不純物相分率が、より高い焼き鈍し温度で導入されることを示す。
【0073】
結晶構造精密化結果(図2に示す)に基づいて、格子定数変化における、V置換濃度の関数としての傾向は、3つの焼き鈍し温度の全てで同様であり、a軸は減少するが、c軸は増加し、c/a比の増加をもたらす。変化のサイズは、焼き鈍し温度と共に変わる。x=0.05について、c/a比の変化は、1323、1373、及び1423Kの焼き鈍し温度でそれぞれ、1.0%、0.5%、0.4%である。焼き鈍し温度がより高いほど、より小さい変化となり、粒子間の第2の相への分離又は蒸発のいずれかで合金の一成分を失うことによって起こり得る。
【0074】
以下に、Mn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金の室温中性子回折及び原子サイト占有状態の変化を記載する。
【0075】
Mn-Fe-P-Si合金について、Fe原子は主に3fサイトを占有し、Mn原子は主に3gサイトを占有し、P原子及びSi原子は主に2cサイト又は1bサイトを占有し、Si原子は2cサイトに高い選好性があることが報告される。密度汎関数理論(DFT)計算と組み合わせた、X線吸収実験及びX線粉末回折実験により、巨大なエントロピー変化の起源である電子再分布が、Mn-Fe-P-Si-Bにおいて生じ、Fe原子及び周囲のSi/P原子の電子密度の大きな変化をもたらすことを明らかにした。先行の第1の原則の計算結果より、より同一平面上の最近接Siがある場合、より大きな磁気モーメントが3f及び3gサイトで発展することが示唆される。結果として、2cサイトのSi原子はまた、磁気モーメントを増強することにも寄与し得る。したがって、3fサイトは、強磁性転移によって非常に影響を受けると示唆される。サイト占有状態と磁気-弾性相転移との関係を調べるために、FeP型構造の、原子位置とサイト占有との両方を調べることが重要である。
【0076】
図3Aは、1373Kで焼き鈍されたMn1.180.02Fe0.750.5Si0.5合金の中性子回折図及び精密化結果を示し、計算が実験結果と一致することを示す。Vは、試料ホルダーがVで製造されるので、中性子回折によってほとんど検出することができないことに留意されたい。Vは、インコヒーレントで散乱し、それによって主にバックグラウンドに寄与する。したがって、FeP型構造のVのサイト占有は、ここでは精密化されない。中性子回折図の精密化によれば、焼き鈍し温度がより高いほど、3fサイトのFe原子及び2cサイトのSi原子の占有状態がより高くなる(表2参照)。したがって、図5に示すように、この増加により、より高い焼き鈍し温度が、2Tの磁場変化で、より高い|ΔS|値を有する、より強力な一次磁気-弾性転移をもたらす理由を説明することができる。1373Kで焼き鈍された合金について、x = 0.02の試料は、x = 0の試料よりも、1Tの磁場変化でより高い|ΔS|値を有する(図4B参照)。これは、おそらく、その少しより高い3fサイトのFe占有及び2cサイトのSi原子によるものである(表2に示す)。前述されたように、それはFOMTを高めることになる。
【0077】
図3B及び図3Cは、Mn1.2Fe0.750.5Si0.5合金、とりわけ1373Kで焼き鈍されたMn1.180.02Fe0.750.5Si0.5について、焼き鈍し温度T(K)の関数としての原子間距離を説明する。FOMTは、焼き鈍し温度を上げるにつれてより強くなることに留意されたい。FeP型構造において、Mn/Fe(3f)-P/Si(2c)は同じ平面で混成されるが、Mn(3g)-P/Si(1b)は他の平面にある。先行のX線磁気円二色性実験によれば、同様のモーメント発展がMnとFeとの両方で観測され、GMCEの起源がMnとFeの両方の層に由来することがあると示唆される。結果として、Mn/Fe(3f)-P/Si(2c)及びMn(3g)-P/Si(1b)の内層の平均距離は、金属元素と非金属元素との間の混成に強く影響を及ぼすことになる。1323及び1373Kで焼き鈍された、同様の量の不純物を含むMn1.2Fe0.750.5Si0.5合金について、内層Mn/Fe(3f)-P/Si(2c)及びMn(3g)-P/Si(1b)の平均距離は、焼き鈍し温度を上げるにつれて減少し、それ故にGMCEを増加させる。1373Kで焼き鈍された、Vを含まない合金と比較して、より大きなGMCEを有する、1373Kで焼き鈍されたMn1.180.02Fe0.750.5Si0.5は、内層Mn/Fe(3f)-P/Si(2c)及びMn(3g)-P/Si(1b)のより小さな平均距離も有する。しかし、最大のGMCEを有する、1423Kで焼き鈍されたMn1.2Fe0.750.5Si0.5合金について、不純物は、他の3種の試料よりもより多く、Mn1.2Fe0.750.5Si0.5合金は、FeP型相においてより低いSi含有量を有することを示唆する。したがって、原子間距離は、他の試料と同等ではない。しかし、その内層距離Mn/Fe(3f)-Mn/Fe(3f)は、これらの試料の中で最も短いことに留意すべきである。結論において、焼き鈍し温度で誘起されるGMCE強度の変化は、3fサイト及び2cサイトの様々な占有と、変化する原子間距離との両方の結果である。
【0078】
図3Dは、x軸に焼き鈍し温度Ta、左のy軸にa(Å)、及び右の軸にc(Å)を示す。a値は、焼き鈍し温度と共に減少し、c値は焼き鈍し温度と共に増加する。
【0079】
【表2】
【0080】
以下に、Mn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金の磁気熱量効果及び磁気-弾性相転移を記載する。
【0081】
焼き鈍されたMn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03, 0.04, 0.05)の、0~2Tの磁場変化での、等磁場磁化曲線(ここでは図示せず)を、温度間隔1Kで、T付近で測定する。合金の|ΔS|値は、マクスウェルの関係式に基づいて、抜き出された等温磁化曲線から導かれる。1323、1373、及び1423Kで焼き鈍した後のMn1.2-xFe0.750.5Si0.5(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03, 0.04、及び0.05)合金で、0~1T(中抜き記号)及び0~2T(塗りつぶし記号)の磁場変化について、|ΔS|の温度依存性を、図4A図4B、及び図4Cにそれぞれ示す。焼き鈍し温度が上がると、|ΔS|は増加し、Tは下がり、前に報告された、MnFe0.950.595Si0.330.075合金についての焼き鈍し温度の効果と一致する。他方で、V置換を増加させると、|ΔS|は減少し、Tは低下する。1373Kで焼き鈍されたx = 0.02の合金は、外部磁場1Tの下、x = 0.00の合金(17.2J/(kg・K))よりも大きな|ΔS|値(18.4J/(kg・K))をさらに有する。しかし、外部磁場が0~2Tの磁場変化である場合、これらの2種の試料は、|ΔS|の等しい値を有する。これによれば、0.02at%の合金が、より良好な低磁場(1T)性能を有し、それは、高い、3fサイトのFe占有状態及び2cサイトのSi占有状態によるものである。現在の熱ポンププロトタイプにおいて、現在印加される磁場は、低コストNdFeB永久磁石を用いた約1Tであるので、この磁場の下、高い性能を有することが極めて重要である。1323Kで焼き鈍された、x = 0.00の現在の合金(282Kで、0~1Tの磁場変化について、|ΔSM| = 8.2 J/(kgK)及びΔThys= 2.1 K)は、ホウ素をドープした合金、例えば、1323Kで焼き鈍されたMnFe0.950.595Si0.330.075合金(285Kで、0~1Tの磁場変化について、|ΔSM| = 6.2 J/(kgK))、及び1373Kで焼き鈍されたMnFe0.950.593Si0.330.077合金(281Kで|ΔSM|= 9.8 J/(kg・K)及びΔThys = 1.6 K)と同等である。これらの結果によれば、焼き鈍し温度が低下すると、Mn1.2Fe0.750.5Si0.5合金において、強い一次磁気転移を、一次磁気転移と二次磁気転移との境界へ調整することができる。
【0082】
図5Aは、1323Kで焼き鈍された、いくつかのMn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金について、DSC磁場中ΔTadの温度依存性を説明し、その一方で図5Bは、1373Kで焼き鈍されたMn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金についてΔTadの温度依存性を説明する。ΔTadは、以下の式を用いて決定される。
【0083】
【数1】
【0084】
式中、C(H)は比熱である。試料x = 0.00について、T付近に2つのピークがあることに留意されたい。焼き鈍しが、相対的により低い温度で好まれる場合、近い組成を有する、2つの異なるFeP型相として共存することが報告されたのは妥当である。1323Kで焼き鈍された試料について、xが0.00から0.02まで増加するとき、1Tの外部磁場変化の下、ΔTadの値は、1.8から2.7Kまで増加し、|ΔS|は、8.2から7.6Jkg-1-1まで減少する。Vを含まない合金と比較して、1Tの磁場変化についての、2.7Kの有意なΔTad及び限定されたヒステリシス(1.8K)は、1323Kで焼き鈍されたx = 0.02の合金で得られ、それが磁気熱ポンプの有望な候補であることを示す。
【0085】
1373Kで焼き鈍された試料について、ΔTadの値は、1Tの外部磁場変化について、xを0.00から0.02まで増加させることによって3.3から4.8Kまで増加する。これら試料の中間のヒステリシスは、約4.5Kである。この研究のΔTadの値は、大きいヒステリシスを示す一次材料において、サイクリック(直接)磁場誘起温度変化(ΔTサイクリック)から区別することが重要である。ΔTサイクリックは、磁気冷蔵の実際の稼働状況を反映するが、ΔTadはその可能性をより反映している。したがって、大きいヒステリシスを有する材料について、ΔTadは、ΔTサイクリックよりもはるかにより大きいことが分かる。したがって、1323及び1373Kで焼き鈍される場合、V置換により、ΔTadを増加させることができると断定される。
【0086】
MnのV置換と、焼き鈍し温度の変化とを組み合わせた影響は、Mn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金において調べられる。V含有量を増加させると、a軸の減少、及びc軸の増加をもたらし、Tが低下することになる。3fサイトのFe原子及び2cサイトのSi原子の占有状態は、焼き鈍し温度及び/又はV含有量が増加するとき、高められ、より高い|ΔS|をもたらすことになる。内層Mn/Fe(3f)-P/Si(2c)及びMn(3g)-P/Si(1b)の平均距離が減少することはまた、|ΔS|の増加にも寄与する。1323と1373Kとの両方で焼き鈍された、x=0.02の合金は、0~1Tの磁場変化について、x = 0.00の合金よりも大きな|ΔS|値を有するが、その値は、0~2Tの磁場変化の場合に等しく、x = 0.02の合金は、1Tの磁場変化において、より良好な低磁場性能を有することを示す。この競合する低磁場性能は、低コストのNdFeB永久磁石又はさらにはフェライト永久磁石の応用を促し、低磁場プロトタイプの発展に役立つことになる。Vを含まない合金と比較して、2.7Kのより大きな温度変化ΔTad及び1.8Kのより小さなヒステリシスは、1323Kで焼き鈍された、x = 0.02の合金を最適化することによって得られ、MnFe0.950.595Si0.330.075合金と同等のものである。したがって、Mn1.2-xFe0.750.5Si0.5合金は、室温付近の磁気冷蔵について、有望な代替案となることができる。
【0087】
以下に、Mn1-xVxFe(P,Si,B)合金における、一次相転移から二次相転移への臨界点近くの超低ヒステリシス及び巨大磁気熱量効果を記載する。
【0088】
熱ヒステリシス(ΔThys)は、これらのFOMT材料において、GMCEの実際の応用を限定する重大な問題点である。転移の不連続な性質は、GMCEをもたらす特徴である。したがって、GMCEを保つ前提において、熱ヒステリシスは、微細構造を操作することによって、又は組成を調整することによって、可能な限り狭くするべきである。MnFeP1-x-ySi合金におけるB置換0.075at.%によって、GMCEを維持しながら、最適化されたΔThysは、磁場1Tの温度依存性磁化曲線によれば、1.6Kまで減少し、ΔThysは、磁場1Tの磁場中DSC測定によれば、2.0Kである(参照の支援情報F. Guillou, G. Porcari, H. Yibole, N. H. van Dijk, and E. Bruck. Taming the First-Order Transition in Giant Magnetocaloric Materials. Advanced Materials, 17 (2014) 2671-2675を参照されたい)。この場合において、材料を10000回循環させることができ、試料外形は完全な状態のままである。より高いレベルのB置換は、ΔThysをさらに減少させ得るが、十分に大きなGMCEをもたらすことに失敗することがある。ΔThysをさらに減少させ、同時に大きなGMCEをもたらす新規の手法を見出すことが望ましい。断熱温度変化(ΔTad)が2Kよりも低くなる場合、冷却するステップが無効となり得るので、設計基準の1つは、ΔTadが、詳細には2Kよりも大きいことである。この研究において、V置換によって、1Tの磁場で、超低ΔThys(0.7K)及びΔTadのGMCE(2.3K)が同時に得られる。
【0089】
MnFeP1-x-ySiの結晶構造は、磁気相転移にわたって、その六方晶系構造を保ちながら、格子定数の有意な変化を示す(磁気-弾性転移)。磁場を印加することにより、転移温度(T)の、より高い温度へのシフトがもたらされる。dT/dBで定められる、磁場で誘起されるTのシフトは、従来の一次磁気転移材料、例えば、MnFeP1-x-ySi及びLa-Fe-Siについて正であるが、逆の一次磁気転移材料、例えば、X=Sn、Sb、及びIn又はFe-RhのNi-Mn-X-ホイスラー合金については負である。従来の一次磁気転移材料について、このシフトは、低温強磁性相である、より高い磁化を有する相の磁場安定化によるものである。磁場において、熱エネルギーは、磁気相転移を誘起するために必要とされる。dT/dBの値が上がる場合、磁気相転移は、より低い磁場で誘起することができる。結果として、低磁場永久磁石を使用することができ、商業的応用のコストを著しく減らすことになる。商業用プロトタイプで現在使用される磁場は、0.9から1.5Tまで変化する外部磁場を有するNdFeB永久磁石によって発生させる。磁場1.5Tに達するための材料コストは、磁場0.9Tに達するためのコストよりも10倍高くなることがある。したがって、dT/dBを調べることによって、このGMCEシステムのより低い磁場の可能性を探ることが重要である。この研究において、多結晶Mn-V-Fe-P-Si-B合金における、V置換の、ΔThys、dT/dB、格子定数、及び磁性特性への効果が調べられた。
【0090】
以下に、Mn1-xVxFe(P,Si,B)合金の調製を記載する。
【0091】
多結晶Mn1-xFe0.950.593Si0.330.077(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03)合金は、粉末冶金法によって調製された。Mn、Fe、赤P、Si、B、及びVの粉末の形態の出発材料を、Ar雰囲気中で、一定の回転速度380rpmで、10時間機械的にボールミルし、次いで、プレス加工して小さい錠剤にし、最後にAr200mbarの下、石英アンプルに密封し、その後、様々な熱処理条件を用いた。これらの錠剤は、結晶化させるために、1323Kで2時間焼き鈍され、室温までゆっくりと冷却された。次いで、それらを同じ焼き鈍し温度まで20時間加熱して、合金を均一にし、最後に水中にクエンチした。このバッチ試料は、シリーズAとして扱われる。Vを含む試料についてTを室温まで調整するために、より高いSi含有量を有するMn1-xFe0.950.563Si0.360.077(x = 0.00, 0.01, 0.02, 0.03)合金を、より高い焼き鈍し温度1373Kを除いて、シリーズAと同じ手順で調製した。このバッチ試料はシリーズBとして扱われる。
【0092】
X線回折(XRD)図は、室温で、Cu-Kα放射線(1.54056Å)を用いたPANalytical X-pert Pro回折計で収集された。磁化の温度及び磁場依存性は、市販の超電導量子干渉デバイス(SQUID)磁力計(Quantum Design MPMS 5XL)で、往復動式試料オプション(RSO)モードにおいて測定された。断熱温度変化(ΔTad)は、ペルチェセルに基づく示差走査熱量計で、1.5Tの磁場をもたらすハルバッハシリンダーを用いて測定される。この設定において、温度をペルチェセルの熱抵抗の作用について補正しながら、平衡状態を究明するために、等磁場熱量測定スキャンを50mK・分-1の遅い速度で実施した。
【0093】
以下に、Mn1-xVxFe(P,Si,B)合金の結晶構造の特性決定を記載する。
【0094】
図6A~6Dにおいて、シリーズA(a及びb)並びにシリーズB(c及びd)のXRD図が説明される。シリーズBのMn1-xFe0.950.563Si0.360.077(x = 0.00, 0.01)合金について、Tが室温よりも高くなるとき、XRD図は、それらが常磁性状態である323Kで測定される。他の試料は、そのT値が室温より低いので、室温で測定される。選択される温度で、全ての試料は、常磁性状態で測定される。六方晶系FeP型(空間群P-62m)相は、全ての合金において主相として特定され、立方晶系MnFeSi型相(空間群Fm3m)は、不純物相として特定される。精密化結果に基づいて、推定される、不純物相の分率はそれぞれ、シリーズAにおいて1.6~2.4vol.%及びシリーズBにおいて3.7~4.5vol.%である(図6E参照)。不純物相の量は、シリーズBのV置換によって減少する。上記の焼き鈍し温度の差は、サイト占有状態及び原子位置の変化をもたらすことが分かった。シリーズA及びシリーズBの格子定数は異なる挙動を示す。シリーズAについて、V置換の増加により、a軸の減少及びc軸の増加がもたらされる。c/a比が増加し、その一方でTは、V置換の増加のために低下する。結晶の単位格子体積は、x = 0.01及び0.02について依然として不変であることに留意されたい。V含有量がx = 0.03に達するときのみ、体積は、x = 0.00と比較し0.7%減少する。シリーズBについて、格子定数は異なる傾向を示す。逆に、V置換の増加により、a軸の増加がもたらされ、その一方で、c軸はx = 0.00, 0.01、及び0.02について減少する。シリーズBの単位格子体積の変化は、単位格子体積がx = 0.02及び0.03で少し増加するものの、なおx = 0.00よりも小さいので、シリーズAとは異なることが分かった。Vの共有結合半径(132±5pm)は、Mn(139±5pm)のものよりも少し小さいので、単位格子体積の減少は、Fe2P型構造において、MnのVによる置換の証しであり得る。図面の温度は、1323Kでの(図6A~6B)、1373Kでの(図6C~6D)、及び1323又は1373Kでの(図6E~6Fの両方において)焼き鈍し温度を示す。
【0095】
以下に、Mn1-xVxFe(P,Si,B)合金の磁気熱量効果を記載する。
【0096】
シリーズA及びBの磁化の温度依存性を図7A及びBそれぞれに示す。-dM/dTの温度依存性もまた、対応する挿入図に示す。一般に、-dM/dTの最大は、FOMTの強度の指標として考慮される。本発明の材料の-dM/dTの最大は、x = 0.02の試料を除いて、増加するV含有量に対して減少し、SOMTのより近くに動くことを示す。転移温度Tは、M-T曲線において、加熱するステップ中の-dM/dTの最大値から決定される。シリーズAについて、Tは、V置換を増加させると共に、減少する傾向がある。さらに、表3に示すように、Tの低下は、V含有量を増加させると共により弱くなる。それは、V0.01at.%のステップ毎にx = 0.00から0.03まで、約18.1、約15.3、及び約12.7K下げる。シリーズBについて、Tは、初めにx = 0.01で上昇し、V置換を増加させると共に低下する。
【0097】
シリーズA及びBのDSCパターンを測定し(ここでは図示せず)、導かれた潜熱を表3に列挙する。x = 0の合金は、既に、FOMTから二次磁気転移(SOMT)への境界にあることが先立って明らかになった。V置換を0.00から0.03まで増加させることにより、1323Kで焼き鈍された合金について、5.2から1.7J/gまでの、潜熱の67%の著しい減少、及び1373Kで焼き鈍された合金について、6.2から2.8J/gまでの、潜熱の55%の著しい減少をもたらし(表3に列挙する)、試料がよりSOMTに対して移ることを示す。前述したように、潜熱の減少は、主にdT/dBの増加に寄与する。さらに、より小さな潜熱は、より小さな熱ヒステリシスをもたらすことになる。
【0098】
【表3】
【0099】
大きなΔThysは、通常、Gd(Si,Ge)、La(Fe,Si)13、並びにホイスラーのNiMn(In,Ga,Sn)及び(Mn,Fe)(P,Si,B)合金の材料群の強いFOMTを伴う。それらは巨大MCEを有するものの、大きなΔThysは、熱交換効率を劇的に下げることになるので、実際のデバイスにおけるその応用を限定する。一次転移と二次転移との間の臨界点近くに最適化された材料は、低い熱ヒステリシスと相当なGMCEを組み合わせるので、応用の有望な候補である。本明細書において、(Mn,Fe)(P,Si,B)合金のMnをVによって置換することにより、ΔThysをさらに減らし得ることが分かる。ΔThys-MTは、印加磁場μ0H = 1 Tにおいて、冷却するステップ中及び加熱するステップ中の、-dM/dTの最大値の差を計算することによって決定される。シリーズAについて、xが0.00から0.03まで増加するとき、ΔThys-MTは1.1から0.7Kまで36%減少する。シリーズBについて、xが0.00から0.03まで増加するとき、ΔThys-MTは1.5から0.1Kまで93%減少する。熱ヒステリシスは、V置換を増加させると共に減少し、シリーズA及びB合金を二次磁気転移に向かって調整し、それによって、これらの材料を磁気冷蔵庫の商業化により適したものにする。
【0100】
0~2Tの磁場変化について、シリーズA及びBの等磁場磁化曲線(ここでは図示せず)を、温度間隔1Kで、T付近で測定する。合金の|ΔS|値は、マクスウェルの関係式を用いて、抜き出された等温磁化曲線から導かれる。シリーズA及びBの|ΔS|の温度依存性を図8A及びCそれぞれに示す。|ΔS|は、V置換を増加させると共に減少する。しかし、シリーズAのx = 0.02の合金は、より低い潜熱を有するものの、より高い|ΔS|値を有する。シリーズAにおいて、x = 0.00の合金のMCE(0~1Tの磁場変化の下、289Kで|ΔSM|= 6.5 J/(kgK))及びΔThys= 1.1 K)は、前に調べられた、第2のステップの焼き鈍し法によって調製されたものと同等である(0~1Tの磁場変化の下、279.1Kで|ΔSM|= 9.2 J/(kgK)及びΔThys = 1.6 K)。
【0101】
図8Bは、部分的なシリーズA(x = 0.00及び0.02)について、ΔTadの磁場中DSC値の温度依存性を説明し、図8Dは、シリーズA(x = 0.00, 0.01, 0.02、及び0.03)のΔTadの温度依存性を説明する。シリーズAにおいて、xが0.00から0.02まで増加するとき、ΔTadの値は、1Tの磁場変化の下、2.7から1.6Kまで減少する。シリーズBにおいて、xが0.00から0.02まで増加するとき、ΔTadの値は、1Tの磁場変化の下、3.5から2.3Kまで減少する。シリーズBにおいて、xが0.00から0.02まで増加するとき、1Tの磁場変化の下、磁場中DSCの加熱及び冷却過程の差によって決定されるΔThys-DSCの値は、2.4から0.7Kまで減少することに留意されたい。シリーズBにおいて、Mn0.980.02Fe0.950.563Si0.360.077のΔTadの値(ΔTad = 2.3 K)は、MnFe0.950.563Si0.360.077合金(ΔTad = 2.5 K)と競合するが、そのΔThys-DSCの値は85%減少する。巨大なΔTadの値及び極めて低いΔThys-DSCを同時に得ることは明らかに有望であり、それにより、磁気冷却システムの熱交換効率を著しく改善することができる。
【0102】
以下に、Mn1-xVxFe(P,Si,B)合金について超低ヒステリシス及び巨大磁気熱量のメカニズムを記載する。
【0103】
シリーズA及びBについて、T及びdT/dBの磁場依存性を図9A及びBに示す。測定用粉末の形状は、球として単純化することができるので、磁場(水平軸の)は、減磁率1/3を用いた反磁場によって補正された。dT/dBの変化を表すために、T(B)-T(0)の値対磁場を図9A及びBに示す。FOMTについてのクラウジウス-クラペイロンの関係式は、dTC/dB = -TCΔM/Lに対応し、式中、Bは印加磁場であり、ΔMは磁化のジャンプであり、dT/dBがΔMの増加及び潜熱の減少と共に増加するべきであることを意味する。1323及び1373Kで焼き鈍された合金について、V含有量をx = 0.00からx = 0.02まで変えるとき、dT/dBを4.0から5.0K/Tまで高めることができる。5.0K/Tの値は、(Mn,Fe)(P,As)合金のdT/dB値と同等であり、dT/dBは、5.2K/Tであることが分かった。T及びΔMの値が減るので(図8参照)、この増加は、主に潜熱の減少によって引き起こされる(表3参照)。さらに図9Cは、xが0.00から0.02まで増加するとき、シリーズBの、式単位当たりの磁気モーメント(μf.u.)が3.75から3.96μf.u.まで増加することを表す。シリーズBのμf.uの値は、参照において記述されたように計算された。μf.u.のより大きな値は、|ΔS|のより大きな値を示唆する。dT/dB及びμf.uのより高い値によって、超低熱ヒステリシス及び巨大GMCEが、Vを含む合金において同時に得られる理由が説明される。B置換によって、熱ヒステリシスは最小に達するが、ΔTadは2Kのままである。新しい置換元素としてVを導入することにより、dT/dB及びμf.u.の両方を増加させ得ることが分かり、GMCEを損なうことなく、ヒステリシスをさらに減少させ得る。したがって、本発明のMn1-xFe(P,Si,B)化合物は、高周波の、室温付近の磁気冷却用途の実現可能な代替案をもたらす。
【0104】
1373Kで焼き鈍されたMn1-xFe0.950.563Si0.360.077合金の超低ヒステリシス及び巨大MCEは、高周波磁気冷蔵用途への道を開く。Tは、Vを増加させると共に下がる傾向がある。1373Kで焼き鈍された合金について、潜熱を6.2から2.8J/gまで55%減らすことができ、xが0.00から0.03まで増えるとき、ΔThys-MTは1.5から0.1Kまで93%減少する。転移温度(dT/dB)の磁場依存性は、MnのV置換によって4.0から5.0K/Tまで高められる。dT/dBのより高い値及びμf.u.値は、ヒステリシスが超低値まで低減されても、大きなGMCE値をもたらすことができる主な理由である。最後に、ΔThysDSC(0.7K)の超低値及び巨大なΔTad(2.3K)は、1Tの磁場において得ることができる。したがって、本発明のMn1-xVxFe(P,Si,B)化合物は、永久磁石を用いた、高周波の、室温付近の磁気冷却用途の実現可能な代替案をもたらすことができる。
【0105】
以下に、非化学量論的Mn-Fe-P-Si-V磁気熱量合金の低いヒステリシス及び大きな潜熱に関連したさらなる情報を記載する。
【0106】
以下に、調製方法を記載する。
【0107】
多結晶(Mn0.6-yFe0.4-w1.900.020.5Si0.5(y + w = 0.02)合金は、粉末冶金法によって調製された。Mn(99.7%)、Fe(99.7%)、赤P(99%)、Si(99.7%)、及びV(99.5%)の粉末の形態の出発材料を、Ar雰囲気中で、一定の回転速度380rpmで、10時間機械的にボールミルし、次いで、プレス加工して小さい錠剤にし、最後にAr200mbarの下、石英アンプルに密封し、その後、様々な熱処理条件を用いた。これらの錠剤は、結晶化させるために、1373Kで25時間焼き鈍され、最後に水中でクエンチされた。
【0108】
以下に実験結果を記載する。
【0109】
【表4】
【0110】
以下に、巨大磁気熱量Mn1.17Fe0.72-xVxP0.5Si0.5合金を記載する。
【0111】
以下に調製方法を記載する。
【0112】
多結晶Mn1.17Fe0.72-x0.5Si0.5合金は、粉末冶金法によって調製された。Mn(99.7%)、Fe(99.7%)、赤P(99%)、Si(99.7%)、及びV(99.5%)の粉末の形態の出発材料を、Ar雰囲気中で、一定の回転速度380rpmで、10時間機械的にボールミルし、次いで、プレス加工して小さい錠剤にし、最後にAr200mbarの下、石英アンプルに密封し、その後、様々な熱処理条件を用いた。これらの錠剤は、結晶化させるために、1343Kで25時間焼き鈍され、最後に水中でクエンチされた。
【0113】
以下に、調製方法を記載する。
【0114】
Mn/Fe及びP/Si比が同時に変化する多結晶(Mn,Fe)1.900.02(P,Si)合金は、粉末冶金法によって調製された。Mn(99.7%)、Fe(99.7%)、赤P(99%)、Si(99.7%)、及びV(99.5%)の粉末の形態の出発材料を、Ar雰囲気中で、一定の回転速度380rpmで、10時間機械的にボールミルし、次いで、プレス加工して小さい錠剤にし、最後にAr200mbarの下、石英アンプルに密封し、その後、様々な熱処理条件を用いた。これらの錠剤は、結晶化させるために、1373Kで25時間焼き鈍され、最後に水中でクエンチされた。
【0115】
さらなる(比較)例を以下に記載し、これらの材料の調製は、粉末冶金法に限定されない。例えば、S. Rundquist and F. Jellinek, Acta. Chem. Scand. (1959) 13 pp 425で記載されたように、溶融合成も可能である。
【0116】
【表5-1】
【0117】
【表5-2】
【0118】
試料の熱ヒステリシスは、2.0K未満であり、dM/dTは、5Am/kgKよりも大きい。Tcは、230~350Kの温度範囲に及ぶ。
【0119】
【表6】
【0120】
用語「複数」は、2又は3以上を示す。
【0121】
本明細書において、用語「実質的に」又は「基本的に」及び同様の用語は、当分野の技術者によって理解されるであろう。用語「実質的に」又は「基本的に」は、「全く」、「完全に」、「全ての」等を有する実施形態も含むこともできる。したがって、実施形態において、形容詞、実質的に又は基本的には除去することもできる。適用される場合、用語「実質的に」又は用語「基本的に」は、100%を含む、90%以上、例えば、95%以上、詳細には99%以上、さらにより詳細には99.5%以上に関連することもできる。
【0122】
用語「含む(comprise)」は、用語「含む(comprise)」が「からなる(consists of)」を意味する実施形態も含む。
【0123】
用語「及び/又は」は、詳細には、「及び/又は」の前及び後に記述される、1又は2以上の品目に関連する。例えば、成句「品目1及び/又は品目2」並びに同様の成句は、品目1及び品目2の1又は2以上に関連することができる。用語「含む(comprising)」は、一実施形態において、「からなる(consisting of)」も示すことができるが、他の一実施形態において、「少なくとも1つの定められた種を含有し、1又は2以上の他の種を含有していてもよい」も示す。
【0124】
さらに、記述及び特許請求の範囲における、用語第1、第2、第3等は、同様の要素間を識別するために用いられ、必ずしも、順序又は時系列を説明するために用いられるわけではない。こうして用いられる用語は、適切な状況で互換性があり、本明細書に記載の本発明の実施形態は、本明細書に記載され、又は説明されたものと異なる、他の順序で実施可能であることを理解されたい。
【0125】
デバイス、装置、又はシステムは、本明細書において、とりわけ操作中で記載される。当分野の技術者に明らかなように、本発明は、操作の方法、又は操作中のデバイス、装置、若しくはシステムに限定されない。
【0126】
前述の実施形態は、本発明を限定するものではなく、説明するものであり、当分野の技術者は、添付の特許請求の範囲に記載の範囲から逸脱することなく、多くの代替的な実施形態を考案することができることに留意されたい。
【0127】
特許請求の範囲において、丸括弧の間に位置する、任意の参照記号は、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるものではない。
【0128】
動詞「含むこと(to comprise)」及びその活用型の使用は、特許請求の範囲に記載されたもの以外の要素又はステップの存在を排除しない。文脈上明らかに別段の要求がなければ、記述及び特許請求の範囲全体を通して、単語「含む(comprise)」、「含むこと(comprising)」等は、排他的な又は網羅的な意味とは対照的に、包括的な意味で、言い換えれば「含むが、~に限定されない」の意味で解釈されるべきである。
【0129】
要素の前に付く冠詞「a」又は「an」は、複数のこうした要素の存在を排除しない。
【0130】
本発明は、いくつかの異なる要素を含むハードウェアによって、かつ好適にプログラムされたコンピュータによって実施することができる。いくつかの手段を挙げる、デバイス請求項、又は装置請求項、又はシステム請求項において、これらの手段のいくつかは、ハードウェアの1つ及び同じ品目によって具体化され得る。ある測定が、互いに異なる従属請求項に列挙されることだけでは、これらの測定の組み合わせを有利に用いることができないことを示さない。
【0131】
本発明は、デバイス、装置、又はシステム、又は本明細書に記載の方法若しくは工程を実行し得るものを制御することができる制御システムも提供する。またさらに、本発明は、コンピュータで実行される場合、デバイス、装置、若しくはシステムに機能的に連結されるか、又はそれらによって含まれるコンピュータプログラム製品であって、こうしたデバイス、装置、又はシステムの1又は2以上の制御可能な要素を制御する、コンピュータプログラム製品も提供する。
【0132】
本発明は、記述において記載された、及び/又は添付の図面において示された特性的特徴の1又は2以上を含む、デバイス、装置、又はシステムにさらに適用される。本発明は、記述において記載された、及び/又は添付の図面において示された特性的特徴の1又は2以上を含む、方法又は工程にさらに関連する。
【0133】
本特許で検討される様々な態様は、さらなる利点をもたらすために、組み合わせることができる。さらに、当分野の技術者は、実施形態を組み合わせることができ、また3つ以上の実施形態を組み合わせることもできることを理解するであろう。さらに、特徴のいくつかは、1又は2以上の分割出願の基礎を形成することができる。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29A
図29B
図30
図31
【国際調査報告】