(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】有機発光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
H05B33/22 D
H05B33/14 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021519563
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(85)【翻訳文提出日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 EP2019076882
(87)【国際公開番号】W WO2020074379
(87)【国際公開日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】102018125307.9
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503180100
【氏名又は名称】ノヴァレッド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ローゼノ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】フンメルト,マルクス
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC04
3K107CC12
3K107DD67
3K107DD72
3K107DD78
3K107DD80
3K107DD82
(57)【要約】
本発明は、(i)アノードと、(ii)カソードと、(iii)アノードとカソードとの間に配置された少なくとも1つの発光層と、(iv)第1正孔注入化合物を有し、アノードに隣接するようにアノードと発光層の間に配置されている任意的な第1正孔注入層と、(v)第1正孔輸送マトリクス化合物を含み、a)第1正孔注入層に隣接するように第1正孔注入層と発光層との間に配置された、あるいはb)アノードに隣接するようにアノードと発光層との間に配置されている第1正孔輸送層と、(vi)第1正孔輸送層と発光層との間に配置され、第1正孔輸送層に隣接し、フラーレンまたは部分的、あるいは完全にハロゲン化された金属錯体、またはフラーレンとハロゲン化された金属錯体の混合物である第2正孔注入化合物を含む第2正孔注入層と、を含む有機発光素子に関連する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)アノードと、
(ii)カソードと、
(iii)前記アノードと前記カソードとの間に配置された少なくとも1つの発光層と、
(iv)任意的に、第1正孔注入化合物を含む第1正孔注入層であって、前記第1正孔注入層は、前記アノードと前記発光層との間に配置されており、かつ前記アノードに隣接している第1正孔注入層と、
(v)第1正孔輸送マトリクス化合物を含む第1正孔輸送層であって、前記第1正孔輸送層は、
a)前記第1正孔注入層と前記発光層との間に配置され、かつ前記第1正孔注入層に隣接しているか、あるいは
b)前記アノードと前記発光層との間に配置されており、かつ前記アノードに隣接している、第1正孔輸送層と、
(vi)前記第1正孔輸送層と前記発光層との間に配置された第2正孔注入層であって、前記第2正孔注入層は、前記第1正孔輸送層に隣接しており、かつ前記第2正孔注入層は、第2正孔注入化合物を含む、第2正孔注入層と、を備え、
前記第2正孔注入化合物は、ハロゲン化フラーレン、部分ハロゲン化金属錯体もしくは完全ハロゲン化金属錯体、またはこれらの混合物である、有機発光素子。
【請求項2】
前記第1正孔注入層は、第2正孔輸送マトリクス化合物をさらに含む、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記第2正孔注入層は、第3正孔輸送マトリクス化合物をさらに含む、請求項1または2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記有機発光デバイスは、前記第2正孔注入層と前記発光層との間に配置された第2正孔輸送層をさらに含み、前記第2正孔輸送層は、前記第2正孔注入層に隣接しており、かつ、前記第2正孔輸送層は、第4正孔輸送マトリクス化合物を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記ハロゲン化フラーレンは、フッ化フラーレンであり、および/または前記部分ハロゲン化金属錯体もしくは完全ハロゲン化金属錯体は、部分フッ化金属錯体もしくは完全フッ化金属錯体である、請求項1から4のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記ハロゲン化フラーレンは、式C
xF
yを有しており、式中、xは60~120の偶数であり、yはx/2~4x/5である、請求項1から5のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項7】
xが60である、請求項6に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記ハロゲン化フラーレンは、式C
60F
48を有する、請求項6または7に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記ハロゲン化金属錯体は、以下の式(I)
【化1】
を有しており、上記式において、
【数1】
は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属ならびにAl、Ga、In、Sn、Pb、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、ZnおよびCdから選択される金属のx価のカチオンであり、
x=1である場合Mはアルカリ金属から選択され、x=2である場合Mはアルカリ土類金属ならびに、Pb、Mn、Fe、Co、Ni、ZnおよびCdから選択され、x=2または3である場合Mは希土類金属から選択され、x=3である場合MはAl、Ga、Inから選択され、x=2、3または4である場合MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択され、x=2または4である場合MはSnであり、
B
1およびB
2は、部分的または完全にハロゲン化された、C
3からC
20のアルキル、C
3からC
20のシクロアルキル、またはC
3からC
20のアリールアルキルから独立して選択される、請求項1から8のいずれか1項に記載の有機発光ダイオード。
【請求項10】
前記発光層は、燐光発光体を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、その層構造の電子特性に関して最適化された有機発光素子に関する。
【0002】
〔背景技術〕
自己発光素子である有機発光ダイオード(organic light-emitting diode:OLED)は、広い視野角、優れたコントラスト、迅速な応答性、高輝度、優れた駆動電圧特性、および色再現性を有している。典型的なOLEDは、アノード、正孔輸送層(HTL)、発光層(EML)、電子輸送層(ETL)、およびカソードを含む。アノード、HTL、EML、ETLおよびカソードは、基板上に順次積層されている。この場合、HTL、EML、およびETLは、有機化合物および/または有機金属化合物から形成された薄膜である。
【0003】
アノードとカソードに電圧を加えると、アノード電極から注入された正孔はHTLを介してEMLに移動し、カソード電極から注入された電子はETLを介してEMLに移動する。正孔と電子とは、EML内で再結合してエキシトンを生成する。エキシトンが励起状態から基底状態に落ちると、光が放出される。正孔および電子の、注入および流出の間のバランスをとる必要がある。当該バランスを取ることにより、上記構成を有するOLEDは、優れた効率を有する。
【0004】
有機発光素子(有機発光デバイス)は、pドーパントおよび/または正孔注入材料化合物として利用される正孔注入層および/またはpドープ型正孔輸送層を含んでもよく、(絶対エネルギースケールで、真空エネルギー準位をゼロに等しく設定する)それらの最低空分子軌道(Lowest unoccupied molecular orbital:LUMO)のエネルギー準位は真空レベルより約3eV、またはそれより低い。この点に関して、1つまたは(好ましくは)1つより多くのニトリル官能基を含む有機小分子化合物がよく知られている。これらの材料は、例えば、ヘキサシアノ-ヘキサアザトリフェニレン(CNHAT)
【0005】
【0006】
または、以下の化合物
【0007】
【0008】
【0009】
によって示され、これらは、工業規格の一種となった。
【0010】
米国特許出願公開第2014/001444号明細書に示されるように、エレクトロルミネセントデバイスは、通常アノードに隣接して配置される第1正孔注入層の代わりに、および/または第1正孔注入層に加えて、アノードと発光層との間に配置される第2正孔注入層を備えることが有利であり得る。当該エレクトロルミネセントデバイスにおいて、第2正孔注入層は、アノードに隣接していない。
【0011】
しかしながら、有機発光素子の効率をできるだけ高くしながら、動作電圧をできるだけ低くすることを目的として、当該素子の性能を向上させる必要性が依然として存在している。
【0012】
したがって、本発明の目的は、従来技術の欠点を克服する有機発光素子、特に、改善された動作電圧および/または効率を有する有機発光素子を提供することである。
【0013】
〔本発明の概要〕
上記目的は、(i)アノードと、(ii)カソードと、(iii)前記アノードと前記カソードとの間に配置された少なくとも1つの発光層と、(iv)任意的に、第1正孔注入化合物を含む第1正孔注入層であって、前記第1正孔注入層は、前記アノードと前記発光層との間に配置されており、かつ前記アノードに隣接している第1正孔注入層と、(v)第1正孔輸送マトリクス化合物を含む第1正孔輸送層であって、前記第1正孔輸送層は、a)前記第1正孔注入層と前記発光層との間に配置され、かつ前記第1正孔注入層に隣接しているか、あるいはb)前記アノードと前記発光層との間に配置されており、かつ前記アノードに隣接している、第1正孔輸送層と、(vi)前記第1正孔輸送層と前記発光層との間に配置された第2正孔注入層であって、前記第2正孔注入層は、前記第1正孔輸送層に隣接しており、かつ前記第2正孔注入層は、第2正孔注入化合物を含む、第2正孔注入層と、を備え、前記第2正孔注入化合物は、ハロゲン化フラーレン、部分ハロゲン化金属錯体もしくは完全ハロゲン化金属錯体、またはこれらの混合物である、有機発光素子によって達成される。
【0014】
驚くべきことに、本発明者らは、ハロゲン化フラーレンおよび/または部分的もしくは完全にハロゲン化された金属錯体をその第2正孔注入層(本明細書で定義される)中に含む、本発明に係る有機発光素子は、改善された特性を有することを見出した。特に、本発明に係る有機発光素子は、より低い動作電圧および/またはより高い効率を特徴とし得ることを見出した。さらに、本発明者らの知見によれば、上記化合物は、有機発光素子を製造する際に、より広い設計自由度を提供する。
【0015】
フラーレン自体は、中空球、楕円体、管および他の多くの形状の炭素の同素体である。フラーレンは、構造がグラファイトに類似している。フラーレンは、円筒形でない限り、六角形環の他に五角形(または時には七角形)環も含まなければならない。本発明に関して、ハロゲン化フラーレンとは、フラーレンに奇数個のハロゲン原子を付加したフラーレン誘導体であり、一般式CxXyを有する化合物である。このCxXyの式において、xは60以上の偶数であり、yはxより小さい偶数であり、それぞれのXはF、Cl、Br、およびIから独立して選択される。
【0016】
本発明に関して、「金属錯体」は、有機金属錯体、すなわち少なくとも1つの有機配位子(すなわち供与結合を提供し得る基)を含み、さらに少なくとも1つのヒドロカルビル基を含む錯体であり得る。当該有機金属錯体において、供与結合を提供することができる原子は、金属錯体に含まれる少なくとも1つの金属イオンに供与結合(=配位共有結合または配位結合)を提供する。本発明の金属錯体は、いわゆる配位中心である1個の中心原子またはイオンからなると規定され得る。配位中心は、結合した分子またはイオン(好ましくは有機分子またはイオン)によって取り囲まれている。結合した分子またはイオンは順に、配位子または錯化剤として知られている。本発明に関して、部分的にハロゲン化された金属錯体(部分ハロゲン化金属錯体)は、例えば、その中に含まれる水素原子の少なくとも1つ(だが全てではない)がハロゲン原子によって置換されている、有機配位子を含む金属錯体であってもよい。同様に、完全にハロゲン化された金属錯体(完全ハロゲン化金属錯体)は、例えばヒドロカルビル含有配位子を含む金属錯体であってもよい。当該金属錯体では、配位子において、全ての水素原子がハロゲン原子によって置換されている。
【0017】
本発明の有機発光素子において、前記第1正孔注入層は、第2正孔輸送マトリクス化合物をさらに含むことができる。このようにして、当該素子の動作電圧および/または効率に関するさらなる利点を達成することができる。
【0018】
本発明の有機発光素子において、前記第2正孔注入層は、第3正孔輸送マトリクス化合物をさらに含むことができる。これにより、当該素子の動作電圧および/または効率に関するさらなる利点を達成することができる。
【0019】
前記有機発光素子は、第2正孔注入層と発光層との間に配置された第2正孔輸送層をさらに含んでもよく、第2正孔輸送層は第2正孔注入層に隣接し、第2正孔輸送層は第4正孔輸送マトリクス化合物を含む。これにより、当該素子の動作電圧および/または効率に関するさらなる利点を達成することができる。
【0020】
本発明に関して、ハロゲン化化合物はフッ化化合物であってもよい。つまり、部分的にハロゲン化された化合物(部分ハロゲン化化合物)は、部分フッ化化合物であってもよく、完全にハロゲン化された化合物(完全ハロゲン化化合物)は完全フッ化化合物であってもよい。すなわち、ハロゲン化フラーレンはフッ化フラーレンであってもよく、部分ハロゲン化金属錯体は部分フッ化金属錯体であってもよく、完全ハロゲン化金属錯体は完全フッ化金属錯体であってもよい。これにより、前記素子の動作電圧および/または効率に関するさらなる利点を達成することができる。
【0021】
前記有機発光素子において、ハロゲン化フラーレンは、式CxFyを有し得る。この式において、xは60~120の偶数であり、yはx/2~4x/5の偶数である。これにより、当該素子の動作電圧および/または効率に関するさらなる利点を達成することができる。
【0022】
この点において、xが60であるということは、すなわちハロゲン化フラーレンは、ハロゲン化されたC60フラーレン(炭素数60のフラーレン)であるということであり得る。これにより、装置の動作電圧および/または効率に関するさらなる利点を達成することができる。
【0023】
ハロゲン化フラーレンは、さらに、式C60F48を有していてもよい。これにより、前記素子の動作電圧および/または効率に関するさらなる利点を達成することができる。
【0024】
部分ハロゲン化金属錯体または完全ハロゲン化金属錯体は、以下の式(I)を有していてもよい。
【0025】
【0026】
式中、
Mxは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属ならびにAl、Ga、In、Sn、Pb、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、ZnおよびCdから選択される金属のx価のカチオンであり、x=1である場合Mはアルカリ金属から選択され、x=2である場合Mはアルカリ土類金属ならびに、Pb、Mn、Fe、Co、Ni、ZnおよびCdから選択され、x=2または3である場合Mは希土類金属から選択され、x=3である場合MはAl、Ga、Inから選択され、x=2、3または4である場合MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択され、x=2または4である場合MはSnであり、B1およびB2は、部分的または完全にハロゲン化された、C3からC20のアルキル、C3からC20のシクロアルキル、またはC3からC20のアリールアルキルから独立して選択される。これにより、素子の動作電圧および/または効率に関してさらなる利点を達成できる。
【0027】
この点に関し、MはMg、MnおよびZnから選択され得、xは2であり得る。これにより、前記素子の動作電圧および/または効率に関してさらなる利点を達成することができる。
【0028】
この点に関し、式(I)の化合物、すなわち部分ハロゲン化金属錯体または完全ハロゲン化金属錯体は、化合物(II)および(III)から選択することができる。
【0029】
【0030】
【0031】
これにより、前記素子の動作電圧および/または効率に関してさらなる利点を達成することができる。
【0032】
本発明に適した部分ハロゲン化金属錯体または完全ハロゲン化金属錯体のさらなる例は、最近公開された以下の出願に見出すことができる:WO2018/150048A1、WO2018/150049A1、WO2018/150050A1およびWO2018/150051A1。
【0033】
本発明による有機発光素子における発光層は、燐光発光物質、あるいは緑色燐光発光物質を含むことができる。
【0034】
前記有機発光素子は、電子輸送層、正孔ブロッキング層、および電子注入層からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる層をさらに含むことができる。
【0035】
本発明による有機発光素子のアノードは、透明導電性酸化物(TCO)アノードであってもよい。
【0036】
なお、透明導電性酸化物は、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AlZO)またはこれらの2種以上の混合物であってもよい。
【0037】
本発明による有機発光素子のカソードは、反射カソードおよび/または半透明カソードであってもよい。
【0038】
この点に関して、カソードは金属元素を含んでもよい。本発明の有機発光素子のカソードに含まれ得る金属元素は、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)およびこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択されてもよい。
【0039】
本発明の有機発光素子において、前記電子輸送層および/または前記電子注入層は、n-ドーパントを含んでもよい。
【0040】
本発明による有機発光素子の電子輸送層および/または電子注入層に含まれ得るn-ドーパントは、金属塩、金属錯体、金属元素および還元性有機ラジカルからなる群から選択され得る。例示的な適切な化合物を以下に開示する。
【0041】
〔さらなる層〕
本発明による有機発光素子は、前記有機発光素子の本質的な機能部を形成するために一緒に積み重ねられた種々の異なる層を含む。本発明による有機発光素子のそれぞれの層および領域に関するさらなる詳細は、以下に示される。
【0042】
〔電子輸送領域〕
前記有機発光素子を形成する有機層の積層体の電子輸送領域は、発光層上に配置されてもよい。
【0043】
前記有機層の積層体の電子輸送領域は、少なくとも第1電子輸送層と、任意的に第2電子輸送層とを含む。前記有機層の積層体の電子輸送領域は、電子注入層をさらに含んでもよい。
【0044】
例えば、前記有機層の積層体の電子輸送領域は、第1電子輸送層/電子注入層あるいは代替として、第1電子輸送層/第2電子輸送層/電子注入層のような構造をもちうるが、それに限定されるものではない。例えば、本発明の一実施形態による有機発光ダイオードは、少なくとも1つの電子輸送層を含む。この場合、電気的pドーパントおよび少なくとも1つの第1電子輸送マトリクス化合物を含む電子輸送層は、第1電子輸送層として定義される。別の実施形態では、有機発光ダイオードは、前記有機層の積層体の電子輸送領域に少なくとも2つの電子輸送層を含むことができる。この場合、発光層に接触する電子輸送層を第2電子輸送層と定義する。
【0045】
電子輸送層は、1つまたは2つ以上の異なる電子輸送マトリクス化合物を含むことができる。
【0046】
第1電子輸送層の厚さは、約2nm~約100nm、例えば約3nm~約30nmとすることができる。第1電子輸送層の厚さが当該範囲内にあるとき、第1電子輸送層は駆動電圧の大幅な増加がなくとも、改善された電子輸送補助能力を有することができる。
【0047】
任意的に設けられる第2電子輸送層の厚さは、約10nm~約100nm、例えば約15nm~約50nmとすることができる。当該電子輸送層の厚さが当該範囲内にあるとき、当該電子輸送層は駆動電圧の大幅な増加がなくとも、十分な電子輸送能力を有することができる。
【0048】
〔第1電子輸送マトリクス化合物〕
第1電子輸送マトリクスは、特に限定されない。本発明の素子内にあり、発光層の外側に含まれる、他の物質と同様に、第2電子輸送マトリクスは、光を放出しなくてもよい。
【0049】
一実施形態によれば、第1電子輸送マトリクスは、有機化合物、有機金属化合物、または金属錯体とすることができる。
【0050】
一実施形態によれば、第1電子輸送マトリクスは、少なくとも6個の非局在化電子の共役系を含む、共有結合化合物であってもよい。可能な限り広い意味での共有結合物質の定義下では、共有結合物質とは、すべての化学結合の少なくとも50%が共有結合である物質であると理解され得、配位結合も共有結合とみなされる。本出願において、共有結合物質という前記の用語は、前述の最も広い意味において、全ての通常の電子輸送マトリクスを包含する。当該通常の電子輸送マトリクスは、主に有機化合物から選択されるが、有機化合物以外にも例えば、置換2,4,6-トリボラ-1,3,5トリアジンのような、炭素を含まない構造部分を含む化合物、または、例えば、アルミニウムトリス(8-ヒドロキシキノリノレート)のような金属錯体からも選択される。
【0051】
前記分子共有結合物質は、好ましくは真空熱蒸発(VTE)によって処理可能であるくらい、十分に安定である可能性のある低分子量化合物を含みうる。あるいは、共有結合物質は、好ましくは溶媒に可溶であり、したがって溶液の形態で処理可能な化合物である、高分子共有結合化合物を含みうる。重合体の実質的に共有結合した物質は、無限の不規則なネットワークを形成するように架橋され得ることを理解されたい。しかし、このような架橋された、重合体の実質的に共有結合したマトリクス化合物は、依然として骨格原子および周辺原子の両方を含むと考えられる。共有結合化合物の骨格原子は、少なくとも2つの隣接原子に共有結合している。共有結合化合物の他の原子は、単一の隣接原子と共有結合している周辺原子である。ケイ素、ゲルマニウム、ガリウムヒ素、リン化インジウム、硫化亜鉛、ケイ酸塩ガラスなどのような、部分的に共有結合を有するが、実質的に周辺原子を欠く、無機無限結晶または完全に架橋されたネットワークは、本出願の意味において共有結合マトリクスとは見なされない。前記の完全に架橋された共有結合物質は、前記の物質によって形成された相の表面上にのみ周辺原子を含むからである。カチオンおよびアニオンを含む化合物は、少なくとも該当するカチオンあるいは該当するアニオンのいずれかが、少なくとも10個以上の共有結合した原子を含む場合、依然として共有結合的であると考えられる。
【0052】
共有結合した第1電子輸送マトリクス化合物の好ましい例は、共有結合したC、H、O、N、Sから主に構成される有機化合物であり、当該有機化合物は、共有結合したB、P、As、Seも任意的に含みうる。一実施形態では、第1電子輸送マトリクス化合物が金属原子を欠き、当該第1電子輸送マトリクス化合物の骨格原子の大部分はC、O、S、Nから選択される。
【0053】
別の実施形態では、第1電子輸送マトリクス化合物は、少なくとも6個、より好ましくは少なくとも10個、さらにより好ましくは少なくとも14個の非局在化電子の共役系を含む。
【0054】
非局在化電子の共役系の例は、パイ結合とシグマ結合とが交互に存在する系である。任意的に、原子間にパイ結合を有する1つ以上の2原子構造単位を、少なくとも1つの孤立電子対を有する原子、すなわち典型的にはO、S、Se、Teから選択される2価原子、またはN、P、As、Sb、Biから選択される3価原子によって置換することができる。好ましくは、非局在化電子の共役系がヒュッケル則を遵守する少なくとも1つの芳香族環またはヘテロ芳香族環を含む。また、好ましくは、第1電子輸送マトリクス化合物は、少なくとも2つの芳香族環またはヘテロ芳香族環を含んでいてもよい。これらの2つの芳香族環またはヘテロ芳香族環は、共有結合または縮合のいずれかによって連結されている。
【0055】
特定の実施形態の1つでは、第1電子輸送マトリクス化合物は、共有結合した原子から構成される環を含み、当該環中の少なくとも1つの原子はリンである。
【0056】
より好ましい実施形態において、共有結合した原子から構成されるリン含有環はホスフェピン環である。
【0057】
別の好ましい実施形態では、第1電子輸送化合物は、ホスフィンオキシド基を含む。また、好ましくは、第1電子輸送マトリクス化合物は、少なくとも1つの窒素原子を含む複素環を含む。本発明の素子のための第1電子輸送マトリクス化合物として特に有利な窒素含有複素環式化合物の例は、ピリジン構造部分、ジアジン構造部分、トリアジン構造部分、キノリン構造部分、ベンゾキノリン構造部分、キナゾリン構造部分、アクリジン構造部分、ベンズアクリジン構造部分、ジベンズアクリジン構造部分、ジアゾール構造部分およびベンゾジアゾール構造部分を、単独で、または複数の組み合わせで含むマトリクスである。
【0058】
第1電子輸送マトリクス化合物は、400g/mol以上850g/mol以下、好ましくは450g/mol以上830g/mol以下の分子量(Mw)を有することができる。分子量がこの範囲内で選択される場合、良好な長期安定性が観察される温度で、真空中において、特に再現性のある蒸発および堆積を達成することができる。
【0059】
好ましくは、第1電子輸送マトリクス化合物は本質的に非発光性でありうる。
【0060】
別の実施形態では、第1電子輸送マトリクス化合物は、2.3デバイ(debye)よりも高い双極子モーメントを有していてもよい。当該双極子モーメントは、最低エネルギー配座異性体のためのプログラムパッケージTURBOMOLE V6.5に導入されているような、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて計算され、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて、プログラムパッケージTURBOMOLE V6.5によって見出される。当該双極子モーメントは、金属元素から選択される酸化還元ドーパントと組み合わせた、好ましい実施形態になり得る。
【0061】
本発明のさらなる態様によれば、テトラヒドロフラン中のFc/Fc+に対するサイクリックボルタンメトリーによって同じ条件下で測定される場合、第1電子輸送マトリクス化合物の還元電位は、ある値を有しうる。前記の値は、トリフェニルホスフィンオキシドについて得られた値よりも負でなく、テトラキス(キノキサリン-5-イルオキシ)ジルコニウムについて得られた値よりも負である。
【0062】
これらの条件下で、トリフェニルホスフィンオキシドの酸化還元電位は約-3.06Vであり、テトラキス(キノキサリン-5-イルオキシ)ジルコニウムの還元電位は約-1.78Vである。
【0063】
本発明のさらなる態様によれば、第1電子輸送マトリクス化合物の酸化還元電位は、テトラヒドロフラン中のFc/Fc+に対するサイクリックボルタンメトリーによって同じ条件下で測定される場合、ある値を有し得る。前記の値はトリフェニル酸化物について得られたそれぞれの値よりも負であり、好ましくはビス(4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル)(フェニル)酸化物についてのそれぞれの値よりも負でなく、より好ましくは3-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-5-(4-(tert-ブチル)フェニル)-4-フェニル-4H-1,2,4-トリアゾールについてのそれぞれの値よりも負でなく、さらにより好ましくはピレンのそれぞれの値よりも負でなく、最も好ましくは2,7-ジ-ピレニル-9,9-スピロビフルオレンについてのそれぞれの値よりも負でなく、また好ましくは4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンについてのそれぞれの値よりも負でなく、また好ましくは2,4,7,9-テトラフェニル-1,10-フェナントロリンについてのそれぞれの値よりも負でない。また前記の値は、好ましくは7-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)ジベンゾ[c,h]アクリジンのそれぞれの値よりも負でなく、また好ましくは2,4,6-トリフェニルトリアジンのそれぞれの値よりも負でなく、さらに好ましくは、2,4,6-トリ(ビフェニル-4-イル)-1,3,5-トリアジンのそれぞれの値よりも負でない。
【0064】
本発明のさらなる態様によれば、第1電子輸送マトリクス化合物の酸化還元電位は、テトラヒドロフラン中のFc/Fc+に対するサイクリックボルタンメトリーによって同じ条件下で測定した場合、固有の値を有する。前記の値は、テトラキス(キノキサリン-5-イルオキシ)ジルコニウムについて得られたそれぞれの値よりも負であり、好ましくは4,4’-ビス(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-1,1’-ビフェニルについてのそれぞれの値よりも負であり、最も好ましくは2,4,6-トリ(ビフェニル-4-イル)-1,3,5-トリアジンについてのそれぞれの値よりも負である。
【0065】
酸化還元電位は、定電圧装置Metrohm PGSTAT30およびソフトウェアMetrohm Autolab GPESを用いたサイクリックボルタンメトリーを用いて、室温で、以下の標準的な方法によって測定することができる。特定の化合物に向けて与えられる酸化還元電位は、試験物質のアルゴン脱気乾燥0.1M THF溶液中で、アルゴン環境下で、(i)白金作用電極間の、0.1Mヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム支持電解質と、(ii)塩化銀で覆われて、前記測定された溶液中に、走査速度100mV/sで直接浸される銀のワイヤで構成されるAg/AgCl疑似標準電極(Metrohm Silverロッド電極)と、を用いて測定される。第1操作は作用電極上に設定された電位の最も広い範囲で行われ、次いで、前記の範囲はその後の操作内で適切に調整された。最後の3回の操作は、標準としてフェロセン(0.1M濃度)を添加して行う。標準的なFc+/Fc酸化還元対について観察されたカソード電位およびアノード電位の平均を差し引いた後、研究された化合物のカソードピークおよびアノードピークに対応する電位の平均は、最終的に上記に報告された値を与える。全ての研究された化合物ならびに報告された比較化合物は、明確に定義された可逆的電気化学的挙動を示した。
【0066】
電子輸送層および適切な電子輸送マトリクス化合物の例は、例えば、最近公開された出願WO2018/138373A1に見出すことができる。
【0067】
エレクトロルミネセント素子の種々の実施形態によれば、第1電子輸送層は、第1電子輸送層の総重量に基づいて、約30重量%以上約100重量%以下、好ましくは約40重量%以上95重量%以下のマトリクス化合物を含む。
【0068】
好ましくは、第1電子輸送マトリクス化合物は、本質的に非発光性であってもよい。
【0069】
〔第2電子輸送マトリクス〕
第2電子輸送化合物は、特に限定されない。本発明の素子内にあり、発光層の外側に含まれる他の物質と同様に、第2電子輸送マトリクスは、光を放出しなくてもよい。
【0070】
一実施形態によれば、第2電子輸送マトリクス化合物は、有機化合物、有機金属化合物、または金属錯体であってもよい。
【0071】
第1電子輸送マトリクス化合物の例として挙げた化合物は、第2電子輸送マトリクス化合物としても用いることができる。
【0072】
一実施形態によれば、前記素子はさらに、少なくとも1つの第2電子輸送マトリクス化合物を含む第2電子輸送層を有する。前記の第2電子輸送層は、少なくとも6個の非局在化電子の共役系を含む共有結合化合物から選択され、好ましくは少なくとも1つの芳香環を含む有機化合物から選択され、より好ましくは少なくとも2個の芳香環を含む有機化合物から選択され、さらにより好ましくは少なくとも3個の芳香環を含む有機化合物から選択され、最も好ましくは少なくとも4個の芳香環を含む有機化合物から選択される。第2電子輸送層は第1電子輸送層と発光層との間に配置され、好ましくは、第2正孔輸送層は第2電子輸送マトリクス化合物から形成され、さらに好ましくは、第2電子輸送層は第1電子輸送層および/または発光層に隣接して配置される。
【0073】
一実施形態によれば、第2電子輸送マトリクス化合物は、少なくとも6個の非局在化電子の共役系を含む共有結合化合物であってもよい。
【0074】
一実施形態では、第2電子輸送マトリクス化合物の双極子モーメントは、0.5デバイ以上4.5デバイ以下、好ましくは1.0デバイ以上4.0デバイ未満、より好ましくは1.5デバイ以上3.5デバイ未満から選択される。
【0075】
本発明のさらなる態様によれば、第2電子マトリクス化合物の酸化還元電位はテトラヒドロフラン中のFc/Fc+に対して測定した場合、-2.35Vよりも負ではなく、-2.14Vよりも負の範囲内であり、好ましくは-2.3Vよりも負でなく、~-2.16Vよりも負の範囲内であり、より好ましくは-2.25Vよりも負でなく、~-2.16Vよりも負の範囲内である。
【0076】
〔酸化還元n-ドーパント〕
酸化還元n-ドーパントの項目下では、酸化還元n-ドーパントは、電子輸送マトリクス中に埋め込まれた場合、同じ物理的条件下で、整然とした状態のマトリクスと比較して、自由電子の濃度を増加させる化合物であると理解される。この物理的条件は、フェロセン/フェロセニウム参照酸化還元対に対するサイクリックボルタンメトリーによって測定される。
【0077】
前記酸化還元n-ドーパントは、エレクトロルミネセント素子、例えばOLEDの操作条件下では発光しないことがある。一実施形態では、酸化還元n-ドーパントは、金属元素、電気的に中性の金属錯体(電気的中性金属錯体)および/または電気的に中性の有機ラジカル(電気的中性有機ラジカル)から選択される。
【0078】
n-ドーパントの強度についての最も実用的な基準は、n-ドーパントの酸化還元電位の値である。なお、酸化還元電位の値がどの程度負となり得るかは特に限定されない。
【0079】
有機発光ダイオードに使用される通常の電子輸送マトリクスの酸化還元電位は、フェロセン/フェロセニウム参照酸化還元対に対するサイクリックボルタンメトリーによって測定される場合、大体、約-1.8V~約-3.1Vの範囲であり、前記のようなマトリクスを効果的にn-ドープすることができるn型ドーパントに対する、実際に適用可能な酸化還元電位の範囲は、約-1.7V~約-3.3Vの、わずかにより広い範囲である。
【0080】
酸化還元電位の測定は、実際には同じ化合物の還元型および酸化型から構成される、対応する酸化還元対について行われる。
【0081】
酸化還元n-ドーパントが電気的中性金属錯体および/または電気的中性有機ラジカルである場合、その酸化還元電位の測定は、以下によって形成される酸化還元対のいずれかについて実際に行われる。
【0082】
(i)電気的中性金属錯体と、当該電気的中性金属錯体から1つの電子を引き抜くことによって形成される、電気的中性金属錯体のカチオンラジカルと、によって形成される酸化還元対。
【0083】
(ii)電気的中性有機ラジカルと、当該電気的中性有機ラジカルから1つの電子を引き抜くことによって形成される、電気的中性有機ラジカルのカチオンと、によって形成される酸化還元対。
【0084】
好ましくは、電気的中性金属錯体および/または電気的中性有機ラジカルの酸化還元電位は、下記の(i)または(ii)によって構成される、対応する酸化還元対について、フェロセン/フェロセニウム参照酸化還元対に対するサイクリックボルタンメトリーによって測定される場合、ある値を持ちうる。当該値は、-1.7Vよりも負であり、好ましくは-1.9Vよりも負であり、より好ましくは-2.1Vよりも負であり、さらにより好ましくは-2.3Vよりも負であり、最も好ましくは-2.5Vよりも負である。
【0085】
(i)電気的中性金属錯体と、当該電気的中性金属錯体から1つの電子を引き抜くことによって形成される前記の電気的中性金属錯体のカチオンラジカルと、から構成される酸化還元対。
【0086】
(ii)電気的中性有機ラジカルと、電気的中性有機ラジカルから1つの電子が引き抜かれることによって形成される前記の電気的中性有機ラジカルのカチオンと、から構成される参加還元対。
【0087】
好ましい実施形態では、n-ドーパントの酸化還元電位は、選択された電子輸送マトリクスの還元電位の値よりも約0.5Vを超えて正(ポジティブ)の値と、電子輸送マトリクスの還元電位の値よりも約0.5Vを超えて負(ネガティブ)の値との間である。
【0088】
酸化還元n-ドーパントとして好適な電気的中性金属錯体は、例えば、低酸化状態にあるいくつかの遷移金属の強い還元錯体であってもよい。特に強力な酸化還元n-ドーパントはWO2005/086251により詳細に記載されているように、例えばCr(II)、Mo(II)および/またはW(II)グアニジネート錯体(Guanidinate complex)(例えばW2(hpp)4)から選択することができる。
【0089】
酸化還元n-ドーパントとして適切な、電気的に中性な有機ラジカルは、有機ラジカルであってもよい。当該有機ラジカルは、例えば、EP1837926B1、WO2007/107306、またはWO2007/107356により詳細に記載されているように、当該有機ラジカルの安定なダイマー、オリゴマー、またはポリマーから、追加のエネルギーの供給によって生成される。前記のような適切なラジカルの具体例は、ジアゾリルラジカル、オキサゾリルラジカルおよび/またはチアゾリルラジカルであってもよい。
【0090】
金属元素の項目下で、金属元素は、純金属の状態の金属、金属合金の状態の金属、または遊離原子もしくは金属クラスターの状態の金属であると理解される。例えば純金属バルクのような金属相から真空熱蒸発によって蒸着された金属は、それらの元素形態で気化することが理解される。さらに、気化した金属元素が共有結合マトリクスと一緒に蒸着される場合、金属原子および/またはクラスターは共有結合マトリクスに埋め込まれることが理解される。言い換えれば、真空熱蒸発によって調製される任意の金属ドープ共有結合物質は、金属を少なくとも部分的に、その元素形態で含有することが理解される。
【0091】
家庭用電化製品での使用には、非常に長い半減期を有する核種または安定な核種を含有する金属のみが適用可能であろう。許容可能なレベルの核安定性として、天然カリウムの核安定性を採用することができる。
【0092】
一実施形態において、n-ドーパントは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、ならびに第1遷移期のTi、V、CrおよびMnの金属から選択される正極金属から選択される。前記n-ドーパントは、好ましくはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Sm、Eu、Tm、Ybから選択され、より好ましくはLi、Na、K、Rb、Cs、MgおよびYbから選択され、さらにより好ましくはLi、Na、CsおよびYbから選択され、最も好ましくはLi、Na、CsおよびYbから選択される。
【0093】
酸化還元ドーパントは、本質的に非発光性であってもよい。
【0094】
〔正孔注入層〕
本発明の有機発光素子は、1つ以上の正孔注入層を含んでもよい。正孔注入層が第1正孔輸送層と発光層との間に配置される場合、当該正孔輸送層は、本発明の用語において「第2正孔注入層」であり、本明細書で定義されるように、第2正孔注入化合物を含む。当該第2正孔注入化合物は、すなわちハロゲン化フラーレン、部分的もしくは完全にハロゲン化された金属錯体、またはこれらの混合物である。
【0095】
本発明の有機発光素子は、第2正孔注入層に加えて、1つ以上のさらなる正孔注入層、例えば、アノードに隣接する、本明細書で定義される第1正孔注入層を含んでもよい。(特に第2正孔注入層に関して)特記なき場合、正孔注入層は、以下の特性を有してもよく、また、正孔注入層の形成のためには以下の物質を含んでもよい。
【0096】
正孔注入層は、アノードと、正孔輸送層に使用される有機物質と、の間の界面特性を改善することができる。正孔注入層は、非平坦なアノード上に適用され、これにより、アノードの表面を平坦化する。例えば、正孔注入層は、その最高占有分子軌道(HOMO)のエネルギー準位の中央値を有する物質を含んでいてもよい。当該中央値は、アノード物質の仕事関数と、正孔輸送層のHOMOのエネルギー準位との間にある。その結果、アノードの仕事関数と正孔輸送層のHOMOのエネルギー準位との差を調整することができる。
【0097】
正孔輸送領域が正孔注入層36を含む場合、正孔注入層は例えば、真空蒸着、スピンコーティング、キャスティング、ラングミュア・ブロジェット(LB)法等の種々の方法のいずれかによって、アノード上に形成されてもよい。
【0098】
真空蒸着を用いて正孔注入層を形成する場合、真空蒸着条件は、正孔注入層を形成するために使用される物質、ならびに形成される正孔注入層の所望の形状および熱特性に応じて変更され得る。例えば、真空蒸着は、約100℃~約500℃の温度、約10-6Pa~約10-1Paの圧力、および約0.1~約10nm/秒の蒸着速度で実施され得る。しかし、蒸着条件はこれらの条件に限定されるものではない。
【0099】
スピンコーティングを用いて正孔注入層を形成する場合、コーティング条件は、正孔注入層を形成するために使用される物質、ならびに形成される正孔注入層の所望の形状および熱特性に応じて変更され得る。例えば、コーティング速度は約2000rpm~約5000rpmの範囲であってもよく、コーティング後に溶媒を除去するために行われる熱処理の温度は約80℃~約200℃の範囲であってもよい。ただし、コーティングの条件はこれらに限定されるものではない。
【0100】
本発明に適した正孔輸送マトリクス物質の実施例は、例えば、WO2013/135237A1、WO2014/060526A1もしくはWO2015/158886A1、および前記出願に引用された文書、または最近公開された出願WO2018/150006A1、WO2018/150048A1、WO2018/150049A1、WO2018/150050A1およびWO2018/150051A1に見出すことができる。
【0101】
〔正孔輸送層〕
正孔輸送層及び電子阻止層を形成する条件は、正孔注入層について上述した形成条件に基づいて規定することができる。
【0102】
電荷輸送領域の正孔輸送部の厚さは、約10nm~約1000nm、例えば、約10nm~約100nmとすることができる。電荷輸送領域の正孔輸送部分が正孔注入層および正孔輸送層を含む場合、正孔注入層の厚さは約10nm~約1000nm、例えば、約10nm~約100nmとすることができ、正孔輸送層の厚さは約5nm~約200nm、例えば、約10nm~約150nmとすることができる。電荷輸送領域の正孔輸送部分、HIL、およびHTLの厚さがこれらの範囲内にあると、駆動電圧を大幅に増加させることなしに十分な正孔輸送特性を得ることができる。
【0103】
正孔輸送領域で使用される正孔輸送マトリクス物質は、特に限定されない。少なくとも6個の非局在化電子の共役系を含む共有結合性化合物が好まれ、少なくとも1個の芳香環を含む有機化合物が好ましく、少なくとも2個の芳香環を含む有機化合物がより好ましく、少なくとも3個の芳香環を含む有機化合物がさらに好ましく、少なくとも4個の芳香環を含む有機化合物がもっとも好ましい。正孔輸送層に広く使用されている正孔輸送マトリクス物質の典型例は、多環式芳香族炭化水素、トリアリールアミン化合物および複素環式芳香族化合物である。正孔輸送領域の種々の層で有用な正孔輸送マトリクスのフロンティア軌道エネルギー準位の適切な範囲はよく知られている。HTLマトリクスの、酸化還元対HTLマトリクス/カチオンラジカルの酸化還元電位に関して、好ましい値(参照としてフェロセン/フェロセニウム酸化還元対に対するサイクリックボルタンメトリーによって測定される場合)は、0.0~1.0Vの範囲、より好ましくは0.2~0.7Vの範囲、さらにより好ましくは0.3~0.5Vの範囲であってもよい。
【0104】
本発明に適した正孔輸送マトリクス物質の例は、例えば、WO2013/135237A1、WO2014/060526A1もしくはWO2015/158886A1、および前記出願に引用された文書、または最近公開された出願WO2018/150006A1、WO2018/150048A1、WO2018/150049A1、WO2018/150050A1およびWO2018/150051A1に見出すことができる。
【0105】
有機層の積層体の正孔輸送領域は、上述の物質に加えて、導電性および/またはアノードからの正孔注入を改善する電気的p-ドーパントをさらに含んでもよい。
【0106】
〔電気的p-ドーパント〕
電荷発生物質は、第1正孔輸送層中に均質にまたは不均質に分散させることができる。
【0107】
電気的p-ドーパントは、キノン誘導体、ラジアレン化合物、金属酸化物、およびシアノ基含有化合物のうちの1つであってもよいが、これらに限定されない。p-ドーパントの非限定的な例は、(i)テトラシアノキノンジメタン(TCNQ)、2,3,5,6-テトラフルオロ-テトラシアノ-1,4-ベンゾキノンジメタン(F4-TCNQ)などのキノン誘導体、(ii)PD-2などのラジアレン化合物、(iii)酸化タングステン、酸化モリブデンなどの金属酸化物、および(iv)以下に示す化合物HT-D1などのシアノ含有化合物である。
【0108】
【0109】
〔バッファ層〕
電荷輸送領域の正孔輸送部は、バッファ層をさらに含んでいてもよい。
【0110】
適切に使用することができるバッファ層は、US6140763、US6614176およびUS2016/248022に開示されている。
【0111】
バッファ層は、EMLから放射される光の波長に従って、光の光学共鳴距離を補償することができ、したがって、効率を高めることができる。
〔発光層〕
発光層(EML)は、真空蒸着、スピンコーティング、キャスティング、LB法等を使用することによって、正孔輸送領域上に形成されてもよい。真空蒸着またはスピンコーティングを用いて発光層を形成する場合、蒸着およびコーティングのための条件は、正孔注入層の形成のための条件と同様であってもよい。しかしながら、蒸着およびコーティングのための条件は、発光層を形成するために使用される物質に応じて変化させてもよい。発光層は、エミッタホスト(EMLホスト)およびエミッタドーパント(さらにはエミッタのみ)を含んでもよい。
【0112】
エミッタは、赤、緑、または青色のエミッタであってもよい。
【0113】
一実施形態では、エミッタホスト物質は、極性エミッタホスト化合物である。好ましくは、エミッタホスト物質は、以下のような極性エミッタホスト化合物であってもよい。前記極性エミッタホスト化合物は、約0.2デバイ以上約2.0デバイ以下の範囲の気相双極子モーメントを有しており、当該気相双極子モーメントは、最低エネルギー配座異性体のためのプログラムパッケージTURBOMOLE V6.5に導入されているような、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて計算され、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて、プログラムパッケージTURBOMOLE V6.5によって見出される。
【0114】
一実施形態では、エミッタホストは、少なくとも3つの芳香環を有する極性エミッタホスト化合物である。そして、これらの芳香環は、独立に、炭素環及び複素環から選択される。
【0115】
1つの好ましい実施形態において、エミッタホスト物質は、少なくとも3つの芳香環を有する極性エミッタホスト化合物であり得る。そして、その3つの芳香環は、約0.2デバイ以上約2.0デバイ以下の範囲の気相双極子モーメントを有する。当該気相双極子モーメントは、最低エネルギー配座異性体のためのプログラムパッケージTURBOMOLE V6.5に導入されているような、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて計算され、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて、プログラムパッケージTURBOMOLE V6.5によって見出される。
【0116】
一実施形態では、エミッタホスト物質は、以下の化学式1で表される極性エミッタホスト化合物である。
【0117】
【0118】
上記の化学式において、
A1は、置換または非置換のC6-C60アリールまたはC6-C60ヘテロアリールを含む群から選択され、
A2は、置換または非置換のC1~C10アルキル基、置換または非置換のC6~C60アリールまたはC6~C60ヘテロアリールを含む群から選択され、
A3は、置換または非置換のC1~C10アルキル基、置換または非置換のC6~C60アリールまたはC6~C60ヘテロアリールを含む群から選択され、
A4は、置換または非置換C6~C60アリールまたはC6~C60ヘテロアリールを含む群から選択され、好ましくはC6~C60ヘテロアリールである。
【0119】
〔エミッタホスト〕
極性エミッタホスト化合物は少なくとも3つの芳香環を有し、これらの芳香環は、炭素環および複素環から独立に選択される。
【0120】
極性エミッタホスト化合物は、気相双極子モーメントを有しうる。当該気相双極子モーメントは、最低エネルギー配座異性体のためのプログラムパッケージTURBOMOLE V6.5に導入されているような、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて計算され、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて、約0.2~約2.0デバイの範囲でプログラムパッケージTURBOMOLE V6.5によって見出される。
【0121】
エレクトロルミネセント素子の一実施形態によれば、極性エミッタホスト化合物は、炭素環および複素環から独立に選択される少なくとも3つの芳香環を有し、気相双極子モーメントを有しうる。当該気相双極子モーメントは、最低エネルギー配座異性体のためのプログラムパッケージTURBOMOLE V6.5に導入されているような、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて計算され、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて、約0.2~約2.0デバイの範囲でプログラムパッケージTURBOMOLE V6.5によって見出される。
【0122】
別の実施形態において、エミッタホスト化合物は、気相双極子モーメントを有しうる。当該気相双極子モーメントは、最低エネルギー配座異性体のためのプログラムパッケージTURBOMOLE V6.5に導入されているような、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて計算され、Gaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて、約0.3デバイ~約1.8デバイ、好ましくは約0.5デバイ~約1.6デバイ、さらにより好ましくは約0.6デバイ~約1.4デバイの範囲である。最も好ましくは0.7デバイ~1.3デバイの範囲でプログラムパッケージTURBOMOLE V6.5によって見出される。
【0123】
N原子を含む分子の双極子モーメント
【0124】
【0125】
は、以下の式によって与えられる。
【0126】
【0127】
【0128】
ここで、qiおよび
【0129】
【0130】
は、分子中の原子iの部分電荷および位置である。
【0131】
当該部分電荷および原子位置は、気相中の分子の基底状態の最低エネルギー立体配座について、プログラムパッケージTURBOMOLE V6.5に導入されているようなGaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド汎関数B3LYPを用いて、標準化された方法で計算した。2つ以上の立体配座が存在可能である場合、可能性のある立体配座のエネルギーを、プログラムパッケージTURBOMOLE V6.5において導入されているようなGaussian6-31G*基底セットを有するハイブリッド関数B3LYPを使用してまず計算し、その後最も低い全エネルギーを有する立体配座を選択して、双極子モーメントを計算する。
【0132】
第2電子輸送マトリクス化合物として適している可能性のある化合物の、双極子モーメントおよび酸化還元電位は、最近公開された出願WO2018/138373A1に見出すことができる。本発明のさらなる態様によれば、エミッタホストは、サイクリックボルタンメトリーによってテトラヒドロフラン中のFc/Fc+に対する同じ条件下で測定した場合、以下の値を有する:7-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)ジベンゾ[c,h])アクリジンについて得られたそれぞれの値よりも負の値、好ましくは9,9’,10,10’-テトラフェニル-2,2’-ビアントラセンについてのそれぞれの値よりも負の値、より好ましくは2,9-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)についてのそれぞれの値よりも負の値、さらにより好ましくは2,4,7,9-テトラフェニル-1,10-フェナントロリンについてのそれぞれの値よりも負の値、さらに好ましくは9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)-2-フェニルアントラセンについてのそれぞれの値よりも負の値、さらに好ましくは2,9-ビス(2-メトキシフェニル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンのそれぞれの値よりも負の値、最も好ましくは9,9’-スピロビ[フルオレン]-2,7-ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド)のそれぞれの値よりも負の値。
【0133】
エミッタは、少量混合することにより発光する。エミッタは例えば、無機化合物、有機化合物、または有機金属化合物であってもよく、これらの1種類以上を用いてもよい。
【0134】
エミッタは蛍光エミッタであってもよく、例えば、ter-フルオレン、4,4’-ビス(4-ジフェニルアミノスチリル)ビフェニル(DPAVBi)、2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン(TBPe)、および以下の化合物4は、蛍光青色エミッタの例である。
【0135】
【0136】
発光層の厚さは、約10nm~約100nm、例えば、約20nm~約60nmであってもよい。発光層の厚さがこれらの範囲内にある場合、発光層は駆動電圧を大幅に増加させることなしに、発光特性を改善することができる。
【0137】
〔電子注入層〕
本発明の別の態様によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子は、第1電子輸送層とカソードとの間に電子注入層をさらに含んでもよい。
【0138】
電子注入層(EIL)は、カソードからの電子の注入を促すことができる。
【0139】
本発明の別の態様によれば、電子注入層は以下を含む:
(i)アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属から実質的に元素の形態で選択される陽性金属であって、好ましくはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、EuおよびYbから選択され、より好ましくはLi、Na、Mg、Ca、SrおよびYbから選択され、さらにより好ましくはLiおよびYbから選択され、最も好ましくはYbである金属、ならびに/あるいは
(ii)アルカリ金属錯体および/またはアルカリ金属塩であって、好ましくはLiの錯体および/または塩、より好ましくはLiキノリノレート、さらにより好ましくはリチウム8-ヒドロキシキノリノレート、最も好ましくは第2電子輸送層のアルカリ金属塩および/またはアルカリ金属錯体は、注入層のアルカリ金属塩および/またはアルカリ金属錯体と同一である。
【0140】
電子注入層は、LiF、NaCl、CsF、Li2O、及びBaOから選択された少なくとも1つを含むことができる。
【0141】
EILの厚さは、約0.1nm~約10nm、または約0.3nm~約9nmとすることができる。電子注入層の厚さがこれらの範囲内にあるとき、電子注入層は駆動電圧を大幅に増加させることなしに電子注入能力を十分なものにすることができる。
【0142】
〔カソード〕
カソードの材料としては、仕事関数の小さい金属、仕事関数の小さい合金、仕事関数の小さい導電性化合物、またはこれらの組み合わせを用いることができる。カソードの材料の具体例は、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、アルミニウム-リチウム(Al-Li)、カルシウム(Ca)、マグネシウム-インジウム(Mg-In)、マグネシウム-銀(Mg-Ag)等が挙げられる。基板上に堆積された反射アノードを有するトップエミッション発光素子を製造するために、カソードは例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)またはインジウム亜鉛酸化物(IZO)から、透過電極として形成されてもよい。
【0143】
透明金属酸化物カソードまたは反射金属カソードを含む素子において、カソードは、約50nmから約100nmの厚さを有してもよいが、一方で、半透明金属カソードの許容範囲は約5nmから約15nmの薄さである。
【0144】
〔アノード〕
アノードのための物質は、金属もしくは金属酸化物、または有機材料であってもよく、好ましくは約4.8eVを超える、より好ましくは約5.1eVを超える、最も好ましくは約5.3eVを超える仕事関数を有する物質である。好ましい金属はPt、AuまたはAgのような貴金属であり、好ましい金属酸化物はITOまたはIZOのような透明な金属酸化物であり、当該金属酸化物は、反射カソードを有するボトムエミッション型OLEDにおいて有利に使用され得る。
【0145】
透明金属酸化物アノードまたは反射性金属アノードを含む素子では、アノードは約50nmから約100nmの厚さを有してもよいが、一方で、半透明金属アノードの許容範囲は約5nmから約15nmの薄さである。
【0146】
〔有機発光ダイオード(OLED)〕
本発明の一態様によれば、(i)基板と、(ii)当該基板上に形成されたアノード電極と、を備え、(iii)第1正孔注入層、正孔輸送層、第2正孔注入層、発光層、およびカソード電極を備えていてもよい、有機発光ダイオードが提供される。
【0147】
本発明の別の態様によれば、(i)基板と、(ii)当該基板上に形成されたアノード電極と、を備え、(iii)第1正孔注入層、正孔輸送層、第2正孔注入層、電子阻止層、発光層、正孔阻止層およびカソード電極を備えていてもよい、OLEDが提供される。
【0148】
本発明の別の態様によれば、(i)基板と、(ii)当該基板上に形成されたアノード電極と、を備え、(iii)第1正孔注入層、正孔輸送層、第2正孔注入層、電子阻止層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、およびカソード電極を備えていてもよい、OLEDが提供される。
【0149】
本発明の別の態様によれば、(i)基板と、(ii)当該基板上に形成されたアノード電極と、を備え、(iii)第1正孔注入層、正孔輸送層、第2正孔注入層、電子阻止層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層、およびカソード電極を備えていてもよい、OLEDが提供される。
【0150】
本発明の種々の実施形態によれば、上述の層の間、基板上、または上部電極上に配置された層を含むOLEDを提供することができる。
【0151】
一態様によれば、OLEDはアノード電極に隣接して配置される、基板の層状構造を備えることができる。アノード電極は(任意の)第1正孔注入層に隣接して配置され、当該第1正孔注入層は第1正孔輸送層に隣接して配置され、当該第1正孔輸送層は第2正孔注入層に隣接して配置され、当該第2正孔注入層は第1電子阻止層に隣接して配置され、当該第1電子阻止層は第1発光層に隣接して配置され、当該第1発光層は第1電子輸送層に隣接して配置され、当該第1電子輸送層はn型電荷発生層に隣接して配置され、当該n型電荷発生層は正孔発生層に隣接して配置され、当該正孔発送層は第2正孔輸送層に隣接して配置され、当該第2正孔輸送層は第2電子阻止層に隣接して配置され、当該第2電子阻止層は第2発光層に隣接するように配置され、当該第2発光層とカソード電極との間に任意的に電子輸送層および/または任意的に第3注入層が配置される。
【0152】
例えば、
図2に記載のOLED(100)は、アノード(110)、第1正孔注入層(120)、正孔輸送層(130)、第2正孔注入層(140)、電子阻止層(145)、発光層(150)、正孔阻止層(155)、電子輸送層(160)、電子注入層(180)およびカソード電極(190)を、基板(図示せず)上にその順序で形成されてもよい。
【0153】
〔発明の詳細および定義〕
本発明の有機発光素子において、前記第2正孔注入層は、第2正孔注入化合物を含む。なお、第2正孔注入層は、第2正孔注入化合物から構成されるものであってもよい。同様に、第2正孔注入化合物がマトリクス物質中に埋め込まれていてもよい。つまり、マトリクス物質がそのような層中の主要な物質であってもよい。
【0154】
本明細書中で使用される用語「ヒドロカルビル基」は、炭素原子を含む任意の有機基、特にアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアルキルのような有機基、特に有機電子において一般的な置換基であるような基を包含すると理解されるべきである。
【0155】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、線形ならびに分枝鎖および環状アルキルを包含するものとする。例えば、C3-アルキルは、n-プロピルおよびイソプロピルから選択され得る。同様に、C4-アルキルは、n-ブチル、sec-ブチルおよびt-ブチルを包含する。同様に、C6-アルキルは、n-ヘキシルおよびシクロヘキシルを包含する。
【0156】
Cn中の下付き数nは、アルキル基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基またはアリール基それぞれにおける炭素原子の総数を意味する。
【0157】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、フェニル(C6-アリール)、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン等のような縮合芳香族を包含するものとする。さらに包含されるのは、ビフェニルおよびオリゴフェニルまたはポリフェニル(例えば、テルフェニルなど)である。フルオレニルなどの任意のさらなる芳香族炭化水素置換基がさらに包含されるものとする。アリーレン、ヘテロアリーレンのそれぞれは、さらに2つのさらなる部分が結合している基を指す。
【0158】
本明細書で使用される「ヘテロアリール」という用語は、少なくとも1個の炭素原子が好ましくはN、O、S、BまたはSiから選択されるヘテロ原子によって置換されているアリール基を指す。
【0159】
「ハロゲン化」という用語は、1個の水素原子がハロゲン原子に置換された有機化合物を指す。「過ハロゲン化」という用語は、全ての水素原子がハロゲン原子に置換された有機化合物を指す。「フッ化」及び「過フッ化」という用語の意味も、同様に理解されるべきである。
【0160】
Cn-ヘテロアリールにおける下付き数nは単に、ヘテロ原子の数を除く炭素原子の数を指す。これに関連して、C3ヘテロアリーレン基は、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾールなどの3個の炭素原子を含む芳香族化合物であることは明らかである。
【0161】
本発明に関して、1つの層が他の2つの層の間にあることに関する「~の間」という表現は前記1つの層と、前記他の2つの層の一方との間に配置され得るさらなる層の存在を排除するものではない。本発明に関して、相互に直接接触している2つの層に関する「直接接触している」という表現は、前記の2つの層の間に別の層が配置されないことを意味している。別のある層の上に配置された1つの層は、前記の層と直接接触するとみなされる。
【0162】
本明細書の文脈において、「本質的に非発光性」または「非発光性」という用語は、素子からの可視発光スペクトルに対する化合物または層の寄与が可視発光スペクトルに対して10%未満、好ましくは5%未満であることを意味する。可視発光スペクトルは、約380nm~780nmの波長を有する発光スペクトルである。
【0163】
第2正孔注入化合物を含む層は、本質的に非発光性または非発光性であることが好ましい。
【0164】
本発明の有機発光素子に関しては、実施例部で述べられる化合物が最も好ましい可能性がある。
【0165】
別の態様によれば、本発明による有機エレクトロルミネセンス素子は、2つ以上の発光層、好ましくは2つまたは3つの発光層を含むことができる。2つ以上の発光層を含むOLEDは、タンデムOLEDまたは積層OLEDとしても記載される。
【0166】
有機エレクトロルミネセンス素子は、ボトムエミッション素子またはトップエミッション素子であってもよい。
【0167】
別の態様は、少なくとも1つの有機エレクトロルミネセンス素子(OLED)を含む素子を対象とする。有機発光ダイオードを含む素子は例えば、ディスプレイまたは照明パネルである。
【0168】
本発明において、以下の定義された用語、これらの定義は、特許請求の範囲または本明細書の他の場所において異なる定義が付与されない限り、適用されるものとする。
【0169】
本明細書の文脈において、マトリクス物質に関して「異なる」(形容詞)または「異なる」(動詞)という用語は、これらのマトリクス物質の構造式が異なっていることを意味する。
【0170】
HOMOとも呼ばれる最高占有分子軌道のエネルギー準位およびLUMOとも呼ばれる最低空分子軌道のエネルギー準位は、電子ボルト(eV)で測定される。
【0171】
用語「OLED」および「有機発光ダイオード」は同時に使用され、同じ意味を有する。本明細書で使用される用語「有機エレクトロルミネセンス素子」は有機発光ダイオードならびに有機発光トランジスタ(OLET)の両方を含みうる。
【0172】
本明細書で使用される場合、「重量パーセント」、「wt.-%」、「wt%」、「重量百分率」、およびそれらの変形は、組成、成分、物質または薬剤について、各電子輸送層におけるその成分、物質または薬剤の重量を、各電子輸送層の総重量で割り、100を掛けたものとして示す。各電子輸送層および電子注入層のすべての成分、物質および薬剤の総重量パーセント量は、100重量-%を超えないように選択されることが理解される。
【0173】
本明細書中で使用される場合、「体積パーセント」、「vol.-%」、「体積百分率」、「体積あたりの%」およびそれらの変形は、組成、成分、物質または薬剤について、各電子輸送層におけるその成分、物質または薬剤の体積を、各電子輸送層の総体積で割り、100を掛けたものとして示す。カソード層のすべての成分、物質および薬剤の総体積パーセント量は、100体積-%を超えないように選択されることが理解される。
【0174】
本明細書では明示的に示されているか否かにかかわらず、すべての数値は、用語「約」によって修飾されるものとする。本明細書で使用される場合、用語「約」は生じ得る数量の変動を指す。用語「約」によって修飾されるか否かにかかわらず、特許請求の範囲はその数量と同等のものを含む。
【0175】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、(aやanやtheのような)単数形は別段の明確な指示がない限り、複数形の表現を含むことに留意されたい。
【0176】
「~なしの」、「~を含まない」、「~を有さない」という用語は、不純物を除外するものではない。不純物は、本発明によって達成される目的に関して技術的効果を有さない。
【0177】
〔図面の簡単な説明〕
本発明のこれらおよび/または他の態様および利点は添付の図面と併せて、例示的な実施形態の以下の説明から明らかになり、より容易に理解されるであろう。
【0178】
図1は、本発明の例示的な実施形態による有機発光ダイオード(OLED)の概略断面図である。
【0179】
図2は、本発明の例示的な実施形態によるOLEDの概略断面図である。
【0180】
図3は、本発明の例示的な実施形態による、電荷発生層を含むタンデムOLEDの概略断面図である。
【0181】
(本発明の素子の実施形態)
ここで、本発明の例示的な実施形態を詳細に参照し、その例を添付の図面に示し、同じ参照番号は、全体を通して同じ要素を指す。以下、例示的な実施形態について説明する。その結果、図面を参照して本発明の態様を説明することができる。
【0182】
本明細書中で、第1要素が第2要素「の上に」形成される、または配置されると言及される場合、第1要素は第2要素上に直接配置されてもよく、または1つ以上の他の要素がそれらの間に配置されてもよい。第1要素が第2要素の「直接上に(~の上に直接的に)」形成される、あるいは配置されると言及される場合、それらの間に他の要素は配置されない。
【0183】
図1は、本発明の例示的な実施形態による有機発光ダイオード(OLED)100の概略断面図である。OLED100は、アノード110と、第一正孔注入層(HIL)120と、第一正孔輸送層(HTL)130と、第2正孔注入層140と、発光層(EML)150と、電子輸送層(ETL)160とを含む。電子輸送層(ETL)160は、EML150の上に直接的に形成される。電子輸送層(ETL)160上には、電子注入層(EIL)180が配置されている。カソード190は、電子注入層(EIL)180の上に直接的に配置される。
【0184】
単一の電子輸送層160の代わりに、任意的に電子輸送積層(ETL)を使用することができる。
【0185】
図2は、本発明の別の例示的な実施形態によるOLED100の概略断面図である。
図2は、
図2のOLED100が第2正孔輸送層145および正孔阻止層(HBL)155を含む点で、
図1と異なる。
【0186】
図2を参照すると、OLED100は、アノード110と、第一正孔注入層(HIL)120と、第一正孔輸送層(HTL)130と、第2正孔注入層140と、第2正孔輸送層145と、発光層(EML)150と、正孔阻止層(HBL)155と、第1電子輸送層(ETL)160と、電子注入層(EIL)180と、カソード電極190とを含む。
【0187】
図3は、本発明の別の例示的な実施形態によるタンデムOLED200の概略断面図である。
図3は、
図3のOLED100が電荷発生層および第2発光層をさらに含む点で、
図2と異なる。
【0188】
図3を参照すると、OLED200は、アノード110、第1正孔注入層(HIL)120、第1正孔輸送層(HTL)130、第2正孔注入層140、第2正孔輸送層145、第1発光層(EML)150、第1正孔阻止層(HBL)155、第1電子輸送層(ETL)160、n型電荷発生層(n型CGL)185、正孔発生層(p型電荷生成層;p型GCL)135、第3正孔輸送層(HTL)141、第4正孔輸送層(EML)146、第2発光層(EML)151、第2正孔阻止層(EBL)156、第2電子輸送層(ETL)161、第2電子注入層(EIL)181およびカソード190を含む。
【0189】
図1、
図2及び
図3には示されていないが、カソード電極190上にシール層をさらに形成することができる。その結果、OLED100および200を封止することができる。同様に、こちらも
図1、
図2および
図3には示されていないが、アノードから始まる層はアノードに隣接する基板上に形成されてもよい。さらに、他にも種々の修正を加えることが可能である。
【0190】
以下、本発明の1つ以上の実施形態を、以下の実施例を参照して詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は、本発明の1つ以上の例示的な実施形態の目的および範囲を限定することを意図するものではない。
【0191】
〔実施例〕
(素子の実施例のためのサポート物質)
F1は、以下の物質である:
【0192】
【0193】
N-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-9,9-ジメチル-N-(4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル)-9H-フルオレン-2-アミン、CAS1242056-42-3。
【0194】
F2は、以下の物質である:
【0195】
【0196】
9-([1,1’-ビフェニル]-3-イル)-9’-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-9H,9’H-3,3’-ビカルバゾール、CAS1643479-47-3。
【0197】
F3は、以下の物質である:
【0198】
【0199】
8-(4-(4,6-ジ(ナフタレン-2-イル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル)キノリン、CAS1312928-44-1。
【0200】
F4は、以下の物質である:
【0201】
【0202】
(2-(4-フェニルピリジン-2-イル)フェニル)ビス(2-(ピリジン-2-イル)フェニル)イリジウム、CAS1215281-24-5。
【0203】
F5は、以下の物質である:
【0204】
【0205】
2,4-ジフェニル-6-(3’-(トリフェニレン-2-イル)-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-1,3,5-トリアジン、CAS1638271-85-8。
【0206】
F6は、以下の物質である:
【0207】
【0208】
3-フェニル-3H-ベンゾ[b]ジナフト[2,1-d:1’,2’-f]ホスフェピン-3-酸化物、CAS597578-38-6。
【0209】
GHM020Sはエミッタホストであり、EL-GD0108Sは緑色燐光エミッタドーパントであり、両方とも韓国のSDIから市販されている。
【0210】
ITOはインジウムスズ酸化物である。
【0211】
(標準的な手順)
(電圧安定度)
OLEDは定電流回路によって駆動される。前記の回路は、所定の電圧範囲にわたって一定の電流を供給することができる。電圧範囲が広いほど、素子の電力損失は大きくなる。したがって、駆動の際の駆動電圧の変化を最小限に抑える必要がある。
【0212】
OLEDの駆動電圧は温度に依存する。したがって、電圧安定性は熱平衡状態で判断する必要がある。駆動1時間後に熱平衡に達する。
【0213】
電圧安定性は、定電流密度で50時間駆動後と1時間駆動後の駆動電圧の差を用いて測定する。その際、30mA/cm2の電流密度が使用される。測定は室温で行う。
dU[V]=U(50h,30mA/cm2)-U(1h,30mA/cm2)
(実施例)
(1)フッ化金属錯体またはフッ化フラーレン化合物でpドープされた第2正孔注入層を含む緑色燐光OLED
表1aは、モデル素子を概略的に示す。
【0214】
【0215】
結果を表1bに示す。
【0216】
【0217】
最新技術のニトリル化合物PD1およびPD2と比べて、代替的なドーパントE1、E2およびC60F48はより低い動作電圧で同等の効率を可能にし、または同等の電圧でより高い効率を可能にする。
【0218】
(2)フッ化金属錯体またはフッ化フラーレン化合物でpドープされた第2正孔注入層を含む黄色燐光OLED
表2aは、モデル素子を概略的に示す。
【0219】
【0220】
結果を表2bに示す。
【0221】
【0222】
最新技術のニトリル化合物PD1に比べて、代替的なドーパントC60F48は、より低い動作電圧でより高い効率性を可能にする。
【0223】
前述の説明、特許請求の範囲、および添付の図面に開示された特徴は別々に、または任意の組合せで、本発明を多様な形態で実現するための材料とすることができる。
【0224】
本願全体で使用されている重要な記号と略語:
CV サイクリックボルタンメトリー
DSC 示差走査熱量測定
EBL 電子阻止層
EIL 電子注入層
EML 発光層
eq. 当量
ETL 電子輸送層
ETM 電子輸送マトリクス
Fc フェロセン
Fc+ フェリセニウム
HBL 正孔阻止層
HIL 正孔注入層
HOMO 最高占有分子軌道
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
HTL 正孔輸送層
p-HTL pドープ正孔輸送層
HTM 正孔輸送マトリクス
ITO インジウムスズ酸化物
LUMO 最低空分子軌道
モル% モルパーセント
NMR 核磁気共鳴
有機EL 有機発光ダイオード
OPV 有機太陽光発電
PTFE ポリテトラフルオロエチレン
QE 量子効率
Rf TLCの遅延因子
RGB 赤緑青
TCO 透明導電酸化物
TFT 薄膜トランジスタ
Tg ガラス転移温度
TLC 薄層クロマトグラフィー
VTE 真空熱蒸発
wt% 重量パーセント
【図面の簡単な説明】
【0225】
【
図1】本発明の例示的な実施形態による有機発光ダイオード(OLED)の概略断面図である。
【
図2】本発明の例示的な実施形態によるOLEDの概略断面図である。
【
図3】本発明の例示的な実施形態による、電荷発生層を含むタンデムOLEDの概略断面図である。
【国際調査報告】