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特表2022-504523改善された曲げ疲労性能を有するHMPE繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】改善された曲げ疲労性能を有するHMPE繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/04 20060101AFI20220105BHJP
   D02G 3/02 20060101ALI20220105BHJP
   D07B 1/02 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
D01F6/04 A
D02G3/02
D07B1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021519575
(86)(22)【出願日】2019-11-04
(85)【翻訳文提出日】2021-04-08
(86)【国際出願番号】 US2019059681
(87)【国際公開番号】W WO2020096968
(87)【国際公開日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】62/756,061
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/667,290
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】エルメス、ジョン
【テーマコード(参考)】
3B153
4L035
4L036
【Fターム(参考)】
3B153AA03
3B153AA26
3B153BB01
3B153CC13
3B153FF08
3B153FF17
3B153GG05
4L035AA04
4L035BB05
4L035EE09
4L035HH02
4L035HH03
4L035MA01
4L036MA04
4L036PA01
4L036PA03
4L036PA21
4L036PA42
4L036UA08
(57)【要約】

改善された耐久性及び曲げ疲労性能を有する連続フィラメントベースの細長体が提供される。細長体は、少なくとも1つの構成要素繊維が、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有するマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維であり、当該少なくとも1本のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、少なくとも32g/デニールの靭性、800超のデニール、及び2.0超のフィラメント当たりのデニールを有する、複数の繊維から形成される。高靭性が、高繊維デニール及び高フィラメントデニール(dpf)と組み合わされると、細長体がロープなどの多繊維構造に組み込まれたときに綱車上での繰り返し曲げ(CBOS)が強化される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維を含む細長体であって、前記繊維のうちの少なくとも1本が、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有するマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維を含み、前記少なくとも1本のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、少なくとも32g/デニールの靭性、800超のデニール、及び2.0超のフィラメント当たりのデニールを有する、細長体。
【請求項2】
前記細長体を形成する前記繊維の全てが、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのIV、少なくとも32g/デニールの靭性、900以上のデニール、及び2.0超のフィラメント当たりのデニールを有するマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維を含む、請求項1に記載の細長体。
【請求項3】
前記細長体を形成する前記繊維の全てが、ポリエチレン繊維である、請求項1に記載の細長体。
【請求項4】
前記複数の繊維が、一緒に撚糸される、一緒に編組される、又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の細長体。
【請求項5】
IVのフィラメント当たりのデニールに対する比が、4.0:1から8.0:1までである、請求項1に記載の細長体。
【請求項6】
複数の超高分子量ポリオレフィンフィラメントから形成された超高分子量ポリオレフィン繊維を含む少なくとも1本のマルチフィラメント繊維を含む細長体であって、前記超高分子量ポリオレフィン繊維が、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有し、前記マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、800超のデニールを有し、前記マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維のフィラメントがそれぞれ、少なくとも2.0のデニールを有し、前記フィラメントのフィラメント当たりのデニールに前記フィラメントのIVを乗じた積が75.0~110.0である、細長体。
【請求項7】
前記フィラメント当たりのデニールにIVを乗じた積が、85.0~110.0である、請求項6に記載の細長体。
【請求項8】
前記IVのフィラメント当たりのデニールに対する比が、4.0:1から8.0:1までである、請求項6に記載の細長体。
【請求項9】
前記IVのフィラメント当たりのデニールに対する比が、4.0:1から8.0:1までであり、前記フィラメント当たりのデニールにIVを乗じた積が、少なくとも75.0であり、前記細長体を形成する前記繊維の全てが、少なくとも900のデニールを有し、前記細長体が、少なくとも2300のデニールを有し、前記複数のマルチフィラメント繊維が、撚糸構造、編組構造、又はこれらの組み合わせで組み合わされる、請求項6に記載の細長体。
【請求項10】
細長体を作製する方法であって、
a)複数の繊維を提供する工程であって、前記繊維のうちの少なくとも1本が、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有するマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維を含み、前記少なくとも1本のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、32g/デニール未満の靭性、800超のデニール、及び2.0超のフィラメント当たりのデニールを有する、提供する工程と、
b)各マルチフィラメント繊維を伸長させて、前記繊維の靭性を少なくとも32g/デニールまで増加させる工程であって、前記フィラメント当たりのデニールは2.0超のままである、増加させる工程と、
c)任意選択で、各繊維の少なくとも一部を熱可塑性樹脂又は油のいずれかでコーティングする工程と、
d)前記繊維を撚糸、交絡、又は編組して、細長体構造を形成する工程と、
e)任意選択で、前記細長体構造を加熱及び伸長させて、前記細長体の前記繊維を熱硬化する工程と、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この技術は、ロープの改善に関し、具体的には、改善された耐久性及び曲げ疲労性能を有する高靭性合成ロープに関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維ロープは、様々な海洋用途を含む種々の用途で使用されてきた。優れた特性を有するロープの1種は、高モジュラスポリオレフィン繊維及び/又は糸から作製されるロープである。Honeywell International Inc.製のSPECTRA(登録商標)伸びきり鎖ポリエチレン繊維などの高靭性ポリオレフィン繊維は、高強度(重量で鋼よりも15倍強い)、軽量(浮くのに十分な軽さである(0.97g/cc比重))、疎水性、耐腐食性、優れた真菌生育耐性、優れた耐摩耗性、優れた屈曲及び曲げ疲労性能、低摩擦係数、及び非常に良好な紫外線照射耐性から、海洋用途において特に有用であることが知られており、これらによって、長期使用の海洋用途において非常に耐久性のあるものとなる。
【0003】
特に高強度に関して、超高分子量ポリエチレン(UHMW PE)から形成された繊維は、靭性、引張係数、及び破断エネルギーなどの優れた引張特性を有することが知られている。用語「靭性」は、ASTM D2256によって測定される、応力を受けていない試料の単位線密度(デニール)当たりの力(グラム)として表される引張応力を指す。用語「初期引張係数」は、デニール当たりのグラム-力(g/d)で表される靭性の変化の、元の繊維/テープの長さの割合(in/in)として表される歪みの変化に対する比を指し、本明細書で使用するとき、用語「初期引張係数」、「引張係数」、及び「モジュラス」は、繊維についてのASTM 2256によって測定される弾性係数を意味する。
【0004】
このような高靭性繊維は、典型的には、「溶液紡糸」とも呼ばれる「ゲル紡糸」プロセスによって作製される。この種のプロセスでは、超高分子量ポリエチレン(UHMW PE)及び溶媒の溶液を形成し、続いて、当該溶液を多吐糸口紡糸口金(例えば、10~3000個の紡糸穴を有する)を通して押し出して、溶液フィラメントを形成し(紡糸穴1個当たり1本のフィラメントが形成される)、当該溶液フィラメントを冷却してゲルフィラメントにし、当該溶媒を抽出して乾燥フィラメントを形成する。これらの乾燥フィラメントを集めて、当該技術分野において「繊維」又は「糸」と称される束にする。次いで、繊維/糸は、最大延伸限度まで伸長されて(延伸されて)靭性を高める。
【0005】
高強度ポリエチレンフィラメント及び/又はマルチフィラメント繊維/糸の調製は、例えば、米国特許第4,413,110号、同第4,536,536号、同第4,551,296号、同第4,663,101号、同第5,006,390号、同第5,032,338号、同第5,578,374号、同第5,736,244号、同第5,741,451号、同第5,958,582号、同第5,972,498号、同第6,448,359号、同第6,746,975号、同第6,969,553号、同第7,078,099号、同第7,344,668号、同第8,444,898号、同第8,506,864号、同第8,747,715号、同第8,889,049号、同第9,169,581号、同第9,365,953号、及び同第9,556,537号に記載されており、これらは全て、本明細書と一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。これらの特許はそれぞれ、UHMW PE加工技術における漸進的な改善を教示し、UHMW PE繊維の引張特性の改善における大きな障害について説明している。例えば、繊維を延伸することによってUHMW PE繊維の靭性及び引張係数は増加するが、破断することなく伸長させることができるのはある程度までである。繊維を伸長させることができる最大量、ひいては、特定の繊維タイプについて達成することができる最大靭性は、改善された原材料及び加工能力の両方を含むいくつかの要因に依存する。
【0006】
繊維の靭性を高めるためには、ポリエチレン溶液及びその前駆体(すなわち、溶液を形成するポリマー及び溶媒)が、高い固有粘度(「IV」)などの特定の特性を有する必要があり、かつ特定の方法で作製される必要がある。例えば、米国特許第8,444,898号は、繊維形成ポリマー/溶媒混合物が、ポリマーを分解してしまう押出機の内部の極端な加工条件に曝される時間を制限する特殊なプロセスによって高靭性繊維を製造するためのプロセスを教示している。このプロセスは、押出機内での関連するポリマーの分解に起因して最大の達成可能な繊維靭性を低下させる、押出機内での滞留時間がより長く必要となる他の方法とは区別される。米国特許第8,747,715号は、高靭性ポリエチレン糸を製造するためのプロセスであって、繊維を高度に配向して、約45g/d超の靭性及び約1400g/d超の引張係数を有する製品を形成するプロセスを教示している。このプロセスは、約19dl/g超の繊維IV及び約45g/dg超の靭性を有する繊維が製作されるように、ポリマーの固有粘度を維持する工程を要する。これらは、たとえ漸進的であってもポリエチレン繊維の引張特性の改善につながる科学技術における大きな取り組みを例示する2つの方法にすぎない。
【0007】
高強度ポリエチレン繊維から形成されたロープは既知であり、例えば、優れた曲げ疲労耐性を必要とする用途に使用されてきた。例えば、米国特許出願公開第2007/0202328号及び同第2007/0202331号を参照されたい。これらはいずれもHoneywell International Inc.が通常的に所有しており、海洋用途において綱車、プーリ、又はポスト上で繰り返し曲げられたときに良好な曲げ疲労性能を有するロープを教示している。このようなロープの既存の高い性能にもかかわらず、改善された特性及び性能を有する製品が継続的に必要とされている。具体的には、綱車上でこのように繰り返し曲げられたとき、特に工業用の重量物持ち上げ用途に使用されたとき、より大きな長期耐久性を示す合成ロープが当該技術分野において継続的に必要とされており、高性能合成ロープの疲労寿命を改善することが必要とされている。特に、高性能ポリオレフィン繊維及び糸から作製されたロープの綱車上での繰り返し曲げ(cyclic bend over sheave、CBOS)性能を改善することが必要とされている。本技術は、当該技術分野におけるこの必要性に対する解決策を提供するものである。
【0008】
これに関して、繊維の製造プロセス中の繊維配向は、当該技術分野において従来知られているように、慎重に制御された条件下で繊維を熱及び張力に曝すことによって、繊維の靭性を増加させることが知られている。繊維の靭性の増加に加えて、繊維の配向(すなわち、伸長;延伸(stretching;drawing)はまた、繊維をより細くする。複数のより小さなフィラメントの組み合わせを含む単一のマルチフィラメント繊維では、繊維の配向は、それに対応して、繊維を形成する個々の構成要素フィラメントのそれぞれを細くする。織物分野では、繊維/糸の繊度の一般的な尺度は「デニール」であり、これは、繊維/糸9000メートル当たりの質量(グラム)に等しい線密度の単位である。繊維デニールの減少に加えて、繊維を形成するフィラメントのデニールの減少によって、繊維はより破壊に至りやすくなる。また、この繊維/フィラメントのデニールの減少によって曲げ疲労しやすくもなり、このことは、繊維から形成されたロープなどの細長体が典型的には1つ以上の綱車を通過する用途において共通の問題である。したがって、本開示の状況では、繊維は、特に、実質的な繊維強度、軸方向破断に対する耐性、及び破断することなく経時的な曲げに耐える能力を必要とする用途である重量物持ち上げ用途のためのロープの製作に使用することが意図されているため、繊維の靭性、繊維のデニール、及びフィラメント当たりのデニールのそれぞれが特に重要な特性である。
【0009】
このような特に優れた強度特性及び曲げ疲労耐性が要求される用途において有用な細長体を製造するためには、既知の繊維では現在得られない物性のバランスを有する繊維を当該細長体に組み込む必要がある。具体的には、本開示の目的を達成するためには、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)、少なくとも32g/デニールの靭性、800超のデニール、及び2.0超のフィラメント当たりのデニールの組み合わせを有する1本以上の超高分子量ポリオレフィン繊維を細長体に組み込む必要があり、好ましくは、当該フィラメントのフィラメント当たりのデニールに当該フィラメントのIVを乗じた積は、少なくとも75.0、好ましくは少なくとも75.0から110.0までであり、IVのフィラメント当たりのデニールに対する比は、4.0:1から8.0:1までであることが見出された。このようなことは、既知の繊維/フィラメント製造技術を改変して、これらの特性を有する1本以上の繊維が組み込まれた細長体を製作し、繊維/フィラメントの品質を改善することによって達成される。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、固有粘度、フィラメント当たりのデニール、及び靭性の類例なき関係を有する繊維から形成されたロープなどの多繊維細長体を提供し、これにより、予想外にも、当該技術分野における必要性を満たす細長体の強化された曲げ疲労耐性が達成された。
【0011】
特に、本開示は、複数の繊維を含む細長体であって、当該繊維のうちの少なくとも1本が、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有するマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維を含み、当該少なくとも1本のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、少なくとも32g/デニールの靭性、800超のデニール、及び2.0超のフィラメント当たりのデニールを有する、細長体を提供する。
【0012】
また、複数の超高分子量ポリオレフィンフィラメントから形成された超高分子量ポリオレフィン繊維を含む少なくとも1本のマルチフィラメント繊維を含む細長体であって、当該超高分子量ポリオレフィンフィラメントが、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有し、当該マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、800超のデニールを有し、当該マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維のフィラメントがそれぞれ、少なくとも2.0のデニールを有し、当該フィラメントのフィラメント当たりのデニールに当該フィラメントのIVを乗じた積が75.0~110.0である、細長体が提供される。
【0013】
更に、細長体を作製する方法であって、
a)複数の繊維を提供する工程であって、当該繊維のうちの少なくとも1本が、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有するマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維を含み、当該少なくとも1本のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、32g/デニール未満の靭性、800超のデニール、及び2.0超のフィラメント当たりのデニールを有する、提供する工程と、
b)各マルチフィラメント繊維を伸長させて、当該繊維の靭性を少なくとも32g/デニールまで増加させる工程であって、当該フィラメント当たりのデニールは2.0超のままである、増加させる工程と、
c)任意選択で、各繊維の少なくとも一部を熱可塑性樹脂又は油のいずれかでコーティングする工程と、
d)当該繊維を撚糸(twisting)、交絡(entangling)、又は編組(braiding)して、細長体構造を形成する工程と、
e)任意選択で、当該細長体構造を加熱及び伸長させて、当該細長体の繊維を熱硬化する工程と、を含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】複数の水平に隣接するオーブンを一方向に通過させることによって繊維を延伸する例示的な後延伸プロセスを示す。
図2】単一のオーブンを複数の方向に通過させることによって繊維を延伸する例示的な後延伸プロセスを示す。
図3】UHMW PEポリマーの溶液から紡糸された繊維について、250℃の鉱油中10重量%UHMW PEポリマー溶液のコグズウェル伸長粘度に対して繊維の靭性をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で使用するとき、「繊維」は、その長さ寸法が、幅及び厚さの横断寸法よりもはるかに大きい、ポリマー材料のストランドなどの材料の細長いストランドである。繊維は、「ステープル」又は「ステープル繊維」と当該技術分野において称されるストランドの短い区分よりもむしろ、長い、連続したストランドが好ましい。本明細書で使用するとき、用語「細長い」は、幅よりもはるかに長い形状を有するものという通常の慣例的な意味を有する。本開示の状況において、「細長体」は、単一の繊維を含むか又は複数の複合繊維を含むストランドであってよく、当該複数の繊維は、例えば、撚糸、交絡、編組、又はこれらの組み合わせによって組み合わされ得る。撚糸、交絡、編組、又はこれらの組み合わせによって組み合わされた複数の繊維を含む細長体の例は、編みロープなどのロープである。
【0016】
この開示で使用するための繊維の断面は、大きく異なっていてもよく、当該繊維は、断面が円形、平坦、又は楕円であってよい。したがって用語「繊維」は、フィラメント、リボン、規則的又は不規則的な断面を有する細長片などを含むが、繊維が実質的に円形断面を有することが好ましい。通常の定義による「ストランド」は、糸又は繊維などの単一の、細い長さのものである。単一の連続フィラメント繊維は、フィラメント1本だけから形成されてもよく、又は複数のフィラメントから形成されてもよい。1本だけのフィラメントから形成された繊維は、本明細書では、「単一フィラメント」繊維、又は「モノフィラメント」繊維のいずれかと称され、複数のフィラメントから形成された繊維は、本明細書では、「マルチフィラメント」繊維と称される。マルチフィラメント繊維は、本明細書で定義するとき、好ましくは2~約3000本のフィラメント、より好ましくは2~1000本のフィラメント、更により好ましくは30~500本のフィラメント、更により好ましくは40~500本のフィラメント、更により好ましくは約40フィラメント~約360本のフィラメント、最も好ましくは約120~約240本のフィラメントを含む。マルチフィラメント繊維はまた、当該技術分野において、フィラメント束又はフィラメントの束と称されることが多い。束ねられた繊維群は、繊維束又は繊維の束と称される場合もある。本明細書におけるマルチフィラメント繊維の定義はまた、少なくとも部分的に融合し、モノフィラメント繊維のように見え得るマルチフィラメント繊維について説明する専門用語である、疑似モノフィラメント繊維も包含する。本明細書で使用するとき、用語「糸」は、複数の繊維又はフィラメントからなる単一の連続ストランドとして定義され、マルチフィラメント繊維と互換的に使用されることの多い用語である。
【0017】
1本以上のポリオレフィン繊維又はポリオレフィン繊維と非ポリオレフィン繊維との組み合わせを含む、からなる、又はから本質的になる細長体であって、当該細長体を形成するポリオレフィン繊維のうちの少なくとも1本が、当該繊維のうちの少なくとも1本が、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有するマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維であり、当該少なくとも1本のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、少なくとも32g/デニールの靭性、800超のデニール、及び2.0超のフィラメント当たりのデニールを有する、細長体が本明細書に提供される。
【0018】
超高分子量ポリオレフィン(UHMW PO)、特に超高分子量ポリエチレン(UHMW PE)のゲル/溶液紡糸によって、優れた引張特性を有する非常に高い性能のフィラメント及び繊維が作製されることが概ね知られている。全般に、「ゲル紡糸」プロセスは、紡糸溶媒及びポリマー(UHMW PEなど)の溶液を形成することと、当該溶液を紡糸口金に通して、繊維(又は糸)を形成するために集められる複数の溶液フィラメントを形成することと、を伴う。次いで、これらの溶液フィラメントを冷却してゲルフィラメントを形成する。次いで、紡糸溶媒をゲルフィラメントから除去して、本質的に乾燥したマルチフィラメント繊維を形成する必要があり、この乾燥繊維は、次いで、その引張特性を高めるために配向される(すなわち、伸長又は延伸される)。繊維特性を高めるために、溶液及びゲルの段階でフィラメントを配向することも知られている。概して、より高い繊維引張特性は、より高い固有粘度を有するポリエチレンから得られる。ポリマーの固有粘度は、ポリマーの分子量の尺度である。高強度繊維を形成するために使用されるほとんどの溶液/ゲル紡糸方法では、ポリマーが押出機内の溶媒と混合され、溶液に変換される際に、ポリマーが一部分解されることが知られている。このような分解によって分子量が若干低下するので、固有粘度が低下する。したがって、典型的なUHMW PEフィラメント/繊維の製作方法では、フィラメント/繊維を形成するために紡糸されるポリマー原材料の初期固有粘度(IV)はIVよりも大きく、これがひいては、それから形成される繊維の最大の達成可能な靭性に影響を及ぼす。
【0019】
米国特許第7,638,191号及び同第7,736,561号の方法などのいくつかの方法は、固有粘度を意図的に低下させることの特定の加工上の利点を教示している。他方、米国特許第8,444,898号、同第8,506,864号、同第8,747,715号、同第8,889,049号、同第9,169,581号、同第9,365,953号、及び同第9,556,537号の方法などの他の方法は、分子量及び固有粘度を最大化することの特定の利益を教示している。米国特許第8,747,715号、同第9,365,953号、及び同第9,556,537号は、少なくとも30dl/gの非常に高いIVを有するUHMW PE粉末原材料を加工することにより、非常に高い靭性の繊維、すなわち、少なくとも45g/dの靭性を有する繊維を作製する方法を具体的に教示している。米国特許第8,444,898号及び同第8,506,864号は、UHMW PEポリマー原材料を押出機内で紡糸溶媒と混合する時間を最小化することによって、分子量の低下が最小限に抑えられることを教示している。これに関して、従来のUHMW PE溶液/ゲル紡糸プロセスの初期工程は、(1)押出機又は押出機と加熱された容器との組み合わせのいずれかにおいて、UHMW PE粉末及び紡糸溶媒を加工して、ポリマー及び紡糸溶媒の溶液を形成することと、(2)(前述のように)当該溶液を紡糸口金に通して、複数の溶液フィラメントを含む溶液繊維を形成することと、(3)当該溶液繊維を冷却してゲル繊維を形成することと、(4)抽出又は蒸発のいずれかによって当該紡糸溶媒を除去して、本質的に乾燥した中実繊維を形成することと、次いで、(5)溶液糸、ゲル糸、及び乾燥糸のうちの少なくとも1つを伸長させて最終的なマルチフィラメント繊維製品を形成することと、を伴う。
【0020】
この開示の目的のために、最終繊維製品が、(ASTM D1601の技術に従って135℃のデカリン中で測定したとき)15dl/g以上、好ましくは15dl/g~約45dl/gのフィラメント/繊維の固有粘度(IV)を有するとき、所望の繊維特性が達成されることが認められた。したがって、本開示の繊維は、任意の従来公知の溶液又はゲル紡糸プロセスから製作することができるが、ただし、当該方法は、135℃のデカリン中で測定したときに、IVが少なくとも15dl/g、より具体的には、IVが15dl/g~約45dl/gになるように、マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維の製作中のポリマー分子量の低下を最小限に抑えるように改善されている。好ましい実施形態では、米国特許第8,444,898号、同第8,506,864号、同第8,747,715号、同第8,889,049号、同第9,169,581号、同第9,365,953号、及び同第9,556,537号のフィラメント/繊維製作方法は、この目的を達成するのに最も有効であり、したがって、本開示のUHMW PE繊維の製作に最も好ましい。
【0021】
このような繊維を形成するためには、(ASTM D1601の技術に従って135℃のデカリン中で測定したとき;単位dl/g)UHMW PEポリマーの固有粘度(IV)を維持するための工程を行う必要がある。米国特許第9,169,581号に記載されているように、有効な工程は、例えば、UHMW PEポリマーと混合する前に紡糸溶媒に窒素をスパージすること、又はポリマー-溶媒混合物及び/若しくはポリマー-溶媒溶液に窒素ガスをスパージすることを含み、これによって、剪断によって誘発される鎖の切断を引き起こすことが知られている酸素の存在が低減又は完全に排除される。特に290℃未満の温度での窒素スパージは、鎖の切断ではなく長鎖の分岐を促進するので、IVが保持される。窒素スパージは、混合するために押出機に添加される溶媒-ポリマースラリーを収容するスラリータンクに連続的に窒素を吹き込むことなどによって、好ましくは連続的に溶媒/混合物/溶液に窒素を吹き込むことを指す。スラリータンクにおける窒素スパージは、例えば、約2.4リットル/分~約23.6リットル/分の速度で行ってよい。しかしながら、任意の従来のスパージ技術を使用してもよい。ポリマー-溶媒混合物及び/又は溶液への酸化防止剤の組み込みなどの、ポリマー加工中にポリマー-溶媒混合物及び/又は溶液から酸素の存在を低減又は排除する他の手段は、同様に有効である必要がある。酸化防止剤の使用は、Honeywell International Inc.が通常的に所有している米国特許第7,736,561号に教示されている。この実施形態では、酸化防止剤の濃度は、外来酸素の影響を最小限に抑えるのに十分である必要があるが、ポリマーと反応するほど高くはない必要がある。酸化防止剤の溶媒に対する重量比は、好ましくは、約10百万分率~約1000百万分率である。最も好ましくは、酸化防止剤の溶媒に対する重量比は、約10百万分率~約100百万分率である。有用な酸化防止剤としては、非排他的に、ヒンダードフェノール、芳香族ホスファイト、アミン、及びこれらの混合物が挙げられる。好ましい酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチル-フェノール、テトラキス[メチレン(3,5-ジ-tert-ブチルヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、オクタデシル3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,5,7,8テトラメチル-2(4’,8’,12’-トリメチルトリデシル)クロマン-6-オール、及びこれらの混合物が挙げられる。より好ましくは、酸化防止剤は、ビタミンE又はα-トコフェロールとして一般に知られている、2,5,7,8テトラメチル-2(4’,8’,12’-トリメチルトリデシル)クロマン-6-オールである。ポリマー分子量及びIVを維持することが望ましい場合があるので、任意選択で、加工助剤、安定剤などの他の添加剤をポリマー及び溶媒の混合物に添加してもよい。
【0022】
また、ポリマーが加工される環境の過酷さを制御することによって、従来のゲル紡糸プロセスの初期段階(すなわち、(1)スラリーの形成、(2)スラリーを加熱してポリマーを融解させ、激しい離散及び分散混合の条件下で液体混合物を形成し、それによって、混合物中の融解ポリマー及び溶媒のドメインサイズを微視的寸法まで減少させ、そして、(3)溶媒がポリマー中に及びポリマーが溶媒中に拡散して、溶液を形成するのに十分な時間放置する)中に、ポリマー分解を制御することもできる。例えば、ポリマー分子量にとって有害である、高熱及びポリマーに対する剪断量から生じるポリマーの分解を最小限に抑えるために、米国特許第8,444,898号に記載されているように押出機におけるポリマーの滞留時間を最小化する必要がある。したがって、押出機の外側(例えば、スラリータンク内)を加熱することによってポリマー-溶媒液体混合物の形成を開始させ、それにより、より穏和な環境で多少の融解物を形成させることが望ましい。次に、これにより、押出機内でのポリマー滞留時間が減少し、それによってポリマーの熱及び剪断による分解が減少する。
【0023】
スラリータンク内、好ましくは加熱されたスラリータンク内でのポリマーの滞留時間を増加させることに加えて、押出機の温度を低下させることが、より穏和な環境において溶液を生成するのに役立つ。例えば、押出機内で融解UHMW PEポリマーと紡糸溶媒との液体混合物が形成される温度は、典型的には約140℃~約320℃である。ポリマー分解を最小限に抑えるためには、この範囲の中でも低い温度を使用する必要がある。通常的に所有されている米国特許第8,444,898号からも既知であるように、押出機内での混合物の滞留時間はまた、押出機からポリマー-溶媒混合物を加熱された容器(例えば、静的ミキサーを備える又は備えない加熱パイプ)に迅速に通過させることによっても制限することができ、当該加熱された容器において、溶媒及びポリマーが互いに完全に拡散し、均一で均質な溶液を形成するために必要な残りの時間が提供される。これに関して、均質な溶液の形成を促進することができる操作条件は、例えば、(1)UHMW PEと紡糸溶媒との液体混合物の温度を、UHMW PEの融解温度付近又はそれよりも高い温度に上昇させることと、(2)当該紡糸溶媒が当該UHMW PE中に拡散する及び当該UHMW PEが当該紡糸溶媒中に拡散するのに十分な時間、上記の上昇させた温度で当該液体混合物を維持することと、を含む。好ましくは、ポリマー-溶媒スラリーを液体混合物に、次いで、均質な溶液に変換するために必要な時間の大部分が、加熱された容器内で費やされ、好ましくは、押出機内でのポリマー-溶媒混合物の平均滞留時間は、約1.5分間以下、より好ましくは約1.2分間以下、最も好ましくは約1.0分間以下である。押出機のような加熱された容器は、典型的には、約140℃~約320℃の温度で維持されるが、能動的混合は行われない。加熱された容器内の液体混合物の滞留時間は、溶液を形成するまで、約2分間~約120分間、好ましくは約6分間~約60分間であり得る。この手順の変形例も適切に使用され得る。例えば、加熱された容器及び押出機の配置及び利用を逆にしてもよく、この場合、最初に、加熱された容器内でUHMW PEと紡糸溶媒との液体混合物を形成し、次いで、押出機に通して溶液を形成する。
【0024】
溶液後の加工において、固有粘度を保持するための更なる機会が存在する。例えば、紡糸口金を出ると、ポリマー溶液は気体空間を通って液体急冷槽(例えば、好ましくは約-35℃~約35℃で維持された、水、エチレングリコール、エタノール、イソプロパノール)に入り、ゲルフィラメントを形成する。空間に空気を充填した場合など、空間が酸素を含有する場合、溶液フィラメントは、この空間を通過する際に酸化を受けやすいので、ポリマーの分解を最小限に抑え、繊維のIVを最大化するために、窒素又はアルゴンのような別の不活性ガスを気体空間に充填して任意の酸化を防止することが望ましい場合がある。また、特に不活性ガスを間隙に充填することが実用的ではない場合、気体空間の長さを制限することも、酸化の可能性を最小限に抑える。紡糸口金と液体急冷槽の表面との間の気体空間の長さは、好ましくは約0.3cm~約10cm、より好ましくは約0.4cm~約5cmである。気体空間内での溶液フィラメントの滞留時間が約1秒間未満である場合、気体空間に空気を充填してもよく、そうでなければ、空間に不活性ガスを充填することが最も好ましい。
【0025】
高いIV及びIVは、ポリマー原材料の品質を改善することによっても達成され得る。例えば、粒子状UHMW PEポリマーの粒径及び粒径分布は、繊維の極限引張強度能に影響を及ぼし得る、ゲル紡糸される溶液の形成中にUHMW PEポリマーが紡糸溶媒に溶解する程度に影響を及ぼし得ることが知られている。UHMW PEポリマーが溶液に完全に溶解することが望ましく、したがって、約100μm~約400μm、最も好ましくは約100μm~約200μmの平均粒径を有するUHMW PEポリマーから繊維が紡糸されることが好ましく、当該粒子はまた、米国特許第9,169,581号に記載されているように、好ましくは約300,000~約7,000,000、より好ましくは約700,000~約5,000,000の重量平均分子量を有する。好ましくは、本開示のUHMW PEは、重量平均分子量の数平均分子量に対する比(M/M)が4以下であり、より好ましくはM/M比が3以下であり、更により好ましくはM/M比が2以下であり、更により好ましくはM/M比が約1である。
【0026】
UHMW PE自体が、少量、概して約5重量%未満、好ましくは約3重量%未満の添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、流動促進剤、溶媒などを含有していてもよい。米国特許第8,747,715号、同第8,889,049号、同第9,365,953号、及び同第9,556,537号は、更に、UHMW PEポリマー原材料のコグズウェル伸長粘度(λ)として知られている特性の重要性と、繊維の加工性及び繊維の引張特性に対するその影響を認めており、250℃の鉱油中10重量%UHMW PEポリマー溶液が、式λ≧5,917(IV)0.8(式中、IVは、IVを指す)に従ったコグズウェル伸長粘度(λ)を有する必要があることを教示している。
【0027】
当該UHMW PEポリマーから溶液/ゲル紡糸繊維を形成する際に使用することができる好ましい紡糸溶媒としては、大気圧で100℃超の沸点を有する炭化水素が挙げられ、好ましい紡糸溶媒は、脂肪族、脂環式、及び芳香族などの炭化水素、並びにジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、並びにこれらの混合物からなる群から選択することができる。いくつかの例では、紡糸溶媒は、大気圧で少なくとも約180℃の沸点を有し得る。このような例では、紡糸溶媒は、ハロゲン化炭化水素、鉱油、デカリン、テトラリン、ナフタレン、キシレン、トルエン、ドデカン、ウンデカン、デカン、ノナン、オクテン、シス-デカヒドロナフタレン、トランス-デカヒドロナフタレン、低分子量ポリエチレンワックス、及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。好ましくは、溶媒は、シス-デカヒドロナフタレン、トランス-デカヒドロナフタレン、デカリン、鉱油、及びこれらの混合物からなる群から選択される。最も好ましい紡糸溶媒は、Sonneborn,LLC(Mahwah,NJ)から市販されているHYDROBRITE(登録商標)55O PO白色鉱油などの鉱油である。HYDROBRITE(登録商標)55O PO鉱油は、ASTM D3238に従って計算したとき、約67.5%のパラフィン系炭素~約72.0%のパラフィン系炭素及び約28.0%~約32.5%ナフテン系炭素からなる。好ましいゲル/溶液紡糸法に従って形成されたスラリー、液体混合物、及び溶液はそれぞれ、溶液の約1重量%~約50重量%、好ましくは溶液の約1重量%~約30重量%、より好ましくは溶液の約2重量%~約20重量%、更により好ましくは溶液の約3重量%~約10重量%の量のUHMW PEを含む。
【0028】
米国特許第8,444,898号及び同第8,506,864号は、繊維紡糸プロセス中の固有粘度の低下を最小限に抑えるために行ってよい追加の工程を教示しており、具体的には、まず押出機内でUHMW PE粉末及び溶媒からスラリーを形成し、続いて、少なくとも毎分2.0Dグラム(g/分;Dは、押出機のスクリュー直径をセンチメートルで表す)の量の押出速度で押出機に通して当該スラリーを加工し、それによって液体混合物を形成することによって、ポリマーの分解を最小限に抑えることができることを教示している。次いで、押出機内ではなく、加熱された容器内でこの液体混合物を溶液に変換し、それによって、加熱された容器は、混合物に対して、たとえあったとしても非常にわずかな剪断応力しか及ぼさない。
【0029】
したがって、本開示の目的と一致して、本開示の細長体を形成する繊維の少なくとも1本又は全ては、135℃のデカリン中で少なくとも約21dl/g、又は約21dl/g超、より好ましくは約21dl/g~約100dl/g、更により好ましくは約30dl/g~約100dl/g、更により好ましくは約35dl/g~約100dl/g、更により好ましくは約40dl/g~約100dl/g、更により好ましくは約45dl/g~約100dl/g、更により好ましくは約50dl/g~約100dl/gの固有粘度を有するUHMWポリエチレンポリマーから製作される必要があり、本明細書全体にわたって特定される全ての固有粘度値は、135℃のデカリン中で測定される。少なくとも約21dl/gの高い初期IVは、ある程度のIV低下を許容すると同時に、15dl/g以上の高いIVを有する、典型的には15dl/g~約45dl/g、又は30dl/g~約45dl/g、又は35dl/g~約45dl/g、又は40dl/g~約45dl/gのIVを有する繊維の製作を保証する。
【0030】
15dl/g以上のIVfを有するUHMW PE繊維を製作するための有効な方法を説明することに加えて、上記で組み込まれた米国特許の多くはまた、紡糸プロセス中に繊維を延伸する方法も教示している。米国特許第8,444,898号、同第8,506,864号、同第8,747,715号、同第8,889,049号、同第9,365,953号、及び同第9,556,537号は、具体的には、紡糸プロセス中に繊維を延伸する方法、並びに繊維の靭性を更に増加させる紡糸後延伸操作を教示している。繊維を延伸するこれらの方法はそれぞれ、繊維の靭性を強化するのに有効であるが、繊維を延伸するときにデニール及びフィラメント当たりデニール(すなわち、マルチフィラメント繊維を形成する(すなわち、繊維/束を形成する)各個々のフィラメントのデニール)が減少し、繊維がより破損しやすくなる。したがって、上記特許に記載されている紡糸及び延伸方法は、本開示の1本以上のUHMW PE繊維を製作するために有用に使用され得るが、2.0超のフィラメントデニール及び800超、好ましくは少なくとも1000、最も好ましくは1600以上の全体繊維デニールを確保するように延伸の程度を制限すると同時に、少なくとも32g/dの高い繊維靭性も達成することが必要である。
【0031】
これは、このような高分子量繊維の後延伸操作の程度を制限すると共に(溶液繊維及びゲル繊維の延伸も同様に制限される場合があるが)、ポリマーの固有粘度(ポリマー分子量の尺度)が、原材料として15dl/g超であり、繊維紡糸プロセス中及び後に15dl/g超で維持されたときに達成可能である。例えば、米国特許第9,365,953号は、少なくとも約45g/デニールの靭性を有するUHMW PE繊維であって、a)UHMW PEポリマー(粉末として供給される)及び紡糸溶媒を含むスラリーを押出機に送って液体混合物を生成する工程であって、当該UHMW PEポリマーが、135℃のデカリン中で少なくとも約30dl/gの固有粘度を有する、工程、又は当該UHMW PEポリマー及び紡糸溶媒を押出機に送り、当該押出機内でスラリー及び液体混合物の両方を形成する工程と、b)当該液体混合物を加熱された容器に通して、当該UHMW PEポリマー及び当該紡糸溶媒を含む均質な溶液を形成する工程と、c)当該溶液を当該加熱された容器から紡糸口金に供給して、溶液繊維を形成する工程と、d)当該紡糸口金から流れ出す当該溶液繊維を約1.1:1~約30:1の延伸比で延伸して、延伸溶液繊維を形成する工程と、e)当該延伸溶液繊維を当該UHMW PEポリマーのゲル化点よりも低い温度まで冷却してゲル繊維を形成する工程と、f)約1.1:1~約30:1の第1の延伸比DR1で、当該ゲル繊維を1つ以上の段階で延伸する工程と、g)第2の延伸比DR2で当該ゲル繊維を延伸する工程と、h)溶媒除去装置内で当該ゲル繊維から紡糸溶媒を除去して乾燥繊維を形成する工程と、i)第3の延伸比DR3で、当該乾燥繊維を少なくとも1つの段階で延伸して、部分的に配向された繊維を形成する工程と、j)当該部分的に配向された繊維を後延伸操作に移行させる工程と、k)当該後延伸操作において後延伸温度で当該部分的に配向された繊維を約1.8:1~約15:1の第4の延伸比DR4まで延伸して、少なくとも約45g/デニールの靭性を有する高度に配向された繊維製品を形成する工程と、を含むプロセスによって生成される、UHMW PE繊維を教示している。
【0032】
したがって、米国特許第9,365,953号の上記繊維は、複数の延伸工程に供され、用語「延伸比」は、配向プロセス中に使用される延伸ロールの速度の比を指す。まず、紡糸口金から流れ出した溶液繊維を約1.1:1~約30:1の延伸比で延伸する。次に、固化したゲル繊維を、約1.1:1~約30:1であるDR1及び約1.5:1~約3.5:1であるDR2の2つの延伸比で延伸する。次いで、乾燥した繊維を約1.10:1~約3.00:1の延伸比(DR3)で延伸し、次いで、乾燥した繊維を、約1.8:1~約15:1の延伸比(DR4)で延伸して繊維の靭性を45g/デニールに増加させるオフラインの後延伸操作に供する。これらの延伸工程はそれぞれ、繊維のデニールを減少させながら繊維の靭性を漸増させるので、同様に靭性の増加及びデニールの減少を制限するように延伸プロファイルをカスタマイズすることができる。例えば、米国特許第9,365,953号は、DR1、DR2、及びDR3を乗じることによって求めることができる(DR1×DR2×DR3:1又は(DR1)(DR2)(DR3):1と記載される)、ゲル繊維及び乾燥繊維の複合延伸が、少なくとも約5:1、より好ましくは少なくとも約10:1、最も好ましくは少なくとも12:1である必要があることを示している。米国特許第9,365,953号による同様の延伸工程に従うが、溶液繊維及びゲル繊維の延伸が制限される実施形態では、DR1×DR2×DR3:1(又は(DR1)(DR2)(DR3):1)の値は、1.1:1から5:1未満まで、又は1.1:1から4:1まで、又は1.1:1から3:1まで、又は2:1から4:1までであってよい。
【0033】
本開示の好ましい実施形態では、本明細書において有用なUHMW PE繊維は、米国特許第9,365,953号の方法に従って生成されるが、繊維の後延伸は、2.0超のフィラメントデニール、800超、好ましくは少なくとも1000、好ましくは1600以上の全体繊維デニール、及び少なくとも32g/d、好ましくは35g/dから45g/dまでの繊維靭性を維持するように制限される。これは、例えば、米国特許第9,365,953号に開示されているプロセスに従って後延伸操作を行うことによって達成することができるが、後延伸の延伸比(DR4)は、約1.1:1~約4.5:1、又は約2.0:1~約3.5:1、又は約2.5:1~約2.7:1である。あるいは、後延伸は、約1.1:1~1.7:1、又は約1.1:1~1.6:1、又は1.1:1~1.5:1、又は約1.1:1~約1.4:1、又は1.1:1~1.3:1、又は1.1:1~1.2:1の延伸比で行ってもよい。これらの後延伸の延伸比範囲のいずれかは、米国特許第9,365,953号に定義されているDR1、DR2、及びDR3が、1.1:1から5:1未満まで、又は1.1:1から4:1まで、又は1.1:1から3:1まで、又は2:1から4:1までのDR1×DR2×DR3:1比(又は(DR1)(DR2)(DR3):1比)を有するように制限され、全ての繊維の延伸/伸長が完了した後、このような繊維(マルチフィラメント繊維)が、約2.0dpf~約7.0dpf、より好ましくは約2.3dpf~約6.0dpf、より好ましくは約2.5dpf~約5.0dpf、最も好ましくは約3.0dpf~約5.0dpfの範囲のフィラメント当たりのデニール(dpf)、及び135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)、及び少なくとも32g/デニールの靭性を有するように、全体的な延伸を制限することと併せて実施してよく;本開示の好ましい実施形態によれば、本開示の細長体/ロープは、800超のデニールも有する、上記特性の全てを有する少なくとも1本のマルチフィラメントポリオレフィン繊維を含むものであり、すなわち、上記少なくとも1本のマルチフィラメントポリオレフィン繊維は、当該繊維を形成する全ての構成要素フィラメントのデニールを合計したときに800超のデニールを有するのに少なくとも十分な構成要素フィラメントを含むように製作される。これらの範囲内のデニール、並びに固有粘度及び靭性の上記他の特性を有するフィラメントから形成された繊維は、その最大延伸能力よりも著しく低い程度まで伸長され、当該繊維は、ASTM D638の試験方法に従って測定したときに約4.0%以下、典型的には約3.0%~4.0%の破断伸びを有する。
【0034】
これに関して、繊維を延伸する方法は、当該技術分野において従来公知であり、米国特許第6,969,553号、同第7,370,395号、同第7,344,668号、同第8,747,715号、同第9,365,953号、及び同第9,556,537号の方法を含む任意の好適な方法を使用してよく、これらはそれぞれ、本明細書と一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。概して、乾燥繊維の後延伸は、約125℃~約160℃の後延伸温度で、強制空気対流式オーブンなどの加熱装置によって提供される加熱された環境に連続繊維を通すことによって、少なくとも1段階で達成される。延伸は、オーブンを1回又は複数回通過させて実施してよく、繊維が上記範囲内の所望の温度に到達すると、延伸が開始される。例示的な後延伸装置を図1及び2に示す。図1に示すように、後延伸プロセス200は、加熱装置202の外部にある第1のセットのロール204と、加熱装置202の外部にある第2のセットのロール206と、を有する加熱装置202に連続繊維208を通すことによって行われる。繊維208は、供給源から送られ、第1のセットのロール204を通過し得る。第1のセットのロール204は、Vメートル/分の所望の送り速度で繊維を加熱装置202に提供するために所望の速度で回転するように操作される従動ロールであってよい。第1のセットのロール204は、複数の個々のロール210を含み得る。一例では、第1の数個の個々のロール210は加熱されず、残りの個々のロール210は、加熱装置202に入る前に繊維208を予熱するために加熱される。第1のセットのロール204は、図1に示すように、合計7つの個々のロール210を含むが、個々のロール210の数は、所望の構成に応じて、より多くても少なくてもよい。
【0035】
上記図に示すように、繊維208は、1つ以上のオーブンを含む加熱装置202に送られ得る。図示されているように、1つ以上のオーブンは、隣接する水平オーブンであってよい。各オーブンは、好ましくは、強制対流式空気オーブンである。オーブン内の繊維208と空気との間に有効な熱伝達を有することが望ましいため、各オーブン内の空気循環は、好ましくは乱流状態であり、繊維208近傍における各オーブン内の時間平均空気速度は、好ましくは約1メートル/分~約200メートル/分である。図示する例では、6つの隣接する水平オーブン212、214、216、218、220、及び222が示されているが、任意の好適な数のオーブンを利用することができる。加熱装置は、任意の好適な繊維路長のものであってよく、オーブンはそれぞれ、所望の繊維路長を提供するために任意の好適な長さを有していてよい。例えば、各オーブンは、約10フィート~約16フィート(3.05メートル~4.88メートル)の長さであってよい。加熱装置202を通過する繊維208の温度及び速度は、必要に応じて変化させることができる。加熱装置202における繊維208の経路は、ほぼ直線であってよく、後延伸プロセス中の繊維208の靭性プロファイルは、様々なロールの速度を調整することによって、又は加熱装置202の温度プロファイルを調整することによって調整することができる。好ましくは、加熱装置202における繊維208の張力はほぼ一定であるか、又は加熱装置202を通って増加する。加熱された繊維224は、最後のオーブン222から出て、次いで、第2のセットのロール206を通過して最終繊維製品226を形成することができる。第2のセットのロール206は、Vメートル/分の所望の出口速度で加熱装置202から加熱された繊維222を除去するために所望の速度で回転するように操作される従動ロールであってよい。第2のセットのロール206は、複数の個々のロール228を含み得る。第2のセットのロール206は、図1に示すように、合計7つの個々のロール228を含むが、個々のロール228の数は、所望の構成に応じて、より多くても少なくてもよい。加えて、第2のセットのロール206における個々のロール228の数は、第1のセットのロール204における個々のロール210の数と同じであってもよく、異なっていてもよい。好ましくは、最終繊維製品226が、その配向及び形態を保持するための張力下で少なくとも約90℃未満の温度まで冷却されるように、第2のセットのロール206を冷却してよい。
【0036】
代替の加熱装置300を図2に示す。図示のように、加熱装置300は、単一のオーブン304などの1つ以上のオーブンを備えていてよい。各オーブンは、好ましくは、図1のオーブンと同じ条件を有する強制対流式空気オーブンである。オーブン304は、任意の好適な長さを有していてよく、一例では、約10フィート~約20フィート(3.05~6.10メートル)の長さであってよい。オーブン304は、加熱装置300内の繊維208の移動経路を増加させるために、オーブン304内で繊維208が通過する方向を変えることができる1つ以上の中間ロール302を含んでいてよい。1つ以上の中間ロール302はそれぞれ、回転しない固定ロールであっても、所定の速度で回転する従動ロールであっても、又は繊維208がそれを通過する際に自由に回転することができるアイドラーロールであってもよい。加えて、1つ以上の中間ロール302はそれぞれ、図示するようにオーブン304の内部に配置されてもよく、あるいは1つ以上の中間ロール302をオーブン304の外部に配置してもよい。1つ以上の中間ロール302を利用すると、加熱装置300の有効長さが増加する。所望の合計糸路長を提供するために、任意の好適な数の中間ロールを利用することができる。次いで、最終的な繊維製品306がオーブンから出るか、あるいは、図1に図示されているものと同様の追加の外部ロールで繊維製品306を更に延伸してもよい。いずれの実施形態においても、第1のセットのロールの可変速度(例えば、送りロールの速度、V(メートル/分))及び第2のセットのロールの可変速度(例えば、出口ロールの速度、V(メートル/分))が、延伸プロセスの各段階における延伸比(例えば、溶液繊維延伸、DR1、DR2、DR3、及びDR4)を決定し、このような延伸によって、伸長される繊維の各フィラメントのデニールが減少する。
【0037】
高IVのUHMW PEポリマーから繊維を製作し、溶媒、溶媒-UHMWPEポリマー混合物、及び/又は溶媒-UHMWPEポリマー溶液に窒素をスパージするなどの、上記のとおり紡糸プロセス中のポリマー固有粘度を維持するための工程を行うことによって、上記条件のいずれかに従う繊維の延伸は、32g/デニール~45g/dの繊維靭性にも達すると同時に、フィラメントのデニールを少なくとも2.0に維持するように制限され得る。このような繊維は、約2.0dpf~約7.0dpf、より好ましくは約2.3dpf~約6.0dpf、より好ましくは約2.5dpf~約5.0dpf、最も好ましくは約3.0dpf~約5.0dpfの範囲の、好ましい後延伸のフィラメント当たりのデニール(dpf)を有する。これらの範囲内のデニールを有するフィラメントから形成された繊維は、ASTM D638の試験方法に従って、約4.0%以下、典型的には約3.0%~4.0%の破断伸びを有するように最大限に伸長されている。
【0038】
好適な繊維が製作されると、例えば、撚糸、編組、交絡、若しくはこれらの技術の組み合わせによって、又は複数の繊維を結合させるための他の従来公知の技術によって複数の繊維が組み合わされる、当該技術分野における従来の方法に従って、当該繊維からロープ又は他の多繊維構造を形成してもよい。これに関して、本開示のロープは、編みロープ、撚りロープ、ワイヤレイロープ、パラレルコアロープなどの任意の好適な構造であってよい。本開示の一実施形態では、細長体は、編組、撚糸、若しくは交絡ポリオレフィン繊維、又はより好ましくは、編組、撚糸、若しくは交絡ポリエチレン繊維からなるか又はから本質的になる。別の実施形態では、1本以上の芯繊維が更に組み込まれ、編組体が鞘として芯繊維を包囲する細長体を形成してもよい。
【0039】
芯-鞘編組構造は、両ロープ用途において従来公知である。好適な芯繊維としては、非排他的に、任意の伸縮性合成繊維、再生繊維又は金属繊維が挙げられ、任意選択で、セラミック又はガラス繊維を挙げることができる。特に好適な芯繊維は、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、及びフッ素樹脂繊維を含む、伸縮性熱可塑性繊維である。本明細書の芯-鞘ロープ構造を形成するとき、Herzog Maschinenfabrik GmbH(Oldenberg,Germany)から入手可能な編組機などの従来の機器を用いて、そして、プレーティング(plaiting)又は他の編組構造、並びに芯「繊維」自体が編組構造である二重編組技術などの任意の従来公知の方法を使用して、中心軸として芯を用いて芯の周囲に編組体を形成してよい。この実施形態では、好ましくは、直径が小さいロープについては2~100本の別個の繊維、又は直径が大きなロープについては、数千本の別個の繊維、例えば5000~6000本若しくはそれ以上の別個の繊維が編組鞘構造に組み込まれる。
【0040】
芯-鞘構造では、任意選択で、編組繊維及び芯を融合させる。編組繊維の芯との融合は、典型的には、米国特許第5,540,990号、同第5,749,214号、及び同第6,148,597号に記載されているように、熱及び張力を加え、任意選択で、熱及び張力に曝露する前に溶媒又は可塑化材料を適用することによって達成され、これらの開示は、本明細書と一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。これらの特許に記載されているように、フィラメントポリマー材料の融点範囲内の高温で、フィラメントを軟化させ、繊維を形成する個々のフィラメントの接触面を少なくとも部分的に融合させてモノフィラメント様の特徴を有する線にするのに十分な時間にわたって、編組体を伸長に供する。
【0041】
融合はまた、ボンディング(結合)、例えば、鞘及び/又は芯の繊維を、接着特性を有する熱可塑性樹脂又は他のポリマーバインダ材料で少なくとも部分的にコーティングすることによっても達成され得る。好適な熱可塑性樹脂としては、非排他的に、ポリオレフィン樹脂、例えば、ポリオレフィンワックス、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリオレフィンコポリマー、エチレンコポリマー、例えば、エチレン-アクリル酸コポリマー、エチレン-エチルアクリレートコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、ポリイソプレン-ポリスチレンブロックコポリマー(Kraton Polymers(Houston,TX)から市販されているKRATON(登録商標)D1107など)、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロテトラフルオロエチレン(PCTFE)、並びに前述の1つ以上のコポリマー及びブレンドが挙げられる。好適なポリオレフィンワックスとしては、非排他的に、Honeywell International Inc.(Morristown,NJ)から市販されているACumist(登録商標)微粉化ポリオレフィンワックスが挙げられる。最も好ましい熱可塑性樹脂は、利用される特定のポリオレフィン繊維よりも低い融点を有し、延伸可能な材料であり、最も好ましくはポリオレフィン樹脂である。また、接着剤コーティングなしに、編組体鞘の繊維を互いに及び/又は芯繊維に熱的に結合させてもよい。熱結合条件は、繊維の種類に依存する。繊維はまた、当該技術分野において従来知られているように、例えば、米国特許第5,540,990号、同第5,749,214号、及び同第6,148,597号に記載されているように、鉱油、パラフィン油、又は植物油などの油で融合前にプレコーティングされてもよい。上記特許に記載されているように、鉱油は、融合プロセスの効率を向上させて、融合プロセスをより低温で実施することを可能にする可塑剤として作用する。浸漬、噴霧、又は別の方法でコーティング材料の浴に繊維を通すなどの任意の従来の方法を使用して、油又は熱可塑性樹脂で繊維をコーティングしてよい。
【0042】
繊維を互いに結合させるために接着特性を有する樹脂又は他のポリマーバインダ材料で鞘及び/又は芯の繊維をコーティングする場合、ほんの少量の樹脂/バインダーしか必要としない。これに関して、適用される樹脂/バインダーの量は、典型的には、繊維+樹脂/バインダーの総重量に基づいて5重量%以下であり、その結果、繊維は、繊維+樹脂/バインダーの総重量に基づいて、少なくとも95重量%のコーティングされた繊維を含む。したがって、細長体は、少なくとも95重量%の構成要素繊維を含む。より好ましい実施形態では、細長体は、少なくとも約96重量%の繊維、更により好ましくは97重量%の繊維、更により好ましくは98重量%の繊維、更により好ましくは99重量%の繊維を含む。最も好ましくは、細長体は、完全に樹脂を含まず、すなわち、いかなる結合樹脂/バインダーでもコーティングされておらず、繊維/フィラメントから本質的になるか、又はからなる。
【0043】
本明細書の最も好ましい実施形態では、細長体は、芯繊維を組み込むことなく編組体からなるか又は本質的になり、その結果、編組体は、本質的に、編組されていない繊維もストランドも含まない任意の直径の編みロープになる。編組体は、好ましくは円形であり、平坦ではなく円形、環状、又は楕円形の断面を有し、プレーティング、一重編組、中実編組、又は中空編組技術などの当業者によって決定されるような任意の従来公知の編組技術を使用して形成され得る。芯繊維が存在しないこれらの編組体は、従来の編組機器及び方法で作製される。好適な編組装置は、例えば、Herzog Maschinenfabrik GmbH(Oldenberg,Germany)から市販されている。例えば、編組ロープの形成においては、複数のボビンを有する従来の編組機を使用することができる。当該技術分野において既知であるように、ボビンが動き回るとき、繊維は、互いの上及び下を縫うように進み、最終的に巻取りリールに回収される。編組機及びそれからのロープの形成の詳細は、当該技術分野において既知であるので、本明細書に詳細には開示しない。
【0044】
好ましくは、複数の繊維から形成される編組体であって、当該繊維のうちの少なくとも1本が、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有するマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維を含み、当該少なくとも1本のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、少なくとも32g/デニールの靭性、800超のデニール、及び2.0超のフィラメント当たりのデニールを有する、編組体には、2~100本の別個の繊維、より好ましくは3~40本、更により好ましくは3~20本の別個の繊維、更により好ましくは3~15本の別個の繊維が組み込まれる。しかしながら、上述したように、ロープの所望の直径に応じて100本超の別個の繊維が組み込まれてもよく、潜在的には、繊維当たりのデニール及び所望の最終用途に応じて、数千本の別個の繊維、例えば、約5000~6000本又はそれ以上の別個の繊維を含む。繊維の直径は、以下の式を用いて繊維のデニールから計算することができる:
【0045】
【数1】
【0046】
式中、密度は、グラム/立方センチメートル(g/cm)(g/cc)であり、直径はmmである。超高分子量ポリエチレンは、0.97g/ccの密度を有するが、当業者には既知であるように、非常に高い分子量では、約0.98g/cc~約0.995g/ccまで増加し得る。概して、より低い繊維デニールは、より小さな繊維直径に対応する。本明細書の好ましい実施形態では、細長体(例えば、編みロープ)を形成する少なくとも1本のマルチフィラメント繊維は、約800~約5000デニール、より好ましくは約800~4000デニール、更により好ましくは約800~約3000デニール、更により好ましくは約800~約1600デニール、更により好ましくは約900デニール以上、更により好ましくは900~約3000デニール、更により好ましくは約900~約1600デニール、更により好ましくは約1000デニール以上、更により好ましくは約1000~約1600のデニールを有する。
【0047】
細長体/ロープの全体的なデニールは、細長体/ロープを形成するために組み合わされる上記マルチフィラメント繊維の数に依存し、これは概して、ロープの最終使用用途の要件に依存する。少なくとも2本の別個の繊維が組み込まれた細長体自体、例えば、芯繊維を有していない3~12本の別個の繊維を有する編組体は、1500デニール以上、より好ましくは2300デニール超、更により好ましくは2300超~約5000デニール、より好ましくは2500デニール超、更により好ましくは2500超~約5000デニール、より好ましくは3000デニール超、更により好ましくは3000超~約5000デニールの好ましいデニールを有する。繊維が交点(すなわち、ピック)で互いに反転する編組構造に起因して、9000メートルの編組には9000メートル超の各個々の繊維が組み込まれるので、編組デニールは、典型的には、全ての構成要素繊維の合計デニールよりも大きい。これに関して、好ましいロープは、少なくとも1500デニール、好ましくは1500~約30,000デニール、より好ましくは約1600デニール以上、より好ましくは約1600~約26,000デニール、更により好ましくは約8,000~約26,000のデニールを有する。最も好ましいロープは、約3~約50本の個々の繊維、好ましくは約10~約20本の個々の繊維を有し、好ましくは、各個々の繊維は、800デニール超、好ましくは約900デニール以上、更により好ましくは約1000デニール以上、更により好ましくは約1100デニール以上、更により好ましくは約1200デニール以上、更により好ましくは約1300デニール以上、更により好ましくは約1400デニール以上、更により好ましくは約1500デニール以上、更により好ましくは約1600デニール以上、更により好ましくは約1700デニール以上、更により好ましくは約1800デニール以上、更により好ましくは約1900以上のデニールを有し、更により好ましくは、各個々の繊維は、約2000以上のデニールを有し、少なくとも3~約20本の個々の繊維、より好ましくは約3~約15本、最も好ましくは約5~約13本の個々の繊維がロープ(例えば、編組体)に組み込まれる。ロープの繊度は、所望の最終用途によって決定される必要な破断強度及び/又は他の特性に依存する。
【0048】
また、特に、最小及び最大の末端値を用いて提示される任意の範囲は、本明細書に明示的には記載されていない当該末端値内の任意の範囲を支持することも意図され、これも本発明の範囲内である。
【0049】
任意選択で、熱及び張力を加え、編組体を形成する個々の繊維を互いに融合させる米国特許第5,540,990号、同第5,749,214号、及び同第6,148,597号の上記の技術に従って、一重編組、中実編組、又は中空体を形成する繊維を任意選択で互いに融合させてもよい。この選択肢を実施する場合、任意選択で、繊維を形成する個々のフィラメントの接触面を少なくとも部分的に融合させてモノフィラメント様の特徴を有する線にするのに十分な、フィラメントポリマー材料の融点範囲内の高温で、編組体を任意選択で伸長に供する。伸長/表面融合プロセスに有用な条件は、芯-鞘繊維について上に列挙したものと同じである。芯/鞘構造に関して上述したように、非芯/鞘編組体を形成する繊維はまた、熱可塑性樹脂又は油のいずれかで少なくとも部分的にコーティングし、続いて、上記のように互いに融合させてもよく、このようなコーティングは、繊維を撚糸、交絡、又は編組して編み/撚り/交絡構造を形成する前又は後のいずれに適用されてもよい。好適な熱可塑性樹脂、ワックス、及び油は、上記のものと同じである。しかしながら、最も好ましい実施形態では、編組体を形成する繊維は、互いに融合していない、すなわち、非融合である。これは、繊維を互いに融合させる米国特許第5,540,990号、同第5,749,214号、及び同第6,148,597号の方法とは区別される。
【0050】
編組体が形成された後、それを伸長してもよく、伸長しなくてもよい。繊維/編組体を加熱しながら又は加熱することなく伸長を実施してよいが、加熱することが好ましい。本明細書に記載されているように、編組体の伸長は、繊維を編組して編組体にした後に伸長させることを指し、非伸長編組体であっても、編組体を形成する構成要素繊維は、編組前に上述のゲル/溶液紡糸プロセス中に既に伸長されている。編組体を熱で伸長させるが、編組の構成要素繊維を融合させないことが望ましい場合、編組体を繊維の融点未満の温度まで加熱することによって、融合が回避される。例えば、編組体に超高分子量のゲル紡糸ポリエチレンマルチフィラメント繊維を組み込む場合、この温度は、好ましくは約145℃~約153℃、より好ましくは約148℃~約151℃の範囲内である。これに関して、高度に配向された超高分子量ポリエチレン繊維は概して、バルクUHMW PE又はより低分子量のポリエチレンよりも高い融点を有することに留意されたい。融合プロセスを伴わないこの伸長中、好ましくは、繊維は、好ましくは連続的に加えられる張力下で保持される。好ましくは、融合を伴わない伸長工程は、好ましくは熱を加えながら、伸長の1つ以上の段階において約1.01~約3.0、より好ましくは約1.1~約1.8の全体伸長比で行われる。
【0051】
本開示の編組体は、当該技術分野において編組締め付け性(tightness)とも呼ばれる、任意の所望の編組密度を有していてよい。編組構成要素が編組軸に対してなす角度は、編組角度と呼ばれる。編組の長さに沿って編組角度を増加又は減少させるために、所望に応じて、選択された装置を使用して編組密度を調整してもよい。好ましい実施形態では、編組体は、約40°未満、又は約5°~約40°の編組角度を有し、より好ましくは、編組角度は、30°以下、又は約5°~約30°、最も好ましくは約15°~約30°である。これらの範囲はそれぞれ、非伸長編組体、すなわち編組体の編組後であるが何らかの任意選択の追加の伸長前の編組体の編組密度/締め付け性に特異的である。
【0052】
マルチフィラメント繊維は、任意選択で、編組前に撚糸又は空気交絡してもよい。繊維を撚糸する様々な方法が当該技術分野において既知であり、任意の方法を利用してよい。有用な撚糸方法は、例えば、米国特許第2,961,010号、同第3,434,275号、同第4,123,893号、同第4,819,458号、及び同第7,127,879号に記載されており、これらの開示は、本明細書と一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。好ましい実施形態では、繊維は、撚糸された束軸に対して5°から約40°まで、より好ましくは約5°~約30°、最も好ましくは約15°から約30°までの角度を有するように撚糸される。撚糸された繊維における撚りを決定するための標準的な方法は、ASTM D1423である。同様に、マルチフィラメント繊維を空気交絡させる様々な方法は従来公知であり、例えば、米国特許第3,983,609号、同第4,125,922号、及び同第4,188,692号に記載されており、これらの開示は、本明細書と一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。好ましい実施形態では、マルチフィラメント繊維は、撚糸されてもおらず、空気交絡されてもいない。また、複数の繊維を互いに編組して編組体を形成する前、好ましくは、個々の繊維自体は編組されていない。
【0053】
最も好ましい実施形態の編組体は、少なくとも32g/デニールの靭性を有するマルチフィラメントポリエチレン繊維のみを含むと言うものの、当該編組体は、例えば、以下に開示されている任意の繊維を含む、異なる靭性を有する他のポリオレフィン又はポリエチレン繊維を更に含んでいてもよい:米国特許第4,411,854号、同第4,413,110号、同第4,422,993号、同第4,430,383号、同第4,436,689号、同第4,455,273号、同第4,536,536号、同第4,545,950号、同第4,551,296号、同第4,584,347号、同第4,663,101号、同第5,248,471号、同第5,578,374号、同第5,736,244号、同第5,741,451号、同第5,972,498号、同第6,448,359号、同第6,969,553号、同第7,078,097号、同第7,078,099号、同第7,081,297号、同第7,115,318号、同第7,344,668号、同第7,638,191号、同第7,674,409号、同第7,736,561号、同第7,846,363号、同第8,070,998号、同第8,361,366号、同第8,444,898号、同第8,506,864号、及び同第8,747,715号、これらはそれぞれ、本明細書と一致する範囲で参照により本明細書に組み込まれる。これは、ポリプロピレン繊維、高密度ポリエチレン、及び低密度ポリエチレン繊維を含む、全てのポリオレフィン繊維タイプを含む。編組体はまた、構成要素繊維として、他の非ポリオレフィン繊維、例えば、従来公知であり、市販されているアラミド繊維、特にパラアラミド繊維及びメタアラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維及びポリエチレンナフタレート繊維を含むポリエステル繊維、伸びきり鎖ポリビニルアルコール繊維、伸びきり鎖ポリアクリロニトリル繊維、ポリベンゾキサゾール(PBO)及びポリベンゾチアゾール(PBT)繊維などのポリベンゾアゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化ケイ素繊維、炭化ホウ素繊維、ガラス繊維、再生繊維、金属繊維、セラミック繊維、黒鉛繊維、液晶コポリエステル繊維、並びにM5(登録商標)繊維などの他の剛性ロッド繊維、並びに上記材料のコポリマー、ブロックポリマー、及びブレンドから形成される繊維を含んでいてもよい。しかしながら、これらの繊維タイプの全てが、編組体が伸長される実施形態での使用に適しているわけではない。
【0054】
本開示のポリオレフィン又はポリエチレンの分子量に関して用語「超高」に対する本明細書における全ての言及はまた、ポリマー粘度及び/又はポリマー分子量の最大端において限定することを意図するものではないことも理解すべきである。用語「超高」は、本開示の範囲内の有用なポリマーを、本明細書に記載の所望の特性を有する繊維に加工することができる程度に、ポリマー固有粘度及び/又はポリマー分子量の最小端において限定することのみを意図するものである。本明細書に記載のプロセスは、最も好ましくはUHMWポリエチレンの加工に適用されるが、全ての他のポリ(α-オレフィン)、すなわち、UHMW POポリマーに等しく適用可能であることも理解すべきである。
【0055】
本開示の細長体は、つり綱、水上スキー用ロープ、登山用ロープ、ヨット用ロープ、パラシュート用ライン、漁網、係船索、大綱、靴紐、カテーテル又はデンタルフロスなどの医療用途、高圧チューブ、接地ケーブル、及びハーネスなどの種々の最終用途において有用であり得るが、海底から重量物を持ち上げ、係留するなどの海洋用途を含む、上述したように改善された綱車上での繰り返し曲げ(CBOS)疲労耐性を必要とする用途において特に有用である。
【0056】
CBOS耐性は、例えば、本開示のロープを自由回転綱車又はプーリ上で約180度曲げることによって試験することができる。ロープを荷重下に置き、ロープが破損に達するまで綱車上で循環させる。例示的な試験では、ロープを、直径38mmの綱車/プーリの上で曲げ、D:d比(D=綱車/プーリの直径、d=ロープの直径)は、56サイクル/分で20であり、綱車/プーリに156kgの荷重(ロープの各側に78kgの張力)をかけたものである。破損までのサイクル数は、典型的には平均され、例えば、平均3~5回の試験に基づいて決定される。
【0057】
(135℃のデカリン中で測定したとき)15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有する複数のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維を含む多繊維細長体(ロープ)であって、各マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、少なくとも32g/デニールの靭性、800超のデニールを有し、当該フィラメントがそれぞれ、少なくとも2.0のデニール(dpf)を有し、IV(dl/g)のdpfに対する比(「IV/dpf」)が、4.0:1から8.0:1までであり、4.1~7.5及び4.2~7.0などの上記端点間の全てのより狭い範囲を含む、多繊維細長体(ロープ)について、特に優れたCBOS疲労耐性が達成されている。好ましい実施形態では、また、dpfにIV(dl/g)を乗じた積(「IV×dpf」)は、少なくとも75.0であることが最も好ましく、より好ましくは、dpfにIVを乗じた積は、少なくとも75.0から110.0までであり、80.0から105.0まで、又は85.0から100.0まで、又は88.0から95.0までなどの上記端点間の全てのより狭い範囲を含む。最も好ましいポリオレフィン繊維タイプは、これらの値IV×dpf及びIV/dpf値の両方を満たす。例示的な一実施形態では、細長体の各マルチフィラメント繊維が約1600のデニールを有し、480本のフィラメント(すなわち、dpf3.33)を含み、当該フィラメントが、約22.6dl/gから約26.5dl/gまでのIVを有する、多繊維細長体が形成される。したがって、この例示的な実施形態では、IV×dpf値は75.3~88.2の範囲であり、IV/dpf値は6.79~7.96の範囲である。
【0058】
また、ロープにおける少なくとも1本のポリオレフィン繊維が、IV×dpf(すなわち、少なくとも75.0から110.0まで)及び/又はIV:dpf比(IV/dpf)(すなわち、4.0:1から8.0:1まで)の上記特徴を満たす限り、多繊維細長体(ロープ)は、45g/d以上、例えば、45g/デニール~約60g/デニールの靭性を有する1本以上の高度に配向されたポリオレフィンマルチフィラメント繊維を含み得るが、このようなマルチフィラメント繊維の構成要素繊維は、必ずしも2.0以上のdpf又は800以上のデニールを有するものではないことも、本開示の範囲内である。
【0059】
以下の非限定的な実施例は、好ましい実施形態を例示するのに役立つ。
【0060】
実施例1
紡糸溶媒及びUHMW PEポリマーを混合して、100℃まで加熱されたスラリータンクの内部でスラリーを形成した。UHMW PEポリマーは、約30dl/gの固有粘度IVを有していた。少なくともUHMW PEポリマーの融点まで加熱することによって、スラリーから溶液を形成した。スラリー中のポリマー濃度は約7%であった。均質な紡糸溶液を形成した後、溶液を、360穴紡糸口金を通して紡糸して、マルチフィラメント溶液繊維を形成した。紡糸口金の穴は、約1mmの直径及び15:1の長さ/直径(L/D)比を有する。次いで、溶液繊維を長さ1.5インチ(3.8cm)の空隙に通し、約10℃の水温を有する水急冷槽に入れて、ゲル繊維を形成した。溶液繊維を、約1.5:1の延伸比で1.5インチの空隙において伸長させ、溶媒除去装置に入る前に、5.5:1の延伸比で、ゲル糸をセットのロールで冷伸長させた。溶媒除去装置において、溶媒を抽出溶媒で抽出し、ゲル繊維を約1.4:1の延伸比で延伸した。20dl/gの繊維IVを有する得られた乾燥繊維を、複数のローラーセットによって延伸して、約24.5g/デニールの靭性を有する部分的に配向された繊維を形成した。次いで、部分的に配向された繊維を、約12メートル/分の繊維の送り速度及び約31m/分の取り込み速度で22メートルのオーブン内にて約150℃で延伸して、約32g/d超の靭性を有する高度に配向された繊維を形成し、当該繊維は1600のデニール及び4.4のフィラメント当たりのデニール(dpf)を有し、当該繊維のIVは、20dl/gのままであった。
【0061】
次いで、これらの高度に配向された繊維のうちの12本を、従来の編組技術に従って一緒に編組して、約20,000のデニールを有するロープを形成した。
【0062】
実施例2及び比較例1~4
以下の表1及び表2に列挙される特性を有する12本の超高分子量ポリエチレン繊維を一緒に編組することによって、10:1の長さ:直径(L:D)比を有する5つの同一の編組構造を形成した。構成要素繊維にも編組にもコーティングを適用しなかった。試料の各末端に78kgの荷重をかけて38mmの綱車上で毎分56回の曲げサイクルで編組を連続循環させることによって、破損までの曲げサイクル数を求めた。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
CBOS試験によって示されるように、新規繊維から形成された編組は、他の繊維タイプと比較して、特にIV:dpf比及びIV×dpfの積の値について列挙された要件を満たしていないものと比較して、実質的に改善された耐摩耗性及び耐久性を有していた。
【0066】
本開示は、特に、好ましい実施形態を参照しながら示され説明されてきたが、本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく、様々な変更及び修正が為され得ることは、当業者によって容易に理解されるであろう。特許請求の範囲は、開示の実施形態、上述されているそれらの代替物、及びそれらの全ての等価物を網羅するように解釈されることを意図する。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2021-05-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維を含む細長体であって、前記繊維のうちの少なくとも1本が、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有するマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維を含み、前記少なくとも1本のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、少なくとも32g/デニールの靭性、800超のデニール、及び2.0超のフィラメント当たりのデニールを有する、細長体。
【請求項2】
複数の超高分子量ポリオレフィンフィラメントから形成された超高分子量ポリオレフィン繊維を含む少なくとも1本のマルチフィラメント繊維を含む細長体であって、前記超高分子量ポリオレフィン繊維が、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有し、前記マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、800超のデニールを有し、前記マルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維のフィラメントがそれぞれ、少なくとも2.0のデニールを有し、前記フィラメントのフィラメント当たりのデニールに前記フィラメントのIVを乗じた積が75.0~110.0である、細長体。
【請求項3】
細長体を作製する方法であって、
a)複数の繊維を提供する工程であって、前記繊維のうちの少なくとも1本が、135℃のデカリン中で測定したときに15dl/g~約45dl/gのフィラメント固有粘度(IV)を有するマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維を含み、前記少なくとも1本のマルチフィラメント超高分子量ポリオレフィン繊維が、32g/デニール未満の靭性、800超のデニール、及び2.0超のフィラメント当たりのデニールを有する、提供する工程と、
b)各マルチフィラメント繊維を伸長させて、前記繊維の靭性を少なくとも32g/デニールまで増加させる工程であって、前記フィラメント当たりのデニールは2.0超のままである、増加させる工程と、
c)任意選択で、各繊維の少なくとも一部を熱可塑性樹脂又は油のいずれかでコーティングする工程と、
d)前記繊維を撚糸、交絡、又は編組して、細長体構造を形成する工程と、
e)任意選択で、前記細長体構造を加熱及び伸長させて、前記細長体の前記繊維を熱硬化する工程と、を含む、方法。
【国際調査報告】