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特表2022-504652細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定するための方法とシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定するための方法とシステム
(51)【国際特許分類】
   G01B 17/02 20060101AFI20220105BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G01B17/02 B
G01N29/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021519765
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(85)【翻訳文提出日】2021-06-02
(86)【国際出願番号】 GB2019052865
(87)【国際公開番号】W WO2020074895
(87)【国際公開日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】1816552.2
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519046650
【氏名又は名称】ガイディド・ウルトラソニックス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】キース・ヴァイン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ヴォグト
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・ジョシュア・ミレフチク
【テーマコード(参考)】
2F068
2G047
【Fターム(参考)】
2F068AA06
2F068AA28
2F068AA48
2F068BB01
2F068BB09
2F068DD03
2F068HH01
2F068QQ14
2F068QQ15
2G047AA05
2G047AB01
2G047AB04
2G047AC09
2G047BC04
2G047BC18
2G047CA01
2G047CA02
2G047GG33
2G047GG43
(57)【要約】
弾性波を用いて細長構造体又は伸展構造体(図8の符号2)の厚さを決定する方法を開示する。本方法は、トランスデューサ(12)から少なくとも一つの時間領域信号を受信することと、少なくとも一つの時間領域信号に基づいて周波数領域信号を生成することと、周波数領域信号のノイズを減らしてノイズ除去周波数領域信号を提供することと、ノイズ除去周波数領域信号を少なくとも一つの基準信号(各基準信号はそれぞれ或る厚さに対応している)と比較することと、少なくとも一つの基準信号とノイズ除去周波数領域信号の比較に基づいて細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定することと、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性波を用いて細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定する方法であって、
トランスデューサから少なくとも一つの時間領域信号を受信することと、
前記少なくとも一つの時間領域信号に基づいて周波数領域信号を生成することと、
前記周波数領域信号のノイズを減らしてノイズ除去周波数領域信号を与えることと、
それぞれ或る厚さに対応している少なくとも一つの基準信号と前記ノイズ除去周波数領域信号を比較することと、
前記少なくとも一つの基準信号と前記ノイズ除去周波数領域信号の比較に基づいて前記細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定することと、を備える方法。
【請求項2】
前記トランスデューサから少なくとも二つの時間領域信号を受信することを備え、
前記周波数領域信号を生成することが、
前記少なくとも二つの時間領域信号を少なくとも二つの周波数領域信号に変換することと、
前記少なくとも二つの周波数領域信号を一つの周波数領域信号に組み合わせることと、を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記トランスデューサから少なくとも二つの時間領域信号を受信することを備え、
前記周波数領域信号を生成することが、
前記少なくとも二つの時間領域信号を単一の組み合わせ時間領域信号に組み合わせることと、
前記単一の組み合わせ時間領域信号を前記周波数領域信号に変換することと、を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも二つの時間領域信号が三つの時間領域信号を備える、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記三つの時間領域信号が、第一周波数での第一励起の測定に対応する第一時間領域信号と、第二周波数での第二励起の測定に対応する第二時間領域信号と、第三周波数での第三励起の測定に対応する第三時間領域信号とを備える、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記周波数領域信号のノイズを減らすことが、前記周波数領域信号からコヒーレントなノイズを減らす又は除去することを備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記周波数領域信号のノイズを減らすことが、前記周波数領域信号から非コヒーレントなノイズを減らす又は除去することを備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記周波数領域信号のノイズを減らすことが、前記周波数領域信号に対してウェルチ法を行うことを備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記周波数領域信号を生成する前に、各時間領域信号をウィンドウ処理することを更に備える請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも一つの基準信号と前記ノイズ除去周波数領域信号を比較することが、前記少なくとも一つの基準信号の各々と前記ノイズ除去周波数領域信号の畳み込みを行うことを備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも一つの基準信号と前記ノイズ除去周波数領域信号を比較することが、前記少なくとも一つの基準信号の各々と前記ノイズ除去周波数領域信号の相互相関を行うことを備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも一つの基準信号と前記ノイズ除去周波数領域信号を比較することが、一組のマスクを備える行列に、異なる複数の周波数について測定した信号値を含む第一ベクトルを掛けて、第二ベクトルを得ることを備え、
各マスクが、異なる周波数における値に対応する第一方向に沿って並ぶ複数の値を含み、直交する第二方向に沿って前記マスクが並べられ、前記第二方向に沿って複数の測定信号値が並ぶ、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第一組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いて細長構造体又は伸展構造体の基準特徴部のガイド波測距を行い、前記基準特徴部までの距離の値を決定することと、
前記距離の値を用いてガイド波モードの速度の増倍率を計算することと、
前記ガイド波測距を用いて調整された速度を用いて請求項1から12のいずれか一項に記載の方法を行うことと、を備える方法。
【請求項14】
前記ガイド波測距を行うことが、T(0,1)モード又はSH0モードを用いることを備える、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
細長構造体又は伸展構造体の公称値の厚さを受信することと、
第一組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサに、前記公称値の厚さを有する細長構造体又は伸展構造体の分散ガイド波モードについてのカットオフ周波数を含む周波数範囲を有する励起信号を与えることと、
別の第二組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を受信することと、を備える方法。
【請求項16】
検査リング内の一組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサから、100kHzから800kHzの間の周波数範囲を有する信号を受信することと、
前記信号に含まれる特徴部の周波数を測定することと、
前記特徴部の周波数を用いて細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定することと、を備える方法。
【請求項17】
細長構造体又は伸展構造体の少なくとも二つの分散ガイド波モードについてのカットオフ周波数を含むように十分広い周波数範囲に及ぶ少なくとも一つの励起信号を、第一組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサに与えることと、
別の第二組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を受信することと、を備える方法。
【請求項18】
前記十分広い周波数範囲が50kHzから800kHzの間の範囲内に含まれ、前記十分広い周波数範囲の少なくとも一部が100kHzを超える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも一つのプロセッサによって実行されると、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法を前記少なくとも一つのプロセッサに実行させるコンピュータプログラム。
【請求項20】
請求項19に記載のコンピュータプログラムを記憶しているコンピュータ可読媒体を備えるコンピュータプログラムプロダクト。
【請求項21】
弾性波を用いて細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定するための装置であって、
請求項1から18のいずれか一項の方法を行うように構成されている少なくとも一つのプロセッサと、
メモリと、を備える装置。
【請求項22】
前記装置がコンピュータであり、前記コンピュータがネットワークインターフェースを更に備え、
前記コンピュータが、
ガイド波検査システムから少なくとも一つの時間領域信号を受信し、
前記少なくとも一つの時間領域信号に基づいて前記細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定するように構成されている、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
細長構造体又は伸展構造体の厚さを測定するためのガイド波システムであって、
第一組のトランスデューサ及び第二組のトランスデューサと、
細長構造体又は伸展構造体の少なくとも二つの分散ガイド波モードについてのカットオフ周波数を含むように十分広い周波数範囲に及ぶ少なくとも一つの励起信号を前記第一組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサに与え、前記第二組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を受信するように構成されたガイド波機器と、を備えるシステム。
【請求項24】
前記十分広い周波数範囲が50kHzから800kHzの間の範囲内に含まれ、前記十分広い周波数範囲の少なくとも一部が100kHzを超える、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記十分広い周波数範囲が300kHz以上又は500kHz以上である、請求項23又は24に記載のシステム。
【請求項26】
前記少なくとも一つの励起信号が、周波数範囲が重複する少なくとも二つの励起信号で構成されている、請求項23から25のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項27】
前記少なくとも一つの励起信号が、周波数範囲が重複する三つの励起信号で構成されている、請求項23から26のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項28】
少なくとも二つの励起信号が異なる時点で生成される、請求項26又は27に記載のシステム。
【請求項29】
前記少なくとも二つの分散ガイド波モードが少なくとも一つの剪断水平モードガイド波を含む、請求項23から28のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項30】
前記ガイド波機器が、前記細長構造体又は伸展構造体の一区域又は一部又は一側に沿った前記第二組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を受信して、前記一区域又は一部又は一側における前記細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定するように構成されている、請求項23から29のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項31】
前記ガイド波機器が、前記細長構造体又は伸展構造体の一区域又は一部又は一側に沿った前記第一組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を送信して、前記一区域、一部又は一側における前記細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定するように構成されている、請求項23から30のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項32】
前記細長構造体がパイプであり且つ前記厚さが前記パイプの壁の厚さであるか、又は、前記伸展構造体がプレートであり且つ前記厚さが前記プレートの厚さである、請求項23から31のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項33】
トランスデューサが超音波トランスデューサである、請求項23から32のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項34】
請求項21又は22に記載の装置と、
ガイド波機器と、
パイプ用の検査リングと、を備えるシステム。
【請求項35】
前記装置が遠隔配置されている、請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
第一動作モードにおいて細長構造体又は伸展構造体のガイド波検査を行い、第二動作モードにおいて前記細長構造体又は伸展構造体の厚さを測定するように構成されているガイド波システム。
【請求項37】
前記第一動作モードがパルスエコーであり、前記第二動作モードがピッチキャッチである、請求項36に記載のガイド波システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性ガイド波を用いて、細長構造体や伸展構造体(パイプの壁やプレート等)の厚さを決定することに関する。
【背景技術】
【0002】
ガイド波(guided wave)を用いて、パイプ、レール、ロッド、プレート、他の種類の構造体を腐食型の欠陥、ひび、他の種類の不具合について検査することができる。
【0003】
ガイド波を用いて、単一のセンサ位置から長距離(例えば、数十から数百メートル)にわたって構造体を高速スクリーニングすることができる。更に、ガイド波を用いて、コーティング又は絶縁された構造体、アクセスが困難である構造体(例えば、埋められていたり、水中にあったりするため)及び/又は使用中の構造体を検査することができる。
【0004】
長距離ガイド波検査システムの性能の概要については非特許文献1が参照可能である。
【0005】
ガイド波検査では、典型的に、ねじれモード(T(0,1))又は縦モード(L(0,2))で100kHz未満の周波数を使用する。これらのモードが使用される理由は、パイプ壁の厚さにわたる又は外周におけるいずれの箇所においても上記周波数において断面損失に敏感であり、簡単に励起可能であり、一般的には広範な周波数帯にわたって非分散性だからである。長距離ガイド波法は、従来、欠陥(例えば、腐食)に起因するパイプ壁内の不規則性の存在に対する定性的な情報のみを与えるものである。
【0006】
特許文献1には、ガイド波検査用に広帯域信号を合成することが記載されている。
【0007】
ガイド波検査に加えて、漏れ(パイプの場合)を修理し、低減し又は防止し、構造体(パイプ壁等)の残りの寿命を評価するため、又は他の理由で構造体の厚さを測定することが必要となることも多々ある。典型的には、これは、数メガヘルツの範囲で動作するパルスエコー二重素子トランスデューサを用いて行われる(例えば、非特許文献2を参照)。別個の厚さ計を用いることで、コストと複雑性が増し得る。大抵の厚さ計は手持ち式のデバイスであって、設置されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/203086号明細書
【特許文献2】英国特許出願公開第2479744号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M. Lowe and P. Cawley: “Long Range Guided Wave Inspection Usage - Current Commercial Capabilities and Research Directions” (2006) (http://www3.imperial.ac.uk/pls/portallive/docs/1/55745699.PDF)
【非特許文献2】C. Lebowitz and L. Brown: “Ultrasonic Measurement of Pipe Thickness”, Review of Progress in Quantitative Nondestructive Evaluation, volume 12, page 1987, (Plenum Press, New York 1993)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一態様によると、弾性波を用いて細長い構造体(パイプやレール等)又は伸展している構造体(プレート等)の厚さを決定するための方法が提供される。本方法は、トランスデューサ(例えば、圧電トランスデューサやEMATトランスデューサ等の超音波トランスデューサ)から少なくとも一つの時間領域信号を受信することと、少なくとも一つの時間領域信号に基づいて周波数領域信号を生成することと、周波数領域信号のノイズを減らしてノイズ除去周波数領域信号を提供することと、ノイズ除去周波数領域信号を少なくとも一つの基準周波数領域信号(又は「基準信号」とも)と比較することと(各基準信号はそれぞれ或る一つの厚さに対応している)、ノイズ除去周波数領域信号と少なくとも一つの基準信号の比較に基づいて壁の厚さを決定することと、を備える。基準信号は合成され得る。トランスデューサは超音波トランスデューサであり得る。
【0011】
本方法は、トランスデューサから少なくとも二つの時間領域信号を受信することを備え得る。周波数領域信号を生成することは、時間領域又は周波数領域において複数の信号を組み合わせることを備え得る。例えば、周波数領域信号を生成することは、少なくとも二つの時間領域信号を組み合わせることを備え得る。周波数領域信号を生成することは、少なくとも二つの時間領域信号を単一の組み合わせ時間領域信号に組み合わせることと、単一の組み合わせ時間領域信号を周波数領域信号に変換することとを備え得る。代替的に、周波数領域信号を生成することは、少なくとも二つの時間領域信号を少なくとも二つの周波数領域信号に変換することと、少なくとも二つの周波数領域信号を一つの周波数領域信号に組み合わせることとを備え得る。
【0012】
少なくとも二つの時間領域信号は三つの時間領域信号を備え得る。三つの時間領域信号は、第一周波数での第一励起の測定に対応する第一時間領域信号と、第二周波数での第二励起の測定に対応する第二時間領域信号と、第三周波数での第三励起の測定に対応する第三時間領域信号とを備え得る。
【0013】
周波数領域信号のノイズを減らすことは、好ましくは、コヒーレントなノイズ(例えば、他のモードに起因し得る)を減らすことを備える。周波数領域信号のノイズを減らすことは、時間領域信号に対してウェルチ(Welch)法を行うことを備え得る。周波数領域信号のノイズを減らすことは、単一スペクトル分析を行うことを備え得る。周波数領域信号のノイズを減らすことは、周波数領域信号から非コヒーレントなノイズを減らす又は除去することを備え得る。
【0014】
本方法は、周波数領域信号を生成する前に、少なくとも二つの時間領域信号の各々をウィンドウ処理すること(windowing)を備え得る。
【0015】
ノイズ除去周波数領域信号を少なくとも一つの基準信号と比較することは、ノイズ除去周波数領域信号と各基準信号の畳み込みを行うことを備え得る。ノイズ除去周波数領域信号を少なくとも一つの基準信号と比較することは、ノイズ除去周波数領域信号と各基準信号の相互相関を行うことを備え得る。
【0016】
ノイズ除去周波数領域信号を少なくとも一つの基準信号と比較することは、少なくとも一つの基準信号の組(本願において「一組のマスク」とも称される)を備える行列(「M」で表され得る)に、異なる周波数について測定された信号値を含む第一ベクトル(「P」で表され得る)を掛けて、第二ベクトル(「C」で表され得る)を得ることを備える行列乗算を行うことを備え得る。各マスクは、異なる周波数における対応して第一方向(例えば、行)に沿って並ぶ一連の複数の値を含み得る。マスクは、直交する第二方向(例えば、列)に沿って並べられる。第一ベクトルは、第二方向(例えば、列)に沿って並ぶ一連の複数の測定信号値を含む。例えば、行列はp×q行列であり、p個のマスクを含み、各マスクはq個の値を含み、第一ベクトルが1×qベクトル(つまり、列ベクトル)であり、第二ベクトルがp×1(つまり、行ベクトル)となり得る。第二ベクトルの各値の大きさを用いて、照合(マッチ)の近さを決定することができる。特に、最高値が最も近いマッチを示し得る。行列乗算は相互相関と実質的に同じ結果を得ることができるものであるが、少ない計算で行うことができるので、より高速及び/又は少ない計算資源で実行可能である。
【0017】
本発明の第二態様に従って提供される方法は、単一弾性波測定システムを使用し、第一組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いて細長構造体又は伸展構造体の基準特徴部のガイド波測距を行い、基準特徴部までの距離の値を決定することと、距離の値を用いてガイド波の速度についての増倍率を計算することと、調整された速度を用いて本方法を行うことと、を備える。トランスデューサは超音波トランスデューサであり得る。
【0018】
ガイド波測距を行うことは、好ましくは、T(0,1)モードを用いること(例えば、パイプ用)、又は、SH0モードを用いること(例えば、プレート用)を備える。
【0019】
本発明の第三態様に従って提供される方法は、細長構造体又は伸展構造体の公称値の厚さを受信することと、第一組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサに励起信号を提供することと、別の第二組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を受信することとを備える。励起信号は、細長構造体又は伸展構造体内の分散ガイド波モードのカットオフ周波数を含む周波数範囲を有する(つまり、周波数範囲は、公称値の厚さに基づいて選択される)。トランスデューサは超音波トランスデューサであり得る。
【0020】
本発明の第四態様に従って提供される方法は、検査リング内の一組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサから信号を受信することと(トランスデューサは、設置されると、パイプの外周の周りに均等分布する)(信号は100kHzから800kHzの間の周波数範囲を有する)、信号に含まれる特徴部の周波数を測定することと、特徴部の周波数を用いて細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定することとを備える。トランスデューサは好ましくは超音波トランスデューサである。
【0021】
本発明の第五態様に従って提供される方法は、第一組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサに少なくとも一つの励起信号を提供することと(少なくとも一つの励起信号は、細長構造体又は伸展構造体内の少なくとも二つの分散ガイド波モードについてのカットオフ周波数を含むように十分広い周波数範囲に及ぶ)、別の第二組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を受信することとを備える。トランスデューサは超音波トランスデューサであり得る。
【0022】
十分広い周波数範囲は50kHzから800kHzの間の範囲内に含まれ得て、十分広い周波数範囲の少なくとも一部は100kHzを超える。
【0023】
本発明の第六態様に従って提供されるコンピュータプログラムは、少なくとも一つのプロセッサによって実行されると、本発明の第一態様、第二態様、第三態様、第四態様及び/又は第五態様の方法を少なくとも一つのプロセッサに行わせる。
【0024】
本発明の第七態様に従って提供されるコンピュータプログラムプロダクトは、本発明の第六態様のコンピュータプログラムを記憶しているコンピュータ可読媒体を備える。
【0025】
本発明の第八態様によると、弾性波を用いて細長構造体又は伸展構造体の壁の厚さを決定するための装置が提供される。本装置は少なくとも一つのプロセッサとメモリを備える。少なくとも一つのプロセッサは、本発明の第一態様、第二態様、第三態様、第四態様及び/又は第五態様の方法を行うように構成される。
【0026】
本発明の第九態様によると、細長構造体又は伸展構造体の厚さ(パイプの壁やプレートの厚さ等)を決定するための弾性ガイド波システムが提供される。本システムは、細長構造体(パイプやレール等)又は伸展構造体(プレート等)に設置されているか又は細長構造体又は伸展構造体に設置可能である第一と第二の組(又は「列」)のトランスデューサ(例えば、圧電トランスデューサやEMATトランスデューサ等の超音波トランスデューサ)を備え、第一と第二の組のトランスデューサは、設置されると、構造体に沿って又はわたって離隔されるようになっている。また、本システムが備えるガイド波機器は、第一の組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサに少なくとも一つの励起信号(その少なくとも一つの励起信号は、細長構造体内の少なくとも二つの分散ガイド波モードについてのカットオフ周波数を含むように十分広い周波数範囲に及ぶ)を提供し、第二の組のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を受信するように構成されている。トランスデューサは超音波トランスデューサであり得る。
【0027】
構造体の一部又は一セクションは、三次元空間内の線又は経路(直線又は湾曲し得る)に沿って伸展し得る。線又は経路は直線であると縦軸(長手軸)又は中心軸を定め得る。線又は経路は弧状部、例えばパイプやレールの湾曲部を含み得る。線又は経路に沿って、構造体は均一な断面を有し得る(例えば、同じ内径及び同じ外径を有するパイプや、同じ形状及び同じ寸法を有するレール等であり得る)。代わりに、構造体は均一な断面を有する必要は無い。線又は経路に沿った所与の点において、構造体は回転対称性を有し得て(パイプ等)、又は回転対称性を有さないものとなり得る(レール等)。
【0028】
長距離ガイド波検査に用いられるシステムは、細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定するのにも使用可能である。
【0029】
ガイド波機器は、好ましくは、ピッチキャッチ(pitch‐catch)構成で信号を励起して、一つ以上の励起の組を受信するように構成される。しかしながら、ガイド波機器は、パルスエコー(pulse‐echo)構成で信号を励起して励起を受信してもよい。
【0030】
本システムは、第一列のトランスデューサと第二列のトランスデューサを備える一つの検査リングを備え得て、つまり、単一の検査リングを使用し得る。しかしながら、第一列のトランスデューサ、第二列のトランスデューサをそれぞれ備える二つの別々の検査リングを使用してもよい。検査リングは、二列よりも多くのトランスデューサ、例えば三列以上の列のトランスデューサを含み得る。
【0031】
ガイド波機器は、構造体の一区域(sector)(又は「外周部」とも)、一部(section)、又は一側(side)に沿って第一組又は列のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を送信して、その一区域、一部又は一側における構造体の厚さを決定することができるように構成され得る。ガイド波機器は、別の異なる一区域、一部又は一側において第一列の超音波トランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を送信して(好ましくは異なる時点において)、その別の異なる一区域、一部又は一側における構造体の厚さを決定することができるように構成される。
【0032】
ガイド波機器は、構造体の一区域(sector)(又は「外周部」とも)、一部(section)、又は一側(side)に沿って第二組又は列のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を受信して、その一区域、一部又は一側における構造体の厚さを決定することができるように構成され得る。ガイド波機器は、別の異なる一区域、一部又は一側において第二列の超音波トランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサを用いてガイド波を受信して(好ましくは異なる時点において)、その別の異なる一区域、一部又は一側における構造体の厚さを決定することができるように構成され得る。
【0033】
十分広い周波数範囲は、50kHzから800kHzの間の範囲内に含まれ得て、十分広い周波数範囲の少なくとも一部が100kHzを超え、又は130kHzを超える。低周波、例えば、1MHz未満や、500kHz未満や、100kHz未満の周波数を用いて、表面粗さに対する感度を減らすことを促進することができる。
【0034】
十分広い周波数範囲は、200kHz以上、300kHz以上、又は500kHz以上となり得る。
【0035】
十分広い周波数範囲Δfは以下のようになり得て:
Δf>Cs/l/(β・壁厚さ)
ここで、壁厚さは壁又はプレートの公称厚さ又は実際の厚さであり、剪断水平モードのみを検討する場合には、Cs/lは構造体内の剪断速度Cであって、β=1であり、剪断水平モード以外のモードを検討する場合には、Cs/lは構造体内の縦波速度Cであって、β=2である。
【0036】
少なくとも一つの励起信号は、周波数範囲が重複する少なくとも二つの励起信号で構成され得る。少なくとも一つの励起信号は、周波数範囲が重複する三つの励起信号で構成され得る。少なくとも二つの励起信号は異なる時点において生成され得る。少なくとも一つの励起信号は、細長構造体又は伸展構造体内に剪断水平波を生成し得る。一つ以上の励起信号の組が、細長構造体のプレート状部分内に剪断垂直の対称モード及び/又は非対称モードを生成し得る。
【0037】
本システムは、弾性ガイド波を用いてパイプの壁の厚さを決定するための装置を更に備え得る。その装置は少なくとも一つのプロセッサとメモリを備え得る。少なくとも一つのプロセッサは、第二列のトランスデューサのうち少なくとも一つのトランスデューサから受信した少なくとも一つの時間領域信号に基づいて周波数領域信号を生成し、周波数領域信号のノイズを減らしてノイズ除去周波数領域信号を提供し、ノイズ除去周波数領域を少なくとも一つの基準信号(各基準周波数領域信号はそれぞれ或るパイプ壁厚さに対応している)と比較し、ノイズ除去周波数領域信号と少なくとも一つの基準信号の比較に基づいてパイプの壁の厚さを決定するように構成され得る。
【0038】
本発明の第十態様に従って提供されるガイド波システムは、第一動作モード(又は「第一の動作モード」や「第一状態」とも)において細長構造体又は伸展構造体のガイド波検査を行い、第二動作モード(又は「第二の動作モード」や「第二状態」とも)において厚さ方向共鳴を用いて細長構造体又は伸展構造体の壁の厚さを測定するように構成される。本システムは、本発明の一態様のシステムであるか、そのシステムを備えるものである。本システムは、本発明の第一態様、第二態様、第三態様、第四態様、及び/又は第五態様の方法を行うように構成され得る。第一組のトランスデューサと第二組のトランスデューサは好ましくは構造体に永続的に設置される。トランスデューサは超音波トランスデューサであり得る。
【0039】
好ましくは、第一動作モードはパルスエコーであり、第二動作モードはピッチキャッチである。
【0040】
以下、添付図面を参照して、本発明の特定の実施形態を例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】プレート内の一組のガイド波の分散曲線を示す。
図2】第一カットオフモードを含む第一壁厚のパイプ内の一組の剪断水平ガイド波モードを励起するのに使用可能な帯域幅Δfを有する広帯域励起を概略的に示す。
図3】第一カットオフモードを除く第二壁厚のパイプ内の一組の剪断水平ガイド波モードを励起するのに使用可能な帯域幅Δfを有する広帯域励起を概略的に示す。
図4】三つの異なる狭帯域励起を用いて帯域幅Δfを有する広帯域励起を合成することを概略的に示す。
図5】ガイド波検査で典型的に用いられる周波数範囲での広帯域励起用の周波数範囲を示す。
図6】ノイズ除去周波数領域信号の例を示す。
図7】ノイズ除去周波数領域信号のガイド波モードを調べて、パイプの壁の厚さを見つけるのに使用可能な周波数領域マスクの例を示す。
図8】トランスデューサアセンブリとガイド波機器とコンピュータシステムとを含むガイド波検査システムとパイプの概略図である。
図9図8に示されるパイプとトランスデューサアセンブリの横断面である。
図10図8に示されるコンピュータシステムの概略ブロック図である。
図11】パイプの壁の厚さ測定用のガイド波の伝播を示す。
図12】壁の厚さが未知であるパイプの周波数領域応答を、壁の厚さが分かっているパイプの基準周波数領域応答と比較することによって、パイプの壁の厚さを決定することを概略的に示す。
図13】壁の厚さが未知であるパイプの周波数領域応答を、壁の厚さが分かっているパイプの周波数領域応答(又は「マスク」とも)と比較することを示す。
図14】壁の厚さが未知であるパイプの周波数領域応答と、壁の厚さが分かっているパイプの周波数領域応答とのプロットを示す。
図15】パイプの壁の厚さを決定する方法のプロセス流れ図である。
図16】他の周波数領域信号と比較するために一組の時間領域信号を単一のノイズ除去周波数領域信号に前処理する方法のプロセス流れ図である。
図17図17aは第一時間領域応答信号を示し、図17bは第二時間領域応答信号を示し、図17cは第三時間領域応答信号を示す。
図18図18aはウィンドウ処理された第一時間領域応答信号を示し、図18bはウィンドウ処理された第二時間領域応答信号を示し、図18cはウィンドウ処理された第三時間領域応答信号を示す。
図19】複数の時間領域信号を組み合わせて周波数領域に変換したことによる周波数領域信号を示す。
図20】ウェルチ法を用いた処理によるノイズ除去周波数領域信号を示す。
図21】波速度較正法のプロセス流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
序論
図1は、プレート(図示せず)内に励起可能な一組のガイド波モードの分散曲線を示す。これら分散曲線は、曲率が壁厚と比較して大きい場合(例えば、壁厚7mmで直径168mmのパイプの場合)に、同じ厚さの湾曲プレートを伝播するガイド波モードの分散曲線についての良好な近似として使用され得る。
【0043】
本願記載のパイプ検査用のガイド波システムのトランスデューサ同士の間を伝播するガイド波モードがその一例である。そこで、以下ではパイプについて記載するが、プレートのガイド波モードである剪断水平の対称と非対称のモードが本願で参照される。構造体はパイプである必要はなく、プレート、レール、梁、柱等の他の形態の細長構造体や伸展構造体となり得る。
【0044】
図1において、ガイド波モード(連続的な太線で示される)は対称と非対称の剪断水平モードである。しかしながら、以下の記載は剪断水平モードに限定されるものではない。対称や非対称のラム波モード(破線で示される)等の他の分散ガイド波モードも使用可能である。
【0045】
図1を参照すると、図示の各ガイド波モード(連続的な太線で示される)はそれぞれカットオフ(厚さ方向共鳴)周波数を有し、カットオフ周波数fの第一モードで始まり、周波数fの間隔で続く一組の高次モードのカットオフ周波数が続く。周波数は、パイプの壁の厚さに依存する。特に、パイプ壁厚が増えると、周波数が減少する。
【0046】
本願記載の細長構造体や伸展構造体の壁の厚さを決定する一部方法は、ピッチキャッチ構成において、パイプの厚さにかかわらず少なくとも二つのガイド波モードを励起することと、複数のガイド波モードからの寄与を含む応答を測定することと、その応答を用いてパイプ壁の厚さを決定することとを含む。厚さの決定では、二つの異なるモードに起因する特徴部の間隔がパイプ壁の厚さに依存することを用い、及び/又は、一組の厚さ依存基準値を用いて照合(マッチング)基準を見つけて、パイプ壁の厚さを決定し得る(本願において「マスキング」と称されるプロセスを用いる)。
【0047】
少なくとも二つのガイド波モードの励起は、予測されるパイプ壁厚の範囲(例えば、5mmから25mm)に対して十分広い帯域幅を有する励起を選択することよって達成される。従って、同じ広帯域励起を多様な異なるパイプに使用することができる。
【0048】
図2及び図3を参照すると、広帯域励起の帯域幅Δfが第一カットオフ周波数fの二倍よりも大きいとして、少なくとも二つのガイド波モードが励起されるべきものとなっている。一部場合では、第一カットオフモードが励起される(例えば、図2に示されるように)。他の場合では、第一カットオフモードが励起範囲外となる(例えば、図3に示されるように)。しかしながら、第一カットオフモードが励起範囲外となっても、厚さ決定が可能である。
【0049】
特に図3を参照すると、少なくとも二つのモードが励起範囲Δf内にあるためには、Δf>2fという条件を満たすべきであり、ここで、fは第一カットオフ周波数fの周波数である。この条件は本方法で測定可能な最小厚さを定めるが、最大厚さは定めない。しかしながら、実際には、周波数ビンサイズ等といった他の要因が最大厚さに制限を課し得る。
【0050】
壁やプレートの厚さtは、以下のように剪断速度C(物質と温度に依存する)と、第一カットオフ周波数fに関係している:
f=C/(2×t) (1)
【0051】
従って、十分広い周波数範囲が、以下の関係を用いて決定可能である:
Δf>C/壁厚さ (2)
【0052】
例えば、10mmの鋼壁について、C=3250m/sとすると、少なくとも二つのモードの捕捉を保証するためには、Δfは少なくとも325kHzである必要がある。
【0053】
剪断水平モードだけではなくて或るカットオフで全てのモードを含むように処理が拡張される場合には、条件がΔf>(C/C)fとなり、ここで、Cは、縦速度である。この場合、十分広い周波数範囲は、以下の関係を用いて決定可能である:
Δf>C/(2×壁厚さ) (3)
【0054】
広帯域励起は多種多様な方法で達成可能である。例えば、単一の広帯域励起信号(例えば、チャープ状)が使用可能である。
【0055】
図4を参照すると、広帯域励起を得るための他の方法は、少なくとも二つの別々の励起信号を使用しており、各励起はそれぞれ或る周波数範囲を有し、各励起の周波数範囲が、隣の励起のものと重複している。
【0056】
本開示の方法を用いてパイプ壁厚さを測定するために、二列のトランスデューサを有する検査リング、又はそれぞれ一列のトランスデューサを有する二つの検査リングが使用可能である。図5を参照すると、検査リングは、1kHzから100kHzの間の範囲内にある周波数を有するねじれモードガイド波を用いた長距離ガイド波パイプ検査用に使用可能である。縦モードや撓みモード等の他のモードも使用可能である。二つ以上の異なるモードが使用可能である。以下でより詳細に説明するように、厚さ決定方法は、50kHzから800kHzの間の範囲内にある周波数を有する波を使用し得る。
【0057】
マスキング
マスキングプロセスは、パイプ壁厚さを測定するために多重モードを採用して壁の厚さを「選ぶ」(pick)のに用いられる。このプロセスは、特定のモードに依存するものではなく、一つ以上の利点を有し得るものであり、その利点として、ノイズに対するロバスト性の向上、分解能の最適化(壁厚さに関係しない)、結果信号のサイズの周波数ステップよりも分解能を細かくする可能性等が挙げられる。
【0058】
図6及び図7を参照すると、マスキングプロセスは、ノイズ除去された広帯域周波数領域信号(例えば、二つ以上の周波数領域信号を単一の周波数領域信号に組み合わせ、次いでフィルタリングすることで得られた信号)を取り、厚さ値を返す。
【0059】
パイプの厚さは、組み合わされてノイズ除去された周波数領域信号を一組のマスクと比較することによって、決定される。マスクは、図7に示されるように人工的に生成された信号である。一つのマスクは、指定の調査範囲内の或る範囲の周波数(つまり、前述の周波数)について構築される。各マスクは、実信号と同じ長さとなるように、つまりNFFTで構築される。言い換えると、マスクは、実データと同じ時間ステップdt(これはサンプル間のサンプリング速度の逆数である)で時間領域において構築される。これは、周波数ステップが、実データのようにマスクに対して同じになることを保証する。これは、マスクと実データの乗算等の演算をより単純で簡単で意味のあるものにし得る。言い換えると、実データとマスクは単一の周波数軸を共有する。
【0060】
各マスクは全てのマスクの行列Mの行を成す。行列Mに実信号を含む列ベクトルPを掛けることによって、各マスクが実信号にどれほど近くマッチしているのかを記述するベクトルCが得られ、Cの長さは、行列Mのマスク(行)の数に等しい:
C=MP (4)
【0061】
Cの最大値の指標を、使用したfの値と照合して、対応のマスクを生成することができる。剪断速度の値が分かっている場合には、周波数fを用いて厚さを計算することができる。
【0062】
このプロセスを所望の分解能を維持しながらより効率的にするため、まず、プロセスを粗いステップサイズのfで行う。そして、ベストマッチの値のfを、より細かな間隔のマスクの範囲の中央値として用いる。このプロセスは、分解能が所定の閾値に合うまで繰り返される。
【0063】
図7に示される例示的なマスクは、剪断水平モードのみを調べるように構築されているが、他のガイド波モードを調べるように他のマスクが構築可能である。
【0064】
周波数を選ぶためのマスキング法の使用は、複数のモードを用いて壁のサイズを測ることを可能にする。これは複数の利点を有し得る。第一に、いずれか一つのモードに依存していない。例えば、AH1モードが励起範囲未満である場合でも、より高次のモードを用いて、壁のサイズを正確に測ることができる。使用可能なモードが多いほど、測定がノイズに対してよりロバストになる。
【0065】
分解能は、測定結果同士の間で検出可能な壁厚さの最小変化として定義可能である。周波数軸上のビンサイズが、分解能を決定する最も重要な要因である。図6を参照して、周波数ステップサイズが500Hzであり、壁厚さが27mmである場合を検討してみる。AH1モードのみを用いると、ピークは60.2kHzと予測される。この値が60.7kHzになった時にだけ変化が見られ、これは、厚さ26.77mmに相当しているので、分解能は0.23mmになる。しかしながら、複数のモードを用いることによって、より高い周波数で利用可能なより高い分解能を活用することができる。図6に示される信号については、このプロセスは、0.04mmの分解能に相当している図示の最高周波数モードに対する変化を感知可能である。これは、単純にピークを選ぶ方法のみを用いた場合の分解能であるが、マスキング法の他の利点は、周波数ビンサイズよりも小さな変化も感知可能となる点である。
【0066】
この点を例示するため、ビンサイズが500Hzであり、信号が100kHzから100.5kHzの間のいずれかの点に中心周波数を有する場合を検討してみる。複数のマスクを、100kHzから100.5kHzの範囲内に中心周波数を有するようにして構築することができる。マスクと結果の両方が100kHzと100.5kHzのいずれかにピークを有する一方で、中心周波数のはるかに良好な推定を、ベストマッチのベクトルCから得ることができる。
【0067】
複数のモードを使用することは、壁の厚さを決定するのに用いられる計算量を減らすのに役立ち得る。他方、単一モードを使用する場合、時間領域から周波数領域に変換する前にゼロパディング(ゼロ埋め)を追加して分解能を改善し得るが、これは計算のオーバーヘッドを増やし得る。
【0068】
また、複数のモードを使用することは、モード間の間隔にパイプの厚さがエンコードされるという点を活用している。単一モードを用いては、これは活用されない。更に、自動設定では、壁の近似的な厚さの事前情報無しで又は仮定を行わずに厚さを測定することは困難である。
【0069】
測定が特定のモードに依存する場合には、モードが励起範囲内にあることを保証する必要がある。これには二つの問題が生じ得る。第一に、極端に広帯域な励起を用いない限り、パイプ毎に励起設定を変更する必要があり、複雑性が増し得る。第二に、変換システムが許容可能な周波数応答を有さなければならない。例えば、外的要因(トランスデューサ本体の共鳴等)が、対象の周波数範囲内に望ましくない共鳴をもたらし得る。
【0070】
一部実施形態では、公称厚さに基づいて選択された100kHzから800kHzの範囲内の狭い範囲の励起周波数によって厚さ決定を行い得る。そして、特定のモードが励起され、100kHzから800kHzの範囲内の応答の共鳴ピークを使用して、一つのカットオフ周波数のみを含む狭い周波数範囲で構造体の厚さを決定し得る。
【0071】
検査システム1
図8から図10を参照すると、ガイド波を用いてパイプ2や他の同様の構造体を検査するためのシステム1が示されている。検査システム1は、パイプ2に永続的に又は取り外し可能に取り付けられるトランスデューサアセンブリ3(又は「検査リング」とも)と、ガイド波機器4と、信号処理システム5とを含む。
【0072】
検査リング3は、パイプ2内にガイド波13を発生させ且つ欠陥や特徴部(図示せず)から反射された波14を検出するためのトランスデューサ12の第一アレイ11と第二アレイ11を支持するバンド10(又は「カラー」)を備える。以下でより詳細に説明するように、特定の離散的な超音波15(本願においては「超音波モード」や単純に「モード」とも称される)は、第一アレイ11のトランスデューサ12によって生成され、第二アレイ11のトランデューサ12によって検出可能であり、これを用いて、パイプ2の壁の厚さtを測定することができる。トランスデューサ12は好ましくは圧電トランスデューサの形態を取り、適切なトランスデューサの例は、本願に参照として組み込まれる特許文献2が参照可能である。各アレイ11、11は、例えば16個や32個のトランスデューサ12を備え得るが、16個よりも少ない、16個から32個の間、32個よりも多いトランスデューサ12ともなり得る。トランスデューサ12はセクタ16(又は「チャネル」)にグループ化され、例えば、八つのセクタ16となり、各セクタ16が、2個から9個の間、又はそれ以上の数のトランスデューサ12で構成される。
【0073】
各アレイ11、11は、検査リング3の設置時にトランスデューサ12がパイプ2の周囲に配置されるようにして配置構成される。第一アレイ11と第二アレイ11はバンド10の幅方向にわたってずらされていて、検査リング3の設置時に、二つのアレイ111、112がパイプ2の縦(長手)軸17に沿ってずれているようにされる。適切な検査リングの一例は、ガイディド・ウルトラソニックス社(英国ロンドン)製のgPIMS(登録商標)リングである。それぞれ一つのトランスデューサアレイのみを有する二つの別々のリング3を使用することもできる。
【0074】
ガイド波機器4は、適切な周波数(通常は数百キロヘルツ(kHz)程度)と適切な形状(例えば、kサイクルの適切にウィンドウ処理された(windowed)トーンバーストやチャープ信号等であり、ここでkは1以上の正の数、好ましくは整数又は半整数、好ましくは3≦k≦10の範囲内の値を取り、適切なウィンドウ処理用関数はガウス関数となり得る)を有するRF信号18を発生させることができる信号発生器(図示せず)を含む。信号発生器(図示せず)は送信トランスデューサ12にRF信号18を与え、その送信トランスデューサが信号18をパイプ壁2内のガイド波に変換する。
【0075】
受信トランスデューサ12は、受信したガイド波を電気信号19に変換する。受信トランスデューサ12は、電気信号19を受信器(図示せず)に与える。信号受信器(図示せず)は、増幅器(図示せず)と、電気信号19のデジタル化信号を生成するアナログデジタル変換器(図示せず)とを含み得る。
【0076】
ガイド波機器4は、それぞれピッチキャッチモードで第一アレイ11のトランスデューサを励起し、第二アレイ11のトランスデューサから信号を受信する。ガイド波機器4は、第一アレイ11の一セクタ16のトランスデューサ12を励起し、第二アレイ11の対応セクタ16の対応トランスデューサ12から信号を受信し得る。ガイド波機器4は、第一アレイ11の全てのトランスデューサ12を励起し、第二アレイ11のトランスデューサ12を順にサンプリングし得る。これは、多重化で用いることができ、また、動作の単純化を促進するように使用し得る。
【0077】
ガイド波機器4と信号処理システム5を単一ユニットに統合し得る。信号処理システム5は、一つ以上のCPUと、任意で一つ以上のGPUを有するラップトップ型、タブレット型、又は他の形態のポータブルコンピュータとなり得る。信号処理システム5は遠隔配置され得て、例えばサーバーファームに配置されて、通信ネットワーク6(例えば、インターネット)やローカル接続(例えば、USB)を介してシステムの残りの部分に接続され得る。適切なガイド波機器の例として、ガイディド・ウルトラソニックス社(英国ロンドン)製のG4 Mini(Full)、Wavemaker G4、gPIMS Mini Collectorや他の機器が挙げられる。
【0078】
また、図10を参照すると、バスシステム24で相互接続された少なくとも一つのプロセッサ21とメモリ22と入出力モジュール23を備えるコンピュータシステム20によって、信号処理システム5が実現されている。システム20は、グラフィックス処理ユニット(GPU)25とディスプレイ26を含み得る。システム20は、キーボード(図示せず)やポインティングデバイス(図示せず)等のユーザ入力デバイス27と、ネットワークインターフェース28と、ストレージ29(例えば、ハードディスクドライブ及び/又はソリッドステートドライブの形態)を含み得る。ストレージ29は、厚さ測定ソフトウェア30と、測定データ31を記憶する。ガイド波機器4と信号処理システム5が共に配置されているか(例えば、信号処理システム5が機器4に直接接続されたラップトップ型コンピュータの形態と取っている場合)又は単一ユニットに統合されている場合には、コンピュータシステム20を用いてガイド波機器4を制御し得て、また、ストレージ29がガイド波検査ソフトウェア33を含み得る。
【0079】
厚さ測定は、ガイド波機器4によって実施され得る。
【0080】
特に図8図9を参照すると、システム1を用い、パルスエコーモードで長距離ガイド波13、14を用いてパイプ2を検査し、パイプ2のひび割れと腐食と他の欠陥(図示せず)を検出し、及び/又は、そうした欠陥の進行を監視し得る。また、システム1を用い、ピッチキャッチモードでガイド波15を用いて厚さ方向共鳴でパイプ2の壁の厚さtも測定し得る。
【0081】
パイプ壁厚さの測定‐概要
図8図9図11及び図12を参照すると、第一アレイ11のトランスデューサ12(「送信トランスデューサ」)を用いて、パイプ壁2内に異なる周波数の一連のガイド波15(好ましくは剪断水平波モード15)を励起し、第二アレイ11のトランスデューサ12(「受信トランスデューサ」)を用いて、超音波15を検出する。中心周波数f、f、f(f>f>f)を有する一連の励起信号によってトランスデューサ12が励起される。fが110kHz、fが220kHz、fが440kHzであるが、他の中心周波数も使用可能である。第二中心周波数fと第三中心周波数fは、第一中心周波数fの倍数である必要は無い。
【0082】
特に図11図12を参照すると、所与の周波数(例えば、f)の各励起信号18から受信トランスデューサ12によって生成された各時間領域応答19が処理され、また、任意で、一つ以上の他の周波数(例えば、f、f)の励起信号18からの他の処理済み応答と組み合わせられて、周波数領域応答41を与える。
【0083】
時間領域応答19は、好ましくは、組み合わせ(又は「統合」)の前に、それぞれ周波数領域応答に変換される。各周波数領域応答及び/又は組み合わせた周波数領域応答からコヒーレントと非コヒーレントのノイズが低減、例えば除去されて、クリアな(つまり、ノイズの少ない)周波数領域応答が得られる。渡過信号等のコヒーレントなノイズと非コヒーレントなノイズは、ウェルチ法を行うことによって、単一スペクトル分析によって、又は、周波数領域信号に対するコヒーレントと非コヒーレントのノイズを低減するための他の適切な方法によって、低減可能である。
【0084】
周波数領域応答41は、パイプ2に発生したモード15に対応している一つ以上の特有の特徴部42、42、42(例えば、ピーク)を含み得る。図12に示される例では、それぞれ第一周波数fα、第二周波数fβ、第三周波数fγに三つの特徴部42、42、42が存在している。この場合、特徴部42、42、42は略均一な周波数間隔で離れていて、三つの剪断水平モードに対応している。三つの特徴部42、42、42が示されているが、特徴部42、42、42の数は励起信号の数と同じである必要は無く、より少ない又は多い数のモード、つまりは特徴部が、励起信号17によって生成され得る。特徴部は、例えばモードの種類に応じて、異なる振幅を有し得て、また、異なる相対的位置を有し得る。特に、異なる複数のモードが存在する場合、特徴部42、42、42は等間隔である必要は無い。
【0085】
また、図13図14を参照すると、応答41が、一つ以上のマスク信号43(又は「マスク」、又は「基準周波数領域信号」とも)の組と比較され(例えば、畳み込みや上記式(4)を用いることによって)、各スコア45が得られるが、ここでi=1,2,…,mであり、各マスク43は所与の厚さのパイプ壁2についての周波数領域信号に対応している。マスク43は生成(例えば、シミュレーション)又は測定され得る。各マスク43は、一つ以上の特徴部44i,jを含み、ここでj=1,2,…,pである。各マスク43は、好ましくは、周波数領域応答41と同じ数の特徴部を含む。
【0086】
マスク信号43は、必ずしも予測信号の複製である必要は無い。特に、マスクの振幅は、予測又は測定された振幅である必要は無い。しかしながら、好ましくは、正確な測定の確率を最大にするのに役立つことができるマスク振幅が使用される。
【0087】
応答41とマスク43の特徴部の位置が近い場合には、対応のスコア45が高くなる。パイプ壁2の厚さは、最高のスコア45をもたらすマスク43の厚さとなるように選択される。
【0088】
パイプ壁厚さの測定‐プロセス
以下、図8から図10と、図15から図20を参照して、超音波を用いてパイプの壁の厚さを決定する方法をより詳細に説明する。本方法は、厚さ測定ソフトウェア30の制御下でプロセッサ21によって行われる。明確にするため、プロセスは、一つのプロセッサ21のみを用いるものとして説明される。局所的な厚さの測定は、パイプの各セクタ(つまり、パイプの外周の各部)について行われるので、パイプの外周周りの厚さの複数の測定値を与える(リングの箇所のパイプ壁について一つ(例えば、平均化された)値が得られるのとは対照的である)。
【0089】
各チャネルについて、第一チャネル、つまり所与のセクタ16内の一組のトランスデューサ12で開始して(ステップS1)、信号処理ユニット5が、一組の時間領域応答19(又は「信号」)を含むファイルを受信する(ステップS2)。図17a、17b、17cは、それぞれ110kHz、220kHz、440kHzの励起信号から測定された時間領域応答19の例を示す。
【0090】
プロセッサ21が信号19を処理する(ステップS3)。
【0091】
プロセッサ21は、ウィンドウ処理(windowing)、つまり、所与の時間ウィンドウ51(範囲)内の応答19の一部を抽出することによって、各時間領域応答19をトリミングする(ステップS3.1)。図18a、18b、18cは、ウィンドウ処理後の測定時間領域応答19’の例を示す。プロセッサ21は、各時間領域応答19’を周波数領域応答に変換する(ステップS3.2)。プロセッサ21は、それら複数の周波数領域応答を単一の組み合わされた(又は「統合」された)周波数領域応答に組み合わせる(ステップS3.3)。図19は、周波数領域応答40の例を示す。次いで、プロセッサ21は、統合された周波数領域応答をクリアにする(つまり、ノイズ除去する)(ステップS3.4)。図20は、周波数領域応答41の例を示す。
【0092】
次いで、プロセッサ21は、ベストマッチのマスクを探して、パイプ壁の厚さを決定する(ステップS6)。
【0093】
プロセッサ21は、厚さのシード値(本願において単純に「シード」とも称される)を用いて、処理時間の削減及び/又は信頼性の向上を促進し得る(誤った選択の確率を減らすことによって)。
【0094】
プロセッサ21は、使用された励起周波数に基づいて広範囲(又は「初期設定範囲」)の厚さにわたってベストマッチの厚さを探す。初期設定(デフォルト)範囲は5mmから25mmとなり得る。初期設定範囲は、パイプ内で励起される周波数範囲内に少なくとも二つの目標モードが存在するようになる厚さ範囲となるように決定され得る。
【0095】
調査範囲を減らし得る。例えば、8mmのシードを例に挙げると、プロセッサ21は、7mmから9mmの間の厚さを調査する。
【0096】
初期設定では、所与のガイド波機器4(図8)の特定のチャネル(つまり、特定のトランスデューサ12)について以前に測定された厚さが、後続の測定用のシードとして用いられ得る。従って、ガイド波機器4(図8)の特定のチャネルについての一回目の厚さ測定はシード化されていない。初期設定のシードをオーバーライドするため、又は、それが利用可能ではない場合にシードを与えるために、ユーザ定義のシードを与え得る。逆に、シードが利用可能な場合であっても、シードをオーバーライドして、全範囲検査を行うことができる。
【0097】
プロセッサ21は、調査内に一組のマスクがあるのかどうか、そして、範囲内の所与の厚さについてマスクが存在していないのかどうかを決定し、次いで、プロセッサ21がマスクを生成し得る(ステップS5)。
【0098】
次いで、プロセッサ21はベストマッチのマスクを決定する(ステップS6)。
【0099】
マスクが見つかり、パイプ壁2の厚さが十分な分解能(例えば、20μm以内)で決定されると、プロセスが終了する。しかしながら、ベストマッチが十分な分解能を有していない場合、調査範囲を増やして、ベストマッチを見つけるプロセスを続ける(ステップS7)。
【0100】
温度補償/速度較正
上述の厚さ測定プロセスは、壁厚さを測定するのに用いられる装置が、細長構造体に沿った特徴部や欠陥までの距離を測定して、温度に依存する剪断速度の変化を補償するのにも使用可能であるという点を活用することができる。
【0101】
図21を参照すると、信号処理システム5(図8)を用いて、剪断速度と密度の初期値を用いて、所与のプレート状構造体(つまり、適切な細長構造体又は伸展構造体)についての一組の初期分散曲線を生成することができる(ステップS11)。分散曲線51は、あらゆる厚さの構造体について生成可能であり、カットオフ周波数、つまりは使用するマスクを決定するのに使用可能である。ガイド波機器4(図8)を用いて、測距を行い(ステップ12)、好ましくは、パイプの場合、検査リング3と基準特徴部52(溶接部や支持部等)との間でねじれモードを用いて、検査リング3と基準特徴部52との間の到達時間を求める。ガイド波機器4はユーザから検査リング3と基準特徴部52との間の距離Lの値を受信する(ステップS13)。距離Lと到達時間tが分かると、パイプ壁中のねじれモードの速度CT(0,1)(温度に依存する)を、CT(0,1)=2×L/tを用いてパルスエコー飛行時間測定から導出することができる。この速度CT(0,1)はバルク剪断速度Cに等しく、これを用いて、一組の補正された分散曲線を生成することができる。
【0102】
監視中においては、剪断速度Cの変動(例えば、温度変化に起因する)を補正し得る。基準飛行時間測定を行い、基準値Trefを見つけて、記憶し得る。続いて、飛行時間Tを測定し、基準値Trefを用いて、増倍率αを計算する(ステップS14)。コンピュータシステム5(図8)は、この増倍率αを用いて、剪断速度Cを補正して、一組の新たな分散曲線51’を生成する(ステップS15)。
【0103】
ねじれモードで説明されているが、他のモード(縦モードや撓みモード)も使用可能であるものの、その剪断速度の決定プロセスはより複雑である。プレートの場合、剪断水平モードが使用され得る。バーの場合、ねじれモードが使用され得る。
【0104】
個々のピークを用いた厚さ測定
前述のように、マスキングプロセスを用いて、細長構造体又は伸展構造体の厚さ(例えば、パイプの壁の厚さ)を決定することができる。これは、ピーク位置だけではなくて、ピークの間隔によっても与えられる情報を利用し得る。
【0105】
これに限らず、一部実施形態では、細長構造体又は伸展構造体の厚さを決定するのに、ピッチキャッチモードで二列のトランスデューサを用い得て、そのうち一列のトランスデューサと、100kHzから800kHzの間の範囲内にある励起信号(又は複合励起信号)を用いてパイプ内にガイド波を生成し、他の列のトランスデューサがガイド波を受信し、信号を測定して、周波数領域信号のピークを見つけ、t=v/(2×f)(ここで、fは測定周波数であり、vは速度である)を用いて、厚さを計算する。
【0106】
修正
前述の実施形態に多様な修正が行われ得ることを理解されたい。そうした修正として、等価物や、ガイド波検査システムとその部品の設計、製造、使用において既知であって上述の特徴に代えて又は加えて使用可能な他の特徴が含まれ得る。一つの実施形態の特徴は、他の実施形態の特徴で置換又は補完され得る。
【0107】
特許請求の範囲は、具体的な特徴の組み合わせで本願において規定されているが、本発明の開示範囲は、係属中の請求項に記載されているのと同じ発明であろうとなかろうと、本開示と同じ技術的問題の一部又は全部を軽減するものであろうとなかろうと、本願に明示的又は暗示的に開示されているあらゆる新規特徴や新規組み合わせの特徴やそれらの一般化も含むものである。本出願人は、本願又は本願から派生する更なる出願の係属中にそうした特徴やそうした組み合わせの特徴についての新たな請求項が規定され得る点に注意を促すものである。
【符号の説明】
【0108】
1 検査システム
2 パイプ
3 トランスデューサアセンブリ(検査リング)
4 ガイド波機器
5 信号処理システム
10 バンド
11 トランスデューサアレイ
12 トランスデューサ
13 ガイド波
14 反射波
15 超音波
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【国際調査報告】