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特表2022-504779基底細胞癌および神経膠芽腫を治療する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】基底細胞癌および神経膠芽腫を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/04 20060101AFI20220105BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220105BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20220105BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220105BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 31/437 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61K35/04
A61P35/00
A61P43/00 105
A61K9/06
A61K47/10
A61K47/36
A61K47/44
A61K47/12
A61K47/34
A61K45/00
A61K31/513
A61K31/437
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021520146
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(85)【翻訳文提出日】2021-06-07
(86)【国際出願番号】 US2019054994
(87)【国際公開番号】W WO2020076695
(87)【国際公開日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】16/393,053
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/155,558
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521147086
【氏名又は名称】バック、キャロル、ジェイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バック、キャロル、ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076BB11
4C076BB31
4C076CC27
4C076DD09E
4C076DD37
4C076DD41
4C076EE23
4C076EE30
4C076EE53
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZC412
4C086AA01
4C086BC43
4C086CB05
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZC41
4C087AA01
4C087AA02
4C087BA03
4C087CA01
4C087MA28
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB26
(57)【要約】
基底細胞癌または神経膠芽腫を有する患者にコールタールまたはコールタール生成物を投与することによって基底細胞癌または神経膠芽腫を治療する方法が本明細書で提供される。コールタールまたはコールタール生成物は、単独療法として、または基底細胞癌もしくは神経膠芽腫の他の治療と組み合わせて投与され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基底細胞癌を治療するための方法であって、それを必要とする患者に治療有効量のコールタール生成物を投与することを含む、上記方法。
【請求項2】
前記コールタール生成物が医薬組成物中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記医薬組成物が基底細胞癌に局所的に適用される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基底細胞癌への局所適用が、単位投与量分注装置、針、マイクロ針、無針注射装置、事前充填塗布器、注入パッド、飽和ワイプ、接着包帯もしくはタブ、クリーム、ゲル、軟膏、またはワセリンベースの軟膏によるものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コールタール生成物がコールタールUSPである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記コールタール生成物が、

炭化水素 重量%
フェナントレン 29.3
フルオランテン 12.6
アントラセン 10.3
ビフェニル 9.5
ピレン 9.1
フルオレン 7.7
ナフタレン 5.7
カルバゾール 4.7
ジベンゾフラン 4.5
2-メチルナフタレン 1.8
クリセン 1.2
ベンゾ(a)アントラセン 1.1
1-メチルナフタレン 0.9
アセナフテン 0.6
インデン 0.6
キノリン 0.4
合計 100%

を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記コールタール生成物がコールタール軟膏USPである、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記コールタール生成物がコールタール局所溶液、USPである、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記医薬組成物が、
ヒマシ油 20~30%
変性アルコール 20~30%
コールタールUSP 0.05~2%
キサンタンガム 1~3%
冬緑油 0.025%
脱イオン水 40~55%
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記医薬組成物が、
ヒマシ油 25%
変性アルコール 25%
コールタールUSP 2%
キサンタンガム 1.6%
冬緑油 0.025%
脱イオン水 46.375%
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記医薬組成物が、
12%酢酸水溶液 20~35%
ブドウ種子油 65~80%
コールタールUSP 0.5~2.5%
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
前記医薬組成物が、
12%酢酸水溶液 27.7%
ブドウ種子油 70.6%
コールタールUSP 1.7%
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記医薬組成物が、
コールタール 50~250g
ポリソルベート80 40~60g
アルコール、製造するのに十分な量 1000ml
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
前記医薬組成物が、
コールタール 200g
ポリソルベート80 50g
アルコール、製造するのに十分な量 1000ml
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項15】
前記医薬組成物が、

炭化水素 重量%
フェナントレン 29.3
フルオランテン 12.6
アントラセン 10.3
ビフェニル 9.5
ピレン 9.1
フルオレン 7.7
ナフタレン 5.7
カルバゾール 4.7
ジベンゾフラン 4.5
2-メチルナフタレン 1.8
クリセン 1.2
ベンゾ(a)アントラセン 1.1
1-メチルナフタレン 0.9
アセナフテン 0.6
インデン 0.6
キノリン 0.4
合計 100%

と定義される炭化水素混合物の1.27%w/wのDMSO溶液を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項16】
外科的切除、凍結手術、掻爬・電気凝固術、電気外科手術、局所化学療法、放射線、電子皮膚表面近接照射療法、レーザー療法、およびモース手術、またはそれらの組合せからなる群より選択される基底細胞癌の少なくとも1つのさらなる治療を、前記患者に施すことをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項17】
前記基底細胞癌のさらなる治療がモース手術である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記基底細胞癌のさらなる治療が、5-フルオロウラシルまたはイミキモドを用いた局所化学療法である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
基底細胞癌を予防する方法であって、以前に基底細胞癌について治療された患者に治療有効量のコールタール生成物を投与することを含む、上記方法。
【請求項20】
前記コールタール生成物が、基底細胞癌が以前に出現し、治療された患者の皮膚の領域に投与され、前記方法が、以前に治療された基底細胞癌の再発を予防する、請求項19に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月9日に出願された米国特許出願第16/155,558号の一部継続出願であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、コールタールおよび/またはコールタール生成物の投与によって基底細胞癌および神経膠芽腫を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
基底細胞癌
【0004】
哺乳動物の表皮の基底層、すなわち胚芽層は、表皮の5つの層のうちの最も深い層であり、既存の細胞が死滅するにつれて新しい皮膚細胞を産生する。これは、細胞の連続層を形成し、ほとんどの場合、細胞のDNAに損傷をもたらす太陽からの紫外線または日焼けマシーンなどの人工光源への長期曝露後に新生物になる。基底細胞癌(BCC)は、最も一般的には頭部、頸部および腕の皮膚に出現し、体幹および脚などの衣服で覆われた身体の領域に現れる頻度は低い。BCCの外観はかなり多様であり、治癒しない増殖もしくはびらんとして、または半透明、ピンク色、真珠様白色、褐色、黒色もしくは青色のわずかに隆起した増殖として現れる。時には、モルフェア型BCCと呼ばれる白色の瘢痕様病変であり得、ワックス状の外観を有する。まれな場合には、BCCは近くの筋肉、神経、または骨に移動し、これらの組織に損失または損傷を引き起こし得る。BCCの概略図を図1に示す。
【0005】
BCCの現在の治療には、診療所内での外科的切除、凍結手術(液体窒素凍結)、掻爬・電気凝固術、電気外科手術(電気針による焼灼)、5-フルオロウラシル(5-FU)およびイミキモドなどの薬剤を用いた局所化学療法、放射線(ディスク)、電子皮膚表面近接照射療法(ESSB)、ならびにレーザー療法が含まれる。モース術は、再発のリスクが高いより大きなBCC腫瘍に使用され、細胞の外科的除去および凍結を層ごとに繰り返し、各層を直ちに顕微鏡検査して、検出されなくなるまで、残存する癌性細胞があるかどうかを判定することを含む。これに続いて、必要に応じて、縫合、皮膚移植、または形成外科手術で開口部を閉じる。モース手術は治癒率が最も高く、皮膚を保存する必要性が最も重要である顔面のBCCにしばしば使用される。
【0006】
神経膠芽腫
【0007】
神経膠芽腫は、脳および脊髄の神経膠細胞の癌である、ステージIVの神経膠腫である。神経膠芽腫は、侵襲性の高い悪性腫瘍であり、常に致死的であり、最も一般的なタイプの脳腫瘍である。ひとたび神経膠芽腫が存在すると、患者の予想される全生存期間の中央値は、14~17ヶ月である。神経膠芽腫は、星状膠細胞と呼ばれる種類の細胞から形成される;そのため、星状細胞腫と称されることもある。Wikipediaによれば、「神経膠芽腫は2つ以上の細胞型(すなわち、星状膠細胞、乏突起膠細胞)を含み得る。また、1つの細胞型は特定の治療に応答して死滅し得るが、他の細胞型は増殖し続け得る。神経膠芽腫は、急速に成長し、近くの組織に広がるため、最も侵襲性のタイプの神経膠腫瘍である。星状細胞腫の約50%は神経膠芽腫であり、治療が非常に困難である。」 多形性神経膠芽腫(GBM)は、成人における全脳腫瘍の60%超を占める。Hanif et al.,2017,Asian Pac.J.Cancer Prev.18:3-9。神経膠芽腫の発生率は10万人当たり3.19人である。Thakkar et al.,2014,Cancer Epidemiol.Biomarkers Prev.10:1985-96。
【0008】
標準治療は、外科的切除、それに続く1~4週間以内の放射線療法、それに続く化学療法からなる。脳内の位置または患者の健康状態のために腫瘍が手術不可能であると考えられる場合は、ロボット定位放射線手術がしばしば好ましい。実験的治療には、免疫調節剤、抗体薬物コンジュゲートなどの生物学的製剤、ホウ素中性子捕捉療法および遺伝子療法が含まれる。そのような遺伝子療法の1つは、現在第2相および第3相臨床試験を受けているDNA標的剤、VAL-083(ジアンヒドロガラクチトール)である。Murphy et al.,Transl Res.2013 Apr;161(4):339-354。ヒト炎症性サイトカインであるインターロイキン-12(IL-12)をコードする誘導性アデノウイルスベクター、Ad-RTS-hIL-12と、経口活性化因子リガンドであるベレディメクスは、成人の再発性または進行性多形性神経膠芽腫の治療のために臨床開発中であり、平均余命を現在の標準治療よりも約6ヶ月延長することが示されている。
【0009】
神経膠芽腫の症状を感じるまでに、その触手は脳内に広がっている。触手は、核が他の癌において通常見られる可視の中心なしに脳のニューロンの周りを包むので、腫瘍への注射は現在のところ賢明ではない。核の位置を特定する公知の方法はないので、腫瘍への注射は通常無効である。手術は、一般に、頭蓋腔内の腫瘍のバルクによって引き起こされる圧力の低下に起因する症状の緩和をもたらす治療の最初のコースである。平均98%~99%の腫瘍細胞が除去される。蛍光誘導切除術は、生存期間を延ばす目的で、可能な限り多くの腫瘍組織を取り出すために用いられることが多い。Stummer et al.,2000,J.Neurosurg.93:1000-1013。MRI誘導レーザーアブレーションは、可能な限り多くの悪性腫瘍を切除する別の手段である。Kubben et al.,2011,The Lancet 12:1062-1070。切除前に神経膠芽腫細胞の位置を特定するための別の方法は、非蛍光プロドラッグである5-アミノレブリン酸(5-ALA)を使用し、これにより、蛍光ポルフィリンが悪性神経膠腫細胞に凝集し、その後、開頭術中に青色光下で可視化される。5-ALAは、神経膠芽腫患者に静脈内投与または経口投与することができる。
【0010】
切除の後に、しばしば術後定位放射線手術が続く。C11メチオニン陽電子放射断層撮影(MET-PET)イメージングは、部分的に崩壊した手術腔内の残存する疾患の位置を特定し、標的化するのに役立つ。P.M.Wald,et al.,International Journal of Radiation Oncology,Biology,Physics.Volume 96,Number 2S,Supplement 2016。これらの処置にもかかわらず、神経膠芽腫細胞は生存しているか、または外科医の手の届かない場所に既に転移しており、腫瘍の再増殖をもたらす。再増殖は迅速であるため、化学療法治療は通常即時である。
【0011】
数十年間、神経膠芽腫のために承認された血液脳関門(BBB)を越えることができる新しい化学療法剤は存在しなかった。DNAをアルキル化/メチル化する薬剤であるテモゾロミドは、依然として最も広く使用されており、放射線療法中に服用される。他の薬剤としては、ジアルキル化剤であるカルムスチン、アルキル化剤であるロムスチン、チューブリンタンパク質に結合するビンクリスチン、アルキル化剤であるシスプラチン、血管新生阻害剤であるベバシズマブ、DNAトポイソメラーゼIIの阻害剤であるエトポシド、およびアルキル化剤であるプロカルバジンが挙げられる。放射線のより正確な標的化が可能な生物学的製剤およびデバイスに有利な新しいまたは転用された小分子は開発されていない。
【0012】
血液脳関門(BBB)は、ほとんどの医薬化合物が血液から脳に移動するのを防ぎ、小分子のみがこれらの機能を果たすことができる。BBBに加えて、神経膠芽腫は、末梢領域に血液脳腫瘍関門(BBTB)と呼ばれるさらなる障壁を形成し、薬物に対する二重の障壁を作り出す。様々な薬物輸送体および受容体媒介薬物送達システムは、ナノ粒子の表面での細胞透過性腫瘍標的化ペプチドの薬物送達および探索的使用を選択的に増強する。Dong X,Theranostics.2018;8(6):1481-1493。
【0013】
モノクローナル抗体と呼ばれるクラスの薬物の中で、ベバシズマブは、免疫系を活性化して生存する神経膠腫細胞を攻撃することによって、初期治療と腫瘍再増殖との間の時間を延長するために使用される。ベバシズマブは静脈内注入によって送達される。
【0014】
手術後に神経膠芽腫細胞を治療するための1つの実験的アプローチは、生分解性ポリ乳酸足場への化学療法剤の局所送達を含む。ポリ乳酸足場上の外科的切除腔に送達された間葉系幹細胞は、腫瘍の死滅をもたらすと考えられている。Sheets et al,「Image-Guided Resection of Glioblastoma and Intracranial Implantation of Therapeutic Stem Cell-seeded Scaffolds」,J.of Visualized Experiments(Jul 2018)。他の研究は、神経膠腫において細胞死を誘導するために腫瘍切除腔に移植されたカプセル化された治療用幹細胞の使用を支持している。Kauer et al,Nat Neurosci 15:197-204。
【0015】
米国食品医薬品局は、癌細胞分裂を妨げるために頭蓋を通して穏やかな電荷を送るキャップ状装置である腫瘍治療電場(TTフィールド)を承認した。目標は、正常細胞への損傷を回避しながら、腫瘍の成長または転移速度を遅らせることである。TTフィールドは治療法ではないが、化学療法および放射線に関連する疼痛、吐気、疲労または下痢を回避するという利点を有する。
【0016】
照射ホウ素同位体(ホウ素-中性子再捕捉としても知られる)は、神経膠芽腫を標的化する方法として数十年にわたって研究されてきた。最近の臨床試験では、標準的な放射線療法と組み合わせてホウ素中性子再捕捉療法で治療された悪性神経膠芽腫の患者は、標準療法の患者よりも有意に長く生存した。
【0017】
コールタール
【0018】
コールタールは、コークス炉内で石炭を加熱して揮発性物質を除去することによって作られる。コークス化プロセスの説明は、Cooper Creek Chemical Corporationのウェブサイトで、「How is Crude Coal Tar Derived(粗コールタールはどのようにして得られるか)」と題する参考文献の下で見ることができる。コールタールは、フェナントレン、アセナフテン、フルオレン、アントラセンおよびピリジンを含む多環芳香族炭化水素を主成分とする混合化合物である。コールタールは水に不溶性であるが、ベンゼンには大部分が溶解し、アルコール、エーテル、クロロホルム、アセトン、二硫化炭素、クロロホルム、およびメタノールには部分的に溶解する。
【0019】
実質的にすべての市販のコールタールは、石炭からの高炉コークスの製造の副産物として製造される。現代のコークス炉は、大きな水平室での石炭の乾式蒸留に基づく。チャンバは、1,100℃を超える温度まで石炭を加熱することを可能にするためにセラミック材料で構築される。この乾式蒸留によって、石炭はガス、液体(タール)、および固体コークスに分解される。ガスおよびタールは、一連の凝縮器および冷却器に収集され、特定の商品および乾燥燃料ガスを生成するように処理される。
【0020】
液体生成物であるコールタールは、炭化水素と、酸素、硫黄および窒素を様々に含有する他の化合物との複合混合物を含む。これらすべてのコールタール成分の重要な特徴は、コークス炉内の高温の結果である高芳香族化学構造である。
【0021】
コールタールが薬剤として使用される場合、ピッチ(コールタールの27%)は、400℃超で蒸発させることができ、供給業者によって最終薬剤から除去され得る。基底細胞癌または神経膠芽腫を治療するために使用されるコールタールUSPがピッチを含まず、確立された粘度基準に適合することを保証するために、ガスクロマトグラフィまたはHPLCを使用することができる。
【0022】
特定のコールタール留分の回収は、最初はそれらの沸点範囲に基づいており、標準的な市販の蒸留装置で実施される。通常、沸点範囲の順に以下の3つの留分に重点が置かれる:
1.軽油、BTX留分。この留分は、主に単一の芳香環を有する化合物、すなわちベンゼン、トルエンおよびキシレンを含み、したがって「BTX」という用語を含む。これらの3つの化合物の沸点は、それぞれ80、111、および138~144℃である。
2.ナフタレン留分。これは、沸点218℃の貴重な化学物質ナフタレンの大部分を含む。
3.蒸留留分。これは、コールタールの残りの蒸留可能留分である。一般にピッチと称される高沸点非蒸留性部分は、液体として蒸留器から除去される。これは通常、元のタールの半分超である。
【0023】
蒸留留分は、蒸留塔の頂部から蒸気として蒸留器から出て行き、回収のために凝縮される。蒸留留分の主要部分を構成する化合物は、医療目的のコールタールとして公知である。
【0024】
上記のプロセスに関するさらなる情報については、Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology.1997.New York:John Wiley&Sons,Inc.Volume 23.「Tars and Pitches.」参照。
【0025】
品質管理尺度として、当技術分野で公知の様々な方法を使用して、蒸留留分から上位17の留分を監視および定量し得る(例4参照)。例えば、古典的なカラムクロマトグラフィを使用して17の留分を分離し、移動相または溶離液が純粋なヘキサン(最初の15の留分について)、酢酸エチル(留分16について)、およびメタノール(留分17について)である薄層クロマトグラフィ(TLC)によって監視する。
【0026】
コールタールの治療的使用
【0027】
局所使用のための1つのコールタール溶液は、Universal Preserva-A-Chem Inc.のウェブサイトで、「コールタール局所溶液USP」という製品の下で記載されており、化学式、特性、およびいくつかの同義語が列挙されている。コールタール溶液は、しばしば液状炭素系洗浄剤(liquor carbonis detergens)(LCD)と称される。
【0028】
Wikipediaによれば、「コールタールは1665年頃に発見され、1800年代には早くも医療目的に使用されていた。世界保健機関の必須医薬品リストに掲載されており、保健システムに必要な最も有効で安全な医薬品である。コールタールは、ジェネリック医薬品として店頭で入手可能である。コールタールは、初期の製薬業界にとって重要な出発材料の1つであった。」
【0029】
コールタールは、米国では米国薬局方(USP)グレードで入手可能であり、最大強熱残分は2.0%である。コールタール軟膏USP(コールタールをポリソルベート80(ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレン誘導体)と組み合わせ、酸化亜鉛ペーストとブレンドすることによって得られる)およびコールタール局所溶液USP(コールタールをポリソルベート80と組み合わせ、エタノールで81.0~86.0%のエタノール含有量に希釈することによって製造される)も米国で入手可能である。
【0030】
コールタールUSPは、変性アルコール、処方38-Bおよび38-Fにおける使用が米国で承認されている。多数の製品、コールタール強度、剤形、投与経路およびブランドまたはジェネリック形態が入手可能である。コールタールUSPは、胚芽層に浸透することが公知である。
【0031】
生コールタールは、血液脳関門(BBB)を通過し、神経学的効果を有することが公知である。BBBは、血液中を循環する有害な帯電した化学物質が脳に入るのを防ぐことによって、それらから脳を保護する。したがって、BBBを通過するためには、薬理学的薬剤は非極性でなければならない。
【0032】
The American Society of Health-System Pharmacists;Drug Information 2016.Bethesda,MDは、皮膚科疾患のためのコールタール製品の十分に確立された使用を記載している。コールタールは、フケ、脂漏性皮膚炎および乾癬の管理に使用されており、産生される表皮細胞の数およびサイズを減少させる。これにより、コールタールが皮膚から酸素を抽出し、それによって細胞の再生(有糸分裂)を阻害し、胚芽層および角質層の細胞のサイズおよび数を減少させることが示唆された。別の示唆は、様々な石鹸およびシャンプーに配合されたコールタールが、フケ、脂漏性皮膚炎または乾癬を有する患者において、表皮に浸透し、これらの皮膚障害によって生じる鱗屑を除去することによって治療作用を発揮することである。コールタール中のポリフェノール物質および過酸化物は、表皮のスルフヒドリル基と反応して、日光への曝露から生じるのと同様の皮膚への効果をもたらし得る。この効果は、理論的には表皮増殖および皮膚浸潤を減少させ得る。
【0033】
コールタール製剤は、フケ、脂漏性皮膚炎または乾癬を抑制するために、単独でまたは他の薬物(例えばサリチル酸または硫黄)と組み合わせて局所的に使用される。それらの有効性を実証する十分に制御された試験はほとんどないが、コールタール製剤は、フケに関連するかゆみおよび頭皮の剥離を軽減するため、脂漏性皮膚炎に関連するかゆみ、刺激および皮膚の剥離を軽減するため、ならびに乾癬に関連するかゆみ、発赤および落屑を軽減するために使用され、一般に有効と見なされている。
【0034】
ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)阻害に応答性の障害を治療するためのコールタール成分の組合せは、米国特許第6,337,337号に開示されている。DHFRは、7,8-ジヒドロ葉酸(H2F)の5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(H4F)へのNADPH依存性還元を触媒し、プリン、チミジル酸およびいくつかのアミノ酸の合成経路における必須補因子であるH4Fの細胞内レベルを維持するために必要である。’337特許に記載されている本発明のコールタール組成物は、NADPH上の水素イオンのジヒドロ葉酸レダクターゼへの移動を阻害し、したがってテトラヒドロ葉酸の核内での代謝を妨げると考えられている。新生物細胞は、この結果生じるDNA合成、修復、および細胞複製の妨害に対して、分裂が遅い正常細胞よりも応答性が高いので、’337特許に詳述されているような葉酸代謝拮抗剤療法に応答性の癌は分裂せず、コールタール生成物での治療時に「爆発する」ことが公知である。’337特許は、特定の癌の治療のために葉酸代謝拮抗剤メトトレキサートを機能的に再現するものとしてコールタールの組成物を記載している。
【0035】
コールタールの毒性
【0036】
米国保健福祉省(the U.S Department of Health and Human Services)によるコールタールの毒性の包括的な総説は、2002年に発表され、米国毒性物質疾病登録機関(Agency for Toxic Substances and Disease Registry)のウェブサイトで見られるクレオソート毒性プロフィールに見出すことができる。この資料は、コールタールが扁平上皮癌および他の腫瘍を引き起こすかどうかに関する混合証拠を提供した試験を概説している。検討された研究の多くは、衛生および労働者の安全性の工業基準が現在ほど厳しくなかった、しばしば過去数十年間にわたる、空気中または工場内での長期の職業曝露に関するものであった。さらに、情報で腫瘍形成性の証拠が認められた場合、観察された効果は、コールタールまたはその生成物への慢性曝露と日光への曝露との組合せが必要であった可能性がある。
【0037】
注目すべきことに、試験は、ヒトの皮膚へのコールタール生成物の使用と癌発生率との間に統計的相関を見出さなかった。おそらく、ヒトのコールタール使用に関する最良のデータは、乾癬のためのコールタールの使用者から得られた。特に、政府の総説の136ページに要約されているBhate et al.による試験は、大きな集団を使用し、プラセボ対照で、調べられた癌は広範囲であった。この試験は、癌(合計、皮膚、乳房、子宮頸部、泌尿生殖路、気管支、胃腸管、リンパ腫、またはその他)の発生率が、乾癬を有する2,247人の患者において、乾癬を有さない4,494人の年齢が一致する対照よりも有意に大きくないことを見出した。
【0038】
他の試験では、ヒトにおける生殖リスクは見出されず、総説中の多くの報告された試験にもかかわらず、中枢神経系を含む、ヒトに対する重要な生物学的リスク(5~40年間曝露されたクレオソートタール作業者における良性タール疣贅以外)を同定することはできなかった。
【0039】
コールタールの成分の一部の効果(全体としてのコールタールの効果ではなく)を調べた試験もあった。検討された試験の一部は現在の基準では不十分と見なされるが、結果は、それにもかかわらず、コールタールクレオソートおよびその成分が皮膚腫瘍を誘発し、腫瘍イニシエータおよびプロモータとして作用し得ることを示している。それにもかかわらず、国際癌研究機関(International Agency for Research on Cancer)、米国産業衛生専門家会議(American Conference of Governmental Industrial Hygienists)、国立毒性学プログラム(National Toxicology Program)、および労働安全衛生庁(Occupational Safety and Health Administration)は、0.1%以上のレベルで存在するコールタールの成分は、可能性の高いまたは確認されたヒト発癌性物質として同定されないと報告した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0040】
治療を必要とする患者に治療有効量のコールタール生成物を投与することを含む、基底細胞癌または神経膠芽腫を治療する方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、コールタールUSP、コールタール軟膏USP、またはコールタール局所溶液USPである。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、基底細胞癌に局所的に適用される。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は医薬組成物中に存在する。
【0041】
基底細胞癌または神経膠芽腫を治療する方法であって、治療を必要とする患者に、基底細胞癌または神経膠芽腫を治療するのに有効な別の治療的治療と組み合わせてコールタール生成物を投与することを含む方法も、本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、他の治療的治療は、基底細胞癌または神経膠芽腫の治療であり、外科的切除、掻爬・電気凝固術、モース顕微鏡手術、放射線、凍結手術、光線力学療法、レーザー手術、イミキモド、5-フルオロウラシル、ビスモデギブまたはソニデギブである。いくつかの実施形態では、治療は、神経膠芽腫のための、単独で、または外科的除去、放射線、化学療法、腫瘍治療電場、ベバシズマブ、ポリ乳酸もしくは同様の足場またはカプセル化と組み合わせて使用される治療である。
【0042】
基底細胞癌の現在の治療は通常、基底層の細胞が現在の局所治療によって完全には死滅しないため、外科的除去を必要とする。これは一般に、手術部位の瘢痕化をもたらす。驚くべきことに、現在の局所治療とは異なり、コールタール生成物は基底層に浸透し、転移可能な新生物基底細胞癌細胞を死滅させる。したがって、コールタール生成物治療後、基底細胞癌または神経膠芽腫の残存物は簡単に凍結除去され、表皮が治癒すると、皮膚を元の状態に保ち得る。
【0043】
凍結療法の代替法として、残存する基底細胞癌は、光線性角化症を除去する現在の方法と同様に、医療専門家によって削り取られ得る(掻爬)。凍結療法または掻爬の利点は、より迅速な除去および正常な外観への回復である。
【0044】
いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、他の治療的治療の前に投与される。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、他の治療的治療の後に投与される。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、他の治療的治療と同時に投与される。
【0045】
いくつかの実施形態では、コールタール生成物および他の治療的治療は、単一の医薬組成物中で一緒に投与される。いくつかの実施形態では、コールタール生成物および他の治療的治療は、異なる医薬組成物中で別々に投与される。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、局所的にまたは治療用被覆材として術後腔の内層に投与され、他の治療的治療は、デバイス(例えばガンマナイフ)を用いて、局所的に、経口的に、静脈内に、または皮下に投与される。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は静脈内投与され、他の治療処置は、デバイス(ガンマナイフ)を用いて、局所的に、経口的に、静脈内に、または皮下に投与される。
【0046】
コールタール生成物による治療、および任意で別の治療的治療の後、基底細胞癌の再発を予防するまたは遅らせるために、患者による低濃度のコールタール生成物(例えば0.1%~0.5%アルコール溶液としてのコールタールUSP)の患部への毎日または頻繁な(例えば週に1回、週に2回、週に3回、週に4回)適用が推奨される。
【0047】
神経膠芽腫の除去、および任意で別の治療的治療の前または後に、コールタール生成物(例えばエタノール、乳酸もしくはジプロピレングリコール(DiPG)溶液中の、または50%DMSO、35%PEG 400および15%エタノールおよび賦形剤を含む混合物中の、またはポリ乳酸足場などの送達ビヒクルに組み込まれた、0.00005%~0.5%のコールタールUSP)の、閉鎖前の手術腔への適用。図2参照。
【0048】
したがって、基底細胞癌を予防する方法であって、基底細胞癌について以前に治療された患者に治療有効量のコールタール生成物を投与することを含む方法が本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、基底細胞癌が以前に出現し、治療された患者の皮膚の領域に投与され、この方法は、基底細胞癌の再発を予防する。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、基底細胞癌が以前に出現し、治療された付近(約1または2インチ以内)の患者の皮膚の領域に投与され、この方法は、新しい基底細胞癌の出現を予防する。
【0049】
特許または出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(1つまたは複数)を伴うこの特許または特許出願公開の写しは、請求および必要な料金の支払いに応じて特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1図1は、基底細胞癌および外科的除去のための典型的な切開の概略図を示す。
【0051】
図2図2は、CNS癌細胞株神経膠芽腫SF-268および星状細胞腫U251に対するコールタール由来の組成物(例4参照)の、米国国立癌研究所で実施されたアッセイの増殖阻害棒グラフを示す。
【0052】
図3図3A~3Cは、最初の治療前の患者の前額部の基底細胞癌を示す(例1参照)。A、治療前;B、治療中;C、治療後。
【0053】
図4図4A~4Cは、図3A~3Cの基底細胞癌が治療された4年後に生じた同じ患者の右前額部の基底細胞癌を示す。A、治療前;B、治療中;C、治療後。例1参照。
【0054】
図5図5A~5Bは、図4A~4Bの基底細胞癌が治療された4年後に生じた同じ患者の左右の前額部の2つの基底細胞癌を示す。例1参照。左右の基底細胞癌の前後の写真を5A(コールタールUSPでの治療前)および5B(コールタールUSPでの治療後)に示す。
【0055】
図6図6A~6Bは、毎日の局所治療の前(A)および4ヶ月後(B)ならびに最終的な凍結療法後の患者の右前額部の基底細胞癌の拡大図を示す。6Bの矢印および丸で囲んだ領域は、基底細胞癌の位置を示す。
【0056】
図7図7A~7Bは、大きな基底細胞癌が、写真が撮影された時点の4年前および1年前に出現した患者の前額部の右側および中央を示す。例1参照。A、最後の基底細胞癌が除去されてから、綿球を介して適用されたアルコールに溶解した0.1%コールタールUSPによる1日1~2回の予防的治療後の領域。B、Aの右端部分の拡大図。
【0057】
図8図8A~8Bは、アルコール溶液中の例4の0.3%組成物を1日2回局所適用した前および12日後の患者の左前額部の拡大図を示す。画像は、初期段階のBCC成長の喪失およびBCC収縮を示す。A、適用前;B、12日間の適用後。
【0058】
図9図9A~9Cは、例4において、患者の前額部の染みのある皮膚から出現し、表12の組成物で12日間(B)およびその後さらに14日間(C)毎日2回治療された治療された基底細胞癌の治療前(A)、治療中(B)および治療後(C)の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
「投与する」とは、コールタール生成物またはコールタール生成物を含む医薬組成物を、それを必要とする患者に医薬分野で公知の任意の手段によって提供することを指し、患者による自己投与ならびに医師または他の医療提供者による投与を含む。「投与する」には、標的組織内へのまたは標的組織上への直接的なコールタール生成物の局所送達(基底細胞癌への局所投与または基底細胞癌への注射または脳腫瘍除去後の手術腔の内層への局所送達など)が含まれる。
【0060】
「コールタール生成物」は、コールタールに由来する治療薬を指す。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、基底細胞癌を治療するのに有効である。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、神経膠芽腫を治療するのに有効である。「コールタール生成物」の例には、コールタールUSP、コールタール局所溶液USP、およびコールタール軟膏USPが含まれる。
【0061】
「患者」は、好ましくはヒトを指すが、イヌもしくはネコなどのペット動物、またはウマ、ウシ、ブタ、もしくはヒツジなどの家畜も指し得る。
【0062】
「薬学的に許容される」とは、製剤の他の成分と適合性であり、製剤が投与される患者に有害ではない担体、希釈剤、または賦形剤を指す。
【0063】
「治療有効量」は、コールタール生成物が投与される患者の生理学に所望の変化、例えば基底細胞癌または神経膠芽腫のサイズの減少をもたらすコールタール生成物の量を指す。
【0064】
驚くべきことに、薬学的に許容される担体中のコールタールUSPは、メトトレキサートなどの葉酸代謝拮抗剤療法に応答しない癌に対して有効であることが見出された。特に、意外にも、許容される医薬担体中のコールタールUSPは、基底細胞癌を局所的に治療するのに有効であることが示されている。基底細胞癌は、現在、試料切片においてさらなる癌細胞が高倍率で観察されなくなるまで、皮膚の連続層を切片化するモース手術法で治療されることが多い。しかしながら、この方法は治療法ではなく、再実施されることが一般的である。本明細書に開示されるようなコールタール生成物由来の抗癌剤を用いた基底層の化学浴は、患者に対してより完全で、外観があまり損なわれない治療法を提供する。さらに、低用量のフォローアップ適用は、最初に治療された基底細胞癌の直近領域およびより広い近接領域での再発を予防することが示されている。
【0065】
同様に驚くべきことに、100μg/mlの濃度の許容される医薬担体中のコールタールUSPは、米国国立癌研究所(NCI)で完了したアッセイにおいて、多形性神経膠芽腫細胞(U251、グレードIV星状細胞腫)のインビトロ増殖を100%、および星状細胞腫細胞(SF-268細胞株)のインビトロ増殖を91%阻害した。図2参照。各癌におけるコールタールベースの治療薬の使用は、一部の癌性細胞が残存する、再増殖する、または転移するため治癒がまれである外科的切除よりも好ましい治療方法を提供する。
【0066】
任意で、腫瘍の外科的除去が推奨される場合、単独での、または他の薬剤もしくは治療と組み合わせた、腫瘍切除後の手術腔の内層へのコールタールベースの治療薬の局所使用は、手術器具の到達範囲を超える、または発話能力などの非常に機能的なニューロンに近接しているために定位置に残される多形性神経膠芽腫細胞のさらなる細胞死滅を提供する。
【0067】
理論に拘束されることを意図するものではないが、神経膠芽腫の治療におけるコールタール生成物の有効性についての1つの可能な説明は、NADPHに対するそれらの非競合的結合、電子輸送、またはアロステリック効果に基づく。腫瘍細胞は、NADPHの水素移動阻害から生じるDNA合成、修復、および細胞複製へのこの結果としての干渉に対して、分裂がより遅い正常細胞よりも応答性が高い。
【0068】
さらに、腫瘍形成性細胞は一般に、例えば、特に化学療法または放射線療法中のそれらのより大きな有糸分裂活性および抗酸化機能の必要性のために、野生型細胞よりも高レベルのNADPHを必要とする。NADPHは、デオキシヌクレオチドおよび抗酸化物質、具体的にはグルタチオンおよびチオレドキシンの産生を増加させることによって放射線治療を生き延びるために神経膠芽腫によって使用され、それらは、放射線後の酸化ストレスを軽減し、放射線誘発性DNA損傷を修復するのに役立つ。NADPHを産生する酵素の産生を阻害すると、インビトロおよびインビボの両方の放射線に対して神経膠芽腫によるより高い感受性がもたらされた。Spitz et al.,2004,Cancer Metastasis Reviews 23:311-322参照。神経膠芽腫はNADPH代謝に関して周囲の正常組織とは異なり、NADPH産生酵素であるイソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)の阻害は、NADPH依存性細胞老化を誘導することによってインビトロおよびインビボで神経膠芽腫を放射線に対して感作するので、NADPH産生を阻害することは神経膠芽腫の放射線療法の有効性を増強し得る。現在使用されている主な放射線増感剤であるテモゾリドは、控えめな有効性しか有さない。テモゾリドは手術および放射線と組み合わせて広く使用されているが、大部分の神経膠芽腫患者は、依然として、高線量照射野内での再発のために死亡する。Wahl et al.,2017,Cancer Res.77:960-970.
【0069】
したがって、神経膠芽腫を有する患者に治療有効量のコールタール生成物を投与することを含む、NADPHの還元能を阻害または妨害することによって神経膠芽腫を放射線治療に感作する方法が本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、次に、コールタール生成物の投与と同時にまたは投与後に、患者に治療有効線量の放射線を投与する。
【0070】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される基底細胞癌を治療する方法は、化学療法軟膏またはクリームを使用する場合、基底細胞癌増殖の外科的除去の必要性および隣接する皮膚へのリスクを排除する。本明細書に開示される薬剤は、正常な皮膚に対して有害ではなく、基底細胞癌細胞のみを攻撃し、死滅させる。
【0071】
悪性細胞は、1つの化学物質に曝露された場合には対抗できることが多いが、2つ以上を合わせると、治療応答は一般により強力で、しばしば細胞増殖を停止させ、腫瘍細胞死を誘導するのに十分であるので、併用薬は一般に単分子薬よりも有効である。1つの薬物中の多くの分子の組合せであるコールタールUSPは、悪性細胞が薬物耐性になるために使用する防御を圧倒するという利点を有する。
【0072】
ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)阻害に応答性でない2つの腫瘍型、基底細胞癌および神経膠芽腫に対する本明細書に記載のコールタールの有効性は、DHFRのものと同様の機序を介して生じるコールタール生成物の抗腫瘍効果を開示する米国特許第5,337,337号の教示に照らして驚くべきものである。
【0073】
医薬組成物
【0074】
本明細書に開示されるコールタール生成物が医薬品としてヒトまたは動物に投与される場合、それらは一般に、1つ以上の薬学的に許容される担体と組み合わせて、例えば約0.00005~3%、約0.001~2.5%、約0.5~2%、または約1~1.75%(w/w、w/v、またはv/v)のコールタール生成物を含む医薬組成物として与えられる。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体と組み合わせて、約0.00005%、約0.001%、約0.01%、約0.03%、約0.05%、約0.075%、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約1.1%、約1.2%、約1.3%、約1.4%、約1.5%、約1.6%、約1.7%、約1.8%、約1.9%、または約2%(w/w、w/v、またはv/v)のコールタール生成物を含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、DMSO、エタノール、またはジプロピレングリコール(DiPG)で希釈された約2%w/wのコールタールUSPを含む。
【0076】
医薬組成物中のコールタール生成物の投与量レベルは、患者に対して毒性ではなく、特定の患者および投与様式について所望の治療応答を達成する量のコールタール生成物が得られるように変化させ得る。
【0077】
投与量レベルは、特定のコールタール生成物の活性、投与経路、投与時間、コールタール生成物の排泄または代謝の速度、吸収の速度および程度、治療の期間、他の薬物も患者に投与されているかどうか、治療されている患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康状態、および過去の病歴、ならびに医学分野で周知の同様の因子を含む様々な因子に依存する。
【0078】
一般に、本明細書に開示されるコールタール生成物の適切な1日用量は、治療効果をもたらすのに有効な最低用量であるコールタール生成物の量である。そのような有効用量は、通常、上記の因子に依存する。一般に、患者に対するコールタール生成物の経口、静脈内および皮下用量は、1日当たり患者の体重1キログラム当たり約0.0001~約200mg、または約0.001~約100mg、または約0.01~約100mg、または約0.1~約100mg、または約1~約50mgの範囲である。
【0079】
コールタール生成物は、単回用量として、毎日、1日1回、1日2回、1日3回またはそれ以上投与することができる。他のスケジュールには、1日おき、週に3回、週に2回、毎週、または隔週が含まれる。投与スケジュールは、「休薬期間」、すなわちコールタール生成物が投与されない期間を含むことができる。例えば、コールタール生成物は、2週間投与、1週間休薬、もしくは3週間投与、1週間休薬、もしくは4週間投与、1週間休薬などで、または休薬期間を設けずに連続的に投与することができる。コールタール生成物は、経口、静脈内、腹腔内、局所、経皮、筋肉内、皮下、鼻腔内、舌下、吸入、または任意の他の経路によって投与することができる。
【0080】
医薬組成物を製造するために、コールタール生成物は一般に溶媒に溶解される。いくつかのコールタール溶媒は、分子中に6員環が存在することを特徴とする中性、酸性または塩基性環状化合物で構成され、ほとんどが互いに可溶性である。コールタールUSPは、水にわずかしか溶解せず、アセトン、アルコール、二硫化炭素、クロロホルム、エーテルおよびメタノールには部分的に可溶性である。これらの溶媒は、単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。また、上記以外の溶媒を使用してもよい。
【0081】
基底層への送達を必要とする基底細胞癌に使用するために、コールタールUSPの好ましい溶媒系は、エタノール(IPA 99%)、ジプロピレングリコール(DiPG)、PEG 400モノステアラートおよび酢酸の混合物である。好ましい比率は、48~50%エタノール、30%DiPG、15%PEG 400および3~5%酢酸である。残留ピッチ(または溶質)は、混合直後または混合後24時間以内に沈殿し、プラスチック容器に付着するか、または多孔質膜で濾過して取り除くことができる。
【0082】
ジプロピレングリコール、化学式C14は、3つの異性体化学化合物、4-オキサ-2,6-ヘプタンジオール、2-プロパン-1-オール、および2-プロパン-1-オールの混合物である。これは、低毒性および134.173g/molのモル質量を有する無色でほぼ無臭の液体である。ジプロピレングリコールは、水と混和性であり、エタノールに可溶性であるため、医薬製剤に一般的に使用されている。
【0083】
DiPGが皮膚浸透剤であり、局所薬を皮膚に送達するための好ましい希釈剤の1つであることは周知である。DiPGのMSDSは、環境ワーキンググループ(Environmental Working Group)の化粧品データベースのウェブサイトに見出すことができる。溶媒混合物中の最小量の酢酸は、角質層の角質細胞を軟化し、剥離するのに役立ち、さもなければこれらの細胞中の脂質が薬剤を捕捉し得る。
【0084】
コールタールUSPに見られる多環芳香族炭化水素の他の溶媒または部分溶媒は、ミリスチン酸イソプロピル、PEG 600、Cremophor(登録商標)EL PEG-35ヒマシ油、エタン酸(酢酸水溶液)、アボカド油、ゴマ油、トコフェロール油(ビタミンE)およびヒマシ油である。チョウジ葉油、ローズマリー油、ゼラニウム・エジプト油、レモン油およびジュニパーベリー油を含む他のより外来性の油も、溶媒または臭気マスキング希釈剤のいずれかとして役立ち得る。これらの溶媒および希釈剤は、単独で、または他の溶媒と組み合わせて使用することができる。
【0085】
基底細胞癌へのコールタールUSPの送達のために、キサンタン(例えばCP Kelcoから)またはグアーガムを水性製剤に約0.5%~約2.5%の濃度で、最初にガムを油性溶媒または香料の1つ以上において少なくとも1時間湿潤させ、次いでこの混合物をコールタールUSP溶液に添加し、ボルテックスを生成するのに十分な速度で45~60分間一緒に混合することによって添加し得る。これは、ゲルの粘稠度を生じさせ、薬剤が基底細胞癌上の定位置に留まることを可能にし、さもなければ流出が起こり得る眼の上または毛の生え際の基底細胞癌を治療する場合に特に有用である。前額部および他の場所の皮膚への付着を増加させるために、より少ない量のキサンタンガム(<0.5%)を維持レベルの製剤(例えば0.1%コールタールUSP)に添加してもよい。
【0086】
基底細胞癌へのコールタール生成物の局所送達のための技術および方法には、単位投与量分注装置、針、マイクロ針、無針注射装置、注入パッド、飽和ワイプ、接着包帯またはタブなどの事前充填塗布器、クリーム、ゲル、およびワセリンベースの軟膏を含む軟膏が含まれる。
【0087】
基底細胞癌へのコールタール生成物の局所送達の好ましい方法は、単に手で基底細胞癌にコールタール生成物を適用することである。この実施形態では、コールタール生成物は、好ましくはクリーム、軟膏、ローション、または他の同様の形態であり、周囲の正常組織を可能な限り回避しながら、基底細胞癌上に配置される。患者または医療提供者のいずれかが、基底細胞癌にコールタール生成物を適用し得る。適用される生成物のクリーム、軟膏、ローションまたは他の形態の量は、基底細胞癌のサイズおよび/または位置に依存し、コールタール生成物を適用する患者または医療提供者によって容易に確認される。
【0088】
いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、基底細胞癌上の適用部位に留まることができる。すなわち、それは一定期間後に、拭き取られないかまたは除去されない。しかしながら、場合によっては、一定期間、例えば15分、30分、45分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、またはそれ以上後にコールタール生成物を拭き取ることが望ましい場合がある。
【0089】
いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、フォームまたはコットンパッドを用いて基底細胞癌に適用される。いくつかの実施形態では、コールタール生成物は、軟膏、クリーム、または他の局所送達組成物を基底細胞癌に対して密封するために、包帯を用いて適用される。包帯をそのままにしておく時間の長さは、適用されるコールタール生成物の用量および基底細胞癌の性質(例えばサイズ、位置)などの様々な因子に依存する。
【0090】
中枢神経系(CNS)腫瘍への送達
【0091】
一般に、血液脳関門(BBB)を通過する薬物は、拡散によって透過する小さな非極性の脂溶性分子である。透過性は多くの因子(分子形状、柔軟性、表面積など)に依存するが、透過性に影響を及ぼす2つの主な特性は、サイズおよび溶解度である。透過性の分子量閾値は約400Daである。コールタールUSP(ピッチは除去されている)の重量は210~250Daである。溶解度閾値に関して、薬物が水と7つ未満の水素結合を形成する場合は、BBBを通過する可能性がより高くなる。コールタールUSPは、水にわずかにしか溶けず、脂質により可溶性である。
【0092】
BBBおよびそれを克服する方法の考察は、Quoraのウェブサイトで、Jens Mowattによって回答された「薬物が血液脳関門を通過することを可能にする機構は何か?」という質問の下で見ることができる。BBBを通過する薬物の特性の概要は、Pardrige,2012,J.Cereb.Blood Flow.Metab.32:1959-1972に見出される。
【0093】
ひとたび薬物がBBBを通過すると、薬物は水性環境に分配されなければならない。コールタールUSPがこの水性環境中でその完全性を保持することを確実にするために、コールタールUSPは、BBBを通過するための疎水性を維持するために、および脳に入ると、末梢組織による取り込みおよび薬物の特性または用量の損失を回避するための低脂質含有量を維持するために、溶媒ジプロピレングリコール、脂質、および任意でアルコールと共に製剤化され得る。
【0094】
脳への送達のためには、リポソーム、ポリマーナノ粒子、ナノ結晶、ミクロスフェア、薬物埋め込み型ポリマー、および抗体薬物コンジュゲートを含む持続性ナノ注射剤が好ましい。経粘膜送達、吸入および経口製剤も好ましい。コールタールUSPのそのような非侵襲的送達方法は、神経膠芽腫腫瘍が神経の周りにその触手を延ばした場合、神経膠芽腫腫瘍の核の位置を特定することが困難であるため、注射よりも好ましい。腫瘍の中心の位置が特定されない限り、注射治療は無効である。真のベンゼン環を有するいくつかの抗生物質は、CNS感染を治療するために使用され、血液脳関門を通過するので、吸入によってまたは鼻の粘膜組織を介して送達されるコールタールUSPは有効であると予想される。これらには、イソニアジド、ピラジナミド、リネゾリド、フルコナゾールおよびフルオロキノロンが含まれる。さらに、コールタールUSP中の主要化合物の1つであるキノリンは、受動拡散によって血液脳関門を通過する。
【0095】
非極性コーティングによるカプセル化の代替法として、米国特許第5,354,475号に記載されているように、コールタールから任意の荷電粒子を除去することによって、血流および血液脳関門を介した神経膠芽腫へのコールタール生成物の薬物送達を達成することができる。
【0096】
コールタール生成物はまた、神経膠芽腫を治療するために脳に直接注射し得るかまたは外科的に埋め込み得る。このアプローチは、コールタール生成物と他の組織または器官との相互作用の副作用を低減するという利点を有する。1つの可能性は、コールタール生成物を含む埋め込み可能な低速溶解ポリマーウェハを使用することである。カルムスチン(GLIADEL(登録商標))を含有するそのような低速溶解ポリマーウェハは、神経膠芽腫を治療するために米国食品医薬品局によって承認されており、コールタール生成物を神経膠芽腫に送達するように当業者によって適合され得る。GLIADEL(登録商標)の考察については、Perry,et al.,2007,Curr.Oncol.14:189-194参照。
【0097】
神経変性疾患の治療のための薬剤の経鼻投与は、不規則な薬物吸収、脳の異なる領域における吸収の変動、および鼻詰まりに関するいくつかの問題にもかかわらず、嗅覚神経および三叉神経を介した、大きな極性分子を含む血液脳関門を迂回する方法であることが証明されている。現在鼻腔内に送達される薬物には、IMITREX(登録商標)(スマトリプタン)、ZOMIG(登録商標)(ゾルミトリプタン)、MIGRANAL(登録商標)(ジヒドロエルゴタミン)、およびSINOL-M(登録商標)のような抗片頭痛薬が含まれる。さらなる例としては、デスモプレシンなどのペプチド薬(ホルモン治療に使用され、経口投与後の薬物分解を回避するために鼻腔内投与される)が挙げられる。シントシノンは、分娩中の収縮の持続時間および強度を増加させるために鼻腔内投与することができる。鼻腔内カルシトニンは様々な症状に投与され、鼻腔内ミダゾラムは小児の発作エピソードに使用される。研究では、アヘン剤の過剰摂取のための鼻腔内ナロキソンが注射と同程度に有効であり得ることも示されている。さらに、多くの快楽を得るための薬物が鼻腔内摂取される。
【0098】
肺を介した薬物送達は、局所治療だけでなく全身治療にも有効な方法である。一般に、肺は、より小さい分子およびより大きい高分子の両方、ならびに親油性および水溶性の小分子に対して透過性である。コールタールUSP中のベンゼンは、呼吸経路を介して血流に入る。コールタールUSP中にも見出されるいくつかの化合物、すなわちピレン(米国特許出願公開第2009/0238754号および国際公開第2009/117042号参照)およびナフタレン(Freed et al,2002,Peptides 23:157-65参照)は、血液脳関門を通過する。発作も、Engage Therapeuticsからの臨床試験中のてんかん薬であるSTACCATO(登録商標)を含む、肺を介して送達される薬剤で治療される。
【0099】
切除された腫瘍の腔床へのコールタール生成物の術後送達は、腫瘍の再成長および転移を減少させ、寿命を延ばす別の方法を提供する。
【0100】
さらなる送達方法
【0101】
当技術分野で公知の様々な他の方法を使用して、本明細書に記載の治療法で使用するためのコールタール生成物を送達し得る。
【0102】
例えば、リポソーム送達は、薬物、癌を治療するために使用される特定の薬物を送達する十分に確立された手段である。例えば、Drummond et al.,1999,Pharmacol.Rev.51:691-743参照。リポソームは、非毒性で生分解性であり、遊離投与とは対照的に、薬物のより良好な溶解度および安定性ならびにより緩やかな放出を提供し得る。本明細書に記載の方法で使用され得るリポソーム技術の最近の変形は、Sardan et al.,2013,Faraday Discuss 166:269-83に記載されている腫瘍細胞への抗癌剤の送達を増強するための細胞透過性ペプチド両親媒性物質集積リポソームシステムである。
【0103】
コールタール生成物を送達する別の可能な方法は、マイクロニードルパッチによるものであり、これは、無痛かつ簡単な方法で薬剤を皮膚に送達することができる数百ミクロンの長さの針のアレイである。例えば、Prausnitz,2017,Ann.Rev.Chem.Biomol.Eng.8:177-200参照。
【0104】
経皮パッチも可能な送達方法であり、全身循環への吸収のために皮膚を横切る薬物の移動を提供し、角質層を破壊しない受動的手段または破壊する能動的手段のいずれかに依存する。例えば、Pastore et al.,2015,Br.J.Pharmacol.172:2179-209参照。
【0105】
正常な脳組織と適合性であることが公知の賦形剤が、コールタール生成物の利益を最大にするための希釈剤、溶媒、浸透促進剤および時限放出剤として機能する。
【0106】
【0107】
例1
ヒト皮膚上の基底細胞癌の治療
【0108】
95%ワセリンおよび5%コールタール溶液USP(米国特許第6,337,337号および以下の例4参照)からなる軟膏を、ヒト女性の前額部の基底細胞癌に1日2回13日間塗布した。それぞれ治療前、治療中および治療後のBCCを図3A、3Bおよび3Cに示す。
【0109】
4年後、同じ患者が右前額部の基底細胞癌の治療を受けた。治療は、65%エタノールおよび35%ポリエチレングリコール(PEG)400v/v中に約2%の濃度で精製コールタール(Koppers,Inc.,Pittsburgh,PA.,brand NSR,Stickney Plant,LDO番号2006-0566、試料06-244)を含有する液体溶液の1日2回、10日間の適用からなった。表110に列挙されているのは、フケシャンプー製造のために業界に販売されているKoppersコールタール製品に見られる化合物である。この治療を、液体窒素を使用する凍結療法と組み合わせて、基底細胞癌を凍結除去した。治療の結果を図4A(治療前)および4B(治療後)に示す。最後の治療の日、および除去の直前に、腫瘍は落屑しつつあり、剥離し始めていることが見られた。
【0110】
同じ患者の3回目の治療は、2回目の治療の4年後に行われ、2つの基底細胞癌が同じ対象の前額部に現れ、1つは左側、1つは右側にあった。介入期間中、前額部の治療は行わなかった。これらの基底細胞癌を縮小させるために、2つのコールタールUSP製剤を使用した:コールタールUSP(Spectrum Chemical;CAS番号:8007-45-2;VWRのウェブサイトで「Coal tar USP」の下で入手可能)を、表3の処方に示すように120グレインビネガー(Fleischmann’s、12%酢酸)およびブドウ種子油(Columbus Foods)の混合物と組み合わせ、1日2回適用した。同じSpectrumコールタールUSPを使用した第2の製剤も、両方の基底細胞癌に1日2回適用した。この第2の製剤も表3に包含される。基底細胞癌は、凍結療法の前に右眼の上の右前額部で約50%縮小した。左側の基底細胞癌も約50%縮小した。左基底細胞癌の前後の写真を図5A(コールタールUSPでの治療前)、5B(コールタールUSPでの治療後)に示す。図6Aおよび6Bは、凍結療法が右側の残存する基底細胞癌を除去したときの、治療前および局所コールタール治療の完了時の患者の前額部の左側および右側の両方の基底細胞癌を示す。
【0111】
図6Aおよび6Bは、上記の段落に記載されているような毎日の局所治療の前(A)および4ヶ月後(B)ならびに最終的な凍結療法後の患者の右前額部の基底細胞癌の拡大図を示す。
【0112】
図7Aは、大きな基底細胞癌が4年前(図4)および再び1年前(図5)に出現した患者の前額部の右側および中央を示す。最後の基底細胞癌の除去後、この領域は、綿球を介して適用されたアルコールに溶解した0.1%コールタールUSPで1日1~2回治療されており、新たな基底細胞癌は発生していない。図7Bは、図7Aの一部の拡大図であり、白い領域は、基底細胞癌の除去のための以前の手術からの瘢痕である。
【0113】
患者は、前額部の中央に6ヶ月間紫色の斑点を有しており、これが最終的に新しい基底細胞癌を生じさせた(図9A参照)。その時点で、例4の表12の組成物を1日2回、21日間適用し、その時点で嚢胞は平らになり、乾燥し、直径が収縮していた(図9B参照)。
【0114】
例2
星状細胞腫および多形性神経膠芽腫の治療
【0115】
現在、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)阻害剤は、星状細胞腫または神経膠芽腫の治療のために使用されておらず、または臨床試験下にはない。したがって、コールタールUSPがこれらの脳の癌の2つの細胞株、SF-268およびU-251を死滅させるのに有効であることは驚くべきことである。しかしながら、米国国立癌研究所で行われた試験は、コールタール生成物(以下の例4参照)が、多形性神経膠芽腫細胞(U251、グレードIV星状細胞腫)のインビトロ増殖を100%、および星状細胞腫細胞(SF-268細胞株)のインビトロ増殖を91%阻害したことを示した。図2参照。
【0116】
例3
製剤
【表1】
【0117】
この製剤は静脈内注入に適しており、2~3週間ごとに10mg/kg~15mg/kgの用量およびスケジュールで使用され得る。他の注射経路、例えば筋肉内、皮下または腹腔内も使用され得る。
【0118】
別の製剤を以下に示す。この製剤では、水をキサンタンガムと組み合わせて使用してゲルを作製する。コールタールUSPの臭気をマスクするために、最少量の冬緑油(例えば0.025%)または1%~2%のバニラ、花の香りのもしくは同様の心地よい芳香油を添加することができる。この製剤は局所投与に適する。
【表2】
【0119】
別の製剤は、油/水エマルジョンを生成するためにホワイトビネガー(120グレインまたは12%酢酸)の形態の酢酸水溶液およびブドウ種子油を含有しており、これを皮膚に適用する前に振とうしなければならない。この製剤は、上記の例1に開示される患者の基底細胞癌の治療に使用された。
【表3】
【0120】
表3の製剤を以下のように調製した:
1.12%酢酸水溶液およびブドウ種子油を混合容器に添加し、低で15分間撹拌した。
2.コールタールを混合容器に添加し、小さなボルテックスを生成しながら、中速での撹拌を45分間実施した。
3.混合物をホモジナイザに通し、濾過して微粒子を除去した。
【0121】
ヘキサンは、中枢神経系への損傷が疑われるため、この製剤には使用されていない。
【0122】
表3の製剤の一実施形態では、成分の供給元は以下の通りであった:
【表4】
【0123】
特に基底細胞癌を治療する方法では、コールタール局所溶液をコールタールUSPの代わりに使用することができる。米国薬局方は、「コールタール局所溶液」についてUSP Monographで、どのようにしてコールタール局所溶液を製造し得るかについての以下の説明を提供している。
【表5】
【0124】
コールタールを洗浄した砂500gと混合し、ポリソルベート80およびアルコール700mlを添加する。頻繁に撹拌しながら密閉容器内で混合物を7日間浸軟する。濾過し、十分なアルコールで容器をすすぎ、生成物の量を1000mlにする。製品を密閉容器で保存する。アルコール含有量は81%~86%である。
【0125】
基底細胞癌の治療における局所使用に適したさらに別の製剤は、以下の通りである:
【表6】
【0126】
エタノール、ジプロピレングリコール、およびポリエチレングリコール600を合わせ、20分間混合する。コールタールを混合物に添加し、60分間ブレンドする。最後に、ブドウ種子油を添加し、製剤をさらに60分間混合する。
【0127】
注射に適した製剤の場合は、エタノールSDA 40B、200プルーフを、変性し、滅菌し、USP注射用水、70%を用いて作製したエタノール溶液に置き換える。
【0128】
基底細胞癌の治療に適した他の製剤には、以下が含まれる。
【表7】

【表8】

【表9】
【0129】
表10は、コールタール生成物の製剤を調製するために使用し得る溶媒混合物を開示する。
【表10】
【0130】
例4
コールタール由来の組成物
【0131】
この例は、分別蒸留および標準的なGCMSを介したKoppers,Inc.からの液状炭素系洗浄剤(liquor carbonis detergens)に由来する組成物を開示する。これは、17個の縮合3環アレーンの混合物を含む。米国国立癌研究所および他の研究所は、この「カクテル」を含む個々の分子が腫瘍溶解薬としての効果を最小限にしか有さないかまたは全く有さないことを示している。インビトロアッセイはまた、組成物が正常細胞におけるペントースリン酸経路の機能を阻害しないことを示した。
【0132】
組成物は、エチルアルコール、DMSO、酢酸、IPA、ジクロロメタンおよびジメチルホルムアミドに可溶性であり、米国特許第5,337,337号に記載されている。本出願の表11としてすぐ下に再現した、4列20~36行の表参照。
【表11】
【0133】
当業者は、組成物を構成する個々の成分の濃度にいくらかの変動があり得ることを理解するであろう。特に、より低濃度の成分の一部は省略され得る。
【0134】
任意で、タールピッチとして一般的に定義される化合物は、治療的に使用される前に組成物から除去され得る。タールピッチおよび溶媒で溶解されない固体微粒子を除去するために、例えばWikipediaのウェブサイトエントリ「デプスフィルタ」に記載されているように、深層濾過法を使用し得る。
【0135】
コールタールベースの軟膏または溶液の連続適用による基底細胞癌の暗色または褐色の変色は、患者にとって美容上の問題であり得る。化合物を明るくする1つの方法は、本明細書に記載の溶媒のいずれか1つで化合物を希釈し、次いでこの溶液を活性炭を通して濾過することである。
【0136】
コールタールからの組成物の製造の代替法として、上記に列挙した個々の化学成分を入手し、それらを所望の割合で混合することによって組成物を調製し得る。そのような可能性の1つは、SPEXCertiPrep,CRM Division,Metuchen,NJによって製造された組成物であり、その成分を以下の表12に示す。DMSO溶液中の化学的に再現されたコールタールの最終濃度1.27%のこのレベルは、BCCの局所薬として使用するのに十分であり、必要に応じて神経膠芽腫の治療に使用するために希釈することができる。個々の成分を混合することによって製造される組成物は、一般にピッチを含まない。pHの調整は、リン酸ナトリウムの添加によって管理することができる。
【表12】
【0137】
1.27%(w/w)の上記炭化水素混合物を98.73%(w/w)のDMSO溶媒と混合して最終製剤が得られる。異なる量の炭化水素混合物およびDMSO溶媒を合わせてもよい。
【0138】
作用機序
【0139】
ペントースリン酸経路は、テトラヒドロ葉酸の代謝および迅速なDNA合成、有糸分裂のために、ならびに酸化ストレスに対抗するための酵素を産生するために、すべての新生物細胞においてNADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、還元型)を高い速度で産生する。本組成物は、NADPHに対する電子干渉、非競合的結合、またはアロステリック効果のいずれかによって、ジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸への変換中にNADPHの水素供与体機能を阻害する。これは、新生物細胞の有糸分裂を停止させ、過剰な活性酸素種(ROS)を捕捉するグルタチオンおよびチオレドキシンを再利用する細胞の能力を低下させることによって段階的な薬物耐性を阻止する。癌細胞の高いROSレベルを中和するための還元力の必須源としてのNADPHの役割は、Cairns&Harris,2011,Cold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biology 76:299-311に見出すことができる。
【0140】
研究試験
【0141】
Koppers,Inc.からの組成物は、米国国立癌研究所で、100μg/mlの濃度の癌細胞株の単回用量/60細胞株パネルで試験され、多形性神経膠芽腫細胞(U251)に対して100%、星状細胞腫細胞(SF-268)に対して91%のレベルで細胞傷害性であることが示された。図2参照。
【0142】
この組成物は、特定の新生物のIV型コラーゲンへの接着を減少させる。IV型コラーゲンは、高密度の癌腫瘍の原因である。補助療法として、IV型コラーゲンへの癌細胞接着の阻害は、腫瘍の密度および腫瘍が化学療法剤を洗い流すために加える「外向き」収縮期圧を低下させることによって、腫瘍内への薬物浸透を促進する。特定の実施形態では、コールタール生成物を別の化学療法剤と組み合わせるか、または別の薬物の使用前に単独で注射して、腫瘍の多孔度を高め、収縮期圧によって薬物を洗い流す能力を低下させることができる。
【表13】
【0143】
神経膠芽腫は、高レベルのIV型コラーゲンおよびVI型コラーゲンでしっかりと圧縮された細胞を有する高度に血管新生した腫瘍である。ヒト神経膠芽腫細胞株U251、U87MGおよびLN229において、IV型コラーゲンおよびVI型コラーゲンが血管新生刺激剤である血管内皮成長因子の上方制御を促進することが示されている。Mammoto et al,Role of collagen matrix in tumor angiogenesis and glioblastoma multiforme progression,Am J Pathol.2013 Oct;183(4):1293-1305。IV型コラーゲンは腫瘍血管新生および神経膠芽腫の進行において支持的役割を果たすので、コールタール生成物は、神経膠芽腫腫瘍内の悪性細胞へのIV型コラーゲンの結合を阻害することによって、抗血管新生効果を示し、進行を遅らせることが予想される。
【0144】
リポソーム、ミクロスフェアおよび薬物埋め込み型ポリマーは、組成物のための実行可能な薬物担体である。
【0145】
コールタールUSPの2%以下の溶液(組成物の供給源および精製源)は、経皮送達に関してFDAによって安全であると見なされている。米国毒性物質疾病登録機関(Agency for Toxic Substances and Disease Registry)のウェブサイトで見出されるクレオソート毒物学プロフィール参照。
【0146】
例5
コールタール由来の低濃度の組成物を使用した治療
【0147】
患者の左前額部のいくつかの早期基底細胞癌を、DiPG/アルコール溶液中の0.3%の例4の組成物を1日2回局所適用して12日間治療した。これにより、図8A(治療前)および図8B(治療後)に示すように、早期基底細胞癌が縮小した。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
【国際調査報告】