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特表2022-504943アミノピリミジン誘導体又はその塩を含む経口投与用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】アミノピリミジン誘導体又はその塩を含む経口投与用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5377 20060101AFI20220105BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220105BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220105BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 111
A61K47/38
A61K47/10
A61K47/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021520564
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(85)【翻訳文提出日】2021-04-14
(86)【国際出願番号】 IB2019058862
(87)【国際公開番号】W WO2020079637
(87)【国際公開日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】10-2018-0124171
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516006530
【氏名又は名称】ユハン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】YUHAN CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソンギュ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ドッキュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,スウォン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ジュンモ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ユンシク
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076BB01
4C076CC27
4C076DD38
4C076DD42C
4C076EE31
4C076EE32B
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC73
4C086GA07
4C086GA09
4C086GA14
4C086GA15
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA52
4C086NA03
4C086NA11
4C086ZC20
(57)【要約】
本開示は、活性成分としてN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(ラゼルチニブ)又はその薬学的に許容される塩と、希釈剤として微結晶セルロース及びマンニトールの組み合わせと、を含む、経口投与用医薬組成物を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としてN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(ラゼルチニブ)又はその薬学的に許容される塩と、希釈剤として微結晶セルロース及びマンニトールの組み合わせと、を含む、経口投与用医薬組成物。
【請求項2】
前記微結晶セルロースの前記マンニトールに対する重量比が、1:0.5~1:3の範囲である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記微結晶セルロースの前記マンニトールに対する重量比が、1:0.9~1:3の範囲である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記微結晶セルロースの前記マンニトールに対する重量比が、1:0.9~1:1.5の範囲である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムを更に含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記クロスカルメロースナトリウムが、前記組成物の総重量に対して2~5重量%の範囲で存在する、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
潤滑剤としてステアリン酸マグネシウムを更に含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
活性成分としてN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド又はその薬学的に許容される塩と、希釈剤として微結晶セルロースとマンニトールの組み合わせと、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムと、潤滑剤としてステアリン酸マグネシウムと、を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記活性成分が、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドメシル酸塩である、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物が、5~54重量%のN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドメシル酸塩と、45~87重量%の微結晶セルロースとマンニトールの組み合わせと、0.5~10重量%のクロスカルメロースナトリウムと、0.4~2重量%のステアリン酸マグネシウムと、からなる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が、7~46重量%のN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドメシル酸塩と、50~87重量%の微結晶セルロースとマンニトールの組み合わせと、2~5重量%のクロスカルメロースナトリウムと、0.5~1.5重量%のステアリン酸マグネシウムと、からなる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドメシル酸塩が、5.614、12.394、14.086、17.143、18.020、19.104、21.585、22.131、及び22.487°2θ±0.2°2θにピークを有するPXRDパターンを有する結晶形態である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドメシル酸塩が、210~230℃に吸熱ピークを有する示差走査熱量計(DSC)サーモグラムを有する結晶形態である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項14】
N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドメシル酸塩が、217±2℃に吸熱ピークを有する示差走査熱量計(DSC)サーモグラムを有する結晶形態である、請求項13に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年10月18日出願の韓国特許出願第10-2018-0124171号の優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、アミノピリミジン誘導体又はその塩を含む経口投与用医薬組成物に関する。より具体的には、本開示は、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(ラゼルチニブ(Lazertinib))又はその塩と、希釈剤として微結晶セルロース及びマンニトールの組み合わせと、を含む、医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
国際公開第2016/060443号は、アミノピリミジン誘導体、例えば、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(ラゼルチニブ)又はその薬学的に許容される塩を開示している。ラゼルチニブ又はその薬学的に許容される塩は、プロテインキナーゼ、特に、変異型上皮成長因子受容体のプロテインキナーゼを選択的に阻害する活性を有し、例えば、非小細胞肺癌に対する有効かつ安全な治療方法を提供することができる。ラゼルチニブ又はその薬学的に許容される塩は、野生型EGFRに対してあまり効果がなく、T790M単一活性変異(EGFRm)及び二重変異に対する強い阻害活性と、優れた選択性を有する不可逆的EGFR TKIとして知られており、原発性の進行性非小細胞肺癌、及び脳転移を伴う進行性非小細胞肺癌を有する患者の処置における治療的に有効な効果を示すことが期待される。
【0004】
ラゼルチニブ又はその塩が経口投与用組成物として配合される場合、活性成分が胃内で直ちに放出され、その後吸収される小腸に移動する機構を有する即時放出医薬組成物の形態でラゼルチニブ又はその塩を配合すると考えることができる。このような即時放出医薬組成物の製剤では、例えば、食品又は同時投与された薬物(例えば、制酸剤など)による胃のpH変化の影響を最小限に抑える必要がある。例えば、空腹時の胃のpHは、pH1~pH3.5の範囲で一定ではなく、また、食後の胃の平均pHはpH4(pH3~5)であるため、活性成分の物理化学的特性に応じて溶出速度の偏差が生じる場合があり、これは吸収速度及び生物学的利用能の変化をもたらし得る。
【発明の概要】
【0005】
本発明の発明者らは、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(ラゼルチニブ)又はその塩が、特定の希釈剤の組み合わせを使用して配合される場合、胃内のpH環境の変化による影響を最小限に抑えることができる即時放出医薬組成物を調製することが可能であることを見出した。更に、本発明の発明者らは、医薬組成物を配合して、優れた安定性を確実にでき、生物学的利用能を顕著に増加させ得ることを見出した。
【0006】
したがって、本開示の目的は、特定の希釈剤の組み合わせを含むラゼルチニブ又はその薬学的に許容される塩の経口投与のための医薬組成物を提供することである。
【0007】
本開示の一態様によると、活性成分としてN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド又はその薬学的に許容される塩と、希釈剤として微結晶セルロース及びマンニトールの組み合わせと、を含む、経口投与用医薬組成物が提供される。
【0008】
本開示の医薬組成物において、微結晶セルロースのマンニトールに対する重量比は、1:0.9~1:3、好ましくは1:0.9~1:1.5の範囲であり得る。
【0009】
本開示の医薬組成物は、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムを更に含んでもよく、クロスカルメロースナトリウムは、組成物の総重量に対して0.5~10重量%、好ましくは2~5重量%の範囲で存在し得る。更に、本開示の医薬組成物は、潤滑剤としてステアリン酸マグネシウムを更に含んでもよい。一実施形態では、本開示の医薬組成物は、活性成分としてN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド又はその薬学的に許容される塩と、希釈剤として微結晶セルロースとマンニトールの組み合わせと、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムと、潤滑剤としてステアリン酸マグネシウムと、を含む。
【0010】
本開示の医薬組成物において、活性成分は、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドメシル酸塩であってもよい。
【0011】
一実施形態では、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドメシル酸塩は、5.614、12.394、14.086、17.143、18.020、19.104、21.585、22.131、及び22.487°2θ±0.2°2θにピークを有するPXRDパターンを有する結晶形態であってもよい。別の実施形態では、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドメシル酸塩は、210~230℃、好ましくは、217±2℃に吸熱ピークを有する示差走査熱量計(DSC)サーモグラムを有する結晶形態であってもよい。
【0012】
本開示により、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(ラゼルチニブ)又はその塩が、特定の希釈剤の組み合わせ、つまり、微結晶セルロースとマンニトールの組み合わせを使用して配合される場合、胃内のpH環境の変化による影響を最小限に抑えることができる即時放出医薬組成物を調製することが可能であることが見出された。更に、本開示の医薬組成物は、優れた安定性を確実にするように配合されてもよく、生物学的利用能の顕著な増加を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】参考実施例1で調製したラゼルチニブメシル酸塩の粉末X線回折(PXRD)のグラフである。
図2】参考実施例1で調製したラゼルチニブメシル酸塩の示差走査熱量計(DSC)のグラフである。
図3】参考実施例1で調製したラゼルチニブメシル酸塩における苛酷条件下で実施した安定性試験の結果を示す写真である(初期:開始時、2週間:2週間後、4週間後:4週間後)。
図4】参考実施例1で調製したラゼルチニブメシル酸塩における加速条件下で実施した安定性試験の結果を示す写真である(初期:開始時、1ヶ月:1ヶ月後、3ヶ月:3ヶ月後、6ヶ月:6ヶ月後)。
図5】正常ラットで実施したラゼルチニブメシル酸塩及びラゼルチニブフリー体の比較薬物動態試験の結果を示す。
図6】エソメプラゾール処置ラットで実施したラゼルチニブメシル酸塩及びラゼルチニブフリー体の比較薬物動態試験の結果を示す。
図7】ビーグル犬で実施したラゼルチニブメシル酸塩及びラゼルチニブフリー体の比較薬物動態試験の結果を示す。
図8】本開示により得られた錠剤(実施例5)及び比較実施例の錠剤(比較実施例1)についてpH1.2の条件下の溶出試験実施により得られた結果を示す。
図9】本開示により得られた錠剤(実施例5)及び比較実施例の錠剤(比較実施例1)についてpH4.0の条件下の溶出試験実施により得られた結果を示す。
図10図9の溶出試験の拡大した結果を示す。
図11】本開示により得られた錠剤(実施例1及び2)及び比較実施例の錠剤(比較実施例3)についてpH4.0の条件下の溶出試験実施により得られた結果を示す。
図12】本開示により得られた錠剤(実施例7)及び比較実施例の錠剤(比較実施例5及び6)について酸性相(pH1.0)及び緩衝相(pH6.8)の連続条件下の溶出試験実施により得られた結果を示す。
図13】本開示により得られた錠剤(実施例7)及び比較実施例の錠剤(比較実施例2)について薬物動態試験実施により得られた血中濃度プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、活性成分としてN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(ラゼルチニブ)又はその薬学的に許容される塩と、希釈剤として微結晶セルロース及びマンニトールの組み合わせと、を含む、経口投与用医薬組成物を提供する。
【0015】
本明細書では、「希釈剤」及び「添加剤」は同じ意味を有し、互換的に使用されてもよい。本開示により、ラゼルチニブ又はその塩が、特定の希釈剤の組み合わせ、すなわち微結晶セルロースとマンニトールの組み合わせを使用して配合される場合、胃内のpH環境の変化による影響を最小限に抑えることができる即時放出医薬組成物を調製することが可能であることが見出された。胃のpH環境の変化としては、食事によるpH変化、及び薬物によるpH変化、例えば、エメプラゾールなどのプロトンポンプ阻害剤、又はシメチジンなどのH2受容体拮抗薬、制酸剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
本開示の医薬組成物では、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(ラゼルチニブ)又はその薬学的に許容される塩は、治療有効量で使用され得る。例えば、ラゼルチニブ又はその薬学的に許容される塩は、単位製剤当たり(例えば、単位錠剤当たり)ラゼルチニブとして10~320mgの範囲で使用でき、例えば、10mg、20mg、40mg、80mg、100mg、120mg、160mg、240mg、又は320mgの量で使用され得る。
【0017】
本開示の医薬組成物は、特定の希釈剤の組み合わせ、すなわち微結晶セルロースとマンニトールの組み合わせを含む。本開示により、マンニトールの微結晶セルロースに対する重量比が0.5倍~3倍である場合、ラゼルチニブ又はその塩は、胃内のpH環境の変化による影響を最小限に抑えることができることが見出されている。したがって、微結晶セルロースのマンニトールに対する重量比は、好ましくは1:0.5~1:3、より好ましくは1:0.9~1:3、更に好ましくは1:0.9~1:1.5、特に好ましくは約1:0.95~1:1.2の範囲であり得る。
【0018】
本開示の医薬組成物は、希釈剤に加えて崩壊剤及び/又は潤滑剤(又は滑剤)を含み得る。
【0019】
崩壊剤は、製薬分野で使用される従来の崩壊剤であってもよい。しかしながら、本開示により、様々な崩壊剤の中でも特定の崩壊剤、すなわちクロスカルメロースナトリウムを使用する場合に、胃内で崩壊/溶解した薬剤が腸に移動するときに、沈殿が著しく遅延することが見出される。したがって、本開示の医薬組成物は、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムを含むことが好ましい。クロスカルメロースナトリウムは、例えば、組成物の総重量に対して0.5~10重量%、好ましくは2~5重量%の範囲で存在し得る。
【0020】
潤滑剤(又は滑剤)は、製薬分野で使用される従来の潤滑剤であってもよい。しかしながら、本開示により、様々な潤滑剤の中でも特定の潤滑剤、すなわちステアリン酸マグネシウムが、ラゼルチニブ又はその塩との相溶性に特に優れ、それにより優れた安定性を確実にすることが見出される。したがって、本開示の医薬組成物は、潤滑剤(又は滑剤)としてステアリン酸マグネシウムを含むことが好ましい。ステアリン酸マグネシウムは、十分な潤滑効果を達成するのに十分な量で使用されてもよく、例えば、組成物の総重量に対して0.4~2重量%の範囲で存在してもよいが、これらに限定されない。
【0021】
一実施形態では、本開示の医薬組成物は、活性成分としてN-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド又はその薬学的に許容される塩と、希釈剤として微結晶セルロースとマンニトールの組み合わせと、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムと、潤滑剤としてステアリン酸マグネシウムと、を含む。
【0022】
ラゼルチニブメシル酸塩は、フリー体形態の化合物と比較して安定性、溶解度、及び生物学的利用能に優れ、高純度で調製できることが見出された。更に、ラゼルチニブメシル酸塩が、例えば、制酸剤との同時投与の場合、並びに、単独投与の場合であっても、優れた生物学的利用能を有するという利点があることが見出された。したがって、本開示の医薬組成物において、活性成分は、ラゼルチニブメシル酸塩であってもよい。一実施形態では、本開示の医薬組成物は、5~54重量%のラゼルチニブメシル酸塩と、45~87重量%の微結晶セルロースとマンニトールとの組み合わせと、0.5~10重量%のクロスカルメロースナトリウムと、0.4~2重量%のステアリン酸マグネシウムと、からなり得る。別の実施形態では、本開示の医薬組成物は、7~46重量%のラゼルチニブメシル酸塩と、50~87重量%の微結晶セルロースとマンニトールとの組み合わせと、2~5重量%のクロスカルメロースナトリウムと、0.5~1.5重量%のステアリン酸マグネシウムと、からなり得る。
【0023】
ラゼルチニブメシル酸塩は結晶形態であってもよい。一実施形態では、ラゼルチニブメシル酸塩は、5.614、12.394、14.086、17.143、18.020、19.104、21.585、22.131、及び22.487°2θ±0.2°2θにピークを有するPXRDパターンを有する結晶形態であってもよい。別の実施形態では、ラゼルチニブメシル酸塩は、210~230℃、好ましくは、217±2℃に吸熱ピークを有する示差走査熱量計(DSC)サーモグラムを有する結晶形態であってもよい。ラゼルチニブメシル酸塩は、214±2℃のオンセットを有し得る。
【0024】
ラゼルチニブメシル酸塩は、(a)ラゼルチニブフリー体を単一の有機溶媒又は混合溶媒と混合し、続いてメタンスルホン酸を添加してラゼルチニブメシル酸塩を形成することと、(b)有機溶媒を工程(a)の混合物に添加することにより、ラゼルチニブメシル酸塩を結晶化することと、を含む、調製方法によって調製できる。
【0025】
工程(a)の単一の有機溶媒は特に限定されないが、アセトン、メチルエチルケトン、及び酢酸エチルからなる群から選択されてもよい。工程(a)の混合溶媒は、水と1種以上の好適な有機溶媒との混合溶媒であってもよい。具体的には、水と、アセトン及びメチルエチルケトンから選択される1種以上の有機溶媒との混合溶媒が好ましいが、これに限定されない。水と有機溶媒との混合比は、体積比で1:1~1:10、具体的には1:4~1:6であってもよいが、これに限定されない。工程(a)は、20~70℃、好ましくは45~60℃の温度で実施されてもよい。
【0026】
工程(b)の結晶化は、有機溶媒を工程(a)で得られた混合物に添加し、撹拌し、冷却し、混合物を濾過し、その後乾燥させて得られた固体を得ることによって行うことができる。工程(b)の有機溶媒は、工程(a)の単一の有機溶媒と同じであっても異なっていてもよい。具体的には、工程(b)の有機溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、及び酢酸エチルからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。工程(b)の有機溶媒は、工程(a)で使用されるラゼルチニブフリー体1g当たり3mL~20mLの体積で添加されてもよい。具体的には、有機溶媒は、工程(a)で使用されるラゼルチニブフリー体1g当たり5mL~20mLの体積で、より具体的には5mL~10mLの体積で添加されてもよいが、これに限定されない。有機溶媒の添加により得られた混合物を0~30℃、好ましくは0~10℃の温度に冷却し、次いで30~70℃の温度で乾燥させて、ラゼルチニブメシル酸塩を単離することができる。
【0027】
本開示の医薬組成物は、同種移植片拒絶、移植片対宿主病、糖尿病性網膜症、加齢性の失明による脈絡膜新生血管、乾癬、関節炎、変形性関節症、関節リウマチ、関節炎における滑膜のパンヌス浸潤、多発性硬化症、重症筋無力症、糖尿病、糖尿病性血管障害、未熟児網膜症、小児血管腫、非小細胞肺癌、膀胱癌、頭頸部癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、胃癌、膵癌、乾癬、線維症、粥状動脈硬化、再発性狭窄症、自己免疫疾患、アレルギー、呼吸器疾患、ぜんそく、移植片拒絶、炎症、血栓症、網膜の導管増殖、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、骨疾患、移植片又は骨髄移植拒絶反応、ループス、慢性膵炎、悪液質、敗血症性ショック、線維症及び分化皮膚疾患又は障害、中枢神経系疾患、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳又は脊髄損傷及びエキソン変形後神経損傷関連障害又は症状、急性又は慢性癌、眼疾患、ウイルス感染、心疾患、肺疾患又は腎疾患、並びに気管支炎の予防又は治療に使用することができる。本開示の医薬組成物は、好ましくは、急性又は慢性癌、より好ましくは肺癌、最も好ましくは非小細胞肺癌又は脳転移性非小細胞肺癌の予防又は治療に使用することができるが、これらに限定されない。
【0028】
以下、本開示を実施例及び試験実施例によってより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例及び試験実施例は、本開示を単に説明するものであり、本開示は、これらの実施例及び試験実施例に限定されない。
【0029】
以下の実施例及び試験実施例では、「ラゼルチニブ」は、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドを指し、「ラゼルチニブメシル酸塩」は、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのメシル酸塩を指す。
【0030】
参考実施例1:ラゼルチニブメシル酸塩の調製
国際公開第2016/060443号に開示される方法と同様に調製した化合物、すなわち、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミド(ラゼルチニブ)(1,100.0g、1,983.2mmol)、アセトン(4.4L)、及び精製水(1.1L)を反応器に入れ、撹拌下で45~55℃に加熱した。メタンスルホン酸(186.8g、1,943.6mmol)を精製水(0.55L)で希釈した後、得られた溶液を45℃以上の温度に維持しながら添加した。得られた混合物を30分以上撹拌して、N-(5-(4-(4-((ジメチルアミノ)メチル)-3-フェニル-1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)-4-メトキシ-2-モルホリノフェニル)アクリルアミドのメシル酸塩を含む混合物を調製した。
【0031】
その後、混合物中のメシル酸塩化合物を結晶化させるために、アセトン(8.8L)を40~50℃の温度に維持しながら添加した。得られた混合物を30分以上撹拌し、0~5℃に冷却した後、3時間以上撹拌した。反応混合物を減圧下で濾過し、ウェットケーキをアセトン(5.5L)で洗浄し、その後得られた固体を真空中55℃で乾燥させて、1,095.8gのラゼルチニブメシル酸塩(収率:84.9%)を得た。
【0032】
H-NMR(400MHz、DMSO-d)による得られたラゼルチニブメシル酸塩の測定結果は以下の通りである。
【0033】
H-NMR(400MHz、DMSO-d)δ9.79(s,1H)、9.35(s,1H)、9.21(s,1H)、8.78(s,1H)、8.59(d,1H)、8.33(s,1H)、7.77(d,2H)、7.55(m,3H)、7.34(d,1H)、6.94(s,1H)、6.71~6.76(q,1H)、6.28~6.31(d,1H)、5.81~5.83(d,1H)、4.48(s,2H)、3.90(s,3H)、3.81~3.83(t,4H)、2.86~2.88(t,4H)、2.66(s,6H)、2.35(s,3H)。
【0034】
得られたラゼルチニブメシル酸塩のPXRDを測定した結果、5.614、12.394、14.086、17.143、18.020、19.104、21.585、22.131、及び22.487°2θ±0.2°2θにピークを有するPXRDパターンが示された(図1)。PXRDスペクトルは、Bruker D8 advance(X線源:CuKα、管電圧:40kV/管電流:40mA、発散スリット:0.3、散乱スリット:0.3)を用いて測定した。
【0035】
得られたラゼルチニブメシル酸塩をDSCにより測定した結果、DSCグラフでは約217℃に吸熱ピークが示された(図2)。DSCは、Mettler Toledo DSC 1 STAR(サンプル容器:密封アルミニウムパン、99%窒素条件、及び30℃~300℃まで毎分10℃で上昇)を用いて測定した。
【0036】
参考実施例2:ラゼルチニブメシル酸塩の特性評価及び薬物動態試験
(1)溶解度試験
pHによる溶解度、並びに、人工胃液、人工腸液、水及びエタノール中の溶解度を、ラゼルチニブメシル酸塩及びラゼルチニブフリー体について、互いに比較した。
【0037】
参照実施例1で調製した120mgのラゼルチニブメシル酸塩(ラゼルチニブとして100mg)を、以下の表1に開示される各pHを有する緩衝液、人工胃液、人工腸液、水、又はエタノール5mLに添加し、次いで、37℃、水浴、及び50rpmの条件下で12時間撹拌した。更に、100mgのラゼルチニブフリー体(国際公開第2016/060443号に記載の方法と同様に調製)を同じ条件下で試験した。12時間の撹拌後、溶解したラゼルチニブの濃度を測定し、溶解度を比較した。結果を以下の表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、ラゼルチニブメシル酸塩は、ラゼルチニブフリー体よりも20,000倍高い水への溶解度、ラゼルチニブフリー体よりも約10倍高い人工胃液(FaSSGF)への溶解度、ラゼルチニブフリー体よりも約25倍高い人工腸液(FaSSIF)への溶解度を有していた。
【0040】
(2)安定性試験
ラゼルチニブメシル酸塩の安定性試験を苛酷条件及び加速条件下で実施し、各条件を以下の表2に示した。
【0041】
【表2】
【0042】
(2-1)苛酷条件下での安定性試験
ラゼルチニブメシル酸塩の安定性を、上記の表2に記載の苛酷条件下で試験し、結果を図3及び下記表3及び4に示した。PXRD及びDSCの測定条件は、参考実施例1に記載したものと同じである。
【0043】
【表3】
【0044】
更に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の測定結果を以下の表4に示し、測定条件は以下の通りであった。移動相緩衝液:250mM酢酸アンモニウム水溶液(移動相A:緩衝液/水/アセトニトリル、移動相B:アセトニトリル、カラム:Xbridge BEH C18 XP)
【0045】
【表4】
【0046】
(2-2)加速条件下での安定性試験
ラゼルチニブメシル酸塩の安定性を、上記の表2に記載の加速条件下で試験し、結果を図4及び下記表5及び6に示した。PXRD及びDSCの測定条件は、実施例1に記載したものと同じである。
【0047】
【表5】
【0048】
更に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の測定結果を以下の表6に示し、測定条件は(2-2)に開示されたものと同じであった。
【0049】
【表6】
【0050】
安定性試験の結果から、ラゼルチニブメシル酸塩は、安定性試験の開始時と終了時との間で純度及び含水量においてわずかな変化を示し、PXRDパターンの変化は見られず、色によって観察される外観の変化は見られず、したがって、その安定性は優れていた。
【0051】
(3)正常ラット及びエソメプラゾール処置ラットにおけるラゼルチニブメシル酸塩及びラゼルチニブフリー体の比較薬物動態試験
ラゼルチニブメシル酸塩及びラゼルチニブフリー体に関して、それぞれ正常ラット及びプロトンポンプ阻害剤であるエソメプラゾールで処置したラットにおいて、薬物動態を互いに比較した。具体的には、正常ラット及びエメプラゾール処置ラットにおいて、最高血中濃度(Cmax)及び血中濃度曲線下面積(AUClast)を、それぞれ互いに比較して、動物における薬物の吸収を評価した。
【0052】
比較薬物動態試験を実施するために、約250gの8週齢の雄性ラット(SDラット)を試験動物として選択し、ラゼルチニブメシル酸塩及びラゼルチニブフリー体を0.5%メチルセルロースに懸濁させ、次いで、30mg/5mL/kgの用量で正常ラットに経口投与した。
【0053】
更に、エメプラゾール(Sigma-Aldrich製エスプラゾールマグネシウム二水和物)を、5mg/2mL/kgの用量で約250gの8週齢の雄性ラットに3日間静脈内投与し、次いで、ラゼルチニブメシル酸塩及びラゼルチニブフリー体を、正常ラットに投与した用量と同じ用量(30mg/5mL/kg)で経口投与した。これらから得られた比較薬物動態試験の結果(最高血中濃度及び血中濃度曲線下面積)を表7及び図5及び6に示した。
【0054】
【表7】
【0055】
上記の結果に示されるように、ラゼルチニブフリー体の場合、最高血中濃度及び血中濃度曲線下面積は、正常ラットにおいてラゼルチニブメシル酸塩よりもそれぞれ11.0%及び10.4%低く観察され、最高血中濃度及び血中濃度曲線下面積は、エソメプラゾール処置ラットにおいてラゼルチニブメシル酸塩よりもそれぞれ47.8%及び49.4%低く観察された。すなわち、ラゼルチニブフリー体は、ラゼルチニブメシル酸塩よりも低い体内曝露量を有することが分かる。
【0056】
更に、エソメプラゾール処置ラットでは、ラゼルチニブメシル酸塩の場合、最高血中濃度及び血中濃度曲線下面積は、それぞれ正常ラットと比較して47.6%及び36.0%低下した。しかしながら、ラゼルチニブフリー体の場合、最高血中濃度及び血中濃度曲線下面積は、それぞれ正常ラットと比較して69.3%及び63.8%低下した。これらの結果から、ラゼルチニブメシル酸塩は、ラゼルチニブフリー体よりも、エメプラゾール投与による薬物動態の変化が少なく、それによってラットにおいて高い血中濃度を維持していることが分かる。
【0057】
(4)ビーグル犬におけるラゼルチニブメシル酸塩及びラゼルチニブフリー体の薬物動態試験
比較薬物動態試験を実施するために、約10kgの15~17月齢の雄性ビーグル犬を試験動物として選択し、ラゼルチニブメシル酸塩及びラゼルチニブフリー体を0.5%メチルセルロースに懸濁させ、次いで、5mg/2mL/kgの用量でビーグル犬に経口投与した。これらから得られた比較薬物動態試験の結果(最高血中濃度及び血中濃度曲線下面積)を表8及び図7に示した。
【0058】
【表8】
【0059】
上記の結果に示すように、ビーグル犬で試験した結果として、ラゼルチニブフリー体は、ラゼルチニブメシル酸塩よりもそれぞれ40.1%及び50.4%低い最高血中濃度及び血中濃度曲線下面積を示すことが観察された。これらの結果から、ラゼルチニブメシル酸塩は、ビーグル犬においてラゼルチニブフリー体よりも高い血中濃度を維持することが分かる。
【0060】
したがって、ラゼルチニブメシル酸塩は、ラゼルチニブフリー体と比較して溶解度及び生物学的利用能に優れている。ラゼルチニブメシル酸塩は、安定性、溶解度、及び生物学的利用能が改善され、その高純度という観点から優れている。
【0061】
実施例1~8.錠剤の調製
以下の表9の成分及び含有量に従って、ラゼルチニブメシル酸塩を含有する錠剤を調製した。表9の含有量は、単位錠剤当たりのmgを表す。具体的には、ブレンダーを用いて活性成分、添加剤、崩壊剤を混合し、その後、潤滑剤を更に混合した。得られた混合物を錠剤プレス機(Corsch Corporation製XP1)を使用して圧縮し、錠剤を調製した。
【0062】
【表9】
【0063】
実施例9~13.錠剤の調製
以下の表10の成分及び含有量に従って、ラゼルチニブメシル酸塩を含有する錠剤を調製した。表10の含有量は、単位錠剤当たりのmgを表す。具体的には、ブレンダーを用いて活性成分、添加剤、崩壊剤を混合し、その後、潤滑剤を更に混合した。得られた混合物を錠剤プレス機(Corsch Corporation製XP1)を使用して圧縮し、錠剤を調製した。
【0064】
【表10】
【0065】
比較実施例1~6.錠剤の調製
以下の表11の成分及び含有量に従って、ラゼルチニブメシル酸塩を含有する錠剤を調製した。表11の含有量は、単位錠剤当たりのmgを表す。具体的には、ブレンダーを用いて活性成分、添加剤、崩壊剤を混合し、その後、潤滑剤を更に混合した。得られた混合物を錠剤プレス機(Corsch Corporation製XP1)を使用して圧縮し、錠剤を調製した。
【0066】
【表11】

Microshellac:73~77%のラクトース水和物及び23~27%の微結晶セルロースからなる添加剤
【0067】
試験実施例1.ラゼルチニブメシル酸塩及び/潤滑剤/滑剤の相溶性試験
1,000mgのラゼルチニブメシル酸塩と1,000mgのステアリン酸マグネシウムとの混合物(混合物A)、1,000mgのラゼルチニブメシル酸塩と1,000mgのフマル酸ステアリルナトリウムとの混合物(混合物B)、及び、1,000mgのラゼルチニブメシル酸塩と1,000mgのコロイド状二酸化ケイ素(すなわち、Aerosil 200)との混合物(混合物C)を、それぞれ1kNの圧力を加えることにより圧縮し、圧縮材料を調製した。圧縮前の混合物中の最大未知不純物及び総不純物の含有量、並びに、得られた圧縮材料中の最大未知不純物及び総不純物の含有量をそれぞれ測定した。また、得られた圧縮材料をHDPE製ガラス瓶に入れ、苛酷条件下(60±2℃、75±5%RH)で1週間保管した後、最大未知不純物及び総不純物の含有量を測定した。不純物の含有量を、以下の条件下で超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)により分析した。
【0068】
<UPLC条件>
-カラム:ACQUITY UPLC(R)HSS T3、1.8μ粒径、2.1×100mm
-移動相A:緩衝液/アセトニトリル=95/5(v/v%)
-移動相B:緩衝液/アセトニトリル=5/95(v/v%)
緩衝液:20mM重炭酸アンモニウム(ギ酸を使用してpH7.0に調整)
-流量:0.4mL/分
-カラム温度:40℃
-波長:285nm
このように、相溶性試験を実施した結果を以下の表12に示す。
【0069】
【表12】
【0070】
上記表12の結果に見られるように、ラゼルチニブメシル酸塩とステアリン酸マグネシウムとの混合物では、圧縮前後の両方及び苛酷条件下1週間保管後に、不純物量の顕著な増加は観察されなかった。しかしながら、ラゼルチニブメシル酸塩とフマル酸ステアリルナトリウムとの混合物では、圧縮プロセス中に不純物量の顕著な増加が示された。更に、ラゼルチニブメシル酸塩とコロイド状二酸化ケイ素との混合物では、1週間の苛酷条件で不純物量の顕著な増加が示された。したがって、ステアリン酸マグネシウムは、ラゼルチニブメシル酸塩に対して特に優れた相溶性を有することが分かる。
【0071】
試験実施例2.錠剤の溶出試験(1)
実施例5及び比較実施例1の錠剤について以下の条件に従って溶出試験を実施し、各サンプルをHPLCで分析した。
【0072】
<溶出試験の条件>
溶出試験溶液:
1)pH1.2溶液-韓国薬局方の崩壊試験法の第1溶液
2)pH4.0溶液-酢酸緩衝液(0.05mol/L酢酸溶液と0.05mol/L酢酸ナトリウム溶液の混合物(41:9、v/v)、pH4.0に調整)
溶出試験溶液の量:900mL
溶出試験溶液の温度:37±0.5℃
溶出試験方法:韓国薬局方の溶出試験の第2法(50rpm)
【0073】
サンプル回収時間:
1)pH1.2溶液-5分、10分、15分、30分
2)pH4.0溶液-5分、10分、15分、30分、45分、
60分
【0074】
<HPLC条件>
-カラム:Luna C18(2)、5μm粒径、4.6×50mm
-移動相:緩衝液/アセトニトリル=40/60(v/v%)
緩衝液:20mM重炭酸アンモニウム(ギ酸を使用してpH7.2に調整)
-流量:2.0mL/分
-カラム温度:50℃
-波長:298nm
【0075】
上記のように実施された溶出試験の結果を図8~9に示す。加えて、図9の拡大した溶出パターンを図10に示す。図8~10に示されるように、実施例5の錠剤では、食前状態を示すpH1.2での溶出速度と、食後状態を示すpH4.0での溶出速度との間に顕著な差はなかった。対照的に、比較実施例1の錠剤では、pH1.2での溶出速度と比較して、pH4.0での溶出速度は著しく低下した。したがって、本開示の錠剤は、食品又は薬物(例えば、制酸剤など)によるpHの変化による溶出において、偏差を最小限に抑えることができる。
【0076】
試験実施例3.錠剤の溶出試験(2)
実施例1及び2、並びに比較実施例3の錠剤について以下の条件に従って溶出試験を実施し、各サンプルをHPLCで分析した。HPLC分析条件は試験実施例2と同じである。
【0077】
<溶出試験の条件>
溶出試験用液:pH4.0溶液-酢酸緩衝液(0.05mol/L酢酸溶液と0.05mol/L酢酸ナトリウム溶液の混合物(41:9、v/v)、pH4.0に調整)
溶出試験溶液の量:900mL
溶出試験溶液の温度:37±0.5℃
溶出試験方法:韓国薬局方の溶出試験の第2法(50rpm)
サンプル回収時間:5分、10分、15分、30分、45分、
60分
【0078】
上記のように実施された溶出試験の結果を図11に示す。図11に示すように、マンニトールよりも大量(約3倍)の微結晶セルロースを使用する場合、pH4.0での溶出速度は著しく低下した。反対に、本開示の錠剤は均一な溶出速度を示すことが分かる。
【0079】
試験実施例4.錠剤の溶出試験(3)
実施例7及び比較実施例5及び6の錠剤について以下の条件に従って溶出試験を実施し、各サンプルをHPLCで分析した。HPLC分析条件は試験実施例2と同じである。
【0080】
<溶出試験の条件>
溶出試験溶液:
1)酸性相-0.1N塩酸溶液750mL
2)緩衝相-1)酸性相750mL+0.2Mトリリン酸ナトリウム溶液250mL
溶出試験溶液の温度:37±0.5℃
溶出試験方法:韓国薬局方の溶出試験の第2法(50rpm)
(酸性相の溶出溶液(750mL)中で30分間溶出試験を実施した後、250mLの0.2Mトリリン酸ナトリウム溶液を添加して緩衝相の溶出溶液(1000mL)とした後、更に60分間溶出試験を行った。)
【0081】
サンプル回収時間:
1)酸性相-5分、10分、15分、30分
2)緩衝相-5分、10分、15分、30分、45分、
60分
【0082】
上記のように実施された溶出試験の結果を図12に示す。図12の結果から、崩壊剤としてクロスカルメロースナトリウムを使用して得られた錠剤では、緩衝相における薬物の沈殿が最も遅延することが分かる。
【0083】
試験実施例5.安定性試験
実施例1及び比較実施例4の錠剤をアルミニウムバッグに入れ、苛酷条件下(60±2℃、75±5%RH)で2週間保管した後、最大未知不純物及び総不純物の含有量をそれぞれ測定した。不純物の含有量を、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)により分析した。UPLC分析条件は試験実施例1と同じである。
【0084】
このように、安定性試験を実施した結果を以下の表13に示す。
【0085】
【表13】
【0086】
上記表13の結果から分かるように、本開示に従って得られた錠剤では、不純物の著しい増加は観察されなかった。しかしながら、比較実施例4の錠剤では、未知の不純物が著しく増加した。
【0087】
試験実施例6.薬物動態試験
実施例7及び比較実施例2の錠剤に関して、ビーグル犬における薬物動態をそれぞれ互いに比較した。実施例7及び比較実施例2で調製した錠剤(YH25448として80mgを含有する組成物)を、試験前に14時間絶食させたビーグル犬(空腹時状態)に経口投与した後、薬物動態試験を行った。
【0088】
上記の薬物動態試験を実施することによって得られた血中濃度プロファイルを図13に示す。更に、血中濃度プロファイルから得られた薬物動態パラメータ、すなわち最高血中濃度(Cmax)及び血中濃度曲線下面積(AUClast)を以下の表14に示す。
【0089】
【表14】
【0090】
表14及び図13の結果として、本開示に従って得られた錠剤は、高いAUC値及び優れた生物学的利用能を有することが分かる。更に、最高血中濃度を低下させることができ、それにより、毒性リスクを低減することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】