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特表2022-505032腫瘍オルガノイドを産生するための組成物および腫瘍オルガノイドを産生する方法
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  • 特表-腫瘍オルガノイドを産生するための組成物および腫瘍オルガノイドを産生する方法 図1A
  • 特表-腫瘍オルガノイドを産生するための組成物および腫瘍オルガノイドを産生する方法 図1B
  • 特表-腫瘍オルガノイドを産生するための組成物および腫瘍オルガノイドを産生する方法 図1C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】腫瘍オルガノイドを産生するための組成物および腫瘍オルガノイドを産生する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20220106BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20220106BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20220106BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20220106BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C12N1/00 F
C12N5/09
C12N5/074
C12N5/0735
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021520927
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(85)【翻訳文提出日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 US2019056577
(87)【国際公開番号】W WO2020081715
(87)【国際公開日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】62/746,296
(32)【優先日】2018-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カルリ ラグー
(72)【発明者】
【氏名】ルブルー バレリー
(72)【発明者】
【氏名】チェン ヤン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ91
4B063QR77
4B065AA90X
4B065BB19
4B065BB23
4B065BB40
4B065CA46
(57)【要約】
本明細書において、コラーゲンIホモ三量体の存在下で初代の組織を培養することにより、正常またはがん性のいずれかでありうる初代の組織からのオルガノイドの産生を増強する方法が提供される。この目的のために、外因性コラーゲンIホモ三量体を含む細胞培地もまた、提供される。開示された方法により産生されたオルガノイド、およびそのように産生されたオルガノイドを使用する方法もまた、提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外因性コラーゲンIホモ三量体を含む、動物またはヒト細胞用の基本細胞培地。
【請求項2】
無血清である、請求項1記載の培地。
【請求項3】
血清代替物を含む、請求項1記載の培地。
【請求項4】
血清が補充されている、請求項1記載の培地。
【請求項5】
外因性コラーゲンIホモ三量体を含む、動物またはヒト細胞用の細胞培養添加物。
【請求項6】
細胞外マトリックス、ヒドロゲル、生物学的足場、または合成足場である、請求項5記載の添加物。
【請求項7】
細胞外マトリックスがマトリゲルである、請求項6記載の添加物。
【請求項8】
外因性コラーゲンIホモ三量体を含む、動物またはヒト細胞用の細胞培養表面。
【請求項9】
細胞培養プレート、チャネル、ダクト、バルブ、またはマイクロ流体デバイスである、請求項8記載の表面。
【請求項10】
オルガノイドを取得および/または培養するための方法であって、請求項1記載の培地の存在下、請求項5記載の添加物の存在下、または請求項8記載の表面上で、細胞を細胞外マトリックスとともに培養する段階を含む、前記方法。
【請求項11】
細胞が初代細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
初代細胞ががん細胞である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
がん細胞が膵管腺がん細胞である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
がん細胞がヒト組織から解離されている、請求項12記載の方法。
【請求項15】
ヒト組織が生検によって得られたものである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
細胞が幹細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項17】
細胞外マトリックスが、エンゲルブレス・ホルム・スウォーム(Engelbreth-Holm-Swarm)(EHS)マウス肉腫細胞によって分泌された基底膜調製物である、請求項10記載の方法。
【請求項18】
細胞外マトリックスが、ラミニン、エンタクチン、およびコラーゲンIVを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
細胞外マトリックスがマトリゲルである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞外マトリックスが合成物である、請求項10記載の方法。
【請求項21】
請求項10~20のいずれか一項記載の方法によって得られたオルガノイド。
【請求項22】
インビトロで形成された、請求項21記載のオルガノイド。
【請求項23】
オルガノイド中の細胞の少なくとも75%が生存可能である、請求項21記載のオルガノイド。
【請求項24】
オルガノイド中の細胞の95%超が生存可能である、請求項23記載のオルガノイド。
【請求項25】
少なくとも1週間~少なくとも1ヶ月の間、培養下で維持されている、請求項21記載のオルガノイド。
【請求項26】
1ヶ月超の間、培養下で維持されている、請求項21記載のオルガノイド。
【請求項27】
少なくとも6ヶ月の間、培養下で維持されている、請求項21記載のオルガノイド。
【請求項28】
膵管腺がんオルガノイドである、請求項21記載のオルガノイド。
【請求項29】
臓器線維症オルガノイドである、請求項21記載のオルガノイド。
【請求項30】
腎線維症オルガノイドである、請求項21記載のオルガノイド。
【請求項31】
少なくとも1×103個の細胞~1×107個の細胞の集団を含む、請求項21記載のオルガノイド。
【請求項32】
請求項21~31のいずれか一項記載のオルガノイドを試験化合物とともに培養する段階を含む、創薬スクリーニングを行う方法。
【請求項33】
アッセイが、オルガノイドを試験化合物と接触させる段階を含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
請求項21~31のいずれか一項記載のオルガノイドを培養する段階を含む、毒性アッセイを行う方法。
【請求項35】
アッセイが、試験化合物の臓器特異的な細胞毒性を決定する、請求項34記載の方法。
【請求項36】
アッセイが、オルガノイドを試験化合物と接触させる段階を含む、請求項34記載の方法。
【請求項37】
試験化合物が、化学予防剤、がん化学療法剤、環境化学物質、栄養補助食品、または潜在的な毒性物質を含む、請求項33または36記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2018 年 10 月 16 日付で出願された米国仮出願番号62/746,296の優先権の恩典を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
1. 分野
本発明は、オルガノイドを産生する方法、およびそれにより産生されるオルガノイドに関する。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術の記述
通常、患者の腫瘍細胞は二次元(2D)単層として培養され、これによっては腫瘍自体の複雑な組成を再現することができない。さらに、単層として培養された細胞は、インビボで見られる間質細胞および細胞外マトリックス(ECM)との相互作用を欠いている。オルガノイド(3D)培養により、開始物質の量が非常に少ない場合でも、腫瘍細胞を増殖させることができる。オルガノイドは、潜在的ながんのドライバおよび新規の治療標的を同定するうえで既に役立っている(Boj et al., 2015)。しかしながら、オルガノイドを作出する改善されたさらに効率的な方法が必要である。
【発明の概要】
【0004】
概要
1つの態様において、外因性コラーゲンIホモ三量体を含む、動物またはヒト細胞用の基本細胞培地が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、培地は無血清である。いくつかの局面において、培地は血清代替物を含む。いくつかの局面において、培地には血清が補充されている。
【0005】
1つの態様において、外因性コラーゲンIホモ三量体を含む、動物またはヒト細胞用の細胞培養添加物が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、添加物は、細胞外マトリックス、ヒドロゲル、生物学的足場、または合成足場である。いくつかの局面において、細胞外マトリックスは、ラミニン、エンタクチン、およびコラーゲンIVを含む。いくつかの局面において、細胞外マトリックスはマトリゲルである。いくつかの局面において、細胞外マトリックスは合成物である。
【0006】
1つの態様において、外因性コラーゲンIホモ三量体を含む、動物またはヒト細胞用の細胞培養表面が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、表面は細胞培養プレート、チャネル、ダクト、バルブ、またはマイクロ流体デバイスである。表面は、3D構造の培養または組織工学において用いられる任意の材料でありうる。表面は、細胞生存性を支持するためにコラーゲンホモ三量体でコーティングすることができる任意の表面でありうる。
【0007】
1つの態様において、オルガノイドを取得および/または培養するための方法であって、本態様のいずれか1つのコラーゲンホモ三量体富化培地、添加物、または表面の存在下で細胞を細胞外マトリックスとともに培養する段階を含む方法が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、細胞は初代細胞である。いくつかの局面において、初代細胞はがん細胞である。いくつかの局面において、がん細胞は膵管腺がん細胞である。いくつかの局面において、がん細胞はヒト組織から解離されている。いくつかの局面において、ヒト組織は生検によって得られたものである。いくつかの局面において、細胞は幹細胞である。
【0008】
いくつかの局面において、細胞外マトリックスは、エンゲルブレス・ホルム・スウォーム(Engelbreth-Holm-Swarm)(EHS)マウス肉腫細胞によって分泌された基底膜調製物である。いくつかの局面において、細胞外マトリックスは、ラミニン、エンタクチン、およびコラーゲンIVを含む。いくつかの局面において、細胞外マトリックスはマトリゲルである。いくつかの局面において、細胞外マトリックスは合成物である。
【0009】
1つの態様において、本方法の態様によって得られたオルガノイドが、本明細書において提供される。いくつかの局面において、オルガノイドはインビトロで形成される。いくつかの局面において、オルガノイド中の細胞の少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、または98%が生存可能である。いくつかの局面において、オルガノイドは、少なくとも1週間~少なくとも1ヶ月の間、培養下で維持されている。いくつかの局面において、オルガノイドは、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、または6ヶ月超の間、培養下で維持されている。いくつかの局面において、オルガノイドは、少なくとも6ヶ月、少なくとも7ヶ月、少なくとも8ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも10ヶ月、少なくとも11ヶ月、または少なくとも12ヶ月の間、培養下で維持されている。いくつかの局面において、オルガノイドは膵管腺がんオルガノイドである。いくつかの局面において、オルガノイドは臓器線維症オルガノイドである。いくつかの局面において、オルガノイドは腎線維症オルガノイドである。いくつかの局面において、オルガノイドは、少なくとも1×103個の細胞~1×107個の細胞の集団を含む。
【0010】
1つの態様において、本態様のいずれか1つのオルガノイドを試験化合物とともに培養する段階を含む、創薬スクリーニングを行う方法が本明細書において提供される。いくつかの局面において、アッセイは、オルガノイドを試験化合物と接触させる段階を含む。試験化合物は、化学予防剤、がん化学療法剤、環境化学物質、栄養補助食品、または潜在的な毒性物質でありうる。
【0011】
1つの態様において、本態様のいずれか1つのオルガノイドを培養する段階を含む、毒性アッセイを行う方法が本明細書において提供される。いくつかの局面において、アッセイは、試験化合物の臓器特異的な細胞毒性を決定する。いくつかの局面において、アッセイは、オルガノイドを試験化合物と接触させる段階を含む。試験化合物は、化学予防剤、がん化学療法剤、環境化学物質、栄養補助食品、または潜在的な毒性物質でありうる。
【0012】
本明細書において用いられる場合、「本質的に含まない」とは指定された成分の観点からいうと、指定された成分がどれも、意図を持って組成物中に製剤化されていないこと、および/または単に夾雑物として、または微量に存在することを意味するために本明細書において用いられる。それゆえ、組成物の意図されない夾雑に起因する、指定された成分の総量は、0.05%よりかなり少なく、好ましくは0.01%より少ない。指定された成分の量を標準的な分析方法を用いて検出できない組成物が最も好ましい。
【0013】
本明細書において用いられる場合、「1つの(a)」または「1つの(an)」とは1つまたは複数を意味しうる。本明細書中の特許請求の範囲において用いられる場合、「含む(comprising)」という単語とともに用いられる時には、「1つの(a)」または「1つの(an)」という単語は1つまたは2つ以上を意味しうる。
【0014】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢だけをいうか、または選択肢が互いに相容れないことをいうと明示されていない限り「および/または」を意味するために用いられるが、この開示は、選択肢だけと「および/または」をいう定義を裏付ける。本明細書において用いられる場合、「別の」とは少なくとも第2の、またはそれより多くを意味しうる。
【0015】
本出願の全体を通して、「約」という用語は、ある値が、この値を求めるために利用されている装置、方法の誤差の固有の変動、または試験対象間に存在するばらつきを含むことを示すために用いられる。
【0016】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の好ましい態様を示しているが、この詳細な説明から本発明の趣旨および範囲の中でさまざまな修正および変更が当業者には明らかになるので、例示にすぎないことが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図面は本明細書の一部をなし、本発明のある種の局面をさらに実証するために含まれる。本発明は、図面の1つまたは複数を、本明細書において提示された特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することによりさらに深く理解されうる。
【0018】
図1A】LSL-KrasG12D;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/loxP (KPPC;Col1pdxKOといわれる)マウスを用いて膵臓がんとの関連でがん細胞系統においてI型コラーゲンα1 (Col1a1)を欠失させるための遺伝的戦略。対照動物としてLSL-KrasG12D;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre (KPPC)マウスを用いた。
図1B】オルガノイドは、同53日齢でKPPCおよびKPPC;Col1pdxKOマウスの腫瘍混合物から確立された。
図1C】KPPCおよびKPPC;Col1pdxKO腫瘍からのオルガノイドの平均直径を定量化した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
ヒト腫瘍片をプラスチック上に配置し、またはマトリゲル上に配置し、オルガノイドとして成長させて、がんの生物学、遺伝子調節または治療の有効性/抵抗性、および薬物スクリーニングの研究を行ってきた。オルガノイドは、ヒトがん組織に似た病変へのその成長および進行のためにコラーゲンIホモ三量体を必要とする。コラーゲンIホモ三量体を欠くがん細胞は、成功裏のオルガノイドを形成することができない。このように、コラーゲンIホモ三量体は培養下でのオルガノイドの生成に必要であり、培養物をコラーゲンIホモ三量体で補完することはオルガノイド形成に有利に働く。
【0020】
I. オルガノイド生成および培養
A. 細胞外マトリックス
単離された幹細胞または初代細胞は、好ましくは、該幹細胞または初代細胞が自然に存在する細胞ニッチを少なくとも部分的に模倣する微小環境中で培養される。この細胞ニッチは、細胞の運命を制御する重要な調節シグナルとなる、マトリックス、足場、および培養基質のような、生体材料の存在下で細胞を培養することによって模倣されうる。そのような生体材料は、天然、半合成および合成の生体材料、および/またはそれらの混合物を含む。足場は、二次元または三次元のネットワークを提供する。そのような足場に適した合成材料は、多孔性固体、ナノファイバー、ならびに例えば自己組織化ペプチドを含むペプチド、ポリエチレングリコールホスフェート、ポリエチレングリコールフマレート、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリセルロースアセテートおよび/またはそれらの共重合体から構成されるヒドロゲルのような、ヒドロゲルから選択される重合体を含む。当業者に公知のように、例えば足場の弾性のような機械的特性は、細胞の増殖、分化および遊走に影響を与える。足場には、細胞の増殖および/または分化および/または遊走に必要とされるシグナルを提供する、天然、半合成または合成のリガンドが補充される。
【0021】
細胞ニッチは、幹細胞または初代細胞および周囲の細胞、ならびに該ニッチ内の細胞により産生される細胞外マトリックス(ECM)によって部分的に決定される。本発明の好ましい方法において、単離された組織断片または細胞は、ECMに付着される。ECMは種々の多糖類、水、エラスチン、および糖タンパク質から構成されており、ここで糖タンパク質はコラーゲン、エンタクチン(ニドゲン)、フィブロネクチン、およびラミニンを含む。ECMは結合組織細胞によって分泌される。異なるタイプの糖タンパク質および/または異なる組み合わせの糖タンパク質を含む異なる組成物を含む、異なるタイプのECMが知られている。ECMは、これらの細胞の除去および単離された組織断片または細胞の添加の前に、例えば線維芽細胞のような、ECM産生細胞を容器中で培養することによって提供することができる。細胞外マトリックス産生細胞の例は、主にコラーゲンおよびプロテオグリカンを産生する軟骨細胞、主にIV型コラーゲン、ラミニン、間質性プロコラーゲン、およびフィブロネクチンを産生する線維芽細胞、ならびに主にコラーゲン(I、III、およびV型)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、およびテネイシン-Cを産生する結腸筋線維芽細胞である。
【0022】
あるいは、ECMは商業的に提供されている。市販の細胞外マトリックスの例は、細胞外マトリックスタンパク質(Invitrogen)およびエンゲルブレス・ホルム・スウォーム(EHS)マウス肉腫細胞(例えばMatrigel(商標) (BD Biosciences))からの基底膜調製物である。ProNectin (Sigma Z378666)のような、合成細胞外マトリックス材料が用いられうる。必要に応じて、細胞外マトリックス材料の混合物が用いられうる。細胞を培養するためのECMの使用により、細胞の長期生存が増強された。ECMがない場合には、細胞培養物をより長期間培養することができなかった。さらに、ECMの存在により、ECMの非存在下では培養することができなかった三次元組織オルガノイドの培養が可能とされた。細胞外マトリックス材料は通常、細胞培養容器にコーティングされるが、(追加または代替として)溶液で供給されうる。
【0023】
本発明の方法で用いるのに好ましいECMは、2つの異なるタイプのコラーゲンまたはコラーゲンおよびラミニンのような、少なくとも2つの異なる糖タンパク質を含む。ECMは、合成ヒドロゲル細胞外マトリックスまたは天然に存在するECMであることができる。さらに好ましいECMは、ラミニン、エンタクチン、およびコラーゲンIVを含むマトリゲル(商標) (BD Biosciences)によって提供される。
【0024】
本発明の組成物は、本明細書の他の箇所に記述されているように、血清を含んでもよく、または血清無しおよび/もしくは血清代替無しであってもよい。培地および細胞調製物は、生物学的製剤についてFDAが要求する基準に沿った、および製品の一貫性を確保するためのGMPプロセスであることが好ましい。
【0025】
B. 培地
本発明の方法において用いられる細胞培地は、本明細書において提供される制限に従う、任意の適当な細胞培地を含む。細胞培地は通常、培養細胞の維持を支持するために必要な多数の成分を含有する。当業者は、以下の開示を考慮に入れて、成分の適当な組み合わせを容易に配合することができる。本発明による培地は、一般に、文献および以下にさらに詳細に記述されるように、アミノ酸、ビタミン、無機塩、炭素エネルギー源、および緩衝液のような、標準的な細胞培養成分を含む栄養溶液であろう。
【0026】
本発明の培地は通常、脱イオン蒸留水中で配合されよう。本発明の培地は、通常、例えば紫外線、加熱、照射、またはろ過により、混入を防ぐために使用の前に滅菌されよう。培地は、貯蔵または輸送のために凍結されうる(例えば-20℃または-80℃で)。培地は、混入を防ぐために1つまたは複数の抗生物質を含有しうる。培地は、1 mLあたり0.1エンドトキシン単位未満のエンドトキシン含有量を有しうるか、または1 mLあたり0.05エンドトキシン単位未満のエンドトキシン含有量を有しうる。培地のエンドトキシン含有量を決定するための方法は、当技術分野において公知である。
【0027】
好ましい細胞培地は、炭酸塩に基づく緩衝液によりpH 7.4 (好ましくはpH 7.2~7.6または少なくとも7.2かつ7.6よりも高くない)に緩衝化される規定の培地であり、細胞は、5%~10%のCO2、または少なくとも5%かつ10%以下のCO2、好ましくは5%のCO2を含む雰囲気中で培養される。
【0028】
当業者は一般的な一般知識から、本発明の細胞培地における基本培地として用いられうる培地のタイプを理解するであろう。潜在的に適当な細胞培地は市販されており、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、ノックアウト-DMEM (KO-DMEM)、グラスゴー最小必須培地(G-MEM)、基本培地イーグル(BME)、DMEM/ハムのF12、アドバンストDMEM/ハムのF12、イスコブの改変ダルベッコ培地および最小必須培地(MEM)、ハムのF-10、ハムのF-12、Medium 199、ならびにRPMI 1640培地を含むが、これらに限定されることはない。基本培地は、アドバンストDMEM F12、HEPES、ペニシリン/ストレプトマイシン、グルタミン、Nアセチルシステイン、B27、N2およびガストリンを含みうる。
【0029】
さらに、細胞培地には、精製された、天然の、半合成および/または合成の増殖因子が補充され、ウシ胎仔血清(fetal bovine serum)またはウシ胎仔血清(fetal calf serum)のような未規定の成分が含まれないことが好ましい。さまざまな異なる血清代替製剤が市販されており、当業者に公知である。血清代替物が用いられる場合、従来の技法によれば、それは培地の約1容量%~約30容量%で用いられうる。
【0030】
1つの態様において、組織サンプル、例えば、膵臓組織サンプルは、細胞培地中でインキュベートされる。1つの態様において、細胞培地は、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)である。別の態様において、細胞培地は、ダルベッコの改変イーグル培地/栄養素混合物F-12 (DMEM/F-12)である。別の態様において、細胞培地には、血清が補充されている。1つの態様において、細胞培地には、ウシ胎仔血清(FBS)が補充されている。
【0031】
1つの態様において、組織サンプル、例えば、膵臓組織サンプルは、酵素的に解離されている。1つの態様において、組織サンプルは、コラゲナーゼを補充した細胞培地との組織のインキュベーションによって酵素的に解離されている。コラゲナーゼは、組織に見られるコラーゲンを分解することができる。1つの態様において、細胞培地中のコラゲナーゼの終濃度は300単位/mlである。別の態様において、細胞培地中のコラゲナーゼの終濃度は、少なくとも50単位/ml、少なくとも100単位/ml、少なくとも200単位/ml、少なくとも300単位/ml、少なくとも400単位/ml、少なくとも500単位/ml、少なくとも600単位/ml、少なくとも700単位/ml、少なくとも800単位/ml、少なくとも900単位/ml、または少なくとも1000単位/mlである。
【0032】
1つの態様において、解離された組織、例えば、解離された膵臓組織は、遠心分離によって解離用培地から分離される。1つの態様において、組織を、トリプシンとの組織のインキュベーションによってさらに解離することができる。トリプシンはセリンプロテアーゼであり、タンパク質を加水分解することができる。1つの態様において、トリプシンは、6.25 mg/lの終濃度で前立腺組織に添加される。別の態様において、トリプシンの終濃度は、少なくとも1 mg/l、少なくとも2 mg/l、少なくとも3 mg/l、少なくとも4 mg/l、少なくとも5 mg/l、少なくとも6 mg/l、少なくとも7 mg/l、少なくとも8 mg/l、少なくとも9 mg/l、少なくとも10 mg/l、少なくとも11 mg/l、少なくとも12 mg/l、少なくとも13 mg/l、少なくとも14 mg/l、少なくとも15 mg/l、少なくとも16 mg/l、少なくとも17 mg/l、少なくとも18 mg/l、少なくとも19 mg/l、または少なくとも20 mg/lである。1つの態様において、トリプシンは、ハンクスの平衡塩溶液(HBSS)およびEDTAに添加される。1つの態様において、サンプルは氷上で1時間インキュベートされる。1つの態様において、サンプルは、少なくとも5分、少なくとも10分、少なくとも15分、少なくとも20分、少なくとも30分、少なくとも45分、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも3時間、少なくとも4時間、または少なくとも5時間インキュベートされる。
【0033】
上記の培地には、必要によりまたは所望により、適切な濃度または量の、任意の成分を含めて、補充の成分または構成要素を必要により補充することができる。細胞培地溶液は、以下の部類の1つまたは複数からの少なくとも1つの成分を提供する: (1) 通常はグルコースのような炭水化物の形態の、エネルギー源; (2) 全ての必須アミノ酸、および通常は20種のアミノ酸に加えてシステインの基本セット; (3) 低濃度の必要なビタミンおよび/または他の有機化合物; (4) 遊離脂肪酸または脂質; ならびに(5) 微量元素、ここで微量元素は、通常はマイクロモル範囲の、非常に低い濃度で通常必要とされる無機化合物または天然元素として定義される。
【0034】
培地に、以下の部類のいずれかからの1つまたは複数の成分を選択的に補充することもできる: (1) 塩、例えば、マグネシウム、カルシウム、およびリン酸塩; (2) ホルモンおよび他の増殖因子、例えば血清、インスリン、トランスフェリン、上皮増殖因子および線維芽細胞増殖因子; (3) タンパク質および組織の加水分解物、例えば、精製ゼラチン、植物材料、または動物副産物から得ることができるペプトンまたはペプトン混合物; (4) ヌクレオシドおよび塩基、例えばアデノシン、チミジン、およびヒポキサンチン; (5) 緩衝液、例えばHEPES; (6) 抗生物質、例えばゲンタマイシンまたはアンピシリン; (7) 細胞保護剤; ならびに(8) ガラクトース。
【0035】
培養下で維持される細胞は、前の培養から新鮮な培地での培養への移入によって継代することができる。1つの態様において、誘導された細胞は、少なくとも3回の継代、少なくとも4回の継代、少なくとも5回の継代、少なくとも6回の継代、少なくとも7回の継代、少なくとも8回の継代、少なくとも9回の継代、少なくとも10回の継代、少なくとも11回の継代、少なくとも12回の継代、少なくとも13回の継代、少なくとも14回の継代、少なくとも15回の継代、少なくとも20回の継代、少なくとも25回の継代、または少なくとも30回の継代の間、細胞培養において安定に維持される。
【0036】
1つの態様において、培地には5%のマトリゲル(商標)が補充されている。1つの態様において、培地には約0.1%のマトリゲル(商標)、約0.2%のマトリゲル(商標)、約0.3%のマトリゲル(商標)、約0.4%のマトリゲル(商標)、約0.5%のマトリゲル(商標)、約0.6%のマトリゲル(商標)、約0.7%のマトリゲル(商標)、約0.8%のマトリゲル(商標)、約0.9%のマトリゲル(商標)、約1%のマトリゲル(商標)、約2%のマトリゲル(商標)、約3%のマトリゲル(商標)、約4%のマトリゲル(商標)、約5%のマトリゲル(商標)、約6%のマトリゲル(商標)、約7%のマトリゲル(商標)、約8%のマトリゲル(商標)、約9%のマトリゲル(商標)、約10%のマトリゲル(商標)、約15%のマトリゲル(商標)、または約20%のマトリゲル(商標)が補充されている。1つの態様において、培地には少なくとも0.1%のマトリゲル(商標)、少なくとも0.2%のマトリゲル(商標)、少なくとも0.3%のマトリゲル(商標)、少なくとも0.4%のマトリゲル(商標)、少なくとも0.5%のマトリゲル(商標)、少なくとも0.6%のマトリゲル(商標)、少なくとも0.7%のマトリゲル(商標)、少なくとも0.8%のマトリゲル(商標)、少なくとも0.9%のマトリゲル(商標)、少なくとも1%のマトリゲル(商標)、少なくとも2%のマトリゲル(商標)、少なくとも3%のマトリゲル(商標)、少なくとも4%のマトリゲル(商標)、少なくとも5%のマトリゲル(商標)、少なくとも6%のマトリゲル(商標)、少なくとも7%のマトリゲル(商標)、少なくとも8%のマトリゲル(商標)、少なくとも9%のマトリゲル(商標)、少なくとも10%のマトリゲル(商標)、または少なくとも20%のマトリゲル(商標)が補充されている。
【0037】
1つの態様において、培地には5%のFBSが補充されている。別の態様において、FBSは、熱失活した木炭除去FBS (例えばGibco, カタログ番号12676)である。1つの態様において、培地には約0.1%のFBS、約0.2%のFBS、約0.3%のFBS、約0.4%のFBS、約0.5%のFBS、約0.6%のFBS、約0.7%のFBS、約0.8%のFBS、約0.9%のFBS、約1%のFBS、約2%のFBS、約3%のFBS、約4%のFBS、約5%のFBS、約6%のFBS、約7%のFBS、約8%のFBS、約9%のFBS、約10%のFBS、約15%のFBS、もしくは約20%のFBS、またはそれ以上が補充されている。1つの態様において、培地には少なくとも0.1%のFBS、少なくとも0.2%のFBS、少なくとも0.3%のFBS、少なくとも0.4%のFBS、少なくとも0.5%のFBS、少なくとも0.6%のFBS、少なくとも0.7%のFBS、少なくとも0.8%のFBS、少なくとも0.9%のFBS、少なくとも1%のFBS、少なくとも2%のFBS、少なくとも3%のFBS、少なくとも4%のFBS、少なくとも5%のFBS、少なくとも6%のFBS、少なくとも7%のFBS、少なくとも8%のFBS、少なくとも9%のFBS、少なくとも10%のFBS、または少なくとも20%のFBSが補充されている。
【0038】
1つの態様において、マトリゲル(商標)浮遊法を用いてオルガノイドを生成するために細胞を培養することができる。別の態様において、マトリゲル(商標)包埋法を用いてオルガノイドを生成するために細胞を培養することができる。1つの態様において、オルガノイドは、少なくとも3週間成長させることができる。さらなる態様において、オルガノイドは、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも7ヶ月、または少なくとも8ヶ月の間、成長させることができる。本発明は同様に、少なくとも6、8、10、12、14、16、18、または20週間培養されたオルガノイドを提供する。
【0039】
II. オルガノイドおよびその使用
1つの態様において、オルガノイドは膵臓オルガノイドである。1つの態様において、オルガノイドは前立腺オルガノイドである。別の態様において、オルガノイドは膀胱オルガノイドである。別の態様において、オルガノイドは肝臓オルガノイドである。さらに別の態様において、オルガノイドは腎臓オルガノイドである。さらなる態様において、オルガノイドは乳房オルガノイドである。別の態様において、オルガノイドは肺オルガノイドである。1つの態様において、オルガノイドは心臓オルガノイドである。別の態様において、オルガノイドは皮膚オルガノイドである。1つの態様において、オルガノイドは胃オルガノイドである。別の態様において、オルガノイドは脳オルガノイドである。別の態様において、オルガノイドは結腸オルガノイドである。さらに別の態様において、オルガノイドは腸オルガノイドである。さらに他の態様において、任意のオルガノイドを本発明の方法において用いることができる。
【0040】
本発明は、組織または細胞の混合集団から細胞を解離するための方法を提供する。1つの態様において、細胞は膵臓組織から解離されている。1つの態様において、細胞は前立腺組織から解離されている。別の態様において、細胞は膀胱組織から解離されている。別の態様において、細胞は肝臓組織から解離されている。さらに別の態様において、細胞は腎臓組織から解離されている。さらなる態様において、細胞は乳房組織から解離されている。別の態様において、細胞は肺組織から解離されている。1つの態様において、細胞は心臓組織から解離されている。別の態様において、細胞は皮膚組織から解離されている。1つの態様において、細胞は胃組織から解離されている。別の態様において、細胞は脳組織から解離されている。別の態様において、細胞は結腸組織から解離されている。別の態様において、細胞は腸組織から解離されている。
【0041】
1つの態様において、細胞は正常組織から解離されている。1つの態様において、細胞は非がん性組織から解離されている。別の態様において、細胞はがん性組織から解離されている。別の態様において、細胞はヒト組織から解離されている。さらなる態様において、細胞はマウス組織から解離されている。他の態様において、細胞は任意の哺乳動物由来の組織から解離されている。1つの態様において、細胞は限局性腫瘍から解離されている。別の態様において、細胞は悪性腫瘍から解離されている。別の態様において、細胞は転移した腫瘍から解離されている。
【0042】
さらなる態様において、オルガノイドは1つまたは複数の限局性腫瘍から培養される。1つの態様において、オルガノイドは悪性腫瘍から培養される。別の態様において、オルガノイドは転移した腫瘍から培養される。1つの態様において、腫瘍は前立腺腫瘍である。別の態様において、腫瘍は膵臓、乳房、心臓、肺、肝臓、膀胱、腎臓、皮膚、胃、脳、結腸、または腸の腫瘍である。
【0043】
1つの態様において、組織のサンプルを生検によって得ることができる。組織サンプルを得る方法は、当業者に公知である。1つの態様において、組織のサンプルは膵臓生検から得られたものである。1つの態様において、組織のサンプルは膀胱生検から得られたものである。別の態様において、組織のサンプルは肝生検から得られたものである。さらに別の態様において、組織のサンプルは腎臓生検から得られたものである。さらなる態様において、組織のサンプルは乳房生検から得られたものである。別の態様において、組織のサンプルは肺生検から得られたものである。1つの態様において、組織のサンプルは心臓生検から得られたものである。別の態様において、組織のサンプルは皮膚生検から得られたものである。1つの態様において、組織のサンプルは胃生検から得られたものである。別の態様において、組織のサンプルは脳生検から得られたものである。1つの態様において、組織のサンプルは結腸生検から得られたものである。別の態様において、組織のサンプルは腸生検から得られたものである。いくつかの態様において、組織のサンプルは微細針吸引生検によって得られたものである。別の態様において、組織のサンプルはコア針生検によって得られたものである。さらなる態様において、組織のサンプルは外科生検によって得られたものである。
【0044】
1つの態様において、対象は動物である。ある種の態様において、対象はヒトである。他の態様において、対象は哺乳動物である。いくつかの態様において、対象はマウスまたはラットのような、げっ歯類である。別の態様において、対象はマウスである。1つの態様において、マウスは遺伝子操作されたマウスである。いくつかの態様において、対象はウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、ウマ、イヌ、および/または家畜として用いられるかまたはペットとして飼育される任意の他の種の動物である。
【0045】
1つの態様において、二次元培養において付着細胞として成長する細胞培養物は、オルガノイドに由来する。1つの態様において、細胞はがん性である。別の態様において、細胞は腫瘍細胞である。別の態様において、細胞は正常である。さらに別の態様において、細胞は非がん性である。
【0046】
1つの態様において、細胞は、小さな塊に切断することによって組織サンプルから解離されている。1つの態様において、組織サンプルは膵臓組織サンプルである。別の態様において、組織サンプルは乳房、心臓、肺、肝臓、膀胱、腎臓、乳房、皮膚、胃、脳、前立腺、結腸、または腸の組織サンプルである。別の態様において、1グラムの組織が用いられる。1つの態様において、少なくとも0.1グラム、少なくとも0.2グラム、少なくとも0.3グラム、少なくとも0.4グラム、少なくとも0.5グラム、少なくとも0.6グラム、少なくとも0.7グラム、少なくとも0.8グラム、少なくとも0.9グラム、少なくとも1.0グラム、少なくとも2.0グラム、少なくとも3.0グラム、少なくとも4,0グラム、少なくとも5.0グラム、少なくとも6.0グラム、少なくとも7.0グラム、少なくとも8.0グラム、少なくとも9.0グラム、または少なくとも10.0グラムの組織が用いられる。別の態様において、臓器全体が用いられる。
【0047】
本発明によるオルガノイドは、少なくとも1×103個の細胞、少なくとも1×104個の細胞、少なくとも1×105個の細胞、少なくとも1×106個の細胞、少なくとも1×107個の細胞またはそれ以上の細胞の集団を含みうる。いくつかの態様において、各オルガノイドはおよそ1×103個の細胞~5×103個の細胞を含む; 一般に、10~20個のオルガノイドが24ウェルプレートの1つのウェル中で一緒に成長されうる。
【0048】
オルガノイドは、本発明の方法を用いてまだ培養中であり、それゆえ細胞外マトリックスと接触しているオルガノイドでありうる。好ましくは、オルガノイドは細胞外マトリックスに包埋されている。本発明の文脈内で、「接触している」とは、物理的または機械的または化学的接触を意味し、これは、オルガノイドを細胞外マトリックスから分離するために力を用いる必要があることを意味する。
【0049】
オルガノイドは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10週間、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12ヶ月またはそれ以上の間、培養されうる。
【0050】
本発明はさらに、好ましくは少なくとも50%の生細胞、より好ましくは少なくとも60%の生細胞、より好ましくは少なくとも70%の生細胞、より好ましくは少なくとも80%の生細胞、より好ましくは少なくとも90%の生細胞を含む、オルガノイドを提供する。細胞の生存性は、FACSにおいてヘキスト染色またはヨウ化プロピジウム染色を用いて評価されうる。
【0051】
さらなる局面において、本発明は、創薬スクリーニング、毒性アッセイにおけるまたは再生医療における上記の通りの本発明による細胞またはオルガノイドの使用を提供する。本発明はさらに、毒性アッセイにおける、本発明のオルガノイドの後代の使用を提供する。そのような毒性アッセイは、オルガノイドに由来する細胞またはオルガノイドもしくはその一部を用いるインビトロアッセイでありうる。そのような後代およびオルガノイドは、培養が容易であり、例えば、毒性アッセイにおいて現在使用されている細胞株よりも初代細胞にいっそう酷似している。オルガノイドで得られた毒性の結果は、患者において得られる結果にいっそう酷似しているものと予想される。細胞に基づく毒性試験は、臓器特異的な細胞毒性を決定するために用いられる。試験において試験される化合物は、がん化学予防剤、がん化学療法剤、環境化学物質、栄養補助食品、および潜在的な毒性物質を含む。細胞は一定期間、複数濃度の試験剤に曝露される。アッセイにおける試験剤の濃度範囲は、5日間の曝露および最大溶解濃度からの対数希釈を用い予備アッセイにおいて決定される。曝露期間の終わりに、培養物を成長の阻害について評価する。データを分析して、エンドポイントを50%阻害した濃度(TC50)を決定する。
【0052】
例えば、本発明のこの局面によれば、候補化合物は、本明細書において記述されるように細胞またはオルガノイドと接触され、細胞へのまたは細胞の活性への任意の変化がモニターされうる。本発明の細胞またはオルガノイドの他の非治療的使用の例としては、発生学、細胞系統、および分化経路の研究; 組み換え遺伝子発現を含む遺伝子発現研究; 組織の損傷および修復に関与する機構; 炎症性および感染症疾患の研究; 病原性の機構の研究; ならびに細胞形質転換の機構およびがんの病因の研究が挙げられる。
【0053】
高速大量処理の目的で、オルガノイドは、例えば、96ウェルプレートまたは384ウェルプレートのようなマルチウェルプレートの中で培養される。オルガノイドに影響を与える分子を同定するために分子のライブラリが用いられる。好ましいライブラリは、抗体断片ライブラリ、ペプチドファージディスプレイライブラリ、ペプチドライブラリ(例えば LOPAP(商標), Sigma Aldrich)、脂質ライブラリ(BioMol)、合成化合物ライブラリ(例えばLOP AC(商標), Sigma Aldrich)、または天然化合物ライブラリ(Specs, TimTec)を含む。さらに、細胞の後代における1つまたは複数の遺伝子の発現を誘導または抑制する遺伝子ライブラリを用いることができる。これらの遺伝子ライブラリは、cDNA ライブラリ、アンチセンスライブラリ、および siRNAまたは他の非コードRNAライブラリを含む。細胞は一定期間、複数濃度の試験剤に曝露されることが好ましい。曝露期間の終わりに、培養物が評価される。「影響を与える」という用語は、増殖、形態学的変化、および細胞死の低減または喪失を含むが、これらに限定されない、細胞の任意の変化を網羅するように用いられる。オルガノイドは、オルガノイドではなく、がん細胞を特異的に標的化する薬物を同定するために用いることもできる。
【0054】
1つの局面において、本発明は、がんを阻害する化合物を同定するための方法であって、(a) オルガノイドを試験化合物と接触させる段階; (b) 試験化合物の非存在下でのオルガノイドの成長と比較して、試験化合物の存在下でオルガノイドの成長が阻害されるかどうかを決定する段階を含み、オルガノイドの成長の阻害が、がんを阻害する化合物の同定を示す方法を提供する。
【0055】
さらに、オルガノイドは病原体の培養に用いることができる。
【0056】
いくつかの態様において、本発明は、患者特有のオルガノイドが貯蔵され、候補治療化合物の大規模スクリーニングのために用いられうる腫瘍組織バンクに関する。そのようなオルガノイドバンクは、患者特有の診断、潜在的な処置の有効性に関するアッセイ、および適切な標的腫瘍集団(がん幹細胞)の同定、ならびに個別化医療における他の用途にも有用でありうる。
【0057】
本開示において、「細胞」への言及は文脈依存であり、組織生検および対象から細胞を得る他の既知の方法によって得られた細胞、ならびに細胞株および他の同様の培養細胞源からの細胞を含め、初代細胞を含みうる。
【実施例
【0058】
III. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれる。以下の実施例に開示される技法は、本発明者らが発見した技法が本発明の実践において十分に機能することを示し、したがって、その実践に好ましい様式を構成すると考えられると当業者に理解されるはずである。しかしながら、本開示を考慮すれば、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示された特定の態様において多くの変更を加えることができ、それでもなお類似または同様の結果を得ることができると当業者に理解されるはずである。
【0059】
実施例1. コラーゲン1ホモ三量体はオルガノイド形成を支持する
LSL-KrasG12D;Pdx1-Cre (KCといわれる)またはLSL-KrasG12D;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre (KPPCといわれる)マウスをCol1a1loxP/loxPマウス系統(loxP隣接エクソン2~5を有する; European Mouse Mutant Cell Repository (EuMMCR)から購入したCol1a1tm1a(EUCOMM)Wtsi系統から確立された)と交配させ、KC;Col1a1loxP/loxP (KC;Col1pdxKOといわれる)およびKPPC;Col1a1loxP/loxP (KPPC;Col1pdxKOといわれる)マウスの作出をもたらした(図1A)。これらのマウスは、PDAC細胞におけるCol1a1の欠失を可能にする。所望の遺伝子型を有する前述の実験マウスを、無作為化または盲検化することなくモニターおよび分析した。実験用マウスには、PDACに望ましい遺伝子型を有する雌と雄の両方のマウスを用いた。全てのマウスはMD Anderson Cancer Center (MDACC)の動物施設にて標準的な飼育条件下で飼育され、全ての動物手順は、MDACC施設内動物管理使用委員会によって審査および承認された。
【0060】
KPPCおよびKPPC;Col1F/Fマウスからの同齢の腫瘍(同53日齢)をマトリゲル上での3Dオルガノイド培養のために収集した。1週間の培養後、KPPC;Col1F/Fオルガノイドは、予想通り、KPPC対照マウスのオルガノイドよりも大幅に小さく成長していた。
【0061】
3Dマトリゲル中のPDACオルガノイドは、それぞれKPPC;Col1pdxKOマウスおよびKPPC対照マウスの腫瘍組織から確立された。KPPC;Col1pdxKOオルガノイドは、KPPCオルガノイドと比較して著しく妨げられた成長を明らかにした(図1BおよびC)。さらに、ゲル上のオルガノイドを、長期保存および連続切片に適した、パラフィン包埋サンプルにするために、いくつかの異なる方法を並行して試験した。手動の脱水包埋方法が機能した。これらのパラフィン包埋オルガノイドサンプルから切片を得て、H&E染色した。一方、2Dディッシュを用いてこれらのマウスから初代がん細胞株(KPPCおよびKPPC;Col1F/F)も作出した。これらの細胞株は、オルガノイド形成についても試験されよう。
【0062】
本明細書において開示および主張される方法は全て、本発明を考慮すれば過度の実験なく作出および実施することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して記述してきたが、本発明の概念、趣旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書において記述される方法および本明細書において記述される方法の段階または段階の順序に変更を加えることができることは当業者に明らかである。さらに具体的には、本明細書において記述される薬剤の代わりに、化学的および生理学的に関連している、ある種の薬剤を用いることができ、それと同時に、同一の結果または類似の結果が得られることが明らかである。当業者に明らかな、このような類似の代用および変更は全て、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨、範囲、および概念の範囲内だと考えられる。
【0063】
参考文献
以下の参考文献は、例示的な手順の詳細または本明細書に記載されるものを補足する他の詳細を示す程度まで、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
Boj et al., “Organoid models of human and mouse ductal pancreatic cancer,” Cell, 160:324-338, 2015.
図1A
図1B
図1C
【国際調査報告】