(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】キメラ分子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20220106BHJP
C07K 14/73 20060101ALI20220106BHJP
C07K 14/82 20060101ALI20220106BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20220106BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220106BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220106BHJP
C40B 40/06 20060101ALI20220106BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220106BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220106BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220106BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220106BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220106BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20220106BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220106BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220106BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220106BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/73 ZNA
C07K14/82
C07K14/725
C07K19/00
C12N15/62 Z
C40B40/06
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/02
C12Q1/6869 Z
A61K39/00 H
A61K48/00
A61K35/76
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521016
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(85)【翻訳文提出日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2019078449
(87)【国際公開番号】W WO2020079264
(87)【国際公開日】2020-04-23
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508374139
【氏名又は名称】エー・テー・ハー・チューリッヒ
【氏名又は名称原語表記】ETH ZUERICH
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】キズィエロフ, ヤン
(72)【発明者】
【氏名】オバーマイヤー, フランツ ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】コップフ, マンフレート
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QQ02
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4B063QQ13
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4B065AA90Y
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4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA75
4H045DA76
(57)【要約】
本発明は、抗原特異的T細胞およびこれらのT細胞受容体(TCR)により特異的に認識されるペプチドの同時検出および濃縮のための方法に関する。また、この方法により、免疫原性試験および他のin vitroでのT細胞反応性試験のための、ワクチン接種、免疫寛容の誘導、TCRの遮断およびMHC媒介毒素送達を含むin vivoおよび/またはin vitroでの介入のためのT細胞特異的抗原の同定が可能となる。また、本発明は、前記方法において使用するキメラ分子に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD4、LAG3またはCD8共受容体タンパク質および前記共受容体のN末端に結合しているペプチドを含むキメラ分子。
【請求項2】
前記ペプチドまたは前記ペプチドの一部分が、主要組織適合複合体により提示され得る、請求項1に記載のキメラ分子。
【請求項3】
前記ペプチドが、6~200アミノ酸残基の長さを有する、請求項1または2に記載のキメラ分子。
【請求項4】
前記ペプチドが、7~30アミノ酸残基の長さを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項5】
前記ペプチドが、ランダムペプチドである、請求項1から4のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項6】
前記ペプチドが、所与のDNAまたはcDNA分子によりコードされるペプチドである、請求項1から5のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項7】
前記ペプチドをコードする前記DNAまたはcDNA分子が、より大きなDNAまたはcDNA分子の断片化により得られる、請求項6に記載のキメラ分子。
【請求項8】
前記ペプチドが、腫瘍細胞または病原体に感染している細胞に由来する、請求項1から7のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項9】
前記ペプチドが、腫瘍抗原のエピトープを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項10】
前記腫瘍抗原が、新生抗原である、請求項9に記載のキメラ分子。
【請求項11】
前記ペプチドが、腫瘍抗原のエピトープと少なくとも50%、60%、70%、80%、90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項12】
前記共受容体タンパク質がCD8である場合、前記ペプチドがMHCクラスIエピトープを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項13】
前記共受容体タンパク質がCD4またはLAG3である場合、前記ペプチドがMHCクラスIIエピトープを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項14】
前記CD4共受容体タンパク質がヒトCD4共受容体タンパク質であり、前記LAG3共受容体タンパク質が、ヒトLAG3共受容体タンパク質であり、前記CD8共受容体タンパク質がヒトCD8共受容体タンパク質である、請求項1から13のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項15】
前記ペプチドが、前記共受容体のN末端にリンカーを介して結合している、請求項1から14のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項16】
前記リンカーが、5~30アミノ酸の長さを有する、請求項15に記載のキメラ分子。
【請求項17】
前記リンカーにおけるアミノ酸残基の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%が、グリシンまたはセリン残基である、請求項15または16に記載のキメラ分子。
【請求項18】
前記リンカーが、アミノ酸配列(GGGGS)
xを含み、ここでGがグリシンであり、Sがセリンであり、xが反復数であり、xが、1~5の任意の数であり得る、請求項15から17のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載のキメラ分子をコードするポリヌクレオチド。
【請求項20】
請求項19に記載の複数のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドのライブラリー。
【請求項21】
前記ライブラリーの少なくとも2つのポリヌクレオチドが、異なるペプチドに結合している同一の共受容体タンパク質をコードする、請求項20に記載のポリヌクレオチドのライブラリー。
【請求項22】
請求項19に記載のポリヌクレオチドを含む細胞。
【請求項23】
抗原特異的T細胞受容体および前記T細胞受容体(TCR)により特異的に認識されるペプチドを同時に同定するための方法であって、
(a)請求項20または21に記載のポリヌクレオチドのライブラリーを発現する、目的のポリクローナルT細胞を提供するステップと、
(b)主要組織適合複合体(MHC)を含む抗原提示細胞(APC)とステップ(a)の前記T細胞を接触させるステップと、
(c)ステップ(b)における前記APCと接触すると活性化される少なくとも1つのT細胞を単離するステップと、
(d)ステップ(c)の前記単離T細胞のDNAをシーケンシングして、TCR配列およびこのようなT細胞に存在するCD4、LAG-3またはCD8共受容体に結合しているペプチド配列についての情報を得るステップと、
(e)ステップ(d)において得られたシーケンシングデータに基づいて同族T細胞受容体-ペプチド対を同定するステップと
を含む、方法。
【請求項24】
少なくとも1つの抗原特異的T細胞受容体を同定するための方法であって、
(a)請求項19に記載のポリヌクレオチドを発現する、目的のポリクローナルT細胞を提供するステップと、
(b)主要組織適合複合体(MHC)を含む抗原提示細胞(APC)とステップ(a)の前記T細胞を接触させるステップと、
(c)ステップ(b)における前記APCと接触すると活性化される少なくとも1つのT細胞を単離するステップと、
(d)ステップ(c)において単離した少なくとも1つの前記T細胞のTCR遺伝子座をシーケンシングするステップと、
(e)少なくとも1つの前記T細胞の前記TCR遺伝子座によりコードされる少なくとも1つのT細胞受容体が抗原特異的であると同定するステップと
を含む、方法。
【請求項25】
少なくとも1つのT細胞特異的抗原を同定するための方法であって、
(a)請求項19に記載のポリヌクレオチドまたは請求項20または21に記載のポリヌクレオチドのライブラリーを発現する、目的のモノクローナルT細胞を提供するステップと、
(b)主要組織適合複合体(MHC)を含む抗原提示細胞(APC)とステップ(a)の前記T細胞を接触させるステップと、
(c)ステップ(b)における前記APCと接触すると活性化される少なくとも1つのT細胞を単離するステップと、
(d)ステップ(c)において単離した少なくとも1つの前記T細胞のCD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質のN末端に結合しているペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドの部分をシーケンシングするステップと、
(e)少なくとも1つの前記T細胞に含まれる前記ポリヌクレオチドによりコードされる少なくとも1つのペプチドがT細胞特異的抗原であると同定するステップと
を含む、方法。
【請求項26】
前記APCが、自己または異種APCである、請求項23から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記APCが、変異MHC分子を発現する、遺伝子改変された自己または異種細胞または細胞株である、請求項23から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記変異MHC分子が、細胞外MHCクラスIIアルファ鎖および天然または異種膜貫通ドメイン、ならびに細胞外MHCクラスIIベータ鎖および天然または異種膜貫通ドメインを含むMHCクラスII分子である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記変異MHC分子が、細胞外MHCクラスIアルファ鎖および天然または異種膜貫通ドメイン、ならびにベータ2ミクログロブリンを含むMHCクラスI分子である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記APCに含まれる前記MHC分子がMHCクラスI分子である場合、前記ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの前記ライブラリーによりコードされる前記共受容体タンパク質が、CD8である、請求項23から29に記載の方法。
【請求項31】
前記APCにより発現される前記MHC分子がMHCクラスII分子である場合、前記ポリヌクレオチドによりコードされる前記共受容体タンパク質が、CD4またはLAG-3である、請求項23から29に記載の方法。
【請求項32】
がんに罹患している被験体を処置するための方法であって、
(a)少なくとも1つの抗原特異的T細胞受容体および/または少なくとも1つのT細胞特異的抗原を請求項23から31に記載の方法により同定するステップと、
(b)ステップ(a)において同定した少なくとも1つの前記T細胞受容体および/または前記T細胞特異的抗原をがんに罹患している前記被験体に投与するステップと
を含む、方法。
【請求項33】
前記抗原特異的T細胞受容体が、ウイルス媒介遺伝子送達により前記被験体に投与される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記T細胞特異的抗原が、ペプチドの形態またはペプチドをコードするポリヌクレオチドの形態で前記被験体に投与される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記ペプチドまたは前記ペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドが、前記ペプチドまたは前記ペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドのAPCへの送達を向上させる化合物に結合している、請求項34に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原特異的T細胞およびこれらのT細胞受容体(TCR)により特異的に認識されるペプチドの同時検出および濃縮のための方法に関する。また、この方法により、免疫原性試験および他のin vitroでのT細胞反応性試験のための、ワクチン接種、免疫寛容の誘導、TCRの遮断およびMHC媒介毒素送達を含むin vivoおよび/またはin vitroでの介入のためのT細胞特異的抗原の同定が可能となる。また、本発明は、前記方法において使用するキメラ分子に関する。
【背景技術】
【0002】
豊かな社会において医薬が個別化の新たな時代に入り、ほとんどの治療および医薬品は、個々の患者に合わせて漸進的に作製されている。免疫治療の場合では、T細胞の抗原特異性が着目されることとなり、これらの不偏で効率的な同定が最も重要なものとなっている。
【0003】
特には、腫瘍特異的抗原(TSA)に基づくがんワクチンの開発は、現代医療の主要な目標のうちの1つである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
腫瘍特異的ペプチド、いわゆる新生抗原は、腫瘍細胞のみに存在し、正常組織には全く存在しない。このような腫瘍特異的ペプチドは、新規タンパク質配列の形成を生じる腫瘍特異的DNAの変化により生成される。腫瘍特異的ペプチドは、腫瘍細胞表面のMHCとの関連において呈され、抗原提示細胞(APC)とも呼ばれる。APC、例えば、樹状細胞またはマクロファージは、ファゴサイトーシスまたは受容体媒介エンドサイトーシスにより抗原を内部移行し得る。MHC分子は、短い直鎖状のペプチドの形態でT細胞に対する細胞抗原の提示において重要な役割を果たす。これらは、T細胞表面に存在するT細胞受容体(TCR)と相互作用し、これによりT細胞の活性化が生じる。MHCは、アルファおよびベータ鎖、ならびにこれらの鎖により形成された溝に結合しているペプチドからなる。この複合体の安定性は、ペプチド結合に高度に依存しており、このため空のMHC分子が細胞表面から下方制御されて分解される。それにもかかわらず、空のMHC分子は細胞表面に存在し、細胞外ペプチドに結合してこれらをT細胞に提示し得る。
【0005】
腫瘍特異的ペプチドが細胞表面に提示されると、細胞は認識され、免疫系により破壊され得る。したがって、腫瘍特異的ペプチドを含むワクチンは免疫系を刺激して、このような分子をこれらの表面に提示するがん細胞を検出および破壊し得る。
【0006】
T細胞受容体(TCR)は、ペプチド主要組織適合複合体(pMHC)に低親和性で結合し、T細胞同族ペプチド(エピトープ)の直接同定に対して大きな難題を提起する。この問題を解決するいくつかの異なる手法が開発されているが、すべて主要な欠点に悩まされており、これらは、並行処理が著しく制限されていて、多くのTCRの多くのエピトープに対する同時スクリーニングは不可能である。目的のTCRは、エピトープライブラリーに対して1つずつスクリーニングしなければならない。逆もまた同様に、目的のエピトープに反応性のTCRを見出すには、エピトープをTCRライブラリーに対して1つずつスクリーニングすることが必要である。
【0007】
したがって、抗原特異的T細胞およびこれらのTCRにより特異的に認識されるペプチドの同時検出および濃縮、ならびにin vivoおよび/またはin vitroでの介入のためのT細胞特異的抗原の同定のための手段および方法を提供する必要性が存在する。本発明は、ここで、このような手段および方法を提供するという点において、この必要性を満たし、これは、本発明の特許請求の範囲および以下の実施形態において、さらに詳細に定義する。
【0008】
発明の実施形態
A1.CD4、LAG3またはCD8共受容体タンパク質および共受容体のN末端に結合しているペプチドを含むキメラ分子。
【0009】
A2.ペプチドまたはペプチドの一部分が、主要組織適合複合体により提示され得る、実施形態A1に記載のキメラ分子。
【0010】
A3.ペプチドが、6~200アミノ酸残基の長さを有する、実施形態A1またはA2に記載のキメラ分子。
【0011】
A4.ペプチドが、7~30アミノ酸残基の長さを有する、実施形態A1からA3のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0012】
A5.ペプチドが、ランダムペプチドである、実施形態A1からA4のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0013】
A6.ペプチドが、所与のDNAまたはcDNA分子によりコードされるペプチドである、実施形態A1からA5のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0014】
A7.ペプチドをコードするDNAまたはcDNA分子が、より大きなDNAまたはcDNA分子の断片化により得られる、実施形態A6に記載のキメラ分子。
【0015】
A8.ペプチドが、腫瘍細胞または病原体に感染している細胞に由来する、実施形態A1からA7のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0016】
A9.ペプチドが、腫瘍抗原のエピトープを含む、実施形態A1からA8のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0017】
A10.腫瘍抗原が、新生抗原である、実施形態A9に記載のキメラ分子。
【0018】
A11.ペプチドが、腫瘍抗原のエピトープと少なくとも50%、60%、70%、80%、90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態A1からA10のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0019】
A12.共受容体タンパク質がCD8である場合、ペプチドが、MHCクラスIエピトープを含む、実施形態A1からA11のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0020】
A13.共受容体タンパク質がCD4またはLAG3である場合、ペプチドが、MHCクラスIIエピトープを含む、実施形態A1からA12のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0021】
A14.CD4共受容体タンパク質が、ヒトCD4共受容体タンパク質であり、LAG3共受容体タンパク質が、ヒトLAG3共受容体タンパク質であり、CD8共受容体タンパク質が、ヒトCD8共受容体タンパク質である、実施形態A1からA13のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0022】
A15.ペプチドが、共受容体のN末端にリンカーを介して結合している、実施形態A1からA14のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0023】
A16.リンカーが、5~30アミノ酸の長さを有する、実施形態A15に記載のキメラ分子。
【0024】
A17.リンカーにおけるアミノ酸残基の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%が、グリシンまたはセリン残基である、実施形態A15またはA16に記載のキメラ分子。
【0025】
A18.リンカーが、アミノ酸配列(GGGGS)xを含み、Gがグリシンであり、Sがセリンであり、xが反復数であり、xが1~5の任意の数であり得る、実施形態A15からA17のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0026】
A19.実施形態A1からA18のいずれか一項に記載のキメラ分子をコードするポリヌクレオチド。
【0027】
A20.実施形態A19に記載の複数のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドのライブラリー。
【0028】
A21.ライブラリーの少なくとも2つのポリヌクレオチドが、異なるペプチドに結合している同一の共受容体タンパク質をコードする、実施形態A20に記載のポリヌクレオチドのライブラリー。
【0029】
A22.実施形態A19に記載のポリヌクレオチドを含む細胞。
【0030】
A23.抗原特異的T細胞受容体および前記T細胞受容体(TCR)により特異的に認識されるペプチドを同時に同定するための方法であって、
(a)実施形態A20またはA21に記載のポリヌクレオチドのライブラリーを発現する、目的のポリクローナルT細胞を提供するステップと、
(b)主要組織適合複合体(MHC)を含む抗原提示細胞(APC)とステップ(a)のT細胞を接触させるステップと、
(c)ステップ(b)におけるAPCと接触すると活性化される少なくとも1つのT細胞を単離するステップと、
(d)ステップ(c)の単離T細胞のDNAをシーケンシングして、TCR配列およびこのようなT細胞に存在するCD4、LAG-3またはCD8共受容体に結合しているペプチド配列についての情報を得るステップと、
(e)ステップ(d)において得られたシーケンシングデータに基づいて同族T細胞受容体-ペプチド対を同定するステップと
を含む、方法。
【0031】
A24.少なくとも1つの抗原特異的T細胞受容体を同定するための方法であって、
(a)実施形態A19に記載のポリヌクレオチドを発現する、目的のポリクローナルT細胞を提供するステップと、
(b)主要組織適合複合体(MHC)を含む抗原提示細胞(APC)とステップ(a)のT細胞を接触させるステップと、
(c)ステップ(b)におけるAPCと接触すると活性化される少なくとも1つのT細胞を単離するステップと、
(d)ステップ(c)において単離した少なくとも1つのT細胞のTCR遺伝子座をシーケンシングするステップと、
(e)少なくとも1つのT細胞のTCR遺伝子座によりコードされる少なくとも1つのT細胞受容体が抗原特異的であると同定するステップと
を含む、方法。
【0032】
A25.少なくとも1つのT細胞特異的抗原を同定するための方法であって、
(a)実施形態A19に記載のポリヌクレオチドまたは実施形態A20もしくはA21に記載のポリヌクレオチドのライブラリーを発現する、目的のモノクローナルT細胞を提供するステップと、
(b)主要組織適合複合体(MHC)を含む抗原提示細胞(APC)とステップ(a)のT細胞を接触させるステップと、
(c)ステップ(b)におけるAPCと接触すると活性化される少なくとも1つのT細胞を単離するステップと、
(d)ステップ(c)において単離した少なくとも1つのT細胞のCD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質のN末端に結合しているペプチドをコードするポリヌクレオチドの部分をシーケンシングするステップと、
(e)少なくとも1つのT細胞に含まれるポリヌクレオチドによりコードされる少なくとも1つのペプチドがT細胞特異的抗原であると同定するステップと
を含む、方法。
【0033】
A26.APCが、自己または異種APCである、実施形態A23からA25のいずれか一項に記載の方法。
【0034】
A27.APCが、変異MHC分子を発現する、遺伝子改変された自己または異種細胞または細胞株である、実施形態A23からA26のいずれか一項に記載の方法。
【0035】
A28.変異MHC分子が、細胞外MHCクラスIIアルファ鎖および天然または異種膜貫通ドメイン、ならびに細胞外MHCクラスIIベータ鎖および天然または異種膜貫通ドメインを含むMHCクラスII分子である、実施形態A27に記載の方法。
【0036】
A29.変異MHC分子が、細胞外MHCクラスIアルファ鎖および天然または異種膜貫通ドメイン、ならびにベータ2ミクログロブリンを含むMHCクラスI分子である、実施形態A27に記載の方法。
【0037】
A30.APCに含まれるMHC分子がMHCクラスI分子である場合、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのライブラリーによりコードされる共受容体タンパク質が、CD8である、実施形態A23からA29に記載の方法。
【0038】
A31.APCにより発現されるMHC分子がMHCクラスII分子である場合、ポリヌクレオチドによりコードされる共受容体タンパク質が、CD4またはLAG-3である、実施形態A23からA29に記載の方法。
【0039】
A32.がんに罹患している被験体を処置するための方法であって、
(a)少なくとも1つの抗原特異的T細胞受容体および/または少なくとも1つのT細胞特異的抗原を実施形態A23からA31に記載の方法により同定するステップと、
(b)ステップ(a)において同定した少なくとも1つのT細胞受容体および/またはT細胞特異的抗原をがんに罹患している被験体に投与するステップと
を含む、方法。
【0040】
A33.抗原特異的T細胞受容体が、ウイルス媒介遺伝子送達により被験体に投与される、実施形態A32に記載の方法。
【0041】
A34.T細胞特異的抗原が、ペプチドの形態またはペプチドをコードするポリヌクレオチドの形態で被験体に投与される、実施形態A32に記載の方法。
【0042】
A35.ペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドが、ペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドのAPCへの送達を向上させる化合物に結合している、実施形態A34に記載の方法。
【0043】
本発明では、抗原特異的T細胞の同時検出および濃縮ならびにTCRおよびこれらの同族エピトープの同定が可能となる方法を初めて提供する。
【0044】
したがって、一実施形態では、本発明は、CD4、LAG3またはCD8共受容体タンパク質および共受容体のN末端に結合しているペプチドを含むキメラ分子に関する。
【0045】
すなわち、本発明は、MHC分子によって提示され、これによりペプチドがT細胞受容体により認識され得るペプチドの同定が容易となるキメラ分子に関する。本発明のキメラ分子をコードするポリヌクレオチドがT細胞において発現すると、共受容体のN末端に共有結合したペプチドとT細胞のすぐ近くに位置する抗原提示細胞(APC)表面の主要組織適合複合体との間で複合体の形成が可能となることが、驚くべきことに見出されている。次いで、このペプチド-MHC複合体は、同一のT細胞のT細胞受容体により認識されて、このT細胞の活性化が生じる(
図1Aを参照)。したがって、T細胞受容体とこの同族抗原ペプチド(本発明のキメラ分子の部分である)の両方は、同一のT細胞によりコードされ、これにより同族TCR抗原対の同定が、これまでの方法と比較して顕著に容易となる。TCRと抗原ペプチドの両方が同一のT細胞表面に存在しても、他の細胞表面の適するMHC分子と抗原ペプチドが複合体を形成している場合にかぎり、T細胞は、抗原ペプチドにより活性化され得る。
【0046】
同族抗原ペプチドが共受容体CD4のN末端に結合していると、T細胞が活性化され得ることが、実施例において実証されている(
図1C~E)。対照的に、非同族抗原ペプチドが共受容体タンパク質に結合した場合、活性化は観察されなかった。加えて、同族抗原ペプチドがCD3に結合した場合、T細胞の活性化は観察されず、抗原ペプチドが、MHC分子と直接相互作用する共受容体、例えば、共受容体CD4のN末端に結合していることが、ペプチド-MHC複合体の形成に必要であることを示した。したがって、特定の実施形態では、本発明は、共受容体タンパク質がCD4である、本発明のキメラ分子に関する。
【0047】
本発明のキメラ分子は、CD4の特定の部分を含むこれまでの融合タンパク質とは顕著に異なる。例えば、Al-Jaufyら(Infect Immun. 1995 Aug; 63(8): 3073-3078.)は、志賀毒素AサブユニットをCD4の180N末端アミノ酸(合計433アミノ酸)に融合させ、これは、HIV表面の糖タンパク質120に結合して、HIVの処置のための細胞毒性融合タンパク質を生成する能力を保持する。Breuerら(PLoSOne. 2011; 6(5): e20033.)は、CD4の37アミノ酸モチーフを含むHIV-1病原性因子Nefに対する合成タンパク質阻害剤をデザインした。したがって、両先行技術文献は、CD4の短い断片のみを含む可溶性タンパク質に関する。一方、本発明の実施形態は、細胞膜に固定された細胞表面受容体であると当業者により理解されている共受容体タンパク質に関する。
【0048】
共受容体CD4およびLAG3は、ヒトにおいて約20%の配列同一性を共有し、MHCクラスII分子にともに結合して、T細胞受容体によるペプチド-MHCクラスII複合体の認識が容易となる。共受容体CD8は、T細胞受容体とMHCクラスI分子を含むペプチド-MHC複合体との間の相互作用において類似の役割を果たす。したがって、本発明の方法がまた、共受容体LAG3またはCD8を含むキメラ分子により実行可能であることが有望である。
【0049】
共受容体タンパク質に結合しているペプチドは、任意のペプチドであり得る。上に考察したように、共受容体タンパク質に結合しているペプチドは、好ましくは、MHC分子により提示される可能性を有するペプチドである。ペプチドおよびMHCが、T細胞受容体により認識され得るペプチド-MHC複合体を形成する場合、ペプチドは、主要組織適合複合体により提示される可能性を有すると考えられ、この場合、T細胞受容体は、任意のT細胞受容体であり得る。本明細書において使用する場合、用語「ペプチド-MHC複合体」は、ペプチドが、当技術分野において認識されているMHCペプチド結合ポケット内で結合した、MHC分子(MHCクラスIまたはMHCクラスII)を指す。本発明では、共受容体タンパク質に結合しているペプチド全体は、ペプチド-MHC複合体の形成に関与し得る。しかし、本発明はまた、ペプチドの一部分のみがペプチド-MHC複合体の形成に関与する、ペプチドを包含する。したがって、一実施形態では、本発明は、ペプチドまたはペプチドの一部分が、主要組織適合複合体により提示され得る、CD4、LAG3またはCD8共受容体タンパク質および共受容体のN末端に結合しているペプチドを含むキメラ分子に関する。
【0050】
特定の実施形態では、本発明は、ペプチドが、6~200アミノ酸残基の長さを有する、本発明のキメラ分子に関する。
【0051】
すなわち、共受容体タンパク質に結合しているペプチドは、6~200アミノ酸残基の長さを有するペプチドであり得る。特には、このペプチドの少なくとも一部分が、ペプチド-MHC複合体の形成に関与し得ることが好ましい。
【0052】
本明細書においてMHCクラスIエピトープまたはMHCクラスIペプチドとも呼ぶ、MHCクラスI分子により呈されるペプチドは、8~15アミノ酸の長さを典型的に有し、ペプチドの多数が、9アミノ酸の長さを有する。本明細書においてMHCクラスIIエピトープまたはMHCクラスIIペプチドとも呼ぶ、MHCクラスII分子により呈されるペプチドは、11~30アミノ酸の長さを典型的に有する。したがって、特定の実施形態では、本発明は、ペプチドが、7~30アミノ酸残基の長さを有する、本発明のキメラ分子に関する。
【0053】
共受容体タンパク質に結合しているペプチドは、MHCクラスIまたはIIエピトープのNおよび/またはC末端に結合しても、MHCクラスIまたはIIエピトープのMHC分子への結合に顕著には影響しない、さらなるアミノ酸を含み得る。したがって、代替の実施形態では、本発明は、ペプチドが、30~50アミノ酸残基の長さを有する、本発明のキメラ分子に関する。
【0054】
特定の実施形態では、本発明は、ペプチドが、ランダムペプチドである、本発明のキメラ分子に関する。
【0055】
すなわち、共受容体タンパク質に結合しているペプチドは、任意のアミノ酸配列を有し得る。本発明のキメラ分子は、MHC分子により結合している場合、T細胞受容体を刺激し得るペプチドの同定に使用し得る。「ランダムペプチド」は、本明細書において使用する場合、MHCクラスIまたはMHCクラスII分子により結合していることがわかっているペプチドと、いかなる配列同一性をも共有しないランダムアミノ酸配列を有するペプチドであり得る。
【0056】
あるいは、共受容体タンパク質に結合しているペプチドは、これまでに記載されているペプチドまたはタンパク質と配列同一性を共有し得る。したがって、特定の実施形態では、本発明は、ペプチドが、所与のDNAまたはcDNA分子によりコードされるペプチドである、本発明のキメラ分子に関する。
【0057】
すなわち、本発明のキメラ分子は、これまでに未知の抗原ペプチドの同定に使用し得る。例えば、ペプチドをコードするDNAまたはcDNA分子は、共受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドにクローニングし、これにより本発明のキメラ分子をコードするポリヌクレオチドを得てもよい。次いで、共受容体タンパク質に結合しているペプチドがペプチド-MHC複合体を形成し、これによりキメラ分子をコードするポリヌクレオチドを発現するT細胞が活性化され得る場合、これは、本発明の方法により試験し得る。
【0058】
DNAまたはcDNA分子は、任意の供給源から得てもよい。特には、DNAは、抗原提示細胞から得てもよく、またはcDNAは、抗原提示細胞から得られたRNAの逆転写により得てもよい。抗原提示細胞は、生検において得られた腫瘍細胞であり得る。あるいは、抗原提示細胞は、病原体に感染している細胞であり得る。
【0059】
あるいは、DNAまたはcDNA分子は、被験体に投与されるペプチドまたはタンパク質をコードするDNAまたはcDNA分子であり得る。被験体に投与される薬物または他のペプチドもしくはタンパク質の開発は、化合物の被験体への投与によって望まない免疫原性反応が生じないことを確実とするための免疫原性試験を通常、含む。したがって、ペプチドもしくはタンパク質をコードするDNAもしくはcDNA分子、または前記DNAまたはcDNA分子の部分は、共受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドにクローニングして、本発明のキメラ分子をコードするポリヌクレオチドを得てもよい。
【0060】
あるいは、DNAまたはcDNA分子は、病原体から直接得られ、共受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドにクローニングして本発明のキメラ分子をコードするポリヌクレオチドを得てもよい。病原体は、本明細書において使用する場合、好ましくは、ウイルス性または細菌性病原体を指す。
【0061】
用語「所与のDNAまたはcDNA分子」は、細胞または病原体から直接的または間接的に得られる任意のDNAまたはcDNA分子を指す。例えば、DNA分子は、前記細胞または病原体からのDNAの単離によって細胞または病原体から直接得られる。cDNA分子は、RNAの単離およびRNAのcDNAへの逆転写によって細胞または病原体から直接得てもよい。しかし、DNA分子はまた、例えば、コンピュータによりデザインされたポリヌクレオチド配列の化学合成によって間接的に得てもよい。コンピュータによりデザインされたポリヌクレオチド配列は、例えば、単一細胞によるエクソームシーケンシングデータ、またはペプチドシーケンシングデータ、特には、抗原提示細胞表面から単離されたペプチドのシーケンシングデータに基づき得る。あるいは、コンピュータによりデザインされたポリヌクレオチド配列は、病原体からのゲノムデータに基づき得る。
【0062】
DNAまたはcDNA分子は、当技術分野において公知の任意の方法により得てもよい。特定の実施形態では、方法は、ペプチドをコードするDNAまたはcDNA分子が、より大きなDNAまたはcDNA分子の断片化により得られる、本発明のキメラ分子に関する。
【0063】
すなわち、ペプチドは、より大きなDNAまたはcDNA分子の断片化により得られたDNAまたはcDNA分子によりコードされ得る。
【0064】
DNAまたはcDNA分子の断片化は、標的化された様式または標的化されない様式、例えば、エンドヌクレアーゼの使用により達成し得る。しかし、DNAまたはcDNA分子の断片化はまた、このような分子のランダム剪断により達成し得る。あるいは、公知のDNAまたはcDNA分子の断片はまた、分子クローニングの方法、例えば、PCRにより得てもよい。当業者は、共受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドとDNAまたはcDNA断片を組み合わせて、本発明のキメラ分子をコードするポリヌクレオチドを得る方法を認識している。
【0065】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、ペプチドが、腫瘍細胞または病原体に感染している細胞に由来する、本発明のキメラ分子に関する。
【0066】
本発明のキメラ分子は、これまでに未知の腫瘍または病原体関連抗原の同定に使用し得る。ペプチドが、腫瘍細胞において合成されたペプチドまたはタンパク質と配列同一性を共有するアミノ酸配列を含む場合、ペプチドは、腫瘍細胞に由来すると考えられる。ペプチドが、病原体に感染している細胞において合成されたペプチドまたはタンパク質と配列同一性を共有するアミノ酸配列を含む場合、ペプチドは、病原体に感染している細胞に由来すると考えられる。腫瘍細胞または病原体に感染している細胞に由来するペプチドは、このような細胞に見出され得る任意のペプチドまたはタンパク質の部分と配列同一性を共有し得る。
【0067】
ある特定の実施形態では、本発明の共受容体タンパク質に結合しているペプチドは、MHC IまたはMHC II分子により提示されるとこれまでに記載されているペプチドのアミノ酸配列を含み得る。MHCクラスIまたはII分子により提示されることがわかっているペプチドを含むキメラ分子により、このペプチドにより効率的に刺激されるT細胞受容体の同定が可能となり得る。MHCクラスIまたはIIペプチドにより提示されることがわかっているペプチドは、腫瘍細胞または病原体に感染している細胞に由来するペプチドであり得る。
【0068】
ある特定の実施形態では、本発明のキメラ分子は、腫瘍特異的T細胞受容体の同定に使用する。例えば、被験体の腫瘍細胞の表面にMHC分子により提示されることがわかっているペプチドは、共受容体タンパク質に結合して、このエピトープを特異的に認識するT細胞受容体を同定し得る。したがって、特定の実施形態では、本発明は、ペプチドが、腫瘍抗原のエピトープを含む、本発明のキメラ分子に関する。ペプチドが、腫瘍抗原のエピトープのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む場合、ペプチドは、腫瘍抗原のエピトープを含むと考えられる。
【0069】
用語「腫瘍抗原」は、本明細書において使用する場合、腫瘍関連抗原または腫瘍特異的抗原であってもよく、腫瘍細胞により発現される分子(例えば、タンパク質またはペプチド)を示し、(a)正常細胞において発現するこの対応物とは定性的に異なるか、または(b)正常細胞よりも腫瘍細胞において高いレベルで発現する。したがって、腫瘍抗原は、正常細胞において発現する対応物とは(例えば、分子がタンパク質である場合、1つまたは複数のアミノ酸残基が)異なり得るか、または同一であり得る。一部の腫瘍抗原は、正常細胞により発現しないか、または腫瘍細胞の通常の対応物よりも腫瘍細胞において少なくとも約2倍高い(例えば、約2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、40倍、100倍、500倍、1,000倍、5,000倍または15,000倍高い)レベルで発現する。
【0070】
ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、新生物性細胞もしくは腫瘍、例えば、がん細胞もしくは悪性腫瘍において、またはこの上に発現する免疫原性タンパク質である。ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、非特異的で変異体の過剰発現されるまたは異常に発現されるタンパク質であり、新生物性細胞または腫瘍と正常細胞または組織の両方に存在し得る。ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、腫瘍細胞に限定される腫瘍特異的抗原である。ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、がん細胞に限定される、がん特異的抗原である。
【0071】
ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、1つ、2つ、3つまたはこれよりも多い、すべてを含む次の特性:過剰発現/蓄積(すなわち、正常と新生物性組織の両方により発現されるが、新生物において高度に発現する)、腫瘍胎児性(すなわち、通常、胎児組織およびがん性体細胞でのみ発現する)、腫瘍ウイルス性もしくは腫瘍形成ウイルス性(すなわち、腫瘍形成形質転換ウイルスによりコードされる)、がん-精巣(すなわち、がん細胞および成体生殖組織、例えば、精巣によってのみ発現する)、系列限定性(すなわち、大部分は単一のがん組織型により発現される)、変異性(すなわち、遺伝子変異または転写における変化の結果として新生物性組織でのみ発現する)、転写後の変化(例えば、グリコシル化における腫瘍に関連する変化)またはイディオタイプ(すなわち、BまたはTリンパ球の悪性クローン性拡大増殖により発生する)を示し得る。
【0072】
ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、急性リンパ芽球性白血病;急性リンパ芽球性リンパ腫;急性リンパ球性白血病;急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia);急性骨髄球性白血病(acute myeloid leukemia)(成人/小児);副腎皮質癌;AIDS関連がん;AIDS関連リンパ腫;肛門がん;虫垂がん;星状細胞腫;非定型奇形様/ラブドイド腫瘍;基底細胞癌;胆管がん、肝外(胆管癌(cholangiocarcinoma));膀胱がん;骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫;脳がん(成人/小児);脳腫瘍、小脳星状細胞腫(成人/小児);脳腫瘍、大脳星状細胞腫/悪性神経膠腫脳腫瘍(malignant glioma brain tumor);脳腫瘍、上衣細胞腫;脳腫瘍、髄芽細胞腫;脳腫瘍、テント上原始神経外胚葉性腫瘍;脳腫瘍、視路および視床下部神経膠腫;脳幹神経膠腫;乳がん;気管支腺腫/カルチノイド;気管支腫瘍;バーキットリンパ腫;小児がん;カルチノイド消化管腫瘍;カルチノイド腫瘍;成体の癌、原発部位不明;原発不明癌;中枢神経系胚芽腫;中枢神経系リンパ腫、原発性;子宮頸がん;小児副腎皮質癌;小児がん;小児大脳星状細胞腫;脊索腫、小児;慢性リンパ球性白血病;慢性骨髄性白血病;慢性骨髄球性白血病;慢性骨髄増殖性障害;結腸がん;結腸直腸がん;頭蓋咽頭腫;皮膚T細胞リンパ腫;線維形成性小円形細胞腫瘍;気腫;子宮内膜がん;上衣芽細胞腫;上衣細胞腫;食道がん;ユーイング腫瘍ファミリーにおけるユーイング肉腫;頭蓋外胚細胞腫瘍;性腺外胚細胞腫瘍;肝外胆管がん;胆嚢がん;胃(gastric/stomach)がん;胃カルチノイド;消化管カルチノイド腫瘍;消化管間質腫瘍;胚細胞腫瘍;頭蓋外、性腺外、または卵巣妊娠性絨毛性腫瘍;妊娠性絨毛性腫瘍、原発部位不明;神経膠腫;脳幹の神経膠腫;神経膠腫、小児視路および視床下部;有毛細胞白血病;頭頸部がん;心臓がん;肝細胞(肝臓)がん;ホジキンリンパ腫;下咽頭がん;視床下部および視路神経膠腫;眼球内黒色腫;膵島細胞癌(膵内分泌部);カポジ肉腫;腎臓がん(腎細胞がん);ランゲルハンス細胞組織球症;喉頭がん;口唇および口腔(oral cavity)がん;脂肪肉腫;肝臓がん(原発性);肺がん、非小細胞;肺がん、小細胞;リンパ腫、原発性中枢神経系;マクログロブリン血症、ワルデンストレーム;男性乳がん;骨の悪性線維性組織球腫/骨肉腫;髄芽細胞腫;髄上皮腫;黒色腫;黒色腫、眼球内(眼);メルケル細胞がん;メルケル細胞皮膚癌;中皮腫;中皮腫、成人悪性;原発不明の転移性頸部扁平上皮がん;口腔(mouth)がん;多発性内分泌腫瘍症候群;多発性骨髄腫/形質細胞新生物;菌状息肉腫、骨髄異形成症候群;骨髄異形成/骨髄増殖性疾患;骨髄性白血病、慢性;骨髄球性白血病、成人急性;骨髄球性白血病、小児急性;骨髄腫、多発性(骨髄のがん);骨髄増殖性障害、慢性;鼻腔および副鼻腔がん;上咽頭癌;神経芽細胞腫、非小細胞肺がん;非ホジキンリンパ腫;乏突起神経膠腫;口腔(oral)がん;口腔(oral cavity)がん;中咽頭がん;骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫;卵巣がん;卵巣上皮がん(表面上皮性-間質性腫瘍);卵巣胚細胞腫瘍;卵巣低悪性度腫瘍;膵臓がん;膵臓がん、膵島細胞;乳頭腫症;副鼻腔および鼻腔がん;副甲状腺がん;陰茎がん;咽頭がん;褐色細胞腫;松果体星状細胞腫;松果体胚細胞腫;中間分化型の松果体実質腫瘍;松果体芽細胞腫およびテント上原始神経外胚葉性腫瘍;下垂体(pituary)腫瘍;下垂体腺腫;形質細胞新生物/多発性骨髄腫;胸膜肺芽細胞腫;原発性中枢神経系リンパ腫;前立腺がん;直腸がん;腎細胞癌(腎臓がん);腎盂および尿管、移行細胞がん;15番染色体上のNUT遺伝子に関与する気道癌;網膜芽細胞腫;横紋筋肉腫、小児;唾液腺がん;肉腫、ユーイング腫瘍ファミリー;セザリー症候群;皮膚がん(黒色腫);皮膚がん(非黒色腫);小細胞肺がん;小腸がん軟部組織肉腫;軟部組織肉腫;脊髄腫瘍;扁平上皮細胞癌;原発不明の頸部扁平上皮がん、転移性;胃(stomach/gastric)がん;テント上原始神経外胚葉性腫瘍;T細胞リンパ腫、皮膚性(菌状息肉腫およびセザリー症候群);精巣がん;咽喉がん;胸腺腫;胸腺腫および胸腺癌;甲状腺がん;甲状腺がん、小児;腎盂および尿管の移行細胞がん;尿道がん;子宮がん、子宮内膜;子宮肉腫;膣がん;外陰がん;ならびにウィルムス腫瘍を含む、新生物疾患由来の抗原を含む。
【0073】
ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、腫瘍形成ウイルス抗原、がん-精巣抗原、腫瘍胎児抗原、組織分化抗原、変異体タンパク質抗原、新生抗原、アディポフィリン、AIM-2、ALDHIAI、BCLX(L)、BING-4、CALCA、CD45、CPSF、サイクリンDI、DKKI、ENAH(hMcna)、Ga733(EpCAM)、EphA3、EZH2、FGF5、グリピカン-3、G250/MN/CAIX、HER-2/neu、IDOI、IGF2B3、IL13Rアルファ2、腸カルボキシルエステラーゼ、アルファ-フェトプロテイン、カリクレイン4、KIF20A、レンシン(Lengsin)、M-CSF、MCSP、mdm-2、メロエ(Meloe)、MMP-2、MMP-7、MUC1、MUC5AC、p53(非変異体)、PAX5、PBF、PRAME、PSMA、RAGE、RAGE-1、RGS5、RhoC、RNF43、RU2AS、セセルニン(secernin)1、SOXIO、STEAP1(前立腺の6回膜貫通上皮抗原1)、サバイビン、テロメラーゼ、VEGF、WT1、EGF-R、CEA、CD20、CD33、CD52、糖タンパク質100(GP100またはgp100タンパク質)、MEL ANA/MART1、MART2、NY-ESO-I、p53、MAGE AI、MAGE A3、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、CDK4、アルファ-アクチニン-4、ARTC1、BCR-ABL、BCR-ABL融合タンパク質(b3a2)、B-RAF、CASP-5、CASP-8、ベータ-カテニン、Cdc27、CDK4、CDK2A、CLPP、COA-1、dek-can融合タンパク質、EFTUD2、伸長因子2、ETV6-AML、ETV6-AML1融合タンパク質、FLT3-ITD、FN1、GPNMB、LDLR-フコシルトランスフェラーゼAS融合タンパク質、NFYC、OGT、OS-9、pml-RARアルファ融合タンパク質、PRDX5、PTPR、H-ras、K-ras(V-Ki-ras2カーステンラット肉腫ウイルス腫瘍形成)、N-ras、RBAF600、SIRT2、SNRPD1、SSX、SSX2、SYT-SSX1またはSSX2融合タンパク質、TGF-ベータRII、トリオースリン酸イソメラーゼ、ormdm-2、LMP2、HPV E6/E7、EGFRvIII(上皮増殖因子バリアントIII)、イディオタイプ、GD2(ガングリオシドG2)、Ras-変異体、p53(変異体)、プロテイナーゼ3(PR1)、チロシナーゼ、PSA、hTERT、肉腫転座切断点、EphA2、前立腺酸性ホスファターゼPAP、neo-PAP、ML-IAP、AFP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、ALK、アンドロゲン受容体、サイクリンBI、ポリシアル酸、MYCN、TRP2、TRP2-Int2、GD3、フコシルGM1、メソテリン、PSCA、sLe(a)、cypIBI、PLAC1、GM3、BORIS、Tn、GLoboH、NY-BR-1、SART3、STn、炭酸脱水酵素IX、OY-TES1、精子タンパク質17、LCK、高分子量黒色腫関連抗原(HMWMAA)、AKAP-4、SSX2、XAGE1、B7H3、レグマイン(Legumain)、Tie2、Page4、VEGFR2、MAD-CT-1、FAP、PDGFR-ベータ、MAD-CT-2、For関連抗原(For-related antigen)1、TRP1、CA-125、CA19-9、カルレチニン、上皮膜抗原(EMA)、上皮腫瘍抗原(ETA)、CD19、CD34、CD99、CD117、クロモグラニン、サイトケラチン、デスミン、神経膠原線維性酸性タンパク質(GFAP)、肉眼的嚢胞性疾患液タンパク質(gross cystic disease fluid protein)(GCDFP-15)、HMB-45抗原、Myo-DI、筋特異的アクチン(MSA)、神経フィラメント、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、胎盤アルカリホスファターゼ、シナプトフィジン(synaptophysis)、サイログロブリン、甲状腺転写因子1、ピルビン酸キナーゼアイソザイムM2型(腫瘍M2-PK)の2量体形態、BAGE BAGE-1、CAGE、CTAGE、FATE、GAGE、GAGE-1、GAGE-2、GAGE-3、GAGE-4、GAGE-5、GAGE-6、GAGE-7、HCA661、HOM-TES-85、MAGEA、MAGEB、MAGEC、NA88、NY-SAR-35、SPANXB1、SPA17、SSX、SYCP1、TPTE、炭水化物/ガングリオシドGM2(腫瘍胎児抗原-免疫原性-1 OFA-I-1)、GM3、CA15-3(CA27.29\BCAA)、CA195、CA242、CA50、CAM43、CEA、EBNA、EF2、エプスタイン・バーウイルス抗原、HLA-A2、HLA-A11、HSP70-2、KIAAO205、MUM-1、MUM-2、MUM-3、ミオシンクラスI、GnTV、Herv-K-mel、LAGE-1、LAGE-2、(精子タンパク質)SP17、SCP-1、P15(58)、Hom/Mel-40、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RAR、TSP-180、P185erbB2、p180erbB-3、c-met、nm-23HI、TAG-72、TAG-72-4、CA-72-4、CAM17.1、NuMa、13-カテニン、P16、TAGE、CT7、43-9F、5T4、791Tgp72、13HCG、BCA225、BTAA、CD68\KP1、CO-029、HTgp-175、M344、MG7-Ag、MOV18、NB\70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90、TAAL6、TLP、TPS、CD22、CD27、CD30、CD70、プロステイン(prostein)、TARP(T細胞受容体ガンマ代替リーディングフレームタンパク質)、Trp-p8、インテグリンαvβ3(CD61)、ガラクチン、またはRal-B、CD123、CLL-1、CD38、CS-1、CD138、およびRORIを含む。
【0074】
ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の抗原、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスの抗原、例えば、潜伏期関連核抗原、エプスタイン・バーウイルスの抗原、例えば、EBV-EA、EBV-MAまたはEBV-VCA、メルケル細胞ポリオーマウイルスの抗原、例えば、MCV T抗原、またはヒトTリンパ球向性ウイルスの抗原、例えば、HTLV-1Tax抗原である、腫瘍形成ウイルス抗原を含む。
【0075】
ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原または腫瘍特異的抗原である。
【0076】
ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、新生抗原である。「新生抗原」は、本明細書において使用する場合、腫瘍細胞における変異により生じる抗原を意味し、このような抗原は、正常な細胞または組織において一般には発現しない。理論により拘束されることなく、健常組織がこのような抗原を一般には有しないため、新生抗原は、好ましい標的となる。加えて、理論により拘束されることなく、本発明の文脈では、新生抗原を認識するT細胞が胸腺による負の選択を受けていない可能性があるため、このような細胞は、抗原に対する高い結合活性を有し、腫瘍に対する強力な免疫応答を開始することができ、その上、正常組織の破壊および自己免疫による損傷を誘導するリスクがない。したがって、特定の実施形態では、本発明は、腫瘍抗原が、新生抗原である、本発明のキメラ分子に関する。
【0077】
ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、抗原オルソログ、例えば、ヒト腫瘍抗原に対する哺乳動物(すなわち、非ヒト霊長類、ブタ、イヌ、ネコ、またはウマ)抗原であり得る。
【0078】
用語「エピトープ」は、本明細書において使用する場合、特定の免疫グロブリン、例えば、T細胞受容体と接触させる抗原の部分を指す。
【0079】
また、本発明のキメラ分子は、T細胞受容体により効率的に認識される公知の腫瘍抗原エピトープの変異したバリアントを同定するために使用し得る。したがって、特定の実施形態では、本発明は、ペプチドが、腫瘍抗原のエピトープと少なくとも50%、60%、70%、80%、90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、本発明のキメラ分子に関する。
【0080】
すなわち、本発明のキメラ分子は、MHC分子により認識され、変異していないそれらの対応物と比較して多かれ少なかれ効率的なT細胞活性化を生じる、変異抗原ペプチドを同定するために使用し得る。本発明では、キメラ分子が、細胞において発現するポリヌクレオチドによりコードされることが好ましい。当業者は、ペプチドをコードするDNA配列に変異をランダムに、または標的化された様式のいずれかで導入して、変異ペプチドを得る方法を認識している。
【0081】
特定の実施形態では、本発明は、共受容体タンパク質がCD8である場合、ペプチドが、MHCクラスIエピトープを含む、本発明のキメラ分子に関する。
【0082】
すなわち、共受容体CD8により、ペプチド-MHCクラスI複合体へのT細胞受容体の結合が容易となる。したがって、共受容体CD8に結合しているペプチドが、MHCクラスIエピトープを含むことが好ましい。
【0083】
特定の実施形態では、本発明は、共受容体タンパク質がCD4またはLAG3である場合、エピトープが、MHCクラスIIエピトープである、本発明のキメラ分子に関する。
【0084】
すなわち、共受容体CD4およびLAG3により、ペプチド-MHCクラスII複合体へのT細胞受容体の結合が容易となる。したがって、共受容体CD4またはLAG3に結合しているペプチドが、MHCクラスIIエピトープを含むことが好ましい。
【0085】
ペプチドが、MHC分子により提示されるとまだ同定されていない場合では、ペプチドは、任意の共受容体、すなわち、CD4、CD8またはLAG3に結合し得る。
【0086】
キメラ分子の共受容体タンパク質は、任意の哺乳動物に由来し得る。しかし、共受容体が、そこで合成されることを意図するT細胞と同一の生物に由来することが好ましい。例えば、同族抗原ペプチド-T細胞受容体対をヒトにおいて同定することを意図する場合、キメラ分子が、ヒト共受容体タンパク質を含むことが好ましい。CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質は、特に、完全長CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質である。
【0087】
本発明では、共受容体タンパク質が、ヒト共受容体タンパク質であることが好ましい。したがって、特定の実施形態では、本発明は、CD4共受容体タンパク質が、ヒトCD4共受容体タンパク質であるか、LAG3共受容体タンパク質が、ヒトLAG3共受容体タンパク質であるか、またはCD8共受容体タンパク質が、ヒトCD8共受容体タンパク質である、本発明のキメラ分子に関する。
【0088】
すなわち、ある特定の実施形態では、キメラ分子は、ペプチドがCD4のN末端に結合している、ヒトCD4共受容体タンパク質を含む。他の実施形態では、キメラ分子は、ペプチドがLAG3のN末端に結合している、ヒトLAG3共受容体タンパク質を含む。他の実施形態では、キメラ分子は、ペプチドがCD8アルファ鎖またはCD8ベータ鎖のN末端に結合している、ヒトCD8共受容体タンパク質を含む。ペプチドがCD8ベータ鎖のN末端に結合している場合、細胞により、非修飾CD8アルファ鎖も合成されることが好ましい。したがって、ヒトCD4、CD8またはLAG3共受容体タンパク質を含むキメラ分子は、好ましくは、ヒト細胞、特には、ヒトT細胞において合成される。
【0089】
特定の実施形態では、本発明は、ペプチドが、共受容体のN末端にリンカーを介して結合している、本発明のキメラ分子に関する。
【0090】
すなわち、キメラ分子は、共受容体とペプチドとの間にリンカーを含み、ペプチド、T細胞受容体およびAPC上のMHC分子の間の認識を最適化し得る。
【0091】
リンカーは、TCRおよびAPC上のMHC分子とのペプチドの効率的相互作用が可能となる任意の長さを有し得る。特には、リンカーは、5~30アミノ酸残基の長さを有し得る。したがって、特定の実施形態では、本発明は、リンカーが、5~30アミノ酸の長さを有する、キメラ分子に関する。
【0092】
ペプチドがTCRおよびAPC上のMHC分子と効率的に相互作用可能とするために、リンカーが、可撓性リンカーであることが好ましい。当業者は、高度の可撓性を有するリンカーを認識している。例えば、高いパーセンテージのグリシンまたはセリン残基を有するリンカーは、高度の可撓性を有することがわかっている。したがって、特定の実施形態では、本発明は、リンカーにおけるアミノ酸残基の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%が、グリシンまたはセリン残基である、本発明のキメラ分子に関する。
【0093】
リンカー配列GGGGSは、グリシン残基4つおよびC末端セリン残基からなり、第1のポリペプチドを第2のポリペプチドに繋留する可撓性ペプチドリンカーとして当技術分野において頻用される。したがって、本発明のリンカーは、好ましくは、配列GGGGSを有する1つまたは複数のモチーフを含む。したがって、特定の実施形態では、本発明は、リンカーが、アミノ酸配列(GGGGS)xを含み、Gがグリシンであり、Sがセリンであり、xが反復数であり、xが1~5の任意の数であり得る、本発明のキメラ分子に関する。
【0094】
したがって、ある特定の実施形態では、リンカーは、アミノ酸配列GGGGSを1回含む。他の実施形態では、リンカーは、アミノ酸配列GGGGSを2回含む。他の実施形態では、リンカーは、アミノ酸配列GGGGSを3回含む。他の実施形態では、リンカーは、アミノ酸配列GGGGSを4回含む。他の実施形態では、リンカーは、アミノ酸配列GGGGSを5回含む。リンカーがアミノ酸配列GGGGSを1回よりも多く含む場合、アミノGGGGS配列は、近接し得るか、または1つまたは複数の他のアミノ酸により中断され得る。
【0095】
実施例において、12または15アミノ酸からなるリンカーによりペプチドが共受容体に結合している場合、最も高いT細胞活性化が観察され得ることが示される(
図1CおよびD)。したがって、好ましい実施形態では、本発明は、リンカーが、12~15アミノ酸残基の長さを有する、本発明のキメラ分子に関する。より好ましい実施形態では、本発明は、リンカーが、配列GSGGGGSGGGGS(配列番号1)を含む、本発明のキメラ分子に関する。さらにより好ましい実施形態では、本発明は、リンカーが、配列GSGGSGGGGSGGGGS(配列番号2)を含む、本発明のキメラ分子に関する。
【0096】
特定の実施形態では、本発明は、本発明のキメラ分子をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0097】
本発明では、本発明のキメラ分子が、前記キメラ分子をコードするポリヌクレオチドの発現によって細胞において合成されることを意図する。加えて、本発明のキメラ分子をコードするポリヌクレオチドは、キメラ分子を細胞表面に方向づけるシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含み得る。
【0098】
用語「ポリヌクレオチド」は、本明細書において使用する場合、ホスホジエステル結合により接続しているヌクレオチドの配列を指す。本発明のポリヌクレオチドは、1本または2本鎖のいずれかの形態のデオキシリボ核酸(DNA)分子またはリボ核酸(RNA)分子であり得る。ヌクレオチド塩基は、1文字コード:アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)、イノシン(I)およびウラシル(U)により本明細書において示す。本発明のポリヌクレオチドは、当業者に周知の標準技術を使用して調製することができる。この用語は、ポリマーの長さに関して制限するものとして解釈されるべきではなく、天然ヌクレオチドの公知のアナログ、ならびに糖および/またはリン酸部分において修飾したヌクレオチドを包含する。また、この用語は、合成または天然に存在し得る、修飾骨格残基または結合を含む核酸を包含し、これは、参照核酸と類似の結合特性を有し、参照ヌクレオチドと類似の様式で代謝される。
【0099】
特定の実施形態では、本発明は、本発明の複数のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドのライブラリーに関する。
【0100】
本発明は、ポリヌクレオチドのライブラリーをさらに包含する。本発明のポリヌクレオチドのライブラリーは、本発明のキメラ分子をコードする複数のポリヌクレオチドを含む。例えば、ポリヌクレオチドのライブラリーは、本発明のキメラ分子をコードする2つまたはこれよりも多いポリヌクレオチドを含み得る。ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドのライブラリーは、本発明のキメラ分子をコードする少なくとも100、少なくとも1,000、少なくとも10,000、少なくとも100,000、少なくとも1,000,000または少なくとも10,000,000種のポリヌクレオチドを含み得る。
【0101】
ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドのライブラリーにおけるポリヌクレオチドは、より大きなポリヌクレオチドに含まれる。ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドのライブラリーにおけるポリヌクレオチドは、環状ポリヌクレオチド、例えば、DNAまたはRNAベクターに含まれる。ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドのライブラリーにおけるポリヌクレオチドは、ウイルス媒介遺伝子送達に使用し得るウイルスベクターに含まれる。
【0102】
特定の実施形態では、本発明は、ライブラリーの少なくとも2つのポリヌクレオチドが、異なるペプチドに結合している同一の共受容体タンパク質をコードする、本発明のポリヌクレオチドのライブラリーに関する。
【0103】
すなわち、本発明のポリヌクレオチドのライブラリーは、T細胞応答を誘導し得る抗原ペプチドの同定に使用し得る。ライブラリーのポリヌクレオチドが、同一の共受容体タンパク質をコードするが、ペプチドをコードするポリヌクレオチドの領域が異なることが好ましい。すなわち、ある特定の実施形態では、本発明のライブラリーは、そのようなポリヌクレオチドのそれぞれが、異なるアミノ酸配列を有するペプチドに結合している共受容体CD4タンパク質をコードする、少なくとも2つのポリヌクレオチドを含む。他の実施形態では、本発明のライブラリーは、そのようなポリヌクレオチドのそれぞれが、異なるアミノ酸配列を有するペプチドに結合している共受容体タンパク質CD8をコードする、少なくとも2つのポリヌクレオチドを含む。他の実施形態では、本発明のライブラリーは、各ポリヌクレオチドが、異なるアミノ酸配列を有するペプチドに結合している共受容体タンパク質LAG3をコードする、少なくとも2つのポリヌクレオチドを含む。
【0104】
本発明のポリヌクレオチドのライブラリーにおいてコードされるペプチドは、任意のアミノ酸配列を有し得る。例えば、ペプチドは、公知の抗原ペプチド、例えば、腫瘍細胞または病原体により感染している細胞に由来する抗原ペプチドとの配列同一性を有し得る。この場合、ポリヌクレオチドのライブラリーは、共受容体タンパク質および公知の抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドをコードするポリヌクレオチドへランダムまたは標的化変異を導入することにより得てもよい。特には、変異は、抗原ペプチドをコードするポリヌクレオチドの部分に排他的に導入し得る。
【0105】
ある特定の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドのライブラリーは、これまでに未知の抗原ペプチドを同定するために使用し得る。例えば、ポリヌクレオチドのライブラリーは、細胞、特には、抗原提示細胞からmRNAを単離し、mRNAをcDNAに逆転写することにより生成し得る。次いで、cDNAは、共受容体タンパク質をコードする複数のポリヌクレオチドにクローニングして、本発明のポリヌクレオチドのライブラリーを得てもよい。特には、cDNAは、クローニングステップの前に断片化してもよく、生じる断片は、共受容体タンパク質をコードする複数のポリヌクレオチドにクローニングしてもよい。ある特定の実施形態では、mRNAは、腫瘍細胞または病原体に感染している細胞から単離する。当業者は、RNA単離、逆転写および分子クローニングのための方法を認識している。
【0106】
他の実施形態では、ポリヌクレオチドのライブラリーは、エクソームシーケンシングデータに基づいて生成し得る。当業者は、細胞のエクソームをシーケンシングするための方法を認識している。エクソームデータは、任意の細胞から得てもよい。ある特定の実施形態では、エクソームデータは、腫瘍細胞または病原体に感染している細胞から得られる。次いで、得られたエクソームデータは、生物情報学的方法により処理して、細胞のエクソームの部分、または好ましくは、全エクソームを網羅する所定のサイズの多数のDNA断片を予想し得る。予想されたDNA断片は、任意のサイズを有し得る。しかし、予想されたDNA断片が、30~300塩基対、より好ましくは、60~150塩基対、最も好ましくは、75~105塩基対のサイズを有することが好ましい。次いで、予想されたDNA断片は、化学的に合成し、共受容体をコードする複数のポリペプチドにクローニングして、本発明のポリヌクレオチドのライブラリーを得てもよい。
【0107】
ある特定の実施形態では、APCの表面に提示されるペプチドは、APCから単離してもよく、これらの配列は、当技術分野において公知の任意の方法、特には、質量分析により決定してもよい。次いで、このような単離ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、例えば、化学合成により生成し、共受容体タンパク質をコードする複数のポリヌクレオチドにクローニングして、本発明のポリペプチドのライブラリーを生成し得る。このようなライブラリーは、例えば、細胞表面から単離したどのペプチドが、T細胞受容体によって一般には認識され、どのT細胞受容体によって特異的には認識され得るか、を同定するために使用し得る。
【0108】
上記のように、ポリヌクレオチドのライブラリーは、好ましくは、異なるペプチドに結合している同一の共受容体タンパク質をコードする、少なくとも2つのポリヌクレオチドを含む。しかし、少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも500、少なくとも1,000、少なくとも10,000、少なくとも100,000または少なくとも1,000,000種のライブラリーのポリヌクレオチドが、同一の共受容体タンパク質をコードするが、共受容体タンパク質に結合しているペプチドの配列が異なることが、さらにより好ましい。
【0109】
当業者は、本発明によるポリヌクレオチドのライブラリーを生成する方法を認識している。例えば、本発明によるライブラリーは、分子クローニングにより生成し得る。例えば、共受容体タンパク質、ならびに必要に応じて、リンカーおよびシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む複数の同一DNAベクターは、第1に、1つまたは複数の制限酵素により消化し得る。第2のステップでは、種々のアミノ酸配列を有するペプチドをコードする複数のポリヌクレオチドは、適合性の制限酵素により消化し、共受容体タンパク質をコードするベクターにライゲーションし得る。好ましくは、ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ベクターの、共受容体タンパク質およびリンカーをコードするポリヌクレオチドの上流、ならびにシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドの下流に導入して、ペプチドを共受容体タンパク質のN末端に結合させる。あるいは、本発明のライブラリーに含まれるポリヌクレオチドは、コンピュータによりデザインし、化学DNA合成により合成し得る。
【0110】
特定の実施形態では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む細胞に関する。
【0111】
すなわち、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む任意の細胞を包含する。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドを含む細胞は、T細胞である。
【0112】
特定の実施形態では、本発明は、抗原特異的T細胞受容体および前記T細胞受容体(TCR)により特異的に認識されるペプチドを同時に同定するための方法であって、(a)本発明のポリヌクレオチドのライブラリーを発現する、目的のポリクローナルT細胞を提供するステップと、(b)主要組織適合複合体(MHC)を含む抗原提示細胞(APC)とステップ(a)のT細胞を接触させるステップと、(c)ステップ(b)におけるAPCと接触すると活性化される少なくとも1つのT細胞を単離するステップと、(d)ステップ(c)の単離T細胞のDNAをシーケンシングして、TCR配列およびこのようなT細胞に存在するCD4、LAG-3またはCD8共受容体に結合したペプチド配列についての情報を得るステップと、(e)ステップ(d)において得られたシーケンシングデータに基づいて同族T細胞受容体-ペプチド対を同定するステップとを含む、方法に関する。
【0113】
すなわち、本発明の方法は、同族T細胞受容体-ペプチド対の同時同定のために使用し得る。同族TCR-ペプチド対の同定のためのこれまでの方法は、これらによって単一抗原ペプチドに対する複数のT細胞受容体のスクリーニングが同時に可能となるだけであり、これによりスクリーニング手法に時間およびコストが嵩むという不利益を有する。一方、本発明の方法は、本発明のキメラ分子をコードするポリヌクレオチドを発現する細胞が、T細胞受容体およびT細胞受容体を刺激する抗原ペプチドの遺伝情報を含むという利点を有する。したがって、本発明の方法では、単一の実験において複数のペプチドに対するポリクローナルT細胞集団のスクリーニング、ならびに同族TCR-ペプチド対を合成するT細胞の濃縮および同定が可能となる。したがって、本発明の方法では、これまでに未知の抗原ペプチドおよびこのようなペプチドを認識するT細胞受容体の同定が顕著に容易となり得る。
【0114】
このため、第1のステップでは、本発明のキメラ分子をコードするポリヌクレオチドのライブラリーは、ポリクローナルT細胞の集団に導入する。当業者は、ポリヌクレオチドをT細胞に導入するための方法を認識している。例えば、ポリヌクレオチドは、トランスフェクションまたはウイルス形質導入によりT細胞に導入し得る。T細胞の集団におけるT細胞にポリヌクレオチドのライブラリーをトランスフェクトまたは形質導入して、各T細胞が、本発明のキメラ分子をコードするポリヌクレオチドを1つよりも多くは得ないことを意図する。T細胞が検出可能な量の本発明のキメラ分子を産生する場合、ポリクローナルT細胞は、本発明のポリヌクレオチドのライブラリーを発現すると考えられる。好ましくは、T細胞のポリクローナル集団におけるT細胞の少なくとも2つは、異なるアミノ酸配列を有するペプチドに結合している同一の共受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現する。
【0115】
用語「集団」は、本明細書において使用する場合、同一細胞型の1つよりも多い細胞を指す。「ポリクローナルT細胞の集団」は、本明細書において使用する場合、集団に含まれるT細胞の少なくとも2つが、異なるT細胞受容体を含む、T細胞の集団を指す。ポリクローナルT細胞の集団は、任意の供給源のものであり得る。例えば、ポリクローナルT細胞の集団は、被験体から得てもよい。当業者は、被験体から得られた試料、例えば、血液、脾臓、リンパ節もしくは腫瘍組織から、または他の適する任意の供給源から、T細胞を単離する方法を認識している。また、本発明は、遺伝子操作により得られたポリクローナルT細胞の集団を包含する。例えば、TCR陰性細胞の集団に複数のT細胞受容体をコードするライブラリーをトランスフェクトまたは形質導入して、ポリクローナルT細胞の集団を得てもよい。
【0116】
特には、CD4またはCD8陰性T細胞ハイブリドーマ、特には、蛍光レポーターを保有するCD4またはCD8陰性T細胞ハイブリドーマを使用し得る。しかし、CD4
+細胞も使用し得るため(
図2)、これは必須ではない。T細胞活性化に適する蛍光レポーターは、例えば、nur77蛍光レポーター、NFAT蛍光レポーター、または他の適する任意のレポーター分子(例えば、CD69)である。
【0117】
第2のステップでは、本発明のポリヌクレオチドのライブラリーを発現するポリクローナルT細胞は、主要組織適合複合体をこの細胞表面に含む抗原提示細胞の存在下で培養する。上記のように、APC表面のMHC分子は、本発明の分子に含まれるペプチドとのペプチド-MHC複合体の形成に必要とされ、これによりペプチド-MHC複合体は、T細胞の細胞表面のT細胞受容体を刺激し得る。
【0118】
用語「抗原提示細胞」は、本明細書において使用する場合、主要組織適合複合体をこの細胞表面に含む任意の細胞を広範に指す。したがって、抗原提示細胞は、T細胞それ自体であり得る。ある特定の実施形態では、抗原提示細胞は、骨髄由来初代樹状細胞(BMDC)である。APCの表面に含まれるMHC分子が、MHCクラスIまたはMHCクラスIIのいずれかの分子であることが好ましい。MHC分子がMHCクラスI分子である場合、T細胞が、共受容体CD8を含むキメラ分子をコードするポリヌクレオチドを発現することが好ましい。MHC分子がMHCクラスII分子である場合、T細胞が、共受容体CD4またはLAG3を含むキメラ分子をコードするポリヌクレオチドを発現することが好ましい。
【0119】
用語「接触」は、本明細書において使用する場合、2つまたはこれよりも多い成分、例えば、T細胞およびAPCを溶解、混合、懸濁、ブレンド、スラリー化、または撹拌することにより、一緒にする作用を指す。T細胞の共受容体に結合しているペプチドが、APCの表面に含まれるMHC分子とペプチド-MHC複合体を形成し得るように2つの細胞が十分すぐ近くに存在する場合、本発明のポリヌクレオチドを発現するT細胞は、APCに接触すると考えられる。好ましくは、細胞は、溶液、例えば、細胞培養培地中で接触させる。細胞は、T細胞が活性化されるのに十分な任意の時間、接触させ得る。ある特定の実施形態では、T細胞は、数時間または数日、APCと接触させ、これによりAPCと接触すると活性化される培養中のT細胞を増殖させて濃縮し得る。したがって、ある特定の実施形態では、用語「接触」は、用語「共培養」と互換的に使用する。すなわち、本発明のキメラ分子を合成するT細胞集団のAPCとの接触は、液体培地中で規定された時間量にわたり、細胞を共培養することにより達成し得る。好ましくは、共培養により、同族TCR-ペプチド対を発現するT細胞が活性化され、これにより、このようなT細胞の増殖および濃縮が生じる。
【0120】
第4のステップでは、APCと接触すると活性化されたT細胞を単離する。実施例1に示すように、それらのT細胞受容体により認識される抗原ペプチドを含むキメラ分子を合成するT細胞のみが、APCの存在下で活性化される。したがって、APCのみと接触させると、同族抗原ペプチドを発現するT細胞が活性化されて増殖する。次いで、このようなT細胞は、APCの存在下で活性化されなかったT細胞から単離して、単離T細胞の同族TCR-ペプチド対を決定し得る。当業者は、活性化および濃縮されたT細胞を単離する方法を認識している。
【0121】
例えば、活性化および濃縮されたT細胞は、例えば、NFATまたはNur77結合配列を含むプロモーターにより駆動する活性化マーカー、例えば、CD69、CD44もしくはCD25および/またはレポータータンパク質、例えば、GFP、mCherry、mTomato、dsRed、あるいは他の適する活性化マーカーまたはレポータータンパク質の発現によるFACS選別のようなフローサイトメトリーにより同定することができる。
【0122】
特には、活性化は、蛍光活性化細胞選別(FACS)により測定することができる。
【0123】
FACSは、細胞により発現される1つまたは複数の特異的ポリペプチドの存在、非存在、またはレベルに基づいて、細胞の集団を1つまたは複数の亜集団に分別する方法を指す。FACSでは、個々の細胞の蛍光を含む光学特性に依存して、細胞を亜集団に選別する。本明細書に記載する方法の実行に適する細胞選別機は、当技術分野において周知であり、市販されている。例となる細胞選別機としては、MoFloソーター(DakoCytomation、ForiCollins、Colo.)、FACSAria(商標)、FACSArray(商標)、FACS Vantage(商標)、BD(商標)LSRIIおよびFACSCaiibur(商標)(BD Biosciences、SanJose、Calif.)ならびに他の販売元、例えば、Sony、Bio-Rad、およびBeckmanCoulterにより製造されている他の等価な細胞選別機が挙げられる。
【0124】
あるいは、MHCに効率的に提示されるペプチドを含むT細胞は、MACSに基づく細胞選別により濃縮し得る。
【0125】
「MACS」は、細胞により発現される1つまたは複数のMACSで選択可能なポリペプチドの存在、非存在、またはレベルに基づいて、細胞の集団を1つまたは複数の亜集団に分別する方法を指す。MACSでは、タグ付けした個々の細胞の磁化率特性に依存して、細胞を亜集団に選別する。MACSでは、磁気ビーズ(例えば、MiltenyiBiotec、BergischGladbach、Germany;130-048-402から入手可能なもの)を標識として使用することができる。本明細書に記載する方法の実行に適するMACS細胞選別機は、当技術分野において周知であり、市販されている。例となるMACS細胞選別機としては、autoMACS ProSeparator(MiltenyiBiotec)が挙げられる。
【0126】
どれほどの数の蛍光標識を使用したかに応じて、選別は、非蛍光細胞の集団および蛍光細胞の少なくとも1つの集団をもたらす。蛍光細胞を有する少なくとも1つの細胞集団の存在は、少なくとも1つの候補ペプチドがAPCにより効率的に提示されることを示す。したがって、FACSにより、細胞集団を選別して、MHCによって効率的に提示されるペプチドを含むT細胞において濃縮された細胞集団を生成することが可能となる。
【0127】
第4のステップでは、単離T細胞のDNAをシーケンシングする。上記のように、APCの存在下で活性化および濃縮されるT細胞は、同族TCR-ペプチド対を含む。したがって、これまでのステップにおいて単離された活性化T細胞のシーケンシングにより、どのペプチドが、どのT細胞受容体を活性化するかについての情報がもたらされる。
【0128】
TCRおよび対応する同族ペプチドの配列は、このような濃縮T細胞集団の単一細胞RNA/DNAシーケンシングにより得ることができる。
【0129】
DNA単離およびシーケンシングの方法は、当業者に公知である。
【0130】
一般には、細胞の核に存在するDNAを他の細胞成分から分別することが目的である。DNAの単離は通常、細胞の溶解または分解により開始する。このプロセスは、タンパク質構造の破壊のために必須であり、このプロセスにより核からの核酸の放出が可能となる。溶解は、タンパク質を変性させる界面活性剤もしくはプロテアーゼ(タンパク質を消化する酵素)、例えば、プロテイナーゼKを、または一部の場合では、両方を含む塩溶液中で実行する。これにより、細胞の分解および膜の溶解が生じる。DNA単離の方法は、フェノール:クロロホルム抽出、高塩濃度沈殿、アルカリ変性、イオン交換カラムクロマトグラフィー、樹脂結合、および常磁性ビーズ結合を含むが、これらに限定されない。
【0131】
cDNA生成の方法は、当業者に公知である。一般には、細胞に存在する単離RNAをDNAに変換、いわゆるDNAのコピーを行って、これをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のための鋳型として使用することが目的である。RNAの単離は通常、細胞の溶解または分解により開始する。このプロセスは、タンパク質構造の破壊のために必須であり、このプロセスにより、それからの核酸の放出が可能となる。溶解は通常、フェノールを含む溶液(例えば、TRIzol(商標))中で実行する。これにより、細胞の分解および膜の溶解が生じ、他の細胞成分からのRNAの分別が可能となる。次いで、単離RNAは、逆転写酵素(例えば、Superscript(商標)、Goscript(商標))によりcDNAに変換する。
【0132】
次いで、活性化T細胞により保有される候補ペプチドの配列(抗原提示細胞表面に提示されるMHC複合体に結合する)は、PCRにより増幅し、当技術分野において公知の任意の方法によりシーケンシングし得る。
【0133】
候補ペプチドの配列は、デジタルPCRにより決定し得る。デジタルポリメラーゼ連鎖反応(デジタルPCR、DigitalPCR、dPCRまたはdePCR)は、DNA、cDNAまたはRNAを含む核酸の直接的定量およびクローン的増幅のために使用可能な従来のポリメラーゼ連鎖反応方法の改良である。
【0134】
また、シーケンシングは、マイクロ流体工学(microfluidics)を使用して実施し得る。マイクロ流体工学は、小容量の流体を取り扱うマイクロスケール装置を含む。マイクロ流体工学は、小流体容量、特には、1μl未満の容量を正確かつ再現可能に調節および分注し得るため、マイクロ流体工学を適用すると、顕著なコスト削減がもたらされる。マイクロ流体工学技術の使用により、サイクルタイムが削減され、結果までの時間が短縮され、スループットが増加する。その上、マイクロ流体工学技術を組み込むと、システムの統合および自動化が増強される。マイクロ流体反応は、微小液滴において一般に行われる。
【0135】
また、シーケンシングは、第2世代シーケンシング(または次世代もしくはNext-Gen)、第3世代(またはNext-Next-Gen)または第4世代(またはN3-Gen)シーケンシング技術を使用して実施してもよく、パイロシーケンシング、ライゲーションによるシーケンシング、単一分子シーケンシング、合成によるシーケンス(SBS)、大規模並列クローナル、大規模並列単一分子SBS、大規模並列単一分子リアルタイム、大規模並列単一分子リアルタイムナノポア技術を含むが、これらに限定されない。MorozovaおよびMarraは、Genomics, 92: 255 (2008)において、このような一部の技術の総説を提供する。
【0136】
シーケンシングの前、後または同時に、核酸を増幅し得る。核酸増幅技術の例示的な非限定的例としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、転写増幅法(TMA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換増幅法(SDA)および核酸配列に基づく増幅(NASBA)が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、特定の増幅技術(例えば、PCR)では、増幅前にRNAがDNAに逆転写されることが必要とされるが(例えば、RT-PCR)、他の増幅技術では、RNAを直接増幅する(例えば、TMAおよびNASBA)ことを認識する。
【0137】
最終ステップでは、活性化および濃縮されたT細胞の同族TCR-ペプチド対は、シーケンシングデータを解析することにより同定する。当業者は、シーケンシングデータを解析する生物情報学ツールを認識している。したがって、上記の方法により、単一の実験において複数の同族TCR-ペプチド対を同定することが可能となる。
【0138】
ある特定の実施形態では、本発明による方法は、これまでに未知の抗原ペプチドの同定に使用し得る。このため、ライブラリーの少なくとも2つのポリペプチドが種々のアミノ酸配列を有するペプチドをコードする、ペプチドに結合している共受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドライブラリーは、ポリクローナルT細胞の集団に導入し得る。
【0139】
ある特定の実施形態では、ライブラリーにおけるペプチドは、ランダムDNAまたはcDNA分子によりコードされ得る。ランダムDNAまたはcDNA分子は、例えば、上記のように、細胞、特には、抗原提示細胞、例えば、腫瘍細胞または病原体に感染している細胞から得てもよい。さらに、ランダムDNA分子は、免疫原性試験のためのペプチドまたはタンパク質をコードするDNA分子またはDNA分子の断片であり得る。
【0140】
他の実施形態では、ライブラリーのペプチドコードポリヌクレオチドは、化学合成により得てもよい。例えば、ライブラリーのペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列は、上記のエクソームデータに基づいてコンピュータによりデザインし得る。あるいは、ライブラリーのペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列は、上記のように抗原提示細胞から単離されたペプチドの配列に基づいてデザインし得る。
【0141】
ポリヌクレオチドのライブラリーは、T細胞の任意の集団に導入し得る。特には、T細胞の集団は、ライブラリーのペプチドをコードするDNAまたはcDNA分子と同一の被験体から得られたT細胞の集団であり得る。
【0142】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、これまでに未知の腫瘍抗原の同定に使用し得る。この場合、ポリヌクレオチドのライブラリーにおいてコードされるペプチドの配列情報が、腫瘍細胞から得られることが好ましい。このようなペプチドに特異的に結合するT細胞受容体を同定するために、ポリヌクレオチドのライブラリーを、被験体、特には、がんに罹患している被験体、特には、ポリヌクレオチドのライブラリーの生成に使用した腫瘍細胞を得られた被験体と同一の被験体から得られたモノクローナルまたはポリクローナルT細胞に対してスクリーニングすることがさらに好ましい。
【0143】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、これまでに未知の病原体関連抗原の同定に使用し得る。この場合、ポリヌクレオチドのライブラリーにおいてコードされるペプチドの配列情報が、病原体に感染している細胞から得られることが好ましい。このようなペプチドに特異的に結合するT細胞受容体を同定するために、ポリヌクレオチドのライブラリーを、被験体、特には、感染性疾患に罹患している被験体から得られたモノクローナルまたはポリクローナルT細胞に対してスクリーニングすることがさらに好ましい。好ましくは、ライブラリーの生成に使用する細胞およびモノクローナルまたはポリクローナルT細胞の集団は、同一の感染性疾患に罹患している被験体、より好ましくは、同一の被験体から得ている。
【0144】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、自己免疫疾患の発症および進行に関与する抗原ペプチドの同定に使用し得る。自己免疫疾患は、健常細胞に存在する抗原により活性化される病原性T細胞により生じ得る。したがって、病原性T細胞により認識されることが多い抗原ペプチドを同定すると、この認識を遮断する作用物質、例えば、抗原ペプチドに結合して病原性T細胞による認識を防ぐ結合作用物質の発生が容易となり得る。したがって、本発明の方法は、病原性T細胞により認識され得る抗原ペプチドを同定するために使用し得る。このため、ポリヌクレオチドライブラリーは、病原性T細胞のモノクローナルまたはポリクローナル集団に対してスクリーニングし得る。病原性T細胞のモノクローナルまたはポリクローナル集団が、自己免疫疾患に罹患している患者から得られることが好ましい。あるいは、1つまたは複数の公知の病原性T細胞受容体をコードするポリヌクレオチドを非病原性T細胞に導入して、病原性T細胞の集団を得てもよい。用語「病原性T細胞」は、本明細書において使用する場合、自己免疫疾患の発症または進行の間に自己抗原に応答するT細胞を指す。
【0145】
特定の実施形態では、本発明は、少なくとも1つの抗原特異的T細胞受容体を同定するための方法であって、(a)本発明のポリヌクレオチドを発現する、目的のポリクローナルT細胞を提供するステップと、(b)主要組織適合複合体(MHC)を含む抗原提示細胞(APC)とステップa)のT細胞を接触させるステップと、(c)ステップ(b)におけるAPCと接触すると活性化される少なくとも1つのT細胞を単離するステップと、(d)ステップ(c)において単離した少なくとも1つのT細胞のTCR遺伝子座をシーケンシングするステップと、(e)少なくとも1つのT細胞のTCR遺伝子座によりコードされる少なくとも1つのT細胞受容体が抗原特異的であると同定するステップとを含む、方法に関する。
【0146】
また、種々のT細胞受容体を複数の抗原ペプチドに対して同時にスクリーニングする代わりに、本発明のキメラ分子を、特異的抗原により刺激されるT細胞受容体の同定に使用し得る。このため、特異的ペプチドに結合している共受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、ポリクローナルT細胞の集団において発現する。
【0147】
したがって、本発明の方法は、公知の抗原標的に対して高い特異性でのT細胞受容体の同定に使用し得る。例えば、公知の抗原標的は、被験体の抗原提示細胞表面に存在すると決定されている抗原ペプチドであり得る。特には、抗原ペプチドは、病原体に感染している細胞の表面のMHC分子により提示される病原体由来ペプチドであり得る。あるいは、抗原ペプチドは、健常細胞の表面ではなく腫瘍細胞の表面のMHC分子により特異的に提示されるペプチドであり得る。感染細胞または腫瘍細胞に提示される抗原ペプチドのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む共受容体にペプチドを結合させることにより、このような抗原ペプチドに対して高い特異性でT細胞受容体を同定することが可能となる。
【0148】
本発明の方法により同定し得る抗原特異的T細胞受容体は、天然に存在するT細胞受容体であり得る。例えば、ある特定の実施形態では、ポリクローナルT細胞の集団は、被験体から単離し得る。ある特定の実施形態では、ポリクローナルT細胞の集団は、抗原ペプチドをそれらの細胞表面に呈する感染細胞または腫瘍細胞を含むと決定されている被験体から単離し得る。
【0149】
あるいは、ポリクローナルT細胞の集団は、遺伝子操作により得てもよい。例えば、ポリクローナルT細胞の集団は、T細胞受容体のライブラリーをT細胞、特には、TCR陰性T細胞の集団に導入することにより得てもよい。ある特定の実施形態では、T細胞受容体のライブラリーは、MHC分子によりAPCの表面に提示される抗原ペプチドへのある程度の結合を既に示すT細胞受容体の配列に基づいて生成し得る。すなわち、ライブラリーは、T細胞受容体をコードするDNA配列にランダムまたは標的化変異を導入することにより生成して、抗原ペプチドにより刺激されるT細胞受容体の変異したバリアントのさらに効率的な同定を目的とし得る。
【0150】
特定の実施形態では、本発明は、少なくとも1つのT細胞特異的抗原を同定するための方法であって、(a)本発明のポリヌクレオチドまたは本発明のポリヌクレオチドのライブラリーを発現する、目的のモノクローナルT細胞を提供するステップと、(b)主要組織適合複合体(MHC)を含む抗原提示細胞(APC)とステップ(a)のT細胞を接触させるステップと、(c)ステップ(b)におけるAPCと接触すると活性化される少なくとも1つのT細胞を単離するステップと、(d)ステップ(c)において単離した少なくとも1つのT細胞のCD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質のN末端に結合しているペプチドをコードするポリヌクレオチドの部分をシーケンシングするステップと、(e)少なくとも1つのT細胞に含まれるポリヌクレオチドによりコードされる少なくとも1つのペプチドがT細胞特異的抗原であると同定するステップとを含む、方法に関する。
【0151】
すなわち、ある特定の実施形態では、本発明のキメラ分子は、特異的T細胞受容体を効率的に刺激するペプチドを同定するために使用する。このため、モノクローナルT細胞の集団は、本発明のポリヌクレオチドのライブラリーに対してスクリーニングし得る。モノクローナルT細胞の集団は、集団における本質的にすべてのT細胞が、同一のT細胞受容体を合成する、1つより多いT細胞の群である。したがって、本発明の方法は、特異的T細胞受容体を効率的に刺激するペプチドのライブラリーからペプチドを同定するために使用し得る。例えば、ペプチドのライブラリーは、ライブラリーの少なくとも2つのポリヌクレオチドが、異なるアミノ酸配列を有するペプチドに結合している同一の共受容体タンパク質をコードする、本発明のポリヌクレオチドのライブラリーによりコードされ得る。
【0152】
ある特定の実施形態では、共受容体タンパク質に結合しているペプチドは、MHC分子により提示されることがわかっている少なくとも2つの異なる抗原ペプチドをこれらが含むという点において、アミノ酸配列が異なり得る。特には、抗原ペプチドは、腫瘍細胞または病原体に感染している細胞に由来するペプチドであり得る。
【0153】
他の実施形態では、共受容体タンパク質に結合しているペプチドは、これらが、公知の抗原ペプチドの変異したバリアントであるという点において、アミノ酸配列が異なり得る。すなわち、本発明の方法は、同族T細胞受容体の刺激の向上を生じる公知の抗原ペプチドの変異したバリアントを同定するために使用し得る。例えば、公知の抗原ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドにランダムまたは標的化変異を導入して、公知のT細胞受容体のさらに効率的な刺激を生じるペプチドを同定し得る。
【0154】
特定の実施形態では、本発明は、APCが、自己または異種APCである、本発明の方法に関する。
【0155】
すなわち、本発明の方法においてT細胞と接触させるAPCは、自己または異種APCであり得る。「自己APC」は、本明細書において使用する場合、APCを接触させるT細胞と同一の被験体から得られたAPCである。「異種APC」は、本明細書において使用する場合、APCを接触させるT細胞と異なる被験体から得られたAPCである。
【0156】
特定の実施形態では、本発明は、APCが、変異MHC分子を発現する、遺伝子改変された自己または異種細胞または細胞株である、本発明の方法に関する。
【0157】
本発明の方法においてT細胞と接触させる自己または異種APCは、変異MHC分子を発現する遺伝子改変されたAPCであり得る。
【0158】
特定の実施形態では、本発明は、変異MHC分子が、細胞外MHCクラスIIアルファ鎖および天然または異種膜貫通ドメイン、ならびに細胞外MHCクラスIIベータ鎖および天然または異種膜貫通ドメインを含むMHCクラスII分子である、本発明の方法に関する。
【0159】
すなわち、変異MHCクラスII分子は、MHCクラスIIアルファ鎖および天然または異種膜貫通ドメインに融合するMHCクラスIIベータ鎖の細胞外ドメインを含み得る。あるいは、変異MHCクラスII分子は、MHCクラスIIベータ鎖および天然または異種膜貫通ドメインに融合するMHCクラスIIアルファ鎖の細胞外ドメインを含み得る。あるいは、変異MHCクラスII分子は、天然または異種膜貫通ドメインに融合するMHCクラスIIアルファ鎖の細胞外ドメイン、および天然または異種膜貫通ドメインに融合するMHCクラスIIベータ鎖の細胞外ドメインを含み得る。
【0160】
特定の実施形態では、本発明は、変異MHC分子が、細胞外MHCクラスIアルファ鎖および天然または異種膜貫通ドメイン、ならびにベータ2ミクログロブリンを含むMHCクラスI分子である、本発明の方法に関する。
【0161】
すなわち、MHCクラスIまたはクラスII分子の細胞外ドメインが、異なるMHCクラスIまたはクラスII分子の膜貫通ドメインにそれぞれ共有結合によって連結している場合、MHCクラスIまたはクラスII分子の細胞外ドメインは、天然膜貫通ドメインに融合すると考えられる。MHCクラスIまたはII分子の細胞外ドメインが、他の任意の膜貫通タンパク質、特には、他の任意の哺乳動物膜貫通タンパク質由来の膜貫通ドメインに共有結合によって連結している場合、MHCクラスIまたはII分子の細胞外ドメインは、異種膜貫通ドメインに融合すると考えられる。当業者は、第1のタンパク質の細胞外ドメインを第2のタンパク質の膜貫通ドメインに融合させる方法を認識している。
【0162】
特定の実施形態では、本発明は、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのライブラリーによりコードされる共受容体タンパク質が、CD8であり、APCに含まれるMHC分子が、MHCクラスI分子である、本発明の方法に関する。
【0163】
すなわち、共受容体タンパク質CD8により、ペプチド-MHCクラスI複合体と同族TCRとの間の結合が容易となることがわかっている。したがって、本発明では、MHCクラスI分子を含むAPCと生じる細胞が接触する場合、T細胞に導入するポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのライブラリーが、共受容体タンパク質CD8をコードすることが好ましい。
【0164】
MHCクラスI分子は、すべての有顎脊椎動物において細胞の表面に発現し、T細胞への抗原提示の原因となる。MHC分子をコードする遺伝子は、脊椎動物ゲノムのMHC領域に見出されるが、遺伝子組成およびゲノム配列は、大幅に異なる。
【0165】
ヒトでは、このような遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と呼ぶ。最も熱心に研究されたHLA遺伝子は、9つのいわゆる古典的MHC遺伝子:HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRAおよびHLA-DRB1である。ヒトでは、MHCは、3つの領域:クラスI、IIおよびIIIに分割する。A、BおよびC遺伝子は、MHCクラスIに属するが、6つのD遺伝子は、クラスIIに属する。
【0166】
MHCクラスIタンパク質分子は、2つのポリペプチド鎖:高度に多形性のa鎖(3つのドメイン:a1、a2およびa3を含む)および非共有結合のP2ミクログロブリンを含むヘテロ2量体である。ヒトMHCクラスIタンパク質分子は、当技術分野において「HLA分子」または「HLAタンパク質分子」と呼び得る。
【0167】
したがって、用語「MHCクラスI分子」は、本明細書において使用する場合、ヒトおよび非ヒトを含むすべての哺乳動物MHCクラスI分子を含む。好ましくは、MHCクラスI分子は、ヒトMHCクラスI分子(HLAタンパク質分子)である。
【0168】
MHCクラスI分子は、細胞表面の抗原の結合および提示の原因となり、このため抗原に結合しているか、または結合せずに存在する。したがって、用語MHCクラスI分子は、それ自体で、または抗原に結合している場合のいずれかで、MHCクラスI分子を指す。
【0169】
MHCクラスI分子は、HLA分子であり得る。好ましくは、HLA分子は、HLA-A遺伝子の産物である。HLA-A遺伝子は、多対立遺伝子性(polyallelic)であり、例えば、コードされるタンパク質のa鎖におけるさまざまな差が、集団において存在する。
【0170】
好ましくは、本発明による第1の部分により結合したHLA分子は、HLA-A2遺伝子の産物である。HLA-A2は、HLA-A’A’血清型群におけるHLA血清型であり、HLA-A0201、HLA-A0202、HLA-A0203、HLA-A0205、HLA-A0206、HLA-A0207およびHLA-A021 1遺伝子産物を含むHLA-A02対立遺伝子群によりコードされる。HLA-A2は、コーカサス人種集団において非常に一般的であり(40~50%)、ドナーおよびレシピエントの多くの組合せにおける使用に適するため、第1の部分のための理想的な細胞標的をもたらす。この手法は、コーカサス人種集団におけるすべての移植事例のおよそ4分の1に適する。したがって、HLA-A2対立遺伝子群の任意のメンバーは、用語「HLA-A2」により包含される。
【0171】
特定の実施形態では、本発明は、ポリヌクレオチドによりコードされる共受容体タンパク質が、CD4またはLAG-3であり、APCにより発現されるMHC分子が、MHCクラスII分子である、本発明の方法に関する。
【0172】
生じる細胞が、MHCクラスII分子を含むAPCと接触する場合、T細胞に導入するポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのライブラリーが、共受容体タンパク質CD4またはLAG3をコードすることがさらに好ましい。
【0173】
MHCクラスII分子は、同等サイズ(約30000Da)の2つの膜貫通ポリペプチド鎖αおよびβからなる。各鎖は、2つのドメインからなり、この場合、α1およびβ1は、9ポケットペプチド結合溝を形成し、この場合、ポケット1、4、6および9は、主要なペプチド結合ポケットであると考えられる。MHCクラスI分子におけるα2およびβ2mのようなα2およびβ2は、アミノ酸配列を有し、免疫グロブリン定常ドメインとの構造類似性を有する。抗原ペプチドの末端が埋没するMHCクラスI複合体とは対照的に、MHCクラスII複合体におけるペプチド末端は、埋没していない。HLA-DR、DQおよびDPは、ヒトクラスII分子であり、H-2A、MおよびEは、マウスのクラスII分子である。
【0174】
特定の実施形態では、本発明は、がんまたは感染性疾患に罹患している被験体を処置するための方法であって、(a)少なくとも1つの抗原特異的T細胞受容体および/または少なくとも1つのT細胞特異的抗原を本発明の方法により同定するステップと、(b)ステップ(a)において同定された少なくとも1つのT細胞受容体および/またはT細胞特異的抗原をがんまたは感染性疾患に罹患している被験体に投与するステップとを含む、方法に関する。
【0175】
すなわち、本発明の方法は、がんまたは感染性疾患に罹患している被験体の処置において使用し得る抗原ペプチドまたは抗原特異的T細胞受容体を同定するために使用し得る。例えば、本発明の方法は、被験体の腫瘍細胞または病原体に感染している細胞にMHC分子により提示される抗原ペプチドにより効率的に刺激される、天然に存在するか、または操作されたT細胞受容体を同定するために使用し得る。この場合、同定された抗原特異的T細胞受容体は、がんに罹患している被験体に投与して、この被験体における腫瘍細胞を攻撃するか、または感染性疾患に罹患している被験体に投与して、病原体に感染している細胞を攻撃し得る。
【0176】
あるいは、本発明の方法は、これまでに未知の抗原ペプチドを同定するために使用し得る。特には、本発明の方法は、APC、特には、腫瘍細胞または病原体に感染している細胞により発現される、これまでに未知の抗原ペプチドを同定するために使用し得る。
【0177】
本発明の方法は、新たに同定された抗原ペプチドが、T細胞、特には、腫瘍細胞または感染細胞と同一の被験体から得られたT細胞により認識されるかどうかを決定するために、さらに使用し得る。これまでに未知の同族TCR-ペプチド対が、がんまたは感染性疾患に罹患している被験体において、本発明の方法を使用することにより同定される場合、前記被験体は、抗原ペプチドまたはこの同族T細胞受容体により処置され得る。
【0178】
ある特定の実施形態では、抗原ペプチドおよび/または抗原特異的T細胞受容体の同定に使用されたモノクローナルまたはポリクローナルT細胞が、がんまたは感染性疾患に罹患している患者から得られたことが好ましい。さらなる実施形態では、T細胞に導入するポリヌクレオチドのライブラリーが、がんまたは感染性疾患に罹患している被験体のAPC、特には、がんに罹患している被験体の腫瘍細胞または病原体に感染している細胞から得られたポリヌクレオチド配列を含むことが好ましい。
【0179】
本発明の方法により処置され得るがんは、血管形成されていないか、または実質的には未だ血管形成されていない腫瘍、ならびに血管形成された腫瘍を含む。がんは、非固形腫瘍(例えば、血液腫瘍、例えば、白血病、およびリンパ腫)を含み得るか、または固形腫瘍を含み得る。本発明のリンパ球により処置され得るがんの型は、癌腫、芽細胞腫、および肉腫、ならびに特定の白血病またはリンパ性悪性疾患、良性および悪性腫瘍、ならびに悪性疾患、例えば、肉腫、癌腫、および黒色腫を含むが、これらに限定されない。成人腫瘍/がんおよび小児腫瘍/がんも含まれる。
【0180】
血液がんは、血液または骨髄のがんである。血液(または血行性)がんの例としては、急性白血病(例えば、急性リンパ球性白血病、急性骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病および骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性および赤白血病)を含む白血病、慢性白血病(例えば、慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、および慢性リンパ球性白血病)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性および高悪性度型)、多発性骨髄腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、有毛細胞白血病および脊髄形成異常が挙げられる。
【0181】
固形腫瘍は、嚢胞または液体部位を通常含まない組織の異常腫瘤である。固形腫瘍は、良性または悪性であり得る。種々の型の固形腫瘍の名前は、これらを形成する細胞型に由来する(例えば、肉腫、癌腫、およびリンパ腫)。固形腫瘍、例えば、肉腫および癌腫の例としては、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、および他の肉腫、滑膜種、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、リンパ性悪性疾患、膵臓がん、乳がん、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、肝細胞癌、扁平上皮細胞癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭状癌、褐色細胞腫、脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーム、胆管癌(bile duct carcinoma)、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、精上皮腫、膀胱癌、黒色腫、およびCNS腫瘍(例えば、神経膠腫(例えば、脳幹神経膠腫および混合性神経膠腫)、神経膠芽腫(多形神経膠芽腫としても知られる)、星状細胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽細胞腫、シュワン細胞腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyogioma)、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫(menangioma)、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫ならびに脳転移)が挙げられる。
【0182】
本発明では、感染性疾患は、任意の病原体により生じ得る。ある特定の実施形態では、感染性疾患は、ウイルス病原体により生じ得る。ある特定の実施形態では、ウイルス病原体は、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、アデノウイルス、ポリオーマウイルス、水痘帯状疱疹(Varizella-Zoster)ウイルス(VZV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはインフルエンザウイルスである。
【0183】
特定の実施形態では、本発明は、抗原特異的T細胞受容体が、ウイルス媒介遺伝子送達により被験体に投与される、本発明の方法に関する。
【0184】
がんに罹患している被験体から得られた腫瘍細胞の表面または被験体から得られた病原体感染細胞の表面に提示される抗原を効率的に結合させる本発明の方法により同定された、天然に存在するか、または操作されたT細胞受容体は、任意の経路によりこの被験体に投与され得る。例えば、T細胞受容体は、ウイルス媒介遺伝子送達により被験体に投与され得る。このため、T細胞の集団を、被験体から最初に単離することが好ましい。抗原特異的TCRをコードする遺伝子をウイルス媒介遺伝子送達によりT細胞の集団に導入し、次いで、遺伝子を受け取って抗原特異的T細胞受容体を合成するT細胞を被験体に再導入する。当業者は、ウイルス媒介遺伝子送達のための方法および適するウイルスベクターを認識している。特には、レンチウイルスまたはアデノ随伴ウイルスに基づくベクターは、TCR遺伝子のT細胞への送達に使用し得る。
【0185】
あるいは、抗原特異的T細胞受容体は、被験体に直接投与される可溶性抗原特異的T細胞受容体であり得る。特定の実施形態では、可溶性抗原特異的T細胞受容体は、別の分子、例えば、医薬化合物にコンジュゲートする。
【0186】
特定の実施形態では、本発明は、T細胞特異的抗原が、ペプチドの形態またはペプチドをコードするポリヌクレオチドの形態で被験体に投与される、本発明の方法に関する。
【0187】
本発明の方法により同定された抗原ペプチドは、がんまたは感染性疾患に罹患している被験体に任意の方法で投与され得る。すなわち、抗原ペプチドは、ペプチドの形態で被験体に投与してもよく、これによりペプチドが取り込まれて、抗原提示細胞により提示され、次いで、抗原特異的T細胞の活性化が生じ得る。あるいは、抗原ペプチドはまた、より大きなペプチドまたは抗原ペプチドを含むタンパク質の形態で被験体に投与され得る。次いで、より大きなペプチドまたはタンパク質は、抗原提示細胞により取り込まれてプロセシングされ、これにより抗原ペプチドが、MHCにより抗原提示細胞の表面に提示され得る。あるいは、抗原ペプチドは、ポリヌクレオチドの形態で被験体に投与してもよく、これはAPCにより取り込まれ、これにより抗原ペプチドが発現して、APCにより提示され得る。ある特定の実施形態では、抗原特異的ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、DNA分子である。他の実施形態では、抗原特異的ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、RNA分子、特には、mRNA分子である。ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドは、さらなる制御エレメントまたはコード配列を含む。
【0188】
特定の実施形態では、本発明は、ペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドが、ペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドのAPCへの送達を向上させる化合物に結合している、本発明の方法に関する。
【0189】
ペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ペプチドまたはポリヌクレオチドのAPCへの送達が容易となる任意の化合物に結合させ得る。すなわち、ペプチドまたはポリヌクレオチドは、例えば、ペプチドまたはポリヌクレオチドをAPCに方向づける標的化部分に結合させ得る。
【0190】
用語「投与」は、本明細書において使用する場合、本発明のTCR物質または抗原ペプチドの被験体への送達を指し、任意の特定の経路に限定されないが、むしろ、医学界により適切であると認められた任意の経路を指す。用語「被験体」は、本明細書において使用する場合、任意の動物、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、ヒトを表す。被験体の例としては、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、イヌおよびネコが挙げられる。本発明では、用語「被験体」は、用語「患者」と互換的に使用する。
【0191】
用語「処置すること」は、本明細書において使用する場合、処置された被験体において生じる疾患または障害、例えば、がんまたは感染性疾患の、処置されていない被験体と比較した任意の改善を指す。このような改善は、前記疾患または障害の悪化または進行の予防であり得る。その上、このような改善はまた、疾患もしくは障害またはこの随伴症状の回復または治癒であり得る。処置は、処置される被験体の100%が成功するわけではないことが理解される。しかし、この用語では、処置において、統計学的に優位な割合の被験体(例えば、臨床試験におけるコホート)が成功することが必要となる。割合が統計学的に有意であるかどうかは、ここでは詳細な説明はしないが、種々の周知の統計学的評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定等を使用して当業者により決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons,New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.05、0.01、0.005または0.0001である。
【0192】
B1.CD4、LAG3またはCD8共受容体タンパク質および共受容体のN末端に結合しているペプチドを含むキメラ分子。
【0193】
B2.ペプチドが、共受容体のN末端にリンカーを介して結合している、実施形態B1に記載のキメラ分子。
【0194】
B3.ペプチドが、所与のcDNAまたはDNA分子によりコードされる、実施形態B1または実施形態B2に記載のキメラ分子。
【0195】
B4.cDNAまたはDNAが、断片化cDNAまたはDNA分子に由来する、実施形態B3に記載のキメラ分子。
【0196】
B5.ペプチドが、ランダムペプチドである、実施形態B1からB4のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0197】
B6.ペプチドが、ペプチドライブラリーに由来する、実施形態B1からB5のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0198】
B7.ペプチドが、6~200アミノ酸残基を有する、実施形態B1からB6のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0199】
B8.ペプチドが、腫瘍DNAに存在するSNPを含むDNAによりコードされる、実施形態B1からB7のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【0200】
B9.実施形態B1からB8のいずれか一項に記載のキメラ分子をコードするDNAを含むキメラDNA構築物。
【0201】
B10.実施形態B1からB8のいずれか一項において定義する分子の1つまたは複数を含むキメラ分子のライブラリー。
【0202】
B11.抗原特異的T細胞およびこれらのT細胞受容体(TCR)により特異的に認識されるペプチドの同時検出および濃縮のための方法であって、
(a)実施形態B1からB8のいずれか一項に記載のキメラ分子をコードするキメラDNA構築物を過剰発現する、目的のポリクローナルT細胞を提供するステップと、
(b)ステップa)のキメラDNA構築物を過剰発現するT細胞を、ペプチド結合溝を含む主要組織適合複合体(MHC)を発現する抗原提示細胞(APC)の存在下で培養し、これにより複合体が、CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質のN末端に結合しているペプチドとMHCのペプチド結合溝との間に形成されるステップであって、この複合体は、TCRによる認識の際にT細胞の活性化を導く、ステップと、
(c)共培養ステップb)において活性化および拡大増殖させたT細胞を単離するステップと、必要に応じて
(d)単離T細胞のDNAをシーケンシングして、TCR配列およびこのようなT細胞に存在するCD4、LAG-3またはCD8共受容体に結合しているペプチド配列についての情報を得るステップと
を含む、方法。
【0203】
B12.活性化T細胞が、ステップb)において形成されたMHCペプチド複合体を認識するTCRを含む、実施形態B11に記載の方法。
【0204】
B13.抗原特異的TCR配列の同定のための方法であって、
a)実施形態B1からB8のいずれか一項に記載のキメラ分子をコードするキメラDNA構築物を過剰発現する、目的のポリクローナルT細胞を提供するステップと、
b)ステップa)のキメラDNA構築物を過剰発現するT細胞を、ペプチド結合溝を含む主要組織適合複合体(MHC)を発現する抗原提示細胞(APC)の存在下で培養し、これにより複合体が、CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質のN末端に結合しているペプチドとMHCのペプチド結合溝との間に形成されるステップであって、この複合体は、TCRによる認識の際にT細胞の活性化を導く、ステップと、
c)共培養ステップb)において活性化および拡大増殖させたT細胞を、活性化マーカーまたはレポータータンパク質の発現によって同定および選別するステップと、
d)ステップc)において同定および選別したT細胞のTCR遺伝子座をシーケンシングするステップと
を含む、方法。
【0205】
B14.T細胞特異的抗原の同定のための方法であって、
a)実施形態B1からB8のいずれか一項に記載のキメラ分子をコードするキメラDNA構築物を過剰発現する、目的のモノクローナルT細胞を提供するステップと、
b)ステップa)のキメラDNA構築物を過剰発現するT細胞を、ペプチド結合溝を含む主要組織適合複合体(MHC)を発現する抗原提示細胞(APC)の存在下で培養し、これにより複合体が、CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質のN末端に結合しているペプチドとMHCのペプチド結合溝との間に形成されるステップであって、この複合体は、TCRによる認識の際にT細胞の活性化を導く、ステップと、
c)ステップb)の共培養において活性化したT細胞を、活性化マーカーまたはレポータータンパク質の発現によって同定および選別するステップと、
d)ステップc)において同定および選別したT細胞に存在するDNA/RNAを単離するステップと、
e)キメラ共受容体をコードする断片を(PCRまたはrtPCRにより)増幅するステップと、
f)CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質のN末端に結合しているペプチドをコードする部分をシーケンシングするステップと
を含む、方法。
【0206】
B15.APCが、自己APCである、実施形態B11からB14のいずれか一項に記載の方法。
【0207】
B16.APCが、異種APCである、実施形態B11からB14のいずれか一項に記載の方法。
【0208】
B17.APCが、変異MHC分子を過剰発現する、遺伝子改変された自己または異種細胞または細胞株である、実施形態B11からB14のいずれか一項に記載の方法。
【0209】
B18.ステップa)において、目的のT細胞において過剰発現されるキメラDNA構築物が、ペプチドライブラリーをコードする、実施形態B11からB17のいずれか一項に記載の方法。
【0210】
B19.ペプチドライブラリーが、実施形態B10において定義するライブラリーである、実施形態B18に記載の方法。
【0211】
B20.共受容体が、CD8であり、MHC分子が、MHCクラスI分子である、実施形態B11からB19のいずれか一項に記載の方法。
【0212】
B21.共受容体が、CD4またはLAG-3であり、MHC分子が、MHCクラスII分子である、実施形態B11からB19のいずれか一項に記載の方法。
【0213】
B22.変異MHC分子が、細胞外MHCクラスIIアルファ鎖および天然または異種膜貫通ドメイン、ならびに細胞外MHCクラスIIベータ鎖および天然または異種膜貫通ドメインを含むMHCクラスII分子である、実施形態B17からB21のいずれか一項に記載の方法。
【0214】
B23.変異MHC分子が、細胞外MHCクラスIアルファ鎖および天然または異種膜貫通ドメイン、ならびにベータ2ミクログロブリンを含むMHCクラスI分子である、実施形態B17からB21のいずれか一項に記載の方法。
【0215】
本発明では、抗原特異的T細胞およびこれらのT細胞受容体(TCR)により特異的に認識されるペプチドの同時検出および濃縮、ならびに免疫原性試験および他のin vitroでのT細胞反応性試験のための、ワクチン接種、免疫寛容の誘導、TCRの遮断およびMHC媒介毒素送達を含むin vivoおよび/またはin vitroでの介入のためのT細胞特異的抗原の同定のための方法を提供する。また、本発明は、前記方法において使用するキメラ分子に関する。
【0216】
特には、この方法は、
a)実施形態B1からB4のいずれか一項に記載のキメラ分子を含むキメラDNA構築物を過剰発現する、目的のポリクローナルまたはモノクローナルT細胞を提供するステップと、
b)ステップa)のキメラDNA構築物を過剰発現するT細胞を、ペプチド結合溝を含む主要組織適合複合体(MHC)を発現する抗原提示細胞(APC)の存在下で培養し、これにより複合体が、CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質のN末端に結合しているペプチドとMHCのペプチド結合溝との間に形成されるステップであって、この複合体は、TCRによる認識の際にT細胞の活性化を導く、ステップと、
c)ステップb)の共培養において活性化したT細胞を、特には、フローサイトメトリーおよびFACSにより単離し、活性化マーカー、例えば、CD69、CD44もしくはCD25またはレポータータンパク質、例えば、GFP、mCherry、mTomato、dsRed等の発現によってT細胞を選別するステップと、
d)ステップc)において同定および選別したT細胞に存在するDNA/RNAを単離するステップと、
e)キメラ共受容体をコードする断片を(PCRまたはrtPCRにより)増幅するステップと、
f)CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質のN末端に結合しているペプチドをコードする部分をシーケンシングするステップと
を含む。
【0217】
本発明の種々の特定の実施形態では、ステップb)の共培養において活性化したT細胞は、例えば、CD69、CD44もしくはCD25のような活性化マーカーおよび/または例えば、GFP、mCherry、mTomato、dsRedのようなレポータータンパク質、あるいは他の適する活性化マーカーまたはレポータータンパク質の発現による、T細胞のフローサイトメトリーおよびFACS選別により単離し得る。
【0218】
当技術分野において公知の方法は、多くのエピトープに対する多くのTCRの同時スクリーニングが不可能であるため、並行処理に関して著しく制限されている。目的のTCRは、エピトープライブラリーに対して1つずつスクリーニングしなければならない。逆もまた同様に、目的のエピトープに反応性のTCRを見出すには、エピトープをTCRライブラリーに対して1つずつスクリーニングすることが必要である。
【0219】
本発明では、抗原特異的T細胞の同時検出および濃縮ならびにTCRおよびこれらの同族エピトープの同定が可能となる方法を初めて提供する。
【0220】
これは、CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質およびこのような共受容体のN末端に結合しているペプチドのライブラリーを含むキメラ分子を、目的のT細胞において発現させることにより達成する。また、TCRのライブラリーを過剰発現するTCR陰性T細胞株を使用し得る。
【0221】
特には、目的のT細胞は、血液、脾臓、リンパ節もしくは腫瘍組織から、または他の適する任意の供給源から単離したT細胞であり得る。
【0222】
特には、上記のキメラ分子は、組換え発現ベクターに含まれる。
【0223】
CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質は、特には、完全長CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質である。
【0224】
ペプチドのCD4、LAG-3またはCD8共受容体のN末端への繋留は、リンカー分子の使用によりなされ得る。
【0225】
特には、リンカー分子は、約5~30アミノ酸を含む。
【0226】
適するリンカー分子は、(G4S)1、(G4S)2、(G4S)3、(G4S)5等である。
【0227】
特には、5~28アミノ酸の範囲のGSリンカーを使用し得る。
【0228】
共受容体のN末端に結合しているペプチドは、特には、(i)ランダムペプチド、(ii)所与のcDNAまたはDNA分子に由来するペプチド、(iii)断片化cDNAまたはDNA分子によりコードされるペプチドである。
【0229】
断片化cDNAまたはDNA分子は、目的の組織生検、細胞または病原体に由来するcDNAまたはDNAのランダム剪断または消化により生成し得る。
【0230】
例えば、共受容体のN末端に結合しているペプチドは、腫瘍DNAに存在するSNPを含むDNA分子または断片化DNA分子によりコードされ得る。
【0231】
キメラ構築物において使用し得る他のペプチドは、例えば、制限されないが、
- 腫瘍にユニークに存在するTSAを同定するために使用するエクソームシーケンシングにより得られるTSA、
- 個々の腫瘍由来変異(複数可)を保有する腫瘍特異的ペプチド、例えば、p53、KRASおよびBRAFの種々の変異を含む単一ヌクレオチドバリアント(SNV)、
- 免疫応答を生じる抗原、例えば、病原体に由来し得るペプチド、
- 免疫原性試験を受ける化合物、
- 天然ペプチド(複数可)の変異型を含む、候補ペプチドのライブラリー
である。
【0232】
特には、候補ペプチドのライブラリーは、ライブラリーが、目的の細胞または病原体に由来するcDNAまたはDNAのランダム剪断または消化により生成されたペプチドを含む、本明細書に開示の方法において使用し得る。このようなライブラリーは、このような細胞におけるすべてのペプチドを網羅する。
【0233】
CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質および共受容体のN末端に結合しているペプチドを含むキメラ分子は、目的のT細胞において発現する。
【0234】
特には、(2)mRNAに転写され、タンパク質に翻訳される所望のタンパク質(例えば、ペプチドが繋留されたCD4、Lag-3またはCD8)をコードするヌクレオチド配列に動作可能に連結している、(1)遺伝子発現において制御的役割を有する作用物質(複数可)、例えば、プロモーター、オペレーター、またはエンハンサー、ならびに(3)適切な転写および翻訳開始および終止配列のアセンブリを含む複製可能なDNA構築物である組換え発現ベクターを使用し得る。プロモーターおよび他の制御エレメントの選択は、意図するレポーター細胞株に応じて一般に異なる。発現ベクターは、「プラスミド」の形態であることが多く、これは環状の2本鎖DNAループを指し、そのベクター形態において染色体に結合しない。
【0235】
エピソームとして複製する真核生物発現ベクター、例えば、pCEP4もしくはBKV、またはレトロウイルス、例えば、pMY、pMX、pSIR、アデノウイルス、例えば、pAd等のようなウイルスに由来する他のベクターを利用し得る。発現ベクターでは、転写または翻訳を調節する制御エレメントは、哺乳動物、微生物、ウイルスまたは昆虫の遺伝子に一般に由来し得る。通常、複製起点(例えば、エプスタイン・バーウイルス潜伏DNA複製起点)により付与される複製する能力と、形質転換体の認識が容易となる選択遺伝子とをさらに組み込むことができる。真核生物ウイルス由来の制御エレメントを含む発現ベクターは、真核生物発現ベクター、例えば、SV40ベクター、パピローマウイルスベクター、およびエプスタイン・バーウイルスに由来するベクターにおいて典型的に使用する。他の例となる真核生物ベクターとしては、pMSG、pAV009/A+、pMTO10/A+、pMAMneo-5、バキュロウイルスpDSVEと、CMVプロモーター、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳腺癌ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、または真核生物細胞における発現に有効であるとわかっている他のプロモーターの指示下でタンパク質の発現が可能となる他の任意のベクターとが挙げられる。
【0236】
「プロモーター」は、核酸の転写を方向づける一連の核酸調節配列として定義する。本明細書において使用する場合、プロモーターは、転写開始部位の付近の必要な核酸配列、例えば、ポリメラーゼII型プロモーターの場合のTATAエレメントを含む。また、プロモーターは、遠位のエンハンサーまたはレプレッサーエレメントを必要に応じて含み、これは、転写開始部位から数千塩基対もの場所に位置してもよい。真核生物宿主細胞における使用のためのプロモーターは、当業者に公知である。このようなプロモーターの例示的な例としては、サルウイルス40(SV40)由来のプロモーター、マウス乳腺癌ウイルス(MMTV)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロモーター、例えば、HIV末端反復配列(LTR)プロモーター、モロニーウイルスプロモーター、ALVプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えば、CMV前初期プロモーター、エプスタイン・バーウイルス(EBV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、ならびにヒト遺伝子、例えば、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、およびヒトメタロチオネイン(metalothionein)由来のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。適するプロモーターのさらに他の例としては、CAGプロモーター(CMVエンハンサー、ニワトリβアクチンプロモーター、およびウサギβグロブリンスプライシングアクセプターを含むハイブリッドプロモーター、ならびにポリ(A)配列)が挙げられる。
【0237】
用語「動作可能に連結している」は、核酸発現調節配列(例えば、プロモーター、または一連の転写因子結合部位)と第2の核酸配列との間の機能的連結を指し、この場合、発現調節配列により、第2の配列に対応する核酸の転写が方向づけられる。
【0238】
CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質および共受容体のN末端に結合するペプチドを含む、本明細書に記載のキメラDNA分子、特には、発現ベクターに含まれるキメラDNA分子は、キメラDNA分子、特には、キメラDNA分子を含む発現ベクターを、当技術分野において公知の標準技術を使用して宿主細胞に形質導入することにより目的のT細胞に導入し得る。適する方法は、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold SpringHarbor, NY (1989)に記載されている。形質導入のための偽レトロウイルスを生成するために、レトロウイルスタンパク質GAG、POLおよびENVを常に発現するパッケージング細胞株(例えば、Phoenix細胞株等)に、LTR、パッケージングシグナルおよび目的の遺伝子(この場合はMHC鎖を保有するペプチド)からなるウイルスゲノムを含む構築物を一過性にトランスフェクトする。あるいは、適する細胞株、例えば、HEK、3T3その他に、レトロウイルスタンパク質GAG、POLおよびENVを別々にコードするベクターならびにLTR、パッケージングシグナルおよび目的の遺伝子からなるウイルスゲノムの混合物を一過性にトランスフェクトする。このような一般に使用される戦略では、標的細胞に感染させて目的の遺伝子をこのゲノムDNAに導入することが可能な不完全な偽レトロウイルスの生成が確実となる。しかし、偽レトロウイルスがgag、polおよびenv遺伝子をこのゲノムに有しないため、感染標的細胞では、レトロウイルスを生成することができない。
【0239】
あるいは、キメラDNA分子、特には、キメラDNA分子を含む発現ベクターは、脂質、リン酸カルシウム、カチオン性ポリマーもしくはDEAEデキストランに基づく試薬によるトランスフェクションにより、またはエレクトロポレーションにより目的のT細胞に導入することができる。
【0240】
本明細書に開示の方法において使用し得るT細胞は、例えば、限定されないが、血液、脾臓、リンパ節または腫瘍組織から単離したT細胞である。
【0241】
特には、CD4またはCD8陰性T細胞ハイブリドーマ、特には、蛍光レポーターを保有するCD4またはCD8陰性T細胞ハイブリドーマを使用し得る。しかし、CD4
+細胞も使用し得るため(
図2)、これは必須ではない。
【0242】
T細胞活性化に適する蛍光レポーターは、例えば、nur77蛍光レポーター、NFAT蛍光レポーター、または他の適する任意のレポーター分子である。
【0243】
CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質および共受容体タンパク質のN末端に結合しているペプチドを含む融合構築物の細胞表面での効率的発現は、CD4、LAG-3またはCD8特異的抗体染色により決定し得る。抗体は、検出可能な標識に直接コンジュゲートし得る。あるいは、検出可能な標識にコンジュゲートし1次抗体に特異的な2次抗体を細胞と接触させ得る。使用に適する検出可能な標識は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段により検出可能な任意の化合物を含む。本発明において有用な標識は、ビオチン、磁気ビーズ(例えば、Dynabeads(商標))、蛍光標識(例えば、フルオレセイン、テキサスレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、ダンシル、ウンベリフェロン、PE、APC、CY5、Cy7、PerCP、Alexa色素等)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ他)および比色分析標識、例えば、コロイド金または着色したガラスもしくはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス等)のビーズを含む。適するさまざまな蛍光標識は、例えば、The Molecular Probes Handbook: A Guide to Fluorescent Probes andLabeling Technologies, 11th Editionにさらに記載されている。
【0244】
本明細書に定義するキメラ分子を過剰発現するT細胞を自己抗原提示細胞(APC)の存在下で培養する場合、CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質のN末端に結合しているペプチドを、APCの表面に発現するMHC分子の溝に挿入し、これによりこれらがT細胞に提示され得る。
【0245】
ペプチドがTCRにより認識されると、T細胞は、活性化されて増殖する。
【0246】
したがって、所与のペプチドをコードする本明細書に記載のキメラ分子を含む構築物を(レトロウイルス形質導入またはエレクトロポレーションにより)ポリクローナルT細胞にトランスフェクトすると、このペプチドに特異的なTCRを含むT細胞の増殖および濃縮が排他的に生じる。
【0247】
形質導入に使用する構築物は、単一のペプチドだけでなくペプチドのライブラリーをもコードし得る。
【0248】
ペプチドのライブラリーをコードする構築物を(レトロウイルス形質導入またはエレクトロポレーションにより)ポリクローナルT細胞にトランスフェクトすると、ペプチドを保有するT細胞の増殖および濃縮が排他的に生じ、これらは、これらのTCRに特異的に認識される。
【0249】
刺激するペプチドが、CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質のN末端に結合し、これによりT細胞に含まれるため、十分な時間の後、これらの同族ペプチドを保有するT細胞のみが培養物中に残存する。
【0250】
活性化および濃縮されたT細胞は、例えば、NFATまたはNur77プロモーターにより駆動する活性化マーカー、例えば、CD69、CD44もしくはCD25および/またはレポータータンパク質、例えば、GFP、mCherry、mTomato、dsRedあるいはレポータータンパク質の他の適する活性化マーカーの発現によるフローサイトメトリーおよびFACS選別により同定することができる。
【0251】
特には、活性化は、蛍光活性化細胞選別(FACS)により測定することができる。
【0252】
FACSは、細胞により発現される1つまたは複数の特異的ポリペプチドの存在、非存在、またはレベルに基づいて、細胞の集団を1つまたは複数の亜集団に分別する方法を指す。FACSでは、個々の細胞の蛍光を含む光学特性に依存して、細胞を亜集団に選別する。本明細書に記載する方法の実行に適する細胞選別機は、当技術分野において周知であり、市販されている。例となる細胞選別機としては、MoFloソーター(DakoCytomation、ForiCollins、Colo.)、FACSAria(商標)、FACSArray(商標)、FACS Vantage(商標)、BD(商標)LSRIIおよびFACSCaiibur(商標)(BD Biosciences、SanJose、Calif.)ならびに他の販売元、例えば、Sony、Bio-Rad、およびBeckmanCoulterにより製造されている他の等価な細胞選別機が挙げられる。
【0253】
あるいは、MHCによって効率的に提示されるペプチドを含むT細胞は、MACSに基づく細胞選別により濃縮し得る。
【0254】
「MACS」は、細胞により発現される1つまたは複数のMACSで選択可能なポリペプチドの存在、非存在、またはレベルに基づいて、細胞の集団を1つまたは複数の亜集団に分別する方法を指す。MACSでは、タグ付けした個々の細胞の磁化率特性に依存して、細胞を亜集団に選別する。MACSでは、磁気ビーズ(例えば、MiltenyiBiotec、BergischGladbach、Germany;130-048-402から入手可能なもの)を標識として使用することができる。本明細書に記載する方法の実行に適するMACS細胞選別機は、当技術分野において周知であり、市販されている。例となるMACS細胞選別機としては、autoMACS ProSeparator(MiltenyiBiotec)が挙げられる。
【0255】
どれほどの数の蛍光標識を使用したかに応じて、選別は、非蛍光細胞の集団および蛍光細胞の少なくとも1つの集団をもたらす。。蛍光細胞を有する少なくとも1つの細胞集団の存在は、少なくとも1つの候補ペプチドがAPCによって効率的に提示されることを示す。したがって、FACSにより、細胞集団を選別して、MHCによって効率的に提示されるペプチドを含むT細胞において濃縮された細胞集団を生成することが可能となる。
【0256】
TCRおよび対応する同族ペプチドの配列は、このような濃縮T細胞集団の単一細胞RNA/DNAシーケンシングにより得ることができる。
【0257】
DNA単離およびシーケンシングの方法は、当業者に公知である。
【0258】
一般には、細胞の核に存在するDNAを他の細胞成分から分別することが目的である。DNAの単離は通常、細胞の溶解または分解により開始する。このプロセスは、タンパク質構造の破壊のために必須であり、このプロセスにより核からの核酸の放出が可能となる。溶解は、タンパク質を変性させる界面活性剤もしくはプロテアーゼ(タンパク質を消化する酵素)、例えば、プロテイナーゼKを、または一部の場合では、両方を含む塩溶液中で実行する。これにより、細胞の分解および膜の溶解が生じる。DNA単離の方法は、フェノール:クロロホルム抽出、高塩濃度沈殿、アルカリ変性、イオン交換カラムクロマトグラフィー、樹脂結合、および常磁性ビーズ結合を含むが、これらに限定されない。
【0259】
cDNA生成の方法は、当業者に公知である。一般には、細胞に存在する単離RNAをDNAに変換、いわゆるDNAのコピーを行って、これをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のための鋳型として使用することが目的である。RNAの単離は通常、細胞の溶解または分解により開始する。このプロセスは、タンパク質構造の破壊のために必須であり、このプロセスにより、それからの核酸の放出が可能となる。溶解は通常、フェノールを含む溶液(例えば、TRIzol(商標))中で実行する。これにより、細胞の分解および膜の溶解が生じ、他の細胞成分からのRNAの分別が可能となる。次いで、単離RNAは、逆転写酵素(例えば、Superscript(商標)、Goscript(商標))によりcDNAに変換する。
【0260】
次いで、活性化T細胞により保有される候補ペプチドの配列(抗原提示細胞表面に提示されるMHC複合体に結合する)は、PCRにより増幅し、当技術分野において公知の任意の方法によりシーケンシングし得る。
【0261】
候補ペプチドの配列は、デジタルPCRにより決定し得る。デジタルポリメラーゼ連鎖反応(デジタルPCR、DigitalPCR、dPCRまたはdePCR)は、DNA、cDNAまたはRNAを含む核酸の直接的定量およびクローン的増幅のために使用可能な従来のポリメラーゼ連鎖反応方法の改良である。
【0262】
また、シーケンシングは、マイクロ流体工学を使用して実施し得る。マイクロ流体工学は、小容量の流体を取り扱うマイクロスケール装置を含む。マイクロ流体工学は、小流体容量、特には、1μl未満の容量を正確かつ再現可能に調節および分注し得るため、マイクロ流体工学を適用すると、顕著なコスト削減がもたらされる。マイクロ流体工学技術の使用により、サイクルタイムが削減され、結果までの時間が短縮され、スループットが増加する。その上、マイクロ流体工学技術を組み込むと、システムの統合および自動化が増強される。マイクロ流体反応は、微小液滴において一般に行われる。
【0263】
また、シーケンシングは、第2世代シーケンシング(または次世代もしくはNext-Gen)、第3世代(またはNext-Next-Gen)または第4世代(またはN3-Gen)シーケンシング技術を使用して実施してもよく、パイロシーケンシング、ライゲーションによるシーケンシング、単一分子シーケンシング、合成によるシーケンス(SBS)、大規模並列クローナル、大規模並列単一分子SBS、大規模並列単一分子リアルタイム、大規模並列単一分子リアルタイムナノポア技術を含むが、これらに限定されない。MorozovaおよびMarraは、Genomics, 92: 255 (2008)において、このような一部の技術の総説を提供する。
【0264】
シーケンシングの前、後または同時に、核酸を増幅し得る。核酸増幅技術の例示的な非限定的例としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、転写増幅法(TMA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換増幅法(SDA)および核酸配列に基づく増幅(NASBA)が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、特定の増幅技術(例えば、PCR)では、増幅前にRNAがDNAに逆転写されることが必要とされるが(例えば、RT-PCR)、他の増幅技術では、RNAを直接増幅する(例えば、TMAおよびNASBA)ことを認識する。
【0265】
本明細書に記載の方法において同定および濃縮されるペプチドは、in vivoでの介入、例えば、免疫原性試験および他のin vitroでのT細胞反応性試験のための、ワクチン接種、免疫寛容の誘導、TCRの遮断およびMHC媒介毒素送達において使用し得る。
【0266】
一実施形態では、ワクチンは、腫瘍特異的抗原(TSA)に基づくがんワクチンである。
【0267】
用語「ワクチン接種」または等価物は、当技術分野において十分に理解されている。例えば、用語ワクチン接種は、被験体の抗原に対する免疫反応、およびこれにより疾患に抵抗または克服する能力が向上するプロセスであると理解され得る。「ワクチン」は、疾患(例えば、がん)の予防および/または処置のための免疫を生成するための組成物を意味するものとして理解されるべきである。したがって、ワクチンは、抗原を含む医薬であり、ワクチン接種により特異的防御および保護物質を生成するために、ヒトまたは動物において使用することを意図する。用語「TSAに基づくがんワクチン」は、腫瘍特異的抗原、例えば、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、またはこれよりも多い腫瘍特異的ペプチドのプールした試料を含むワクチンを指すことを意味する。
【0268】
再発性腫瘍由来変異は、広範な患者コホートに適用可能なTSAに基づくがんワクチンの開発が可能となり得る、公有(public)の腫瘍特異的抗原として作用する。したがって、本発明の方法は、患者が、このような一般/公有TSAを免疫系に効率的に提示し、効率的な免疫応答を潜在的に生じることを同定するために使用することができる。しかし、多くの腫瘍由来変異は、患者特異的な変化に由来すると思われる。したがって、本発明の方法はまた、個別化ワクチンのための患者特異的候補ペプチドを同定するために使用することができる。
【0269】
本明細書において使用する場合、「免疫寛容」は、1つまたは複数の特異的抗原に対する宿主の免疫反応性における低減を指す。抗原は、寛容がない場合に望まない免疫応答を生じる免疫決定因子を含む。免疫寛容により、移植拒絶反応、自己免疫、アレルギー反応、または別の望ましくない免疫応答を予防または回復させるよう誘導することができる。
【0270】
「TCRの遮断」は、天然のTCR-MHC相互作用を遮断する、ペプチド-MHC複合体またはp-MHC特異的抗体を含む、任意の作用物質を指す。「MHC媒介毒素送達」は、毒物(タンパク質その他)をペプチド-MHC4量体または他のMHC多量体に共有結合させることにより、前記毒素を細胞に送達して細胞死を生じる方法を指す。
【0271】
用語「免疫原性試験」は、本明細書において使用する場合、バイオ医薬に対する潜在的免疫応答の測定を指す。バイオ医薬により、これらの安全性および有効性に影響し得る免疫応答を誘発することができる。免疫原性試験は、臨床および前臨床試験の間に液性(抗体)または細胞性(T細胞)応答を監視および評価するために利用する。通常、バイオ医薬の免疫原性を試験することは、バイオ医薬に対して特異的に生成された抗体の測定を含む。本発明の方法により、MHC分子によって効率的に提示され、T細胞に認識されて免疫応答を潜在的に誘発し得るペプチドを同定することが可能となる。これは、化合物の全体的免疫原性プロファイルの全容を提示するのに役立ち得る。
【0272】
用語「T細胞反応性」は、本明細書において使用する場合、T細胞活性化を誘発する物質の能力を指す。より詳細には、「T細胞反応性」は、T細胞の増殖またはサイトカイン産生を誘導するペプチドの能力を意味する。
【0273】
また、本発明の方法は、高スループットスクリーニングに適用し得る。高スループットスクリーニング(HTS)技術は、細胞の迅速な処理を大規模に定義するために一般に使用される。ある特定の実施形態では、複数のスクリーニングは、種々の候補ペプチドライブラリーと並行して実行し得る。高スループットスクリーニング系は、市販されており、すべての試料および試薬のピペット操作、液体分注、指定時間のインキューベーション、およびアッセイに適切な検出器(複数可)におけるマイクロプレートの最終的読取りを含む全手順が典型的に自動化されている。このような設定可能な系では、高スループットで迅速な起動ならびに高度な可撓性およびカスタマイズがもたらされる。
【0274】
用語「ペプチド」は、本明細書において使用する場合、少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意味する。一般には、共受容体のN末端に結合しているペプチドは、7アミノ酸~30アミノ酸またはこれよりも多く、特には、15~24アミノ酸の長さ、特には、7~10アミノ酸の長さで異なり得る。
【0275】
用語「抗原」は、本明細書において使用する場合、それ自体またはその部分に対する免疫応答を誘発可能なペプチドまたはタンパク質のすべてまたは部分を指す。この免疫応答は、抗体産生もしくは特異的免疫適格細胞の活性化のいずれかまたは両方を含み得る。
【0276】
用語「ライブラリー」または等価物は、本明細書において使用する場合、複数の分子を意味する。CD4、LAG-3またはCD8共受容体タンパク質に結合しているペプチドの場合、ライブラリーにより、所望の応答を示す1つまたは複数の細胞をもたらすのに確率的に十分な範囲の細胞応答をもたらすのに十分に構造的に多様なペプチドの集団がもたらされる。好ましい実施形態では、少なくとも7個、好ましくは少なくとも50個、より好ましくは少なくとも200個、および最も好ましくは少なくとも1000個のペプチドを、本発明の方法において同時に解析する。ライブラリーは、ライブラリーサイズおよび多様性を最大化するようにデザインすることができる。
【0277】
用語「組換え」は、例えば、細胞、核酸、タンパク質、またはベクターに関して使用する場合、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種核酸もしくはタンパク質の導入、または天然核酸もしくはタンパク質の変化により修飾されているか、あるいは細胞が、このように修飾された細胞に由来することを示す。したがって、例えば、組換え細胞は、天然(非組換え)細胞型に見出されない遺伝子を発現するか、またはさもなければ異常に発現するか、低発現するか、もしくは全く発現しない天然遺伝子を発現する。組換え核酸は、本来、in vitroで、一般に、例えば、ポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを使用した核酸の操作により、通常、天然には見出されない形態で形成される。この方法では、種々の配列の動作可能な連結が達成される。したがって、直鎖形態の単離核酸、または通常結合しないDNA分子のライゲーションによりin vitroで形成された発現ベクターはともに、本発明の目的のための組換えであると考えられる。組換え核酸を生成して宿主細胞または生物に再導入すると、非組換え的に、すなわち、in vitroでの操作ではなくin vivoでの宿主細胞の細胞機構を使用して複製するが、一度組換え的に生成したが、その後、非組み換え的に複製した核酸もまた、本発明の目的のための組換えであると考えられることが理解される。同様に、組換えタンパク質、例えば、本発明のMHC-ペプチド複合体は、組換え技術を使用して、すなわち、上に示すような組換え核酸の発現により生成されたタンパク質である。
【0278】
用語「異種」は、核酸の部分に関して使用する場合、核酸が、同一の相互関係において通常、天然に見出されない2つまたはこれよりも多い部分配列を含むことを示す。例えば、2つまたはこれよりも多い配列を有し、例えば、新たな機能性核酸を生成するように配列した非関連の遺伝子由来の核酸、例えば、ある供給源由来のプロモーターおよび別の供給源由来のコード領域は、典型的には、組換え的に生成する。同様に、異種タンパク質は、同一の相互関係において天然に見出されない2つまたはこれよりも多い部分配列を指すことが多い(例えば、融合タンパク質)。
【0279】
用語「がん」は、本明細書において使用する場合、急速かつ制御されない異常細胞の増殖により特徴づけられる疾患として定義する。がん細胞は、局所的に、または血流およびリンパ系を通して身体の他の部分に広がり得る。種々のがんの例としては、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん、膵臓がん、結腸直腸がん、腎臓がん、肝臓がん、脳がん、リンパ腫、白血病、肺がん等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0280】
その上、特許請求の範囲では、単語「含む」は、他の要素またはステップを除外せず、不定冠詞「a」、「an」および「the」は、文脈上明白に他に指示しない限り、複数の参照対象を含む。
【0281】
他に定義しない限り、本明細書において使用する、すべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載するものと類似または等価な方法および材料を、本発明の実施または試験において使用することができるが、適する方法および材料は、以下に記載する。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が支配する。加えて、材料、方法および実施例は、単なる例示であり、制限することは意図していない。
【0282】
本発明の特定の実施形態は、以下の実施例によってさらに例示する。しかし、本発明が、このような実施例の具体的詳細に制限されないことが理解されるべきである。以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。以下の実施例において開示する技術は、本発明の実施において十分に機能させるために本発明において使用される技術を代表し、このため、この実施に好ましい方法を構成すると考えることができることが当業者により理解されるべきである。しかし、当業者は、本開示を考慮して、開示する特定の実施形態において多くの変更が成され、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、同様または類似の結果をさらに得ることができることを理解すべきである。
【0283】
以下に提供する図は、キメラ受容体の構造を例示し、マウスにおける概念実証を提供する。本発明による方法および本明細書に記載の方法では、不偏かつ効率的方法により、T細胞の天然エピトープを同定する。これは、基礎研究および臨床適用のために有望であり、患者におけるT細胞抗原の多次元的で高スループットの個別化した同定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0284】
【
図1】
図1は、PEP4の概念実証を示す図である。a)キメラPEP4受容体の構造、およびTCRによるペプチド-MHC複合体の認識を生じる、MHCとのこの相互作用の模式図を示す。b)nur77蛍光レポーターを保有するCD4陰性T細胞ハイブリドーマは、Smarta2T細胞(gp61特異的)または2D2T細胞(NFM特異的)に由来し、gp61ペプチドを保有する、GFPおよびPEP4をコードする構築物(PEP4gp61iresGFP)を形質導入した。PEP4gp61は、ドットプロットに示すCD4特異的抗体染色により測定すると、細胞表面で効率的に発現した。c、d)Smarta2ハイブリドーマに、12~28アミノ酸の範囲のGSリンカーによりCD4またはCD3に結合しているgp61を形質導入し、C57BL/6(c、d)またはBALB/c(d)由来のBMDCとともに培養した。e)Smarta2および2D2ハイブリドーマに、gp61、OVAまたはNFMペプチドおよびGFPを保有するPEP4受容体をコードする構築物を形質導入し、C57BL/6由来のBMDCとともに培養した。c、d、e)活性化(nur77レポーターシグナル)をFACSにより測定した。ペプチドは、特異的かつMHCに限定された様式で認識され、CD4に結合しているが、CD3には結合していないペプチドのみが、MHCによって効率的に提示された。f)CD4+Smarta2またはB6T細胞を抗CD3/CD28により24時間刺激し、PEP4gp61iresGFPを形質導入し、抗CD3/CD28を取り除いて、感染後48時間にB6BMDCと数日間共培養した。グラフは、形質導入効率に対して正規化したGFP陽性(PEP4gp61を発現する)細胞の割合を示す。共培養の2日目は、形質導入後4日目に対応する。ポリクローナルB6T細胞ではなく、PEP4gp61を保有するSmarta2T細胞は、培養物中で漸進的に濃縮されたが、対照ペプチドinvNFMを形質導入した細胞においては当てはまらなかった。
【0285】
【
図2】
図2は、CD4陽性細胞の概念実証を示す図である。CD4+Sm2ハイブリドーマ細胞にpMY-CD4gp61iresGFPまたはpMY-CD4OVAiresGFPを感染させた。2日後、細胞をB6 BMDCと9時間共培養した(n=4ウェル)。抗TCR、抗CD4および抗CD69抗体による染色後、Sm2ハイブリドーマ細胞の活性化を、FACS解析によるCD69発現の決定により測定した。A)のドットプロットは、形質導入細胞におけるTCR、CD4およびGFP発現を示し、B)のヒストグラムは、PEP4-gp61もしくはPEP4-OVAを保有するTCR+CD4+GFP+細胞またはgp61形質導入によるTCR+CD4+GFP-細胞でのCD69発現を示し、C)は、CD69発現(MFI)の要約を示す。T検定の結果を示し、**=0.0019、****<0.0001である。
【実施例】
【0286】
(実施例1)
材料および方法
細胞
CD4+T細胞をC57BL/6J、Smartaおよび2D2マウスからFACSにより単離した。
【0287】
フローサイトメトリー
次の抗体:Fc遮断(抗CD16/CD32;2.4G2;所内で作製);CD4-APC(GK1.5)、CD4-PE(GK1.5)を使用した。細胞をFACSCantoIIまたはLSRFortessa(BD Biosciences)上で解析し、データをFlowJoソフトウェア(TreeStar)により解析した。
【0288】
ハイブリドーマ生成
選別したT細胞を、プラスチック結合抗CD3εおよび抗CD28抗体によってマウスIL-2の存在下で2~3日間活性化した。同数の活性化T細胞およびTCRα-β-BW5147融合パートナーを、PEG-1500を使用して融合し、限界希釈において100mMのヒポキサンチン、400nMのアミノプテリン、および16mMのチミジンの存在下(HAT)に播種した。
【0289】
PEP4およびPEP3構築物のクローニング
gp61またはNFMペプチドをコードするDNA断片を、リーダーペプチドと完全長CD4またはCD3分子の残りに接続しているGSリンカー(12~28アミノ酸の範囲)との間に挿入し、pMYsiresGFPレトロウイルスベクターにクローニングした。
【0290】
レポーター細胞株および選別した胸腺細胞のレトロウイルス形質導入
レトロウイルスを含む上清を、エコトロピックPhoenixパッケージング細胞株において生成し、レポーター細胞株および抗CD3/CD28により24時間活性化した選別細胞の感染に使用した。nur77レポーターおよびPEP4構築物による形質導入には、ハイブリドーマのCD4-バリアントを選択した。
【0291】
PEP4+およびPEP3+ハイブリドーマの骨髄由来樹状細胞による刺激
GFP+細胞は、>3倍過剰の骨髄由来樹状細胞と8~12時間共培養し、レポーター活性化をFACSにより測定した。
【0292】
結果は、図に示す。すなわち、概念実証をPEP4に基づいて示す。詳細には、キメラPEP4受容体の構造、およびTCRによるペプチド-MHC複合体の認識を生じる、MHCとのこの相互作用の模式図をパートa)に示す。図のパートb)からわかるように、nur77蛍光レポーターを保有するCD4陰性T細胞ハイブリドーマは、Smarta2T細胞(gp61特異的)または2D2T細胞(NFM特異的)に由来し、gp61ペプチドを保有する、GFPおよびPEP4をコードする構築物(PEP4gp61iresGFP)を形質導入した。PEP4gp61は、ドットプロットに示すCD4特異的抗体染色により測定すると、細胞表面で効率的に発現した。Smarta2ハイブリドーマに、12~28アミノ酸の範囲のGSリンカーによりCD4またはCD3に連結しているgp61を形質導入し、C57BL/6(c、d)またはBAL B/c(d)由来のBMDCとともに培養した。Smarta2および2D2ハイブリドーマに、gp61、OVAまたはNFMペプチドおよびGFPを保有するPEP4受容体をコードする構築物を形質導入し、C57BL/6由来のBMDCとともに培養した。c、d、e)活性化(nur77レポーターシグナル)をFACSにより測定した。
【0293】
明らかなように、ペプチドは、特異的かつMHCに限定された様式により認識され、CD4に結合しているが、CD3には結合していないペプチドのみが、MHCによって効率的に提示され得た。その上、CD4+Smarta2またはB6T細胞を抗CD3/CD28により24時間刺激し、PEP4gp61iresGFPを形質導入し、抗CD3/CD28を取り除いて、感染後48時間にB6BMDCと数日間共培養した(パートf)。グラフは、形質導入効率に対して正規化したGFP陽性(PEP4gp61を発現する)細胞の割合を示す。共培養の2日目は、形質導入後4日目に対応する。ポリクローナルB6T細胞ではなく、PEP4gp61を保有するSmarta2T細胞は、培養物中で漸進的に濃縮されたが、対照ペプチドinvNFMを形質導入した細胞においては当てはまらなかった。したがって、CD4、LAG3またはCD8共受容体および共受容体のN末端に結合しているペプチドを含むキメラ分子が、特許請求されるように、T細胞特異的抗原の同定に利用可能であることが、驚くべきかつ予想外なことに示された。
【配列表】
【国際調査報告】