(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】誘導加熱を利用して物体を成形する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
H05B 6/10 20060101AFI20220106BHJP
H05B 6/36 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H05B6/10 331
H05B6/36 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521120
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(85)【翻訳文提出日】2021-06-09
(86)【国際出願番号】 US2019057032
(87)【国際公開番号】W WO2020081998
(87)【国際公開日】2020-04-23
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517342844
【氏名又は名称】アリゾナ ボード オブ リージェンツ オン ビハーフ オブ ザ ユニバーシティー オブ アリゾナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダビラ-ペラルタ,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ハイアット,ジャスティン
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB26
3K059AB27
3K059AB28
3K059AC12
3K059AD04
3K059CD53
3K059CD62
3K059CD75
(57)【要約】
誘導加熱を用いて、事前選択された形状に被加工物パネルを成形する方法およびシステムが提供される。この方法は、被加工物パネルを、少なくとも第1の誘導コイルの近傍に、またはこれに当接させて配置することを含む。少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルが置かれている間に、事前選択された振幅と周波数を有する交流(AC)を少なくとも第1の誘導コイルに通すことができる。AC電流によって生成された交番電磁場が、被加工物パネルに渦電流を生じることができ、被加工物パネルは、事前選択された成形条件のもとに置かれている間、事前選択された時間の間、事前選択された温度に加熱することができ、それによって被加工物パネルは、事前選択された形状を獲得する。また、交番電磁場は、コイルと被加工物パネルの間に反発する電磁力を生み出すことができ、これは成形条件となり得る。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱を用いて、事前選択された形状に被加工物パネルを成形する方法であって:
事前選択された材料を含む被加工物パネルを、少なくとも第1の誘導コイルの近傍に、またはこれに当接させて配置することと;
少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに前記被加工物パネルを置くことと;
交流(AC)電源を用いて、事前選択された振幅および周波数を有する第1のAC電流を発生させることと;
前記少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに前記被加工物パネルが置かれている間に、前記事前選択された振幅および周波数を有する第1のAC電流を少なくとも第1の誘導コイルに通して、前記第1の誘導コイルに第1の交番電磁場を生成させ、この電磁場が前記被加工物パネルに渦電流を生成し、この渦電流が、事前選択された時間の間、事前選択された温度に前記被加工物パネルを加熱することと、
を含み、前記少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに前記被加工物パネルが置かれている間、前記事前選択された時間の間、前記事前選択された温度に前記被加工物パネルを加熱することで、前記事前選択された形状を前記被加工物パネルが獲得する方法。
【請求項2】
前記被加工物パネルが金属材料から作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被加工物パネルが、内部に磁性粒子を配置させた非金属材料から作られる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記被加工物パネルが形状を変化させて前記事前選択された形状を獲得する間、前記事前選択された材料の融点以下の温度に前記被加工物パネルを加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記AC電流の周波数を前記事前選択された周波数に設定することにより、前記被加工物パネルの誘導加熱の表皮深さを制御する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの事前選択された成形条件が、前記被加工物パネルを少なくとも第1のモールド表面に接触させて置くことで、前記事前選択された形状を獲得することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも第1のモールド表面が、剛性で不変の形状を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも第1のモールド表面が、前記被加工物パネルに対して相対的なそれぞれの調整可能な位置および配向を有する複数の区画を含むことで、前記事前選択された形状を前記被加工物パネルが獲得する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記被加工物パネルが金属シートであり、前記少なくとも第1の誘導コイルが、前記金属シートを取り囲む複数の誘導コイルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の誘導コイルが、前記金属シートと、前記少なくとも第1のモールド表面とを取り囲む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記誘導コイルが、前記金属シートを取り囲んでおり、前記少なくとも第1のモールド表面を貫通することで前記コイルと前記金属シートとの間の距離を低減させる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも第1の誘導コイルが、平坦な渦巻き状、またはパンケーキ状の幾何学的形状を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも第1の誘導コイルが、前記被加工物パネルの少なくとも第1の側の近傍に、またはこれに当接させて配置された、配列にした複数の誘導コイルを含み、前記事前選択された時間の間、前記事前選択された温度に誘導を介して前記被加工物パネルの前記少なくとも第1の側を加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記被加工物パネルの少なくとも第1の側の近傍に、またこれに当接させて、前記配列の少なくとも1つの誘導コイルが配置され、少なくとも第2の側の近傍に、またはこれに当接させて、前記配列の少なくとも1つの誘導コイルが配置されて、前記事前選択された時間の間、前記事前選択された温度に誘導を介して前記被加工物パネルの前記少なくとも第1および第2の側を加熱する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも第1の誘導コイルが、少なくとも第1のモールド表面に実質的に埋設されている、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも第1の誘導コイルが、少なくとも第1および第2の誘導コイルを含み、前記被加工物パネルの第1および第2の部分が、前記第1および第2の誘導コイルの近傍に、またはこれらに当接させてそれぞれ配置される、請求項1に記載の方法であって:
前記第1および第2の誘導コイルを独立に制御することにより、前記第1および第2の誘導コイルの事前選択された振幅および事前選択された周波数を独立に設定して、前記第1および第2の誘導コイルによる前記被加工物パネルの前記第1および第2の部分の誘導加熱をそれぞれ独立に制御することを含む方法。
【請求項17】
前記被加工物パネルの第1および第2の部分が、前記第1および第2の誘導コイルによって、異なるスピードでおよび/または異なる温度にそれぞれ加熱される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記被加工物パネルの配置および配向と、前記少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに前記被加工物パネルを置くこととが、加熱中に前記被加工物パネルに及ぼされる重力の力、および加熱中に前記被加工物パネルに及ぼされる電磁場の力の少なくとも一方に起因して前記被加工物パネルが垂下することで、前記選択された形状を前記被加工物パネルが獲得するようにするものであり、前記電磁場の力を、前記振幅および前記周波数を修正することにより制御して、事前設定された温度に前記被加工物パネルを加熱した後に前記電磁場の力を増加させることができる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの事前選択された成形条件が、前記被加工物パネル上の1つまたは複数の点で前記被加工物パネルを少なくとも支持することを含み、少なくとも1つの事前選択された成形条件に起因して、前記1つまたは複数の点同士の間で前記被加工物パネルが垂下することで、前記事前選択された形状を前記被加工物パネルが獲得する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
加熱中に前記被加工物パネルの少なくとも部分の形状を測定して、少なくとも第1の形状変形測定結果を得ることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の形状変形測定結果に少なくとも部分的に基づいて、前記事前選択された周波数および/または振幅および/または少なくとも前記第1の誘導コイルの位置または配向を調整して、前記交番電磁場の強度を調整することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記被加工物パネルが、少なくとも第1のリブが取り付けられた、実質的に平坦であって誘導加熱中に変形する金属シートである、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも第1の誘導コイルが、少なくとも第1および第2の誘導コイルを含み、前記第1の誘導コイルが、前記実質的に平坦な金属シートの第1の表面を誘導加熱し、前記第2の誘導コイルが、前記第1のリブを誘導加熱する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第1および第2の誘導コイルを独立に制御することにより、前記第1および第2の誘導コイルの前記事前選択された振幅および前記事前選択された周波数を独立に設定して、前記実質的に平坦な金属シートの第1の表面と前記第1のリブとの誘導加熱を独立に制御することをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の表面および前記第1のリブが、前記第1および第2の誘導コイルによって、異なるスピードでそれぞれ加熱される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記被加工物パネルの配置および配向と、前記少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに前記被加工物パネルを置くこととが、加熱中に前記被加工物パネルに及ぼされる重力の力に起因して前記被加工物パネルの少なくとも一部分が垂下することで、前記選択された形状を前記被加工物パネルが獲得するようにするものであり、前記被加工物パネルの前記一部分が垂下するにつれ、少なくとも前記第1の誘導コイルが移動して、前記被加工物パネルの変化する形状に追従する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の誘導コイルの移動が受動的である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の誘導コイルの移動が能動的である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記少なくとも第1の誘導コイルの少なくとも1つの誘導コイルの形状が、前記被加工物パネルの前記少なくとも一部分が垂下するにつれて変化する、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記被加工物パネルの誘導加熱中に、前記少なくとも第1の誘導コイルの少なくとも1つの誘導コイルを能動的に移動させて、前記少なくとも1つの誘導コイルによって生成される前記交番電磁場の局所的な強度を変化させることにより、前記少なくとも1つの誘導コイルが前記被加工物パネルを加熱するおよび/またはこれに力を及ぼすスピードを変化させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記少なくとも第1の誘導コイルに前記AC電流を通しつつ、前記少なくとも第1の誘導コイルに流体を通して、前記少なくとも第1の誘導コイルの温度を制御することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
筐体の中で実行されて、対流、輻射、およびその他の熱損失を制限する、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記被加工物パネルが金属パネルであり、前記交番電磁場が前記金属パネルに交番電場を生み出し、次に、前記少なくとも第1の誘導コイルによって生み出された交番電磁場に対して反対の電磁場を生み出すことで、前記コイルと前記被加工物パネルとの間に反発力が生じ、前記反発力が、前記事前選択された形状を獲得する前記金属パネルに寄与する、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つの事前選択された成形条件が、前記事前選択された形状を獲得する前記被加工物パネルに寄与する機械的な力を、前記被加工物パネルに印加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つの事前選択された成形条件が、前記被加工物パネルの誘導加熱中に、所定の方法で前記被加工物パネルの少なくとも第1の表面に少なくとも第1のモールド表面を接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記少なくとも1つの事前選択された成形条件が、前記被加工物パネルの加熱中に、前記少なくとも第1の誘導コイルと、前記被加工物パネルおよび前記被加工物パネルと接触するモールドの少なくとも一方との間で、相対的な回転または並進の動きを生み出して、前記被加工物パネル内に実質的に制御された熱分布を獲得することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
加熱前、加熱中、または加熱後に前記被加工物パネルを事前選択されたガスにさらすことで、前記被加工物パネルを周囲条件から隔離する、または前記被加工物パネルに1つまたは複数のコーティングまたは層を堆積させる、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
誘導加熱を用いて、事前選択された形状に被加工物パネルを成形するシステムであって:
少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに前記被加工物パネルが置かれている間に、事前選択された材料を含む被加工物パネルを少なくとも第1の誘導コイルの近傍、またはこれに当接させて所定の位置および配向に保持するホルダと;
事前選択された振幅および周波数を有する第1の交流(AC)を発生させる少なくとも第1のAC電流源と;
前記AC電流源に電気的に結合された少なくとも第1の誘導コイルであって、前記少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに前記被加工物パネルが置かれている間、前記第1のAC電流が前記第1の誘導コイルに通されて、前記第1の誘導コイルに第1の交番電磁場を生成させ、この電磁場が、前記被加工物パネルに渦電流を生成し、この渦電流が、前記選択された時間の間、前記選択された温度に前記被加工物パネルを加熱する誘導コイルと、
を含み、前記少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに前記被加工物パネルが置かれている間、前記事前選択された時間の間、前記事前選択された温度に前記被加工物パネルを加熱することで、前記選択された形状を前記被加工物パネルが獲得するシステム。
【請求項39】
前記少なくとも第1の誘導コイルが、配列にした誘導コイルを含む、請求項38に記載のシステム。
【請求項40】
前記少なくとも第1の誘導コイルの事前選択された振幅および周波数を設定するように構成される制御装置をさらに含む、請求項38に記載のシステム。
【請求項41】
前記制御装置によって制御される1つまたは複数のアクチュエータツールであって、前記制御装置によって制御されて、前記少なくとも第1の誘導コイルと前記被加工物パネルのうちの少なくとも1つに動きを付与することのできるアクチュエータツールをさらに含む、請求項40に記載のシステム。
【請求項42】
前記制御装置と通信する1つまたは複数の測定ツールであって、前記被加工物パネルの誘導加熱中に、前記少なくとも1つの事前選択された成形条件に関連する1つまたは複数の態様を測定し、その測定結果を前記制御装置に通信し、前記制御装置が、前記測定結果に基づいて、前記少なくとも1つまたは複数のアクチュエータツールおよび前記少なくとも第1のAC電流源を制御することができる測定ツールをさらに含む、請求項41に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月19日に出願された米国仮出願第62/747,892号の優先権およびその利益を主張するものであり、この仮出願はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、誘導加熱および電磁力を用いて物体を成形する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
成形された金属シートまたはパネルが、様々な目的に使用されている。例えば、成形された金属パネルを使用して、電波望遠鏡またはアンテナを作ることが多い。典型的には、そのようなアンテナ皿は、多くの異なる表面形状のパネル区分から製造されている。そうしたパネルは、製造が困難でコストがかさむ場合があり、異なる形状に成形される各パネルは、異なる形状のモールドから複製されている。このようなパネルを製造する最先端の工程には、スピニング加工、コールドスタンプ加工、ホットスタンプ加工、および機械加工が含まれる。
【0004】
そうした湾曲した金属パネルの機械加工は、高い精度を実現できるが、時間がかかる場合があり、除去された材料が無駄になる可能性もある。スピニング加工とスタンプ加工は典型的には、微細スケールの表面精度にまでモールドを機械加工して作られたモールドを使用する必要があり、これは時間がかかる場合がある。コールドスタンプ加工では、低温の金属を成形するために比較的大きな力が必要である。これらの負荷のもとで形状精度を維持するには、剛性の大きなモールドが肉厚である必要がある。ホットスタンプ加工では、ブランクの被加工物パネルを予熱し、次いで、高温でさらに柔らかくなったブランクの被加工物をスタンプ加工する必要がある。このような加熱は、輻射式および/または対流式オーブンを用いて行われることが多い。
【0005】
対流/輻射モールド成形工程の問題点の1つは、被加工物が形成温度に達する前に、加熱炉だけでなくその壁、モールド、コンベア、および周囲空気を加熱する必要があることである。このため、この工程は遅く、実行には非効率である。また、輻射式/対流式オーブンは本来、等温加熱になる傾向があるため、被加工物の特定の領域を異なる温度に加熱することが難しいことから、この工程は、複雑な幾何学的形状のパネル、例えばリブ付きパネルの形成にはそれほど適してはいない。また、計算機調整可能なモールドを高温で使用することは困難であるが、これは、モールドの表面が高温でなければならない一方で、モールドを調整する電子アクチュエータははるかに低い温度で維持する必要があり、複雑で高価な断熱用および冷却用の構成が必要となるからである。
【0006】
現在、様々な最新の金属加工工程では、成形される被加工物の予熱に誘導を使用している。誘導コイルと被加工物の間に発生する反発性の電磁力は概して、これに対する耐性がなくてはならない、またはこれを回避しなければならないという困難な点であると見なされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の原理および概念は、事前選択(事前に選択)された形状に被加工物パネルを成形しつつ誘導加熱を使用する方法およびシステムを対象としている。代表的な実施形態に準拠すれば、本方法は:事前選択された材料を含む被加工物パネルを、少なくとも第1の誘導コイルの近傍に、またはこれに当接させて配置することと;少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルを置くことと;交流(AC)源を使用して、事前選択された振幅および周波数を有する第1のAC電流を発生させることと;事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルが置かれている間、少なくとも第1の誘導コイルに、事前選択された振幅および周波数を有する第1のAC電流を通すことにより、第1の誘導コイルに第1の交番電磁場を生成させ、この電磁場が被加工物パネルに渦電流を生成して、事前選択された時間の間、事前選択された温度に被加工物パネルを加熱することと、を含む。渦電流は、コイルが生み出す電磁場に対して反対のそれ自体の電磁場を生み出して、パネルを成形するのに使用される反発力を及ぼす。被加工物が誘導コイルから離れるように押圧され、よって事前選択された成形条件のもとに置かれている間、事前選択された時間の間、事前選択された温度に被加工物パネルを加熱することで、事前選択された形状を被加工物パネルが獲得する。
【0008】
代表的な実施形態に準拠すれば、システムは、ホルダと、AC電流源と、少なくとも第1の誘導コイルとを含む。このシステムのホルダは、事前選択された材料を含む被加工物パネルを、少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルが置かれている間、第1の誘導コイルの近傍に、またはこれに当接させて所定の位置および配向に保持する。AC電流源は、第1の誘導コイルに電気的に結合されている。AC電流源は、事前選択された振幅および周波数を有する少なくとも第1のAC電流を発生させる。AC電流は、事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルが置かれている間、誘導コイルに通されることで、誘導コイルが第1の交番電磁場を生成し、この電磁場が、被加工物パネルに渦電流を生成し、この渦電流が、事前選択された時間の間、事前選択された温度に被加工物パネルを加熱する。被加工物パネルに誘起された渦電流は、誘導コイルが生み出す電磁場に対して反対のそれ自体の電磁場を生み出し、被加工物パネルに及ぼす反発力を生み出す。事前選択された成形条件に被加工物パネルが置かれている間、事前選択された時間の間、事前選択された温度に被加工物パネルを加熱することで、事前選択された形状を被加工物パネルが獲得する。
【0009】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルは、金属材料から作られる。
【0010】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルは、内部に磁性粒子を配置させた非金属材料から作られる。
【0011】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルは、被加工物パネルが形状を変化させて、事前選択された形状を獲得しようとする間、事前選択された材料の融点を下回る温度に加熱される。
【0012】
代表的な実施形態に準拠すれば、AC電流の周波数を、事前選択された周波数に設定することにより、被加工物パネルにおける誘導加熱の表皮深さを制御する。
【0013】
代表的な実施形態に準拠すれば、事前選択された成形条件は、少なくとも第1のモールド表面に被加工物パネルを接触させて、事前選択された形状を獲得させることを含む。代表的な実施形態に準拠すれば、第1のモールド表面は、剛性で不変の形状を含む。代表的な実施形態に準拠すれば、第1のモールド表面は、前記被加工物パネルに対して相対的なそれぞれの調整可能な位置および配向を有する複数の区画を含むことにより、前記事前選択された形状を前記被加工物パネルに獲得させる。
【0014】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルは金属シートであり、金属シートを取り囲む複数の誘導コイルが存在する。代表的な実施形態に準拠すれば、誘導コイルは、金属シートと、少なくとも第1のモールド表面とを取り囲む。代表的な実施形態に準拠すれば、誘導コイルは、金属シートを取り囲んでおり、少なくとも第1のモールド表面を貫通することでコイルと金属シートとの間の距離を低減させる。
【0015】
代表的な実施形態に準拠すれば、少なくとも第1の誘導コイルは、実質的に平坦な渦巻き状、またはパンケーキ状の幾何学的形状を有する。
【0016】
代表的な実施形態に準拠すれば、配列にした複数の誘導コイルが、被加工物パネルの少なくとも第1の側の近傍に、またはこれに当接させて配置されて、事前選択された時間の間、事前選択された温度に誘導を介して被加工物パネルの少なくとも第1の側を加熱する。代表的な実施形態に準拠すれば、配列の少なくとも1つの誘導コイルが、被加工物パネルの少なくとも第1の側の近傍に、またはこれに当接させて配置され、配列の少なくとも1つの誘導コイルが、少なくとも第2の側の近傍に、またはこれに当接させて配置されて、事前選択された時間の間、事前選択された温度に誘導を介して被加工物パネルの少なくとも第1および第2の側を加熱する。
【0017】
代表的な実施形態に準拠すれば、少なくとも第1の誘導コイルは、少なくとも第1のモールド表面に実質的に埋設されている。
【0018】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルの少なくとも第1および第2の部分が、それぞれ第1および第2の誘導コイルの近傍に、またはこれらに当接させて配置され、誘導コイルは独立に制御されることにより、第1および第2の誘導コイルの事前選択された振幅および事前選択された周波数を独立に設定して、第1および第2の誘導コイルによる被加工物パネルの第1および第2の部分の誘導加熱を、それぞれ独立に制御する。代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルの第1および第2の部分は、第1および第2の誘導コイルによって、異なるスピードでそれぞれ加熱される。
【0019】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルの配置および配向と、事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルを置くこととは、加熱中に被加工物パネルに及ぼされる重力の力、およびコイルと被加工物パネルとの間の交番電磁場の力の少なくとも一方に起因して被加工物パネルが垂下することで、事前選択された形状を被加工物パネルが獲得するようにするものである。
【0020】
代表的な実施形態に準拠すれば、事前選択された成形条件は、被加工物パネルを被加工物パネル上の1つまたは複数の点で少なくとも支持することを含み、加熱中に被加工物パネルに及ぼされる事前選択された成形条件の力に起因して被加工物パネルがそれらの点の間で垂下することで、事前選択された形状を被加工物パネルが獲得するようにするものである。
【0021】
代表的な実施形態に準拠すれば、本方法は、加熱中に被加工物パネルの少なくとも一部分の形状または変位を測定して、少なくとも第1の形状変形測定結果を得ることをさらに含む。代表的な実施形態に準拠すれば、本方法は、第1の形状変形測定結果に少なくとも部分的に基づいて、事前選択された、周波数および/または、振幅および/または、コイルと被加工物との間の距離のうちの少なくとも1つを調整することによって、交番電磁場の強度を調整することをさらに含む。
【0022】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルは、実質的に平坦な金属シートであり、このシートは、そこに取り付けられて誘導加熱中に変形する少なくとも第1および第2のリブを有する。代表的な実施形態に準拠すれば、少なくとも第1の誘導コイルが、実質的に平坦な金属シートの第1の表面を誘導加熱し、第2および第3の誘導コイルが、第1および第2のリブをそれぞれ誘導加熱する。代表的な実施形態に準拠すれば、本方法は、第1、第2、および第3の誘導コイルを独立に制御し、それによって第1、第2、および第3の誘導コイルの事前選択された振幅および事前選択された周波数を独立に設定して、実質的に平坦な金属シートの第1の表面と、第1および第2のリブとの誘導加熱を独立に制御することをさらに含む。代表的な実施形態に準拠すれば、第1および第2のリブは、第1および第2の誘導コイルによって、異なるスピードでそれぞれ加熱される。
【0023】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルの配置および配向と、前記少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルを置くこととは、加熱中に被加工物パネルに及ぼされる重力の力に起因して被加工物パネルの少なくとも一部分が垂下することで、事前選択された形状を被加工物パネルが獲得するようにするものである。
【0024】
代表的な実施形態に準拠すれば、少なくとも第1の誘導コイルは、誘導加熱中に被加工物パネルの一部分が変形するにつれ移動して、被加工物パネルの変化する形状に追従する。一実施形態に準拠すれば、第1の誘導コイルの移動は受動的である。一実施形態によれば、第1の誘導コイルの移動は能動的である。
【0025】
代表的な実施形態に準拠すれば、少なくとも1つの誘導コイルの形状が、被加工物パネルの一部分が垂下するにつれて変化する。
【0026】
代表的な実施形態に準拠すれば、少なくとも1つの誘導コイルが、被加工物パネルの誘導加熱中に能動的に移動して、誘導コイルによって生成される交番電磁場の局所的な強度を変化させ、それによって、被加工物パネルの一部分を誘導コイルが加熱するスピードを変化させる。
【0027】
代表的な実施形態に準拠すれば、本方法は、第1の誘導コイルにAC電流を通しつつ、少なくとも第1の誘導コイルに流体を通すことで、第1の誘導コイルの温度を制御することをさらに含む。
【0028】
代表的な実施形態に準拠すれば、本方法は、筐体の中で実行されて、対流、輻射、およびその他の熱損失を制限する。
【0029】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルを気体にさらすことで、周囲条件からパネルを隔離してもよい。実例としては、被加工物パネルに窒素をポンプ輸送して、被加工物パネルの酸化を防いでもよい。また、気体は、被加工物パネルにポンプ輸送してもよいし、ポンプ輸送により、例えば、保護コーティングなどの材料の層を被加工物パネルに堆積させてもよい。
【0030】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルは金属パネルであり、交番電磁場は、第1の誘導コイルによって生み出された交番電磁場に対して反対の交番電磁場を金属パネル内に生み出して、被加工物パネルをコイルから反発させる力を生み出すことで、事前選択された形状を金属パネルが獲得することに寄与する。
【0031】
代表的な実施形態に準拠すれば、事前選択された成形条件は、事前選択された形状を獲得する被加工物パネルに寄与する機械的な力を、被加工物パネルに印加することを含む。
【0032】
代表的な実施形態に準拠すれば、事前選択された成形条件は、被加工物パネルの誘導加熱中に、少なくとも第1のモールド表面を所定のやり方で移動させて、被加工物パネルの少なくとも第1の表面と接触させることを含む。
【0033】
代表的な実施形態に準拠すれば、事前選択された成形条件は、被加工物パネルの少なくとも第1の表面の最上部に第1の重りを配置して、事前選択された形状を獲得する金属パネルに第1の重量が寄与するようにさせることを少なくとも含む。重りは、被加工物パネルの変化する形状に適合するように軟質であってもよい。
【0034】
代表的な実施形態に準拠すれば、事前選択された成形条件は、少なくとも第1の誘導コイルと被加工物パネルとの間で、相対的な回転または並進の動きを生み出して、制御された熱分布を被加工物パネル内に実質的に獲得することを含む。代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルとモールド表面の両方が、誘導コイルを基準にして回転していて、被加工物パネル内の熱の均等な分布を確実なものとする。
【0035】
代表的な実施形態に準拠すれば、本システムは、前記少なくとも第1の誘導コイルの事前選択された振幅および周波数を設定するように構成される制御装置をさらに含む。
【0036】
代表的な実施形態に準拠すれば、システムは、1つまたは複数のアクチュエータツールをさらに含んでおり、ツールは、制御装置によって制御することができて、第1の誘導コイルおよび被加工物パネルのうちの少なくとも1つに動きを与える。
【0037】
代表的な実施形態に準拠すれば、システムは、制御装置と通信する1つまたは複数の測定ツールをさらに含む。1つまたは複数の測定ツールは、被加工物パネルの誘導加熱中に、事前選択された成形条件に関連する1つまたは複数の態様を測定し、その測定結果を制御装置に通信する。制御装置は、測定結果に基づいて、アクチュエータツールおよびAC電流源を制御することができる。本発明の概念および原理に準拠する方法およびシステムの、これらのそしてその他の特徴と利点を、以下に詳細に記載する。
【0038】
例示的な実施形態は、添付の図面と併せて以下の詳細な記載を読むと、最もよく理解される。様々な特徴は、必ずしも縮尺通りに描かれていないことを強調しておく。実際には、考察を明確にするために、寸法を任意に増加または減少させてある場合がある。該当する、そして実際のどんな場合でも、同様の参照符号は同様の構成要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1A】
図1Aは、代表的な実施形態に準拠する、誘導加熱を用いてパネルを成形するシステムのブロック図である。
【
図1C】
図1Cは、被加工物パネル内を流れる渦電流によって生み出される電磁反発力を図示する、
図1Bに示すシステムの一部分の斜視図である。
【
図2】
図2は、代表的な実施形態に準拠する、誘導加熱を実行してパネルを成形する方法を表す流れ図である。
【
図3A】
図3Aに、精密な形状のモールドの上に配置された平坦な金属製の被加工物パネルであって、その最上部表面の近傍に、またはこれに当接させて配置された誘導コイルを有する被加工物パネルを示す。
【
図3B】
図3Bに、
図3Aに示した被加工物パネルおよび誘導コイルの、誘導加熱工程の前後の側面図をそれぞれ示す。
【
図3C】
図3Cでは、誘導コイルは、変形する被加工物パネルに追従するようにその形状を変化させている。
【
図4】
図4Aおよび
図4Bに、誘導コイルが被加工物パネルおよびモールドを取り囲んでいる場合の実施形態に準拠する、被加工物パネル、モールド、および誘導コイルの斜視図および側面図をそれぞれ示す。
【
図5】
図5に、誘導コイルが被加工物パネルを取り囲み、モールドを貫通している場合の実施形態に準拠する、被加工物パネル、モールド、および誘導コイルの斜視図を示す。
【
図6】
図6は、複数の誘導コイルが、被加工物パネルの少なくとも最上部側の近傍に、またはこれに当接させて配置されて、誘導によって被加工物パネルの少なくとも第1の側を加熱する場合の実施形態に準拠する、被加工物パネル、モールド、および配列にした誘導コイルの斜視図である。
【
図7】
図7は、1つまたは複数の誘導コイルが、被加工物パネルの少なくとも最上部側の近傍に、またはこれに当接させて配置され、1つまたは複数の誘導コイルが、被加工物パネルのその他の少なくとも1つの側の近傍に、またはこれに当接させて配置される場合の実施形態に準拠する、被加工物パネル、モールド、および配列にした誘導コイルの斜視図である。
【
図8A】
図8Aに、例えば平坦な部分やリブなどの被加工物パネルの特定の特徴を加熱するように特定の誘導コイルが設計される場合の実施形態に準拠する、被加工物パネル、モールド、および被加工物パネルの表面のそれぞれの部分を加熱する複数の誘導コイルの側面図を示す。
【
図8B】
図8Bに、
図8Aに示す被加工物パネル、モールド、および複数の誘導コイルの上面図を示す。
【
図9】
図9に、
図3A、5、および8A~8Cに示す実施形態の様々な態様を組み合わせる実施形態であって、モールドに埋設された渦巻き形状の誘導コイルが被加工物パネルを加熱している間、別個の誘導コイルを使用して、被加工物パネルの最上部表面に配置されたそれぞれのリブを加熱する場合の誘導加熱配置を提供する実施形態を示す。
【
図10】
図10Aおよび
図10Bに、本明細書に記載された誘導加熱工程を用いた成形の前後のリブ付き被加工物パネルの斜視図をそれぞれ例示する。
【
図11】
図11に、被加工物パネルおよびモールドに隣接して、またはこれに接触してそれぞれ配置された第1および第2のらせん誘導コイルを含む、代表的な実施形態に準拠する誘導加熱配置の斜視図を示す。
【
図12】
図12に、被加工物パネルおよびモールドに隣接して、またはこれに接触してそれぞれ配置された第1および第2の渦巻き状誘導コイルを含む、代表的な実施形態に準拠する誘導加熱配置の斜視図を示す。
【
図13】
図13に、被加工物パネルおよびモールドに隣接して、またはこれに接触してそれぞれ配置された第1および第2のらせん状誘導コイルを含む、代表的な実施形態に準拠する誘導加熱配置の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の原理および概念は、誘導加熱を用いて、事前選択された形状に被加工物パネルを成形する方法およびシステムを対象とする。代表的な実施形態に準拠すれば、本方法は、事前選択された材料を含む被加工物パネルを、少なくとも第1の誘導コイルの近傍に、またはこれに当接させて、事前選択された向きで事前選択された位置に配置および配向させることと、少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルを置くことと、AC電流源を使用して、事前選択された振幅および周波数を有する第1のAC電流を発生させることと、事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルが置かれている間、第1のAC電流を誘導コイルに通すことと、を含む。第1の誘導コイルに第1のAC電流を通すと、第1の誘導コイルに第1の交番電磁場が生成され、この電磁場が被加工物パネルに交番(渦)電流を誘導し、この電流が、事前設定された時間の間、事前選択された温度に被加工物パネルを加熱する。渦電流は、誘導コイルに流れる電流が生み出す電磁場に対して反対のそれ自体の電磁場を生み出し、よって被加工物をモールドに押圧する反発力を生み出す。被加工物パネルは、事前選択された成形条件のもとに置かれ、これにより、事前選択された形状を獲得する。いくつかの実施形態では、事前選択された成形条件は、被加工物パネルに流れる渦電流によって生み出される反発力だけから構成され、この力によって被加工物パネルがモールドに押圧される。
【0041】
代表的な実施形態に準拠すれば、システムは、ホルダと、少なくとも第1のAC電流源と、少なくとも第1の誘導コイルとを含む。システムのホルダは、少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルが置かれている間、被加工物パネルを誘導コイルの近傍に、またはこれに当接させて、事前選択された位置および配向に保持する。AC電流源は、誘導コイルに電気的に結合される。AC電流源は、事前選択された振幅および周波数を有する少なくとも第1のAC電流を発生させる。AC電流は、事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルが置かれている間、誘導コイルに通されることで、誘導コイルに第1の交番電磁場を生成させ、この電磁場が被加工物パネルに渦電流を生成し、この渦電流が、事前選択された時間の間、事前選択された温度に被加工物パネルを加熱する。事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルが置かれている間、事前選択された時間の間、事前選択された温度に被加工物パネルを加熱することで、事前選択された形状を被加工物パネルが獲得する。
【0042】
本発明の原理および概念に準拠する方法およびシステムは、シートおよびパネルを成形するのに現在使用されている工程に関連する前述の問題を克服する。第一に、本発明の原理と概念に準拠する誘導加熱は、熱成形、スランプ加工、またはサギング加工を実行するのに使用して、事前選択された形状にパネルを成形することができ、現在のスランプ加工またはホットスタンプ加工の工程で必要とされるような、加熱炉、その壁、周囲空気、またはモールドの加熱は必要でない。これにより、工程の高速化とコスト削減が可能になる。第二に、本発明の原理と概念に準拠する誘導加熱は正確に制御されて、被加工物パネルを均一に加熱したり、または、正確に制御された温度勾配が被加工物パネルに存在するようにしたりすることができる。後者の特徴により、この工程は、複雑な幾何学的形状のパネル、例えばリブ付きパネルなどを形成するのに適したものとなる。また、被加工物パネルのより変形させなければならない部分をより高い温度に加熱し、比較的平坦な状態を保つことになる部分を比較的低い温度のままにすることができる。
【0043】
以下、誘導加熱を使用して物体を形成するシステムおよび方法のいくつかの代表的な実施形態について、
図1A~13を参照しつつ説明するが、これらの図では、同様の参照符号は同様の構成成分、構成要素、または特徴を表す。図中の特徴、構成要素、または構成成分を、縮尺に合わせて描くことは意図されておらず、むしろ本発明の原理と概念を示すことに重点が置かれていることに留意するのが望ましい。また、本発明の原理および概念は、本明細書に記載の代表的な実施形態に限定されるものではないことに留意するのが望ましく、これは、本明細書に与えられた記載に鑑みて、当業者には理解されるであろう。
【0044】
以下の詳細な記載では、限定ではなく説明を目的とし、具体的な詳細を開示する例示的なまたは代表的な実施形態を記載して、本発明の原理および概念の完全な理解を提供する。しかし、本開示の利益を有する当業者にとっては、本明細書で明示的には説明または示されていない本教示による他の実施形態が、添付の特許請求の範囲の範囲にあることは明らかとなろう。さらに、例示的な実施形態の記載があいまいにならないように、周知の装置および方法の記載が省略されている場合もある。そのような方法および装置は、明らかに本教示の範囲内であり、当業者には理解されるであろう。また、本明細書で使用される「例」という単語は、本質的に非排除的かつ非限定的であることを意図していると理解されるのが望ましい。
【0045】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態だけを記載する目的で使用されており、限定することを意図するものではない。定義された用語は、関連する文脈において一般的に理解され受け入れられている、定義された用語の技術的、科学的、または通常の意味に追加されるものである。
【0046】
「a」、「an」、および「the」という用語は、文脈が別途明らかに指示していない限り、単数および複数の参照対象を含む。したがって、例えば、「装置(a device)」は、1つの装置および複数の装置を含む。「実質的な」または「実質的に」という用語は、当業者に許容される許容限界または程度の範囲内にあることを意味する。例えば、「に対して実質的に平行」という用語は、構造や装置を作る工程での公差や不完全さに起因して、その構造物や装置が他の構造物や装置に対して完全に平行には作られない場合があることを意味する。「近似的に」という用語は、当業者に許容できる限界または量の範囲内にあることを意味する。相対的な用語、例えば「の上方(over)」、「の上(above)」、「の下方(below)」、「最上部(top)」、「最下部(bottom)」、「上部(upper)」、「下部(lower)」は、様々な構成要素の互いの関係を記載するのに使用される場合があり、これは添付図面に例示されるとおりである。これらの相対的な用語は、図面に描かれている配向に加えて、装置および/または構成要素の異なる配向を包含することを意図している。例えば、装置を諸図面の図に対して反転させた場合には、例えば、ある構成要素であって、別の構成要素「の上方」と記載されているものは、今度はその構成要素の下方になる。
【0047】
様々な構成要素の互いの関係を説明するために、相対的な用語が使用される場合があり、これは添付図面に例示されているとおりである。これらの相対的な用語は、図面に描かれている配向に加えて、装置および/または構成要素の異なる配向を包含することを意図している。
【0048】
「メモリ」または「メモリ装置」という用語は、本明細書でそれらの用語が使用されるさいには、1つまたは複数のプロセッサによる実行のための計算機命令、または計算機コードを記憶することができる非一過性の計算機可読記憶媒体を示すことが意図されている。本明細書で「メモリ」または「メモリ装置」を指す場合は、1つまたは複数のメモリまたはメモリ装置として解釈されることが望ましい。メモリは、例えば、同じ計算機システム内の複数のメモリであってもよい。また、メモリは、複数の計算機システムまたは計算装置どうしの間に分散された複数のメモリであってもよい。
【0049】
「プロセッサ」または「処理装置」は、本明細書でそれらの用語が使用されるさいには、計算機プログラムまたは実行可能な計算機命令を実行することができる電子部品を包含する。本明細書で、「プロセッサ」または「処理装置」を含むシステムを指す場合は、1つまたは複数のプロセッサまたは処理コアを有するシステムとして解釈されるのが望ましい。プロセッサは、実例としては、マルチコアプロセッサであってもよい。また、プロセッサは、単一の計算機システム内のプロセッサの集合体、または複数の計算機システムどうしの間に分散されたプロセッサの集合体を指す場合がある。「計算機」という用語は、本明細書で使用されるさいには、単一の計算機もしくは計算装置、またはそれぞれがプロセッサを含む計算機もしくは計算装置の集合体もしくはネットワークを指す場合があると解釈されるのが望ましい。計算機プログラムの命令は、単一の計算機もしくはプロセッサによって、または、同じ計算機内にあるか、もしくは複数の計算機にわたって分散されている複数のプロセッサによって、実行することができる。
【0050】
「コイル」は、本明細書で使用されるさいには、電磁場を誘導するのに使用される電気伝導体を包含する。当業者には理解されるとおり、コイルは、平坦であっても、らせん状であっても、または、特定の被加工物に特定の渦電流を誘導するように設計されたさらに複雑な形状を有していてもよい。本明細書の記載は、コイルの形状または構成を、本明細書に記載されるまたは図に示されるものに限定すると意図されるものではない。
【0051】
図1Aは、代表的な実施形態に準拠する、誘導加熱を用いてパネルを成形するシステム1のブロック図である。
図1Bは、一実施形態に準拠する
図1Aに示すシステム1のレイアウト例の斜視図である。
図1Cは、
図1Bに示されるシステムの一部分の斜視図であって、被加工物パネルに流れる渦電流によって生み出される反発力を図示するものであり、反発力は、誘導コイルに流れるAC電流に付随する電磁場によって生み出される。
図1Aを参照すると、システム1のホルダ2は典型的には、少なくとも1つの事前選択された成形条件に被加工物パネル3が置かれている間、被加工物パネル3を誘導コイル4の近傍に、またはそれと当接させて、事前選択された位置および配向に保持するのに使用される。被加工物パネル3が置かれる事前選択された成形条件は、例えば、被加工物パネル3の1つまたは複数の表面に機械的な力を印加すること、システム1を配向させて、システム1に対して重力が特定の方向に作用するようにすること、被加工物パネル3の1つまたは複数の表面への電磁力の印加、被加工物パネル3に対する誘導コイル4の能動的または受動的な移動、被加工物パネル3をモールド5と接触させて置くこと、事前選択されたやり方でのモールド5の移動による被加工物パネル3との接触、誘導コイル4を通るAC電流の周波数および/または振幅を変化させること、被加工物パネル3の1つまたは複数の部分の温度を変化させること、誘導コイル4によって生成される交番電磁場を変化させること、異なる温度および/または異なる時間の間、被加工物パネル3の異なる部分を加熱すること、などのうちの1つまたは複数とすることができる。
【0052】
ホルダ2は、システム1の別個の構成成分であってもよいし、例えば、モールド5の表面であってもよい。以下にさらに詳細に記載されるとおり、誘導コイル4は、様々な構成を有していてもよく、被加工物パネル3および/またはモールド5の内部に部分的または全体的に埋設されていてもよい。変形工程の前または間に誘導コイル4、被加工物パネル3および/またはモールド5の位置および/または配向を調整するために、1つまたは複数のアクチュエータツール6を、誘導コイル4、被加工物パネル3、および/またはモールド5に機械的に結合させてもよい。例えば、アクチュエータツール6は、被加工物パネル3および/またはモールド5と誘導コイル4との間で、相対的な回転または並進の動きを生み出して、被加工物パネル3にわたる熱の均等な分布を確実にするのに使用してもよい。
【0053】
例えば、何らかのタイプのプロセッサまたは計算機(例えば、マイクロコントローラまたはマイクロプロセッサ)を含んでもよい制御装置10を使用して、1つまたは複数のアクチュエータツール6を制御してもよい。制御装置10によるアクチュエータツール6の制御は、1つまたは複数の測定ツール8によって得られた測定結果に基づいてもよい。換言すると、システム1は、測定情報を制御装置10にフィードバックするフィードバックループを含んでいてもよく、次いで制御装置はそれを使用して、コイル4、アクチュエータツール6、および/または測定ツール8を制御する。測定ツール8は、接触式測定ツール、例えば機械式センサなど、非接触式測定ツール、例えば光センサ、磁気センサ、温度センサなど、または接触式測定ツールと非接触式測定ツールの組み合わせを含んでいてもよい。
【0054】
測定ツール8は、例えば、誘導コイル4によって生成される交番電磁場の周波数、誘導コイル4のインダクタンス、被加工物パネル3に対する誘導コイル4の位置、モールド5に対する被加工物パネル4の位置、誘導コイル4を通るAC電流の振幅を測定するために使用してもよい。制御装置10は、これらのまたは他の測定結果の1つまたは複数に基づいて、アクチュエータツール6を制御して、および/またはAC電流源9を制御して、AC電流源9によって発生するAC電流の振幅および/または周波数を設定し、誘導加熱工程を制御することができる。上に示したとおり、システム1のAC電流源9は、事前選択された振幅および周波数のAC電流を発生させ、この電流が誘導コイル4に電気的に結合される。制御装置10はAC電流源9を制御して、AC電流の振幅および周波数を、事前選択された振幅および周波数に設定してもよい。「事前選択された」という用語は、本明細書で使用されるとおり、工程の過程で変化しない恒久的な値であることが意図される開始値または初期値を意味することができるだけでなく、工程中に得られたフィードバックに基づいてその後変化させることが意図される開始値を意味することもできる。また、
図1Aには、単一のAC電流源9および単一のコイル4が示されているが、複数のコイル4を通るAC電流を制御するために、システム1において複数のAC電流源を使用してもよいことに留意するのが望ましい。
【0055】
図2は、実施形態に準拠する、誘導加熱を実行してパネルを成形する方法を表す流れ図である。本実施形態に準拠して、方法は以下を含む。ブロック21に示すとおり、事前選択された材料を含む被加工物パネルを、少なくとも第1の誘導コイルの近傍に、またはこれに当接させて配置する。ブロック22に示すとおり、被加工物パネルを少なくとも1つの事前選択された成形条件のもとに置く。ブロック23に示すとおり、少なくとも第1のAC電流源を使用して、事前選択された振幅および周波数を有する第1のAC電流を発生させる。ブロック24に示すとおり、事前選択された成形条件のもとに被加工物パネルが置かれている間、事前選択された振幅および周波数を有する第1のAC電流を、少なくとも第1の誘導コイルに通し、第1の誘導コイルに第1の交番電磁場を生成させて、この電磁場が、事前選択された時間の間、事前選択された温度に、誘導を介して被加工物パネルを加熱するようにする。被加工物パネルが、事前選択された成形条件のもとに置かれている間、事前選択された時間の間、事前選択された温度に誘導を介して被加工物パネルを加熱することで、事前選択された形状を被加工物パネルが獲得する。
【0056】
図2に図示す方法は、例えば、誘導コイル4によって生成される交番電磁場の周波数、誘導コイル4のインダクタンス、被加工物パネル3に対する誘導コイル4の位置、モールド5に対して相対的な被加工物パネル4の位置、誘導コイル4を通るAC電流の振幅を測定する測定ツール8を使用する、
図1Aを参照しつつ上に記載したステップを、さらに含むことができる。制御装置10は、これらのまたは他の測定結果の1つまたは複数に基づき、アクチュエータツール6を制御して、および/またはAC電流源9を制御して、AC電流源9によって発生するAC電流の振幅および/または周波数を設定し、誘導加熱工程を制御することができる。
【0057】
図3Aに、最初は金属の平坦なシートの形状をしている金属被加工物パネル31を示す。被加工物パネル31は、正確な形状のモールド32の上方に配置され、被加工物パネル31の最上部表面の近傍に、またはこれと当接させて配置された誘導コイル33を有するのが示されている。他の実施形態に準拠すれば、被加工物パネルは、表面上または内部に磁性粒子を配置させた非金属材料(例えば、内部に鉄粒子を分散させたプラスチック材料、または金属コーティングを伴うガラスシート)から作られる。
図3Bおよび
図3Cに、
図3Aに示した被加工物パネル31および誘導コイル33の、誘導加熱工程の前後の側面図をそれぞれ示す。誘導加熱工程の間、被加工物パネル31は、少なくとも1つの成形条件のもとに置かれ、本実施形態ではこれは、
図3Cに示すとおり、モールド32に接触して置かれたパネル31であり、この条件によりモールド32の形状をパネル31が獲得する。代表的な実施形態に準拠すれば、誘導コイル33は、実質的に平坦な渦巻き状、またはパンケーキ状の幾何学的形状を有するが、誘導コイルは、
図3Cに示すとおり、能動的または受動的に変形して、コイルと被加工物パネルとの間の距離を変化させても、または維持してもよい。
【0058】
誘導加熱工程の間、被加工物パネル31は典型的には、事前選択された材料の融点以下の温度に加熱されるとともに、被加工物パネル31は形状を変化させて、事前選択された形状を獲得する。例えば、
図3A~
図3Cで表される工程は、熱成形、またはスランプ加工、またはサギング加工の工程であってもよく、その間、被加工物パネル31は典型的には、事前選択された材料の融点以下の温度に加熱され、モールド32と接触させられて形状を変化させ、事前選択された形状を獲得する。
【0059】
誘導コイルは、いかなる適切な構成、配向、または形状をとってもよい。
図4Aおよび4Bに、被加工物パネル41、モールド42、および誘導コイル43の斜視図および側面図をそれぞれ示す。本実施形態に準拠すれば、誘導コイル43は、被加工物パネル41およびモールド42を取り囲んでいる。
【0060】
別の代表的な実施形態に準拠すれば、誘導コイルは、被加工物パネル(例えば、金属シート)を取り囲んでおり、少なくとも第1のモールド表面を貫通することでコイルと被加工物パネルとの間の距離を低減させる。
図5に、誘導コイル53が被加工物パネル51を取り囲み、モールド52を貫通している場合の実施形態に準拠する、被加工物パネル51、モールド52、および誘導コイル53の斜視図を示す。
【0061】
AC電流源9が発生させるAC電流の周波数を、事前選択された周波数に設定することにより、被加工物パネルにおける誘導加熱の表皮深さを制御することができる。このように、場合によっては、制御装置10は、AC電流源9を制御して、被加工物パネルにおける電流の表皮深さを制御し、それによって誘導加熱を制御する。
図2に示す流れ図によって表される方法は、フィードバックループを使用して、制御装置10に、AC電流源9の発生させるAC電流の周波数を調整させて、被加工物パネル内の電流の表皮深さを制御し、それによってパネルの誘導加熱を制御することを含んでもよい。
【0062】
代表的な実施形態に準拠すれば、モールド32、42、52、またはその少なくとも1つのそれぞれの表面は、剛性で不変の形状を有する。しかし、他の実施形態に準拠すれば、モールドはそれぞれ、複数の区画を含んでいてもよく、区画は、被加工物パネルに対してそれぞれの調整可能な位置および配向を有することで、事前選択された形状を被加工物パネルが獲得する。この特徴により、単一のモールドまたはモールドの組を使用して、事前選択された形状に被加工物パネルを成形し、その後、モールドの形状を変化させて、異なる形状に別の被加工物パネルを成形することが可能になる。これはまた、実時間での測定結果、例えば、測定ツール8(
図1A)によって得られた測定結果に応じて、熱形成の操作中にモールドが形状を変化させることが可能になる。
【0063】
代表的な実施形態に準拠すれば、配列にした複数の誘導コイルが、被加工物パネルの少なくとも第1の側の近傍に、またはこれに当接させて配置されて、誘導を介して被加工物パネルの少なくとも第1の側を加熱する。
図6は、誘導コイル63が、被加工物パネル61の少なくとも最上部側の近傍に、またはこれに当接させて配置されて、事前選択された時間の間、事前選択された温度に誘導を介して、被加工物パネル61の少なくとも最上部側を加熱することで、所望の事前選択された形状を被加工物パネルが獲得する場合の実施形態に準拠する、被加工物パネル61、モールド62、および配列にした渦巻き状の誘導コイル63の斜視図である。
【0064】
図7は、配列にした複数の誘導コイル73が、被加工物パネル71の少なくとも最上部側の近傍に、またはこれに当接させて配置され、複数の誘導コイル73が、モールド72の表面の近傍に、またはこれと当接させて配置される実施形態に準拠する、被加工物パネル71、モールド72、およびM×Nの配列にしたらせん状の誘導コイル73の斜視図である。上に示すとおり、誘導コイルは、いかなる適切な形状または構成を有することもでき、これは、
図6および
図7にそれぞれ示される誘導コイル63および73の形状または構成の違いによって示されるとおりである。
【0065】
図8Aに、例えば平坦部やリブなどの被加工物パネル81の特定の特徴を加熱するように特定の誘導コイル83が設計される場合の実施形態に準拠する、被加工物パネル81、モールド82、および被加工物パネル81の表面のそれぞれの部分を加熱する複数の誘導コイル83の側面図を示す。
図8Aでは、被加工物パネル81がモールド82から離間しているのが示されており、誘導コイル83が被加工物パネル81の最上部表面に接触しているのが示されている。
図8Bに、被加工物パネル81、および複数の誘導コイル83の上面図を示す。
図8Cに、被加工物パネル81、モールド82、および複数の誘導コイル83の斜視図を示し、被加工物パネル81はモールド82から離間している。
【0066】
代表的な実施形態に準拠すれば、複数の誘導コイルが使用される場合(例えば、
図6~
図8C)、誘導コイルを独立に制御し、それによって、誘導コイルの事前選択された振幅および/または事前選択された周波数を独立に設定し、それによって、被加工物パネルの異なる部分の誘導加熱を独立に制御するようにしてもよい。代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルの異なる部分は、それぞれの誘導コイルによって、異なるスピードで、または異なる温度に加熱される。
【0067】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルの配置および配向と、被加工物パネルを事前選択された成形条件のもとに置くこととは、加熱中に被加工物パネルに及ぼされる重力の力に起因して被加工物パネルが垂下することで、事前選択された形状を被加工物パネルが獲得するようにするものである。スランプ加工またはサギング加工の工程を用いて被加工物パネルを成形する場合、そうした工程では、被加工物パネルの加熱中に重力の効果を使用して、1つまたは複数のモールド表面に被加工物パネルを接触させる。代表的な実施形態に準拠すれば、事前選択された成形条件は、被加工物パネルの1つまたは複数の点で被加工物パネルを少なくとも支持することを含み、加熱中に被加工物パネルに及ぼされる重力の力に起因して被加工物パネルがそれらの点どうしの間で垂下して、事前選択された形状を被加工物パネルが獲得するようにするものである。複数の誘導コイルを用いて被加工物パネルの異なる部分を加熱する場合、支持点は、事前選択されたやり方で分布するようにすることができて、被加工物パネルを複雑な幾何学的形状に成形することを可能にする。また、異なる誘導コイルを独立に制御して、被加工物パネルのそれぞれの部分を異なるスピードで加熱する、および/または異なる温度に加熱することで、成形工程をさらに制御することができる。
【0068】
図8A~
図8Cを再び参照すると、この代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネル81は、複数のリブ85を有する実質的に平坦な金属シート(
図8A)として出発し、リブは、パネル81に取り付けられており、またはそれと一体的に形成されており、誘導加熱中に変形する。
図8Cを参照すると、複数の誘導コイル83が、被加工物パネル81の表面のそれぞれの部分を加熱するのに使用され、複数の誘導コイル84が、例えば、リブ85などのそれぞれの特徴を加熱するのに使用される。本実施形態に準拠すれば、誘導コイル83および84は、被加工物パネル81の最上部表面の近傍に、またはこれに当接させて配置されている。誘導コイル84は、それぞれのリブ85の周囲に配置され、誘導コイル83は、リブ85どうしの間に配置されている。誘導コイル83および84は、独立に制御することができて、誘導コイル83および84の事前選択された振幅および/または事前選択された周波数を独立に設定し、被加工物パネル81の表面およびリブ85の異なる部分の誘導加熱を独立に制御する。代表的な実施形態に準拠すれば、リブ85は、それぞれの誘導コイル84によって、異なるスピードおよび/または異なる温度に加熱される。
【0069】
図3A~
図8Cを参照しつつ上に記載された実施形態の原理および概念の1つまたは複数を組み合わせて、所望の誘導加熱成形の目標を達成することができる。例えば、
図3A、5、および8A~8Cに示す実施形態の様々な態様を組み合わせる実施形態であって、モールド105に埋設された渦巻き形状の誘導コイル104が被加工物パネル103を加熱している間、別個の誘導コイル101を使用して、被加工物パネル103の最上部表面に配置されたそれぞれのリブ102を加熱する場合の誘導加熱配置を提供する実施形態を示す。
【0070】
代表的な実施形態に準拠すれば、事前選択された成形条件は、事前選択された形状を獲得する被加工物パネルに寄与する機械的な力を被加工物パネルに印加することを含む。例えば、
図9に示す実施形態に準拠すれば、誘導コイル101およびリブ102に及ぼされる重力は、誘導加熱中の被加工物パネル103の成形に寄与する機械的な力を与える。この機械的な力は、重力負荷を増加させるために、被加工物パネルの一部分の上または可動式誘導コイルの上に静止する少なくとも第1の重りによっても加えられる可能性がある。また、機械的な力は、被加工物パネル103の第2の側に力を及ぼす第2の嵌合モールド表面によっても加えられる可能性がある。
【0071】
被加工物パネルを加熱することで、被加工物パネルを構成する材料の降伏強度が一時的に低下する。成形は、典型的には重力によって、そして主に、コイルと被加工物パネルとの間に電磁場が誘導する反発力によって生じるものである。
【0072】
図10Aおよび
図10Bに、本明細書に記載された誘導加熱工程を用いた成形の前後のリブ付き被加工物パネル111の斜視図をそれぞれ例示する。被加工物パネル111は、比較的複雑なリブ付き構成を有しており、この構成は、被加工物パネル表面111aを加熱する一組の誘導コイルと、リブ111bを加熱する別の組の誘導コイルとを用いて成形することができるものである。こうした複雑なリブ付きパネルは、公知のスランプ加工またはサギング加工の工程を用いて容易に成形することはできないものである。
【0073】
代表的な実施形態に準拠すれば、誘導コイルの少なくとも第1のものは、誘導加熱中に被加工物パネルの一部分が垂下するにつれ、被加工物パネルの変化する形状に追従して移動する。一実施形態に準拠すれば、第1の誘導コイルの移動は、例えば、重力による、またはコイルが位置している被加工物パネル部分の移動による、受動的なものである。一実施形態に準拠すれば、誘導コイルの移動は、例えば、制御装置10の制御下でアクチュエータツール6を介する、能動的なものである(
図1A)。
【0074】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルの一部分が垂下するにつれ、少なくとも1つの誘導コイルの形状が変化する。例えば、
図3Cに図示されるとおり、渦巻き状の誘導コイル33は、パネル31の最上部表面に配置されており、モールド32が使用されてパネル31が成形されるにつれ形状が変化する。誘導コイルは、被加工物パネルの誘導加熱中に能動的に移動させて、誘導コイルと被加工物パネルとの間の距離を維持または変化させ、それにより、被加工物パネルを誘導コイルが加熱するスピードおよび/または温度を変化させてもよい。
【0075】
代表的な実施形態に準拠すれば、本方法は、誘導コイルにAC電流を通しつつ、誘導コイルの少なくとも第1のものに流体を通して、第1の誘導コイルの温度を制御することを、さらに含む。代表的な実施形態に準拠すれば、本方法は、対流、輻射、およびその他の熱損失を制限するために、筐体の中で実行される。代表的な実施形態に準拠すれば、本方法は、被加工物パネルおよび事前選択された成形条件(例えば、モールド)が少なくとも第1の誘導コイルに対して回転または平行移動する間に実行されて、被加工物パネル内の制御された熱分布を獲得する。
【0076】
代表的な実施形態に準拠すれば、被加工物パネルは金属パネルであり、交番電磁場は、金属パネルに交番渦電流を生み出す交番電磁場を生み出し、この渦電流が、第1の誘導コイルによって生み出される反対の電磁場を生み出し、コイルと被加工物パネルとの間に反発力を生じる。この力は、事前選択された形状を金属パネルが獲得するのに寄与するよう使用することができる。
【0077】
誘導加熱工程に関与する構成成分の数、タイプ、位置、および配向は、事実上無制限である。例えば、
図11~
図13は、誘導コイル112が被加工物パネル113およびモールド114に対して様々な形状、位置、および配向を有する様々な誘導加熱配置の斜視図を示す。
図11~
図13では、被加工物パネル113およびモールド114が特定の形状を有するものとして示されているが、これらはいかなる適切な形状または構成を有してもよい。例示および考察を容易にするために、被加工物パネル113は平坦であり、モールド114は湾曲しているものとして示されているが、これらの構成成分は、単純なものから非常に複雑なものまで様々な形状を有していてもよい。例えば、モールド114は、自由形状、またはスプラインや高次多項式によって数学的に定義された形状を有していてもよい。
【0078】
結論
本発明の原理および概念は、光学品質の物体の形成に誘導加熱を使用することを可能にする。本発明の原理および概念に準拠するシステムおよび方法に向けたいくつかの応用例には、光学グレードの金属シートを形成すること、複雑な金属シートを形成すること、およびスランプ加工により光学ガラスを形成することなどが挙げられる。本システムおよび方法の利点のいくつかには、複雑な部分品を熱成形できること、工程を改良する計測システムを使用すること、被加工物を加熱する間、温度をより簡単に制御すること、コストを削減すること、対流加熱や輻射加熱よりも短時間に高電力効率で加熱を行うことなどが挙げられる。また、コイルと被加工物パネルとの間の反発力を利用することで、制御された圧力を非接触方式で印加することが可能になる。
【0079】
本発明の原理および概念は、それらが適用可能な技術分野に関して限定されるものではないが、それらが適用可能な技術分野の例としては、例えば、無線通信用のアンテナパネル、集光型太陽光発電用の反射パネル、航空宇宙産業用の翼パネルや機体シェルパネル、自動車産業用のボンネット、シーリング、トランクリッドなど、建築における外壁や内壁のファサード壁などが挙げられる。
【0080】
例えば、本方法およびシステムは、集光型太陽光発電(CSP)システム用の光学ミラーをモールド成形するのに使用することができる。そのようなミラーは、ガラスまたは金属で作ることができる。金属製のCSP集光器は現在、精密圧延ガラスとして形成されている。本明細書に記載のシステムおよび方法を使用して、誘導加熱スランプ加工またはガラスサギング加工を介し、ガラスまたは金属のCSP集光器を、そのような既知の工程と比較してさらに容易かつ高精度、そして低コストで正確に形成することができる。本発明の原理および概念に準拠する誘導加熱方法およびシステムは、すべての場合においてモールドを使用する必要がないことに留意するのが望ましい。CSP皿型集光器は、太陽エネルギーを集光するのに使用され、熱エネルギーおよび/または電気エネルギーを発生させるのに使用することができる。太陽集光器は、太陽電池とは異なる方法で電力を発生させる。太陽集光器は、発電効率が高いことから、使用されることが多い。集光型太陽熱発電所は、油または塩を使って蒸気を発生させることができ、また溶融した塩や高温の油を貯蔵して夜間に使用できるという利点を有する。本明細書に記載の方法およびシステムによって成形されたパネルは、そのような目的に使用することができ、他の公知の製造方法と比較して、速やかにそしてコスト効率よく作ることができる。
【0081】
本発明の原理および概念を、代表的な実施形態を参照しつつ説明してきたが、本発明の原理および概念は、本明細書に記載の代表的な実施形態に限定されるものではないことに留意するのが望ましい。本発明の原理および概念を、図面および先の記載において詳細に例示および記載してきたが、そのような例示および記載は、例示的または模範的なものであり、制限するものではないと見なされ、本発明は、開示の実施形態に限定されるものではない。開示の実施形態に対する他の変形は、当業者であれば、図面、開示、および添付の特許請求の範囲を検討すれば、理解し実施することができる。
【国際調査報告】