(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】真空ポンプの温度制御方法、並びに関連する真空ポンプおよびその設備
(51)【国際特許分類】
F04C 25/02 20060101AFI20220106BHJP
F04C 29/04 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
F04C25/02 K
F04C25/02 M
F04C29/04 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521152
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(85)【翻訳文提出日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 EP2019076111
(87)【国際公開番号】W WO2020078689
(87)【国際公開日】2020-04-23
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511148259
【氏名又は名称】ファイファー バキユーム
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】ヤニク グルニエ
(72)【発明者】
【氏名】ポール ドゥコルド
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA03
3H129AA06
3H129AA10
3H129AA17
3H129AA22
3H129AA33
3H129AB06
3H129BB11
3H129BB44
3H129BB50
3H129BB53
3H129BB60
3H129CC03
3H129CC05
3H129CC09
3H129CC48
3H129CC56
(57)【要約】
【課題】乾式真空ポンプ型の真空ポンプと、特に隙間の消失および焼き付きを防止することを可能にする真空ポンプの温度制御方法とを提案する。
【解決手段】本発明は、吸排気負荷の変動にさらされる乾式真空ポンプ型の真空ポンプ(2)の温度制御方法(100)に関し、真空ポンプ(2)の温度は、設定温度およびステータ(5)の温度の測定に基づいて、ステータ(5)に結合された少なくとも1つの冷却要素(11a、11b)によって制御される乾式真空ポンプ型の真空ポンプ(2)の温度制御方法(100)において、モニタリングは、前記真空ポンプ(2)によって誘起される電流または消費される電力のいずれかから選択される前記吸排気負荷を示すパラメータの値が、負荷閾値を下回っているかどうかを監視し、前記吸排気負荷を示す前記パラメータの値が、前記負荷閾値を下回っている場合、前記設定温度を上昇させることを特徴とする。
本発明は、前記乾式真空ポンプタイプ型の真空ポンプおよびその設備にも関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸排気負荷の変動にさらされる乾式真空ポンプ型の真空ポンプ(2)の温度制御方法(100)であって、前記真空ポンプ(2)は、
○ ステータ(5)と、
○ 少なくとも1つの吸排気段(T1-T5)と、
○ 前記少なくとも1つの吸排気段(T1-T5)内に延在し、かつ、前記真空ポンプ(2)の吸気口(9)から排気口(10)に吸排気されるガス(G)を駆動するために、前記ステータ(5)内で反対方向に同期して回転するようになっている少なくとも1つのロータ(8)をそれぞれ支えている2つのシャフト(6、7)と、
○ 前記ステータ(5)に結合された少なくとも1つの冷却要素(11a、11b)と、
○ 前記ステータ(5)の温度を測定するようになっている少なくとも1つの温度センサ(12a、12b)と、
○ 前記少なくとも1つの冷却要素(11a、11b)および前記少なくとも1つの温度センサ(12a、12b)によって前記ステータ(5)の温度を制御するようになっている制御ユニット(13)とを備えており、
前記真空ポンプ(2)の温度は、設定温度および前記ステータ(5)の温度の測定に基づいて、前記ステータ(5)に結合された前記少なくとも1つの冷却要素(11a、11b)によって制御される乾式真空ポンプ型の真空ポンプ(2)の温度制御方法(100)において、
モニタリングは、前記真空ポンプ(2)によって誘起される電流または消費される電力のいずれかから選択される前記吸排気負荷を示すパラメータの値が、負荷閾値(S)を下回っているかどうかを監視し、前記吸排気負荷を示す前記パラメータの値が、前記負荷閾値(S)を下回っている場合、前記設定温度を上昇させることを特徴とする真空ポンプ(2)の温度制御方法(100)。
【請求項2】
前記真空ポンプの低圧吸排気段(T1)に結合された冷却要素(11a)によって、少なくとも温度を制御するために、前記設定温度を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ(2)の温度制御方法(100)。
【請求項3】
前記設定温度を上昇させた後、前記モニタリングは、前記吸排気負荷を示す前記パラメータの値が前記負荷閾値(S)を超えているかどうかを監視し、前記吸排気負荷を示す前記パラメータの値が前記負荷閾値(S)を超えている場合には、上昇させた設定温度を予め定めた追加時間の間維持することを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプ(2)の温度制御方法(100)。
【請求項4】
前記予め定めた追加時間は、10分を超える時間であることを特徴とする請求項3に記載の真空ポンプ(2)の温度制御方法(100)。
【請求項5】
前記設定温度の上昇は、3℃を超える温度であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の真空ポンプ(2)の温度制御方法(100)。
【請求項6】
前記設定温度の上昇は、20℃未満の温度であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の真空ポンプ(2)の温度制御方法(100)。
【請求項7】
乾式真空ポンプ型の真空ポンプ(2)であって、
- ステータ(5)と、
- 少なくとも1つの吸排気段(T1-T5)と、
- 前記少なくとも1つの吸排気段(T1-T5)内に延在し、かつ、前記真空ポンプ(2)の吸気口(9)から排気口(10)に吸排気されるガス(G)を駆動するために、前記ステータ(5)内で反対方向に同期して回転するようになっている少なくとも1つのロータ(8)をそれぞれ支えている2つのシャフト(6、7)と、
- 前記ステータ(5)に結合された少なくとも1つの冷却要素(11a、11b)と、
- 前記ステータ(5)の温度を測定するようになっている少なくとも1つの温度センサ(12a、12b)と、
- 前記少なくとも1つの冷却要素および前記少なくとも1つの温度センサによって前記ステータの温度を制御するようになっている制御ユニット(13)とを備える前記真空ポンプ(2)において、
前記制御ユニット(13)は、請求項1から6のいずれか1項に記載の温度制御方法(100)を実施するようになっていることを特徴とする乾式真空ポンプ型の真空ポンプ(2)。
【請求項8】
前記真空ポンプ(2)は、低真空ポンプであることを特徴とする請求項7に記載の乾式真空ポンプ型の真空ポンプ(2)。
【請求項9】
前記真空ポンプ(2)は、前記ステータに結合された2つの冷却要素(11a、11b)を備えており、一方の冷却要素(11a、11b)は、前記真空ポンプの各軸方向端部に配置されていることを特徴とする請求項7または8に記載の乾式真空ポンプ型の真空ポンプ(2)。
【請求項10】
チャンバ(3)を備える設備において、前記チャンバ(3)内を吸排気するために前記チャンバ(3)に接続された、請求項7から9のいずれか1項に記載の前記乾式真空ポンプ型の真空ポンプ(2)を備えていることを特徴とする設備(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式真空ポンプ型の真空ポンプの温度制御方法に関する。本発明は、この温度制御方法を実施するための手段を備える乾式真空ポンプ型の真空ポンプにも関する。本発明は、この乾式真空ポンプを備える設備にも関する。
【背景技術】
【0002】
乾式真空ポンプ型の低真空ポンプは、直列のいくつかの吸排気段を備えており、この吸排気段を介して、吸排気されるガスが吸気口と排気口との間で循環する。公知の低真空ポンプの中で、「ルーツ」ポンプの名前でも知られている回転ローブを有するものと、「クロー」ポンプおよびスクリューポンプとして知られているポンプで、2つ以上のローブを有するものとに区別されている。非常に大流量の条件下で吸排気能力を高めるために、低真空ポンプの上流で使用される、1段または2段のルーツコンプレッサー(またはより一般的には「ルーツブロワ」)型の真空ポンプも知られている。
【0003】
これらの真空ポンプは、運転中に、ロータが相互に、またはステータと機械的に接触することなく、ステータ内で回転し、吸排気段でオイルを使用しないことが可能になるため、「ドライ」と呼ばれている。
【0004】
ますます多くの応用例が、一方では、真空ポンプが数slm(標準リットル/分)または数十slm程度の大量のガスを循環させる必要がある処理工程と、他方では、真空ポンプが吸排気するガスの流量がゼロまたは非常に少ない「最終真空圧」と呼ばれる圧力で作動するアイドル(またはスタンバイ)工程との間で、大流量でかつ迅速に吸排気するガスの流れを変化させる機能を必要としている。
【0005】
大流量のガスを吸排気すると、圧縮によって真空ポンプが大きく加熱される。この温度上昇により、真空ポンプ内における汚染ガス状物質の凝縮、または粉末状の固化を回避することができる。しかし、何らかの誤作動を防止するために、真空ポンプの軸受を冷却することが必要となる。さらに、特定の応用例では、ステータの温度を制御して、予め定めた最大値を超えないように制御することが必要である。この最大値を超えると、吸排気される汚染ガス状物質が真空ポンプ内で凝集し、真空ポンプが焼き付く原因となる。
【0006】
ステータの冷却は、通常、ステータと熱的に接触している冷却回路を通して、外気温度の水を循環することによって行われる。
【0007】
しかし、吸排気されるガスの流れが急激に低下する上記の状況では、真空ポンプは、それ自体の加熱源がなく、急激に冷却されてしまう。そのため、冷却回路と接触しているステータの温度は、低下してしまい、一方、直接冷却されていないロータは、高温のままである。
【0008】
冷却回路を制御するための温度の測定位置が、吸排気負荷の変動による温度の急激な変化を検出することができる適切な場所に、必ずしもあるとは限らないという事実によって、ロータとステータとの間の温度差が大きくなってしまう恐れがある。このため、測定温度が誤って評価され、例えば軸受の温度がすでに大幅に低下しているにもかかわらず、ステータの冷却コマンドが継続されてしまう恐れがある。ステータの温度低下を実際に認識するために必要な応答時間が相対的に長くなってしまい、これにより、ロータとステータとの温度差が拡大してしまう恐れがある。
【0009】
この温度差は、さまざまな熱機械的挙動によるステータとロータとの間の隙間の消失を引き起こす恐れがある。特に、冷却回路は、通常、軸受領域における真空ポンプの各軸方向端部に配置されているため、軸方向の隙間の消失を引き起こし、シャフト支持部の収縮による軸間距離の減少を引き起こす恐れがある。これらの隙間の消失は、ポンプの焼き付き、およびロータ同士の接触の原因となる恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的の1つは、乾式真空ポンプ型の真空ポンプと、特に隙間の消失および焼き付きを防止することによって、前述の欠点の少なくとも1つを是正することを可能にする真空ポンプの温度制御方法とを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために、本発明の1つの主題は、吸排気負荷の変動にさらされる乾式真空ポンプ型の真空ポンプの温度制御方法であって、この真空ポンプは、
- ステータと、
- 少なくとも1つの吸排気段と、
- 少なくとも1つの吸排気段内に延在し、かつ、真空ポンプの吸気口から排気口に吸排気されるガスを駆動するために、ステータ内で反対方向に同期して回転するようになっている少なくとも1つのロータをそれぞれ支えている2つのシャフトと、
- ステータに結合された少なくとも1つの冷却要素と、
- ステータの温度を測定するようになっている少なくとも1つの温度センサと、
- 少なくとも1つの冷却要素および少なくとも1つの温度センサによってステータの温度を制御するようになっている制御ユニットとを備えており、
真空ポンプの温度は、設定温度およびステータの温度の測定に基づいて、ステータに結合された少なくとも1つの冷却要素によって制御される乾式真空ポンプ型の真空ポンプの温度制御方法において、
モニタリングは、真空ポンプによって誘起される電流または消費される電力のいずれかから選択される吸排気負荷を示すパラメータの値が、負荷閾値を下回っているかどうかを監視し、吸排気負荷を示すパラメータの値が、負荷閾値を下回っている場合、設定温度を上昇させることを特徴としている。
【0012】
したがって、設定温度の変更により、冷却要素によるステータの冷却をより早く遮断し、ステータを冷却要素の近くで暖めることができる。低吸排気負荷工程中に設定温度を上昇させると、ステータを高負荷工程中と同じように高温に保つことができ、これにより、焼き付きまたはロータが互いに接触するリスクを防止することができる。
【0013】
低負荷工程中に高い温度に保つことにより、凝縮性汚染物質が固化または凝縮する恐れがある低温領域の発生を回避することもできる。
【0014】
吸排気負荷を監視することによってトリガーされる設定温度の変更により、温度制御方法の応答性を高くすることもできる。
【0015】
温度センサを追加する必要がなく、チャンバで起きている処理に関する情報を必要とせず、少なくとも1つの温度センサの位置または冷却要素の構造を変更することなく、真空ポンプの熱的挙動を温度制御の判定機構に組み込むことにより、真空ポンプのセンサから入手することができる情報に基づいて、このモニタリングを、さらに行うことができる。
【0016】
温度制御方法は、単独でまたは組み合わせることにより、以下に記載する1つ以上の特徴を含むこともできる。
【0017】
1つの例示的な実施形態によれば、真空ポンプの低圧吸排気段に結合された冷却要素によって、少なくとも温度を制御するために、設定温度を上昇させる。
【0018】
1つの例示的な実施形態によれば、設定温度を上昇させた後、モニタリングは、吸排気負荷を示すパラメータの値が負荷閾値を超えているかどうかを監視し、吸排気負荷を示すパラメータの値が負荷閾値を超えている場合には、上昇させた設定温度を、予め定めた追加時間の間維持する。
【0019】
予め定めた追加時間は、たとえば、10分を超える時間である。
【0020】
設定温度の上昇は、たとえば、3℃を超える温度である。
【0021】
設定温度の上昇は、たとえば、20℃未満の温度である。
【0022】
本発明の別の主題は、乾式真空ポンプ型の真空ポンプであって、
- ステータと、
- 少なくとも1つの吸排気段と、
- 少なくとも1つの吸排気段内に延在し、かつ、真空ポンプの吸気口から排気口に吸排気されるガスを駆動するために、ステータ内で反対方向に同期して回転するようになっている少なくとも1つのロータをそれぞれ支えている2つのシャフトと、
- ステータに結合された少なくとも1つの冷却要素と、
- ステータの温度を測定するようになっている少なくとも1つの温度センサと、
- 少なくとも1つの冷却要素および少なくとも1つの温度センサによってステータの温度を制御するようになっている制御ユニットとを備える乾式真空ポンプ型の真空ポンプにおいて、
この制御ユニットは、上記のような温度制御方法を実施するようになっていることを特徴としている。
【0023】
乾式真空ポンプ型の真空ポンプは、多段低真空ポンプとすることができる。これは、直列に取り付けられた少なくとも2つの吸排気段を備えるものを意味する。この真空ポンプは、同様に、直列に取り付けられた1つまたは2つの吸排気段を備えるルーツブロワ型の真空ポンプとすることができる。
【0024】
1つの例示的な実施形態によれば、乾式真空ポンプ型の真空ポンプは、ステータに結合された2つの冷却要素を備えており、一方の冷却要素は、この真空ポンプの各軸方向端部に配置されている。
【0025】
本発明の別の主題は、チャンバを備える設備において、その設備は、チャンバ内を吸排気するためにチャンバに接続された、上記のような乾式真空ポンプ型の真空ポンプを備えていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】操作に必要な構成要素のみを示している、分解した状態での、
図1に示す設備における真空ポンプの部分的および部分的断面の模式図である。
【
図3】
図2に示す真空ポンプの温度制御方法の様々な工程を示す模式図である。
【
図4】以下に示す曲線A~Dは、時間(分単位)の関数として得られた曲線を示している。-
図2の真空ポンプによって消費された電力(ワット単位、右側の縦軸)、(曲線A)。- 真空ポンプの温度センサによって測定されたステータの温度(℃、左側の縦軸)、(曲線B)。- 真空ポンプの冷却要素の中心に固定された2つのテスト温度センサによって測定されたステータの温度、(曲線CおよびD)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のさらなる特徴および利点は、以下の添付の図面を参照して、非限定的な例として与えられた以下の説明から明らかになるであろう。
【0028】
これらの図では、同一の構成要素には、同じ符号が付されている。以下の実施形態は単なる例示である。本明細書は、1つ以上の実施形態に言及しているけれども、これは、必ずしも各言及が同じ実施形態に関連していること、または特徴が単一の実施形態にのみ適用されることを意味するわけではない。他の実施形態を提供するために、様々な実施形態の単純な特徴を組み合わせたり、交換したりすることもできる。
【0029】
図1は、乾式真空ポンプ型の真空ポンプ2と、チャンバ3内の吸排気のために、真空ポンプ2が、例えば弁4を介して接続されているチャンバ3とを備える設備1の第1の実施例を示している。
【0030】
「処理」工程P1、P2(
図3)と呼ばれる工程の間で、数slmまたは数十slm程度の大流量のガスを、例えば周期的に、チャンバ3に導入することができる。これらの処理工程P1、P2は、導入されるガスの流量が少ない、またはゼロである「アイドル」工程Iと呼ばれる工程の前または後に位置することができる。アイドル工程Iの間、真空ポンプ2は、例えば、チャンバ3内が空になるように、数分を超える間、「最終真空圧」として知られている圧力で作動している。この一連の工程は、例えば「HarpXT」プロセスとして公知のプロセスなど、半導体を製造するプロセスで行われている。
【0031】
図1および
図2に最もよく見られるように、真空ポンプ2は、ステータ5と、少なくとも1つの吸排気段T1-T5と、少なくとも1つの吸排気段T1-T5内に延在し、かつ、それぞれ少なくとも1つのロータ8を支えている2つのシャフト6、7と、ステータ5に連結された少なくとも1つの冷却要素11a、11bと、ステータ5の温度を測定するようになっている少なくとも1つの温度センサ12a、12bと、少なくとも1つの冷却要素11a、11bおよび少なくとも1つの温度センサ12a、12bによってステータ5の温度を制御するようになっている制御ユニット13とを備えている。
【0032】
ロータ8は、真空ポンプ2の吸気口9から真空ポンプ2の排気口10に吸排気されるガスGを駆動するために、ステータ5内で反対方向に同期して回転するようになっている。
【0033】
ロータ8は、例えば、「ルーツ」式(「数字の8」または「インゲンマメ」の形の断面を有している)のような、または「クロー」式のような同一の輪郭を有するローブを有している。別の例によれば、吸排気ロータ8は、「スクリュー」式である。
【0034】
真空ポンプ2は、例えば、5つの吸排気段などの少なくとも2つの吸排気段を備えている。各吸排気段T1~T5は、それぞれの入口と出口を備えている。連続する吸排気段T1~T5は、前の吸排気段の出口(または排気口)を次の段の入口(または吸気口)に接続するそれぞれの段間ダクト14によって次々に直列に接続している。
【0035】
ロータ8の回転中、入口から吸引されたガスは、ロータ8によって形成された空間に閉じ込められ、次に、ロータ8によって排気口10に向かって押し出される(ガスが循環する方向を、
図1および
図2の矢印Gで示している)。真空ポンプ2は、運転中、ロータ8同士、またはステータ5と機械的に全く接触することなくステータ5内で回転し、吸排気段T1~T5でオイルを使用しないことを可能にするので、特に「ドライ」と言われる。
【0036】
この例示的な実施形態では、乾式真空ポンプ型の真空ポンプ2は、多段低真空ポンプである。低真空ポンプは、容積式真空ポンプで、大気圧下で吸排気できるように、2つのロータを使用してガスを吸引し、移送し、排気する。別の実施例によれば、真空ポンプ2は、ルーツブロワ型であり、1段または2段の吸排気段を備えている。ルーツブロワ型の真空ポンプは、低真空ポンプの上流に直列に取り付けられている。
【0037】
1つの例示的な実施形態によれば、冷却要素11a、11bは、例えば外気温度の水の循環を可能にするための流体圧回路16を備えている(
図2)。
【0038】
流体圧回路16は、例えば、ステータ5に組み込まれている。例えば、シャフト6、7の軸受を冷却するために、軸受を取り囲む「U」字状である。
【0039】
冷却要素11a、11bは、例えば、水の循環を可能にするか、または遮断するために操作することができる弁17をさらに備えている(「オールオアナッシング」制御)。
【0040】
真空ポンプ2は、例えば、ステータ5に結合された2つの冷却要素11a、11bを備えており、一方の冷却要素11a、11bは、真空ポンプ2の各軸方向端部に配置されている(
図2)。冷却要素11aは、低圧吸排気段と呼ばれる吸排気段T1に結合されており、吸排気段T1の入口は、真空ポンプ2の吸気口9に通じている。冷却要素11bは、高圧吸排気段と呼ばれる吸排気段T5に結合されており、吸排気段T5の出口は、真空ポンプ2の排気口10に通じている。
【0041】
真空ポンプ2は、例えば、ステータ5に配置され、互いに離間している2つの温度センサ12a、12bを備えている。温度センサ12aは、例えば、吸気口9の側部に配置された冷却要素11aに関連付けられている。温度センサ12aは、例えば、低圧吸排気段T1の領域(吸気口9の側部)のステータ5に取り付けられている。温度センサ12bは、例えば、排気口10の側部に配置された冷却要素11bに関連付けられている。温度センサ12bは、例えば、高圧吸排気段T5の領域(排気口10の側部)のステータ5に取り付けられている。
【0042】
温度センサ12a、12bは、例えば、2つのシャフト6、7の間の中間点でステータ5上に、かつ、シャフト6、7の軸に平行な直線上に配置されている(
図1)。
【0043】
制御ユニット13は、1つ以上のコントローラまたはマイクロコントローラまたはプロセッサと、真空ポンプ2の温度制御方法100を実現する一連のプログラム命令を実行するためのメモリとを備えている。この方法では、吸排気負荷の変動にさらされる真空ポンプ2の温度を、設定温度およびステータ5の温度測定に基づいて、ステータ5に結合された少なくとも1つの冷却要素11a、11bによって制御している。
【0044】
これを行うために、制御ユニット13は、ステータ5の温度の測定値を受信するために、少なくとも1つの温度センサ12a、12bに接続され、かつ、例えば、流体圧回路16の関連する弁17の開閉を操作するために、少なくとも1つの冷却要素11a、11bに接続されている。温度制御は、それ自体の設定温度および関連する個々の測定温度によって、各冷却要素11a、11bで独立して行うことができる。
【0045】
運転中、真空ポンプ2は、大流量または小流量のガスの間で変化する、吸排気負荷の変動にさらされることになる。
【0046】
制御ユニット13は、吸排気負荷を示すパラメータの値が、負荷閾値Sを下回っているかどうかを監視する(診断工程101、
図3)。
【0047】
吸排気負荷を示すパラメータは、例えば、真空ポンプ2によって誘起される電流または真空ポンプ2によって消費される電力である。制御ユニット13は、例えば、処理工程P1、P2の周期の持続時間以上の時間にわたって誘起される電流、または消費される電力の平均値を計算する。これを行うために、制御ユニット13は、例えば、真空ポンプ2のモータ速度を変化させるバリエータの出力に接続している。
【0048】
吸排気負荷を示すパラメータの値が負荷閾値Sを超えている限り、処理工程P1、P2がチャンバ3で起きていると見なされる。
【0049】
この場合、例えば測定温度が設定温度を下回ったときに、水の循環を遮断するためにバルブ17を閉じることによって、測定温度が設定温度以上であるときに、水が循環できるようにバルブ17を開けることによって、制御ユニット13は、冷却要素11a、11bを使用して、設定温度を達成するために真空ポンプ2の温度を制御する(処理フェーズ調整工程102)。
【0050】
設定温度は、例えば70℃より高くなっている。
【0051】
吸排気負荷を示すパラメータの値が負荷閾値Sを下回っている限り、チャンバ3でアイドル工程Iが起きていると見なされる。この場合、制御ユニット13は、少なくとも1つの冷却要素11aによって真空ポンプ2の温度を制御するために、設定温度を上昇させる(アイドルフェーズ調整工程103)。
【0052】
設定温度は、冷却要素11a、11bの両方、またはそれらの一方のみによって温度を制御するために上昇させることができる。しかし、少なくとも低圧吸排気段T1に結合された冷却要素11aによることが好ましい。これは、ロータ8とステータ5との間の熱交換能力が低圧ではあまり良くないため、温度調整がより困難であることによる。
【0053】
上昇させる設定温度は、例えば、3℃を超えるなど、設定温度の少なくとも3%に相当する。上昇させる設定温度は、例えば、20℃未満など、設定温度の最大20%に相当する。上昇させる設定温度は、例えば、5℃など、設定温度の6%程度である。
【0054】
制御ユニット13は、処理工程P1、P2の間で設定温度を上昇させるために、例えば、水循環弁17を作動させる冷却要素11a、11bによって、真空ポンプ2の温度を制御する。
【0055】
吸排気負荷を示すパラメータが負荷閾値Sを超えて増加したとき、さらなる処理工程P1、P2がチャンバ3で起きていると考えられる。
【0056】
次に、上昇させた設定温度を初期設定温度に戻す前に、予め定めた追加時間の間、上昇させた設定温度を維持するための準備を行うことができる(再調整工程104)。
【0057】
追加時間は、予め定められており、センサを省くことができる。例えば、15分などのように10分より長く定めている。この再調整工程104は、処理工程P1、P2がより大きい吸排気負荷を処理した結果として、ステータ5にウォームアップする時間を与えることができる。これにより、初期設定温度に戻るときに、ロータ8とステータ5との温度差がさらに大きくなることを回避することができる。
【0058】
これをよりよく理解するには、
図4のグラフを参照することにより可能となる。これらのグラフは、一例として、吸排気負荷変動を受けた真空ポンプ2の消費電力曲線(曲線A)と、低圧吸排気段T1の近くで温度センサ12aによって測定されたステータ5の温度曲線(曲線B)と、本発明の理解の助けとして、低圧吸排気段T1のステータ5に結合された冷却要素11aの中心で、指示値として測定されたステータ5の2つの温度曲線(曲線CおよびD)とを示している。
【0059】
最初の2時間は、80slm(135.12Pa.m3/s)のガス流れがチャンバ3に周期的に導入されている。そのため、ガスは、80slmで5分間および0slmで3分間の流れを交互に繰り返す。したがって、吸排気負荷を示す消費電力は、3分(処理工程の無流量フェーズに等しい時間)を超える時間で、例えば600Wの負荷閾値を超える500~2000Wの方形波パターンで変化する(曲線A)。
【0060】
制御ユニット13は、冷却要素11a、11bによって83℃の設定温度を達成するために、真空ポンプ2の温度を制御する(処理フェーズ調整工程102)。したがって、温度センサ12aによって測定されるステータ5の温度は、オールオアナッシング調整モード(曲線B)のために、設定温度のまわりで81℃~86℃の間で変動することが分かるであろう。冷却要素11aの中心で(指示値として)測定された温度が84℃~87℃の間で変動することも分かるであろう(曲線CおよびD)。
【0061】
次に、消費電力が負荷閾値S以下に低下する。これから、制御ユニット13は、アイドル工程Iがチャンバ3で起きていると結論付ける。したがって、制御ユニット13は、設定温度を5℃上昇させ(アイドルフェーズ調整工程103)、低圧吸排気段T1の冷却要素11aによって真空ポンプ2の温度を88℃に制御し、かつ高圧吸排気段T5の冷却要素11bによって真空ポンプ2の温度を83℃または88℃に制御する。
【0062】
冷却要素11aに関連する温度センサ12aによって測定されるステータ5の温度は、約5℃上昇して、86℃~90℃の間で変動することに留意されたい(曲線B)。
【0063】
冷却要素11aの中心で測定された温度は、設定温度の上昇のために急速に上昇し、その後、吸排気負荷の減少により、処理工程P1の温度近くで安定する傾向になるまで低下することも見ることができる(曲線CおよびD)。
【0064】
そのため、設定温度の変更は、冷却要素11aによるステータ5の冷却をより早く遮断することを可能にし、ステータ5が冷却要素11aの近くで温まるようにしている。温度の低下にもかかわらず、冷却要素11aで測定されたステータ5の温度は、たとえあったとしても、処理工程P1の温度よりわずかに低下するだけである。したがって、ステータ5とロータ8との温度差は、ロータ8が高温のままであるとすると、処理工程P1とアイドル工程Iとでほぼ同じである。
【0065】
次に、消費される電力は、負荷閾値S(曲線A)を超えて増加し、さらなる処理工程P2がチャンバ3で起きていることを示している。設定温度は、15分間、88℃まで上昇したままである(再調整工程104)。真空ポンプ2が加熱されると、冷却要素11aの領域内のステータ5の温度が再び上昇し始めることが分かるであろう(曲線CおよびD)。
【0066】
予め定めた追加の時間が経過した後、冷却要素11aの中心の温度がほぼ処理工程P1の前の値に戻ったので、制御ユニット13は、83℃に戻るように設定温度を下げる(処理フェーズ調整工程102)。冷却要素11aの中心の温度は、設定温度の違いによって低下し、その後、設定値が83℃になると再びゆっくりと上昇する。アイドル工程Iおよびそれに続く処理工程P2の間、温度は、冷却要素11aに近いステータ5の領域において83℃を超えたままであった。
【0067】
低吸排気負荷であるアイドル工程Iにおいて、設定温度を上げることで、ステータ5を、処理工程P1、P2におけると同じように、冷却要素11aの中心で高い温度に保つことができる。これにより、アイドル工程Iにおいて、ロータ8とステータ5との熱膨張の違いに起因する焼き付きまたはロータ8が互いに接触するリスクを防止することができる。
【0068】
アイドル工程Iにおいて、高い温度に保つことにより、凝縮性汚染物質が固化または凝縮する恐れがある低温領域の発生を回避することもできる。
【0069】
吸排気負荷のモニタリングによってトリガーされる設定温度の変更により、温度制御方法の応答性を向上することができる。
【0070】
温度センサを追加する必要がなく、チャンバ3で起きている処理に関する情報を必要とせず、少なくとも1つの温度センサ12a、12bの位置または冷却要素11a、11bの構造を変更することなく、真空ポンプ2の熱的挙動を温度制御の判定機構に組み込むことにより、真空ポンプ2のセンサからすでに入手することができる情報に基づいて、このモニタリングを、さらに行うことができる。
【符号の説明】
【0071】
1 設備
2 真空ポンプ
3 チャンバ
4 弁
5 ステータ
6、7 シャフト
8 ロータ
9 吸気口
10 排気口
11a、11b 冷却要素
12a、12b 温度センサ
13 制御ユニット
14 段間ダクト
16 流体圧回路
17 弁
100 温度制御方法
101 診断工程
102 処理フェーズ調整工程
103 アイドルフェーズ調整工程
104 再調整工程
G ガス
I アイドル工程
P1、P2 処理工程
T1-T5 吸排気段
S 負荷閾値
【国際調査報告】