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特表2022-505211電極用水性バインダー組成物、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】電極用水性バインダー組成物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220106BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220106BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220106BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/38 Z
H01M4/1395
H01M4/48
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M4/58
H01M4/583
H01M4/1397
H01M4/1391
H01M4/134
H01M4/131
H01M4/136
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521161
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(85)【翻訳文提出日】2021-05-12
(86)【国際出願番号】 US2019056460
(87)【国際公開番号】W WO2020081639
(87)【国際公開日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】62/746,440
(32)【優先日】2018-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591223105
【氏名又は名称】ハーキュリーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100213997
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】アラン エドワード ゴリアスジェフスキー
(72)【発明者】
【氏名】シュフ ペン
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017EE01
5H017EE05
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA02
5H050EA08
5H050EA09
5H050EA23
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA14
(57)【要約】
少なくとも1種のカチオン性モノマーと、少なくとも1種のノニオン性モノマーとに由来するカチオン性コポリマーを含む、水性バインダー組成物を開示する。更に、本開示は、一般的に、バインダー組成物を含む電極組成物、及びバインダー組成物を用いて、電極、特にアノードを作製する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(AETAC)、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(MAETAC)、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]-N-ベンジルジメチルアンモニウムクロリド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、及び3-(メタクリロイルアミノ)プロピル-ラウリル-ジメチルアンモニウムクロリド(MAPLDMAC)からなる群から選択される少なくとも1種のカチオン性モノマーと、アクリルアミド(AM)、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、酢酸ビニル(VA)、ビニルホルムアミド、アクリロニトリル(AN)、アクリレート、エチルヘキシルアクリレート、カルボキシエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びジエチルアミノエチルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも1種のノニオン性モノマーと、に由来するカチオン性コポリマーを含む、リチウムイオン電池の電極用水性バインダー組成物。
【請求項2】
カルボキシメチルセルロース;グアー誘導体;ポリアクリル酸;ポリ(アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸);アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と、アクリルアミド、アクリロニトリル、アクリル酸又はアクリレートとに由来するコポリマー;アルギン酸塩;キトサン;カラギーナン:及びアクリルアミドメチルプロピルスルホネート(AMPS)と、アクリル酸と、アクリルアミドと、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルスルホン酸とに由来するテトラポリマーからなる群から選択されるアニオン性ポリマーを更に含む、請求項1に記載の水性バインダー組成物。
【請求項3】
前記カチオン性コポリマーが、約5,000~約1,000,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の水性バインダー組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の水性バインダー組成物と、
電極活物質と、
導電剤と、
分散剤と、
水性溶媒と、
を含む、水性スラリー組成物。
【請求項5】
前記電極がアノードである、請求項4に記載の水性スラリー組成物。
【請求項6】
前記電極活物質が、Si、Sn及びTiからなる群から選択される1つ以上の化学元素を含む、請求項4に記載の水性スラリー組成物。
【請求項7】
前記Si含有電極活物質が、SiO/グラファイト、SiC、SiO、SiOC、Si-グラフェン、Si系合金、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6に記載の水性スラリー組成物。
【請求項8】
前記導電剤が、炭素系導電剤、グラファイト系導電剤、金属系導電剤及び金属化合物系導電剤からなる群から選択される、請求項4に記載の水性スラリー組成物。
【請求項9】
前記水性バインダー組成物が、水性スラリー組成物の総重量に基づいて、乾燥重量基準で約0.25~約12重量%の範囲で存在する、請求項4に記載の水性スラリー組成物。
【請求項10】
前記水性スラリー組成物が、約1~約40s-1の範囲の剪断速度で且つ25℃で約1,000~約15,000mPa・sの範囲のブルックフィールド粘度を有する、請求項4に記載の水性スラリー組成物。
【請求項11】
請求項5に記載の水性スラリー組成物と、
集電体と、
を含む、リチウムイオン電池用電極。
【請求項12】
前記水性スラリー組成物が、前記集電体上にコーティングされて形成された膜である、請求項11に記載の電極。
【請求項13】
前記集電体が、アルミニウム、銅、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される金属を含む、請求項11に記載の電極。
【請求項14】
前記膜が、約10μm~約150μmの範囲の厚さを有する、請求項12に記載の電極。
【請求項15】
アノードである、請求項11に記載の電極。
【請求項16】
膜の表面及び前記集電体の表面が、90度剥離密着試験により測定して、少なくとも約0.3gf/mmの密着強度で互いに密着している、請求項11に記載の電極。
【請求項17】
アノードと、カソードと、電解質とを含む、リチウムイオン電池であって、
前記アノードが請求項11に記載の電極である、リチウムイオン電池。
【請求項18】
リチウムイオン電池用電極の作製方法であって、
請求項1に記載の水性バインダー組成物と、電極活物質と、導電剤と、分散剤と、水性溶媒とを組み合わせて、水性スラリー組成物を形成する工程と、
前記水性スラリー組成物を集電体に塗布して、前記集電体上にスラリー層を含むコーティング付き集電体を形成する工程と、
前記コーティング付き集電体上のスラリー層を乾燥して、前記集電体上に膜を形成する工程と、
を含み、
前記膜及び前記集電体が前記電極を構成する、方法。
【請求項19】
水性スラリー組成物の総重量に基づいて、前記水性バインダー組成物が、乾燥重量基準で約0.25~約12重量%の範囲で前記水性スラリー組成物中に存在し、前記電極活物質が、乾燥重量基準で約80%~約99.5%の範囲で前記水性スラリー組成物中に存在する、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
現在開示されている及び/又はクレームされている発明の、プロセス、手順、方法、製品、結果、及び/又は概念(以下、総称して「本開示」と称する)は、一般的に、電池電極に使用する水性バインダー組成物、及びその調製方法に関する。より詳細には、限定するものではないが、本開示は、少なくとも1種のカチオン性モノマーと、少なくとも1種のノニオン性モノマーとに由来するカチオン性コポリマーを含む水性バインダー組成物に関する。更に、本開示は、一般的に、水性バインダー組成物を含む電極組成物、及び水性バインダー組成物を用いて、電極、特にアノードを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(LIB)は、医療機器、電気自動車、飛行機、並びに最も顕著には、ノート型パソコン、携帯電話及びカメラ等の消費者製品を含む様々な製品に使用されている。リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、動作電圧が高く、自己放電が低いため、二次電池市場を席巻し、発展途上の産業及び製品において新たな用途を見出し続けている。
【0003】
一般に、リチウムイオン電池は、アノードと、カソードと、リチウム塩を含む有機溶媒等の電解質材料とを含む。より具体的には、アノード活物質又はカソード活物質のいずれか一方を、バインダー及び溶媒と混合してペースト又はスラリーを形成し、次いで、これをアルミニウム又は銅等の集電体上にコーティングし、乾燥させ、集電体上に膜を形成することによって、アノード及びカソード(総称して「電極」)を形成する。次いで、アノード及びカソードを重ね、そして巻いた後、電解質材料を含む加圧ケーシングに入れ、これらを全て合わせてリチウムイオン電池を形成する。
【発明の概要】
【0004】
電極を作製する際には、集電体にコーティングされた膜が加圧された電池ケーシングに収まるように扱われたときであっても、集電体との接触が維持されるように、十分な密着性及び化学的特性を有するバインダーを選択することが重要である。膜には、電極活物質が含まれているため、膜が集電体との十分な接触を維持しないと、電池の電気化学的特性に大きな支障をきたす可能性がある。そのため、バインダーはリチウムイオン電池の性能を左右する重要な役割を担っている。スチレンブタジエンゴム/カルボキシメチルセルロース等の既存のバインダーは、活物質に対して非常に密着度が低い。リチウムイオン電池の用途が小型電子機器から電気自動車及び電力貯蔵庫等の大型電子機器に変化していく中で、安全性が高く、サイクル寿命が長く、エネルギー密度が高く、及び電力が高い等の、より優れた性能を有する、ケイ素及びその関連材料等の負極材料が必要とされている。既存のバインダーでは、この要求を満たすことができない。従って、これら要求を満たすために新しい水性バインダー組成物を開発する必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本開示の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本開示は、その適用において、以下の説明で明らかにされているか、或いは図面に示されている、構成要素若しくは工程の構造及び配置の詳細、又は方法論の詳細に限定されるものではないことを理解すべきである。本開示は、他の実施形態が可能であるか、或いは様々な方法で実行又は実施することが可能である。また、本明細書で使用されている表現及び用語は、説明を目的とするものであり、限定的なものとみなされるべきではないことを理解すべきである。
【0006】
本明細書で特に定義しない限り、本開示に関連して使用される技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。更に、文脈上特に必要がない限り、単数形の用語は複数を含み、複数形の用語は単数を含む。
【0007】
本明細書で言及される全ての特許、公開特許出願、及び非特許刊行物は、本開示が関連する技術分野の当業者の技術レベルを示すものである。本出願のいずれかの部分で参照されている全ての特許、公開特許出願、及び非特許刊行物は、個々の特許又は刊行物が参照により組み込まれることが具体的且つ個別に示されている場合と同程度に、その全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0008】
本明細書で開示される全ての物品及び/又は方法は、本開示に照らして、過度の実験をすることなく作製及び実行できる。本開示の物品及び方法を好ましい実施形態の観点から説明しているが、本開示の概念、意図及び範囲から逸脱することなく、物品及び/又は方法に、及び本明細書に記載された方法の工程又は工程の順序に変更を適用できることは、当業者であれば明らかである。当業者に明らかなそのような全ての類似の代替物及び修正は、本開示の意図、範囲及び概念の想定内であるとみなされる。
【0009】
本開示に従って利用される場合、以下の用語は、特に明記しない限り、以下の意味を有すると理解されるべきである。
【0010】
「含む(comprising)」という用語と組み合わせて使用される場合に「1つ(1種)(a)」又は「1つ(1種)(an)」という語句の使用は、「1つ(1種)(one)」を意味し得るが、「1つ(1種)以上(one or more)」、「少なくとも1つ(1種)(at least one)」、及び「1つ(1種)又はそれ以上(one or more than one)」の意味とも矛盾しない。「又は」という用語の使用は、代替案が相互に排他的である場合にのみ代替案を指すように明示されていない限り、「及び/又は」を意味するために使用されるが、本開示は、代替案及び「及び/又は」のみを指す定義を有する。本願全体を通して、「約」という用語は、値が、その値を決定するために採用される定量装置及び方法の誤差による固有のばらつき、又は試験対象間に存在するばらつきを含むことを示すために使用される。例えば限定するものではないが、「約」という用語を使用するとき、指定された値は、プラスマイナス12パーセント、11パーセント、10パーセント、9パーセント、8パーセント、7パーセント、6パーセント、5パーセント、4パーセント、3パーセント、2パーセント又は1パーセントのばらつきを示す可能性がある。「少なくとも1つ(1種)」という用語の使用は、1つ(1種)だけでなく、限定されないが、1、2、3、4、5、10、15、20、30、40、50、100等を含む1つ(1種)以上の任意の量を含むと理解する。「少なくとも1つ(1種)」という用語は、それが付されている用語に応じて、100、1000、又はそれ以上まで拡張できる。更に、100/1000という量は、下限又は上限でも満足のいく結果が得られるため、制限的なものとはみなされない。さらに、「X、Y、及びZのうち少なくとも1つ」という用語の使用は、X単独、Y単独、及びZ単独だけではなく、X、Y、及びZの任意の組み合わせを含むと理解する。序列番号の用語(即ち、「第1」、「第2」、「第3」、「第4」等)の使用は、単に2つ以上の項目を区別することを目的とし、特に記載しない限り、1つの項目に対する他の項目の、順序、序列若しくは重要性、又は追加の序列を意味するものではない。
【0011】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」(及び含む(comprising)の任意の形態、例えば「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」等)、「有する(having)」(及び有する(having)の任意の形態、例えば「有する(have)」及び「有する(has)」等)、「含む(including)」(及び含む(containing)の任意の形態、例えば「含む(includes)」及び「含む(include)」等)、又は「含む(containing)」(及び含む(containing)の任意の形態、例えば「含む(contains)」及び「含む(contain)」等)という語句は、包括的又はオープンエンド(open-ended)であり、列挙されていない追加の要素又は方法の工程を除外するものではない。本明細書で使用される「又はこの組み合わせ」という用語は、その用語の前に記載されている項目の全ての順列及び組み合わせを指す。例えば、「A、B、C、又はそれらの組み合わせ」は、A、B、C、AB、AC、BC又はABC、及び特定の文脈で順列が重要な場合には、BA、CA、CB,CBA、BCA、ACB、BAC又はCABを少なくとも1つ含むことも意図する。この例に続き、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABB等の1つ以上の項目又は用語の繰り返しを含む組み合わせが明示的に含まれる。当業者であれば、文脈から特に明らかでない限り、典型的には、任意の組み合わせの項目又は用語の数に制限がないことを理解する。
【0012】
本明細書で使用される場合、「コポリマー」という用語は、少なくとも2種の異なるモノマーの重合反応によって形成されたポリマーを指す。
【0013】
本明細書で使用される場合、「共重合」という用語は、ランダム、グラフト、ブロック等の全てのタイプの共重合を含む。一般に、本開示に従って使用されるコポリマーは、溶液共重合、スラリー共重合、気相共重合、及び高圧共重合プロセスを含む、任意の適切な触媒重合プロセスに従って調製できる。
【0014】
本明細書で使用される場合、「水性」又は「水性溶媒」という表現は、水、及び水と1種以上の水混和性溶媒とを含む混合物を含む。
【0015】
本開示は、リチウムイオン電池電極の製造用水性バインダー組成物を包含するものである。特に、バインダー組成物は、カチオン性コポリマーを含み、これは、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(AETAC)、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド(MAETAC)、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]-N-ベンジルジメチルアンモニウムクロリド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、及び3-(メタクリロイルアミノ)プロピル-ラウリル-ジメチルアンモニウムクロリド(MAPLDMAC)からなる群から選択される少なくとも1種のカチオン性モノマーと、アクリルアミド(AM)、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、酢酸ビニル(VA)、ビニルホルムアミド、アクリロニトリル(AN)、アクリレート、エチルヘキシルアクリレート、カルボキシエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びジエチルアミノエチルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも1種のノニオン性モノマーと、に由来するものとすることができる。
【0016】
コポリマーは、約5,000~約2,500,000ダルトン、又は約8,000~約2,000,000、又は約100,000~約1,500,000ダルトンの、又は約300,000~約1,000,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有することができる。
【0017】
水性バインダー組成物は、少なくとも1つのアニオン性ポリマーを更に含むことができる。アニオン性ポリマーの例としては、特に限定されないが、カルボキシメチルセルロース;カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース;カルボキシメチルグアー等のカルボキシアルキルグアー、並びにカルボキシメチルヒドロキシエチルグアー及びカルボキシメチルヒドロキシプロピルグアー等のカルボキシアルキルヒドロキシプロピルグアーを含むグアー誘導体;ポリアクリル酸;ポリ(アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸);アクリルアミド-2-メチルプロパンと、アクリルアミド、アクリロニトリル、アクリル酸又はアクリレートとに由来するコポリマー;アルギン酸塩;キトサン;カラギーナン;並びに2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPS)と、アクリル酸と、アクリルアミドと、3-アロイルオキシプロピルスルホン酸とに由来するテトラポリマーを挙げることができる。
【0018】
また、本開示は、水性バインダー組成物と、電極活物質と、導電剤とを含む水性スラリー組成物に関する。1つの非限定的な実施形態では、水性スラリー組成物は、分散剤及び水性溶媒を更に含むことができる。水性バインダー組成物は、前述のものと同じものである。
【0019】
電極活物質は、アノード活物質とすることができる。アノード活物質は、ケイ素含有電極活物質、又はSn若しくはTi等の金属含有物質とすることができる。1つの非限定的な実施形態では、ケイ素含有物質は、ケイ素、ケイ素-グラフェン、ケイ素-カーボンナノチューブ、ケイ素系合金、及びそれらの組み合わせとすることができる。
【0020】
また、アノード活物質は、酸化ケイ素又は炭素被膜酸化ケイ素を含むことができる。酸化ケイ素は、例えば、特に限定されないが、式SiO(式中、1≦x<2である)で表すことができる。炭素被膜酸化ケイ素は、式SiOC(式中、1≦x<2である)で表すことができ、更に、炭素対酸化ケイ素の重量比は、少なくとも50:50、又は約70:30~約99:1の範囲内、又は約80:10~約95:5、又は約90:10~約95:5の範囲内とすることができる。
【0021】
1つの非限定的な実施形態では、アノード活物質は、ケイ素-グラフェン組成物を含むことができる。例えば、本開示では、XG Sciences,Inc.(ミシガン州のランシング)から入手可能なXG-SIG(商標)ケイ素-グラフェンナノ複合材料を使用できる。他の非限定的な実施形態では、アノード活物質は、ケイ素合金、例えば、特に限定されないが、ケイ素チタンニッケル合金(STM)、及び/又はケイ素合金とグラファイトとの混合物を含むことができる。より具体的には、アノード活物質は、ケイ素合金とグラファイトの混合物を含むことができ、ケイ素合金は、約30~50重量%、又は約35~約45重量%、又は約37.5~約42.5重量%の範囲で存在し、グラファイトは、約50~約70重量%、又は約55~約65重量%、又は約57.5~約62.5重量%の範囲で存在する。
【0022】
電極活物質は、カソード活物質とすることができる。カソード活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物を含むか、リチウム含有遷移金属酸化物からなるか、或いは本質的にリチウム含有遷移金属酸化物からなる任意の材料とすることができる。カソード活物質は、1つの非限定的な実施形態では、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(LiNiCoAlO)、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(LiNiMnCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択できる。
【0023】
他の非限定的な実施形態では、カソード活物質は、元素によってドープすることができ、これとしては、限定されないが、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、ジルコニウム、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、フッ化物、及びそれらの組み合わせを挙げることができる。更に、薄いコーティング材料をカソード活物質の表面に塗布することもでき、これとしては、限定されないが、ZnO、In、SnO、Y、La、LiTiO、CaTiO、BaTiO、SrO、及びそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0024】
導電剤は、炭素系導電剤、グラファイト系導電剤、金属系導電剤及び金属化合物系導電剤から選択できるが、これらに特に限定されない。
【0025】
炭素系導電剤は、Super Pカーボンブラック(Imerys Graphite & Carbon Switzerland SAから市販されている)、ケッチェンブラック、デンカブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、サーマルブラック、又はチャネルブラックから選択できる。グラファイト系導電剤は、Imerys Graphite & Carbon Switzerland SAから市販されている、KS6又はKS15等のTIMREX(登録商標)グラファイトグレードとすることができる。カーボンナノチューブ(CNT)は、Cnano Technology Limited(カリフォルニア州のサンノゼ)から入手可能なLB 100又はLB 200シリーズとすることができる。金属又は金属化合物系導電剤は、スズ、酸化スズ又はリン酸スズ(SnPO)から選択できる。コーティング層中の導電剤の量は、スラリー組成物の総重量に基づいて、0.1~20重量%の範囲、又は0.5~10重量%の範囲、又は1~5重量%の範囲とすることができる。
【0026】
分散剤は、ポリアクリレート系樹脂;ポリエチレンオキシド;(EO)(PO)(EO)(式中、EOはエチレンオキシドを示し、POはプロピレンオキシドを示し、l及びmは1~500の数値範囲にある)のブロックポリマー;ポリ塩化ビニル(PVC);ポリビニルピロリドン(PVP);ポリアクリル酸(PAA);アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)ポリマー;アクリロニトリル/スチレン/アクリエステル(ASA)ポリマー;ABSポリマーとプロピレンカーボネートとの混合物;スチレン/アクリロニトリル(SAN)コポリマー;又はメチルメタクリレート/アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(MABS)ポリマーから選択できる。分散剤の量は、導電剤の0.1~20重量%の範囲で変化させることができる。分散剤の存在下では、導電剤を均一に分散できる。
【0027】
水性溶媒は、水及び/又は水溶媒とすることができる。該溶媒は、水に完全に溶解している。本開示のスラリーは、良好な安定性を有し、スラリーは、少なくとも24時間、又は少なくとも3日間、又は少なくとも5日間、目視で溶液中に留まることができる。一実施形態では、上記の水性スラリー組成物は、25℃、約1s-1~約40s-1の範囲の剪断速度で、約1,000mPa・s~約15,000mPa・sの範囲のブルックフィールド粘度、又は約4,000mPa・s~約11,000mPa・sの範囲のブルックフィールド粘度、又は約5,500mPa・s~約8,500mPa・sの範囲のブルックフィールド粘度を有する。
【0028】
本開示は、上述したような水性スラリー組成物を含むか、水性スラリー組成物からなるか、或いは本質的に水性スラリー組成物からなる電極と、集電体とを包含する。水性スラリー組成物が集電体の表面にコーティングされ、膜が形成される。電極活物質は、約70~約99重量%、又は約80~約95重量%、又は約85~約95質量%の範囲で膜中に存在し、導電性炭素は、約0.5~約15重量%、又は約2.5~約10重量%、又は約1~約4重量%の範囲で存在し、バインダー組成物は、約0.5~約15重量%、又は約2.5~約10重量%、又は約4~約11重量%の範囲で膜中に存在する。
【0029】
集電体は、アノード又はカソード活物質のいずれかの電気伝導体として機能する任意の材料を含むことができる。集電体は、アルミニウム、炭素、銅、ステンレス鋼、ニッケル、亜鉛、銀、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される材料で作製できる。1つの非限定的な実施形態では、アノード用集電体は銅箔を含む。別の非限定的な実施形態では、カソード用集電体はアルミニウム箔を含む。
【0030】
更に、本開示は、(1)水性バインダー組成物と、電極活物質と、導電剤と、任意の分散剤と、水性溶媒とを組み合わせて、水性スラリー組成物を形成する工程と、(2)水性スラリー組成物を集電体に塗布して、集電体上にスラリー層を含むコーティング付き集電体を形成する工程と、(3)コーティング付き集電体上のスラリー層を乾燥して、集電体上に膜を形成する工程と、を含み、膜及び集電体が電極を構成する、リチウムイオン電池用電極の製造方法を包含する。水性バインダー組成物、電極活物質、導電剤、分散剤、及び水性溶媒は、上述のものと同じものである。
【0031】
1つの非限定的な実施形態では、集電体上のスラリーを乾燥する工程(3)は、コーティング付き集電体を、約80~約175℃、又は100~約150℃の範囲の温度で、約0.5時間~約3時間、又は約1時間~約2時間の範囲の時間で加熱することを含む。
【0032】
電極の乾燥膜は、約20μm~約150μm、又は約30μm~約100μm、又は約30μm~70μmの範囲の厚さを有する。
【0033】
上記の膜は、上記の集電体の表面に結合して、結合を形成できる。一実施形態では、結合の密着強度は、以下で記載する90度剥離密着試験により測定して、少なくとも0.5gf/mm、又は少なくとも0.7gf/mm、又は少なくとも1.0gf/mmである。
【実施例
【0034】
<アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸-アクリルアミド(AMPS-AM)に由来するコポリマーの調製>
リフレックスコンデンサー(reflex condenser)と、機械式スターラーと、窒素入口ガス部とを備えた1Lの4つ口ガラス反応器中で重合を実施した。137.2gのAMPSナトリウム塩溶液(15モル%)と、120gのAM(85モル%)と、350gのDI水とを混合し、窒素下で混合物を形成した。この混合物を反応器に加え、窒素により約15分間スパージした。モノマーの総重量に基づいて、0.2重量%のVazo-50を水/エタノール(1:1重量比)に溶解し、Vazo-50溶液を調製した。反応器を約55~60℃に加熱した。Vazo-50溶液を添加して重合を開始させ、約6時間継続した。Vazo-50溶液を、1時間、2時間、3時間、4時間及び6時間のタイミングで反応器に加えた。6時間の間、約50~55℃に温度を維持した。その後、反応器の温度を約65~70℃に上げ、得られた粘性材料を約10~16時間撹拌した。最後に、反応器の内容物を取り除き、3~5mmHgの真空下、約65℃で約5~7時間乾燥させた。得られた固体を、後述のアニオン性ポリマー(AMPS-AM)として使用するために粉砕して粉末にした。
【0035】
<粘度試験用及び密着試験用ケイ素スラリーの調製>
表1に列挙された成分を用いてスラリーを調製した。表1に列挙されたアノード活物質に関して、650mAh/g SiOは、BTR Energy Materials Co.,LTD(中国の深)から市販されている、グラファイトと酸化ケイ素との粉末混合物を表している。680mAh/g SiOは、グラファイト(BTR Energy Materials Co.,LTDから市販)と、SiO(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ(日本の兵庫県の尼崎)から市販)との粉末混合物を表し、75:25(グラファイト対酸化ケイ素)の重量比で、約350mAh/gの初期容量を有する。
導電性カーボンであるC-NERGY(商標)Super C65(Imerys Graphite&Carbon,Bodio,Switzerlandから市販)を表1に列挙された導電剤として使用した。各成分の含有量を、スラリーの総重量に基づいて示す。
【0036】
【表1】
【0037】
N-Hance(商標)SP100:アクリルアミドプロピルトリモニウムクロリド/アクリルアミドコポリマー、Ashland LLCから市販
N-DurHance(商標)AA200:(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドの高電荷ホモポリマー、Ashland LLCから市販
Prasetol(商標)644BC:アクリルアミドプロピルトリモニウムクロリド/アクリルアミドコポリマー、Solenis LLCから市販
Prasetol(商標)611BC:アクリルアミドプロピルトリモニウムクロリド/アクリルアミドコポリマー、Solenis LLCから市販
Prasetol(商標)610BC:アクリルアミドプロピルトリモニウムクロリド/アクリルアミドコポリマー、Solenis LLCから市販
Prasetol(商標)852BC:アクリルアミドプロピルトリモニウムクロリド/アクリルアミドコポリマー、Solenis LLCから市販
N-Hance(商標)4572:グアー及びグアー誘導体、Ashland LLCから市販
N-Hance(商標)3215:グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、Ashland LLCから市販
XxtraDura(商標)FLA 3766:流体損失添加剤、Ashland LLCから市販
CMC 7LF:Aqualon(商標)カルボキシメチルセルロースナトリウム、Ashland LLCから市販
CMC 7HO:Blanose(商標)カルボキシメチルセルロースナトリウム、Ashland LLCから市販
CMC MAC 350:Sunrose(登録商標)カルボキシメチルセルロース、日本製紙グループ本社(日本)から市販
* 1.3重量%のZeon(登録商標)BM-480Bを含むもの:スチレンブタジエンラテックス、日本ゼオン株式会社(日本の東京)から市販
【0038】
<スラリーのレオロジー測定>
表1に列挙されたスラリー組成物の粘度は、Brookfield Engineering Laboratories,Inc.(マサチューセッツ州のミドルボロ)製のBrookfield(登録商標)粘度計を用いて、スピンドル(spindle)4を用いて3rpm及び30rpmで測定した。混合直後と混合3日後に、17mLバイアル瓶中で直接粘度を測定した。その結果を表2に列挙した。また、スラリーの安定性も表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
<密着度の測定>
銅集電体にスラリー組成物をコーティング及び乾燥して形成した電極に対して、90度剥離試験を行うことで密着度の測定を実施した。Instron(登録商標)(マサチューセッツ州のノーウッド)製の剥離試験用固定具を使用して90度剥離試験を行った。電極は、2.5~3.5mg/cmの荷重及び4.0~5.0mg/cmの荷重で試験した。個々の電極試料を、3M Corporation(ミネソタ州のセントポール)製の3M(登録商標)両面スコッチテープを用いてステンレス板に取り付けた後、スコッチテープに貼り付けた膜を、Instron(登録商標)装置で1フィート/分の速度で剥がし、その間のInstron(登録商標)装置で集電体から膜を剥がすのに必要な力を測定した。その結果を表3に列挙する。
【0041】
【表3】
【国際調査報告】