(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】がん治療のためのトポイソメラーゼII触媒阻害剤化合物による治療、方法、及び使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/44 20060101AFI20220106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220106BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220106BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220106BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20220106BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20220106BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20220106BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20220106BHJP
A61K 31/444 20060101ALI20220106BHJP
A61K 31/428 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A61K31/44
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/4439
A61K31/167
A61K31/55
A61K31/496
A61K31/444
A61K31/428
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521237
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(85)【翻訳文提出日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 CA2019051209
(87)【国際公開番号】W WO2020077437
(87)【国際公開日】2020-04-23
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】300066874
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・ブリティッシュ・コロンビア
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【氏名又は名称】中尾 洋之
(72)【発明者】
【氏名】チェルカソフ,アルチョーム
(72)【発明者】
【氏名】アルペルスタイン,ザッカリー
(72)【発明者】
【氏名】ドン,シュエセン
(72)【発明者】
【氏名】シェ,ニン
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC31
4C086BC50
4C086BC84
4C086CB29
4C086GA02
4C086GA08
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC20
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA07
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB26
4C206ZB27
4C206ZC20
(57)【要約】
本開示は式II、及びIIIの構造を有するトポイソメラーゼII阻害化合物、及びがんの治療において使用するためのその組成物を提供する。特に、前記トポイソメラーゼII阻害化合物はトポイソメラーゼIIの触媒阻害剤であってもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トポイソメラーゼIIを阻害する方法であって、下記式IIの構造を有する化合物を投与することを含む、方法。
式中、
A
2はS及びOから選択され、
D
2はN及びCHから選択され、
M
3はHであり、
QはC及びNから選択され、
T
1はH、
から選択され、
QがNである場合にはT
2が存在せず、又はQがCである場合にはH、F、Cl、Br,
から選択されるが、但しT
1、及びT
2の両方がHであることはなく、
Z
1はH、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択され、
Z
2はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択され、
Z
3はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択され、
LはH、CH
3、CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、NH
2、OH、OCH
3、OCH
2CH
3、F、Cl、Br、及びCF
3から選択され、
G
1はO、S、CH
2、及びNHから選択され、
G
2はO、S、CH
2、及びNHから選択され、
G
3はO、S、CH
2、及びNHから選択され、
R
a及びR
bはHであり、
R
1はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から独立に選択され、
R
2はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から独立に選択され、
R
3はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から独立に選択され、
R
6はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択され、かつ
R
7はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
F、Cl、Br及びCF
3から選択される。
【請求項2】
トポイソメラーゼIIを阻害する方法であって、下記式IIIの構造を有する化合物を投与することを含む、方法。
式中、
A
3はSH、OH、及びOCH
3から選択され、
D
3はN及びCから選択され、
あるいは、D
3がCである場合にはA
3はH又はSCH
3であり、
M
4は存在しないか、H、Cl、F、Brから選択され、
M
5はH、CH
3、Cl、F、及びBrから選択され、
QはC及びNから選択され、
T
1はH、
から選択され、
QがNである場合にはT
2が存在せず、又はQがCである場合にはH、F、Cl、Br,
から選択されるが、但しT
1、及びT
2の両方がHであることはなく、
Z
1はH、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択され、
Z
2はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択され、
Z
3はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択され、
LはH、CH
3、CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、NH
2、OH、OCH
3、OCH
2CH
3、F、Cl、Br、及びCF
3から選択され、
G
1はO、S、CH
2、及びNHから選択され、
R
a及びR
bはHであり、
R
1はOCH
3、及びNHC(=O)CH
2CH
3から選択され、
R
6はH、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
及びCF
3から選択され、
R
7はH、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
及びCF
3から選択され、
JはH、CH
3、NH
2、OH、OCH
3、F、Cl、Br、及びCF
3から選択され、
E
1はO、S、CH
2、及びNHから選択され、かつ
E
2はO、S、CH
2、及びNHから選択される。
【請求項3】
トポイソメラーゼIIの阻害は触媒阻害である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
トポイソメラーゼIIの阻害はがんの治療のための阻害である請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記がんは、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんから選択される1以上のがんである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記前立腺がんは、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、前立腺腺がん、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)、アンドロゲン受容体経路阻害剤(ARPI)抵抗性前立腺がん、エンザルタミド(ENZ)抵抗性(ENZ
R)、及びアビラテロン(Abi)抵抗性(ABI
R)から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
の1以上から選択される請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
式II又はIIIの前記化合物は、タキソール及び/又はトポイソメラーゼポイズンと組み合わせて投与されるか、及び/又は前立腺がんの治療のためのアンドロゲン受容体(AR)療法と併用して投与される請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
式II又はIIIの化合物、及び薬学的に許容される担体を含有する、がん治療用医薬組成物。
【請求項10】
前記がんは、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんから選択される1以上のがんである請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
式II又はIIIの化合物の、がん治療のための使用。
【請求項12】
がん治療用医薬の製造における式II又はIIIの化合物の使用。
【請求項13】
前記がんは、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんから選択される1以上のがんである請求項11又は12に記載の使用。
【請求項14】
(a)式II又はIIIのうちいずれか1つの化合物及び薬学的に許容される担体と、(b)がんの治療のためのその使用のための添付文書とを含む商用パッケージ。
【請求項15】
(a)式II又はIIIのうちいずれか1つの化合物及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物と、(b)がんの治療のためのその使用のための添付文書とを含む商用パッケージ。
【請求項16】
前記がんは、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんから選択される1以上のがんである請求項14又は15に記載の商用パッケージ。
【請求項17】
の構造を有する化合物を投与することを含む、トポイソメラーゼIIを阻害する方法。
【請求項18】
トポイソメラーゼIIの阻害は触媒阻害である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
トポイソメラーゼIIの阻害はがんの治療のための阻害である請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記がんは、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんから選択される1以上のがんである請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記前立腺がんは、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、前立腺腺がん、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)、アンドロゲン受容体経路阻害剤(ARPI)抵抗性前立腺がん、エンザルタミド(ENZ)抵抗性(ENZ
R)、及びアビラテロン(Abi)抵抗性(ABI
R)から選択される請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記化合物は、タキソール及び/又はトポイソメラーゼポイズンと組み合わせて投与されるか、及び/又は前立腺がんの治療のためのアンドロゲン受容体(AR)療法と併用して投与される請求項17~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
がんの治療において使用するための化合物であって、該化合物は以下の化合物から選択される1以上である、化合物。
【請求項24】
がんの治療はトポイソメラーゼIIの阻害によるものである請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
がんの治療はトポイソメラーゼIIの触媒阻害である請求項23又は24に記載の化合物。
【請求項26】
前記がんは、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんから選択される1以上のがんである請求項23、24又は25に記載の化合物。
【請求項27】
前記前立腺がんは、神経内分泌前立腺がん(NEPC)、前立腺腺がん、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)、アンドロゲン受容体経路阻害剤(ARPI)抵抗性前立腺がん、エンザルタミド(ENZ)抵抗性(ENZ
R)、及びアビラテロン(Abi)抵抗性(ABI
R)から選択される請求項26に記載の化合物。
【請求項28】
前記化合物は、タキソール及び/又はトポイソメラーゼポイズンと組み合わせて投与されるか、及び/又は前立腺がんの治療のためのアンドロゲン受容体(AR)療法と併用して使用される請求項23~27のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項29】
から選択される請求項23~28のいずれか1項に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は2018年10月19日に出願された「がん治療のためのトポイソメラーゼII触媒阻害剤化合物による治療、それに関連する方法及び使用」というタイトルの米国仮出願第62/747,821号に基づく利益を主張する。
[技術分野]
【0002】
本発明はトポイソメラーゼII阻害剤の分野に関する。特に、本発明はがんの治療において使用するためのトポイソメラーゼII阻害剤化合物に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞分裂している間、DNAは1分あたり2キロベースという平均速度で素早く複製される必要があり、そのため超らせん二次構造は非常に不利である、といった厳しい制限がDNAトポロジーに課せられる1。トポイソメラーゼは、DNAを更に操作するためにDNAの超らせん構造を弛緩するのに重要な役割を果たす。特に、ヒトトポイソメラーゼIIαは正のDNA超らせんを負の超らせんよりも10倍速く取り外し(すなわち、弛緩し)、DNA複製に関与する。一方、トポイソメラーゼIIβはDNA複製において何らかの役割を果たしているとは考えられておらず、正と負の超らせんねじれを同じ速度で弛緩する20。
【0004】
トポイソメラーゼII(TopoII)は周知のがん治療標的であって、トポイソメラーゼ阻害剤はヒト悪性腫瘍の治療のために現在使用されているもっとも重要な化学療法剤である。例えば、エトポシドは1971年にクリニックに導入され、多種多様な固形腫瘍及び血液学的腫瘍に対する化学療法用化合物として今も最も使用され続けている化合物の一つである。しかしながら、エトポシドの毒性は、急速に分裂する細胞を標的とする際に有効なだけでなく、望まれていない標的外の(オフターゲットの)活性に対しても作用を及ぼす。エトポシドは毒物として知られるトポイソメラーゼ阻害剤のクラスの一員である。毒はTopoII-DNA複合体に結合することにより二本鎖DNA(dsDNA)の切断を安定化し、細胞死へといざなう。残念なことに、毒は標的外への重篤な副作用にも関与し、場合によっては二次性白血病を引き起こすことすらある2。トポイソメラーゼII阻害剤には触媒阻害剤として知られている別のクラスもある。触媒阻害剤は二本鎖DNAの切断を安定化しないため、高く評価されている。トポイソメラーゼII触媒阻害剤はトポイソメラーゼIIのN末端ATPaseドメインを標的とし、DNA-topoIIクリーバブル複合体を安定化することなくトポイソメラーゼII媒介DNA切断を抑制する。いくつかのトポイソメラーゼII触媒阻害剤(すなわちデクスラゾキサン(ICRF)、ソブゾキサン(MST-16)、及びメルバロン)が知られている。残念なことに、これまでのところ、治験が完了した触媒阻害剤はクリニックには十分行き渡っていない3。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、本明細書に記載の化合物がトポイソメラーゼII触媒活性を調整するという驚くべき発見に部分的に基づく。具体的には、本明細書で特定される化合物の中にはがん細胞におけるトポイソメラーゼII触媒活性をも阻害するものがある。例えば、がん細胞は、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんのうち1以上のがんから選択される細胞であってもよい。
【0006】
一実施形態によれば、トポイソメラーゼIIを阻害する方法であって、式IIの構造を有する化合物を投与することを含む方法が提供される。
式中、A
2はS及びOから選択されてもよく、D
2はN及びCHから選択されてもよく、M
3はHであってもよく、QはC及びNから選択されてもよく、T
1はH、
から選択されてもよく、QがNである場合、T
2は存在しなくてもよく、又はQがCである場合、T
2はH、F、Cl、Br、
から選択されてもよいが、但しT
1、及びT
2の両方がHであることはなく、Z
1はH、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択されてもよく、Z
2はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択されてもよく、Z
3はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択されてもよく、LはH、CH
3、CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、NH
2、OH、OCH
3、OCH
2CH
3、F、Cl、Br、及びCF
3から選択されてもよく、G
1はO、S、CH
2、及びNHから選択されてもよく、G
2はO、S、CH
2、及びNHから選択されてもよく、G
3はO、S、CH
2、及びNHから選択されてもよく、R
a及びR
bはHであってもよく、R
1はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から独立に選択されてもよく、R
2はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から独立に選択されてもよく、R
3はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から独立に選択されてもよく、R
6はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択されてもよく、かつR
7はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
F、Cl、Br及びCF
3から選択されてもよい。
【0007】
別の実施形態によれば、トポイソメラーゼIIを阻害する方法であって、下記式IIIの構造を有する化合物を投与することを含む方法が提供される。
式中、A
3はSH、OH、及びOCH
3から選択されてもよく、D
3はN及びCから選択されてもよいが、D
3がCである場合にはA
3はH又はSCH
3であってもよく、M
4は存在しないか、H、Cl、F、Brから選択されてもよく、M
5はH、CH
3、Cl、F、及びBrから選択されてもよく、QはC及びNから選択されてもよく、T
1はH、
から選択されてもよく、QがNである場合、T
2は存在しなくてもよく、又はQがCである場合、T
2はH、F、Cl、Br,
から選択されてもよいが、但しT
1、及びT
2の両方がHであることはなく、Z
1はH、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択されてもよく、Z
2はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択されてもよく、Z
3はH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、OC(CH
3)(CH
3)CH
3、
F、Cl、Br、及びCF
3から選択されてもよく、LはH、CH
3、CH
2CH
3、CH(CH
3)CH
3、NH
2、OH、OCH
3、OCH
2CH
3、F、Cl、Br、及びCF
3から選択されてもよく、G
1はO、S、CH
2、及びNHから選択されてもよく、R
a及びR
bはHであってもよく、R
1はOCH
3、及びNHC(=O)CH
2CH
3から選択されてもよく、R
6はH、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
及びCF
3から選択されてもよく、R
7はH、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
3、OCH
2CH
3、OCH
2CH
2CH
3、OCH
2CH(CH
3)CH
3、OCH(CH
3)CH
3、NHC(=O)CH
2CH
3、
及びCF
3から選択されてもよく、JはH、CH
3、NH
2、OH、OCH
3、F、Cl、Br、及びCF
3から選択されてもよく、E
1はO、S、CH
2、及びNHから選択されてもよく、かつE
2はO、S、CH
2、及びNHから選択されてもよい。
【0008】
トポイソメラーゼIIの阻害は触媒阻害であってもよい。トポイソメラーゼIIの阻害はがんの治療のための阻害であってもよい。上記がんは、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんのうち1以上のがんから選択されてもよい。上記前立腺がんは神経内分泌前立腺がん(NEPC)、前立腺腺がん、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)、アンドロゲン受容体経路阻害剤(ARPI)抵抗性前立腺がん、エンザルタミド(ENZ)抵抗性(ENZ
R)、及びアビラテロン(Abi)抵抗性(ABI
R)から選択されてもよい。上記化合物は以下の化合物のうち1以上から選択されてもよい。
【0009】
式II又はIIIの化合物はタキソール及び/又はトポイソメラーゼポイズンと組み合わせて投与されるか、及び/又は前立腺がんの治療のためのアンドロゲン受容体(AR)療法と併用して投与されてもよい。
【0010】
別の実施形態によれば、式II又はIIIの化合物及び薬学的に許容される担体を含有する、がん治療用医薬組成物が提供される。
【0011】
別の実施形態によれば、式II又はIIIの化合物の、がんの治療のための使用が提供される。
【0012】
別の実施形態によれば、がん治療用医薬の製造における式II又はIIIの化合物の使用が提供される。
【0013】
別の実施形態によれば、(a)式II又はIIIのうちいずれか1つの化合物及び薬学的に許容される担体と、(b)がんの治療のためにそれを使用するための添付文書と、を含む商用パッケージが提供される。
【0014】
別の実施形態によれば、(a)式II又はIIIのうちいずれか1つの化合物及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物と、(b)がんの治療のためにそれを使用するための添付文書と、を含む商用パッケージが提供される。
【0015】
別の実施形態によれば、
の構造を有する化合物を投与することを含む、トポイソメラーゼIIの阻害方法が提供される。
【0016】
別の実施形態によれば、がんの治療において使用するための化合物であって、該化合物は以下の化合物から選択される1以上である、化合物が提供される。
【0017】
上記がんの治療はトポイソメラーゼIIの阻害によるものであってもよい。上記がんの治療はトポイソメラーゼIIの触媒阻害によるものであってもよい。上記がんは、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんのうち1以上から選択されてもよい。上記前立腺がんは神経内分泌前立腺がん(NEPC)、前立腺腺がん、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)、アンドロゲン受容体経路阻害剤(ARPI)抵抗性前立腺がん、エンザルタミド(ENZ)抵抗性(ENZ
R)、及びアビラテロン(Abi)抵抗性(ABI
R)から選択されてもよい。上記化合物はタキソール及び/又はトポイソメラーゼポイズンと組み合わせて投与されるか、及び/又は前立腺がんの治療用アンドロゲン受容体(AR)療法と併用して投与されてもよい。上記化合物は
から選択されてもよい。
【0018】
上記化合物は式II又は式IIIの構造を有していてもよい。
式中、A
2はS及びOから選択されてもよく、A
3はSH、SCH
3、OH、及びOCH
3から選択されてもよく、D
2はN及びCHから選択されてもよく、D
3はN及びCから選択されてもよく、M
3はHであってもよく、M
4は存在しないか、H、Cl、F、及びBrから選択されてもよく、M
5はH、CH
3、Cl、F及びBrから選択されてもよい。
【0019】
トポイソメラーゼIIの阻害は触媒阻害であってもよい。トポイソメラーゼIIの阻害はがんの治療のための阻害であってもよい。上記がんは、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんのうち1以上から選択されてもよい。上記前立腺がんは神経内分泌前立腺がん(NEPC)、前立腺腺がん、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)、アンドロゲン受容体経路阻害剤(ARPI)抵抗性前立腺がん、エンザルタミド(ENZ)抵抗性(ENZR)、及びアビラテロン(Abi)抵抗性(ABIR)から選択されてもよい。式II又はIIIの化合物はタキソール及び/又はトポイソメラーゼポイズンと組み合わせて投与されてもよく、かつ前立腺がんの治療のためのアンドロゲン受容体(AR)療法と併用して投与されてもよい。式II又はIIIの化合物はタキソール及び/又はトポイソメラーゼポイズンと組み合わせて投与されてもよく、及び/又は前立腺がんの治療用のアンドロゲン受容体(AR)療法と併用して投与されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は化合物#60(T60又はTop60)がTOP2活性を阻害していることを示している。(a)50μMのエトポシド、50μMのICRF193又は0~50μMのTop60化合物の存在下、キネプラストDNAカテナンをヒトTOP2aと共に37℃で1時間インキュベートした。0.8%アガロースゲル上での電気泳動によりDNA試料を分離し、エチジウムブロマイド染色により可視化した。K-DNA、及びデカネテートされた(decatenated)(D)DNA産物の位置を矢印で示す。実験を5回繰り返し、Dバンドのデンシトメトリーを用いてIC50を計算するための阻害カーブを確立した。(b)50μMのエトポシド、50μMのICRF193又は0~50μMの化合物#60(Top60化合物)の存在下、超らせん構造を有するpHOT(商標)プラスミドをヒトTOP2aと共に37℃で1時間インキュベートした。1%アガロースゲル上での電気泳動によりDNA産物を分離し、エチジウムブロマイド染色により可視化した。超らせん構造の(SC)DNA、切断された(nicked)(N)DNA、及び弛緩された(R)DNAのバンドの位置を矢印で示す。実験を5回繰り返し、SCバンドのデンシトメトリーを用いてIC50を計算するための阻害カーブを確立させた。(c)mAMSA又は化合物#60(Top60)のいずれかを0、5、10、25、及び50μMの濃度で添加する前に、超らせん構造を有するpHOT(商標)プラスミドをトポイソメラーゼIと共に37℃で30分間インキュベートした。1%SDSにより、37℃で15分間反応を停めた。1%アガロースゲル上での電気泳動によりDNA産物を分離し、エチジウムブロマイド染色により可視化した。超らせん構造の(SC)DNA及び弛緩された(R)DNAのバンドの位置を矢印で示す。(d)切断アッセイ:超らせん構造のpHOTプラスミドを用いて、ビヒクル、並びに各50μMのエトポシド、ICRF193、及び化合物#60(Top60)の存在下、DNA切断アッセイを行った。超らせん構造の(SC)DNA、切断された(N)DNA、及び弛緩された(R)DNAのバンドの位置を矢印で示す。
【0021】
【
図2】
図2は、Top60が細胞周期の中のS期におけるDNA合成を阻害することを示す。(a)HeLa細胞をビヒクル又は20μMのTop60、エトポシド又はICRF187と共に48時間処理した。BrdUの取り込み率はMillipore(商標)BrdU取り込みキット(BrdU incorporation kit)(CAT#2750)により決定した。(b-c)HeLa細胞をビヒクル又は20μMのTop60と共に48時間処理した。次に細胞をAPC-BrdU及び7-AADで4時間染色し、FACSアッセイを行い、Sub-G0/G1期、G0/G1期、S期、及びG2/M期における細胞数を決定した。3つの独立した実験から結果を収集した。(d-e)HeLa細胞をビヒクル又は20μMのT60のいずれかと共に48時間処理した。細胞を固定し、DAPI及びファロイジンで共染色し、共焦点顕微鏡で調べた。5つの高倍率視野から50個の細胞を選択して、ImageJソフトウェアで核の大きさを分析した。明視野顕微鏡像の代表的なものも同様に示した。スケールバーは50μmである。
【0022】
【
図3】
図3はTop60が細胞増殖を阻害するが、その細胞毒性は低いことを示している。(a)HeLa細胞を0、1、5、10、15、及び20μMのTop60、エトポシド、及びICRF187で48時間処理した。細胞培養培地からLDHレベルを測定することにより細胞毒性を評価した。(b)K562細胞をビヒクル又は10-20μMのTop60、エトポシド、及びICRF187のうちいずれかで4時間処理した。細胞溶解物全体を回収してローディング対照としてのビンキュリンを用いてγH2AXレベルを測定した。(c)K562細胞を0、1、5、10、15、及び20μMのTop60、20μMのエトポシド、又は20μMのICRF187で48時間処理した。細胞増殖率をMTSアッセイで測定した。(d)K562細胞を20μMのTop60、エトポシド又はICRF187で0、24、48、及び72時間処理した。細胞増殖率をMTSアッセイで測定した。3つの独立した実験から全結果を収集した。
【0023】
【
図4】
図4は細胞内でのTop60のオンターゲット効果を示す。(a)K562細胞をビヒクル又は20μMのTop60で2時間処理した後、図中に示した異なる温度に曝露した。細胞溶解物全体を回収し、その細胞溶解物全体をローディング対照としてのβ-アクチンを用いてTOP2α、TOP2βのタンパク質レベルを測定するのに使用した。(b)K562細胞を0、1、及び10μMのTop60で24時間処理した。タンパク質溶解物を可溶性核抽出液、クロマチン画分、又は細胞溶解物全体から回収した。TOP2α及びTOP2βタンパク質レベルを、ローディング対照としてのラミンA/C、ヒストンH3、及びβ-Actinを用いた免疫ブロット法により決定した。(c)0.5μMのエトポシドで細胞を6ヶ月間処理することによりエトポシド抵抗性K562細胞株を確立した。TOP2α、TOP2β、及びβ-アクチンのタンパク質レベルを免疫ブロット法により測定した。エトポシド抵抗性K562細胞を0、1、10、15及び20μMのTop60、エトポシド、又はICRF187で48時間処理した。細胞増殖率をMTSアッセイで測定した。
【0024】
【
図5】
図5は相互作用数に基づくヒストグラムを示す。図中、各残基に対して時点ごとに数をマーキングし(下側の図)、相互作用の総数を上側のヒストグラムに示す。
GLN789と
GLY793との間に相互排他性がある点には注意。
【0025】
【
図6】
図6は特異的相互作用型のタンパク質-リガンド相互作用ヒストグラムを示す。
【0026】
【
図7】
図7はタンパク質-リガンド相互作用図を示し、図中ではシミュレーションの20%を超える相互作用のみを示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の発明の詳細な説明は、添付の図面を組み合わせて読むことによりよりよく理解できるであろう。発明を例示する目的で、図面は本発明の実施形態を示している。しかしながら、本発明は示された正確な配置、例、及び手段に限定されるものではない。
【0028】
これまでのトポイソメラーゼII触媒阻害剤の性能は高くなかったが、本発明者らは触媒阻害剤の設計におけるこのようなこれまでの失敗はその阻害の機構によるものではなく、有毒なスキャフォールド(scaffolds)又は最適ではないリガンド結合部位の存在によるものであると考えている。例えば、ICRF(すなわちIUPAC名4-[2-(3,5-ジオキソ-1-ピペラジニル)-1-メチルプロピル]ピペラジン-2,6-ジオン;CAS番号21416-68-2;デクスラゾキサン;ICRF-187又はICRF-193)はTopoIIの潜在的触媒阻害剤である。しかしながら、それが結合するポケットは小さく、そのためその医薬品化学の範囲は制限されている。コンピュータ支援創薬(CADD)キャンペーンはTopoII上の新規なポケットに対し、ZINC154データベースから約600万個の分子をスクリーニングすることから始まった。これは、種々の仮想スクリーニングプログラム5からコンセンサススコアリングを実行することにより容易になる。我々の高度にコーディネートされたin-silico(イン・シリコ)、及びウェットラボの合理的な創薬パイプラインを用いることで、我々は潜在性の高い触媒阻害剤をいくつか発見し、特性を評価することに成功した。特に、化合物の1つである化合物60がナノモルレベルのIC50でTopoIIを阻害することが示された。更に、弛緩アッセイにおいてトポイソメラーゼIIと共にインキュベーションする際に直鎖DNAが形成されないことから、特定された薬剤候補は毒としては作用しないことが本明細書内において実証された。興味深いことに、化合物60がデカテネーションチェックポイントにおいてDNA複製をブロックする可能性があり、それにより核を大きくすることを見いだした。最後に、本明細書においては、生物学的実験及びin-silico実験に基づく、リード化合物の作用機序が提案される。
【0029】
興味深いことに、公知のトポイソメラーゼII阻害剤であるメルバロン(すなわちCAS番号97534-21-9;5-(N-フェニルカルバモイル)-2-チオバルビツール酸)は、本明細書中で特定したトポイソメラーゼII触媒阻害剤化合物の一部と構造的に類似している。メルバロンの構造は
である。
【0030】
本明細書中で直接定義していない語は、一般的に本発明の属する技術分野において理解されるような、それらに一般的に関連する意味を有するものとして理解される。
【0031】
トポイソメラーゼII複合体は直接阻害のため格好の標的である。ZINCデータベースから600万個を超える購入可能な化合物の仮想スクリーニングを行うのにin-silicoコンピュータ援用創薬法を使用し(Irwin,J.ら、Abstracts of Papers Am.Chem.Soc.(2005)230:U1009)、潜在的トポイソメラーゼII複合体結合体を特定した。in-silico法は大規模なドッキング、in-site再スコアリング、及びコンセンサス投票(consensus voting)手順を含んでいた。
【0032】
当業者は、COOH及びNR2がそれに対応するイオン、例えば、それぞれカルボキシレートイオンやアンモニウムイオンを含んでもよいことを理解するであろう。また上記イオンが示されている場合、当業者であれば対イオンも存在することを認識するであろう。
【0033】
本明細書に記載の上記化合物に対して基(moiety)が共有結合している点は、例えば、特に限定されないが、特定の条件下で切断することができることを当業者であれば認識するであろう。特に限定されないが、特定の条件はin vivo(イン・ビボ)での酵素的又は非酵素的手段であってもよい。特に限定されないが、基の切断は、例えば自発的に起こってもよく、また触媒作用によって引き起こされてもよく、他の剤によって誘導されてもよく、あるいは物理的パラメータ又は環境パラメータ(例えば、酵素、光、酸、体温、又はpH)の変化によって誘導されてもよい。上記基は、特に限定されないが、例えば、官能基をマスクするように作用する保護基であってもよく、1以上の能動若しくは受動輸送機構のための基質として作用する基であってもよく、上記化合物にある特性(例えば溶解性、生化学的利用能、又は局在化など)を付与する、又は特性を高めるように作用する基であってもよい。
【0034】
ある実施形態においては、本明細書に記載の式II、及びIIIの化合物は、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんからなる群から選択される1以上の徴候の全身的治療のために使用されてもよい。あるいは、式IIとIIIの化合物が、前立腺がん、乳がん、結腸がん、子宮頸がん、小細胞肺がん、神経芽細胞腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、及び骨髄性白血病からなる群から選択される1以上の徴候の全身的治療のために使用されてもよい。ある実施形態においては、式IIとIIIの化合物が、本明細書に記載の徴候の全身的治療用の医薬又は組成物の製造において使用されてもよい。ある実施形態においては、本明細書に記載の徴候の全身的治療の方法もまた提供される。
【0035】
本明細書に記載の化合物は遊離型であってもよく、その塩の形態であってもよい。ある実施形態においては、本明細書に記載の化合物は、当該技術分野で公知の薬学的に許容される塩であってもよい(Berge S.M.ら、J.Pharm.Sci.(1977)66(1):1-19)。本明細書に記載の薬学的に許容される塩は、例えば、親化合物の所望の薬学的活性を有する塩(親化合物の生物学的作用及び/又は生物学的特性を保持しつつ、生物学的に及び/又は他の理由で望ましくない塩に該当しない塩)を含んでもよい。塩を形成することができる1つ以上の官能基を有する本明細書に記載の化合物は、例えば、薬学的に許容される塩として形成されてもよい。塩基性官能基を1つ以上含んでいる化合物は、例えば、薬学的に許容される有機酸又は無機酸と共に薬学的に許容される塩を形成することができるものであってもよい。薬学的に許容される塩は、特に限定されないが、例えば、酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスパラギン酸、アスコルビン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、酪酸、桂皮酸、クエン酸、樟脳酸、カンファースルホン酸、シクロペンタンプロピオン酸、ジエチル酢酸、ジグルコン酸酸、ドデシルスルホン酸、エタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、グルコヘプタン酸(glucoheptanoic acid)、グルコン酸、グリセロリン酸、グリコール酸、ヘミスルホン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、イソニコチン酸、乳酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ニコチン酸、硝酸、シュウ酸、パモ酸、ペクチニン酸、3-フェニルプロピオン酸、リン酸、ピクリン酸、ピメリン酸、ピバル酸、プロピオン酸、ピルビン酸、サリチル酸、コハク酸、硫酸、スルファミン酸、酒石酸、チオシアン酸、又はウンデカン酸に由来するものであってもよい。酸性官能基を1つ以上含んでいる化合物は、例えば、薬学的に許容される塩基と共に薬学的に許容される塩類を形成することができるものであってもよく、例えば、特に限定されないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を基礎とする無機塩基、又は第一級アミン化合物、第二級アミン化合物、第三級アミン化合物、第四級アミン化合物、置換アミン、天然置換アミン、環状アミンなどの有機アミン、又は塩基性イオン交換樹脂であってもよい。薬学的に許容される塩類は、特に限定されないが、例えば、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン若しくはアルミニウムなどの薬学的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩又は重炭酸塩、アンモニア、ベンザチン、メグルミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、グルカミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、プロカイン、N-エチルピペリジン、テオブロミン、テトラメチルアンモニウム化合物、テトラエチルアンモニウム化合物、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ジシクロヘキシルアミン、ジベンジルアミン、N,N-ジベンジルフェネチルアミン、1-エフェンアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、又はポリアミン樹脂に由来するものであってもよい。ある実施形態においては、本明細書に記載の化合物は酸性と塩基性の両方の基を含んでいてもよく、分子内塩又は双性イオンの形態であってもよく、特に限定されないが、例えばベタインであってもよい。本明細書に記載の塩は当業者に公知の従来の方法によって製造してもよく、特に限定されないが、例えば遊離型を有機酸若しくは無機酸又は塩基と反応させるか、又は他の塩からアニオン交換若しくはカチオン交換によって製造してもよい。当業者であれば、化合物の単離、及び精製中にin situで調製するか、又は単離若しくは生成された化合物を別途反応させることによって塩が調製され得ることを認識するであろう。
【0036】
ある実施形態においては、本明細書に記載の化合物とその異なる形態全て(例えば遊離型、塩、多形、異性体などの形態)は、溶媒が付加した形態、例えば溶媒和物であってもよい。溶媒和物は、化学量論量又は非化学量論量の溶媒が化合物に物理的に結合したもの又はその塩のいずれかを含む。上記溶媒は、特に限定されないが、例えば、薬学的に許容される溶媒であってもよい。例えば、水和物は上記溶媒が水の場合に形成され、アルコラートは上記溶媒がアルコールの場合に形成される。
【0037】
ある実施形態においては、本明細書に記載の化合物とその異なる形態全て(例えば遊離型、塩、多形、異性体などの形態)には結晶形態及び無定形形態が含まれてもよく、例えば、多形型、擬多形型、立体配座多形型、無定形型、又はその組み合わせで含まれてもよい。多形型には、同一の元素組成を有する化合物の異なる結晶充填配置が含まれる。多形型は、異なるX線回折パターン、赤外線スペクトル、融点、密度、硬度、結晶形状、光学的・電気的特性、安定性、及び/又は溶解度を通常有する。当業者は、再結晶溶媒、結晶化速度、及び保存温度などの種々の要因によって単結晶が支配的になる場合があることも認識するであろう。
【0038】
ある実施形態においては、本明細書に記載の化合物とその異なる形態全て(例えば遊離型、塩、多形、異性体などの形態)には、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、立体異性体、互変異性体、個々のエナンチオマー、個々のジアステレオマー、ラセミ体、ジアステレオマー混合物、及びその組み合わせなどの異性体が含まれ、便宜のために示した式の記述によって限定されない。
【0039】
ある実施形態においては、本明細書に記載の医薬組成物はそのような化合物の塩、好ましくは薬学的又は生理学的に許容される塩を含んでもよい。医薬製剤は、注射、吸入、局所投与、洗浄、又は選択した治療に好適な他の態様により行われる、上記製剤の投与態様に対し許容される担体、賦形剤、又は希釈剤の1以上を典型的には含むであろう。好適な担体、賦形剤、又は希釈材(本明細書では相互に交換可能に使用される)は、上記投与態様において使用される、当該技術分野において公知のものである。
【0040】
好適な医薬組成物は当該技術分野において公知の手段によって処方してもよく、その投与態様や服用量は熟練した実務者によって決定される。非経口投与の場合、化合物は滅菌水若しくは生理食塩水、又はビタミンKに使用されるような非水溶性化合物の投与に使用される薬学的に許容されるビヒクルに溶解されてもよい。経腸投与の場合、上記化合物は錠剤、カプセル、又は液体に溶解された形態で投与されてもよい。上記錠剤又はカプセルは腸溶コーティングされていてもよく、徐放するための剤形であってもよい。剤型としては、化合物を局所的に投与するのに使用できる、放出される化合物をカプセル化した高分子又はタンパク質微粒子、あるいは軟膏、ペースト、ゲル、ヒドロゲル、溶液などの多くの好適な剤型が知られている。徐放性パッチ又はインプラントは長期にわたって薬剤を放出するのに使用することができる。当業者に公知の手法の多くはRemington:the Science&Practice of Pharmacy by Alfonso Gennaro,20th ed., Lippencott Williams&Wilkins,(2000)に記載されている。非経口投与用の製剤は、例えば、賦形剤、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、植物性油、又は水素化ナフタレンを含んでいてもよい。生体適合性で生分解性のラクチド重合体、ラクチド/グリコリド共重合体、又はポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体を、化合物の放出を制御するのに使用してもよい。調節化合物のための他の潜在的に有用な非経口送達システムには、エチレン/酢酸ビニル共重合体粒子、浸透圧ポンプ、埋め込み注入システム、及びリポソームが含まれる。吸入用製剤は賦形剤、例えばラクトースを含んでもよく、例えば、ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル、グリココール酸塩、及びデオキシコール酸塩を含む水溶液であってもよく、また点鼻薬の形態で、又はゲルとして投与するための油性溶液であってもよい。
【0041】
本明細書に記載の化合物若しくは医薬組成物、又は本発明に記載の使用のための化合物若しくは医薬組成物はインプラント、グラフト、プロテーゼ、ステントなどの医療機器又は医療器具によって投与してもよい。また、インプラントは上記化合物や組成物を含み、かつ放出するように工夫されていてもよい。ある一定期間化合物を放出するように適合された高分子材料からなるインプラントはその一例である。
【0042】
本明細書に記載の医薬組成物の「有効(な)量」には治療上有効な量や予防上有効な量が含まれる。「治療上有効な量」とは、必要な投与量及び必要な期間において、所望の治療結果(例えば腫瘍を小さくする、寿命を延ばす、又は余命を伸ばすなど)を達成するのに有効な量をいう。化合物の治療上有効な量は患者・患畜の病状、年齢、性別、及び体重などの要因、並びにその化合物が患者・患畜において所望の応答を引き出す能力に応じて変えてもよい。投与計画は、最適な治療上の応答が得られるように調整されてもよい。治療上有効な量は、化合物の何らかの有毒又は有害な作用を治療的に有益な作用が上回る量でもある。「予防上有効な量」とは、必要な投与量及び必要な期間において、所望の予防的結果(例えば腫瘍をより小さくする、寿命を延ばす、余命を伸ばす、又は前立腺がんがアンドロゲン非依存性前立腺がんに進行するのを防ぐ、など)を達成するために有効な量をいう。典型的には、疾患の初期の段階よりも前、あるいは初期の段階で患者・患畜に予防的な用量を用いることから、予防上有効な量は治療学上有効な量よりも少なくてもよい。
【0043】
なお、投薬量の値は軽減すべき病状の重症度に伴って変動し得る。特定の患者・患畜に対し、その患者・患畜特有の投与計画は、個々のニーズや上記化合物の投与を管理又は監督する者の専門的判断に応じて時間とともに調整してもよい。本明細書に記載の投薬量の範囲は典型的なものでしかなく、医療従事者によって選択され得る投薬量の範囲を制限するものではない。組成物中の活性化合物の量は、患者・患畜の病状、年齢、性別、及び体重などの要因に応じて変えてもよい。投与計画は、最適な治療上の応答が得られるように調整されてもよい。例えば、単回のボーラス投与であってもよく、時間をかけて数回の分割した服用量で投与してもよく、治療状況の緊急度に比例するように用量を減らしたり増やしたりしてもよい。投与が容易で、かつ投与量が一定になることから、非経口組成物を単位剤形に処方するのが有利な場合もある。
【0044】
ある実施形態においては、本明細書に記載の化合物及びその全ての異なる形態は、特に限定されないが、例えば子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんからなる群から選択される1以上の徴候に対する他の治療方法と組み合わせて使用してもよい。あるいは、本明細書に記載の化合物は、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんから選択される1以上の治療に有用であってもよい。例えば、本明細書に記載の化合物及びその全ての異なる形態は、手術、放射線治療(小線源治療又は体外照射療法)や他の治療(例えば、HIFU)と共に、ネオアジュバント療法(処置前)、補助的療法(処置中)、及び/又は術後補助療法(処置後)として使用してもよい。更に、本明細書に記載の化合物は公知の化学療法と共に投与あるいは併用してもよい。例えば、式II又はIIIのうちいずれか1つの化合物はタキソール及び/又はトポイソメラーゼポイズンと組み合わせて投与されてもよく、また前立腺がん(PCa)の治療のためのアンドロゲン受容体(AR)療法(例えば、ADT、ARPIなど)と併用して投与されてもよい。
【0045】
一般的に、本明細書に記載の化合物は、実質的な毒性を引き起こすことなく使用される必要がある。本明細書に記載の化合物の毒性は標準的な手法を用いて決定することができ、例えば細胞培養又は実験動物で試験し、治療指数(すなわち、LD50(集団の50%にとって致命的な用量)とLD100(集団の100%にとって致命的な用量)の間の比率)を測定することで決定することができる。しかしながら、ある状況、例えば病状が重篤な状態においては、かなり過剰な量の組成物を投与するのが適当な場合がある。本明細書に記載の化合物の一部は、ある濃度においては有毒な場合がある。毒性のある濃度及び毒性のない濃度を決定するのに滴定による検討を用いてもよい。毒性は、ARを発現しない負の対照としてPC3細胞を用いて細胞系全体に対する特定の化合物又は組成物の特異性を調べることによって評価することができる。化合物が他の組織に影響を及ぼすかどうかの指標を提供するために動物実験を使用してもよい。抗アンドロゲンとアンドロゲン不感性症候群が致命的でないことから、ARを標的とする全身療法はおそらく他の組織に重大な問題を生じさせないと考えられる。
【0046】
本明細書に記載の化合物は、患者・患畜に投与されてもよい。本明細書で使用されるように「患者・患畜」はヒト、人間以外の霊長類、ラット、マウス、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコなどであってもよい。患者・患畜は、子宮頸がん、小細胞肺がん、精巣腫瘍、癌腫、神経芽腫、骨肉腫、膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、結腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんなどのがんの疑いがある、あるいはがんのリスクを有する患者又は患畜であってもよい。子宮頸がん、小細胞型肺がん、精巣がん、リンパ腫、白血病、食道がん、胃がん、直腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、軟骨肉腫、中枢神経系腫瘍、肝がん、及び前立腺がんなどの種々のがんのための診断法は当業者に公知である。
【0047】
本明細書で具体的に述べる化合物は全て市販されている。更に、当業者の知識に基づけば、その化合物の改変も可能である。
【0048】
種々の別の実施形態、及び実施例を本明細書にて述べる。この実施形態や実施例は例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
[物質、及び方法]
【0049】
潜在的トポイソメラーゼII阻害剤の仮想スクリーニング
【0050】
Schrodinger Maestro(商標)タンパク質プレパレーション(protein preparation)ソフトウェアモジュールと共に、トポイソメラーゼIIの4fm9PDBエントリーをダウンロードして準備した。手短に言うと、元々存在する水素を全て取り除き、再付加し、結晶状のイオン及び水も取り除き、pH7.4でPROPKA(商標)オプティマイザを使用してアミノ酸のプロトン化状態を計算した。OPLS-3(商標)フォースフィールド(force field)を用いて構造を最小化した。仮想原子プローブを用いてタンパク質表面を調べるMOE(商標)サイトファインダー(site-finder)アルゴリズムを用いて好適なポケットを提示するのを支援した。ポケットの空洞容積はPock Drug(商標)を用いて算出した。[仮想スクリーニングライブラリの準備]:約4億の化合物のデータベースであるZINC(商標)から、在庫があるもの、という追加の基準を付して、約600万の薬物様分子をダウンロードした。[ドッキンググリッド計算]:上記ポケットの中心にグリッドを配置し、Schrodingers Grid(商標)生成プログラムを用いて計算した。[Glide(商標)リガンドドッキング]:標準精密ドッキングを用い、他のパラメータは全てデフォルトの値にセットした。[E-Hitsドッキング]:Glide(商標)によってスコア付けされ、ランキングされた上位の100,000分子をE-hitsプログラムを用いてドッキングさせた。両方のプログラムのコンセンサスに基づき、原子の位置の平均二乗偏差又はそれぞれのプログラムにおいてドッキングされた分子間の平均二乗偏差(RMSD)を測定し、分子の平均二乗偏差が2Å未満である場合にはその分子をキープした。最後にADMET(商標)を、パラメータはデフォルトの状態で用いてADMET_Risk、Tox_Risk、及びCYP_Riskディスクリプタを計算した。このときスコアがそれぞれ6.5未満、3.3未満、及び1未満の場合にはその分子をキープした。[ROCS(商標)形状類似度]:Open Eye(商標)によって提供されたROCS(商標)形状類似度プログラムを使用して、我々のリード化合物と類似する分子を探した。ここで、Implicit Dean Millsフォースフィールドを、他のパラメータは全てデフォルトのまま使用した10。[ポケット容積の算出]:Pock Drug(商標)ソフトウェアを用いてポケットの容積を算出した11。[Amberシミュレーション]:ニュートン・ラフソンアルゴリズムを用いてタンパク質を200サイクルで最小化した。SHAKEアルゴリズムを用いて、圧力制御せずに系を300Kまで加熱し、水素への結合を凍結させた。ランジュヴァン・サーモスタットをこの目的のために用いた。Generalized Born陰溶媒をPBradiiと共に使用した。加熱の後、2フェムト秒のタイムステップで2500ステップごとに書き込みながらプロダクションランを実行した。シミュレーションを9359ステップ実行した12。Glide(商標)ドッキングスコアとリガンド効率のバランスがよく、ポケット内の周囲の側鎖との好ましい相互作用が起こる53の化合物を、以降の実験的な試験のために購入した。
【0051】
In vitro TopoII活性アッセイ-ヒトTopoII分析キット(TG1001、TopoGENE(商標))を用いてK-DNAデカテネーション分析を行った。このとき、エトポシド及びICRF193をそれぞれ毒及び触媒阻害剤とした。超らせん構造を有するpHOT(商標)をヒトTopoIIα(TG2000H(商標)、TopoGENE(商標))と共に37度で1時間インキュベートすることによりDNA弛緩アッセイを行った。10%SDS、EDTA及びプロテアーゼKを添加することにより反応を停止させた。プラスミドDNAをDNAアガロースゲル上で分離し、臭化エチジウムで染色して可視化した。
【0052】
DNA挿入(インターカレーティング)アッセイ-超らせん構造を有するpHOT(商標)プラスミドDNAをDNAトポイソメラーゼI(TG1015)によって切断し、その後mAMSA又は化合物#60(Top60)の存在した状態でその用量を増加させながら、TopoIIと共にインキュベートした。ストップバッファを加えた後、プラスミドDNAをDNAアガロースゲル上で分離し、臭化エチジウムで染色して可視化した。
【0053】
DNA切断アッセイ-超らせん構造を有するpHOT(商標)プラスミドDNAを、エトポシド、ICRF193、及び化合物#60(Top60)の存在下、ヒトTopoIIαと共に37度で30分間インキュベートした。10%SDS、EDTA及びプロテアーゼKを添加することにより反応を停止させた。
【0054】
BrDU取り込み及び細胞増殖アッセイ-、CellTitre(商標) 96 AqueousOne(商標)キット(Promega(商標))、及びブロモデオキシウリジン(BrdU)アッセイキット(Millipore(商標))を用い、製造業者のプロトコルに従い、Li H.らによって以前に報告されたような少しの修正を加えて細胞増殖率を測定した19。
【0055】
FACSアッセイ-APC BrdUフローキット(BDファーミンジェン(商標);フランクリンレイクス、ニュージャージー州、米国)を用い、製造業者のプロトコルに従って、S期のDNAへのBrdU取り込みを用いることにより細胞周期を評価した。手短に言うと、1mMのBrdUを細胞に加えて、6時間インキュベートした。細胞を抗BrdU抗体と共にインキュベートし、7-AADで染色して、フローサイトメトリー用に細胞を加工した。
【0056】
共焦点顕微鏡観察-細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.25%のトリトンX-100内で15分間処理し、Phalloidin-iFluor488(商標)(アブカム(商標);ケンブリッジ、英国)に接合されたF-アクチンと共にインキュベートし、DAPI染色マウント(Vector Labs(商標);バーリンゲーム、カリフォルニア州、米国)を用いてマウントした。次に細胞を共焦点顕微鏡(ツァイスLSM780(商標)、カールツァィスAG(商標)、オーバーコッヘン、ドイツ)により倍率63倍で画像化した
【0057】
細胞毒性アッセイ-Pierce(CAT#8078)の市販キットを用いて細胞毒性分析を行った。手短に言うと、培養メディアを回収し、製造プロトコルの実施後、乳酸脱水素酵素(LDH)濃度を比色方法で測定するのに用いた。
【0058】
サーマルシフトアッセイ及びクロマチン分画アッセイ-サーマルシフトアッセイでは、細胞をビヒクル又は化合物#60(Top60)で1時間処理し、等分のアリコートに分割して、PCRマシンで37~46度に加熱した。タンパク質溶解物を回収して、TopoII抗体と共に免疫ブロッティングアッセイを行った。クロマチン分画アッセイでは、細胞をビヒクル又は化合物#60(Top60)で処理した。両方の可溶性クロマチン関連タンパク質を、Wysocka Jら18によって報告されたプロトコルに従って分画した。タンパク質溶解物を回収し、TopoII抗体と共に免疫ブロッティングアッセイを行った。
【実施例】
【0059】
[実施例1]トポイソメラーゼIIサイトを標的とするhit化合物のin silico特定
【0060】
ポケット結合サイトの特定
トポイソメラーゼIIα(TopoII)上の有効な結合部位の位置を決定するために、MOE6(PDB ID:4FM9)でタンパク質を視覚化した。ファンデルワールスタンパク質表面を調べた後に、1671.88Å3の凸閉包体積を有し、54%の極性残基と、14%の芳香族(F、Y、HとW)と、結合に利用可能な26の残基を含むタンパク質の表面上で好ましい特性を有するポケットを発見した。このポケットもDNA結合部位の中央において偶然発見されたものであり、新薬の開発につながるような非常に有望な部位である。タンパク質がどの程度擬原子プローブを収容することができるか算出することによって小分子を結合するポケット候補の特徴を調べるMOEsサイトファインダープローブソフトウェアによって上記ポケットを検証した。我々が知る限りでは、TopoII上のこの部位が標的とされたのはこれが初めてである。高度に柔軟なポケットは動き回ることが予想され、そのためシミュレーションを通してRMSDが大きく変化するはずであるから、分子動力学シミュレーションでポケットの柔軟性を測定することでこのポケットを評価した。46ナノ秒のシミュレーションの後、RMSDがわずかに変化することが観察され、ポケットの選択が妥当であったことを更に確認した。トポイソメラーゼIIαのアンバー・シミュレーションからのポケット残基のRMSDによれば、残基が432~434、350~359、321~323、299~303、286~289、273~284,223~231、及び219~222で使用されていることが示された。各フレームは、それぞれ2500ステップ/2フェムト秒を表す。
【0061】
1回目のスクリーニング
結合部位の特定後に分子スクリーニングを行った。ドッキングのための分子のデータベースを作成するために、約4億個の化合物を収めたZINC-15(商標)ライブラリを、(リピンスキールールの第5によって決定したように)購入が可能でかつ薬様特性を有する分子を選別することによって600万個まで絞った。以前に報告されているように5、分子ドッキング・ソフトウェアGlide-SP(商標)7とE-hits8によるコンセンサススコアリングを用いた。最後に、ADMET(商標)9ソフトウェア使用しADMET_Risk、TOX_Risk、及びCYP_Riskスコアを調べ、ソフトウェア・マニュアルで推奨されるよう、上記スコアがそれぞれ6.5,3.3及び1を超える分子を候補から外した。手元にあるこのランキングを用い、ランキングの上から53の分子を発注した。
【0062】
ミディアムスループットスクリーニングアッセイ
超らせん構造のプラスミド弛緩アッセイを、候補小分子を決定するための第1のコース・フィルターとして用いた。第1回スクリーニングで十分に活性であった小分子候補に対し、次にkDNAデカテネーションを行った。検査したものの中では、化合物19と23が最も活性があることがわかった。
【0063】
2回目のスクリーニング
活性であることがわかった化合物19と23を用いて、類似の分子を探すための新たなスクリーニングを開始した。このスクリーニングには、形状類似性スクリーニングプログラムROCS(商標)
10を使用した。ROCS(商標)サーチのために選択した化合物は化合物23のドッキングコンフォメーションに基づくものであった。上述の、600万個の分子に絞ったZINC-15ライブラリをこのスクリーニングに用いた。ROCS(商標)類似性とそのドッキングスコアに基づいて上位62個の分子を厳選した。これらの分子を発注し、上述したのと同じミディアムスループットアッセイで試験した。第1回のスクリーニングに比べて、活性のある分子の比率は大きく増加して約10倍となり、これにより仮想スクリーニング・パイプラインの妥当性が確認された。最後に、化合物60はグループの中で最も活性が高いものとして発見され、TopoIIに対してICRF-193よりも強力な阻害活性があって、デカテネーションアッセイと弛緩アッセイの両方においてIC50がナノモルレベルであった(
図3aと3bを参照)。
【0064】
[実施例2]化合物#60(Top60)の特性評価
【0065】
Top60はTopoIIの触媒阻害剤である
我々のリード化合物である化合物60(Top60)の妥当性を検証するために、細胞内及び細胞外の両方で二本鎖DNA切断が形成されるかどうかを分析した。Top60が細胞外で二本鎖DNAを切断するかどうかを評価するために、TopoIIの存在下、Top60と共に、及びTop60無しで超らせん構造のプラスミドをインキュベートした(
図1d)。満足なことに、直鎖DNAに相当するバンドはほとんど形成されておらず、公知の触媒阻害剤ICRF-193と同様の強度である。さらに、H2AXγタンパク質発現をウエスタンブロットにより評価して上記リード化合物が細胞内でDNA損傷を引き起こすことができるかどうかを評価し、対照としてのエトポシドと比較した(
図3b)。確かにTop60がDNA損傷を引き起こさないことが確認され、したがってTop60は実際に触媒阻害剤である可能性が高い。Top60は触媒阻害剤であるかもしれないが、これはTop60がインターカレータである可能性を排除していない。インターカレータはDNAの操作を含む多くのプロセスを干渉し、オフターゲット作用を引き起こすため、もしTop60がインターカレータであればそれは好ましくないことである。Top60がDNAをインターカレーションするかどうかを確認するために、弛緩プラスミドを、その濃度を増加させながらTop60と共にインキュベートし、公知のインターカレータであるm-AMSAと比較した。インターカレータはDNA中に負の超らせんを残し、負の超らせんは、弛緩されたその相手に比較してゲル上をより早く泳動するため、これを可視化することができる。この結果にからTop60はインターカレータではないことが示される(
図1c)。
【0066】
[実施例3]化合物#60(Top60)はがん細胞の増殖を遅らせる
BrdUアッセイによって実証されているように、HeLa細胞では細胞複製が減少することが観察された(
図2a)。複製速度の低下が観察されたことを更に詳しく調べるために、PI染色してFACSを行った(
図2bと2c)。TopoIIはDNAを複製しやすくするために重要であることから、S期に遅延した細胞が多数あることは思いがけないことでない。またM期よりも前にデカテネーションチェックポイントがG2に存在するものと仮説を立てることができ
15、これはG2/Mで細胞数が増加したことと合致する(
図2bと2c)。細胞成長を遅延させる効果を視覚化するために、DAPI染色を用いた蛍光顕微鏡観察を行い、細胞をTop60の存在下で、及びTop60なしで処理した。実際、
図2dと2eで見られているように、拡大した核が観察されることは触媒阻害の特徴である。このような状況はDNAが複製されるもの紡錘体によって適切に分離されない場合に起こる場合があり、核の拡大を引き起こす。
【0067】
[実施例4]Top60はTopoII依存性がん細胞の無毒性阻害剤である
HeLa細胞上でTop60から観察される細胞毒作用は低く、ICRFと同等である(
図3a)。触媒阻害剤として、ICRFとTop60は共にH2AXγタンパク質レベルによって示されるようなDNAの損傷を引き起こさない。しかしながら、Top60には時間依存的及び用量依存的な実験の両方においてk562細胞増殖に対し強い阻害効果があり、これはエトポシドと同等の作用である(
図3cと3d)。
【0068】
[実施例5]細胞内でのTop60のオンターゲット効果
【0069】
TopoIIに対するリード化合物の結合を評価するために、サーマルシフトアッセイを行った。このアッセイによってタンパク質の熱分解による結合が示され、例えば小分子がタンパク質に結合する場合、小分子が結合していないときよりも高温での分解に対してタンパク質をより安定化すると予想される。TopoIIαがリード化合物の存在下で43℃まで安定化されることが確認された(
図4A)。さらに、細胞分画を行い、化合物治療に対するTopoIIの局所的な変化を評価した。TopoIIαは細胞複製中のDNAのデカテネーションに重要であることからクロマチンに結合することが予想される。Top60で処理すると、核の総量は一定のまま、TopoIIαのクロマチンに対する結合が解かれ(そしてTopoIIβがより少なくな)る。TopoIIがTop60の唯一の観察可能な標的であることを更に確かめるために、エトポシド抵抗性細胞系を産出した。これらの細胞は、TopoIIタンパク質を下方制御することによって、エトポシドに対し抵抗性を示すようになる。これらの細胞上でのTop60の阻害効果は激減した。これらの結果は、Top60の阻害作用が細胞中のTopoIIタンパク質を通してのみ媒介される、という我々の仮説を裏付けるものである。
【0070】
[実施例6]結合親和性の分子起源
【0071】
発見された小分子の結合効率を理解するために、30ナノ秒間、化合物23のMDシミュレーションを行った。シミュレーションの全体を通じて、水素結合相互作用がG737、Q742、N786、Q789、G793、N795、N867、N868、及びR945で観察される。相互作用は、強い順からG737>G742>N795>Q789>G793>G868となる(
図5)。興味深いことに、Q789相互作用はG793と相互に排他的であるとわかり、このことは、上記リガンドのピリジノチオンアミドに対しパラ位にある(para to)水素結合ドナーアミドが、22ナノ秒後にQ789の側鎖カルボニル又はG793の主鎖カルボニルと相互作用する、というシミュレーションの全体を通じて観察された2つの入れ替わり可能なコンフォメーションを表している(
図5)。RMSDがそれほどこの点で変化しないことから、第2のコンフォメーションは安定なコンフォメーションを表すと考えられる。この観察によって、22ナノ秒のカットオフより後のタンパク質-リガンド相互作用を視覚化して分析することが促された(
図6)。ピリジオチオンの隣のアミドは、シミュレーション全体を通してタンパク質と安定的に相互作用しており、そのカルボニル水素はG868の主鎖に結合し、リガンドのNHはN786に対し非常に安定な水橋を通して結合している(
図6)。最も強い相互作用を下記に示す(
図7)。ドッキングされた構造でのシミュレーションから得られる最終的なスナップショットを比較すると、リガンドに向かって振れたN786が、リガンドアミドのカルボニルとの水橋相互作用を通じて水素結合相互作用を形成するという誘導適合が一部で観察される。初期のドッキングした構造でのΔRMSDが3.38Åであることから明らかなように、タンパク質構造全体がリガンドに対して好ましい形態に変形している。シミュレーションで後ほど観察された安定な形態は、初期のドッキングされたコンフォメーションでのΔRMSDが約1.5Åである。しかしながら、最初に観察したコンフォメーションではドッキングされたコンフォメーションとほぼ同じでΔRMSDが0.5Åであり、これはこの変化がポケット内でのわずかな再調整によって起こったものであることを示している。
【0072】
[実施例7]トポイソメラーゼII触媒阻害のための代替化合物の試験
【0073】
下記表1と表2に示す多数の化合物を(別途示す場合を除き)試験した。この中で活性化合物、及び活性であることが予想される化合物(試験は行っていない)は表1に示し、活性のない化合物は表2に示した。
【0074】
(表1)
トポイソメラーゼII阻害活性有する試験した式II、及びIIIの構造
Yは活性が見られたことを示す。
【0075】
(表2)
トポイソメラーゼII阻害活性のない試験化合物
【0076】
本明細書では本発明の種々の実施形態を開示するが、当業者の技術常識に従って本発明の範囲内で多くの調整や改変を行うことができる。上記改変には、実質的に同様な方法で同様の結果を達成するために、本発明のいずれかの態様の代替として公知の同等物に置き換えることが含まれる。数値範囲は、範囲を決めるその両端の数字を含む。「含む・含有する(comprising)」という語は、非限定的な(open-ended)語であり、「含む(including)」、「~に限定されない」などと実質的に等価な語であり、現在形の「含む・含有する(comprises)」も対応する意味を有する。本発明で使用されているように、単数形の形態のa”、“an”、及び“the”は、文脈で明らかにそうではないことが述べられていない限り、複数形の指示対象をも含む。したがって、例えば「物(“a thing”)」は2以上の物も含む。本明細書に記載の参考文献の引用は、引用された参考文献が本発明の実施形態に対する先行技術であることを認めるものではない。本発明は、実質的に上で述べたような実施形態や変形であって、実施例や図面を参照するものを全て含む。
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【国際調査報告】