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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】C1-INHを精製する方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/81 20060101AFI20220106BHJP
   C07K 1/20 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C07K14/81
C07K1/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521278
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(85)【翻訳文提出日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2019078139
(87)【国際公開番号】W WO2020079108
(87)【国際公開日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】18201032.2
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597070264
【氏名又は名称】ツェー・エス・エル・ベーリング・ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・コルニロヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ハイケ・ニコル・ヴィルカ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA56
4H045EA23
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、C1エステラーゼ阻害剤(C1-INH)を、より特定するとC1-INH濃縮物を精製する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性相互作用クロマトグラフィーを使用してC1-INHを精製する方法であって、以下の工程:
(i)C1-INHが固定相に結合する第1の条件下で、固定相を含む疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムに、溶解したC1-INHを含有する溶液を充填する工程と、
(ii)第2の条件を適用して、移動相によってC1-INHを溶出する工程と
を含む前記方法。
【請求項2】
第1の条件は、移動相が、C1-INHが固定相に結合する第1の濃度の抗カオトロピック塩を、好ましくは硫酸ナトリウムまたは硫酸アンモニウムを、最も好ましくは硫酸アンモニウムを含むことであること、および
第2の条件は、移動相が、C1-INHが溶出されるようになる第2の濃度の抗カオトロピック塩を、好ましくは硫酸ナトリウムまたは硫酸アンモニウムを、最も好ましくは硫酸アンモニウムを含むことであること
を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1の濃度から第2の濃度への移行は、濃度勾配によって、または段階溶出によって達成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
固定相は、
直鎖アルキル、例えば、エチル、ブチル、オクチル、
分岐アルキル、例えば、t-ブチル、
アリール、例えば、フェニル、または
シクロアルキル、例えば、ヘキシル
のような疎水性リガンドで置換されている、以下のマトリックス材料:アガロース、架橋アガロース(Sepharose(登録商標)のような様々な商品名で販売)、親水性ポリマー、例えば、ポリメタクリレートのうちの1つまたはそれ以上から選択され、
固定相は、好ましくは、アルキルまたはアリールで、好ましくは、ブチルまたはフェニルで置換されたマトリックス材料であり、より好ましくは、ブチルまたはフェニルで、最も好ましくはフェニルで置換された架橋アガロースである、
請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
固定相は、GE HealthcareによるPhenyl Sepharose(登録商標)6 Fast Flow(低置換)のようなフェニル置換Sepharose(登録商標)ゲルである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
硫酸アンモニウムは、カオトロピック塩として使用され、第1の濃度は、約1.1M~約1.4Mの範囲の濃度Xを超え(例えば、約155~約180mg/mlの硫酸アンモニウムの範囲の濃度Xを超える)、好ましくは、約1.2M~約1.3Mの範囲の濃度Xを超え(例えば、約160~約174mg/mlの硫酸アンモニウムの範囲の濃度Xを超える)、かつ、第2の濃度は、濃度X未満である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
固定相は、GE Healthcareによって販売されるHiScreen(商標)Capto(商標)Butyl HPのようなブチル置換Sepharose(登録商標)ゲルである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
硫酸アンモニウムは、カオトロピック塩として使用され、第1の濃度は、約0.9M~約1.0Mの範囲の濃度X(例えば、約124~約131mg/mlの範囲の濃度X)を超え、かつ、第2の濃度は、濃度X未満である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
固定相は、GE Healthcareによって販売されるPhenyl-HP(登録商標)もしくはCapto-Phenyl ImpRes(登録商標)、または東ソー株式会社によって販売されるPhenyl-650M(登録商標)もしくはPhenyl-600M(登録商標)である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
硫酸アンモニウムは、カオトロピック塩として使用され、第1の濃度は、約1.1M~約1.4Mの範囲の濃度Xを超え(例えば、約155~約180mg/mlの硫酸アンモニウムの範囲の濃度Xを超える)、好ましくは、約1.2M~約1.3Mの範囲の濃度Xを超え(例えば、約160~約174mg/mlの硫酸アンモニウムの範囲の濃度Xを超える)、かつ、第2の濃度は、濃度X未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
硫酸アンモニウムは、カオトロピック塩として使用され、第1の濃度は、約1.3M~約1.6Mの間であり、好ましくは、約1.3M~約1.4Mの間であり、最も好ましくは、約1.32M(つまり、約181mg/ml)である、請求項2~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
C1-INHは、組換えC1-INH、トランスジェニックC1-INH、または血漿、好ましくはヒト血漿由来C1-INHである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
出発材料として使用されるC1-INH濃縮物は、沈殿剤を用いた分別沈殿を含む方法によって得られる、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
分別沈殿は、C1-INHの沈殿を含み、かつ、C1-INHは、C1-INHの沈殿に必要な濃度よりも低い濃度の沈殿剤を含有する溶液に取り込まれる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
分別沈殿は、C1-INHの沈殿を含まず、かつ、C1-INHは、C1-INHの沈殿に必要な濃度よりも低い濃度の沈殿剤を含有する上清中に含有される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
pHが6~9の範囲、好ましくは6.8~8.5の範囲、より好ましくは7~7.5の範囲、さらにより好ましくはpHが約7.2で実行される、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C1エステラーゼ阻害剤(C1-INH)を、より特定するとC1-INH濃縮物を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
補体活性化経路のタンパク質であるC1-INHは、血漿中に存在するプロテアーゼ阻害剤であり、活性化されたC1rおよびC1sと共有結合複合体を形成することによってC1活性化を制御する。C1-INHはまた、血漿プレカリクレイン、第XI因子および第XII因子のような重要な血液凝固酵素だけでなく、プラスミンも「制御」する。
【0003】
C1-INH欠損症は、例えば、遺伝性血管性浮腫(HAE)に関連しており、これはC1-INHの欠如(I型HAE)またはC1-INHの活性の低下(II型HAE)によって引き起こされる。C1-INH欠損症はまた、血液が人工心肺装置などに入って表面に接触する場合に生成される酵素の中和に起因するC1-INHの消費によっても引き起こされるが、慢性の、特にリウマチ性障害に関して現れる免疫複合体のような凝固カスケードを開始する疾患経過においても引き起こされる可能性がある。今のところ、C1-INHタンパク質の補充は、急性HAEの予防または治療において絶対的基準とみなされる必要がある。このことは、市販のヒト血漿由来C1-INHに特に当てはまり、ヒトC1-INHタンパク質と同一ではないトランスジェニックウサギで産生される市販の組換えC1-INHよりも自然な機能を持っていると報告されている(非特許文献1)。検討されているさらなる治療用途には、虚血再灌流障害の予防、軽減、および/または治療におけるC1-INHの使用を含む(特許文献1を参照)。
【0004】
ヒト血漿からのC1-INHの単離および/または精製は公知であるが、多少の費用がかかり、特にほとんどの場合、非常に時間のかかる方法である。多くの従来技術の方法は、例えば、非特許文献2、非特許文献3に記載されているような方法は、複雑すぎて、十分な収率を伴わず、および/または技術的規模に受け入れられるには時間がかかりすぎる。他の従来技術の方法は、例えば、非特許文献4によって記載されているような方法は、他の欠点を有する。
【0005】
血漿からC1-INHを生産するために提案された異なる方法は、アフィニティークロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、沈殿、および疎水性相互作用クロマトグラフィーのような様々な分離方法を含む。これらの方法のいずれかを単独で使用することは、全般的に、C1-INHを、特にC1-INH濃縮物を十分に精製するには不適当であり、したがって、それらの様々な組み合わせが従来技術において提案されている。
【0006】
特許文献2は、陰イオン交換クロマトグラフィー、それに続く陽イオン交換クロマトグラフィーの使用を記載している。特許文献3は、約20%の収率にて90%純粋なC1-INHの製造に到達する、沈殿工程と、ネガティブモードでの疎水性相互作用クロマトグラフィーとの組み合わせを記載している。特許文献4は、PEG沈殿、およびジャカリン-アガロースでのクロマトグラフィー、およびネガティブモードでの疎水性相互作用クロマトグラフィーを記載している。特許文献5は、第1および第2の陰イオン交換を含む方法を記載している。
【0007】
現在、血管性浮腫の治療用に4種の市販のC1-INH濃縮物が存在し、そのうち3種は血漿由来である。これらの血漿由来C1-INH濃縮物の1種は、Berinert(登録商標)という商標で販売されている。これらのC1-INH濃縮物は、異なる独自の方法に従って製造され、Berinert(登録商標)を製造する方法は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)の工程を含むが、ネガティブモードである(非特許文献1)。
【0008】
より全般的に言えば、HICは、分子を分子の疎水性に基づいて分離し、生物学的活性を維持しながらタンパク質を精製するために使用される。分子、より特定すると疎水性領域および親水性領域が配置しているタンパク質は、高塩濃度の緩衝液においてHICのカラムに適用される。緩衝液中の塩は、試料溶質の溶媒和を減少させる。溶媒和が減少すると、露出した疎水性領域は媒体によって吸着される、または固定相によって保持および/または結合される。分子の疎水性が高いほど、結合を促進するために、必要な塩は少なくなる。したがって、通常、疎水性の高い順にカラムから試料を溶出するために、塩の勾配の減少が用いられる。ある分子に関して、最初にその分子を固定相に結合し、次いでその分子を溶出することによってHICを使用するこのモードは、以下では「ポジティブモード」と呼ばれる。
【0009】
C1-INHの特定の場合では、しかしながら、HICはこのようには使用されていない、つまり、「ポジティブ」または「結合」モードではない。これは、C1-INHの場合、HICがC1-INHの顕著な親水性を利用することが記載されてきたためである。他のタンパク質は(疎水性)カラムに保持されるが、C1-INHは移動相に残る。C1-INHを精製するためにHICを使用するこの従来技術の技法は、以下では、「ネガティブ」または「フロースルー」モードと呼ばれる。フロースルーモードのHICとは、C1-INHを精製するためにHICを使用する従来技術の手法である。本発明者らは、C1-INHを精製する別の様式におけるHICの使用のいずれの記述についても未確認である。例えば、フロースルーは、特許文献6の発明の中核として記載されている。特許文献4もまた、C1-INHがカラムによって保持されないこのような条件下(フロースルーモード)でのHICを記載し、これに関して、非特許文献5を参照し、これはまた、フロースルーモードのHICを記載している。より最近では、非特許文献6も、フロースルーモードまたはネガティブモードのHICを含むC1-INHの中間精製工程を記載している:この著者は、0.8Mの硫酸アンモニウム濃度が、フロースルー画分において精製されたC1-INHを得て、かつ他の血漿タンパク質から分離することに最適であると考えた。そのようにして得られたC1-INH濃縮物はさらなる精製を必要とした。
【0010】
前述の従来技術によれば、C1-INHを精製するためのHICの出発材料は、寒冷沈降(cryoprecipitation)、イオン交換クロマトグラフィー、分別沈殿および/またはそれらの組み合わせのような工程を含む異なる方式で得ることができ、分別沈殿は、技術的または工業的規模で、すなわち、Berinert(登録商標)の製造において使用されることが知られている(HICの前に硫酸アンモニウム沈殿が先行する。非特許文献1を参照)。特許文献6によれば、液体の硫酸アンモニウムを沈殿剤として使用する分別沈殿は、溶液が60%の硫酸アンモニウムを含むまで実行される。その後、沈殿したC1-INHは、C1-INHが沈殿しない濃度の沈殿剤を、この場合は硫酸アンモニウムを含有する水溶液に取り込まれる。この方法は技術的規模になっているが、例えば、時間、スペース、および材料という形の重要なリソースをさらに必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2007/073186
【特許文献2】欧州特許第0698616B号
【特許文献3】欧州特許第0101935B号
【特許文献4】米国特許第5030578号
【特許文献5】WO01/46219
【特許文献6】欧州特許第0101935号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Feussnerら、Transfusion 2014年10月;54(10):2566~73頁
【非特許文献2】Hauptら、Eur.J.Biochem.1970年;17:254~261頁
【非特許文献3】Reboulら、FEBS Letters 1977年;79(1):45~50頁
【非特許文献4】Vogelaarら、Vox Sang 1974年;26:118~127頁
【非特許文献5】NilssonおよびWiman、Biochimica et Biophysica Acta 1982年;705(2):271~276頁
【非特許文献6】Kumarら、J.Bioproces Biotech 2014年;4(6)(DOI:10.4172/2155~9821.1000174頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ヒト血漿は、全般的に、既存のニーズを満たすのに十分な量で入手するのは困難である。それ故、保全的に最適なその使用を支援する、より効率的で、かつ特に時間のかからない方法を実現することが最も重要である。したがって、本発明は、疎水性相互作用クロマトグラフィーを使用してC1-INHを精製するためのより効率的かつ時間のかからない方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述の問題は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を使用してC1-INHを精製する方法であって、以下の工程:
(i)C1-INHが固定相に結合する第1の条件下で、固定相を含む疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムに、溶解したC1-INHを含有する溶液を充填する工程と、
(ii)第2の条件を適用して、移動相によってC1-INHを溶出する工程と
を含む方法によって解決される。
【0015】
非常に驚くべきことに従来技術からみて、本発明者らは、C1-INHをHICの固定相に結合することにより、時間および材料の比較的大きな経済性を可能にすることを見出した。第一に、C1-INHを精製するフロースルーモードまたはネガティブモードで使用される本質的に同じ体積のHICのカラムよりも、ポジティブモードまたは結合モードで使用されるHICのカラムは、実質的により多くのC1-INH含有出発材料を充填することができる(発明者らは、最大約4倍多いことを発見した)。したがって、必要な固定相材料が少なくなり、カラム材料とスペースの経済性につながり、もちろん、カラムを通過するC1-INHを含有する水溶液の体積が少なくなる。あるいは、より大きい体積のC1-INH含有出発材料を既存のサイズのカラムに充填することで時間を節約する方法となる。第二に、C1-INHに結合すると、カラムからC1-INHを溶出する前に、この結合したC1-INHを洗浄することが可能となる。第三に、結合モードまたはポジティブモードのHICは、高流速を使用することを可能にし、したがって、C1-INHがHICのカラムの固定相に相互作用するが、結合しないフロースルーモードまたはネガティブモードのHIC(つまり、遅い流速での比較的長いカラムに沿う分離のために時間が必要である)と比較して、はるかに速い時間でC1-INHの精製を可能にする。
【0016】
それに加えて、本発明者らは、硫酸アンモニウムを使用する分別沈殿によって得られる溶液を用いて作業する場合、本発明に従う結合モードまたはポジティブモードのHICを使用する精製に先行する60%の硫酸アンモニウムを使用するC1-INHの沈殿と、沈殿剤の硫酸アンモニウムを含む水溶液でのC1-INHの取り込みとを含む分別沈殿による初期の材料濃縮は不要になることを見出した。この初期の材料濃縮の工程は、効率的なC1-INHの精製のためのネガティブモードでの従来技術のHICの使用に必要である。しかしながら、本発明によれば、前の沈殿工程のわずか40%の硫酸アンモニウムを含む濾液は、品質を損なうことなく直接使用することができ、このことはまた、さらに多くの時間、材料およびスペースを節約することによってより効率的な製造方法を導き、さらには確立され、十分に理解される方法を導く。
【0017】
本発明は、「溶解したC1-INHを含有する溶液」を使用し、C1-INHが沈殿している溶液ではない。言い換えれば、このことは、タンパク質の沈殿の発生を回避するように、第1の条件を選択する必要があることを意味する。
【0018】
本発明の文脈において、固定相への「結合」は、C1-INHの構造的完全性に影響を与えることなく、好ましくは共有結合または化学吸着によってではなく、むしろ物理吸着によって、固定相により吸着または保持されることを意味すると理解されるべきである。
【0019】
固定相は、例えば、アガロース、架橋アガロース(Sepharose(登録商標)のような様々な商品名で販売)、親水性ポリマー、例えば、ポリメタクリレートのようなマトリックス材料であり、それぞれ、以下のような疎水性リガンドで置換されている:
- 直鎖アルキル、例えば、エチル、ブチル、オクチル、
- 分岐アルキル、例えば、t-ブチル、
- アリール、例えば、フェニル、または
- シクロアルキル、例えば、ヘキシル。
【0020】
好ましいマトリックス材料は、ブチルまたはフェニルで置換されたものであり、より好ましくは、ブチルまたはフェニルで、最も好ましくはフェニルで置換された架橋アガロースである。マトリックス材料は、ビーズのような様々な形態、またはスティック、膜、ペレットnのような形態であることが可能である。HICを含む様々な種類のクロマトグラフィーで使用するためのビーズ形態の架橋アガロースは、Sepharose(登録商標)の商品名でも知られており、様々な等級および化学物質が利用可能である。特に好ましい種類のマトリックス材料は、Phenyl Sepharose(登録商標)である。市販のマトリックス材料の例は、Capto(商標)Octyl、Capto(商標)Butyl、Capto(商標)Phenyl(高置換)、Octyl Sepharose(登録商標)4 Fast Flow、Butyl Sepharose(登録商標)4 Fast Flow、Butyl-S Sepharose(登録商標)6 Fast Flow、Phenyl Sepharose(登録商標)6 Fast Flow(登録商標)(低置換)、Phenyl Sepharose(登録商標)6 Fast Flow(登録商標)(高置換)、Butyl Sepharose(登録商標)High Performance、HiScreen(商標)Capto(商標)Butyl HP、Phenyl Sepharose High Performance(登録商標)(GE Healthcareによって全て販売);Macro-Prep Methyl(登録商標)、Macro-Prep t-Butyl(登録商標)(両方はBIO-RADによって全て販売);またはToyopearl(登録商標)Ether-650S、Toyopearl(登録商標)Ether-650M、Toyopearl(登録商標)PPG-600M(登録商標)、Toyopearl(登録商標)Phenyl-650S、Toyopearl(登録商標)Phenyl-650M、Toyopearl(登録商標)Phenyl-650C、Toyopearl(登録商標)Phenyl-600M、Toyopearl(登録商標)Butyl-650S、Toyopearl(登録商標)Butyl-650M、Toyopearl(登録商標)Butyl-650C、Toyopearl(登録商標)Butyl-600M、Toyopearl(登録商標)SuperButyl-550C、Toyopearl(登録商標)Hexyl-650C、TSKgel(登録商標)Ether-5PW(20)、TSKgel(登録商標)Ether-5PW(30)、TSKgel(登録商標)Phenyl-5PW(20)、TSKgel(登録商標)Phenyl-5PW(30)(東ソー株式会社によって全て販売)の名前で販売されている疎水性相互作用クロマトグラフィーの媒体である。前述の市販のマトリックス材料の中で、Phenyl Sepharose(登録商標)6 Fast Flow(低置換)およびHiScreen(商標)Capto(商標)Butyl HPが特に好ましく、前者が後者よりも好ましい。
【0021】
第1の条件は、好ましくはC1-INH含有溶液への1つまたはそれ以上の特定の塩の存在または添加によって、C1-INHの疎水性部分の固定相への結合を促進する条件である。
【0022】
第2の条件は、固定相からのC1-INHの溶出を可能にし、その結果として溶出液中に精製されたC1-INHを回収できる条件である。いくつかの溶出の種類には、例えば、段階的に減少する塩濃度、連続的に減少する塩濃度、pH勾配を使用する溶出、温度勾配を使用する溶出、またはそれらの組み合わせを含む溶出緩衝液を用いる溶出が存在する。なおさらなる種類の溶出が存在し、水よりも極性の低い溶媒が溶出緩衝液として使用され、例えば、エタノール、PEG、2-プロパノールなどを含む水溶液が使用される。また、カルシウムキレート化合物(EDTA、クエン酸塩、マロン酸塩など)の勾配が溶出緩衝液として使用することができる。
【0023】
好ましくは、第1の条件は、移動相が、C1-INHが固定相に結合する第1の濃度の抗カオトロピック塩を、好ましくは硫酸ナトリウムまたは硫酸アンモニウムを、最も好ましくは硫酸アンモニウムを含むことであること、および第2の条件は、移動相が、C1-INHが溶出する第2の濃度の抗カオトロピック塩を、好ましくは硫酸ナトリウムまたは硫酸アンモニウムを、最も好ましくは硫酸アンモニウムを含むことである。硫酸ナトリウム、特に硫酸アンモニウムは、一般的に使用され、信頼性が高く、特にHICで十分に確立された抗カオトロピック塩であり、それ故に好ましい。
【0024】
添加することができる硫酸アンモニウム濃度は、試料のタンパク質濃度に依存する。タンパク質濃度が高いほど、可能な試料の硫酸アンモニウム濃度は低く、つまり、タンパク質の沈殿が発生し始める硫酸アンモニウム濃度はより低くなる。試料の希釈は、より多くの硫酸アンモニウムを加えることを可能にする。抗カオトロピック塩として硫酸アンモニウムを使用する場合の最適なタンパク質濃度は、0.1~3mg/mLタンパク質の範囲である。硫酸アンモニウム以外の抗カオトロピック塩を使用する場合は、他の濃度範囲を適用することができる。
【0025】
第1の濃度から第2の濃度への移行は、濃度勾配によって、または段階溶出によって達成することができ、ここで、段階溶出は時間を節約する利点があり、かつ大規模な製造方法で実行することがより容易であるために、段階溶出が好ましい。本明細書で使用される段階溶出は、濃度が徐々に低下する濃度勾配のような連続的な移行の代わりに、第1の濃度から第2の濃度への突然の移行を意味することを意図している。
【0026】
特定の第1の濃度および第2の濃度は、状況に、つまり、使用される固定相の種類、pH、塩などに依存する。以下の数値によって制限されることを望まないが(単なる例として与えられる)、第1の濃度は、例えば、1~2Mの間のどこかに位置することができ、かつ第1の濃度未満の第2の濃度は、例えば、0.0~1.4Mのどこかに位置することができる。
【0027】
GE HealthcareによるPhenyl Sepharose(登録商標)6 Fast Flow(低置換)のようなフェニル置換Sepharose(登録商標)ゲルを固定相として使用し、かつ硫酸アンモニウムを、カオトロピック塩として使用する場合、第1の濃度は、好ましくは、約1.1M~約1.4Mの範囲の濃度Xを超え(例えば、約155~約180mg/mlの硫酸アンモニウムの範囲の濃度Xを超える)、好ましくは、約1.2M~約1.3Mの範囲の濃度Xを超え(例えば、約160~約174mg/mlの範囲の濃度Xを超える)、かつ第2の濃度は、濃度X未満である。
【0028】
GE HealthcareによるHiScreen(商標)Capto(商標)Butyl HPのようなブチル置換Sepharose(登録商標)ゲルを固定相として使用し、かつ硫酸アンモニウムをカオトロピック塩として使用する場合、第1の濃度は、好ましくは、約0.9M~約1.0Mの範囲の濃度X(例えば、約124~約131mg/mlの範囲の濃度X)を超え、かつ好ましい硫酸アンモニウムの第2の濃度は、濃度X未満である。
【0029】
GE Healthcareによって販売されるPhenyl-HP(登録商標)もしくはCapto Phenyl ImpRes(登録商標)、または東ソー株式会社によって販売されるPhenyl-650M(登録商標)もしくはPhenyl-600M(登録商標)を固定相として使用し、かつ硫酸アンモニウムをカオトロピック塩として使用する場合、第1の濃度は、好ましくは、約0.9M~約1.0Mの範囲の濃度X(例えば、約124~約131mg/mlの範囲の濃度X)を超え、かつ好ましい硫酸アンモニウムの第2の濃度は、濃度X未満である。
【0030】
異なる硫酸アンモニウム濃度を第1および第2の条件として使用する場合、好ましくは、第1の濃度は、約181mg/ml(1.37M)であり、および/または第2の濃度は、固定相からC1-INHを溶出するのに十分低い濃度である。
【0031】
本発明は、C1-INHを含有する異なる出発材料を用いて実行することができるが、出発材料として使用されるC1-INH濃縮物は、沈殿剤を用いた分別沈殿を含む方法によって得られることが好ましい。
【0032】
出発材料として使用されるC1-INH濃縮物は、沈殿剤を用いた分別沈殿を含む方法によって得られる場合、該分別沈殿は、(i)C1-INHの沈殿と、C1-INHの沈殿に必要な濃度よりも低い濃度の沈殿剤を含有する溶液に沈殿したC1-INHを取り込むこととを含むか、または(ii)C1-INHの沈殿に必要な濃度よりも低い濃度の分別沈殿で使用される沈殿剤を含有する上清にC1-INHを含有する出発材料を提供することによって、C1-INHの沈殿を含まないか、のいずれかが可能であり、ここでは、代替(ii)が好ましい。
【0033】
本発明に従う方法は、好ましくは、pHが6~9の範囲、好ましくは6.8~8.5の範囲、より好ましくは7~7.5の範囲、さらにより好ましくはpHが約7.2で実行される。
【0034】
本発明に従う本発明の方法はまた、原則として、異なる方式で産生されるC1-INHを精製するために使用することも可能であるが、該方法は、組換えC1-INH、トランスジェニックC1-INH、または血漿、好ましくはヒト血漿由来C1-INHを用いて実行することが好ましい。
【0035】
本発明に従う方法は、カラムまたはバッチ形式のいずれかで実行することができる。
【0036】
以下において、本発明は、図および実施例によってより詳細に記載され、図は以下を示す:
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】通常充填(「一倍充填」)にてフロースルーモードまたはネガティブモードで実行されたHICのクロマトグラムの図である。
図2】従来技術で使用されるよりも高充填(「二倍充填」)にてフロースルーモードまたはネガティブモードで実行されたHICのクロマトグラムの図である。
図3】従来技術に従う実験、本発明に従う比較例および実験を含む様々なHIC実験の溶出画分試料の電気泳動ゲルの図である。
図4】従来技術に従うHICの一倍充填および二倍充填を比較するための様々なHIC実験の溶出画分試料の電気泳動ゲルの図である。
図5】本発明に従う別のHIC実験の溶出画分試料の電気泳動ゲルの図である。
図6】試料の導電率が沈殿剤濃度と相関する標準曲線の図である。
図7】従来技術および本発明に従って実行されたHICの様々なクロマトグラムの図である。
図8】従来技術および本発明に従って実行されたHICの様々なクロマトグラムの図である。
図9】従来技術および本発明に従って実行されたHICの様々なクロマトグラムの図である。
図10】従来技術および本発明に従って実行されたHICの様々なクロマトグラムの図である。
図11】従来技術および本発明に従って実行されたHICの様々なクロマトグラムの図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の文脈において、以下の定義が適用される:
本発明の特許請求の範囲および明細書において、「C1-INH」および「C1-INH濃縮物」とは、タンパク質C1エステラーゼ阻害剤を含有する濃縮物およびタンパク質C1エステラーゼ阻害剤を含有する液体の濃縮物を示すために共に使用される。背景技術および/または先行技術文献を参照する場合、「C1-INH」はまた、例えば、C1-INH欠損症を議論する文脈において、そのタンパク質自体も意味する。
【0039】
本出願/特許を通して:
- 「HIC」とは、疎水性相互作用クロマトグラフィーを指す;
- 「ネガティブモード」もしくは「フロースルーモード」、または「フロースルー」HICとは、C1-INHがHICのカラムの固定相に結合しない条件下でHICを実行する方式を指す;
- 「結合モード」、「結合および溶出」または「ポジティブモード」とは、最初に、C1-INHがHICのカラムの固定相に結合する条件下で実行され、次いでC1-INHがHICのカラムから溶出される条件下で実行されるHICを指す;
- 「固定相への結合」とは、C1-INHの構造的完全性に影響を与えることなく、好ましくは共有結合または化学吸着によってではなく、むしろ物理吸着によって、固定相により吸着または保持されることを意味することを意図している;
- 「WFI」とは、「注射用水」を意味する;
- 「一倍充填」とは、通常充填を指し、本文脈では、より特定すると、フロースルーモードで実行された場合にHICによるC1-INHの十分な精製が起こる本質的な最大充填を指し、このような通常の「一倍充填」は、状況に、例えば、使用される出発材料、使用されるクロマトグラフィーマトリックスなどに非常に依存する可能性があり、ここでは、クロマトグラフィーマトリックスとしてフェニル置換Sepharose(登録商標)を使用する場合、かつC1-INH濃縮物を出発材料として使用する場合(従来技術である欧州特許第0101935号に記載されているようにC1-INHの分別沈殿および再溶解によって生成される)、そのような通常の「一倍充填」は、約6~9、好ましくは、約7~8、最も好ましくは、約7.5mgタンパク質/mlクロマトグラフィーゲルの数値を有する;
- 「二倍充填」とは、一倍充填の二倍の量を指し、本文脈では、より特定すると、フロースルーモードで実行した場合にHICによるC1-INHの精製がもはや十分でない充填を指す;
- 「濃度勾配」とは、溶液中の溶解物質濃度が高濃度から低濃度に徐々に変化することを指す、
- 「段階溶出」とは、濃度が徐々に低下する濃度勾配のような連続的な移行の代わりに、第1の濃度から第2の濃度への突然の移行を意味する;
- 「%」とは、特に明記されない限り、「重量%」を意味する;
- 「沈殿剤」とは、タンパク質の沈殿を引き起こす薬剤であり、沈殿剤は、抗カオトロピック剤または塩としても機能することができる;
- 本明細書で使用される「抗カオトロピック剤」または「抗カオトロピック塩」は、C1-INHが固定相に結合することができるように水溶液中でC1-INHを疎水性にすることができる1つまたはそれ以上の塩を指すことを意図している;
- 「溶出画分」とは、溶出画分に含まれる特定の分析対象物が、以前に固定相に結合または保持されていたか(本明細書に記載のポジティブモードのように)、またはそうでないか(本明細書に記載のネガティブモードのように)に関係なく、クロマトグラフィーカラムから出現する移動相の流れの画分を指す。
【0040】
以下では、図を参照して本発明についてより詳細に説明する。
【0041】
図1および2は、それぞれ、従来技術に従う分別沈殿によって得られたC1-INH濃縮物を使用する、つまり、沈殿され、次いで出発材料として再溶解したC1-INHを使用するネガティブモードのHICのクロマトグラムである。図1は、従来技術で使用されている「一倍充填」のクロマトグラムを、図2は、比較のための「二倍充填」のクロマトグラムを示す。クロマトグラムの第1のピーク(それぞれ200mlの溶出液にて開始)は、それぞれC1-INHを含有するフロースルー画分を表す。図1では、第1のピークは本質的に他のピークと重なっていないかなり鋭い単一ピークであることがわかるが、図2では、第1のピークは実際にはいくつかの重なったピークからなることがわかる。また、次のピークと端にて重なっている第1の重なりのピークは、図1に示されている一倍充填の実験の単一の鋭いピークよりも広範囲へ続くはるかに大きいピークである。これは、フロースルーモードまたはネガティブモードでHICを使用してC1-INHを精製するために使用される「一倍充填」は、純度に関する欠点なしに二倍にできないことを示している。したがって、図1および2は、本発明の文脈において「一倍充填」および「二倍充填」により理解されるべきことを表している:一倍充填は、C1-INH含有出発材料の充填であり、これはクロマトグラムにおいて他のピークと本質的に重なっていないC1-INHに起因する単一ピークを本質的にもたらし、よって従来技術に従って、つまり、フロースルーモードまたはネガティブモードで実行されるHICにおいて、本質的に純粋なC1-INH溶出液を得ることを可能にし、ここで、他の点では本質的に同じ条件下での同じ出発材料の二倍充填は、クロマトグラムにおける他のピークと本質的に重なっていないC1-INHに起因する単一ピークを本質的にもたらさず、つまり、一倍充填と比較して、所望のC1-INH溶出液の純度に関して、二倍充填は本質的な品質を損なうことなしにスケールアップを可能にしない。
【0042】
図3は、HIC実験からのHIC溶出画分を含有する様々なC1-INHの試料のSDS-PAGEゲル(トリス-グリシンゲル、1.5mm厚、勾配8~16%、最大電圧150V、実行時間:90分)であり、従来技術である欧州特許第0101935号に記載されているようなC1-INHの分別沈殿および再溶解によって生成されるC1-INH濃縮物を出発材料として全て使用している。より良好な比較を可能にするために、ゲルに充填された試料はほぼ同じ量のタンパク質を含む。
【0043】
図3に示されるゲルでは、レーン3は出発材料として使用されるC1-INH濃縮物である。出発材料が他の高分子量および低分子量のタンパク質を含有することがわかる。レーン4は、Berinert(登録商標)の製造方法からの、つまり、従来技術に従う工業的規模の方法からのHICの溶出画分を含有するC1-INHである。レーン4で最も強度が高いバンドはC1-INHであり、重量はおよそ105kDである。明らかに、この画分では高分子量の成分を検出することができない。
【0044】
レーン5および7は、フロースルーのHIC実験の溶出画分を含有するC1-INHである。レーン5の試料は、一倍充填の実験から取得され、レーン7の試料は、二倍充填の実験から取得される。高分子量の不純物は、出発材料(レーン3)、Berinert(登録商標)製品試料(レーン4)、およびそれぞれ一倍充填および二倍充填のフロースルーの試料(レーン5、レーン7)で検出可能である。レーン3、4、5、7の高分子量の不純物に起因するバンドは、図3の四角により強調表示されている。高分子量の不純物に起因するバンドは、レーン4および5で比較的弱く、レーン3および7でより顕著である。レーン7から明らかなように、二倍充填の溶出画分は、一倍充填の溶出画分(レーン5を参照)およびBerinert(登録商標)の製造方法からの溶出画分(レーン4を参照)で検出可能なものよりも多くの高分子量の不純物を含有する。この発見は、異なる血漿製造物からの出発材料でのなおさらなる実験を実行することによって検証され、その結果は、以下でさらに議論される図4に示される。これは、従来技術に従うフロースルーモードまたはネガティブモードでのHICの実行が、品質を損なうことなくC1-INH濃縮物の精製を可能にするカラムの最大充填に関して制限されていることを明確に示している。これらの実験で使用された一倍充填は、7.5mgタンパク質/mlクロマトグラフィーゲルの充填に相当する。
【0045】
図3のレーン6および8は、本発明に従うHIC実験の溶出画分を含有するC1-INHであり、つまり、HICを結合および溶出モード、またはポジティブモードで実行した。図3のレーン6の溶出画分は、一倍充填の実験からのものであり、図3のレーン8の溶出画分は、二倍充填の実験からのものである(15mgタンパク質/mlクロマトグラフィーゲルを使用)。該ゲルは、二倍充填がカラムに適用された場合にも、C1-INHの重量を超える、つまり、105kDを超える不純物が、それぞれの溶出画分で検出できなかったことを示している(図3のレーン8を参照)。
【0046】
したがって、図3のレーン6は、本発明に従うHICが、C1-INH濃縮物中の高分子量の不純物を除去するための実行可能な代替的な解決法を提供し、従来技術よりも高分子量の不純物が少ない生成物を生じることを実証している。それとは関係なしに、レーン8は、本発明に従うHICが、本質的に従来技術よりも品質を損なうことなく、C1-INH濃縮物の精製に到達することを可能にするカラムの最大充填に関して制限が少ないことを実証している。言い換えると:本発明者らは、C1-INH濃縮物の精製に到達することを可能にするカラムの最大充填が、従来技術に従うネガティブモードまたはフロースルーモードのHICを使用する場合に他に避けられないような精製に関する欠点なしに、本発明に従うポジティブモードまたは結合モードを使用することによって少なくとも2倍にすることが可能であることを示すことができた。
【0047】
図4は、従来技術に従う、つまり、フロースルーモードまたはネガティブモードでのHIC実験からのHIC溶出画分を含有する様々なC1-INHの試料でのSDS-PAGEゲル(トリス-グリシンゲル、1.5mm厚、勾配8~16%、最大電圧150V、実行時間:90分)であり、従来技術である欧州特許第0101935号に記載されているように、C1-INHの分別沈殿および再溶解によって生成されるC1-INH濃縮物を出発材料として使用している。より良好な比較を可能にするために、ゲルに充填された試料はほぼ同じ量のタンパク質を含む。図4のゲルでは、レーン1は、マーカーであり、レーン6および9は、それぞれ異なる装入量のBerinert(登録商標)の最終製品試料であり、レーン10は、典型的な出発材料の試料である。レーン2、4、および7は、一倍充填で実行されたHICの溶出画分を示し、レーン3、5、および8は、二倍充填、つまりC1-INH含有出発材料の2倍の量で実行されたHICの溶出画分を示す。高分子量の不純物は、最終製品試料(図4のレーン6、9を参照)を含む全ての試料で検出可能であり、ここで、後者では不純物の検出が困難である。一倍充填試料および二倍充填試料のバンドの強度を比較すると、二倍充填試料には一倍充填試料よりも高分子量の不純物が多く含有されていることが明らかである。図4のゲルは、言い換えれば、C1-INH濃縮物の精製を可能にする最大充填に関して、従来技術に従う方法の制限に関するさらなる証拠を提供している。
【0048】
本発明者らは、本発明を使用することにより本質的に品質を損なうことなく、C1-INH濃縮物の精製を可能にするカラムの最大充填は、クロマトグラフィーマトリックスがC1-INHを解放し始めるまで、該マトリックスのC1-INH含有出発材料の充填容量によって、最終的に制限されると考える。Phenyl Sepharose(登録商標)の場合、40%の硫酸アンモニウムを含有する沈殿画分の上清または濾液からなるC1-INH含有出発材料を使用する場合のカラムの充填容量は、C1-INH濃縮物の精製に到達することができるようにフロースルー(従来技術に従う)で適用された再溶解した60%の硫酸アンモニウムの沈殿物からなるC1-INH含有出発材料の一倍充填の約4倍またはさらに4.4倍であることがわかった。したがって、生産規模では、原則として、該充填が、従来技術と比較して2倍になるだけでなく、現在使用されている充填の2倍を超えることさえ可能である。これは、カラム体積および/または固定相材料に関する重要な経済性が、本発明のおかげで実際に実現され、かつこれは品質を損なうことがないことを意味する。
【0049】
本発明者らはまた、本発明に従う方法は、フロースルーモードまたはネガティブモードでHICを使用する場合と比較して、はるかに高い流速で実行することができ、品質を損なうことなく所望の濃縮物の精製に到達することができることを見出した。この経済性はかなり重要である:Berinert(登録商標)の方法で現在使用されている規模での従来のHIC実行は通常42.6時間かかるが、本発明を使用する最適化された実行は、一倍充填を使用する場合わずか6時間で実行することができ、HICの方法の工程を削減して、したがって、全体のプロセス時間は36.6時間である。二倍充填を使用する場合、実行は6.6時間で実行することができ、二倍充填の使用が可能であると、全体のプロセス時間が78.6時間程度に削減することが可能である。
【0050】
図5は、HIC実験からの溶出画分を含有するC1-INHのSDS-PAGEゲル(トリス-グリシンゲル、1.5mm厚、勾配8~16%、最大電圧150V、最大電流35mA、実行時間:90分)であり、出発材料を、C1-INHを沈殿させるのに必要な濃度よりも低い沈殿剤濃度での分別沈殿(つまり、従来技術のようなC1-INHの沈殿なし)、すなわち、40%の硫酸アンモニウムを含有する沈殿画分の上清または濾液によって生成した。最も強いバンドは、再びC1-INHであり、ここでまた、高分子量の成分は検出することはできなかった。40%の硫酸アンモニウムの沈殿物の上清または濾液は、従来技術のように60%の硫酸アンモニウムの沈殿物から生成される溶液よりも多くの不純物を含むためこれは注目に値する。これはまた、本発明に従う方法が、分別沈殿においてC1-INHを沈殿させて、HIC精製を実行する前にそれを再溶解することなしに、従来技術の方法を実行することを可能にする追加の利点を有することを意味する。
【0051】
したがって、発明者らは、本請求の方法が、HICに先行する分別沈殿でのC1-INHの沈殿およびC1-INHの再溶解を省くことにより、プロセス時間をさらに削減することを可能にすることも見出した。これにより、それ故、他では必要とされる付加的な9.2時間を節約することができる。したがって、本発明に従う方法は、さらに多くのプロセス時間を節約することができ、すなわち、一倍充填を実行する場合45.8時間、二倍充填で方法を実行する場合、なお最大97時間である。
【0052】
上記のように、本発明者らは、本発明を使用することによって本質的に品質を損なうことなくC1-INH濃縮物の精製を可能にするカラムの最大充填は、カラムのC1-INH含有出発材料の結合能力によってのみ制限されると考え、したがって、該充填は、従来技術と比較して二倍になるだけでなく、現在使用されている充填の二倍を超える可能性さえある。これは、上記で論じたものよりも、カラム体積および/または固定相材料および/または時間に関するなおさらに重要な経済性が、本発明のおかげで、原則として品質を損なうことなく実現することができ、一方で生産規模でさえ同時に純度の改善を達成することが可能であることを意味する。
【0053】
図6は、試料の導電率を沈殿剤濃度と相関させる標準曲線を示す。抗カオトロピック塩が沈殿剤として使用され、ほとんどが硫酸ナトリウムまたは硫酸アンモニウムであり、ここで、後者が好ましい。緩衝液中の塩濃度は、図6に示すように、その導電率と相関させることができ、以下の実験のセクションでより詳細に説明される。これは、沈殿剤濃度、またはむしろ抗カオトロピック塩濃度についての対応する試料の適切な分析を可能にする。
【0054】
図7~11は、従来技術および本発明に従うHICから得られたクロマトグラムであり、それぞれ横軸はカラムを出る溶離液の体積をmlで示し、左の縦軸は導電率をmS/cmで示し、右の縦軸は吸光度をmAUで示す。導電率は、上記で説明したように決定される相関係数によって、溶離液の硫酸アンモニウム濃度に直接関連付けることができる。
【0055】
図7は、従来技術に従うHICから得られたクロマトグラムである。出発材料は、欧州特許第0101935号に記載されているように、分別沈殿および沈殿物の溶解によって生成される血漿由来C1-INH含有濃縮物である。硫酸アンモニウム濃度はしばらくの間約106mg/mlで一定のままである。この濃度は、固定相がC1-INHを保持するには低すぎる。C1-INH含有のピークは、約50mlの溶離液の体積にてみられる。初期の硫酸アンモニウム濃度でカラムに結合したC1-INH以外のタンパク質の段階溶出は、約500mlの溶離液の体積でみることができる。これは、硫酸アンモニウム濃度が突然低下した場合に起こる。
【0056】
図8は、濃度勾配による溶出を伴う本発明に従うHICから得られたクロマトグラムである。出発材料は、欧州特許第0101935号に記載されているように、分別沈殿および沈殿物の溶解によって生成される血漿由来C1-INH含有濃縮物である。溶離液の硫酸アンモニウム濃度が約160mg/mlをわずかに下回る濃度に下げられるまでは、初期の硫酸アンモニウム濃度は固定相にC1-INHを保持するのに十分に高い濃度である。C1-INHに起因する対応するピークは、約270mlの溶離液の体積でみられる。
【0057】
図9は、濃度勾配による溶出を用いた本発明に従うHICから得られたクロマトグラムである。出発材料は、40%の硫酸アンモニウムを用いた分別沈殿の上清または濾液から得られた血漿由来C1-INH含有濃縮物である。溶離液の硫酸アンモニウム濃度が約160mg/mlをわずかに下回る濃度に下げられるまでは、溶液の初期の硫酸アンモニウム濃度は、固定相にC1-INHを保持するのに十分に高い濃度である。C1-INHに起因する対応するピークは、約270mlの溶離液の体積でみられる。
【0058】
図10は、濃度勾配の代わりに段階溶出を使用して、本発明に従うHICから得られたクロマトグラムである。出発材料は、40%の硫酸アンモニウムを用いた分別沈殿の濾液から得られた血漿由来C1-INH含有濃縮物である。溶離液の硫酸アンモニウム濃度が突然下げられるまでは、溶液の初期の硫酸アンモニウム濃度は、固定相にC1-INHを保持するのに十分に高い濃度である。
【0059】
図11は、濃度勾配による溶出を用いた本発明に従うHICから得られたクロマトグラムである。出発材料は、従来技術に従うBerinert(登録商標)濃縮物である。溶離液の硫酸アンモニウム濃度が約162mg/mlをわずかに下回る濃度に下げられるまでは、溶液の初期の硫酸アンモニウム濃度は、固定相にC1-INHを保持するのに十分に高い濃度である。C1-INHに起因する対応するピークは、約670mlの溶離液の体積でみられる。
【0060】
本発明者らは、前述の従来技術に記載されたBerinert(登録商標)の製造方法の改善に関心を持っていたが、ポジティブモードのHICが他のC1-INHの精製方法にも有益であることは明らかである。言い換えれば、本発明は、欧州特許第0101935号に記載された方法、もしくはBerinert(登録商標)の製造方法に使用されることだけでなく、あらゆる起源のC1-INH濃縮物(例えば、血漿から得られた濃縮物、またはトランスジェニック動物から得られた組換えC1-INHを含有するC1-INH濃縮物、またはさらに異なる手段で得られたC1-INH濃縮物)を精製するためのフロースルーモードもしくはさらには未だ設計されていない将来の方法においてHICの工程を前に含む、異なる出発材料を使用するC1-INH濃縮物を精製することを目的とする他の方法に使用されることに明らかに制限されない。
【実施例
【0061】
材料および方法
I.カラムA
使用される材料:
- それぞれ半精製された画分の形態における血漿由来C1-INH試料;
- GE HealthcareによるPhenyl Sepharose(登録商標)6 Fast Flow(低置換)(20%のエタノールに保存された市販の芳香族疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)樹脂)
- 硫酸アンモニウム緩衝液:
・ 181mg/mL(175~292mg/mL)の硫酸アンモニウム、
・ 25mMのトリス、
・ pH7.2±0.2
- トリス緩衝液:
・ 25mMのトリス
・ pH7.2±0.2
- クロマトグラフィーカラム、直径:1.6cm(Akta Avant、GE Healthcare)
- UV分光光度計(unicorn);
- 導電率計
【0062】
1.HICのカラムAの充填:20%のエタノールに保存されたPhenyl Sepharose(登録商標)ゲルを、注射用水(WFI)で3回洗浄した。WFIで洗浄した70%のPhenyl Sepharose(登録商標)ゲルのスラリーを製造し、クロマトグラフィーカラムに配置した。WFIおよび150cm/hの線流速を使用して、該ゲルをゲルベッドの高さが約18cm(20±5cm)に詰めた。次いで、2.5%のカラム体積の5%のアセトン(v/v)を注入してカラムを試験した。カラム試験は、非対称性が0.8~1.8であり、かつ理論段数が2800以上であるという条件で合格する。
【0063】
2.試料製造:精製される血漿C1-INH試料を、硫酸アンモニウム濃度181mg/mL(175~292mg/mL)、およびトリス含有量25mMに入れた。添加することができる硫酸アンモニウム濃度は、試料のタンパク質濃度に依存する。タンパク質濃度が高いほど、試料の可能な硫酸アンモニウム濃度は低くなり、つまり、タンパク質の沈殿が発生し始める硫酸アンモニウム濃度は低くなる。試料の希釈は、より多くの硫酸アンモニウムを添加することを可能にする。最適なタンパク質濃度は、0.1~3mg/mLタンパク質の範囲である。試料は、pH調整のために25mMのトリスを含む。硫酸アンモニウムおよびトリスの添加後に、試料を、1MのNaOHまたは1MのHClを添加することによって、pH7.2±0.2に調整し、0.45μmのフィルターで濾過した。タンパク質濃度の測定後に、カラムの充填(カラムAの場合)を、最大30mgタンパク質/mLゲルの充填に達するように計算した。タンパク質濃度を、280nmでのそれぞれの試料の光学濃度(OD)の測定に基づく公知の方法で決定した。
【0064】
3.カラムの平衡化:カラムを、3カラム体積以上の硫酸アンモニウム緩衝液を使用して、100cm/hの線流速で平衡化した。
【0065】
4.カラムへの試料の充填:試料を、100cm/hの線流速でカラムに充填した。次いで、カラムを3カラム体積以上の硫酸アンモニウム緩衝液で、同じ流速にて洗浄した。
【0066】
5.C1阻害剤の溶出:C1-INHを、トリス緩衝液への硫酸アンモニウム緩衝液の勾配により、20カラム体積にわたって100cm/hの線流速で溶出した。完全な溶出液を分画し、次いで、非還元の単一画分をトリス-グリシンゲルへ充填して分析した。バンドパターンを使用することで、第1のピークがC1-INHであることを示すことが可能であった。
【0067】
6.カラムの再生:カラムの再生を、3カラム体積のWFI、4カラム体積の0.1MのNaOH、3カラム体積のWFIを順次使用して100cm/hの線流速にて実行した。
【0068】
II.カラムB
使用される材料:
- それぞれ半精製された画分の形態における血漿由来C1-INH試料;
- HiScreen(商標)Capto(商標)Butyl HP、GE Healthcare、コード28-9782-42;直径:0.77cm;ゲルベッドの高さ:10cm;ゲル体積:4.7ml
- 硫酸アンモニウム緩衝液:
・ 181mg/mL(131~292mg/mL)の硫酸アンモニウム、
・ 25mMのトリス、
・ pH7.2±0.2
- トリス緩衝液:
・ 25mMのトリス
・ pH7.2±0.2
- Akta Avant、GE Healthcare、Unicorn、UV分光光度計、導電率計
【0069】
1.試料製造:精製される血漿C1-INH試料を、硫酸アンモニウム濃度181mg/mL(131~292mg/mL)、およびトリス含有量25mMに入れた。添加することができる硫酸アンモニウム濃度は、試料のタンパク質濃度に依存する。タンパク質濃度が高いほど、試料の可能な硫酸アンモニウム濃度は低くなり、つまり、タンパク質の沈殿が発生し始める硫酸アンモニウム濃度は低くなる。試料の希釈は、より多くの硫酸アンモニウムを添加することを可能にする。最適なタンパク質濃度は、0.1~3mg/mLタンパク質の範囲である。試料は、pH調整のために25mMのトリスを含む。硫酸アンモニウムおよびトリスの添加後に、試料を、1MのNaOHまたは1MのHClを添加することによって、pH7.2±0.2に調整し、0.45μmのフィルターで濾過した。タンパク質濃度の測定後に、カラムの充填(カラムBの場合)を、7.5mgタンパク質/mLゲルの充填に達するように計算した、つまり、カラムBを、7.5mgタンパク質/mlクロマトグラフィーゲルの充填でのみ試験した。タンパク質濃度を、280nmでのそれぞれの試料の光学濃度(OD)の測定に基づく公知の方法で決定した。
【0070】
2.カラムBの平衡化、カラムBへの試料の充填、C1-INHの溶出、およびカラムの再生を、カラムAについて上述したように同じ方式でそれぞれ実行した。
【0071】
計算方法:
1.C1-INHの溶出のための硫酸アンモニウム濃度の決定:導電率、280nmおよび610nmでのUVシグナルを、クロマトグラフィーの実行を通して記録した。これにより、発明者らは、クロマトグラムのC1-INHのピークに導電率を割り当てることが可能であった。緩衝液希釈系列を製造し、対応する導電率を測定することにより、検量線を作成した。測定値を以下の表1に示し、ASは硫酸アンモニウムを表す。
【0072】
【表1】
【0073】
全てのC1-INH溶出が、カラムAのPhenyl Sepharose(登録商標)マトリックスを使用する場合に160mg/ml~174mg/mlの間のAS濃度で発生したこと、カラムBのHiScreen(商標)Capto(商標)Butyl HPマトリックスを使用する場合に124~131mg/mlの間のAS濃度で発生したことが、硫酸アンモニウム濃度への導電率の変換により示すことができた。導電率測定に基づくAS濃度の決定を可能にする対応する検量線を図6に示す。
【0074】
2.沈殿なしの可能な硫酸アンモニウムの最高濃度の決定:タンパク質の沈殿なしに、固定相へのC1-INHの保持または結合を可能にする可能な硫酸アンモニウムの最高濃度を決定するために、滴定を実行した。この実験では、沈殿が起こるまで飽和硫酸アンモニウムをC1-INH試料に添加した。そのように決定された試料中の可能な硫酸アンモニウムの最高濃度は、292mg/mLであった。これを、同じ濃度で実行を行うことによって検証し、これにより、C1-INHが固定相に結合し、かつ続いて固定相から溶出することができることを示すことができた(以下の表2、実験180619HWおよび図11を参照)。
【0075】
3.従来技術に従うフロースルーの方法との比較における最大のタンパク質充填容量の決定:従来技術に従うフロースルーの方法との比較における最大のタンパク質充填容量を決定するために、フロースルー画分においてUVシグナルが280nmで検出することができるまで、Phenyl Sepharose(登録商標)ゲル(カラムA)を結合条件下にて出発材料1で充填した。そのように決定されたタンパク質の量は、出発材料1を使用する従来技術に従うフロースルーの方法で使用される7.5mg/mlの一倍充填と比較した場合、2倍を超えるタンパク質の量であった。出発材料2(40%の硫酸アンモニウムの沈殿物の濾液)を使用して、そのように決定された量を、出発材料1(再溶解した60%の硫酸アンモニウムの沈殿物)を使用する従来技術に従うフロースルーの方法で使用された7.5mg/mlの一倍充填と比較した場合、4倍を超えるタンパク質の量であった。
【0076】
その後、それぞれ一倍および二倍充填でのクロマトグラフィーの実行を、フロースルーモード(つまり、従来技術のように)および本発明に従う結合および溶出モードでそれぞれ実行した。全ての4つの実行の試料で作製されたトリス-グリシンゲルの比較では、本発明に従う2つの実行から得られた試料のC1-INHのピークが、従来技術に従う実行から得られた試料のC1-INHのピークよりも高い純度を有し、試料の充填に関係なく、最も純度の低いC1-INHのピークが、従来技術に従うフロースルーモードの二倍充填の実行においてみられたことを示す。この結果を上述の図3に示す。
【0077】
特定の実験のデータを以下の表2に示す。これらの実験のいくつかに対応するクロマトグラムを上述の図7~11に示す。
【0078】
表2は、従来技術(「フロースルー」)のように実行した実験、前述のカラムA(カラム体積(CV)が36ml)またはカラムB(カラム体積が4.7ml)を使用して本発明(「ポジティブモード」)に従って実行した実験、およびそれぞれ以下の出発材料1~4のうちの1つを列挙する:
- 従来技術である欧州特許第0101935号と同じ、つまり、再溶解した60%の硫酸アンモニウム(AS)の沈殿物(=出発材料1);
- 前の40%のAS沈殿物の濾液(=出発材料2)、
- 凍結乾燥されたBerinert(登録商標)製品(=出発材料3)、
- 出発材料1を使用する2つのHIC実験の組み合わせ溶出液(=出発材料4)
【0079】
それぞれの出発材料を平衡緩衝液に溶解した。溶出は、特に記載がない限り、特定量のカラム体積(CV)での濃度および/またはpH勾配によって、または段階溶出によって行った。C1-INHのピークの検出は、上記のように実行した。
【0080】
【表2】
【0081】
表2からわかるように、C1-INH溶出のピークが観察される硫酸アンモニウム(AS)濃度は、カラムAを使用する場合は約160~約174mg/mlの間、カラムBを使用する場合は約124~約131mg/mlの間である。さらにわかるように、出発材料1を使用する場合のカラムAの充填容量は、一倍充填の少なくとも2倍、つまり、少なくとも2×7.5mgまたは15mgタンパク質/mlクロマトグラフィーゲルであり、出発材料2を使用する場合、一倍充填の少なくとも4倍、つまり、少なくとも30mgタンパク質/mlクロマトグラフィーゲルである。
【0082】
表3は、多数の異なるゲルの種類を比較したさらなる実験を示す。表3に記載される条件下で、C1-INHはマトリックスに結合し、異なる勾配で溶出した。
【0083】
【表3】
【0084】
SDSゲル(データは示さず)では、溶出したC1-INHの純度を分析し、表4に示す4つのゲルの種類が夾雑タンパク質からのC1-INHの最も高い分解をもたらすことがわかった。表3に示す結合条件および溶出条件を使用する後続の実験では、C1-INHの収率をこれら4つのゲルの種類の間で比較し、GE HealthcareからのPhenyl-Hans-Peter(登録商標)、続いて東ソー株式会社からのPhenyl-650M(登録商標)が最も高い収率をもたらすことがわかった。
【0085】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】