(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】吸入用乾燥医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/12 20060101AFI20220106BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20220106BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220106BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20220106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220106BHJP
A61K 31/683 20060101ALI20220106BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20220106BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20220106BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220106BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A61K39/12
A61K39/39
A61P37/04
A61P31/20
A61P43/00 121
A61K31/683
A61K38/19
A61K35/74 B
A61K9/14
A61K47/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521291
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(85)【翻訳文提出日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2019078277
(87)【国際公開番号】W WO2020079185
(87)【国際公開日】2020-04-23
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】512113803
【氏名又は名称】ドイチェス クレブスフォルシュンクスツェントルム
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ロッシ,イレーネ
(72)【発明者】
【氏名】スパニョーリ,グローリア
(72)【発明者】
【氏名】ボルチ,アンジェロ
(72)【発明者】
【氏名】オットネロ,シモーネ
(72)【発明者】
【氏名】ベッティーニ,ルッゲロ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076AA93
4C076BB21
4C076CC07
4C076CC35
4C076DD38
4C076GG09
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4C085EE05
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4C085GG10
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA43
4C086MA55
4C086NA05
4C086ZB09
4C086ZB33
4C086ZC41
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC54
4C087CA15
4C087MA02
4C087MA43
4C087NA05
4C087ZB09
4C087ZB33
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、抗原及び両親媒性免疫刺激剤を含み、噴霧乾燥によって生成された吸入用乾燥医薬組成物、並びに抗原、両親媒性免疫刺激剤、及び任意選択により増量剤を含む溶液を噴霧乾燥することによって得られるか又は得ることが可能な乾燥医薬組成物に関する。本発明はまた、医療における使用のための、特に対象のワクチン接種における使用のための前記乾燥医薬組成物、並びにそれに関連する方法及びキットにも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原及び両親媒性免疫刺激剤を含み、噴霧乾燥によって生成された吸入用乾燥医薬組成物であって、好ましくは前記抗原が熱安定性のポリペプチドであり、前記抗原がチオレドキシンを含み、及び/又は前記抗原がパピローマウイルスの少なくとも1つの抗原エピトープを含む、乾燥医薬組成物。
【請求項2】
好ましくはマンニトール、ラクトース、及びトレハロースから選択され、より好ましくはマンニトールである少なくとも1種の増量剤をさらに含む、請求項1に記載の乾燥医薬組成物。
【請求項3】
前記抗原が、前記乾燥医薬組成物中に、0.1%(w/w)~10%(w/w)の割合で含まれる、請求項1又は2に記載の乾燥医薬組成物。
【請求項4】
前記抗原が、前記乾燥医薬組成物中に、0.3%(w/w)~2.5%(w/w)、好ましくは約2%(w/w)の割合で含まれる、請求項1から3のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【請求項5】
前記両親媒性免疫刺激剤が、前記乾燥医薬組成物中に、0.1%(w/w)~10%(w/w)の割合で含まれる、請求項1から4のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【請求項6】
前記両親媒性免疫刺激剤が、トール様受容体(TLR)の、好ましくはTLR4のアゴニストであり、より好ましくはモノホスホリルリピドA、合成リピドA、リピドA類似体、リピドAミメティック、サイトカイン、サポニン、グラム陰性細菌のリポ多糖(LPS)、及びエンドトキシンからなるリストから選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【請求項7】
前記両親媒性免疫刺激剤がモノホスホリルリピドAである、請求項1から6のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【請求項8】
前記噴霧乾燥が、特定される化合物を含む溶液を高温でガス状の乾燥剤の流れの中に噴霧することを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【請求項9】
前記抗原が、HPV16 L2ポリペプチドのアミノ酸20~38に相当するアミノ酸配列を含む少なくとも1つのペプチドを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【請求項10】
抗原、両親媒性免疫刺激剤、及び任意選択により増量剤を含む溶液を噴霧乾燥することによって、好ましくは請求項15に記載の方法に従って得られるか又は得ることが可能な乾燥医薬組成物。
【請求項11】
医療における使用のための、請求項1から10のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【請求項12】
対象のワクチン接種における使用のための、請求項1から10のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【請求項13】
前記抗原がパピローマウイルスの少なくとも1つの抗原エピトープを含み、前記ワクチン接種がパピローマウイルスに対するワクチン接種である、請求項12に記載の使用のための乾燥医薬組成物。
【請求項14】
抗原、両親媒性免疫刺激剤、及び任意選択により増量剤を含む溶液を噴霧乾燥するステップを含む、乾燥医薬組成物を製造する方法。
【請求項15】
請求項1から10のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物をハウジングの中に含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原及び両親媒性免疫刺激剤を含み、噴霧乾燥によって生成された吸入用乾燥医薬組成物、並びに抗原、両親媒性免疫刺激剤、及び任意選択により増量剤を含む溶液を噴霧乾燥することによって得られるか又は得ることが可能な乾燥医薬組成物に関する。本発明はまた、医療(medicine)における使用のための、特に対象のワクチン接種における使用のための前記乾燥医薬組成物、並びにそれに関連する方法及びキットにも関する。
【背景技術】
【0002】
感染因子に対するワクチン接種は、通常、適切な抗原を含有する溶液又は懸濁液の皮下又は筋肉内の注射を含む。環境温度状態(季節及び特定の地理的地域に依存して10~40℃)下での前記溶液/懸濁液の物理化学的安定性は、通常劣っているため、温度制御状態(いわゆる「コールドチェーン」)下でのワクチン製品の貯蔵、輸送及び配給が必要である。これにより、ワクチンのコストが大幅に増加し、他の/代替の予防戦略(例えば早期細胞診)の欠如が原因で、通常、ワクチン接種がより必要とされる開発途上の状況において、ワクチン利用可能性/適用可能性が著しく限定される。このコストの増加及び利用可能性の低減に関連して、ワクチンが、貯蔵/輸送中に偶発的に凍結状態又は温度過昇状態(この両方ともがワクチンの有効性に深刻に影響を及ぼし得る)に曝露されるおそれがあるという懸念もある。
【0003】
また、注射によるワクチン投与は痛みを伴う場合があり、患者は気後れを抱きながら応じることが多く、心身相関の有害作用(いわゆる「失神反応」)を引き起こすおそれがあり、専門の医療従事者によって実施されなければならない。後者の点及びある特定の民族/宗教群に付いて回る気後れは、開発途上国において、また先進国においても、大規模なワクチン接種プログラムを一層困難にし、妨げている。
【0004】
代替法として、液体をエアロゾルに変換する噴霧器の使用による液体製剤の投与が提案されている(例えばNardelli-Haefligerら(2005年)、Vaccine、23:3634~3641)。この送達方式は、大用量の活性な及びかなり安定な医薬成分の投与に特に有用である。これは使用直前に半滅菌状態で溶解される安定化した粉末に適用することもできるが、エアロゾル系投与には、その使用及び適用可能性を著しく限定する複数の欠点がある。即ち、時間がかかること、電力源が必要であること、及び噴霧された用量のうちかなりの部分が周囲に分散することである。
【0005】
さらなる代替法として、吸入用の乾燥製剤の使用が提案され、例えば喘息の治療では投与の標準方法になっている。乾燥粉末製剤のガレヌス製剤的特性を改善するために、例えば抗生物質又は化学療法物質と組み合わせるための脂質が提案された(例えばWO 2010/003465を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それでもなお、当技術分野において、免疫化のための改善された手段及び方法を提供する必要がある。特に、上記の先行技術の欠点を少なくとも部分的に回避する手段及び方法を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この問題は、独立請求項に記載の特徴を有する本発明の主題によって解決される。単独で、又はいずれかの任意の組み合わせで実現され得る好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0008】
したがって、本発明は、抗原及び両親媒性免疫刺激剤を含み、噴霧乾燥によって生成された吸入用乾燥医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】Alexa Fluor 750で予め標識したPfTrx-HPV16-L2×3抗原を含有する乾燥粉末に製剤化されたワクチンを気管内に注入したマウスの肺(L)及び気管(T)の外植片に由来する可溶性の組織上清のSDS-PAGE分画及び蛍光分析(20,000×g、15分)。マウス2匹に由来する生物学的反復(replicate)組織サンプル(L1、T1;L2、T2)により得られた結果が示されている。Alexa Fluor 750で標識済みの投与された抗原(C+)、及び蛍光標識された乾燥粉末ワクチンを注入していないマウスに由来する肺組織サンプル(C-)が、それぞれ陽性及び陰性対照としての役目をした。
【
図2】乾燥粉末に製剤化されたHPV-L2ワクチンの免疫原性の評価。(A)免疫化及び血液採取のスケジュール。(B)i)抗原を含まない粉末(#1;陰性対照)を皮下に、ii)可溶性の二重アジュバントワクチン(20μgのPfTrx-HPV16-L2×3抗原)(#2;陽性対照)を皮下に、乾燥粉末に製剤化されたHPV-L2ワクチン(およそ20μgのPfTrx-HPV16-L2×3抗原に相当する総量1mgの粉末)(#3;試験サンプル)を気管内に、単一アジュバントの、予め乾燥粉末に製剤化したワクチン(#4;#3と同量)をPBSに溶解して皮下に、注入した個々のマウス(図示された符号で表されている)のGST-L2 ELISA試験から得られた結果。西洋ワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートした二次抗体及び発色基質o-フェニレンジアミンを使用して決定した、測定済みの抗L2抗体価(分光光度法にて450nmで読み取り)がy軸に示されている。(C)ラット抗マウスIgサブクラス特異的な西洋ワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートした二次抗体を使用して、固定免疫血清希釈で決定した免疫グロブリンアイソタイプ。
【
図3】参照抗原PfTrx-HPV16-L2×3(#3)又は改変OVX313-PfTrx-HPV-L2×3抗原(#5)のいずれかを活性成分として含有する乾燥粉末に製剤化されたワクチンを、気管内に注入したマウスに由来する免疫血清の比較分析。抗HPV-L2抗体価として表される免疫原性を、
図2の説明に記載されているように、GST-L2捕捉ELISAによって決定した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下で使用する場合、「有する(have)」、「含む(comprise)」若しくは「含む(include)」という用語又はこれらのいずれかの任意の文法的変化形は、非排他的に使用される。したがって、これらの用語は、これらの用語によって導かれる特徴以外に、この文脈に記載されている実体の中にさらなる特徴が存在しない状況、及び1つ以上のさらなる特徴が存在する状況の両方を指すことができる。例として、「AはBを有する(has)」、「AはBを含む(comprises)」及び「AはBを含む(includes)」という表現は、Aには、B以外に他の要素は存在しない状況(即ち、Aは唯一且つ排他的にBからなる状況)、並びに実体Aには、B以外に1つ以上のさらなる要素、例えば要素C、要素C及びD又はなおもさらなる要素が存在する状況、の両方を指すことができる。
【0011】
さらに、以下で使用する場合、「好ましくは」、「より好ましくは」、「最も好ましくは」、「詳細には」、「より詳細には」、「具体的には」、「より具体的には」という用語又は類似の用語は、さらなる可能性を限定することなく任意選択の特徴に関連して使用される。このように、これらの用語によって導かれる特徴は任意選択の特徴であり、特許請求の範囲を限定するものでは一切ない。当業者は認めるであろうが、本発明は、別の特徴を使用して実行することができる。同様に、「実施形態において」又は類似の表現によって導入される特徴は、任意選択の特徴であることを意図し、本発明のさらなる実施形態に関して何ら限定せず、本発明の範囲に関して何ら限定せず、そのように導入された特徴を本発明の他の任意選択の又は非任意選択の特徴と組み合わせる可能性に関して何ら限定しない。
【0012】
本明細書で使用する場合、「標準状態」という用語は、他に特筆されていなければ、IUPACの標準環境温度と圧力(standard ambient temperature and pressure:SATP)状態、即ち好ましくは、温度が25℃及び絶対圧が100kPaを指し、また好ましくは、標準状態にはpH7が含まれる。さらに、他に指定されていなければ、「約」という用語は、関連分野で一般に認められている技術的精度を有する指定値に関し、好ましくは指定値±20%、より好ましくは±10%、最も好ましくは±5%に関する。さらに、「本質的に」という用語は、指定された結果又は使用に対して影響を及ぼす逸脱(deviation)がないこと、即ち潜在的な逸脱が、指定された結果を±20%を超えて、より好ましくは±10%を超えて、最も好ましくは±5%を超えて逸脱させないことを意味する。したがって、「から本質的になる」は、特定された構成成分を含むが、不純物として存在する材料、構成成分を供給するために使用されるプロセスの結果として存在する避けられない材料、及び本発明の技術的効果を実現すること以外の目的で添加される構成成分以外の、他の構成成分を除外することを意味する。例えば、「から本質的になる」という表現を使用して定義される組成物は、任意の既知の許容される添加剤、賦形剤、希釈剤、及び担体などを包含する。好ましくは、一連の構成成分から本質的になる組成物は、非特定の構成成分(複数可)を5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、より一層好ましくは1重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満含むことになる。核酸配列の場合では、「本質的に同一の」という用語は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の同一性の値の%を意味する。理解されるであろうが、「本質的に同一の」という用語は、100%の同一性を含む。前記事項は「本質的に相補的」という用語に準用される。
【0013】
「医薬組成物」という用語は、本明細書で使用する場合、少なくとも特定される化合物、即ち、どちらも本明細書の他の部分で特定されている少なくとも抗原及び両親媒性免疫刺激剤を薬学的に許容される形態で、任意選択により、少なくとも1種の薬学的に許容される担体、特に本明細書の他の部分で特定されている少なくとも1種の増量剤と組み合わせて含む組成物に関する。化合物は薬学的に許容される塩として提供することができ、許容される塩は、特に酢酸塩、塩酸塩、硫酸塩、及び塩化物などを含む。
【0014】
薬物投与のために従来使用されている好適な投与経路は、局所又は全身投与であり、特に経口、静脈内、又は非経口投与、及び吸入である。本明細書に記載されている医薬組成物は吸入用の医薬組成物である。したがって、本医薬組成物は吸入による投与に適している。好ましくは、吸入用の医薬組成物は吸入によって投与される。本明細書で使用する場合、「吸入」という用語は、空気又は別のガス状の担体を対象の体内に取り入れることに関し、前記空気又はガス状の担体は本明細書で特定されている医薬組成物を含む。したがって、吸入は、好ましくは対象の呼吸器系の少なくとも一部を医薬組成物と接触させる。当業者に理解されるとおり、吸入は口を介する吸入及び/又は鼻を介する吸入とすることができる。したがって好ましくは、吸入は、対象の口腔、鼻腔、咽頭、気管、及び肺のうち少なくとも1つを医薬組成物と接触させることを含む。したがって、より好ましくは、吸入は、口腔、鼻腔、咽頭、気管、及び/又は肺の上皮を医薬組成物と接触させる。したがって、好ましくは、医薬組成物は前記身体部分に局所的に投与される。
【0015】
医薬組成物は乾燥医薬組成物である。したがって、好ましくは、医薬組成物は粉末、好ましくは乾燥粉末であり、より好ましくは、医薬組成物は、最大で5%、より好ましくは最大で2%、最も好ましくは最大で1%の含水量を有する。好ましくは、乾燥医薬組成物は、体積中位径(median volume diameter)が最大で10μm、より好ましくは最大で7.5μm、最も好ましくは最大で5μmの粒子を含む。また好ましくは、乾燥医薬組成物は、体積中位径が0.5μm~10μm、好ましくは1μm~7.5μm、より好ましくは1.5μm~5μmの粒子を含む。
【0016】
医薬組成物は噴霧乾燥によって生成される。即ち、噴霧乾燥ステップを含むプロセスによって生成される。「噴霧乾燥」という用語は基本的に当業者に知られている。本明細書で使用する場合、この用語は、好ましくは、特定される化合物を含む溶液を高温でガス状の乾燥剤の流れ、例えば加熱空気の中に噴霧することを含むプロセスステップに関する。乾燥ステップの好ましい実施形態は、本明細書の他の部分で、特に乾燥医薬組成物を製造する方法の文脈で、及び実施例の中で特定されている。したがって、医薬組成物は、好ましくは、抗原、両親媒性免疫刺激剤、及び任意選択により増量剤を含む溶液を噴霧乾燥することによって、好ましくは本明細書で以下に特定されている本発明による乾燥医薬組成物を製造する方法に従って、得られるか又は得ることが可能である。加えて、医薬組成物はまた、他の担体、アジュバント、又は無毒性の、非治療的な、非免疫原性の安定化剤などを含むこともできる。
【0017】
好ましくは、抗原は、乾燥医薬組成物中に、0.1%(w/w)~10%(w/w)、好ましくは0.2%(w/w)~5%(w/w)、より好ましくは0.3%(w/w)~2.5%(w/w)、最も好ましくは約2%(w/w)の割合で含まれる。また好ましくは、両親媒性免疫刺激剤は、乾燥医薬組成物中に、0.05%(w/w)~10%(w/w)、好ましくは0.1%(w/w)~5%(w/w)、より好ましくは0.15%(w/w)~2%(w/w)、最も好ましくは約0.2%(w/w)の割合で含まれる。また好ましくは、増量剤:抗原の比は、1000:1(w/w)~10:1(w/w)、好ましくは500:1(w/w)~25:1(w/w)、より好ましくは300:1(w/w)~30:1(w/w)であり、より一層好ましくは約49:1(w/w)であり、最も好ましくは49(w/w)である。好ましくは、両親媒性免疫刺激剤は、乾燥医薬組成物中で抗原を少なくとも部分的にコーティングしている。好ましくは、乾燥医薬組成物は、コア部分及びコーティング部分からなる粒子を含み、前記コア部分は抗原の大部分及び任意選択により増量剤を含み、前記コーティング部分は両親媒性免疫刺激剤の大部分を含む。当業者には理解されるであろうが、「大部分を含む」という用語は、本明細書で使用する場合、乾燥医薬組成物の粒子の部分、好ましくは下部構造が、指定された化合物の総量の主たる部分を含むという事実に関する。したがって、好ましくは、乾燥医薬組成物は、前記粒子中に含まれる抗原の総量の少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、及び任意選択により少なくとも1種の増量剤を含むコア部分、並びに前記粒子中に含まれる両親媒性免疫刺激剤の総量の少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%を含むコーティング部分からなる粒子を含む。したがって、好ましくは、乾燥医薬組成物は、両親媒性免疫刺激剤にコーティングされている、抗原及び存在する場合は増量剤から本質的になる粒子からなる。さらに、医薬組成物は、一般的な医薬組成物中のさらなる薬物を含んでもよく、また、医薬組成物は、さらなる医薬組成物と組み合わせて使用されてもよく、その場合、キットオブパーツの形態で提供されてもよい。
【0018】
治療的有効量とは、本明細書に記載されている状態を予防する、改善する又は治療する医薬組成物の用量中に使用されるべき化合物の量を指す。化合物の治療有効性及び毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な製薬手順により、例えば、ED50(集団の50%における治療的に有効な用量)及び/又はLD50(集団の50%に対する致死用量)を測定することによって決定することができる。治療効果と毒性効果との間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50という比として表すことができる。投与レジメンは、主治医が、好ましくは関連する臨床的因子を考慮して、好ましくは本明細書の他の部分に記載されている方法のうちいずれか1つに従って決定するだろう。医療技術の分野で周知であるが、任意の1人の患者に対する投与量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与されようとする特定の化合物、性別、投与時間及び経路、全身の健康状態、並びに併用投与される他の薬物を含む多くの因子に依存する場合がある。進行は定期評価によりモニターすることができる。典型的な用量は、例えば1μg~10000μgの範囲とすることができるが、特に前述の因子を考慮すると、この例示の範囲を下回る又は上回る用量が想定される。一般に、レジメンは、一次免疫として抗原1μg~10mgの投与を、続いて同じ抗原の、好ましくは同じ投与量での1回又は2回以上の追加免疫投与を含む。しかしながら、対象及び投与方式に依存して、好ましくは約0.01mg/kg体重~約1mg/kg体重を提供するために、物質の投与量は広範囲にわたって変化し得る。本明細書に記載されている医薬組成物及び製剤は、本明細書に記載されている疾患又は状態を治療又は予防するために少なくとも1回投与される。しかしながら、前記医薬組成物は1回より多く、例えば、好ましくは1~4回、より好ましくは2又は3回投与されてもよい。
【0019】
好ましくは、医薬組成物は、少なくとも1種の薬学的に許容される担体(賦形剤)、特に増量剤をさらに含む。薬学的に許容される担体又は希釈剤の形態及び性質は、組み合わされる活性成分の量、投与経路及び他の周知の可変要素によって決まることが理解されるであろう。担体は、製剤の他の成分と適合性があり、そのレシピエントに対して有害でないという意味で許容されるものでなければならない。使用される医薬担体は、例えば、固体でもゲルでも液体でもよい。固体担体の例には、糖、糖アルコール、セッコウ(terra alba)、タルク、ゼラチン、カンテン、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、及びステアリン酸などがある。同様に、担体又は希釈剤には、当技術分野において周知の時間遅延材料、例えばモノ-ステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルを単独で又はワックスとともに含めてもよい。より好ましくは、賦形剤は、少なくとも1種の増量剤を含み、好ましくは少なくとも1種の増量剤である。「増量剤」という用語は、本明細書で使用する場合、生成物の全体の質量を増加させるために、特に医薬組成物の粒子の質量及び/又はサイズを増加させるために医薬組成物中に含まれる薬学的に許容される賦形剤に関する。したがって、好ましい増量剤は薬学的に不活性な化合物であり、好ましくは非吸湿性であり、また好ましくは、十分に結晶化もする。したがって、好ましい増量化合物は、薬学的に不活性な糖又は糖アルコール化合物であり、好ましくは、マンニトール、ラクトース及びトレハロースから選択される。好ましくは、増量剤は、マンニトールを含み、より好ましくはマンニトールである。
【0020】
「抗原」という用語は、好ましくは適切な状態で、対象において免疫応答を誘導することができる任意の化合物又はその混合物に関することが当業者に理解される。好ましくは、抗原は生物学的ポリマーであり、より好ましくは生物学的高分子、より一層好ましくは、分子量が少なくとも1000Da、より好ましくは少なくとも5000Daの生物学的高分子であり、最も好ましくはポリペプチドである。好ましくは、抗原は、チオレドキシン又はその断片、より好ましくは好熱性生物、好ましくは好熱性古細菌、より好ましくはパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のチオレドキシン又はその断片を含む。より一層好ましくは、抗原は、チオレドキシン、より好ましくは好熱性生物、好ましくは好熱性古細菌、より好ましくはパイロコッカス・フリオサスのチオレドキシンを含む。好ましくは、前記チオレドキシンは足場の機能を有し、即ち少なくとも1つの抗原エピトープに対して安定させるフレームワークを提供する化合物としての機能を有し、「抗原エピトープ」という用語は、生物学的高分子、好ましくはポリペプチドの構造を指し、対象の体内で、好ましくは主要組織適合性分子(MHC)を介して免疫系に提示され、及び/又は抗体との結合部位になる。したがって、好ましくは、抗原エピトープはポリペプチドの抗原断片、即ち抗原ペプチドである。好ましくは、抗原エピトープは、パピローマウイルス(papillomavirus)の抗原エピトープであり、好ましくはHPV16 L2ポリペプチドのアミノ酸20~38に相当するアミノ酸配列を含む少なくとも1つのペプチドを含み、より好ましくはHPV16 L2ポリペプチドのアミノ酸20~38に相当するアミノ酸配列を含む少なくとも3つのペプチドを含み、より一層好ましくはHPV16 L2ポリペプチドのアミノ酸20~38のアミノ酸配列を含む少なくとも3つのペプチドを含み、最も好ましくはHPV16 L2ポリペプチドのアミノ酸20~38のアミノ酸配列からなる3つのペプチドを含む。したがって、好ましい抗原は、WO 2010/070052及びWO 2017/211886に特定されている免疫原性のポリペプチドである。好ましくは、抗原は熱安定性があり、より好ましくは熱安定性の抗原であり、「熱安定性」という用語は、pH=7の水溶液中、50℃で、より好ましくは60℃で、より一層好ましくは70℃で少なくとも20分間インキュベーションした後に、その化学的特性、より好ましくはその免疫原性の特性を本質的に維持する化合物の特性を指す。抗原がポリペプチドである場合、熱安定性は、好ましくはエタノールの存在下で前記ポリペプチドの溶液の円偏光二色性を測定することにより決定することもできる。本明細書で使用する場合、ポリペプチドは、標準状態で測定した200nm~260nmの範囲の円偏光二色性が、20%までのエタノール、好ましくは30%までのエタノール、より好ましくは50%までのエタノールを含む水溶液中で、エタノールを含まない同じ水溶液中の同じポリペプチドと比較して本質的に不変の場合、熱安定性であると考えられるのが好ましい。
【0021】
「免疫刺激剤」という用語は、本明細書で使用する場合、対象の免疫応答の幅を増加させるが、好ましくはそれ自体が免疫原性ではない化合物に関する。したがって、好ましくは、免疫刺激剤は基本的に当業者に知られている免疫アジュバントである。好ましくは、免疫刺激剤はトール様受容体(TLR)の、好ましくはTLR4のアゴニストである。本明細書に関連して、免疫刺激剤は「両親媒性免疫刺激剤」である。したがって、免疫刺激剤は親油性及び親水性の特性を有する。また好ましくは、両親媒性免疫刺激剤は、親水性端部及び親油性端部を伴う全体的に伸長した構造を有する。好ましくは、両親媒性免疫刺激剤は、気液界面で規則的な単分子の配列又は層を形成する。また好ましくは、両親媒性免疫刺激剤は、水溶液中に高濃度でミセルを形成する。したがって、好ましくは、両親媒性免疫刺激剤は臨界ミセル濃度(CMC)を有する。より好ましくは、両親媒性免疫刺激剤は、最大で1mM、好ましくは最大で100μM、より好ましくは最大で10μMのCMC値を有する。好ましくは、両親媒性免疫刺激剤は力制御剤(force controlling agent)であり、より好ましくは、両親媒性免疫刺激剤は界面活性剤である。好ましくは、両親媒性免疫刺激剤は、モノホスホリルリピドA、合成リピドA、リピドA類似体、リピドAミメティック、サイトカイン、サポニン、グラム陰性細菌のリポ多糖(LPS)、及びエンドトキシンからなるリストから選択される。より好ましくは、両親媒性免疫刺激剤はモノホスホリルリピドA(CAS NO: 143110-73-0)である。
【0022】
有利なことに、本発明の基礎となる研究において、本発明の乾燥医薬組成物は高効率で非侵襲的な免疫化を可能にすることが分かった。また、両親媒性免疫刺激剤は、免疫応答を増強する生物学的に活性な構成成分、並びに粉体流動性、エアロゾル化性能及び吸入性(respirability)を改善する技術的賦形剤の両方として作用し、抗原安定性を増強し、環境湿度に対する感受性を減少させる。さらに、本乾燥医薬組成物は、環境温度でさえも安定であることが分かった。このため、本乾燥医薬組成物はワクチンの冷却を保証することができない地域における使用に特に適している。
【0023】
上記でなされた定義は以下に準用される。さらに以下でなされる追加の定義及び説明もまた、本明細書に記載されている全ての実施形態について準用される。
【0024】
本発明は、医療における使用のための本発明による乾燥医薬組成物にさらに関する。本発明はまた、対象の感染症の治療及び/又は予防における使用のための、好ましくは対象のワクチン接種における使用のための、本発明による乾燥医薬組成物にも関する。
【0025】
「治療すること」及び「治療」という用語は、本明細書に記載されている疾患若しくは障害又はそれらに伴う症状の有意な程度までの改善を指す。前記「治療すること」は、本明細書で使用する場合、本明細書に記載されている疾患又は障害に関する健康の全面的な回復も含む。「治療すること」は、この用語が本明細書で使用される場合、治療される全ての対象において有効というわけではない場合があると理解される。しかしながら、この用語は、好ましくは、本明細書に記載されている疾患又は障害に罹患している対象の統計的に有意な一部が首尾よく治療され得ることを必要とするものとする。一部が統計的に有意であるかどうかは、当業者が、種々の周知の統計的評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt-検定、マン・ホイットニー検定などを使用してさらなる困難なく決定することができる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005又は0.0001である。好ましくは、治療は、所与のコホート又は集団の対象の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%に有効であるものとする。
【0026】
「予防すること」という用語は、対象においてある一定期間、本明細書に記載されている疾患又は障害に関して健康を保持することを指す。前記期間は、投与された薬物化合物の量及び対象の個々の因子に依存する場合があることが理解されるであろう。予防は、本発明による化合物で処置(治療)された全ての対象において有効というわけではない場合があると理解される。しかしながら、この用語は、好ましくは、コホート又は集団の対象の統計的に有意な一部が、本明細書に記載されている疾患又は障害に罹患することから、又はそれに付随する症状に苦しむことから有効に予防されることを必要とする。好ましくは、対象のコホート又は集団は、通常なら、即ち本発明による予防手段をとらない状況では、本明細書に記載の疾患又は障害を発症するであろうと想定される。一部が統計的に有意であるかどうかは、当業者が、本明細書の他の部分に記載されている種々の周知の統計的評価ツールを使用してさらなる困難なく決定することができる。
【0027】
「ワクチン接種」という用語は、基本的に、少なくとも1つの抗原構造、特に少なくとも1つのエピトープを、前記抗原構造を含む化合物に対する免疫応答を調節するために対象に投与することに関することが当業者に知られている。好ましくは、前記調節は免疫応答の阻害である。より好ましくは、前記調節は免疫応答の活性化である。ワクチン接種は、ワクチン接種を受けた全ての対象において有意な免疫応答を引き出すわけではない場合があることを当業者は理解するであろう。また、ワクチン接種はワクチン接種を受けた全ての対象において感染を予防するのに有効であるわけではない場合があると理解される。しかしながら、この用語は、好ましくはコホート又は集団の対象の統計的に有意な一部が、有効にワクチン接種されることを求めている。感染因子がHPVである場合、有効なワクチン接種は、好ましくは、HPV誘発性の病変、例えば疣贅の予防又はその病変の数の減少である。
【0028】
好ましくは、ワクチン接種は治療ワクチン接種、即ち対象の体内に抗原構造の存在を伴う疾患又は障害を治療するためのワクチン接種である。好ましくは、治療ワクチン接種は、例えばアレルギー又は自己免疫疾患において、ワクチン接種に使用される抗原構造に対して免疫寛容、好ましくは末梢性免疫寛容を誘導する。免疫寛容を誘導する方法は当技術分野において公知であり、特に(自己)抗原の反復投与、T細胞におけるCD28シグナル伝達の阻害、及び制御性T細胞の刺激を含む。より好ましくは、治療ワクチン接種は、例えばがん又は既存の持続感染症、例えば潜伏ウイルス感染症において、免疫、即ちワクチン接種に使用される抗原構造に対する防衛反応を誘発又は誘発する。したがって、好ましい抗原構造は、腫瘍抗原、腫瘍特異抗原、及び/又は持続感染中に感染因子によって発現する遺伝子、例えばウイルスの潜在遺伝子に由来する。
【0029】
より好ましくは、ワクチン接種は、予防接種、即ち対象の体内でワクチン接種に使用される抗原構造の存在を伴う疾患又は障害を予防するためのワクチン接種である。したがって、好ましくは、感染因子によって引き起こされる疾患の場合、上記に特定した予防することとは、予防ワクチン接種であり得る。したがって、好ましくは、予防することという用語は、本明細書に特定されている化合物を、少なくとも1つの感染因子に対して免疫応答を誘発するために投与することに関する。したがって、好ましくは、ワクチン接種は、免疫系を刺激し、感染因子による感染に対して免疫を確立するか又は改善する。好ましくは、本発明によるワクチン接種は、感染因子、好ましくはヒトパピローマウイルス遺伝子型による感染に対して免疫を確立すること又は改善することを可能にする。本発明によるワクチンは、特に本明細書の他の部分で特定されているさらなる構成成分を含んでいてもよいと理解される。
【0030】
「感染因子」という用語は、本明細書で使用する場合、対象において伝染性の疾患を引き起こす病原体、好ましくは微生物に関する。好ましくは、感染因子は細菌、真核生物の感染因子、例えばプラスモジウム属(Plasmodium spp.)、又はウイルスであり、より好ましくはウイルス、例えばパピローマウイルス、肝炎ウイルス又はヒト免疫不全ウイルス(HIV)である。より好ましくは、感染因子は、腫瘍ウイルス、より好ましくはパピローマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、肝炎ウイルス、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型、ヒトヘルペスウイルス8型、より好ましくはパピローマウイルス(PV)、最も好ましくはヒトパピローマウイルス(HPV)である。好ましくは、感染因子は、慢性疾患を引き起こす病原体である。より好ましくは、感染因子は、慢性及び/又は持続感染を引き起こす病原体である。
【0031】
「対象」という用語は、本明細書で使用する場合、動物、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物、特にウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、及びヤギのような家畜、又はラット、マウス、及びモルモットのような実験動物に関する。最も好ましくは、対象はヒトである。
【0032】
本発明は、抗原、両親媒性免疫刺激剤、及び任意選択により増量剤を含む溶液を噴霧乾燥するステップを含む、乾燥医薬組成物を製造する方法にさらに関する。
【0033】
本発明の方法はin vitroの方法である。さらに、本発明の方法は上に明示的に記載したものに加えてステップを含むことができる。例えば、さらなるステップは、例えば、噴霧乾燥するための指定された化合物を含む溶液を用意すること、及び/又は噴霧乾燥した生成物に関するさらなる製造ステップに関し得る。さらに、前記ステップのうち1つ以上が自動化装置により実行されてもよい。好ましくは、本方法は、両親媒性免疫刺激剤を、前記抗原及び任意選択により前記増量剤を含む溶液に混合するステップをさらに含む。また好ましくは、前記溶液はエタノール/水の混合物を溶媒としてさらに含む。好ましくは、前記溶媒は、10%(v/v)~50%(v/v)エタノールの水溶液、より好ましくは20%(v/v)~40%(v/v)、より一層好ましくは約30%(v/v)、最も好ましくは30%(v/v)のエタノールの水溶液を含む。したがって、好ましくは、前記溶媒中、エタノール/水の比は、2:1(v/v)~10:1(v/v)であり、好ましくは5:1(v/v)~9:1(v/v)、より好ましくは6:1(v/v)~8:1(v/v)であり、最も好ましくは約70%(v/v)である。
【0034】
好ましくは、抗原及び両親媒性免疫刺激剤を含む溶液は、抗原を、0.01mg/ml~1mg/ml、好ましくは0.025mg/ml~0.75mg/ml、より好ましくは0.05mg/ml~0.5mg/ml、より一層好ましくは0.075mg/ml~0.25mg/ml、なお一層好ましくは約0.1mg/ml、最も好ましくは0.1mg/mlの濃度で含む。また好ましくは、抗原及び両親媒性免疫刺激剤を含む溶液は、両親媒性免疫刺激剤を、0.1μg/ml~1mg/ml、好ましくは1μg/ml~500μg/ml、より好ましくは10μg/ml~250μg/ml、より一層好ましくは約15μg/ml、最も好ましくは10.4μg/mlの濃度で含む。また好ましくは、抗原及び両親媒性免疫刺激剤をさらに含む溶液中の増量剤、好ましいマンニトールの濃度は、0.1mg/ml~3mg/ml、好ましくは0.25mg/ml~1.5mg/ml、より好ましくは0.4mg/ml~1mg/ml、より一層好ましくは0.5mg/ml~0.75mg/ml、なお一層好ましくは約0.6mg/ml、最も好ましくは0.59mg/mlである。
【0035】
本明細書で上に示したとおり、「噴霧乾燥」という用語は当業者に理解され、好ましくは、特定される化合物を含む溶液を高温でガス状の乾燥剤の流れ、例えば加熱空気の中に噴霧することを含むプロセスステップに関する。好ましくは、噴霧乾燥は、乾燥ガス流、好ましくは乾燥空気流を、80℃~150℃、好ましくは100℃~140℃、最も好ましくは約125℃の温度に加熱することを含む。好ましくは、ガス流は、100l/時~1000l/時、より好ましくは250l/時~750l/時、より一層好ましくは500l/時~700l/時、最も好ましくは約600l/時であり、好ましくは吸引が10m3/時~100m3/時、より好ましくは15m3/時~65m3/時、より一層好ましくは25m3/時~50m3/時、最も好ましくは約37m3/時である。好ましくは、乾燥医薬組成物の粒径分布は、Dv10 1.43+/-0.09μm、Dv50 2.65+/-0.17μm、及び/又はDv90 4.78+/-0.55μmである。
【0036】
本発明はまた、本発明による乾燥医薬組成物をハウジングの中に含むキットにも関する。
【0037】
「キット」という用語は、本明細書で使用する場合、一緒にパッケージされてもよく、されなくてもよい、前述の化合物、手段又は試薬の集まりに関する。好ましくは、キットは、本明細書で上に記載されている医薬組成物の医療での使用を実行するために使用される。好ましくは、上記の使用を実行するために全ての構成成分がすぐに使えるように用意されていることが想定される。さらに、キットは、好ましくは前記使用を行うための説明書を含有する。説明書は、紙又は電子形態のユーザーマニュアルにより提供することができる。加えて、マニュアルは、前記使用を本発明のキットを使用して行うための投与及び/又は投与量の説明のための説明書を含んでいてもよい。好ましくは、キットのハウジングは投与手段(dispensing means)を含む。したがって、好ましくは、ハウジングは吸入器、好ましくは自動吸入器である。好ましくは、キットはさらなる構成成分、例えば吸入補助具及び/又はアダプターを含む。そのような場合、キットの構成成分は、別個の格納容器に(即ち別個のパーツのキットとして)含まれてもよく、又は1つの格納容器に入れて提供されてもよい。
【0038】
本発明は、医薬の製造のための、好ましくはワクチンの製造における使用のための、本発明による乾燥医薬組成物の使用にさらに関する。
【0039】
本発明はまた、対象の感染症を治療及び/又は予防する方法であって、前記対象を任意の本発明による乾燥医薬組成物と接触させ、それにより、感染症を治療及び/又は予防するステップを含む方法にも関する。
【0040】
本発明の感染症を治療及び/又は予防する方法はin vivoの方法である。さらに、本方法は上に明示的に記載したものに加えてステップを含むことができる。例えば、さらなるステップは、例えば、ステップa)の前に感染症又は感染症に罹るリスクを診断すること、並びに/又は感染症及び/若しくはその併存症のうち1つを治療予防するための追加の治療的手段を提供することに関し得る。さらに、前記ステップのうち1つ以上が自動化装置により実行されてもよい。
【0041】
上記を考慮すると、次の実施形態が好ましい。
【0042】
1.抗原及び両親媒性免疫刺激剤を含み、噴霧乾燥によって生成された吸入用乾燥医薬組成物。
【0043】
2.少なくとも1種の増量剤をさらに含む、請求項1に記載の乾燥医薬組成物。
【0044】
3.前記増量剤が糖又は糖アルコールであり、好ましくはマンニトール、ラクトース、及びトレハロースから選択され、より好ましくはマンニトールである、請求項2に記載の乾燥医薬組成物。
【0045】
4.粒子中に含まれる抗原の総量の少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、及び任意選択により少なくとも1種の増量剤を含むコア部分、並びに前記粒子中に含まれる両親媒性免疫刺激剤の総量の少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%を含むコーティング部分からなる前記粒子を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0046】
5.体積中位径が最大で10μm、より好ましくは最大で7.5μm、最も好ましくは最大で5μmの粒子を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0047】
6.体積中位径が0.5μm~10μm、好ましくは1μm~7.5μm、より好ましくは1.5μm~5μmの粒子を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0048】
7.前記抗原が、前記乾燥医薬組成物中に、0.1%(w/w)~10%(w/w)、好ましくは0.2%(w/w)~5%(w/w)、より好ましくは0.3%(w/w)~2.5%(w/w)、最も好ましくは約2%(w/w)の割合で含まれる、請求項1から6のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0049】
8.前記両親媒性免疫刺激剤が、前記乾燥医薬組成物中に、0.1%(w/w)~10%(w/w)、好ましくは1%(w/w)~5%(w/w)、より好ましくは0.5%(w/w)~2%(w/w)、最も好ましくは約0.2%(w/w)の割合で含まれる、請求項1から7のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0050】
9.増量剤:抗原の比が、1000:1(w/w)~10:1(w/w)、好ましくは500:1(w/w)~25:1(w/w)、より好ましくは300:1(w/w)~30:1(w/w)、最も好ましくは約49:1(w/w)である、請求項2から8のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0051】
10.前記コーティング部分中の前記両親媒性免疫刺激剤が、前記粒子の前記コア部分を少なくとも部分的にコーティングしている、請求項4から9のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0052】
11.前記両親媒性免疫刺激剤が、トール様受容体(TLR)の、好ましくはTLR4のアゴニストである、請求項1から10のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0053】
12.前記両親媒性免疫刺激剤が力制御剤である、請求項1から11のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0054】
13.前記両親媒性免疫刺激剤が、モノホスホリルリピドA、合成リピドA、リピドA類似体、リピドAミメティック、サイトカイン、サポニン、グラム陰性細菌のリポ多糖(LPS)、及びエンドトキシンからなるリストから選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0055】
14.前記両親媒性免疫刺激剤がモノホスホリルリピドAである、請求項1から13のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0056】
15.前記抗原が生物学的高分子である、請求項1から14のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0057】
16.前記抗原がポリペプチドである、請求項1から15のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0058】
17.前記抗原が熱安定性である、請求項1から16のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0059】
18.前記抗原が熱安定性のポリペプチドである、請求項1から17のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0060】
19.前記抗原がチオレドキシンを含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0061】
20.前記抗原が、好熱性生物、好ましくは好熱性古細菌、より好ましくはパイロコッカス・フリオサスのチオレドキシンを含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0062】
21.前記抗原が、パピローマウイルスの少なくとも1つの抗原エピトープを含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0063】
22.前記抗原が、HPV16 L2ポリペプチドのアミノ酸20~38に相当するアミノ酸配列を含む少なくとも1つのペプチドを含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0064】
23.前記抗原が、HPV16 L2ポリペプチドのアミノ酸20~38に相当するアミノ酸配列を含む少なくとも3つのペプチドを含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0065】
24.最大で5%、より好ましくは最大で2%、最も好ましくは最大で1%の含水量を有する、請求項1から23のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0066】
25.抗原、両親媒性免疫刺激剤、及び任意選択により増量剤を含む溶液を噴霧乾燥することによって、好ましくは請求項31から35のいずれか一項に記載の方法に従って得られるか又は得ることが可能な乾燥医薬組成物。
【0067】
26.医療における使用のための、請求項1から25のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0068】
27.対象のワクチン接種における使用のための、請求項1から25のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物。
【0069】
28.前記抗原が、パピローマウイルスの少なくとも1つの抗原エピトープを含み、前記ワクチン接種がパピローマウイルスに対するワクチン接種である、請求項27に記載の使用のための乾燥医薬組成物。
【0070】
29.前記使用が吸入による投与を含む、請求項26から28のいずれか一項に記載の使用のための乾燥医薬組成物。
【0071】
30.前記対象が哺乳動物、好ましくはヒトである、請求項25から29のいずれか一項に記載の使用のための乾燥医薬組成物。
【0072】
31.抗原、両親媒性免疫刺激剤、及び任意選択により増量剤を含む溶液を噴霧乾燥するステップを含む、乾燥医薬組成物を製造する方法。
【0073】
32.前記両親媒性免疫刺激剤を、前記抗原及び任意選択により前記増量剤を含む溶液に混合するステップを含む、請求項31に記載の方法。
【0074】
33.前記溶液が、エタノール/水の混合物を溶媒としてさらに含む、請求項31又は32に記載の方法。
【0075】
34.前記溶媒中、エタノール/水の比は、2:1(v/v)~10:1(v/v)であり、好ましくは5:1(v/v)~9:1(v/v)、より好ましくは6:1(v/v)~8:1(v/v)であり、最も好ましくは約70%(v/v)である、請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。
【0076】
35.前記噴霧乾燥するステップが、乾燥空気流を、80℃~150℃、好ましくは100℃~140℃、最も好ましくは約125℃の温度に加熱することを含む、請求項31から35のいずれか一項に記載の方法。
【0077】
36.請求項1から30のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物をハウジングの中に含むキット。
【0078】
37.前記キットが投与手段をさらに含むか、又は前記ハウジングが投与手段である、請求項36に記載のキット。
【0079】
38.医薬の製造における使用のための、好ましくはワクチンの製造における使用のための医薬組成物を製造するための、請求項1から30のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物の使用。
【0080】
39.対象の感染症を治療及び/又は予防する方法であって、前記対象を請求項1から30のいずれか一項に記載の乾燥医薬組成物と接触させ、それにより、感染症を治療及び/又は予防するステップを含む、方法。
【0081】
本明細書に引用されている全ての参考文献は、その開示内容全体及び本明細書に明確に記載されているその開示内容に関し、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0082】
以下の実施例は、単に本発明を説明するに過ぎないものとする。これらの実施例は、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきでは決してない。
【0083】
[実施例1]
マンニトールを増量剤として使用し、70:30v/vの水エタノール溶液から出発して、ワクチンを噴霧乾燥によって生成した。抗原を、典型的にはリン酸カリウム溶液に1~25mMの範囲の濃度で溶解させた。噴霧乾燥するべき供給溶液100mLを調製するために、マンニトール58.7mgを精製水69mLに溶解し、これに、典型的には抗原10mgを含有するリン酸カリウム水溶液1mLを添加した。モノホスホリルリピドA(MPLA;典型的には1.04mg)をエタノール30mL(95%v/v)に溶解し、得られた溶液を、マンニトール及び抗原を含有する予混合溶液に添加した。
【0084】
次いで、最終の完成溶液を、以下のプロセスパラメーター:入口温度125℃、供給速度3.5mL/分、気流速度601L/時、吸引37m3/時に設定したBuchi 290噴霧乾燥器で噴霧した。
【0085】
抗原の濃度は、最終製剤を基準にして0.31~2.00%w/wの範囲とすることができる。水に溶解した場合、粉末はpH7.75を生じさせる。得られた粉末の粒径分布は、Dv10 1.43+/-0.09μm、Dv50 2.65+/-0.17μm、Dv90 4.78+/-0.55μmであった。粉末は室温で少なくとも1年間安定している。
【0086】
Ph.Eur.9.0に従い、RS01(登録商標)(Plastiape)吸入デバイスを用いて、in vitro/実験室エアロゾル化で測定したワクチンの空気力学的性能は、排出画分が充填用量の81.35+/-11.2%、及び吸入可能な画分が排出用量の74.86+/-12.04%という結果である。
【0087】
[実施例2]
乾燥粉末ワクチンの肺への有効な送達をモニターするために、抗原タンパク質(即ち、微量カプシドタンパク質L2のアミノ酸位置20~38にわたるHPV16-L2ペプチドエピトープの3つの縦列反復を示すパイロコッカス・フリオサスのチオレドキシン、以下、PfTrx-HPV16-L2×3と呼ぶ)を、噴霧乾燥による吸入用粉末製剤中に組み入れる前に、Alexa Fluor 750で標識した。次いで、ワクチンを含有する粉末(1.7及び2.0mg、PfTrx-HPV16-L2×3抗原10μg及び12μgにそれぞれ相当)を、Balb/cマウス2匹に、Penn Century microsprayerデバイスを使用して投与した。この後、マウスの屠殺、及び15分後の器官(肺、気管)の外植、組織ホモジネート、20,000×g、4℃で15分間の遠心分離、並びに得られた可溶性の上清の、変性SDS含有ポリアクリルアミドゲル(11%)での分画を行い、次いでこれを近赤外蛍光(NIR)イメージング(Odyssey、Li-Cor)により、可視化した。
図1に示すように、PfTrx-HPV16-L2×3について予測された分子量(18294.3Da)を示すポリペプチドバンドに関連する特定のNIRシグナルが、肺(L)サンプル中及び気管(T)サンプル中に検出された。
【0088】
[実施例3]
乾燥粉末に製剤化されたPfTrx-HPV16-L2×3抗原が、マウスの気管内送達(ヒトにおける自動吸入器のアシストによる自己投与の代替)で気道に到達することができることが示されたので、MPLAアジュバント乾燥粉末ワクチンを、免疫原性について評価した。この目的のため、PfTrx-HPV16-L2×3抗原を、PBS緩衝液中に交換し、Triton X-114処理によって解毒してから、MPLAを含有する粉末中に噴霧乾燥により組み入れ、Penn Century microsprayerデバイスを使用して6~8週齢の雌のBALB/cマウスに気管内投与した。マウスを4群に分割した。
【0089】
1)空の粉末(即ち、「活性成分」としてのPfTrx-HPV16-L2×3抗原を含まない、MPLAを含有する粉末(1mg))を皮下投与したマウス5匹からなる陰性対照群。
【0090】
2)可溶性の、Alum(50μg)+MPLA(10μg)アジュバントPfTrx-HPV16-L2×3ワクチン(20μg)を皮下投与したマウス7匹からなる陽性対照群。
【0091】
3)乾燥粉末に製剤化されたPfTrx-HPV16-L2×3ワクチン(タンパク質抗原およそ20μgに相当する全粉末1mg)を気管内投与したマウス10匹からなる試験群。
【0092】
4)乾燥粉末に予め製剤化したワクチン(#3と同量)を皮下投与の直前にPBSに溶解して投与したマウス7匹からなる内部比較群。
【0093】
免疫化プロトコールは、初回刺激免疫化、その後の一週おきに2回の追加免疫からなり(
図2a)、その前に、後のイムノアッセイにおいてバックグラウンド基準として使用するための免疫前血清のサンプリングを行った。最後の免疫化の2週間後、マウスを屠殺し、血液を心穿刺により採取して免疫血清の調製のために使用し、これを後の免疫学的分析まで-80℃で貯蔵した。これらの免疫学的分析は、抗L2血清の総抗体価を測定する間接GST-L2捕捉酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、並びに各種免疫化によって誘発された特異的免疫グロブリン(Ig)のアイソタイプ及びサブタイプを決定する定量アイソタイプ特異的間接二重サンドイッチELISAにより、行った。
【0094】
図2bに示すように、#3群(気管内に送達された乾燥粉末ワクチン)において測定された抗HPV L2抗体価は、25~800の範囲で、平均値が1:255であり、二重アジュバント(Alum+MPLA)PfTrx-HPV16-L2×3ワクチンで行った標準的な皮下免疫化(#2群)によって誘発された抗体価と有意差はなかった(P<0.2790)。同じ実験条件で、抗原を含まない陰性対照群(#1)では、バックグラウンド免疫応答を超えるものは検出できなかったが、二重アジュバント陽性対照群(#2)において測定された抗体価と類似の(又はそれよりわずかに高いが統計的有意性はない)抗体価が、単一アジュバントのPBSに溶解した乾燥粉末ワクチンでの皮下免疫化で検出された。
【0095】
図2(パネルc)にさらに示すように、3つの免疫化群(#2、#3及び#4)において、全体的に類似したIgアイソタイプ(及びサブタイプ)が測定されたが、直接投与された(即ち気管内に、#3群)又は可溶化後に皮下注射された(#4群)、乾燥粉末に製剤化されたワクチンの場合、皮下投与された可溶性の二重アジュバントワクチンと比較して、優勢なIgG2bサブタイプに向かう再現可能な傾きがあり、同時に初期に形成される(及び十分に成熟していない)五量体のIgMアイソタイプの減少があった。
【0096】
[実施例4]
上に記載されている乾燥粉末ワクチンの製剤手順の汎用性を評価するために、参照PfTrx-HPV16-L2×3抗原と同じ免疫エピトープをもつが、大きさ(18294Da対247560Da)及び総正味荷電(+2対+6)の両方が異なり、報告によれば免疫原性がより高い代替のHPV-L2×3抗原(OVX313-PfTrx-HPV-L2×3と呼ぶ)に噴霧乾燥を施し、MPLAアジュバント粉末形態に変換した。この代替の乾燥粉末ワクチンの免疫性能を試験するために、実施例2に記載されている同じ免疫化スケジュール(
図2aを参照)に従って、1mgのOVX313-PfTrx-HPV-L2×3を含有する粉末(タンパク質抗原およそ20μgに相当)をBalb/cマウス13匹に気管内投与した。マウスを屠殺して血液を採取した後、免疫血清をGST-L2捕捉ELISAにより分析し、得られた抗HPV L2の抗体価を、乾燥粉末に製剤化され、気管内投与されたPfTrx-HPV-L2×3ワクチンで得られた抗体価と比較した。
図3に示すように、わずかにより高い抗HPV L2抗体価(平均値1:500、PfTrx-HPV-L2×3で実現した平均1:255の抗体価と比較)が、乾燥粉末に製剤化されたOVX313-PfTrx-HPV-L2×3ワクチンでの肺内ワクチン接種で得られた。
【0097】
引用した非標準文献:
- Nardelli-Haefligerら(2005年)、Vaccine、23:3634~3641
- WO 2010/003465
- WO 2010/070052
- WO 2017/211886
【国際調査報告】