(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材の製造方法、並びにこの製造方法により製造された高マンガン鋼材
(51)【国際特許分類】
C21D 8/02 20060101AFI20220106BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220106BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20220106BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C21D8/02 D
C22C38/00 302A
C22C38/14
C22C38/58
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521374
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(85)【翻訳文提出日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 KR2018015601
(87)【国際公開番号】W WO2020080602
(87)【国際公開日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】10-2018-0124444
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ウォン-テ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ユン-ス
(72)【発明者】
【氏名】キム、 スン-キュ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 テ-キョ
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA17
4K032AA18
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA32
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB02
4K032CC04
4K032CD03
4K032CD06
4K032CE01
4K032CE02
(57)【要約】
本発明は、自動車用または建築用鋼板などに使用される鋼材に関するものであって、より詳細には、騒音低減のための防振性が要求される場所に使用可能な防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材、及びこれを製造する方法に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.1%以下、マンガン(Mn):8~30%、シリコン(Si):3.0%以下、リン(P):0.1%以下、硫黄(S):0.02%以下、窒素(N):0.1%以下、チタン(Ti):1.0%以下(0%を除く)、ボロン(B):0.01%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを1150~1350℃の温度で加熱する段階;
前記加熱された鋼スラブを仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;及び
前記熱延鋼板を700℃以下に冷却する段階を含み、
前記仕上げ熱間圧延を、下記関係式1を満たす温度(FDT、℃)で行うことを特徴とする、防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材の製造方法。
[関係式1]
FDT(℃)≧928+(480×C)+(450×N)+(0.9×Mn)+(65×Ti)
(ここで、各元素は重量含量を意味する。)
【請求項2】
前記仕上げ熱間圧延を総圧下率80%以上で行う、請求項1に記載の防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材の製造方法。
【請求項3】
前記冷却を常温~300℃で終了する、請求項1に記載の防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記冷却後、面積分率90%以上のイプシロンマルテンサイト相を含む、請求項1に記載の防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記冷却後、巻取る段階をさらに含む、請求項1に記載の防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記鋼スラブは、重量%で、ニッケル(Ni):0.005~2.0%及びクロム(Cr):0.005~5.0%のうち1種以上をさらに含む、請求項1に記載の防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記鋼スラブは、重量%で、ニオブ(Nb):0.005~0.5%、バナジウム(V):0.005~0.5%及びタングステン(W):0.005~1.0%のうち1種以上をさらに含む、請求項1に記載の防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法によって製造される鋼材であって、
重量%で、炭素(C):0.1%以下、マンガン(Mn):8~30%、シリコン(Si):3.0%以下、リン(P):0.1%以下、硫黄(S):0.02%以下、窒素(N):0.1%以下、チタン(Ti):1.0%以下(0%を除く)、ボロン(B):0.01%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織として、面積分率90%以上のイプシロンマルテンサイト及び残部オーステナイト相を含み、完全再結晶組織である、防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材。
【請求項9】
前記鋼材は、重量%で、ニッケル(Ni):0.005~2.0%及びクロム(Cr):0.005~5.0%のうち1種以上をさらに含む、請求項8に記載の防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材。
【請求項10】
前記鋼材は、重量%で、ニオブ(Nb):0.005~0.5%、バナジウム(V):0.005~0.5%及びタングステン(W):0.005~1.0%のうち1種以上をさらに含む、請求項8に記載の防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用または建築用の鋼板などに使用される鋼材に関するものであって、より詳細には、騒音低減のための防振性が要求される場所に使用可能な防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材、及びこれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車の製造または建築資材などの素材において、騒音低減はメーカーが必ず解決しなければならない問題である。自動車メーカーの場合、騒音が大きく発生するエンジン部、オイルパンなどの構成品には、優れた機械的特性とともに防振性が特に要求される。また、建築資材の場合には、階間騒音の規制が強化されるにつれて、アパートを含む複層建物の底板として防振性に優れた鋼材の開発が求められているのが実情である。
【0003】
一方、高マンガン(Mn)防振鋼は、外部からの衝撃時に、イプシロンマルテンサイトの界面スライディングによって騒音エネルギーが熱エネルギーに転換され、高い防振性及び優れた機械的性質を有する鋼種であり、騒音低減を目的とする使用に適している。
【0004】
一般的に、高マンガン防振鋼は、製鋼-連鋳-熱延の一連の工程、またはこれに冷延工程を追加することによって熱延または冷延鋼板を製造した後、その鋼板に後熱処理を適用することによってイプシロンマルテンサイト及び/または再結晶組織を形成して防振性を確保している。
【0005】
ところで、防振性の確保のために行われる後熱処理工程は、通常900℃以上の温度で10分を超える時間、好ましくは60分以上の時間が適用される高コストの熱処理であり、これはマンガン防振鋼の汎用化を阻害する要因となる。
【0006】
現在、騒音低減に対する要求が継続的に増加しており、高コストの熱処理である後熱処理を省略しながらも、防振性及び優れた成形性の両立が可能な鋼材を開発する必要があるのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1736636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面は、高マンガン防振鋼を提供するにあたり、防振性の向上のために必須的に行われる後熱処理工程を省略することができ、且つ、従来に比べて低コストで防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材を製造する方法、及びこの方法により製造された高マンガン鋼材を提供することである。
【0009】
本発明の課題は、上述の内容に限定されない。本発明の更なる課題は、明細書の全般的な内容に記述されており、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書に記載された内容から、本発明の更なる課題を理解することは何ら困難性がない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、重量%で、炭素(C):0.1%以下、マンガン(Mn):8~30%、シリコン(Si):3.0%以下、リン(P):0.1%以下、硫黄(S):0.02%以下、窒素(N):0.1%以下、チタン(Ti):1.0%以下(0%を除く)、ボロン(B):0.01%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを1150~1350℃の温度で加熱する段階;上記加熱された鋼スラブを仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;及び上記熱延鋼板を700℃以下に冷却する段階を含み、上記仕上げ熱間圧延は、下記関係式1を満たす温度(FDT(℃))で行うことを特徴とする、防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材の製造方法を提供する。
【0011】
[関係式1]
FDT(℃)≧928+(480×C)+(450×N)+(0.9×Mn)+(65×Ti)
(ここで、各元素は重量含量を意味する。)
【0012】
本発明の他の一側面は、上述の製造方法によって製造される鋼材であって、上述の合金組成を有し、微細組織として、面積分率90%以上のイプシロンマルテンサイト及び残部オーステナイト相を含み、完全再結晶組織である防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、マンガン防振鋼の防振性の向上のために従来求められていた後熱処理工程を省略しても、防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材を提供することができる。
【0014】
また、本発明は、上記後熱処理工程の省略によって、相対的に低コストで高マンガン防振鋼を提供することができるため、経済的な側面での技術的効果があり、防振性が要求される分野において汎用的に適用することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施例において、発明鋼及び比較鋼の変形率900(m /(m×10
-6))での損失率の値をFDT(℃)に応じて示したグラフである。
【
図2】本発明の一実施例において、発明鋼及び比較鋼の変形率200~900(m /(m×10
-6))での損失率の値を示したグラフである。
【
図3】本発明の一実施例による発明鋼の微細組織写真を示したものである。
【
図4】本発明の一実施例による発明鋼及び比較鋼のXRD測定結果を示したものである。
【
図5】片持ち方式で変形率に対する損失率を測定する方式を図示したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは、従来の高マンガン防振鋼の場合、防振性の向上のためには高コストの熱処理(別称、後熱処理工程)を適用する必要があり、これは結局、製造コストを大幅に上昇させるだけでなく、汎用化には限界があることを確認した。
【0017】
そこで、本発明者らは、高コストの熱処理を省略しても防振性及び優れた成形性を両立することができる方案について鋭意研究した。その結果、合金組成の制御とともに製造工程を最適化することにより、鋼中のイプシロンマルテンサイト相の分率を最大化することができ、これによって一連の熱延工程のみでも防振性及び成形性に優れた鋼材を提供できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明の一側面による防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材を製造する方法は、後述の合金組成を有する鋼スラブを準備した後、これを熱間圧延及び冷却することで高マンガン鋼材を製造できる。
【0020】
まず、本発明において目的とする高マンガン鋼材を得るにあたり、合金組成を制限する理由について詳細に説明する。このとき、特に断らない限り、各元素の含量は、重量含量(重量%)を意味する。
【0021】
炭素(C):0.1%以下
炭素(C)は、鋼内のオーステナイトを安定化させ、強度の確保に有利な元素である。但し、その含量が0.1%を超えると、溶存Cの分率が過度に高くなり、熱間加工性を阻害し、防振性が大幅に減少するおそれがある。
したがって、本発明では、Cを0.1%以下含有することができ、含量が0%でも、目標とする物性の確保には無理がない。
【0022】
マンガン(Mn):8~30%
マンガン(Mn)は、オーステナイトとイプシロンマルテンサイト組織を安定して確保するために必須な元素である。本発明は、別途の熱処理工程を行わなくとも、一定の分率以上にイプシロンマルテンサイト相を確保するために、上記Mnを8%以上含有する必要がある。但し、その含量が30%を超えると、却って製造コストが上昇し、多量のMnを精錬する過程でリン(P)の含量が増加するため、スラブ割れの原因となる。また、Mnの含量が増加するほど、スラブ加熱時に内部粒界酸化が過度に発生して鋼の表面に酸化物欠陥を誘発し、その後のめっき時に表面特性も低下するという問題がある。
したがって、本発明では、Mnを8~30%含有することができ、より有利には14~20%含有することができる。
【0023】
シリコン(Si):3.0%以下
シリコン(Si)は、固溶強化される元素であって、固溶効果により結晶粒度を減らして降伏強度を向上させるのに有利である。ところで、このようなSiの含量が増加すると、熱間圧延時、鋼板の表面にシリコン化合物が形成されて酸洗性が悪くなり、熱延鋼板の表面品質が低下する。また、過度に添加すると、溶接性が大きく低下する。
したがって、本発明では、Siを3.0%以下含有することができ、含量が0%でも、目標とする物性の確保には無理がない。
【0024】
リン(P):0.1%以下及び硫黄(S):0.02%以下
リン(P)と硫黄(S)は、鋼の製造時に不可避に含有される元素であって、可能な限り含有量が低い方が有利である。このうち、Pの含量が0.1%を超えると、偏析(segregation)を引き起こし、鋼の加工性を減少させ、Sは、その含量が0.02%を超える場合、粗大なマンガン硫化物(MnS)を形成してフランジクラック(flange crack )のような欠陥を招き、鋼板の成形性、特に穴拡げ性を阻害するという問題がある。
したがって、本発明において、Pは0.1%以下、Sは0.02%以下含有することができる。
【0025】
窒素(N):0.1%以下
窒素(N)は、窒化物を形成する元素であって、その含量が0.1%を超えると、溶存Nの分率が過度に高くなり、熱間加工性と伸びを阻害し、防振性を減少させる。
したがって、本発明では、Nを0.1%以下含有し、含量が0%でも、目標とする物性の確保には無理がない。
【0026】
チタン(Ti):1.0%以下(0%を除く)
チタン(Ti)は、炭素と結合して炭化物を形成する元素であって、形成された炭化物は結晶粒成長を抑制して結晶粒度の微細化に有利である。また、C、Nとの化合物を形成してスカベンジング(scavenging)効果を有しており、防振性の向上に有利である。このようなTiの含量が1.0%を超えると、過量のチタンが結晶粒界に偏析して粒界脆化を引き起こしたり、粗大な析出相の形成によって結晶粒成長の抑制効果が阻害されることがある。
したがって、本発明では、Tiを1.0%以下含有することができるが、0%は除く。
【0027】
ボロン(B):0.01%以下
ボロン(B)は、Tiとともに添加するとき、粒界に高温化合物を形成して粒界クラックを防止する効果がある。ところで、このようなBの含量が0.01%を超えると、ボロン化合物を形成して表面特性を悪化させるため好ましくない。
したがって、本発明では、Bを0.01%以下含有することができ、含量が0%でも、目標とする物性の確保には無理がない。
【0028】
本発明の鋼材は、上述の組成でそれぞれの元素を含有するにあたり、CとNを複合添加する場合、これらの含量の和(C+N、重量%)が0.1%以下であることが好ましい。
【0029】
上記CとNは、侵入型固溶元素であって、Tiなどと結合して炭窒化物を形成する場合には、防振性能を向上させることができるが、これらの含量の和が0.1%を超えると、溶存Cまたは溶存Nの分率が高くなって熱間加工性及び伸びが低下し、防振性を減少させるため好ましくない。
したがって、上記CとNの複合添加時に、その含量の和で0.1%以下含有することができる。
【0030】
一方、本発明の鋼材は、物性の向上のために、上述の合金組成以外に、追加の元素をさらに含むことができる。
【0031】
一つの側面としては、ニッケル(Ni):0.005~2.0%及びクロム(Cr):0.005~5.0%のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0032】
ニッケル(Ni):0.005~2.0%
ニッケル(Ni)は、高温延性の確保に効果的に寄与する元素である。上述の効果を得るためには、0.005%以上含有することができ、その含量が増加するほど、耐遅れ破壊及びスラブクラックなどの防止にも有効である。但し、上記Niは高価な元素であり、これを考慮して2.0%以下含有することができる。
【0033】
クロム(Cr):0.005~5.0%
クロム(Cr)は、熱延または焼鈍工程時に外部の酸素と反応して、鋼の表面に20~50μmの厚さでCr系酸化膜(Cr2O3)を優先的に形成することにより、鋼中に含有されたMn、Siなどが表層に溶出することを防止する。これにより、鋼表層組織の安定化に寄与し、めっきの表面特性を向上させる効果がある。上述の効果を得るためには、0.005%以上Crを含有することができるが、その含量が5.0%を超えると、クロム炭化物が形成されて、却って加工性と耐遅れ破壊特性が低下するため好ましくない。
したがって、本発明においてCrの添加時には、0.005~5.0%含有することができる。
【0034】
さらに一つの側面としては、ニオブ(Nb):0.005~0.5%、バナジウム(V):0.005~0.5%及びタングステン(W):0.005~1.0%のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0035】
ニオブ(Nb):0.005~0.5%
ニオブ(Nb)は、鋼中の炭素と結合して炭化物を形成する元素であって、強度の上昇または粒度微細化の効果を得ることができる。一般的に、Tiよりも低い温度で析出相を形成するため、結晶粒サイズの微細化と析出相の形成による析出強化の効果が大きい元素である。また、溶存Cの分率を下げて防振性を向上させる効果もある。
【0036】
上述の効果を得るためには、Nbを0.005%以上含有することができる。但し、その含量が0.5%を超えると、過量のNbが結晶粒界に偏析して粒界脆化を引き起こしたり、粗大な析出相の形成によって結晶粒成長の抑制効果が低下したりする。さらに、熱間圧延工程時に再結晶を遅延させて圧延荷重を上昇させるという問題がある。
したがって、本発明においてNbの添加時には、0.005~0.5%含有することができる。
【0037】
バナジウム(V):0.005~0.5%、及びタングステン(W):0.005~1.0%
バナジウム(V)とタングステン(W)は、C、Nと結合して炭窒化物を形成する元素であって、本発明において上記元素は、低温で微細な析出相を形成するため析出強化の効果が大きい。また、溶存Cと溶存Nの分率を下げて防振性を向上させる効果がある。
【0038】
上述の効果を得るためには、それぞれ0.005%以上含有することができるが、Vの場合には0.5%を超えるか、Wの場合には1.0%を超えると、析出相が過度に粗大化し、結晶粒成長の抑制効果が低下し、熱間脆性の原因となる。
したがって、本発明では、Vの添加時には0.005~0.5%、Wの添加時には0.005~1.0%添加することができる。
【0039】
本発明の他の成分はFeである。但し、通常の製造過程では、原料または周囲環境からの意図しない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、そのすべての内容は本明細書で具体的に言及しない。
【0040】
上述のような合金組成を有する鋼スラブを準備した後、これを加熱することができ、このとき、1150~1350℃の温度範囲で加熱する段階を経ることができる。
【0041】
上記鋼スラブの加熱時、温度が低すぎると、後続する熱間圧延時に圧延荷重が過度にかかる可能性があるため、少なくとも1150℃以上で実施することができる。
【0042】
一方、本発明は、オーステナイト結晶粒サイズ(grain size)が大きいほど、最終微細組織としてイプシロンマルテンサイト相の分率を高めることができるため、上記加熱時の温度が高い方が有利である。また、上記加熱温度が高いほど、後続の熱間圧延工程を有利に行うことができる。但し、本発明は、Mnを多量に含有しているため、過度に高い温度で加熱を行う場合には、内部酸化が激しく発生し、表面品質が悪くなるという問題があるため、上記加熱は1350℃以下で行うことができ、より有利には、1300℃以下で行うことができる。
【0043】
上述のように加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板に製造することができる。このとき、下記関係式1を満たす温度(FDT(℃))で仕上げ熱間圧延を行うことが好ましい。
【0044】
[関係式1]
FDT(℃)≧928+(480×C)+(450×N)+(0.9×Mn)+(65×Ti)
(ここで、各元素は重量含量を意味する。)
【0045】
上記関係式1は、多数の実験を通じて導出された式であって、本発明において目的とする防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材を製造するために重要な因子である。
【0046】
具体的に、本発明は、完全再結晶が起こる温度を上回る温度で仕上げ熱間圧延を行うことにより、十分な大きさでオーステナイト結晶粒の成長と再結晶を誘導することができ、これにより、後続する冷却及び/または巻取り工程でイプシロンマルテンサイト相を安定的に確保することができる。
【0047】
上記仕上げ熱間圧延時の温度が上記関係式1によって導出される温度未満であると、オーステナイト結晶粒の成長と再結晶を誘導しにくくなり、最終微細組織としてイプシロンマルテンサイト相を十分に形成することができず、未再結晶組織が形成されて防振性が低下するおそれがある。
【0048】
また、上記仕上げ熱間圧延時には、総圧下率80%以上、より好ましくは90%以上で行うことができる。上記仕上げ熱間圧延時に総圧下率が80%以上であると、再結晶の駆動力を十分に確保することができる。
【0049】
上記によって製造された熱延鋼板を冷却することができ、このとき、700℃以下に冷却を行うことが好ましい。
【0050】
上記冷却時に終了温度が700℃を超えると、スケール(scale)が過剰に生成され、スケールの除去に過度な工程が要求され、粉塵による空気汚染などの問題とともに、後加工にも支障を与えるようになるため好ましくない。
【0051】
本発明では、常温まで冷却を行ってもよく、この場合、既存の後熱処理工程により製造される高マンガン防振鋼に比べて、さらに優れた防振性を確保できる効果がある(下記表3を参照)。
【0052】
したがって、本発明では、上記冷却時に700℃以下、より好ましくは500℃以下、さらに好ましくは常温~300℃の温度範囲で冷却を終了することが好ましい。このように、冷却終了温度が低いほど、残存のオーステナイト量が減るため、最終微細組織においてイプシロンマルテンサイト相を確保する観点でより有利である。
【0053】
一方、上記冷却は通常の水冷(例えば、10℃/s以上の冷却速度)によって行うことができ、冷却終了温度が常温~300℃の場合には、急速冷却によって冷却終了温度を確保することができる。上記急速冷却時の冷却速度については特に限定しないが、一例として、50℃/s以上の冷却速度で行うことができ、但し、設備仕様を考慮して、200℃/s以下で行うことができる。
ここで、常温とは、特に限定しないが、20~35℃程度を意味する。
【0054】
本発明は、上記冷却を完了した後、その温度で巻取り工程をさらに行うことができる。これは鋼材の厚さなどを考慮して選択的に行うことができる。
【0055】
上述の冷却工程を完了して得られた本発明の高マンガン鋼材は、面積分率90%以上でイプシロンマルテンサイト相を含み、完全再結晶組織、すなわち、未再結晶組織を全く含まないため、高い防振性及び成形性を確保することができる。
【0056】
以下、本発明の他の一側面による防振性及び成形性に優れた高マンガン鋼材について詳細に説明する。
【0057】
上記本発明の高マンガン鋼材は、前述の製造工程によって得ることができる。また、前述の合金組成を有するため、上記鋼材の合金組成については既に言及した事項で代替する。
【0058】
本発明の高マンガン鋼材は、微細組織として面積分率90%以上(100%を含む)のイプシロンマルテンサイト及び残部オーステナイト相で構成されることが好ましい。特に、本発明は未再結晶組織を全く含有しない完全再結晶組織であって、優れた防振性を確保することができ、より好ましくは、上記イプシロンマルテンサイト相を95%以上含むことができる。
【0059】
このように、本発明の高マンガン鋼材は、イプシロンマルテンサイト相を高い分率で含みながら、完全再結晶によって残留転位(dislocation)を効果的に除去することで、外部からの衝撃が加えられた時にイプシロンマルテンサイト相が衝撃エネルギーを熱エネルギーに転換する割合を高めてダンピング(damping)性能の向上に寄与する。
【0060】
一方、本発明の高マンガン鋼材は、微細組織として、上述の相(phase)以外の如何なる相(phase)も含んでおらず、例えば、アルファ’(α’)-マルテンサイト相を全く含んでいないことを明らかにしておく。
【0061】
特に、本発明は、従来の高マンガン防振鋼の製造時に行われた、高コストの熱処理を省略するにもかかわらず、十分な分率でイプシロンマルテンサイト相を形成することができ、優れた成形性も確保することができる。したがって、本発明の高マンガン鋼材は、従来の高マンガン防振鋼に比べて経済的かつ有利な技術的効果があると言える。
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。これは、本発明の権利範囲が、特許請求の範囲に記載された事項、及びこれにより合理的に類推できる事項によって決定されるものであるためである。
【実施例】
【0063】
(実施例)
下記表1の合金組成を有する鋼スラブを表2に示した条件で加熱-熱間圧延-冷却して、それぞれの熱延鋼板を製造した。このとき、比較のために、特定の鋼種に対しては後熱処理を行い、上記後熱処理は1000℃で30分間行った後、空冷した。
【0064】
【0065】
【0066】
その後、製造されたそれぞれの熱延鋼板に対して機械的物性と微細組織を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0067】
このとき、機械的物性の測定のために、JIS 5号引張試験片に作製した後、降伏強度(YS)、引張強度(TS)及び伸び(T-El及びU-El)を測定した。また、微細組織は、XRD(X-ray diffraction)を用いて測定し、各相(phase)の分率は、各相のピーク(peak)強度(intensity)からその分率を導出した。
【0068】
そして、
図5に示すように、片持ち方式で200~900(m/(m×10
-6)) の変形率に対する損失率を測定した。このとき、変形率900(m/(m×10
-6))での損失率の値(X
n=(1/π)ln(X
n/X
n+1))を下記表3に示した。
【0069】
【表3】
(表3において、α’-Mはアルファ’-マルテンサイト、γはオーステナイト、ε-Mはイプシロンマルテンサイト相を意味する。)
【0070】
上記表1~3に示すように、合金組成及び製造条件、特に、本発明で提案する関係式1を満たす温度で仕上げ熱間圧延を行い、700℃以下で冷却を終了した発明鋼1~6は、イプシロンマルテンサイト相がいずれも95%以上形成されることにより、優れた防振性を確保することができる。
【0071】
さらに、上記発明鋼1~6のいずれも総伸びが40%を超えることにより、成形性にも優れていることが確認できる。
【0072】
これは、従来の後熱処理を行う高マンガン防振鋼(比較鋼5を参照)に比べて、同等またはそれ以上の防振性及び成形性を有するものであることが分かる。
【0073】
これに対し、本発明の製造条件(関係式1など)を満たしていない比較鋼1~4、6~9の場合には、アルファ’(α’)-マルテンサイト相が形成されることにより、防振性に劣るだけでなく、総伸びも40%未満となり、成形性にも劣っていた。
【0074】
図1は、各試験片の損失率900(m /(m×10
-6))での損失率の値をFDT(℃)に応じて示したグラフである。
図1に示すように、本発明の関係式1を満たす温度で仕上げ熱間圧延を行った発明鋼1~6のみが0.05以上の損失率となり、これは、後熱処理を行った比較鋼5と同等またはそれ以上の効果を有するものであることが分かる。
【0075】
図2は、一部の試験片の損失率200~900(m /(m×10
-6))での損失率の値を示したグラフである。
図2に示すように、発明鋼の場合、変形率が高くなるほど、損失率が増加することが確認でき、これは、後熱処理を行った比較鋼5と同等またはそれ以上の効果を有することが分かる。一方、比較鋼の場合、変形率が高くなっても、損失率は0.020を超えないことが確認できる。
【0076】
図3は、発明鋼4の微細組織写真を示したものであり、微細組織がほとんどイプシロンマルテンサイト相で形成されたことが確認できる。
【0077】
図4は、発明鋼6と比較鋼6のXRD測定結果を示したものである。
図4に示すように、比較鋼6では、アルファ’(α’)-マルテンサイト相のピーク(peak)が観察されるのに対し、発明鋼6では、イプシロンマルテンサイト相及びオーステナイト相のピークのみが観察され、イプシロンマルテンサイト相の強度(intensity)がさらに大きいことが確認できる。
【国際調査報告】