(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)、コポリマー、及び置換ポリベンズイミダゾールに基づくポリマー層状中空糸膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/62 20060101AFI20220106BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20220106BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220106BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20220106BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20220106BHJP
B01D 71/42 20060101ALI20220106BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20220106BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20220106BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20220106BHJP
B01D 71/16 20060101ALI20220106BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20220106BHJP
B01D 71/12 20060101ALI20220106BHJP
B01D 71/48 20060101ALI20220106BHJP
D01F 6/74 20060101ALI20220106BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B01D71/62
B01D69/08
B01D69/12
B01D71/64
B01D71/56
B01D71/42
B01D71/68
B01D71/34
B01D71/52
B01D71/16
B01D71/70
B01D71/12
B01D71/48
D01F6/74
C08G61/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521393
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(85)【翻訳文提出日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 IN2019050776
(87)【国際公開番号】W WO2020079713
(87)【国際公開日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】201811014986
(32)【優先日】2018-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508176500
【氏名又は名称】カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウルハス・カンハイヤラル・カルール
(72)【発明者】
【氏名】ハーシャル・ディリップ・チャウダリ
(72)【発明者】
【氏名】ニシナ・アチュサン・ショバナ
(72)【発明者】
【氏名】ニティン・マドゥカラオ・ソラット
(72)【発明者】
【氏名】サロジ・シヴラム・ガワス
(72)【発明者】
【氏名】ラヴァンヤ・アラディ
(72)【発明者】
【氏名】シビーブ・ハッサン・クンジャッツ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィピン・クマール
【テーマコード(参考)】
4D006
4J032
4L035
【Fターム(参考)】
4D006GA14
4D006GA25
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4D006HA02
4D006HA03
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4J032BA12
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4J032CG08
4L035AA04
4L035BB01
4L035DD03
4L035DD20
(57)【要約】
本発明は、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、またはポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマー、及び置換ポリベンズイミダゾール(PBI)に基づくポリマー層状中空糸膜、及びその製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~3のポリマー層を含むポリマー層状糸膜であって、
i. 第一層のポリマーが、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、またはポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマー、または置換ポリベンズイミダゾール(PBI)、またはこれらのブレンドからなる群より選択され、
ii. 第二層のポリマーが、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、セルロースアセテートの単独またはこれらの組み合わせからなる群より選択され、且つ
iii. 第三層のポリマーが、シリコーンゴム、エチルセルロース、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(テトラメチルビスフェノールA-イソ-テレフタレート)、またはポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン]からなる群より選択され、
前記膜の1つの層が第一層のポリマーであり、
前記膜が中空の糸であって、実質的に非多孔質である、ポリマー層状糸膜。
【請求項2】
前記ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマーが、ABPBI-コ-PBI、ABPBI-コ-置換PBI、またはABPBI-コ-ナフタレンジカルボン酸系PBIからなる群より選択される、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項3】
前記置換ポリベンズイミダゾールが、tert-ブチル置換ポリベンズイミダゾール、ヘキサフルオロイソプロピリデン置換ポリベンズイミダゾール、ジメチル置換ポリベンズイミダゾール、またはジ-tert-ブチルベンジル置換ポリベンズイミダゾールからなる群より選択される、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項4】
前記膜が、溶媒、溶質、酸、塩基、化学物質、及びガスを選択的な方法で分離または輸送するために有用である、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項5】
請求項1に規定のポリマー膜の調製方法であって、
a) 第一のポリマーを溶媒または溶媒混合物に溶解させ、次いでこの混合物を60~120℃の範囲の温度で1~72時間の範囲の期間に亘って撹拌することによって、第一ドープ溶液を調製する工程、
b) 第二のポリマーを溶媒に溶解させ、次いでこの反応混合物を60~90℃の範囲の温度で1~72時間の範囲の期間に亘って撹拌することによって、第二ドープ溶液を調製する工程、
c)工程(a)の第一ドープ溶液及び工程(b)の第二ドープ溶液を、ドライ・ジェット/湿式紡糸処理に供して、ポリマー層状中空糸膜を得る工程、及び
d)工程(c)の膜を第三のポリマーで被覆して、3層の膜を得る工程
を含む、ポリマー膜の調製方法。
【請求項6】
前記溶媒が、ピリジン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、メタンスルホン酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ギ酸、アセトン、テトラヒドロフラン、またはこれらの混合物からなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第一のポリマーが、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)、またはポリ(2,5-ベンズイミダゾール)コポリマー、または置換ポリベンズイミダゾールからなる群より選択され、前記置換ポリベンズイミダゾールが、tert-ブチル置換ポリベンズイミダゾール、ヘキサフルオロイソプロピリデン置換ポリベンズイミダゾール、ジメチル置換ポリベンズイミダゾール、ジ-tert-ブチルベンジル置換ポリベンズイミダゾールから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記第二のポリマーが、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、セルロースアセテートのいずれかの単独またはこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記第三のポリマーが、シリコーンゴム、エチルセルロース、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(テトラメチルビスフェノールA-イソ-テレフタレート)、またはポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン]からなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマー、及び置換ポリベンズイミダゾール(PBI)に基づくポリマー層状中空糸膜に関する。特に、本発明は、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマー、及び置換ポリベンズイミダゾール(PBI)に基づくポリマー層状中空糸膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機酸は、一般的に、多くの産業、例えば、鉄鋼、金属の表面処理、及び精錬(Cr、Ni、Zn、Cu等)、エレクトロニクス、化学製造等において使用される。様々な段階におけるこれらの処理は、大量の酸溶液を発生させる。膜技術は、その操作の簡便性、許容可能な透過特性、低エネルギー要求、環境適合性、制御の簡便性、並びに、スケールアップ及び大規模操作の柔軟性により、最も実現性の高い試みである。しかしながら、高分子膜の応用は、主に、高い酸濃度に対する膜の安定性が低いこと、他の溶質が共輸送されることによる選択性の低下、及び膜の汚損のために、限定的である。さらにまた、微多孔性のフラットシート及び中空糸膜が、当技術分野では周知である。こうした膜は、典型的には、溶液製膜プロセス(フラットシート)、または溶液押出-析出プロセス(中空糸)によって作られる。従来のポリマーから製造される膜は、溶剤、酸、または別の強力な化学物質を含む供給流の処理には使用不可能である。これらの欠点を克服するために、有効な膜が必要である。
【0003】
ポリベンズイミダゾール(PBI)は、その高い熱化学的及び機械的な安定性のため、様々な用途に広く使用されているポリマーの一種である。そのポリマー骨格は、ポリマーに優れた剛性を与えるN-H基を有するヘテロ芳香族部分からなる。PBIは、この優れた剛性によって高温及び低温での使用に耐えることができ、このためガス分離の応用に適した候補である。PBIは、透過性及び溶解性が低いため、構造の修正が必要である。最初の試みは、酸及びアミン部分の嵩高い基による構造的変性であったが、依然としてその性能は他のポリマーに及ばなかった。N-置換による構造的変性が透過性を増大させるための別の試みであり、tert-ブチルベンジル置換ポリマーが、親ポリマーであるPBI-BuI及びPBI-Iよりも、それぞれ4倍及び17倍増加した透過性を有して成功裏に合成された。これらの特性は,フラットシートフォーム(厚さ約40~50μmのフィルム)上に示された。ガス分離の実用的応用のためには、膜は、多孔質構造の上に支持された厚さ10μm程度の薄い皮膜を有して、非対称である必要がある。この方式によれば、皮膜層の本質的な選択性を維持しつつ、高流量が得られる。PBIのみに基づく中空糸膜の製造は、モノマーのコストが高いことから、また、よりよい膜性能を引き出すためには、実用的に理に適わない。2層の中空糸膜は、前述の問題に対処することができる。
【0004】
正浸透プロセスのエネルギー要求は、逆浸透に比べて10%程度であり、圧力駆動膜プロセスに比べて汚損が少ない傾向がある。工業用途、特に医薬品及びファインケミカルの分野においては、有機溶媒の使用が必要である。現在の高分子膜のほとんどが、有機溶媒に耐えない。したがって、膜の溶媒安定性を向上させる必要があり、これが本研究の目的である。
【0005】
有機溶媒の脱水のためには、浸透気化法が使用される。高分子膜の主たる欠点の1つは、溶媒安定性が限定的なことである。高分子膜の用途は、温度制限によっても限定される。
【0006】
国際公開第2011104602号には、多孔質ABPBI[リン酸ドープポリ(2,5-ベンズイミダゾール)]膜及びその調製方法が開示されており、ABPBI多孔質膜は、強酸、塩基、一般的な有機溶媒、及び過酷な環境条件に対して優れた安定性を有する。
【0007】
従来のPBIは、米国特許第6986844号ではその中空糸膜の製造に、また米国特許出願公開第20110266222号では2層膜の製造に用いられているが、ABPBIに基づく中空糸は、分離用途では文献に記載されていない。これらは幾つかの用途、例えば、浸透気化、正浸透、ガス分離などに使用可能である。ABPBIの優れた溶媒安定性及び温度安定性は文献に記載されているが、分離用途のための中空糸膜の調製については記載がない。
【0008】
このため、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、ABPBIコポリマー、及び置換ポリベンズイミダゾール(PBI)に基づく中空糸膜を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2011104602号
【特許文献2】米国特許第6986844号
【特許文献3】米国特許出願公開第20110266222号
【特許文献4】米国特許出願公開第20130184412号
【特許文献5】国際公開第2012035556号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. Membr. Sci. 286 (2006) 161
【非特許文献2】Eur. Polym. J. 45 (2009) 3363
【非特許文献3】Polym.Chem. 5 (2014), 4083
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の主な目的は、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマー、及び置換ポリベンズイミダゾール(PBI)に基づく実質的に非多孔質のポリマー層状中空糸膜を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマー、ブレンド、及び置換ポリベンズイミダゾール(PBI)に基づく実質的に非多孔質のポリマー層状中空糸膜の調製方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、溶媒、溶質、酸、塩基、化学物質、及びガスを選択的方式で分離または輸送するための、ポリマー層状中空糸膜の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明は、1~3のポリマー層を含むポリマー層状糸膜であって、
i. 第一層のポリマーが、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、またはポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマー、または置換ポリベンズイミダゾール(PBI)、またはこれらのブレンドからなる群より選択され、
ii. 第二層のポリマーが、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、セルロースアセテートの単独またはこれらの組み合わせからなる群より選択され、
iii. 第三層のポリマーが、シリコーンゴム、エチルセルロース、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(テトラメチルビスフェノールA-イソ-テレフタレート)、またはポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン]からなる群より選択され、
前記膜の1つの層が第一層のポリマーであり、
前記膜が中空の糸であって、実質的に非多孔質である、ポリマー層状糸膜を提供する。
【0015】
本発明の一実施態様では、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマーは、ABPBI-コ-PBI、ABPBI-コ-置換PBI、またはABPBI-コ-ナフタレンジカルボン酸ベースのPBIからなる群より選択される。
【0016】
本発明の別の実施態様では、前記の置換ポリベンズイミダゾールは、tert-ブチル置換ポリベンズイミダゾール、ヘキサフルオロイソプロピリデン置換ポリベンズイミダゾール、ジメチル置換ポリベンズイミダゾール、またはジ-tert-ブチルベンジル置換ポリベンズイミダゾールからなる群より選択される。
【0017】
本発明のさらに別の実施態様では、前記膜は、溶媒、溶質、酸、塩基、化学物質、及びガスの選択的方式での分離または輸送のために有用である。
【0018】
さらに別の実施態様では、本発明は、ポリマー膜の調製方法であって、
a) 第一のポリマーを溶媒または溶媒混合物に溶解させ、次いでこの混合物を60~120℃の範囲の温度で1~72時間の範囲の期間に亘って撹拌することによって、第一ドープ溶液を調製する工程、
b) 第二のポリマーを溶媒に溶解させ、次いでこの反応混合物を60~90℃の範囲の温度で1~72時間の範囲の期間に亘って撹拌することによって、第二ドープ溶液を調製する工程、
c)工程(a)の第一ドープ溶液及び工程(b)の第二ドープ溶液を、ドライ・ジェット/湿式紡糸処理に供して、ポリマー層状中空糸膜を得る工程、及び
d)工程(c)の膜を第三のポリマーで被覆して、3層の膜を得る工程
を含む、ポリマー膜の調製方法を提供する。
【0019】
本発明の更に別の実施態様では、前記溶媒は、ピリジン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、メタンスルホン酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ギ酸、アセトン、テトラヒドロフラン、またはこれらの混合物からなる群より選択される。
【0020】
本発明の更に別の実施態様では、前記第一のポリマーは、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)、またはポリ(2,5-ベンズイミダゾール)コポリマー、または置換ポリベンズイミダゾールからなる群より選択され、前記置換ポリベンズイミダゾールが、tert-ブチル置換ポリベンズイミダゾール、ヘキサフルオロイソプロピリデン置換ポリベンズイミダゾール、ジメチル置換ポリベンズイミダゾール、ジ-tert-ブチルベンジル置換ポリベンズイミダゾールから選択される。
【0021】
本発明の更に別の実施態様では、前記第二のポリマーは、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、セルロースアセテートのいずれかの単独またはこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0022】
本発明の更に別の実施態様では、前記第三のポリマーは、シリコーンゴム、エチルセルロース、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(テトラメチルビスフェノールA-イソ-テレフタレート)、またはポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン]からなる群より選択される。
【0023】
略称:
ABPBI:ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)
PBI:ポリベンズイミダゾール
PAN:ポリアクリロニトリル
PSF:ポリスルホン
PBI-BuI:tert-ブチル基置換ポリベンズイミダゾール
PEI:ポリエーテルイミド
PA:ポリアミド
PAN:ポリアクリロニトリル
PES:ポリエーテルスルホン
PVDF:ポリフッ化ビニリデン
PI:ポリイミド
PPO:ポリフェニレンオキシド
CA:セルロースアセテート
PTMSP:ポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン]
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】ニートABPBIベースの中空糸膜の光学画像である。
【
図2】2層ABPBI-PAN糸の光学画像;(a)ABPBI層及び(b)PAN層である。
【
図3】2層PBI-BuI-PSF糸の光学画像;(a)-PBI-BuI層及び(b)PSF層である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
「実質的に非多孔質」なる語は、「実質的に非多孔質である膜は、化学透析、正浸透、浸透気化法、ガス分離、ナノろ過、限外ろ過、または逆浸透に使用することのできる膜である」ことを記すものである。
【0026】
本発明は、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、またはポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマー、及び置換ポリベンズイミダゾール(PBI)に基づくポリマー層状中空糸膜、並びにその調製方法を提供する。
【0027】
本発明は、1以上のポリマー層を含む実質的に非多孔質のポリマー層状中空糸膜であって、
i. 第一層のポリマーが、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、またはポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマー、または置換ポリベンズイミダゾール(PBI)、またはこれらのブレンドからなる群より選択され、
ii. 第二層のポリマーが、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミド(PA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、セルロースアセテート(CA)の単独またはこれらの組み合わせからなる群より選択され、且つ
iii. 第三層のポリマーが、シリコーンゴム、エチルセルロース、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(テトラメチルビスフェノールA-イソ-テレフタレート)、またはポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン](PTMSP)からなる群より選択され、
前記膜の1つ層は第一層のポリマーであり、ポリマー層状中空糸膜である前記膜は実質的に非多孔質である、ポリマー層状糸膜を提供する。
【0028】
本発明の一実施態様においては、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマーは、ABPBI-コ-PBI、ABPBI-コ-置換PBI、またはABPBI-コ-ナフタレンジカルボン酸系PBIからなる群より選択される。
【0029】
単層の膜は、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)もしくはそのコポリマー、またはこれらのブレンドと置換ポリベンズイミダゾール(PBI)とのブレンドをさらに含む。
単層、2層または3層の膜の層の厚さは、0.05~300μmの範囲内である。
【0030】
ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、ABPBIコポリマー、及び置換ポリベンズイミダゾール(PBI)に基づく非多孔質ポリマー層状中空糸膜は、第三のポリマーをさらに含む。
【0031】
第三層のポリマーは、シリコーンゴム、エチルセルロース、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(テトラメチルビスフェノールA-イソテレフタレート)、またはポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン](PTMSP)から選択される。
【0032】
置換ポリベンズイミダゾールは、tert-ブチル置換ポリベンズイミダゾール、ヘキサフルオロイソプロピリデン置換ポリベンズイミダゾール、ジメチル置換ポリベンズイミダゾール、ジ-tert-ブチルベンジル置換ポリベンズイミダゾールから選択される。
【0033】
ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)の構造は、国際公開第2011104602号に開示されている。
【0034】
tert-ブチル置換ポリベンズイミダゾールの構造は、参考文献J. Membr. Sci. 286 (2006) 161に開示されている。
【0035】
ヘキサフルオロイソプロピリデン置換ポリベンズイミダゾールの構造は,参考文献J. Membr. Sci. 286 (2006) 161に開示されている。
【0036】
ジメチル置換ポリベンズイミダゾールの構造は、参考文献Eur. Polym. J. 45 (2009) 3363に開示されている。
【0037】
ジ-tert-ブチルベンジル置換ポリベンズイミダゾールの構造は、参考文献Eur. Polym. J. 45 (2009) 3363に開示されている。
【0038】
本発明は、実質的に非多孔質のポリマー層状中空糸膜の調製方法であって、
a) 第一のポリマーを溶媒または溶媒混合物に溶解させ、次いでこの混合物を60~120℃の範囲の温度で1~72時間の範囲の期間に亘って撹拌することによって、第一ドープ溶液を調製する工程、
b) 第二のポリマーを溶媒に溶解させ、次いでこの反応混合物を60~90℃の範囲の温度で1~72時間の範囲の期間に亘って撹拌することによって、第二ドープ溶液を調製する工程、
c)工程(a)の第一ドープ溶液及び工程(b)の第二ドープ溶液を、ドライ・ジェット/湿式紡糸処理に供して、単層または2層の中空糸膜を得る工程、及び
d)工程(c)の膜を第三のポリマーで被覆して、3層の膜を得る工程
を含む、ポリマー膜の調製方法を提供する。
【0039】
溶媒は、ピリジン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、メタンスルホン酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ギ酸、アセトン、テトラヒドロフラン、またはこれらの混合物からなる群より選択される。
【0040】
第一のポリマーは、ポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)、またはポリ(2,5-ベンズイミダゾール)(ABPBI)コポリマー、または置換ポリベンズイミダゾール(PBI)、あるいはこれらのブレンドからなる群より選択される。
【0041】
第二のポリマーは、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、セルロースアセテートの単独またはこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0042】
第三のポリマーは、シリコーンゴム、エチルセルロース、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(テトラメチルビスフェノールA-イソテレフタレート)、またはポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン](PTMSP)からなる群より選択される。
【0043】
本発明はさらに、溶媒、溶質、酸、塩基、化学物質、及びガスを選択的な方法での分離または輸送のためのポリマー層状中空糸膜の使用を提供するものである。
【0044】
本発明は、さらに、様々な形状を有する中空糸膜モジュールを提供する。本発明では、シェルアンドチューブタイプ及びU字型の膜モジュールが輸送解析に使用される。輸送解析は、フラックス研究によって行われる。様々な溶媒、溶質、酸、塩基、化学物質、及びガスが、輸送解析に使用される。
【0045】
シェルアンドチューブタイプ膜モジュールは、二液型エポキシ接着剤を用いて中空糸膜をポッティングすることにより調製される。シェルアンドチューブタイプ膜モジュールを輸送解析に使用する場合は、供給液をシェル側に通し、剥離液をチューブ側に通し、あるいはまたその逆である。
【0046】
U字型膜モジュールは、二液型エポキシ接着剤を用いて中空糸膜をポッティングすることによって調製される。U字型膜モジュールを輸送解析に使用する場合は、モジュールを供給液容器(供給側)に浸し、剥離液をチューブ側(剥離側)に通し、あるいはまたその逆である。
【0047】
U字型膜モジュールは、酸の輸送解析に用いられる。本発明では、発明者は、U字型モジュールを酸の容器(供給側)に浸し、水をチューブ側(剥離側)から循環させることにより輸送解析を行う。様々な酸、すなわち、HNO3、H2SO4、H3PO4の輸送を、様々な濃度:0.5M、1M、1.5M、及び2Mで評価した。チューブ側で輸送された酸のフラックス(フィード側からチューブ側に輸送された量)を、サンプリング及び滴定によってモニターする。単層膜のフラックスデータを表1に示す。
【0048】
【0049】
膜モジュールの供給側からチューブ側(剥離側)への有機酸の輸送を、酢酸、グリコール酸、及び乳酸を用いて評価した。個別の酸の供給濃度は、0.5M、1.5M、及び2Mと変化させ、チューブ側に輸送された酸を滴定により評価した。フラックスデータを表2に示す。
【0050】
【0051】
シェルアンドチューブタイプ膜モジュールをガス透過分析に用いた。個別のガス(He、N2、CO2、またはCH4)は、50、60、または70psiのいずれかで膜のシェル側に加圧された。透過分析は表3に示す通りである。
【0052】
【実施例】
【0053】
以下の実施例は、詳説のために記載されており、しかるに本発明の範囲を制限するものと理解されるべきでない。
【0054】
実施例1:ABPBI及びコポリマーの調製
実施例1a:ABPBIの調製
ABPBIを、オーバーヘッドスターラーを備えた反応器内で合成した。ポリリン酸(PPA、2100g)を仕込み、170℃で加熱した。70gの3,4-ジアミノ安息香酸(DABA)を加え、1時間加熱した。温度を200℃に上昇させ、撹拌しつつ1時間維持した。ポリマーが水中に析出し、これを小片に切り分け、粉砕し、さらに洗浄水がpHで中性になるまで水中で撹拌した。その後、1%NaOH溶液中で12時間撹拌した後、濾液がpHで中性になるまで水で洗浄した。得られたポリマーを濾過し、アセトン中に浸し、再度濾過した後、100℃の減圧オーブンで5日間乾燥させた。
【0055】
実施例1b:コ-ABPBI-1の調製
2300gのPPA、100gの3,4-ジアミノ安息香酸、及び14.1gの2,6-ナフタレンジカルボン酸を三つ口の丸底フラスコに加えた。温度を170℃に上昇させて3.5時間維持した。その後、温度を140℃に下げ、13.9gの3,3’-ジアミノベンジジンを加え、0.5時間攪拌し、温度を170℃に上げて1時間おいた。温度を200℃にさらに上げて5時間おいた。ポリマーが水中に析出し、これを実施例1aに記載のように処理して、乾燥ポリマーを得た。
【0056】
実施例1c:コ-ABPBI-2の調製
2300gのPPA、60gの3,4-ジアミノ安息香酸、及び32.8gのイソフタル酸を反応器に仕込むことにより、コ-ABPBI-2を調製した。温度を170℃に上げ、撹拌しつつ3.5時間維持した。温度を140℃に下げ、42.3gの3,3’-ジアミノベンジジンを加えて0.5時間撹拌した。その後、温度を170℃に上げて1時間撹拌した。温度をさらに200℃に上げて、反応混合物を5時間撹拌した。ポリマーが水中に析出し、これを小片に切り分け、実施例1aに記載のように処理してポリマーを得た。
【0057】
実施例1d:コ-ABPBI-3の調製
コ-ABPBI-3を、イソフタル酸に代えてテレフタル酸を使用したことを除いて、実施例1cに記載のように調製した。
【0058】
実施例1e:コ-ABPBI-4の調製
コ-ABPBI-4を、3070gのPPA、60gの3,4-ジアミノ安息香酸、及び8.5gの2,6-ナフタレンジカルボン酸を反応器に加えることによって調製した。反応器の温度を170℃に上昇させて1.5時間維持した。その後、26.2gのテレフタル酸を添加して1時間拡販した。温度を140℃に下げ、42.3gの3,3’-ジアミノベンジジンを加えて0.5時間撹拌した。温度を、再度170℃に上げて1時間、さらに200℃に上げて3時間、撹拌しつつ維持した。ポリマーが水中に析出し、これを小片に切り分け、実施例1aに記載のように処理して、乾燥形態のポリマーを得た。
【0059】
実施例2:置換ポリマーの調製
実施例2a:tert-ブチル基置換ポリベンズイミダゾール、PBI-BuIを、先行技術(J. Membr. Sci. 286(2006)161)に記載のように合成した。
実施例2b:ヘキサフルオロイソプロピリデン置換ポリベンズイミダゾール、PBI-HFAを、先行技術(J. Membr. Sci. 286(2006)161)に記載のように調製した。
実施例2c:ジメチル置換ポリベンズイミダゾール、DMPBI-BuIを、先行技術(Eur. Polym. J. 45 (2009) 3363)に記載のように調製した。
実施例2d:ジ-tert-ブチルベンジル置換ポリベンズイミダゾールを、先行技術(Eur. Polym. J. 45 (2009) 3363)に記載のように調製した.
【0060】
実施例2e:先行技術(米国特許出願公開第20130184412号、Polym.Chem. 5 (2014), 4083)に記載のようにPBI-BuIのN-ナトリウム塩をヨウ化メチルと反応させて、ポリイオン液体を生成させた。三つ口の丸底フラスコに600mlの無水DMSOを仕込み、20gのPBI(PBI-IまたはPBI-BuI)及び2.1モル当量のNaH(60%鉱油分散物形態)を加え、乾燥N2雰囲気下、常温にて24時間撹拌した。その後、反応混合物を80℃で1時間加熱した。反応混合物を常温まで冷却し、4.2当量のヨウ化メチルを加えた。反応温度を80℃に上昇させ、さらに24時間撹拌し、温度を常温に下げ、トルエン-アセトンの混合物(1:1)中に析出させた。得られた黄金色の析出物を80℃で24時間乾燥させた。これを、DMSOに溶解させ、同様の非溶媒で再析出させることによって、さらに精製した。得られたポリマーを80℃で3日間乾燥させた。
【0061】
実施例2f:実施例2eで合成したポリイオン液体のヨウ化物アニオンを、先行技術(国際公開第2012035556号、Polym.Chem. 5 (2014), 4083)に記載のように交換した。塩化カルシウムのガードチューブを備えた二つ口フラスコに、5gの[TMPBI-BuI][I]及び100mlのDMFを仕込んだ。完全に溶解させた後、2モル当量のAgBF4を撹拌しつつ加えた。AgIが析出し、アニオン交換ポリマーが溶液中に残った。析出したAgIを遠心分離で除去し、アニオン交換したポリマー([TMPBI-BuI][BF4])を、溶媒蒸発により上澄み液から回収した。
【0062】
実施例3:ドープ溶液の調製
実施例3a:メカニカルスターラーを備えた丸底フラスコに、975gのメタンスルホン酸を仕込み、80℃に加熱し、実施例1a~eで調製したポリマー一つを加え、24時間撹拌し、様々なポリマーのドープ溶液を得た。
実施例3b:メカニカルスターラーを備えた丸底フラスコに、970gのMSA、15gのABPBI(実施例1aで合成)、及び15gのコ-ABPBI(実施例1dで合成)を仕込み、80℃で24時間加熱した。
実施例3c:メカニカルスターラーを備えた丸底フラスコに、930gのN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、70gのDMPBI-BuI(実施例2cに記載のように合成)を仕込み、80℃に加熱し、24時間撹拌し続けてドープ溶液を生成させた。
【0063】
実施例3d:ポリエーテルイミドを用いたドープ溶液の調製
ドープ溶液を、丸底フラスコに292gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)及び108gのポリエーテルイミド(Ultem-1000等級)を仕込み、メカニカルスターラーを用いて48時間常温で撹拌することによって調製した。
実施例3e:ポリアクリロニトリル(PAN)を用いたドープ溶液の調製
丸底フラスコに、740gのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を仕込み、60℃に加熱し、140gのPAN及び40gのクエン酸(CA)を加え、48時間撹拌した。
【0064】
実施例3F: 実施例2aに記載のように合成されたPBI-BuIを用いたドープ溶液の調製
丸底フラスコに、770gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)及び30gの塩化リチウム(LiCl)を仕込んだ。LiClの溶解後、200gのPBI-BuIを加えた。80℃での加熱を36時間行った。
実施例3g:実施例2bに記載のように合成されたPBI-HFAを用いたドープ溶液の調製
丸底フラスコに、810gのNMP及び40gのLiClを仕込んだ。150gのPBI-HFAを加え、80℃で30時間撹拌した。
【0065】
実施例4:中空糸膜の調製
実施例4a
実施例3a~cで調製したドープ溶液を用いた中空糸膜を、当技術分野で既知[米国特許第6986844号]の転相法によって調製した。典型的な手順では、中空糸膜は、ドライ・ジェット、湿式紡糸法によって調製された。チューブインオリフィス型紡糸口金を、中空糸膜の紡糸に使用した。水を、ボア流体として、また外部凝固浴として、使用した。膜を常温で紡糸した。
【0066】
実施例4b:実施例1a、1b、1c、1d、及び1eで調製した反応混合物を、メタンスルホン酸でさらに希釈して、実施例4bに記載の方法による、中空糸膜の調製のためのドープ溶液として使用した。
【0067】
実施例5:二層式中空糸膜の調製
実施例5a:実施例3a~cで調製したドープ溶液を、二層膜の外層を形成するために使用した。実施例3d又は3eで調製した溶液を、内層として使用した。二層中空糸膜は、先行技術[米国特許出願公開第20110266222号]既知の通り紡糸した。典型的な手順では、中空糸膜は、ドライ・ジェット、湿式紡糸法によって調製された。水を、ボア流体として、また外部凝固浴として、使用した。膜を常温で紡糸した。
【0068】
実施例5b:別の二層タイプの中空糸膜において、実施例3f及び3gで調製したドープ溶液を外層の形成に使用した。実施例3d又は3eで調製した溶液を、二層膜の内層を形成するために使用した。方法は、実施例5aで使用したものと同様であった。
【0069】
実施例6:中空糸膜の架橋:実施例4a、4b、5aまたは5bで調製した乾燥中空糸膜を、溶媒としてのアセトニトリル中、10%(質量/質量)の1,4-ジブロモブタン中に浸漬させた。膜は、さらに80℃で24時間乾燥させた。架橋中空糸膜を、石油エーテル溶液中1.96質量%のシリコーンゴムで被覆した。
【0070】
実施例7:膜モジュールの調製:実施例4a、4b、5a、又は5bで調製した中空糸膜モジュールを、二液型エポキシ接着剤を用いてポッティングした。
実施例7A:U字型の膜モジュールの調製:実施例4a、4b、5a、又は5bで調製した中空糸膜モジュールを、二成分型エポキシ接着剤を用いてポッティングした。
【0071】
実施例8:中空糸膜モジュールを介した輸送
実施例8a:NaClの輸送研究:実施例4aで紡糸された中空糸膜(実施例1aに記載のように調製されたポリマー、及び実施例3aで調製されたドープ溶液を使用)、及び実施例7に記載のように調製されたモジュールをこの研究に使用した。NaCl溶液を膜のシェル側から循環させた一方で、水は中空糸膜のボア側から循環させた。様々な実験において、NaCl濃度を、水中0.1wt.%、0.5wt.%、5wt.%と変化させた。シェル側とチューブ側の溶液の濃度を、オンライン導電率計を用いてNaCl濃度について24時間継続してモニターした。0.1、0.5、5wt.%の供給濃度について、NaClのフラックス(シェル側からチューブ側に輸送される量)は、それぞれ、1.17×10-3、3.31×10-2、及び2.13×10-1 g m-2 h-1であった。
【0072】
実施例8b:無機酸の輸送:実施例4aで紡糸した中空糸膜(実施例1aに記載のように調製されたポリマーと実施例3aで調製したドープ溶液を使用)と、実施例7に記載のように調製されたU字型モジュールをこの研究に使用した。様々な酸、すなわち、HNO3、H2SO4、またはH3PO4の輸送を、様々な濃度:0.5M、1M、1.5M、及び2Mで評価した。チューブ側で輸送される酸のフラックス(フィード側からチューブ側に輸送される量)を、サンプリング及び滴定によってモニターする。フラックスデータを表1に示す(表1を参照のこと)。
【0073】
実施例8c:有機酸の輸送:実施例4bで紡糸された中空糸膜(実施例1aに記載のように調製されたポリマー、及び実施例3aで調製されたドープ溶液を使用)、及び実施例7に記載のように調製されたモジュールを使用した。膜モジュールの供給側からチューブ側(剥離側)への有機酸の輸送を、酢酸、グリコール酸、及び乳酸を用いて評価した。実験は、実施例8bに記載のように実施した。個々の酸の供給濃度は、0.5M、1.5M、及び2Mと変化させ、チューブ側に輸送される酸を滴定によって評価した。フラックスデータを表2に示す。
【0074】
実施例8d:HNO3+Fe(NO3)3溶液を用いた輸送:実施例4aに記載のように紡糸された中空糸膜(実施例1aに記載のように調製されたポリマー、及び実施例3aで調製されたドープ溶液を使用)、及び実施例7に記載のように調製されたモジュールを、この研究に使用した。シェル(供給)側に取り込んだHNO3の濃度は1Mであった一方で、Fe(NO3)3の濃度は0.25Mであった。HNO3のフラックスは118.8g.m-2.h-1、Fe(NO3)3のフラックスは1.45×10-2g.m-2.h-1であったことから、Fe(NO3)3に対するHNO3の選択性は8194となる。
【0075】
実施例8e:H2SO4+FeSO4溶液を用いた輸送:実施例4aで紡糸された中空糸膜(実施例1aに記載のように調製されたポリマー、及び実施例3aで調製されたドープ溶液を使用)、及び実施例7に記載のように調製されたモジュールを、この研究に使用した。シェル(供給)側の酸濃度は1Mであった一方で、FeSO4の濃度は0.25Mであった。H2SO4のフラックスは62.9g.m-2.h-1、FeSO4のフラックスは7.62×10-1g.m-2.h-1であった。FeSO4に対するH2SO4の選択性は83であることが判明した。
【0076】
実施例8f:メタノール-水を用いた浸透気化:実施例4bで紡糸された中空糸膜(実施例1aに記載のように調製されたポリマー、及び実施例3aで調製されたドープ溶液を使用)、及び実施例7に記載のように調製されたモジュールをこの研究に使用した。シェル側から90%水性メタノールを循環させた。チューブ側の圧力は700mbarに維持した。透過液のフラックスは574g. m-2.h-1であり、メタノールに対する水の選択性は55であった。
【0077】
実施例8g:誘導溶液としてNaClを使用する正浸透:実施例4aで紡糸された中空糸膜(実施例1aに記載のように調製されたポリマー、及び実施例3aで調製されたドープ溶液を使用)、及び実施例7に記載のように調製されたモジュールを、この研究に使用した。2MのNaCl水溶液をチューブ側の誘導溶液として使用する一方で、DI水をシェル側の供給液として使用した。水フラックスは193.73g.m-2.h-1であった。
【0078】
実施例8h:IPA-水を用いた浸透気化:実施例5aで紡糸した二層中空糸膜(実施例3aに記載のドープ溶液を用いて形成した外層、及び実施例3dに記載のドープ溶液を用いて形成した内層)を用いて、実施例7に記載のモジュールを製造した。75%のIPA及び25%の水からなる溶液を、モジュールのシェル側から循環させた。チューブ側の圧力は700mbarに維持した。透過フラックスは33g.m-2.h-1であった。透過液の組成は、水が94%及びIPAが6%であった。
【0079】
実施例8i:正浸透の研究:モジュールを、実施例7に記載のように、実施例5aで調製した二層中空糸(実施例1aで調製したポリマーに基づき、実施例3aに記載のドープ溶液を用いて形成した外層、及び実施例3eに記載のドープ溶液を用いて形成した内層)を用いて調製した。2MのNaClをチューブ側の誘導溶液として使用する一方で、DI水をシェル側で循環させた。得られた水フラックスは593g.m-2.h-1であり、NaClの除去率は99.49%であった。
【0080】
実施例8j:二重層中空糸膜における酸の輸送:実施例5aで紡糸した中空糸膜(実施例1cで調製したポリマーに基づき、実施例3bに記載のドープ溶液を用いて形成した外層、及び実施例3dに記載のドープ溶液を用いて形成した内層)を用いて、実施例7に記載のモジュールを製造した。0.5MのHNO3のフラックスは176g.m-2.h-1であり、一方で、1Mの乳酸のフラックスは68g.m-2.h-1であった。
【0081】
実施例8k:シリコンゴムで被覆された二層中空糸膜のガス透過:実施例5bに記載のように調製された中空糸膜(実施例3fに記載のドープ溶液を用いて形成した外層、及び実施例3dに記載のドープ溶液を用いて形成した内層)を用いて、実施例6及び7に記載のモジュールを製造した。個別のガス(He、N2、CO2、またはCH4)は、50、60、または70psiのいずれかで膜のシェル側に加圧された。透過分析は、表3に示される通りである。表3を参照のこと。
【0082】
本発明の利点
・皮膜層として高い透過性及び選択性をもたらす置換PBI-BuI及びPBI-HFAのように、高いTg及び化学的安定性を備えたポリマー材料であって、そのコアは、市販の低コストのポリマーを含むことになる。
・ABPBIに基づく膜を使用する(従来のPBIに対する)利点は、NH基密度(PBIの繰り返し単位あたりのN-H基のモル質量)が高いことであり、これにより高い酸錯化能力がもたらされることが期待される。
・膜は、1つのポリマーのみで調製することができ、あるいは、二層膜は、ABPBIまたはそのコポリマーと共に適切なポリマーの内層と外層で調製することができる。
・ABPBIまたはそのコポリマーのみで調製した中空糸膜は、過酷な環境下で使用することができる。
・これらの中空糸は、様々な分離、例えば、化学透析、ガス分離、浸透気化、逆浸透、正浸透などの必要性を満たすことができる。
【国際調査報告】