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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】CD38に結合する重鎖抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220106BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220106BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220106BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220106BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220106BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220106BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220106BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220106BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220106BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220106BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N1/21
C12N1/15
C12N5/10
C12P21/08
C12P21/02 C
C07K16/28
C07K16/46
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P1/00
A61P29/00
A61P35/00
A61P37/06
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P17/00
A61P37/02
A61P9/10
A61P25/00
A61P9/00
A61P13/12
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521481
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(85)【翻訳文提出日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 US2019058325
(87)【国際公開番号】W WO2020087065
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】62/751,520
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518452881
【氏名又は名称】テネオバイオ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ショーテン, ウィム
(72)【発明者】
【氏名】クラーク, スターリン
(72)【発明者】
【氏名】ダン, ケビン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA01
4B064CA19
4B064CC24
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB11
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
CD38に結合するヒト重鎖抗体(例えば、UniAb(商標))などの結合化合物、ならびにかかる結合化合物を作製する方法、かかる結合化合物を含む医薬組成物を含む組成物、及びそれらの様々な使用が開示される。
【選択図】【図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cd38上の第1のエピトープに結合親和性を有する第1のポリペプチドと、
Cd38上の第2の重複しないエピトープに結合親和性を有する第2のポリペプチドと、を含む、二重特異性結合化合物。
【請求項2】
前記第1のポリペプチドが、CD38上の前記第1のエピトープまたは前記第2のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインを含み、かつ
(i)配列番号1~5のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR1配列、及び/または
(ii)配列番号6~12のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR2配列、及び/または
(iii)配列番号13~17のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR3配列を含む、請求項1に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項3】
前記CDR1、CDR2、及びCDR3配列が、ヒトフレームワーク内に存在する、請求項2に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項4】
(i)配列番号1~5のいずれか1つを含むCDR1配列、及び/または
(ii)配列番号6~12のいずれか1つを含むCDR2配列、及び/または
(iii)配列番号13~17のいずれか1つを含むCDR3配列を含む、請求項2または3に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項5】
(i)配列番号1~5のいずれか1つを含むCDR1配列、及び
(ii)配列番号6~12のいずれか1つを含むCDR2配列、及び
(iii)配列番号13~17のいずれか1つを含むCDR3配列を含む、請求項4に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項6】
配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列、または
配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列、または
配列番号4のCDR1配列、配列番号11のCDR2配列、及び配列番号17のCDR3配列を含む、請求項5に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項7】
CD38上の前記第1のエピトープに結合親和性を有する前記重鎖抗体の前記抗原結合ドメインが、配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含み、
CD38上の前記第2のエピトープに結合親和性を有する前記重鎖抗体の前記抗原結合ドメインが、配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む、請求項6に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項8】
配列番号18~28の配列のいずれかに対して少なくとも95%の配列同一性を有する可変領域配列を含む、請求項2~7のいずれか1項に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項9】
配列番号18~28からなる群から選択される可変領域配列を含む、請求項8に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項10】
CD38上の前記第1のエピトープに結合親和性を有する前記重鎖抗体の前記抗原結合ドメインが、配列番号18の可変領域配列を含み、
CD38上の前記第2のエピトープに結合親和性を有する前記重鎖抗体の前記抗原結合ドメインが、配列番号23の可変領域配列をふくむ、請求項9に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項11】
CD38に結合する重鎖抗体であって、
(i)配列番号1~5のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR1配列、及び/または
(ii)配列番号6~12のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR2配列、及び/または
(iii)配列番号13~17のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有する抗原結合ドメインを含む、重鎖抗体。
【請求項12】
前記CDR1、CDR2、及びCDR3配列がヒトフレームワーク内に存在する、請求項11に記載の重鎖抗体。
【請求項13】
CH1配列を含まない重鎖定常領域配列をさらに含む、請求項11に記載の重鎖抗体。
【請求項14】
(a)配列番号1~5のいずれか1つを含むCDR1配列、及び/または
(b)配列番号6~12のいずれか1つを含むCDR2配列、及び/または
(c) 配列番号13~17のいずれか1つを含むCDR3配列を含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の重鎖抗体。
【請求項15】
(a)配列番号1~5のいずれか1つを含むCDR1配列、及び
(b)配列番号6~12のいずれか1つを含むCDR2配列、及び
(c)配列番号13~17のいずれか1つを含むCDR3配列を含む、請求項14に記載の重鎖抗体。
【請求項16】
配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列、または
配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列、または
配列番号4のCDR1配列、配列番号11のCDR2配列、及び配列番号17のCDR3配列を含む、請求項15に記載の重鎖抗体。
【請求項17】
配列番号18~28の配列のいずれかに対して少なくとも95%の配列同一性を有する可変領域配列を含む、請求項11~16のいずれか1項に記載の重鎖抗体。
【請求項18】
配列番号18~28からなる群から選択される可変領域配列を含む、請求項17の重鎖抗体。
【請求項19】
単一特異性である、請求項11~18のいずれか1項に記載の重鎖抗体。
【請求項20】
多重特異性である、請求項11~18のいずれか1項に記載の重鎖抗体。
【請求項21】
二重特異性である、請求項20に記載の重鎖抗体。
【請求項22】
同じCD38タンパク質上の2つの異なるエピトープに結合親和性を有する、請求項21に記載の重鎖抗体。
【請求項23】
前記2つの異なるエピトープが、重複しないエピトープである、請求項22に記載の重鎖抗体。
【請求項24】
エフェクター細胞に結合親和性を有する、請求項20に記載の重鎖抗体。
【請求項25】
T細胞抗原に結合親和性を有する、請求項20に記載の重鎖抗体。
【請求項26】
CD3に結合親和性を有する、請求項25に記載の重鎖抗体。
【請求項27】
CAR-Tフォーマットである、請求項11~26のいずれか1項に記載の重鎖抗体。
【請求項28】
第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物であって、
(a)前記第1のCD38エピトープに結合親和性を有する第1のポリペプチドであって、
(i)配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む重鎖抗体の抗原結合ドメインと、
(ii)ヒンジ領域の少なくとも一部と、
(iii)CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインと、を含む、前記第1のポリペプチドと、
(b) 前記第2のCD38エピトープに結合親和性を有する第2のポリペプチドであって、
(i)(a)配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む重鎖抗体の抗原結合ドメインと、
(ii)ヒンジ領域の少なくとも一部と、
(iii)CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインと、を含む、前記第2のポリペプチドと、
(c) 前記第1のポリペプチドのCH3ドメインと前記第2のポリペプチドのCH3ドメインとの間の非対称的界面と、を含む、前記二重特異性結合化合物。
【請求項29】
ヒトIgG1のFc領域、ヒトIgG4のFc領域、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域、及びサイレンシングされたヒトIgG4のFc領域からなる群から選択されるFc領域を含む、請求項28に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項30】
第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物であって、それぞれが、
(i)配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む、前記第1のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第1の抗原結合ドメインと、
(ii)配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む、前記第2のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第2の抗原結合ドメインと、
(iii)ヒンジ領域の少なくとも一部と、
(iv)CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインと、を含む2個の同一のポリペプチドを含む、前記二重特異性結合化合物。
【請求項31】
ヒトIgG1のFc領域、ヒトIgG4のFc領域、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域、及びサイレンシングされたヒトIgG4のFc領域からなる群から選択されるFc領域を含む、請求項30に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項32】
第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物であって、
(a)第1及び第2の重鎖ポリペプチドであって、それぞれが、
(i)配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む、前記第1のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインと、
(ii)ヒンジ領域の少なくとも一部と、
(iii)CH1ドメイン、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインと、を含む前記第1及び第2の重鎖ポリペプチドと、
(b)第1及び第2の軽鎖ポリペプチドであって、それぞれが、
(i)配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む、前記第2のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインと、
(ii)CLドメインと、を含む前記第1及び第2の軽鎖ポリペプチドと、を含む、前記二重特異性結合化合物。
【請求項33】
ヒトIgG1のFc領域、ヒトIgG4のFc領域、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域、及びサイレンシングされたヒトIgG4のFc領域からなる群から選択されるFc領域を含む、請求項32に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項34】
第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物であって、
(a)ヒト重鎖フレームワーク内に配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む第1のポリペプチドサブユニットと、
(b)ヒト軽鎖フレームワーク内に配列番号49のCDR1配列、配列番号50のCDR2配列、及び配列番号51のCDR3配列を含む軽鎖可変領域を含む第2のポリペプチドサブユニットであって、
前記第1のポリペプチドサブユニットと前記第2のポリペプチドサブユニットとは共に前記第1のCD38エピトープに結合親和性を有する、前記第1のポリペプチドサブユニット及び前記第2のポリペプチドサブユニットと、
(c)一価または二価の形態で、ヒト重鎖フレームワーク内に配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む第3のポリペプチドサブユニットであって、
前記第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する前記第3のポリペプチドサブユニットと、を含む、前記二重特異性結合化合物。
【請求項35】
前記第1のポリペプチドサブユニットが、CH1ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2ドメイン、及びCH3ドメインをさらに含む、請求項34に記載の二重特異的結合性化合物。
【請求項36】
前記第3のポリペプチドサブユニットが、CH1ドメインを含まず、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む定常領域配列をさらに含む、請求項34または35に記載の二重特異的結合性化合物。
【請求項37】
前記ヒト軽鎖フレームワークが、ヒトκ軽鎖フレームワークまたはヒトλ軽鎖フレームワークである、請求項34~36のいずれか1項に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項38】
前記第2のポリペプチドサブユニットがさらにCLドメインを含む、請求項34~37のいずれか1項に記載の二重特異的結合性化合物。
【請求項39】
ヒトIgG1のFc領域、ヒトIgG4のFc領域、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域、及びサイレンシングされたヒトIgG4のFc領域からなる群から選択されるFc領域を含む、請求項34~38のいずれか1項に記載の二重特異性結合化合物。
【請求項40】
前記第1のポリペプチドサブユニットの前記CH3ドメインと前記第3のポリペプチドサブユニットの前記CH3ドメインとの間に非対称的界面を含む、請求項34~39のいずれか1項に記載の二重特異的結合性化合物。
【請求項41】
第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物であって、
(a)配列番号46の配列を含む第1の重鎖ポリペプチドと、
(b)配列番号48の配列を含む第1の軽鎖ポリペプチドと、
(c)配列番号47の配列を含む第2の重鎖ポリペプチドと、を含む、前記二重特異性結合化合物。
【請求項42】
請求項1~41のいずれか1項に記載の結合化合物または重鎖抗体を含む、医薬組成物。
【請求項43】
CD38の発現を特徴とする疾患を治療するための方法であって、前記疾患を有する対象に請求項1~41のいずれか1項に記載の結合化合物もしくは重鎖抗体、または請求項42に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項44】
前記疾患が、CD38の加水分解酵素酵素活性によって特徴付けられる、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記疾患が、大腸炎である、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記疾患が、多発性骨髄腫(MM)である、請求項43に記載の方法。
【請求項47】
前記疾患が、自己免疫疾患である、請求項43に記載の方法。
【請求項48】
前記疾患が、関節リウマチ(RA)である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記疾患が、尋常性天疱瘡(PV)である、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
前記疾患が、全身性エリテマトーデス(SLE)である、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
前記疾患が、多発性硬化症(MS)、全身性強皮症または線維症である、請求項47に記載の方法。
【請求項52】
前記疾患が、虚血性損傷である、請求項43に記載の方法。
【請求項53】
前記虚血性損傷が、虚血性脳損傷、虚血性心臓損傷、虚血性胃腸損傷、または虚血性腎臓損傷である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
CD38に結合する第2の抗体を前記対象に投与することをさらに含む、請求項43~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
CD38に結合する前記第2の抗体が、イサツキシマブまたはダラツムマブである、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
請求項1~41のいずれか1項に記載の結合化合物または重鎖抗体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項57】
請求項56に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項58】
請求項57に記載のベクターを含む細胞。
【請求項59】
前記結合化合物または前記重鎖抗体の発現を許容する条件下で請求項58に記載の細胞を増殖させることと、前記細胞及び/または前記細胞を増殖させた細胞培養培地から前記結合化合物または前記重鎖抗体を単離することと、を含む、請求項1~41のいずれか1項に記載の結合化合物または重鎖抗体を生産する方法。
【請求項60】
UniRat動物をCD38タンパク質で免疫することと、CD38タンパク質結合重鎖配列を同定することと、を含む、請求項1~41のいずれか1項に記載の結合化合物または重鎖抗体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、本明細書にその開示内容の全容を参照により援用するところの2018年10月26日出願の米国特許仮出願第62/751,520号の出願日に対する優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、CD38に結合するヒト重鎖抗体(例えば、UniAbs(商標))などの結合化合物に関する。本発明の態様は、抗CD38重鎖抗体、CD38上の重複しないエピトープを標的とする、抗CD38重鎖抗体の相乗的組み合わせを含む組み合わせ、CD38上の複数の重複しないエピトープに対して結合特異性を有する多重特異性抗CD38重鎖抗体、ならびにかかる結合化合物を製造する方法、かかる結合化合物を含む医薬組成物を含む組成物、及びそれらの様々な用途に関する。
【背景技術】
【0003】
CD38エクト酵素
CD38エクト酵素は、細胞外コンパートメントの膜の外側にその触媒部位を有する膜タンパク質である。この細胞表面タンパク質は多くの機能を促進し、免疫細胞、内皮細胞、神経組織細胞などの広範な細胞に見られる。
【0004】
CD38は、ADPリボシルシクラーゼ/サイクリックADPリボースヒドロラーゼ1としても知られ、エクト酵素活性を有する1回貫通II型膜貫通タンパク質である。CD38は、NAD(P)を基質として用い、サイクリックADPリボース(cADPR)、ADPリボース(ADPR)、ニコチン酸アデニンジヌクレオチドリン酸(NAADP)、ニコチン酸(NA)、ADPリボース-2’-リン酸(ADPRP)などのいくつかの生成物の形成を触媒する(例えば、H. C. Lee, Mol. Med., 2006, 12: 317-323を参照)。CD38は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を基質として用い、これをニコチンアミドとR5Pに変換することもできる(Liu et al.,“Covalent and noncovalent intermediates of an NAD utilizing enzyme, human CD38.”Chem Biol 15(10):1068-78)。
【0005】
CD38は主として、形質細胞、活性化エフェクターT細胞、抗原提示細胞、肺の平滑筋細胞、多発性骨髄腫(MM)細胞、B細胞リンパ腫、B細胞白血病細胞、T細胞リンパ腫細胞、乳がん細胞、骨髄由来サプレッサー細胞、B調節細胞、及びT調節細胞などの免疫細胞で発現する。免疫細胞上のCD38は、内皮細胞及び他の細胞系統によって発現されるCD31 / PECAM-1と相互作用する。この相互作用は、白血球の増殖、遊走、T細胞の活性化、及び単球由来DCの成熟を促進する。
【0006】
CD38に結合する抗体は、例えば、Deckert et al., Clin. Cancer Res., 2014, 20(17):4574-83及び米国特許第8,153,765号、同第8,263,746号、同第8,362,211号、同第8,926,969号、同第9,187,565号、同第9,193,799号、同第9,249,226;及び同第9,676,869号に記載されている。
【0007】
ヒトCD38に特異的な抗体であるダラツムマブは、多発性骨髄腫の治療用に2015年にヒトでの使用が承認された(Shallis et al.,Cancer Immunol.Immunother.2017,66(6):697-703))。CD38に対する別の抗体であるイサツキシマブ(SAR650984)は、多発性骨髄腫の治療用に臨床試験中である。(例えば、Deckert et al., Clin Cencer Res, 2014, 20(17):4574-83;Martin et al., Blood, 2015, 126:509;Martin et al., Blood, 2017, 129:3294-3303を参照)。これらの抗体は、強力な補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、及び腫瘍細胞の間接アポトーシスを誘導する。イサツキシマブはまた、CD38のシクラーゼ及びヒドロラーゼ酵素活性を遮断し、腫瘍細胞の直接アポトーシスを誘導する。
【0008】
抗体によるタンパク質のアロステリック調節の例は、ヒト成長ホルモン、インテグリン、及びベータグラクトシダーゼである(L.P.Roguin & L.A.Retegui,2003,Scand.J.Immunol.58(4):387-394)。これらの例は、異なるエピトープを標的とする単一の抗体によるリガンド-受容体相互作用の調節を示すものである。単一分子上の2つのエピトープを標的とする二重特異性抗体の一例として、c-METまたは肝細胞増殖因子受容体(HGFR)に対するものがある(DaSilva,J.,Abstract 34:A MET x MET bispecific antibody that induces receptor degradation potently inhibits the growth of MET-addicted tumor xenografts.AACR Annual Meeting 2017;April 1-5,2017;Washington,DC)。
【0009】
重鎖抗体
従来のIgG抗体では、重鎖と軽鎖との会合は、軽鎖定常領域と重鎖のCH1定常ドメインとの間の疎水性相互作用に一部依っている。重鎖のフレームワーク2(FR2)及びフレームワーク4(FR4)領域には、重鎖と軽鎖の間のこの疎水性相互作用にやはり寄与するさらなる残基が存在する。
【0010】
ただし、ラクダ(ラクダ、ヒトコブラクダ、ラマを含むラクダ亜目 )の血清には、H鎖のペアのみで構成される主要なタイプの抗体(重鎖単独抗体、重鎖抗体、またはUniAbs(商標))が含まれていることが知られている。ラクダ科(ヒトコブラクダ(Camelus dromedarius)、フタコブラクダ(Camelus bactrianus)、ラマ(Lama glama)、グアナコ(Lama guanaco)、アルパカ(Lama alpaca)及びビクーニャ(Lama vicugna))のUniAbs(商標)は、1個の可変ドメイン(VHH)、ヒンジ領域、及び2個の定常ドメイン(CH2及びCH3)からなる固有の構造を有しており、2個の定常ドメインは古典的な抗体のCH2及びCH3ドメインと高度な相同性を有している。これらのUniAbs(商標)は、定常領域の第1のドメイン(CH1)を欠いており、これはゲノム中に存在するがmRNAプロセシングの間にスプライスされる。CH1ドメインがないことは、このドメインが軽鎖の定常ドメインの固定位置であることから、UniAbs(商標)に軽鎖がないことを説明する。こうしたUniAbs(商標)は、従来の抗体、またはそのフラグメントに由来する3つのCDRによって抗原結合特異性及び高い親和性を与えるように自然に進化したものである(Muyldermans,2001;J Biotechnol 74:277-302;Revets et al.,2005;Expert Opin Biol Ther 5:111-124)。サメなどの軟骨魚類も、IgNARと呼ばれる異なるタイプの免疫グロブリンを進化させており、これは、軽鎖のポリペプチド鎖を欠き、全体が重鎖で構成されている。IgNAR分子は、分子工学によって操作して単一の重鎖ポリペプチドの可変ドメイン(vNAR)を生成することができる(Nuttall et al.Eur.J.Biochem.270,3543-3554(2003);Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004);Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003))。
【0011】
軽鎖を欠く重鎖単独抗体が抗原に結合する能力は、1960年代に確立されている(Jaton et al.(1968)Biochemistry,7,4185-4195)。軽鎖から物理的に分離された重鎖免疫グロブリンは、四量体抗体と比較して抗原結合活性の80%を維持していた。Sitia et al.(1990) Cell,60,781-790は、再構成後のマウスμ遺伝子からのCH1ドメインを除去することによって、哺乳動物細胞培養中で軽鎖を欠く重鎖単独抗体が産生されることを示している。産生された抗体は、VHの結合特異性及びエフェクター機能を保持していた。
【0012】
免疫によって様々な抗原に対する高い特異性と親和性を有する重鎖抗体を生成することが可能であり(van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46 (1999))、また、VHH部分は、容易に酵母にクローニングして発現させることができる(Frenken, L.G .J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000))。それらの発現、溶解度及び安定性のレベルは、古典的なF(ab)またはFvフラグメントのものより有意に高い(Ghahroudi,M.A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997))。
【0013】
λ(ラムダ)軽(L)鎖遺伝子座及び/またはλ及びκ(カッパ)L鎖遺伝子座が機能的にサイレンシングされたマウス、及びそのようなマウスによって産生される抗体が、米国特許第7,541,513号及び同第8,367,888号に記載されている 。マウス及びラットにおける重鎖単独抗体の組換え産生については、例えば、WO2006008548号、米国特許出願公開第20100122358号;Nguyen et al.,2003,Immunology;109(1),93-101;Bruggemann et al.,Crit.Rev.Immunol.;2006,26(5):377-90;及びZou et al.,2007, J Exp Med;204(13): 3271-3283に報告されている。ジンクフィンガーヌクレアーゼの胚マイクロインジェクションによるノックアウトラットの作製については、Geurts et al.,2009,Science,325(5939):433に記載されている。可溶性の重鎖単独抗体及びそのような抗体を産生する異種重鎖遺伝子座を有するトランスジェニックげっ歯類は、米国特許第8,883,150号及び同第365,655号に記載されている。結合(ターゲティング)ドメインとしてのシングルドメイン抗体を含むCART-T構造が、例えば、Iri-Sofla et al.,2011,Experimental Cell Research 317:2630-2641 and Jamnani et al.,2014,Biochim Biophys Acta,1840:378-386.0et al.,2011,Experimental Cell Research 317:2630-2641及びJamnani et al.,2014,Biochim Biophys Acta,1840:378-386.0に記載されている。
【発明の概要】
【0014】
本発明の態様は、エクト酵素上の第1のエピトープに結合親和性を有する第1のポリペプチドと、エクト酵素上の第2の重複しないエピトープに結合親和性を有する第2のポリペプチドと、を含む二重特異性結合化合物を含む。いくつかの実施形態において、第1のポリペプチドは、第1のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態において、第2のポリペプチドは、第2のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態において、第1及び第2のポリペプチドはそれぞれ、ヒンジ領域の少なくとも一部を含む。いくつかの実施形態において、第1及び第2のポリペプチドはそれぞれ、少なくとも1つのCHドメインを含む。いくつかの実施形態において、CHドメインは、CH2及び/またはCH3及び/またはCH4ドメインを含む。いくつかの実施形態において、CHドメインは、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態において、CHドメインは、CH2ドメイン、CH3ドメイン、及びCH4ドメインを含む。いくつかの実施形態において、CHドメインは、ヒトIgG1のFc領域を含む。いくつかの実施形態において、ヒトIgG1のFc領域は、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域である。いくつかの実施形態では、CHドメインは、ヒトIgG4のFc領域を含む。いくつかの実施形態において、ヒトIgG4のFc領域は、サイレンシングされたヒトIgG4のFc領域である。いくつかの実施形態では、CHドメインは、CH1ドメインを含まない。いくつかの実施形態において、非対称的界面が、第1と第2のポリペプチドとのCH2及び/またはCH3及び/またはCH4ドメインの間に存在する。
【0015】
いくつかの実施形態において、第1のポリペプチドは、第1のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第1の抗原結合ドメインと、第2のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第2の抗原結合ドメインとを含む。いくつかの実施形態において、第2のポリペプチドは、第1のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第1の抗原結合ドメインと、第2のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第2の抗原結合ドメインとを含む。いくつかの実施形態において、第1と第2の抗原結合ドメインとは、ポリペプチドリンカーによって連結される。いくつかの実施形態において、ポリペプチドリンカーは、配列番号45のアミノ酸配列からなる。
【0016】
いくつかの実施形態において、二重特異性結合化合物は、それぞれが、第1のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む第1及び第2の重鎖ポリペプチドと、それぞれが、第2のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む第1及び第2の軽鎖ポリペプチドと、を含む。いくつかの実施形態において、第1及び第2の軽鎖ポリペプチドはそれぞれ、CLドメインを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、エクト酵素はCD38である。
【0018】
本発明の態様は、CD38に結合する重鎖抗体であって、(i)配列番号1~5のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR1配列、及び/または(ii)配列番号6~12のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR2配列、及び/または(iii)配列番号13~17のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR3配列を含む抗原結合ドメインを含む、重鎖抗体を含む。いくつかの実施形態において、CDR1、CDR2、及びCDR3配列は、ヒトフレームワーク内に存在する。いくつかの実施形態において、重鎖抗体は、CH1配列を含まない重鎖定常領域配列をさらに含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、重鎖抗体は、配列番号18~28の配列のいずれかに対して少なくとも95%の配列同一性を有する可変領域を含む。いくつかの実施形態において、重鎖抗体は、配列番号18~28からなる群から選択される可変領域配列を含む。いくつかの実施形態において、重鎖抗体は、単一特異性である。いくつかの実施形態において、重鎖抗体は、多重特異性である。いくつかの実施形態において、重鎖抗体は、二重特異性である。いくつかの実施形態において、重鎖単独抗体は、同じCD38タンパク質上の2つの異なるエピトープに結合親和性を有する。いくつかの実施形態において、2つの異なるエピトープは、重複しないエピトープである。いくつかの実施形態において、重鎖抗体は、エフェクター細胞に結合親和性を有する。いくつかの実施形態において、重鎖抗体は、T細胞抗原に結合親和性を有する。いくつかの実施形態において、重鎖抗体は、CD3に結合親和性を有する。いくつかの実施形態において、重鎖抗体は、CAR-Tフォーマットである。
【0020】
本発明の態様には、本明細書に記載される結合化合物または重鎖抗体を含む医薬組成物が含まれる。
【0021】
本発明の態様には、本明細書に記載される結合化合物または重鎖抗体と、CD38に結合する第2の抗体とを含む治療的組み合わせが含まれる。いくつかの実施形態において、CD38に結合する第2の抗体は、イサツキシマブまたはダラツミマブである。
【0022】
本発明の態様は、CD38の発現を特徴とする疾患を治療するための方法であって、前記疾患を有する対象に本明細書に記載される結合化合物もしくは重鎖抗体、医薬組成物、及び/または治療的組み合わせを投与することを含む方法を含む。いくつかの実施形態において、疾患は、CD38の加水分解酵素の酵素活性によって特徴付けられる。いくつかの実施形態において、疾患は、大腸炎である。いくつかの実施形態において、疾患は、多発性骨髄腫(MM)である。いくつかの実施形態において、疾患は、自己免疫疾患である。いくつかの実施形態において、疾患は、関節リウマチ(RA)である。いくつかの実施形態において、疾患は、尋常性天疱瘡(PV)である。いくつかの実施形態において、疾患は、全身性エリテマトーデス(SLE)である。いくつかの実施形態において、疾患は、多発性硬化症(MS)、全身性強皮症または線維症である。いくつかの実施形態において、疾患は、虚血性損傷である。いくつかの実施形態において、虚血性損傷は、虚血性脳損傷、虚血性心臓損傷、虚血性胃腸損傷、または虚血性腎臓損傷である。いくつかの実施形態において、方法は、CD38に結合する第2の抗体を対象に投与することをさらに含む。いくつかの実施形態において、CD38に結合する第2の抗体は、イサツキシマブまたはダラツミマブである。
【0023】
これらの態様及びさらなる態様は、実施例を含む、本開示の残りの部分でさらに説明される。
【0024】
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】パネルA~Eは、F11ファミリーの各抗CD38結合化合物について、CDR配列、可変領域配列、V遺伝子及びJ遺伝子情報、CD38加水分解酵素活性阻害率(%)、ならびに細胞結合のMFIデータを提供する。
図2】パネルA~Dは、F12ファミリーの各抗CD38結合化合物について、CDR配列、可変領域配列、V遺伝子及びJ遺伝子情報、CD38加水分解酵素活性阻害率(%)、ならびに細胞結合のMFIデータを提供する。
図3】パネルA~Bは、F13ファミリーの各抗CD38結合化合物について、CDR配列、可変領域配列、V遺伝子及びJ遺伝子情報、CD38加水分解酵素活性阻害率(%)、ならびに細胞結合のMFIデータを提供する。
図4】本出願におけるさらなるアミノ酸配列の配列情報を示す。
図5】本出願におけるさらなるアミノ酸配列の配列情報を示す。
図6】示された結合化合物の濃度の関数としての細胞結合データを示すグラフを示す。
図7】示された結合化合物の濃度の関数としての細胞ベースの加水分解酵素活性を示すグラフを示す。
図8】二価のUniAb(商標)によるCD38の加水分解酵素活性の酵素阻害を示すグラフを示す。
図9】UniAb(商標)のCD38_F13AまたはCD38_F13Bのいずれかとイサツキシマブとの混合物によるCD38の加水分解活性の酵素阻害を示すグラフを示す。
図10】本発明の実施形態による結合化合物により誘導されたDaudi細胞の直接的細胞毒性を示すグラフを示す。
図11】本発明の実施形態による2種類の二価(パネルC及びD)及び2種類の四価(パネルA及びB)UniAb(商標)のフォーマットの模式図を示す。
図12】CHO細胞上で発現させたヒトCD38の加水分解酵素活性の、図11に示される四価のUniAb(商標)による酵素阻害を示すグラフを示す。
図13】各UniAbとイサツキシマブとの混合物の阻害を示すグラフを示す。
図14】各UniAbの混合物によるCD38の加水分解酵素活性の阻害を示すグラフを示す。
図15】各UniAbの混合物によるCD38の加水分解酵素活性の阻害を示す別のグラフを示す。
図16図11に示されるような本発明の実施形態による2種類の四価の二重特異性結合化合物に対する細胞ベースの加水分解酵素活性を示すグラフを示す。
図17】本発明の実施形態による異なる結合化合物について細胞ベースの加水分解酵素活性を示すグラフを示す。
図18】本発明の実施形態による結合化合物の異なる活性を要約した表形式のデータを示す。
図19】パネルA及びBは、それぞれ、Daudi細胞及びRamos細胞について結合化合物の関数としての細胞内NAD +濃度を示すグラフを示す。
図20】パネルA~Cは、T細胞増殖アッセイ及びIFNγ産生アッセイの結果を示すグラフを示す。
図21】本発明の実施形態による異なる結合化合物について結合化合物の濃度の関数としてのCD38シクラーゼ活性を示すグラフを示す。
図22】結合化合物の濃度の関数として3種類の異なる細胞株におけるオンターゲットの細胞結合活性を示すグラフを示す。
図23】結合化合物の濃度の関数として4種類の異なる細胞株におけるオフターゲットの細胞結合活性を示すグラフを示す。
図24】パネルA及びBは、それぞれ、Daudi細胞株及びRamos細胞株について結合化合物の関数としての細胞細胞生存率(%)を示すグラフを示す。パネルCは、表形式でデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施に当たっては、特に断らない限り、当該技術分野の技能の範囲内にある分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来の技術を用いる。かかる技術は、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,second edition(Sambrook et al.,1989)、“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait,ed.,1984)、“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney,ed.,1987)、“Methods in Enzymology”(Academic Press,Inc.)、“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubel et al.,eds.,1987,and periodic updates)、“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullis et al.,ed.,1994)、“A Practical Guide to Molecular Cloning”(Perbal Bernard V.,1988)、“Phage Display:A Laboratory Manual”(Barbas et al.,2001)、Harlow,Lane and Harlow,Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol No.I,Cold Spring Harbor Laboratory(1998)、及びHarlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory;(1988)などの文献に完全に説明されている。
【0027】
ある値の範囲が与えられる場合、文脈上、そうでない旨が明らかに示されないかぎり、下限値の単位の1/10までの値、その範囲の上限値と下限値との間のそれぞれの間の値、及びその記載された範囲内の他のすべての記載された値または間の値は、本発明に包含される点を理解されたい。これらのより狭い範囲の上限値及び下限値は、そのより狭い範囲に独立して含まれてよく、記載される範囲内のすべての具体的に除外された範囲を除き、本発明にやはり包含される。記載される範囲が一方または両方の限界値を含む場合、これらの含まれる限界値の一方または両方を除外した範囲もまた、本発明に含まれる。
【0028】
特に明記しない限り、抗体残基は、カバット(Kabat)の番号付けシステムに従って番号付けされる(例えば、Kabat et al.,Sequences of immunological interest,5th Ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991))。
【0029】
以下の説明では、本発明のより完全な理解を与えるために、多くの具体的な詳細を記載する。しかしながら、本発明がこれらの具体的な詳細の1つ以上を欠いても実施され得る点は、当業者には明らかであろう。他の例では、本発明を曖昧にすることを回避するため、当業者には周知の特徴及び手順は記載していない。
【0030】
特許出願及び公報を含む、本開示の全体を通じて引用されるすべての参考文献をその全容にわたって参照により本明細書に援用するものである。
【0031】
I.定義
「~を含む」とは、記載された要素が組成物/方法/キットにおいて必要であるが、特許請求の範囲内において他の要素が組成物/方法/キットなどを形成するために含まれてもよいことを意味する。
【0032】
「~から本質的になる 」とは、記載される組成物または方法の範囲の、本発明の基本的かつ新規な特徴(複数可)に実質的に影響しない特定された材料または工程への限定を意味する。
【0033】
「~からなる」とは、特許請求の範囲において特定されていない要素、工程、または成分の、組成物、方法、またはキットからの除外を意味する。
【0034】
本明細書で互換可能に使用される「結合化合物」及び「結合組成物」なる用語は、1つ以上の結合標的に結合親和性を有する分子実体を指す。本発明の実施形態による結合化合物としては、これらに限定されるものではないが、抗体、抗体の抗原結合ドメイン、抗体の抗原結合フラグメント、抗体様分子、重鎖抗体(例えば、UniAb(商標))、リガンド、受容体が挙げられる。
【0035】
本明細書における「抗体」なる用語は広義の意味で使用され、具体的には、所望の生物学的活性を示す限りにおいて、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単量体、二量体、多量体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、重鎖単独抗体、三本鎖抗体、単鎖Fv(scFv)、ナノボディなどを含み、抗体フラグメントを含む(Miller et al.(2003)Jour.of Immunology 170:4854-4861)。抗体は、マウス、ヒト、ヒト化、キメラ、または他の種に由来するものであってよい。
【0036】
抗体なる用語は、完全長の重鎖、完全長の軽鎖、インタクトな免疫グロブリン分子、またはこれらのポリペプチドのいずれかの免疫学的活性部分、すなわち、対象とする標的の抗原またはその部分と免疫特異的に結合する抗原結合部位を含むポリペプチドのことを指し、かかる標的には、これらに限定されるものではないが、がん細胞または自己免疫疾患に関連する自己免疫抗体を産生する細胞が含まれる。本明細書に開示される免疫グロブリンは、免疫グロブリン分子のいずれのタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、及びIgA)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)、または、低下もしくは上昇したエフェクター細胞活性を与える改変されたFc部分を有する操作されたサブクラスを含むサブクラスのものであってもよい。対象とする抗体の軽鎖は、カッパ軽鎖(Vκ)またはラムダ軽鎖(Vλ)とすることができる。免疫グロブリンはいずれの種に由来するものであってもよい。一態様において、免疫グロブリンは、大部分がヒト由来のものである。
【0037】
本明細書における抗体残基は、Kabat番号付けシステム及びEU番号付けシステムに従って番号付けされている。Kabat番号付けシステムは、一般的に可変ドメイン内の残基(概ね、重鎖の1~113番目の残基)を指す場合に用いられる(例えば、Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。「EU番号付けシステム」または「EUインデックス」は、一般的に免疫グロブリン重鎖定常領域内の残基を指す場合に用いられる(例えば、Kabat et al.(前出)に報告されているEUインデックス)。「Kabatと同様のEU指標」とは、ヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを指す。本明細書では特に断らない限り、抗体の可変ドメイン内の残基番号の指定は、Kabat番号付けシステムによる残基の番号付けを意味する。本明細書で特に断らない限り、抗体の定常ドメイン内の残基番号の指定は、EU番号付けシステムによる残基の番号付けを意味する。
【0038】
本明細書で使用するところの「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指す(すなわち、集団を構成する個々の抗体は、わずかな量で存在しうる可能な自然発生変異を除いて同じである)。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位を標的としている。さらに、異なる決定基(エピトープ)を標的とする異なる抗体を通常含む通常のポリクローナル抗体調製物と異なり、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を標的とする。例えば、本発明によるモノクローナル抗体は、最初にKohler et al.,Nature 256:495(1975)によって記載されたハイブリドーマ法によって作製するか、または、例えば組換えタンパク質産生法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)によって作製することもできる。
【0039】
抗体との関連で用いられる「可変」なる用語は、抗体の可変ドメインの特定の部分はその配列が抗体間で大きく異なり、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合及び特異性に与っていることを指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体にわたって均等に分布していない。可変性は、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインのいずれにおいても超可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、主としてβシートの形態をとる4つのFRを含み、これらのFRは、βシート構造を接続し、場合によりその一部を形成するループを形成する3つの超可変領域によって連結されている。各鎖の超可変領域同士はFRによって互いに近接して保持されており、他の鎖の超可変領域とともに抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)を参照)。定常ドメインは抗体の抗原との結合に直接関与していないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)への抗体の関与などの様々なエフェクター機能を示す。
【0040】
本明細書で使用する場合、「超可変領域」なる用語は、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」すなわち「CDR」由来のアミノ酸残基(例えば、重鎖可変ドメインの残基31~35(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3);Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service, National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))、及び/または重鎖可変ドメインの「超可変ループ」の残基26~32(H1)、53~55 (H2)及び96~101(H3)由来の残基(Chothia and Lesk J.Mol.Biol.196:901-917(1987))を含む。「フレームワーク領域」すなわち「FR」残基は、本明細書に定義される超可変領域の残基以外の可変ドメイン残基である。
【0041】
例示的なCDRの指定が本明細書に示されているが、当業者には、配列のばらつきに基づく、最も広く用いられているKabatの定義を含むCDRの多くの定義が広く用いられている点は理解されよう(“Zhao et al.A germline knowledge based computational approach for determining antibody complementarity determining regions.”Mol Immunol.2010;47:694-700)。Chothiaの定義は、構造的なループ領域の位置に基づいたものである(Chothia et al.“Conformations of immunoglobulin hypervariable regions.”Nature.1989;342:877-883)。対象とする代替的なCDR定義としては、これらに限定されるものではないが、本明細書に援用によってそれぞれを詳細に援用する、Honegger,“Yet another numbering scheme for immunoglobulin variable domains:an automatic modeling and analysis tool.” J Mol Biol.2001;309:657-670;Ofran et al.“Automated identification of complementarity determining regions(CDRs) reveals peculiar characteristics of CDRs and B cell epitopes.”J Immunol.2008;181:6230-6235;Almagro“Identification of differences in the specificity-determining residues of antibodies that recognize antigens of different size:implications for the rational design of antibody repertoires.” J Mol Recognit.2004;17:132-143;及びPadlan et al.“Identification of specificity-determining residues in antibodies.” Faseb J.1995;9:133-139.により開示されるものが挙げられる。
【0042】
「重鎖単独抗体」及び「重鎖抗体」なる用語は本明細書では互換可能に使用され、最も広い意味で従来の抗体の軽鎖を欠いた抗体を指す。これらの用語には、具体的には、これらに限定されるものではないが、CH1ドメインを含まず、VH抗原結合ドメインとCH2及びCH3定常ドメインと含むホモ二量体抗体;かかる抗体の機能性(抗原結合)変異体、可溶性VH変異体、1個の可変ドメイン(V-NAR)と5個のC様定常ドメイン(C-NAR)のホモ二量体を含むIg-NAR及びその機能性フラグメント;及び可溶性シングルドメイン抗体(sUniDabs(商標))が含まれる。一実施形態において、重鎖単独抗体は、フレームワーク1、CDR1、フレームワーク2、CDR2、フレームワーク3、CDR3、及びフレームワーク4からなる可変領域の抗原結合ドメインで構成される。別の実施形態において、重鎖単独抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、ならびにCH2及びCH3ドメインで構成され、CH1ドメインを欠く。別の実施形態において、重鎖単独抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、及びCH2ドメインで構成される。さらなる実施形態において、重鎖単独抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、及びCH3ドメインで構成される。CH2及び/またはCH3ドメインが切り詰められた重鎖単独抗体も本明細書に含まれる。さらなる実施形態において、重鎖は、抗原結合ドメインと、少なくとも1つのCH(CH1、CH2、CH3、またはCH4)ドメインとで構成されるが、ヒンジ領域は含まない。さらなる実施形態において、重鎖は、抗原結合ドメイン、少なくとも1つのCH(CH1、CH2、CH3、またはCH4)ドメイン、及びヒンジ領域の少なくとも一部で構成される。重鎖単独抗体は、2つの重鎖がジスルフィド結合しているか、そうでなければ、共有結合または非共有結合で互いに結合している二量体の形をとることができる。重鎖単独抗体はIgGサブクラスに属するものでよいが、IgM、IgA、IgD、IgEサブクラスなどの他のサブクラスに属する抗体も本明細書に含まれる。特定の実施形態において、重鎖抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ、特にIgG1、またはIgG4サブタイプのものである。一実施形態において、重鎖抗体は、IgG4サブタイプのものであり、1つ以上のCHドメインが、抗体のエフェクター機能を変化させるように改変されたものである。一実施形態において、重鎖抗体は、IgG1サブタイプのものであり、1つ以上のCHドメインが、抗体のエフェクター機能を変化させるように改変されたものである。エフェクター機能を変化させるCHドメインの改変については、本明細書でさらに説明する。重鎖抗体の非限定的な例が、例えば、本明細書に参照によりその全容を援用するところのWO2018/039180に記載されている。
【0043】
一実施形態において、本明細書の重鎖単独抗体は、キメラ抗原受容体(CAR)の結合(ターゲティング)ドメインとして用いられる。この定義には、UniAbs(商標)と呼ばれるヒト免疫グロブリントランスジェニックラット(UniRat(商標))によって産生されるヒト重鎖単独抗体が具体的に含まれる。UniAbs(商標)の可変領域(VH)はUniDabs(商標)と呼ばれ、多重特異性、高い効力及び長い半減期を有する新規治療薬を開発するため、Fc領域または血清アルブミンと結合させることができる汎用性の高い構成単位である。ホモ二量体のUniAbs(商標)は、軽鎖、したがってVLドメインを欠いているため、抗原は、単一のドメイン、すなわち重鎖抗体(VH)の重鎖の可変ドメイン(抗原結合ドメイン)によって認識される。
【0044】
本明細書で使用するところの「インタクトな抗体鎖」とは、完全長の可変領域と完全長の定常領域(Fc)とを含むものである。インタクトな「従来の」抗体とは、インタクトな軽鎖及びインタクトな重鎖、ならびに分泌型IgGの軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメイン、CH1、ヒンジ、CH2及びCH3を含む。IgMまたはIgAなどの他のアイソタイプは、異なるCHドメインを有し得る。定常ドメインは、天然配列の定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列の定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列変異体であってよい。インタクトな抗体は、1つ以上の「エフェクター機能」を有することができるが、エフェクター機能とは、抗体のFc定常領域(天然配列のFc領域またはアミノ酸配列変異体Fc領域)に起因し得る生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合、補体依存性細胞傷害作用、Fc受容体結合、抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用(ADCC)、食作用、及び細胞表面受容体の発現低下が挙げられる。定常領域変異体には、エフェクタープロファイル、Fc受容体への結合などを変化させるものが含まれる。
【0045】
抗体及び様々な抗原結合タンパク質は、それらの重鎖のFc(定常ドメイン)のアミノ酸配列に応じて、異なるクラスとして与えることができる。重鎖Fc領域には、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの5つの主要な抗体クラスが存在し、そのうちのいくつかは、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2のようなサブクラス(アイソタイプ)にさらに分類することができる。抗体の異なるクラスに対応するFc定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる場合がある。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元配置は周知のものである。Igの形態としては、ヒンジ改変またはヒンジなしの形態が含まれる(Roux et al (1998) J.Immunol.161:4083-4090;Lund et al(2000)Eur.J.Biochem.267:7246-7256;US2005/0048572;US2004/0229310)。あらゆる脊椎動物種由来の抗体の軽鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプの一方に分類することができる。本発明の実施形態による抗体は、カッパ軽鎖配列またはラムダ軽鎖配列を含むことができる。
【0046】
「機能的Fc領域」は、天然配列Fc領域の「エフェクター機能」を保有する。エフェクター機能の非限定的な例としては、C1q結合、CDC、Fc受容体結合、ADCC、ADCP、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)などの発現低下などが挙げられる。こうしたエフェクター機能は、一般的に、Fc領域が、例えば、FcγRI、FCγRIIA、FcγRIIB1、FCγRIIB2、FCγRIIIA、FCγRIIIB受容体などの受容体、及び低親和性のFcRn受容体と相互作用することを必要とし、当該技術分野では周知の様々なアッセイを用いて評価することができる。「デッド」または「サイレンス」Fcとは、例えば、血清半減期の延長に関して活性を維持するように変異されているが、高親和性Fc受容体を活性化しないか、またはFc受容体に対する親和性が低下しているものである。
【0047】
「天然配列Fc領域」は、天然で見出されるFc領域のアミノ酸配列と同じアミノ酸配列を含む。天然配列ヒトFc領域としては、例えば、天然配列ヒトIgG1 Fc領域(非A及びAアロタイプ)、天然配列ヒトIgG2 Fc領域、天然配列ヒトIgG3 Fc領域、及び天然配列ヒトIgG4 Fc領域、ならびにそれらの天然に存在する変異型が含まれる。
【0048】
「変異型Fc領域」は、天然配列Fc領域のアミノ酸配列と、少なくとも1つのアミノ酸の改変、好ましくは1つ以上のアミノ酸の置換(複数可)において異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、変異型Fc領域は、天然配列Fc領域または親ポリペプチドのFc領域と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば、天然配列Fc領域中または親ポリペプチドのFc領域中に約1~約10個のアミノ酸置換、好ましくは約1~約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書における変異型Fc領域は、好ましくは、天然配列Fc領域及び/または親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の相同性、最も好ましくは、それらと少なくとも約90%の相同性、より好ましくは、それらと少なくとも約95%の相同性を有する。
【0049】
変異型Fc配列は、EUインデックスの234位、235位、及び237位において、FcγRI結合を減少させるCH2領域内の3個のアミノ酸置換を有することができる(Duncan et al.,(1988)Nature 332:563を参照)。EUインデックスの330位及び331位の補体C1q結合部位内の2個のアミノ酸置換は補体結合を減少させる(Tao et al., J.Exp.Med. 178:661(1993)及びCanfield and Morrison, J.Exp.Med.173:1483(1991)を参照)。233~236位のヒトIgG1またはIgG2残基への置換、ならびに327位、330位、及び331位のIgG4残基への置換は、ADCC及びCDCを大幅に減少させる(例えば、Armour KL.et al.,1999 Eur J Immunol.29(8):2613-24;及びShields RL.et al.,2001.J Biol Chem.276(9):6591-604)。ヒトIgG1のアミノ酸配列(UniProtKB番号P01857)は、本明細書では配列番号43として示される。ヒトIgG4のアミノ酸配列(UniProtKB番号P01861)は、本明細書では配列番号44として示される。サイレンスIgG1は、例えば、本明細書に参照によりその開示内容の全体を援用するところのBoesch,A.W.,et al.,“Highly parallel characterization of IgG Fc binding interactions.” MAbs,2014.6(4):p.915-27に記載されている。
【0050】
これらに限定されるものではないが、ジスルフィド結合を形成することができる領域が欠失されているもの、または天然FcのN末端の特定のアミノ酸残基が除去されているもの、またはメチオニン残基が付加されているものを含む、他のFc変異体も可能である。したがって、いくつかの実施形態において、結合化合物の1つ以上のFc部分は、ヒンジ領域にジスルフィド結合を除去するための1つ以上の変異を含むことができる。さらに別の実施形態において、Fcのヒンジ領域を完全に除去することができる。さらに別の実施形態において、結合化合物は、Fc変異体を含むことができる。
【0051】
さらに、Fc変異体は、補体結合またはFc受容体結合を引き起こすためのアミノ酸残基を置換(変異)、欠失、または付加することによってエフェクター機能を除去または大幅に低減させるように構築することもできる。例えば、限定するものではないが、欠失は、C1q結合部位などの補体結合部位で行うことができる。免疫グロブリンFcフラグメントのそのような配列誘導体を調製するための技術が、国際特許公開第WO97/34631号及び同第WO96/32478号に開示されている。さらに、Fcドメインは、リン酸化、硫酸化、アシル化、グリコシル化、メチル化、ファルネシル化、アセチル化、アミド化などによって修飾することができる。
【0052】
Fcは、天然の糖鎖、天然型と比較して増加した糖鎖、もしくは天然型と比較して減少した糖鎖を有する形態であってよく、または非グリコシル化または脱グリコシル化型であってよい。糖鎖の増加、減少、除去または他の改変は、化学的方法、酵素的方法などの当該技術分野では一般的な方法によって、または遺伝子操作された酸性細胞株で糖鎖を発現させることによって実現することができる。そのような細胞株は、グリコシル化酵素を天然に発現する微生物(例えば、ピキア・パストリス)及び哺乳動物細胞株(例えば、CHO細胞)を含み得る。さらに、微生物または細胞は、グリコシル化酵素を発現するように操作することができ、またはグリコシル化酵素を発現できないようにすることができる(例えば、Hamilton,et al.,Science,313:1441(2006);Kanda,et al,J.Biotechnology,130:300(2007);Kitagawa,et al.,J.Biol.Chem.,269(27):17872(1994);Ujita-Lee et al.,J.Biol.Chem.,264(23):13848(1989);Imai-Nishiya,et al,BMC Biotechnology 7:84(2007);及びWO07/055916を参照されたい)。シアル化活性を変化させるように操作された細胞の一例として、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ1遺伝子がチャイニーズハムスター卵巣細胞及びsf9細胞に遺伝子操作によって導入されている。したがって、これらの操作された細胞によって発現される抗体は、外因性の遺伝子産物によってシアル化される。複数の天然分子と比較して改変された量の糖残基を有するFc分子を得るためのさらなる方法は、例えばレクチンアフィニティークロマトグラフィーを使用して、前記複数の分子をグリコシル化画分と非グリコシル化画分とに分離することを含む(例えば、WO07/117505を参照されたい)。特定のグリコシル化部分の存在は、免疫グロブリンの機能を変化させることが示されている。例えば、Fc分子から糖鎖を除去すると、第1の補体成分C1のC1q部分への結合親和性が急激に低下するとともに抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)または補体依存性細胞傷害作用(CDC)が減少または喪失し、それによりインビボで不要な免疫応答を誘発することがない。さらなる重要な改変としては、シアル化及びフコシル化が挙げられ、IgG中のシアル酸の存在が抗炎症活性との相関が示されている(例えば、Kaneko,et al,Science 313:760(2006)を参照)のに対して、IgGからのフコースの除去はADCC活性の増大につながる(例えば、Shoj-Hosaka,et al,J.Biochem.,140:777(2006)を参照)。
【0053】
代替的な実施形態では、本発明の結合化合物は、例えばFcγRIIIAへの結合能力が増大し、また、ADCC活性が増大することによって、エフェクター機能が増大したFc配列を有することができる。例えば、N結合型グリカンにFcのAsn-297で結合したフコースは、FcとFcγRIIIAとの相互作用を立体的に阻害し、糖鎖工学によってフコースを除去するとFcγRIIIAへの結合が増大し、これにより、野生型IgG1コントロールと比較してADCCが50倍以上高くなる。タンパク質工学により、IgG1のFc部分におけるアミノ酸変異によって、FcγRIIIAへのFc結合の親和性を増大させる複数の変異体が作製されている。注目すべき点として、三重アラニン変異体S298A/E333A/K334Aは、FcγRIIIAへの結合性の2倍の増加及びADCC機能を示す。S239D/I332E(2X)及びS239D/I332E/A330L(3X)変異体は、FcγRIIIAへの結合親和性が有意に増大し、インビトロ及びインビボでのADCC能力が有意に増強されている。酵母ディスプレイによって同定された他のFc変異体もマウス異種移植モデルにおいてFcγRIIIAへの結合を向上させ、腫瘍細胞殺滅の増大を示した。例えば、本明細書に参照により具体的に援用するLiu et al.(2014)JBC 289(6):3571-90を参照されたい。
【0054】
「Fc領域含有抗体」なる用語は、Fc領域を含む抗体を指す。Fc領域のC末端リシン(EU番号付けシステムによる残基447)は、例えば、抗体の精製時に、または抗体をコードする核酸の組換え操作にって除去することができる。したがって、本発明によるFc領域を有する抗体は、K447を有する、または有さない抗体を含むことができる。
【0055】
一本鎖抗体を含む、非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含んだキメラ抗体(一本鎖抗体を含む)である。例えば、Jones et al,(1986)Nature 321:522-525;Chothia et al(1989)Nature 342:877;Riechmann et al(1992)J.Mol.Biol.224,487-499;Foote and Winter,(1992)J.Mol.Biol.224:487-499;Presta et al(1993)J.Immunol.151,2623-2632;Werther et al(1996)J.Immunol.Methods 157:4986-4995;及びPresta et al(2001)Thromb.Haemost.85:379-389を参照されたい。さらなる詳細については、米国特許第5,225,539号、同第6,548,640号、同第6,982,321号、同第5,585,089号、同第5,693,761号、同第6,407,213号、Jones et al(1986)Nature,321:522-525;及びRiechmann et al(1988)Nature 332:323-329を参照されたい。Methods 157:4986-4995、及びPresta et al(2001)Thromb.Haemost.85:379-389。さらなる詳細については、米国特許第5,059,059号を参照されたい。米国特許第5,225,539号、同第6,548,640号、同第6,982,321号、同第5,585,089号、同第5,693,761号、同第6,407,213号、Jones et al(1986)Nature、321:522-525;およびRiechmannet al(1988)Nature 332:323-329を参照されたい。
【0056】
本発明の態様は、これらに限定されるものではないが、二重特異性、三重特異性などを含む多重特異性形態を有する結合化合物を含む。二重特異性モノクローナル抗体(BsMAB)、三重特異性抗体などでは多岐にわたる方法及びタンパク質形態が知られ、使用されている。
【0057】
本発明の態様は、一価または二価形態の重鎖のみの可変領域を含む抗体を含む。本明細書で使用するところの、重鎖単独の可変領域ドメインに関して使用される「一価形態」なる用語は、単一の結合部位を有する、1個のみの重鎖単独の可変領域ドメインが存在することを意味する(例えば、図11、パネルD、図示された分子の右側を参照)。本明細書で使用するところの、重鎖単独の可変領域ドメインに関して使用される「二価形態」なる用語は、2個の重鎖単独の可変領域ドメインが存在し、リンカー配列によって連結されていることを意味する(例えば、図11、パネルB、図示された分子の両側を参照)。リンカー配列の非限定的な例については本明細書でさらに検討するが、これらに限定されるものではないが、様々な長さのGSリンカー配列を含む。重鎖単独の可変領域が二価構成である場合、2つの重鎖のみの可変領域ドメインのそれぞれは、同じ抗原または異なる抗原(例えば、同じタンパク質上の異なるエピトープに対して、2つの異なるタンパク質に対して、など)に結合特異性を有することができる。しかしながら、特に断らない限り、「二価形態」として示される重鎖単独の可変領域は、リンカー配列によって連結された2個の同一の重鎖単独の可変領域ドメインを含むものとして理解され、2個の同一の重鎖単独の可変領域ドメインのそれぞれは同じ標的抗原に結合親和性を有する。
【0058】
多価人工抗体を製造するための様々な方法が、2つ以上の抗体の可変ドメインを組換えにより融合することによって開発されている。いくつかの実施形態において、ポリペプチド上の第1と第2の抗原結合ドメインが、ポリペプチドリンカーによって連結される。かかるポリペプチドリンカーの1つの非限定的な例として、4個のグリシン残基とそれに続く1個のセリン残基からなるアミノ酸配列を有し、その配列がn回繰り返されるGSリンカーがあり、ただし、nは1~約10の範囲の整数、例えば2、3、4、5、6、7、8、または9である。かかるリンカーの非限定的な例としては、GGGGS(配列番号29)(n=1)及びGGGGSGGGGS(配列番号45)(n=2)が挙げられる。他の適当なリンカーも使用することができ、例えば、本明細書に参照によりその開示内容の全体を援用するところのChen et al.,Adv Drug Deliv Rev.2013 October 15;65(10):1357-69に記載されている。
【0059】
「二重特異性三本鎖抗体様分子」または「TCA」なる用語は、本明細書では、3個のポリペプチドサブユニットを含む、本質的になる、またはそれらからなる抗体様分子であって、そのうちの2個がモノクローナル抗体の1本の重鎖及び1本の軽鎖、または抗原結合領域と少なくとも1つのCHドメインとを含むそのような抗体鎖の機能性抗原結合フラグメントを含む、本質的になる、またはそれらからなる抗体様分子を指して用いられる。この重鎖/軽鎖のペアは、第1の抗原に対する結合特異性を有する。いくつかの実施形態において、TCAは、ヒトVHフレームワーク内に、配列番号49のCDR1配列、配列番号50のCDR2配列、及び配列番号51のCDR3配列を含む軽鎖ポリペプチドサブユニットを含む。いくつかの実施形態において、ヒト軽鎖フレームワークは、ヒトカッパ(Vκ)またはヒトラムダ(Vλ)フレームワークである。いくつかの実施形態において、TCAは、配列番号52の配列に対して少なくとも約80%、85%、90%、95%、または99%の同一性を有する配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む軽鎖ポリペプチドサブユニットを含む。いくつかの実施形態において、TCAは、配列番号52の配列を含む軽鎖ポリペプチドサブユニットを含む。いくつかの実施形態において、TCAは、軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖ポリペプチドサブユニットを含む。いくつかの実施形態において、軽鎖定常領域は、ヒトκ軽鎖定常領域またはヒトλ軽鎖定常領域である。いくつかの実施形態において、TCAは、配列番号48の配列に対して少なくとも約80%、85%、90%、95%、または99%の同一性を有する配列を含む完全長の軽鎖を含む軽鎖ポリペプチドサブユニットを含む。いくつかの実施形態において、TCAは、配列番号48の配列を含む軽鎖ポリペプチドサブユニットを含む。第3のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメインを含まず、CH2及び/またはCH3及び/またはCH4ドメインを含むFc部分と、第2の抗原のエピトープまたは第1の抗原の異なるエピトープに結合する抗原結合ドメインであって、抗体重鎖または軽鎖の可変領域に由来するかまたは可変領域と配列同一性を有する抗原結合ドメインと、を含む重鎖単独抗体を含む、本質的になる、またはそれらからなる。かかる可変領域の部分は、V及び/またはV遺伝子セグメント、D及びJ遺伝子セグメント、またはJ遺伝子セグメントによってコードされてもよい。可変領域は、再編成されたVDJ、VDJ、V、またはV遺伝子セグメントによってコードされてもよい。
【0060】
TCA結合化合物は、「重鎖単独抗体」または「重鎖抗体」または「重鎖ポリペプチド」を利用したものであり、これは、本明細書で使用される場合、重鎖定常領域CH2及び/またはCH3及び/またはCH4を含むが、CH1ドメインは含まない一本鎖抗体を意味する。一実施形態において、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、ならびにCH2及びCH3ドメインで構成される。別の実施形態において、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、及びCH2ドメインとで構成される。さらなる実施形態において、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、及びCH3ドメインで構成される。CH2及び/またはCH3ドメインが切り詰められた重鎖抗体も本明細書に含まれる。さらなる実施形態において、重鎖は、抗原結合ドメインと、少なくとも1つのCH(CH1、CH2、CH3、またはCH4)ドメインとで構成されるが、ヒンジ領域は含まない。重鎖単独抗体は、2本の重鎖が互いにジスルフィド結合しているか、他の形で互いに共有結合または非共有結合により結合している二量体の形態であってよく、場合により、2つ以上のCHドメイン間にポリペプチド鎖間の適切な対合を促進する非対称的界面を有することができる。重鎖抗体はIgGサブクラスに属するものでよいが、IgM、IgA、IgD、IgEサブクラスなどの他のサブクラスに属する抗体も本明細書に含まれる。特定の実施形態において、重鎖抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ、特にIgG1サブタイプまたはIgG4サブタイプのものである。TCA結合化合物の非限定的な例は、例えば、本明細書に参照によりその開示内容の全体を援用するところのWO2017/223111及びWO2018/052503に記載されている。
【0061】
重鎖抗体は、ラクダ科動物、例えばラクダ及びラマによって産生されるIgG抗体の約4分の1を構成する(Hamers-Casterman C.,et al.Nature.363,446-448(1993))。これらの抗体は2本の重鎖で形成されるが、軽鎖は含まない。結果として、可変抗原結合部分はVHHドメインと呼ばれ、長さがわずかアミノ酸約120個である、天然に存在する最小のインタクトな抗原結合部位を表す(Desmyter,A.,et al.J.Biol.Chem.276,26285-26290(2001))。免疫によって様々な抗原に対する高い特異性と親和性を有する重鎖抗体を生成することが可能であり(van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46 (1999))、また、VHH部分は、容易に酵母にクローニングして発現させることができる(Frenken, L.G .J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000))。それらの発現、溶解度及び安定性のレベルは、古典的なF(ab)又はFvフラグメントより有意に高い(Ghahroudi,M.A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997))。サメもまた、VNARと呼ばれる、単一のVH様ドメインをそれらの抗体内に有していることが示されている(Nuttall et al. Eur. J.Biochem.270,3543-3554(2003);Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004);Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003))。(Nuttall et al. Eur.J.Biochem.270,3543-3554(2003);Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004);Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003))。
【0062】
本明細書で使用するところの「界面」なる用語は、第2の重鎖定常領域内の1つ以上の「接触」アミノ酸残基(または他の非アミノ酸基)と相互作用する、第1の重鎖定常領域内の「接触」アミノ酸残基(または、例えば、炭水化物基などの他の非アミノ酸基)を含む領域を指して用いられる。
【0063】
「非対称的界面」なる用語は、第1及び第2の重鎖定常領域などの2つのポリペプチド鎖間、及び/または重鎖定常領域とその一致する軽鎖との間に形成される界面(上記で定義したような)を指して用いられ、第1及び第2の鎖内の接触残基は、相補的な接触残基を含み、設計が異なる。非対称的界面は、例えば、ノブ/ホール相互作用及び/または塩橋カップリング(電荷交換)及び/または当該技術分野では周知の他の方法によって形成することができる。
【0064】
「キャビティ」または「ホール」は、第2のポリペプチドの界面から凹んでおり、したがって、第1のポリペプチドの隣接する界面上の対応する特突起(「ノブ」)を収容する少なくとも1つのアミノ酸側鎖のことを指す。キャビティ(ホール)は、元の界面内に存在してもよく、または、合成により(例えば、界面の残基をコードする核酸を改変することによって)導入することができる。通常は、第2のポリペプチドの界面をコードする核酸がキャビティをコードするように改変される。これを実現するには、第2のポリペプチドの界面内の少なくとも1つの「元の」アミノ酸残基をコードする核酸を、元のアミノ酸残基よりも小さい側鎖体積を有する少なくとも1つの「移入」アミノ酸残基をコードするDNAに置き換える。複数の元の残基及び対応する移入残基が存在し得る点は理解されよう。置き換えられる元の残基の数の上限は、第2のポリペプチドの界面内の残基の総数である。キャビティの形成に好ましい移入残基は、通常、天然に存在するアミノ酸残基であり、好ましくはアラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、及びバリン(V)から選択される。最も好ましいアミノ酸残基は、セリン、アラニンまたはスレオニン、最も好ましくはアラニンである。一実施形態では、キャビティを形成するための元の残基は、チロシン、アルギニン、フェニルアラニン、またはトリプトファンなどの大きい側鎖体積を有する。非対称的界面は、例えば、本明細書に参照によりその全容を援用するところのXu et al.,“Production of bispecific antibodies in ‘knobs-into-holes’ using a cell-free expression system”,MAbs.2015,7(1):231-42に詳細に記載されている。
【0065】
本明細書で使用するところの「CD38」なる用語は、ADP-リボシルシクラーゼ/環状ADP-リボースヒドロラーゼ1としても知られる、エクト酵素活性を有する1回膜貫通型II型タンパク質を指す。「CD38」なる用語は、任意のヒトまたは非ヒト動物種のCD38タンパク質を含み、詳細にはヒトCD38及び非ヒト哺乳動物のCD38を含む。
【0066】
本明細書で使用するところの「ヒトCD38」なる用語は、その由来源または調製法に関係なく、ヒトCD38(UniProt P28907)の任意の変異体、アイソフォーム及び種ホモログを含む。したがって、「ヒトCD38」には、細胞により自然に発現されるヒトCD38と、ヒトCD38遺伝子をトランスフェクトした細胞上で発現されるCD38が含まれる。
【0067】
「抗CD38重鎖単独抗体」、「CD38重鎖単独抗体」、「抗CD38重鎖抗体」、及び「CD38重鎖抗体」なる用語は、本明細書では、上記で定義したようなヒトCD38を含むCD38に免疫特異的に結合する、上記で定義した重鎖単独抗体を指して互換可能に使用される。この定義には、これらに限定されるものではないが、上記に定義したようなヒト抗CD38 UniAb(商標)抗体を産生するUniRats(商標)を含む、ヒト免疫グロブリンを発現するトランスジェニックラットまたはトランスジェニックマウスなどのトランスジェニック動物によって産生されるヒト重鎖抗体が含まれる。
【0068】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一率(%)」は、保存的置換を配列同一性の一部として考慮せず、最大の配列同一率(%)が得られるように配列同士を整列させ、必要に応じてギャップを導入した後の参照ポリペプチド配列内のアミノ酸残基と同じである候補配列内のアミノ酸残基の割合(%)として定義される。アミノ酸配列同一率(%)を決定する目的でのアライメントは、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公開されているコンピュータソフトウェアを使用して、当該技術分野の技能の範囲内である種々の方法で実現することができる。当業者であれば、比較される配列の完全長にわたって最大のアライメントを得るために必要とされるあらゆるアルゴリズムを含む、配列同士を整列するために適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、本明細書における目的では、アミノ酸配列同一率(%)の値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成される。
【0069】
「単離された」結合化合物(単離抗体など)とは、その自然環境の成分から識別及び分離され、かつ/または回収された抗体である。その自然環境の混入成分は、結合化合物の診断または治療における使用を妨げる物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性または非タンパク質性溶質が含まれ得る。好ましい実施形態において、結合化合物は、(1)ローリー法により測定した場合に95重量%超の結合化合物、最も好ましくは99重量%超まで、(2)スピニングカップシーケネータ(spinning cup sequenator)を使用してN末端若しくは内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基を得るのに充分な程度にまで、または(3)クーマシーブルー、若しくは好ましくは銀染色を用いて還元若しくは非還元条件下でSDS-PAGEによって均質となるまで、精製される。単離された結合化合物には、その抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイチューの結合化合物が含まれる。しかしながら、通常、単離された結合化合物は、少なくとも1つの精製工程により調製される。
【0070】
本発明の実施形態による結合化合物には、多重特異性結合化合物が含まれる。多重特異性結合化合物は、複数の結合特異性を有する。「多重特異性」なる用語には、具体的には、「二重特異性」及び「三重特異性」、ならびにより高次のポリエピトープ特異性などのより高次の独立した特異的結合親和性、ならびに四価の結合化合物及び結合化合物の抗原結合フラグメント(例えば、抗体及び抗体フラグメント)が含まれる。「多重特異性」結合化合物は、異なる結合物の組み合わせを含む抗体だけでなく、複数の同じ結合物を含む抗体を具体的に含む。「多重特異性抗体」、「多重特異性重鎖単独抗体」、「多重特異性重鎖抗体」、及び「多重特異性UniAb(商標)」なる用語は、本明細書では最も広い意味で用いられ、複数の結合特異性を有するすべての抗体を包含する。本発明の多重特異性重鎖抗CD38抗体は、ヒトCD38などのCD38タンパク質上の2つ以上の重複しないエピトープに免疫特異的に結合する抗体を具体的に含む。
【0071】
「エピトープ」とは、結合化合物の抗原結合領域が結合する、抗原分子の表面上の部位である。一般に、抗原は数個または多数の異なるエピトープを有し、多くの異なる結合化合物(例えば、多くの異なる抗体)と反応する。この用語には具体的には、線形エピトープ及びコンフォメーションエピトープが含まれる。
【0072】
「エピトープマッピング」とは、標的抗原上の抗体の結合部位、すなわちエピトープを特定するプロセスである。抗体エピトープは、線形エピトープまたはコンフォメーションエピトープであってよい。線形エピトープは、タンパク質内のアミノ酸の連続した配列によって形成される。コンフォメーションエピトープは、タンパク質配列内で不連続であるが、タンパク質がその三次元構造に折り畳まれる際に互いに寄せ集められるアミノ酸で形成される。
【0073】
「ポリエピトープ特異性」とは、同じまたは異なる標的(複数可)上の2つ以上の異なるエピトープに特異的に結合する能力を指す。上記のように、本発明は、ポリエピトープ特異性を有する抗CD38重鎖抗体、すなわち、ヒトCD38などのCD38タンパク質上の2つ以上の重複しないエピトープに結合する抗CD38重鎖抗体を具体的に含む。抗原の「重複しないエピトープ(複数可)」または「非競合的エピトープ(複数可)」なる用語は、本明細書では、抗原特異的抗体のペアの一方のメンバーによって認識されるが、他方のメンバーによっては認識されないエピトープ(複数可)を意味するものとして定義される。重複しないエピトープを認識する抗体のペア、または多重特異性抗体上の同じ抗原を標的とする抗原結合領域は、その抗原への結合について競合せず、その抗原に同時に結合することができる。
【0074】
結合化合物と参照抗体が同一または立体的に重複するエピトープを認識する場合、結合化合物は、参照結合化合物(例えば、参照抗体)と「本質的に同じエピトープ」に結合する。2つの抗体が同じまたは立体的に重複するエピトープに結合するかどうかを決定するために最も広く使用されている迅速な方法は競合アッセイであり、標識抗原または標識抗体のいずれかを用いてあらゆる数の異なるフォーマットで構成することができる。通常、抗原は96ウェルプレートに固定化され、標識抗体の結合をブロックする非標識抗体の能力を放射性標識または酵素標識を使用して測定する。
【0075】
結合化合物(例えば、抗体)及び参照結合化合物(例えば、参照抗体)に関して本明細書で使用するところの「競合する」なる用語は、本明細書に記載される競合結合アッセイなどの標準的な方法によって測定した場合に、結合化合物が、標的抗原への参照結合化合物の結合の約15~100%の減少をもたらすことを意味する。
【0076】
本明細書で使用される「競合群」なる用語は、同じ標的抗原(またはエピトープ)に結合し、標的抗原との結合について競合群のメンバーと競合する2つ以上の結合化合物(例えば、第1及び第2の抗体)を指す。同じ競合群のメンバーは、標的抗原との結合について互いに競合するが、必ずしも同じ機能的活性を有するとは限らない。
【0077】
本明細書で使用するところの「価」なる用語は、抗体分子または結合化合物内の特定の数の結合部位を指す。
【0078】
「多価」結合化合物は、2つ以上の結合部位を有する。したがって、「二価」、「三価」、及び「四価」なる用語は、それぞれ、2つの結合部位、3つの結合部位、及び4つの結合部位の存在を指す。したがって、本発明による二重特異性抗体は、少なくとも二価であり、三価、四価、または他の多価であってもよい。多種多様な方法及びタンパク質の形態が知られており、二重特異性モノクローナル抗体(BsMAB)、三重特異性抗体などの調製に使用されている。
【0079】
「キメラ抗原受容体」または「CAR」なる用語は、本明細書において、所望の結合特異性(例えば、モノクローナル抗体または他のリガンドの抗原結合領域)を膜貫通及び細胞内シグナル伝達ドメインと結び付ける操作された受容体を指して最も広い意味で使用される。通常、受容体は、モノクローナル抗体の特異性をT細胞に結び付けてキメラ抗原受容体(CAR)を作製するために使用される。(Dai et al.,J Natl Cancer Inst,2016;108(7):djv439;及びJackson et al.,Nature Reviews Clinical Oncology,2016;13:370-383.).
【0080】
「ヒト抗体」なる用語は、ヒト生殖系列イムノグロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する抗体を含むものとして用いられる。本明細書のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基、例えば、インビトロでのランダムまたは部位特異的突然変異誘発によって、またはインビボでの体細胞突然変異によって導入される変異を有することができる。「ヒト抗体」なる用語は、トランスジェニックラットまたはマウスなどのトランスジェニック動物によって産生される、ヒト重鎖可変領域配列を有する重鎖単独抗体、具体的には、上記で定義したUniRats(商標)によって産生されるUniAbs(商標)を具体的に含む。
【0081】
「キメラ抗体」または「キメラ免疫グロブリン」とは、少なくとも2つの異なるIg遺伝子座からのアミノ酸配列を含む免疫グロブリン分子、例えば、ヒトIg遺伝子座によってコードされる部分とラットIg遺伝子座によってコードされる部分とを含むトランスジェニック抗体を意味する。キメラ抗体には、非ヒトFc領域または人工Fc領域を有するトランスジェニック抗体、及びヒトイディオタイプが含まれる。かかる免疫グロブリンは、かかるキメラ抗体を産生するように操作された本発明の動物から単離することができる。
【0082】
本明細書で使用するところの「エフェクター細胞」なる用語は、免疫反応の認識及び活性化段階ではなく、免疫反応のエフェクター段階に関与する免疫細胞を指す。一部のエフェクター細胞は特定のFc受容体を発現し、特定の免疫機能を行う。いくつかの実施形態において、ナチュラルキラー細胞などのエフェクター細胞は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導することができる。例えば、FcRを発現する単球及びマクロファージは、標的細胞の特異的な死滅及び免疫系の他の構成成分への抗原の提示、または抗原を提示する細胞への結合に関与している。いくつかの実施形態において、エフェクター細胞は、標的抗原または標的細胞を貪食することができる。
【0083】
「ヒトエフェクター細胞」は、T細胞受容体またはFcRなどの受容体を発現し、エフェクター機能を行う白血球である。好ましくは、これらの細胞は少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を行う。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞、及び好中球が挙げられ、NK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、その天然由来源から、例えば、本明細書に記載されるように血液またはPBMCから単離することができる。
【0084】
「免疫細胞」なる用語は本明細書において最も広い意味で使用され、これらに限定されるものではないが、骨髄またはリンパ組織由来の細胞、例えばリンパ球(B細胞及び細胞溶解性T細胞(CTL)を含むT細胞など)、キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好酸球、多形核細胞、例えば好中球、顆粒球、マスト細胞、好塩基球などを含む。
【0085】
抗体の「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列のFc領域またはアミノ酸配列変異型Fc領域)に起因し得る生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合、補体依存性細胞傷害作用、Fc受容体結合、抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用(ADCC)、食作用、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体、BCR)の発現低下などが挙げられる。
【0086】
「抗体依存性細胞媒介細胞傷害」及び「ADCC」とは、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が、標的細胞に結合した抗体を認識し、その後、標的細胞の溶解を引き起こす、細胞介在性反応を指す。ADCCを媒介する主要な細胞であるNK細胞がFcγRIIIのみを発現するのに対し、単球は、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上でのFcR発現は、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol 9:457-92(1991)の464頁の表3に要約されている。対象とする分子のADCC活性を評価するには、例えば米国特許第5,500,362号または同第5,821,337号に記載されるようなインビトロADCCアッセイを行うことができる。かかるアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー細胞(NK)が挙げられる。上記に代えるかまたは加えて、対象とする分子のADCC活性は、インビボで、例えば、Clynes et al.,PNAS (USA) 95:652-656(1998)に開示されるような動物モデルで評価することもできる。
【0087】
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」とは、補体の存在下で標的を溶解させる分子の能力を指す。補体活性化経路は、補体系の第1の成分(C1q)が、同種抗原と複合体化した分子(例えば、抗体)と結合することによって開始される。補体活性化を評価するには、例えば、Gazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods 202:163(1996)に記載されるようなCDCアッセイを行うことができる。
【0088】
「結合親和性」とは、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の残基相互作用を総和した強度のことを指す。特に明記しない限り、本明細書で使用するところの「結合親和性」とは、結合ペア(例えば、抗体と抗原)の要素間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般的に解離定数(Kd)により表すことができる。親和性は、当該技術分野では周知の一般的な方法により測定することができる。低親和性抗体が一般に抗原にゆっくり結合し、速やかに解離する傾向を有するのに対して、高親和性抗体は一般に抗原により速く結合し、結合したままである傾向がある。
【0089】
本明細書で使用するところの「Kd」または「Kd値」とは、Octet QK384機器(Fortebio Inc.,Menlo Park,CA)を動力学モードで使用してバイオレイヤー干渉法によって決定される解離定数を指す。例えば、抗マウスFcセンサーにマウスFc融合抗原をロードしてから抗体が入ったウェルに浸漬することで、濃度依存性の結合速度(kon)が測定される。抗体の解離速度(koff)は、センサーをバッファーのみを含むウェルに浸漬する最終ステップで測定される。Kdは、koff / konの比である。(詳細については、Concepcion, J,et al.,Comb Chem High Throughput Screen,12(8),791-800,2009を参照されたい)。
【0090】
「治療」、「治療する」、及びこれに類する用語は、本明細書では、所望の薬理学的及び/または生理学的作用を得ることを一般的に意味して用いられる。その効果は、疾患またはその症状を完全または部分的に予防する観点から予防的であってもよく、及び/または疾患及び/またはその疾患に起因する副作用の部分的または完全な治癒という観点から治療的であってもよい。本明細書で使用するところの「治療」とは、哺乳動物における疾患のあらゆる治療を包含し、(a)その疾患の素因を有し得るがまだ疾患を有するとは診断されていない対象における発病を予防すること、(b)その疾患を阻止すること、すなわち、その発現を阻止すること、または(c)その疾患を軽減すること、すなわち、その疾患を退行させることを含む。治療薬は、疾患または傷害の発症前、発症中、または発症後に投与することができる。治療が患者の望ましくない臨床症状を安定化または軽減するような進行中の疾患の治療が特に対象となり得る。こうした治療は、罹患組織の機能が完全に喪失する前に行われることが望ましい。対象の治療は、疾患の症候性ステージの間、及び場合により疾患の症候性ステージの後に投与することができる。
【0091】
「治療有効量」とは、対象に治療効果をもたらすうえで必要な活性剤の量を意味する。例えば、「治療有効量」は、疾患に関連する病理学的症状、疾患の進行または生理学的状態の改善を誘発、改善、または他の形でもたらすか、または疾患に対する抵抗性を高める量である。
【0092】
本発明との関連において、「B細胞新生物」または「成熟B細胞新生物」なる用語には、これらに限定されるものではないが、すべてのリンパ性白血病及びリンパ腫、慢性リンパ球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、前リンパ球性白血病、前駆体Bリンパ芽球性白血病、毛細胞白血病、小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性リンパ腫、B細胞慢性リンパ球性白血病、マントル細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、多発性骨髄腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、脾臓辺縁帯リンパ腫、形質細胞骨髄腫などの形質細胞新生物、形質細胞腫、モノクローナル免疫グロブリン沈着症、重鎖疾患、MALTリンパ腫、リンパ節辺縁B細胞リンパ腫、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、毛細胞白血病、原発性滲出液リンパ腫、及びAIDS関連の非ホジキンリンパ腫が含まれる。
【0093】
本明細書で使用するところの「大腸炎」なる用語は、結腸の内層の炎症を特徴とする疾患を広く指す。本明細書で使用するところの「大腸炎」には、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、またはクローン病によって引き起こされる可能性がある自己免疫性大腸炎;便流性大腸炎、化学的大腸炎、化学療法誘発性大腸炎、または例えばPD-1 / PD-L1、CTLA-4、TIGIT、TIM-3、LAG-3、及びその他の免疫チェックポイント阻害剤などの1つ以上の治療薬による治療によって誘発される大腸炎などの治療誘発性大腸炎;虚血性大腸炎などの血管疾患;クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、志賀毒素、または寄生虫感染症(例えば、赤痢アメーバ)によって引き起こされる感染性大腸炎などの感染性大腸炎;原因不明の大腸炎、例えば、顕微鏡的大腸炎、リンパ球性大腸炎、または膠原性大腸炎;または非定型大腸炎(すなわち、臨床的に受け入れられているタイプの大腸炎の基準に適合しない大腸炎)が含まれる。
【0094】
本明細書で使用するところの「虚血性損傷」なる用語は、組織への血流の減少によって引き起こされるあらゆる損傷を指す。虚血性損傷としては、これらに限定されるものではないが、虚血性脳損傷、虚血性心臓損傷、虚血性腎臓損傷、虚血性胃腸(GI)損傷などが挙げられる。
【0095】
「対象」、「個体」、及び「患者」なる用語は、本明細書では、治療についての評価が行われる、及び/または治療が行われる哺乳動物を指して互換的に使用される。一実施形態において、哺乳動物は、ヒトである。「対象」、「個体」、及び「患者」なる用語には、これらに限定されるものではないが、がんを有する個体、及び/または自己免疫疾患を有する個体などが含まれる。対象はヒトであってもよいが、他の哺乳動物、例えば、マウス、ラットなどの、特にヒトの疾患の実験モデルとして有用な哺乳動物も含まれる。
【0096】
「医薬製剤」なる用語は、有効成分の生物学的活性が有効となるような形態であり、製剤が投与される対象にとって許容されない毒性を示すさらなる成分を含まない製剤のことを指す。かかる製剤は、無菌である。「薬学的に許容される」賦形剤(ビヒクル、添加剤)とは、対象の哺乳動物に適度に投与されることで用いられる有効成分の有効用量を与えることができるものである。
【0097】
本明細書で使用するところの「相乗作用」及び「相乗作用」なる用語は、特定の結果(例えば、加水分解酵素活性の低下)を得るうえで、2つ以上の個別の成分が別々に使用された場合に得られる結果と比較して、併用される場合により効果的であるような2つ以上の個別の成分(例えば、2つ以上の重鎖抗体)の組み合わせを指す。例えば、2つ以上の加水分解酵素阻害重鎖抗体の相乗的組み合わせは、加水分解酵素活性を阻害するうえで別々に使用された場合の個々の加水分解酵素阻害重鎖抗体のいずれよりもより効果的である。同様に、相乗的な治療の組み合わせは、治療の組み合わせを構成する2つ以上の単一の薬剤の効果よりも効果的である。治療の組み合わせにおける2つ以上の単一の薬剤間の相乗的相互作用の測定は、当該技術分野では周知の様々なアッセイから得られた結果に基づいたものとすることができる。これらのアッセイの結果は、組み合わせインデックス「CI」を得るためのChouとTalalayの組み合わせ法及びCalcuSynソフトウェアを用いた用量効果分析を使用して分析することができる(Chou and Talalay(1984)Adv.Enzyme Regul.22:27-55)。併用療法は、各化合物を別々に使用した場合に生じる効果よりも各活性成分を併用した場合に得られる効果の方が高い場合に「相乗効果」を与え、「相乗的」、すなわち、相乗作用を示し得る。相乗効果は、各活性成分が、(1)組み合わされた単位用量の配合物として同時処方されて投与されるか、または同時に送達される場合、(2)別個の配合物として交互に送達される場合、または(3)他の何らかのレジメンによる場合に得ることができる。交互療法で送達される場合、相乗効果は、各化合物を例えば別個の注射器中の異なる注射液によって順次、投与または送達する場合に得ることができる。一般に、交互療法では、各活性成分の有効用量を連続的に、すなわち時間的に連続して投与する。
【0098】
「滅菌」製剤は、無菌であるか、またはあらゆる微生物及びそれらの芽胞を含まないか、または本質的に含まない。「凍結」製剤とは、0℃未満の温度のものである。
【0099】
「安定した」製剤とは、その中に含まれるタンパク質が保管時にその物理的安定性及び/または化学的安定性及び/または生物学的活性を本質的に維持するような製剤である。好ましくは、製剤は、保管時にその物理的及び化学的安定性、ならびにその生物学的活性を本質的に維持する。保管期間は一般に、製剤の想定される貯蔵寿命に基づいて選択される。タンパク質安定性を測定するための様々な分析技術が当該技術分野で利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery,247-301.Vincent Lee Ed.,Marcel Dekker,Inc., New York,N.Y.,Pubs.(1991)及びJones.A.Adv.Drug Delivery Rev.10:29-90(1993)に概説されている。安定性は、選択された温度で選択された期間にわたって測定することができる。安定性は、凝集体形成の評価(例えば、濁度を測定することによる、かつ/または目視検査によるサイズ排除クロマトグラフィーを用いた);カチオン交換クロマトグラフィー、イメージキャピラリー等電点フォーカシング(icIEF)またはキャピラリーゾーン電気泳動を用いて電荷不均一性を評価することによって;アミノ末端またはカルボキシ末端配列分析;質量分光分析;還元型とインタクトな抗体を比較するためのSDS-PAGE分析;ペプチドマップ(例えば、トリプシンまたはLYS-C)分析;抗体の生物学的活性または抗原結合機能を評価することによって、様々な異なる方法で定性的及び/または定量的に評価することができる。不安定性には、凝集、脱アミド化(例えば、Asnの脱アミド化)、酸化(例えば、Metの酸化)、異性化(例えば、Aspの異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えば、ヒンジ領域の断片化)、スクシンイミド形成、非対合システイン(複数可)、N末端の伸長、C末端のプロセシング、グリコシル化の差などのうちのいずれか1つ以上が関与しうる。
【0100】
II.詳細な説明
本発明は、エクト酵素上の1つ以上のエピトープに結合特異性を有する重鎖抗体などの結合化合物を使用することで、腫瘍細胞を溶解し、及び/または標的エクト酵素の酵素活性を阻害することができるという発見に少なくとも一部基づいたものである。本発明はまた、エクト酵素上の少なくとも2つの重複しないエピトープに対して結合特異性を有する結合化合物(例えば、多重特異性、例えば、二重特異性結合化合物)またはそれらの組み合わせが、腫瘍細胞を溶解し、かつ/または標的エクト酵素の酵素活性を調節(例えば阻害)するうえで相乗的に作用するという発見にも少なくとも一部基づいている。したがって、本発明の態様は、これらに限定されるものではないが、単一の標的(例えば、エクト酵素上の単一のエピトープ)に対する結合特異性を有する単一特異性結合化合物、ならびに少なくとも2つの標的(例えば、エクト酵素上の第1及び第2のエピトープ)に対する結合特異性を有する多重特異性(例えば、二重特異性)結合化合物を含む結合化合物に関する。本発明の態様はまた、本明細書に記載される結合化合物の治療的組み合わせ、ならびにかかる結合化合物を製造及び使用する方法にも関する。
【0101】
エクト酵素
エクト酵素は、原形質膜の外側に触媒部位を有する膜タンパク質の多様なグループである。多くのエクト酵素が白血球及び内皮細胞に見られ、複数の生物学的役割を担っている。すべてに共通する細胞外触媒活性とは別に、エクト酵素は大きく異なる種類の酵素反応に関与する多様な分子のクラスである。異なるエクト酵素が、白血球と内皮の接触相互作用の各段階、及びその後の組織内の細胞遊走を調節することができる。エクト酵素には、これらに限定されるものではないが、CD38、CD10、CD13、CD26、CD39、CD73、CD156b、CD156c、CD157、CD203、VAP1、ART2、及びMT1-MMPが含まれる。
【0102】
エクト酵素CD38は、ヌクレオチドのリサイクルに加えて、細胞のホメオスタシス及び代謝を制御する化合物を生成するヌクレオチド代謝酵素のファミリーに属している。CD38の触媒活性は、インスリン分泌、膵臓腺房細胞におけるムスカリン性のCa2シグナル伝達、好中球の走化性、樹状細胞のトラフィッキング、オキシトシン分泌、及び食事誘発性肥満の発症をはじめとする様々な生理学的プロセスにおいて必要である。Vaisitti et al.,Laeukemia,2015,29:356-368、及び当該文献に引用される参考文献を参照されたい。CD38は、二機能性のエクト酵素シクラーゼ及び加水分解酵素活性を有している。CD38は、慢性リンパ性白血病(CLL)をはじめとする様々な悪性疾患で発現される。CD38は、CLLの特に進行性の形態を同定することが示されており、予後不良マーカーとみなされ、このようなCLLの進行型を有する患者の短い全生存期間を予測するものである。Malavasi et al.,2011,Blood,118:3470-3478及びVaisitti,2015(前出)を参照されたい。
【0103】
CD38は固形腫瘍にも発現し、PD1抵抗性の非小細胞肺癌患者(SNCLC)の腫瘍細胞で過剰発現する(Chen et al.,Cancer Discov,8(9):1156-75)。CD38は、膵臓腫瘍、腎細胞癌、黒色腫、結腸直腸癌など、免疫チェックポイント阻害に耐性を有する他の固形腫瘍において一定の役割を果たしていると考えられている。
【0104】
抗CD38結合化合物
本発明の態様は、CD38などのエクト酵素に結合親和性を有する結合化合物を含む。結合化合物としては、これらに限定されるものではないが、図11に示されるものなどの様々な抗体様分子を挙げることができる。いくつかの実施形態において、結合化合物は、エクト酵素上の特定のエピトープに結合親和性を有する抗体の可変ドメインを含む。いくつかの実施形態において、結合化合物は、特定のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。特定の実施形態において、結合化合物は、2つ以上の抗原結合ドメインを含み、1つの抗原結合ドメインは第1のエピトープに結合親和性を有し、1つの抗原結合ドメインは第2のエピトープに結合親和性を有する。特定の実施形態において、エピトープは、重複しないエピトープである。本明細書に記載される結合化合物は、臨床治療薬(複数可)としての有用性に寄与する多くの利点を与えるものである。結合化合物には、広範な結合親和性を有するメンバーが含まれているため、所望の結合親和性を有する特定の配列を選択することができる。
【0105】
本発明の態様は、ヒトCD38に結合する重鎖抗体を含む。これらの抗体は、本明細書に定義され、図1~3及び図5に示されるようなCDR配列のセットを含み、図1~3に示される配列番号18~28の提供される重鎖可変領域(VH)配列によって例示される。これらの抗体は、臨床治療薬(複数可)としての有用性に寄与する多くの利点を与えるものである。抗体には、広範な結合親和性を有するメンバーが含まれているため、所望の結合親和性を有する特定の配列を選択することができる。
【0106】
適当な結合化合物は、例えば図11に示されるような二重結合化合物、または三重特異性抗体、またはCAR-T構造の一部としての使用を含むがこれに限定されない、開発及び治療または他の使用のために本明細書に提供されるものから選択することができる。
【0107】
候補タンパク質に対する親和性の決定は、Biacore測定などの当該技術分野では周知の方法を使用して行うことができる。本明細書に記載される結合化合物は、これらに限定されるものではないが、Kdが、約10-6~約10-10、約10-6 ~約10-9、約10-6 ~約10-8、約10-8 ~約10-11、約10-8 ~約10-10、約10-8 ~約10-9、約10-9 ~約10-11、約10-9 ~約10-10、またはこれらの範囲内の任意の値を含む、約10-6~約10-11の値であるような、CD38に対する親和性を有することができる。親和性選択は、インビトロアッセイ、前臨床モデル、及び臨床試験、ならびに潜在的な毒性の評価を含む、加水分解酵素活性などのCD38の生物学的活性を調節する、例えば遮断する生物学的評価によって確認することができる。
【0108】
本明細書に記載される結合化合物は、カニクイザルのCD38タンパク質との交差反応性を示さないが、必要に応じて、カニクイザルのCD38タンパク質、または他の任意の動物種のCD38との交差反応性を与えるように操作することができる。
【0109】
本明細書のCD38特異的結合化合物は、ヒトVHフレームワーク内のCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む抗原結合ドメインを含む。CDR配列は、例として、配列番号18~28に示される提供される例示的な可変領域配列のCDR1、CDR2及びCDR3についてそれぞれ、アミノ酸残基26~35、53~59、及び98~117付近の領域に位置し得る。一般的に、配列の順序は同じままであるが、異なるフレームワーク配列が選択される場合には各CDR配列は異なる位置に存在し得る点は当業者には理解されよう。
【0110】
代表的なCDR1、CDR2及びCDR3配列を、図1~3及び図5に示す。
【0111】
いくつかの実施形態において、本発明の抗CD38重鎖抗体は、配列番号1~5のいずれか1つのCDR1配列を含む。特定の実施形態において、CDR1配列は配列番号1である。特定の実施形態において、CDR1配列は配列番号3である。特定の実施形態において、CDR1配列は配列番号4である。
【0112】
いくつかの実施形態において、本発明の抗CD38重鎖抗体は、配列番号6~12のいずれか1つのCDR2配列を含む。特定の実施形態において、CDR2配列は配列番号6である。特定の実施形態において、CDR2配列は配列番号9である。特定の実施形態において、CDR2配列は配列番号11である。
【0113】
いくつかの実施形態において、本発明の抗CD38重鎖抗体は、配列番号13~17のいずれか1つのCDR3配列を含む。特定の実施形態において、CDR3配列は、配列番号13である。特定の実施形態において、CDR3配列は、配列番号16である。特定の実施形態において、CDR3配列は、配列番号17である。
【0114】
さらなる実施形態において、本発明の抗CD38重鎖抗体は、配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む。さらなる実施形態において、本発明の抗CD38重鎖抗体は、配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む。さらなる実施形態において、本発明の抗CD38重鎖抗体は、配列番号4のCDR1配列、配列番号11のCDR2配列、及び配列番号17のCDR3配列を含む。
【0115】
さらなる実施形態において、本発明の抗CD38重鎖抗体は、配列番号18~28の重鎖可変領域アミノ酸配列(図1~3)のいずれかを含む。
【0116】
さらに別の実施形態において、本発明の抗CD38重鎖抗体は、配列番号18の重鎖可変領域配列を含む。さらに別の実施形態において、本発明の抗CD38重鎖抗体は、配列番号23の重鎖可変領域配列を含む。さらに別の実施形態において、本発明の抗CD38重鎖抗体は、配列番号27の重鎖可変領域配列を含む。
【0117】
いくつかの実施形態において、本発明の抗CD38重鎖抗体のCDR配列は、配列番号1~17(図1~3)または配列番号49~51(図5)のいずれか1つのCDR1、CDR2及び/またはCDR3配列、またはCDR1、CDR2及びCDR3配列のセットに対する1つまたは2つのアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態において、本明細書の重鎖抗CD38抗体は、配列番号18~28(図1~3に示される)または配列番号46または47(図5に示される)の重鎖可変領域配列のいずれかに対して少なくとも約85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも98%の同一性、または少なくとも99%の同一性を有する重鎖可変領域配列を含む。
【0118】
いくつかの実施形態において、これらに限定されるものではないが、非対称の界面を介して互いに会合した2個の同じでないポリペプチドサブユニットを含む二重特異性で二価の重鎖抗体;それぞれが第1及び第2の抗原結合ドメインを有する2個の同じポリペプチドサブユニットを含む二重特異性で四価の重鎖抗体;2個の同じ重鎖ポリペプチドサブユニット及び2個の同じ軽鎖ポリペプチドサブユニットを含む二重特異性で四価の重鎖抗体;または第1の重鎖ポリペプチドサブユニット、第1の軽鎖ポリペプチドサブユニット、及び第2の重鎖ポリペプチドサブユニットを含む二重特異性の三本鎖抗体様分子を含む、本明細書で検討される構成のいずれかを有することができる二重特異性または多重特異性結合化合物が提供される。
【0119】
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、CD38に対する結合特異性を有する少なくとも1つの重鎖可変領域と、CD38以外のタンパク質に対する結合特異性を有する少なくとも1つの重鎖可変領域とを含むことができる。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、第1の抗原に対して結合特異性を有する重鎖/軽鎖のペアと、CH1ドメインは含まないがCH2及び/またはCH3及び/またはCH4ドメインを含むFc部分と第2の抗原のエピトープまたは第1の抗原の異なるエピトープ(例えば、CD38タンパク質上の第2の重複しないエピトープ)に結合する抗原結合ドメインとを含む重鎖単独抗体由来の重鎖と、を含むことができる。特定の一実施形態において、二重特異性抗体は、エフェクター細胞上の抗原(例えば、T細胞上のCD3タンパク質)に対する結合特異性を有する重鎖/軽鎖のペアと、CD38に対する結合特異性を有する抗原結合ドメインを含む重鎖単独抗体由来の重鎖と、を含む。
【0120】
本発明のタンパク質が二重特異性抗体であるようないくつかの実施形態において、抗体の一方のアーム(1つの結合部分)はヒトCD38に対して特異的であり、他方のアームは標的細胞、腫瘍関連抗原、ターゲティング抗原(例えば、インテグリンなど)、病原体抗原、チェックポイントタンパク質などに対して特異的であってよい。標的細胞としては、以下で述べるように、これらに限定されるものではないが、血液腫瘍、例えば、B細胞腫瘍由来の細胞を含むがん細胞が具体的に挙げられる。
【0121】
これらに限定されるものではないが、一本鎖ポリペプチド、二本鎖ポリペプチド、三本鎖ポリペプチド、四本鎖ポリペプチド、及びそれらの倍数を含む、様々なフォーマットの二重特異性結合化合物が本発明の範囲に含まれる。本明細書の二重特異性結合化合物としては免疫細胞上で主に発現されるCD38とCD3に結合するT細胞二重特異性抗体(抗CD38×抗CD3抗体)が具体的に挙げられる。かかる抗体は、CD38を発現する細胞の強力なT細胞介在性の殺滅を誘導する。
【0122】
いくつかの実施形態において、結合化合物は、第1及び第2のポリペプチド、すなわち第1及び第2のポリペプチドサブユニットを含み、各ポリペプチドは、重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態において、第1及び第2のポリペプチドのそれぞれは、ヒンジ領域、またはヒンジ領域の少なくとも一部をさらに含み、それにより、第1と第2のポリペプチドとの間の少なくとも1つのジスルフィド結合の形成を促進することができる。いくつかの実施形態において、第1及び第2のポリペプチドのそれぞれは、CH2ドメイン、及び/またはCH3ドメイン、及び/またはCH4ドメインなどの少なくとも1つの重鎖定常領域(CH)ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態では、CHドメインは、CH1ドメインを欠く。第1及び第2のポリペプチドのそれぞれの抗原結合ドメインは、結合化合物に抗原結合能力を付与するために、本明細書に記載されるCDR配列及び/または可変領域配列のいずれかを組み込むことができる。したがって、特定の実施形態では、結合化合物中の各ポリペプチドは、同じエピトープまたは異なるエピトープ(例えば、CD38タンパク質上の第1及び第2の重複しないエピトープ)に結合特異性を有する抗原結合ドメインを含むことができる。
【0123】
本発明の実施形態による結合化合物の非限定的な例を図11のパネルCに示す。図に示される実施形態において、結合化合物は、重鎖抗体の抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2及びCH3ドメインを含む(かつCH1ドメインを欠く)CHドメインを含む第1のポリペプチドと、重鎖抗体の抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、及びCH2及びCH3ドメインを含む(かつCH1ドメインを欠く)CHドメインを含む第2のポリペプチドとを含む二重特異性、二価の重鎖抗体である。図に示される実施形態は、第1のポリペプチドのCH3ドメインと第2のポリペプチドのCH3ドメインとの間の非対称的界面、及び第1と第2のポリペプチドとを連結して結合化合物を形成するヒンジ領域内の少なくとも1つのジスルフィド結合を含む。本発明の実施形態による非対称的界面については、本明細書でさらに説明する。
【0124】
いくつかの実施形態において、結合化合物は、第1及び第2のポリペプチド、すなわち第1及び第2のポリペプチドサブユニットを含み、各ポリペプチドは2個の抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態において、第1及び第2のポリペプチドのそれぞれは、ヒンジ領域、またはヒンジ領域の少なくとも一部をさらに含み、それにより、第1と第2のポリペプチドとの間の少なくとも1つのジスルフィド結合の形成を促進することができる。いくつかの実施形態において、第1及び第2のポリペプチドのそれぞれは、CH2ドメイン、及び/またはCH3ドメイン、及び/またはCH4ドメインなどの少なくとも1つの重鎖定常領域(CH)ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態では、CHドメインは、CH1ドメインを欠く。第1及び第2のポリペプチドのそれぞれの抗原結合ドメインは、結合化合物に抗原結合能力を付与するために、本明細書に記載されるCDR配列及び/または可変領域配列のいずれかを組み込むことができる。したがって、特定の実施形態では、結合化合物中の各ポリペプチドは、同じエピトープまたは異なるエピトープ(例えば、CD38タンパク質上の第1及び第2の重複しないエピトープ)に結合特異性を有する2個の抗原結合ドメインを含むことができる。
【0125】
本発明の実施形態による結合化合物の非限定的な例を図11のパネルBに示す。図に示される実施形態において、結合化合物は、一方が第1のエピトープに結合特異性を有し、もう一方が第2の重複しないエピトープに結合特異性を有する2個の抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2及びCH3ドメインを含む(かつCH1ドメインを欠く)CHドメインを含む第1のポリペプチドと、一方が第1のエピトープに結合特異性を有し、もう一方が第2の重複しないエピトープに結合特異性を有する2個の抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2及びCH3ドメインを含む(かつCH1ドメインを欠く)CHドメインを含む第2のポリペプチドとを含む二重特異性、四価の重鎖抗体である。図に示される実施形態は、第1と第2のポリペプチドとを連結して結合化合物を形成する少なくとも1つのジスルフィド結合をヒンジ領域内に含む。
【0126】
いくつかの実施形態において、各ポリペプチド上の第1と第2の抗原結合ドメインは、ポリペプチドリンカーによって連結される。第1と第2の抗原結合ドメインとを連結することができるポリペプチドリンカーの1つの非限定的な例としては、アミノ酸配列GGGGS(配列番号29)を有するG4SリンカーなどのGSリンカーである。他の適当なリンカーも使用することができ、例えば、本明細書に参照によりその開示内容の全体を援用するところのChen et al.,Adv Drug Deliv Rev.2013 October 15;65(10:1357-69に記載されている。
【0127】
いくつかの実施形態において、結合化合物は、第1及び第2の重鎖ポリペプチド、すなわち第1及び第2の重鎖ポリペプチドサブユニット、ならびに第1及び第2の軽鎖ポリペプチド、すなわち第1及び第2の軽鎖ポリペプチドサブユニットを含む。いくつかの実施形態において、重鎖ポリペプチドのそれぞれは、重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態において、重鎖ポリペプチドのそれぞれは、ヒンジ領域、またはヒンジ領域の少なくとも一部をさらに含み、それにより、第1と第2の重鎖ポリペプチドとの間の少なくとも1つのジスルフィド結合の形成を促進することができる。いくつかの実施形態において、第1及び第2の重鎖ポリペプチドのそれぞれは、CH2ドメイン、及び/またはCH3ドメイン、及び/またはCH4ドメインなどの少なくとも1つの重鎖定常領域(CH)ドメインをさらに含む。特定の実施形態では、CHドメインは、CH1ドメインを含む。第1及び第2の重鎖ポリペプチドのそれぞれの抗原結合ドメインは、結合化合物に抗原結合能力を付与するために、本明細書に記載されるCDR配列及び/または可変領域配列のいずれかを組み込むことができる。
【0128】
いくつかの実施形態において、軽鎖ポリペプチドのそれぞれは、重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態において、軽鎖ポリペプチドのそれぞれは、軽鎖定常領域(CL)ドメインをさらに含む。第1及び第2の軽鎖ポリペプチドのそれぞれの抗原結合ドメインは、結合化合物に抗原結合能力を付与するために、本明細書に記載されるCDR配列及び/または可変領域配列のいずれかを組み込むことができる。さらに、重鎖ポリペプチドのCH1ドメイン及び軽鎖ポリペプチドのCLドメインはそれぞれ、各軽鎖ポリペプチドを重鎖ポリペプチドの一方に連結するジスルフィド結合の形成を促進する少なくとも1個のシステイン残基を含むことができる。
【0129】
本発明の実施形態による結合化合物の非限定的な例を図11、パネルAに示す。図に示される実施形態では、結合化合物は、2個の重鎖ポリペプチドと2個の軽鎖ポリペプチドを含む二重特異性、四価の結合化合物である。各重鎖ポリペプチドは、第1のエピトープに結合特異性を有する抗原結合ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。図に示される実施形態は、第1と第2の重鎖ポリペプチドとを連結する少なくとも1つのジスルフィド結合をヒンジ領域内に含む。各軽鎖ポリペプチドは、第2のエピトープに結合特異性を有する抗原結合ドメイン、及びCLドメインを含む。図に示される実施形態は、第1及び第2の重鎖ポリペプチドと第1及び第2の軽鎖ポリペプチドとに連結して結合化合物を形成する、CLドメインとCH1ドメインとの間の少なくとも1つのジスルフィド結合を含む。
【0130】
本発明の実施形態による結合化合物の非限定的な例を図11、パネルDに示す。図に示される実施形態では、結合化合物は、3個のポリペプチド(2個の重鎖ポリペプチド及び1個の軽鎖ポリペプチド)を含む二重特異性、二価の結合化合物である。第1の重鎖ポリペプチドサブユニットと軽鎖ポリペプチドサブユニットとは共に第1のエピトープに結合親和性を有する結合単位を形成し、第2の重鎖ポリペプチドは、第2のエピトープに結合親和性を有する重鎖単独可変領域を含む。いくつかの実施形態において、第2のポリペプチドサブユニットは、単一の重鎖単独可変領域ドメイン(一価形態)を含む。いくつかの実施形態において、第2のポリペプチドサブユニットは、リンカーによって連結された2個の重鎖単独可変領域(二価形態)を含む。第1のポリペプチドは、第1のエピトープに結合特異性を有する抗原結合ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。図に示される実施形態は、第1と第2の重鎖ポリペプチドとを連結する少なくとも1つのジスルフィド結合をヒンジ領域内に含む。軽鎖ポリペプチドは、第1のエピトープに結合特異性を有する抗原結合ドメイン、及びCLドメインを含む。
【0131】
好ましい一実施形態において、第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物は、第1のCD38エピトープに結合親和性を有する第1のポリペプチドであって、配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む重鎖抗体の抗原結合ドメインと、ヒンジ領域の少なくとも一部と、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインと、を含む第1のポリペプチドと、第2のCD38エピトープに結合親和性を有する第2のポリペプチドであって、配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む重鎖抗体の抗原結合ドメインと、ヒンジ領域の少なくとも一部と、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインと、を含む第2のポリペプチドと、第1のポリペプチドのCH3ドメインと第2のポリペプチドのCH3ドメインとの間の非対称的界面と、を含む。特定の好ましい実施形態において、この結合化合物は、ヒトIgG1のFc領域、ヒトIgG4のFc領域、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域、またはサイレンシングされたヒトIgG4のFc領域であるFc領域を含む。
【0132】
別の好ましい実施形態では、第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物は、2つの同じポリペプチドを含み、各ポリペプチドは、配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む、第1のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第1の抗原結合ドメインと、配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む、第2のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第2の抗原結合ドメインと、ヒンジ領域の少なくとも一部と、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインとを含む。特定の好ましい実施形態では、この結合化合物は、ヒトIgG1のFc領域、ヒトIgG4のFc領域、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域、及びサイレンシングされたヒトIgG4のFc領域であるFc領域を含む。
【0133】
別の好ましい実施形態では、第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物は、それぞれが、抗原配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む、第1のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の結合ドメインと、ヒンジ領域の少なくとも一部と、CH1ドメイン、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインと、を含む第1及び第2の重鎖ポリペプチドと、それぞれが、配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む、第2のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインと、CLドメインと、を含む第1及び第2の軽鎖ポリペプチドと、を含む。特定の好ましい実施形態において、この結合化合物は、ヒトIgG1のFc領域、ヒトIgG4のFc領域、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域、またはサイレンシングされたヒトIgG4のFc領域であるFc領域を含む。
【0134】
別の好ましい実施形態において、第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物は、ヒト重鎖フレームワーク内に抗原配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む第1のポリペプチドサブユニットと、ヒト軽鎖フレームワーク内に配列番号49のCDR1配列、配列番号50のCDR2配列、及び配列番号51のCDR3配列を含む軽鎖可変領域を含む第2のポリペプチドサブユニットであって、共に第1のCD38エピトープに結合親和性を有する第1のポリペプチドサブユニットと第2のポリペプチドサブユニットと、一価または二価形態で、ヒト重鎖フレームワーク内に配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む第3のポリペプチドサブユニットであって、第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する第3のポリペプチドサブユニットとを、含む。いくつかの好ましい実施形態において、第1のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2ドメイン、及びCH3ドメインをさらに含む。いくつかの好ましい実施形態において、第3のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメインを含まず、ヒンジ領域の少なくとも一部、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む定常領域配列をさらに含む。いくつかの好ましい実施形態において、ヒト軽鎖フレームワークは、ヒトκ軽鎖フレームワークまたはヒトλ軽鎖フレームワークである。いくつかの好ましい実施形態において、第2のポリペプチドサブユニットは、CLドメインをさらに含む。いくつかの好ましい実施形態において、二重特異性結合化合物は、ヒトIgG1のFc領域、ヒトIgG4のFc領域、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域、及びサイレンシングされたヒトIgG4のFc領域からなる群から選択されるFc領域を含む。いくつかの好ましい実施形態において、二重特異性結合化合物は、第1のポリペプチドサブユニットのCH3ドメインと第3のポリペプチドサブユニットのCH3ドメインとの間に非対称的界面を含む。
【0135】
本発明の態様は、本明細書に記載される2つ以上の結合化合物の組み合わせ(例えば、治療的組み合わせ)を含む。いくつかの実施形態において、治療的組み合わせは、CD38上の第1のエピトープに対する結合特異性を有する第1の結合化合物と、CD38上の第2の重複しないエピトープに対する結合特異性を有する第2の結合化合物とを含む。本発明の実施形態による治療的組み合わせは、本明細書に記載される2つ以上の結合化合物を含むことができ、または本明細書に記載される1つ以上の結合化合物と、当該技術分野では周知の1つ以上の結合化合物、例えばCD38に結合する1つ以上の第2の抗体とを含むことができる。
【0136】
例えば、多発性骨髄腫の治療用に臨床試験が行われている抗体であるイサツキシマブ(SAR650984)は、強力な補体依存性細胞傷害作用(CDC)、抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)、及び腫瘍細胞の間接的なアポトーシスを誘導する。イサツキシマブはまた、CD38のシクラーゼ及びヒドロラーゼ酵素活性を遮断し、腫瘍細胞の直接アポトーシスを誘導する。本発明の態様は、本明細書に記載される1つ以上の結合化合物及びイサツキシマブを含む治療的組み合わせを含む。イサツキシマブの重鎖可変領域の配列を配列番号30に示し、イサツキシマブの軽鎖可変領域の配列を配列番号31に示す。イサツキシマブは、例えば、Deckert,J.,et al.,“SAR650984, a novel humanized CD38-targeting antibody,demonstrates potent antitumor activity in models of multiple myeloma and other CD38+ hematologic malignancies.” Clin Cancer Res,2014.20(17):p.4574-83に記載されており、その開示内容の全体を本明細書に参照により援用する。
【0137】
ヒトCD38に特異的な抗体であるダラツムマブは、多発性骨髄腫の治療用に2015年にヒトでの使用が承認されている(Shallis et al.,Cancer Immunol.Immunother.2017,66(6):697-703))。本発明の態様は、本明細書に記載される1つ以上の結合化合物及びダラツムマブを含む治療的組み合わせを含む。
【0138】
1つの好ましい実施形態において、治療的組み合わせは、CD38に結合する重鎖抗体であって、配列番号4のCDR1配列、配列番号11のCDR2配列、及び配列番号17のCDR3配列を含む抗原結合ドメインと、CD38に結合する第2の抗体としてのイサツキシマブとを含む。
【0139】
抗エクト酵素結合化合物の調製
本発明の結合化合物は、当該技術分野では周知の方法によって調製することができる。好ましい実施形態において、本明細書の結合化合物は、内因性の免疫グロブリン遺伝子をノックアウトまたは無効化したトランスジェニックマウス及びラット、好ましくはラットを含むトランスジェニック動物によって産生される。好ましい実施形態において、本明細書の結合化合物は、UniRat(商標)で産生される。UniRat(商標)は、内因性の免疫グロブリン遺伝子をサイレンシングし、ヒト免疫グロブリン重鎖の導入遺伝子座を用いて完全ヒト重鎖抗体の多様で自然に最適化されたレパートリーを発現する。ラットの内因性免疫グロブリン遺伝子座は、様々な技術を用いてノックアウトまたはサイレンシングすることができるが、UniRat(商標)では、ジンクフィンガー(エンド)ヌクレアーゼ(ZNF)技術を用いて内因性のラット重鎖J遺伝子座、軽鎖Cκ遺伝子座、及び軽鎖Cλ遺伝子座を不活性化させる。卵母細胞へのマイクロインジェクション用のZNFコンストラクトによって、IgH及びIgLノックアウト(KO)系統を作製することができる。詳細については、例えば、Geurts et al.,2009,Science 325:433を参照されたい。Ig重鎖ノックアウトラットの特性評価は、Menoret et al.,2010,Eur.J.Immunol.40:2932-2941により報告されている。ZNF技術の利点は、最大数kbの欠失によって遺伝子または遺伝子座をサイレンシングさせる非相同末端結合が、相同組み込みの標的部位も与えることができる点である(Cui et al.,2011,Nat Biotechnol 29:64-67)。UniRat(商標)で産生されたヒト重鎖抗体はUniAb(商標)と呼ばれ、従来の抗体では攻撃することができないエピトープに結合することができる。その高い特異性、親和性、及び小さなサイズのため、UniAbs(商標)は、単一及び多重特異的な用途において理想的である。
【0140】
UniAbs(商標)以外に、本明細書には、ラクダ科のVHHフレームワーク及び変異、及びそれらの機能的なVH領域を欠く重鎖単独抗体が具体的に含まれる。かかる重鎖単独抗体は、例えばWO2006/008548に記載されるように完全ヒト重鎖単独遺伝子座を含むトランスジェニックラットまたはマウスで産生させることができるが、ウサギ、モルモット、ラットなどの他のトランスジェニック哺乳動物も使用することができ、ラット及びマウスが好ましい。それらのVHHまたはVH機能性フラグメントを含む重鎖単独抗体は、例えば、哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞)、大腸菌または酵母を含む適当な真核生物または原核生物宿主内でのコード核酸(複数可)の発現によって組換えDNA技術によって産生することができる。
【0141】
重鎖単独抗体のドメインは抗体と小分子薬の利点を兼ね備えている。すなわち、一価または多価とすることができ、毒性が低く、製造コストが低い。これらのドメインはその小さいサイズのため、経口または局所投与を含めた投与が容易であり、胃腸安定性を含む高い安定性を特徴とし、その半減期を所望の用途または適応症に合わせて調節することができる。さらに、重鎖抗体のVH及びVHHドメインは、コスト効率の高い方法で製造することができる。
【0142】
特定の実施形態において、UniAbs(商標)を含む本発明の重鎖抗体は、FR4領域の第1の位置(Kabat番号付けシステムによるアミノ酸位置101)の天然アミノ酸残基が、その位置の天然アミノ酸残基を含むかまたは天然アミノ酸残基に関連した表面に露出した疎水性パッチを破壊することができる別のアミノ酸残基で置換されている。このような疎水性パッチは通常は抗体の軽鎖定常領域との界面に埋め込まれているが、重鎖抗体では表面に露出しており、重鎖抗体の望ましくない凝集及び軽鎖の会合に少なくとも部分的に関与している。置換されるアミノ酸残基は、好ましくは荷電しているものであり、より好ましくは、リシン(Lys、K)、アルギニン(Arg、R)またはヒスチジン(His、H)、好ましくはアルギニン(R)などの正に荷電したものである。好ましい実施形態において、トランスジェニック動物に由来する重鎖単独抗体は、101位にTrpからArgへの変異を含む。得られた重鎖抗体は、好ましくは、凝集のない生理学的条件下で高い抗原結合親和性及び溶解性を有する。
【0143】
特定の実施形態において、結合化合物は、CD38に結合する抗エクト酵素重鎖抗体である。好ましい実施形態において、抗CD38重鎖抗体は、UniAb(商標)である。
【0144】
本発明の一環として、ELISA(組換えCD38細胞外ドメイン)タンパク質及び細胞結合アッセイにおいてヒトCD38に結合する、UniRat(商標)動物由来の固有のCDR3配列を有するヒトIgG重鎖抗CD38抗体ファミリー(UniAb(商標))を同定した。3つの配列ファミリー(F11、F12、及びF13、図1~3及び図5を参照)を含む重鎖可変領域(VH)配列は、ヒトCD38タンパク質結合及び/またはCD38+細胞への結合について陽性であり、CD38を発現しない細胞への結合についてはすべて陰性である。これら3つの配列ファミリーからのUniAb(商標)は、CD38の加水分解酵素機能を阻害する能力に基づいて、2つの大きな相乗性グループに分類される。
【0145】
一方の相乗性グループには、F11及びF12配列ファミリーが含まれる。F11/F12相乗性グループのメンバーは、CD38の加水分解酵素機能を阻害するうえでイサツキシマブと相乗作用しないが、互いと相乗的な加水分解酵素阻害を示す。例えば、F11AとF12Aは組み合わせた場合に、F11AまたはF12Aのどちらかが個々に実現できるよりも高い加水分解酵素阻害レベルを実現する(図7)。
【0146】
別の相乗性グループには、F13シーケンスファミリー及びイサツキシマブが含まれる。イサツキシマブ単独では、CD38の加水分解酵素活性の部分的阻害を誘発する(約55%の阻害率、図9)。F13A単独も、CD38の加水分解酵素活性の部分的阻害を誘発する。イサツキシマブとF13Aは組み合わせた場合に、どちらかの抗体が個別に実現するよりも大きな加水分解酵素活性の低下を実現することにより、加水分解酵素活性の相乗的阻害を示す。F13相乗グループの一部のメンバーは、CD38加水分解酵素活性をそれ自体では遮断しないがイサツキシマブと相乗作用して遮断する。例えば、F13Bは、それ自体ではCD38加水分解酵素活性を遮断しないが、イサツキシマブと相乗作用して、CD38加水分解酵素活性を最大75%阻害する(例えば、図9)。
【0147】
特に、F12Aはそれ自体でCD38加水分解酵素活性を阻害するが(約50%の阻害率、図13~14)、イサツキシマブとは相乗作用しない。F12Aとイサツキシマブとの組み合わせは、イサツキシマブ単独よりもわずかに低い阻害を生じた(イサツキシマブ単独では約65%であるのに対して、イサツキシマブとF12Aとの組み合わせでは約58%)。
【0148】
別個の重複しないエピトープに結合する2つ以上のUniAb(商標)の組み合わせが強力なCDC活性及び直接アポトーシスを誘導するのに対して、同じUniAb(商標)が単独で投与された場合にはこれらのエフェクター機能のどちらも誘導しない。UniAb(商標)の組み合わせはまた、個々のUniAb(商標)を単独で投与した場合よりも、より強力に酵素活性を阻害した。換言すると、特定の実施形態において、本発明の2つの異なる結合化合物の組み合わせ(例えば、治療的組み合わせ)は、1つ以上の相乗的結果(例えば、相乗的CDC活性、相乗的酵素調節活性、例えば、相乗的加水分解酵素遮断活性)をもたらす。
【0149】
本発明の実施形態による結合化合物は、CD38陽性バーキットリンパ腫細胞株であるRamosに結合し、カニクイザルのCD38タンパク質と交差反応性を示す。さらに、本明細書に記載される抗体は、必要に応じて、任意の動物種のCD38タンパク質との交差反応性を与えるように操作することができる。
【0150】
本発明の実施形態による結合化合物は、Kdが、これらに限定されるものではないが、約10-6~約10-10、約10-6~約10-9、約10-6~約10-8、約10-8~約10-11、約10-8~約10-10、約10-8~約10-9、約10-9~約10-11、約10-9~約10-10、またはこれらの範囲内の任意の値を含む、約10-6~約10-11の値であるような、CD38に対する親和性を有することができる。親和性選択は、インビトロアッセイ、前臨床モデル、及び臨床試験、ならびに潜在的な毒性の評価を含む、CD38の生物学的活性を調節する、例えば遮断する生物学的評価によって確認することができる。
【0151】
抗CD38重鎖抗体を含むがこれに限定されない、エクト酵素標的上の2つ以上の重複しないエピトープに結合する本発明の実施形態による結合化合物(例えば、UniAb(商標))は、酵素結合免疫吸着法(ELISAアッセイ)またはフローサイトメトリー競合結合アッセイなどの競合結合アッセイによって同定することができる。例えば、標的抗原に結合する既知の抗体と対象とする抗体との間の競合を利用することができる。この手法を用いることにより、抗体のセットを参照抗体と競合するものと競合しないものとに分けることができる。非競合抗体は、参照抗体が結合するエピトープと重複しない異なるエピトープに結合するものとして特定される。多くの場合、1つの抗体を固定化し、抗原を結合させ、第2の標識された(例えば、ビオチン化された)抗体をELISAアッセイで、捕捉された抗原に結合する能力について試験する。これは、ProteOn XPR36(BioRad、Inc)、Biacore2000及びBiacoreT200(GE Healthcare Life Sciences)、ならびにMX96 SPRイメージャー(Ibis Technologies B.V.)などの表面プラズモン共鳴(SPR)プラットフォーム、ならびにOctet Red384やOctet HTX(ForteBio、Pall Inc)などのバイオレイヤー干渉法プラットフォームを用いて行うこともできる。さらなる詳細については、下記実施例のセクションを参照されたい。
【0152】
一般的に、結合化合物(例えば抗体)は、本明細書に記載される競合結合アッセイなどの標準的な方法で測定した場合に、参照抗体と標的抗原との結合の約15~100%の低下を生じる場合に参照結合化合物(例えば、参照抗体)と競合する。様々な実施形態において、相対阻害率は、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、またはそれ以上である。
【0153】
医薬組成物
本発明の別の態様は、適当な薬学的に許容される担体と混合された本発明の1つ以上の結合化合物を含む医薬組成物を提供することである。本明細書で使用される薬学的に許容される担体としては、これらに限定されるものではないが、アジュバント、固体担体、水、緩衝液、または治療成分を保持するために当該技術分野で使用される他の担体、またはそれらの組み合わせが例示される。
【0154】
一実施形態では、医薬組成物は、例えば、CD38、CD73、またはCD39などのエクト酵素上の重複しないエピトープに結合する2つ以上の重鎖抗体を含む。好ましい実施形態では、医薬組成物は、例えば、CD38、CD73、またはCD39などのエクト酵素の重複しないエピトープに結合する2つ以上の重鎖抗体の相乗的組み合わせを含む。
【0155】
別の実施形態において、医薬組成物は、例えば、CD38、CD73、またはCD39などのエクト酵素上の2つ以上の重複しないエピトープに対する結合特異性を有する多重特異性(二重特異性を含む)重鎖抗体を含む。好ましい実施形態において、医薬組成物は、同じエピトープに結合する単一特異性抗体のいずれと比較しても相乗的に向上した特性を有する、例えばCD38、CD73、またはCD39などのエクト酵素上の2つ以上の重複しないエピトープに結合特異性を有する多重特異性(二重特異性を含む)重鎖抗体を含む。
【0156】
本発明に従って使用される結合化合物の医薬組成物は、例えば凍結乾燥製剤または水溶液の形態として、所望の純度を有するタンパク質を任意の薬学的に許容される担体、賦形剤、または安定剤(例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980))と混合することにより保存用に調製される。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、使用される用量及び濃度で投与対象に非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);ならびに/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0157】
非経口投与用の医薬組成物は、好ましくは無菌であり、実質的に等張であり、適正製造基準(GMP)条件下で製造される。医薬組成物は、単位剤形(すなわち、単回投与用量)で提供することができる。製剤は選択される投与経路によって決まる。本明細書の結合化合物は、静脈内注射または点滴または皮下投与によって投与することができる。注射投与の場合、本明細書の結合化合物を、水溶液、好ましくは注射部位の不快感を軽減するための生理学的に適合性を有する緩衝液として製剤化することができる。溶液は、上記に述べたように担体、賦形剤、または安定剤を含むことができる。あるいは、結合化合物は、使用に先立って適当なビヒクル、例えば無菌パイロジェンフリー水で戻すための凍結乾燥形態とすることもできる。
【0158】
抗CD38抗体製剤については、例えば米国特許第9,034,324号に開示されている。同様の製剤を、本発明のUniAb(商標)を含む重鎖抗体に使用することができる。皮下抗体製剤については、例えば、US20160355591及びUS20160166689に記載されている。
【0159】
製造品
本発明の態様は、本明細書に記載される疾患及び障害の治療に有用な本発明の1つ以上の結合化合物を含む製造品、すなわち「キット」を含む。一実施形態では、キットは、本明細書に記載される抗CD38結合化合物を含む容器を含む。キットは、容器上の、または容器に付属したラベルまたは添付文書をさらに含んでもよい。「添付文書」なる用語は、かかる治療薬の適応症、使用法、投薬量、投与、禁忌症についての情報、及び/またはその使用に関する警告を含む、治療薬の市販のパッケージに通例含まれる説明書を指して用いられる。適当な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジなどが挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの各種の材料で形成することができる。容器は、状態を治療するうえで有効な本発明に記載される1つ以上の抗CD38結合化合物またはその製剤、例えば、2つ以上の抗CD38結合化合物の複合製剤を保持してもよく、滅菌アクセスポートを有してもよい(例えば、容器は、静注溶液バッグ、または皮下注射針によって穿刺可能なストッパーを有するバイアルであってよい)。ラベルまたは添付文書は、組成物ががんまたは免疫疾患などの選択された状態の治療に使用されることを示す。上記に代えるかまたは加えて、製造品は、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、及びデキストロース溶液などの薬学的に許容される緩衝液を含む第2の容器をさらに含んでもよい。製造品は、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジをはじめとする、商業的な及びユーザの観点から望ましい他の材料をさらに含んでもよい。
【0160】
キットは、1つ以上の結合化合物、及び存在する場合はそれらの複合製剤の投与のための指示書をさらに含むことができる。例えば、キットが第1の抗CD38結合化合物を含む第1の医薬組成物及び第2の抗CD38結合化合物を含む第2の医薬組成物を含む場合、キットは、必要とする患者に第1及び第2の医薬組成物の同時、順次、または別個の投与についての指示書をさらに含むことができる。キットが2つ以上の組成物を含む場合、キットは、分割されたボトルまたは分割されたホイルパケットなどの別々の組成物を入れるための容器を含んでもよいが、別々の組成物が単一の分割されていない容器に含まれてもよい。キットは、別々の成分の投与、またはそれらの複合製剤の投与のための指示書を含むことができる。
【0161】
使用方法
エクト酵素上の重複しないエピトープに結合する本明細書に記載される結合化合物、かかる結合化合物の相乗的組み合わせを含む組み合わせ、エクト酵素上の2つ以上の重複しないエピトープに結合特異性を有する多重特異性抗体、ならびにかかる抗体及び抗体の組み合わせを含む医薬組成物を使用して、標的エクト酵素の発現を特徴とする疾患及び状態を標的とすることができる。
【0162】
様々な実施形態において、エクト酵素は、CD10、CD13、CD26、CD38、CD39、CD73、CD156b、CD156c、CD157、CD203、VAP1、ART2、及びMT1-MMPからなる群から選択される。
【0163】
特定の実施形態において、エクト酵素は、CD38、CD73及び/またはCD39である。
【0164】
CD38は、20aaの短いN末端細胞質テールと256aaの長い細胞外ドメインを有する46kDaのII型膜貫通糖タンパク質である(Malavasi et al.,Immunol.Today,1994,15:95-97)。多発性骨髄腫(MM)、非ホジキンリンパ腫(Shallis et al.,Cancer Immunol.Immunother.,2017,66(6):697-703に概説)、B細胞慢性リンパ性白血病(CLL)(Vaisitti et al.,Leukemia,2015,29”356-368)、B細胞急性リンパ芽球性白血病(ALL)、dT細胞ALLをはじめとする多くの血液悪性腫瘍におけるその高い発現レベルのため、CD38は、血液悪性腫瘍を治療するための抗体ベースの治療法の有望なターゲットとなっている。CD38は、加齢性のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)低下の主要な因子としての関与も示唆されており、CD38の阻害とNAD前駆体との組み合わせは、代謝機能障害及び加齢性疾患の潜在的な治療法となりうることが示唆されている(例えば、Camacho-Pereira et al.,Cell Metabolism 2016,23:1127-1139を参照)。CD38はまた、喘息の顕著な特徴である気道過敏性の発症への関与が記載されており、かかる状態を治療するための標的として提案されている。
【0165】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)代謝は、代謝性疾患及びアルツハイマー病をはじめとする多くの炎症性疾患で重要な役割を担っている。NADは生体エネルギープロセスの主要な補酵素であり、CD38を含むいくつかの酵素によるその切断は、細胞代謝、炎症反応、細胞死などの多くの生物学的プロセスの鍵となる(Chini et al.,Trends Pharmacol Sci,39(4):424-36)。
【0166】
NAD切断酵素であるCD38は、動物モデルにおいて腸の炎症を促進する。CD38は、NAD+の分解、ならびにアデノシン二リン酸リボース(ADPR)及びサイクリックADPR(cADPR)などの細胞活性化代謝産物の生成に関与する多機能エクト酵素である。CD38は、T細胞、B細胞、及びマクロファージなどの造血細胞で主に発現する。免疫細胞は、活性化及び分化の後にCD38の発現を増大させる。動物実験に基づくと、T細胞、マクロファージ、及び好中球のいずれの免疫反応もCD38によって調節されていると考えられる。高レベルのCD38発現とそれに関連するエクト酵素機能は、炎症性疾患の発症を促進するようである。対照的に、CD38欠損症、及び付随するNAD濃度の増大は、炎症部位への細胞の動員を減らし、炎症誘発性サイトカインの産生を減少させる(Schneider et al.,PLos One,10(5):e0126007(2015);Gerner et al.,Gut,06 September 2017,doi:10.1136/gutjnl-2017-314241;Garcia-Rodriguez et al.,Sci Rep,8(1):3357(2018))。自己免疫モデルにおいて、CD38-/-マウスは、疾患の発症の改善、コラーゲン誘発関節炎モデルでの関節炎症の減少、及びデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)大腸炎モデルにおける腸の炎症の減少を示す(Garcia-Rodriguez et al.,Sci Rep,8(1):3357 (2018))。これらすべての結果を合わせると、結腸の炎症は、CD38の活性化を介して細胞内のNADレベルの低下につながるという仮説が裏付けられる。その後のNADの低下は、抗炎症作用及び組織保護作用を有することが知られているNAD依存性デアセチラーゼ(サーチュイン)の活性を低下させる。
【0167】
CD38に対するモノクローナル抗体は、多発性骨髄腫(MM)の治療に極めて有効であることが示されているものの、IBDの治療には適さない。現在、4種類のモノクローナル抗体でCD38+悪性腫瘍の治療用に臨床試験が行われている。最も先進的なものは、2015年にMMの治療用にヒトでの使用がFDAにより承認されたダラツムマブ(JanssenBiotech)である。MM用に臨床試験中の3つの抗CD38モノクローナル抗体はいずれも、同様の好ましい安全性及び有効性のプロファイルを示している(van de Donk,et al.,Blood 2017,blood-2017-06-740944;doi:https://doi.org/10.1182/blood-2017-06-740944)。1つのモノクローナル抗体(TAK-079)が、全身性エリテマトーデス(SLE)及び関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療用に臨床試験が行われている。抗CD38モノクローナル抗体は、形質細胞以外にすべてのNK細胞、単球、T細胞、B細胞の約50%を含む、脾臓及び血液中の他のCD38+細胞を枯渇させる。Treg細胞及び骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)などの重要な制御性免疫細胞は、抗CD38モノクローナル抗体による治療後にMM患者で枯渇し、エフェクターT細胞の増殖が観察される(Krejcik,et al.,Blood,128 (3):384-94(2016))。おそらくは、抗腫瘍エフェクターT細胞の増殖は、MMにおける抗CD38mAbの有効性に寄与している。しかしながら、自己免疫疾患における重要な調節免疫細胞を除去すると、疾患の増悪につながる場合がある。
【0168】
CD38の酵素機能の阻害は、炎症性疾患の治療に対する安全かつ効果的なアプローチとなる可能性がある。CD38の強力な効力(Kd-5nM, Haffner et al 2015)を有するものを含む、いくつかの小分子阻害剤が開発されている(Haffner et al., J Med.Chem,58(8): 3548-71(2015))。この化合物は、注射の6時間後にマウスの組織中のNADレベルを上昇させ、CD38の阻害がマウスの細胞内NADの上昇につながることを示している。しかしながら、CD38は脳でも発現し、行動に一定の役割を有することから、こうした分子には重大な毒性のリスクがある。小分子化合物と対照的に、抗体は血液脳関門を通過できず、一般に小分子と比較して優れた標的特異性を持っているため、安全性プロファイルが大幅に向上すると考えられる。炎症性疾患には、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、移植片対宿主病などが含まれる。
【0169】
臨床試験中の抗体は細胞溶解に基づいて選択されたものであり、CD38の生物学的機能はほとんど阻害しないが、これらの機能の調節はがん治療にも関係する可能性がある。Chatterjeeら及びChenらによる最近の論文により、CD38-NAD +軸が肺癌及び黒色腫の前臨床モデルで重要であることが確立された。これらの研究は、CD38によって負に調節される高レベルのNAD+がエフェクターT細胞(Teff)の機能を維持することを示している。
【0170】
本明細書の重鎖単独抗CD38抗体、抗体の組み合わせ、多重特異性抗体、及び医薬組成物を含む本明細書に記載される結合化合物は、上記に列記される状態及び疾患を含むがこれらに限定されない、CD38の発現または過剰発現を特徴とする疾患及び状態の標的化に使用することができる。
【0171】
一態様では、本明細書のCD38結合化合物及び医薬組成物は、多発性骨髄腫(MM)、非ホジキンリンパ腫、B細胞慢性リンパ性白血病(CLL)、B細胞急性リンパ芽球性白血病(ALL)及びT細胞ALLを含む、CD38の発現を特徴とする血液悪性腫瘍を治療するために使用することができる。本発明のCD38結合化合物及び医薬組成物は、気道過敏性を特徴とする喘息及び他の状態、ならびにニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の低下を特徴とする加齢性及び代謝機能障害を治療するために使用することもできる。本発明のCD38結合化合物及び医薬組成物は、大腸炎の治療に使用することもできる。
【0172】
MMは、骨髄コンパートメント内での異常な形質細胞のモノクローナル増殖と蓄積を特徴とするB細胞悪性腫瘍である。MMの現在の治療法は寛解につながることも多いが、ほとんどすべての患者が最終的に再発し、死亡する。同種造血幹細胞移植の場面で骨髄腫細胞の免疫介在性の消失の確かなエビデンスが存在するが、このアプローチの毒性は高く、治癒する患者はほとんどいない。一部のモノクローナル抗体は前臨床研究及び初期臨床試験でMMの治療に有望であることが示されているが、MMに対するモノクローナル抗体治療の安定的な臨床効果は決定的には実証されてない。したがって、MMに対する免疫療法を含む新たな治療法が強く求められている(Shallis et al(前出)を参照)。
【0173】
本明細書のCD38結合化合物及び医薬組成物は、これらに限定されるものではないが、関節リウマチ(RA)、尋常性天疱瘡(PV)、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症(全身性強皮症、びまん性強皮症)、線維症、及び多発性硬化症(MS)を含む自己免疫疾患の治療に使用することもできる。本明細書のCD38結合化合物及び医薬組成物は、これらに限定されるものではないが、虚血性脳損傷、虚血性心臓損傷、虚血性GI損傷、及び虚血性腎臓損傷(例えば、急性腎臓虚血性損傷)を含む虚血性損傷の治療に使用することもできる。
【0174】
CD73は、アデノシン受容体シグナル伝達を介して抗腫瘍T細胞免疫を制限することにより腫瘍増殖を促進する細胞外アデノシンを産生するエクト酵素として機能することが報告されている。CD73は、乳癌、結腸癌、前立腺癌などの特定のがんで発現する。マウス腫瘍モデルにおけるCD73を標的とする小分子阻害剤またはモノクローナル抗体を用いた結果は、CD73の発現を特徴とする腫瘍の増殖を制御するための、免疫療法を含む標的化CD73療法の、単剤療法としての、または他の抗癌剤との併用による可能性を示唆するものである。
【0175】
CD39及びCD73は、アデノシン産生による免疫抑制性微小環境の形成に極めて重要であると広く考えられてきた。CD39の発現上昇が多くの上皮性及び血液悪性腫瘍で報告されており、慢性リンパ性白血病におけるその発現は予後不良との相関が示されている(Pulte et al.,2011,Clin Lymphoma Myeloma Leuk.2011;11:367-372;Bastid et al.,2013,Oncogene,32:1743-1751;Bastid et al.,2015,Cancer Immunol Res.,3:254-265)。CD39は制御性T細胞(Treg)でも高度に発現しており、CD39欠損マウスにおけるTregの抑制活性の低下によって示されるように、それらの抑制機能に必要である(Deaglio et al.,2007,J Exp Med.,204:1257-1265)。CD39は、Treg、腫瘍関連ストロマ、または悪性上皮細胞のいずれかに対するその酵素活性の増強により腫瘍形成を促進することで、抗腫瘍T細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞のアデノシン介在性免疫抑制及び化学療法によるATP誘発性細胞死の中和をもたらし得ることが示唆されている(Bastid et al.,2013 and 2015(前出);Feng et al.,2011,Neoplasia,13:206-216)。免疫抑制性のCD39/CD73-アデノシン経路の調節が、癌治療における有望な免疫療法戦略として提案されている(Sitkovsky et al., 2014,Cancer Immunol Res.2:598-605)。Hayes et al., Am J Trans Res,2015,7(6):1181-1188も参照されたい。
【0176】
T細胞分化におけるCD73及びCD39エクトヌクレオチダーゼの役割の概説は、例えば、Bono et al.,FEBS Letters,2015,589:3454-3460を参照されたい。
【0177】
疾患を治療するための本発明の組成物の有効な用量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトであるか別の動物であるか、投与される他の薬剤、及び処置が予防的なものであるか治療的なものであるかを含む多くの異なる要因に応じて異なる。通常、患者はヒトであるが、例えば、イヌ、ネコ、ウマなどのコンパニオンアニマル、例えば、ウサギ、マウス、ラットなどの実験用哺乳動物などの非ヒト哺乳動物を治療することもできる。治療用量は、安全性及び有効性を最適化するために滴定してもよい。
【0178】
投与量は、当業者によって容易に決定することが可能であり、必要に応じて、例えば、治療に対する対象の応答を変化させるうえで必要に応じて変更することが可能である。単回剤形を与えるために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、治療される宿主及び特定の投与様式に応じて異なる。単位剤形は一般的に約1mg~約500mgの有効成分を含む。
【0179】
いくつかの実施形態において、薬剤の治療的投与量は、約0.0001~100mg /kg(宿主体重)、より一般的には0.01~5mg / kgの範囲とすることができる。例えば投与量は、1mg /kg(体重)もしくは10mg/kg(体重)、または1~10mg / kgの範囲内とすることができる。例示的な治療計画では、2週間に1回、または月1回、または3~6ヶ月に1回の投与を行う。本発明の治療物は、通常、複数の機会に投与される。単回投与間の間隔は、週単位、月単位または年単位とすることができる。また、間隔は、患者の治療物の血中レベルを測定することによって示される場合、不規則であってもよい。あるいは、本発明の治療物は、徐放性製剤として投与してもよく、その場合、投与頻度を減らすことができる。用量及び頻度は、患者におけるポリペプチドの半減期に応じて異なる。
【0180】
一般的に、組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかの注射剤として調製され、また、注射に先立って液体溶媒中に溶解または懸濁するのに適した固体形態も調製することができる。本明細書の医薬組成物は、直接または固体(例えば、凍結乾燥)組成物を戻した後での静脈内または皮下投与に適している。製剤はまた、上記で述べたようにアジュバント効果を高めるために、ポリラクチド、ポリグリコリド、またはコポリマーなどのリポソームまたは微粒子中に乳化またはカプセル化することができる。Langer,Science 249:1527,1990及びHanes,Advanced Drug Delivery Reviews 28:97-119,1997。本発明の薬剤は、有効成分の持続的またはパルス放出を可能とする形で製剤化することができるデポー注射またはインプラント製剤の形態として投与することもできる。医薬組成物は一般に、無菌で、実質的に等張であり、米国食品医薬品局の適正製造基準(GMP)規制のすべてに完全に準拠したものとして製剤化される。
【0181】
本明細書に記載される結合化合物の毒性は、細胞培養または実験動物で標準的な薬学的手順により、例えば、LD50(集団の50%致死用量)またはLD100(集団の100%致死用量)を決定することにより、測定することができる。毒性と治療効果との間の用量比が治療指数である。これらの細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータを、ヒトでの使用に毒性のない投与量範囲を決定するうえで使用することができる。本明細書に記載される結合化合物の投与量は、好ましくは、毒性がほとんどまたはまったくない有効用量を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、用いられる剤形及び利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。正確な配合、投与経路、及び投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師が選択することができる。
【0182】
投与用の組成物は、一般に、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体に溶解された結合化合物を含む。様々な水性担体、例えば、緩衝生理食塩水などを使用することができる。これらの溶液は無菌であり、望ましくない物質を一般的に含まない。これらの組成物は従来の周知の滅菌法によって滅菌することができる。組成物は、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び乳酸ナトリウムなどのpH調整剤及び緩衝剤、毒性調整剤など、生理学的条件に近づけるために必要とされる薬学的に許容される補助物質を含むことができる。これらの製剤中の活性剤の濃度は大きく異なってよく、選択された特定の投与様式及び患者のニーズに応じて、主に液量、粘度、体重などに基づいて選択される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science (15th ed.,1980) and Goodman & Gillman,The Pharmacological Basis of Therapeutics(Hardman et al.,eds.,1996)を参照)。
【0183】
本発明の活性剤及びその製剤、ならびに使用説明書を含む製造品、またはキット(上記に述べたもの)も本発明の範囲内に含まれる。キットは、少なくとも1つの追加の試薬、例えば化学療法薬などをさらに含むことができる。キットは、通常、キットの内容物の目的とする用途を示すラベルを含む。「ラベル」なる用語には、キットの表面に、もしくはキットと共に提供される、または他の形でキットに付属する、あらゆる文書または記録物が含まれる。
【0184】
以上、本発明を完全に記載したが、本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行うことができる点は当業者には明白であろう。
【0185】
材料及び方法
以下の材料及び方法を使用して、以下に記載する実施例を実施した。
【0186】
CD38細胞結合
CD38陽性細胞への結合を、ヒトCD38を安定的に発年するRamos細胞株(ATCC)またはCHO細胞を使用したフローサイトメトリー(Guava easyCyte 8HT、EMD Millipore)によって評価した。要約すると、10万個の標的細胞を4℃で30分間、精製したUniAbs(商標)の希釈系列で染色した。インキュベーション後、細胞をフローサイトメトリーバッファー(1X PBS、1%BSA、0.1%NaN)で2回洗浄し、R-フィコエリトリン(PE)に結合したヤギF(ab ’)抗ヒトIgG(Southern Biotech、カタログ番号2042-09)で染色して細胞に結合した抗体を検出した。4℃で20分間インキュベートした後、細胞をフローサイトメトリーバッファーで2回洗浄し、次いで平均蛍光強度(MFI)をフローサイトメトリーで測定した。
【0187】
抗体誘導直接アポトーシス
抗体誘導直接アポトーシスによる細胞傷害性を、CD38陽性Ramos細胞(ATCC)を使用して分析した。要約すると、45000個の標的細胞を2μg/mLの精製UniAb(商標)で48時間(37℃、8%CO)処理した。インキュベーション後、細胞をアネキシンV結合バッファー(BioLegend、カタログ番号422201)で2回洗浄し、アネキシンV及び7-AAD(BioLegend、カタログ番号640945及び420404)で染色した。次に、試料をフローサイトメトリー(Guava easyCyte 8HT、EMD Millipore)で分析し、生細胞の割合(%)をアネキシンV及び7AADについて陰性の集団として決定した。
【0188】
CD38加水分解酵素活性アッセイ
CD38加水分解酵素活性の阻害を測定するため、組換えヒトCD38タンパク質(Sino Biological)またはヒトCD38を発現するCHO細胞(125000細胞/ウェル)を、加水分解酵素活性バッファー(40mM Tris、250mM ショ糖、25μg/mL BSA、pH7.5)中でそれぞれの精製抗CD38UniAb(商標)と、室温で15分間インキュベートした。インキュベーション後、ε-NAD(BioLogカタログ番号N010)を最終濃度150μMになるように添加した。蛍光産物の生成をSpectramax i3xプレートリーダー(Molecular Devices)を使用して1時間後(励起300nm/発光410nm)に測定した。UniAb(商標)で処理したウェルからのシグナルを、CD38タンパク質をアイソタイプコントロール抗体で処理した場合に観察される全酵素活性(最大)の割合(%)と比較することによって加水分解酵素の阻害率を評価した。
【実施例
【0189】
実施例1:遺伝子のアセンブリ、発現、シークエンシング
リンパ節細胞で高度に発現される重鎖単独抗体をコードするcDNAを遺伝子アセンブリ用に選択し、発現ベクターにクローニングした。その後、これらの重鎖配列を、UniAb(商標)重鎖単独抗体(CH1を欠失させた、軽鎖のないもの)としてHEK細胞で発現させた。
【0190】
図1、2、3、及び5は、それぞれ、抗CD38UniAbs(商標)ファミリーCD38_F11、CD38_F12、及びCD38_F13の重鎖可変ドメインのアミノ酸配列を示す。これらの図は、試験したUniAb(商標)のクローン番号、コントロールUniAb(商標)に対するそれぞれのCD38結合UniAb(商標)の存在下における組換えCD38の加水分解酵素活性の阻害率(%)、及びRamos細胞に対する細胞結合の平均蛍光強度(MFI)を示す。図1、2、3、及び5は、それぞれ、配列(CDR配列、可変領域配列(アミノ酸とヌクレオチドの両方))、ならびにファミリーF11、F12、及びF13のCD38結合重鎖抗体のVH及びVJ遺伝子の使用も示す。さらなる配列を表4に示す。
【0191】
実施例2:抗CD38UniAbの細胞結合
図1及び2は、CD38_F11及びCD38_F12ファミリーのメンバーのRamos細胞への結合についての細胞結合データを示す。図6は、ヒトCD38を安定的にトランスフェクトしたCHO細胞への異なる濃度の抗CD38UniAb CD38_F11及びCD38_F12抗体の結合を示す。
【0192】
実施例3:CD38の加水分解酵素活性の阻害におけるCD38結合重鎖抗体の相乗効果
図7に示すように、2つの固有の重鎖CDR3配列ファミリー、CD38_F11及びCD38_F12を代表するUniAbs(商標)は、単独で投与した場合にCD38の加水分解酵素活性を部分的に阻害したが、等モル濃度で混合した(組み合わせた)場合、CD38加水分解酵素活性をより強く阻害した。
【0193】
図8は、二価のUniAbs(商標)によるCD38の加水分解酵素活性の酵素阻害を示す。2つの抗CD38UniAbs(商標)の混合物(CD38_F11A+CD38_F12A)は、一方のアームがCD38_F11AのVHを含み、他方のアームがCD38_F12AのVHを含む二価重鎖抗体(CD38_F11A_F12A)と、細胞の加水分解酵素活性の阻害において同等に効果的であった。IgG1のFcテールまたはIgG4のFcテールを有するバイパラトピックUniAbs(商標)(CD38_F11A_F12A)は、どちらも細胞に対する加水分解酵素活性を阻害した。これらのUniAb(商標)及びそれらのVHドメインは、CD38上の2つの非重複エピトープに結合する。
【0194】
図9は、UniAb(商標)のCD38_F13AまたはCD38_F13Bのいずれかとイサツキシマブとの混合物によるCD38の加水分解酵素活性の阻害を示す。イサツキシマブ単独ではCD38加水分解酵素活性を部分的に阻害したが、イサツキシマブとCD38_F13AまたはCD38_F13Bとの組み合わせは酵素活性をより強く阻害し、相乗効果を示した。
【0195】
図10は、Daudi細胞の直接的な細胞毒性を示す。UniAb(商標)CD38_F11Aを等モル量のCD38_F12Aと混合したところ、Daudi細胞のアポトーシスを誘導しないことが示された。CD38_F11A及びCD38_F12AのVHを含むバイパラトピックの二価抗体もDaudi細胞を殺傷しなかった。イサツキシマブをポジティブコントロールとして用いたところ、Daudi細胞を殺傷する強い能力が示された。
【0196】
図11は、本発明の実施形態による2種類の二価(パネルC及びD)及び2種類の四価(パネルA及びB)UniAb(商標)のフォーマットの模式図を示す。これらの模式図は非限定的なものである。
【0197】
図12は、CHO細胞上で発現させたヒトCD38の加水分解酵素活性の、図11に示される四価のUniAb(商標)による酵素阻害を示す(パネルBはこの例のフォーマットを表す)。全体的な設計は、最初に最も遠位に位置するVHのID、次にリンカーのグリシン-グリシン-グリシン-グリシン-セリン(GGGGS(配列番号29))、次にFcテールの近位に位置するVHのIDとなっている。四価のUniAb(商標)は、ヒトIgG1とともに、ヒトIgG4をサイレンシングさせ、また、ヒトIgG1をサイレンシングさせて発現させた。いずれの四価抗体も、330204(CD38F12Aとも呼ばれる)及び309157(CD38F11Aとも呼ばれる)の2つのUniAbの混合物よりも完全かつより強力にCD38の加水分解酵素活性を阻害した。VHの方向(Fcの近位または遠位)及びFcアイソタイプも同様の効力を示した。
【0198】
図13は、各UniAbとイサツキシマブとの混合物の阻害を示す。各UniAb及びイサツキシマブは、400nMで個別に試験し、200nMの各抗体の混合物として試験した。イサツキシマブはCD38の加水分解酵素活性を部分的に(60%)阻害した。各UniAbは、加水分解酵素活性の部分遮断薬でもあった。これらの部分的遮断薬の混合物は、それ自体でイサツキシマブよりも強力にCD38の加水分解酵素活性を阻害することはできなかった。
【0199】
図14は、各UniAbの混合物によるCD38の加水分解酵素活性の阻害を示す。UniAb CD38_F12Aは、400nMで個別に試験し、他のUniAbと各抗体200nMで混合した。CD38_F12Aは、CD38の加水分解酵素活性を部分的に(約50%)阻害した。CD38の他の部分阻害剤は、CD38の加水分解酵素活性を阻害するうえでCD38_F12Aとの相乗効果を示さなかった。例えば、CD38_F13Aは、イサツキシマブと組み合わせた場合に相乗効果を示すが、CD38_F12Aと組み合わせて投与した場合には阻害を増強しない。
【0200】
図15は、各UniAbの混合物によるCD38の加水分解酵素活性の阻害を示す。UniAb CD38_F11Aは、400nMで個別に試験し、他のUniAbと各抗体200nMで混合した。CD38_F11Aは、CD38の加水分解酵素活性を部分的に(約58%)阻害した。CD38の他の部分阻害剤は、CD38の加水分解酵素活性を阻害するうえでCD38_F11Aとの相乗効果を示さなかった。例えば、CD38_F13Aは、イサツキシマブと共に投与した場合に相乗効果を示すが、CD38_F11Aと組み合わせた場合には阻害を増強しない。
【0201】
図16は、CHO細胞上で発現させたヒトCD38の加水分解酵素活性の、図11に示される四価のUniAb(商標)による酵素阻害を示す(パネルBはCD38F12A_2GS_CD38F11Aのフォーマットを表し、パネルAはCD38F12A_ IH/CD38F11A_IgKのフォーマットを表す)。全体的な設計は、最初に最も遠位に位置するVHの抗原結合ドメイン(ID)、次にリンカーのグリシン-グリシン-グリシン-グリシン-セリン(GGGGS(配列番号29))、次にFc領域の近位に位置するVHの抗原結合ドメイン(ID)となっている。四価の各UniAb(商標)をヒトIgG4 Fc領域と共に発現させた。いずれの四価抗体もCD38の加水分解酵素活性を完全に阻害し、同等の効力を示した(パネルAのフォーマットのIC50=8.6nMに対してパネルBのフォーマットのIC50=4.5nM)。
【0202】
実施例4:DSS大腸炎モデルにおける加水分解酵素阻害性UniAbの有効性
手順の説明:C57BL/6マウスまたはヒトCD38ノックインマウスに飲料水中でDSS(0.5%~5%)を与える。低用量(0.5%~3%)では慢性大腸炎の発症をもたらし、高用量(2%~5%)では急性大腸炎の発症をもたらす。大腸炎の後、体重、潜血、及び腸の炎症の他のマーカーを測定する(Chassaing,B.,et al.,“Dextran sulfate sodium(DSS)-induced colitis in mice.”Curr Protoc Immunol,2014. 104:p.Unit 15 25)。体重、腸組織の組織学的検査、及び結腸の長さを用いて処置の有効性の評価を行う(Chassaing,B., et al.,“Dextran sulfate sodium(DSS)-induced colitis in mice”,Curr Protoc Immunol,2014,104:p.Unit 15 25)。マウスに週1回、2回、または3回、選択したUniAbを0.5mg / kg~5mg / kgの範囲の用量で静脈内注射することによって処置する。
【0203】
動物及び種の選択:実験は、ヒトCD38ノックインモデルまたは野生型マウスで行う。C57BL/Cマウス系統または他の感受性マウス系統が使用されており、ヒトにおけるIBDの広く受け入れられているモデルとなっている。性別:雄と雌、年齢:4週~2~3歳。体重:可変。
【0204】
C57BL/6マウスにおけるヒトCD38構成的ノックインモデルの作製:エクソン1及び部分的イントロン1のコード配列を、「ヒトCD38のCDS-polyA」カセットに置き換える。ターゲティングベクターを作製するため、C57BL/6ライブラリーからのBACクローンRP24-163F10またはRP23-58C20をテンプレートとして使用したPCRによって相同性アームを生成する。ターゲティングベクター内で、NeoカセットはSDA(自己欠失アンカー)部位で挟まれている。DTAをネガティブセレクションに使用する。C57BL/6ES細胞を遺伝子ターゲティングに使用する。ヒトCD38導入遺伝子についてヘテロ接合性のファウンダー動物を作製し、その後、交配させてホモ接合性とする。
【0205】
サンプルサイズ:各群8匹以上の動物を飲料水中のDSSに曝露し、加水分解酵素ブロッキング抗体またはコントロール抗体で処置する。一部の測定は、確実な生物学的及び統計的検出力を得るために少なくとも2~3回繰り返す。一般的に、過去の生化学的及び生理学的研究では、n=4~6匹の動物のサンプルサイズが、2標本t検定を両側有意水準0.05で用いて各処置条件間で1.6SD単位の有効サイズを検出するうえで適当な統計的検定力(つまり、80%の検定力)を与えることが示されている。抗CD38抗体は、DSS動物モデルにおいて炎症を統計的に有意に減少させ、臨床スコア(体重、便中の血液、及び下痢の複合)を改善する。
【0206】
実施例5:CD38加水分解酵素活性の阻害
CD38加水分解酵素活性を阻害する本発明の実施形態による異なる結合化合物の能力を評価した。各結合化合物を、20mMクエン酸塩、100mM NaCl、pH6.2中、0.97mg / mLの濃度で配合した。試験物質は使用当日まで-80℃で冷凍保存した。細胞表面のCD38加水分解酵素活性を、ヒトCD38を発現するように安定的にトランスフェクトしたCD38陽性細胞株であるDaudi、Ramos、及びCHO細胞を使用して評価した。各CD38陽性細胞株を、抗体の存在下または非存在下でエテノNAD基質とインキュベートした。300nmの励起と410nmの発光における蛍光を経時的に測定した。
【0207】
細胞表面CD38加水分解酵素阻害アッセイ:300nmの励起及び410nmの発光における蛍光をSpectraMax i3xで経時的に分析した。飽和する前の時点で非処理RLUを実験RLUで割って、最大CD38活性の割合(%)を求める。
【0208】
図17に示される結果は、各結合化合物が、ヒトCD38を発現するように安定的にトランスフェクトしたDaudi、Ramos、及びCHO細胞上の細胞表面CD38の加水分解酵素活性をそれぞれ3.4 nM、5.1 nM、及び9.0nMのEC50値で強力に阻害することを示している。最大阻害率は82~88%の範囲であった。これらの結果は、各結合化合物が細胞表面CD38の加水分解酵素活性の強力な阻害剤であることを示している。
【0209】
実施例6:アイソタイプ及び各価数フォーマットの活性の概要
本発明の実施形態による異なる結合化合物、ならびに参照結合化合物としてイサツキシマブ及びダラツムマブについて酵素阻害活性、細胞結合活性、及びアポトーシス活性を評価した。これらの活性の相対レベルを定量化し、図18に表の形に要約して示す。
【0210】
実施例7:NAD+アッセイ
CD38のエクトNMNase活性を本発明の結合化合物により遮断することによって、CD38を発現するB細胞株Ramos及びDaudi内でNAD+のNMN介在性の増加が高まるかどうかを評価する実験を行った。このアッセイは、NAD+がNADHに還元される酵素サイクリング反応に基づいたものである。NAD+は、比色プローブと反応して着色生成物を生成する。色の濃さは、試料中のNAD+及びNADHに比例する。酸化型が塩基性溶液中で加熱することにより選択的に破壊されるのに対して、還元型は酸性溶液中で安定的でない。
【0211】
各結合化合物を、20mMクエン酸塩、100mM NaCl、pH6.2中、0.97mg / mLの濃度で配合した。試験物質は使用当日まで-80℃で冷凍保存した。
【0212】
図19に示される結果は、二重特異性、二価の三本鎖結合化合物が、DaudiまたはRamos細胞でNMNの存在下で、NMNの非存在下と比較してNAD +レベルを著しく増加させたことを示している。これらの結果は、DaudiではなくRamosにおいてイサツキシマブの場合にNAD+増加に微妙な差があることを示している。これはおそらく、イサツキシマブはCD38酵素遮断薬でもあるが、細胞の直接アポトーシスも誘発し、RamosがDaudiよりも感受性が低いことによるものと考えられる。イサツキシマブは24時間でDaudi細胞の直接アポトーシスを引き起こす。
【0213】
NAD+のそのような増加は、アイソタイプ処理細胞では、または結合化合物の非存在下では観察されず、NMNの存在下または非存在下でのNAD+の増加の効果がCD38酵素活性の阻害と完全に関連していることを示している。
【0214】
実施例8:MLRにおけるT細胞の増殖
混合リンパ球反応(MLR)を活性化することなくCD38加水分解酵素活性を阻害する本発明の実施形態による異なる結合化合物の能力を評価した。MLRは、MHCが一致しない免疫細胞同士が相互作用し、T細胞の過剰増殖及びサイトカイン放出の悪化による免疫反応を誘発する場合に生じる。この現象は、T細胞結合抗体、または一般にエフェクター機能を示す治療抗体でより顕著である。各結合化合物を、20mMクエン酸塩、100mM NaCl、pH6.2中、0.97mg / mLの濃度で配合した。試験物質は使用当日まで-80℃で冷凍保存した。
【0215】
CD4 T細胞の増殖及びIFNγ産生を評価する分析を行った。結果を表20に示す。パネルAは、二重特異性、二価の三本鎖結合化合物が、CD4 T細胞増殖の割合(%)の増加を引き起こさなかったのに対して、ダラツムマブではCD4 T細胞増殖の増加をもたらしたことを示している。CD4 T細胞増殖の割合(%)は、他の様々な結合化合物についてパネルCにも示されている。IFNγ産生はパネルBに示され、ダラツムマブがIFNγ産生の増加を引き起こしたのに対して、他の結合化合物はIgG4 istpコントロールと比較してIFNγ産生に影響しなかったことを示している。
【0216】
この研究の結果は、ダラツムマブがMLRの際のT細胞増殖及びIFNγ産生を悪化させるのに対して、二重特異性の二価の三本鎖結合化合物はMLRの際のT細胞活性化を誘導しないことを示している。
【0217】
実施例9:IgG4二価によるシクラーゼの部分的阻害
図10のパネルDに示されるような二重特異性、二価の三本鎖結合化合物がCD38シクラーゼ活性を阻害する能力を評価した。結合化合物を、20mMクエン酸塩、100mM NaCl、pH6.2中、0.97mg / mLの濃度で配合した。試験物質は使用当日まで-80℃で冷凍保存した。細胞表面のCD38シクラーゼ活性を、ヒトCD38を発現するように安定的にトランスフェクトしたCD38陽性細胞株であるDaudi、Ramos、及びCHO細胞を使用して評価した。各CD38陽性細胞株を、結合化合物の存在下または非存在下でNGD+基質とインキュベートした。300nmの励起と410nmの発光における蛍光を経時的に測定した。
【0218】
細胞表面CD38シクラーゼ酵素阻害アッセイ:300nmの励起及び410nmの発光における蛍光をSpectraMax i3xで経時的に分析した。飽和する前の時点で非処理RLUを実験RLUで割って、最大CD38活性の割合(%)を求める。
【0219】
図21に示される結果は、二重特異性、二価の三本鎖結合化合物が、ヒトCD38を発現するように安定的にトランスフェクトしたRamos、Daudi、及びCHO細胞株上のCD38のシクラーゼ活性を、それぞれ3.3nM、1.6nM、及び29.2nMのEC50値で部分的に阻害したことを示している。最大阻害率は57~61%の範囲であった。これらの結果は、結合化合物がCD38シクラーゼ活性の部分阻害剤であることを示している。
【0220】
実施例10:オンターゲット及びオフターゲットの細胞結合
図11のパネルDに示されるような二重特異性、二価の三本差結合化合物のオンターゲット及びオフターゲットの細胞結合の評価を行った。結合化合物を、20mMクエン酸塩、100mM NaCl、pH6.2中、0.97mg / mLの濃度で配合した。試験物質は使用当日まで-80℃で冷凍保存した。CD38陽性及びCD38陰性細胞株への結合をフローサイトメトリーを使用して評価した。使用したCD38陽性細胞株は、CD38を安定的に発現するようにトランスフェクトしたDaudi、Ramos、及びCHO細胞株であった。使用したCD38陰性細胞株は、293-Freestyle、HL-60、K562、及びCHOであった。
【0221】
細胞結合のフローサイトメトリー分析: 染色していないウェルの平均MFIをバックグラウンドシグナルとして設定した。各実験試料のバックグラウンドに対する倍数を計算するため、実験試料のMFIを平均バックグラウンドMFIで割った。
【0222】
図22に示される標的細胞結合の結果は、二重特異性、二価の三本鎖結合化合物が、それぞれ50.25nM、70.2nM、及び39.67nMのEC50値でRamos、CHO HuCD38、及びDaudi細胞に結合することを示している。二重特異性、二価の三本差結合化合物は、図23に示されるように、試験したCD38陰性細胞株(293-Freestyle、CHO、K562、及びHL-60)に結合していない。これらの結果は、二重特異性、二価の三本鎖結合化合物がCD38に特異的に結合し、オフターゲット細胞株には結合しないことを示している。
【0223】
実施例11:直接アポトーシス
図10のパネルDに示されるような二重特異性、二価の三本鎖結合化合物が直接アポトーシスを誘導する能力を評価した。結合化合物を、20mMクエン酸塩、100mM NaCl、pH6.2中、0.97mg / mLの濃度で配合した。試験物質は使用当日まで-80℃で冷凍保存した。
【0224】
直接アポトーシスの誘導は、フローサイトメトリーを使用したアネキシンV及び7-AAD染色によって評価した。アネキシンVは、原形質膜の外側のリーフレットに存在する場合にアポトーシスのマーカーとなるホスファチジルセリンに結合する能力によってアポトーシス細胞を検出するために一般的に使用されている。7-AADは、膜が損傷している死にかけの細胞または死んだ細胞に取り込まれる二本鎖DNAに結合する。この研究で使用したCD38陽性細胞株はDaudi及びRamos細胞であった。
【0225】
直接アポトーシスのフローサイトメトリー分析:クワッドゲートを用いて初期アポトーシス細胞(アネキシンV+、7-AAD-)、後期アポトーシス(アネキシンV+、7-AAD+)、及び生細胞(アネキシンV+、7-AAD+)を区別した。結合化合物の濃度をGraphpadPrism 8の生存率に対してプロットした。得られたプロットを非線形回帰に当てはめてEC50を決定した。
【0226】
図24に示される結果は、二重特異性、二価の三本鎖結合化合物の結合が、Daudi細胞またはRamos細胞のいずれの直接アポトーシスも引き起こさなかったことを示している。イサツキシマブの結合は、Daudi細胞及びRamos細胞の両方に直接アポトーシスを引き起こし、最大アポトーシス率はそれぞれ57%と37%であった。これらの結果は、二重特異性、二価の三本鎖結合化合物が、結合時にCD38陽性細胞の望ましくないアポトーシスを引き起こさないことを示している。
【0227】
添付の特許請求の範囲にかかわらず、本開示は以下の条項によっても定義される。
【0228】
1.エクト酵素上の第1のエピトープに結合親和性を有する第1のポリペプチドと、エクト酵素上の第2の重複しないエピトープに結合親和性を有する第2のポリペプチドと、を含む、二重特異性結合化合物。
【0229】
2.前記第1のポリペプチドが前記第1のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む、条項1に記載の二重特異性結合化合物。
【0230】
3.前記第2のポリペプチドが、前記第2のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む、条項2に記載の二重特異性結合化合物。
【0231】
4.前記第1及び第2のポリペプチドがそれぞれ、ヒンジ領域の少なくとも一部を含む、条項1に記載の二重特異性結合化合物。
【0232】
5.前記第1及び第2のポリペプチドがそれぞれ、少なくとも1つのCHドメインを含む、条項4に記載の二重特異性結合化合物。
【0233】
6.前記CHドメインが、CH2及び/またはCH3及び/またはCH4ドメインを含む、条項5に記載の二重特異性結合化合物。
【0234】
7.前記CHドメインが、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む、条項6に記載の二重特異性結合化合物。
【0235】
8.前記CHドメインが、CH2ドメイン、CH3ドメイン、及びCH4ドメインを含む、条項6に記載の二重特異性結合化合物。
【0236】
9.前記CHドメインが、ヒトIgG1のFc領域を含む、条項6に記載の二重特異性結合化合物。
【0237】
10.前記ヒトIgG1のFc領域領域が、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域である、条項9に記載の二重特異性結合化合物。
【0238】
11.前記CHドメインが、ヒトIgG4のFc領域を含む、条項6に記載の二重特異性結合化合物。
【0239】
12.前記ヒトIgG4のFc領域領域が、サイレンシングされたヒトIgG4のFc領域である、条項11に記載の二重特異性結合化合物。
【0240】
13.前記CHドメインが、CH1ドメインを含まない、条項6に記載の二重特異性結合化合物。
【0241】
14.前記第1及び第2のポリペプチドの前記CH2及び/または前記CH3及び/または前記CH4ドメイン間に非対称的界面を含む、条項6に記載の二重特異性結合化合物。
【0242】
15.前記第1のポリペプチドが、前記第1のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第1の抗原結合ドメインと、前記第2のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第2の抗原結合ドメインとを含む、条項1に記載の二重特異性結合化合物。
【0243】
16.前記第1と前記第2の抗原結合ドメインとがポリペプチドリンカーによって連結されている、条項15に記載の二重特異性結合化合物。
【0244】
17.前記ポリペプチドリンカーが、配列番号45の配列からなる、条項16に記載の二重特異性結合化合物。
【0245】
18.前記第2のポリペプチドが、前記第1のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第1の抗原結合ドメインと、前記第2のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第2の抗原結合ドメインとを含む、条項15に記載の二重特異性結合化合物。
【0246】
19.前記第1と前記第2の抗原結合ドメインとがポリペプチドリンカーによって連結されている、条項18に記載の二重特異性結合化合物。
【0247】
20.前記ポリペプチドリンカーが、配列番号45の配列からなる、条項19に記載の二重特異性結合化合物。
【0248】
21.前記第1及び第2のポリペプチドがそれぞれ、ヒンジ領域の少なくとも一部を含む、条項15に記載の二重特異性結合化合物。
【0249】
22.前記第1及び第2のポリペプチドがそれぞれ、少なくとも1つのCHドメインを含む、条項21に記載の二重特異性結合化合物。
【0250】
23.前記CHドメインが、CH2及び/またはCH3及び/またはCH4ドメインを含む、条項22に記載の二重特異性結合化合物。
【0251】
24.前記CHドメインが、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む、条項23に記載の二重特異性結合化合物。
【0252】
25.前記CHドメインが、CH2ドメイン、CH3ドメイン、及びCH4ドメインを含む、条項23に記載の二重特異性結合化合物。
【0253】
26.前記CHドメインが、CH1ドメインを含まない、条項23に記載の二重特異性結合化合物。
【0254】
27.前記CHドメインが、ヒトIgG1のFc領域を含む、条項22に記載の二重特異性結合化合物。
【0255】
28.前記ヒトIgG1のFc領域領域が、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域である、条項27に記載の二重特異性結合化合物。
【0256】
29.前記CHドメインが、ヒトIgG4のFc領域を含む、条項22に記載の二重特異性結合化合物。
【0257】
30.前記ヒトIgG4のFc領域領域が、サイレンシングされたヒトIgG4のFc領域である、条項29に記載の二重特異性結合化合物。
【0258】
31.それぞれが、前記第1のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む第1及び第2の重鎖ポリペプチドと、それぞれが、前記第2のエピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインを含む第1及び第2の軽鎖ポリペプチドと、を含む、条項1に記載の二重特異性結合化合物。
【0259】
32.前記第1及び第2の重鎖ポリペプチドがそれぞれ、ヒンジ領域の少なくとも一部を含む、条項31に記載の二重特異性結合化合物。
【0260】
33.前記第1及び第2の重鎖ポリペプチドがそれぞれ、少なくとも1つのCHドメインを含む、条項31に記載の二重特異性結合化合物。
【0261】
34.前記CHドメインが、CH1及び/またはCH2及び/またはCH3及び/またはCH4ドメインを含む、条項33に記載の二重特異性結合化合物。
【0262】
35.前記CHドメインが、CH1ドメイン及びCH2ドメイン及びCH3ドメインを含む、条項33に記載の二重特異性結合化合物。
【0263】
36.前記CHドメインが、CH2ドメイン、CH3ドメイン、及びCH4ドメインを含む、条項33に記載の二重特異性結合化合物。
【0264】
37.前記第1及び第2の軽鎖ポリペプチドがそれぞれ、CLドメインを含む、条項31に記載の二重特異性結合化合物。
【0265】
38.前記CHドメインが、ヒトIgG1のFc領域を含む、条項33に記載の二重特異性結合化合物。
【0266】
39.前記ヒトIgG1のFc領域領域が、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域である、条項38に記載の二重特異性結合化合物。
【0267】
40.前記CHドメインが、ヒトIgG4のFc領域を含む、条項33に記載の二重特異性結合化合物。
【0268】
41.前記ヒトIgG4のFc領域領域が、サイレンシングされたヒトIgG4のFc領域である、条項40に記載の二重特異性結合化合物。
【0269】
42.前記エクトザイムが、CD38である、条項1~41のいずれか1項に記載の二重特異性結合化合物。
【0270】
43.CD38上の前記第1のエピトープまたは前記第2のエピトープに結合親和性を有する前記重鎖抗体の前記抗原結合ドメインが、(i)配列番号1~5のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR1配列、及び/または(ii)配列番号6~12のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR2配列、及び/または(iii)配列番号13~17のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR3配列を含む、条項42に記載の二重特異性結合化合物。
【0271】
44.前記CDR1、CDR2、及びCDR3配列が、ヒトフレームワーク内に存在する、条項43に記載の二重特異性結合化合物。
【0272】
45.(i)配列番号1~5からなる群から選択されるCDR1配列、及び/または(ii)配列番号6~12からなる群から選択されるCDR2配列、及び/または(iii)配列番号13~17からなる群から選択されるCDR3配列を含む、条項43または44に記載の二重特異性結合化合物。
【0273】
46.(i)配列番号1~5からなる群から選択されるCDR1配列、(ii)配列番号6~12からなる群から選択されるCDR2配列、(iii)配列番号13~17からなる群から選択されるCDR3配列を含む、条項45に記載の二重特異性結合化合物。
【0274】
47.配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列、または、配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列、または、配列番号4のCDR1配列、配列番号11のCDR2配列、及び配列番号17のCDR3配列を含む、条項46に記載の二重特異性結合化合物。
【0275】
48.CD38上の前記第1のエピトープに結合親和性を有する前記重鎖抗体の前記抗原結合ドメインが、配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含み、CD38上の前記第2のエピトープに結合親和性を有する前記重鎖抗体の前記抗原結合ドメインが、配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む、条項47に記載の二重特異性結合化合物。
【0276】
49.配列番号18~28の配列のいずれかに対して少なくとも95%の配列同一性を有する可変領域配列を含む、条項43~48のいずれか1項に記載の二重特異性結合化合物。
【0277】
50.配列番号18~28からなる群から選択される可変領域配列を含む、条項49に記載の二重特異性結合化合物。
【0278】
51.CD38上の前記第1のエピトープに結合親和性を有する前記重鎖抗体の前記抗原結合ドメインが配列番号18の可変領域配列を含み、CD38上の前記第2のエピトープに結合親和性を有する前記重鎖抗体の前記抗原結合ドメインが配列番号23の可変領域配列を含む、条項50に記載の二重特異性結合化合物。
【0279】
52.CD38に結合する重鎖抗体であって、(i)配列番号1~5のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR1配列、及び/または(ii)配列番号6~12のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR2配列、及び/または(iii)配列番号13~17のアミノ酸配列のいずれかに2個以下の置換を有するCDR3配列を含む抗原結合ドメインを含む、前記重鎖抗体。
【0280】
53.前記CDR1、CDR2、及びCDR3配列がヒトフレームワーク内に存在する、条項52に記載の重鎖抗体。
【0281】
54.CH1配列を含まない重鎖定常領域配列をさらに含む、条項52に記載の重鎖抗体。
【0282】
55.(a)配列番号1~5からなる群から選択されるCDR1配列、及び/または(b)配列番号6~12からなる群から選択されるCDR2配列、及び/または(c)配列番号13~17からなる群から選択されるCDR3配列を含む、条項52~54のいずれか1項に記載の重鎖抗体。
【0283】
56.(a)配列番号1~5からなる群からされるCDR1配列、及び(b)配列番号6~12からなる群から選択されるCDR2配列、及び(c)配列番号13~17からなる群から選択されるCDR3配列を含む、条項55に記載の重鎖抗体。
【0284】
57.配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列、または、配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列、または、配列番号4のCDR1配列、配列番号11のCDR2配列、及び配列番号17のCDR3配列を含む、条項56に記載の重鎖抗体。
【0285】
58.配列番号18~28の配列のいずれかに対して少なくとも95%の配列同一性を有する可変領域配列を含む、条項52~57のいずれか1項に記載の重鎖抗体。
【0286】
59.配列番号18~28からなる群から選択される可変領域配列を含む、条項58に記載の重鎖抗体。
【0287】
60.単一特異性である、条項52~59のいずれか1項に記載の重鎖抗体。
【0288】
61.多重特異性である、条項52~59のいずれか1項に記載の重鎖抗体。
【0289】
62.二重特異性である、条項61に記載の重単独抗体。
【0290】
63.同じCD38タンパク質上の2つの異なるエピトープに結合親和性を有する、条項62に記載の重鎖抗体。
【0291】
64.前記2つの異なるエピトープが、重複しないエピトープである、条項63に記載の重鎖抗体。
【0292】
65.エフェクター細胞に結合親和性を有する、条項61に記載の重鎖抗体。
【0293】
66.T細胞抗原に結合親和性を有する、条項61に記載の重鎖抗体。
【0294】
67.CD3に結合親和性を有する、条項66に記載の重鎖抗体。
【0295】
68.CAR-Tフォーマットである、条項52~67のいずれか1項に記載の重鎖抗体。
【0296】
69.第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物であって、(a)第1のCD38エピトープに結合親和性を有する第1のポリペプチドであって、(i)配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む重鎖抗体の抗原結合ドメインと、(ii)ヒンジ領域の少なくとも一部と、(iii)CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインと、を含む前記第1のポリペプチドと、(b)前記第2のCD38エピトープに結合親和性を有する第2のポリペプチドであって、(i)配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む重鎖抗体の抗原結合ドメインと、(ii)ヒンジ領域の少なくとも一部と、(iii)CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインと、を含む前記第2のポリペプチドと、(c)前記第1のポリペプチドの前記CH3ドメインと前記第2のポリペプチドの前記CH3ドメインとの間の非対称的界面と、を含む、前記二重特異性結合化合物。
【0297】
70.ヒトIgG1のFc領域、ヒトIgG4のFc領域、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域、及びサイレンシングされたヒトIgG4のFc領域からなる群から選択されるFc領域を含む、条項69に記載の二重特異性結合化合物。
【0298】
71.第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物であって、2つの同じポリペプチドを含み、各ポリペプチドが、(i)配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む、前記第1のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第1の抗原結合ドメインと、(ii)配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む、前記第2のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の第2の抗原結合ドメインと、(iii)ヒンジ領域の少なくとも一部と、(iv)CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインとを含む、二重特異性結合化合物。
【0299】
72.ヒトIgG1のFc領域、ヒトIgG4のFc領域、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域、及びサイレンシングされたヒトIgG4のFc領域からなる群から選択されるFc領域を含む、条項71に記載の二重特異性結合化合物。
【0300】
73.第1のCD38エピトープ及び第2の重複しないCD38エピトープに結合親和性を有する二重特異性結合化合物であって、(a)それぞれが、(i)抗原配列番号1のCDR1配列、配列番号6のCDR2配列、及び配列番号13のCDR3配列を含む、第1のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の結合ドメインと、(ii)ヒンジ領域の少なくとも一部と、(iii)CH1ドメイン、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むCHドメインと、を含む第1及び第2の重鎖ポリペプチドと、(b)それぞれが、(i)配列番号3のCDR1配列、配列番号9のCDR2配列、及び配列番号16のCDR3配列を含む、第2のCD38エピトープに結合親和性を有する重鎖抗体の抗原結合ドメインと、(ii)CLドメインと、を含む第1及び第2の軽鎖ポリペプチドと、を含む、二重特異性結合化合物。
【0301】
74.ヒトIgG1のFc領域、ヒトIgG4のFc領域、サイレンシングされたヒトIgG1のFc領域、及びサイレンシングされたヒトIgG4のFc領域からなる群から選択されるFc領域を含む、条項73に記載の二重特異性結合化合物。
【0302】
75.条項1~74のいずれか1項に記載の結合化合物または重鎖抗体を含む、医薬組成物。
【0303】
76.条項52~68のいずれか1項に記載の結合化合物または重鎖抗体と、CD38に結合する第2の抗体とを含む、治療的組み合わせ。
【0304】
77.前記CD38に結合する第2の抗体が、イサツキシマブまたはダラツムマブである、条項76に記載の治療的組み合わせ。
【0305】
78.CD38の発現を特徴とする疾患を治療するための方法であって、前記疾患を有する対象に条項1~74のいずれか1項に記載の結合化合物もしくは重鎖抗体、または条項75に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【0306】
79.前記疾患が、CD38の加水分解酵素酵素活性によって特徴付けられる、条項78に記載の方法。
【0307】
80.前記疾患が、大腸炎である、条項78に記載の方法。
【0308】
81.前記疾患が、多発性骨髄腫(MM)である、条項78に記載の方法。
【0309】
82.前記疾患が、自己免疫疾患である、条項78に記載の方法。
【0310】
83.前記疾患が、関節リウマチ(RA)である、条項82に記載の方法。
【0311】
84.前記疾患が、尋常性天疱瘡(PV)である、条項82に記載の方法。
【0312】
85.前記疾患が、全身性エリテマトーデス(SLE)である、条項82に記載の方法。
【0313】
86.前記疾患が、多発性硬化症(MS)、全身性強皮症または線維症である、条項82に記載の方法。
【0314】
87.前記疾患が、虚血性損傷である、条項78に記載の方法。
【0315】
88.前記虚血性損傷が、虚血性脳損傷、虚血性心臓損傷、虚血性胃腸損傷、または虚血性腎臓損傷である、条項87に記載の方法。
【0316】
89.CD38に結合する第2の抗体を前記対象に投与することをさらに含む、条項78~88のいずれか1項に記載の方法。
【0317】
90.前記CD38に結合する第2の抗体が、イサツキシマブまたはダラツムマブである、条項89に記載の方法。
【0318】
91.条項1~74のいずれか1項に記載の結合化合物または重鎖抗体をコードするポリヌクレオチド。
【0319】
92.条項91に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【0320】
93.条項92に記載のベクターを含む細胞。
【0321】
94.前記結合化合物または前記重鎖抗体の発現を許容する条件下で条項86に記載の細胞を増殖させることと、前記細胞及び/または前記細胞を増殖させた細胞培養培地から前記結合化合物または前記重鎖抗体を単離することと、を含む、条項1~74のいずれか1項に記載の結合化合物または重鎖抗体を生産する方法。
【0322】
95.UniRat動物をエクト酵素で免疫することと、エクト酵素結合重鎖配列を同定することと、を含む、条項1~74のいずれか1項に記載の結合化合物または重鎖抗体を製造する方法。
【0323】
以上、本発明の好ましい実施形態について本明細書に図示及び記載したが、かかる実施形態はあくまで実例として与えられるものに過ぎない点は当業者には明らかであろう。ここで、当業者には、多数の変形、変更、及び置換を本発明から逸脱することなく想定されるであろう。本明細書に記載される発明の実施形態の様々な代替物を本開示の実施に当たって用いることが可能である点を理解されたい。以下の特許請求の範囲が本発明の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲に含まれる方法及び構造、ならびにそれらの等価物が特許請求の範囲によって網羅されるものとする。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【配列表】
2022505445000001.app
【国際調査報告】