(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】自壊性系
(51)【国際特許分類】
C07F 9/50 20060101AFI20220106BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C07F9/50 CSP
G01N21/64 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521748
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(85)【翻訳文提出日】2021-04-21
(86)【国際出願番号】 GB2019000150
(87)【国際公開番号】W WO2020089571
(87)【国際公開日】2020-05-07
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390040604
【氏名又は名称】イギリス国
【氏名又は名称原語表記】THE SECRETARY OF STATE FOR DEFENCE IN HER BRITANNIC MAJESTY’S GOVERNMENT OF THE UNETED KINGDOM OF GREAT BRITAIN AND NORTHERN IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ヘイズ ウェイン コード
(72)【発明者】
【氏名】サンブルック マーク ロドニー
(72)【発明者】
【氏名】ルルー フラヴィアン
(72)【発明者】
【氏名】アクトン アーロン
(72)【発明者】
【氏名】フェウラ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエル アレキサンダー ガブリエル
【テーマコード(参考)】
2G043
4H050
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA14
2G043DA02
2G043EA01
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB99
4H050WA19
4H050WA21
(57)【要約】
本発明は、求電子化合物、とりわけアルキル化剤のための自壊性認識および/または応答系であって、アルキル化剤の顕示または検出を含むことができる、自壊性認識および/または応答系に関する。本発明は、とりわけ、非プロトン誘発性の自壊性系、分子、および方法、特に、非プロトン性求電子作用剤、とりわけ、農薬もしくは燻蒸剤、または化学兵器剤中に見出され得るアルキル化剤、例えば、ハロゲン化アルキルまたはベンジルを検出するための該系、分子、および方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性求電子作用剤により誘発されるのに好適な自壊性分子であって、自壊性部分を介して少なくとも1つの放出可能部分に連結された少なくとも1つのトリガー部分を含み、トリガー部分が、中性求核基-R
3SR
1、-R
3NR
1R
2または-R
3PR
1R
2、-R
3AsR
1R
2(式中、R
1およびR
2は、H、アルキル、アリール、およびヘテロアリールから選択され、Sは、硫黄であり、Nは、窒素であり、Pは、リンであり、Asは、ヒ素であり、R
3は、β-脱離を受けることが可能な化学部分であり、自壊性部分の少なくとも一部である)から選択される中性求核基を含む、自壊性分子。
【請求項2】
少なくとも1つのトリガー部分が中性求核基-R
3PR
1R
2を含む、請求項1に記載の自壊性分子。
【請求項3】
R
1および/またはR
2が、フェニル官能基または置換フェニル官能基を含む、請求項2に記載の自壊性分子。
【請求項4】
少なくとも1つの放出可能部分が、放出時に検出/測定可能な応答を発生させることが可能である、請求項1~3のいずれか1項に記載の自壊性分子。
【請求項5】
検出/測定可能な応答が色または蛍光の発生である、請求項4に記載の自壊性分子。
【請求項6】
自壊性部分が官能基-OC(O)-または-SC(S)-を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の自壊性分子。
【請求項7】
複数の放出可能部分を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の自壊性分子。
【請求項8】
以下の構造式を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の自壊性分子。
【化1】
(式中、Nuは、S、P、AsまたはNであり、R
1およびR
2は、H、アルキル、アリールまたはヘテロアリール官能基(ただし、NuがSである場合、R
2は存在しない)であり、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、0~3個のメチル(CH
3)基と、少なくとも1つのニトロ(NO
2)基とを含み、残りは水素(H)原子である)
【請求項9】
R
6が、NO
2であり、R
4、R
6、R
7およびR
8が、Hである、請求項8に記載の自壊性分子。
【請求項10】
Nuが、Pであり、R
1および/またはR
2が、フェニル官能基または置換フェニル官能基である、請求項8または9に記載の自壊性分子。
【請求項11】
以下の構造式を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の自壊性分子。
【化2】
(式中、Nuは、S、P、AsまたはNであり、R
1およびR
2は、H、アルキル、アリールまたはヘテロアリール官能基(ただし、NuがSである場合、R
2は存在しない)であり、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、少なくとも1つの放出可能部分に各々連結された少なくとも2つの自壊性部分を含む)
【請求項12】
非プロトン性求電子作用剤を含む疑いのある試料を調べるための自壊誘発性方法であって、緩塩基の存在下で試料を請求項1~11のいずれか1項に記載の自壊性分子と接触させることを含む、自壊誘発性方法。
【請求項13】
求電子作用剤がアルキル化剤である、請求項12に記載の自壊誘発性方法。
【請求項14】
緩塩基がジイソプロピルエチルアミンである、請求項12または13に記載の自壊誘発性方法。
【請求項15】
試料をヨウ化物塩の存在下で自壊性分子とさらに接触させる、請求項12~14のいずれか1項に記載の自壊誘発性方法。
【請求項16】
化学兵器剤の検出における、請求項1~11のいずれか1項に記載の自壊性分子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、求電子化合物、とりわけアルキル化剤のための認識および/または応答系であって、アルキル化剤の顕示(disclosure)もしくは検出を含むことができ、かつ/または化学試薬の放出、例えば、アルキル化剤と反応する、例えば作用剤を中和もしくは除染する、またはさらなる化学反応を推進する、例えばアルキル化剤に対する治療もしくは処置を開始もしくは提供する、化学試薬の放出を含むことができる、認識および/または応答系に関する。放出された化学試薬はまた、アルキル化剤のゲル化または金属イオン封鎖を開始することができる。本発明は、とりわけ、化学兵器剤もしくは農薬、または関連物質の検出および/または除染に関する。
本発明はまた、非プロトン誘発性の自壊性系、分子、および方法、特に、非プロトン性求電子作用剤、例えば化学兵器剤、とりわけ、農薬もしくは燻蒸剤、または化学兵器剤中に見出され得るアルキル化剤、例えば、ハロゲン化アルキルまたはベンジルを検出するための該系、分子、および方法に関する。本発明は、化学兵器剤、とりわけアルキル化化学兵器剤の検出または顕示を達成するための自壊性分子および方法であって、比色分析に基づく検出を可能にできる、自壊性分子および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
化学兵器剤の顕示および検出、測定ならびに除染のための有効な方法の必要性が近年高まっている。検出に使用される方法は、特定の作用剤の存在を検出することができるのみでなく、可能な限り感受性である必要もあり、好ましくは定量的であり、かつ作用剤、または作用剤のクラスを同定することができるべきである。大部分の化学兵器剤は、求電子化合物として分類される。特に懸念されるのは、極度の毒性を理由としてGおよびVシリーズの神経剤(リン酸化剤)であるが、アルキル化剤である硫黄マスタード(例えばHおよびHD)、および窒素マスタード(例えばHN1、HN2およびHN3)もまた懸念される。それらを検出および同定する現在の手法は、質量分析と連動したガスクロマトグラフィー(GCMS)、イオン移動度分光分析、赤外分光法およびラマン分光法を含み、これらはすべて、大量の機器に基づく。微量の作用剤を検出する能力は、これらの技法の感受性の限界の結果として、特に課題となり得る。特に、現場配備可能な技術を開発することが必要である。
その結果、感受性を上昇させ、機器の必要性を低減または排除することが可能であり、かつ、好ましくは周囲温度で実施することができ、これにより、試料を加熱する必要をなくす、化学兵器剤を検出する新たな技法/手法が必要である。特に、容易に現場配備可能とすることができる系および方法が必要である。
【発明の概要】
【0003】
したがって、本発明は、一般に、求電子化合物、とりわけ化学兵器剤、さらにとりわけアルキル化剤を認識し、それに応答するのに好適な新たな技法/手法を提供することを目的とし、該技法は、特に、検出および現場配備可能性を可能とし、かつ、感受性をさらに改善し、機器の必要性を低減し、かつ/または検出を達成するために加熱を適用する必要性を低減するもしくはなくすことができる。
よって、第1の態様では、本発明は、非プロトン性求電子化合物/作用剤により誘発されるのに好適な自壊性分子であって、自壊性部分を介して少なくとも1つの放出可能部分に連結された少なくとも1つのトリガー部分を含み、トリガー部分が、中性求核基-R3SR1、-R3NR1R2、-R3PR1R2またはR3AsR1R2(式中、R1およびR2は、H、アルキル、アリールまたはヘテロアリールから選択され、Sは、硫黄であり、Nは、窒素であり、Pは、リンであり、Asは、ヒ素であり、R3は、β-脱離を受けることが可能な化学部分であり、したがって、R3は、自壊性部分の少なくとも一部である)から選択される中性求核基を含む、自壊性分子を提供する。
【0004】
本出願人は、Sベースの中性求核基を含む分子は、一般に、緩慢に誘発されるが、かなり急速なβ-脱離ステップを受け、Nベースの中性求核基を含む分子もまた、一般に、緩慢な誘発ステップを有し、続いて非常に緩慢なβ-脱離ステップを有する(またはさらに一部の場合には有さない)のに対し、Pベースの中性求核基は、一般に、誘発ステップ1とβ-脱離ステップ2との間の良好なバランスを有することに注目した。したがって、一実施形態では、トリガー部分は、中性求核基-R3SR1、および-R3PR1R2(式中、R1およびR2は、H、アルキル、アリール、またはヘテロアリールから選択され、Sは、硫黄であり、Pは、リンであり、R3は、β-脱離を受けることが可能な化学部分である)から選択される中性求核基を含む。好ましい実施形態では、中性求核基は、R3PR1R2であり、その理由は、そのような種は、誘発およびβ-脱離のスピードの良好なバランスを有するからである。
【0005】
好ましい実施形態では、中性求核基は、R3PR1R2(式中、R1および/またはR2は、フェニル官能基または置換フェニル官能基である)である。そのような中性求核基を含むトリガー部分は、自壊性分子、とりわけいずれもフェニル官能基または置換フェニル官能基を含むR1およびR2を有する自壊性分子において特に有効であることが示された。
一実施形態では、求電子化合物/作用剤は、化学兵器剤である。別の実施形態では、求電子化合物/作用剤は、アルキル化剤であり、このアルキル化剤はまた、化学兵器剤であってもよい。
本出願人は、非プロトン性求電子種、例えばアルキル化剤、例えば、ハロゲン化アルキルおよびベンジルにより誘発されることが可能である選択的自壊性系の第1の例となる自壊性分子を設計し、合成した。
【0006】
自壊性分子/系は、当技術分野で公知であり、少なくとも1つのトリガー部分と、少なくとも1つの放出可能部分(これはレポーター部分とすることもできる)と、自壊性部分とを含み、それにより、ある特定の条件下で、トリガー部分が除去または活性化されて、分子の自己カスケード分解(自壊)を引き起こし、それにより、放出可能部分を放出し得る。
自壊性系は、所定の開裂事象、または一続きの事象時に、化学部分(放出可能部分)、または複数の化学部分を放出するように設計される。それらは、例えば、多様な治療、検出、同定、診断および他の産業用途において有益に使用することができる。
自壊性脱離は、広範な系(主として薬物送達)における技法として活用されており、活性化時に不安定となる、保護基と脱離基との間の安定な結合を利用する。古典的な自壊性リンカーは、トリガー部分とともに、保護基を結び付け、これは、トリガー部分からの開裂時に活性種を生成し、脱離基(放出可能部分またはレポーター部分)を放出する。
【0007】
古典的な自壊性化学反応は、求核剤(例えば、過酸化物、フッ化物、チオール)がトリガー部分を活性化または脱保護して、電子が豊富な求核中心の生成によって自壊性部分を不安定にし、これが放出可能部分の放出または遊離に至ることにより作用する。
自壊性事象を誘発するこの古典的な手法の明白な例外は、中和後に、求核アミンを出現させるカルバミン酸tert-ブチル(t-Boc)基のプロトン性開裂である。しかしながら、この挙動は、プロトンのみに特有である。他の任意の求電子種/作用剤、例えばアルキル化剤の場合、中性求核基、例えばt-Boc中の酸素との反応は、求核基への変換がさらにより困難となるカチオン種を生成する。さらに、本発明の自壊性分子は、プロトン化されている場合、自壊性分解を受けず、その結果、放出可能部分、またはレポーター基を放出または遊離させない。したがって、自壊性分子は、重大なことに、プロトン(H+イオン)供与体であるブレンステッド(またはブレンステッド-ローリー)酸と、他の求電子化合物/作用剤、例えばアルキル化剤とを区別することが可能である。
現在まで、非プロトン性求電子種、例えば化学兵器剤、燻蒸剤、農薬および医薬品、特にアルキル化剤のための自壊性化学反応は存在していない。そのような系を生成するための課題は、トリガー事象における電子が豊富な求核中心の間接的生成を可能にするような方式で、非プロトン性求電子種/作用剤に応答する誘発系(誘発部分)を創出することであった。
重大なことに、先に述べたとおり、プロトンは、これらの分子を誘発して自壊させ、放出可能部分を放出させることが不可能であり、これにより、プロトンの存在下で報告しない分子を提供し、これにより、プロトンの存在の結果としての偽陽性の結果を回避する。
【0008】
放出可能部分は、特定の機能を有するように設計され、例えば放出時にその機能が利用または表示され、この機能は、求電子化合物またはアルキル化剤の存在について警告することとすることができる。したがって、放出可能部分は、分子から放出された場合に、求電子種による自壊性分子の分解が起こったことを、例えば色または蛍光の発生によって報告することが可能であるレポーター基とすることができる。
自壊性分子は、2つ以上の放出可能部分またはレポーター基を含んでもよい。例えば、自壊性分子は、誘発され、β-脱離を受けて、複数の放出可能部分/レポーター基を放出することができる複数の放出可能部分または複数のレポーター基を含む、ポリマーまたはデンドリマーとすることができ、これにより、機能または信号を増幅する。
【0009】
一実施形態では、放出可能部分は、放出時に検出/測定可能な応答を発生させることが可能であり、応答は、色または蛍光の発生とすることができる。例えば、放出可能部分は、鮮やかな黄色である、N-メチル-4-ニトロアニリンとして放出されるN-メチル-4-ニトロアニリドとすることができるが、他の好適なレポーター基が当業者に明らかである。したがって、自壊性分子は、放出時に色を発生させることが可能な複数の放出可能部分を含むことができ、これにより、色の強度/大きさを増幅し、これにより、分子を求電子種/化合物に対して潜在的にはるかにより感受性にする。
あるいは、放出可能部分は、特定の機能、例えば治療効果、またはその放出を開始した求電子作用剤の破壊もしくは除染を担う分子、例えば求電子化学兵器剤を除染もしくは破壊することが可能な分子、または求電子化合物の除染を促進する触媒もしくは光触媒基とすることができる。
放出可能部分は、当業者に明らかであるとおり、任意の好適な化学物質、とりわけ放出時に検出/測定可能な応答を発生させること、例えば色または蛍光を発生させることが可能な任意の好適な化学物質とすることができる。放出可能部分は、例えば、フェノール、ニトロフェノール、アニリンもしくはニトロアニリン、または他の芳香族、ヘテロ芳香族もしくは複素環式官能基であって、色を発生させることができるものをベースとするまたは組み込むことができる。放出可能部分はまた、6-アミノキノリンまたはピレンメチルアミンなどの官能基をベースとするまたは組み込むことができる。
【0010】
自壊性部分は、当業者に明らかであるとおり、自壊のための任意の好適な化学的配置を有することができるが、好ましくは、官能基OC(O)(エステル官能基)あるいはSC(S)を含む。自壊性部分は、構造-CH2-OC(O)-を含んでもよい。
自壊性分子は、以下の構造式
【0011】
【化1】
(式中、Nuは、S、P、AsまたはNであり、R
1およびR
2は、H、アルキル、アリールまたはヘテロアリール官能基(ただし、NuがSである場合、R
2は存在しない)であり、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、0~3個のメチル(CH
3)基と、少なくとも1つのニトロ(NO
2)基とを含み、残りは水素(H)原子である)
を有することができる。あるいは、とりわけ自壊性分子がポリマーまたはデンドリマーである場合、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、ニトロ基またはメチル基を含まなくてもよいが、R
4、R
5、R
6、R
7およびR
8は、アルキル、アリールまたはヘテロアリール種であってもよいさらなる自壊性部分(複数の(すなわち、少なくとも2つの)自壊性部分)を含んでもよく、これらの部分は、それら自体、1つまたは複数の放出可能部分またはレポーター基に各々連結されていてもよく、これらの放出可能部分またはレポーター基は、ニトロ官能基またはメチル官能基を含んでもよいアニリドまたは置換アニリドであってもよい。放出可能部分は、例えば、N-メチル-4-ニトロアニリド、または同様の置換アニリド、またはN-メチルもしくはN-アルキルアニリドもしくはニトロアニリドとすることができる。放出可能部分はまた、例えば、フェノール、ニトロフェノール、または他の芳香族、ヘテロ芳香族もしくは複素環式官能基、とりわけ色を発生させることが可能なものをベースとするまたは組み込むことができる。したがって、自壊性分子は、それにより、増幅された応答で色を発生させることが可能な複数のレポーター基を含むことができる。さらなる自壊性部分は、構造OC(O)または-CH2-OC(O)-を含んでもよく、これは、自壊性分子からのβ-脱離の結果としてレポーター基が放出され得るように、レポーター基に連結することができる。
【0012】
Nuは、特に、硫黄(S)、窒素(N)またはリン(P)、とりわけSまたはPであってもよく、その理由は、Nを含有する中性求核基は、一般に、非常に緩慢な(または最小限の)β-脱離を受けることが観察されているからであり、好ましい実施形態では、Nuは、リンであり、その理由は、Pベースの自壊性分子は、トリガー部分を誘発する期間とβ-脱離を受ける期間との間の良好なバランスを有するからである。
【0013】
好ましい一実施形態では、R6は、NO2であり、R4、R6、R7およびR8は、Hであり、放出可能部分は、自壊時に、鮮やかな黄色であり、求電子種の存在を報告するのに特に好適であるN-メチル-4-ニトロアニリンを放出するN-メチル-4-ニトロアニリドである。代替の実施形態における自壊性分子は、複数の放出可能部分を含んでもよく、これらの部分は、複数のN-メチル-4-ニトロアニリド部分、または例えば、色もしくは蛍光を発生させることが可能な代替のレポーター基を含んでもよい。
別の好ましい実施形態では、Nuは、Pであり、R1およびR2は、フェニル官能基または置換フェニル官能基である。求電子種によるトリガー部分の誘発の速度と、結果として生じる放出可能部分を放出するβ-脱離の速度との間のバランスは、トリガー部分がリンを含む中性求核基を含む場合に特に有効である。
【0014】
分子は、本段落の前2段落における2つの好ましい実施形態の両方を含んでもよい。
自壊性分子は、ポリマー性および/またはデンドリマー性とすることができ、複数の放出可能部分を有する可能性、および誘発事象に対する応答を増幅する潜在性を提供し、当技術分野における方法に対して改善された感受性、例えば、アルキル化剤および/または化学兵器剤を検出するためのより感受性の高い方法を潜在的に提供する。標的求電子作用剤とポリマーまたはデンドリマー中のトリガー基の反応は、それにより、例えば構造全体を解重合することができる一連の分子内反応を生じさせることができる。したがって、求電子作用剤とトリガー基との間の単一の反応が、多数の放出可能部分の開裂および放出を生じ得る。放出された化学物質が測定可能/検出可能な応答、例えば色の変化を発生させる場合、この応答は、適切なポリマーまたはデンドリマーを使用することにより著しく増幅することができる。
本発明の第1の態様のこれらの自壊性分子は、緩塩基(mild base)/弱塩基の存在下で求電子種への曝露後に放出可能部分を放出することが可能である。
したがって、第2の態様では、本発明は、非酸性求電子作用剤を含む疑いのある試料を調べるための自壊誘発性方法であって、緩塩基/弱塩基の存在下で試料を第1の態様の自壊性分子と接触させることを含む、自壊誘発性方法を提供する。
【0015】
緩塩基は、有機塩基、例えばトリメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、2,6-ルチジン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン、または1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エンであってもよい。ジイソプロピルエチルアミンは、特に低い求核性も有することから、特に好ましい塩基である。本方法を実施するのに好都合な溶媒は、アセトニトリルであり、この場合、本方法において使用するのに好適な塩基は、約17~約19のpKaH+を有してもよい。
緩塩基/弱塩基はまた、水溶液中で完全には電離しないものと考えられ得る。弱塩基は、プロトン化が不完全である化学塩基としても定義され得る。
自壊プロセスは、中性求核基のアルキル化に続いて、塩基誘導性のβ-脱離が生じる2ステッププロセスであり、次いで、自壊性部分によるさらなるカスケードが生じて、自壊性分子から放出可能部分を開裂し、放出する。
【0016】
第2の態様の方法を実施するための好適な溶媒は、有機溶媒、例えばアセトニトリル、アセトン、N-メチルアセトアミドおよびニトロメタンであってもよく、これらは、水の存在下または非存在下にあり得る。好適な溶媒はまた、水の非存在下または存在下での、イオン液体、例えば1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートを含むことができる。溶媒配合物はまた、エマルションおよびマイクロエマルションを含んでもよい。
【0017】
効率的な検出系および方法のために、すべての必要な試薬が同時に存在し得ること、ならびに副反応を回避しながらアルキル化および脱離反応が逐次的に起こり得ることが重要である。アルキル化-脱離のワンポット反応は、特に、好適な塩基および好適な溶媒の存在下で、上で詳述した分子式(式中、Nuは、Pであり、R1およびR2は、フェニル官能基であり、R6は、NO2であり、R4、R6、R7およびR8は、Hである)を有する自壊性分子を使用して達成することができる。塩基は、例えば、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)とすることができ、これを求電子作用剤の添加前に自壊性分子と混合することができ、これにより、例えば、面倒な分析機器を使用する必要なしに化学兵器剤を検出するためのワンポットの解決策を提供する。
例えばアルキル化剤と併せて使用される場合、自壊性分子のアルキル化はまた、追加の試薬としてのヨウ化物塩、例えばヨウ化ナトリウムまたはテトラブチルアンモニウムヨージドの使用により加速され得る。
本発明をこれから、以下の実施例および図面について論述する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】合成され、求電子作用剤/アルキル化剤を検出する能力について試験された3種の自壊性分子(1~3)の化学式を示す図である。
【
図2】自壊性分子1~3を合成する手法を示す図である。
【
図3】3とアルキル化剤ヨウ化メチル(CH
3I)の反応を通じた自壊性分子3(a)およびその後の生成物(b、c)の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図4】アルキル化剤と本発明の第1の態様による自壊性分子の反応による、放出可能部分の放出、およびこの場合には色の発生のための機構を示す図である。
【
図5】2-ジフェニルホスフィノエタノールおよびN-メチル-カルバモイルクロリド誘導体7~15からの自壊性分子16~24の合成を示す図である。
【
図6】CD
3CN中でアルキル化剤として臭化ベンジルを使用した検出系16~24のアルキル化を示す図である。
【
図7】自壊性分子20によるハーフマスタード(CEES、2-クロロエチルエチルスルフィド)の検出を示す図である。
【
図8】2種の自壊性分子(25、26)を示す図である。これらの分子はいずれも、2つの放出可能部分、2つのN-メチル-4-ニトロアニリド部分を含み、したがって、分子が、色応答信号を増幅することが可能である。
【
図9-10】自壊性分子25を生成する合成経路を詳細に示す図である。
【
図11】自壊性分子26を生成する合成経路を詳細に示す図である。
【
図12】長期保存のための増大した安定性を有する4種の自壊性分子を示す図である。この目的のために、本出願人は、自壊性分子の2つのタイプの誘導体:リン-ボラン付加物(38、40、41)およびプロトン化ホスフィン(39)を調製した。
【
図13】リン-ボラン付加物およびプロトン化ホスフィンが最初のホスフィンに再変換され得るプロセスを示す図である。
【
図14-15】自壊性系19の合成の中間体として、分子38を33から調製することができる2ステッププロセスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0019】
本研究は、化学兵器剤を検出するための代替手段の特定に関するものであった。1つの選択肢は、自壊プロセスを検出手段として検討することであった。克服すべき主要な課題は、多くの化学兵器剤が求電子種であるのに対し、自壊性系の大半は、必要な自壊性カスケードを誘発するのに求核種を必要とすることであった。したがって、求電子剤を含む基質との相互作用により求核基を生成する必要性が、興味深くかつ難しい問題を提起した。
【0020】
本出願人は、プロトンとは異なる、非プロトン性求電子種、例えばアルキル化剤、例えば、ハロゲン化アルキルおよびベンジルにより誘発される選択的自壊性系の第1の例となる一連の潜在的な検出剤(detector)分子を設計することにより、この課題に対処した方法を報告する。本発明の自壊性分子および方法は、重大なことに、プロトンにより誘発されず、このことは、試験/分析され得る多くの試料中に存在し得るプロトンに起因する偽陽性の結果を回避するというさらなる主要な利点を有する。これらの系は、分析機器の必要なしに、緩塩基の存在下で試料への曝露後に、そのような求電子剤に対する視覚比色応答を提供することが可能であり、したがって、これらの試薬を現場で毒性求電子化合物、例えば化学兵器剤の検出のために使用する大きな潜在性がある。
【0021】
求電子剤検出自壊性系の設計は、公知であるが、滅多に用いられない、ウレタンベースの保護基、2-(メチルチオ)エトキシカルボニル(Mteoc)に基づくものであった。Mteoc基の脱保護は、従来、ヨウ化メチル(CH
3IまたはMeI)を使用してチオエーテル基をアルキル化し、続いて塩基を添加してβ-脱離および保護アミン基の遊離を促進することによって、2ステップで円滑化される。本出願人は、Mteoc基を、化学兵器剤の存在を自己顕示することが可能な自壊性分子を生成するように変更し、適合させることができる、求電子剤に不安定なトリガー基として潜在的に使用することができると推測した。
図1に関して、求電子剤への曝露時に着色レポーター基、例えば、N-メチル-4-ニトロアニリンを放出し得る一連の潜在的な分子顕示剤を提案した。
【0022】
アルキル化剤の検出は、(Nu位の)トリガー基のアルキル化により、塩基性条件下で、β-脱離と付随する自壊(脱カルボキシル化)およびレポーター基の放出を生じるα-プロトンの酸性度が上昇することによって達成される。レポーター基は、結合されている場合、無色であるが、放出時に検出媒体の鮮やかな視覚的(黄色)着色が観察され、それにより、アルキル化剤の存在を示す。
求電子剤への曝露時に、着色応答を提供する上でのこれらの顕示系1~3の有効性は、そのアルキル化およびβ-脱離/自壊(脱カルボキシル化)の速度に依存する。機器の使用なしに、現場に配備することができる系を開発するという意図により、系が室温で乾燥溶媒の必要なしに働くべきであることが要求された。したがって、塩基性媒体中で求電子剤/アルキル化剤への曝露時に、レポーター基を放出するため、いずれのトリガー基がアルキル化の速度とその後の脱離の速度との間の最適なバランスを与えたかを特定するために、3個の異なる考えられるトリガー基、つまり、S、NおよびPベースの誘導体(
図1中の1~3)を評価した。窒素類似体2のアルキル化の速度はさらに、1および3の存在下で塩基としてアミンを使用することが可能であるか否かを評価するのに役立った。
【0023】
図2に関して、触媒として4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を使用し、テトラヒドロフラン(THF)中で還流下で加熱して、2-(メチルチオ)エタノール4、2-ジメチルアミノエタノール5または2-ジフェニルホスフィノエタノール6をN-メチル-N-(4-ニトロフェニル)カルバモイルクロリドとコンジュゲートさせることによって、標的自壊性系を得た。
最初のアルキル化の研究は、単純なハロゲン化アルキル(MeI)を使用して実行した。これらがタイプII SN
2反応であることを認識して、分子1~3のアルキル化を、分子を極性非プロトン性溶媒CD
3CNに溶解し、続いて10モル当量のMeIを添加し、
1H-NMRスペクトルを一定の時間間隔で記録することにより反応をモニタリングすることにより実行した。
【0024】
図3に関して、反応の速度を、CD
3CN中の3の溶液へのMeIの添加前後に得られた
1H-NMRスペクトルを使用してモニタリングした。(a)添加前、(b)3の溶液にMeIを添加してから20分後、および(c)アルキル化された3の溶液にDIPEAを添加してから1080分後に、
1H-NMRスペクトルを取得した。類似の実験を分子1および2でも実施した。
アルキル化の速度を、3のN-メチル基に対応する3.2ppmの一重線共鳴の時間についての積分によって計算した。アルキル化は、擬一次反応速度論に従うことが実証され、MeIによる分子3のアルキル化の半減期(t
1/2)は、4.6分であると計算された。分子1および2についてのアルキル化の速度を、類似の様式で対応する
1H-NMRスペクトルを使用して計算し、アルキル化の半減期を表1に示す。1および3のメチル化生成物は、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を添加した場合に脱離を受けて、レポーター単位、N-メチル-4-ニトロアニリド(nitroanilinide)を放出する;その半減期を表1に記録する。アルキル化の速度と脱離の速度との間の最良のバランスが、ホスフィンベースの分子3で達成された。
【0025】
【0026】
次いで、アルキル化および脱離の速度を、表2に示すとおり、検出剤3を異なるアルキル化剤とともに使用して調査した。表2に詳細に示す3種の臭化キシリルは、催涙性化学兵器剤(催涙物質)として歴史的に使用されている。興味深いことに、速度は、恐らく検出剤3のアルキル化の前の、ヨウ化ナトリウムによる求核触媒反応:フィンケルシュタイン交換(Finkelstein displacement)により著しく上昇させることができる。塩化ベンジルの場合のみ、アルキル化は、緩慢であることが証明され、擬一次反応速度論に従わなかった。
【0027】
【0028】
図4に関して、分子1~3を使用した求電子剤/アルキル化剤の検出のための提案された自壊性機構が示されており、式中、Nuは、S、N、Pであり、Xは、I、Br、Clである。
【0029】
求電子試薬のための検出系は、偽陽性を発生させることなく現場で使用することが可能でなければならず、したがって、環境水分に対して安定でなければならない(この場合、ウレタン基の偶発的な加水分解を回避するため)。分子3は、アルキル化剤の検出に成功したことが証明されたが、水性媒体中でのその安定性については、評価が必要であった。したがって、分解研究を、1H-NMR分光法およびCD3CNと10%のD2Oの溶媒混合物を使用して実施した。分子3を10%のD2Oを含むCD3CNに曝露した後、20時間後に1H-NMRスペクトルにおいて著しい分解は観察されず、環境水分に対するその潜在的な安定性が示された。
効率的な検出系を得るために、すべての必要な試薬が同時に存在し得ること、ならびに副反応を回避しながらアルキル化、脱離およびその後の自壊反応が逐次的に起こり得ることが重要である。したがって、アルキル化剤の添加前に分子3を2当量のDIPEAと混合することにより、アルキル化-脱離-自壊のワンポット反応を行った。10当量の臭化ベンジルの添加後、分子3がアルキル化され、次いで、この中間体が脱離および自壊を受けて、レポーター単位、N-メチル-4-ニトロアニリンを生成し、ワンポットのアルキル化-脱離-自壊プロセスが実証された。さらに、DIPEAの添加から10分後よりも著しく早く、N-メチル-4-ニトロアニリンの放出に起因する強い黄色の着色が観察された。
【0030】
本出願人は、多数の自壊性分子の安定性、特に自壊性部分の安定性を調査するさらなる研究を実施した。3のN-CH3基を立体的により大きな基(ベンジルおよびネオペンチル)で置き換えることは、自壊性リンカーの安定性を低減することが見出され、したがって、代わりに放出可能部分(色素単位)の電子的および立体的特性を調整して、所望の安定性を達成することを決定した。3中のN-メチル-p-ニトロアニリド単位の構造およびその共役塩基の安定性により、これはリンカーの安定性の鍵と考えられた。共役塩基の安定性は、芳香族環の周りの負電荷の共鳴に由来し、ニトロ基への追加の共鳴は、この効果を増大させる上で特に重要である。したがって、第1のステップとして、ニトロ基を環上のパラ位からメタ位に移動して、その安定化効果を誘起のみに限定することを決定した。しかしながら、ニトロ基をメタ位に移動することは、安定な自壊性分子(検出剤)を得るのに十分でなかった。したがって、自壊性分子中のカルバメート脱離基に対してオルト/パラ位にメチル基を導入することからなる、新たな手法が想定された。実際、そのような基のとりわけオルト位への導入は、N-C(芳香族)結合にねじれを付与し、カルバメート窒素の孤立電子対が環と共鳴する能力を低減することが知られている。これは、2つの効果を有するはずである:第1に、カルバメートの求電子性の所望の低減;第2に、カルバメート基の脱離性を減少させ、その結果、これらの自壊性分子の安定性を上昇させること。したがって、カルバメートに対してオルト/パラ位で異なる密度のメチル基により置換された新たな自壊性分子を合成した。さらに、メチル基の導入は、着色レポーター基としてのその機能に影響を及ぼさない。
【0031】
図5に関して、先の合成ルートにより、触媒としてDMAPを用いて、THF中で還流下で加熱して、2-ジフェニルホスフィノエタノールをN-メチル-カルバモイルクロリド誘導体7~15とコンジュゲートさせることにより、多数の自壊性分子を得た:これにより、自壊性分子16~24を35~73%の収率で得た。得られた生成物の
1H-NMR分光分析により、異なる自壊性分子について予想された構造、およびその高い純度を確かめることができた。
【0032】
次いで、異なる自壊性分子の安定性を、原液としておよび溶液中の両方で評価した。それぞれパラおよびメタ位にニトロ基を保有する検出系16および19の安定性を最初に評価した。窒素下(ホスフィン単位の酸化を回避するため)、原液として室温で放置して、16および19は、安定でないことが明らかにされた。これらの条件下で、両方の自壊性分子について24時間後に20%超の分解が観察された。保存温度を-20℃に低下させることは、この問題を軽減する上でほとんど有効でなかった。再形成された2-ジフェニルホスフィノエタノールが存在しないことは、これが分子の加水分解という単純な問題でないことを示唆した。対照的に、自壊性分子を溶液中で保持した場合、1H-NMR分光法により確認して、48時間後に分解は認められなかった。
【0033】
化学兵器剤のための検出系は、現場で使用することが可能でなければならず、したがって、環境水分に対して安定でなければならない。したがって、分解研究を、CD3CNと10%のD2Oの溶媒混合物中で1H-NMR分光法を使用して実施した。検出系16および19をこの混合物に曝露した後、17時間後に著しい分解は観察されなかった。ホスフィン単位の緩慢な酸化のみが観察された。この結果は、原液の場合の分解機構が二分子性であり、16および19がそれら自体と反応することを伴うことを示唆する。
【0034】
自壊性分子の安定性を上昇させるために、カルバメート基に対してオルト/パラ位に1つまたは2つのメチル基を含有する分子17、18および20~22を合成した。実際、芳香族環上のオルト-メチルの存在は、N-C(芳香族)結合にねじれを付与し(下記参照)、カルバメート窒素の孤立電子対が環と共鳴する能力を低減する。sp2炭素に付着したメチル基の電子供与能と組み合わされた場合、この効果は、カルバメートカルボニルへの窒素孤立電子対の共鳴の増加を生じるはずである。これは、2つの効果を有するはずである:第1に、カルバメートの求電子性の所望の低減;第2に、16および19と比較してこれらの自壊性系についてカルバメート基の脱離性を減少させること。次いで、これらの分子の安定性を、原液としておよび溶液中の両方で評価した。最初に、窒素下、室温で、異なる自壊性系は、安定であることが明らかにされ、16および19とは対照的に48時間後に分解は観察されなかった。これらの観察は、カルバメート基に対してオルト/パラ位にメチル基を導入することがこれらの自壊性系の安定性に与える強い影響を示す。さらに、これらの検出系は、16および19で先に観察されたとおり、溶液中で保持した場合に安定であることが示された。水分の存在下での溶液分解研究もまた、CD3CNおよび10%のD2Oの混合物中で1H-NMR分光法を使用して実施した。驚くべきことに、これらの条件において安定であることが示された検出系16および19とは異なり、17、18、21および22では数時間後に著しい分解が観察された。自壊性系20のみが、これらの条件下およびそれ自体に対しての両方で安定であることが示された。
【0035】
検出剤の安定性に対するニトロ基、およびカルバメート基に対してオルト/パラ位にメチル基が存在することの重要性を評価するために、検出系23および24を合成した。先のとおり、分子の安定性を、原液としておよび溶液中の両方で評価した。窒素下、室温で、23および24は、安定であることが明らかにされ、48時間後に分解は観察されなかった。
CD3CNおよび10%のD2Oの混合物中での溶液分解研究は、23および24について24時間後に著しい分解を示さなかった。23の水に対する相対的安定性を16および19と、ならびに24の安定性を17、18、21および22と比較することにより、ニトロ基がカルバメート基の安定性に与える強い影響を、その効果を誘起のみにより発揮する場合であっても、立証することができる。しかしながら、自壊性系20では良好なバランスが見出されるようであり、これは、水分およびそれ自体の両方に対して安定であることが判明した。
【0036】
次いで、異なる自壊性系16~24のアルキル化の速度を調査した。表3に示すとおり、自壊性分子16を、CD3CN中で異なるアルキル化剤の存在下で最初に試験した。興味深いことに、速度は、恐らく検出剤16のアルキル化の前の、ヨウ化ナトリウムによる求核触媒反応:フィンケルシュタイン交換により著しく上昇させることができる。塩化ベンジルの場合のみ、アルキル化は、緩慢であることが証明された;擬一次反応速度論に従わない。
【0037】
【0038】
図5に関して、次いで、系17~24のアルキル化に対する反応性を、検出剤16で先に使用したのと同じ反応条件を使用して臭化ベンジル(BnBr)の存在下で実施した。重大なことに、色素部分の芳香族環上の異なる置換基の導入は、アルキル化速度に劇的な影響を与えないことが見出され、半減期時間(t
1/2)は、10.4~23.4分と測定された(表4)。一般に、ニトロ置換された芳香族化合物は、常に、対応する非ニトロ化合物よりも緩慢である。加えて、オルト-ジメチル芳香族化合物の存在は、常に、同等のプロトン化化合物よりも少し緩慢である。
【0039】
【0040】
得られたアルキル化された自壊性分子、すなわち、16a~24aのβ-脱離を、2当量のN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を使用して実施した。アルキル化された検出剤(自壊性分子)16の分解を最初に行った。結果を表5に示す。自壊性分子16aは、脱離を受けて、レポーター単位、N-メチル-4-ニトロアニリンおよびCO2を生成した。NaIの存在下で塩化ベンジルを使用したアルキル化から生じる場合のみ、β-脱離の速度は、形成されたヨウ化ベンジルとDIPEAとの間で起こるN-アルキル化の副反応に起因してより緩慢であることが見出された。
【0041】
【0042】
次いで、アルキル化された検出剤(自壊性分子)17a~24aの分解(アルキル化剤として臭化ベンジルを使用した)を実施した。アルキル化とは異なり、脱離の速度は、アルキル化された自壊性分子の構造によって劇的に変化した(表6)。実際、電子求引ニトロ基を導入し、カルバメート脱離基の共役酸のpKaを低下させた場合に最高速度が観察された。ニトロ基の効果を分析する上で、カルバメートカルボニルに対する芳香族環へ共鳴するアミン窒素孤立電子対の相対的傾向を考慮することが必要である。
【0043】
【0044】
パラ位にニトロ基を含有する検出剤16aについてβ-脱離の最高速度が観察された;これは、共鳴および誘起効果の両方による安定化効果を可能にする(検出系16a対19a)。スペクトルの反対端では、オルト-メチル基の導入により、反応の速度が減少した。これらのメチル基はいずれも、適度に電子供与性であり、脱離基の溶媒和を制限すると予想される。形状効果(C-N結合回転)は、オルト位R1およびR2に2つのメチル基を保有するアルキル化された18aおよび21aの脱離速度の、アルキル化された16aおよび19aと比較した著しい減少を説明することができる。オルト位におけるメチル基のこの効果は、R1位で1つのオルトメチル基のみにより置換された、17a(16aおよび18aと比較した)および20a(19aおよび21aと比較した)について観察された中間の速度により裏付けられる。
効率的かつ高速な検出系を得るために、副反応の存在なしに、すべての試薬が同じ容器中でアルキル化および脱離反応が起こり得ることが重要である。したがって、アルキル化剤の添加前に自壊性分子20(水およびそれ自体の両方に対する安定性に関して最良のバランスを提示する)を2当量のDIPEAと混合することにより、アルキル化-脱離のワンポット反応を行った。
【0045】
10当量の臭化ベンジルの添加後、検出剤20がアルキル化され、この中間体が脱離を受けて、レポーター単位、N-メチル-2-メチル-3-ニトロアニリドを生成し、ワンポットのアルキル化-脱離プロセスが実証された。さらに、N-メチル-2-メチル-3-ニトロアニリドの放出に起因する黄色の着色が5分後に観察され、臭化ベンジルの添加から20分後に強く観察された。
溶媒がアルキル化およびβ-脱離速度の両方に与える影響もまた研究した。アルキル化反応に関して、速度は、溶媒極性とともに上昇することが観察され、自壊性分子16について、最も低極性の溶媒CDCl3中でt1/2=65.4分~最も高極性の混合物CD3CN/D2O(9/1)中でt1/2=7分の範囲の値であった。
溶媒がアルキル化およびβ-脱離速度の両方に与える影響もまた研究した。この研究は、検出系として16を使用し、アルキル化剤として臭化ベンジルを使用して行った。アルキル化反応に関して、速度は、溶媒極性とともに上昇することが観察され、最も低極性の溶媒CDCl3中でt1/2=65.4分~最も高極性の混合物CD3CN/D2O(9/1)中でt1/2=7分の範囲の値であった。
【0046】
自壊性分子20を、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート/H
2O(90:10)を含む溶媒中で、化学兵器剤硫黄マスタード(C
4H
8Cl
2S)と反応させ、分子20は、硫黄マスタードによりアルキル化されることに成功し、化学兵器剤の検出のための第1の態様の自壊性分子の使用が例示された。
図7、表7および表8に関して、本出願人はまた、ハーフマスタードをCD
3CN:H
2O(9:1)中で自壊性分子20で処理し、続いてジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を添加し、レポーター基から通常の黄色の着色を得ることにより、ハーフマスタード(CEES、2-クロロエチルエチルスルフィド)の存在を検出した。
【0047】
【0048】
【表8】
非プロトン性求電子種(アルキル化剤)、例えばハロゲン化アルキルおよびベンジルにより誘発される選択的自壊性系の第1の例が本明細書で報告される。本明細書に例示された自壊性分子は、自壊性単位を最初にアルキル化し、続いてin situの塩基によって脱離させることを伴う設計された2ステッププロセスに従って、非プロトン性求電子剤に対する明確な比色応答を発生させることに成功する。これらの自壊性分子は、機器の必要なしに現場で求電子種、例えば化学兵器剤を選択的に顕示するための実用的ルートを提供する。
【0049】
図8に関して、本出願人は、いずれも2つの放出可能部分、2つのN-メチル-4-ニトロアニリド部分を含み、したがって、分子が、求電子種/化合物により誘発される1つのトリガー事象に対する色応答信号を増幅すること:2つの色部分が可能である、2種の自壊性分子(25、26)を合成した。これらの増幅自壊性分子は各々、臭化ベンジルの存在の検出に成功した。
【0050】
(増幅)自壊性分子25の合成
図9および10に関して、自壊性分子25を以下のとおり合成した。
KMnO
4(64.3g、0.407mol、4.0当量)を、室温で、水(408mL)中のNaOH(13.5g、0.338mol、3.3当量)の溶液に添加した。1,3-ジメチル-2-ニトロベンゼン(15.3g、0.101mol、1.0当量)を添加し、得られた溶液を還流下で撹拌した。KMnO
4が還元されるにつれて紫色がゆっくり消失し、反応を一晩(12時間)継続した。懸濁液を室温に冷却し、濾過した。得られた黄色濾液を、濃硫酸(96%、20mL)でpH2未満に慎重に酸性化した。形成された白色固体を濾過により収集し、ジクロロメタン、酢酸エチルで洗浄し、最後に真空中で乾燥して、純粋な2-ニトロイソフタル酸27を白色粉末(11.2g、52%)として得た。
1H NMR (DMSO-d
6, 400 MHz) δ
H 7.82 (1H, t, J = 8.0 Hz, ArH), 8.20 (2H, d, J = 8.0 Hz, ArH) ppm.
【0051】
2-ニトロイソフタル酸27(8g、0.0376mol、1.0当量)をメタノール(71mL)中に希釈し、得られた溶液を濃硫酸(96%、7.2mL、0.132mol、3.5当量)で慎重に処理した。混合物を還流下で激しく撹拌し、多量の白色固体が一晩で形成された。メタノールの半分を真空中で蒸発させ、懸濁液を水(71mL)で希釈して、より多くの固体を沈殿させた。固体を濾過により単離し、水(71mL)で洗浄した後、ジクロロメタンに溶解した。溶液を無水硫酸マグネシウムで脱水して、純粋な2-ニトロイソフタル酸ジメチル28(7.65g、84%)を白色粉末として得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 3.92 (6H, s, CH3), 7.66 (1H, t, J = 7.6 Hz, ArH), 8.20 (2H, d, J = 7.6 Hz, ArH) ppm.
【0052】
酢酸エチル(45mL)中の2-ニトロイソフタル酸ジメチル28(4g、16.73mmol、1.0当量)およびPd/C(10%、乾燥、0.245g、0.19mmol、1.2mol%)の懸濁液を真空下に置き、窒素でパージし、最後に室温で水素の正圧下に置いた。反応の完了に続いて、薄層クロマトグラフィー(TLC)分析を行った。混合物を濾過した。湿潤Pd/Cを使用した場合、濾液を最初に無水硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を真空下で除去して、所望のジメチル2-アミノ-1,3-ベンゼンジカルボキシレート29(3.47g、99%)を優れた純度で臭気のある灰白色粉末として得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 3.87 (6H, s, CH3), 6.56 (1H, t, J = 7.6 Hz, ArH), 8.09 (2H, d, J = 7.6 Hz, ArH), 8.14 (2H, s, NH2) ppm.
【0053】
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)(5.0mL、50mmol)および2-アミノ-1,3-ベンゼンジカルボキシレート29(1g、4.78mmol)の溶液に、トリフルオロメタンスルホン酸メチル(MeOTf)(0.79mL、7.18mmol)を添加した。混合物を室温で1時間撹拌し、次いで、HClの溶液(2N、5.0mL)によりクエンチした。揮発物を減圧下で蒸発させ、得られた混合物を飽和NaHCO3水溶液で中和し、CH2Cl2(3×25mL)で抽出した。合わせた有機相をMgSO4で脱水し、濾過し、溶媒を減圧下で除去して、所望の生成物2-(メチルアミノ)イソフタレート30(1.04g、97%)を得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 2.83 (3H, s, NCH3), 3.88 (6H, s, OCH3), 6.62 (1H, t, J = 7.6 Hz, ArH), 7.87 (2H, d, J = 7.6 Hz, ArH), 8.29 (1H, s, NH) ppm.
【0054】
THF(10mL)中のN-メチルアニリン誘導体(0.93g、4.04mmol)を、THF(20mL)中の冷却した(0℃の)水素化アルミニウムリチウム(0.61g、16.1mmol)に滴下添加した。混合物を室温で一晩撹拌した後、冷水の滴下添加により反応をクエンチし、ジエチルエーテル50mLを添加した。形成された塩を濾過し、ジエチルエーテル(4×100mL)で洗浄した。溶媒を真空下で除去し、得られた残留物をジクロロメタン中に希釈し、Mg2SO4で脱水し、溶媒を真空中で除去して、所望の化合物(2-(メチルアミノ)-1,3-フェニレン)ジメタノール31を淡黄色固体(0.58g、83%)として得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 2.77 (3H, s, NCH3), 3.86 (3H, br. s, NH + OH) 4.69 (6H, s, OCH2), 6.96 (1H, t, J = 7.6 Hz, ArH), 7.13 (2H, d, J = 7.6 Hz, ArH) ppm.
【0055】
(2-(メチルアミノ)-1,3-フェニレン)ジメタノール31(0.40g、2.4mmol)をDMF(3mL)に溶解し、0℃に冷却した。イミダゾール(0.392g、5.76mmol)およびtert-ブチルジメチルシリルクロリド(TBDMSCl)(0.868g、5.76mmol)を添加した。反応物を室温で一晩撹拌した。次いで、反応物をエーテルで希釈し、飽和NH4Cl溶液で洗浄した。有機層をMg2SO4で脱水し、溶媒を減圧下で除去した。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(EtOAc:n-ヘキサン5:95)により精製して、所望の化合物2,6-ビス(((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)メチル)-N-メチルアニリン32(0.71g、80%)を得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 0.07 (12H, s, SiCH3), 0.92 (18H, s, SiCCH3), 2.78 (3H, s, NCH3), 4.25 (1H, s, NH), 4.74 (4H, s, OCH2), 6.93 (1H, t, J = 7.6 Hz, ArH), 7.27 (2H, d, J = 7.6 Hz, ArH) ppm.
【0056】
THF(20mL)中のボランジフェニルホスフィン錯体(1.07g、5.37mmol)および2-ブロモエタノール(0.671g、5.37mmol)の溶液に、n-ブチルリチウム(7.1mL、ヘキサン中1.6M)を添加した。混合物を0℃で6時間撹拌した。THFを蒸発させ、残留物をEtOAc(2×20mL)中に抽出した。得られた溶液をMg2SO4で脱水し、溶液を蒸発させた。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/EtOAc 7/3)によって精製して、生成物ボラン2-(ジフェニルホスフィノ)エタノール錯体(0.800g、61%)を白色固体として得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 1.05 (3H, br. q, BH3), 2.26 (1H, s, OH), 2.56 (2H, dt, J = 6.4 Hz, J = 10.8 Hz, CH2P), 3.90 (2H, dt, J = 6.0 Hz, J = 14.8 Hz, CH2O), 7.47-7.65 (6H, m, ArH), 7.69 (4H, t, J = 6.0 Hz, ArH) ppm. 31P NMR (CDCl3, 162 MHz) δP 11.5 (br.) ppm.ボラン2-(ジフェニルホスフィノ)エタノール錯体(0.300g、1.23mmol、1.0当量)を、THF(V=4.5mL)に溶解した。次いで、得られた溶液を、アルゴン雰囲気下0℃で、ホスゲン溶液(トルエン中15質量%、1.76mL、2.46mmol、2.0当量)中に滴下添加し、次いで、得られた溶液を室温で24時間撹拌した。次いで、残留するホスゲンおよび溶媒を真空中で蒸留することにより除去して、ボラン2-(ジフェニルホスフィノ)エチルクロロホルメート錯体33(0.339g、90%)を濃厚な油状物として得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 1.00 (3H, br. q, BH3), 2.72 (2H, dt, J = 8.0 Hz, J = 11.2 Hz, CH2P), 4.53 (2H, dt, J = 8.0 Hz, J = 8.0 Hz, CH2O), 7.49-7.65 (6H, m, ArH), 7.70 (4H, t, J = 8.0 Hz, ArH) ppm. 31P NMR (CDCl3, 162 MHz) δP 12.1 (br.) ppm.
【0057】
THF(3mL)中のボラン2-(ジフェニルホスフィノ)エチルクロロホルメート錯体33(0.261g、0.852mmol)の溶液に、アルゴン雰囲気下0℃で、2,6-ビス(((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)メチル)-N-メチルアニリン32(0.280g、0.71mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(0.0087g、0.071mmol)およびトリエチルアミン(0.2mL、1.42mmol)(THF 6mLに事前に溶解した)の溶液を滴下添加した。次いで、混合物を室温で一晩撹拌した。次いで、形成された沈殿物を濾過し、溶媒を真空中で除去した。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(THF:n-ヘキサン5:95)により精製して、ボラン2-(ジフェニルホスフィノ)エチル(2,6-ビス(((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)メチル)フェニル)(メチル)カルバメート錯体34を白色固体(0.331g、70%)として回転異性体A:Bの76:24混合物で得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 0.08 (12H, m, SiCH3, 回転異性体A + 回転異性体B), 0.92 (21H: s, SiCCH3およびbr. m, BH3 回転異性体A + 回転異性体B), 2.51 (2H, m, CH2P, 回転異性体A), 2.72 (2H, m, CH2P, 回転異性体A), 2.93 (3H, m, CH3N, 回転異性体B), 3.14 (3H, m, CH3N, 回転異性体A), 4.20 (2H, m, CH2O, 回転異性体A), 4.43 (2H, m, CH2O, 回転異性体B), 4.60 (2H, m, CH2O, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.37 (1H, m, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.45 (8H, m, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.66 (4H, m, ArH, 回転異性体A), 7.74 (4H, m, ArH, 回転異性体B) ppm. 31P NMR (CDCl3, 162 MHz) δP 11.6 (br.) ppm.
【0058】
ボラン2-(ジフェニルホスフィノ)エチル(2,6-ビス(((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)メチル)フェニル)(メチル)カルバメート錯体34(0.300g、0.451mmol)をメタノール45mlに溶解し、amberlyst-15を添加した。反応物を室温で2時間撹拌し、TLC(EtOAc:n-ヘキサン10:90)によりモニタリングした。完了後、amberlyst-15を濾過により除去し、溶媒を減圧下で除去した。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(EtOAc:n-ヘキサン70:30)によりさらに精製して、ボラン2-(ジフェニルホスフィノ)エチル(2,6-ビス(ヒドロキシメチル)フェニル)(メチル)カルバメート錯体35を白色固体(0.142g、72%)として回転異性体A:Bの50:50混合物で得た。1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz) δH_0.89 (3H, br. m, BH3 回転異性体A + 回転異性体B), 2.59 (3H, s, CH3N, 回転異性体B), 2.61 (2H, m, CH2P, 回転異性体A), 2.72 (2H, m, CH2P, 回転異性体A), 3.02 (3H, m, CH3N, 回転異性体A), 3.99 (2H, m, CH2O, 回転異性体A), 4.26-4.44 (2H, m, CH2O, 回転異性体B, 4H, m, CH2OH, 回転異性体A + 回転異性体B), 5.14 (2H, m, OH, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.33 (1H, m, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.38 (2H, m, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.46-7.62 (8H, m, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.68 (4H, m, ArH, 回転異性体A), 7.80 (4H, m, ArH, 回転異性体B), ppm. 31P NMR (DMSO-d6, 162 MHz) δP 10.75 (回転異性体A), 12.46 (回転異性体B) ppm.
【0059】
ボラン2-(ジフェニルホスフィノ)エチル(2,6-ビス(ヒドロキシメチル)フェニル)(メチル)カルバメート錯体35(0.100g、0.229mmol、1.0当量)を、THF(V=0.84mL)に溶解した。次いで、得られた溶液を、アルゴン雰囲気下0℃で、ホスゲン溶液(トルエン中15質量%、0.33mL、0.458mmol、2.0当量)中に滴下添加し、次いで、得られた溶液を室温で24時間撹拌した。次いで、残留するホスゲンおよび溶媒を真空中で蒸留することにより除去して、ボラン(2-(((2-(ジフェニルホスフィノ)エトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-1,3-フェニレン)ビス(メチレン)ビス(クロロホルメート)錯体36(0.115g、89%)を濃厚な油状物として回転異性体A:Bの61:39混合物で得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 1.00 (3H, br. m, BH3), 2.53 (2H, m, CH2P, 回転異性体A), 2.75 (2H, m, CH2P, 回転異性体B), 2.97 (3H, s, CH3N, 回転異性体B), 3.21 (3H, m, CH3N, 回転異性体A), 4.24 (2H, m, CH2OCON, 回転異性体A), 4.47 (2H, m, CH2OCON, 回転異性体B), 5.19 (2H, m, CH2OCOCl, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.39-7.58 (9H, m, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.65 (4H, m, ArH, 回転異性体A), 7.74 (4H, m, ArH, 回転異性体B) ppm. 31P NMR (CDCl3, 162 MHz) δP 11.81 (br.) ppm.
【0060】
THF(0.7mL)中のボラン(2-(((2-(ジフェニルホスフィノ)エトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-1,3-フェニレン)ビス(メチレン)ビス(クロロホルメート)錯体36(0.100g、0.178mmol、1.0当量)の溶液に、アルゴン雰囲気下0℃で、N-メチル-4-ニトロアニリン(0.081g、0.534mmol、3.0当量)(THF 0.3mLに事前に溶解した)の溶液を滴下添加した。混合物を室温で一晩撹拌した。トリエチルアミン(Et3N)(0.025mL、0.178mmol、1.5当量)を添加し、溶媒を真空中で除去した。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/n-ヘキサン1:1→n-ヘキサン/EtOAc 6/4)により精製して、ボラン2-(((2-(ジフェニルホスフィノ)エトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-3-(((メチル(4-ニトロフェニル)カルバモイル)オキシ)メチル)ベンジル(4-ニトロフェニル)-λ2-アザンカルボキシレート錯体37を泡状白色固体(0.112g、79%)として回転異性体A:Bの58:42混合物で得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 0.95 (3H, br. m, BH3), 2.53 (2H, m, CH2P, 回転異性体A), 2.70 (2H, m, CH2P, 回転異性体B), 2.89 (3H, s, CH3N, 回転異性体B), 3.12 (3H, s, CH3N, 回転異性体A), 3.37 (6H, m, CH3N, 回転異性体A + 回転異性体B), 4.15 (2H, m, CH2O, 回転異性体A), 4.39 (2H, m, CH2O, 回転異性体B), 5.11 (4H, m, CH2O, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.31-7.54 (13H, m, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.64 (4H, m, ArH, 回転異性体A), 7.71 (4H, m, ArH, 回転異性体B), 8.18 (4H, d, J = 8.8 Hz, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B) ppm. 31P NMR (CDCl3, 162 MHz) δP 11.12 (回転異性体A), 12.40 (回転異性体B) ppm.
【0061】
ボラン2-(((2-(ジフェニルホスフィノ)エトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-3-(((メチル(4-ニトロフェニル)カルバモイル)オキシ)メチル)ベンジル(4-ニトロフェニル)-λ2-アザンカルボキシレート錯体37(0.100g、0.126mmol)をフラスコに添加し、窒素でフラッシュした。無水トルエン(V=0.95mL)を添加し、溶液を30℃で撹拌した。別個のバイアル中で、無水トルエン(V=0.31mL)中のDabco(登録商標)33-LV(0.071g)の溶液を調製し、次いで、ボラン錯体溶液を含有するフラスコ中に一度に添加した。反応混合物を、不活性雰囲気下30℃で18時間撹拌した。次いで、反応混合物を室温に冷却し、トルエンを真空下で蒸発させた。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/EtOAc 7/3)により精製して、2-(((2-(ジフェニルホスフィノ)エトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-3-(((メチル(4-ニトロフェニル)カルバモイル)オキシ)メチル)ベンジル(4-ニトロフェニル)-λ2-アザンカルボキシレート:増幅自壊性系25を泡状白色固体(0.088g、90%)として回転異性体A:Bの61:49混合物で得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 2.25 (2H, m, CH2P, 回転異性体A), 2.49 (2H, m, CH2P, 回転異性体B), 3.02 (3H, s, CH3N, 回転異性体B), 3.14 (3H, s, CH3N, 回転異性体A), 3.36 (6H, m, CH3N, 回転異性体A + 回転異性体B), 4.07 (2H, m, CH2O, 回転異性体A), 4.27 (2H, m, CH2O, 回転異性体B), 5.17 (4H, m, CH2O, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.21-7.54 (17H, m, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B), 8.18 (4H, d, J = 8.8 Hz, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B) ppm. 31P NMR (CDCl3, 162 MHz) δP -23.61 (回転異性体A), -22.73 (回転異性体B) ppm.
【0062】
アルキル化反応
増幅自壊性系25をCD3CN/D2Oの混合物(9/1:V/V)に溶解し(V合計=0.5mL、[25]=0.025mol.L-1)、続いて1モル当量の臭化ベンジルをNMR管に直接添加することにより、1H NMR分光研究を実行した。
【0063】
β-脱離反応
対応するアルキル化された増幅自壊性系25の2モル当量のN,N-ジイソプロピルエチルアミン(diidopropylethylamine)(DIPEA)をNMR管に直接添加することにより、
1H NMR分光研究を実行した。
1H-NMR研究は、著しいアルキル化およびβ-脱離が90分後に起こったことを示した。
図11に関して、自壊性分子26もまた、自壊性分子25と同様のルートによって合成した。
図12に関して、長期保存に対する自壊性分子の安定性をさらに増大させるために、本出願人は、2つのタイプの誘導体、リン-ボラン付加物(例えば、38、40、41)およびプロトン化ホスフィン(例えば、39)を調製した。これらは各々、ホスフィンの対応するホスフィンオキシドへの酸化を防止し、保存に対して安定である。
図13に関して、これらのクラスの化合物はいずれも、必要な場合、最初のホスフィンに再変換することができる。
【0064】
例えば、自壊性系19(0.083g、0.203mmol、1当量)をフラスコに添加し、次いで、これを窒素でフラッシュした。新たに蒸留したジクロロメタン(V=4mL)を添加し、溶液を室温で撹拌した。19の溶液にHBF
4.Et
2Oを添加し(V=0.06mL、2当量のHBF
4)、反応混合物を、不活性雰囲気下室温で12時間撹拌した。溶媒を真空下で蒸発させ、プロトン化された自壊性系39を、最小量のジクロロメタン中の溶液から1/1 n-ヘキサン/Et
2Oの混合物中に沈殿させることにより収集した。真空中で乾燥した後、プロトン化された自壊性系39を粘着性固体(0.065g、78%収率)として得た。
あるいは、
図14および15に関して、自壊性系19の合成の中間体として、38を33から調製することができる。
【0065】
THF(2mL)中のボラン2-(ジフェニルホスフィノ)エチルクロロホルメート錯体33(0.500g、1.63mmol、1当量)の溶液に、アルゴン雰囲気下0℃で、N,2-ジメチル-5-ニトロアニリン(0.406g、2.45mmol、1.5当量)(THF 4mLに事前に溶解した)の溶液を滴下添加した。次いで、混合物を室温で一晩撹拌した。トリエチルアミン(Et3N)(0.23mL、1.63mmol、1当量)を添加し、溶媒を真空中で除去した。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/n-ヘキサン1:1→n-ヘキサン/EtOAc 7/3)により精製して、ボラン2-(ジフェニルホスフィノ)エチルメチル(2-メチル-5-ニトロフェニル)カルバメート錯体38を白色固体(0.576g、81%)として回転異性体A:Bの59:41混合物で得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 1.00 (3H, br. m, BH3), 2.27 (3H, s, CH3Ar, 回転異性体A + 回転異性体B), 2.44-2.88 (2H, m, CH2P, 回転異性体A + 回転異性体B), 2.92 (3H, s, CH3N, 回転異性体B), 3.20 (3H, s, CH3N, 回転異性体A), 4.27 (2H, m, CH2O, 回転異性体A), 4.51 (2H, m, CH2O, 回転異性体B), 7.34-7.58 (7H, m, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.57-7.82 (4H, m, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.86 (1H, s, ArH, 回転異性体A), 7.94 (1H, s, ArH, 回転異性体B), 8.06 (1H, d, J = 8.8 Hz, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B) ppm. 31P NMR (CDCl3, 162 MHz) δP 12.10 (回転異性体A + 回転異性体B) ppm.
【0066】
ボラン2-(ジフェニルホスフィノ)エチルクロロホルメート錯体38(0.502g、1.15mmol)をフラスコに添加し、次いで、これを窒素でフラッシュした。無水トルエン(V=8.6mL)を添加し、溶液を30℃で撹拌した。別個のバイアル中で、無水トルエン(V=2.9mL)中のDabco(登録商標)33-LV(0.643g)の溶液を調製し、次いで、ボラン錯体溶液を含有するフラスコ中に一度に添加した。反応混合物を、不活性雰囲気下30℃で18時間撹拌した。次いで、反応混合物を室温に冷却し、トルエンを真空下で蒸発させた。粗生成物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン/EtOAc 8/2)により精製して、2-(ジフェニルホスフィノ)エチルメチル(2-メチル-5-ニトロフェニル)カルバメート19を無色の油状物(0.437g、90%)として回転異性体A:Bの66:34混合物で得た。1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δH 2.30 (3H, s, CH3Ar, 回転異性体A + 回転異性体B, 2H, m, CH2P, 回転異性体A), 2.54 (2H, m, CH2P, 回転異性体B), 3.06 (3H, s, CH3N, 回転異性体B), 3.21 (3H, s, CH3N, 回転異性体A), 4.19 (2H, m, CH2O, 回転異性体A), 4.38 (2H, m, CH2O, 回転異性体B), 7.22-7.62 (11H, m, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B), 7.95 (1H, s, ArH, 回転異性体A), 8.00 (1H, s, ArH, 回転異性体B), 8.05 (1H, d, J = 8.4 Hz, ArH, 回転異性体A + 回転異性体B) ppm. 31P NMR (CDCl3, 162 MHz) δP -23.10 (回転異性体A), -21.85 (回転異性体B) ppm.
【国際調査報告】