IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッドの特許一覧 ▶ イッサム リサーチ ディベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブライ ユニバーシティー オブ エルサレム リミテッドの特許一覧

特表2022-505530化学反応を促進するためのシステム及び方法
<>
  • 特表-化学反応を促進するためのシステム及び方法 図1
  • 特表-化学反応を促進するためのシステム及び方法 図2
  • 特表-化学反応を促進するためのシステム及び方法 図3
  • 特表-化学反応を促進するためのシステム及び方法 図4
  • 特表-化学反応を促進するためのシステム及び方法 図5
  • 特表-化学反応を促進するためのシステム及び方法 図6-1
  • 特表-化学反応を促進するためのシステム及び方法 図6-2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】化学反応を促進するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/08 20060101AFI20220106BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20220106BHJP
   B03C 1/02 20060101ALI20220106BHJP
   C07C 215/08 20060101ALI20220106BHJP
   C07C 213/10 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B01J19/08 D
B01J19/08 A
B03C1/00 A
B03C1/02 Z
C07C215/08
C07C213/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521809
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(85)【翻訳文提出日】2021-06-09
(86)【国際出願番号】 IL2019051143
(87)【国際公開番号】W WO2020084613
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】62/749,271
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500018608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】at the Weizmann Institute of Science,PO Box 95,7610002 Rehovot,Israel
(71)【出願人】
【識別番号】515166314
【氏名又は名称】イッサム リサーチ ディベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブライ ユニバーシティー オブ エルサレム リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YISSUM RESEARCH DEVELOPMENT COMPANY OF THE HEBREW UNIVERSTY OF JERUSALEM LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ナアマン,ロン
(72)【発明者】
【氏名】フォンタネシ,クラウディオ
(72)【発明者】
【氏名】タッシナリ,フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】ミシュラ,スリヤカント
(72)【発明者】
【氏名】カプア,イヤル
(72)【発明者】
【氏名】パルティエル,ヨセフ
(72)【発明者】
【氏名】ヨケリス,シラ
(72)【発明者】
【氏名】メッツガー,ツリエル
【テーマコード(参考)】
4G075
4H006
【Fターム(参考)】
4G075AA13
4G075AA23
4G075BA06
4G075BA10
4G075BB04
4G075BB05
4G075CA12
4G075CA42
4G075DA02
4G075EB01
4G075EC21
4G075FC20
4H006AA02
4H006AA04
4H006AB84
4H006AD10
4H006BN10
4H006BU32
(57)【要約】
キラル分子の合成及び相互作用の促進に用いるためのシステム及び方法。システムは、1又は複数の反応体分子を含む流体混合物を含有するように構成された容器、及び前記容器中の反応体と少なくとも部分的に接触する位置にあり、強磁性又は常磁性材料を含む少なくとも1つの面と、を備える。強磁性又は常磁性材料は、前記少なくとも1つの面に対して垂直の磁化方向に磁化され、それによって、前記1又は複数の反応体分子からのキラル選択的合成が得られる。この技術は、キラル分子の選択された掌性のエナンチオマーの選択的相互作用、又はアキラル分子反応体からの選択されたエナンチオマーの形成を可能とするものである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子の合成に用いるためのシステムであって:1又は複数の反応体分子を含む流体混合物を含有するように構成された容器と、前記容器中の反応体と少なくとも部分的に接触する位置にあり、強磁性又は常磁性材料を含む少なくとも1つの面と、を備え、前記強磁性又は常磁性材料は、前記少なくとも1つの面に対して垂直の磁化方向に磁化され、それによって、前記1又は複数の反応体分子からのキラル選択的合成が得られる、システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの面が、強磁性又は常磁性材料の少なくとも1つの層を備えた構造化基材を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記構造化基材が、1又は複数の選択された反応体との吸着に対する親和性を有する少なくとも1つの表面層を備え、それによって、前記少なくとも1つの面の近傍での反応体間の分子相互作用が可能となる、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの面上に予め吸着された少なくとも1つの種類の反応体分子をさらに含み、前記予め吸着された反応体分子は、前記流体混合物中の選択された掌性の分子と選択的に相互作用する、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
エナンチオ特異的相互作用に関連する対応する1又は複数の追加の層に吸着された1又は複数の追加の種類の反応体分子をさらに含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの面が、前記流体混合物との電気的接触を提供する電極を伴い、それによって、前記少なくとも1つの面の近傍での電気化学反応が促進される、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
強磁性又は常磁性材料を含む前記少なくとも1つの面が、前記容器中の反応体と接触するように選択的に配置されるように、及び前記反応体と接触せずに配置されるように、搭載される、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1つの面に対して垂直であり、前記少なくとも1つの面に対して上向き又は下向きである磁化方向に応じて、キラル分子の選択された掌性のエナンチオマーに対する化学反応を選択的に促進するように構成された、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
分子の合成に用いるためのシステムであって:
(a)1又は複数の種類のキラル分子を含む流体混合物を含有するように構成された容器;
(b)前記流体混合物に電場を適用するように構成された、少なくとも第一の電極及び第二の電極を備えた電極配列であって;前記第一の電極は、前記流体混合物との少なくとも1つの界面を提供する少なくとも1つの強磁性又は常磁性材料を含み、前記少なくとも1つの強磁性又は常磁性材料は、前記第一の電極の面に対して垂直方向の上向き又は下向きに選択的に磁化され;前記第二の電極は、前記第一の電極から所定の距離に配置され、及び前記第一の電極から電気的に絶縁され;前記第一の電極の磁化は、前記流体混合物中の分子との相互作用における電子伝導にスピン選択性を提供し、それによって、前記流体混合物中の分子とのエナンチオ選択的相互作用が得られる、電極配列;
(c)前記第一の電極と第二の電極との間に電圧及び電流を提供するように構成された電源ユニット、
を備えた、システム。
【請求項10】
前記第一の電極が、少なくとも1つの強磁性又は常磁性材料を含み、前記システムがさらに、前記第一の電極の選択された磁化方向を提供する前記第一の電極に対する磁場を選択的に適用するように構成された少なくとも1つの磁場発生ユニットを備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
キラル分子を合成又は分離するように構成されている、請求項9又は10に記載のシステム。
【請求項12】
ラセミ混合物からの選択されたエナンチオマーなど、エナンチオ特異的反応のための構成とされている、請求項9~11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記エナンチオ特異的反応が、電気化学的酸化又は還元反応である、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
少なくとも前記第一の電極が、前記流体混合物中の反応体との前記相互作用を選択的に開始及び停止するために、前記容器に選択的に挿入されるように搭載される、請求項9~13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
分子合成に用いるための方法であって、前記方法は:少なくとも1つの基材であって、前記基材の面に対して垂直の磁化を有する、少なくとも1つの基材を提供すること;前記基材を、前記基材の面の上又は面の近傍で1又は複数の分子反応を促進するために、1又は複数の種類の反応体分子と接触させること、を含み、前記少なくとも1つの基材の磁化方向は、前記1又は複数の分子反応に関与する電子のスピン選択性を提供し、その結果、エナンチオ選択的反応が得られる、方法。
【請求項16】
前記1又は複数の分子反応が、電気化学反応を含み、前記方法はさらに、前記少なくとも1つの基材に選択された電圧を適用することを含み、それによって、選択されたスピン分極の電子を受容又は供与し、前記1又は複数の分子反応が行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記基材を1又は複数の種類の反応体分子と接触させる前に、前記少なくとも1つの基材の前記面に1又は複数の選択された反応体を吸着させることをさらに含み、それによって、前記1又は複数の種類の反応体分子と前記面に吸着された前記1又は複数の選択された反応体との間のエナンチオ選択的相互作用が得られる、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記1又は複数の種類の反応体分子が、キラル分子を含み、前記エナンチオ選択的反応は、前記少なくとも1つの基材の磁化方向に応じて選択される一方の掌性のエナンチオマーの反応を起こす、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記1又は複数の種類の反応体分子が、アキラル分子を含み、前記エナンチオ選択的反応は、前記少なくとも1つの基材の磁化方向に応じて選択される掌性を有するキラル生成物を形成する、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
選択された掌性のエナンチオマーの物理的吸着によってエナンチオマーを分離するように構成されている、請求項15~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの基材から前記選択された掌性の分子を除去するために、前記少なくとも1つの基材を、緩衝溶液を含む溶液に移すことをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
キラル分子の分離に用いるための方法であって、前記方法は:少なくとも1つの基材であって、前記基材の面に対して垂直の磁化を有する、少なくとも1つの基材を提供すること;前記基材を、キラル分子の混合物と選択された時間にわたって接触させ、前記基材を前記混合物から取り出して、吸着された分子を前記混合物から除去すること、を含み、前記少なくとも1つの基材の磁化方向は、一方のエナンチオマーの分子の、逆のエナンチオマーの分子と比較して優先的な吸着をもたらし、それによって、選択されたエナンチオマーの分子が前記混合物から除去される、方法。
【請求項23】
第二の容器中で、吸着された分子を前記基材から洗浄し、それによって、実質的にエナンチオマー的に純粋な混合物の溶液を得ることをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記基材をキラル分子の前記混合物と選択された時間にわたって接触させること、及び前記基材を第二の容器中で洗浄すること、を繰り返し行って、連続分離プロセスとすること、をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
複数の基材を用いること、及び前記基材の各々を用いて前記分離プロセスを繰り返すこと、を含む、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択された化学相互作用を促進するためのシステム及び方法の分野に属し、詳細には、選択された掌性を有するキラル分子のエナンチオ特異的反応を促進し、それによってキラル分子の分離及び所望される掌性の分子の選択を可能とするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
キラル分子は、重ね合わせられない(non-supposable)鏡像を有する分子であり、互いの鏡像である2つの同一ではないエナンチオマーが一般的には可能である。生物学的システムは、典型的には、特定のキラル特性の分子に基づいている。より具体的には、多くの場合、生物学的システムにおいて、一方の掌性であるエナンチオマーが特定の受容体と相互作用する一方で、他方の掌性のものは、受容体と相互作用しないか、又は受容体と相互作用して所望されない結果をもたらす可能性がある。
【0003】
生物学的システム外で行われる一般的な化学プロセスは、多くの場合キラル性に対して非選択的である。したがって、化学反応における反応体は、キラル分子のすべてのエナンチオマーを含み得るものであり、又は反応は、生成物の掌性に対する選択性なしに、分子の両エナンチオマーを形成する。
【0004】
一般的に、エナンチオ特異的化学プロセスを促進するには、エナンチオピュアな試薬又は特定の掌性を有する環境(主として、特定のキラル性を有するキラルな環境)のいずれかが必要である。したがって、選択された掌性のキラル分子を生成するための従来の技術は、キラル特異的触媒の適用又はエナンチオピュアな試薬による反応のいずれかに依存している。
【0005】
キラル分子が電場によって電気的に分極されると、電気分極は、スピン分極を伴うことが最近見出された。ある有限時間にわたって分子の特定のキラル性に依存する特定のスピン配向を有する不対電子又は電子の一部が各電気極(electric pole)に存在する状態が形成される。加えて、キラル分子が、最初は磁化されていない強磁性基材に吸着されると、基材は磁化される傾向にあり、磁気双極子の方向は、特定のキラル性に依存することが見出された。すなわち、一方のエナンチオマーが、磁気双極子が上に向くように基材の磁化を引き起こし、他方のエナンチオマーが、下向きの双極子を引き起こす。
【発明の概要】
【0006】
本技術分野において、化学合成及び分子合成で使用するためのキラル選択的合成を可能とする新規な技術が求められている。一般に、本発明の技術は、特定の掌性であるキラル反応体(特定のエナンチオマー)を用いた、及び/又はキラル触媒と共にアキラル分子を用いた化学合成を可能とするものである。
【0007】
スピン分極電子は、ヘリシティ特性を特徴とし得る。粒子のヘリシティは、角運動量(スピン)と線運動量との関係に関連する。動いているスピン分極電子は、スピンの符号に依存する明確に定められたヘリシティを有する。電子のヘリシティは、対応する掌性を有するキラル分子のヘリシティに類似の対称性を有する。この効果は、対称性の考察に基づいて、スピン分極電子が、一方のエナンチオマーの相互作用又は生成を他方と比較して促進することができる「キラル環境」を提供可能であることを示している。より具体的には、スピン分極電子は、エナンチオ特異的反応のためのキラル試薬として用いられる。このことによって、エナンチオピュアなキラル触媒の使用が省略される。
【0008】
この目的のために、本発明の技術は、1又は複数の反応体分子を含有するように構成され、面に対して垂直方向に磁化を有する少なくとも1つの磁化された面を備える相互作用容器を提供する。相互作用が発生する領域に対する面の位置及び形状、さらにはその化学的又は電気的特性は、反応体分子を面の近傍で相互作用させるように選択される。少なくとも1つの磁化された面の磁化は、化学相互作用に関与する電子のスピン分布に影響を与え、その結果、キラル反応体の選択された掌性に対する相互作用選択性が得られる。
【0009】
この目的のために、本技術のいくつかの実施形態では、少なくとも1つの磁化された面は、電源ユニットに接続された電気伝導性面として構成され、容器は、逆の電位を提供する少なくとも1つの追加の電極を備える。この構成では、反応体分子の電気化学相互作用は、少なくとも1つの磁化された面との電子の供与又は受容を含む。面の磁化が垂直であることに起因して、そのような相互作用は、面の磁化と直線上に並んだスピンを有する電子に対して特異的であり、対応する掌性のキラル反応体に対する選択性が得られる。
【0010】
他のいくつかの構成では、選択された反応体は、少なくとも1つの磁化された面に予め吸着されている。少なくとも1つの磁化された面の磁化は、吸着された反応体の相互作用末端の電子にスピン分極を誘起し、それによって、特定のキラル掌性のキラル生成物を形成する相互作用が促進される。一般に、吸着された反応体の相互作用末端でのスピン分極を維持するために、吸着された反応体の相互作用末端の位置は、好ましくは、磁化された面から数オングストローム以内である。
【0011】
一般に、電子のフェルミ粒子性をもたらす電子スピンは、パウリの排他原理にとって、したがって物質の安定性に欠かせないものである。そのスピンのために、電子は磁気モーメントを有し、通常、その2つの考え得るスピン状態(量子数1/2又は-1/2)のエネルギーを分離(又は分割)するには、磁場が必要である。しかし、この分割エネルギーは、典型的には、周囲の熱エネルギーと比較して小さい(約0.025eV)。対照的に、同じ体積を占める2つの電子間の相互作用エネルギーは、eVの単位(約20kJ/モル)と大きい場合があり、それは、磁気相互作用ではなく、交換相関エネルギーに起因する。このエネルギーの発現は、一重項状態と三重項状態との間のエネルギーギャップであり、この場合、一重項ではスピンは逆平行であり、三重項では平行である。
【0012】
電子のスピンは、電子の電荷を置き換えて情報を伝送するための重要な場と見なされる。加えて、スピンは、メモリ用途にも役立ち、量子力学を計算に導入するための重要なツールとしての候補である。スピン動力学を利用するいかなる試みにおいても、スピン情報を伝送することができる物質が必要となる。ほとんどの場合、スピンの移動の試みは、予め定められたスピンを持つ電子を導電体又は半導体性物質を通して伝送することによって行われた。別の手法では、実際には電荷は伝送されないが、スピン情報は、システムを通しての交換相互作用によって伝送される。有機分子は、一般には、電荷の伝送についても、スピン情報の伝送についても、良好な媒体として見なされていない。しかし、本発明の技術は、スピン分極を利用し、アキラル又はキラル分子のいずれかである有機分子中の電子の特性を伝送することで、その分子の、1若しくは複数の磁性面との、又は1若しくは複数の磁性面近傍での反応を促進するためにスピン分極とキラル性との間の関係を利用するものである。例えば、この技術は、面上に吸着されたキラル又はアキラル分子と、この吸着された分子と接触しているラセミ混合物中の1又は複数種類のキラル分子との間の相互作用を利用することができる。
【0013】
電子の相対スピン整列に伴う交換エネルギー差が大きいことにより、電子間の相互作用エネルギーは、化学反応を制御するために有用であると見なされる可能性がある。しかし、光化学反応及び一部の酵素反応を除いて、電子間の相互作用エネルギーは、化学反応の制御に用いることができないことが実証されてきた。その理由は、スピンの方向が、典型的には、分子骨格内で定められるものではなく、外部磁場に対してのみ明確に定められるからである。磁場の方向が変化すると、同じ電子のスピンは、それまでの磁場に対するその方向とは無関係に、再度定められ得る。したがって、スピン方向は、一般に、分子骨格内では定められない。唯一の例外は、同じ分子上に不対電子が存在するケースである。その場合、相対スピン方向は、一重項、三重項、又はより高次の多重項状態を発生させる不対電子に関して定められる。
【0014】
スピン配向を分子骨格に関連付けることがこのように困難であることにより、一般に、2分子間の又は分子と面との間での反応を制御するためにスピン分極を利用する可能性が制限される。最近になって発見されたキラル誘起スピン選択性(CISS)効果は、キラル分子(又は部分)が分子骨格内で電子スピンの優先的な配向を有することを示唆しており、化学プロセス、エナンチオマー分離、及び生体認識プロセスの制御において大きな意味を持つ。
【0015】
キラル分子が別の分子又は面と反応する場合、この再構築に伴う電荷の再構築の結果、分子中の電子の再分布がスピンに依存することから、分子中での一過性のスピン分極が生ずる。これに関連して、分子が面に近づくと、分子は電荷分極を起こすことは理解されたい。キラル分子の場合、この電荷分極は、一過性のスピン分極を伴う。各電気極に伴うスピン方向は、分子の掌性に依存する。基材が強磁性体であり、その面に対して垂直に磁化されている場合、1つのエナンチオマーのみがその面に結合可能、又はその面から電子を受容可能である。したがって、面との相互作用は、エナンチオ選択的である。この効果の結果、例えば、K.Banerjee-Ghosh et al“Separation of enantiomers by their enantiospecific interaction with achiral magnetic substrates”,Science 360,1331-1334(2018)、及びスピン分極と吸着選択性との間の関係を用いる態様について述べた国際公開第2019/043,693号に記載のように、強磁性面を用いてラセミ混合物からエナンチオマーを分離することが可能となる。したがって、面に対して垂直に磁化された基材上に1つのエナンチオマーを選択的に吸着させることによって、ラセミ混合物を、その2つの異なるエナンチオマーに分離することができる。
【0016】
エナンチオ特異的化学プロセスを行うためには、キラル分子の少なくとも1つの純エナンチオマー、又はエナンチオピュアなキラル触媒を含める必要がある。二本鎖DNAのキラル単分子層に光電子を透過させると、エナンチオ選択的にキラル分子を解離させる手法を誘起することが示された。上記で述べたように、アキラル基材へのエナンチオ選択的吸着を、面に対して垂直の磁化を持つ磁性基材によって制御することができることが示されている。本発明は、電気化学セルでキラル分子のラセミ混合物中におけるエナンチオ特異的反応(例:レドックス反応)を誘起するために、CISS効果を利用するものである。
【0017】
キラル分子又はキラル膜でコーティングした電極が、溶液中のレドックス対とエナンチオ特異的相互作用を示し得ることは知られている。これは、電極上のキラル分子とキラルレドックス対との間の空間的に優先的な相互作用の結果としての一般的なキラル認識特性に起因するものと考えられる。したがって、各特定のキラル分子に対して、電極上の特定のキラルコーティングがエナンチオ選択性をもたらす結果になるものと期待される。
【0018】
本発明は、特定の掌性のエナンチオマーの反応を逆の掌性のエナンチオマーと比較して促進しながら化学反応を行うことができるシステム及び方法を提供する。より具体的には、いくつかの構成において、反応体が、少なくとも1つのキラル分子を含み、本技術は、その分子の一方のエナンチオマーとの反応を、他方との反応と比較して促進するものである。いくつかの他の構成では、生成物が、アキラル分子を含み、本技術は、選択された掌性の生成物への反応を促進するものである。
【0019】
本技術は、少なくとも1つの磁性面(強磁性又は常磁性材料を含む面)であって、面に対して垂直方向に磁化を有する、少なくとも1つの磁性面を有する容器中に、反応体を提供することに基づく。容器は、面から数オングストロームを超えない距離で化学反応が発生することを可能とするように構成されており、1つのスピン配向(磁化の方向に対して)を有する電子の伝導を効果的に可能とする。これは、スピン分極電子が、1つのエナンチオマーとの反応を選択的に促進することができる、若しくはアキラル反応体からキラル生成物を生成することができる、又は電流が流れていないケースにおける、電気化学反応に用いることができ、面に対して垂直に磁化された基材上にアキラル分子又はキラル分子が吸着され、吸着された分子が、溶液中のキラル分子とエナンチオ特異的に自発的に反応する。
【0020】
さらに、本発明者らは、有機分子が、スピン情報を高い信頼性をもって伝送するように作用することができ、伝送された情報は、その分子とキラル分子との相互作用を制御するために使用できることを実証した。したがって、本発明のシステムは、電子スピンを用いて化学相互作用を制御するための手段を提供するものである。これに関連して、磁気近接効果によって、任意の材料を、磁石へのその適応を通して磁性体となるように変換することができることは理解されたい。バルク材料では、サンプルサイズが近接効果の特徴的な長さを大きく超えることから、それを無視できる。しかし、単分子層のケースでは、短距離磁気近接効果であっても、その厚さと同等の距離を有し得る。本発明者らは、自己組織化有機単分子層のケースにおいて、磁気近接効果が、キラル分子とのそれらの反応における選択性を誘起し得ることを示した。選択性とは、面に対して垂直で面から離れる方向に向いた磁場の場合に、一方のエナンチオマーとの反応が起こり、一方磁場が逆の方向に向いている場合は、他方のエナンチオマーが反応することを意味する。選択性は、有機単分子層の厚さに依存する。興味深いことに、アキラル-キラル相互作用に対する制御の度合いは、形成される結合の性質には依存せず、それは、結合が共有結合、π-π相互作用、又は水素結合の場合に見られる。
【0021】
したがって、1つの広い態様によると、本発明は、分子の合成に用いるためのシステムを提供し、このシステムは:1又は複数の反応体分子を含む流体混合物を含有するように構成された容器と、前記容器中の反応体と少なくとも部分的に接触する位置にあり、強磁性又は常磁性材料を含む少なくとも1つの面と、を備え、前記強磁性又は常磁性材料は、前記少なくとも1つの面に対して垂直の磁化方向に磁化され、それによって、前記1又は複数の反応体分子からのキラル選択的合成が得られる。
【0022】
一般に、少なくとも1つの面は、強磁性又は常磁性材料の少なくとも1つの層を備えた構造化基材を含んでよい。構造化基材は、さらに、1又は複数の選択された反応体との吸着に対する親和性を有する少なくとも1つの表面層を備えてよく、それによって、少なくとも1つの面の近傍での反応体間の分子相互作用が可能となる。
【0023】
いくつかの実施形態によると、システムは、さらに、前記少なくとも1つの面上に予め吸着された少なくとも1つの種類の反応体分子を含んでよく、前記予め吸着された反応体分子は、前記流体混合物中の選択された掌性の分子と選択的に相互作用する。前記少なくとも1つの面上に予め吸着された少なくとも1つの種類の反応体分子は、ある特定の長さ(例:数個の炭素結合長さに相当する)を超えない長さを有する分子を含む。
【0024】
いくつかの実施形態によると、システムは、さらに、エナンチオ特異的相互作用に関連する対応する1又は複数の追加の層に吸着された1又は複数の追加の種類の反応体分子を含んでよい。いくつかのケースでは、追加の層の各々は、ある特定の厚さを追加するが、スピン分極特性は維持する。
【0025】
いくつかの実施形態によると、少なくとも1つの面は、前記流体混合物との電気的接触を提供する電極を伴っていてよく、それによって、少なくとも1つの面の近傍での電気化学反応が促進される。
【0026】
いくつかの実施形態によると、強磁性又は常磁性材料を含む少なくとも1つの面は、前記容器中の反応体と接触するように選択的に配置されるように、及び前記反応体と接触せずに配置されるように、搭載される。
【0027】
いくつかの実施形態によると、システムは、前記少なくとも1つの面に対して垂直であり、前記少なくとも1つの面に対して上向き又は下向きである磁化方向に応じて、キラル分子の選択された掌性のエナンチオマーに対する化学反応を選択的に促進するように構成され得る。
【0028】
1つの他の広い態様によると、本発明は、分子の合成に用いるためのシステムを提供し、そのシステムは:
(a)1又は複数の種類のキラル分子を含む流体混合物を含有するように構成された容器;
(b)前記流体混合物に電場を適用するように構成された、少なくとも第一の電極及び第二の電極を備えた電極配列であって;前記第一の電極は、前記流体混合物との少なくとも1つの界面を提供する少なくとも1つの強磁性又は常磁性材料を含み、前記少なくとも1つの強磁性又は常磁性材料は、前記第一の電極の面に対して垂直方向の上向き又は下向きに磁化(例:選択的に磁化)され;前記第二の電極は、前記第一の電極から所定の距離に配置され、及び前記第一の電極から電気的に絶縁され;前記第一の電極の磁化は、前記流体混合物中の分子との相互作用における電子伝導にスピン選択性を提供し、それによって、前記流体混合物中の分子とのエナンチオ選択的相互作用が得られる、電極配列;
(c)前記第一の電極と第二の電極との間に電圧及び電流を提供するように構成された電源ユニット、
を備える。
【0029】
いくつかの実施形態によると、第一の電極は、少なくとも1つの強磁性又は常磁性材料を含んでよく、前記システムはさらに、前記第一の電極の選択された磁化方向を提供する前記第一の電極に対する磁場を選択的に適用するように構成された少なくとも1つの磁場発生ユニットを備える。
【0030】
一般に、システムは、キラル分子を合成又は分離するように構成され得る。例えば、システムは、ラセミ混合物からの選択されたエナンチオマーなど、エナンチオ特異的反応のための構成とされ得る。そのようなエナンチオ特異的反応は、電気化学的酸化又は還元反応であってよい。
【0031】
いくつかの実施形態によると、少なくとも前記第一の電極は、前記流体混合物中の反応体との前記相互作用を選択的に開始及び停止するために、前記容器に選択的に挿入されるように搭載される。
【0032】
なお別の広い態様によると、本発明は、分子合成に用いるための方法を提供し、その方法は:少なくとも1つの基材であって、前記基材の面に対して垂直の磁化を有する、少なくとも1つの基材を提供すること;前記基材を、前記基材の面の上又は面の近傍で1又は複数の分子反応を促進するために、1又は複数の種類の反応体分子と接触させること、を含み、前記少なくとも1つの基材の磁化方向は、前記1又は複数の分子反応に関与する電子のスピン選択性を提供し、その結果、エナンチオ選択的反応が得られる。
【0033】
いくつかの実施形態によると、前記1又は複数の分子反応は、電気化学反応を含んでよく、方法はさらに、前記少なくとも1つの基材に選択された電圧を適用することを含み、それによって、選択されたスピン分極の電子を受容又は供与し、前記1又は複数の分子反応が行われる。
【0034】
いくつかの実施形態によると、方法はさらに、前記基材を1又は複数の種類の反応体分子と接触させる前に、前記少なくとも1つの基材の前記面に1又は複数の選択された反応体を吸着させることを含んでよく、それによって、前記1又は複数の種類の反応体分子と前記面に吸着された前記1又は複数の選択された反応体との間のエナンチオ選択的相互作用が得られる。
【0035】
いくつかの実施形態によると、前記1又は複数の種類の反応体分子は、キラル分子を含んでよく、前記エナンチオ選択的反応は、前記少なくとも1つの基材の磁化方向に応じて選択される一方の掌性のエナンチオマーの反応を起こす。
【0036】
いくつかの実施形態によると、前記1又は複数の種類の反応体分子は、アキラル分子を含んでよく、前記エナンチオ選択的反応は、前記少なくとも1つの基材の磁化方向に応じて選択される掌性を有するキラル生成物を形成する。
【0037】
いくつかの実施形態によると、方法は、選択された掌性のエナンチオマーの物理的吸着によってエナンチオマーを分離するように構成され得る。
【0038】
一般に、いくつかの実施形態によると、方法は、前記少なくとも1つの基材から前記選択された掌性の分子を除去するために、前記少なくとも1つの基材を、緩衝溶液を含む溶液に移すことを含み得る。
【0039】
なお別の広い態様によると、本発明は、キラル分子の分離に用いるための方法を提供し、その方法は:少なくとも1つの基材であって、前記基材の面に対して垂直の磁化を有する、少なくとも1つの基材を提供すること;前記基材を、キラル分子の混合物と選択された時間にわたって接触させ、前記基材を前記混合物から取り出して、吸着された分子を前記混合物から除去すること、を含み、前記少なくとも1つの基材の磁化方向は、一方のエナンチオマーの分子の、逆のエナンチオマーの分子と比較して優先的な吸着をもたらし、それによって、選択されたエナンチオマーの分子が前記混合物から除去される。
【0040】
いくつかの実施形態によると、方法はさらに、第二の容器中で、吸着された分子を前記基材から洗浄し、それによって、実質的にエナンチオマー的に純粋な混合物の溶液を得ることを含んでよい。
【0041】
いくつかの実施形態によると、方法はさらに、前記基材をキラル分子の前記混合物と選択された時間にわたって接触させること、及び前記基材を第二の容器中で洗浄すること、を繰り返し行って、連続分離プロセスとすることを含んでよい。
【0042】
いくつかの実施形態によると、方法はさらに、複数の基材を用いること、及び前記基材の各々を用いて前記分離プロセスを繰り返すこと、を含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
本明細書で開示される主題をより良く理解するために、及びそれを実際に実施することができる方法を例示するために、以降では、図面を参照しながら、単なる限定されない例としての実施形態について記載する。
【0044】
図1】ラセミ混合物からのキラル分子のエナンチオ選択的反応を示す実験結果を示す図であり、図1Aは、反応前後での吸光度の変動を示す。図1Bは、エナンチオ選択的反応を示す円二色性(CD)スペクトルを示す。
図2図2は、キラル(例:らせん状)分子の電子ヘリシティと構造との間の関係を例示する図である。
図3図3は、本発明のいくつかの実施形態に従うエナンチオ選択的分子相互作用のためのシステムを模式的に示す図である。
図4】本発明のいくつかの実施形態に従うエナンチオ選択的分子相互作用の実験結果を示す図であり、図4Aは、実験システムを示す。図4Bは、エナンチオ選択的相互作用を示すフーリエ変換赤外分光法(FTIR)の結果を例示する。
図5図5A-Fは、選択された反応時間及び磁化方向特性におけるフーリエ変換赤外分光法(FTIR)のさらなる結果を例示する図である。
図6図6Aは、層状ホール素子を含む素子構成のさらなる例を示す図である。図6Bは、本発明のいくつかの実施形態に従って得られるエナンチオ選択的相互作用をさらに示すそのホール電圧測定を示す図である。図6Cは、本発明のいくつかの実施形態に従って得られるエナンチオ選択的相互作用をさらに示すその移動度測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
ニッケル電極を、電極面に対する垂直方向に関してその正極が上向き又は下向きのいずれかの向きに磁化して用い、ラセミ体のカンファースルホン酸を電気化学還元してボルネオールの形態とした後に記録した円二色性(CD)スペクトルを示す図1A~1Bを参照する。還元反応は、20mMのラセミ体溶液中、-0.9V vs Ag/AgClの一定電位で360分間にわたって行った。図1Aは、反応の前(初期溶液)及び後(最終溶液)における、ラセミ体のカンファースルホン酸のUV-可視吸収スペクトルを示す。図1Bは、ニッケル電極の磁化が、その正極を上向き(磁化上向き)又は下向き(磁化下向き)とした場合に得られた生成物に対する、反応後に得たCDスペクトルを示す。図1Aに示されるように、吸収スペクトルは変化し、サンプル中に反応生成物が存在することを示している。初期ラセミ混合物は、円二色性(CD)スペクトルを示さない。したがって、スピン分極電流にある特定の時間にわたって曝露された後、CDシグナルが出現し、それは、電極の磁化の方向と相関している。磁性電極が、ニッケル電極の面に対して垂直にその正極を上向きとして磁化された場合は、CDシグナルは正であり、一方電極が正極を下向きとして磁化された場合は、CDシグナルは負である。
【0046】
得られたCDシグナルは、電気化学反応の後、一方のエナンチオマーは溶液中に残留し、他方のエナンチオマー分子だけが減少したことを示しており、ラセミ混合物と比較してCDシグナルが増加している。この結果は、一方のエナンチオマーが減少し、他方はおおむね影響を受けなかったことから、カンファースルホン酸のエナンチオ選択的電気化学レドックスプロセスを実証するものである。電気化学反応(例:電気酸化、電気水素化)におけるエナンチオ選択性は、カンファースルホン酸に特有のものではなく、様々な他の分子でも用いられ得ることには留意されたい。
【0047】
上記で述べたように、分子が基材(面又は他の分子)に近づくと、電荷の再配列が起こり、誘起された双極子が形成され、この場合、電子又は正孔の一部が、それぞれ正極及び負極に位置する。そのスピンと共に移動する電子は、ある特定のヘリシティ、すなわち、電子のスピンと線運動量との関係を有する。電子のヘリシティと分子のキラル性との間の類似性を、キラル(らせん状)分子と電子のヘリシティとを示す図2に例示する。図から分かるように、電子のヘリシティと分子のヘリシティとは、同じ又は逆の掌性であってよく、それは分子を通しての電子の伝導に影響を与える。したがって、スピン分極電子は、エナンチオ特異的相互作用のためのキラル試薬として作用することができ、エナンチオピュアなキラル触媒の使用が省略される。
【0048】
典型的には、電子の基底状態が一重項状態である場合、その電気極でのスピンは逆相間することになるため、分子の全スピンはゼロに維持される。上記で述べたように、この効果は、面に向いた方向の電子のスピンに応じて、磁化された基材上での分子の吸着と共に変動する。したがって、分子と基材との間で形成されることになる化学結合の場合、結合の形成に対して分子が供与する電子と磁化された基材が供与する電子とは、逆向きのスピンのはずである。この効果は、2つの分子間の相互作用に対しても同様である。分子との結合に関与することができる磁化された基材中の電子は、基材の磁化により、明確に定められたスピンを有する。したがって、分子が供与する電子は、逆向きのスピンを有している必要がある。このことは、その電気極で(部分的)不対電子を有する分子を、基材から遠ざけ、システムが整合的(coherent)である限りにおいて、この電子は、強磁性層と同じスピンを有する。
【0049】
本発明の技術は、分子と磁化された基材との間(又は磁化された基材近傍での分子間)の相互作用に、そのようなスピン選択性を利用するものである。そのようなスピン選択性は、共有結合についてだけでなく、吸着、電子交換など、分子と強磁性基材との間でのいかなる強さの相互作用についても保たれる。より具体的には、磁化された面/基材は、選択されたスピンの電子の供与又は受容が可能である。加えて、分子が面上に吸着される場合、分子の逆の極に位置する不対電子は、面から離れており、一般には同様にスピン分極されている。これは、面の磁化の効果及び分子-分子相互作用に対して得られるキラル選択性を拡張する。より具体的には、分子のそのような不対スピン分極電子は、さらなるキラル分子と、さらには非キラル分子と、エナンチオ特異的に相互作用し得る。これは、キラル選択的相互作用を促進することを可能とするものであり、選択された掌性のキラル分子は相互作用に関与するが、逆の掌性の同じ分子は反応に関与しない。加えて、化学反応を促進する電子のそのようなスピン選択性は、初期反応体が非キラルである場合であっても、反応生成物の選択されたキラル対称性に繋がり得る。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態に従う選択的生成のための逐次及び/又は連続エナンチオ選択的反応容器として構成されたシステム100を例示する図3を参照する。このシステムは、1若しくは複数の強磁性又は常磁性基材(FMとして記す)によって形成された磁化された構造体50を利用する。基材50は、反磁性材料(例:金)の薄いキャッピング層又はアンカリング層でコーティングされてもよい。磁化された基材50は、モーター64で動かされるベルト62を含むとして本明細書では例示され、容器72、74、及び76を例とする複数の容器間で基材を選択的に移送するように構成されている移動式プラットフォーム60に搭載される。容器は、選択された反応体を含む溶液、又は基材50から反応生成物を除去するために選択された溶液を含む。
【0051】
図3に例示されるように、磁化された基材50構造体は、移送され、磁化された基材50の面に結合することができる適切な結合基を有するとして選択された種類Aの分子(例:チオレート分子A又はTM(A))を含有する容器72(例:ビーカー)中に浸漬される。このプロセスの結果、A分子の自己組織化単分子層が、磁化された基材上に形成される。吸着された分子でコーティングされた磁化された基材50は、次に、分子Aと反応するキラル分子Bのラセミ混合物(例:ある特定の比率でエナンチオマーを含有しているラセミ混合物)を保持している第二の容器74の中へ移動される。磁化された構造体50の磁化によって、エナンチオ特異的反応が得られるものであり、1つの掌性の分子Bだけが分子Aと相互作用して生成物A-Bを形成し、他は混合物中に残る。一般に、基材50は、より好ましくないエナンチオマーの相互作用を制限するために、この容器74中に選択された時間(例:2~5分間)にわたって配置され得る。
【0052】
磁化された基材50から反応生成物を除去するために、それは、溶媒材料を含む第三の容器76に移され得る。生成物分子A-Bは、磁化された構造体50から除去され、さらなる処理又は使用のために移動されてよい。この段階で、反応生成物A-Bは、一般に、高い比率の1つのエナンチオマーを含有する(例:選択されたエナンチオマーの濃縮率0.8~1)。このプロセスは、さらに複雑な分子の生成のために繰り返されてよく、それは、磁化された構造体の洗浄などの追加の段階を含んでよい。また、磁化された構造体が、選択された掌性の反応体との1又は複数の電気化学反応のための電極として用いられてもよいことにも留意されたい。これは、基材との選択された電位差(例:0.9V)を示す追加の電極80を含む容器76によって図3に例示される。そのような構成では、電気接続が、磁化された構造体50に提供され、磁化された構造体が電気化学反応のために1又は複数の選択された容器中に配置された時点で、選択された電位を提供するために用いられる。さらに、この反応システム構成が、共有結合相互作用に限定されず、共有結合反応、又は非共有結合相互作用、さらには電気化学相互作用、及び「クリックケミストリー」反応にも用いられ得ることには留意されたい。
【0053】
図3に例示されるシステム100はまた、エナンチオマー的に純粋な溶液を得るための、ラセミ混合物からのキラル分子の連続分離にも用いられ得る。この目的のために、磁化された基材は、ラセミ混合物を含む容器74の中に選択された時間(例:2分間)にわたって配置され、選択されたエナンチオマーの分子の吸着を促進しながら、分子を吸着させる。基材は、次に、ラセミ容器74から取り出され、例えば洗浄又は分子の放出を可能とすることによって、吸着された分子を除去するために、第二の容器76に移動される。このプロセスは、ラセミ混合物のある特定の掌性の分子の一部分を除去し、これらの分子を別の容器に移すものである。例えば同じ基材を移送することによって、又は複数の基材を交互に用いることによって、このプロセスが繰り返されるに従って、分子は、最初の容器中の一方の掌性のエナンチオマーと、第二の容器中の他方の掌性のエナンチオマーとに分離される。
【0054】
本発明の技術を示している実験設定(図4A)及びフーリエ変換赤外分光法(FTIR)の結果(図4B、及び図5A~5F)を示す、図4A~4B、及び図5A~5Fを参照する。図4Aに示されるシステムは、相互作用の距離と本発明の技術によって得られるエナンチオ選択性との間の関係を定めるために設計される。これに関連して、システムは、上にキラル分子が結合(又は吸着)される磁化された基材(例:図4Aで、磁化されたFM基材、と記される常磁性又は強磁性基材)を用い、選択された長さのリンカー分子の不活性化単分子層を形成する。この具体的で非限定的な例では、磁化された基材は、10nmの金でコーティングされた5nmの強磁性ニッケル層から成り、図4Aに例示されるように、追加の層を含んでもよい。有機不活性化層は、一般には対称リンカーを介して、キラル分子を磁化された基材に連結するように働く。この例で用いたキラル分子は、(R)及び(S)-1-アミノ-2-プロパノールであった。さらに、この具体的で非限定的な例では、有機不活性化単分子層は、以下のようにして調製した:4×4mmの強磁性サンプル(n型Siウェハ、10%HFでエッチングした後に12nmのCr、100nmのAu、50nmのNi、及び10nmのAuでコーティングした)を、エタノール中で10分間煮沸して洗浄し、次に、EtOH中の10mMの単分子層分子(例:チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトオクタン酸、メルカプトブタン酸(mercaptobutiric acid)、メルカプトヘキサン酸、及びメルカプトオクタン酸)に少なくとも2時間浸漬した。単分子層が吸着したウェハを、基材の面(Au面)に対して上向き又は下向きの方向の380ガウスの磁場の下、1-アミノ-2-プロパノールのR又はSエナンチオマーと反応させた。
【0055】
磁化された強磁性基材とキラル分子との間の距離は、リンカー分子の長さを選択することによって実現し、制御した。より具体的には、固定相の単分子層を形成するリンカー分子は、一般構造HS-(CHX-1-COOの分子から構成され、ここで、チオール基は、この分子を基材に連結するように作用し、炭素基の数Xで、リンカーの長さを決定した。異なる長さの、すなわち、炭素基の数Xの異なるリンカー分子を用いて、実験を複数回行った。この強磁性Ni層における磁化容易軸は、基材に対して垂直となるように設定し、それは、上方向(+)又は下方向(-)に磁化することができる。キラル分子と固定相単分子層との相互作用は、静電結合に基づいている。R又はSの1-アミノ-2-プロパノールである2つのエナンチオマーは、すべての実験において、エタノール(約pH7)溶媒中で調製した。約pH7のこの状況では、カルボキシル基とアミン基の両方が帯電しているため、両者の間での静電相互作用が可能である。ヒドロキシル基は、キラル中心を定めること以外に、3200~3500cm-1の波数範囲での伸縮モードに対するフーリエ変換赤外分光法(FTIR)のマーカーとして働く。
【0056】
図4Bは、ニッケル層の異なる磁化方向の下、2分間の反応時間後のFTIRの結果を示す。FTIR測定値は、リンカー分子を用いていないクリーンな金の面(クリーン)、チオグリコール酸を有する面(TGA)、及び互いに逆の磁化方向で反応を行った場合のS-1-アミノ-2-プロパノールを有する2つのサンプル面(「プラス方向」は、磁極が上向きの場合、「マイナス方向」は、下向きの場合)から収集する。一貫性を確保するために、各実験を少なくとも3回繰り返した。OH伸縮シグナルが、下向き(マイナス方向)磁化方向下でのSエナンチオマーにおいて約3300~3450cm-1に出現し、FTIRのグラフをより低いT%の値の方へ伸ばしていることから、リンカー分子との相互作用が示される。図5A~5Fは、上向き(+)又は下向き(-)の磁化方向での異なる反応時間における、(S)と記したS-1-アミノ-2-プロパノールを有するサンプル面、及び(R)と記したR-1-アミノ-2-プロパノールを有するサンプル面から収集したさらなるFTIRの結果を示す。より具体的には、図5Aは、下向きの磁場方向で30秒間の相互作用時間後のFTIRの結果を示し、図5Bは、上向きの磁場方向で30秒間の相互作用時間後のFTIRの結果を示し、図5Cは、下向きの磁場方向で2分間の相互作用時間後のFTIRの結果を示し、図5Dは、上向きの磁場方向で2分間の相互作用時間後のFTIRの結果を示し、図5Eは、下向きの磁場方向で5分間の相互作用時間後のFTIRの結果を示し、図5Fは、上向きの磁場方向で10分間の相互作用時間後のFTIRの結果を示す。
【0057】
図5Cでは、OH伸縮シグナルが、2分間の相互作用後の下向き(-)磁化方向下でのSエナンチオマーにおいて約3300~3450cm-1に出現し、FTIRのグラフをより低いT%の値の方へ伸ばし、5分間の相互作用後である図5Eではそれが維持されていることから、リンカー分子との相互作用が示される。Rエナンチオマーの場合、OH伸縮は、図5Fの10分間の相互作用後の上方向(+)磁化において、類似の波数に出現している。したがって、Sエナンチオマーの選択的吸着は、対応する磁化方向におけるRエナンチオマーよりも素早く成されている。より具体的には、Sエナンチオマーの分子は、2分間後に選択的に吸着されているが、Rエナンチオマーの分子は、磁場が対応する方向であった場合でも、10分間の相互作用後に選択的吸着を示している。ヒドロキシル(OH)伸縮は、3300~3450cm-1の予測された範囲内で見られる。スペクトルは、吸着された分析物のキラル性(R/S)が、磁化方向と一致していることを示している。これらの選択的反応は、約30~45分間にわたって維持され、Rエナンチオマーは、ほとんどが上向き(+)磁化方向の下で吸着され、Sエナンチオマーは、下向き(-)磁化方向の下でのみ吸着された。より長い相互作用時間の後には、一般に、スピン分極は平衡化し、両方のエナンチオマーがリンカー単分子層と相互作用することができ、2つのエナンチオマー間での吸着に差が見られなくなる。
【0058】
リンカーの長さを変更することによって、磁化された面に対する分子の相互作用末端の位置が変化する。リンカーの長さを増加させると、相互作用に関与する電子のスピン分極が減衰する結果となり、相互作用の選択性が低下する。様々な長さのリンカー分子を用いることで、この効果をモニタリングすることができる。本発明者らは、正四面体角及びC-C結合中の炭素の共有結合半径0.77Åの仮定の下、6.3Åのリンカー長さと関連する3個の炭素(X=3)を超えるリンカー長さの場合に、選択性の減衰が明らかに認識されることを見出した。したがって、選択性は、6.3Åよりも長い距離で減衰する。これよりも長いいずれのリンカーの場合でも、相互作用は、分子のキラル性及び基材の磁化に関する選択性を示さない。したがって、6.3Åよりも長いリンカーを用いた場合の吸着率は、上向き又は下向きの磁化、及びR又はSのエナンチオマーに対して同様である。このケースでは、相互作用は、面に磁化が適用されていないケースと同様の特徴を示す。システムを、メルカプトヘキサン酸(X=6)及びメルカプトオクタン酸(X=8)に対しても確認した。両方共に、定性的な差はまったく示さず、選択的吸着は見られず、分析物は、磁化上向き、又は下向き、又は磁化なしにおいて、同じ比率で吸着した。これらの結果は、長さ依存の減衰が、強磁性体上への磁場によってバイアスが掛けられたリンカー分子における電子スピンのコヒーレンスが消失することに起因することを示唆している。
【0059】
示されるように、距離が長いと(3炭素の共有結合の長さよりも長い)、静電結合は、2つのエナンチオマーに対して、磁場あり及びなしにおいて、同じ速度で生成され得る。これらの条件では、OH伸縮シグナルは30分後に出現しており、これは、1-アミノ-2-プロパノール分子とリンカー分子との間の相互作用の時間を示している。一般に、基材との相互作用がより強いと、OH伸縮の第一のシグナルは、より早く出現するものと考えられ、一方弱い場合、シグナルは、より長い相互作用時間の後に出現するものと考えられる。表1は、異なるリンカー長さ及び磁化における最小の吸収時間を、エナンチオ選択性が消失する長いリンカーでの吸着の時間で標準化して例示する。より具体的には、短いリンカーでの相互作用に対するFTIR測定でのOH伸縮シグナルの出現時間を、基材の磁化が役割を持たない長いリンカーでの相互作用後のOH伸縮シグナルの出現時間で標準化する。表1において、1行目及び2行目は、R-1-アミノ-2-プロパノールの反応に関連する標準化された時間であり、3行目及び一番下の4行目は、S-1-アミノ-2-プロパノールの反応に関連する標準化された時間である。相互作用の速度は、TGAモノマーのFTIRで示されるシグナルよりも2倍高いシグナルを有するピークの面積を積分することによって定めたOH伸縮シグナルの第一の出現と相関していた。測定時間は、5つのサンプルに対して測定し、平均を取った。Rエナンチオマーの場合、上向き(+)磁化方向での時間は、下向き(-)磁化方向での時間よりも早い。Sエナンチオマーは、逆の傾向を示す。4炭素(7.5Å)が用いられる場合、選択的吸収は得られない。
【0060】
表1に示されるように、磁化された面に対して短いリンカー層を用いることにより、エナンチオ選択的な相互作用が得られる。上記で示したように、これは、相互作用電子のスピン分極によってCISS交換相互作用が強化されることに伴うと考えられる。選択された掌性のエナンチオマーにおいて、一方の磁化方向に対してより弱い相互作用、さらにはより長い吸着時間が示され、逆の磁化方向では、より短い吸着時間が示される。逆の掌性のエナンチオマーは、それぞれ逆の磁化方向に対して同様の挙動を見せる。リンカーが短いほど、選択性は強くなる。2炭素の結合に伴う長さを有するリンカーの場合、選択性は、Rエナンチオマーに対しては9倍に、Sエナンチオマーに対しては30倍に達する。3炭素のリンカー長さの場合、選択性は、Rエナンチオマーに対しては3倍に、Sエナンチオマーに対しては9倍に達する。4炭素のリンカーでは、選択性は消滅する。
【0061】
非対称の静電吸着特性を磁気スピンに関連付けるために、浅い2D電子ガスを有するGaAs/AlGaAsヘテロ構造に基づく高感度ホール素子上に、同じ配置で化学物質を堆積させた。層状ホール素子を含む素子構成の例及びそのホール電圧測定を示す図6A~6Cを参照する。図6A例示されるこの素子は、移動度の向上、及び面上で発生する磁化効果の高感度測定を得るように構成されている。素子構成は、ガリウムヒ素ヘテロ構造チップに基づいた2D電子ガスを含む層状構造体の上部でのS/R-1-アミノ-2-プロパノールのチオグリコール酸(TGA)との相互作用を利用している。この具体的で非限定的な例では、高電子移動度を与えるために2DEG(二次元電子ガス)層を埋め込んだGaAs/AlGaAs層基材に対してリソグラフィ技術を用いてvan der Pauw素子を製造した。Ni/Au/Ge/Ni/Auの合金を構造体上に蒸着して、4つのコーナー接点パッドを形成し、続いてn-メチル-2-ピロリドン(NMP)中でリフトオフし、その後、接点を2DEG中に拡散させるために450℃でアニーリングした。次に、素子をクエン酸でエッチングして、上部導電層を除去し、最終的に、標準的な抵抗測定によってオーミック接触を確認した。まず、TGAの単分子層を、EtOH中において、10mMの溶液に素子を浸漬させて吸着させた。選択されたキラル分子、R/S-1-アミノ-2-プロパノールをエタノールに溶解し(1mM溶液)、TGAリンカー層の上に吸着させた。
【0062】
図6Bは、1-アミノ-2-プロパノールを吸着していないクリーンな素子(すなわち、TGAのみ)上で、及びキラル分子(エナンチオマーS及びエナンチオマーR)の吸着後に測定したホール電圧値の相違を示す。各工程において、0.8Tの磁場及び30μAの電流を掛ける1セットのホール測定を行った。約80Kの初期温度は、液体Nを用いて設定し、温度は、温度が290Kに上昇するまで定期的に測定した。キラル分子を、水及びエタノールを用いた簡便な洗浄によって素子の1つから除去し、次に逆の配向(掌性)のキラル分子を吸着させた。後からの吸着は、最初の吸着と同じ方法で行い、再度ホール測定を行った。曲線Sは、S-エナンチオマーを意味し、曲線Rは、R-エナンチオマーを意味する。この試験では、チオグリコール酸の吸着前後の測定の相違を表すTGA-クリーンのサンプルをレファレンスとする。図6Cは、追加の測定でのホール移動度についての同様の図を示す。図6B及び6Cの測定は、R/Sエナンチオマーの吸着が、異なるエナンチオマー間で逆のホール電圧(図6B)、さらには逆のホール移動度(図6C)を誘起することを示している。結合は静電結合であることから、効果は可逆的である。素子をまず合成し、バックグラウンド除去のためにリンカー層と共に測定した。次に、Sエナンチオマーを添加し、素子を再度測定した。最後に、Sエナンチオマーをゆるやかに洗浄した後、Rエナンチオマーを結合させた。一方のエナンチオマー配向では、ホール電圧の上昇が測定され、他方の配向では、ホール電圧の低下が示されている。ホール効果の結果は、CISS効果とスピン交換相互作用とが吸着選択性を制御していることを強固にするものである。これはまた、短いリンカー及び物理的静電結合を通した相互作用にも当てはまる。
【0063】
上記の結果は、磁化された面の近傍での物理的及び化学的分子相互作用を促進することによって得られる立体化学及びエナンチオ選択的反応を示す。より具体的には、本発明の技術は、磁化された面(強磁性面又は常磁性面)の上で、又は磁化された面からの選択された距離で(一般には0.7nmを超えない)、エナンチオ選択的相互作用を提供する。さらに、エナンチオ選択的相互作用は、磁化された面上への吸着に応答して、比較的長い時間にわたって安定である。
【0064】
したがって、本発明の技術は、選択されたキラル分子間のエナンチオ選択的相互作用を促進するものである。一般に、選択された分子に特異的な選択された鍵と鍵穴の特徴を持つクロマトグラフィシステムを用いた従来の技術とは異なる。本発明の技術は、エナンチオマー間の包括的な区別をもたらす物理的結合及びCISS制御反応の使用を可能とするものであり、類似のシステム構成で、様々な反応体に対するエナンチオ選択的相互作用が得られる。さらに、本発明の技術は、キラル、らせん状、さらには非キラル、及び非らせん状の分子を用いた選択的相互作用に対しても妥当なものであり、後者のケースでは、選択性は、反応生成物のキラル性に現れる。したがって、本発明の技術は、スピンに基づいた化学的性質を実証するものであり、相互作用の中心が面に対して垂直な磁化を有する面の上又は面の近傍にある選択されたエナンチオ選択的相互作用を例示する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
【国際調査報告】