(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】GDSLリパーゼ及び遺伝子改変細菌、並びにそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/55 20060101AFI20220106BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20220106BHJP
C12N 15/70 20060101ALI20220106BHJP
C12N 9/20 20060101ALI20220106BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220106BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C12N15/55
C12N15/31 ZNA
C12N15/70 Z
C12N9/20
C12P21/02 C
C12N1/21
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521961
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(85)【翻訳文提出日】2021-04-22
(86)【国際出願番号】 CN2019114789
(87)【国際公開番号】W WO2020186768
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】201910199413.X
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521100210
【氏名又は名称】常熟理工学院
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王立梅
(72)【発明者】
【氏名】徐田甜
(72)【発明者】
【氏名】季▲並▼美
(72)【発明者】
【氏名】▲齊▼斌
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD02
4B050LL01
4B050LL02
4B050LL05
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA20
4B065AA26X
4B065AA50Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、GDSLリパーゼ及び遺伝子改変された細菌、並びにビタミンAパルミテートの生産におけるそれらの使用を提供する。前記GDSLリパーゼは、ストレプトマイセス ディアスタティカス(Streptomyces diastaticus)CS1801に由来し、そのアミノ酸配列は配列番号2に示されており、前記GDSLリパーゼをコードするヌクレオチド配列は、配列番号1に示されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列が配列番号2に示される通りであることを特徴とする、GDSLリパーゼ。
【請求項2】
請求項1に記載のGDSLリパーゼをコードする遺伝子。
【請求項3】
ヌクレオチド配列が配列番号1に示される通りであることを特徴とする、請求項2に記載の遺伝子。
【請求項4】
請求項3に記載の遺伝子を含む、組換えベクター。
【請求項5】
発現ベクターがpET32a(+)であることを特徴とする、請求項4に記載の組換えベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の組換えベクターを含む、改変細菌。
【請求項7】
宿主細胞が大腸菌E.coli BL21(DE3)であることを特徴とする、請求項6に記載の改変細菌。
【請求項8】
下記を含む、ビタミンAパルミテートの生産における請求項6又は7に記載の改変細菌の使用。
(1)改変細菌を種子培養用のLB培地に接種する;
(2)種液を発酵培養用の発酵培地に移し、次にインデューサーを加えて酵素の発現を誘導する;
(3)発酵ブロスを遠心分離して上清を取得し、硫酸アンモニウム沈殿と凍結乾燥によって酵素粉末を取得する;
(4)酵素粉末をビタミンAとパルミチン酸を含む有機相システムに投入して、ビタミンAパルミテートを生成する。
【請求項9】
前記発酵培地の成分が下記の通りであることを特徴とする、請求項8に記載の使用:
トリプトン10g/L、イーストパウダー5g/L、NaCl 10g/L、MgSO
4・7H
2O 1g/L、KH
2PO
4 0.5g/L、K
2HPO
4 0.5g/L、オリーブオイルエマルジョン12mL/L、蒸留水で容量を1Lにする。
【請求項10】
前記オリーブオイルエマルジョンが、オリーブオイル乳化剤PVAを体積比3:1でオリーブオイルと混合し、超音波で乳化する方法により調製されることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学及びタンパク質工学の分野に関連し、新型GDSLリパーゼの遺伝子クローニング及び発現のための方法、並びにビタミンAパルミテートの酵素合成による生成方法の使用に関連し、産業微生物の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
アシルグリセロール加水分解酵素としても知られるリパーゼは、天然油をグリセロールと遊離脂肪酸に分解できる酵素の一種で、動物、植物、微生物に広く見られる。微生物は主にリゾプス、アスペルギルス及びカンジダ等を含み、リパーゼの重要な供給源である。様々なリパーゼのアミノ酸配列とそれらの基本的な生物学的特性の分析によると、リパーゼは8つのファミリーに分類でき、そのうちの2番目のファミリーはGDSLファミリーとしても知られている。GDSL型リパーゼ(lipase、EC3.1.1.3)は、チオエステル、アリールエステル、リン脂質、アミノ酸等の様々な基質を加水分解できる加水分解酵素の一種である。GDSLリパーゼは新型のリパーゼであるため、その発現と機能に関する研究はほとんどない。GDSLリパーゼはエステル加水分解活性を持っているので、それに対する研究はますます深くなっている。
【0003】
ビタミンAパルミテートは、正常な視覚機能を維持し、様々な代謝活動に参加して生物の健康を維持するのに役立ち、現在最も一般的に使用されているビタミンA誘導体であり、食品、化粧品、医薬品等の業界で広く使用されている。現在、ビタミンAパルミテートの合成には、主に化学的方法と酵素的方法が含まれている。ビタミンAパルミテートを合成する化学的方法は、環境汚染とコスト等の問題があることに対し、酵素的方法は、汚染が少なく、時空間収量が高く、コストが低くなる。更に、ビタミンAパルミテートを生成する酵素が、エステル加水分解活性を持つリパーゼとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の内容
本発明の目的は、GDSLリパーゼ及び遺伝子改変細菌、並びにそれらの使用を提供することで、そのリパーゼは、活性が高く、ビタミンAパルミテートの生成に適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の技術的目的を達成するために、本発明は以下の技術的解決策を採用する。
【0006】
アミノ酸配列が配列番号2に示される通りのGDSLリパーゼ。
【0007】
本発明はまた、上記のGDSLリパーゼをコードする遺伝子を提供している。
【0008】
具体的には、前記GDSLリパーゼをコードする遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号1に示される通りとなっている。
【0009】
上記のGDSLリパーゼは、ストレプトマイセス ディアスタティカス(Streptomyces diastaticus)CS1801に由来し、その菌株は出願人の以前の出願CN109337843Aで開示されている。
【0010】
本発明はまた、GDSLリパーゼをコードする遺伝子及び発現ベクターを含む組換えベクターを提供し、前記遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号1に示す通りとなっている。前記発現ベクターはpET-32a(+)で、上記の遺伝子は、発現ベクターpET-32a(+)の複数のクローニングサイトの間に挿入される。
【0011】
本発明はまた、上記の組換えベクターを含む遺伝子改変細菌を提供している。
【0012】
さらに、前記改変細菌の宿主細胞は、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)である。
【0013】
本発明はまた、以下を含むビタミンAパルミテートの酵素的生産における上記の改変細菌の使用を提供している:
(1)改変細菌を種子培養用のLB培地に接種する;
(2)種液を発酵培養用の発酵培地に移し、次に誘導剤を加えて酵素の発現を誘導する;
(3)発酵ブロスを遠心分離して上清を取得し、硫酸アンモニウム沈殿と凍結乾燥によって酵素粉末を取得する;
(4)酵素粉末をビタミンAとパルミチン酸を含む有機相システムに投入して、ビタミンAパルミテートを生成する。
【0014】
具体的には、前記方法は、37℃および200rの条件下、LB培地中で8~12時間培養された改変細菌を、5%の接種量として発酵培地に接種する。8~12時間発酵後、IPTGを最終濃度0.4~1mmol/Lになるように投入し、37℃、200rの条件下、18~24時間発酵培養する。4000r、10分の条件で遠心分離して発酵ブロスの上清を取得する。酵素タンパク質を50%硫酸アンモニウム溶液で沈殿させ、凍結乾燥から48時間後に酵素粉末を取得することを含む。酵素粉末を5%の比率で有機相系(ビタミンA:パルミチン酸=10g:10gで、1Lのn-ヘキサンに溶解させる。)に投入して、一定時間変換後にビタミンAパルミテートの含有量を測定し、変換率を計算する。
【0015】
さらに、発酵培地の成分は次の通りである:
トリプトン10g/L、イーストパウダー5g/L、NaCl 10g/L、MgSO4・7H2O 1g/L、KH2PO4 0.5g/L、K2HPO4 0.5g/L、オリーブオイルエマルジョン12mL/L。
【0016】
さらに、オリーブオイルエマルジョンの調製方法が、オリーブオイル乳化剤PVAを体積比3:1でオリーブオイルと混合し、超音波で乳化することになっている。
【0017】
本発明の酵素によって構築された遺伝子改変細菌は、酵素的方法によってビタミンAパルミテートを生成するために使用され、変換により得られるビタミンAパルミテートの最大含有量は16.35mg/Lとなり、最高の変換効率は81.75%となる。そのリパーゼは、ビタミンAパルミテートの酵素合成の新しい方法を提供し、重要な応用の見通しを持っている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】GDSLリパーゼPCRによって増幅されたターゲットバンドを示す。
【
図2】大腸菌のSDS-PAGE電気泳動図である。
【
図3】GDSLリパーゼがビタミンAパルミテートを生成するための変換時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
【実施例】
【0020】
実施例1
本実施例は、ストレプトマイセス ディアスタティカスに由来するGDSLリパーゼ遺伝子のPCR増幅法について説明する。
【0021】
試験管の斜面に保存されているストレプトマイセス ディアスタティカスCS1801をプレート活性化のために取り、単一コロニーをLB液体培地に接種し、30℃で2~3日間培養する。培養液を取り、8000rで2分間遠心分離し、細菌を収集し、細菌ゲノム抽出キットで全ゲノム抽出を行った。抽出手順は、上海バイオエンジニアリング社の細菌ゲノム抽出キットの説明書を参照。
【0022】
GDSLリパーゼ遺伝子増幅プライマーは、以下のように設計されている。
GDSL2-上:5’-GTGGCCGGGCTCACGTCCTC-3’
GDSL2-下:5’-TCATTCCGGCAGGCTCCG-3’
【0023】
抽出されたストレプトマイセス ディアスタティカスゲノムを鋳型として、上記のプライマー及び上海バイオエンジニアリング社の高GC含有量のPCR増幅キットで増幅を行ったが、Taq酵素は投入しない。
【0024】
具体的な増幅手順は以下の通りである。プリ変性が95℃、10分間であり、Taq酵素を投入する。95℃で1分間変性し、アニーリング温度は55℃、アニーリング時間は30秒、延長温度は72℃、延長時間は1分で、このプロセスは29サイクル行われ、最後に72℃で30分間延長する。生成物をアガロースゲル電気泳動のために取り、ターゲットバンドをゲル切断、回収後に保管した。ゲルリサイクルキットは上海バイオエンジニアリング社から購入した。
【0025】
実施例2
本実施例は、酵素切断部位を有するGDSLリパーゼ遺伝子のPCR増幅方法について説明する。
【0026】
酵素切断部位を有するGDSLリパーゼ遺伝子増幅プライマーは、以下のように設計されている。
GDSL2-上:5’-CCGGAATTCGTGGCCGGGCTCACGTCCTC-3’
GDSL2-下:5’-CCGCTCGAGTCATTCCGGCAGGCTCCG-3’
【0027】
実施例1のゲルリサイクル生成物を鋳型として、上記のプライマー及び上海バイオエンジニアリング社の高GC含有量のPCR増幅キットで増幅を行った。
【0028】
具体的な増幅手順は以下の通りである。プリ変性が95℃、2分であり、95℃で1分間変性し、アニーリング温度は55℃、アニーリング時間は30秒、延長温度は72℃、延長時間は1分で、このプロセスは29サイクル行われ、最後に72℃で30分間延長した。生成物をアガロースゲル電気泳動のために取り、ターゲットバンドは
図1の通りで、ターゲットバンドをゲル切断、回収後、配列測定のために上海バイオエンジニアリング社へ送付し、配列番号1を取得した。
【0029】
実施例3
本実施例では、GDSLリパーゼの組換えクローンベクターの構築方法について説明する。
【0030】
実施例2のゲルリサイクル生成物をTベクターに結合させ、DH-5αに変換した後、陽性クローン単体を選んで検証を行い、プラスミドを抽出した後に配列測定および検証を行った。
【0031】
実施例4
本実施例は、GDSLリパーゼの組換え発現ベクターの構築方法について説明する。
【0032】
実施例3のプラスミドに対してXhoIおよびEcoRIで二重酵素切断を行い、ターゲットバンドを回収すると共に、XhoIおよびEcoRIでPET32a(+)ベクターに対して二重酵素切断を行い、ベクター中の大きい断片を回収し、回収されたターゲット遺伝子断片をベクター断片に結合させ、宿主細胞大腸菌DH-5αに導入して、抵抗性スクリーニング後に、陽性クローン単体を選んで、配列測定および検証を行った。
【0033】
実施例5
本実施例は、GDSLリパーゼ遺伝子改変細菌の構築方法について説明する。
【0034】
実施例4の配列測定が正しい陽性クローン単体のプラスミドを抽出し、宿主細胞である大腸菌BL21(DE3)に直接導入して形質転換することによって、GDSLリパーゼ遺伝子改変細菌を構築することができ、その発酵中にIPTGのような誘導剤を投入して、GDSLリパーゼタンパク質の効率的な発現を誘導することが必要となる。融合タンパク質発現の成功は、SDS-PAGEによって検証されている。SDS-PAGE電気泳動図を
図2に示す。
図2より、レーン1は誘導されていない大腸菌E.coli pET32a-GDSLであり、レーン2、3、及び4はそれぞれ、IPTGによって4、8、及び16時間誘導された組換え大腸菌E. coli pET32a-GDSLであり、他のレーンと比べて、分子量が44kDaの箇所で著しいバンドがあり、プラスミド上に融合、発現されたタンパク質を除去し、予測された標的タンパク質サイズと一致することで、GDSLリパーゼが組換え細菌において首尾よく発現されたことを示している。
【0035】
実施例6
本実施例は、GDSLリパーゼ遺伝子改変細菌の、ビタミンAパルミテートの生成における使用について説明する。
【0036】
(1)37℃、200r、LB培地で8~12時間培養された遺伝子改変細菌を、5%の接種量で発酵培地に接種した。
(2)8~12時間発酵後に、IPTGを最終濃度0.4~1mmol/Lまでに投入し、37℃、200rで18~24時間発酵、培養した。
(3)4000r、10分間遠心分離して、発酵ブロスの上清を取得した。酵素タンパク質を50%硫酸アンモニウム溶液で沈殿させ、48時間凍結乾燥後に酵素粉末を取得し、国家標準GBT23535-2009に従って測定したGDSLリパーゼ酵素活性は、1.53U/mgであった。
(4)酵素粉末を5%(w/v)の投入量で有機相系(ビタミンA:パルミチン酸=10g:10gで、1Lのn-ヘキサンに溶解させた。)に投入し、2、4、6、8、10時間変換後にビタミンAパルミテートの含有量を測定し、変換率を計算した。
図3に示すように、8時間変換後に、ビタミンAパルミテートの最高含有量は16.35mg/Lとなり、変換率は81.75%となった。
【0037】
前記発酵培地の成分は次の通りである:
トリプトン10g/L、イーストパウダー5g/L、NaCl 10g/L、MgSO4・7H2O 1g/L、KH2PO4 0.5g/L、K2HPO4 0.5g/L、オリーブオイルエマルジョン12mL/L、蒸留水で容量を1Lにする。
【0038】
オリーブオイルエマルジョンの調製方法は、オリーブオイル乳化剤PVAを、体積比3:1でオリーブオイルと混合し、超音波で乳化することになっている。
【0039】
前記ビタミンAパルミテートの測定方法は、高効率液相法で、外部標準法を採用して定量化している。クロマトグラフィー条件としては、クロマトグラフィーカラム:Alltech C18(250×4.6mm、4.5μm);移動相:100%メタノール;検出器:島津10A UV検出器;検出波長:327nm;流速:1mL/minである。
【0040】
【配列表】
【国際調査報告】