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特表2022-505582耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220106BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20220106BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C21D8/02 D
C22C38/38
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021521973
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(85)【翻訳文提出日】2021-06-21
(86)【国際出願番号】 KR2019014197
(87)【国際公開番号】W WO2020085864
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】10-2018-0128505
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0133780
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ウン-ヘ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】カン,サン-ドク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン-キュ
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA12
4K032AA14
4K032AA18
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC04
4K032CD02
4K032CD03
(57)【要約】
【課題】耐磨耗性に優れるとともに、高強度及び高衝撃靭性を有する高硬度の耐摩耗鋼及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材は、重量%で、C:0.2~0.5%、Mn:23~28%、Si:0.05~0.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Al:0.5%以下、Cr:3~4%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織として95面積%以上のオーステナイトを含み、表面から厚さ方向に50μm以内の領域に連続的に形成されたCr濃化部を備えており、Cr濃化部は、Crが相対的に高濃度に濃化した高Cr濃化部、及びCrが相対的に低濃度に濃化した低Cr濃化部からなり、高Cr濃化部が、Cr濃化部の全表面積に対して30面積%以下(0%は除く)の分率で分布される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.2~0.5%、Mn:23~28%、Si:0.05~0.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Al:0.5%以下、Cr:3~4%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、
微細組織として95面積%以上のオーステナイトを含み、
表面から厚さ方向に50μm以内の領域に連続的に形成されたCr濃化部を備え、
前記Cr濃化部は、Crが相対的に高濃度に濃化した高Cr濃化部、及びCrが相対的に低濃度に濃化した低Cr濃化部からなり、
前記高Cr濃化部が、前記Cr濃化部の全表面積に対して30面積%以下(0%は除く)の分率で分布されることを特徴とする耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材。
【請求項2】
前記鋼材は、重量%で、Cu:1%以下(0%は除く)及びB:0.0005~0.01%から選択される1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材。
【請求項3】
前記高Cr濃化部は、前記鋼材のCrの含量に対して1.5倍超過のCrが含有された領域を意味し、
前記低Cr濃化部は、前記鋼材のCrの含量に対して1倍超過1.5倍以下のCrが含有された領域を意味することを特徴とする請求項1に記載の耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材。
【請求項4】
前記高Cr濃化部が、前記Cr濃化部の全表面積に対して10面積%以下の分率で分布されることを特徴とする請求項1に記載の耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材。
【請求項5】
前記オーステナイトの結晶粒度が5~150μmであることを特徴とする請求項1に記載の耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材。
【請求項6】
前記鋼材の引張強度は400MPa以上であり、
前記鋼材の降伏強度は800MPa以上であり、
前記鋼材の伸びは40%以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材。
【請求項7】
前記鋼材は、-196℃でのシャルピー衝撃靭性が90J以上(試験片厚さ10mm基準)であり、
ISO9223に準じた耐腐食実験での腐食減量が80mg/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材。
【請求項8】
重量%で、C:0.2~0.5%、Mn:23~28%、Si:0.05~0.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Al:0.5%以下、Cr:3~4%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなるスラブを1050~1300℃の温度範囲で再加熱する段階と、
前記再加熱されたスラブを900~950℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して中間材を提供する段階と、
前記中間材を1~100℃/sの冷却速度で600℃以下の温度範囲まで冷却して最終材を提供する段階と、を含むことを特徴とする耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記スラブは、重量%で、Cu:1%以下(0%は除く)及びB:0.0005~0.01%から選択される1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系高マンガン鋼材及びその製造方法に関し、より詳細には、極低温靭性に優れるとともに、耐腐食性に優れたオーステナイト系高マンガン鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染に対する規制が強化され、石油エネルギーの枯渇が予想されるにつれて、その代替エネルギーとして、LNG、LPGなどの環境にやさしいエネルギーの需要が増加し、使用技術の開発に関する関心が増加する傾向にある。低温の液体状態で運ばれるLNG、LPGなどの無公害燃料の需要増加に伴い、これらの貯蔵及び運送のための低温構造物用素材の開発が活発に行われている。低温構造物用素材には、低温強度及び靭性などの機械的特性が求められ、最も代表的な低温構造物用素材としては、9%Ni鋼または304ステンレス鋼が挙げられる。
【0003】
9%Ni鋼は、溶接性及び経済性の側面から優れた特性を示すが、通常の炭素鋼と同等レベルの耐腐食性を備えるため、特に、変形と腐食を伴う環境への適用は好ましくない。また、304ステンレス鋼は、優れた耐腐食性を備えるのに対し、経済性及び低温物性確保の側面から技術的困難性が存在する。したがって、低温物性に優れるとともに、耐腐食性に優れた素材の開発が急務である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2015-0075324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様による耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材は、重量%で、C:0.2~0.5%、Mn:23~28%、Si:0.05~0.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Al:0.5%以下、Cr:3~4%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織として95面積%以上のオーステナイトを含み、表面から厚さ方向に50μm以内の領域に連続的に形成されたCr濃化部を備えており、前記Cr濃化部は、Crが相対的に高濃度に濃化した高Cr濃化部、及びCrが相対的に低濃度に濃化した低Cr濃化部からなり、前記高Cr濃化部が、前記Cr濃化部の全表面積に対して30面積%以下(0%は除く)の分率で分布することを特徴とする。
【0007】
前記鋼材は、重量%で、Cu:1%以下(0%は除く)及びB:0.0005~0.01%から選択される1種以上をさらに含むことが好ましい。
【0008】
前記高Cr濃化部は、前記鋼材のCrの含量に対して1.5倍超過のCrが含有された領域を意味し、前記低Cr濃化部は、前記鋼材のCrの含量に対して1倍超過1.5倍以下のCrが含有された領域を意味し得る。
【0009】
前記高Cr濃化部は、前記Cr濃化部の全表面積に対して10面積%以下の分率で分布することが好ましい。
【0010】
前記オーステナイトの結晶粒度は5~150μmであることが好ましい。
【0011】
前記鋼材の引張強度は400MPa以上であり、前記鋼材の降伏強度は800MPa以上であり、前記鋼材の伸びは40%以上であることが好ましい。
【0012】
前記鋼材は、-196℃でのシャルピー衝撃靭性が90J以上(試験片厚さ10mm基準)であり、ISO9223に準じた耐腐食実験での腐食減量が80mg/cm以下であることが好ましい。
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様による耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.2~0.5%、Mn:23~28%、Si:0.05~0.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Al:0.5%以下、Cr:3~4%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなるスラブを1050~1300℃の温度範囲で再加熱する段階と、前記再加熱されたスラブを900~950℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して中間材を提供する段階と、前記中間材を1~100℃/sの冷却速度で600℃以下の温度範囲まで冷却して最終材を提供する段階と、を含むことを特徴とする。
【0014】
前記スラブは、重量%で、Cu:1%以下(0%は除く)及びB:0.0005~0.01%から選択される1種以上をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、極低温靭性に優れるとともに、耐食性に優れたオーステナイト系高マンガン鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、耐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材及びその製造方法に関し、以下では、本発明の好ましい実施形態を説明する。本発明の実施形態は様々な形態に変形可能であり、本発明の技術範囲が下記で説明される実施形態に限定されると解釈されてはならない。本実施形態は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明をより詳細にするために提供されるものである。
【0017】
以下、本発明における鋼の組成についてより詳細に説明する。以下、特に表示しない限り、各元素の含量を示す%は重量を基準とする。
【0018】
本発明の一態様による耐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材は、C:0.2~0.5%、Mn:23~28%、Si:0.05~0.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Al:0.5%以下、Cr:3~4%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなる。
【0019】
炭素(C):0.2~0.5%
炭素(C)は、鋼材のオーステナイトを安定化させ、固溶強化により強度を確保するのに効果的な元素である。したがって、本発明では、低温靭性及び強度を確保するために、炭素(C)の含量の下限を0.2%に制限する。すなわち、炭素(C)の含量が0.2%未満である場合、オーステナイトの安定度が不足して極低温で安定したオーステナイトを得ることができず、外部応力によってε-マルテンサイト及びα’-マルテンサイトへの加工誘起変態が起こりやすく、鋼材の靭性及び強度が減少する虞があるためである。これに対し、炭素(C)の含量が一定範囲を超える場合、炭化物の析出により鋼材の靭性が急激に劣化し、鋼材の強度が過度に高くなって鋼材の加工性が著しく低下する虞がある。そのため、本発明では、炭素(C)の含量の上限を0.5%に制限する。したがって、本発明における炭素(C)の含量は0.2~0.5%である。好ましい炭素(C)の含量は0.3~0.5%であり、より好ましい炭素(C)の含量は0.35~0.5%である。
【0020】
マンガン(Mn):23~28%
マンガン(Mn)は、オーステナイトを安定化させる役割を果たす重要な元素であるため、本発明では、上記のような効果を達成するために、マンガン(Mn)の含量の下限を23%に制限する。すなわち、本発明は、23%以上のマンガン(Mn)を含むことで、オーステナイトの安定度を効果的に増加させ、これにより、フェライト、ε-マルテンサイト、及びα’-マルテンサイトの形成を抑え、鋼材の低温靭性を効果的に確保する。これに対し、マンガン(Mn)の含量が一定レベルの範囲を超える場合には、オーステナイトの安定度の増加効果は飽和するのに対し、製造原価が大きく上昇し、熱間圧延中に内部酸化が過度に発生して表面品質が劣化する虞がある。このため、本発明では、マンガン(Mn)の含量の上限を28%に制限する。したがって、本発明におけるマンガン(Mn)の含量は23~28%であり、より好ましいマンガン(Mn)の含量は23~25%である。
【0021】
ケイ素(Si):0.05~0.5%
ケイ素(Si)は、アルミニウム(Al)と同様に、脱酸剤として必要不可欠に微量添加される元素である。しかし、ケイ素(Si)が過度に添加された場合、粒界に酸化物を形成して高温延性を減少させ、クラックなどを誘発して表面品質を低下させる虞があるため、本発明では、ケイ素(Si)の含量の上限を0.5%に制限する。これに対し、鋼中のケイ素(Si)の含量を減少させるためには過度なコストがかかるため、本発明では、ケイ素(Si)の含量の下限を0.05%に制限する。したがって、本発明におけるケイ素(Si)の含量は0.05~0.5%である。
【0022】
リン(P):0.03%以下
リン(P)は、偏析されやすい元素であって、鋳造時に割れの発生を誘発するか、溶接性を低下させる元素である。したがって、本発明では、鋳造性の悪化及び溶接性の低下を防止するために、リン(P)の含量の上限を0.03%に制限する。また、本発明では、リン(P)の含量の下限を特に制限しないが、製鋼負担を考慮し、その下限を0.001%に制限してもよい。
【0023】
硫黄(S):0.005%以下
硫黄(S)は、介在物の形成により熱間脆性欠陥を誘発する元素である。したがって、本発明では、熱間脆性の発生を抑えるために、硫黄(S)の含量の上限を0.005%に制限する。また、本発明では、硫黄(S)の含量の下限を特に制限しないが、製鋼負担を考慮して、その下限を0.0005%に制限してもよい。
【0024】
アルミニウム(Al):0.05%以下
アルミニウム(Al)は、脱酸剤として添加される代表的な元素である。したがって、本発明では、上記のような効果を達成するために、アルミニウム(Al)の含量の下限を0.001%に制限し、より好ましくは、アルミニウム(Al)の含量の下限を0.005%に制限する。但し、アルミニウム(Al)は、炭素(C)及び窒素(N)と反応して析出物を形成することがあり、これらの析出物により熱間加工性が低下する虞がある。そのため、本発明では、アルミニウム(Al)の含量の上限を0.05%に制限する。より好ましいアルミニウム(Al)の含量の上限は0.045%である。
【0025】
クロム(Cr):3~4%
クロム(Cr)は、適正添加量の範囲までは、オーステナイトを安定化させて低温での衝撃靭性の向上に寄与し、オーステナイト中に固溶されて鋼材の強度を増加させる元素である。また、クロムは、鋼材の耐食性の向上に効果的に寄与する元素でもある。したがって、本発明では、上記の効果を達成するために、3%以上のクロム(Cr)を添加する。但し、クロム(Cr)は炭化物形成元素であって、オーステナイト粒界に炭化物を形成し、低温衝撃靭性を低下させる元素でもある。そのため、本発明では、炭素(C)及びその他にともに添加される元素との含量関係を考慮し、クロム(Cr)の含量の上限を4%に制限する。したがって、本発明におけるクロム(Cr)の含量は3~4%であり、より好ましいクロム(Cr)の含量は3~3.8%であるる。
【0026】
本発明の一実施形態によるスケール剥離性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材は、重量%で、Cu:1%以下(0%は除く)及びB:0.0005~0.01%から選択される1種以上をさらに含む。
【0027】
銅(Cu):1%以下(0%は除く)
銅(Cu)は、マンガン(Mn)及び炭素(C)とともにオーステナイトを安定化させる元素であり、鋼材の低温靭性の向上に効果的に寄与する元素である。また、銅(Cu)は、炭化物中への固溶度が非常に低く、オーステナイト中での拡散が遅い元素であるため、オーステナイトと炭化物の界面に濃縮されて微細な炭化物の核の周囲を取り囲むようになって、炭素(C)のさらなる拡散による炭化物の生成及び成長を効果的に抑える元素である。したがって、本発明では、低温靭性を確保するために銅(Cu)を添加し、好ましい銅(Cu)の含量の下限は0.3%である。より好ましい銅(Cu)の含量の下限は0.4%である。これに対し、銅(Cu)の含量が1%を超える場合には、鋼材の熱間加工性が低下する虞があるため、本発明では、銅(Cu)の含量の上限を1%に制限する。したがって、本発明における銅(Cu)の含量は1%以下(0%は除く)であり、より好ましい銅(Cu)の含量の上限は0.7%である。
【0028】
ホウ素(B):0.0005~0.01%
ホウ素(B)は、オーステナイト粒界を強化する粒界強化元素であり、少量添加してもオーステナイト粒界を強化し、鋼材の高温割れ敏感度を効果的に低下させる元素である。したがって、このような効果を達成するために、本発明では、0.0005%以上のホウ素(B)を添加する。好ましいホウ素(B)の含量の下限は0.001%であり、より好ましいホウ素(B)の含量の下限は0.002%である。これに対し、ホウ素(B)の含量が一定範囲を超える場合、オーステナイト粒界に偏析を誘発して鋼材の高温割れ敏感度を増加させるため、鋼材の表面品質が低下する虞がある。そのため、本発明では、ホウ素(B)の含量の上限を0.01%に制限する。好ましいホウ素(B)の含量の上限は0.008%であり、より好ましいホウ素(B)の含量の上限は0.006%である。
【0029】
本発明の一態様によるスケール剥離性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材は、上記の成分の他に、残部はFe及びその他の不可避不純物からなる。但し、通常の製造過程では、原料または周辺環境から意図しない不純物が不可避に混入され得るため、これを全面的に排除することはできない。これらの不純物は、本技術分野において通常の知識を有する者であれば周知のものであるため、その全ての内容を本明細書で特に言及しない。尚、上記組成の他に、有効な成分の添加が排除されるわけではない。
【0030】
本発明の一態様による耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材は、95面積%以上のオーステナイトを微細組織として含み、これにより、鋼材の極低温靭性を効果的に確保する。オーステナイトの平均結晶粒度は5~150μmである。製造工程上実現可能なオーステナイトの平均結晶粒度は5μm以上であり、平均結晶粒度が大きく増加する場合には鋼材の強度低下の虞がある。したがって、オーステナイトの結晶粒度は150μm以下に制限される。
【0031】
本発明の一態様による耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材は、オーステナイト以外に存在可能な組織として、炭化物及び/またはε-マルテンサイトを含む。炭化物及び/またはε-マルテンサイトの分率が一定のレベルを超えた場合、鋼材の靭性及び延性が急激に低下する可能性があるため、本発明では、炭化物及び/またはε-マルテンサイトの分率を5面積%以下に制限する。
【0032】
本発明の一態様による耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材は、鋼材の表面から厚さ方向に50μm以内の領域に連続的に分布するように形成されたCr濃化部を備える。ここで、Cr濃化部は、鋼材の全Crの含量に比べて高いCr含量を有する領域を意味する。
【0033】
本発明の発明者は、高マンガン鋼材の耐食性を向上させるための方法に関し、Cr添加鋼について鋭意研究した結果、同一の含量のCrが添加された鋼材であっても、鋼材の表面側に形成されたCr濃化領域におけるCrの含量分布によって耐腐食性の特性が変わることを確認した。すなわち、Cr添加の高マンガン鋼は、製造工程中の加熱により鋼中のCrが鋼材の表層に濃化してCr濃化領域が形成されるが、この時の加熱条件によって、Cr濃化領域におけるCrの分布様態が多様に現れることが分かった。また、正確なメカニズムは立証しにくいが、同じ含量のCrが添加された高マンガン鋼において、Cr濃化領域中にCrの含量が均一に分布された鋼材の方が、Cr濃化領域中に局所的にCrが多量濃化している鋼材に比べて著しく向上した耐腐食性を備えることが確認された。したがって、本発明の発明者は、鋼材の耐腐食性及び低温物性を確保するための最適な範囲内でCrを添加し、該当Crの含量範囲内においても、最適な耐腐食性を実現可能な表層のCr濃化条件について鋭意研究して本発明を完成するに至った。
【0034】
本発明のCr濃化部は、鋼材の表面から厚さ方向に50μm以内の領域に形成され、鋼材の全表層方向に沿って連続的に形成される。すなわち、Cr濃化部は、鋼材の表面直下に形成される場合だけでなく、鋼材の表面に当接して形成される場合や、鋼材の表面を構成するように形成される場合を含む。
【0035】
Cr濃化部は、Crが相対的に高濃度に濃化した高Cr濃化部と、Crが相対的に低濃度に濃化した低Cr濃化部と、からなる。高Cr濃化部は、上記鋼材のCrの含量に対して1.5倍超過のCrが含有された領域を意味し、低Cr濃化部は、上記鋼材のCrの含量に対して1倍超過1.5倍以下のCrが含有された領域を意味する。例えば、全鋼材に含まれているCrの含量が3.4%である鋼材において、Crの含量が6%と測定される領域は高Cr濃化部、Crの含量が4%と測定される領域は低Cr濃化部に区分される。また、鋼材の製造工程において加熱工程が必須に伴われるため、鋼材の表層では、全鋼材のCr含量よりも相対的に高いCr含量を示すようになる。したがって、本発明において、低Cr濃化部は、鋼材のCrの含量に対して1倍超過のCrが含有された領域を意味する。鋼材の表層部のCrの濃度は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定可能である。また、走査型電子顕微鏡による観察結果から、高Cr濃化部及び低Cr濃化部の面積分率を算出することができる。
【0036】
鋼材の表面において、Crが表層部の一部領域に局所的に濃化する場合、他の表層部領域には、相対的に低い濃度のCrが分布するようになる。したがって、局所的にCrが濃化した領域以外では、耐腐食性の効果が相対的に低くなる現象が発生するため、鋼材の表層部でCrができる限り均一に分布するようにすることが好ましい。耐腐食性を確保する側面から、本発明の高Cr濃化部は、全Cr濃化部の面積に対して30面積%以下(0%は除く)の分率で備えられることが好ましく、より好ましくは10面積%以下の分率で備えられることが好ましい。
【0037】
本発明の一態様による耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材は、400MPa以上の引張強度、800MPa以上の降伏強度、40%以上の伸びを備える。また、本発明の一態様による耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材は、-196℃でのシャルピー衝撃靭性が90J以上(試験片厚さ10mm基準)であるだけでなく、ISO9223に準じた耐腐食実験での腐食減量が80mg/cm以下であるため、優れた極低温物性及び優れた耐腐食性をともに備える。
【0038】
以下、本発明の製造方法についてより詳細に説明する。
【0039】
本発明の一態様による耐腐食性に優れた極低温用オーステナイト系高マンガン鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.2~0.5%、Mn:23~28%、Si:0.05~0.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Al:0.5%以下、Cr:3~4%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなるスラブを1050~1300℃の温度範囲で再加熱する段階と、再加熱されたスラブを900~950℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して中間材を提供する段階と、中間材を1~100℃/sの冷却速度で600℃以下の温度範囲まで冷却して最終材を提供する段階と、を含む。
【0040】
スラブ再加熱
本発明の製造方法に提供されるスラブは、上述のオーステナイト系高マンガン鋼材の鋼組成に対応するため、スラブの鋼組成についての説明は、上述のオーステナイト系高マンガン鋼材の鋼組成についての説明に代える。
【0041】
上述の鋼組成で提供されるスラブを1050~1300℃の温度範囲で再加熱する。再加熱温度が一定範囲未満である場合、熱間圧延中に過度な圧延負荷がかかるという問題が発生するか、合金成分が十分に固溶されないという問題が発生する可能性がある。したがって、本発明では、スラブ再加熱温度範囲の下限を1050℃に制限する。これに対し、再加熱温度が一定範囲を超える場合、結晶粒が過度に成長して強度が低下するか、鋼材の固相線温度を超えて再加熱されることにより、鋼材の熱間圧延性が劣化する虞がある。したがって、本発明では、スラブ再加熱温度範囲の上限を1300℃に制限する。
【0042】
熱間圧延
熱間圧延工程は、粗圧延工程及び仕上げ圧延工程を含み、再加熱されたスラブは熱間圧延されて中間材として提供される。この際、仕上げ熱間圧延は900~950℃の温度範囲で行うことが好ましい。仕上げ熱間圧延温度が過度に低い場合には、機械的強度は増加するものの、低温衝撃靭性が劣化するため、本発明では、仕上げ熱間圧延温度を900℃以上に制限する。また、仕上げ熱間圧延温度が過度に高い場合には、低温衝撃靭性は向上するものの、鋼材表層部の局所的なCr濃化の傾向が高くなるため、本発明では、耐食性確保の側面から、仕上げ熱間圧延温度を950℃に制限する。
【0043】
冷却
熱間圧延された中間材は、1~100℃/sの冷却速度で600℃以下の冷却停止温度まで冷却する。冷却速度が一定範囲未満である場合、冷却途中に粒界に析出された炭化物によって鋼材の延性が減少し、これによる耐摩耗性の劣化が問題となる。したがって、本発明では、熱延材の冷却速度を10℃/s以上に制限する。但し、冷却速度が速いほど炭化物析出の抑制効果には有利であるが、通常の冷却において100℃/sを超える冷却速度は、設備特性上実現しにくいことを考慮し、本発明では、冷却速度の上限を100℃/sに制限する。本発明における冷却には、加速冷却が適用される。
【0044】
また、10℃/s以上の冷却速度を適用して中間材を冷却しても、高い温度で冷却が停止される場合、炭化物が生成及び成長する可能性が高いため、本発明では、冷却停止温度を600℃以下に制限する。
【0045】
上記のように製造されたオーステナイト系高マンガン鋼材は、表面から厚さ方向に50μm以内の領域に連続的に形成されたCr濃化部を備えており、Cr濃化部は、Crが相対的に高濃度に濃化した高Cr濃化部と、Crが相対的に低濃度に濃化した低Cr濃化部と、からなり、高Cr濃化部が、Cr濃化部の全表面積に対して30面積%以下(0%は除く)の分率で備えられる。
【0046】
また、上記のように製造されたオーステナイト系高マンガン鋼材は、400MPa以上の引張強度、800MPa以上の降伏強度、40%以上の伸びを備え、-196℃でのシャルピー衝撃靭性が90J以上(試験片厚さ10mm基準)であり、ISO9223に準じた耐腐食実験での腐食減量が80mg/cm以下である。
【0047】
(実施例)
下記の表1の合金組成を備えるスラブを準備し、表2の製造工程を適用して各試験片を製作した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
各試験片の引張特性及び衝撃靭性を評価し、その結果を表3に示した。各試験片の引張特性は、ASTM A370に準じて常温で試験を行って評価し、衝撃靭性も同一規格の条件で、厚さ10mmの衝撃試験片を加工して-196℃で測定した。また、各試験片に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて表層部のCr濃化領域を観察した後、試験片の表面積に対する高Cr濃化領域の面積分率を算出した。尚、各試験片に対して、ISO9223腐食減量試験条件に準じて、軟鋼の標準試験片と各評価試験片を湿潤条件(50℃、95%RH)下に露出した後、軟鋼の標準試験片の腐食量が、大気腐食における1年間の腐食量(52.5mg/cm)に達する時点(70日所要)まで腐食を行い、評価試験片の腐食減量を分析した。
【0051】
【表3】
【0052】
表1から表3に示すように、本発明の合金組成及び工程条件を満たす試験片1~5は、400MPa以上の降伏強度、800MPa以上の引張強度、40%以上の伸び、及び90J以上の-196℃でのシャルピー衝撃靭性(試験片厚さ10mm基準)を満たすだけでなく、高Cr濃化部の分率が30面積%以下を満たし、ISO9223の耐腐食実験での腐食減量が80mg/cm以下であることが確認される。これに対し、本発明の合金組成または工程条件のうちの何れか1つ以上を満たさない試験片6~10は、これらの物性のうちの何れか1つ以上を満たさないことが確認される。
【0053】
以上、実施形態を参照して本発明について詳細に説明したが、これと異なる形態の実施形態も可能である。したがって、本発明の技術的思想と技術範囲は実施形態に限定されない。
【国際調査報告】