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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】N-ニトロサッカリン類
(51)【国際特許分類】
   C07D 275/06 20060101AFI20220106BHJP
   C07C 205/06 20060101ALI20220106BHJP
   C07C 201/08 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C07D275/06 CSP
C07C205/06
C07C201/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021522033
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(85)【翻訳文提出日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2019079040
(87)【国際公開番号】W WO2020084059
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】18202996.7
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508374139
【氏名又は名称】エー・テー・ハー・チューリッヒ
【氏名又は名称原語表記】ETH ZUERICH
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリー カターエフ
(72)【発明者】
【氏名】クン チャン
(72)【発明者】
【氏名】ロクサン カルボ
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC51
4H006AD17
4H006BB14
4H006BC10
(57)【要約】
本発明は、一般式(I)(式中、Rは水素(H)又はニトロ基(NO)のいずれかである)のN-ニトロサッカリン、その調製、及びニトロ化剤としてのその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)、
【化1】
(式中、Rは水素(H)又はニトロ基(NO)のいずれかである)のN-ニトロサッカリン。
【請求項2】
式(Ia)、
【化2】
の請求項1に記載のN-ニトロサッカリン。
【請求項3】
式(Ib)、
【化3】
の請求項1に記載の6-ニトロ-N-ニトロサッカリン。
【請求項4】
一般式(I)のN-ニトロサッカリンが結晶形態である、請求項1~3のいずれか1項に記載のN-ニトロサッカリン。
【請求項5】
一般式(II)、
【化4】
(式中、Rは水素又はニトロ基のいずれかである)のN-サッカリンを、硝酸、好ましくは濃硝酸の存在下で反応させて、一般式(I)のN-ニトロサッカリンを得る工程を含む、請求項1に記載の一般式(I)のN-ニトロサッカリンの調製方法。
【請求項6】
一般式(II)のN-サッカリンが、好ましくは無水酢酸、無水プロピオン酸、無水2-メチルプロピオン酸、無水トリメチル酢酸、無水2-エチル酪酸、無水酪酸、無水フルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される、有機無水物中に溶解される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
N-サッカリンの濃硝酸に対するモル比が、500:1~10:1、好ましくは200:1~20:1、最も好ましくは100:1~40:1である、請求項5又は6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
有機溶媒に溶解した一般式(II)のN-サッカリンを含む溶液が、硝酸の添加の間、15℃未満、好ましくは10℃未満、最も好ましくは5℃未満に冷却される、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
反応混合物が、1~24時間、好ましくは2~10時間、最も好ましくは4~6時間撹拌される、請求項5~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
一般式(I)のN-ニトロサッカリンが、少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも90%の収率で得られる、請求項5~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
溶媒を除去して、一般式(I)のN-ニトロサッカリンを結晶形態で得る、請求項5~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
求電子置換における化合物Aのニトロ化剤としての、一般式(I)、
【化5】
(式中、Rは水素(H)又はニトロ基(NO)のいずれかである。)のN-ニトロサッカリンの使用であって、
化合物Aは、少なくとも1つの置換又は非置換の芳香環又はヘテロ芳香環を含み、前記環は、好ましくは、酸素、硫黄、リン、セレン、及び窒素からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を有する、使用。
【請求項13】
求電子置換がイプソ置換である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
化合物Aの芳香環又はヘテロ芳香環が脱離基を含み、脱離基Yが、好ましくはハロゲン原子(I、Br、Cl、F)、SOH、Si(CH、トシル、メシル、ノシル、ブロシル、トレシル、ダンシル、トリフィル、水酸化物、アルコキシド、アミド、アセチル置換基、及びtert-アルキル置換基からなる群から選択される、請求項12又は13のいずれかに記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新しい化合物及びそれらのニトロ化剤としての使用に関する。
【0002】
今日、芳香族ニトロ化合物は、ほとんど、大過剰の硝酸又はHSO/HNOなどの混合強酸系を使用して、アレーン類の求電子的ニトロ化によって合成されている。このような酸性反応条件(135℃までの高い反応温度と組み合わせた強酸の混合物)は、酸に敏感な官能基に対する許容性の点で限界であり、位置異性体と過剰にニトロ化された副産物との複雑な混合物の形成につながる選択性の問題をもたらす。
【0003】
CN104945304Bは、トリフルオロメチルチオサッカリンを使用してトリフルオロメチルチオアレーンを製造する方法を開示している。
【0004】
Cochet et al. (Cochet et al., Synlett, vol. 2011, no. 13, pages 1920-1922)は、新しいホルミル化剤としてN-ホルミルサッカリンを開示している。
【0005】
Ueda et al. (Ueda et al., 2013, Angewandte Chemie International Edition, vol. 52, no. 33, pages 8611-8615)は、CO源としてN-ホルミルサッカリンを用いてハロゲン化アリール類の還元的カルボニル化を触媒するために、パラジウムを使用している。
【0006】
国際公開第2016/118450A1号は、有機溶媒の非存在下で濃硝酸と無水物を使用する芳香族化合物のニトロ化方法を開示している。
【0007】
最初の誘導体の1つとして、1886年にNoyesの方法で6-ニトロサッカリンが調製された。それ以来、4位と5位にニトロ基を含むニトロサッカリンの他のさまざまな誘導体が合成されている(例えば、G. H. Hamor in J. Am. Pharm. Ass. Vol. 49, No. 5, 1960)。
【0008】
「N-ニトロサッカリン類」という用語は、窒素上にニトロ基を含むサッカリン類を指す。文献では、N-ニトロサッカリン類を合成するための主要な試みに関して、2つの文献のみが注目される。
【0009】
Runge and Treibs (Journal der praktischen Chemie, 1962)の最初の文献は、固体化合物であるN(室温よりわずかに高い温度で昇華する)を使用して、室温でNOとOに分解する方法を記載している。提唱された生成物の収率は、6日後にわずか14%であった。提唱された生成物の特性について、その物質が170℃で分解し、ジオキサンに溶解するがEtOHには溶解しないことのみが示された。現在の知識によれば、純粋なN-ニトロサッカリンの分解温度は実際にははるかに高く、N-ニトロサッカリンの合成の検証を可能にするさらなる分析データがないため、Runge and Treibs によりN-ニトロサッカリンではない別の化合物が製造されたと推測される。
【0010】
2番目の文献はKozlova et al.の科学出版物であり、これは、サッカリンアンモニウム塩とNOBFとの反応によるN-ニトロサッカリンの合成を示している(Kozlova, Lukyanov and Tartakovskii, Bulletin of the Academy of Sciences of the USSR, 1981)。ニトロ化剤NOBFは、極めて不安定な化合物であり、空気中で数秒以内に分解する。
【0011】
本発明の発明者らによるKozlovaの方法を再現するための複数回の試みにもかかわらず、提唱された合成法は成功せず、生成物の形成が全く観察されなかった(実験5に記載)。Kozlovaは、170℃の融点を提供し、1610cm-1にIRスペクトルのピークを報告した。
【0012】
従って、Runge/TreibsとKozlova et al.のどちらも、N-ニトロサッカリンの純粋な分子が得られたと結論付けるには不十分な根拠しか提供しておらず、N-ニトロサッカリンを調製する試みは実際には成功していないように思われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、N-ニトロサッカリン類の再現性のある直接的な合成法を提供することである。本発明のさらなる目的は、これらの新しいN-ニトロサッカリン類を、少なくとも1つの置換又は非置換の芳香環又はヘテロ芳香環を含む化合物をニトロ化するための、実用的、安全、安価、かつ環境に優しい方法において使用することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、請求項1に記載のN-ニトロサッカリン類の提供、請求項5に記載のそれらの調製方法、及び請求項12に記載のそれらの使用によって達成される。本発明の好適な実施態様は、従属請求項の対象である。
【0015】
本発明は、以下の一般式(I)のN-ニトロサッカリン類に関する。ここで、Rは、水素(H)又はニトロ基(NO)のいずれかである。
【化1】
【0016】
具体的には本発明は、式(Ia)の非置換N-ニトロサッカリン及び式(Ib)の6-ニトロ-N-ニトロサッカリンに関する。
【化2】
【0017】
驚くべきことに、上記で定義されたN-ニトロサッカリン類は優れた求電子性ニトロ化試薬であり、従って1つ以上のニトロ基を有する化合物の合成において高い価値があることが見出された。
【0018】
Kozlovaにより示唆されたサッカリンアンモニウム塩と不安定で空気感受性のNOBFとの反応によるN-ニトロサッカリンの、仮定されたが成功しなかった合成とは対照的に、本出願の発明者らは、N-ニトロサッカリンと6-ニトロ-N-ニトロサッカリンが、穏やかな条件下で簡単な1工程法で、生成物を高収率で調製できることを見いだした。さらに、この反応は、市販のサッカリン又は容易に入手可能で低コスト物質であるその誘導体から開始する。
【0019】
本発明の好適な実施態様において、式(I)のN-ニトロサッカリンは結晶形態である。化合物Iaは好ましくは単斜晶を含み、化合物Ibは好ましくは斜方晶を含む。結晶性化合物は、高純度とその後の使用という利点を提供する。本発明の調製されたN-ニトロサッカリン類について、周囲温度で2ヶ月を超える保存において、検出可能な分解は観察されなかった。N-ニトロサッカリン白の場合、無色の結晶が得られた。6-ニトロ-N-ニトロサッカリンの場合、結晶は淡黄色(ほぼ白色)を有した。式(Ia)のN-ニトロサッカリンについては180~182℃、式(Ib)の6-ニトロ-N-ニトロサッカリンについては174~176℃の分解点が測定された。従って、N-ニトロサッカリンは容易に入手でき、空気中で少なくとも2か月間の保存安定性があり、取り扱いが容易な固体化学物質である。さらに、化合物は、実質的に分解することなく少なくとも6か月間冷凍庫に保管できる。
【0020】
上記で定義された一般式(I)のN-ニトロサッカリン類に加えて、本発明はさらにそれらの調製方法に関する。本発明の方法によれば、一般式(II)のN-サッカリンを硝酸と無水酢酸の混合物に反応させて、N-ニトロサッカリンが得られる。
【化3】
【0021】
上記一般式(II)において、Rは水素又はニトロ基でもよい。Rが水素の場合、N-サッカリン(II)は無水酢酸と硝酸の混合物と反応させて、N-ニトロサッカリン(Ia)が生成される。Rがニトロ基の場合、N-サッカリン(II)を無水酢酸と硝酸の混合物と反応させて、6-ニトロ-N-ニトロサッカリン(Ib)が生成される。
【0022】
好適な実施態様において、N-ニトロサッカリン類の上記調製において濃硝酸が使用される。濃硝酸の使用は、収率に有益な効果があることが示されている。濃硝酸という用語は、少なくとも15.8Mの硝酸溶液を意味する。より高い速度を達成できるため、濃硝酸が最も好ましい。
【0023】
本発明の方法の好適な実施態様において、硝酸が添加される前に、N-サッカリンは有機無水物に溶解される。有機無水物は、好ましくは無水酢酸、無水プロピオン酸、無水2-メチルプロピオン酸、無水トリメチル酢酸、無水2-エチル酪酸、無水酪酸、無水フルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0024】
好ましくは、N-サッカリンと有機溶媒、好ましくは無水酢酸とは、モル比2:1~1:50の範囲内、好ましくは1:1~1:20、そして最も好ましくは1:3~1:9の範囲内で使用される。
【0025】
本方法のさらに好適な実施態様において、N-サッカリンの濃硝酸に対するモル比は、500:1~10:1、好ましくは200:1~20:1、そして最も好ましくは100:1~40:1である。
【0026】
本方法のさらに好適な実施態様において、N-サッカリンと非プロトン性溶媒の溶液は、硝酸の添加中に15℃未満、好ましくは10℃未満、最も好ましくは5℃未満に冷却される。硝酸を大量に添加すると熱が発生するため、硝酸添加時に反応混合物の温度を調節して、一定の安定した反応環境を維持することが好ましい。
【0027】
本方法のさらに好適な実施態様では、反応混合物は、1~24時間、好ましくは2~10時間、そして最も好ましくは4~6時間撹拌される。
【0028】
過剰の窒素酸化物を除去するために、反応中にガスをバブリングすることがさらに好ましく、好ましくはガスは空気であり、最も好ましくは乾燥空気である。
【0029】
本方法のさらに好適な実施態様において、一般式(II)のN-サッカリンが硝酸と反応される場合、一般式(I)のN-ニトロサッカリンは、少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも90%の収率で得られる。
【0030】
同等のニトロ化反応の収率が、複数のニトロ化又は他の試薬との交差反応のために、15%と低くなり得るか又は失敗する可能性があることを考慮すると、本発明の方法によって達成される収率は、この方法の工業的応用の観点からも非常に満足のいくものである。
【0031】
本方法のさらに好適な実施態様において、N-サッカリンと硝酸の反応の完了後に、溶媒は濾過によって除去されて、結晶形態のN-ニトロサッカリンが得られる。
【0032】
さらに、N-ニトロサッカリンと6-ニトロ-N-ニトロサッカリンは、求電子置換において、少なくとも1つの置換又は非置換の芳香環又はヘテロ芳香環のニトロ化剤として使用できることが見出された。N-ニトロサッカリン類は実験室的に安定であり、安価な市販の化学薬品から数時間以内に1つの化学工程で大規模に調製することができる。
【0033】
従って本発明はさらに、一般式(I)、
【化4】
【0034】
(式中、Rは、水素又はニトロ基のいずれかである。)のN-ニトロサッカリンの、求電子置換における化合物Aのニトロ化剤としての使用に関する。それに関して化合物Aは、少なくとも1つの置換又は非置換芳香環又はヘテロ芳香環を含み、前記環は、好ましくは酸素、硫黄、リン、窒素、及びセレンからなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を有する。
【0035】
追加の電子求引性ニトロ基が存在するため、6-ニトロ-N-ニトロサッカリンは、N-ニトロサッカリンと比較して、かなり強力に反応し、ニトロ化反応を加速する。従って6-ニトロ-N-ニトロサッカリンは、あまり活性化されていない出発物質のニトロ化に使用するのに特に有用である。
【0036】
本発明の使用の好適な実施態様において、求電子置換はイプソ置換である。イプソ置換は、脱離基が水素ではない求電子性芳香族置換の特殊なケースである。従ってこの場合、化合物(A)は、少なくとも芳香環又はヘテロ芳香環を含み、前記芳香環又はヘテロ芳香環は脱離基を含み、さらなる残基を含み得るか又は含まない。典型的には前記脱離基は、安定なカルボカチオン中間体を形成することを可能にする。
【0037】
本発明の文脈において、ヘテロ芳香環という用語は、酸素、硫黄、リン、セレン、及び窒素からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む環を表す。化合物(A)は、より大きな複雑な分子の構造部分として少なくとも1つの置換又は非置換の環を含むか、又は前記少なくとも1つの非置換又は置換芳香環のみからなる。従って、「化合物(A)」という表現は、アレーン類及びヘテロアレーン類、並びにそれらの化学構造に1つ以上の芳香環又はヘテロ芳香環を含む化合物、例えば、エストロン、エストラジオール、及びエストリオールを包含する。2つ以上の芳香族環又はヘテロ芳香環が存在する場合、前記環は、互いに縮合するか、又はアルキレン基などとの互いの結合を介して接続することができる。言い換えれば化合物(A)は、置換又は非置換の芳香族環又はヘテロ芳香環を含むか又はそれからなる、小、中、又は大有機化合物であり得る。
【0038】
特にイプソ置換の観点から、脱離基Yは、ハロゲン原子(I、Br、Cl、F)、SOH、Si(CH、トシル、メシル、ノシル、ブロシル、トレシル、ダンシル、トリフィル、水酸化物、アルコキシド、アミド、アセチル置換基、及びtert-アルキル置換基から成る群から選択されることが好ましい。
【0039】
以下のセクションでは、非置換N-ニトロサッカリンと6-ニトロ-N-ニトロサッカリンの合成と特性評価について説明される。
【0040】
N-ニトロサッカリンは、容易に入手可能で低コストの商品である市販のサッカリン又はその誘導体から、定量的な1工程法で調製することができる。
【0041】
非置換N-ニトロサッカリンの調製のために、出発物質としてのサッカリンを、好ましくは10℃未満で、濃硝酸と無水酢酸の混合物に添加された。4~5時間後、反応の規模に応じて、目的の試薬が白色の結晶性化合物として沈殿される。
【0042】
光の存在下、空気中で、周囲温度で2ヶ月を超えて保存した後、この分子の検出可能な分解は観察されなかった。従って、N-ニトロサッカリン類は、容易に入手でき、常温保存可能であり、取り扱いが容易な固体化学物質である。
【実施例
【0043】
実施例1
N-ニトロサッカリン類の合成方法:
滴下漏斗、空気出口、及び攪拌棒を備えた250mLの三口丸底フラスコに、無水酢酸(25.7mL、0.27モル)中のN-サッカリン(10.0g、54.64mmol)を入れた。溶液を氷浴で0~5℃に冷却し、この溶液に濃硝酸(25.1mL、0.61mol)を30分間滴加し、乾燥空気を溶液に急速にバブリングしながら、過剰量の窒素酸化物を除去した。すべての硝酸を加えると、N-サッカリンは完全に溶解した。冷却浴を取り外し、液体を通して空気を連続的にバブリングしながら、反応混合物を室温で少なくとも4時間撹拌した。反応中に形成された沈殿物を焼結ガラスフィルター上に収集し、高真空下で乾燥させた(11.8g、収率95%)。この物質は、高温のクロロホルム又はアセトニトリルから再結晶することができ、白色の結晶性化合物である。CHCl、CHCl、アセトン、HFIP、THF、MeCN、ベンゼン中で、室温で24時間後に、N-ニトロサッカリンの分解は見られなかった。N-ニトロサッカリンの完全分解又は部分分解は、DMF、DMSO、及びMeOH中で見られた。
【0044】
融点/分解温度 180~182℃(質量損失 約50%、熱重量分析により測定);
1H-NMR (300 MHz, CD3CN): δ = 8.05 (dt, J = 7.4, 1.5 Hz, 1H), 8.14 (dt, J = 6.1, 1.4 Hz, 1H), 8.16-8.23 (m, 2H);
13C-NMR (75 MHz): δ = 121.7, 123.1, 126.5, 134.4, 135.9, 137.6, 151.7;
IR (ATR, ニート): 3097, 1781, 1717, 1601, 1463, 1292, 1176, 1068, 1007, 891, 758, 662, 582, 500;
HRMS (El) m/z C7H4N2O5Sの計算値: [M+] 227.9836, 実測値: 227.9842.
C7H4N2O5Sの元素分析計算値: C 36.85, H 1.77, N 12.28 実測値: C 36.88, H 1.87, N 12.41.
【0045】
化合物Iaの無色の結晶が、クロロホルム/アセトニトリル1:1中の飽和溶液からゆっくり蒸発させることにより得られた。
【化5】
【0046】
【表1】
【0047】
試薬の感度を、ハンマーブローとドロップウェイトインパクトマシンで試験した。ハンマー試験は、外部衝撃刺激に対する分子の感度の最初の指標である。平皿のきれいな鋼面に1g量の試薬を置き、ハンマー(250g)で叩いた。ヒューム、濃い煙、火花、爆発、及び熱は記録されず、この分子が衝撃に鈍感であることを示唆した。落しハンマー試験では、MP-3落しハンマー装置を使用した。試薬の試料(200mg)をきれいな鋼面上に置き、手動クランクで1kgのハンマーを所定の高さ(0.5m及び0.8m)まで上げた。ハンマーをさまざまな高さからストライカー上に落とした。影響は記録されなかった。
【0048】
この分子又は生成物の合成中に問題への遭遇は報告されなかったが、安全メガネ、保護シールド、全身保護服などを着用する安全予防措置を講じる必要がある。硝酸アシルの安全規制は、次の文献に詳しく記載されている:Louw, R. e-EROS Encycl. Reagents Org. Synth. 2001, DOI: 10.1002/047084289X.ra032。合成における硝酸アセチルのキログラム数については、以下の文献を参照されたい:Hoare, J.; Duddu, R.; Damavarapu, R. Org. Process Res. Dev. 2016, 20, 683-686)。
【0049】
実施例2
6-ニトロ-N-ニトロサッカリン類の合成方法:
滴下漏斗、空気出口、及び攪拌棒を備えた250mLの三口丸底フラスコに、無水酢酸(28.2mL、0.30モル)中のN-サッカリン(10.0g、36.63mmol)を入れた。溶液を氷浴で0~5℃に冷却し、この溶液に濃硝酸(28.2mL、0.67mol)を30分間滴加し、乾燥空気を溶液に急速にバブリングしながら、過剰量の窒素酸化物を除去した。すべての硝酸を加えると、6-ニトロサッカリンは完全に溶解した。液体を通して空気を連続的にバブリングしながら、反応混合物を5~10℃で4時間撹拌した。反応混合物を10時間冷凍庫に入れて、生成物を完全に沈殿させた。沈殿物を焼結ガラスフィルター上に収集し、冷クロロホルムで洗浄し、高真空下で乾燥させた(9.6g、収率96%)。生成物は淡黄色(ほぼ白色)の粉末/結晶性化合物である。
【0050】
融点/分解温度 174~176℃(質量損失 約50%、熱重量分析により測定);
1H-NMR (500 MHz, CD3CN): δ = 9.07 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 8.76 (dd, J = 8.5, 2.0 Hz, 1 H), 8.43 (d, J = 8.4 Hz, 1H);
13C-NMR (125 MHz, CD3CN): δ = 118.3, 112.8, 128.5, 130.6, 135.4, 150.3, 152.9;
IR (ATR, ニート):3073, 1732, 1601, 1529, 1424, 1347, 1180, 1064, 1024, 786, 737, 649, 490;
C7H3N3O7Sの元素分析計算値: C 3.78, H 1.11, N 15.38 実測値: C 30.81, H 1.19, N 15.50.
【0051】
化合物Ibの無色の結晶が、クロロホルム/アセトニトリル1:1中の飽和溶液からゆっくり蒸発させることによって得られた。

【化6】
【0052】
【表2】
【0053】
実施例3
アレーン類のニトロ化のための代表的な一般的な方法I:
50mLの容器に化合物Ia(1.3当量、6.5mmol)を入れ、窒素雰囲気下で密封した。アレーン(1.0当量、5mmol)及びHFIP(10mL)を加え、基質に応じて、反応混合物を55℃で2~19時間加熱した。室温まで冷却した後、溶媒を真空下で除去し、生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(SiO、酢酸エチル/n-ヘキサン勾配)によって精製した。
【0054】
実施例4
アレーン類のニトロ化のための代表的な一般方法II:
50mLの容器に化合物Ib(1.3当量、6.5mmol)、Mg(ClO(0.5mmol)を入れ、窒素雰囲気下で密封した。アレーン(1.0当量、5mmol)及びCHCN(10mL)を加え、基質に応じて、反応混合物を85℃で5~19時間加熱した。室温まで冷却した後、溶媒を真空下で除去し、生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(SiO、酢酸エチル/n-ヘキサン勾配)によって精製した。
【0055】
実施例5
比較実験
Kozlova et al.によって記載された次の方法を調べた:等モル量のニトロニウムテトラフルオロボレートを、-30℃で20mLの無水アセトニトリル中のサッカリンのイミド塩2gの撹拌懸濁液に添加し、混合物をこの温度で20~30分間撹拌した。沈殿物を濾過して除去し、濾液を蒸発させた。固体残留物をヘキサンと塩化メチレンの混合物で洗浄した。複数回の試みにもかかわらず、生成物の形成がまったく観察されなかったため、提唱された合成法は決して成功しなかった。
【国際調査報告】